平成12(行ウ)129 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年1月15日 大阪地方裁判所
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判決文本文14,750 文字)

平成16年1月15日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成12年(行ウ)第129号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成15年10月22日判決(当事者の表示-省略) 主文 1 被告らは,大阪市に対し,連帯して,8万1026円及びこれに対する平成13年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを1000分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告らは,大阪市に対し,連帯して,6642万3388円並びにうち1560万円に対する平成8年1月1日から,うち3342万3388円に対する平成9年12月24日から及びうち1440万円に対する平成12年1月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,大阪市が被告会社に対して発注した,A区B市営住宅第2期(2区)電気設備工事,C第3住宅第2期(1区)電気設備工事及びD住宅1号館電気設備工事に係る請負契約の締結に先立って行われた入札に際して,大阪市議会議員の職にあった被告E(以下「被告E」という。)が被告会社に対して入札予定価格を漏洩し,入札参加業者間の談合が行われたことにより,大阪市が損害を被ったとして,大阪市の住民である原告らが,被告らに対して,地方自治法(平成13年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項4号後段により,大阪市に代位して,不法行為に基づく損害賠償の支払を求めた事案である 1 前提事実(争いのない事実及び証拠(各摘示)により容易に認められる事実)(1) 当事者原告らは大阪市の住民である。 被告Eは,昭和58年から大阪市議会議員, 損害賠償の支払を求めた事案である 1 前提事実(争いのない事実及び証拠(各摘示)により容易に認められる事実)(1) 当事者原告らは大阪市の住民である。 被告Eは,昭和58年から大阪市議会議員,平成12年5月からは同議会議長の地位にあったが,同年10月,同議会議員を辞職した(甲4)。 被告会社は,電気設備工事の設計施工等を業とする株式会社であり,F(以下「F」という。)は被告会社の代表取締役を務めていたほか,被告Eの後援会会長も務めていた。 (2) A区B市営住宅第2期(2区)電気設備工事大阪市は,平成7年12月ころ,A区B市営住宅第2期(2区)電気設備工事(以下「本件第1工事」という。)に関する競争入札を実施し,被告会社が7800万円(消費税及び地方消費税を除く。)で落札した。 (3) C第3住宅第2期(1区)電気設備工事ア大阪市では,平成9年12月24日,C第3住宅第2期(1区)電気設備工事(以下「本件第2工事」という。)に関する競争入札を実施した。本件第2工事の指名業者は,被告会社,旭・同和経常建設共同企業体(以下「旭・同和JV」という。)のほか6社であり,入札予定価格は1億5498万4000円,最低制限価格は1億2398万7000円(入札予定価格の80パーセント),入札書比較価格(入札予定価格から消費税及び地方消費税を除いたもの。)は1億4760万3000円,入札書比較最低制限価格(最低制限価格から消費税及び地方消費税を除いたもの。)は1億1808万2000円であった(甲1ないし3)。 イ本件第2工事は,被告会社の地元で施工される工事であることや受注金額が1億を超える大型案件であることから,被告会社は,これを確実に落札しようと,本件第2工事の指名業者との間で談合を試みた。ところが,旭・同和JV以外の業者との間では被告会 る工事であることや受注金額が1億を超える大型案件であることから,被告会社は,これを確実に落札しようと,本件第2工事の指名業者との間で談合を試みた。ところが,旭・同和JV以外の業者との間では被告会社が本件第2工事を落札する旨合意することができたが,旭・同和JVとは合意することができず,談合は成立しなかった。 