令和3(う)232 爆発物取締罰則違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、建造物損壊

裁判年月日・裁判所
令和4年11月9日 東京高等裁判所 棄却 東京地方裁判所 平成29合(わ)157
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判決文本文42,467 文字)

- 1 -令和4年11月9日宣告 東京高等裁判所第2刑事部判決令和3年(う)第232号 爆発物取締罰則違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反、建造物損壊被告事件主 文本件控訴を棄却する。 5理 由本件控訴の趣意は、検察官山元裕史作成の控訴趣意書並びに検察官市原久幸作成の「控訴趣意書(補充書)」及び「控訴趣意書(補充書)訂正書」に各記載されたとおりであり、被告人に対して無罪の判決をした原判決は、重大な事実の誤認をしたものであるという事実誤認の主張である。これに対する答弁は、主任弁護人渡邉10良平、弁護人寒竹里江、同酒田芳人及び同深見愛一郎連名作成の答弁書並びに「控訴趣意書(補充書)に対する答弁書」に、各記載されたとおりである。 そこで、記録を調査して検討する。 第1 本件各公訴事実の概要被告人は、氏名不詳者らと共謀の上15第1 治安を妨げ、かつ、人の身体財産を害する目的をもって1 平成25年11月19日頃から同月28日までの間に、東京都豊島区内のマンション(以下「本件マンション」という。)202号室(以下「202号室」という。)又はその周辺において、黒色火薬を充填した爆発物である金属製砲弾を発射筒に装填し、同発射筒底部に充填された火薬をヒーターで加熱・爆発20させることにより同金属製砲弾を同発射筒から発射させる発射装置を時限の到来により作動させる時限装置1個(以下「立川時限装置」という。)を製造し2 同月28日頃、東京都立川市内の横田飛行場周辺地区において、立川時限装置を接続し、前記金属製砲弾を発射筒に装填した前記発射装置を設置した上、同日午後11時30分頃、時限の到来により同金属製砲弾を東京 同月28日頃、東京都立川市内の横田飛行場周辺地区において、立川時限装置を接続し、前記金属製砲弾を発射筒に装填した前記発射装置を設置した上、同日午後11時30分頃、時限の到来により同金属製砲弾を東京都福生市内の25米空軍横田基地に向けて1回発射し、約589メートル飛翔させて同基地まで- 2 -約59.7メートルの東京都立川市内の横田飛行場周辺地区周辺に着弾・爆発させ、爆発物を使用し第2 法定の除外事由がないのに、平成26年10月20日頃、埼玉県川口市内のマンション外階段において、時限装置(以下「川口時限装置」といい、立川時限装置と併せて「本件各時限装置」という。また、本件各時限装置の各電子基5板を併せて「本件各電子基板」という。)を接続し、火薬及び金属製砲弾を装填した砲を設置した上、同月20日午前1時頃、時限の到来により、民間会社所有の同市内の多数の者が会社事務所として使用している同社関東支店社屋に向け、同砲から同金属製砲弾を発射し、同社屋3階北側窓枠等に命中させてこれらを凹損させるなどし(損害額合計48万6000円相当)、もって多数の10者の用に供される場所に向かって砲を発射するとともに、他人の建造物を損壊した。 (以下、前記第1事件を「立川事件」、前記第2事件を「川口事件」といい、「立川事件」と「川口事件」を併せて「両事件」という。)第2 論旨15論旨は、事実誤認の主張であり、要するに、原判決は、本件各公訴事実について、被告人が両事件の時限装置を製造した事実も、被告人が両事件における発射装置の設置を行った事実も、被告人が両事件について氏名不詳者らと共謀した事実も認められないとして、無罪を言い渡したが、原審公判に顕出された証拠により認められる間接事実を的確に総合評価すれば、被告人が同時限装置を製造したと優 、被告人が両事件について氏名不詳者らと共謀した事実も認められないとして、無罪を言い渡したが、原審公判に顕出された証拠により認められる間接事実を的確に総合評価すれば、被告人が同時限装置を製造したと優に認めら20れ、被告人が犯人でない可能性は抽象的なものにすぎず、合理的な疑いを容れる余地はないのに、原判決は、論理則・経験則に反する事実認定を重ねるなどして、被告人の犯人性を否定するという重大な事実誤認をしたものであって、その誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。 第3 原判決の判断の要旨251 争点等- 3 -両事件は、F協会の犯行グループが、F協会の主義・主張を実現する目的で、立川事件については在日米軍基地を狙って、川口事件については辺野古沖での地質調査を行っていた民間会社を狙って、組織的かつ計画的に敢行したものであることは、関係証拠上明らかである。 争点は、被告人が両事件に関与したかどうかである。すなわち、検察官は、本件5各時限装置を製造し、両事件の発射現場で本件各時限装置を含む発射装置を設置したのは被告人であるとして、被告人には両事件の実行共同正犯が成立すると主張する(ただし、立川事件のうち爆発物使用及び川口事件については共謀共同正犯の成立も主張している。)。 2 検察官の主張する証拠構造と本件の特殊性10⑴ 検察官の主張する証拠構造検察官は、要旨、ア 本件各時限装置の各電子基板の各ICに書き込まれた各プログラム(プログラム内容は同一。以下「本件プログラム」という。)の開発から本件各時限装置の製造に必要な物品と開発・製造したことを示す痕跡(証拠)が、原判決別紙のとおり(以下、同別紙の表記に従う。)、202号室の6畳洋室西側15ベッド区域(以下「西側ベッド区域」という。)及 時限装置の製造に必要な物品と開発・製造したことを示す痕跡(証拠)が、原判決別紙のとおり(以下、同別紙の表記に従う。)、202号室の6畳洋室西側15ベッド区域(以下「西側ベッド区域」という。)及び8畳LDKスチールラック②(以下「スチールラック②」という。)に網羅的に整理された状態で保管されていたことや、同室の賃借が開始された平成24年10月は、立川事件に向けて本件プログラムの開発から時限装置の製造が必要となっていた時期であり、賃借後程なくして外部に対する厳重な警戒態勢をとっていたことのほか、本件各時限装置の構造20・機能の共通性等から、西側ベッド区域及びスチールラック②を使用していた同一の人物が、主に西側ベッド区域において、本件プログラムを開発した上で本件各電子基板を含む本件各時限装置の製造を行った、イ そして、西側ベッド区域及びスチールラック②から検出された多数の指紋のほとんどが被告人の指紋であった上、これらの場所を使用している人物でなければ触らない箇所や、本件各時限装置の製25造に深く関連する、プログラム印字紙、川口時限装置の電子基板と共通性の高い配- 4 -線図2枚(以下この2枚を併せて「川口配線図」という。)等からも被告人の指紋が検出されるなど、本件プログラムの開発から本件各時限装置の製造までの証拠全てが被告人と結びついていることなどから、これらの場所を使用し、本件各時限装置を製造したのは被告人以外に考えられない、と主張する。 ⑵ アの主張について5犯行グループがF協会であるという特殊性からやむを得ないことではあるが、本件については、捜査機関が長年にわたって積み重ねてきた捜査によっても解明されていないことが少なくない。すなわち、捜査機関が202号室を発見したのが両事件から相当な期間を経過した後の平成27 るが、本件については、捜査機関が長年にわたって積み重ねてきた捜査によっても解明されていないことが少なくない。すなわち、捜査機関が202号室を発見したのが両事件から相当な期間を経過した後の平成27年12月であるため、平成24年10月の同室の賃借開始後から両事件当時を含む約3年3か月の間におけるF協会による10同室の利用状況が分からない。むしろ、西側ベッド区域やスチールラック②にあった複数の物品から、捜査機関が把握していない人物の指紋が検出されているため、利用状況不明の期間に、被告人ら3人(捜査機関が平成28年2月23日に202号室を捜索した際に在室していた被告人、A及びB(以上の被告人ら3人を、以下「被告人ら3人」ということがある。)以外の人物が202号室に滞在するなどし15て両事件に何らかの関与をしていた可能性が否定できない。また、202号室からは、F協会の活動家であると判明している人物を含む複数名の住民票、印鑑登録証明書、診察券、キャッシュカード等も発見されているため、同室にF協会複数名の出入りがあった可能性も否定されない。加えて、西側ベッド区域から発見されたハードディスクⒶの中には、本件プログラムの開発段階のものと思われるプログラム20が保存されているところ、その中には202号室が賃借される前の日付けで更新されたプログラムも存在することから、本件プログラムの開発が、同室賃借前の時期から、同室同様の厳重な警戒態勢をしいた別のアジトで行われていた可能性もある。 しかも、犯行グループの規模やグループ内でのメンバーの入れ替わりの有無、役割分担も分からず、複数名の関与が否定されない中で、配線図や一定の知識があれば、25本件プログラムの開発者でなくても、本件各電子基板を製造することは可能である- 5 -とも考えられる。そうす 割分担も分からず、複数名の関与が否定されない中で、配線図や一定の知識があれば、25本件プログラムの開発者でなくても、本件各電子基板を製造することは可能である- 5 -とも考えられる。そうすると、本件プログラムを開発し、本件各電子基板を含む本件各時限装置の製造は、同一の犯行グループによるものである可能性が高いとはいえても、同一人物が開発・製造したと認定できるだけの証拠はない。このほか、ハードディスクⒶについては、保存された各種のデータの内容等に照らして、本件プログラムの開発や本件各時限装置の製造に関与した人物によって保存・整理された5と考えられ、その人物がそのまま使用していた可能性がある一方、これまで指摘したことや、両事件の後、全く同じ時刻にコピーされたものがあることに照らすと、平成27年4月に敢行された座間事件等、両事件の後に予定された金属製砲弾発射事件に関与することになった新たなメンバーへの引継ぎ用として202号室に残されていた可能性もある。このように、本件では、解明されていないことが少なくな10いこともあって、検察官の主張するアのうち主要な点は、そのように認定できる証拠がなく、立証されていないことになる。 ⑶ イの主張について結局、検察官の主張する証拠構造においては、前記イ、すなわち、西側ベッド区域及びスチールラック②から検出された被告人の指紋が重要となり、争点との関係15で裁判所の判断を求められている中核は、この点であると理解される。 3 原審裁判所の判断⑴ スチールラック②及び西側ベッド区域の被告人の指紋について関係証拠によれば、スチールラック②からは、水色衣装ケース内の黄色ファイル帳(以下「本件黄色ファイル帳」という。)のクリアポケットに収納されたプログ20ラム印字紙1枚目の裏側に付着した1 いて関係証拠によれば、スチールラック②からは、水色衣装ケース内の黄色ファイル帳(以下「本件黄色ファイル帳」という。)のクリアポケットに収納されたプログ20ラム印字紙1枚目の裏側に付着した1個をはじめ、同ラックの最上段から最下段等にかけてほぼ全域にわたって被告人の指紋が24個検出され、西側ベッド区域からは、木製机脇の棚にあった川口配線図に付着した2個をはじめ、被告人の指紋が7個検出されるなどしたことが認められる。 スチールラック②についてみると、指紋の付着したプログラム印字紙は、その内25容、及び、本件黄色ファイル帳にはこのほかに立川時限装置の電子基板と共通性の- 6 -高い配線図2枚(以下この2枚を併せて「立川配線図」という。)や本件のIC関連各種資料が保管されていたことなどからすると、本件プログラムの開発段階で作成されたものである可能性が高く、202号室捜索時、プログラム印字紙が二つに折り畳まれた状態で収納され、被告人の指紋の付着位置が同印字紙を広げて触らないと付着しない裏側であったこと等からすると、被告人が本件プログラムの開発段5階で同印字紙に触ったことが疑われる上、スチールラック②から検出された対照可能な指紋31個のうちのほとんどが被告人の指紋であり、同ラックのほぼ全域に被告人の指紋が付着していたことも踏まえると、被告人がスチールラック②を使用していたことが疑われる。