平成20(行ウ)12 公務外認定処分取消請求事件(通称 地公災基金静岡県支部長公務外認定処分取消)

裁判年月日・裁判所
平成23年12月15日 静岡地方裁判所
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判決文本文41,191 文字)

- 1 - 主文 1 地方公務員災害補償基金静岡県支部長が平成18年8月21日付けで原告に対してした地方公務員災害補償法に基づく公務外災害認定処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨主文同旨第2 事案の概要等本件は,原告が,原告の子であり静岡県磐田市立J小学校に勤務する教員であった亡A(以下「A」という。)が自殺したのは,上記教員としての過重な公務によりうつ病に罹患し,引き続く公務による過重な心理的負荷によりうつ病を増悪させたことよって引き起こされたものであると主張して,地方公務員災害補償基金静岡県支部長(以下「原処分庁」という。)に対し,Aの相続人として地方公務員災害補償法(以下「地公災法」という。)に基づく公務災害の認定を請求したが,平成18年8月21日付けで公務外の災害であると認定する処分 (以下「本件処分」という。)を受けたため,被告に対し,同処分の取消しを求める事案である。 1 前提事実(争いがないか,掲記の証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告は,Aの父であり,その相続人である。 イ Aは,昭和54年生まれの女性であるが,平成16年9月29日,死亡した(享年24歳)。 (2) Aの経歴Aは,静岡大学教育学部卒業後,約半年間幼稚園で調査協力員等の仕事をし,平成15年4月から1年間,静岡県磐田市立J小学校(以下「J小学校」という。)- 2 -において教員補助業務に従事した。 その後,Aは,静岡県静岡市公立学校教員として採用され,平成16年4月1日にJ小学校に着任し,以後4年2組の担任として勤務していた。 (3) うつ病の診断Aは,平成16年8月25日,教職員健康相談の 後,Aは,静岡県静岡市公立学校教員として採用され,平成16年4月1日にJ小学校に着任し,以後4年2組の担任として勤務していた。 (3) うつ病の診断Aは,平成16年8月25日,教職員健康相談の制度を利用して臨床心理士のカウンセリングを受けており,担当した臨床心理士は,当時のAについて抑うつ状態にあったとの診断をしている。 (4) Aの自殺Aは,平成16年9月29日午前5時ころ,K町スポーツセンター内駐車場に停車した自家用車内に火を付け,焼身自殺した(以下「本件自殺」という。)。 (5) 本件訴訟に至る経緯ア原告は,平成16年12月22日付けで原処分庁に対し,本件自殺に関して地公災法に基づく公務災害認定請求をしたが,原処分庁は,平成18年8月21日付けで本件処分(公務外災害認定処分)をした。 イ原告は,本件処分を不服として,平成18年10月3日付けで地方公務員災害補償基金静岡県支部審査会に対し審査請求をしたが,同支部審査会は,平成19年12月20日付けでこれを棄却する旨の裁決をした。 ウさらに,原告は,平成20年1月16日付けで地方公務員災害補償基金審査会に対し再審査請求をしたが,その後3か月を経過しても裁決がなされなかったので,同年7月4日,本件訴訟を提起した。 エその後,地方公務員災害補償基金審査会は,平成20年7月24日付けで上記再審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲23)。 (6) 判断指針の策定とその内容等(甲81,甲82)ア厚生労働省(以下,中央省庁等改革基本法等の実施に伴う厚生労働省設置法以前の労働省を含む。)は,心理的負荷による精神障害等に係る労災請求事案が増加したことから設置された,精神障害等の労災認定に係る専門検討委員会の検討結- 3 -果報告を踏まえて,「心理的負荷による精神障害等に係 含む。)は,心理的負荷による精神障害等に係る労災請求事案が増加したことから設置された,精神障害等の労災認定に係る専門検討委員会の検討結- 3 -果報告を踏まえて,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(平成11年9月14日付け基発第544号。平成21年4月6日付け一部改正。以下「判断指針」という。)を策定・発出した。 イ診断指針の要旨は,以下のとおりである。 (ア) 基本的な考え方労災請求事案の処理に当たっては,まず,精神障害の発病の有無等を明らかにした上で,業務による心理的負荷,業務以外の心理的負荷及び個体側要因の各事項について具体的に検討し,それらと当該労働者に発病した精神障害との関連性について総合的に判断する必要がある。 (イ) 対象疾病判断指針で対象とする疾病は,原則として,国際疾病分類第10回修正(以下「ICD-10」という。)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害とする。 (ウ) 判断要件について次のa,b及びcの要件のいずれをも満たす精神障害は,労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する疾病として取り扱う。 a 対象疾病に該当する精神障害を発病していること。 b 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に,客観的に当該精神障害を発病させるおそれのある業務による強い心理的負荷が認められること。 c 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により当該精神障害を発病したとは認められないこと。 (エ) 判断要件の運用について労災請求事案の業務上外の判断は,まず,後記aにより精神障害の発病の有無等を明らかにし,次に後記bからdまでの事項について検討を加えた上で,後記eに基づき行う。 a 精神障害の判断等- 4 -精神障害の発病の有無,発病時期及び疾患名の判断に当たっては, 病の有無等を明らかにし,次に後記bからdまでの事項について検討を加えた上で,後記eに基づき行う。 a 精神障害の判断等- 4 -精神障害の発病の有無,発病時期及び疾患名の判断に当たっては,ICD-10作成の専門家チームによる「臨床記述と診断ガイドライン」(以下「ICD-10診断ガイドライン」という。)に基づき,治療経過等の関係資料,関係者からの聴取内容,産業医の意見,業務の実態を示す資料,その他の情報から得られた事実関係により行う。 なお,精神障害の治療歴のない事案については,関係者からの聴取内容等を偏りなく検討し,ICD-10診断ガイドラインに示されている診断基準を満たす事実が認められる場合,あるいはその事実が十分に確認できなくても種々の状況から診断項目に該当すると合理的に推定される場合には,当該疾患名の精神障害が発病したものとして取り扱う。 対象疾病のうち主として業務に関連して発病する可能性のある精神障害は,ICD-10のF0からF4に分類される精神障害である。 b 業務による心理的負荷の強度の評価(a) 出来事の心理的負荷の評価精神障害発病前おおむね6か月の間に,当該精神障害の発病に関与したと考えられる業務による出来事について,判断指針の別表1「職場における心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)(1)により,平均的な心理的負荷の強度をⅠ(日常的に経験する心理的負荷で一般的に問題とならない程度の心理的負荷),Ⅱ(Ⅰ及びⅢの中間に位置する心理的負荷)及びⅢ(人生の中でまれに経験することもある強い心理的負荷)のいずれかに評価する。 次に,別表1(2)により,その強度を修正する必要がないかを検討する。 (b) 出来事に伴う変化等による心理的負荷の評価出来事に伴う変化等について,別表1(3)の各項目に基づき,そ に評価する。 次に,別表1(2)により,その強度を修正する必要がないかを検討する。 (b) 出来事に伴う変化等による心理的負荷の評価出来事に伴う変化等について,別表1(3)の各項目に基づき,それがその後どの程度持続,拡大あるいは改善したかについて検討し,心理的負荷の評価に当たり考慮すべき点があるか否かを検討する。 (c) 業務による心理的負荷の強度の総合評価- 5 -原則として,以上の手順により評価した心理的負荷の強度の総合評価として,①別表1(2)により修正された心理的負荷の強度が「Ⅲ」と評価され,かつ,別表1(3)による評価が「相当程度過重」(別表1(3)の各々の項目に基づき,多方面から検討して,同種の労働者と比較して業務内容が困難で,業務量も過大である等が認められる状態)であると認められるとき,及び,②別表1(2)により修正された心理的負荷の強度が「Ⅱ」と評価され,かつ,別表1(3)による評価が「特に過重」(別表1(3)の各々の項目に基づき,多方面から検討して,同種の労働者と比較して業務内容が困難であり,恒常的な長時間労働が認められ,かつ,過大な責任の発生,支援・協力の欠如等特に困難な状況が認められる状態)であると認められるときには,別表1の総合評価が「強」として,客観的に精神障害を発病させるおそれのある程度の心理的負荷を認めることとする。 c 業務以外の心理的負荷の強度の評価発病前おおむね6か月の間に起きた客観的に一定の心理的負荷を引き起こすと考えられる出来事について,判断指針の別表2「職場以外の心理的負荷評価表」により評価する。 d 個体側要因の検討既往歴,生活史(社会適応状況),性格傾向等に個体側要因として考慮すべき点が認められれば,それが客観的に精神障害を発症させるおそれのある程度のものと認められるか 評価する。 d 個体側要因の検討既往歴,生活史(社会適応状況),性格傾向等に個体側要因として考慮すべき点が認められれば,それが客観的に精神障害を発症させるおそれのある程度のものと認められるか否かについて検討する。なお,性格傾向については,それまでの生活史を通じて社会適応状況に特別の問題がなければ個体側要因として考慮する必要はない。 e 業務上外の判断に当たっての考え方調査の結果,業務による心理的負荷の強度が「強」と認められる場合,業務以外の心理的負荷や個体側要因が精神障害発症の有力な原因となったと認められる状況がある場合等を除き,業務起因性が認められる。 (オ) 自殺の取扱い- 6 -業務による心理的負荷によって精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定し,原則として業務起因性が認められる。 2 争点及びこれに関する当事者の主張本件の争点は,本件自殺と公務との間に公務起因性(相当因果関係)があるか否かであり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 原告の主張ア公務起因性の判断基準について(ア) 地方公務員災害補償制度の趣旨からみたあるべき基準としての共働原因説a 地方公務員災害補償制度は,労働災害補償制度と基本的性格を同じくするものであり,沿革的には責任保険として出発したが,その後の改正等により,生活保障重視による保障の充実拡大がなされ,現在では労働権,生存権の保障を基本理念とするに至っている。 すなわち,地公災法1条に,「この法律は,(中略)地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」 され,現在では労働権,生存権の保障を基本理念とするに至っている。 すなわち,地公災法1条に,「この法律は,(中略)地方公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。」とあるのは,地方公務員災害補償制度が,生活保障,生存権,勤労権を重視した法定救済制度であることを示すものである。 b 上記地方公務員災害補償制度の趣旨からすると,公務と疾病との間の相当因果関係(公務起因性)は,民事損害賠償制度における相当因果関係よりも緩やかに解すべきであり,積極的に被災者を救済する姿勢,すなわち疑わしきは被災者救済のためにという姿勢で運用すべきである。 