平成13(行ウ)1等 費用徴収処分取消等請求事件(甲事件),債務不存在確認請求事件(乙事件)(甲事件と乙事件を併せて「全事件」)

裁判年月日・裁判所
平成16年11月25日 札幌地方裁判所 その他
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判決文本文19,060 文字)

主文 1 原告の被告札幌市白石区保健福祉部長に対する訴えを却下する。 2 原告の被告札幌市長に対する請求を棄却する。 3 原告の被告札幌市に対する請求を棄却する。 4 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求(甲事件)(1) 被告札幌市白石区保健福祉部長が原告に対して平成11年8月19日付けでした生活保護法78条に基づく費用徴収決定処分を取り消す(以下「請求1」という。)。 (2) 被告札幌市長が原告に対して平成12年10月6日付けでした審査請求を却下する裁決を取り消す(以下「請求2」という。)。 2 予備的請求(乙事件)原告と被告札幌市との間において,被告札幌市白石区保健福祉部長の平成11年8月19日付け費用徴収決定処分に基づく原告の被告札幌市に対する13万8390円の返還支払義務が存在しないことを確認する(以下「請求3」という。)。 第2 事案の概要 1 本件は,転居に伴う住宅一時扶助として敷金及び仲介料(以下,単に「住宅扶助」という。)及び生活一時扶助として移送費(以下,単に「生活扶助」といい,「住宅扶助」と併せて「本件扶助」という。)の支給を受けた原告が,主位的に,被告札幌市白石区保健福祉部長(以下「被告保健福祉部長」という。)が平成11年8月19日付けでした生活保護法(以下,単に「法」という。)78条に基づく費用徴収決定処分(以下「本件処分」という。)は,同条の適用要件を満たさないなど違法であり,本件処分を不服として原告がした審査請求に対し,被告札幌市長(以下「被告市長」という。)が平成12年10月6日付けでした審査請求却下裁決(以下「本件裁決」という。)は,行政不服審査法1 ど違法であり,本件処分を不服として原告がした審査請求に対し,被告札幌市長(以下「被告市長」という。)が平成12年10月6日付けでした審査請求却下裁決(以下「本件裁決」という。)は,行政不服審査法14条1項所定の審査請求期間の起算日を誤り当該期間を経過したと判断しているから違法であると主張して,本件処分及び本件裁決の各取消しを求め(甲事件),予備的に,本件処分が前記のとおり違法であって無効であることを前提として,原告の被告札幌市(以下「被告市」という。)に対する本件処分に基づく費用返還義務が存在しないことの確認を求める(乙事件)ものである。 2 前提事実(争いのない事実以外は括弧内に証拠等を掲記した。)(1) 原告ア原告は,昭和○年○月○日生まれの女性であり,A,B及びCの親権者であるが,平成10年2月3日に前夫と離婚し,同月10日,札幌市α所在のβハイツ○○○号室に住居を定めた。原告は同年7月ころから就労を始め,また,AとBは札幌市αに所在するγ保育園に通園し,Cは同じく札幌市αに所在する札幌市立δ保育園に通園していた。また,Bは小児ぜん息であったことから,札幌市αに所在する勤医協ε診療所に通院していた(甲3,弁論の全趣旨)。 イ生活保護の実施機関である被告保健福祉部長は,平成10年2月19日に原告から生活保護の申請があったのを受けて,同日より原告世帯の生活保護を開始した。 原告世帯の担当ケースワーカーは,同年3月11日から同年10月31日まではD,同年11月1日から平成11年4月22日まではE,同月23日から平成12年8月31日まではFであり,また,前記ケースワーカーが所属する札幌市白石区保健福祉部保護一課保護二係の係長は,平成10年2月19日から平成12年3月31日まではG まではE,同月23日から平成12年8月31日まではFであり,また,前記ケースワーカーが所属する札幌市白石区保健福祉部保護一課保護二係の係長は,平成10年2月19日から平成12年3月31日まではG(以下「G係長」という。)であった(甲3,乙イ11)。 (2) 本件申請行為の経緯ア原告は,βハイツは陽当たりが悪く,Bの持病である小児ぜん息にとってよくないと考え,札幌市αの周辺で転居先を探し,同所に所在するζコーポ○○○号室へ転居することにした(弁論の全趣旨)。 イ原告は,転居に当たり,被告保健福祉部長に対し,平成10年8月24日付けで生活保護変更申請書(乙イ1)を提出して,転居の費用の援助として本件扶助の申請をした(以下「本件申請行為」という。)。 その際,原告は,転居先のζコーポの家賃額が月額5万8000円であるにもかかわらず,転居先の家賃が月額4万2000円であると記載した重要事項説明書(乙イ2)を添付した。 ウ被告保健福祉部長は,平成10年8月27日,住宅扶助として敷金4万2000円及び仲介料4万4100円,生活扶助として移送費5万2290円の合計13万8390円を支給する決定を行い,原告に本件扶助を支給した。 (3) 本件処分の経緯ア被告保健福祉部長は,原告は,転居先の家賃額が月額5万8000円であるにもかかわらず家賃基準額である月額4万2000円の住居に転居するなどと真実に反する記載をした重要事項説明書を添付して本件申請行為をしたとして,法78条に基づき,原告に対し,平成11年8月19日付けで13万8390円を徴収する旨の本件処分をした。 本件処分の通知書(以下「本件通知書」という。)には,本件処分の理由として,「平成10年9月 原告に対し,平成11年8月19日付けで13万8390円を徴収する旨の本件処分をした。 本件処分の通知書(以下「本件通知書」という。)