また、西側ベッド区域についても、川口配線図に被告人の指紋が2個付着しており、同区域から検出された対照可能な指紋10個のうちほと10んどが被告人の指紋であったほか、同区域には、本件プログラムの作成や本件各時限装置の製造に用い得るパソコンやハードディスク、多数の電子部品等が存在していたことも併せ考えると、被告人の川口事件への関与が疑われる。 もっ あったほか、同区域には、本件プログラムの作成や本件各時限装置の製造に用い得るパソコンやハードディスク、多数の電子部品等が存在していたことも併せ考えると、被告人の川口事件への関与が疑われる。 もっとも、被告人以外の人物がスチールラック②及び西側ベッド区域に触ったとしても、必ず指紋が残るわけではなく、対照可能指紋は約70個あったが、対照不15能指紋も約250個(なお、不検出(対照できるような指紋の隆線が見受けられなかったもの)は500個以上)あり、指紋の検出状況をもっていえるのは、被告人がそれらの箇所に触ったということであって、別の人物も触っていた可能性は排斥されないし、実際にも、西側ベッド区域からはBの指紋が1個検出され、同区域及びスチールラック②からは、被告人ら3人以外の、捜査機関の把握していない人物20の指紋が複数検出されており、その中にはハードディスクⒶが入っていたプラスチックケースの在中品(説明書)に付着したものもある。 そして、被告人は、スチールラック②に指紋が付着した理由について、平成27年12月27日に202号室に入居した際、スチールラック②付近に散らかっていたファイル、紙パック、プラスチックケース等を整理して片付けた際に付着した可25能性があり、西側ベッド区域に指紋が付着した理由についても、前記入居時に西側- 7 -ベッド上に散らかっていた紙類やファイル等を整理して片付け、以後、西側ベッドを使用していたので、そうした際に触った可能性がある旨供述している。 この被告人の公判供述を検討すると、202号室が平成28年2月の捜索時において全体として整理が行き届いているとはいえない状況にあり、被告人が入居したとする平成27年12月は両事件から既に相当の期間が経過しており、川口配線図5のうち1枚には該当者不明の足 の捜索時において全体として整理が行き届いているとはいえない状況にあり、被告人が入居したとする平成27年12月は両事件から既に相当の期間が経過しており、川口配線図5のうち1枚には該当者不明の足紋が付着していたことから誰かがこれを足で踏んだ可能性があることなどに照らすと、検察官の主張を踏まえても、散らかっていたので片付けをしたとする被告人の公判供述が不合理であるとまではいえず、この被告人供述を否定できるだけの証拠はない。 確かに、202号室が部外者への厳重な警戒態勢を取っており、F協会が組織と10して金属製砲弾の製造、発射をする非合法活動の中で、同室が少なくとも時限装置を製造する拠点の一つであったことは明らかである。しかしながら、202号室の内部においては、平成28年2月の捜索時に、両事件に関連するハードディスクや書類といった重要資料が複数の箇所に点在し、202号室に入室を許可された人物であれば、これらに容易に触れられるような態様で保管されており、同室内におけ15るセキュリティは厳格とはいえず、被告人が平成27年12月に202号室への入居を組織から許可されたということは、そのような重要資料等に触れることも許されていたと考えられる。このことは、被告人が両事件に関与していたからであるとも考えられる一方で、被告人が、組織から、平成27年12月以降に予定されていた金属製砲弾発射計画を遂行する要員の一人として同室に送り込まれた可能性も否20定できない。そうすると、スチールラック②及び西側ベッド区域の両事件に関連する重要資料を含む多数の物に被告人の指紋が付着していたとしてもおかしなことではない。 以上のとおり、スチールラック②及び西側ベッド区域の被告人の指紋付着状況からは、被告人が本件プログラムの開発に携わっていたとか、両事件当時 被告人の指紋が付着していたとしてもおかしなことではない。 以上のとおり、スチールラック②及び西側ベッド区域の被告人の指紋付着状況からは、被告人が本件プログラムの開発に携わっていたとか、両事件当時、スチール25ラック②及び西側ベッド区域の使用者であったと推認することはできない。むしろ、- 8 -被告人が平成27年12月に202号室に入居した際の片付けやその後生活を続けていた際に指紋が付着した可能性や、その入居以降に予定されていた金属製砲弾発射計画の遂行に向けてスチールラック②及び西側ベッド区域の重要資料に触れた疑いが残る。 ⑵ 両事件当時、被告人が202号室に滞在していたことを疑わせる証拠につい5て検察官は、両事件当時、被告人が202号室に滞在していたことを示す証拠として幾つか挙げるので、順に検討する。 ア 「田中誠」名義の履歴書関係証拠によれば、被告人は、平成25年5月8日から同年8月30日まで、平10成26年3月17日から同年7月30日まで、平成27年11月12日から同年12月26日までの3回にわたって、「田中誠」の偽名を用いて株式会社C・D営業所(以下「本件営業所」という。)に勤務していたところ、平成28年2月の捜索の際、202号室8畳LDKの木製机の引き出しに「田中誠」名義の履歴書3通(作成日付欄がそれぞれ平成25年4月28日、平成26年、空白のもの)が保管され15ていたことが認められる。検察官は、これらの履歴書の存在は、両事件当時、被告人が202号室に滞在していたことを示している旨主張する。 この点、被告人は、公判において、平成25年4月28日付けの履歴書については、最初に本件営業所に勤務するに当たって、提出したものと同じ内容のものを手書きでもう1通作成して持ち続け、平成27年12月に202号室に 人は、公判において、平成25年4月28日付けの履歴書については、最初に本件営業所に勤務するに当たって、提出したものと同じ内容のものを手書きでもう1通作成して持ち続け、平成27年12月に202号室に入居する際、20他の2通とともに前記引き出しにしまったなどと供述する。 この被告人の公判供述については、本件営業所に提出するものに加えて手書きでもう1通控えを作成すること自体さほど手間をかけずにできるし、次に履歴書を書くときに控えがあると履歴を一から思い出す必要がなく便利であって、特に偽名で働く被告人にとっては必要と考えられることから、被告人の公判供述はそれなりに25理解できる。これに加えてもう2通の履歴書を保管している点については、一般に、- 9 -使わなかった履歴書をとっておくことはあり得るし、個人情報の記載された履歴書の処分には一定の配慮を要することも踏まえれば、必ずしもおかしなことではない。 したがって、被告人の公判供述が不合理であるとして排斥することはできないことから、被告人が「田中誠」名義の履歴書3通を平成27年12月の入居の際に202号室に持ち込んだ可能性があり、これらが202号室に保管されていたことを5もって、両事件当時、被告人が同室に滞在していたと推認することはできない。なお、202号室に保管されていた「田中誠」名義の診察券(初診日平成26年4月のもの)等についても、被告人が公判で述べるところが不自然、不合理とまではいえない。 イ 本件営業所の地図データ及び給料明細書10関係証拠によれば、202号室にあったハードディスクⒷ及びⒹには、本件営業所やその付近の地図データ等が保存され、地図データの作成日時や更新日時がいずれも平成25年7月14日であることや、両ハードディスクには両事件に関連するデータが多数保 ドディスクⒷ及びⒹには、本件営業所やその付近の地図データ等が保存され、地図データの作成日時や更新日時がいずれも平成25年7月14日であることや、両ハードディスクには両事件に関連するデータが多数保存されていた事実、同室西側ベッド上に設置された天板上には、被告人の同営業所における平成26年8月分の給料明細書があった事実が認められる。 15検察官は、地図データについては、被告人が最初に本件営業所に勤務し始めた後、その周囲の地理等を確認するために地図データを作成し、これを自身でハードディスクⒷに保存し、同ハードディスクを202号室で使用していたと考えるのが自然であり、給料明細書については、被告人が同営業所での2度目の勤務の最後の給料を受け取って202号室に戻り、それをそのまま保管していたと考えるのが自然で20あると主張する。 この点、被告人は、公判において、最初に本件営業所に勤務してから2か月程度後に建設現場で事故が起きて大けがを負った作業員がいたことから、自分の身にも同様のことが起きて病院にかかるようなことがあると偽名の使用が発覚してまずいと思い、けがで動けなくなったときに直ぐに連絡員に来てもらうために、地図をダ25ウンロードしてUSBメモリに保管し、連絡員に渡した、その地図データがなぜ2- 10 -02号室のハードディスクに入っていたかは分からないなどと供述し、給料明細書については、連絡員に対し、給料から生活費を差し引いた分を現金で給料明細書とともに渡しており、202号室にあった給料明細書も連絡員に渡したものであるなどと供述する。 この被告人の公判供述について、被告人の置かれた立場になって考えるとともに、5F協会による犯行という特殊性から解明されていないことが少なくなく、この組織内における連絡方法、連絡員が受け取った この被告人の公判供述について、被告人の置かれた立場になって考えるとともに、5F協会による犯行という特殊性から解明されていないことが少なくなく、この組織内における連絡方法、連絡員が受け取った構成員に関するデータや資料の保管、蓄積及び廃棄の方法等の実態がよく分からない中で、疑わしきは被告人の利益にという観点から考えると、被告人が前記のような理由で連絡員に渡すための地図データを作成することや勤務先の場所について組織に要望を持ちかける被告人の方で地図10データを用意して連絡員に渡すことはあり得ることであり、また、連絡員等が組織内で情報を共有するためにUSBメモリやハードディスクに地図データを保管して受け渡し、共有するということも相応にあり得ることである。そして、被告人ら3人以外の住民票等必ずしも保管しておく必要性が高くないと思われる物も存在していたことから、これらがどのように持ち込まれ、どのような理由から残されていた15のかも分からず、ハードディスクⒷ及びⒹをみても、データの数、内容や保管方法からすると、連絡員等複数名が両ハードディスクを利用していたことや雑多な用途にも利用していた可能性も考えられる。そうすると、連絡員等が構成員に関するデータや資料を202号室に持ち込んで、こうしたハードディスクに保存し、共有等していた可能性も否定できない。給料明細書についても、同様に、被告人ら3人以20外の住民票等が存在していたことなどに照らすと、連絡員に渡したものが202号室に持ち込まれた可能性は否定できない。F協会の実態がよく分からない中で、前記の観点からみたときには、これらが抽象的可能性にとどまるとはいえず、それなりの可能性が残ると考えられる。 したがって、被告人の公判供述を不合理なものとして排斥することができず、連25絡員等 記の観点からみたときには、これらが抽象的可能性にとどまるとはいえず、それなりの可能性が残ると考えられる。 したがって、被告人の公判供述を不合理なものとして排斥することができず、連25絡員等が202号室に出入りして、地図データをハードディスクⒷ等に保存した可- 11 -能性や給料明細書を202号室に持ち込んだ合理的な疑いが残ると判断した。 ウ 2012年のノート紙片の指紋関係証拠によれば、202号室の居住者は、玄関ドアスコープから外部の人の動きを監視して、そのことなどを毎日のようにノート等(以下「監視ノート」という。)に記録していたところ、そのうち2012年(平成24年)12月11日及び125日の日付け欄のノート紙片に、被告人の指紋が付着していたことが認められる。 このことからすると、検察官が主張するとおり、被告人が、この日付け当時、監視ノート紙片に触ったと考えるのが自然ではあり、被告人自身、平成27年12月に202号室に入居する前にも同室に滞在したことがあることは認めている。もっとも、これを前提にできたとしても、その際の滞在期間の長短は不明で一時的に滞10在した可能性が否定できない上に、その後の滞在時期や回数を示す証拠はないことから、被告人が遅くとも平成24年12月12日頃には202号室に出入りし、本件営業所に勤務しその寮に入っていた時期を除いては、同室で生活をしていたとするには飛躍があり、また、その日付け当時は立川事件よりも1年足らず前であることも踏まえると、被告人の立川事件への関与の有無及び程度を具体的に示すものに15もならない。 