具体的には,公務が原因となってうつ病を発症した上,うつ病の症状である自殺念慮から自殺に至った場合には,当該自殺と公務との間の相当因果関係を認め,当該自殺には公務起因性があるものと解すべきである。 そして,この場合,うつ病の発症が公務による負荷を唯一の原因とする必要はな- 7 -く,公務による負荷が他の原因と共働原因となって,うつ病を発症若しくは増悪させたと認められる場合にも,公務起因性が認められるべきである(共働原因説)。 (イ) 仮に共働原因説によらない場合にとるべき判断基準仮に,地方公務員災害補償制度について,公務に内在又は随伴する危険が現実化した場合にそれによって労働者に発生した損失を補償するものと解し,公務と疾病・死亡との間の条件関係に加えて,その公務がその疾病等の発生の危険を含むものとの評価ができる場合に相当因果関係があるとする,いわゆる公務内在危険現実化説に立つ場合には,以下の判断基準によるべきである。 すなわち,企業や国,自治体等に使用されそのもとで働く労働者(職員)の性格傾向は多様であることに照らせば,当該精神疾患を発症・増悪させる一定程度 説に立つ場合には,以下の判断基準によるべきである。 すなわち,企業や国,自治体等に使用されそのもとで働く労働者(職員)の性格傾向は多様であることに照らせば,当該精神疾患を発症・増悪させる一定程度以上の危険性の有無については,被災労働者及びその家族・遺族の生活の補償を主たる目的とするという労災補償制度の趣旨に鑑みれば,同種労働者の中でその性格傾向が最も脆弱である者を基準とするのが相当である。 そして,被災労働者の性格傾向が同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,当該労働者を基準として,当該業務に社会通念上,当該精神疾患を発症・増悪させる一定程度以上の危険性があったか否かを判断すればよいというべきである。 イうつ病の発症時期と心理的負荷の評価期間について(ア) H医師は,その意見書において,Aのうつ病の発症時期を平成16年5月末から6月初旬であり,罹患した病名を「大うつ病性障害」(DSM-IV-TR)であると判断しており,Aのうつ病発症時期については,上記時期と解するのが相当である。 これに対して,被告提出のI医師の意見書においては,Aのうつ病の発症時期は,平成16年5月18日前後とされているが,ICD-10診断ガイドラインによれば,うつ病エピソードは,軽症うつ病エピソードであっても基本症状が少なくとも2つ以上,さらにほかの症状が2つ以上存在し2週間以上続くことと定義されてい- 8 -るにもかかわらず,同医師の意見書は,うつ病エピソードの症状のうち一つでも現れた時点で発症と考えている点で妥当でない。そして,H医師の意見書は,初任者研修資料「基本」(初任者研修実践記録)(甲4。以下「初任者研修資料」という。)や,指導週案(甲62)を始めとした本件訴訟におけるほぼ全ての書証の内容や,心理学的 。そして,H医師の意見書は,初任者研修資料「基本」(初任者研修実践記録)(甲4。以下「初任者研修資料」という。)や,指導週案(甲62)を始めとした本件訴訟におけるほぼ全ての書証の内容や,心理学的剖検というアプローチにより,Aの遺族である同人の母と妹に対する8時間以上にもわたる面接から得られた情報を判断の基礎としているので,I医師の意見書に比して,より正確性,信用性を備えているものである。 (イ) 被告は,精神疾患を発症させる前の公務のみをもって公務起因性を判断すべきであると主張するが,精神疾患の発症について公務起因性が認められるか否かを問わず,発症後の公務による心理的負荷により精神障害が増悪した場合もまた,公務起因性は認められるべきであるから,同疾患発症後の心理的負荷も,公務起因性の判断に当たっては当然考慮されるべきである。 そして,Aの精神的な不調は,平成16年6月になると「元気がない」,「顔色が良くない」,「言動がおかしい」等と他の教諭も感じるまでに悪化し,同年7月になると養護教諭に対して不眠や食欲減退,仕事が手につかないこと等を相談するようになり,また,同年8月には臨床心理士のカウンセリングを受けるほど心身の不調を自覚するようになった上,同年9月には,「神様私を助けてください」等といった切羽詰まった様子の日記を書くまでに至っており,Aはうつ病発症後の公務により病状が増悪して自殺したものであるから,こうしたうつ病発症後の状態を含めた一連の経緯を総合考慮して公務起因性を判断すべきである。 ウ本件自殺の公務起因性判断指針に照らして,Aの自殺に至る経過から,同人の心理的負担を検討すると,本件自殺に公務起因性があることは明らかである。 (ア) 公務の過重性aAは新規採用教員であったことそもそも,Aは,新規採用教 て,Aの自殺に至る経過から,同人の心理的負担を検討すると,本件自殺に公務起因性があることは明らかである。 (ア) 公務の過重性aAは新規採用教員であったことそもそも,Aは,新規採用教員であったため,Aにとってクラス担任を受け持つ- 9 -ということ自体に既に多くの困難があった。 bAが従事した超過勤務Aは,週に18ないし19時限の授業を担当していた上,授業の他にも様々な業務があったから,同人の公務は到底所定労働時間内に収まるものではなかった。 そこで,Aは,朝7時に出勤した上,早くとも19時までは残業をし,帰宅後も寝るまでの間2時間程度持ち帰り残業をし,また,平日のみならず休日も,様々な公務に取り組んでいた。 このようなAの超過勤務を前提にすると,Aについては1日当たり少なくとも5時間15分,月に100時間近い超過勤務が行われている状況であった。 これに対し,被告はAの時間外労働が月17ないし22時間程度であったと主張するが,かかる時間外勤務の時間数は,午前7時15分から8時までの45分間の超過勤務が無視されていること,自宅での持ち帰り残業が無視されていること等の問題があり,明らかに誤りである。 c 児童Nの存在上記のとおり,Aはクラスを初めて担任し,学級運営をしていくというだけでも多くの困難を有していたにもかかわらず,Aが担任した4年2組には,集団行動や他の児童と同じ行動がとれず,多動性・衝動性がみられる児童Nがいた。 児童Nは,平成16年4月当初から他の児童を叩いて怒らせて,追いかけられるのを楽しんだり,他の児童が発表しているときに大声で発言をして妨害したりする等,毎日のように様々な問題行動をとった。 このような児童Nの問題行動は,注意力散漫,多動性,衝動性という性質を示しており,こ しんだり,他の児童が発表しているときに大声で発言をして妨害したりする等,毎日のように様々な問題行動をとった。 このような児童Nの問題行動は,注意力散漫,多動性,衝動性という性質を示しており,これらはAD/HD(注意欠陥・多動性障害)に特徴的なものであるが,かかる注意力散漫,多動性,衝動性を示す児童Nを指導することは,指導が通らず授業が成立しないことによる自信喪失や焦燥感,緊張感等の大きな精神的負担や肉体的負担を伴う困難な職務であり,ましてや新規採用教員であるAにとっては,極めて大きな負荷であった。 - 10 -d 4年2組には他にも個別指導を要する児童が多数存在したこと平成16年度のJ小学校の4年生のクラスを担任する教諭は,Aを除き,20年以上の経験を有するベテラン教師であったのであるから,学級編成についてAに特段の配慮がなされてしかるべきであったにもかかわらず,Aが担任した4年2組には,学級編成の段階で「配慮していく児童」として申し送りのあった児童や,その他特記すべき指導上の問題点,配慮事項を抱える児童が多数存在した。 e 4年2組は学級がうまく機能しない状況に陥っていたこと文部科学省は「子どもたちが教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず,授業が成立しないなど,集団教育という学校の機能が成立しない学級の状態が一定期間継続し,学級担任による通常の手法では問題解決ができない状態に立ち至っている場合」を「学級がうまく機能しない状況」 と定義づけるが,Aが担任した4年2組は,まさにこの状況に陥っていた。 つまり,4年2組の児童は,平成16年4月当初から立て続けに問題行動を起こす児童が存在し,これに他の児童も便乗してAの指導に従わず,授業が成り立たないという状況が日常的であったのである。 fAに対する支援体制 児童は,平成16年4月当初から立て続けに問題行動を起こす児童が存在し,これに他の児童も便乗してAの指導に従わず,授業が成り立たないという状況が日常的であったのである。 fAに対する支援体制の不足上記のとおり,4年2組は,児童Nによる問題行動を中心として学級がうまく機能しない状況に陥っていたところ,かかる窮状に立たされた新規採用教員であるAに対する支援体制の在り方としては,児童が問題行動を起こしたときに駆けつけてその場をなだめるといった場当たり的・応急的・一過的なものであってはならず,まず教務主任や学年主任が中心となって対処方針を立て,教頭や校長にも報告して対策会議を開き,問題意識を共有し,問題性のレベルに応じて様々な段階や形はあるものの,いずれにせよ組織的・継続的な支援を行うことが必要であった。 しかしながら,J小学校においてAに対して行われた支援は,騒ぎがあったときだけ来てA又は児童を肉体的・物理的に防御するガードマン的対応にすぎず,いかにして学級運営の機能を維持・回復させるかという観点が完全に欠落していた。ま- 11 -た,4年2組の問題状況について管理職が情報を共有できる唯一の機会であるはずの高学年部(学年主任)会議である「なっとうく会議」においても,上記のような組織的・継続的支援が検討された形跡はなく,Aについて,「家庭はキリスト教,毎日曜日教会へ出かける」,「思いこみ激しい,つまらぬプライド強し」等といった偏見に満ちた批判がなされていることからしても,周囲から適切な支援を得られていなかったことは明らかであり,このことによりAが孤立感を深め,心理的負荷をさらに増幅させていったものである。 g 研修主任及び教頭からのパワーハラスメント平成16年6月25日朝,Aが1時限の前に教室で休んでいたところ,研修主任 によりAが孤立感を深め,心理的負荷をさらに増幅させていったものである。 g 研修主任及び教頭からのパワーハラスメント平成16年6月25日朝,Aが1時限の前に教室で休んでいたところ,研修主任であるB教諭は,Aが教室の後ろで騒いでいた児童を指導していなかったことをもって,児童からも認識し得るような状況の下で,「アルバイトじゃないんだぞ。ちゃんと働け」と叱責した。また,B教諭は,遅くとも同年7月17日までの時期に,「悪いのは児童Nではない。お前だ。お前の授業が悪いからNが荒れる」等とAを叱責した。さらには,同年9月22日,C教頭は,4年2組で児童Nと他の児童とのトラブルが生じたことについて,「同じ教室内にいて何で止められないんだ。お前は問題ばっかり起こしやがって」と叱責した。 上記のとおりAは,B教諭やC 教頭からのパワーハラスメントを受け,かかるパワーハラスメントは,強い心理的負荷を負いながら懸命に公務を遂行していたAにとり,自らの努力や能力を否定される,極めて強い精神的打撃を与えるものであった。 (イ) Aに脆弱性はないこと被告は,Aが授業を放棄してしまったこと等を指して,同人が未熟で社会適応性が低く,性格上の脆弱性を有していたと主張するが,同人が従事していた上記職務の困難性とそれによる心理的負荷の大きさからして,新規採用教員である同人が涙を流してしまったり,授業ができなくなってしまったりしたことも無理からぬことであり,Aが悩みを抱え込んでいたことも,教師としての責任感を有しているこ- 12 -との表れであるから,Aに特筆すべき脆弱性はない。 (ウ) 判断指針による公務過重性の判断上記(ア)のAに心理的負荷を与える出来事を判断指針に基づき検討すると,出来事類型の「仕事の量・質の変化」のうち,「仕事内容・仕事量の大き 脆弱性はない。 (ウ) 判断指針による公務過重性の判断上記(ア)のAに心理的負荷を与える出来事を判断指針に基づき検討すると,出来事類型の「仕事の量・質の変化」のうち,「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」及び「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」と,同類型「役割・地位等の変化」のうち,「配置転換があった」,同類型「仕事の失敗,過重な責任の発生等」のうち,「達成困難なノルマが課された」,同類型「対人関係のトラブル」のうち,「上司とのトラブルがあった」,同類型「対人関係の変化」のうち,「理解してくれた人の異動があった」にそれぞれ該当し,これらはいずれも心理的負荷の強度がⅠないしⅢに該当するものである。 エ因果関係の中断がないことそして,Aはうつ病により正常な認識,行為選択能力が著しく阻害されている状態で自殺したといえるから,故意による自殺とは認められず,因果関係は中断しない。 オまとめ以上のとおり,Aは,過重な公務によって,平成16年5月末から6月上旬ころうつ病に罹患し,さらに,引き続く公務による過重な心理的負荷によってうつ病を増悪させ,本件自殺に至ったものである。 したがって,J小学校におけるAの公務と,前記うつ病及び本件自殺との間には,相当因果関係があることは明らかであり,本件自殺には公務起因性がある。 (2) 被告の主張ア公務起因性の判断基準について(ア) 公務に内在する危険の現実化が要求されること災害補償責任は,使用者が労働契約に基づき労働者を支配下に置き,使用従属関係の下で労務を提供させる過程で,労働者が業務に内在する各種の危険の現実化として負傷し,又は疾病にかかった場合に,使用者の過失の有無を問わず,労働者に- 13 -生じた損失を填補すべきものと解さ 係の下で労務を提供させる過程で,労働者が業務に内在する各種の危険の現実化として負傷し,又は疾病にかかった場合に,使用者の過失の有無を問わず,労働者に- 13 -生じた損失を填補すべきものと解されるが,かかる災害補償制度の趣旨からすれば,公務起因性が認められるためには,被用者の負傷又は疾病が,公務に内在する危険の現実化であるといえるものでなくてはならない。 (イ) 公務が単なる誘因にすぎない場合には公務起因性が認められないこと地公災法施行規則1条の2(平成15年9月12日総務省令第115号による。)は,公務上の災害の範囲は,公務に起因する負傷,障害及び死亡並びに別表第一に掲げる疾病とする旨規定しており,うつ病は,同条別表第一のうち,「八前各号に掲げるもののほか,公務に起因することが明らかな疾病」(以下「包括疾病」という。)に該当するかどうかが問題になるところ,包括疾病の場合には,職業病と異なり,特定の有害因子を内在する特定の業務に従事することにより,特定の疾病に罹患するという因果関係が医学経験則上認められていないのであるから,通常の業務と比較して特に過重な業務に従事した場合に初めて,公務に内在する危険が現実化して当該疾病が発症したと評価できる。 そして,かかる立場からは,公務が当該疾病発生の単なる誘因にすぎない場合には,公務起因性が認められないことは当然である。 (ウ) 誰を基準にして公務起因性を判断するか前記(イ)のとおり,包括疾病の場合には,通常の業務と比較して特に過重な業務に従事した場合に初めて,公務に内在する危険が現実化して当該疾病が発症したと評価できるのであるが,かかる公務に内在する危険は,個別的,主観的なものではなく,当該職員と同種の公務に従事し,又は当該公務に従事することが一般的に許容される程度の心身の健 して当該疾病が発症したと評価できるのであるが,かかる公務に内在する危険は,個別的,主観的なものではなく,当該職員と同種の公務に従事し,又は当該公務に従事することが一般的に許容される程度の心身の健康状態を有する職員を基準として判断されるべきである。 イうつ病の発症時期と発症後の出来事について(ア) I医師は,その意見書において,Aについてのうつ病の確定診断時期を平成16年5月18日前後としており,かかるI医師の意見書は,うつ病の中核症状を的確に捉えた上での診断であり,極めて妥当である。 - 14 -また,上記5月18日前後とは,あくまで確定診断の時期であり,I医師が用いたICD-10の基準によれば,うつ病エピソードは,重症度の如何に関係なく,普通少なくとも2週間の症状持続が必要とされていることからすれば,Aが同年4月中にうつ病を発症していたというべきである。 これに対して,H医師の意見書によれば,Aのうつ病発症時期については,平成16年5月末から6月初旬とされているが,同意見書は,Aについて同年4月ころから職業的機能障害や抑うつ気分等のうつ病の症状が出現し,同年5月上旬ないし中旬ころにはうつ病の中核症状が現れているにもかかわらずそれを無視しており妥当でなく,そもそも,同医師の意見書の作成に当たって用いられた心理学的剖検とは,本来,不審死事例が発生した場合できるだけ速やかに,複数でチームを組み,近親者等に対する面接を含む,不審死した人に関する生前の情報を可能な限り収集し分析する方法であるところ,H医師は,かかる手法をAの死後5年以上も経過してから,同医師単独で,Aの母及び生前のAと同居していなかった妹という限られた者のみを面接して行っているのであって,上記手法が正確に行われたとはいえないから,同医師の診断は信用できない。 上も経過してから,同医師単独で,Aの母及び生前のAと同居していなかった妹という限られた者のみを面接して行っているのであって,上記手法が正確に行われたとはいえないから,同医師の診断は信用できない。 (イ) そして,Aのうつ病は,治癒することなく,本件自殺に至るまで継続していたのであるから,同自殺は,うつ病発症後の自然な流れの結果の一つである。すなわち,うつ病における自殺念慮は,うつ病の症状の程度・時期を問わず認められるものであるから,公務起因性の判断に当たって問題となるのはうつ病発症の原因そのものであって,発症後の症状の程度及びその変化は,公務起因性の判断に当たって一切考慮されるべきではない。 ウ本件自殺の公務起因性以上のとおり,Aは,平成16年4月中にはうつ病を発症し,5月18日前後には確定診断が可能であるが,この間,以下のとおり公務が過重であったとは認められないから,本件自殺に公務起因性はない。 (ア) 公務の過重性- 15 -aAが新規採用教員であったことについて原告は,Aは新規採用教員で学級担任の経験がなかったことを,公務の過重性を裏付ける事情の一つとして主張する。 しかしながら,新規採用教員のほとんどがいずれかのクラスの学級担任となることから,新規採用教員で学級担任の経験がなかったということだけでは,何ら過重であったということはできない。そして,新規採用教員であるAについては,担当学年や,担当児童数,担当児童の面で問題が少ないと思われた4年2組を担任するように配慮したものである。また,そもそもAは,平成16年にJ小学校に赴任する以前,大学の教育学部で綿密な教員養成カリキュラムを受け,前年度の4月1日から1年間J小学校の教員補助業務を行っていたのであり,Aは,ある程度慣れた環境の中で教員生活をスタ 年にJ小学校に赴任する以前,大学の教育学部で綿密な教員養成カリキュラムを受け,前年度の4月1日から1年間J小学校の教員補助業務を行っていたのであり,Aは,ある程度慣れた環境の中で教員生活をスタートしたものといえるから,通常の新規採用教員と比べれば,むしろ心理的負荷は相当軽減されていた。 bAが従事した超過勤務平成16年4月からAがうつ病を発症する同年5月18日までの勤務日数は,4月が21日,5月が9日であり,そのうち授業を行ったのは27日である。 また,Aが担当していた授業数も,他の教員と共同での授業も含めて週18ないし19時限にすぎず,これは新規採用教員として,ごく普通のものである。 さらに,Aの従事した時間外勤務は,平成16年4月が約21時間,同年5月が約22時間であり,これは格別多いとはいえない。これに対し,原告は,上記時間外勤務の時間数は,①午前7時15分から8時までの45分間の超過勤務が無視されていること,②自宅での持ち帰り残業が無視されていること等から,Aが実際には同年4月当初から少なくとも平日1日当たり5時間15分の時間外労働を行っていたと主張する。しかしながら,①については,社会人にとって始業時間前に余裕をもって早めに出勤することは常識であり,Aが午前7時15分から公務に従事しなければならなかった特段の事情も認められないから,これを時間外労働時間数に- 16 -考慮することはできない。また,②についても,Aが自宅で仕事をしていたかは不明であるし,そもそも,Aが自宅で何らかの作業を行っていたとしても,これは何ら使用者の指揮命令に基づいて行われたものではない。 c 児童Nの存在について原告は,児童NがAD/HDであり,様々な問題行動を起こしたと主張する。 しかしながら,医師の診断等に照らせば ら使用者の指揮命令に基づいて行われたものではない。 c 児童Nの存在について原告は,児童NがAD/HDであり,様々な問題行動を起こしたと主張する。 しかしながら,医師の診断等に照らせば,児童NはAD/HDではなかったし,その疑いがある児童でもなかった。また,児童Nは,Aが担任するまでは特に指導困難な児童ではなく,5年次以降も同様であった。そうであるとすれば,Aが児童Nの指導をうまく行うことができなかったのは,児童Nを担任するようになってから1か月も経たないうちに児童NをAD/HDであると決めつけ,児童Nとの信頼関係を築くことができなかったAの態度にこそ原因があるというべきである。 d 4年2組には他にも個別指導を要する児童が多数存在したことについて原告は,4年2組に指導困難な児童が多数いたかのような主張をするが,これはAの主観に基づくものであり,事実に反する。 すなわち,学級編成表によれば,4年2組の生徒はいずれも新規採用教員でも対応可能な児童であり,客観的にみて学習面や行動面で著しい困難を示す児童はいなかった。Aが新規採用教員であることを考慮しても,このようなクラスを担任したのであれば,通常,それなりの困難はあっても,他の教員に相談し,アドバイスを受けながら,十分乗り越えられるはずであり,Aが4年2組の児童に対する指導に困難を抱えていたのは,同人の学級運営方法によるものであるといわざるを得ない。 e 4年2組が学級が機能しない状況に陥っていたことについてAがうつ病を発症する以前に4年2組で生じたトラブルは,いずれも日常起こり得る出来事で,それほど深刻なものではなかったのであり,これらは新規採用教員を含め,ほとんどの担任が経験するものであった。このように,客観的にみれば,4年2組が学級が機能しない状況に陥 も日常起こり得る出来事で,それほど深刻なものではなかったのであり,これらは新規採用教員を含め,ほとんどの担任が経験するものであった。このように,客観的にみれば,4年2組が学級が機能しない状況に陥っていたことはなく,これは平成16年5月14日に,児童らがAを励ます会を開いていたことからも明らかである。 - 17 -fAに対する支援体制の不足について原告は,Aに対する支援体制が不十分であったと主張するが,Aは,「拠点校方式」に基づく計画的な研修を受けており,新規採用教員に対する丁寧な指導を受けていたのであるから,学級運営や授業の方法について困ったことがあれば,拠点校指導教員であるD教諭や校内指導教員であるE教諭を始めとして他の教員に相談することが可能な環境にあった。また,Aに対しては,高学年部会である「なっとうく会議」において同人を他の教員の皆で支援することが確認され,実際に,Aは周囲の色々な教員から様々な援助を受けていた。さらには,Aが授業放棄をした際には他の教員が代わりの授業を行い,B教諭やC教頭が空き時間を利用して4年2組の指導補助をする等,Aに対しては特別の支援が行われていた。 このようにAは他の教員から十分な支援を受けていたのであるが,A自身がこれを拒否して自ら問題を抱え込んでいたものである。