には,本件処分の理由として,「平成10年9月の転居の際に,不正な手段により,敷金・仲介料,移送費を受給したため。」と記載されていた。 イ原告は,本件処分を不服として,被告市長に対し,平成11年10月19日付けで審査請求をした。 ウ被告市長は,平成12年10月6日付けで,原告の審査請求は行政不服審査法14条1項所定の審査請求期間を徒過した不適法な請求であるとして本件裁決をし,同裁決書謄本は,同月7日に原告に到達した。 エ原告は,平成13年1月5日,当庁に対し,本件処分及び本件裁決の各取消しを求めて提訴した。 なお,本件処分の処分庁は,地方自治法153条1項及び札幌市区保健福祉部長事務委任規則による委任により,被告保健福祉部長であり,審査庁は,被告市長である(行政不服審査法5条1項1号,同条2項)。 3 争点(1) 適法な審査請求前置の有無(請求1,2について,以下「争点1」という。)(被告保健福祉部長及び被告市長の主張)原告世帯の担当ケースワーカーであったFは,平成11年8月19日午後1時30分ころ,原告からの事前の申し出に基づき,原告宅の玄関ドアの郵便受けから,本件通知書を原告宅の郵便受けに完全に投函した。したがって,同日をもって,原告は,社会通念上,本件通知書の内容を知り得べき状態となったものというべきであり,原告が本件処分があったことを知ったものと推定すべきである。原告は同月21日又は22日になってようやく本件通知書を発見したなどと主張するが,前記の推定を覆すのに十分な特段の事情についての反証は あり,原告が本件処分があったことを知ったものと推定すべきである。原告は同月21日又は22日になってようやく本件通知書を発見したなどと主張するが,前記の推定を覆すのに十分な特段の事情についての反証はない。そうすると,原告の被告市長に対する審査請求は,行政不服審査法14条1項に定める審査請求期間を徒過したものであって不適法である。 (原告の主張)本件処分に係る通知方法としては,民事訴訟法上の送達と同様の,あるいはこれに準じた厳格な手続を採ることが必要であるから,平成11年8月19日に本件通知書を原告宅の玄関ドアの郵便受けに投函したとしても,通知方法としては瑕疵あるものというほかない。また,前記通知方法の結果,原告は,同月21日又は22日に至るまで,本件処分があったことを現実に知ることができなかったのであるから,同日の翌日から行政不服審査法14条1項に定める審査請求期間を起算すべきである。したがって,原告の被告市長に対する同年10月19日付け審査請求は審査請求期間を徒過しておらず適法である。 (2) 本件処分の違法性ア担当ケースワーカーの助言や了承の有無(請求1,3について,以下「争点2」という。)(原告の主張)原告は,原告世帯の担当ケースワーカーであったDの助言によって転居を決意したのであり,原告が不動産仲介業者から紹介を受けた転居先の家賃額が月額5万8000円であることもDに説明していた。そして,原告は,Dの指示に従って重要事項説明書を作成し被告保健福祉部長に提出したのであるが,重要事項説明書の家賃額欄に月額4万2000円と記載したのは,転居先の家賃額を認識していたDであった。原告は,Dの助言に従って本件申請行為をしたに過ぎず,本件扶助を詐取するといった不正な意図 るが,重要事項説明書の家賃額欄に月額4万2000円と記載したのは,転居先の家賃額を認識していたDであった。原告は,Dの助言に従って本件申請行為をしたに過ぎず,本件扶助を詐取するといった不正な意図を有していなかった。また,原告は,被告保健福祉部長より支給された本件扶助について,移送費5万2290円を引越業者に,仲介手数料4万4100円を不動産仲介業者にそれぞれ支払い,敷金4万2000円に自己の所持金を加えて5万8000円を賃貸人に対して支払ったのであるから,原告は何ら不正な利得を得ていない。以上のとおり,原告は本件申請行為に際して本件扶助を不正に利得するような意図も事実もなかったのであるから,法78条に規定する「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たものと評価することは到底できず,同条の適用要件を欠いている。 また,原告は,Dによる助言等を信頼して本件申請行為を行ったのであるから,原告に対して法78条を適用することは信義則にも反する。 (被告保健福祉部長及び被告市の主張)Dは,原告の転居先の家賃額が月額5万8000円であって家賃基準額(原告世帯の場合は月額4万2000円)を超えていることを認識していなかったし,被告保健福祉部長に提出する書類に虚偽の家賃額を記載することを助言したこともなかった。 原告は,Dから説明を受け,月額4万2000円を超える住居への転居の場合に本件扶助が受けられないことを知りながら,転居先の家賃額が月額5万8000円であるにもかかわらず月額4万2000円の住居に転居するなどと真実に反する記載をした重要事項説明書を添付して生活保護変更申請書を提出し,D及び被告保健福祉部長をして,転居先の家賃額を誤信させ,本件扶助の受給を受けたのであるか 2000円の住居に転居するなどと真実に反する記載をした重要事項説明書を添付して生活保護変更申請書を提出し,D及び被告保健福祉部長をして,転居先の家賃額を誤信させ,本件扶助の受給を受けたのであるから,原告が「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たことは明らかであって,法78条の費用徴収決定処分の適用要件を満たす。 また,Dは,前記のとおり,原告の転居先の真実の家賃額を認識していなかったのであるから,本件処分が信義則に反し違法無効であるとの主張は前提を欠くものである。