主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人が控訴人に対して平成11年11月29日付で行ったケースワーカーの実態調査時の記録(生活指導記録表)の開示請求に対する個人情報一部開示決定(北保福発第718号)中,開示しない部分に係る処分を取り消す。 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨主文同旨第2 事案の概要 1 埼玉県北本市民である控訴人は,北本市個人情報保護条例(平成3年12月20日条例第42号)(以下「本件条例」という。)に基づき,控訴人のした高齢者福祉サービスホームヘルパー派遣申請に関して北本市所属のケースワーカーが作成した控訴人に係る生活指導記録表(以下「本件ケース記録」という。)の開示請求をした。被控訴人は,本件ケース記録の大部分である別紙生活指導記録表黒塗り部分(以下「本件非開示部分」という。)は,本件条例14条2項2号に該当し,開示しないことができる個人情報に当たるとして,本件ケース記録中,本件非開示部分の開示を拒否し,その余の部分のみを開示する個人情報一部開示決定(北保福発第718号)をした。本件は,控訴人が,同決定のうちの本件非開示部分開示拒否処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めた事案である。 原判決は,高齢で自己の置かれている状況についての理解力が相当程度減退している控訴人に対し本件非開示部分を直接開示すると,控訴人,その介護者であるA及び担当ワーカーとの間で感情的な紛争が生じ,以後の福祉サービスの提供について妨げとなることが十分予想されることを理由として,本件非開示部分に係る情報は本件条例14条2項2号に該当するとして,控訴人の請求を棄却し,控訴人は,これを不服として控訴した。 2 前提となる事実は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「 由として,本件非開示部分に係る情報は本件条例14条2項2号に該当するとして,控訴人の請求を棄却し,控訴人は,これを不服として控訴した。 2 前提となる事実は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決2頁下から3行目より同3頁16行目までを次のとおり改める。 「(2) 本件条例の内容(甲1)ア目的1条この条例は,個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定めるとともに,自己に関する個人情報の開示,訂正等の権利を保障することにより,公正な市政の運営を確保し,もって市民の基本的人権を擁護することを目的とする。 イ定義2条(1) 個人情報個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るものをいう。 同条(4) 個人情報の管理等個人情報の収集,保管及び利用をいう。 ウ個人情報の管理等の一般的規制6条1項実施機関は,個人情報の管理等を行うときは,その所掌する事務の目的達成に必要な範囲内で行わなければならない。 同条2項実施機関は,法令又は条例(以下「法令等」という。)に定めがあるときその他公正な行政を執行するために必要とし,かつ,その権限の範囲内で行うときを除き,次の各号に掲げる個人情報の管理等を行ってはならない。 (1) 思想,信条及び宗教に関する情報(2) 社会的差別の原因となる諸事実に関する情報(3) 犯罪に関する情報(4) その他,個人情報の管理等を行うことがこの条例の目的に反すると認められるもので,実施機関が北本市情報公開・個人情報保護運営審議会(以下「審議会」という。)の意見を聴いて定める情報エ収集方法の制限 8条オ適正管理の原則 9条カ利用及び提供の制限 11条キ開示の請求等14条1項市民は,実施機関が管理してい 議会(以下「審議会」という。)の意見を聴いて定める情報エ収集方法の制限 8条オ適正管理の原則 9条カ利用及び提供の制限 11条キ開示の請求等14条1項市民は,実施機関が管理している自己に関する個人情報(以下「自己情報」という。)の閲覧又は写しの交付(以下「開示」という。)を請求することができる。 同条2項実施機関は,次の各号のいずれかに該当する個人情報については,開示をしないことができる。 (1) 法令等の定めるところにより,明らかに開示することができないとされているもの(2) 個人の評価,診断,判定及び選考等に関する情報であって,本人に開示することにより,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの(3) 本人に開示することにより,明らかに公正又は適正な行政執行を著しく妨げると認められるもの(4) その他実施機関が審議会の意見を聴いて,公益上必要があると認めたもの同条3項実施機関は,開示の請求に係る個人情報に前項の規定により開示をしないこととする個人情報が含まれている場合において,その部分を容易に,かつ,個人情報の開示の請求の趣旨を損なわない程度に分離することができるときは,その部分を除いて当該個人情報の開示をしなければならない。 同条4項実施機関は,第2項各号に規定する個人情報であっても,期間の経過により,同項各号のいずれにも該当しなくなったときは,当該個人情報の開示をしなければならない。 ク訂正の請求15条市民は,実施機関に対して,自己情報の記録について事実の記載に誤りがあると認めるときは,当該記載の訂正を請求することができる。 ケ削除の請求 16条コ目的外利用等の中止の請求 17条」 3 当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるか あると認めるときは,当該記載の訂正を請求することができる。 ケ削除の請求 16条コ目的外利用等の中止の請求 17条」 3 当事者の主張は,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 事実の経過前記前提事実のほか,証拠(甲2の②,6の②~④,8~11,14,乙1,証人B,証人C)及び弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。 (1) Aは,平成11年4月6日,北本市の保険福祉部福祉課を訪ね,控訴人を申請者とするホームヘルパー派遣(高齢者福祉サービス)申請手続をした。 (2) 北本市では,ホームヘルパー派遣申請があると,ケースワーカー(以下「ワーカー」という。)が派遣対象者の実態調査を行い,その結果に基づいてホームヘルパー派遣の要否を決めるシステムとなっていた。そこで,担当ワーカーは,ホームヘルパー1名及び先任のワーカーとともに,平成11年4月21日,A宅に赴き,控訴人に面接して実態調査を行い,その結果を本件ケース記録(1頁分)に記載した。なお,先任のワーカーは,担当ワーカーが新人であったために同行したが,調査終了前に退出した。 (3) 北本市においては,ワーカーがホームヘルパー派遣申請の対象者について実態調査を行った場合に作成する記録について定められた様式はなく,生活保護法で定められた様式である生活指導記録表(様式28号)を使用していた。この生活指導記録表には,ホームヘルパー派遣の要否という観点から,派遣対象者の身体的・精神的状況,日常生活動作の状況,介護の状況,家族の状況,生活環境,サービスへの要望等及びこれらに基づく担当ワーカーの専門的所見が記載されることが想定されている。 (4) 本件ケース記録のようなケースワーク活動に必要な記録を作成するに当たっては,一般的に 活環境,サービスへの要望等及びこれらに基づく担当ワーカーの専門的所見が記載されることが想定されている。 (4) 本件ケース記録のようなケースワーク活動に必要な記録を作成するに当たっては,一般的に次の点に留意すべきものとされている。 ア利用者の発言のうち重要なものについては,その表現をできるだけ忠実に記録する。 イ観察は多面的に行い,記録内容は正確に記録する。 ウ援助過程に関する事実については,日時,場所,主体,原因等を明確に記録する。 エ必要に応じて記録内容を,時間的経過,問題別分類,利用者の社会関係,社会資源の活用などに分けて整理し,記録する。 オ援助の展開に直接関係のない事柄については,記録を控える。 カ内容が的確に伝わるように,簡潔で明確な文章によって記録する。 (5) ケース記録の対象者に対する開示の問題については,近時,ワーカーと対象者の関係は,協働して対象者の問題を解決する対等な関係であって,上下関係や管理支配関係として理解すべきものではないとの基本的観点から,対象者の記録に対するアクセス権を認める見解が有力となっているが,このような見解にあっても,実際の記録へのアクセスについては様々な工夫が必要とされている。 