そもそも,新規採用教員は,日々のクラス運営に苦労しながら教員としての力量を身に付けていくのであって,新規採用教員を育てるという観点に立てば,他の教員がどこまで新規採用教員を支援すべきかは慎重に判断されるべき事柄であるところ,現実の職場において初任者に対して通常なされるべき支援がなされたのかという観点に立てば,Aに対しては,通常なされるべき支援がなされているのはもちろん,通常の新規採用教員に対する以上の特別の支援がなされていたと おいて初任者に対して通常なされるべき支援がなされたのかという観点に立てば,Aに対しては,通常なされるべき支援がなされているのはもちろん,通常の新規採用教員に対する以上の特別の支援がなされていたというべきである。 g 研修主任及び教頭からのパワーハラスメントについて原告が,Aに対するパワーハラスメントとして主張する各事実については,いずれもAがうつ病を発症した平成16年5月18日前後以降の出来事であるから,そもそも公務の過重性とは無関係である上,B教諭が「悪いのは児童Nではない。お前だ。お前の授業が悪いからNが荒れる」等とAを叱責したことはないし,C教頭が「同じ教室内にいて何で止められないんだ。お前は問題ばっかり起こしやがって」等と発言したこともない。また,B教諭がAに対し「アルバイトじゃないんだぞ。 ちゃんと働け」と叱責したことは事実であるが,これはAが児童らが騒いでいるの- 18 -を放置して休んでいたことに対する当然の指導である。 (イ) Aの脆弱性以上のとおり,Aの公務による心理的負荷が客観的にみてうつ病を発症させるほど過重なものであったとは到底認められないところであり,それにもかかわらず,Aがうつ病を発症したとすれば,そのうつ病は,Aの個体側要因(個体側の反応性,脆弱性)に起因するものといわざるを得ない。すなわち,Aは,真面目で几帳面な性格であるが変化に対応できず,周囲に意見を求める反面,自分の意見を押し通そうとしたり,涙を流したりする等感情をコントロールできず,ことあるごとに定時帰宅をしたいと管理職に申し出る等精神的に未熟な面があり,他人に相談することが苦手で悩みを抱え込むという性格上の脆弱性を有していたことがうかがわれるのであって,結局,Aがうつ病を発症した主な原因は,同人の個人的な要因によるものである。 未熟な面があり,他人に相談することが苦手で悩みを抱え込むという性格上の脆弱性を有していたことがうかがわれるのであって,結局,Aがうつ病を発症した主な原因は,同人の個人的な要因によるものである。 (ウ) 原告による判断指針に基づく公務起因性判断の誤り以上のとおり,Aに心理的負荷を与えた出来事は,いずれも新規採用教員として日常的に経験するものであり,かかる事情をもって,公務が過重であったということは到底できない。なお,原告は,Aが新規採用教員であったことをもって,判断指針の出来事類型「仕事の量・質の変化」のうち,「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」及び「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」や,同類型「役割・地位等の変化」のうち,「配置転換があった」に当たると主張するが,これでは,新規採用者であれば誰でもこれに当たることになってしまい,妥当でない。また,Aについて,同類型「仕事の失敗,過重な責任の発生等」のうち,「達成困難なノルマが課された」や,同類型「対人関係のトラブル」のうち,「上司とのトラブルがあった」に該当するような事実は存在しないから,原告の主張は失当である。 エ因果関係の中断があること労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)12条の2の2第1項は,- 19 -「労働者が,故意に負傷,疾病,障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは」,保険給付を行わないと定めている。そして,地公災法には,明文の規定はないものの,故意によって因果関係が中断することは,労災保険法と同趣旨の地公災法であっても同様である。ここで,公務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害さ 法と同趣旨の地公災法であっても同様である。ここで,公務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で,自殺が行われたものと推定されるが,具体的な状況から事理弁識能力を有すると認められる場合には,因果関係を自らの意思で中断したのであるから,やはり「故意」による自殺とみるべきである。 そして,Aは,自殺直前まで支障なく公務を遂行し,コンビニエンスストアでライターを,ガソリンスタンドで灯油を購入し,車両内で焼身自殺を図ったものであり,かかる自殺は事理弁識能力を欠いた結果の行動とは考えられず,自己の行為の結果を十分に認識した上での行為であるから,上記因果関係の中断があったことは明らかである。 オまとめ以上のとおり,Aの公務と本件自殺との間に因果関係は認められないから,本件自殺に公務起因性はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に証拠(文中又は文末の括弧内に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 (1) Aの健康状態,性格,経歴等Aは,本件自殺当時24歳であったが,特に持病はなく,学生時代に行っていたアルバイトや平成15年度に行っていたJ小学校における教員補助業務も,大きな問題もなく行っていた(証人G,弁論の全趣旨)。 Aは,真面目で責任感が強いところがあった反面,自分の思いを貫こうとする気- 20 -持ちが強く,人に頼ることが苦手な面があった(甲17の1ないし11)。 (2) Aの勤務状況ア 4年2組の学級編成(ア) 平成16年度の静岡県の小学校における新規採用教員は259名であったが,このうち2 人に頼ることが苦手な面があった(甲17の1ないし11)。 (2) Aの勤務状況ア 4年2組の学級編成(ア) 平成16年度の静岡県の小学校における新規採用教員は259名であったが,このうち254名が学級担任となっていた(乙9の2)。一般に,小学校の新規採用教員は,指導に相当な経験を要する高学年や1年生を担任することはなく,2年生ないし4年生を担任するのが通常であった(乙9の2,弁論の全趣旨)。 (イ) Aが担任した4年2組は,男子児童17名,女子児童15名の合計32名のクラスであったが,平成16年当時J小学校の4年生の他のクラスの児童数は,4年1組が31名,4年3組が31名,4年4組が32名であった(甲9,甲63)。 そのうち,平成16年度のクラス編成のために作成された資料である「配慮していく児童」(甲64)によれば,指導に特別の配慮を要する児童として前年度の学級担任からの申し送りのある児童は,4年1組に2名,4年2組に4名,4年3組に2名,4年4組に3名存在した。また,上記4クラスに割り振られた外国人児童は,1組が2名,2組が2名,3組が1名,4組が3名であった(甲65,弁論の全趣旨)。なお,平成16年度にJ小学校の4年生を担任した教諭は,A以外は,いずれも同年9月末時点の教師経験年数が20年を超えていた(甲63,弁論の全趣旨)。 イ Aの担当業務Aが担当する1週間の授業数としては,19時限の週と18時限の週が隔週であったほか,同人は,静岡県教育委員会で定められた初任者研修を週6時間受けていた(甲63)。 ウ Aの勤務時間J小学校におけるAの勤務時間は,平日午前8時から午後4時45分(ただし,昼休み45分を除く)の8時間であった(甲63)。また,うさぎの世話当番や,社会見学のための資料収集,PTA活動等で休日出勤す J小学校におけるAの勤務時間は,平日午前8時から午後4時45分(ただし,昼休み45分を除く)の8時間であった(甲63)。また,うさぎの世話当番や,社会見学のための資料収集,PTA活動等で休日出勤することもあったが,それらは多くとも月平均5時間程度でそれを超えることはなかった(乙14,弁論の全趣- 21 -旨)。 Aの一日の勤務状況は,おおよそ午前7時に出勤し,授業準備を行い,午前8時ころから教室で授業等を行った後,午後5時ころには職員室に戻り,午後6時ないし7時ころには帰宅するというものであった(甲73)。 (3) 4年2組におけるトラブル等の出来事の発生とこれに対するAの感情等ア平成16年4月6日に入学式があり,Aは4年2組の児童らと初めて顔を合わせた(甲4)。その際,Aは,初任者研修資料に「これから始まる一年間がとても楽しみでわくわくしている。」と記載した一方,「数名話をきく姿勢ができていない子や休み時間に教室内で走る子がいた」等と記載した(甲4)。 イまた,Aは,初任者研修資料に,同月8日には4年2組の児童らが給食や清掃が始まったがスムーズに動けないことが多いことを,翌9日には転入生の児童1名と,仲のよい友達がいない児童1名が周りの児童らになじめないことを記載した(甲4)。このころ,4年2組では,児童Nが他の児童1名を叩くということがあった(甲62)。 ウ同月13日,Aは,初任者研修資料において,4年2組について「クラスの雰囲気が騒がしい上に,子どもたちの行動が遅い」という問題点を指摘した上,「自分の授業を見直し,子どもたちにとって「わかりやすい,おもしろい授業」にしなければいけないと思う」と反省点を記載した(甲4)。また,このころ,Aは,自宅において,母に対して,クラスに男性教諭の言うことは聞くのに,女性 子どもたちにとって「わかりやすい,おもしろい授業」にしなければいけないと思う」と反省点を記載した(甲4)。また,このころ,Aは,自宅において,母に対して,クラスに男性教諭の言うことは聞くのに,女性教諭の言うことは全く聞かない児童がいて困っている旨の悩みを打ち明けている(甲100)。 エ同月14日,Aは,全教員が集まる第1回校内研修会の開始時刻になっても教室で涙ぐんでおり同会に出席できず,話を聞いた養護教諭に対し,授業がうまく出来ず,学級崩壊のようになるが,誰に相談していいか分からないと訴えた(甲17の9,甲62,弁論の全趣旨)。 また,Aは,同月19日の初任者研修資料において,「授業があまりうまくいか- 22 -なかった。自分の発問や指示があいまいなので子どもたちが混乱してしまった。国語も算数も,もうすぐ単元が終わってテストをする。不安だ。授業がうまくいかない焦りや子どもの忘れものが多いという焦りで,今日の私はイライラしてしまっていたと思う。」と記載した(甲4)。 オその後の同月22日,前年度も母親に抱っこされて登校することがあった児童が,母親に抱っこされて登校し,教室に行くことに抵抗して母親にしがみついたり,母親のTシャツを力いっぱい噛むというトラブルが起こった(甲4,甲62)。 また,その翌週である同月26日には,上記児童が欠席したことにAは心配していた上,他の児童1名の保護者から,同児童が隣の席の児童からお腹を叩いたり鉛筆でいじわるをされて困っているから何とかしてほしい旨の連絡が入ったため,Aは,それに対して,席替えを行い,上記保護者に対して謝罪するという対処をしなければならなかった(甲4,甲62,甲68,弁論の全趣旨)。 カその翌日の同月27日には,クラス内の3人の児童が特定の児童1名の文房具をとって隠すというい 記保護者に対して謝罪するという対処をしなければならなかった(甲4,甲62,甲68,弁論の全趣旨)。 カその翌日の同月27日には,クラス内の3人の児童が特定の児童1名の文房具をとって隠すといういじめを2週間ほど繰り返していたことが発覚した(甲4)。 これに対しAはいじめを行っていた児童2人に指導を行ったが,同児童らは,「殺してないんだからいいじゃん」という発言をしたり,「ごめんちゃい」等とふざけたりする等し,十分反省をしている様子ではなかった(甲62)。このことについて,Aは,「私は何も気づいていなかった」,「次々起こるいろいろなことに,とても対応しきれていない。つらい」等と初任者研修資料に記載した(甲4)。 キさらに,同月30日,児童Nが1時限目のテストをカンニングしようとしたことからAが2度注意したが,さらに漢字ドリルを写そうとしたので,同児童のテストを中止したところ,児童Nは怒って興奮し始め,2時限目の途中で席に座っていられないほどのパニックを起こし,教室を飛び出すという事件が発生した(甲4,甲62)。