なお,仮に,Dが不実の申請を了承していたとしても,本件については,処分庁が被処分者に信頼の対象となる公的見解を表示し,被処分者がこの表示を信頼して行動したというような事情が認められないのであるから,信義則に反することを理由として本件処分を違法無効とすることもできない。 イ被告らの保護費に係る通達の解釈運用の違法性(請求1,3について,以下「争点3」という。)(原告の主張)そもそも憲法13条,25条及び法1条,3条,8条,9条及び24条の趣旨に照らせば,被保護者は受給された保護費をどのように費消するかについて自己決定権を有しているものというべきであって,家賃基準額を超える住居へ転居し,食費や衣料費を節約して,住居費に比重を置いた生活をすることも本来的に被保護者の自由な裁量に委ねられているというべきである。そして,被保護者の生活が健康で文化的な生活水準を満たしているか否かは,被保護者の生活全体を総合的に考察して判断されるべきことであり,扶助の費目ごとに,当該費目による生活分野と考えられる分野ごとに分断して判断するものではない。 被告らは,家賃基準額(原告世帯の場合は月額4万2000円)を超 されるべきことであり,扶助の費目ごとに,当該費目による生活分野と考えられる分野ごとに分断して判断するものではない。 被告らは,家賃基準額(原告世帯の場合は月額4万2000円)を超える家賃額の住居に転居する場合には住宅扶助も生活扶助も支給しないとする解釈運用を採用しているが,被告らの保護費に係る通達の解釈運用は,家賃基準額を超える家賃の居住へ転居すること自体を認めないことにほかならず,憲法及び法に違反することは明らかである。 被告らは,各種通達を形式的に適用し,月額4万2000円を超える家賃額の住居に転居する場合に住宅扶助も生活扶助も支給しないとする硬直的な解釈運用に固執するが,憲法及び法の趣旨に照らせば,要保護状態であることが認定されれば,家賃基準額以下の住居を借り受けることが求められるものではなく,同基準額を超える住居へ転居する場合であっても家賃基準額までの住宅扶助は支給されるというのが合理的な解釈運用であるというべきである。なお,Dが原告に対して助言した内容は,保護費の支給に係る通達で定められた家賃基準額の範囲内で,原告の窮状に十分配慮した現実的かつ弾力的な対応であるから,前記の合理的な解釈運用の趣旨に沿うものである。 原告は,憲法及び法に違反する被告らの保護費に係る通達の解釈運用を前提としてやむなく本件申請行為を行ったのであるから,当該事情を考慮しないで,法78条を適用した本件処分もまた違憲違法であって無効であるというべきである。 (被告保健福祉部長及び被告市の主張)法が,被保護者の自己決定権を前提としていることは当然であるとしても,その自己決定権は必要な範囲で制約を受けるものであり,扶助費の費消が被保護者の完全な自由に委ねられているもので 法が,被保護者の自己決定権を前提としていることは当然であるとしても,その自己決定権は必要な範囲で制約を受けるものであり,扶助費の費消が被保護者の完全な自由に委ねられているものではない。すなわち,法は,生活困窮者に対し,生活扶助を始め8種類の扶助を設けて(法11条1項),扶助の種類ごとに保護の範囲を定めるとともに(法12条ないし18条),厚生労働大臣が扶助の種類に応じて最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えない基準を設定し(法8条),各扶助は,要保護者の必要に応じ単給又は併給として行われることとしている(法11条2項)。したがって,被保護者の自己決定権を理由に被保護者が住居費を切り詰めて食費等に重点を置いた生活を送ることも自由,逆に食費等を節約して住居費に比重を置いた生活を送ることも自由とすることは,被保護者の生活の各分野において健康で文化的な生活水準を満たしつつ最低限度の生活を超えないものとするために,法が扶助の種類ごとに扶助の範囲及び基準を定めることとした趣旨を無視することになり,生活保護制度の目的(法1条)を害することにもなる。 被保護者が扶助の種類ごとの範囲を超えて保護費を費消することを許していない法の趣旨に照らせば,家賃基準額を超える家賃の居住へ転居する場合に住宅扶助も生活扶助も支給しないとする解釈運用を採ることは不合理ではない。家賃基準額を超える家賃の居住へ転居する場合にも基準限度額の範囲内で扶助をしなければならないという原告の主張は,法1条,8条の趣旨に反するものであるし,国民感情からも到底容認することはできないのであるから,被告らの保護費に係る通達の解釈運用を前提に,本件申請行為に対して法78条を適用したことは,違法ではない。 ウその他の であるし,国民感情からも到底容認することはできないのであるから,被告らの保護費に係る通達の解釈運用を前提に,本件申請行為に対して法78条を適用したことは,違法ではない。 ウその他の違法性(請求1,3について,以下「争点4」という。)(原告の主張)(ア) 法78条は,法85条に該当する事由が存する場合にのみ適用されるべきところ,原告は,何ら不正な利得を得ていないのであり,本件申請行為には可罰的違法性がなく,法85条に該当する事由がないのであるから,法78条を適用したのは違法である。 (イ) 本件申請行為について,保護費の返還に関する法63条を適用するのが相当であるにもかかわらず,法78条を適用したのは違法である。 (ウ) 被告保健福祉部長は,生活扶助について,少なくとも転居の必要性を認定していたのであるから,住宅扶助のみならず生活扶助についても法78条を適用したのは違法である。 (被告保健福祉部長及び被告市の主張)いずれも争う。 (3) 本件処分についての重大かつ明白な瑕疵の存在の主張の有無(請求3について,以下「争点5」という。)