主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告が平成13年12月6日付けで原告に対してした,「大正天皇の病状について大正14年の期間について記録されているもの(医療関係録大正14年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」及び「大正天皇の病状について大正15年の期間について記録されているもの(医療関係録大正15年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」を不開示とする旨の決定をいずれも取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律3条に基づき,「大正天皇の病状について大正14年の期間について記録されているもの(医療関係録大正14年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」及び「大正天皇の病状について大正15年の期間について記録されているもの(医療関係録大正15年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」の開示をそれぞれ求めたところ,被告から,同法5条1号に定める不開示情報に該当すること等を理由として,上記各文書をいずれも不開示とする旨の決定を受けたため,これを不服として,上記各決定の取消しを求めている事案である。 1 法令の定め(1) 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。ただし,平成13年法律第140号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)3条は,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨規定する。 そして,情報公開法5条は,行政機関の長は,開 3条は,何人も,この法律の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる旨規定する。 そして,情報公開法5条は,行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる不開示情報のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない旨規定しているところ,同条1号は,下記のとおり不開示情報を定めている。 記個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 イ法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報ロ人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報ハ当該個人が公務員である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(2) 情報公開法7条は,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書に不開示情報が記録されている場合であっても,公益上特に必要があると認めるときは,開示請求者に対し,当該行政文書を開示することができる旨規定する。 (3) 情報公開法8条は,開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは, 当該行政文書を開示することができる旨規定する。 (3) 情報公開法8条は,開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる旨規定する。 2 前提となる事実(これらの事実はいずれも当事者間に争いがない。)(1) 原告は,平成13年11月6日,被告に対し,情報公開法3条に基づき,「大正天皇の病状について大正14年の期間について記録されているもの(医療関係録大正14年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」及び「大正天皇の病状について大正15年の期間について記録されているもの(医療関係録大正15年)病状として異常な挙動及び血液に関する記録」(以下,上記各文書を併せて「本件各行政文書」という。)の開示をそれぞれ請求した。 これに対し,被告は,平成13年12月6日,本件各行政文書のうち,①「大正天皇の病状について大正14年の期間について記録されているもの(医療関係録大正14年)」及び「大正天皇の病状について大正15年の期間について記録されているもの(医療関係録大正15年)」(以下,上記各文書を併せて「本件医療関係録」という。)については,個人に関する情報が記録されており,情報公開法5条1号に規定する不開示情報に該当するとして,また,②大正14年及び大正15年の各「病状として異常な挙動及び血液に関する記録」(以下,上記各文書を併せて「本件症状記録」という。)については,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することになるとして,情報公開法8条に基づき,本件各行政文書をいずれも全部不開示とする旨の決定をした(以下「本件各決 ,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,不開示情報を開示することになるとして,情報公開法8条に基づき,本件各行政文書をいずれも全部不開示とする旨の決定をした(以下「本件各決定」という。)。 (2) 原告は,平成14年1月14日付けで,被告に対し,本件各決定を不服として異議申立てをした。 これに対し,被告は,同年2月13日付け諮問書をもって,上記各異議申立てについて,情報公開審査会に諮問をした。 