エ そして、前記アからウまでで検討した証拠について総合してみても、それぞれについての被告人の説明や考えられる可能性が不合理あるいは抽象的可能性にすぎないとまではいえない以上、両 もならない。 エ そして、前記アからウまでで検討した証拠について総合してみても、それぞれについての被告人の説明や考えられる可能性が不合理あるいは抽象的可能性にすぎないとまではいえない以上、両事件当時、被告人が202号室に滞在していたことを推認させるものとはならない。 20⑶ 結論以上のとおり、被告人の両事件への関与を疑わせる事実はあるものの、いずれについても、その事実から指摘できそうなことを妨げる被告人の公判供述が不合理なものとして排斥できず、あるいは被告人が両事件には関与していなかったがその後に予定された金属製砲弾発射計画に向けた準備を行っていたとの可能性も否定でき25ない。そうすると、これまでみた諸点を総合してみても、証拠上認められる事実関- 12 -係に、被告人が犯人でないとするならば合理的に説明ができない、あるいは説明が極めて困難であるものが含まれているとはいえない。 よって、被告人が本件各時限装置を製造したと認定することはできない。また、検察官は、被告人が本件各時限装置の製造者であることを前提として、その製造者が発射装置を設置するのが合理的であるから、被告人が両事件における発射装置の5設置も行ったと主張するが、その前提を欠いており、他に被告人が両事件の発射装置を設置したとする証拠はない。そして、被告人が両事件について氏名不詳者らと共謀したことを示す証拠もない。 以上より、本件各公訴事実について犯罪の証明がないので、被告人に対しいずれの事実についても無罪を言い渡すこととする。 10第4 当裁判所の判断原判決の結論は正当であり、間接事実の認定及び同事実の評価等に不合理なところはなく、相当として是認できる。以下、所論に即して補足する。 1 検察官の主張の概要証拠により認定できる各間接事実、すな 原判決の結論は正当であり、間接事実の認定及び同事実の評価等に不合理なところはなく、相当として是認できる。以下、所論に即して補足する。 1 検察官の主張の概要証拠により認定できる各間接事実、すなわち、①202号室は、平成24年1015月の使用開始当初から、本件プログラムの開発(実用化)並びに本件各時限装置の開発及び製造を行う重要拠点であり、②それゆえに、202号室は使用開始当初から厳重な警戒態勢が敷かれ、同室の居住者等の限られた者しか出入りが許されず、F協会の他の活動家の立入りすら制限されていたところ、③202号室の使用が開始された同月は、本件プログラムの開発(実用化)から、本件プログラムを初めて20組み込んだ立川事件の時限装置の開発及び製造に至る重要な時期であって、④被告人は、そのような重要な時期から202号室に出入りし、居住していた上、⑤本件プログラムの開発に直結する重要証拠からは被告人の指紋しか検出されず、かつ、本件各時限装置の開発及び製造に結び付く証拠が多数保管されていた西側ベッド区域及びスチールラック②から検出された指紋の多くは被告人のものであって、被告25人以外の第三者がこれらの開発や製造に関与したことをうかがわせる指紋は検出さ- 13 -れず、⑥しかも、本件プログラムの開発や本件各時限装置の開発及び製造に直接結び付く重要なデータは、被告人が本件営業所に勤務していない期間に作成、更新されていたこと等の事情を総合評価すれば、被告人の犯人性は明らかというべきであり、これを否定した原判決には重大な事実誤認がある。 2 検討順序等について5検察官が当審で主張する内容は、原審の主張内容と大きく異なるものではない。 検察官が主張する前記①ないし⑥の各間接事実等の中には、評価を伴うものがあり、これらの間接事実を認定 討順序等について5検察官が当審で主張する内容は、原審の主張内容と大きく異なるものではない。 検察官が主張する前記①ないし⑥の各間接事実等の中には、評価を伴うものがあり、これらの間接事実を認定できるかがまず重要であり、次いで、認定した事実をどのように評価できるかが重要となる。そして、控訴趣意書及び同補充書によれば、検察官は、前記⑤の間接事実を最も重視していると認められ、川口配線図等に被告人10の指紋が付着していたことや本件各時限装置の開発及び製造に関係が深いと見られる西側ベッド区域やスチールラック②から検出された各指紋の大部分は被告人のものであることは、被告人が本件各時限装置の開発等に携わっていたことを強く推認させる間接事実であると主張している。もっとも、前記①及び③の各間接事実は、それ自体重要な意味を有する上、基本的には前記⑤の前提として位置付けられるも15のであり、また、前記④の間接事実は、前記①及び③の各間接事実が認められることを前提とし、さらに間接事実⑤と結びつくことによって、本件の犯人性を強く推認させる事情となり得るものである。また、前記②の間接事実は、前記①及び③の各間接事実の論拠となり得る事情として主張していると理解されるものである。そこで、以下、前記②の間接事実について検討した後、前記①及び③の各間接事実、20次いで前記⑤の間接事実について検討し、その後、前記④及び⑥等の間接事実等について検討することとする。そして、検察官は、別途、原判決の判断について個別に反論していることから、それまでの検討と重複する部分があるが、更に検討を加える。 3 前記②の間接事実について25⑴ 検察官は、202号室は、F協会がその維持を重視していた重要拠点である- 14 -がゆえに、平成24年10月の使用開始当初から が、更に検討を加える。 3 前記②の間接事実について25⑴ 検察官は、202号室は、F協会がその維持を重視していた重要拠点である- 14 -がゆえに、平成24年10月の使用開始当初から平成28年2月23日の警察の捜索に至るまで極めて厳重な警戒態勢が敷かれており、同室の居住者等の限られた者しか出入りが許されず、部外者の立入りはもちろん、F協会の他の活動家の立入りすら制限されていたと主張する。 この点、202号室は、偽名で賃借され(原審甲475)、平成28年2月5の警察の捜索時、6畳洋室西側窓の手すり上に置いたプランター内に設置したカメラで、1階出入口を監視するなどしていた(原審甲478)ほか、玄関を入ってすぐの場所にベニヤ板の仕切りを設置するなどして玄関から室内への侵入を防ぐ工作をし、玄関ドアスコープにカメラを設置して玄関ドアの外側を撮影するなどし(原審甲478)、判明した人の動きなどを監視ノートに記録しており、その記載は、10平成24年10月9日から始まっている(原審第3回Eの証言)ことが認められる。 以上によれば、202号室は、その使用開始当初から、対外的に厳重な警戒態勢を敷いていたことは明らかである。しかし、捜査機関が202号室を発見したのは平成27年12月であり、それ以前の同室の警戒態勢について、F協会内部の者との関係でどの程度厳重なものであったかは必ずしも明らかではないのであって、同15室の居住者等の限られた者しか出入りが許されず、F協会の他の活動家の立入りすら制限されていたとまで推認することはできない。 これに対し、検察官は、平成27年12月17日から平成28年2月23日までの約2か月間にわたり警視庁公安部が本件マンションの2階以上に設けられている居住部分への人の出入りを視察した結果、本件マン これに対し、検察官は、平成27年12月17日から平成28年2月23日までの約2か月間にわたり警視庁公安部が本件マンションの2階以上に設けられている居住部分への人の出入りを視察した結果、本件マンションの他の部屋の住人を除く20と、202号室の捜索時に在室していた被告人ら3人の出入りが認められるだけで、それ以外にF協会の活動家の出入りは認められなかったこと、被告人自身、F協会内で保秘が徹底されていたことや、部外者が同室に立ち入ったり、室内を見たりすることがないよう厳重に警戒していたことを自認していると主張する。しかし、前記の捜査機関の視認は、202号室の使用開始から3年以上経過した時期のもので25あり、前記視認時に被告人ら3人以外の出入りが認められないからといって、それ- 15 -以前も同様であったということはできないし、被告人の供述も、平成27年12月以降の話である上、その供述によっても、部外者ではないF協会の構成員が、必要な用事があって同室に立ち入ることが制限されていたとまでは認められない。また、F協会の被告人ら3人以外のメンバーの住民票や印鑑登録証明書が存在したり、202号室から被告人ら3人以外のメンバーや警察庁のデータベースに登録されてい5ない不明者の指紋が複数検出されていることは、被告人ら3人以外のF協会のメンバーの出入りがあったことを示しているともいえる。検察官の主張は採用できない。 4 前記①の間接事実について⑴ 検察官は、前記①の間接事実が認められるとする論拠として、㋐202号室は、西側ベッド区域を中心に、本件プログラムの開発から本件各時限装置の開発及10び製造のための環境が整っていたこと、㋑202号室には、同室で本件プログラムの開発、ICへの書込を行っていた証拠、すなわち、本件プログラムの骨子部分 プログラムの開発から本件各時限装置の開発及10び製造のための環境が整っていたこと、㋑202号室には、同室で本件プログラムの開発、ICへの書込を行っていた証拠、すなわち、本件プログラムの骨子部分のメモ、本件プログラムのタイマー部分のメモ、プログラム印字紙、本件プログラムの開発やICへの書込に関するデータが保管されていたこと、㋒202号室には、同室で本件各時限装置に組み込まれた電子基板を製造していた証拠、すなわち、立15川配線図、川口配線図等が保管されていたこと、㋓202号室からは、同室が両事件の発射現場周辺の下見の拠点でもあったことの証拠、すなわち、両事件の発射現場周辺の写真画像データや動画データ等が発見されたこと、㋔202号室からは、同室で本件各時限装置の開発及び製造等を行っていたことのその他の証拠、すなわち、管材や電子部品等の検索データ、黒色火薬を取り出すことのできる相当量の花20火、証拠隠滅のための燃焼物質テルミットの原材料等が発見されたこと、という点を主張し、これらによれば、202号室は、使用開始当初から、本件プログラムの開発(実用化)や、これを前提とした本件各時限装置の開発及び製造等を行っていた重要拠点であったことは明らかである旨主張する。 ⑵ そこで検討すると、前記㋐の関係では、平成28年2月の202号室の捜索25時、西側ベッド区域を中心に、本件プログラムをICに書き込むために必要なソフ- 16 -トウェアやそれに関する資料等が保存されたハードディスクⒷやICへのプログラムの書込時に必要になるプログラムライターの使い方や書込方法等に関する資料等が保存されていたハードディスクⒶがあったほか、西側ベッド区域には多数の電子部品や工具類等が発見され、さらにスチールラック②にも多数の電子部品等が発見された(原審甲4 い方や書込方法等に関する資料等が保存されていたハードディスクⒶがあったほか、西側ベッド区域には多数の電子部品や工具類等が発見され、さらにスチールラック②にも多数の電子部品等が発見された(原審甲441、477、462,491等)ことが認められる。 5前記㋑の関係では、スチールラック②の水色衣装ケース内の本件黄色ファイル帳内から、プログラム骨子メモやプログラム印字紙が、西側ベッド区域の青色クリアファイル内から、プログラムのタイマー部分のメモがそれぞれ発見され(原審甲479ないし481)、さらに、ハードディスクⒶには、本件各電子基板の各ICに書き込まれた本件プログラムと同じ内容のプログラム等が保存されていた(原審甲10465)ことが認められる。 前記㋒の関係では、スチールラック②の水色衣装ケース内の本件黄色ファイル帳内には立川配線図(原審甲482)が、西側ベッド区域の西側に設置された木製棚の上には川口配線図(原審甲314、315)等が、それぞれ保管されていたことが認められる。また、ハードディスクⒶには、川口電子基板と部品の種類、個数、15配置、配線が同じ電子基板の配線図のデータや、川口電子基板と酷似する電子基板の写真画像のデータが保存されていた(原審甲464,465)。 