平成18年9月14日宣告平成18年(わ)第336号道路交通法違反,公務執行妨害,殺人,殺人未遂,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件主文被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中130日をその刑に算入する。 押収してあるナイフ1本を没収する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,平成7年ころから,仕事をすることなく,自宅に引きこもって生活していたところ,平成17年11月8日,そのころになって趣味として始めた飛行機の写真撮影のため自動車で外出して,午後2時15分ころ,千葉県成田市a町b番地c空港第2ゲート付近に迷い込み,そこで検問が行われていたため,無免許運転が発覚することをおそれたが,警察官の職務質問を受けて,氏名及び生年月日を明らかにし,運転免許証をもっていないことを認め,さらに,警察官からポケットに入れていたナイフを見とがめられるなどした。そうしたところ,応援に駆けつけたd警察署の警察官A及びBから,重ねて氏名及び生年月日等を尋ねられたため,いらだちを募らせ,その場を立ち去ろうとして自動車を発進させたところ,前にいた警察官が視界から急に消えたため,警察官をひいてしまったと思った。そこで,被告人は,自動車を高速度で運転し,警察官A及びBからパトカーで追跡を受けながら,高速道路及び一般道路を逃走した後,千葉県佐倉市e町f番地付近道路に追い詰められた。 (罪となるべき事実)第1被告人は,同日午後3時10分ころ,千葉県佐倉市e町f番地付近道路において,公安委員会の運転免許を受けないで,普通乗用自動車を運転した。 第2被告人は,逃げ切るためには,追跡してくる警察官らを殺害するしかないと 考え,ナイフを持って自動車を降り,同日午後3時10分ころから同日午後3時13分ころまでの間,前記同市e町f番地付近から同市e町g番地付近まで ためには,追跡してくる警察官らを殺害するしかないと 考え,ナイフを持って自動車を降り,同日午後3時10分ころから同日午後3時13分ころまでの間,前記同市e町f番地付近から同市e町g番地付近までの間の路上において,以下のとおり,被告人に対して職務質問を続行しようとした警察官Aを前記ナイフで突き刺し,職務質問を続行するため被告人を制止しようとした警察官B及び上記警察官両名に合流して被告人を制止しようとしたh警察署の警察官Cに前記ナイフで突き掛かり,被告人に対して職務質問を続行するとともに,そのために被告人を制止しようとした警察官3名の職務の執行を妨害した。 被告人は,同日午後3時10分ころ,前記同市e町f番地付近路上において,警察官A(当時48歳)の右胸部を前記ナイフで突き刺し,同日午後9時45分ころ,千葉県成田市i町j番地k所在のn病院において,Aを右腋窩動脈損傷による出血性ショックにより死亡させて殺害した。 被告人は,同日午後3時10分ころ,前記同市e町f番地付近路上におい,(),て警察官B当時52歳の上半身に前記ナイフで突き掛かるなどしたがBがとっさに身をかわしたため,Bが着用していた制服左胸ポケットを切りつけたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。 被告人は,同日午後3時13分ころ,前記同市e町g番地付近路上において,警察官C(当時40歳)の上半身に前記ナイフで数回突き掛かるなどしたが,Cに全治約3週間を要する左肩切創の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。 第3業務その他正当な理由による場合でないのに,前記第2記載の日時,場所において,刃体の長さ約8.2センチメートルの前記ナイフ1本を携帯した。 (証拠の標目(省略))(弁護人の主張に対する判断) 弁護人は,被告人は,本件犯行当時,事実 に,前記第2記載の日時,場所において,刃体の長さ約8.2センチメートルの前記ナイフ1本を携帯した。 (証拠の標目(省略))(弁護人の主張に対する判断) 弁護人は,被告人は,本件犯行当時,事実を正しく解釈する能力に欠けていたところ,警察官から重ねて職務質問を受けて恐慌状態に陥り,正常な判断が期待 できない状況で本件犯行を行ったから,心神喪失又は心神耗弱の状態にあった旨主張しているので,以下検討する。 捜査段階において医師Dが行った被告人の精神鑑定によれば,本件犯行時,被告人の精神状態は正常の範囲内であり,責任能力は完全に保たれていたとされるところ,次の事情に照らすと,上記精神鑑定に従って被告人が本件当時責任能力を備えていたと認定するのが相当である。 