そこで,Fは,旭・同和JVに競り勝つために本件第2工事の最低制限価格に近接した価格で入札する必要があり,また,仮に旭・同和JVが談合に応じた場合には入札予定価格に近接した高値で入札するために,平成9年12月20日ころ,被告Eに対し,大阪市の職員に働きかけて本件第2工事の入札予定価格や最低制限価格を聞き出し,教えてくれるよう依頼した。被告Eは,Fの依頼を受け,同月22日ころ,大阪市役所議員面会室において,市議会議員としての立場を利用して,大阪市財政局管財部調度課長Gから,本件第2工事の設計金額(消費税及び地方消費税を含む。)が1億5600万円から1億5500万円の範囲内であること,最低制限価格の上限は設計金額の上限から消費税及び地方消費税を除いた金額に約0.79を乗じた価格であること,入札予定価格の下限が設計金額の下限から消費税及び地方消費税を除いた価格であること等を聞き出し,同日,Fに対し,上記入札に関する情報を漏洩した(甲2ないし4,8,9ないし11)。 ウ被告会社と旭・同和JVとの間で,被告会社が,旭・同和JVにおいて実質的に主導権を握っていた同和電設株式会社に対して,落札価格の10パーセントの談合調整金を支払い,被告会社が本件第2工事を落札するとの合意ができたことから,被告会社は,同月24日,被告Eから入手した上記入札に関する情報を基に,本件第2工事を1億4700万円(消費税及び地方消費税込みの金額は1億5435万円)で落 事を落札するとの合意ができたことから,被告会社は,同月24日,被告Eから入手した上記入札に関する情報を基に,本件第2工事を1億4700万円(消費税及び地方消費税込みの金額は1億5435万円)で落札した(甲3,6,7,乙3)。 エ Fは,平成9年12月25日,被告Eに対し,上記入札情報の漏洩の謝礼として100万円を支払った(甲4,5)。 被告会社は,平成10年3月25日から平成12年3月24日までの間に,同和電設株式会社対して,本件第2工事の談合調整金として落札価格の10パーセントである1470万円を分割して支払った(甲3,6,7)。 オ大阪市は,平成10年2月10日,被告会社に対し本件第2工事の前払金を支払い,被告会社から平成12年1月17日に工事完成届を受理し,同月24日に工事完成検査を行った上で,同年3月7日,被告会社に対し本件第2工事の残代金を支払った(甲1,調査嘱託結果)。 カ本件第2工事に関し,同年9月以降,被告Eは,競売入札妨害罪及びあっせん収賄罪により,Fは,入札妨害罪,談合罪及び贈賄罪によりそれぞれ逮捕起訴された。 (4) D住宅1号館電気設備工事ア大阪市は,D住宅1号館電気設備工事(以下「本件第3工事」という。)に関する競争入札を実施し,被告会社が,7200万円(消費税及び地方消費税を含む金額は7560万円)で落札し,平成11年12月13日,同額により工事請負契約を締結した。その後,大阪市が,本件第3工事の設計を一部変更したため,変更後の請負工事代金は7252万2000円(消費税及び地方消費税を含む金額は7614万8100円)となった(乙4ないし7)。 イ被告会社は,平成12年12月15日,大阪市から,本件第3工事の追加工事を1450万円(消費税及び地方消費税を含む金額は1522万5000円)で請け負った。そ 00円)となった(乙4ないし7)。 イ被告会社は,平成12年12月15日,大阪市から,本件第3工事の追加工事を1450万円(消費税及び地方消費税を含む金額は1522万5000円)で請け負った。その後,大阪市が,追加工事の設計を一部変更したため,変更後の請負代金は1589万2000円(消費税及び地方消費税を含む金額は1668万6600円)となった(乙8ないし10)。 ウ被告会社は,平成13年10月16日,本件第3工事及びその追加工事を完成して大阪市に引き渡した(乙11,12)。 大阪市は,被告会社に対して,本件第3工事の請負代金として6091万円を支払い,本件第3工事代金1523万8100円及び同追加工事代金1668万6600円の合計3192万4700円が未払である(調査嘱託結果)。 (5) 原告らは,平成12年9月29日,大阪市監査委員に対し,監査請求を行ったが,大阪市監査委員は,同年11月27日,本件第1工事及び本件第3工事については,具体的に違法性が摘示されているとは認められず監査請求の対象とならないとし,本件第2工事については,大阪市が損害を被ったと断定することはできないとして原告らの監査請求を棄却し,これを原告らに通知した(甲1)。 