前記㋓の関係では、西側ベッド区域のプラスチックケース内のハードディスクⒸの削除データを復元したところ、平成25年9月14日から同年11月中旬頃にかけて撮影された立川事件の発射現場周辺の写真画像データや動画データが発見され20た(原審甲483)こと、6畳洋室北東側に置かれた3段カラーボックスに保管されていたデジタルカメラ内のSDカードの削除データを復元したところ、平成26年9月2日から同月24日にかけて撮影された川口事件の発射現場周辺の写真画像データ及び同 置かれた3段カラーボックスに保管されていたデジタルカメラ内のSDカードの削除データを復元したところ、平成26年9月2日から同月24日にかけて撮影された川口事件の発射現場周辺の写真画像データ及び同発射現場周辺のストリートビューを表示したモニターを接写した写真画像データ等が発見された(原審甲484)ことが認められる。これらは、その内25容や撮影時期等に鑑み、両事件に向けての下見をするなどした際に撮影されたもの- 17 -である可能性が高いと認められる。 前記㋔の関係では、6畳洋室北側の3段スチールラック1段目に置かれたプラスチックケース内に保管されていたハードディスクⒹに、立川事件の発射装置に使用された管材や電子部品と同規格の部品が掲載されたインターネットショップのサイトのデータ等が保存されていた(原審甲440)こと、スチールラック②等に黒色5火薬を含む相当量の花火等が保管されていた(原審甲463等)こと、6畳洋室東側の物入れ上の天袋に置かれていた段ボール箱内に、証拠隠滅のための燃焼物質であるテルミットの原材料が保管されていた(原審甲463等)ことなどが認められる。 ⑶ア そこで、⑵を前提として検討するに、捜査機関が202号室を捜索した平10成28年2月23日の時点において、202号室は本件各時限装置の開発や製造のための環境が整えられており、本件プログラムや本件各時限装置の開発や製造が行われた痕跡が残っていたということができる。また、前記捜索時に202号室に存在していたプログラム骨子メモ、プログラム印字紙及びプログラムのタイマー部分のメモ並びに立川配線図及び川口配線図等は、検察官が主張するとおり、本件プロ15グラムの開発段階で作成された可能性が高いと認められる。しかし、前記⑵の証拠品や証拠データが発見されたのは、立川 分のメモ並びに立川配線図及び川口配線図等は、検察官が主張するとおり、本件プロ15グラムの開発段階で作成された可能性が高いと認められる。しかし、前記⑵の証拠品や証拠データが発見されたのは、立川事件から約2年3か月後、川口事件から約1年4か月後であり、証拠上、それらが、いつから、どのような理由で202号室に存在しているのかは一切不明である。そのことを前提とすると、前記の証拠品や証拠データが、基本的には本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び20製造を行う過程において、202号室で作成されたり保存されたりした可能性は十分考えられるが、他方、それらが同室同様の厳重な警戒態勢をしいた別のアジトで作成・保存され、両事件の後、何らかの理由で202号室に持ち込まれるなどしたという可能性も排斥されない。このように、202号室で前記の証拠品や証拠データが発見されたという事実が持つ推認力は、その時期の点から見て、限定されると25いわざるを得ない。さらに、各種証拠品や証拠データが、202号室賃借前からす- 18 -でに作成され、あるいは両事件後、202号室に持ち込まれた可能性があることをうかがわせるものとして、次のような事情も認められる。 イ すなわち、ハードディスクⒶの中には、202号室を賃借する前の平成24年6月30日に作成されたデータがあり、その内容は、本件プログラムとは作動猶予時間を決定する「Mx」の値が異なるだけで、他は全く同じ内容のプログラム(以5下「テスト用プログラム」という。)であり(原審甲464、465)、同プログラムの作動猶予時間を書き換える作業は短時間で完了する。また、同日と立川事件より9日前の平成25年11月19日の機械語変換の間の期間には、プログラムを開発し、実用化を試みるのに不可欠な機械語変換を示すフ の作動猶予時間を書き換える作業は短時間で完了する。また、同日と立川事件より9日前の平成25年11月19日の機械語変換の間の期間には、プログラムを開発し、実用化を試みるのに不可欠な機械語変換を示すファイル等は一切存在しない。このことから、本件プログラムは、遅くとも平成24年6月30日にはほぼ完10成していたと考えられるのであり、原判決が説示するように、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造が、202号室の賃借前の時期から、同室同様の厳重な警戒態勢をしいた別のアジトで行われていた可能性があるといえる。 ウ 加えて、ハードディスクⒶに保存された各種のデータの内容等をみると、川口事件後の平成26年11月19日、本件プログラムに関連するデータがまとめて15コピーされ、平成27年2月28日には、電子基板及びそれへの書込等に関連するデータがコピーされており(原審甲464、465)、ハードディスクⒶに保存されているこれらのデータはコピーデータであることが認められる。このことからすると、前記ハードディスクⒶのデータ等は、両事件のために作成・保存された以外の可能性があるといえ、具体的には、原判決が説示するように、両事件の後に予定20されていた金属製砲弾発射事件に関与することになった新たな犯行メンバーへの引継ぎ用として202号室に残されるなどしていた可能性がある。 ⑷ これに対し、検察官は、アに関し、厳重な警戒態勢を敷いているF協会が、警察の職務質問等の危険があるのに、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造等に関連するもののような重要な物品やデータ等を使用し、保管す25る拠点を転々とするものとは考えられず、そうした重要な物品やデータ等は、一た- 19 -び秘匿性が確保された拠点に持ち込まれた後は、そうした拠 ののような重要な物品やデータ等を使用し、保管す25る拠点を転々とするものとは考えられず、そうした重要な物品やデータ等は、一た- 19 -び秘匿性が確保された拠点に持ち込まれた後は、そうした拠点で継続的に使用され、保管されていたものと考えられると主張する。確かに、前記のとおり、202号室は、外部に対して厳重な警戒態勢を敷いていたことが認められる。しかし、検察官の前記主張内容を裏付ける証拠はなく、捜査機関が把握しているF協会組織内の情報は限定されており、同組織内における重要な物品やデータ等の使用保管状況等の5実態は明らかではないのであって、例えば、何らかの事情でアジトを変更あるいは追加する必要があり、あるアジトで開発あるいは製造等をしたプログラムデータや電子基板等を別のアジトに移す可能性を排斥することはできない。また、前記のとおり、ハードディスクⒶのデータの中には202号室とは別のアジトで作成されたものがあり、それが、その前に作成されたと認められる、プログラム骨子メモやタ10イマー部分メモ等とともに、202号室に持ち込まれたといえることは、検察官自身認めるところでもあるが、前記の検察官の主張は、このことと整合しないといえる。検察官の主張は採用できない。 また、検察官は、イに関し、平成24年9月30日の202号室賃借前、別のアジトで本件プログラムの開発が進められていたとしても、同室を同年10月に使15用開始した後、同年12月2日にテスト用プログラムを更新したデータがハードディスクⒶに保存されており、その時点では本件プログラムはいまだ実用化に向けた開発段階にあったと認められること、202号室の使用開始から1年余り経った平成25年11月19日に、本件プログラムをICに書き込んだ際に自動生成されたファイルが保存されており、本 まだ実用化に向けた開発段階にあったと認められること、202号室の使用開始から1年余り経った平成25年11月19日に、本件プログラムをICに書き込んだ際に自動生成されたファイルが保存されており、本件プログラムはそれまでに実用段階に至って完成し20たと認められること、実際に、同月28日に実行された立川事件で本件プログラムが初めて使用されたことという客観的証拠から認められる事実経過を踏まえれば、202号室が賃借された平成24年9月30日や、同室が使用されるようになった同年10月は、正に本件プログラムの実用化並びに立川時限装置の開発及び製造が行われていた重要な時期であったことが認められ、202号室賃借以前から本件プ25ログラムの開発が始められていたからといって、202号室使用開始後、同室にお- 20 -いて、本件プログラムの実用化を進め、完成させ、本件各時限装置の開発及び製造を行っていたとの認定を妨げる事情とはならないと主張する。確かに、202号室使用開始後、同室において、本件プログラムの実用化が進められ、本件各時限装置の開発及び製造を行い、立川事件の直前に完成し、立川事件においてそれらが使用された可能性があると認められる。しかし、本件プログラムの開発並びに本件各時5限装置の開発及び製造という過程において、枢要部であるプログラムの開発はほぼ完了していたといえる上、前述したとおり、平成24年6月30日と立川事件の9日前である平成25年11月19日の間には、プログラムを開発し実用化を試みるなら不可欠の、プログラミング言語から機械語変換を示すファイル等が存在しないことからすると、202号室賃借前の平成24年6月30日には本件プログラムは10既に開発され、機械語に変換してICに書き込み電子基板に搭載する実験が完了していた可能性があ ファイル等が存在しないことからすると、202号室賃借前の平成24年6月30日には本件プログラムは10既に開発され、機械語に変換してICに書き込み電子基板に搭載する実験が完了していた可能性があるといえる。検察官の主張は採用できない。 さらに、検察官は、ウに関し、①F協会は、重要拠点である202号室への人の出入りを極度に制限し、保秘を徹底していたと認められ、また、F協会内部で非合法活動の中心となってこれを担う非公然活動部隊である革命軍は、平成12年か15ら平成27年の16年間に、概ね1年に1件のペースで15件の金属製砲弾発射事件を起こすにとどまっている上、平成28年2月以降は1件も金属製砲弾発射事件を起こせていないことなどから、革命軍の構成員はごく少数の精鋭部隊と考えられるため、同室における活動の中心となるべき時限装置製造等の担当者が警察に検挙されたり、死亡したりするなどの特段の事情がない限り、新たな犯行メンバーに交20代させ、引継ぎを行わせたとは考え難く、そうしたことがあったことをうかがわせる具体的証拠もない、②時限装置製造等の新たな担当者にデータを引き継ぐため、コピーするのであれば、平成26年11月19日から平成27年2月28日までの間、約3か月のブランクが生じることは考え難い、③ハードディスクⒶに保存されていた本件プログラム関係のデータや電子基板関係のデータ等は、座間事件から約2510か月経った平成28年2月23日の捜索に至るまで、これらのデータを閲覧し- 21 -た形跡は残っていなかった、④新たな犯行メンバーへの引継ぎ用というのであれば、本件プログラムの開発段階で作成されたテスト用プログラムのデータは不要のはずである、⑤仮に本件プログラムの開発段階の情報も引き継ぐ必要があったというのであれば、プログラム骨子メ 用というのであれば、本件プログラムの開発段階で作成されたテスト用プログラムのデータは不要のはずである、⑤仮に本件プログラムの開発段階の情報も引き継ぐ必要があったというのであれば、プログラム骨子メモ、テストプログラム印字紙、立川配線図が保管されていた本件黄色ファイル帳やタイマー部分メモ、川口配線図といった重要証拠も引5き継ぐはずであり、それらを引き継ぐのであれば、それらも整然と保管するなどしていた様子がうかがえるはずであるのに、警察の捜索時、タイマー部分メモは、西側ベッド下に保管されていたファイル帳内に、川口配線図は、裸の状態で中身が分からない向きで折りたたまれ、西側ベッド西側の木製棚の上にそれぞれ保管され、本件黄色ファイル帳は、スチールラック②3段目の水色衣装ケース内に保管されて10いたのであり、引継ぎのために保管していた様子はうかがえない、⑥以上を併せ考えると、ハードディスクⒶに保存されていたデータについては、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行っていた者が、川口事件後、それまでに作成・使用・保存していたデータのうち、本件プログラムの開発過程や電子基板の製造過程を整理するため、本件プログラムに関連するデータをコピーした上、15それらを改めて閲覧することなく、それまで本件プログラムを開発するなどしてきた知識・経験に基づき、平成27年4月11日、座間事件に向けて、作動猶予時間を15秒に短縮したプログラムを作成し、ICに書き込んだことによるものと考えるのが自然かつ合理的である、と主張する。