平成16年(ワ)第4974号損害賠償請求事件主文 被告は原告らに対し,それぞれ,2065万9582円及びこれらに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを2分し,うち1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1請求被告は,原告らに対し,それぞれ,4446万6200円及びこれらに対する平成14年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,Aが,被告の開設する医院で上部消化管造影検査を受けた際,胃がんの可能性を指摘されなかったにもかかわらず,その約1年3か月後に胃がんで死亡するに至ったことについて,Aの相続人らが,被告には,上部消化管造影検査の結果を踏まえて,上部消化管内視鏡検査を実施するか,上部消化管内視鏡検査ができる他の医療機関に転院させるべき注意義務を怠った過失があるなどと主張して,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償及びAが死亡した日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,文末掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1)当事者 ア原告B(昭和62年4月16日生まれ)及び原告C(平成4年4月1。 5日生まれ)は,いずれもAの子である(甲C1号証。 )イ被告は,名古屋市a区b町c丁目d番地において,Dクリニックの名称で,内科,循環器科,外科を診療科名とする医院を開設,運営している医師である(甲A1号証。 )ウAは,昭和25年4月9日生まれの男性であり,平成1 a区b町c丁目d番地において,Dクリニックの名称で,内科,循環器科,外科を診療科名とする医院を開設,運営している医師である(甲A1号証。 )ウAは,昭和25年4月9日生まれの男性であり,平成14年4月1日,満51歳で死亡した(甲C1号証。 )(2)診療経過(以下,特に断らない限り,月日は平成13年のものである)。 ア1月6日,Aは,胃部の不快感を主訴として被告の診察を受けた。その際の問診において,Aは,被告に対し,平成12年12月ころから胃部に不快感があり空腹時のような感じであること,胃が重いこと,せきやくしゃみをすると痛みはないが腹がぐるぐるすること,食欲はあり,嘔気はないことなどを述べた。 ,,,,被告はAの胃又は腸に潰瘍炎症又は悪性病変がある可能性を考え上部消化管造影検査(以下単に「造影検査」という)及び便潜血検査を。 ,(,実施することとし消化器症状の薬を処方した甲A2号証1ないし2頁乙A1号証11ないし12頁,被告本人尋問の結果(以下「被告本人」という)2頁。 。 )イ同月13日,被告はAに対し,上部消化管造影検査(以下「本件造影検」。),()査というを実施するとともにタケプロン胃十二指腸潰瘍治療薬等の薬を処方した(甲A2号証2頁,乙A1号証12頁。 )ウ同月15日,被告はAに対し,本件造影検査の画像によれば胃角部の短縮が認められること,胃潰瘍の瘢痕化の疑いがあるが,名古屋市a区医師会の胃がん検診読影会(以下「読影会」という)に画像を持参し,他の。 医師の意見も聞く旨説明し,同様の薬を処方した(甲A2号証2頁,乙A1号証12頁。 ) なお,上記読影会とは,名古屋市医師会が名古屋市から委託を受けて実施する胃がん検診として,ある医師が実施した造影検査の画像を,他の医師が の薬を処方した(甲A2号証2頁,乙A1号証12頁。 ) なお,上記読影会とは,名古屋市医師会が名古屋市から委託を受けて実施する胃がん検診として,ある医師が実施した造影検査の画像を,他の医師がダブルチェックを行う目的で,各区医師会ごとに開催されるものである。a区医師会の読影会には,胃腸科や消化器科を標榜する医師ら12名が参加して行われる。読影会では,上記ダブルチェックの他に,参加医師が上記胃がん検診以外で実施した造影検査の画像の読影や治療方針等について,他の医師の意見を求めることもなされている。この読影会は月1回開催され,胃がん検診の造影画像が供覧された後,それ以外の相談症例の造影画像が供覧され,これらを約1時間で読影しディスカッションも行われる(乙A11号証,被告本人6ないし7,23ないし24頁。 )エ同月24日,Aは被告の診察を受け,空腹感とともに胃が重苦しく,痛くなること,お酒を飲むと治ることなどを訴えた。被告は,タケプロン等の薬を処方した(甲A2号証3頁,乙A1号証13頁。 )オ同月26日,被告は,読影会において,本件造影検査の画像(以下「本件造影画像」という)を参加医師らに提示した(乙A11号証2頁。 。 )カ2月13日,被告はAに対し,読影会においては,潰瘍の可能性大であるが,フォローアップが必要であるとの意見であった旨伝え,タケプロンを処方し,2週間後に再来院するよう伝えた(甲A2号証3頁,乙A1号証13頁,A11号証。 )キ同月26日,Aは被告の診察を受け,だいぶよくなった,夜食後1時間以上経って空腹時にまだ心窩部痛がある旨述べた。被告はAに対し,症状,(,が続けば精査する旨伝えタケプロン等の薬を処方した甲A2号証3頁乙A1号証13頁。 )ク3月14日,Aは被告の診察を受けた際,胃の調子はまず 窩部痛がある旨述べた。被告はAに対し,症状,(,が続けば精査する旨伝えタケプロン等の薬を処方した甲A2号証3頁乙A1号証13頁。 )ク3月14日,Aは被告の診察を受けた際,胃の調子はまずまずである旨述べた(乙A1号証14頁。その後,Aは,同月16日,5月22日,)25日,29日,7月6日及び8月6日に被告の診察を受けたが,カルテ には,胃部に関する記載はない(乙A1号証14,15頁。 )ケ9月3日,Aは,蕁麻疹を主訴とし,Eクリニックにおいて,F医師の診察を受けた(乙A3号証3,15頁。 )同月7日,F医師がAに対し,上部消化管内視鏡検査(以下単に「内視鏡検査」という)を実施したところ,胃の胃角部から胃体部にかけての。 部分に肉眼分類ボールマン3型の胃がんを疑わせる部分が発見された。胃生検においても同部分にがん細胞が認められたため,胃がんと診断された(甲A3号証,乙A3号証3,9,13ないし15頁。 )コ同月17日,F医師の紹介により,Aは,G病院を受診した(甲A3号証,乙A3号証15頁,A5号証4頁。 )G病院において,Aに対し,同月19日に造影検査が,同月21日に内視鏡検査及び胃生検が実施され,肉眼分類ボールマン3型の胃がんと診断された(甲A4号証,乙A5号証4,17頁,A6号証34,36頁。 )10月2日,G病院での主治医であるH医師執刀の下,Aに対する胃全摘術が試みられたが,がんは,胃の小弯側の胃角部から胃体部に及び,腹膜への転移はないものの,上腸間膜動脈,腹腔動脈,大動脈周囲のリンパ節にびまん性に進展し,腹腔動脈周囲のリンパ節はがん浸潤のため腫瘍と一塊になっている様相であったため,H医師は,胃を切除しないこととして,胃空腸吻合術及びブラウン吻合のみを実施し,化学療法を行うこととした(甲A5号証,A6 動脈周囲のリンパ節はがん浸潤のため腫瘍と一塊になっている様相であったため,H医師は,胃を切除しないこととして,胃空腸吻合術及びブラウン吻合のみを実施し,化学療法を行うこととした(甲A5号証,A6号証,A7号証の1,乙A5号証21,41頁,A6号証54,55頁,証人Hの証言1ないし2頁。 )サ平成14年4月1日,Aは,胃がんにより死亡した(乙A10号証10ないし11,54頁。 )(3)医学的知見ア胃壁の構造胃壁は,胃の内部から順に,粘膜層,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層, 漿膜下層,漿膜,と続く6層構造をなしている。 イ胃がんの臨床病期分類胃がんの病期は,腫瘍の深さ・大きさ,リンパ節への転移の有無,他臓器などへの遠隔転移の有無の各因子によって,次のように,0期からⅣ期まで分類される(TNM分類。 )(ア)0期がんの浸潤が粘膜層内にとどまり,所属リンパ節への転移がない。 (イ)ⅠA期がんの浸潤が粘膜筋板又は粘膜下層にとどまり,所属リンパ節への転移がない。 (ウ)ⅠB期がんが固有筋層に浸潤しているが,所属リンパ節への転移がない。 (エ)Ⅱ期(以下の3つの状態のいずれか)がんの浸潤が粘膜筋板又は粘膜下層にとどまるが,7個ないし15個。 ,の所属リンパ節への転移があるがんが固有筋層又は漿膜下層に浸潤し6個以下の所属リンパ節への転移がある。がんが漿膜にまで浸潤しているが,所属リンパ節への転移がない。 (オ)ⅢA期がんが漿膜に浸潤して,6個以下の所属リンパ節への転移がある。 (カ)ⅢB期がんが漿膜に浸潤して,7個ないし15個の所属リンパ節への転移がある。 (キ)Ⅳ期がんが隣接臓器にまで浸潤して,7個ないし15個の所属リンパ節へ。 ,,の転移がある又はがんの浸潤が粘膜筋板又は粘膜下層にとどまるが遠隔転移があ 個の所属リンパ節への転移がある。 (キ)Ⅳ期がんが隣接臓器にまで浸潤して,7個ないし15個の所属リンパ節へ。 ,,の転移がある又はがんの浸潤が粘膜筋板又は粘膜下層にとどまるが遠隔転移がある。 ウ進行胃がんの肉眼的形態による分類(ア)進行胃がんとは,がんの胃壁内浸潤の深さが固有筋層,漿膜下層,漿膜層又は漿膜表面に達したものをいう。 (イ)進行胃がんは,肉眼的形態によって,次のように,ボールマン1型から4型まで分類される(ボールマン分類。 )①1型は,胃壁にこぶのような腫瘍のできた隆起型である。 ,,。 ②2型はくぼんだ腫瘍で境目のはっきり区別できる潰瘍型である③3型は,周堤のやや低い浸潤潰瘍型である。 ④4型は,著明な潰瘍形成や周堤のないびまん浸潤型である。 エスキルス胃がん肉眼的にがんが胃の広い範囲に広がって板状硬を呈し,組織学的にも硬性がん(がんの実質に対し,間質結合織が特に多いがん)であるものをいう。肉眼的にはボールマン4型の形態を示すことが多い。 本件の争点(1)内視鏡検査及び生検の可能な医療機関に転院させるべき注意義務違反の存否(2)因果関係(3)損害 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(内視鏡検査及び生検の可能な医療機関に転院させるべき注意義務違反の存否)について(原告らの主張)ア胃部の不快感を訴える患者(特に胃がんの好発年齢である中高年の患者)を診察する際には,鑑別すべき疾患の一つとして,常に胃がんを念頭に置かなければならない。 鑑別のための検査には,造影検査と内視鏡検査がある。内視鏡検査は, 直接的に胃の状態が確認でき,同時に生検を実施し,胃がんか否かを病理学的に確定診断することが可能であるところ,近年では,内視鏡が広汎に普及し,内視鏡検査が手軽に実施でき 査がある。内視鏡検査は, 直接的に胃の状態が確認でき,同時に生検を実施し,胃がんか否かを病理学的に確定診断することが可能であるところ,近年では,内視鏡が広汎に普及し,内視鏡検査が手軽に実施できるようになったため,内視鏡検査が胃がん鑑別のための検査の主流となっている。一方,造影検査は,読影者の主観に左右されることもあって,その重要性は相対的に低下しており,最初から内視鏡検査を行うことがむしろ多くなっている。 造影検査によって,胃がんの疑いと関連する所見が認められた場合には,悪性を疑わせる程度に関わりなく,内視鏡検査及び生検を行い,悪性か否かの確定的な診断を行う必要がある。内視鏡検査及び生検を行うことによって,ほとんどの場合,胃がんか否かの鑑別診断が可能である。 内視鏡が普及した現在では,内視鏡による生検によって,胃がん診断のための確実な情報を容易に得ることができるため,造影検査で胃がんの疑いと関連する所見(いわば0.001%でも胃がんの可能性が残る所見)が認められたにもかかわらず,内視鏡検査を実施しないまま胃がんの可能性を除外することは許されない。そのため,多くの診療所や病院では,造影検査はスクリーニング検査として位置づけられているのである。 イ(ア)本件造影画像のうち,立位充盈像(乙A2号証の3)では,胃角の開大及び胃壁の伸展不良が確認でき,また,背臥位二重造影像(乙A2号証の5)では,胃角部の輪郭が4ないし5cmにわたり不整となっていることが確認できる。 これらは,胃角部の胃壁の硬化を示す所見であり,同部位に胃がんが存在することが強く疑われる。本件造影画像は,消化器内科の基本的知識を持つ医師が読影すれば,十中八九は胃がんを疑う画像であり,控えめに表現しても,五分五分以上に胃がんの可能性を想定するべき画像である。 (イ) 疑われる。本件造影画像は,消化器内科の基本的知識を持つ医師が読影すれば,十中八九は胃がんを疑う画像であり,控えめに表現しても,五分五分以上に胃がんの可能性を想定するべき画像である。 (イ)被告は,本件造影画像につき,ひだの集中や潰瘍といった所見がないことから,胃潰瘍瘢痕と読影されると主張するが,これらの所見の有無は,潰瘍型早期胃がんを疑う際の判断要素であり,低分化型や未分化型の胃がんについては,このような所見がないことをもって胃がんの可能性を除外できるわけではない。 また,通常の胃潰瘍瘢痕であれば,胃壁の硬化は5mmないし1cm程度であるから,胃角部の胃壁の硬化が4ないし5cmに及んでいる点は,胃潰瘍瘢痕とは判断しにくい要素である。 ウこのように,本件造影画像は胃がんの存在を強く疑わせるものであり,かつ,被告も,悪性病変の可能性を疑っていたのであるから,被告は,Aに対して内視鏡検査及び生検を実施し,胃角部の所見が胃がんによるものか否かにつき直ちに精査を進め,生検によって悪性か否かを確定的に鑑別すべきであった。自ら内視鏡検査を実施しえない場合には,実施しうる医療機関に紹介するか,少なくとも内視鏡検査という選択肢があり得ることを患者に伝え,他の医療機関において内視鏡検査を受けるか否かを選択させるべきであった。 なお,平成13年1月当時,内視鏡検査は一般診療所においても実施可能な検査として既に普及しており,特定の疾患の疑いがない人に対して,検診目的で実施することが許容されるほど安全性も確保された一般的な検査であった。内視鏡検査による精査を行うという選択肢を示すことは容易であったし,内視鏡検査を実施しうる医療機関を紹介するに当たって障害となる事情は存在しない。 エ被告は,Aが,胃部不快感等の具体的症状を訴え,かつ,胃がんの好発年 行うという選択肢を示すことは容易であったし,内視鏡検査を実施しうる医療機関を紹介するに当たって障害となる事情は存在しない。 エ被告は,Aが,胃部不快感等の具体的症状を訴え,かつ,胃がんの好発年齢に該当する年齢であり,本件造影画像上に胃がんを強く疑うべき所見が存在し,また,被告自身も悪性の可能性を否定できないと認識していながら,内視鏡検査及び生検を実施せず,造影検査のみで漫然と胃 潰瘍の可能性が高いと判断し,それ以上に胃がんの鑑別を行わなかった。 したがって,被告には,Aに対し内視鏡検査及び生検を実施せず,又は内視鏡検査及び生検を実施しうる医療機関に紹介しなかった過失がある。 オ被告は,本件造影画像を読影会に持参して意見を聞いたところ,潰瘍瘢痕化の所見であり経過観察をすればよいという意見で一致したのであるから,内視鏡検査及び生検を実施しなくても過失はないと主張する。 しかし,当該読影会は,参加者の詳細が不明であるうえ,当該読影会は各医療機関で行われた胃がん検診の画像の検討が本来の目的であるから,検診以外の症例について,時間的にも,患者の関する情報を参加者間で十分に共有した上で読影や検討を行うことは望むべくもない。また,意見を述べる参加者らは,画像を持ち込んだ者が最終的には責任を持って判断することや,情報や時間の不足からせいぜい参考程度の意見として受け取られることを前提として意見を述べたであろうことは想像に難くない。 したがって,読影会における検討結果は,被告の過失を否定する根拠となり得ない。 カまた被告は,Aに対し「治療診断」の方法による鑑別を予定していた,旨主張する。これは,症状の軽減の有無に着目する考え方であると理解されるが,被告が根拠とする文献(乙B2号証)は,胃潰瘍の治療をしながら頻回の画像検査を行って鑑別診断を進め る鑑別を予定していた,旨主張する。これは,症状の軽減の有無に着目する考え方であると理解されるが,被告が根拠とする文献(乙B2号証)は,胃潰瘍の治療をしながら頻回の画像検査を行って鑑別診断を進めていくという考え方を示したものであって,被告の治療方針の正しさを裏付ける根拠とはならない。なお,同文献は昭和48年のものであり,その後約30年の間に内視鏡機器が著しく進歩し,広く普及したことに照らせば「治療診断」自,体,今日においても妥当する診断方法か疑問である。 (被告の主張) ア(ア)上部消化管の検査方法の選択について,上部消化管の異常所見の有無が明確でない場合や,胃の機能的疾患が疑われる場合は,異常所見の有無及び疑われる疾患を調べる目的で,造影検査が実施されることが多いといってよい。これに対し,内視鏡検査及び生検は,明確な症状(痛みの状態,時期,部位等が明確な場合)がある場合,造影検査の結果必要性が認められた場合,上部消化管に何らかの異常があることが明確な場合に,具体的な疾患を疑い,確定診断をつける目的で実施される。 内視鏡検査を実施しても,生検でがん細胞を採取できるとは限らない。また,内視鏡検査は,造影検査とは異なり,視診で胃の全領域を見ることが困難であり,検査者のみが見るという意味で主観的側面が強い。造影検査を実施せず,当初から内視鏡検査を行うことが多いとはいえない。 (イ)造影検査で何らかの異常所見が認められた場合に,いかなる検査・治療方針によるかは,画像所見,症状,医療機関の規模や状況等の処理能力,検査の重要性を含む患者の状況等を考慮し,医師に一定の裁量が認められるというべきである。 そして,造影検査実施後の鑑別診断のため,内視鏡検査を実施する必要性は,造影検査で疑われる悪性の可能性の程度による。悪性を疑わせる可 状況等を考慮し,医師に一定の裁量が認められるというべきである。 そして,造影検査実施後の鑑別診断のため,内視鏡検査を実施する必要性は,造影検査で疑われる悪性の可能性の程度による。悪性を疑わせる可能性が高い場合は,速やかに内視鏡検査を実施する必要があるが,その可能性が低い場合は,速やかに内視鏡検査を実施する必要はなく,薬剤による治療等で経過観察をしつつ,症状の継続状況に応じて再度造影検査を実施し,内視鏡検査の要否を判断することで足りる。臨床上は,悪性と良性の可能性の比率が1:9であっても内視鏡検査を実施するが,これよりも悪性の可能性が低くなればなるほど内視鏡検査実施の必要性は低くなる。悪性の可能性を完全に否定しきる ことができない場合全てにおいて内視鏡検査を施行すべきとは考えられていない。 (ウ)また,医療機関の設備・機能により,内視鏡検査を引き続いて実施しないこともよくあることである。個別症例の違いや医療機関の設備・機能等を考慮せず,一般論として,診療所の診療においても何らかの所見があれば全例内視鏡検査を実施すべきとするのは,医学水準論を無視した極端な要求である。 イ被告は,以下の所見から,本件造影画像について,胃角小弯付近の瘢痕化した胃潰瘍の可能性が高いと判断した。 ,,(ア)本件造影画像の立位充盈像において胃角部はやや開大しているがこれのみで病変の存在を疑うほどの変形ではない。 (イ)本件造影画像の背臥位二重造影像において,胃角部の短縮像と粘膜,,の軽度陥入を疑わせる輪郭の乱れを認めたがひだの集中の所見はなくボールマン2型又は3型のがんに見られる周堤隆起・中心部陥凹や,ボールマン1型のがんに見られる隆起像を認めなかった。 胃角小弯付近に潰瘍が存在する場合,治癒に伴う線維化により小弯側が短縮し,潰瘍瘢痕により胃 ン2型又は3型のがんに見られる周堤隆起・中心部陥凹や,ボールマン1型のがんに見られる隆起像を認めなかった。 胃角小弯付近に潰瘍が存在する場合,治癒に伴う線維化により小弯側が短縮し,潰瘍瘢痕により胃角が開くから,胃角部の短縮像は胃潰瘍を示す所見である。 また,粘膜の軽度陥入を疑わせる輪郭の乱れは,治癒に伴う線維化の所見であり,同じく胃潰瘍を示すものである。 ,,(ウ)良性潰瘍と悪性潰瘍との鑑別事項としては①潰瘍面と辺縁の性状②ひだの性状,③周囲粘膜の性状,が挙げられるが,本件造影画像は,潰瘍の瘢痕化の所見であるので,潰瘍面は認められず(①,ひだの集)中の所見自体を認めず(②,悪性潰瘍の場合に認められる,潰瘍の周)辺に不整形の淡いバリウム斑や粗造な粘膜面を伴い,浮腫による隆起を伴う場合は表面に不整があるといった周辺粘膜の性状の所見はなく (③,悪性潰瘍を疑わせる所見はなかった。原告らは,胃角部の硬化)像が4ないし5cmにわたると主張するが,硬化像は4ないし5cmもの長さはない。また原告らは,胃潰瘍瘢痕の場合の胃壁の硬化は5mmないし1cm程度であると主張するが,多発性瘢痕の可能性もあり得るから,本件造影画像の胃角部の硬化の状態は胃潰瘍瘢痕との所見の妨げとならない。 (エ)なお,被告は,後述のとおり,本件造影画像を,名古屋市a区医師会の読影会に持参して参加医師らの意見を聞いているが,これは,悪性所見ではまずないであろうという被告の所見を裏付けてもらうため,また,悪性所見の見落としがないか確認するためであり,他の医師の意見を聞かなければ読影の判断に迷う画像であるため持参したものではない。 ウ被告が,本件造影画像を胃角小弯付近の瘢痕化した胃潰瘍の可能性が高いと判断したことは,以下のとおり,プロスペクティブな読影としても問 ければ読影の判断に迷う画像であるため持参したものではない。 ウ被告が,本件造影画像を胃角小弯付近の瘢痕化した胃潰瘍の可能性が高いと判断したことは,以下のとおり,プロスペクティブな読影としても問題はない。 (ア)胃角部の短縮について原告らは,胃角部短縮の所見は胃がんの可能性を強く示すと主張するが,胃角部短縮像で胃潰瘍の瘢痕化を示す症例がある。 (イ)多発性潰瘍瘢痕とがんとの鑑別について多発性潰瘍瘢痕の症例の背臥位正面二重造影像に認められる線状陰影や網状陰影には,不規則な形の所見が認められるものの,不整な形の変化所見は認められないが,がんの場合には,形の不整となって現れる。 本件造影画像では,線状陰影や網状陰影が認められ,これらの一部が粘膜の軽度陥入を疑わせる輪郭の乱れを形成していたが,不規則な形の所見は認められず,不整な形の変化所見も認められない。したがって,良性所見に肯定的な所見である。 (ウ)良性潰瘍と潰瘍を合併する早期胃がんとの鑑別について,,良性潰瘍と潰瘍を合併する早期胃がんとでは辺縁部の所見が異なり分化型がんの場合,周囲粘膜を圧排しながら正常粘膜の弱いところを発育するため,これが棘状のはみ出し陰影あるいはギザギザした陥凹の境界を作り,辺縁部では圧排して発育するので小区の肥大したような大小の顆粒状の隆起変化所見として認められる。 本件造影画像には,上記のような分化型がんの陥凹変化の所見は認められない。 (エ)陰影について陥凹病変は,悪性の陰影では,線状陰影の連続性が認められないことが多く,連続性があっても線状陰影の形と濃淡に差が見られ,悪性の陰影斑部では線状陰影が急に濃くなったり,幅広くなったり,不規則な線状陰影となったりする。 造影画像に認められる線状陰影には,上記のような所見は認められない。 (オ) 形と濃淡に差が見られ,悪性の陰影斑部では線状陰影が急に濃くなったり,幅広くなったり,不規則な線状陰影となったりする。 造影画像に認められる線状陰影には,上記のような所見は認められない。 (オ)潰瘍瘢痕区域と陥凹型早期胃がんの鑑別について早期胃がんのⅡc+Ⅲ型(いずれも,肉眼型分類0型(表在型:病変の肉眼形態が,軽度な隆起や陥凹を示すにすぎないもの)の亜分類であり,Ⅱc型は表面陥凹型(わずかなびらん,又は粘膜の浅い陥凹が認められるもの,Ⅲ型は陥凹型(明らかに深い陥凹が認められるもの)を)指す)では,合併潰瘍の瘢痕化によって,集中する粘膜ひだが潰瘍瘢。 痕部で中断するように見えることがある。また,Ⅱc+Ⅲ型では,潰瘍瘢痕部の更に外側周囲に粘膜陥凹あるいはひだの変化所見が現れる。しかし,本件造影画像には,このような所見は認められない。 同じく,陥凹境界,陥凹の粘膜面,粘膜ひだの違いから来る所見についても認められない。 エこのように,本件造影画像は,瘢痕化した胃潰瘍の可能性が高く,悪性の可能性は低い(完全には否定できないという程度)という所見であるから,本件では直ちに内視鏡検査を実施する必要はなく,症状の推移を見て,それに応じて内視鏡検査の要否を判断することで足りる。 なお,被告は,万一悪性所見の見落としがあってはいけないと考え,本件造影画像を,1月26日に実施された名古屋市a区医師会の読影会に持参し「50歳の男性で,昨年12月からの胃部の不快感を訴えたた,め,造影検査を実施したものである」旨説明して参加医師らに意見を求。 めたところ,参加医師らは,胃潰瘍の瘢痕化ではないか,経過を観察し,症状が続くならば内視鏡検査を行う必要がある,との意見で一致し,悪性の疑いがあるから内視鏡検査を実施しておくべきという意見は全く出ず,検討中 ,参加医師らは,胃潰瘍の瘢痕化ではないか,経過を観察し,症状が続くならば内視鏡検査を行う必要がある,との意見で一致し,悪性の疑いがあるから内視鏡検査を実施しておくべきという意見は全く出ず,検討中意見が分かれることはなかった。 オAは,診察を受ける時間を取りにくい患者であったことから,必要性が高いと思われない検査を受けることを求める状況にはなかった。そこで被告は,2月13日ころの治療方針として,基本的には胃潰瘍の経過観察を行い,薬の服用によって症状が治まれば半年から1年後に造影検査を行う,症状が改善しない状態が1,2か月程度続いた場合は造影検査あるいは内視鏡検査を実施することを考えていた。 これは,良性悪性の鑑別がつきにくい場合に,まず潰瘍の治療を行い,良性潰瘍ならば潰瘍の縮小を認め症状も軽減するから,それによりがん性潰瘍との区別をするという「治療診断」の方法である。 カAは,3月14日の受診時に,胃の調子はまずまずである旨述べたが,それ以降,8月6日の最後の受診時までの間に,自ら胃の症状を訴えることはなかった。被告はAに対し,症状が続くならば精密検査を行うと伝えてあり,Aもそれを承諾していたのだから,胃の症状は好転していなかったとの原告らの主張は信用し難いし,仮に胃の症状が好転してい ないならば,Aは被告に症状を伝える必要があった。