(原告の主張)本件処分は,被告保健福祉部長が,憲法25条,法1条,3条,8条,24条の解釈を誤ったもので,原告とその家族の生存権,生活保護受給権を侵害するものであるから,この違法性が重大であることは明白である。 (被告市の主張)原告の被告市に対する本件処分に基づく費用返還義務不存在確認請求は,行政処分の無効を前提とする公法上の実質的当事者訴訟であるところ,そもそも行政処分が無効となるためには,瑕疵が重大で,かつ,その瑕疵の存在が誰もが認識し得る程度に外観上明白 還義務不存在確認請求は,行政処分の無効を前提とする公法上の実質的当事者訴訟であるところ,そもそも行政処分が無効となるためには,瑕疵が重大で,かつ,その瑕疵の存在が誰もが認識し得る程度に外観上明白であることが必要である。しかしながら,原告は,本件処分の瑕疵が重大かつ明白であることについて何ら主張しておらず,又は,取消事由である通常の瑕疵を主張しているにすぎないのであって,失当である。 第3 争点に対する判断 1 甲事件について(1) 争点1(適法な審査請求前置の有無)について前記前提事実,証拠(括弧内に掲記したもののほか,甲3,乙イ10,乙イ11,証人F,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告世帯の担当ケースワーカーであったFは,平成11年8月18日に原告に電話を架けて,同月19日の午後0時15分ころに原告宅を訪問すること,その際に本件通知書を手渡すことを伝えた。 イ原告は,平成11年8月19日午前11時30分ころ,Fに対し,勤務先から自宅へ戻れなくなったので午後0時15分の訪問を延期して欲しいと電話連絡をした。原告は,その際,Fに対し,本件通知書については,原告宅の玄関ドアの郵便受けから外から見えないようなかたちで完全に原告宅の中に入れて投函するよう申し出た。これに対し,Fは,留守中の原告宅の郵便受けに本件通知書を投函することを了承した(甲4,原告本人)。 ウ Fは,平成11年8月19日午後1時30分ころ,G係長及びHケースワーカーとともに原告宅へ赴き,両名の立ち会いの下,本件の処分通知書(乙イ14の3),訪問連絡票(甲3の351頁)及び納入通知書(乙イ14の2)を封筒(乙イ14の1)に入れて,原告宅の玄関ドアの郵便受けから玄関内部へ投函した。 名の立ち会いの下,本件の処分通知書(乙イ14の3),訪問連絡票(甲3の351頁)及び納入通知書(乙イ14の2)を封筒(乙イ14の1)に入れて,原告宅の玄関ドアの郵便受けから玄関内部へ投函した。 エ Fは,平成11年8月23日,G係長とともに原告宅を訪問し,原告に対し,本件処分に不服のある場合は処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内に札幌市長に審査請求することができる旨を伝えた。その際,原告からは,同月19日に本件通知書を発見できなかったとか,同月21日又は22日に掃除をしていて本件通知書を発見したといった話はなかった。 (2) ところで,行政不服審判法14条1項本文にいう「処分があったことを知った日」とは,被処分者が書類の交付,口頭の告知その他の方法により処分の存在を現実に知った日を意味すると解するのが相当である(最高裁昭和27年11月20日第一小法廷判決・民集6巻10号1038頁)。もっとも,処分を記載した書類が被処分者の住所に配達される等により,社会通念上処分のあったことを被処分者が了知し得る状態に置かれたときは,反証のない限り,処分のあったことを知ったものと推定することができる(前掲最高裁判決,最高裁昭和27年4月25日第二小法廷判決・民集6巻4号462頁参照)。 これを本件についてみると,本件処分は本件通知書の交付という方法で告知されているが,本件通知書の入った封筒は平成11年8月19日に原告宅に投函されており,これにより社会通念上原告が本件処分の存在及び内容を了知し得る状態に置かれたものと認められ,原告は同日に本件処分のあったことを知ったものと推定することができる。 これに対して,原告は,同日に原告宅に帰宅した際,2人の子供達が先を競って自宅に入ろうとして玄関のコ と認められ,原告は同日に本件処分のあったことを知ったものと推定することができる。 これに対して,原告は,同日に原告宅に帰宅した際,2人の子供達が先を競って自宅に入ろうとして玄関のコンクリート土間部分に落ちていた封筒を蹴飛ばし,下駄箱の下に入ってしまった可能性があり,同月21日又は22日に玄関のコンクリート土間部分を掃除していたときに,玄関の下駄箱下の空間部分をほうきで掻き出したところ,ゴミとともに本件通知書等が入った封筒を発見し,本件処分を現実に知ったと主張し,これに沿う供述をする(甲4,原告本人)。しかしながら,原告は同月19日の夕方に原告宅へ帰宅していることは当事者間に争いなく,また,後記2(1)アのとおり,原告は,同年2月4日にEから法78条による費用徴収決定処分を検討している旨の説明を受け,同年7月6日にも札幌η生活と健康を守る会会長のIらとともに同処分を巡って協議しており,相当程度の本件処分がされる見通しを持たざるを得ない状況にあったのに加え,前記のとおり,同年8月19日中に本件通知書が原告宅の郵便受けに投函されることを了承した上に,その投函の方法にも注文を申し出るなど,本件通知書が投函されることを十分認識した上での対応をしており,同月23日にFが原告宅を訪問した際にも,原告は本件通知書の発見が遅れた旨を何ら述べていなかったのであって,こうした経緯や事情に照らせば,原告の前記供述はにわかに措信できず,他に前記の推定を覆すに足りる反証はない。 (3) 以上のとおりであって,原告が本件処分があったことを知った日は平成11年8月19日であると認めるのが相当である。そうすると,同日の翌日から起算して61日目である同年10月19日にされた原告の被告市長に対する審査請求は行政不服審査法14条1項本文に規定する審査請求 年8月19日であると認めるのが相当である。そうすると,同日の翌日から起算して61日目である同年10月19日にされた原告の被告市長に対する審査請求は行政不服審査法14条1項本文に規定する審査請求期間を徒過したものであって不適法である。 なお,原告は,本件通知書の通知方法に関して,民事訴訟法上の送達と同様の,あるいはこれに準じた厳格な手続を採ることが必要である旨主張するが,前記の手続を履践しなければならないという法的根拠はないのであるから,原告の主張は独自の見解に基づくものであって,採用することはできない。 (4) 以上を前提とすれば,被告市長が,原告の審査請求につき審査請求期間を徒過したものとして行政不服審査法40条1項により却下した本件裁決は適法であって,原告の被告市長に対する請求(請求2)は理由がないから,棄却されるべきである。 他方で,原告の被告保健福祉部長に対する本件処分の取消しの訴え(請求1)は,前記のとおり,本件処分についての審査請求に対する被告市長の適法な裁決を経ていないのであるから,審査請求前置主義を規定した法69条に基づき,却下されるべきである。 2 乙事件について原告は,被告市に対し,本件処分が無効であると主張して費用返還義務の不存在確認を求めているところ(請求3),行政処分が無効であると認められるのは,これに重大かつ明白な瑕疵がある場合に限られるが(争点5),原告は,本件処分(前記のとおり取消しを求めることはできない。)に重大かつ明白な瑕疵がある旨を固有に主張しているわけではなく,争点2ないし4について原告が主張する違法事由がいずれも重大な瑕疵に当たる旨の主張にとどまっている。そして,争点2及び争点4について原告が主張する違法事由が,「重大かつ明白な瑕疵」に該当 けではなく,争点2ないし4について原告が主張する違法事由がいずれも重大な瑕疵に当たる旨の主張にとどまっている。そして,争点2及び争点4について原告が主張する違法事由が,「重大かつ明白な瑕疵」に該当しないことは明らかであり,争点3について原告が主張する違法事由も,少なくとも「明白な瑕疵」に該当するといえるかについては疑問がある。 しかしながら,本件における事案の性質と審理の経過に鑑みて,以下,争点2ないし4の違法事由についても検討する。 (1) 争点2(担当ケースワーカーの助言や了承の有無)についてア前記前提事実,証拠(括弧内に掲記したもののほか,甲3,乙イ27,乙イ28,証人D,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,本件処分に至る経緯に関して,以下の事実が認められる。 (ア) 平成10年3月11日に原告世帯の担当ケースワーカーとなったDは,原告が,同年4月13日から同月16日までの間,産後の体調不良のため入院していたこともあって,同年5月11日に原告宅を訪問した際に原告と初めて面談した。 (イ) Dは,平成10年7月15日に原告宅を訪問した際に,原告から転居したいとの相談を受けた。原告の話によると,住んでいるアパートが日当たりが悪く湿気が強いことが原因でBのぜん息発作がひどくなり,主治医も転居を勧めているとのことであった。Dは,病気治療の必要による転居のためには主治医の意見書が必要であることを説明するとともに,生活保護法基準表(乙イ29)を示して,4人世帯の家賃基準額である4万2000円以内でなければならないことを説明した。 (ウ) その後,Dは,平成10年7月30日及び8月上旬に原告と会う機会があったものの,その際に原告から転居先が見つかったという話はなかった。 内でなければならないことを説明した。 (ウ) その後,Dは,平成10年7月30日及び8月上旬に原告と会う機会があったものの,その際に原告から転居先が見つかったという話はなかった。 (エ) 原告は,平成10年8月24日に札幌市白石区役所保健福祉部保護一課を訪れ,Dに対し,転居先が見つかったと報告するとともに,重要事項説明書(乙イ2)及び引越費用見積書(甲3の377頁)を添付して生活保護変更申請書(乙イ1)を提出した。 これに対し,Dは,原告が提出した重要事項説明書及び引越費用見積書を参照して,前記生活保護変更申請書の敷金,仲介料,移送費の各金額を記載するとともに,原告に対し,主治医の意見書を追完すること,家賃証明書又は契約書の写しを提出することを指示した。 (オ) 原告が平成10年8月27日に主治医の意見書を提出したのを受けて,Dは,課長決裁を経て,同日,住宅扶助として敷金4万2000円及び仲介料4万4100円,生活扶助として移送費5万2290円の合計13万8390円の保護を認定し,原告に対し支給をした。 (カ) Dは,平成10年10月12日,後任の原告世帯担当ケースワーカーであるEとともに,転居先確認のためにζコーポを訪れた。その際,Dは,原告に対し,「これで4万2000円かい。」と尋ねたところ,原告は,「はい。」と応答した。 (キ) 平成10年11月1日付けで原告世帯担当ケースワーカーとなったEは,同年12月末ころ,原告の居住地区の民生委員から原告の居住するアパートの家賃が月額5万7000円であるとの通報を受けた。そこで,Eは,平成11年1月14日,管理費や駐車場代についても確認するため,原告に対し,家主が記載した家賃・地代等証明書を 原告の居住するアパートの家賃が月額5万7000円であるとの通報を受けた。そこで,Eは,平成11年1月14日,管理費や駐車場代についても確認するため,原告に対し,家主が記載した家賃・地代等証明書を提出するよう指示をした。 (ク) 原告は,平成11年1月21日にEに電話を架け,家主が記載した家賃・地代等証明書の提出ができないこと,家賃月額は4万2000円であり,管理費は8000円であることを述べたが,Eがさらに問い詰めたところ,家賃は月額5万円であって不動産仲介業者に虚偽の家賃額を重要事項説明書に記載してもらった旨を告白した。そこで,Eは,事実確認のため,原告に対し,家主が記載した家賃・地代等証明書を提出するよう指示した。さらに,Eは,事前に原告の同意を得て同月29日に家主に電話で問い合わせたところ,家主から,家賃は月額5万8000円であり管理費はないとの回答を得た。そこで,Eは,同年2月1日,家主からの回答内容を伝えたところ,原告は,家賃が月額5万8000円であることを認めるに至った。 (ケ) Eは,平成11年2月4日,Dとともに原告宅を訪問した際,原告から家賃及び敷金がそれぞれ5万8000円と記載された賃貸借契約書の写し(乙イ3)の提出を受けた。その際,Eは,法27条による転居指導及び法78条による費用徴収決定処分を検討する旨を説明した。この際,原告からDの了承を得ていたといった弁解はなかった。なお,原告は,家主が同日付けで記載した家賃・地代等証明書(乙イ4)を郵送し,被告保健福祉部長は,同年5月26日にこれを受領した。 (コ) 原告は,平成11年7月6日,札幌η生活と健康を守る会会長のIらとともに札幌市白石区役所保健福祉部保護一課を訪れた。その際,前記守る会から,Dが書類上家賃が基準額 領した。 (コ) 原告は,平成11年7月6日,札幌η生活と健康を守る会会長のIらとともに札幌市白石区役所保健福祉部保護一課を訪れた。その際,前記守る会から,Dが書類上家賃が基準額になっていれば引っ越しできるようなことを言ったので提出書類を書き換えた旨の申し出があった。そこで,同席していたDが,原告に「転居先確認のために家庭訪問した際には,『これで4万2000円かい。』と聞いたら,Jさんは,『はい。』と言いましたよね。私が不正をしているのを分かってるんだったら,そんなこと言わないじゃないですか。」と話したところ,原告は「はい。」と言って,ただ泣くのみであった。 イ以上の経緯に照らせば,Dは,原告からの相談があるまで原告の転居の意向を把握しておらず,また,原告からの報告を受けるまで,原告の転居先を認識していなかったのであって,Dが原告に対して転居を助言したものと認めることはできない。 そして,Dは,原告から転居先の家賃額が月額4万2000円と記載された重要事項説明書(乙イ2)の提出を受けていたことに加えて,前記のとおり,原告は,Dに対し,本件申請行為に先だって転居先の真実の家賃が月額5万8000円であるとの説明を一切しておらず,Dにおいて,原告の転居先の家賃額について疑問を抱き,これを調査しなければならない事情も認められなかったことに照らせば,Dは,原告の転居先の家賃が実際には月額5万8000円であることを認識しておらず,月額4万2000円であるとの認識であったものと認められる。そうだとすれば,Dは,本件申請行為に当たって,原告から提出された重要事項説明書等に記載された家賃額が虚偽であったことを認識していたものとは認められず,ましてやこれを了承していたとは認められない。 は,本件申請行為に当たって,原告から提出された重要事項説明書等に記載された家賃額が虚偽であったことを認識していたものとは認められず,ましてやこれを了承していたとは認められない。 原告の陳述書(甲4)及び本人尋問の結果中には,Dの助言によって転居を決意したとか,転居先の家賃額が月額5万8000円であることもDに説明したなどの記載ないし供述部分があるが,にわかに信用できない。 ウ以上のとおりであるから,担当ケースワーカーの助言や了承に基づき本件申請行為に至ったことを前提として,本件処分が法78条の適用要件を満たさないとか,信義則に反するといった原告の主張は,前提を欠くものであるから,失当である。 (2) 争点3(被告らの保護費に係る通達の解釈運用の違法性)についてア証拠(括弧内に掲記した。)及び弁論の全趣旨によれば,被告らの保護費に係る通達の解釈運用について,次の事実が認められる。 (ア) 法8条1項の規定に基づき厚生労働大臣が定めた「法による保護の基準」(昭和38年4月1日厚生省告示第158号,以下「保護基準」という。)別表第3「住宅扶助基準」の2(乙イ15,乙イ23),並びに,これを具体化した「法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通達,以下「保護実施要領」という。)第6の4の(1)のオ,カ(乙イ15,乙イ23),「平成10年度における法による住宅扶助(家賃・間代等)の基準限度額の市長承認について(通知)」(乙イ24),「法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通達,乙イ25)問第4の30を総合すれば,転居の際の住宅扶助(法14条1号)の受給要件としては,原告に当てはめてみれ 施要領の取扱いについて」(昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通達,乙イ25)問第4の30を総合すれば,転居の際の住宅扶助(法14条1号)の受給要件としては,原告に当てはめてみれば,①病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合であって,設備構造が居住に適さないと認められる場合であり,かつ,②家賃基準額(原告世帯の場合は月額4万2000円)以内の家賃を必要とする住居に転居する場合であることが必要である。 (イ) 他方で,保護基準別表第1「生活扶助基準」の第3章の3及び保護実施要領第6の2の(8)のアの(サ)(乙イ15)によれば,転居の際の生活扶助(法12条2号)の受給要件としては,原告に当てはめてみれば,①真にやむを得ない転居である場合であり,かつ,②他に経費を支出する方法がない場合であることが必要である。 (ウ) 被告らは,前記通達を前提として,家賃基準額以内の家賃の住居に転居する場合に限って住宅一時扶助(敷金等)及び生活一時扶助(移送費)を支給するという解釈運用を採っており,現に家賃基準額を超える家賃の住居に居住する被保護者に対しては,法27条の規定に基づく転居指導を行い,家賃基準額の範囲を超える家賃の住居へ転居する申し出をした被保護者に対しては,家賃基準額の範囲内の住居へ転居するよう指導し,被保護者が指導に従わない場合には転居に伴う住宅扶助等を支給しないという取扱いをしていた(弁論の全趣旨)。 イ原告は,憲法及び法に照らせば,被保護者は受給された保護費をどのように費消するかについて自己決定権を有しており,家賃基準額を超える住居へ転居することも本来的に被保護者の自由な裁量に委ねられているから,前記のような保護費に係る通達の解釈運用は憲法及び法に違反すると主張する。 ついて自己決定権を有しており,家賃基準額を超える住居へ転居することも本来的に被保護者の自由な裁量に委ねられているから,前記のような保護費に係る通達の解釈運用は憲法及び法に違反すると主張する。 しかしながら,以下のとおり,被告らの保護費に係る通達の解釈運用が憲法及び法に違反するものと認めることはできない。 (ア) 法による保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを最低限度の生活維持のために活用することを要件とし(法4条1項),その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行われるものであり(法8条1項),最低限度の生活の需要を満たすのに十分であって,かつ,これを超えないものでなければならない(法8条2項)。また,保護の種類は,生活扶助,教育扶助,住宅扶助,医療扶助,介護扶助,出産扶助,生業扶助及び葬祭扶助の8種類と定められており(法11条1項),保護の行われる範囲は扶助の種類ごとに決定されている(法12条ないし18条)。以上のとおり,扶助の種類ごとに保護の行われる範囲を決定することによって被保護者の生活の各分野で最低限度の生活の需要を満たしつつこれを超えないものとすることとした法の趣旨に照らせば,扶助の種類ごとの範囲を超えて保護費を費消することは本来法の予定するところではないというべきである。したがって,これを前提とする被告らの保護費に係る通達の解釈運用が法に違反するものとはにわかには認め難い。 (イ) これを住宅扶助(敷金等)についてみると,厚生労働大臣は,要保護者の最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものとして家賃基準額を設定しているところ(法8条2項),この家賃基準額の範囲を超える家賃の住居に居住す 労働大臣は,要保護者の最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これを超えないものとして家賃基準額を設定しているところ(法8条2項),この家賃基準額の範囲を超える家賃の住居に居住することは,他の種類の扶助から不足分を流用する事態を不可避的に招来することになるのであるから,前記の法の趣旨が害されることとなる。のみならず,住宅扶助は,被保護者が一定期間に複数回に渡って必ずしも事前に定まらない支出を要することになる衣や食の生活分野とは異なり,特定の住居に居住することにより支出を要する金額等が具体的に定まる生活分野であって,特定の住居における居住という具体的に特定された需要に対する保護という性格を有することになるから,厚生労働大臣が合目的的に設定した要保護者の最低限度の生活の需要を満たしつつこれを超えない家賃基準額を超えるような特定の住居に居住することに対して,家賃基準額の限度であっても住宅扶助を支給することを新たに認めると,家賃基準額を超える住居への居住を是認し,助長することにもなり得るのであって,前記の家賃基準額を設定した趣旨に反し,最低限度の生活の需要を超える住居への居住を制度上も認めてしまうことになり,要保護者の最低限度の生活の需要を満たしつつこれを超えないものとした法8条の趣旨に反することになるといわざるを得ない。したがって,家賃基準額以内の家賃の住居に転居する場合に限って住宅扶助を支給するという取扱いをすることには合理性があるというべきである。そうすると,家賃基準額を超える住居に居住又は転居する場合であっても家賃基準額までの住宅扶助は支給されるべきであるという原告の主張は直ちに採用することはできない。 (ウ) 他方,生活扶助(移送費)についても,特定の住居への転居が認められることが前提となって支給 での住宅扶助は支給されるべきであるという原告の主張は直ちに採用することはできない。 (ウ) 他方,生活扶助(移送費)についても,特定の住居への転居が認められることが前提となって支給されるという性質上,前記のとおり,家賃基準額以内の家賃の住居に転居する場合に限って住宅扶助を支給するという取扱いが是認されることに照らせば,家賃基準額以内の家賃の住居に転居する場合に限って生活扶助(移送費)の必要性を認めてその支給を行うという取扱いもまた合理性があるというべきである。