しかし、検察官の主張のうち、革命軍が、平成12年から平成27年の16年間に、概ね1年に1件のペースで15件の20金属製砲弾発射事件を起こすにとどまっている上、平成28年2月以降は1件も金属製砲弾発射事件を起こしてい ち、革命軍が、平成12年から平成27年の16年間に、概ね1年に1件のペースで15件の20金属製砲弾発射事件を起こすにとどまっている上、平成28年2月以降は1件も金属製砲弾発射事件を起こしていないということは証拠上認められ、また、捜査機関において、長年の捜査の積み重ねの結果得られた情報はあると認められるが、それでもなお捜査機関が把握しているF協会組織内の情報は限定されており、革命軍の構成員がごく少数の精鋭部隊と考えられるとの推認はできず、将来の金属製砲弾発25射事件の計画内容や実施時期によっては、重要データのコピー作成に3か月のブラ- 22 -ンクがあったり、長期間同データを閲覧した形跡がないからといって不自然とはいえず、そのほか検察官が主張する事情は、革命軍内部での活動の引継ぎなどの実態が不明である以上、ハードディスクⒶのデータ等が引継ぎ用である可能性を否定する理由となり得ないというべきである。検察官の主張は採用できない。 ⑸ 以上によれば、202号室は、F協会が組織として金属製砲弾の製造、発射5をする非合法活動の中で、時限装置等を製造する拠点の一つであったとは認められるが、平成24年10月の使用開始当初から両事件当時まで、両事件について、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行う重要拠点であったとまで認定するには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。なお、検察官は、202号室と同時に捜索を行ったF協会の2つのアジトには、金属製砲弾発射による10ゲリラ活動の重要拠点であることを示すような証拠は保管されていなかったことを併せ考慮すれば、202号室が前記の重要拠点であったことは一層明らかであると主張するが、前記の2つのアジトが両事件の頃にどのような状況であったかは不明であり、また、非公然アジトが他にも かったことを併せ考慮すれば、202号室が前記の重要拠点であったことは一層明らかであると主張するが、前記の2つのアジトが両事件の頃にどのような状況であったかは不明であり、また、非公然アジトが他にも存在した可能性もあることなどを考えると、検察官の主張は採用の限りではない。 155 前記③の間接事実について⑴ 検察官は、③の間接事実が認められる論拠として、㋐F協会が敢行した金属製砲弾発射によるゲリラ事件では、立川事件で初めてF協会が独自に開発した本件プログラムを書き込んだICを電子基板に組み込んで制御した新型の時限装置が使用されていたこと、㋑平成24年6月30日の時点で、作動猶予時間のみが異なる20テスト用プログラムを作成していたが、プログラムを完成させるには、それまでに作成したプログラムの問題点を見つけ、目的にかなう動作が実現できるプログラムとなるよう検討して修正を行う必要があり、そのために、テスト用プログラムをICに書き込み、そのICを用いた回路図、配線図を作成して、これに沿ってトランジスタ、コンデンサ、抵抗器等とともに同ICを万能基板にハンダ付けするなどし25て電子基板を作成し、それに電流を流し、電流、電圧の大きさ、作動猶予時間等を- 23 -測定して想定した機能を備えているかを確認し、その後も電波時計等と接続して正しく動作するかなどをテストする必要がある、さらに、それぞれ不都合が見つかった場合には、いったん作成したプログラム、回路図、配線図等を確認して不都合の原因を調べ、修正をしてはテストを繰り返すことが必要となる場合もあるし、それぞれの段階で部品の交換が必要となって、その調達に時間を要する場合も考えられ5る、202号室賃借後の平成24年12月2日の時点でテスト用プログラムを更新したが、平成25年11月19日 るし、それぞれの段階で部品の交換が必要となって、その調達に時間を要する場合も考えられ5る、202号室賃借後の平成24年12月2日の時点でテスト用プログラムを更新したが、平成25年11月19日に至って、本件プログラムを立川時限装置のICに書き込んで、本件プログラムを最終的に完成させたのは、前記のような実験、修正作業が繰り返されたものと考えるとよく整合すると主張し、これらによれば、202号室が賃借され、使用が開始されたのは、本件プログラムの開発から立川事件10に使用された時限装置の開発及び製造に至る重要な時期であった旨主張する。 ⑵ この点、証拠上、前記㋐の事実は認められる。次に、前記㋑については、前記①の間接事実に関する前記4⑶で述べたところと重なるものであるが、補足して述べる。確かに、検察官が主張するような実験、修正作業等が繰り返された可能性はあるものの、そもそも、202号室を賃借した後、検察官が主張するような作業15が実際に行われていたということを裏付ける証拠はない。本件プログラムの動作を確認するには、本件プログラムをプログラミング言語から機械語に変換して、ICに書き込み、そのICを電子基板に搭載して動作テストを行う必要があると考えられるところ、前記のとおり、検察官の主張によっても、まずは、テスト用プログラムをICに書き込むことから一連の作業が始まることになる。ところが、平成2420年6月30日以降平成25年11月19日までの1年4か月余りの間には、プログラムを開発し、実用化を試みるのに不可欠な機械語変換を示すファイル等は一切存在せず、本件プログラムをICに書き込んだ形跡はなく、書込が行われたのは立川事件のわずか9日前である。検察官が主張するような一連の作業が必要であるとしても、この時点から、検察官がいうような、相 切存在せず、本件プログラムをICに書き込んだ形跡はなく、書込が行われたのは立川事件のわずか9日前である。検察官が主張するような一連の作業が必要であるとしても、この時点から、検察官がいうような、相当の時間をかけてそのような一連の25作業を行っていったとは考え難い。そのことからすると、202号室賃借前の平成- 24 -24年6月30日には既に本件プログラムを機械語に変換してICに書き込み、電子基板に搭載する動作テストが終了していた可能性がある。検察官の主張は採用できない。 ⑶ 以上によれば、202号室が外部に対して厳重な警戒態勢を敷いていたという事実を踏まえても、202号室の使用が開始された平成24年10月は、本件プ5ログラムの開発から、本件プログラムを初めて組み込んだ立川事件の時限装置の開発及び製造に至る重要な時期であったと認めるには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。 6 前記⑤の間接事実について⑴ 検察官は、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に結10び付く重要証拠からは、被告人の指紋しか検出されなかった上、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に結び付く重要証拠が保管されていた西側ベッド区域とスチールラック②から検出された指紋の多くは、被告人のものであり、被告人以外の第三者の開発、製造への関与をうかがわせる指紋は202号室で検出されなかったとし、被告人が本件各時限装置の開発等に携わっていたことが強15く推認できると主張する。 ⑵ この点、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に結び付く重要証拠として、スチールラック②については、本件プログラムの開発段階で作成された可能性が高いと認められるプログラム印字紙に被告人の指紋が付着しており、また、警察の捜索時、 の開発及び製造に結び付く重要証拠として、スチールラック②については、本件プログラムの開発段階で作成された可能性が高いと認められるプログラム印字紙に被告人の指紋が付着しており、また、警察の捜索時、同プログラム印字紙は、表面を表にして二つに折り畳20まれた状態で本件黄色ファイル帳のクリアポケットに収納されていて、被告人の指紋が付着していた箇所は同印字紙を広げて触らないと付着しない裏側であり、西側ベッド区域については、ベッド西側の白色ラック上の木製棚の上に保管されていた川口配線図(2枚)に被告人の指紋がそれぞれ1個ずつ付着していたこと、スチールラック②から検出された対照可能な指紋31個のうち24個が被告人の指紋であ25り、その最上段から最下段等にかけてほぼ全域にわたって付着しており、西側ベッ- 25 -ド区域については、同区域から検出された対照可能指紋10個のうち7個が被告人の指紋であったこと、また、西側ベッド区域とスチールラック②から検出された対照可能指紋は約70個あったが、対照不能指紋も約250個あったことなどが認められる(原審甲492等)。 ⑶ 前記⑵によれば、被告人が、立川、川口両事件の前に、202号室において、5本件プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造する過程で前記の各証拠品に触れたという可能性は十分考えられるし、被告人が、両事件の前、202号室において、西側ベッド区域を中心に居住し、本件プログラムや本件各時限装置の開発、製造に関わったと考えることは、本件各時限装置の開発等にとって重要な証拠に被告人の指紋が付着し、同開発に関連が深いと認められる西側ベッド区域とスチール10ラック②から検出された多くの指紋が被告人のものであることを合理的に説明できるといえなくもない。しかし、被告人の指紋が付着した証拠品が 、同開発に関連が深いと認められる西側ベッド区域とスチール10ラック②から検出された多くの指紋が被告人のものであることを合理的に説明できるといえなくもない。しかし、被告人の指紋が付着した証拠品が発見されたのは、立川事件から約2年3か月後、川口事件から約1年4か月後であり、指紋の付着から、その付着時期を推認することはできないから、そもそも、前記の指紋付着状況からは、被告人の指紋が付着した時期について、両事件の前である以外の可能性は15ないということはできないし、本件プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造する過程で前記の証拠品に触れた以外の可能性はないといえるものでもない。 そのことを前提とすると、前記の指紋付着状況からは、被告人が、本件プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造する過程で前記の証拠品に触れたという可能性が認められる一方、被告人が202号室に入居していたと供述し、現に被告人20が202号室に居住するなどしていたと認められる平成27年12月から平成28年2月の捜索時までの間に、必要があって前記の証拠品に触れた可能性も排斥されないといえる。さらに、前記のとおり、結局、平成24年10月の使用開始から両事件当時まで202号室が本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造の重要な拠点とは認められないということを前提とすると、そこに存在した重25要証拠を含む多数の証拠品から被告人の指紋が検出されたとしても、被告人が本件- 26 -プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造する過程で触れたこと以外の理由によるものである可能性が相当程度あるといえる。そして、被告人は、原審公判において、平成27年12月27日に202号室に入居した際に、散らかっていたものを整理して片付け、以後、西側ベッド区域を使用して よるものである可能性が相当程度あるといえる。そして、被告人は、原審公判において、平成27年12月27日に202号室に入居した際に、散らかっていたものを整理して片付け、以後、西側ベッド区域を使用していたので、そうした際に触った可能性がある旨供述している。原判決が説示するとおり、平成28年2月の5捜索時に、両事件に関連するハードディスクや書類といった重要資料が机上や棚、スチールラック②等に点在していた(原審甲477)など、全体として整理が行き届いているとはいえない状況にあり、川口配線図のうち1枚には該当者不明の足紋が付着していた(原審甲492)ことなどに鑑みると、202号室へ入居することになって同室に居住していた被告人が、片付けの際やその後居住し、生活をする中10で前記の証拠品に触ったという被告人の供述を排斥することはできない。