その際,Aは児童Nを校庭まで追いかけ,羽交い締めにして抑えるなどした(乙29,証人C)。 そのころ,児童Nは,校則で禁止されているにもかかわらず廊下の外のベランダ- 23 -に出ていたところをAに注意され,他の男子児童らと一緒に職員室に興奮した様子で来るということもあった(証人B)。 クその後,Aは,同年5月7日には,児童1名の母親から同児童が隣の席の児童に悪口を言われていたとの手紙を受け取り,また,家庭訪問の際,児童らの保護者から,児童がいじめを受けていることや,円形脱毛症になりかけていること等の相談を受けた(甲4,甲62)。同日,Aは,初任者研修資料に「なぜこんなにも多くの問題がおこるんだろうかと打ち拉がれた思いになる ら,児童がいじめを受けていることや,円形脱毛症になりかけていること等の相談を受けた(甲4,甲62)。同日,Aは,初任者研修資料に「なぜこんなにも多くの問題がおこるんだろうかと打ち拉がれた思いになる」等と記載した(甲4)。 また,このころの4年2組の児童の様子について,当時同クラスの理科と書写の授業を担当していたC教頭は,児童らの表情が硬く,反応がない様子であったことを指摘し(乙29),また,同クラスの図工の授業を担当していたF教諭からは,児童らの描く絵が,3年次と異なり,画面いっぱいになぐり描かれているものや,戦争や地獄のような様子が描かれているものが多くなっていたことが指摘されていた(乙30)。 F教諭から絵のことを聞いたB教諭は,Aと直接話をする機会を設けたが,その際,Aは,床に突っ伏して激しく泣いた上で,学級運営に悩み苦しんでいる旨を伝え,授業中の教室に来て自分を見ていてほしいと依頼した(乙30,証人B)。 ケ同月13日には,Aは,授業に出られず,このことについて,初任者研修資料に,「抜け落ちたように気力がなかった」,「自分ではどうしようもなくなって,3時間目から他の先生にきていただいた」等と記載した(甲4)。 コその翌日である同月14日には,4年2組の児童らがAのために「先生を励ます会」を開き,同日の初任者研修資料において,Aはこのことについて「とてもうれしいし,担任はいいなと初めて感じた」と記載する一方,「その後の給食は準備や片づけに「カチン」ときた。掃除は「イライラ」した。「あせらず,あきらめず」で,「一日一つの目標」ですごす。とにかく自分の体に疲れをためないようにする」等と記載した(甲4)。 サ Aは,初任者研修資料に,同月17日「自分の中に鉛のように重い何かがあ- 24 -る」と,同月18日「いろいろな すごす。とにかく自分の体に疲れをためないようにする」等と記載した(甲4)。 サ Aは,初任者研修資料に,同月17日「自分の中に鉛のように重い何かがあ- 24 -る」と,同月18日「いろいろなことに見通しがもてないようで,漠然と不安がある」と記載した(甲4)。また,Aはその週の指導週案の「生活指導その他」欄に「一日一日がすぎていく。そのはやさについていけない」と記載した後は,指導週案の当該欄に何も記載しなくなった(甲62)。 シ同月24日,Aは,初任者研修資料に,「私が話していたり,誰かの発表中に大きな声で話し始める子が数人いて,その子たちが黙るまで待つようにしたら,ほとんど授業がすすまなかった」と記載した(甲4)。また,Aは,その翌日の同月25日の初任者研修資料に,児童Nが他の児童の腕を噛んだことを記載し,そのことを養護教諭に相談した結果,翌日から児童Nの観察記録(甲5の1,甲6)をつけることとした(甲4)。 ス同月28日,児童Nは,掃除中にベランダから下へ水を落としたり,隣の席の女子児童の教科書や筆箱を机から落として同児童を泣かせたり,男子児童の頭を遊んで叩いたり,トイレ掃除中にトイレ用スポンジを便器の水につけてトイレの床をびしょびしょに濡らしたりする等のトラブルを起こし,また,同月31日にも,算数の授業中の練習問題をやらず,国語の授業中にも漢字ドリルを出さないでノートに落書きするなど,Aの指示に従わなかったり,女子児童の首に腕をぶつけ,男子児童の首に手をかけたところ同児童から蹴られるといったトラブルや,別の男子児童の椅子を揺らしたことによって同児童が倒れて頭を打つという事態を生じさせた(甲4,甲5の1)。 セまた,児童Nは,同年6月1日,国語の授業中に,防災頭巾をかぶり,上着を脱いでそれを下半身に身に着け,A 揺らしたことによって同児童が倒れて頭を打つという事態を生じさせた(甲4,甲5の1)。 セまた,児童Nは,同年6月1日,国語の授業中に,防災頭巾をかぶり,上着を脱いでそれを下半身に身に着け,Aが制止しても聞かずに他の児童らと一緒になって騒ぎ,同月2日,社会の授業中に窓を閉めようとして窓の部分に登ったもののなかなか降りようとせず,その後も数回席を立つ等し,さらには,同月4日,他の複数名の児童と一緒になって,特定の男子児童を叩いたり突き飛ばすなどの暴力を振るう等のトラブルを起こした(甲5の1)。 Aは,上記6月2日の初任者研修資料に「授業はぐちゃぐちゃ。私は悲しさと子- 25 -どもへの憤りでいっぱいだった」等と記載した(甲4)。 ソさらに,児童Nは,同年6月10日,他の児童らがおたまじゃくしの水槽にザリガニを入れ,おたまじゃくしを隠したことから,おたまじゃくしがザリガニに食べられたと思い,怒って暴れ,E教諭が入って一旦収まったものの,昼休みの時間になると再び牛乳パックを踏みつけて床を牛乳だらけにするというトラブルを起こした(甲4,甲5の1,甲5の3)。児童Nは,その翌日の同月11日,B教諭に対して自分がどうして悪いことをしてしまうのか分からない等と言って泣いて訴えたが,同日の昼休みにも,牛乳パックを床に投げつけるというトラブルを起こした(甲4,甲5の1,証人B)。 タその後も,児童Nや,他の児童らによるトラブルはたびたび発生し,Aは,同月21日及び22日の初任者研修資料に「教室での落ち着かない雰囲気に,がっくり疲れた」,「私の注意はほとんどきかず,大騒ぎが続いて,どうしたらいいかわからない。疲れきった」等と記載した。そして,同月25日,Aは,B教諭から,教室内で騒いでいる児童がいたにもかかわらずそれを注意しなかったことを 意はほとんどきかず,大騒ぎが続いて,どうしたらいいかわからない。疲れきった」等と記載した。そして,同月25日,Aは,B教諭から,教室内で騒いでいる児童がいたにもかかわらずそれを注意しなかったことを指摘され,「給料もらってるんだろう,アルバイトじゃないんだぞ,ちゃんと働け」などと叱責された。(甲4,甲5の1,証人B)。 チそれ以降も児童Nやその他の児童によるトラブルは継続し,同年7月14日には,国語の授業中,児童NがAの指導に反発し,Aに対し,「近づくな」,「教師失格」,「それでも教師」等と言い,また,算数の授業中,「前とか後ろに一生来ないで。先生が来るとストレスがたまる」,「けがれる」,「絶対家に電話しないでよ,迷惑だから」などと言ったりした挙句,教室後方の黒板にチョークで「A(姓のみ)は,後にくるな」と書いたりした(甲4,甲6,甲8)。 ツ同様に,児童Nは同月15日にも女子児童の顔を拳で殴り,泣かせるというトラブルを発生させ,そのことについてAが児童Nの家族に報告の電話をすると,翌16日,上記電話について,児童NはAに対し,「家にかけるなって前にも言ったじゃん」,「うそつき」,「かけたら殺すって言ったじゃんか」等と言って反発- 26 -した(甲4,甲6)。 テ上記のような児童Nを中心とするトラブルはその後も終息することなく,同年7月下旬からJ小学校は夏休みに入ったが,同年9月1日から2学期が開始した後,同月21日,児童Nが他の児童の腕を噛み,それに対してAが児童Nや噛まれた児童の母親に電話をするという対処をした。しかし,翌22日には,児童Nとチャンバラをしていた児童の持っていた棒が,その最中に歯に当たり,欠けてしまうという事故が発生した。(甲4,甲6,甲7の4,甲63)トそして,本件自殺の前日である同月28日 日には,児童Nとチャンバラをしていた児童の持っていた棒が,その最中に歯に当たり,欠けてしまうという事故が発生した。(甲4,甲6,甲7の4,甲63)トそして,本件自殺の前日である同月28日,Aは,児童Nの母親から,児童NのことやAの指導について,「児童Nのことですが…4年生になってから,ひんぱんに先生から電話をもらうようになりこちらも精神的にまいっています」,「私から見て先生の方は少し神経質すぎるのでは…と思っています。あまりにもひんぱんに電話をいただくので精神的にまいっていますし仕事にも集中できません」,「先生はちゃんと子供の話を聞いていますか?」,「先生の方も過剰に反応しすぎだと思います。もう少し先生が厳しく子供達に接していただきたいです」,「今のままの状態では学校へ通わせる事を考えなければなりません」と記載された手紙を受け取った(甲10,乙29)。 ナその翌日である同月29日午前5時ころ,Aは,本件自殺を図り死亡した。 (4) Aに対する指導・支援ア Aは,「初任者研修年間指導計画書」に基づき行われる静岡県採用の新規採用教員に対する研修として,毎週水曜日,拠点校指導教員であるD教諭による基本研修及び校内指導教員であるE教諭による参観授業並びに授業研究の研修を受けていた(乙4,乙5の1及び2,乙8)。また,Aは,毎週金曜日にもE教諭その他の教員による授業研究や示範授業の研修を受けていた(乙4,乙5の1及び2)。 イそれ以外にも,Aに対しては,同人が授業に出られなくなった際に,他の教員が代わりに授業を行うことがあったほか,平成16年5月以降,B教諭やC教頭が,空き時間を利用して4年2組に立ち入り,同クラスの指導の補助をすることが- 27 -あった(証人B,同C)。 2 公務起因性に関する法的判断基準につい か,平成16年5月以降,B教諭やC教頭が,空き時間を利用して4年2組に立ち入り,同クラスの指導の補助をすることが- 27 -あった(証人B,同C)。 2 公務起因性に関する法的判断基準について本件争点について判断するに当たって,まず,地公災法が規定する公務起因性の判断基準について検討する。 地公災法31条の「職員が公務上死亡…した場合」とは,職員が公務に基づく負傷又は疾病に起因して死亡した場合をいい,同負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係があることが必要であり,その負傷又は疾病と公務との間には相当因果関係があることが必要であり,その負傷又は疾病が原因となって死亡事故が発生した場合でなければならない(最高裁判所昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 精神疾患の発症や増悪には,様々な要因が複雑に影響し合っていると考えられているが,地方公務員災害補償制度が,公務に内在する各種の危険が現実化した場合に使用者に無過失の補償責任を負担させるのが相当であるという危険責任の法理に基づくものであることに鑑みれば,当該公務と精神疾患の発症や増悪との間に相当因果関係が肯定されるためには,単に公務が他の原因と共働して精神疾患を発症又は増悪させた原因であると認められるだけでは足りず,当該公務自体が,社会通念上,当該精神疾患を発症又は増悪させる一定程度以上の危険性を内在又は随伴していることが必要であると解するのが相当である。 そして,うつ病発症のメカニズムについては,現在の医学的知見によれば,環境由来のストレス(公務上又は公務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス- 公務上又は公務以外の心理的負荷)と個体側の反応性,脆弱性(個体側の要因)との関係で精神破綻が生じるか否かが決まり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性」理論が合理的であると認められる。 もっとも,ストレスと個体側の反応性,脆弱性との関係で精神破綻が生じるか否かが決まるといっても,両者の関係やそれぞれの要因がどのように関係しているのかについては,いまだ医学的に解明されているわけではない。 - 28 -したがって,業務とうつ病の発症,増悪との間の相当因果関係の存否を判断するに当たっては,うつ病に関する医学的知見を踏まえて,発症前の業務内容及び生活状況並びにこれらが労働者に与える心身的負荷の有無や程度,さらには,当該労働者の基礎疾患等の身体的要因や,うつ病に親和的な性格等の個体側の要因等を具体的かつ総合的に検討し,社会通念に照らして判断するのが相当である。 