Aが胃の症状を訴えなかったため,被告は精査の機会を失ったのであり,被告に過失はない。 キまた,潰瘍瘢痕に対するタケプロンの投与は,6週間から8週間を目安として行い,投与開始から1か月程度経過した時点で,特に症状が悪化した等の事情がなければ,再度の造影検査や内視鏡検査は実施しないで,投薬により症状が改善するか経過を見るのが通常である。 本件において,Aに対し,1月13日からタケプロンの投与を開始し, に症状が悪化した等の事情がなければ,再度の造影検査や内視鏡検査は実施しないで,投薬により症状が改善するか経過を見るのが通常である。 本件において,Aに対し,1月13日からタケプロンの投与を開始し,,「」約6週間経過した2月26日の受診時に胃の症状はだいぶ良くなった旨述べていたから,胃の症状の改善が認められた。そこで被告は,引き続きタケプロンの投与を継続し,経過を観察するという判断をしたものである。3月14日には「胃の調子はまずまず」と更なる症状の改善を認める説明があり,その後は胃の症状の訴えはなかったため,被告は,薬の服用によって胃の症状が治まったと判断していたものである。胃潰瘍の瘢痕期に入った段階の場合は,薬の服用により症状が軽快していれば,画像検査を実施して,潰瘍の縮小を確認する必要は認められない。 (2)争点(2)(因果関係)について(原告らの主張)ア胃がんは,最も治療成績のよいがんの一つとされている。胃がんを肉眼的に完全に切除できた場合の5年生存率は,粘膜に限局したがんで93%,粘膜下層まで入ったがんで91%,固有筋層に入ったがんで82%,漿膜下層のがんで71%と非常に良好である。漿膜へ浸潤した場合の後5年生存率は47%,他臓器へ浸潤した場合は30%と予後が悪くなるが,これらは他の病気で死亡する患者も入れた計算結果であり,がんの再発による死亡だけであれば更に生存率は良好である。 イ平成13年1月時点でのAの胃がんの進展度は,被告が内視鏡検査及 び生検を行っていないため確認不可能であるが,被告の主張に照らせば,造影検査では悪性の可能性が否定できないといった程度の進展度であったと理解される。また,本件造影画像の背臥位二重造影像では,胃の前庭部及び穹窿部の輪郭はなめらかであって,硬化部位は胃角部に限局しているか 査では悪性の可能性が否定できないといった程度の進展度であったと理解される。また,本件造影画像の背臥位二重造影像では,胃の前庭部及び穹窿部の輪郭はなめらかであって,硬化部位は胃角部に限局しているから,胃角部以外に胃がんが進展していたことを示す所見は認められない。したがって,平成13年1月時点においては,Aの胃がんは切除できた可能性が高い。 ウまた,臨床的には,3か月を超える診断の遅れが救命可能性の逆目となりうると判断されている。本件において,Aの胃がんは8か月にわたって放置されることになったが,臨床現場における一般的感覚では,治療開始が約8か月という幅で遅れた場合には,患者の生命予後に相当の違いが生じうると考えられている。 エ以上に照らせば,被告の過失に起因する胃がんの治療開始の遅れがなければ,Aの胃がんは治癒し得たと考えるべきである。 なお,再発の可能性は予測が極めて困難であるが,仮に再発の可能性があるとしても,根治的切除術が実施された場合と実施されなかった場合とでは予後が大きく異なるから,本件において,被告の過失とAの死亡との間の法的因果関係を否定する理由とはなり得ない。 オ被告は,本件造影検査当時のAの胃がんが病期分類Ⅳ期のスキルス胃がんであったと主張するが,Ⅳ期のスキルス胃がんの患者が,胃を切除することなく1年以上生存することは困難である。また,Aの胃を切除する意義はないとの判断されたのは,平成13年9月以降のG病院による診療経過においてであるから,これをもって同年1月時点で生命的予後を改善できるような根治手術は当初より不可能であったと推定することはできない。 カなお,本件では,平成13年1月時点で内視鏡検査や生検が実施され ていないため,Aの生命予後推定の基礎資料は乏しいが,これは,同時点で実施されるべき内視鏡検 ったと推定することはできない。 カなお,本件では,平成13年1月時点で内視鏡検査や生検が実施され ていないため,Aの生命予後推定の基礎資料は乏しいが,これは,同時点で実施されるべき内視鏡検査等が行われておらず,また,同時点の状態を直接示す唯一の資料である本件造影画像ですら,バリウムの乗りが不良であって情報量に限界があるという原告ら側からはコントロール不能な事由によるものであって,かかる事情により客観的な病期の判定ができなくなったことによる不利益は,必要な診療情報の収集を怠った被告に負担させるべきである。 (被告の主張)ア(ア)以下によれば,本件造影検査当時,Aの胃がんは,相当程度進行したスキルス胃がんであったと推測される。 a本件レントゲン写真を胃がんの画像として見れば,ある範囲で深く浸潤した胃がんを示す所見である。 b本件レントゲン写真には周堤隆起と中心部陥凹が認められないから,肉眼分類はボールマン4型であり,スキルス胃がんであることを示唆する。 G病院における手術時の肉眼分類はボールマン3型とされているが,これは,本件造影検査当時ボールマン4型であったものが,腫瘍中心部の萎縮・壊死による陥凹と辺縁部のがん組織の増殖による周堤隆起を来して,周堤の低いボールマン3型胃がんに変化したものと考えられる。 cG病院における病理組織検査の結果は低分化腺がんであり,Eクリニックにおける病理組織検査では印環細胞がん(腫瘍細胞が,細胞質内に貯留した大量の粘液のために,核が辺縁に押しやられた形態を示すもの)の結果も出ている。これらはスキルス胃がんであることを示唆する。 dG病院での手術時,Aの胃がんは,T3(漿膜又は周囲組織への 浸潤)N4(4群リンパ節への転移)の状態で,著しい浸潤傾向を示している。これはスキルス胃がんの特 胃がんであることを示唆する。 dG病院での手術時,Aの胃がんは,T3(漿膜又は周囲組織への 浸潤)N4(4群リンパ節への転移)の状態で,著しい浸潤傾向を示している。これはスキルス胃がんの特徴である。 eG病院における手術後に実施された化学療法でも,がんの縮小効果が認められていない。 (イ)スキルス胃がんは,病態完成の1年前に既に漿膜まで進展していることが一般的であるから,Aの胃がんも,本件造影検査当時,漿膜に浸潤していた可能性が高く,病期分類もⅣ期と考えられる。病期分類Ⅳ期の胃がんの5年生存率は,医療機関によって幅はあるが,多くて13%程度であり,3.7%との報告もある。 なお,胃がんのダブリングタイムの検討から,本件造影検査からG病院における開腹手術までの9か月の間に,Aの胃がんが横方向に23ないし27%程度増大した可能性はある。しかし,仮に平成13年1月時点で胃がんが判明しても,既にリンパ節や大動脈等に転移していた可能性が十分に想定できる。 したがって,平成13年1月時点で,生命的予後を改善できるような根治手術は不可能であった可能性が高く,仮にこの時点で手術を実施したとしても,がんを取りきれないか,再発した可能性が高い。明らかな生命的予後の改善はなかったと考えられる。 (ウ)肉眼分類ボールマン4型胃がんの場合,造影検査の画像で悪性と診断することは困難である一方,その進展度が高い。したがって,本件レントゲン写真が悪性の画像を疑いにくい所見であることは,がんの進展度が低いことを意味するものではない。 (エ)病期分類Ⅳ期のスキルス胃がんで1年以上生存した例もある。本件では,切除術が実施されなかったため,抵抗力が残っていたとも考えられる。したがって,Aが,本件造影検査から1年3か月間生存したことは,Aの胃がんがスキルス胃が 胃がんで1年以上生存した例もある。本件では,切除術が実施されなかったため,抵抗力が残っていたとも考えられる。したがって,Aが,本件造影検査から1年3か月間生存したことは,Aの胃がんがスキルス胃がんであったことと矛盾しない。 イ(ア)Aの胃がんがスキルス胃がんでなかったとしても,手術時の所見にかんがみれば,本件造影検査当時,Aの胃がんは,悪性度が高く,予後が悪いとされる浸潤型・低分化型のがんであり,病期分類は既にⅣ期,少なくともⅢB期であった。ⅢB期の胃がんの5年生存率は,多くとも33.6%で,11.9%との報告もあるところ,Aの胃がんは,浸潤型かつ低分化型であるから,ⅢB期であったとしても,5年生存率はその中で低い分類に入るのと考えるのが相当である。 したがって,仮にこの時点で手術を実施したとしても,がんを取りきれないか,再発した可能性が高く,明らかな生命的予後の改善はなかったといえる。 (イ)低分化型のがんは,粘膜下で進行するため粘膜所見が乏しい。また,Aの胃がんは,手術時点でも周堤が低いことから,平成13年1月時点では,周堤があったとしても更に低かったと考えられ,本件造影画像上も周堤の所見は得られない。