原告らは,同年12月26日,本件訴えを提起した。 (6) 大阪市は,平成13年12月18日付けの書面により,被告会社に対し,本件第2工事に係る競売入札妨害等による損害賠償金3036万3000円(落札金額と最低制限価格との差額に消費税及び地方消費税を加算した金額)及び本件第2工事の請負代金完済の翌日である平成12年3月8日から相殺適状時である平成13年12月14日までの民事法定利率年5分の割合による遅延損害金合計3305万4076円について,本件第3工事及び同追加工事に係る請負契約に基づく請負代金 成12年3月8日から相殺適状時である平成13年12月14日までの民事法定利率年5分の割合による遅延損害金合計3305万4076円について,本件第3工事及び同追加工事に係る請負契約に基づく請負代金の残額3192万4700円の支払債務とを対当額で相殺し,相殺後の損害賠償金の支払を請求した(乙1,調査嘱託結果)。 2 争点(1) 本案前の争点(監査請求前置)(被告らの主張)ア本件第1工事及び本件第3工事について監査が実施されていないから,適法な監査を経たものとはいえない。 イ本件第2工事について本件第2工事に係る請負契約は平成9年12月24日に締結されており,原告らの監査請求は,監査請求期間を徒過している。 (原告らの主張)ア本件第1工事及び本件第3工事について監査請求の適法性は,監査委員によって確定的に判断されるものではないことから,監査請求が適法になされていれば,監査委員の誤判断により監査が実施されなくても監査請求前置の要件は充足される。原告らは,本件第1工事及び第3工事について,適法に監査請求を行っており,監査請求前置の要件は充たされている。 イ本件第2工事について原告らは,監査請求において,大阪市が被告らの共同不法行為により受けた損害の賠償請求権の不行使をもって財産管理を怠る事実としているのであるから,法242条2項の適用はない。 (2) 本件第1工事及び本件第3工事に係る入札に際し,入札予定価格等の漏洩及び談合があったか。 (原告らの主張)落札価格が入札予定価格に占める割合の高さや本件第2工事について被告らが競売入札妨害罪等により逮捕起訴されていることから,本件第1工事及び本件第3工事に係る入札に際し,入札予定価格等の漏洩及び談合があったといえる。 (被告らの主張)否認し,争う。 (3) 損害(原告 入札妨害罪等により逮捕起訴されていることから,本件第1工事及び本件第3工事に係る入札に際し,入札予定価格等の漏洩及び談合があったといえる。 (被告らの主張)否認し,争う。 (3) 損害(原告らの主張)ア入札談合における損害とは,談合によって成立した価格と競争入札において公正な自由競争が行われたならば成立したであろう落札価格(以下「適正な競争価格」という。)との差額である。その額は,次の(ア)ないし(ウ)のいずれかとなる。 (ア) 落札価格と最低制限価格との差額最低制限価格は採算割れによる不良工事等を防止するために合理的に算定される当該工事における工事原価であるが,最低制限価格においても利益が確保されることが前提とされている。また,低入札価格調査制度(予め定められた基準額を下回る低額の入札があった場合,同価格の入札の合理性を調査し,その上で積算に合理性が認められる場合にその入札者を落札者とするもの。)が原則とされ,最低制限価格制度(入札価格が予定価格以下であっても,最低制限価格を下回った場合には自動的に失格とするもの。)が例外とされていることからも分かるように,本来的には,適正な競争価格は最低制限価格を下回るものと考えられる。しかも,指名業者であれば,相当の精度で最低制限価格を予測することは容易である。したがって,公正な自由競争によって形成される落札価格は最低制限価格に収斂していくといえる。 以上の事実は,大阪府や大阪市の落札状況のデータ分布が,公正な自由競争が行われたと推測される最低制限価格に近接したグループと談合が行われたと推測される予定価格に近接したグループに二極化していることからも明らかである。 本件においても,適正な競争価格が最低制限価格となることが合理的に予想され,被告らの不法行為による大阪市の受けた損害は 推測される予定価格に近接したグループに二極化していることからも明らかである。 本件においても,適正な競争価格が最低制限価格となることが合理的に予想され,被告らの不法行為による大阪市の受けた損害は,現実の落札価格と最低制限価格の差額となる。