たとえば,アメリカにおいては,アメリカソーシャルワーカー協会の倫理綱領が,「秘密の保持とプライバシー」の項において,「ソーシャルワーカーは,クライアントに対し,本人自身に関するすべての公式のソーシャルワーク記録に適切なアクセスを提供しなければならない」「クライアントに記録へのアクセスを提供するにあたって,ソーシャルワーカーは,その記録に含まれている本人以外の秘密を守るため適切な手立てを講じなければならない」と定め,クライアントの記録に対するアクセス権を認めているが,実際の記録へのアクセスについては,クライアン ーカーは,その記録に含まれている本人以外の秘密を守るため適切な手立てを講じなければならない」と定め,クライアントの記録に対するアクセス権を認めているが,実際の記録へのアクセスについては,クライアントには比較的安定した状態の人もいれば精神的に不安定な人もおり,年齢的にも乳幼児から高齢者まで様々であり,サービスの形態も多様であることから,機関の方針とクライアントの状態に応じて,全面的かつ即時のアクセスを原則とする「解放アクセス」から部分的ないし爾後のアクセスを認めるにとどまる「制限アクセス」まで様々な工夫が行われている。 (6) 本件非開示部分の具体的内容を直接知ることはできない。 しかし,担当ワーカーの上司であるB福祉課長(当時)の証言によれば,本件非開示部分には,担当ワーカーが控訴人に対してした質問とこれに対する控訴人の回答が記載されており,その中には,控訴人がAをどう思っているか,控訴人がAからどう思われているか,という事項に関する控訴人の発言と担当ワーカーの理解,評価に関する記載があること,Bは,本件非開示部分の表現に難があるため,その内容をAが知ると控訴人の立場がなくなると判断したことが認められる。 2 控訴人の自己情報開示請求権について控訴人は,自己情報開示請求権は憲法21条,13条によって認められるもので,本件条例上の自己情報開示請求権もそれを確認したにすぎないから,本件条例14条2項(2)は可能な限り厳格に解釈されるべきであると主張する。しかし,控訴人の自己情報開示請求権は,本件条例により創設的に認められた権利であって,憲法21条,13条によって認められるものではないから,本件非開示部分が本件条例14条2項(2)に該当するか否かは,本件条例の趣旨,目的に照らして解釈されるべきものである。 3 本件非開示部分の本件条例14 条,13条によって認められるものではないから,本件非開示部分が本件条例14条2項(2)に該当するか否かは,本件条例の趣旨,目的に照らして解釈されるべきものである。 3 本件非開示部分の本件条例14条2項(2)該当性について(1) 本件条例は,個人情報の適正な取扱いに関し必要な事項を定めるとともに,自己に関する個人情報の開示,訂正等の権利を保障することにより,公正な市政の運営を確保し,もって市民の基本的人権を擁護することを目的として定められたものであり(1条),実施機関がみだりに個人情報を管理等することを禁じ(6条),これを確認,監視し,また,誤った情報が管理等されることによって生じる不利益を防止するため,市民各人に,実施機関が管理等する自己情報について,開示(14条),訂正(15条),削除(16条),目的外利用等の中止(17条)を請求する権利を具体的権利として保障しているものである。そして,本件条例は,自己情報について,原則開示とし,例外として非開示事由に該当する場合に限り非開示とすることができると定めている(14条)のであるから,非開示事由該当性の判断は,慎重に行われるべきものである。 (2) まず,前記事実によれば,本件非開示部分には,控訴人との面接によって得られた情報に基づく担当ワーカーの控訴人に関する評価,判断等が記載されていることが認められ,本件条例14条2項(2)所定の「個人の評価,診断,判定及び選考等に関する情報」が記載されていることが認められる。 (3) そこで,本件非開示部分を控訴人に開示することにより,担当ワーカーのする控訴人についての評価,判断等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるか否かについて判断する。 この点につき,被控訴人は,本件非開示部分のような,担当ワーカーの専門家としての評価,判断等の記載部分 人についての評価,判断等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるか否かについて判断する。 