したがって,仮に同時点で内視鏡検査を実施しても,がんを発見することは困難であった可能性が高い。 ウよって,被告が,本件造影検査の結果を踏まえて内視鏡検査を実施しなかったことと,Aの死亡との間には因果関係が認められない。 (3)争点(3)(損害)について(原告らの主張)原告らは,被告に対し,それぞれ,下記アないしオの合計8893万2400円の2分の1である4446万6200円の損害賠償請求権を有する。 ア相続分(ア)慰謝料3000万円14歳と9歳の子を残し,生涯を終えねばならなかった無念や,被告による適切な治 3万2400円の2分の1である4446万6200円の損害賠償請求権を有する。 ア相続分(ア)慰謝料3000万円14歳と9歳の子を残し,生涯を終えねばならなかった無念や,被告による適切な治療がなされていれば死なずにすんだとの思いを抱えなが ら,死に至るまで激しいがん性疼痛や副作用を伴う治療を余儀なくされた精神的苦痛は,金銭に見積もって上記金額を下ることはない。 (イ)逸失利益3939万8400円Aは死亡当時51歳であったことから,賃金センサス平成12年高卒男子労働者平均賃金額の年収519万3300円に就労可能年齢67歳までの16年間のライプニッツ係数を乗じ,生活費を30%控除して計算すると,逸失利益は上記金額になる。 (ウ)葬儀費用150万円イ原告ら固有の慰謝料各500万円最愛の父を亡くした悲しみや,本件訴訟に至るまでの被告の不誠実な態度,裁判を抱えて学生生活を送らねばならなかったことなど本件による原告ら固有の精神的苦痛に対する慰謝料は,上記金額を下らない。 ウ証拠保全のカメラマン費用2万3500円エあっせん・仲裁申立費用1万0500円オ弁護士費用800万円(被告の主張)否認ないし争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)(内視鏡検査及び生検の可能な医療機関に転院させるべき注意義務違反の有無)について(1)ア本件各証拠によれば,胃がんの根治切除術が実施された患者の5年生存率について,病期分類ⅠA期では少なくとも92.4%(I病院,良)好な医療機関では99.0%(J病院)見込めるとの報告があるが,病期が進行するにつれて5年生存率は顕著に低下しⅢA期では384%I,. (病院)から59%(K病院,Ⅳ期では6.8%(I病院)から13.7)%(L病院)との報告がある(甲B13号証,乙B4号 期が進行するにつれて5年生存率は顕著に低下しⅢA期では384%I,. (病院)から59%(K病院,Ⅳ期では6.8%(I病院)から13.7)%(L病院)との報告がある(甲B13号証,乙B4号証添付資料(他病 死を含むと明言しているもの,医療機関名が不明なものは考慮しない。 )),,このように胃がんは治療開始時の病期が患者の予後に直結することから(,,)。 一般に早期発見が重要視されている甲B5号証B7号証B14号証イまた,胃がんの検査方法のうち,造影検査は,全体像及び周辺臓器との関連の把握や病変の大きさの計測,穿孔の診断等に優れ,画像を複数者で検討することが容易であるが,粘膜面の色調は分からないうえ,経験を積んだ検査医師であっても胃の前後壁が重なって造影されるなど,良い造影画像を撮影するには高度の修練が必要になる(甲B3号証,乙B2号証,B4号証及び同添付資料1。一方,内視鏡検査は,粘膜色調の直接観察)や拡大観察が可能であり,同時に生検による病理組織学的診断もできるうえ,実施者ごとの診断能力の差異は造影検査ほどではないとされるが,全体像及び周辺臓器との関連の把握等は造影検査よりも劣り,また,検査者の主観に負うところが大きいという特徴を有する(甲B3号証,乙B2号証,B4号証及び同添付資料1。すなわち,両者には一長一短があるが)(乙B2号証,短所については相互に補完することが可能である。 )これらの検査によっても良性腫瘍であるかがんであるかかが不明な場合や,これらの検査によってがんの存在が明らかな場合であっても,当該病変ががんであるとの確定診断を行うためには,内視鏡検査の際にがんが疑われる部位の組織を採取し,病理組織学的診断を行う生検を実施する必要がある(甲B6号証,B7号証,B8号証,B14号証。なお, 該病変ががんであるとの確定診断を行うためには,内視鏡検査の際にがんが疑われる部位の組織を採取し,病理組織学的診断を行う生検を実施する必要がある(甲B6号証,B7号証,B8号証,B14号証。なお,甲B5号証にも「胃癌を除外するために,…(中略)…内視鏡検査と擦過細胞診,(生検とほぼ同義)を行うことを推奨する」とある。 。 。)これら造影検査,内視鏡検査及び生検によって,胃がんの病巣の90%以上は捕そくされるようになっている(甲B7号証。 )なお,本件造影検査当時,内視鏡検査及び生検は一般に普及した検査方法であった(争いのない事実。 ) (2)以上を前提に,本件造影画像について検討する。 ア1月13日に撮影されたAの胃の造影検査画像のうち,立位充盈像(乙A2号証の3。以下「本件立位充盈像」という)の所見は,胃の小弯の。 湾曲が最も鋭角になる胃角について,その角度が開いており「開大」と,,(,,呼ばれる所見であることについて当事者間に争いはないなお被告は「胃角部の短縮」という表現を用いていることもあるが,胃角部(あるいは小弯)の輪郭の長さが本来のものより短くなっていることを指す表現と認められ(乙A6号証20頁参照,その結果,胃角が開大するという関)係にあるから(被告本人1頁,結局同一の状態を指しているものと認め)られる。また,同じく胃角部において,本来曲線であるはずの輪郭像。)が,約1.5cmにわたってほぼ水平方向に直線的な像を示し,その左横においても同様に約1.5cmにわたって輪郭が直線的な部分があり,両者の接続部も曲線を描かずなめらかでない像を示していることが認められる。 立位充盈像は,その名が示すとおり,被検者に対し,造影剤である硫酸バリウムと共に発泡剤を服用させるなどすることによって胃の内部 者の接続部も曲線を描かずなめらかでない像を示していることが認められる。 立位充盈像は,その名が示すとおり,被検者に対し,造影剤である硫酸バリウムと共に発泡剤を服用させるなどすることによって胃の内部を硫酸バリウムと二酸化炭素等で満たし,胃を膨らませた状態で撮影された画像であるので,本件立位充盈像において,胃角が開大し,胃角部の輪郭が直線的であるということは,当該部分の胃壁が,胃に満たされた硫酸バリウムや二酸化炭素等によって伸展しないこと,すなわち,胃壁が硬化していることが推認され(甲B14号証,証人H6頁,これを覆すに足る証拠)はない。 ,,(,イまた本件造影検査の画像のうち背臥位二重造影像乙A2号証の5A2号証の6。以下「本件背臥位二重造影像」という)では,本件立位。 充盈像と同じく胃角の開大(あるいは胃角部の短縮)が認められるのに加えて,胃角部の輪郭が,少なくとも4cm程度にわたってなめらかでなく でこぼことした不整と呼ばれる像を示していることが認められる(甲B14号証,乙B4号証,被告本人3頁。したがって,本件背臥位二重造影)像によっても,胃角部の胃壁の伸展が不良であり,胃壁が硬化していることが推認される。なお,被告は,胃角部の硬化像は4ないし5cmもの長さはないと主張し,これに一部沿う証拠もあるが(被告本人5頁,椎体)の重なっていない乙A2号証の6においても,胃角部の輪郭が不整な部分が少なくとも4cm程度は認められ,これらの輪郭の不整は,F医師が指摘するとおり,胃の前庭部(胃を上から3分又は4分した場合に最も十二指腸に近い部分)及び穹窿部(胃を上から3分又は4分した場合に最も食)(),道に近い部分の輪郭と比較すると一層明らかであって甲B14号証被告の主張は採用できない。 (3)ア日本胃癌 十二指腸に近い部分)及び穹窿部(胃を上から3分又は4分した場合に最も食)(),道に近い部分の輪郭と比較すると一層明らかであって甲B14号証被告の主張は採用できない。 (3)ア日本胃癌学会の「胃癌取扱い規約」によれば,胃がんは,がんの基質と間質結合織の比率によって,髄様型(間質結合織が特に少ないもの,)中間型(間質結合織の量が髄様型と硬性型の中間にあたるもの,硬性型)(間質結合織が特に多いもの)の3種類に分類されるところ(乙B5号証),,参照間質結合織の量が正常の組織より多くなるほど硬化することから造影検査の画像により,伸展不良という胃壁の硬化を示す所見が得られた場合,それは,当該伸展不良部位にがんが存在する可能性を相当程度強く示唆するものと認められる(甲B4号証,B5号証,B14号証,B15号証。 )この点,原告らは,胃壁の硬化が4ないし5cmに及んでいる点は胃潰瘍瘢痕とは判断しにくい要素である旨主張し,これに沿う証拠もあるところ(甲B14号証,被告は,多発性瘢痕の可能性もあるから,胃壁の硬)化が4ないし5cmに及んでいる点は胃潰瘍瘢痕との所見の妨げにならな。 ,,,いと主張するしかし被告の主張に依拠したとしても本件造影画像は単なる胃潰瘍瘢痕ではなく,多発性の胃潰瘍の瘢痕か,胃がんかのいずれ かの可能性を示唆するものであることになるから,胃角部にがんが存在する可能性を否定できるものではない。 イこれに対し,被告は,本件立位充盈像はやや開大しているが,これのみで病変の存在を疑うほどの変形ではないと主張する。しかし,立位充盈像では,本来,胃角はより鋭角なU字型を描き大弯に向かってくびれているはずであるのに,本件立位充盈像では,くびれが浅く,輪郭も直線的であって,開大の所見は明らかであるところ 張する。しかし,立位充盈像では,本来,胃角はより鋭角なU字型を描き大弯に向かってくびれているはずであるのに,本件立位充盈像では,くびれが浅く,輪郭も直線的であって,開大の所見は明らかであるところ,甲B4号証によれば,立位充盈像において硬化所見を認めるにはかなりの変化がなくてはならないから,胃角の開大があれば小弯上に必ず病変があると考えてよい旨指摘されている(被告はこれを覆すに足る証拠を提出しない)ことに照らせば,Aの胃小弯上の病変の存在は強く示唆されるところであって,被告の主張は採用できない。 また被告は,胃角部の短縮又は胃角の開大及び粘膜の軽度陥入を疑わせる輪郭の乱れは胃潰瘍を示す所見である旨主張するが,これら胃壁の硬化を示す所見について,胃潰瘍(瘢痕)の疑いとがんの疑いは両立し得るのであって,これらの所見から胃潰瘍(瘢痕)が疑われるとしても,そのことが,がんの存在を否定する論拠とはなり得ない。 (4)前述のとおり,本件立位充盈像及び本件背臥位二重造影像の所見から,がんの存在が相当程度強く疑われるところ,Aは,被告病院受診時に「胃,」「」(),「,」の不快感胃重い1月6日空腹感とともに胃重苦しく痛くなる(1月24日,といった胃がんの場合に起こりうる症状を訴えていたこと)(甲A2号証1・3頁,B2号証,B5号証,B7号証,B8号証,乙A1号証11,13頁,本件造影検査当時Aは満50歳であり,一般に胃がん)(,,),の好発年齢と言われる年代であったこと甲B2号証B7号証C1号証,,前述のとおり胃がんは治療開始時の病期が患者の予後に直結していること造影検査には一長一短があり,内視鏡検査によってその短所を補うことが可 能であること,本件造影検査当時,内視鏡検査及び生検は一般に普及した検査方法であ 開始時の病期が患者の予後に直結していること造影検査には一長一短があり,内視鏡検査によってその短所を補うことが可 能であること,本件造影検査当時,内視鏡検査及び生検は一般に普及した検査方法であったことにかんがみれば,被告には,本件造影検査の画像読影後速やかに内視鏡検査及び生検(以下両者を併せて「内視鏡検査等」というこ。),,,とがあるを含む精密検査をすべき義務がありまた本件造影検査当時被告の医院には内視鏡検査等を行いうる機器がないため,内視鏡検査等を自ら行い得ないのであれば(被告本人2頁,Aに対し,内視鏡検査等を行い)得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務があったというべきである。 (5)アこれに対し,被告は,ひだの集中や,肉眼分類ボールマン2型又は3型のがんに見られる周堤隆起・中央部陥凹,ボールマン1型のがんにみられる隆起といったがんの所見が認められないと主張する。しかし,胃壁への浸潤傾向の強い低分化型腺がんやボールマン4型胃がんの場合,これらの所見が認められないことがある(甲B5号証)から,これらの所見がないことはがんの存在を否定することにはならない。 イ被告は上記争点(1)に関する被告の主張欄イ(ウ)及びウ(イ)ないし(オ),に掲記のとおり,本件造影画像に悪性潰瘍又はがんに特徴的な粘膜陰影の所見が認められない旨るる主張する。しかし,被告の主張欄イ(ウ)は潰瘍面がある場合,同ウ(ウ)は分化型がん,同(エ)は陥凹病変がある場合,同(オ)は陥凹型早期胃がん,の各鑑別に関するものであり,それ以外のがんの存在について鑑別するメルクマールではない。さらに,粘膜陰影の所見は病変の発見・鑑別にとって極めて重要な情報であるが(甲B3号証,B5号証,B7号証,乙B1号証,B3号証,本件背臥位二重造影像につ の存在について鑑別するメルクマールではない。さらに,粘膜陰影の所見は病変の発見・鑑別にとって極めて重要な情報であるが(甲B3号証,B5号証,B7号証,乙B1号証,B3号証,本件背臥位二重造影像につ)いて,胃体下部から胃角部周辺への硫酸バリウムの乗りが,粘膜所見をとらえるには必ずしも十分でなく,情報量が乏しいとの指摘もあるため(証人H11,12頁,粘膜陰影の所見に関する被告の主張はにわかには措)信し難いうえ,びまん浸潤性のがんでは,胃が伸展不良であることが唯一 の異常所見である場合がある(甲B5号証)ことをも併せみれば,被告の主張する本件背臥位二重造影像の粘膜陰影の所見をもって胃壁の硬化像が示唆するがんの可能性を排斥できるとはいえない。 ,,ウ被告は本件造影画像を読影会に持参し参加医師の意見を聞いたところ胃潰瘍瘢痕ではないかとの意見で一致し,検討中意見が分かれることはなかった旨主張し,これに沿う証拠もある(乙A12号証,被告本人7ないし8頁。 )しかし,平成14年3月5日,H医師に見せるため,Aが被告から本件造影画像を借り出した際に,被告がH医師あてに記した紹介状(乙A1号証24頁)によれば「当地区の胃ガン検診症例検討会では胃角短縮に関,してulcerscarの可能性が高いのではないか,という意見が多く,ただ所見はあるため治療しながら要followupという意見になりました」とあ。 り,この時点での被告の説明は,本訴における被告の主張といささか論調を異にし,被告主張のやり取りや別の意見の有無について疑問なしとしない。さらに,約1時間で胃がん検診の造影画像を20件前後,相談症例の造影画像を5ないし10件程度供覧しディスカッションを行うのであれば(被告本人24頁,読影会が主として胃がん検診の造影画像を読影する)機 に,約1時間で胃がん検診の造影画像を20件前後,相談症例の造影画像を5ないし10件程度供覧しディスカッションを行うのであれば(被告本人24頁,読影会が主として胃がん検診の造影画像を読影する)機会であることを捨象しても,本件造影画像8枚を読影しディスカッションを行う時間は多くて2分半程度であったと推認され,しかも,その際の,,意見というのは乙A12号証及び被告本人尋問の結果によったとしても「胃潰瘍瘢痕で良いですかね「胃カメラは(やらなくても)良いです。」。」(),「」かね乙A12号証とかこれは潰瘍瘢痕でよろしいんじゃないか「特にそれで経過観察でもよろしいんじゃないか(被告本人7頁)とい」う程度のものであったというのであり,これらの意見は,特定の患者の診療につき責任を持つ医師が,造影画像以外の情報についても十分に把握した上で出した結論と同視することはできず,仮に本件画像について参加医 師の間でこのようなやり取りがあったとしても,このやり取りに重きを置くことは到底できない。 エさらに被告は,本件造影画像の所見は胃潰瘍瘢痕の可能性が高く,悪性の可能性は低いものであり(完全には否定できないという程度,また,)Aが診察を受ける時間を取りにくい患者であったことから,必要性が高いと思われない検査を求める状況にはなかったため,2月13日ころの治療方針として「治療診断」の方法を考え,Aに対しても症状が続くならば精密検査を行うと伝えていたのに,その後Aから胃の症状の訴えはなかったので,被告は精査の機会を失った旨主張する。しかし,前述のとおり,本件造影画像は胃角部にがんが存在する可能性を相当程度強く示唆するものであると認められるから,被告の主張はその前提を欠く(なお,胃がんには特有の症状がなく,合併する他の病変による症状 前述のとおり,本件造影画像は胃角部にがんが存在する可能性を相当程度強く示唆するものであると認められるから,被告の主張はその前提を欠く(なお,胃がんには特有の症状がなく,合併する他の病変による症状がある場合や,相当進行するまで無症状である場合もあることから(甲B5号証,B7号証,B8号証,造影検査の所見ががんの存在を相当程度強く示唆するものであ)ったにもかかわらず,症状を見ながら経過観察をするという治療方針の合理性は見いだし難い。 。)オよって,被告の主張はいずれも採用できない。 (6)しかるに,前記前提事実のとおり,被告は,Aに対し,本件造影検査後他の医療機関において内視鏡検査等を受検するよう指導しなかったのであるから,被告には,本件造影画像読影後速やかに内視鏡検査等を行い得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務を怠った過失があるというほかない。 