特に本件では,被告会社は談合が成立しない場合は不正行為を犯してまでも本件第2工事の落札を決意していたのであるから,論理的に算定し得る損害が現実化していた蓋然性が極めて高い。 したがって,本件第2工事に関する入札予定価格等の漏洩及び談合によって生じた損害額は,被告会社の最終的な請負価格から最低制限価格を差し引いた金額に消費税及び地方消費税を加算した3042万3388円である。 (イ) 落札価格の20パーセントの金額に消費税及び地方消費税を付加した金額被告らの競売入札妨害や談合の違法行為がなければ,たたき合い,つまり業者間での競争が行われ,落札価格より20パーセントほど安価な価格で落札された蓋然性が高い。 旭・同和JVを構成する同和電設株式会社の実質的経営者であるJも,談合した場合とそうでない場合とでは落札価格が20パーセント異なり,その差額が談合の利益となるところ,被告会社から落札価格の10パーセントを談合調整金として支払うとの申出を受け,談合により得られる利益を折半できることから談合に応じた旨供述している。 したがって,大阪市が被告らの不法行為により受けた損害額は,落札価格の20パーセントに当たる2940万円に消費税及び地方消費税を付加した3087万円となる。 (ウ) 談合が成立しなかった場合の被告会社の入札予定の価格と実際の落札価格との差額に消費税及び地方消費税を付加した金額被告会社は,談合が成立しなかった場合,1億1900万円(消費税及び地方消費税を除く。)で入札することを予定して 告会社の入札予定の価格と実際の落札価格との差額に消費税及び地方消費税を付加した金額被告会社は,談合が成立しなかった場合,1億1900万円(消費税及び地方消費税を除く。)で入札することを予定していたのであり,大阪市が被告らの不法行為により受けた損害額は,被告会社の実際の落札価格と談合が成立しなかった場合の入札予定の価格との差額に消費税及び地方消費税を付加した金額である2940万円となる。 イ弁護士費用大阪市は,本件の住民訴訟を通じて被告らから上記の損害の填補を受けた場合には,原告ら訴訟代理人である弁護士らに対し,報酬を支払う義務を負担している。この報酬額は,少なくとも大阪市が被った上記の損害額の10パーセントを下らない。 (被告らの主張)ア落札価格と最低制限価格との差額を損害とする主張に対して原告らは,適正な競争価格は,最低制限価格になることが合理的に予想されると主張する。 しかし,最低制限価格は,ダンピングなどによる粗悪工事を防ぐためにこれを下回る価格では受注させないとして設定されている価格であり,この最低制限価格によって落札しても適正な利潤が確保されるという主張は単なる憶測にすぎない。 また,指名業者の経済的に合理的な行動からすれば,談合が行われずに入札が実施された場合には,落札価格は最低制限価格に収斂していくとはいえない。すなわち,指名業者は,設計図書と既に公表されている同種工事の落札価格や入札予定価格から,当該工事の入札予定価格や落札価格と入札予定価格の乖離の程度を予測し,設計図書を基に見積もった工事見積価格と照合し,落札可能性と利益率とを考慮の上,他の指名業者の動向を予測して入札価格を決定していくのである。既に公表されている落札情報をみれば,多数の工事において落札価格が入札予定価格に近いことから,指名業者と ,落札可能性と利益率とを考慮の上,他の指名業者の動向を予測して入札価格を決定していくのである。既に公表されている落札情報をみれば,多数の工事において落札価格が入札予定価格に近いことから,指名業者としては,当該工事の入札においても,他の指名業者は入札予定価格に近い価格で入札すると予測し,入札予定価格に近い価格で入札することになる。 そもそも,平成9年当時には,入札予定価格も最低制限価格も入札前には公表されておらず,最低制限価格を下回ればその時点で失格となるのであるから,最低制限価格を目標として入札することが不可能である。 したがって,指名業者は,予想される入札予定価格程度の価格で入札し,この時点で落札に至らなかった場合(指名業者の入札価格が入札予想価格を超えていた場合)には,1回目の入札価格より若干下回る価格で入札する。実際には,このような方法によって,入札予定価格に近い価格での落札が行われるのである。 以上によれば,本件第2工事において談合が行われなかったとしても,最低制限価格で落札された蓋然性はなく,最低制限価格が適正な競争価格となるとはいえない。 