㨯前記精神鑑定は本件犯行当時の被告人の意識が清明であったことを根拠にしているところ,被告人は,捜査段階から,c空港第2ゲートに赴いて以降の経緯について詳細に他の証拠に符合する供述をしているから,本件犯行当時意識に障害はなかったものと認められる。 㨯被告人は,本件犯行前,家族が偽物であるとか,屋根瓦が重すぎて自宅がつぶれるなどという奇異な考えに支配されていたが,医師Dは,当公判廷において,被告人自身が,精神鑑定の過程で投薬等の医学的治療を受けることなく,これらの考えが事実に反することを認めており,このように訂正可能なものは統合失調症等の精神疾患に伴う幻覚妄想ではない旨供述しているから,被告人に統合失調症等の精神疾患はなかったものと認められる。 㨯被告人は,無免許運転を認めながらも,繰り返して職務質問をされたため,その場から立ち去ろうとして自動車を急発進させ,警察官をひいたものと思い違いをして,追跡してくる警察官らから逃げ切るには警察官を殺害するしかないと考えるに至り,本件犯行に して職務質問をされたため,その場から立ち去ろうとして自動車を急発進させ,警察官をひいたものと思い違いをして,追跡してくる警察官らから逃げ切るには警察官を殺害するしかないと考えるに至り,本件犯行に及んでいる。 このような被告人の発想及び行動は,その行動が引き起こす重大な結果についての考慮が欠けた,短絡的なものではあるが,あくまで警察官から逃げ切るという被告人の目的からは,それに沿った合理的なものということもできる。 また,被告人は,大学受験に失敗し,海外で働きながら生活した後,帰国して一時アルバイトをしたが,平成7年ころから自宅に引きこもって生活するようになり,平成11年3月自殺を図り,やがて,家族は偽物であると考えるよう になって,平成17年8月,暴力を振るって実父母及び実妹を自宅から追い出した後は,1人で引きこもりの生活を続け,屋根瓦が重くて自宅がつぶれてしまうと考えて,自宅の屋根瓦をはがすなどしていた。そうすると,被告人は,これまでの人生で,困難に直面しながら,それを乗り越えることはなく,挫折のなかで,長年引きこもりの状態にあった上,社会性が低く,奇異な考えを抱いても,それを訂正しようとせず,周囲に配慮することもなく,自らの考えの赴くままに行動しているということができる。被告人は,このようななかで,本件犯行を行うに至っているのであって,その被告人の性格傾向からすると,本件犯行の動機自体は十分了解可能である。 (法令の適用)罰条判示第1の所為につき平成16年法律第90号附則23条により同法による改正前の道路交通法117条の4第1号,64条判示第2の所為のうち公務執行妨害の点行為時においては平成18年法律第36号による改正前の刑法95条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法95条1項に該当するが,これは犯罪後の法令 ,64条判示第2の所為のうち公務執行妨害の点行為時においては平成18年法律第36号による改正前の刑法95条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法95条1項に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い裁判時法の刑による殺人の点刑法199条殺人未遂の点それぞれ刑法203条,199条判示第3の所為につき銃砲刀剣類所持等取締法32条5号,22条,,観念的競合の処理判示第2の公務執行妨害と殺人各殺人未遂はそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合 であるから,刑法54条1項前段,10条により結局以上を1罪として刑及び犯情の最も重い殺人罪の刑で処断刑種の選択判示第1及び第3の各罪につきいずれも懲役刑を選択判示第2の罪につき無期懲役刑を選択併合罪の処理刑法45条前段,46条2項本文未決勾留日数の算入刑法21条没収刑法19条1項2号,2項本文(判示第2の1の殺人の用に供した物で被告人以外の者に属しない)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,自動車を運転してc空港の検問所に迷い込み,無免許運転が発覚するのをおそれていたにもかかわらず,警察官から重ねて職務質問を受けたことにいらだち,その場から立ち去れば事態が解決すると考えて自動車で逃走したところ,警察官から追跡され,逃げ切るためには警察官を殺害するしかないと考え,警察官3名にナイフで突き掛かり,うち1名をナイフで突き刺して殺害し,ほかの2名のうち1名に傷害を負わせたにとどまり,これらによって警察官3名の公務の執行を妨害したという公務執行妨害,殺人,殺人未遂の事案,これらの犯行の際に無免許運転をし,刃体の長さ約8.2センチメートルのナイフを携帯したという わせたにとどまり,これらによって警察官3名の公務の執行を妨害したという公務執行妨害,殺人,殺人未遂の事案,これらの犯行の際に無免許運転をし,刃体の長さ約8.2センチメートルのナイフを携帯したという道路交通法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反の事案である。 ,,本件は職務遂行中の警察官3名に対して殺害行為に及んだということにおいて深刻な非難が向けられるべき事案であり,被告人は,繰り返して職務質問を受けたことを契機として,パトカーで追跡されながら高速道路の料金所を突破するなどして約23分間にもわたり執ように逃走を図ったすえ,追跡してきた警察官らを殺害 するしかないと決意して,本件殺人,殺人未遂,公務執行妨害の犯行を行っているのであり,これらの犯行は短絡的な動機に基づいて常識では考えられない暴挙に及んだ犯行であるというほかない。 警察官A及びBは,被告人に対して行われていた免許証不携帯の疑いによる職務質問の応援に赴き,ナイフを携帯して逃走する被告人を追跡し職務質問を続行しようとして,判示犯行の被害にあっており,警察官Cは,被告人が逃走中であるという連絡を受けて本件犯行現場付近に赴き,警察官Bが対峙している被告人を制圧しようとして,判示犯行の被害にあっている。このような経緯に照らすと,被害にあった警察官3名は,誠実に警察官としての職務を遂行しており,免許証不携帯の疑いがありナイフを携帯して不可解な行動をとる被告人に対して,公共の秩序を維持し,市民の生活の安全を守るため,身を挺して,ひるむことなく追及を続けていたのであり,被告人は,このような警察官らに対し,殺害行為という究極の暴力を用いて職務の執行を妨害したのであるから,本件は市民社会の平穏な秩序を維持することに対する重大な挑戦と評価すべきものであって,それが社会に与えた衝撃も大きい。 警 に対し,殺害行為という究極の暴力を用いて職務の執行を妨害したのであるから,本件は市民社会の平穏な秩序を維持することに対する重大な挑戦と評価すべきものであって,それが社会に与えた衝撃も大きい。 警察官Aは,警察官として誇りを持ち,約28年7か月間にわたり,日々職務に,,,邁進していたところ自動車を降りた被告人から不意を襲われてその凶刃に倒れ未だ48歳という若さで,天命半ばにして,家族に別れの言葉を告げる暇もなく亡くなったのであって,その無念さは察するに余りある。 Aの妻は,Aが腎臓を患って手術を受け,一時は辞職も考えながら,その後,職務に活かすため体力作りを怠らず,外勤もできるように回復するほど職務熱心であったことに触れた上,夫が奪われたことは,自らの命も奪われたも同然であるとその心情を述べて悲嘆にくれており,Aの長男は,大学4年生の時期に,正義感が強く,家族思いであり,よき理解者であった父親を失ったことに対する悔しさを述べるなど,Aの遺族はそれぞれAを奪われたことに対する悲痛な心情を吐露して,被告人に対して厳しい処罰を望む旨述べている。 被告人は,これまで困難を乗り越えることなく,挫折のなかで長年引きこもりの生活を送るうち,社会性が低下し,奇異な考えを抱いても,それを訂正せず,周囲に配慮することもないまま,考えの赴くままに行動するようになり,本件においても,無免許運転で検挙されることをおそれ,職務質問の煩わしさから逃れるため,本件犯行を行うに至っている。そうすると,本件犯行は,被告人が引きこもりの生活を送っていたことに導かれたものではあるが,それは困難を避け自己本位な性格に安住してきた被告人の生活態度が招いたものというべきである。 これらの事情からすると,被告人の刑事責任は誠に重いというほかなく,本件には深甚な刑罰をもって臨む あるが,それは困難を避け自己本位な性格に安住してきた被告人の生活態度が招いたものというべきである。 これらの事情からすると,被告人の刑事責任は誠に重いというほかなく,本件には深甚な刑罰をもって臨む必要があるというほかない。 そうすると,他方において,警察官B及びCに対する殺人は未遂にとどまっており,本件犯行は,引きこもりの生活を送って社会性の低かった被告人が,警察官から度重ねて職務質問を受けたことに触発され恐慌状態に陥ったため起こした犯行であって,計画性の認められないものである上,被告人が,これまで前科がなく,事実を認め,当公判廷において,本件について反省の態度を示しており,被告人の父親が,出廷して,引きこもりの生活を送って奇異な行動に出る被告人に対する対応に苦慮してきたことに触れた上,被告人の本件行為について謝罪しているなど,被告人のためにしん酌することのできる事情もあるが,これらを考慮しても,被告人を主文掲記の刑に処するのが相当というべきである。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑無期懲役,ナイフの没収)平成18年9月14日千葉地方裁判所刑事第3部䱏裁判長裁判官山口雅 古閑美津惠裁判官佐藤由紀裁判官
▼ クリックして全文を表示