また、前記4のとおり、202号室は、両事件の後に予定されていた金属製砲弾発射事件に関係する拠点であった可能性があることに鑑みると、被告人の202号室入居以降に予定されていた金属製砲弾発射計画の遂行に向けてスチールラック②及び西側ベッド区域の重要資料に触れた疑いも残る。スチールラック②や西側ベッド区域から15発見された、重要証拠を含む多数の証拠品に被告人の指紋が付着していたことは、前記のとおり、警察の捜索に近接した時期に被告人が一定期間202号室に居住していたことや、同室入居以降に予定されていた金属製砲弾発射計画に関係していた可能性等に照らせば、説明がつかないものではない。 ⑷ これに対し、検察官は、プログラム印字紙は、未完成のプログラムを印刷し20たものであるからプログラムが完成すれば不要となるものであるし、川口配線図についても、固有性の高い金属製砲弾発射時限装置を制御するための電子基板の配線図で 字紙は、未完成のプログラムを印刷し20たものであるからプログラムが完成すれば不要となるものであるし、川口配線図についても、固有性の高い金属製砲弾発射時限装置を制御するための電子基板の配線図であり、いったん一つの事件を実行すればその後に同じ基板を使用するとは考え難いものであること、金属製砲弾の発射は、F協会という組織においてその主義主張の実現に向けた極めて重要な行動であり、その実現に不可欠な発射時限装置制御25のためのプログラム、電子基板の開発・製造は最大限の慎重さをもって極秘裏に行- 27 -われるものであることを考えれば、川口配線図等は、開発者以外の者が不用意に手に取ることによる汚損、毀損、紛失、流出等の危険を避けるために、本件各時限装置の開発中から完成を経てそれらを用いた金属製砲弾発射が実行された後を通じて、開発者以外の者が触れることが極力避けられるように慎重な配慮がされていたはずである、したがって、特段の事情がない限り、川口配線図等に付着した指紋は、そ5の開発の過程で、開発に携わっていた者のものであると考えるのが相当であると主張する。しかし、検察官の主張を裏付ける証拠はなく、捜査機関が把握しているF協会の組織内の情報は限定的であり、本件プログラムの開発等を行っていた状況の詳細は明らかではないし、プログラム印字紙及び川口配線図(2枚)にそれぞれ一つずつ被告人の指紋が付着していたことは、そのプログラムや配線等の開発段階で10プログラム印字紙や川口配線図に触れていたというよりも、被告人の供述するとおり、片付けや整理のために、各用紙に触れたとみる方が自然であるともいえる。さらに、検察官の前記主張は、前記のとおり、川口配線図のうち1枚には該当者不明の足紋が付着していたこと、重要資料が保管されていた西側ベッド区域からは、西 各用紙に触れたとみる方が自然であるともいえる。さらに、検察官の前記主張は、前記のとおり、川口配線図のうち1枚には該当者不明の足紋が付着していたこと、重要資料が保管されていた西側ベッド区域からは、西側ベッドと西側壁面の間にあった紙片から、一つではあるが、検察官が本件プログ15ラムの開発等に携わっていたと主張していないBの指紋が検出されたこと、同区域や同じく重要資料が保管されていたスチールラック②からは、捜査機関が把握していない人物の指紋が検出され、その中には重要証拠であるハードディスクⒶが入っていたプラスチックケースの在中品(説明書)に付着したものもあること等と整合しない。 20この点、検察官は、川口配線図の足紋について、同配線図の印刷前に、誰かがその紙を踏むなどして足紋が付着し、その後、その紙に配線図がプリンターで印刷された可能性もある上、仮に印刷後に足紋が付着したものだとしても、川口配線図は、少なくとも平成26年10月に発生した川口事件以前に作成されていたと認められるのであって、それから平成28年2月に警察の捜索が行われるまでの1年4か月25以上の間には、202号室の居住者等の誰かが何らかの拍子に床に落ちてしまった- 28 -川口配線図を足で踏んでしまう可能性も十分考えられると主張する。しかし、検察官の主張を裏付ける証拠はなく、検察官の主張するように、開発者以外の者が触れないように極力配慮されていたとは必ずしもいえず、かえって開発者以外の者でも川口配線図等に触れることができる状況にあった可能性が排斥されるものではない。 また、検察官は、Bの指紋について、西側ベッド区域の西側壁面との間にあったビ5ニール袋内の紙片に付着していたものであるところ、この紙片は、その内容からすると、何らかのソフトウェアの説明書、契約書のよう 検察官は、Bの指紋について、西側ベッド区域の西側壁面との間にあったビ5ニール袋内の紙片に付着していたものであるところ、この紙片は、その内容からすると、何らかのソフトウェアの説明書、契約書のような書類の一部を裁断して成形したものであると認められ、Bが何らかのソフトウェアを購入してきたり、同書類を裁断し成形するなどした際に指紋が付着したことが十分考えられると主張する。 しかし、検察官の主張を裏付ける証拠はなく、開発者以外の者でも重要証拠が保管10されている西側ベッド区域等に触れることができる状況にあった可能性が排斥されるものではない。さらに、検察官は、重要証拠であるハードディスクⒶが入っていたプラスチックケースに在中していた説明書について、ハードディスクをパソコンに接続する際に使用したアダプタの説明書と推認され、説明書の作成段階、機器とともに梱包する段階等で、それらに関わっていた者の指紋が付着した可能性のほか、15アダプタを中古品販売店で購入したのであれば、その前使用者が使用した際や、同人からこれを購入して被告人に販売した中古品販売業者が買取りに当たって機器の状態の確認等をした際に、そのアダプタの説明書に、前使用者や中古品販売店従業員等の指紋が付着したことも十分に考えられると主張する。しかし、この検察官の主張を裏付ける証拠もなく、検察官が主張するような、商品の製造、梱包、流通、20販売の各過程や前使用者以外の、捜査機関が把握していないF協会の構成員が前記説明書に触れた可能性が排斥されるものではない。 ⑸ さらに、検察官は、F協会においては、それぞれの活動の範囲内で行動し、その活動に必要な情報だけを保有することが行動規範とされていたと認められるところ、AやBの指紋が本件プログラムの開発等に結び付く重要証拠からは一切検出25 いては、それぞれの活動の範囲内で行動し、その活動に必要な情報だけを保有することが行動規範とされていたと認められるところ、AやBの指紋が本件プログラムの開発等に結び付く重要証拠からは一切検出25されず、西側ベッド区域やスチールラック②からほとんど検出されなかったことな- 29 -どからすると、たとえ202号室への入室が許された者であっても、与えられた役割とは関係がない物には触れることはなかったなどの厳重な警戒態勢が敷かれ、F協会内の前記行動規範が守られていた状況下で、被告人が、両事件発生以前には本件プログラムの開発等に関わっていなかったとすれば、同事件発生後に、川口配線図等に触れたことにより指紋が付着したという可能性はおよそ現実的なものとはい5えないと主張する。しかし、202号室に入室を許された者の間でどのような行動規範が定立されていたかなどの内部事情の詳細は明らかではなく、前記のとおり、平成28年2月の捜索時に、両事件に関連するハードディスクや書類といった重要資料が机上や棚、スチールラック②等に点在していたこと、川口配線図のうち1枚には該当者不明の足紋が付着していたこと、重要資料が保管されていた西側ベッド10区域やスチールラック②からは、Bや捜査機関が把握していない人物の指紋が検出されていることなども考慮すると、202号室への入室が許された者であっても与えられた役割とは関係がない物には触れることはなかったなどとはいえない。検察官の主張は採用できない。 ⑹ 以上によれば、川口配線図等の重要証拠に被告人の指紋が付着するなどし、15本件プログラム等に関連する西側ベッド区域やスチールラック②から検出された指紋のかなりの割合が被告人のものであったとしても、その推認力は限定的であり、被告人が、平成27年12月以降、202号室へ 本件プログラム等に関連する西側ベッド区域やスチールラック②から検出された指紋のかなりの割合が被告人のものであったとしても、その推認力は限定的であり、被告人が、平成27年12月以降、202号室へ入居することになって同室に居住し、片付けの際や生活をする中で前記の証拠品に触ったという被告人の供述を排斥することはできないこと等から、被告人の指紋等に関する前記事実をもって、被告20人が、本件プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造したとは認められない。 7 その他の間接事実について⑴ 前記④の間接事実について検察官は、202号室にあった監視ノート(平成24年12月11日・12日分)25における被告人の指紋の付着という事実から、被告人がその頃から202号室に出- 30 -入りしていたと認められ、被告人の偽名の履歴書3通(1通目は平成25年4月28日付けのもの、2通目は日付は空白であるが、1通目と同じ内容で、同じ時期に作成されたと認められるもの、3通目は、平成26年とだけ記載があり、その頃作成されたと認められるもの)、診察券(平成26年4月7日発行のもの)、給料明細書(平成26年7月勤務分のもの)、診療費明細書等(平成27年10月28日5発行のもの)の各保管等という事実から、被告人は、これらの日付け等の頃に、202号室の居住者であったことが推認されると主張する。 しかし、原判決が説示するとおり、そもそも、平成24年10月の202号室の賃借開始後から両事件当時を含む約3年3か月の間におけるF協会による同室の利用状況は何ら分かっておらず、前記のとおり、前記の証拠品が発見されたのは、立10川事件から約2年3か月後、川口事件から約1年4か月後である。そのことを前提に考えると、監視ノートの指紋については、原判決が説示す かっておらず、前記のとおり、前記の証拠品が発見されたのは、立10川事件から約2年3か月後、川口事件から約1年4か月後である。そのことを前提に考えると、監視ノートの指紋については、原判決が説示するとおり、被告人が、その日付け(平成24年12月11日、12日)当時、このノート紙片に触ったと考えるのが自然ではあるが、そうだとしても、その後の滞在時期や回数、滞在期間等を示す証拠はなく、そこから、平成24年12月当時以降、本件営業所の寮で生15活した期間を除いて、被告人が202号室に出入りし、同室で生活するなどし、本件各時限装置等の開発や製造等の作業をしていたとするには飛躍がある。また、履歴書が複数あったことについて、偽名で働く被告人にとって虚偽の履歴を間違えないため必要であり、次の履歴書を書くときに控えがあると便利であるという被告人の供述は不自然ではなく、履歴書や診察券等については、そもそも、持ち運びが自20由で、容易なものであり、それが202号室で見つかったからといって、作成日付け等の頃に被告人が同室にいたことを示すものではない。原判決が説示するとおり、履歴書、診察券、診療費明細書等を持ち歩いていて、平成27年12月の202号室入居の際に持ち込んだという被告人の供述を排斥できず、給料明細書についても、連絡員に対し、給料から生活費を差し引いた分を現金とともに渡したものであると25いう被告人の供述を排斥できず、連絡員に渡したものが202号室に持ち込まれた- 31 -可能性を否定できない。なお、検察官は、履歴書、診察券、給料明細書、診療費明細書等について、それまで一緒に持ち歩いていたのであれば、202号室に入居するに当たって室内の保管場所に移すとしても、そのまままとめてケースに入れるなどして1か所に保管することに何ら支障も認めら 明細書等について、それまで一緒に持ち歩いていたのであれば、202号室に入居するに当たって室内の保管場所に移すとしても、そのまままとめてケースに入れるなどして1か所に保管することに何ら支障も認められず、簡便であるにもかかわらず、それぞれ保管していた部屋や場所が異なっており、一緒に持ち歩いていて202号5室に入居するに当たって持ち込んだという被告人の供述は、不自然、不合理であると主張する。しかし、一般的に、検察官がいうように、持ち込んだものを1か所に保管しなければ不自然であるなどとはいえないし、被告人は、202号室に入居後、部屋の片付けをし、その過程で、持ち込んだ物がそれぞれ別の場所に保管されるようになったとしても不自然ではない。