イ落札価格の20パーセントの金額を損害とする主張に対して違法行為がなかった場合に落札価格の20パーセント相当額が損害であるとするのは原告らの単なる見込みにすぎず根拠がない。大阪市では,最低制限価格は予定価格の約80パーセントに設定されているが,最低制限価格は,これを下回る価格では適切な工事が行われるとは考え難いという限度額であり,粗悪工事を防ぐためこれを下回る価格では受注させないとして設定されている金額であり,原告らの主張は理由がない。 また,現実に,大阪市が入札を実施した本件以外の電気工事において,落札価格が入札予定価格の80パーセントとなっている工事はまず存在しない。 公表 定されている金額であり,原告らの主張は理由がない。 また,現実に,大阪市が入札を実施した本件以外の電気工事において,落札価格が入札予定価格の80パーセントとなっている工事はまず存在しない。 公表されている情報では,ほとんどの電気工事において,入札予定価格に近い価格で落札されている。したがって,本件第2工事において,談合が行われなかったとしても,入札予定価格に近い価格で落札された可能性が高い。 なお,落札価格よりも20パーセント低い価格は,落札価格と入札予定価格が一致する場合以外は,最低制限価格を下回ることになるからこのような価格で落札されることはあり得ない。 ウ相殺(予備的抗弁)仮に,被告会社が大阪市に対して,本件第2工事に関して損害賠償債務を負うとしても,大阪市は,前記第2の1(6)記載のとおり,被告会社に対し,上記損害賠償請求権を自働債権とし,本件第3工事に係る請負契約及び同追加工事に係る請負契約に基づく請負代金請求権の残額3192万4700円(消費税及び地方消費税を含む。)を受働債権として,対当額において相殺するとの意思表示を行っており,本件第2工事に関する損害賠償請求権は既に消滅している。 第3 争点に対する判断 1 本案前の争点(監査請求前置)(争点(1))について(1) 本件第1工事及び本件第3工事について原告らは,本件第1工事,本件第2工事及び本件第3工事の入札に関し,被告Eが被告会社に入札予定価格を漏洩し,被告会社が入札予定価格に近接した高額で落札したことにより,大阪市が各落札価格の20パーセントの損害を被ったとして,被告らに損害の填補を請求するよう監査請求を行っている(甲1)。原告らの監査請求の対象は,大阪市長が,本件第1工事,本件第2工事及び本件第3工事に関する被告らの不法行為に基づく損害賠償請求権の行使 ,被告らに損害の填補を請求するよう監査請求を行っている(甲1)。原告らの監査請求の対象は,大阪市長が,本件第1工事,本件第2工事及び本件第3工事に関する被告らの不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実であって,適法な監査請求であるといえる。 大阪市監査委員は,原告らは本件第1工事及び本件第3工事について違法性を摘示していないとして監査を行っていないが,既に当該普通地方公共団体に自治的,内部的に処理するための監査の機会が与えられたのであるから,原告らの監査請求が適法である以上,監査委員が適法な監査請求を不適法なものとして却下したとしても,監査請求前置との関係では適法な監査請求として取り扱うのが相当である。 (2) 本件第2工事について被告らは,原告らの監査請求は監査請求期間を徒過していると主張するが,本件における監査請求の対象事項は,大阪市が被告らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実とされているところ,当該損害賠償請求権は,被告Eが被告会社に対して入札予定価格等を漏洩し,被告会社が他の指名業者と談合をした結果に基づいて大阪市の実施した指名競争入札に入札して落札し,不当に高額の代金で請負契約を締結して大阪市に損害を与えた不法行為により発生したというものである。これによれば,本件における監査請求を遂げるためには,監査委員は,大阪市が被告会社と請負契約を締結したことやその代金額が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないのであるが,大阪市の同契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて大阪市の被告らに対する損害賠償請求権が発生するものではなく,被告らの情報漏洩,談合,これに基づく被告会社の入札及び大阪市との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより大阪市 阪市の被告らに対する損害賠償請求権が発生するものではなく,被告らの情報漏洩,談合,これに基づく被告会社の入札及び大阪市との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより大阪市に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りるのであるから,本件における監査請求は大阪市の契約締結を対象とする監査請求を含むものと解さなければならないものではない。