争点(2)(因果関係)について(1)前述のとおり,胃がん患者の予後はその病期に極めて強く左右されることから,まず,本件造影検査当時のAの胃がんの病期について検討する。 ア前記前提事実のとおり,胃がんの病期は,腫瘍の深さ・大きさ,リンパ 節への転移の有無,他臓器などへの遠隔転移の有無の各因子によって0期からⅣ期まで分類される。したがって,極めて早期のがんで,造影検査の所見や内視鏡検査の所見のみで判断できるといった例外を除き,コンピュータ断層撮影検査(CT検査,開腹所見,採取された組織の病理検査等)により得られたがんの浸潤の程度及び転移の情報を総合して病期が判断されることになる(乙A6号証50,54頁,証人H6,9頁。 )イ10月2日にG病院にて実施された開腹手術の際,Aの胃がんは,隣接する臓器への転移は認められないものの,漿膜の外側までがんが露出し, れることになる(乙A6号証50,54頁,証人H6,9頁。 )イ10月2日にG病院にて実施された開腹手術の際,Aの胃がんは,隣接する臓器への転移は認められないものの,漿膜の外側までがんが露出し,上腸間膜動脈周囲,腹腔動脈周囲そして大動脈周囲のリンパ節まで転移している状態であったことから,病期分類は,Ⅳ期と認められる(乙A5号証4頁,A6号証10,50,54,55頁,証人H1ないし2頁。 )ウ一方,本件造影検査当時のAの胃がんの状態に関する資料は,本件造影画像のみしか存在しない。造影画像のみでは胃壁内の進展度の正確な判定は困難であり,また,造影検査では転移の有無について判定することはできない(証人H6,10頁)から,本件造影検査当時のAの胃がんの病期について,正確に判断することは困難であり,推定するほかない。 この点について,G病院における開腹手術の執刀医であるH医師は,①開腹手術の所見等を考えれば,本件造影検査当時進行がんであった可能性はあり得る,②本件造影画像の胃角の開大及び胃壁の硬化の所見は早期がん(がんの浸潤が粘膜内にとどまり,固有筋層に及ばないもの。転移の有無は問わない。甲B7号証,B8号証)にはなく,ある程度進行したが。 んではないかと判断した方がよい,③開腹手術時に切除不能になるまで進行していたがんが,その8か月前である本件造影検査当時には早期がんであったというのは難しい(なお,乙B4号証添付の資料8にも,かかる証言に沿う内容の報告がある,④漿膜まで浸潤していた可能性も否定は。),,できない⑤仮に本件造影検査当時に胃がんの切除術を実施するとすれば 広範囲なリンパ節郭清が必要だったと思われる旨証言する(証人H5ないし6,10,11頁。これらに加えて,H医師は,病期分類ⅢB期の可)能性についても示唆するが がんの切除術を実施するとすれば 広範囲なリンパ節郭清が必要だったと思われる旨証言する(証人H5ないし6,10,11頁。これらに加えて,H医師は,病期分類ⅢB期の可)能性についても示唆するが(証人H7頁,当該証言は「ステージ的に),もⅣまではいってなかったかもしれませんが,先ほど言った,漿膜近くまで浸潤しているボールマン3型であった可能性もないとは言えないと思います」との証言を受けて,被告代理人が「ステージとしてはⅢAですか。 ⅢBですか」と尋ねたこと対する回答であり,直前の漿膜「近く」まで。 ,,の浸潤との証言とⅢB期であるとの証言とは符合しないことからすればH医師のかかる証言から,本件造影検査当時の病期がⅢB期であったとは即断できない。 H医師の上記①ないし⑤の証言に加えて,開腹手術時,H医師が「ボールマン3型であっても,相当進行してくればそういう(開腹時の所見のこ)」(),と状況になると証言するほど進行した所見であったこと証人H3頁また,開腹手術時のAの胃がんは,がんの浸潤自体は隣接臓器に及んでいなかったものの,リンパ節への転移は4群(大動脈周囲)のリンパ節に及ぶという比較的広範囲な転移傾向を示していたこと,病理検査によれば,Aの胃がんは低分化型腺がんであるところ(乙A3号証14頁,A6号証36頁,一般に低分化型がんは進行が速く悪性度が高いものであること)(証人H5頁,本件造影検査からG病院における開腹手術まで,がんに)対する治療なく8か月以上経過していることを併せみれば,本件造影検査当時のAの胃がんは,リンパ節へのある程度の転移の可能性はあり,また胃壁の固有筋層に浸潤していた可能性は高いが,これを超え漿膜に達していた可能性も否定はし得ないから,病期分類はⅡ期かⅢA期とみるのが相当である。 エ各医 パ節へのある程度の転移の可能性はあり,また胃壁の固有筋層に浸潤していた可能性は高いが,これを超え漿膜に達していた可能性も否定はし得ないから,病期分類はⅡ期かⅢA期とみるのが相当である。 エ各医療機関が報告する胃がんの病期に対応する5年生存率は,地域や医療機関によって大きな開きがあるが(甲B13号証,乙B4号証添付の資 ),,,,料被告は内視鏡検査等を行うため紹介する基幹病院としてM病院J病院,N病院の3病院を挙げているから(被告本人16頁,本件にお)いては,これらのうち証拠のあるJ病院が報告する5年生存率をもって判断するのが相当である。同病院の報告によれば,平成3年から平成7年の間に胃を切除した985例のうち,病期分類Ⅱ期(96例)の5年生存率は71.3%,ⅢA期(87例)の5年生存率は57.6%,Ⅳ期(162例)の5年生存率は7.6%とされる。 (2)次に,Aは,被告から「胃潰瘍瘢痕の疑い,すなわち胃潰瘍が治癒し」ていく過程であると説明された後も,被告からの指示に従い,読影会の結果(,を聞く等のため被告の診察を受けに来ていたこと甲A2号証2ないし3頁乙A1号証12ないし13頁,A11号証3頁,9月14日にF医師から)(,G病院を紹介された3日後には同病院を受診していること乙A3号証9頁15頁,A5号証1,4頁)からすれば,被告が,がんの可能性も否定し得ないことを告げて内視鏡検査等を行い得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導していれば,Aが内視鏡検査等を受検していたであろうことは疑いない。 被告は,Aの胃がんは低分化型腺がんであったところ,低分化型のがんは粘膜下で進行するため,粘膜所見に乏しいうえ,G病院における開腹手術時点においても,Aの胃がんの周堤は低かったため,本件造影検査当時の周堤 ,Aの胃がんは低分化型腺がんであったところ,低分化型のがんは粘膜下で進行するため,粘膜所見に乏しいうえ,G病院における開腹手術時点においても,Aの胃がんの周堤は低かったため,本件造影検査当時の周堤は更に低かったと考えられるから,仮にこの時点で内視鏡検査等を実施しても,がんを発見することは困難であった可能性が高い旨主張する。しかし,,,,,前述のとおり平成3年の段階で造影検査内視鏡検査及び生検によって胃がんの病巣の90%以上は確実に捕そくされるようになっているとする文献があること(甲B7号証,(1)ウで認定したとおり,本件造影検査当時)のAの胃がんは粘膜内にとどまらず,少なくとも固有筋層まで浸潤しているがんであったと認められ,本件造影検査によって,がんの疑いがある部位は 胃角部であることが判明しているのであるから,胃角部を中心とする内視鏡検査及び生検を実施すれば,がんを発見し得た可能性は極めて高いと認められる。 (3)さらに,Aの胃がんは,G病院における開腹手術において,切除の意義なしと判断された(乙A6号証54頁,証人H1頁)のであるが,(1)で前述のとおり,本件造影検査当時のAの胃がんの病期はⅡ期かⅢA期と認められることに加えて,本件造影検査時からG病院における開腹手術まで,がんに対する治療なく8か月以上経過していることにかんがみれば,本件造影検査後の近い時期にAの胃がんに対し治療が開始された場合,切除は可能であったと認めるのが相当である。そしてもし,Ⅱ期又はⅢA期のうちに切除術が実施されていれば,(2)で前述の病期分類に対応する5年生存率の比較からも明らかなように,ある程度長期の延命につながる可能性も高かったと認められる。 なお,被告は,Aの胃がんが切除し得た場合の再発可能性についても言及し,H医師も,漿 分類に対応する5年生存率の比較からも明らかなように,ある程度長期の延命につながる可能性も高かったと認められる。 なお,被告は,Aの胃がんが切除し得た場合の再発可能性についても言及し,H医師も,漿膜近くまで浸潤してきているようなボールマン3型の胃がんであった場合は,再発する段階だった可能性は十分にある旨証言する(証人H7ないし8頁。しかしながら,仮に再発可能性があるとしても,再発)の段階でこれに対する治療が実施されることになったであろうから,切除可能な段階で切除術が施行されていれば,本件のごとく切除不能のまま死亡に至るよりも延命につながったと考えるのが合理的であり,再発可能性があることが,本件における因果関係を否定する根拠とはならない。 (4)してみれば,被告が,内視鏡検査等を行い得る医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導していれば,Aの胃がんは発見され,これに対する切除術等の医療水準に見合う治療がなされることによって,Aが死亡した平成14年4月1日時点でなお生存していた高度の蓋然性が認められるから,被告の過失とAの死亡との間に因果関係が存在するというべきである。 (5)これに対し,被告は,Aの胃がんは,①本件造影画像から周堤隆起及び中央部陥凹が認められないから,肉眼分類はボールマン4型であること,②低分化型腺がんであり,Eクリニックにおける病理組織検査では印環細胞がんが認められていること,③開腹手術時の所見から著しい浸潤傾向が認められること,④G病院で実施された化学療法でもがんの縮小効果が認められていないことから,本件造影検査時点で相当程度進行(Ⅳ期)したスキルス胃がんであったと推測されるから,同時点で生命的予後を改善できるような根治手術は不可能であった可能性が高く,また,手術を実施したとしても,再,。 発した可能 時点で相当程度進行(Ⅳ期)したスキルス胃がんであったと推測されるから,同時点で生命的予後を改善できるような根治手術は不可能であった可能性が高く,また,手術を実施したとしても,再,。 発した可能性が高いから明らかな生命的予後の改善はなかったと主張するしかし,①について,Aの胃がんは,開腹手術前の造影検査及び内視鏡検査において,比較的低いながらも周堤が認められ,肉眼分類ボールマン3型であると診断されていること(乙A5号証17頁,A6号証34頁,前述)のとおり,本件背臥位二重造影像について,胃体下部から胃角部周辺への硫酸バリウムの乗りが,粘膜所見をとらえるには必ずしも十分でなく,情報量が乏しいとの指摘もあり,また,Aの胃がんは開腹手術時ですら周堤が比較的低いものであったから,本件造影検査当時の周堤はさらに低かったであろうことからすれば,本件造影画像から直ちに当時の肉眼分類がボールマン4型であったとはいい難い。なお,被告は,本件造影検査当時ボールマン4型であったものが,腫瘍中心部の萎縮・壊死による陥凹と辺縁のがん組織の増殖による周堤隆起をきたして,周堤の低いボールマン3型に変化したと主張し,これに沿う証拠もあるが(乙B4号証,B5号証,Aの開腹手術を執)刀したH医師は,Aの胃がんは,開腹手術前の検査によって周堤が比較的追える,この周堤の一部が胃壁の中に進展していくような,例えば周堤病変以外の部分(胃の大弯側等)への浸潤所見等スキルスを疑わせる所見がなく,最初からボールマン3型であったのではないかと証言するところ(証人H4頁,被告の根拠とする証拠には,この点に対する説明がなく,にわかに採) 用し難い。 ③について,H医師は,開腹手術時の進行程度からスキルスということは言えないと証言していること(証人H3頁)からすれば,Aの胃がん 証拠には,この点に対する説明がなく,にわかに採) 用し難い。 ③について,H医師は,開腹手術時の進行程度からスキルスということは言えないと証言していること(証人H3頁)からすれば,Aの胃がんがスキルス胃がん特有の③の特徴を有していたとは即断できない。また,④については,被告が根拠とする証拠(乙B4号証)を精査しても,化学療法でがんの縮小効果が認められていないことがスキルス胃がんを示唆するとの記述はない。 結局,被告の指摘する②の特徴がスキルス胃がんの特徴と一致する(ただし,①に関連して,スキルス胃がんは肉眼分類ボールマン4型を示すことが多いが,ボールマン3型のスキルス胃がんも全くないとはいえないから,Aの胃がんが肉眼分類ボールマン3型であることは,その限度で矛盾はしない)ということになるが,この特徴のみでAの胃がんがスキルス胃がんで。 あった可能性が高いとみるのは困難である。 以上によれば,Aの胃がんがスキルス胃がんであったと認めることはできず,これを前提とする被告の主張は採用できない。 争点(3)(損害)について(1)逸失利益甲B16号証,C1号証及び原告Bの本人尋問の結果によれば,Aは死亡当時(平成14年4月1日)満51歳であったが,間もなく満52歳になるところであったこと,妻との離婚により別居はしていたものの,交流していた養育すべき2人の子(原告ら)がいることが認められる。したがって,就労可能年数は15年間,生活費控除は4割とするのが相当である。 また,逸失利益の算定の基礎となる年収は,Aの具体的年収が不明であるので,当裁判所に顕著な賃金センサス平成14年高卒男子労働者平均賃金額の502万7100円によるのが相当である。 ところで,本件造影検査当時,Aの胃がんの病期はⅡ期又はⅢA期と認め られるところ,前述のと 判所に顕著な賃金センサス平成14年高卒男子労働者平均賃金額の502万7100円によるのが相当である。 ところで,本件造影検査当時,Aの胃がんの病期はⅡ期又はⅢA期と認め られるところ,前述のとおり,証拠(乙B4号証添付の資料)によれば,J病院において平成3年から平成7年の間に胃切除術を受けた患者のうち,病期分類Ⅱ期の5年生存率は71.3%,ⅢA期の5年生存率は57.6%と認められること,Aの胃がんは,スキルス胃がんであった可能性が高いとは認められないものの,進行が速く予後も悪いとされる低分化型のがんであったこと,少なくとも固有筋層まで浸潤していた可能性が高く,再発可能性も否定し得ないこと(証人H7ないし8頁,肉眼分類ボールマン3型はボー)ルマン4型と並ぶ浸潤型であり,ボールマン4型ほどではないものの予後は悪いとされること(証人H4頁,仮にAが本件造影検査から近い時点にお)いて胃切除術を受けていたとしても,胃の亜全摘又は5分の4程度の切除に加えて,広範囲のリンパ節郭清が必要であったこと(証人H11頁)が認められる。そうすると,Aは,切除術により一時的に労働不能になり,その後も労働能力の減少を来したであろうと認められるので,Aが15年間にわたって得られたであろう収入は,平均賃金の55%とみるのが相当である。 したがって,被告が賠償すべきAの逸失利益は,次のとおり,1721万9164円と認められる。 502万7100円×0.55×0.6(生活費控除)×10.3796(15年のライプニッツ係数)=1721万9164円(2)Aの慰謝料本件に現れた一切の事情を斟酌すれば,Aの受けた精神的苦痛を慰謝するには1500万円を要すると認められる。 (3)葬儀費用弁論の全趣旨により,本件と相当因果関係のある葬儀費用は150万円をもって相当と 現れた一切の事情を斟酌すれば,Aの受けた精神的苦痛を慰謝するには1500万円を要すると認められる。 (3)葬儀費用弁論の全趣旨により,本件と相当因果関係のある葬儀費用は150万円をもって相当と認める。 (4)相続,,,,以上の小計額は3371万9164円となるが原告らは相続により それぞれ1685万9582円を取得したことになる。 (5)原告ら固有の慰謝料原告らはAの子であり,固有の慰謝料の請求が認められるところ,甲B16号証,原告Bの本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,Aの死亡によって原告らが受けた精神的苦痛を慰謝するには,各200万円を要すると認められる。 (6)諸費用原告らは,証拠保全のためのカメラマン費用を請求しているが,訴訟準備費用の1つであり,本件において証拠保全が必然的なものであったとも認められないので,これを損害として被告に請求することはできない。また,原告らは,あっせん・仲裁センターへの申立費用も請求しているが,その申立ても必然的なものであったとは認められないので,同様である。 (7)弁護士費用弁論の全趣旨によれば,原告らは,本件遂行のため弁護士に委任したことが認められ,本件事案にかんがみれば,原告らが要した弁護士費用のうち被告の過失と相当因果関係のある損害はそれぞれ180万円とみるのが相当である。 (8)小括以上によれば,原告らは被告に対し,それぞれ,2065万9582円の損害賠償請求権を有することとなる。 結論 以上の次第で,原告らの被告に対する本訴各請求は,主文第1項の限度で理由があるから,これらを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項本文,64条本文を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のと 由があるから,これらを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項本文,64条本文を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官寺本明広裁判官大寄悦加
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