検察官の主張は採用できない。 10以上によれば、監視ノートにあった被告人の指紋の付着、そして、被告人の偽名の履歴書3通、診察券、給料明細書、診療費明細書等の保管等という事実から、被告人が202号室の使用が開始された頃から両事件の頃まで間、同室に出入りし、主に居住していたとは認められない。 ⑵ 前記⑥の間接事実について15検察官は、202号室における本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に直接結び付く重要なデータは、いずれも被告人が本件営業所に勤務していない期間に作成、更新されていた上、それらが保存されていたハードディスクⒶや西側ベッド区域南側のパソコンに接続されていたハードディスクⒷの重要なデータの作成、更新も、専ら被告人が本件営業所に勤務していない日に行われていた20と主張する。 しかし、この点を裏付ける証拠は不十分である上、被告人が本件営業所に勤務していない時期に、被告人が202号室に滞在していたという証拠があるわけではなく、まして、被告人が本件プログラムの開発並びに しかし、この点を裏付ける証拠は不十分である上、被告人が本件営業所に勤務していない時期に、被告人が202号室に滞在していたという証拠があるわけではなく、まして、被告人が本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に直接結び付く重要なデータの作成、更新をしていたという証拠があるわけではな25い。また、本件では、F協会のメンバーが両事件に関わったことに争いはなく、争- 32 -点は、それが被告人か、他のメンバーかという点にあるから、他のF協会のメンバーの稼働状況との比較をしなければ、前記の重要なデータの作成、更新時期と稼働時期が重ならないのが被告人のみか否かが分からないといえる。さらに、検察官の主張によっても、データの中には、その更新時期が、被告人が本件営業所に勤務していた時期と重なっているものがあるというのである。以上によれば、検察官が主5張する間接事実⑥の推認力は低く、せいぜい被告人が本件プログラムの開発等を行ったとして概ね矛盾はないという程度の推認力を有するに止まる。 ⑶ 検察官は、ほかに、平成28年2月に202号室の捜索及び被告人の検挙が行われて以降、F協会によるものと見られる金属製砲弾発射事件は発生していないことも主張している。しかし、平成28年2月以降、F協会によると見られる事件10が発生していない理由は一切明らかではないのであるから、被告人の犯人性との関係でその推認力は乏しいといわざるを得ない。 8 各間接事実の総合評価について以上のとおり、202号室が、平成24年10月の使用開始当初から、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行う重要拠点であり、20215号室の使用が開始された平成24年10月以降両事件までの間は、本件プログラムの開発から、本件プログラムを初めて組み込んだ ムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行う重要拠点であり、20215号室の使用が開始された平成24年10月以降両事件までの間は、本件プログラムの開発から、本件プログラムを初めて組み込んだ立川事件の時限装置の開発及び製造に至る重要な時期であったと認定するには合理的な疑いが残り、202号室における被告人の指紋付着状況についての推認力は限定的で、被告人の指紋等に関する事実をもって、被告人が本件各時限装置の開発等に関わっていたとは認められない20のであり、その他の間接事実を考慮しても、被告人が、平成24年10月頃から両事件までの間、202号室において、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行ったとはいえない。 これに対し、検察官は、原判決は、検察官が主張する各間接事実を総合評価したというが、具体的にどのような総合評価を行ったのか全く述べておらず、実質的に25はこれを行っていないと主張する。しかし、原判決は、検察官が主張する各間接事- 33 -実は、その存在自体立証されていない、あるいは、その推認力が低いことから、それらを総合評価しても、被告人が犯人でないとするならば合理的に説明ができない、あるいは説明が極めて困難であるものが含まれているとはいえず、被告人が両事件の犯人であることに合理的な疑いが残る旨の判断をしていることは、その説示から明らかであり、不合理な点はない。 59 検察官の原判決に対する反論について⑴ 原判決が、平成24年10月の使用開始後から両事件当時を含む約3年3か月の間におけるF協会による202号室の利用状況が分からないとした点について検察官は、202号室使用開始後、同室の捜索に至るまでの間の同室の利用状況については、直接証拠こそないものの、重要証拠等における被告人の指紋の付着状 02号室の利用状況が分からないとした点について検察官は、202号室使用開始後、同室の捜索に至るまでの間の同室の利用状況については、直接証拠こそないものの、重要証拠等における被告人の指紋の付着状10況も含め、種々の証拠を関連付けて的確に評価すれば、被告人の居住状況が詳細に分からないにしても、被告人こそが、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に直接関わっていたことが、合理的かつ容易に推認できるのに、原判決は、そうした検討をすることなく、安易に、その利用状況は不明であるとしていると主張する。 15しかし、正に検察官がいうように、202号室利用開始後、同室の捜索に至るまでの利用状況について、これを直接裏付ける証拠はなく、重要証拠等における被告人の指紋の付着状況等の推認力も限定的なのを始め、検察官が主張する複数の間接事実についても、約3年3か月の間におけるF協会による202号室の利用状況が分からないことから推認力が限定されるものであって、同室の利用状況が分からな20いことを踏まえて間接事実の推認力を評価した原判決の判断に誤りはない。 ⑵ 原判決が、202号室に被告人ら3名以外の人物が出入りし、両事件に関与した可能性を否定できないとした点について検察官は、原判決が、西側ベッド区域やスチールラック②にあった複数の物品から、捜査機関が把握していない人物の指紋が検出されているため、利用状況不明の25期間に、被告人ら3名以外の人物が202号室に滞在するなどして両事件に関与を- 34 -していた可能性が否定できず、同室からは、F協会の活動家であると判明している人物を含む複数名の住民票、印鑑登録証明書、診察券、キャッシュカード等も発見されているため、同室にF協会複数名の出入りがあった可能性も否定されないとした点につ は、F協会の活動家であると判明している人物を含む複数名の住民票、印鑑登録証明書、診察券、キャッシュカード等も発見されているため、同室にF協会複数名の出入りがあった可能性も否定されないとした点について、次のとおり主張する。すなわち、ア 202号室は、F協会の金属製砲弾発射によるゲリラ活動の重要な拠点であり、同室では極めて厳重な警戒態勢5が敷かれ、被告人を含む居住者等の限られた者の出入りしか許されず、さらに、同室が賃借され、使用されていたのは、本件プログラムの実用化並びに立川時限装置の開発及び製造が行われていた重要な時期であること、イ 202号室の特殊性を前提とし、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に結び付く重要証拠からは被告人の指紋しか検出されなかったこと、ウ 前記の住民票、印鑑10登録証明書は、202号室を賃借する際、住民票等を偽造するために収集・保管していたもの、診察券は、被告人らが偽名で病院を受診するためのもの、キャッシュカードは被告人らが何らかの事情で銀行口座が必要になった場合に備えて、他の活動家や協力者から提供を受けていたものと考えられること、エ 以上からすれば、前記の物品が202号室に存在していたことは、被告人ら3名がそれらの物を外部15で入手して同室に持ち込んだ可能性を示すものではあっても、それらの名義人が同室に出入りしていた具体的可能性を示すものとはいえないと主張する。 しかし、アについては、これらが認められないこと、202号室の警戒態勢についても、外部に対しては厳重であっても、F協会内部との関係では必ずしも厳重とはいえないことは既に述べたとおりである。そして、202号室利用開始後、同室20の捜索に至るまでの利用状況が不明であり、イの推認力が限定的であることも既に述べたとおりであり、 では必ずしも厳重とはいえないことは既に述べたとおりである。そして、202号室利用開始後、同室20の捜索に至るまでの利用状況が不明であり、イの推認力が限定的であることも既に述べたとおりであり、西側ベッド区域やスチールラック②にあった複数の物品から、捜査機関が把握していない人物の指紋が検出されていることも考慮すると、被告人以外の者が両事件に関与した可能性が排斥されるものではない。そうすると、ウについて、これを直接裏付ける証拠はないが、仮に検察官の主張のとおりであったと25しても、そのことは被告人以外の者が両事件に関与した可能性が排斥されるもので- 35 -はないという判断を左右するものではない。原判決の説示に特段誤りはない。 ⑶ 原判決が、本件プログラムの開発が202号室の賃借以前から別のアジトで行われていた可能性があるとした点について検察官は、202号室が賃借された平成24年9月30日や、同室が使用されるようになった同年10月は、正に本件プログラムの実用化並びに立川時限装置の開5発及び製造が行われていた重要な時期であったことが認められ、同室賃借以前から本件プログラムの開発が始められたからといって、同室使用開始後、被告人が、同室において、本件プログラムの実用化を進め、完成させ、本件各時限装置の開発及び製造を行っていたとの認定を妨げる事情とはならないと主張する。しかし、この点については、前記4⑷及び5で述べたとおりであり、202号室賃借前の平成2104年6月30日には既に本件プログラムを機械語に変換してICに書き込み、電子基板に搭載する動作テストが終了していた可能性がある。検察官の主張は採用できない。 ⑷ 原判決が、配線図や一定の知識があれば、本件プログラムの開発者ではなくても、本件各電子基板を製造することができる可 に搭載する動作テストが終了していた可能性がある。検察官の主張は採用できない。 ⑷ 原判決が、配線図や一定の知識があれば、本件プログラムの開発者ではなくても、本件各電子基板を製造することができる可能性があるとした点について15検察官は、本件各電子基板の製造に当たっては、本件プログラムの理解が重要であること、202号室において、本件プログラムの開発に関連するメモ、資料及びデータと本件各電子基板の製造に関連する配線図及びデータが共に保管・保存されていたこと等に照らせば、本件各電子基板の製造は、本件プログラムの開発者によって行われたと認められると主張する。この点、確かに、検察官が主張する可能性20は十分考えられるが、他方、原判決が説示するように、F協会グループの規模やグループ内のメンバーの入れ替わりの有無、役割分担も分からない中で、配線図や一定の知識があれば、本件プログラムの開発者でなくても、本件電子基板を製造することができる可能性を明確に否定する事情も認められないことに鑑みると、原判決の説示に特に誤りがあるとはいえない。 25⑸ 原判決が、ハードディスクⒶについて、両事件後に予定された金属製砲弾発- 36 -射事件に関与することになった新たな犯行メンバーへの引継ぎ用として202号室に残された可能性があるとした点について検察官は、ハードディスクⒶに保存された各種のデータの内容等や、新たな犯行メンバーへの引継ぎ用であることを推認させる合理的な事情がないことなどから、ハードディスクⒶは新たな犯行メンバーへの引継ぎ用として残されたのではなく、5本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行った被告人が、今後も使用するために、ハードディスクⒶのデータを保存・整理したことが合理的に推認されると主張する。しかし、ハー なく、5本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造を行った被告人が、今後も使用するために、ハードディスクⒶのデータを保存・整理したことが合理的に推認されると主張する。