したがって,本件監査請求を法242条2項の適用がない怠る事実に係るものと認めても,同項の趣旨が没却されるものではなく,本件における監査請求には同項の適用がないものと解するのが相当である(最高裁平成14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。 2 本件第1工事及び本件第3工事に係る入札に際し,入札予定価格等の漏洩及び談合があったか(争点(2))について本件第2工事の入札において,入札予定価格等の漏洩を受け,談合の上,これを落札した被告会社が,本件第1工事及び本件第3工事を入札予定価格に近接した価格で落札していること(本件第1工事の落札率(落札価格の入札予定価格に占める割合)が99.7パーセント,本件第3工事の落札率が97.3パーセント)が認められるとはいえ(甲1),これは,本件第1工事及び本件第3工事の入札において,入札予定価格の漏洩及び談合があったのではないかと疑いを抱かせるにすぎず,他に本件第1工事及び本件第3工事の入札において,入札予定価格の漏洩及び談合があったことを具体的に示す証拠はないから,本件第1工事及び本件第3工事に係る入札に際し,被告らによる入札予定価格の漏洩及び談合があったとは認められない。 3 損害(争点(3))について(1) 落札価格と適正な競争価格との差額ア談合は,指名競争入札前に受注予定者を決め,その者が落札できるように互いに入札価 漏洩及び談合があったとは認められない。 3 損害(争点(3))について(1) 落札価格と適正な競争価格との差額ア談合は,指名競争入札前に受注予定者を決め,その者が落札できるように互いに入札価格を調整して,受注予定者に希望通り落札させるというものであって,これは,指名業者間で公正な競争をすることにより落札価格が低下することを防ぎ,受注した業者の利益を図るものであるから,個別の工事について談合が行われた場合には,当該工事の発注者である地方公共団体は,談合が行われなかった場合に形成されたであろう公正な競争を前提とする価格(適正な競争価格)よりも高額な金額で請負契約を締結した蓋然性が高いといわざるを得ず,その高額の契約金額の支払をすることによって両者の差額相当分の損害を被ったと認めるのが相当である。実際,本件第2工事において,入札指名業者は,被告会社を受注予定者とする談合が成立しなかった場合には,落札価格を大幅に下回る1億1900万円から1億2800万円での入札を予定していたのであって(甲7),被告会社が被告Eから入札情報の漏洩を受け,指名業者との間で入札予定価格に近似する金額で被告会社が落札するとの談合を行ったことによって,大阪市は,落札価格と適正な競争価格との差額相当分の損害を受けたと認められる。 イそこで,適正な競争価格の検討が必要となるところ,原告らは,落札価格は,談合が成立すると入札予定価格に近づき,談合が成立しなかった場合には最低制限価格に近づくから,本件第2工事の適正な競争価格は,最低制限価格に相当する価格であると主張する。 最低制限価格は,入札予定価格の85パーセント以下の価格等で一律に設定された金額であって,低入札価格調査制度とは異なり,最低制限価格を下回る低額での入札があった場合,その価格の積算の合理性等を考慮す 最低制限価格は,入札予定価格の85パーセント以下の価格等で一律に設定された金額であって,低入札価格調査制度とは異なり,最低制限価格を下回る低額での入札があった場合,その価格の積算の合理性等を考慮することなく一律に失格にするというものである。