この点につき,被控訴人は,本件非開示部分のような,担当ワーカーの専門家としての評価,判断等の記載部分が開示されることになると,その評価,判断等に不満のある対象者と担当ワーカーとの間の信頼関係が損なわれ,担当ワーカー個人に対する批判や責任追求につながるおそれがあり,また,トラブルを避けるために担当ワーカーがケース記録に差し障りのない事柄しか記載しなくなるおそれがあるから,本件非開示部分は,本件条例14条2項(2)所定の「本人に開示することにより,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当すると主張する。 しかし,担当ワーカーがホームヘルパー派遣申請の対象者について行う実態調査は,高齢者福祉サービスの適正な提供を目的とするものであり,この実態調査について担当ワーカーが作成するケース記録には,ホームヘルパー派遣の要否という観点から,実態調査によって得られた派遣対象者の身体的・精神的状況,日常生活動作の状況,介護の状況,家族の状況,生活環境,サービスへの要望等の情報及びこれらに基づく担当ワーカーの専門的所見が記載されるのであるから,必要な事項について的確な表現を用いた記載がなされることを前提とする限り,担当ワーカーの所見部分を対象者に開示しても,担当ワーカーと対象者の間の信頼関係が著しく損なわれるおそれがあるとは認め難い。そして,担当ワーカーは,ケース記録の作成に当たり適切な表現を用いるよう努めるべきであり,適切を欠く表現を用いてしまった場合には,対象者への開示の際に表現上の問題点について補足的に説明することによって信頼関係の維持に努めるべきである。したがって,このようなケース記録について,一般的に,担 を欠く表現を用いてしまった場合には,対象者への開示の際に表現上の問題点について補足的に説明することによって信頼関係の維持に努めるべきである。したがって,このようなケース記録について,一般的に,担当ワーカーの所見部分を本人に開示することにより担当ワーカーの評価,判断等に著しい支障が生じるおそれがあると認めることはできない。なお,担当ワーカーは,所見部分の開示によって生じるかもしれない対象者との軋轢をおそれて必要な事項を記載しないといった対応をすべきではなく,必要な事項について的確な表現をもって記載するよう努めるべきであることはいうまでもない。 また,本件非開示部分には,控訴人がAをどう思っているか,控訴人がAからどう思われているとかという事項についての控訴人の発言及びこれについての担当ワーカーの理解,評価が記載されており,その表現が適切を欠き,Aに知られると控訴人の立場がなくなるような表現になっていることが窺えるのであるが,控訴人自身が開示請求をしていることは本件取消訴訟自体において明らかであるから,開示された自己情報を控訴人がAに知らせた場合の成り行きまでを考慮して非開示事由該当性を判断するのは相当ではない。なお,控訴人本人尋問によれば,控訴人は高齢ではあるが,質問に対して的確な応答をしており,本件開示請求をするについての意思能力はもちろん,これと関連する事項についても一応の判断能力を有していることが認められる。さらに,控訴人とAの間には被介護者と介護者としての10年以上にわたる信頼関係があるのであって,ときにAにおいて介護にともなうストレスがあったとしても,控訴人の自発的意思により本件非開示部分をAに見せる限りにおいては,両者の間に軋轢が生じるとは考えられない。 以上によれば,本件非開示部分を控訴人に開示することにより,控訴人と レスがあったとしても,控訴人の自発的意思により本件非開示部分をAに見せる限りにおいては,両者の間に軋轢が生じるとは考えられない。 以上によれば,本件非開示部分を控訴人に開示することにより,控訴人と担当ワーカーとの信頼関係が著しく損なわれるおそれがあるとは認められず,本件非開示部分に係る情報が,本件条例14条2項(2)所定の「個人の評価,診断,判定及び選考等に関する情報に関する情報であって,本人に開示することにより,当該評価,診断,判定及び選考等に著しい支障が生ずるおそれがあると認められるもの」に該当すると認めることはできない。 4 したがって,本件非開示部分に係る情報を本件条例14条2項(2)により非開示とする理由はなく,本件条例14条2項(2)該当性を理由とする本件処分(本件非開示部分開示拒否処分)は違法であり,取り消されるべきものである。 よって,原判決を取り消し,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第7民事部裁判長裁判官奥山興悦裁判官杉山正己裁判官山崎まさよ(別紙)省略
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