なお,判断指針は,各分野の専門家による専門検討会報告書に基づき,医学的知見に沿って作成されたもので,一定の合理性があることは認められるものの,あてはめや評価に当たっては幅のある判断を加えて行うものであるところ,当該労働者が置かれた具体的な立場や状況等を十分斟酌して適正に心理的負荷の強度を評価するに足りるだけの明確な基準となっているとするには,いまだ十分とはいえず,うつ病の業務起因性が争われた訴訟において,判断指針の基準のみに依拠してうつ病の業務起因性を判断するのが相当であるとまではいえない。 また,相当因果関係の判断基準である,社会通念上,当該精神疾患を発症させる一定以上の危険性の有無については,同種労働者(職種,職場における地位や年齢,経験等が類似する者で,公務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある 通念上,当該精神疾患を発症させる一定以上の危険性の有無については,同種労働者(職種,職場における地位や年齢,経験等が類似する者で,公務の軽減措置を受けることなく日常業務を遂行できる健康状態にある者)の中でその性格傾向が最も脆弱である者(ただし,同種労働者の性格傾向の多様さとして通常想定される範囲内の者)を基準とするのが相当である。 3 Aのうつ病の発症時期について(1) Aの症状に関する医師の意見ア H医師の意見書(甲80)及び証言の骨子Aは,生前うつ病エピソード(ICD-10)ないしは大うつ病性障害(DSM-IV-TR)に罹患していたと推定され,その発症時期は平成16年5月末から6月初旬と推定される。 上記発症時期は,Aが初任者研修資料や指導週案を含む本件証拠一式に加えて,Aの遺族である母や妹との面接を行う心理学的剖検というアプローチを実施して得た情報から,Aがうつ病の診断基準症状を5つ経験していたと推定され,Aが初任- 29 -者研修資料の同年5月13日の欄に「抜け落ちたように気力がなかった」等と記載し,同月24日の週から指導週案の記載をしなくなるという,同人に職業的機能の障害がみられるようになったことから判断された。 イ I医師の意見書(乙11)及び証言の骨子Aのうつ病発症時期の確定診断可能時期は,平成16年5月18日前後と考えられ,発症時期は4月中である可能性もある。 初任者研修記録によれば,Aは連休明けの平成16年5月7日には「打ち拉がれた思い」とあり,同月13日には「抜け落ちたように気力がなかった」とあり,うつ病の部分症状が出現しているが,それが持続しているわけではない。しかし,同月17日には「自分の中に鉛のように重い何かがある」という生命感情の希薄化,抑うつ感がみられ,これはうつ病の中核症 あり,うつ病の部分症状が出現しているが,それが持続しているわけではない。しかし,同月17日には「自分の中に鉛のように重い何かがある」という生命感情の希薄化,抑うつ感がみられ,これはうつ病の中核症状である。さらに,同月18日には「いろいろなことに見通しがもてないようで,漠然とした不安がある」と,未来への閉塞感,漠たる不安,元気喪失がみられ,うつ病としては完成した状態と認められる。 (2) Aのうつ病の発症時期についての判断ア上記のとおりAのうつ病の発症時期について,I医師は,平成16年5月18日前後に確定診断が可能であるとした上,4月においても発症していた可能性があると判断しており,H医師は,同年5月末から6月初旬と推定するのが妥当としている。 そこで検討するに,証拠(乙15)によれば,F32うつ病エピソードは,ICD-10において,気分(感情)障害とされるF3に分類される精神障害の1つであり,その診断には,[1]抑うつ気分,[2]興味と喜びの消失,[3]活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少という3つの典型的症状のうち少なくとも2つと,他の一般的な症状である①集中力と注意力の減退,②自己評価と自信の低下,③罪責感と無価値感,④将来に対する希望のない悲観的な見方,⑤自傷あるいは自殺の観念や行為,⑥睡眠障害,⑦食欲不振のうち少なくとも2つが存在することが必要とされ,重傷度の如何に関係なく,通常少なくとも2週間の持続が診- 30 -断に必要とされているが,もし症状が極めて重傷で急激な発症であれば,より短い期間であってもかまわないとされていることが認められる。 そして,Aの初任者研修資料(甲4)には,平成16年4月半ばころから,「授業があまりうまくいかなかった。…不安だ。授業がうまくいかない焦りや子どもの忘れものが多いとい されていることが認められる。 そして,Aの初任者研修資料(甲4)には,平成16年4月半ばころから,「授業があまりうまくいかなかった。…不安だ。授業がうまくいかない焦りや子どもの忘れものが多いという焦りで…今日の私はイライラしてしまったと思う。」等の記載が始まり,同年5月14日には「その後の給食は準備や片付けに「カチン」ときた。掃除は「イライラ」した。…とにかく自分の体に疲れをためないようにする。」という記載があったのであり,これは,Aの抑うつ気分(上記[1])や易疲労感の増大(上記[3])を示しているものと理解することができる。また,同月13日に「抜け落ちたように気力がなかった。」と集中力と注意力の減退(上記①)を示す記載があるほか,同月17日には「自分の中に鉛のように重い何かがある。」,同月18日には「いろいろなことに見通しがもてないようで,漠然と不安がある。」と将来に対する希望のない悲観的な見方(上記④)を示す記載がある。 このように,Aは,平成16年4月半ばころからうつ病の症状が断片的に生じ始め,5月18日前後には,うつ病エピソードの典型症状及び一般症状がみられたことが認められることからすれば,Aは,5月18日前後の時期にICD-10のうつ病エピソードを発症したというべきである。 イこれに対し,原告は,H医師の意見書によれば,Aのうつ病である大うつ病性障害(DSM-IV-TR)を発症した時期は5月末から6月下旬であり,かかる意見書は,I医師の意見書と異なり,心理学的剖検というアプローチにより,Aの初任者実践研修等のみならずAの遺族であるAの母と妹の2名から面接の上収集した情報をも基礎としており,より正確性の高いものであるなどと主張する。しかしながら,心理学的剖検とは,「不審死」事例が発生した後,できるだけ速やかに,複数で であるAの母と妹の2名から面接の上収集した情報をも基礎としており,より正確性の高いものであるなどと主張する。しかしながら,心理学的剖検とは,「不審死」事例が発生した後,できるだけ速やかに,複数でチームを組み,近親者等に対する面接を含む,不審死した人に関する生前の情報を可能な限り収集し分析する方法とされているところ(甲80),H医師による方法は,Aの死後5年以上経過してから,同医師単独で行われ,その際にはAの- 31 -母と妹のみの面接しか行われていないことからすれば,必ずしも上記手法が適正に履践されたものとは認められず,上記事情をもってH医師の判断が必ずしも同医師の意見書の判断の正確性を基礎付けるものとはいえないのであって,Aが5月18日前後ころにICD-10のうつ病エピソードを発症しているとの上記認定を左右するものとは認められない。 ウまた,一方で,被告は,AについてはI医師による確定診断日である平成16年5月18日前後の2週間以上前の4月中にはうつ病を発症していたというべきであるから,Aが公務により受けた心理的負荷についてもそれ以前の事情のみをもって判断すべきである旨主張するが,同医師は,証人尋問において,Aが平成16年4月後半から5月半ばにかけて3回授業に出なかったとの情報を前提とすれば同年5月18日以前にもうつ病が発症していた可能性もあることを示唆するにとどまっていることや,そもそも,うつ病のような精神障害について,その性質上確定診断日のほかに発症日を特定することは困難であって,単なる発病の可能性のみをもって,それ以後の公務については一切心理的負荷の判断の基礎としないとすることは相当でないから,被告の主張は採用できない。 エ以上によると,Aがうつ病を発症した時期は,平成16年5月18日前後であると認めるのが相当で ついては一切心理的負荷の判断の基礎としないとすることは相当でないから,被告の主張は採用できない。 エ以上によると,Aがうつ病を発症した時期は,平成16年5月18日前後であると認めるのが相当である。 4 Aの公務過重性について(1) うつ病発症前の公務H医師及びI医師の各証言によれば,医学的には,うつ病における自殺の可能性と症状の程度との間の関係性が否定されているものと認められるため,まず重要となるのはうつ病発症までのAの公務について,公務起因性を肯定し得る程度に過重であったかという点である。 そこで以下,Aのうつ病発症時期である平成16年5月18日前後までの具体的な公務上の出来事について,これらが同人の心身に対しいかなる負荷を与えたかについて検討する。 - 32 -ア Aの公務上の心理的負荷について(ア) 勤務状況まず,Aの担当した公務の形式的な勤務状況について検討する。 a 学級編成について前記認定のとおり,新規採用教員であっても1年目からクラス担任を受け持つものの,指導の難易の観点から,高学年や1年生ではなく2年生ないし4年生が割り当てられることが通常であったことや,J小学校の4年生の学級編成において,指導に配慮を要する児童を各クラスに均等に配置したと認められることからすれば,4年2組を担当したことの一事をもって,Aの心理的負荷が過重であったとまでは認められない。 この点について,原告は,J小学校の4年生のクラスの担任が,A以外はベテランの教師であったことから,格別に軽減する配慮がなされるべきであった旨主張するが,公立小学校の学級を編成するに当たって,指導に特別の配慮を要する児童を特定のクラスに集中的に配置し,又は特定のクラスには配置しないという措置を執ることは,児童に対する教育上の配慮から 旨主張するが,公立小学校の学級を編成するに当たって,指導に特別の配慮を要する児童を特定のクラスに集中的に配置し,又は特定のクラスには配置しないという措置を執ることは,児童に対する教育上の配慮からしても相当性を欠くものというべきであるから,原告の主張は採用することができない。 b 勤務時間についてまた,前記認定事実に証拠(乙3)及び弁論の全趣旨を総合すると,Aがうつ病を発症した平成16年5月18日前後までに従事した勤務日数は,同年4月に21日,同年5月に9日の合計30日(うち授業を担当した日は27日)程度であり,時間外勤務についても,前記認定のとおり,Aが毎日おおよそ午後6時ないし7時ころには帰宅していたことからすれば,同人の時間外勤務時間数は,多くとも平成16年4月に約21時間,同年5月に約22時間程度にとどまるものと推認されるのであるから,同人の勤務日数・勤務時間による心理的負荷が特別過重であったとは認められない。 これに対し,原告は,上記時間外勤務時間数はAが午前7時15分から始業時間- 33 -の8時までの45分間の超過勤務していることを無視していること,Aは自宅にて持ち帰り残業を行っていたこと等を理由に,Aが1日当たり少なくとも5時間15分,月に100時間前後の超過勤務を行っていたと主張する。 しかしながら,午前7時15分から8時までの45分間超過勤務していることについては,始業時間が開始する前に一定程度時間に余裕をもって出勤し,始業に向けて準備を行うことはいわば社会人として当然のことというべきであるところ,Aが出勤してから始業時間が始まるまでの約45分間という時間は,始業時間前の準備時間としては多少長いという面があることは否定し得ないとしても,その時間全てを時間外勤務時間数に算入するのは相当でないから,勤務時間に ら始業時間が始まるまでの約45分間という時間は,始業時間前の準備時間としては多少長いという面があることは否定し得ないとしても,その時間全てを時間外勤務時間数に算入するのは相当でないから,勤務時間による心理的負荷が過重でなかったとの上記結論を左右するほどのものとみるべきではない。