この最低制限価格は,地方自治体においては価格調査等を行う体制の整備が容易でないことから採用されているものであり,過当競争の結果手抜き工事がされることを防ぐため,たとえ入札価格が低くてもこれ以下の価格では受注させないものとして,当該工事における工事原価と当該工事の落札業者が企業として存続するための最低限の利益を確保した金額をもって設定されるものであり,しかも,実際には,低入札価格調査制度において,その金額以下では通常であれば契約の内容に適合した履行がされないとの疑いが生じるとして低入札価格調査を発動する低入札価格調査基準額の算出基準(中央公共工事契約制度運用連絡協議会が策定した「低入札価格調査基準モデル」。甲18,19)を参考に一律に算出されているものである。したがって,適正な競争価格は本来的には最低制限価格を下回るという原告らの主張は採り得ない。 また,原告らは,平成7年度ないし9年度に大阪府及び大阪市で行われた電気工事を含む公共工事の競争入札における落札率(落札価格/予定価格)のデータから,落札率は最低制限価格に近接したグループと入札予定価格に近接したグループに二極化しており,談合が成立すると落札価格は入札予定価格に近づき,談合が成立しなかった場合には落札価格は最低制限価格に近づくことが裏付けられると主張する。しかしながら,指名競争入札における落札金額は,当該工事の種類,規模等の特殊性,入札指名業者の数や事業規模,入札が行われた当時の社会経済情勢,当該工事の行われる地域性等のさまざまな要因が 主張する。しかしながら,指名競争入札における落札金額は,当該工事の種類,規模等の特殊性,入札指名業者の数や事業規模,入札が行われた当時の社会経済情勢,当該工事の行われる地域性等のさまざまな要因が複雑に影響して形成されるものである。確かに,平成7年度ないし9年度に大阪府及び大阪市で行われた公共工事全体の落札率は,最低制限価格に近接したグループと入札予定価格に近接したグループに二極化しているようにもみえるが,本件第2工事と種類,時期及び地域において共通する平成9年度における大阪市の電気工事の競争入札のデータでは,落札価格は入札予定価格に近接した価格に集中している。また,入札予定価格に近接する金額で落札された工事のすべてにおいて談合が行われたともいえず,談合が成立すると入札予定価格に近づき,談合が成立しなかった場合には最低制限価格に近づくと一律にいうことはできない。 以上によれば,本件第2工事の競争入札において,原告らが主張するように,被告らの不法行為により落札価格と最低制限価格との差額相当額の損害が発生したとは認められない。 ウ被告会社の元営業部長であったHの司法警察員に対する供述調書(甲7)によれば,被告会社では,被告Eに対して入札情報の漏洩を依頼したり他の指名業者との間で談合を工作する一方で,事務部管理課のIが,設計図書等を参考に本件第2工事の工事価格を1億4983万1000円と積算しており,仮に本件第2工事について適正な競争入札が行われたならば,被告会社は上記積算額の80パーセントの金額から100万円未満の端数を切り捨てた1億1900万円で入札していた可能性が高い。また,他の指名業者も,被告会社を落札業者とする談合が成立しなければ,1億1900万円から1億2800万円で入札する予定であった(甲7資料24)のであるから,本件第2 万円で入札していた可能性が高い。また,他の指名業者も,被告会社を落札業者とする談合が成立しなければ,1億1900万円から1億2800万円で入札する予定であった(甲7資料24)のであるから,本件第2工事について適正な競争入札が行われたならば,最低制限価格の範囲内で最も低額で入札した被告会社又は株式会社三興社が,1億1900万円で落札した可能性が高いことが認められる。したがって,本件第2工事の適正な競争価格は1億1900万円に消費税及び地方消費税を付加した金額であるというべきである。 なお,旭・同和JVを構成する同和電設株式会社の実質的経営者であるJの司法警察員に対する供述調書(甲6)によれば,Jは,談合した場合とそうでない場合とでは落札価格が20パーセント異なり,その差額が談合の利益となるところ,被告会社から落札価格の10パーセントを談合調整金として支払うとの申出を受け,談合により得られる利益を折半できることから談合に応じた旨供述している。しかしながら,談合した場合とそうでない場合で落札価格が20パーセント異なるとのJの供述は,本件第2工事の特殊性を考慮しない一般的傾向を述べるものにすぎず,本件第2工事の指名業者が本件第2工事の設計図書等を基に具体的に入札価格を積算した結果により想定した上記適正な競争価格を下回る入札がされた蓋然性を認めることはできない。 