しかし、ハードディスクⒶのデータ等が新たな犯行メンバー等への引継ぎ用である可能性が否定できないことは、前記4⑷で述べたとおりであり、検察官の主張は採用できない。 10⑹ 原判決が、スチールラック②や西側ベッド区域における指紋の付着状況から、被告人が、両事件当時、202号室に滞在し、本件プログラムの開発や本件各時限装置の製造等に関与していたとはいえないとした点について検察官は、原判決が、指紋の検出状況をもっていえるのは、被告人がそれらの箇所に触ったということであって、別の人物も触っていた可能性は排斥されないし、15実際にも、1個ではあるが西側ベッド区域からはBの指紋が検出され、同区域及びスチールラック②からは、被告人ら3名以外の、捜査機関が把握していない人物の指紋が複数検出されており、その中にはハードディスクⒶが入っていたプラスチックケースの在中品(説明書)に付着したものもあるとした点について、次のとおり主張する。すなわち、Bの指紋が付着していた紙片については、Bが何らかのソフ20トウェアを購入したり同書類を裁断し成形するなどした際に指紋が付着したことが十分考えられる上、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に直接結び付く重要証拠とはいえないし、西側ベッド区域及びスチールラック②と併せて、被告人の指紋が合計31個検出されたのに対し、Bの指紋は1個しか検出されなかった、捜査機関が把握していない人物の指紋については、指紋が付着してい25た商品の製造・梱包、流通、販売の各過程でそれらに関わっている者の指紋が付着- 37 -し の指紋は1個しか検出されなかった、捜査機関が把握していない人物の指紋については、指紋が付着してい25た商品の製造・梱包、流通、販売の各過程でそれらに関わっている者の指紋が付着- 37 -したことが考えられ、しかも、本件プログラムの開発並びに本件各時限装置の開発及び製造に直接結び付く物品から検出されたものではないと主張する。しかし、Bの指紋が西側ベッド区域に付着していた理由について、検察官が主張するところは証拠による裏付けがあるものではなく、別の可能性も十分あるといえる。また、捜査機関が把握していない人物の指紋については、その中には、指紋が付着していた5商品の製造・梱包、流通、販売の各過程でそれらに関わっている者の指紋が付着した可能性もあるが、この点も証拠による裏付けはなく、捜査機関が把握していないF協会のメンバー等の指紋である可能性も十分認められる。前記説明書については、重要証拠であるハードディスクⒶと同じプラスチックケース内に入っていたものであるが、製造、流通、販売過程の従事者がわざわざ説明書に触れて指紋を残す可能10性は低く、ハードディスクⒶを使用するなどした者が収納ケースを開けて前記説明書に触れて指紋が付着したと考える方が自然ともいえる。よって、捜査機関が把握していない被告人ら3人以外のF協会のメンバー等の第三者がスチールラック②や西側ベッド区域における物品に触れた可能性があるから、スチールラック②や西側ベッド区域における指紋の付着状況により、被告人が、両事件当時、202号室に15滞在し、本件プログラムの開発や本件各時限装置の製造等に関与していたとはいえないとした原判決の説示が誤りとはいえない。 ⑺ 原判決が、平成27年12月27日に202号室に入居したとき、室内が散らかっていたので片付けをした際に被告人の指 限装置の製造等に関与していたとはいえないとした原判決の説示が誤りとはいえない。 ⑺ 原判決が、平成27年12月27日に202号室に入居したとき、室内が散らかっていたので片付けをした際に被告人の指紋が付着したとの被告人の原審公判供述の信用性を否定しなかった点について20検察官は、ア 202号室が使用開始当初から平成28年2月23日の警察の捜索に至るまで、F協会の金属製砲弾発射によるゲリラ活動の重要な拠点であり、極めて厳重な警戒態勢が敷かれていたことは明らかであり、最高機密に属する書類がずさんに管理されていたという状況はおよそ考えられない、イ 平成28年2月23日の捜索時の202号室の状況を見ると、物が多く、雑然としてはいるものの、25全体的に整理は行き届いている、ウ 川口配線図に誰のものか分からない足紋が付- 38 -着していたことは平成27年12月27日の時点で202号室が散乱していた具体的可能性を示すものとはいえない、エ 一度片付けただけで、西側ベッド区域やスチールラック②に被告人の多数の指紋が付着するのは不自然、不合理であるなどと主張する。しかし、ア及びイについては、現に、平成28年2月の捜索時に、両事件に関連するハードディスクや書類といった重要資料が机上や棚、スチールラック5②等に点在していたことなどに鑑みると、全体として整理が行き届いていないとした原判決の説示に誤りはない。ウについては、前記6⑷で述べたとおり、検察官の主張するように、開発者以外の者が触れないように極力配慮されていたとは必ずしもいえず、かえって開発者以外の者でも川口配線図等に触れることができる状況にあった可能性が何ら排斥されるものではないし、西側ベッド区域においても、整理10が行き届いていなかった可能性を否定できない。エについては、前記6⑶ 外の者でも川口配線図等に触れることができる状況にあった可能性が何ら排斥されるものではないし、西側ベッド区域においても、整理10が行き届いていなかった可能性を否定できない。エについては、前記6⑶で述べたとおり、被告人が202号室入居時に西側ベッド区域やスチールラック②付近に散らかっていた紙類、ファイル等を整理、片付けをしたときに指紋が付着した可能性があるほか、被告人が平成27年12月27日に入居して以降202号室において生活する中で、必要があって西側ベッド区域やスチールラック②の物品に触れて指15紋が付着する可能性もあり、さらに、現に警察の捜索に近接した時期に一定期間202号室に居住していたことや、同室入居以降に予定されていた金属製砲弾発射計画に関係していた可能性があることにより、指紋が付着した可能性があることなどにも鑑みると、西側ベッド区域やスチールラック②に多数の指紋が付着することが不自然、不合理とはいえない。検察官の主張は採用できない。 20⑻ 原判決が、202号室の内部のセキュリティが厳重ではないとし、これを被告人の原審公判供述の信用性を肯定すべき事情とした点について検察官は、F協会では、202号室への入室を許された者であっても、与えられた役割とは関係がない物には触れることはなかったと認められ、原判決が指摘するセキュリティの意味が、アクセスが一定の人物に制限される資料や情報に、それ以25外の人物がアクセスできないようにするということであるとすれば、202号室内- 39 -におけるセキュリティは守られていたというべきであると主張する。しかし、この点については、前記6⑷及びのとおりであり、検察官のいうように、F協会のメンバーで202号室への入室が許された者であっても、与えられた役割とは関係がない物には触れるこ あると主張する。しかし、この点については、前記6⑷及びのとおりであり、検察官のいうように、F協会のメンバーで202号室への入室が許された者であっても、与えられた役割とは関係がない物には触れることはなかったなどとはいえない。検察官の主張は採用できない。 ⑼ 原判決が、被告人が平成27年12月27日以降に予定された金属製砲弾発5射計画を遂行する要員の一人として202号室に送り込まれた可能性や、同計画遂行のために滞在していた可能性があるとした点について検察官は、ア 本件プログラムの実用化並びに立川時限装置の開発及び製造が行われていた重要な時期から被告人が202号室に出入りしていたこと、イ 同室がF協会の金属製砲弾発射によるゲリラ活動の重要な拠点であり、同室では極めて厳10重な警戒態勢が敷かれ、居住者等の限られた者の出入りしか許されず、さらに、同室が賃借され、使用が開始されたのは、本件プログラムの実用化から立川時限装置の開発及び製造に至る重要な時期であったこと等を考慮すると、被告人が、平成27年12月以降に予定されていた金属製砲弾発射計画のために202号室に滞在していたなどとはいえないと主張する。しかし、ア及びイに関しては、F協会が20152号室に入居してから両事件が発生するまでの間に、202号室が本件プログラム・本件時限装置の開発を行う重要拠点であったと認定することはできず、この時期が、本件プログラム・本件時限装置の開発製造に至る重要な時期であったとも認められないこと、202号室は、F協会内部の出入りについてはそれほど厳重な警戒がなされていたとはいえないこと、被告人は、平成24年12月頃に202号室へ20出入りしたことが認められるものの、その滞在時期、回数、滞在期間等は明らかになっていないことは、既に述べたとおりである なされていたとはいえないこと、被告人は、平成24年12月頃に202号室へ20出入りしたことが認められるものの、その滞在時期、回数、滞在期間等は明らかになっていないことは、既に述べたとおりである。また、前記4⑶及びのとおり、202号室が両事件の後に予定されていた金属製砲弾発射事件の拠点であった可能性があること等を踏まえると、被告人が平成27年12月27日以降に予定された金属製砲弾発射計画を遂行する要員の一人として202号室に送り込まれた可能性25や、同計画遂行のために滞在していた可能性があるとした原判決の説示に誤りはな- 40 -い。 ⑽ 原判決が、田中誠名義の履歴書、診察券、給料明細書、診療費明細書等について、202号室入居の際に持ち込むなどしたという被告人の供述を不合理とはいえないなどとし、監視ノートの指紋について、被告人が遅くとも平成24年12月11日、12日頃には202号室に出入りし、生活していたとするには飛躍がある5とした点について検察官は、田中誠名義の履歴書、診察券、給料明細書、診療費明細書等が202号室に存在したことは、被告人が各書類の作成日頃に202号室に居住していたことを表しており、また、監視ノートの指紋について、その監視対象日である平成24年12月11日、12日頃から被告人が202号室に出入りし、主に居住してい10たことを示していると主張する。しかし、前記7⑴で述べたとおり、前記の履歴書等の点をもってしても、被告人が202号室に入居したと供述する平成27年12月頃にまとめて同室に持ち込まれた可能性があり、被告人が202号室の使用が開始された頃から同室に出入りし、居住していたとは認められず、監視ノートについては、被告人がその日付当時に202号室に出入りしていたことはいえても、その15後の滞 り、被告人が202号室の使用が開始された頃から同室に出入りし、居住していたとは認められず、監視ノートについては、被告人がその日付当時に202号室に出入りしていたことはいえても、その15後の滞在時期、回数及び滞在期間は明らかではないから、同日以降被告人が202号室に出入りし、居住していたとするには飛躍があるとした原判決の説示に誤りはない。なお、検察官は、202号室のハードディスクⒷ及びⒹに保存されていた本件営業所やその付近の地図データについても詳細に主張しているが、原判決が、本件営業所で働いている際、けがで動けなくなったときに直ぐに連絡員に来てもらう20ために、地図をダウンロードしてUSBメモリに保管し、連絡員に渡したなどという被告人の供述を排斥できず、連絡員に渡した地図データが202号室に持ち込まれた可能性を否定できないと判断した点が、誤りとはいえない。 10 まとめ以上のとおり、検察官が主張し、証拠上認められる間接事実を総合しても、被告25人が、本件プログラムを開発し、本件各時限装置を開発、製造したという事実を認- 41 -定することはできず、また、両事件において、被告人が発射装置を設置したとする証拠はなく、両事件において氏名不詳者らとの共謀をしたことを示す証拠はないとした原判決の判断に誤りはない。 論旨は理由がない。 第5 結論5以上のとおり、本件控訴の趣意は理由がない。 よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 令和4年11月15日東京高等裁判所第2刑事部10 裁判長裁判官 大 善 文 男 裁判官寺澤真由美及び裁判官岡田龍太郎は差支えのため署名押印できない 15 所第2刑事部10 裁判長裁判官 大 善 文 男 裁判官寺澤真由美及び裁判官岡田龍太郎は差支えのため署名押印できない 15裁判長裁判官 大 善 文 男

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