また,Aが自宅にて持ち帰り残業を行っていたとの点に関しても,本件全証拠をもってしてもそれが日常的かつ長時間にわたり行われていたとは認め難い。むしろ,証拠(甲63,甲73,証人C)によれば,Aは,日によってばらつきがあるとはいえ,おおよそ毎日午後6時から7時の間には帰宅していたとみるのが相当であり,上記認定の時間外勤務はそれなりの合理性を有しているものというべきであるから,Aが1日当たり少なくとも5時間15分,月に100時間前後の超過勤務を行っていたとの原告の主張は理由がないというべきである。 c このように,Aの担当した公務の形式的な勤務状況のみからは,直ちに公務の過重性を導く事実を認めるのは困難というべきである。 (イ) 4年2組における具体的なトラブル等の出来事の発生について前記認定事実によれば,Aは,平成16年4月から4年2組を担当し始めたが,同クラスには,Aが同クラスを担当した当初から,話を聞くことができない児童や,他の児童を叩く等の問題行動のある児童が児童Nを含め複数名存在していたところ,同月下旬ころになると,児童NがAの指導に従わないほか,Aの気付かないところで様々ないじめが行われたり,授業がうまく機能しないといった事態が次々に生じていたことが認められ,かかる状況は,クラスが編成されて1か月以上が経過- 34 -した5月以降においても落ち着きをみせず,むしろ恒常化していたものと認められる。このように,Aが担当した4年2組では,指導に困難を要す ,かかる状況は,クラスが編成されて1か月以上が経過- 34 -した5月以降においても落ち着きをみせず,むしろ恒常化していたものと認められる。このように,Aが担当した4年2組では,指導に困難を要する複数の児童らの問題が当初から顕在化し,数々の問題行動が発生していたというべきである。 また,その程度においても,当該児童をAが注意して収まるといったものではなく,ときには児童を身体的に制圧したり,保護者からの要請・苦情への対処をしたりする程に重大なものであったことが認められる。 これらは,個々の問題ごとにみれば,教師としてクラス担任になれば多くの教師が経験するものであったとしても,Aの場合は,着任してわずか1か月半程度の期間に,数々の問題が解決する間もなく立て続けに生じた点に特徴があるのであり,かかる状況は改善される兆しもなかったことからすれば,新規採用教員であったAにとり,上記公務は,緊張感,不安感,挫折感等を継続して強いられる,客観的にみて強度な心理的負荷を与えるものであったと理解するのが相当である。 これに対し,被告は,児童Nについては,AD/HDではなく,Aが同児童の担任を務めた4年次以外は特に指導困難な児童ではなかったし,4年2組について,客観的にみれば学習面や行動面で指導に特別の困難性を有する児童はおらず,新規採用教員であっても通常はそれなりの困難はあっても他の教員に相談し,アドバイスを受けながら十分に乗り越えられるものであったことからすれば,Aが上記クラスの指導に困難を要したとしても,それは同人の学級運営の方法によるものであると主張する。 しかしながら,児童NがAD/HDではなく,Aが担任する以外の年次においては特別指導困難を要する児童ではなかったとの評価を受けているとしても,かかる年代の児童においては,指導する者の年齢 張する。 しかしながら,児童NがAD/HDではなく,Aが担任する以外の年次においては特別指導困難を要する児童ではなかったとの評価を受けているとしても,かかる年代の児童においては,指導する者の年齢・性別・経験等によってその指導に対する反応が異なることは十分あり得ることであり,実際に,Aが児童Nについて,Aの母に対し,男性教員の指導には従うが,女性教員の指導にはなかなか従わないとの悩みを相談していたこと(甲100)等からすれば,かかる事情をもって直ちに児童Nが指導困難を要する児童でなかったとは認められない。むしろ,前記認定の- 35 -とおり,児童Nはパニックを起こし,教室から出ていく等の問題行動を行っていたのであり,平成16年5月末以降Aがつけていた児童Nに関する観察日記(甲5,甲6)の記録や,黒板に書かれたAへの暴言(甲8)等からすれば,Aがうつ病を発症する以前の段階においても,児童Nの問題行動は,初任者研修資料の記載のみにはとどまらない高い頻度で,断続的に行われていたことが容易に推認されるのであって,少なくとも同児童は,AD/HDか否かにかかわらず,Aが同児童の担任をしていた当時において,学級担任を務める教師として通常担当するであろう手のかかる児童という範疇を超えた,専門的個別的な指導・対応を要する児童であったというべきである。そして,仮にかかる児童Nの問題行動を生じさせる原因の一端がA自身の指導方法等にあったとしても,同人が同年度の4月に採用されたばかりの新規採用教員であったことを考慮すれば,同人に対し高度の指導能力を求めること自体酷というべきであり,それをもって上記指導に係る客観的な困難性が否定されることにならないのは明らかであって,Aの初任者研修資料(甲4)からうかがわれるとおり,同人が苦悩しながらも,できる限りの努力や責 というべきであり,それをもって上記指導に係る客観的な困難性が否定されることにならないのは明らかであって,Aの初任者研修資料(甲4)からうかがわれるとおり,同人が苦悩しながらも,できる限りの努力や責任感をもって同児童に対応していたことに照らしても,児童Nの指導の困難性を否定し,4年2組のクラスの指導に困難を要したのがAの学級運営方法にあるとする被告の主張は採用することができない。 また,被告が,4年2組には「先生を励ます会」を企画するような優しい子供が多く,児童Nの他に指導に特別の困難性を要する児童はいなかったと主張する点についても,同クラスの児童らがAに対し「先生を励ます会」を企画したとの一事をもって,4年2組の指導が困難でなかったと認めることはできないし,むしろ,このことは,児童らにおいてかかる会を開催する必要性を感じさせる程度にAが悩みを抱え込んだりして疲弊していたことの証左ともいうべきである。そして,前記認定事実に照らせば,児童N以外の児童についても指導困難が生じる事態が頻繁に発生していたのであり,児童Nの度重なる問題行動と相俟って,新規採用教員であるAの指導ないし対応をもってしても対処できない状況にまで至っていたというべき- 36 -である。 さらに,被告は,Aは自殺する前年である平成15年度にJ小学校に補助教員として1年間勤務しており,ある程度学校の様子も分かっていたのであって,新規採用教員であることを重視すべきない旨主張するが,前記認定事実によれば,Aの職務による強度の心理的負荷は,4年2組の担任という責任ある立場において児童Nやその他の児童らに対して指導を行う中で,同クラスをまとめようとするもののそれがうまく機能しないことにより初めて生じたものと認められるのであるから,前年度に同じ小学校で補助教員として勤務していた Nやその他の児童らに対して指導を行う中で,同クラスをまとめようとするもののそれがうまく機能しないことにより初めて生じたものと認められるのであるから,前年度に同じ小学校で補助教員として勤務していた経験があることをもって,Aの職務による心理的負荷が軽減されるとは解されない。 (ウ) Aに対する支援体制について上記認定説示のとおり,Aの公務は,新規採用教員の指導能力ないし対応能力を著しく逸脱した深刻な過重性を有するものであり,こうした状況下にあっては,当該教員に対して組織的な支援体制を築き,他の教員とも情報を共有した上,継続的な指導・支援を行うことが必要であるところ,本件全証拠をもってしても,Aに対してかかる支援が行われたとは認められない。 これに対し,被告は,Aについては初任者研修の中で授業に関するアドバイスや指導を受ける機会があったほか,教務主任や学年主任等を始めとする他の教員から様々な援助を受け,B教諭やC教頭による4年2組の指導補助等の特別の措置を受ける等しており,十分な支援体制を有していたのであるから,公務による心理的負荷は軽減されていたと主張する。 一般に新規採用者は職務に関する知識・経験等が不十分であり,職務により受ける精神的・肉体的負荷も同様の職務に従事する他の者に比して過重なものにならざるを得ないことから,新規採用者に対しては,周囲の者による指導・支援等を要するが,その一方で,新規採用者が他の者と同水準の職務を行うようになるためには,当該新規採用者においても実際の職務の中で相応の困難を経験することで自らそれを克服していくことが求められているというべきであるから,指導・支援の内容を- 37 -検討するに当たっては,職務に対する新規採用者自身の姿勢等を考慮することなしに,一概に新規採用者であるからといってその職務によ とが求められているというべきであるから,指導・支援の内容を- 37 -検討するに当たっては,職務に対する新規採用者自身の姿勢等を考慮することなしに,一概に新規採用者であるからといってその職務による負担軽減を要するわけではないのは当然である。 しかしながら,前記認定説示のとおり,Aは,4年2組の学級運営に関する困難な問題に対して,反省と工夫を繰り返し,懸命に対処しようとしていたものであり,結果的には,児童らによる問題行動の内容やその頻度,新規採用教員であるAの経験の乏しさから事態が改善するに至らなかったという経緯等を踏まえると,同クラスの運営については,もはやA一人のみでは対処しきれない状況に陥っていたというべきである。そして,このことは,学校側においても,Aが校内研修会に出席できなかったこと,指導週案の「生活指導その他」欄にコメントを残さなくなったこと,4年2組の児童らが,表情が硬くなり,3年次とは異なる暗い様子の絵を描いていたこと等からも十分把握することが可能であったし,さらには,本来研修内容について記載するはずの初任者研修資料であるのに,あえて日々のトラブルから受ける精神的なダメージに関して踏み込んだ記載がなされていることや,同資料の「心の健康」欄において,4月当初は「良好」との記載がなされていたのが徐々に記載がなくなっていること(甲4)等からすれば,上記の指導困難に直面する中でAが疲弊し続けていたことは十分察知できたはずである。 かかる事態の深刻性に鑑みれば,このような場合には,少なくとも管理職や指導を行う立場の教員を始めとしてAの周囲の教員全体において4年2組の学級運営の状況を正確に把握し,逐次情報を共有する機会を設けることが最低限必要であり,問題の深刻度合いに応じてその原因を根本的に解決するための適切な支援が行われる の周囲の教員全体において4年2組の学級運営の状況を正確に把握し,逐次情報を共有する機会を設けることが最低限必要であり,問題の深刻度合いに応じてその原因を根本的に解決するための適切な支援が行われるべきであったにもかかわらず,上記事態に対する校長の認識としては「いたずら小僧に手を焼いていた」程度にとどまっていた上(甲18),初任者研修資料に記載されたAの悩みに対しても,指導教員には問題の深刻さが認識されなかったため必ずしも実質的なアドバイスはなされておらず(甲4),また,Aに対し個人的なアドバイスを一番多く行っていた教員であるとされるB教諭でさえ,Aから直接相- 38 -談を受けた平成16年5月初旬までAが抱える問題を把握していなかった(証人B)というのであるから,上記事態の情報が,周囲の他の教員らと共有されていたとは認められない。 確かに,前記認定事実や証拠(甲66の7)によれば,Aの代わりに他の教員が授業を行ったり,Aの要請や高学年部会である「なっとうく会議」の決定を受けてC教頭やB教諭が4年2組を見回り,指導の補助を行ったりしたことが認められ,それらは各々の場面におけるAの心理的負荷を一定程度減少させたものと解する余地はあるが,これらは,上記会議の平成16年6月4日付け議事録(甲66の7)に「ガードマン的対応」との記載があることからも分かるとおり,所詮一時的・応急的なものにすぎず,Aの抱える問題を根本的に解決するものではなかった。