したがって,本件第2工事の適正な競争価格は1億1900万円に消費税及び地方消費税を付加した金額であって,被告らの不法行為により大阪市に発生した損害額は,実際の落札価格(1億4700万円)と適正な競争価格(1億1900万円)の差額に消費税及び地方消費税を付加した2940万円である。 そして,これについての遅延損害金の起算日は,不法行為により具体的損害が発生した日となるから,起算日は 適正な競争価格(1億1900万円)の差額に消費税及び地方消費税を付加した2940万円である。 そして,これについての遅延損害金の起算日は,不法行為により具体的損害が発生した日となるから,起算日は本件第2工事に係る入札の行われた日の翌日ではなく,大阪市が相殺の意思表示において主張するとおり(前記第2の1(6)),本件第2工事に係る請負代金の支払が完了した翌日である平成12年3月8日とするのが相当である。 (2) 相殺大阪市は,被告らに対し,2940万円及びこれに対する平成12年3月8日から支払済みまで年5分の割合による損害賠償請求権があるところ,大阪市は,被告会社に対し,平成13年12月14日を相殺適状時として,上記損害賠償請求権と本件第3工事及びその追加工事に係る請負契約に基づく請負代金の残額3192万4700円の支払債務とを相殺するとの意思表示をしたことは前述(前記第2の1(6))のとおりである。両債権を対当額で相殺すると,大阪市の請負代金債務は消滅し,大阪市の被告らに対する損害賠償請求権の残元本額は8万1026円となる。 {29,400,000+(29,400,000×0.05÷365×647)}-31,924,700=81,026(3) 弁護士費用法242条の2第7項によれば,同条1項4号の住民訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において,弁護士に報酬を支払うべきときは,普通地方公共団体に対し,その報酬額の範囲内で相当と認める額(以下「相当報酬額」という。)の支払を請求することができるとされているところ,「勝訴した場合」とは,上記住民訴訟における勝訴が確定した場合と解すべきであり,普通地方公共団体は,勝訴が確定した後に当該住民訴訟を提起した住民から同条7項に基づく弁護士報酬の請求があった場合に初めて相当報酬 合」とは,上記住民訴訟における勝訴が確定した場合と解すべきであり,普通地方公共団体は,勝訴が確定した後に当該住民訴訟を提起した住民から同条7項に基づく弁護士報酬の請求があった場合に初めて相当報酬額を支払う義務を負うことになる。したがって,普通地方公共団体に相当報酬額の損害が発生したというためには,上記のような請求を受けて当該普通地方公共団体が相当報酬額を支払うか又は支払を約束するなどしたことが必要であり,住民訴訟の中で,相当報酬額を相当因果関係のある普通地方公共団体の損害として請求することができるのは,勝訴の確定前であるにもかかわらず,当該普通地方公共団体が当該住民との間で勝訴の場合に相当報酬額を支払う旨の約束をしたなど,口頭弁論終結時点で,勝訴判決が確定すれば当該普通地方公共団体が相当報酬額を支払う義務が確定しており,出捐の確実性が認められる場合に限られるものというべきである。これらの事情も認められず,認容額も前記のとおり少額となる本件において,現時点で大阪市に原告ら主張のような弁護士報酬相当額の損害が発生したということはできない。したがって,弁護士報酬相当額に関する原告らの請求は理由がない。 4 結論よって,原告らの本訴請求は,被告らに対し,大阪市に代位して8万1026円及びこれに対する平成13年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の連帯支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないので棄却することとし,なお,仮執行宣言は相当でないから付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部裁判長裁判官川神裕裁判官山田明裁判官小泉満理子は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官川神裕 事部裁判長 裁判官川神裕 裁判官山田明 裁判官小泉満理子は差し支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官川神裕

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