したがって,家賃基準額を超える家賃の住居への転居については,転居の際の生活扶助(移送費)の受給要件にいうところの「真にやむを得ない転居」には該当しないから,家賃基準額を超える住居に転居する場合であっても生活扶助は支給されるべきであるという原告の主張は採用することはできない。 (エ) 原告は,受給された保護費の費消につき,憲法上自己決定権を有するのであって,本件処分は憲法に違反するとも主張する。 ところで,被保護者に行われる保護について,要保護者の個別の需要が生ずるごとにこれを審査して扶助を行う制度を採って保護の内容を要保護者の個別の需要に完全に合致させることは,事柄の性質上も制度上も困難である。法は,保護について,厚生労働大臣の定める基準により要保護者の需要を測定し,これを基として(法8条1項),生活扶助については,原則として金銭給付により,1月分以内を限度として前渡しの方法で行い(法31条),住宅扶助についても,原則として金銭給付により行う(法33条)ものと定めており,被保護者に対し,給付された各扶助に基づく個々の支出については,当該世帯の家計の合理的な運営を委ねていると解するのが相当であるから,その限度で被保護者が個々の需要 り行う(法33条)ものと定めており,被保護者に対し,給付された各扶助に基づく個々の支出については,当該世帯の家計の合理的な運営を委ねていると解するのが相当であるから,その限度で被保護者が個々の需要に応じて保護費を任意に費消することも相当程度尊重されているということができる。しかしながら,法が被保護者に個々の具体的な支出について家計の運営を委ねているのは,あくまで法による保護費の受給という制度上の仕組みに伴う事実上のものにとどまり,その費消について制度上の一定の制約を受けるのは扶助の内容,性質に照らして当然のことであって,憲法25条が保障する生存権の内容として,保護費の使途を自由に決定し得ることまで保障されているとはいえず,ましてや,憲法13条が保障する自己決定権の内容として,保護費の使途を自由に決定し得ることが保障されているとも認め難いのである。 以上のとおり,被告らの保護費に係る通達の解釈運用について,原告の憲法違反の主張も採用することはできない。 ウ以上のとおりであって,被告らの保護費に係る通達の解釈運用が憲法及び法に違反すると認めることはできないから,被告らの通達の解釈運用が違憲違法であることを前提として,「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たものと評価すべきではない旨の原告の主張は理由がない。 (3) 争点4(その他の違法性)について原告は,本件処分に関して,法78条は法85条に該当する場合にのみ適用されるべきところ,可罰的違法性がない本件申請行為に対して法78条を適用したのは違法であると主張するが,刑罰を定める法85条と法78条はその効果を異にするものであるから,法78条に基づく費用徴収決定処分おいて可罰的違法性の有無は問題とならないというべきであって, 適用したのは違法であると主張するが,刑罰を定める法85条と法78条はその効果を異にするものであるから,法78条に基づく費用徴収決定処分おいて可罰的違法性の有無は問題とならないというべきであって,原告の主張は独自の見解に基づくものであって理由がない。 また,本件申請行為に対しては保護費の返還に関する法63条が適用されるべきであったにもかかわらず,保護費の徴収に関する法78条を適用したのは違法であるとも主張するが,両者は趣旨,要件を異にするものであって別個に適用要件を検討するのが相当である以上,原告の前記主張は理由がない。 さらに,原告は,住宅扶助と生活扶助とを区別せずに法78条を適用したのは違法であるとも主張するが,前記2(2)のとおり,原告については住宅扶助及び生活扶助の各受給要件を欠き,いずれについても法78条の適用要件を満たしているから,原告の主張は理由がない。 (4) 以上のとおり,本件処分は無効であるとはいえないことはもとより,違法であるともいえないから,本件処分の違法性に関する原告の主張は理由がない。 ところで,法78条は,本来正当に保護を受けることができない者が不正に保護を受け又は他人をして保護を受けさせることを防止するため,不実の申請その他不正な手段により保護を受けた者から保護費を徴収することを認めたものである。原告は,前記のとおり,転居先の家賃額が月額5万8000円であって保護が受けられないことを知りながら,月額4万2000円の住居に転居する旨の真実に反する記載をした重要事項説明書を添付して生活保護変更申請書を提出し,その結果,被告保健福祉部長が原告の転居先の家賃額を誤信し本件扶助を支給するに至ったのであるから,原告は「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たの 説明書を添付して生活保護変更申請書を提出し,その結果,被告保健福祉部長が原告の転居先の家賃額を誤信し本件扶助を支給するに至ったのであるから,原告は「不実の申請その他不正な手段により保護を受け」たのであって,法78条の費用徴収決定処分の適用要件を満たすものと認められる。 したがって,被告保健福祉部長による本件処分は適法であって,原告の被告市に対する本件処分に基づく債務不存在確認請求(請求3)は理由がないから,棄却されるべきである。 3 結論以上のとおりであるから,前記1(4),2(4)のとおり,原告の被告保健福祉部長に対する訴えは不適法であるからこれを却下することとし,原告の被告市長及び被告市に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官生野考司 裁判官小川雅敏 裁判官大淵茂樹

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