加えて,上記会議においてAの授業に対する支援が具体的に検討されたのは上記6月4日が初めてであり,この時点で既にB教諭への相談があってから1か月以上が経過している上,むしろ,それ以前の会議では,平成16年5月12日時点(甲66の3),同月26日時点(甲66の4),同年6月2日時点(甲66の5)及び同月 にB教諭への相談があってから1か月以上が経過している上,むしろ,それ以前の会議では,平成16年5月12日時点(甲66の3),同月26日時点(甲66の4),同年6月2日時点(甲66の5)及び同月9日時点(甲66の6)の各議事録の記載からうかがわれるとおり,Aに対して批判的な内容となっており,支援という方向での検討が一切見受けられないことも極めて大きな問題というべきである。 このように,Aの公務が新規採用教員の指導能力ないし対応能力を著しく逸脱した過重なものであったことに比して,Aに対し十分な支援が行われていたとは到底認められない。 この点につき,被告は,Aが学級運営について相談する機会を十分有していたにもかかわらず,他の教員からの支援を生かさなかったと主張するが,Aは,他の教員からの指導・助言を踏まえ,日々の学級運営について反省し,改善を試みようと試行錯誤していたものであり,それでもなお解決できない学級運営に当たっての問題点やそれに伴う苦悩や焦燥感を,既に4月の時点から,初任者研修資料や指導週案において頻繁かつ詳細に報告していたのであって,それに対して実効的な支援が- 39 -行われていなかったことは前記認定説示のとおりである。しかも,上記初任者研修資料や指導週案が,新規採用教員としてAに記載が義務付けられ,校長や教務主任等の指導担当者との連絡手段としての性質を有していることをも併せ考えれば,Aは相談する手段として実際に活用しようとしていたと評価すべきであり,相談する機会を生かしていなかったとは到底いえないから,被告の主張は採用できない。 なお,被告は,現実の職場において新規採用教員に対して通常なされるべき支援が行われていたかという一般的な観点に立てば,Aにも十分な支援が行われているかのような主張をするが,かかる主張は,新規採用教 なお,被告は,現実の職場において新規採用教員に対して通常なされるべき支援が行われていたかという一般的な観点に立てば,Aにも十分な支援が行われているかのような主張をするが,かかる主張は,新規採用教員に対して行われる画一的な指導や一定の対応がなされていさえすれば支援体制としては十分であり,それ以上に個々のケースにおける公務の過重性やそれを克服する困難の程度に目を向ける必要はないと言っているに等しく,公務による心理的負荷を不当に低く見積もるもので妥当でない。 イ Aの個体側要因について被告は,Aが精神的に未熟で社会適応性が低かったことから,Aがうつ病を発症したのは,同人の未熟な性格や脆弱性によるところが大きいと主張する。 しかしながら,前記認定のとおり,Aが自分の意見を押し通そうとしたり,他人に相談することが苦手であるといった性格傾向を有していたとしても,同人が新規採用教員として採用されJ小学校に勤務するまで何らの精神的疾患を有しておらず,社会適応状況に困難が生じる事態もなかったことに加え,Aの経験の乏しい新規採用教員として苦悩しながらもかかる公務と向き合い,真摯に取り組んでいたことを併せ考慮すれば,上記性格は,真面目に仕事を行う者が陥りがちな傾向の一つという範疇に属するものというべきであり,新規採用者にかかる傾向がみられるのであれば,むしろ職場側の指導・支援等によって改善が図られるべき事柄であるともいえるのであって,Aがうつ病を発症したことが,同人の脆弱性等の個体側要因によるものとは到底認められない。 また,Aが涙を流して授業等に出られなかった点についても,新規採用教員であ- 40 -ったAが,着任して1か月も経たないうちに次々と起こるクラス内での問題に直面し,他の教員の十分な支援も受けられないまま孤立感を強め,苦悩してい られなかった点についても,新規採用教員であ- 40 -ったAが,着任して1か月も経たないうちに次々と起こるクラス内での問題に直面し,他の教員の十分な支援も受けられないまま孤立感を強め,苦悩していたことからすれば,Aがかかる行動に出たことも無理からぬところがあるというべきであるし,定時帰宅を申し出たとの点についても,同人が未だ社会人経験の浅い新規採用教員であったことや,かかる言動の一方で,上記のとおり真面目に仕事に取り組んでいたこと,定時以降も午後6時ないし7時程度まで残業していたこと等からすれば,かかる事情をもって,Aが,新規採用教員となる者のうち性格傾向の多様さとして通常想定される範囲を超え,特段の脆弱性を有していたと認めることはできない。 そして,本件全証拠をもってしても,AがJ小学校に着任してからうつ病に罹患するまでの間,同人に公務以外で特段の心理的負荷を発生させるような出来事があったとは認められない。 ウ総合的評価以上認定説示のとおり,Aは,平成16年4月に着任して以降,立て続けに公務により強いストレスにさらされ,これに対する適切な支援も受けられなかったところ,かかる心理的負荷は,新規採用教員として初めてクラスを担任することになった者を基準とすると,相当に強度のものであったということができ,他方で,Aには公務外の心理的負荷や精神障害を発症させるような個体側の要因も認められない。 これらの事情を総合すると,Aの精神障害(うつ病)は,公務による心理的負荷が,社会通念上,客観的にみて精神障害を発症させる程度に過重であった結果発生したものというべきであって,公務に内在ないし随伴する危険の現実化として発症したものということができる。 (2) うつ病発症後の公務医学的には,うつ病による自殺リスクとうつ病の程度との 果発生したものというべきであって,公務に内在ないし随伴する危険の現実化として発症したものということができる。 (2) うつ病発症後の公務医学的には,うつ病による自殺リスクとうつ病の程度との間には直接的な関係性は否定されていることは前示のとおりであるが,一旦発症してもその後の- 41 -心理的負荷が適度に軽減されてさえいれば,症状の改善によって自殺に至る可能性も減少するとみる余地があるのであって,その意味では発症後の公務上の出来事を考慮することは,必ずしも医学的見解と矛盾するものではない。 しかして,前記認定事実によれば,Aがうつ病を発症した後も,児童Nは,Aの指導に対し,大声を出して暴れてもがいたり,暴言を吐く等し,他の児童に対して暴力を振るい,怪我をさせる等の問題行動を頻繁に繰り返したほか,種々の方法で授業を妨害したことが認められ,また,児童Nの他にも,複数名の児童の問題行動が頻繁に発生し,学級運営が円滑に進まない状態が恒常化していたと認められる。そして,Aは,自殺直前の平成16年9月28日に,児童Nの母親からAの指導に対する抗議ともとれる手紙を受け取ったことによって強い精神的打撃を受け,本件自殺へと至ったものと考えられるのであるから,Aは,上記児童らの指導を含む公務に当たり,うつ病発症以前にも増して強い心理的負荷を受けたものと推認される。加えて,証拠(甲66の6)によれば,教頭や学年主任等の管理職が出席する平成16年6月9日の「なっとうく会議」の議事録において,Aについて「思いこみ激しい,つまらぬプライド強し」と記載されるなど,Aが4年2組の学級運営に困難を抱えていたことに関し,その原因がA自身の指導方法や資質にあるかのような指摘がなされていたことが認められることからしても,Aがうつ病を発症した後においても,同人に対 ど,Aが4年2組の学級運営に困難を抱えていたことに関し,その原因がA自身の指導方法や資質にあるかのような指摘がなされていたことが認められることからしても,Aがうつ病を発症した後においても,同人に対して適切な支援が行われたとは到底認められない。 そうすると,Aのうつ病発症後の公務による心理的負荷は,既に罹患していたうつ病を悪化させるものであったといえても,軽減させるものでなかったことは明らかである。 なお,原告の主張するAに対するB教諭の「悪いのは児童Nではない。お前だ。 お前の授業が悪いからNが荒れる」との叱責やC教頭の「同じ教室内にいて何で止められないんだ。お前は問題ばっかり起こしやがって」との叱責については,そもそも証拠上直ちには認め難いものであり,前記認定のB教諭の「給料もらってる- 42 -んだろう,アルバイトじゃないんだぞ,ちゃんと働け」との叱責も,新任教員に対する指導の一環として行われたものというべきであって,パワーハラスメントとは評価し得ないものというべきではあるが,そのことで上記認定が左右されるものではない。 5 因果関係の中断について被告は,Aは自己の行為の結果を十分に認識した上で本件自殺を行ったものであるから,因果関係の中断があったと主張する。 この点,精神障害に係る自殺については,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で行われた場合には,労災保険法12条の2の2第1項の「故意」には該当せず,因果関係は中断しないと解するのが相当であり,このことは,地公災法上の公務起因性の判断においても同様であると解されるが,ICD-10のF0からF4に分類される多くの精神障害では,精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が が相当であり,このことは,地公災法上の公務起因性の判断においても同様であると解されるが,ICD-10のF0からF4に分類される多くの精神障害では,精神障害の病態としての自殺念慮が出現する蓋然性が高いと医学的に認められることから,業務による心理的負荷によってこれらの精神障害が発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定されるところ,Aが公務による心理的負荷によって,平成16年5月18日前後にICD-10のうつ病エピソードを発症していたことは前記認定説示のとおりであるから,Aについては,かかる精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,又は自殺を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自殺が行われたものと推定される。 そして,Aが自殺直前まで公務を遂行し,コンビニエンスストアでライターを,ガソリンスタンドで灯油を購入した上,車両に火を付ける方法で自殺を図るという行為を踏まえても,そのことをもってAが正常の認識,行為選択能力- 43 -あるいは自殺行為を思い止まる精神的な抑制力を有していたものと認めることは困難であり,他に上記推定を覆すに足る事情はない。 よって,Aの精神障害(うつ病)と本件自殺との間の因果関係に中断があったとは認められない。 6 以上によれば,Aの精神障害(うつ病)の発症は,その公務の中で,同種の公務に従事する労働者にとって,一般的に精神障害を発症させる危険性を有する心理的負荷を受けたことに起因して生じ,増悪したものとみるのが相当であり,Aの自殺は,上記精神障害の結果,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,また,自殺行為を思い止まる精 させる危険性を有する心理的負荷を受けたことに起因して生じ,増悪したものとみるのが相当であり,Aの自殺は,上記精神障害の結果,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,また,自殺行為を思い止まる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で行われたものというべきである。 そうすると,Aの公務と同人の精神障害の発症及び自殺との間に相当因果関係を肯定することができるから,本件自殺を公務外の災害と認定した本件処分は違法であり,取消しを免れない。 第4 結論よって,原告の請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 静岡地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官山崎勉 裁判官清水克久 裁判官中村亜希子

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