その後,同審査会は,同年7月5日付けで,被告に対し,本件各決定がいずれも妥当である旨の答申を行い,被告は,同月24日,上記各異議申立てをそれぞれ棄却する旨の決定をした。 3 当事者双方の主張(被告の主張)(1) 本件医療関係録を不開示としたことが適法であることア本件医療関係録が情報公開法5条1号本文に該当することa 本件医療関係録は,大正14年及び大正15年に,当時の宮内省の侍医が,大正天皇の健康状態を毎日診察した結果等を記録した文書であり,体温,脈拍,呼吸,飲食の内容,薬服用,医師の所見等の記述を含む大正天皇の健康状態に関する情報が記録されているものである。 そして,大正天皇の健康状態に関する情報は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別できるもの」(以下「個人識別情報」ということがある。)に該当するから,本件各決定が,本件医療関係録について情報公開法5条1号に該当することを理由に不開示としたことは適法である。 b(a) これに対し,原告は,大正天皇は死者であるから,情報公開法5条1号に規定する「個人」に該当しない旨主張する。 ことを理由に不開示としたことは適法である。 b(a) これに対し,原告は,大正天皇は死者であるから,情報公開法5条1号に規定する「個人」に該当しない旨主張する。 しかし,同号は,個人識別情報について,「個人」に関する情報と定め,「生存する個人」に関する情報と定めていないことに照らせば,同号に規定する「個人」には,生存する個人だけでなく,死亡した個人も含まれることが明らかであるから,原告の上記主張は失当である。 (b) また,原告は,天皇に「氏」がないことや,天皇が日本国の象徴であることをもって,天皇が情報公開法5条1号の「個人」に該当しない旨主張する。 しかし,同号の「個人」には何ら限定がない以上,人であれば「個人」に該当するのであって,当該人における「氏」の有無や,日本国の象徴である天皇であるか否かは,同号の「個人」に該当するか否かに何ら影響しないというべきである。 さらに,原告は,同号が「当該情報に含まれる氏名・・・等により特定の個人を識別することができるもの」と規定していることから,「氏」のない天皇は情報公開法の適用を受けないと主張するが,同号は,個人を識別することができる記述の例として「氏名」を挙げているにすぎず,「氏」が含まれない情報は個人識別情報ではないとするものではないから,原告の主張は失当である。 イ本件医療関係録が情報公開法5条1号ただし書ロに該当しないこと原告は,本件医療関係録に記録された情報が,情報公開法5条1号ただし書ロの「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとして,本件各決定において本件医療関係録を不開示とした れた情報が,情報公開法5条1号ただし書ロの「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとして,本件各決定において本件医療関係録を不開示としたことが違法である旨主張する。 しかしながら,原告は,同号ただし書ロの適用を根拠づける事情として,天皇家には重篤かつ人に危害を与える可能性のある遺伝病の疑いがあり,このような血統の人物を海外の要人に近づければ我が国を危険にさらすことになるから,本件医療関係録を公にする必要があると主張するものであるところ,これらの事情は,その趣旨自体から一方的な憶測に基づくものであることが明らかであるから,原告の上記主張は失当である。 ウ情報公開法7条に関する主張について原告は,本件医療関係録を開示することについて,情報公開法7条に規定する「公益上特に必要があると認めるとき」に該当するとして,本件各決定が本件医療関係録を不開示としたことは違法である旨主張する。 しかしながら,同条は,公益上の理由による裁量的開示を定めるものであるから,裁量権の逸脱又は濫用に当たらない限り,不開示決定が同条に照らして違法となるものではない。 そして,裁量権の逸脱又は濫用を基礎づける事実については,原告が主張立証責任を負うところ,原告が裁量権の逸脱又は濫用を基礎づける事実として主張するのは,天皇家が貴重な医学,生物学等の研究対象であって,大正天皇の病名解明は,医学研究に有力な資料を提供し,人類の進歩に貢献するから,本件医療関係録を公にする公益性があるというものであって,独自の見解に基づくものであることが明らかである。 そうすると,原告が主張する事実は,裁量権の逸脱ないし濫用を基礎づける ,本件医療関係録を公にする公益性があるというものであって,独自の見解に基づくものであることが明らかである。 そうすると,原告が主張する事実は,裁量権の逸脱ないし濫用を基礎づける事実には当たらないから,情報公開法7条に関する原告の上記主張は失当である。 エしたがって,本件医療関係録に記録されている情報は,情報公開法5条1号本文に該当し,同号ただし書ロの要件を満たしていないことに加えて,情報公開法7条の定める裁量権を逸脱又は濫用するものでもないから,被告が本件各決定において本件医療関係録を不開示としたことは適法である。 (2) 本件症状記録の存否について応答を拒否したことが適法であること本件症状記録は,大正14年及び大正15年の各「病状として異常な挙動及び血液に関する記録」であるから,これらの開示請求に対して,当該記録が存在するか否かについて応答すれば,大正14年及び大正15年に,大正天皇が病状として異常な挙動を示していたか否か,また,大正天皇の血液に関して病状として何らかの異常があったか否かという情報を開示することになる。 そして,上記の各情報は,情報公開法5条1号本文に規定する個人識別情報に該当する。 したがって,本件症状記録の存否について応答すれば,大正天皇に関する同号本文に該当する情報を開示することになるから,被告が本件各決定において,本件症状記録の開示請求に対し,情報公開法8条に基づいて存否の応答を拒否したことは適法である。 (3) なお,原告は,情報公開審査会が,本件医療関係録の全部を検討せずに結論を出していること,医学上の問題に関して医師の判断を反映していないことから,同審査会の答申書が無効である旨主張するが,同審査会の答申に関する違法性 公開審査会が,本件医療関係録の全部を検討せずに結論を出していること,医学上の問題に関して医師の判断を反映していないことから,同審査会の答申書が無効である旨主張するが,同審査会の答申に関する違法性の有無は,本件において取消請求の対象とされている本件各決定の適法性と無関係であるから,原告の上記主張は,主張自体失当である。 (4) 以上によれば,本件各決定はいずれも適法であって,原告の請求はいずれも理由がないことが明らかであるから棄却されるべきである。 (原告の主張)本件各行政文書は,いずれも被告が本件各行政文書を不開示とした理由として挙げる事由に該当しないから,本件各行政文書をいずれも不開示とした本件各決定は違法であって,取り消されるべきである。 (1) 本件医療関係録が情報公開法5条1号本文に該当しないことア被告は,本件医療関係録が情報公開法5条1号本文に規定する個人識別情報に該当する旨主張する。 しかしながら,同法が死者に関する情報について明文の規定を設けていないこと,行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律(昭和63年法律第95号。ただし,平成14年法律第100号による改正前のもの。以下「個人情報保護法」という。)2条2号において,死者に関する情報を同法の対象となる個人情報から除外していることに照らせば,死者は情報公開法5条1号に規定する「個人」に該当しないと解されるから,大正天皇に関する本件医療関係録に同号の適用はない。 イまた,情報公開法5条1号は,「当該情報に含まれる氏名・・・等により特定の個人を識別することができるもの」を不開示情報として規定しており,「氏」のない天皇は,同法の適用を受ける要件を満たしていないから,同号に規定する 1号は,「当該情報に含まれる氏名・・・等により特定の個人を識別することができるもの」を不開示情報として規定しており,「氏」のない天皇は,同法の適用を受ける要件を満たしていないから,同号に規定する「個人」に該当しないというべきである。 さらに,日本国憲法の下においては,天皇は「象徴」にすぎず,主権の存する国民ではないのであって,その地位は,日本国民の総意に基づくものにすぎないことからすれば,「個人」としての権利のない天皇に情報公開法を適用することは誤りであるから,天皇は,同号に規定する「個人」に該当しないというべきである。 したがって,大正天皇に関する本件医療関係録に同号の規定は適用されないというべきである。 (2) 本件医療関係録が情報公開法5条1号ただし書ロに該当すること情報公開法5条1号ただし書ロは,行政機関の長に対し「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」を開示しなければならない旨規定する。 そして,天皇家には,重篤かつ人に危害を与える可能性のある遺伝病の疑いがあり,このような危険な血統の人物を海外の要人に近づければ,我が国を危険にさらすことになるから,本件医療関係録は,上記の「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当する。 したがって,本件各決定が本件医療関係録を不開示としたことは違法である。 (3) 本件医療関係録が情報公開法7条により開示されるべきであること情報公開法7条は,開示請求に係る文書に不開示情報が記録されている場合であっても,「公益上特に必要があると認めるとき」にはこれを開示することができる旨規定する。 べきであること情報公開法7条は,開示請求に係る文書に不開示情報が記録されている場合であっても,「公益上特に必要があると認めるとき」にはこれを開示することができる旨規定する。 そして,天皇家は,極めて貴重な医学,生物学,人類学,遺伝学及び歴史学の研究対象であり,大正天皇の病名を解明することは,医学研究に有力な資料を提供し,人類の進歩に貢献するから,本件医療関係録の開示請求は,「公益上特に必要があると認めるとき」に該当することが認められる。 したがって,本件医療関係録は開示されるべきであるから,本件各決定が本件医療関係録を不開示としたことは違法である。 (4) 本件症状記録の存否について応答を拒否したことの違法性前記のとおり,大正天皇が情報公開法5条1号の「個人」に該当せず,同号の規定の適用がないことからすれば,本件症状記録の存否を答えたとしても,大正天皇に関する同号本文に該当する情報を開示したことにはならないから,被告が本件各決定において,同法8条に基づき,本件症状記録の存否について応答を拒否したことは違法である。 (5) そもそも,本件各行政文書を不開示とする理由については,情報公開審査会の答申書に記載されているものであるところ,情報公開審査会は,本件医療関係録の全部を検討せずに結論を出したものであり,また,上記答申書の記載は,医学上の問題に関して医師の判断を反映していないから,上記答申書の結論は無効である。 4 争点以上によれば,本件の争点は,次の各点である。 (1) 本件医療関係録が,情報公開法5条1号本文の規定する不開示事由に該当するか否か。 (争点1)(2) 争点1について,本件医療関係録が情報公開法5条1号本文に該当す 。 (1) 本件医療関係録が,情報公開法5条1号本文の規定する不開示事由に該当するか否か。 (争点1)(2) 争点1について,本件医療関係録が情報公開法5条1号本文に該当すると認められた場合,同号ただし書ロに規定する開示を必要とする情報に該当するか否か。 (争点2)(3) 被告が情報公開法7条に基づいて本件医療関係録を開示しなかったことが違法であるか否か。 (争点3)(4) 被告が情報公開法8条に基づき本件症状記録の存否について応答を拒否したことが違法であるか否か。 (争点4)第3 当裁判所の判断 1 争点1について(1) 証拠(乙4)及び弁論の全趣旨によれば,本件医療関係録は,大正14年及び大正15年に,当時の宮内省の侍医寮に所属した侍医が,大正天皇の健康状態を毎日診察した結果等を記録した文書であり,その内容は,体温,脈拍,呼吸,飲食の内容,薬服用,医師の所見等,大正天皇の健康状態に関する情報を記録したものであることが認められる。 そうすると,大正天皇の健康状態に関する情報を記録した本件医療関係録は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」に該当することは明らかであるから,情報公開法5条1号本文に規定する不開示情報に該当するものと認められる。 (2)アこれに対し,原告は,大正天皇は死者であるから,情報公開法5条1号に規定する「個人」に該当しない旨主張する。 しかし,同号は,単に「個人」に関する情報を不開示情報として規定しているにすぎないのであって,限定的に「生存する個人」に関する情報のみを不開示情報として規定しているものではない。 しかし,同号は,単に「個人」に関する情報を不開示情報として規定しているにすぎないのであって,限定的に「生存する個人」に関する情報のみを不開示情報として規定しているものではない。 そして,個人情報保護法2条2号が,同法にいう「個人情報」を「生存する個人に関する情報」と限定的に規定して,死者に関する情報を同法の個人情報から除外しているのに対し,情報公開法5条1号本文の個人識別情報は,生存する個人に関する情報に限定するものとして規定されていないことに照らせば,同号の個人識別情報には,死者に関する情報も含まれるものと解するのが相当である。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 イまた,原告は,天皇に「氏」がないこと,天皇が日本国の象徴であること等をもって,天皇が情報公開法5条1号の「個人」に該当しない旨主張する。 しかしながら,同号が個人識別情報について,「個人」に関する情報と規定し,同号に規定する「個人」について何らの限定も付していないことに照らせば,自然人であれば同号の「個人」に該当するというべきであって,当該人に「氏」がないことや,日本国の象徴である天皇であることをもって,同号の「個人」に該当しないものと解すべき理由はないというべきである。 ちなみに,原告は,同号が個人識別情報について「当該情報に含まれる氏名・・・等により特定の個人を識別することができるもの」と規定していることを根拠として,「氏」のない天皇は情報公開法の適用を受けない旨主張するが,同号は,個人を識別することができる記述の例として「氏名」を挙げているにすぎないのであって,「氏」のない個人の情報を同法の適用対象外とするものではないことはもとより,「氏」が含まれない情報を個人識別情報 は,個人を識別することができる記述の例として「氏名」を挙げているにすぎないのであって,「氏」のない個人の情報を同法の適用対象外とするものではないことはもとより,「氏」が含まれない情報を個人識別情報から除外するものではないから,原告の主張は失当といわざるを得ない。 2 争点2について原告は,本件医療関係録に記録された情報が,情報公開法5条1号ただし書ロの「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとして,本件各決定において本件医療関係録を不開示としたことが違法である旨主張する。 しかしながら,原告は,本件医療関係録に同号ただし書ロが適用されるべきであるとする理由として,天皇家には重篤かつ人に危害を与える可能性のある遺伝病の疑いがあり,このような血統の人物を海外の要人に近づけることにより我が国を危険にさらすことになるから,本件医療関係録を公にする必要がある旨主張するところ,これらの主張は,原告の憶測に基づくものといわざるを得ないものであり,このような事情によって,本件医療関係録に記録された情報が同号ただし書ロの情報に該当するものと認めるに足りる証拠はない。 3 争点3について原告は,本件医療関係録を開示することについて,情報公開法7条に規定する「公益上特に必要があると認めるとき」に該当するとして,本件各決定において本件医療関係録を不開示としたことが違法である旨主張する。 しかしながら,同条は,行政機関の長が,公益上特に必要があると認める場合に,その裁量により,開示請求に係る行政文書を開示することができることを規定したものであるから,同条による行政文書の開示をしなかった行政機関の長の判断が,与えられた裁量権を逸脱又は濫用するものでない限り,違 裁量により,開示請求に係る行政文書を開示することができることを規定したものであるから,同条による行政文書の開示をしなかった行政機関の長の判断が,与えられた裁量権を逸脱又は濫用するものでない限り,違法となることはないと解される。 本件において,原告は,本件医療関係録を開示することに公益上特に必要があると認められる理由として,天皇家が極めて貴重な医学,生物学等の研究対象であって,大正天皇の病名解明が医学研究に有力な資料を提供し,人類の進歩に貢献するから,本件医療関係録を公にする公益性があると主張しているところ,このような事情をもって,本件医療関係録を開示することに公益上特に必要があると認めることはできないし,他に本件医療関係録を開示することに公益上特に必要があることを認めるに足りる主張,立証はない。 したがって,被告が本件医療関係録を不開示としたことが裁量権の逸脱又は濫用に該当するとはいえないから,情報公開法7条に基づき本件医療関係録を開示しなかったことが違法であるということはできない。 4 争点4について本件症状記録に係る開示請求は,大正天皇の大正14年及び大正15年における各「病状として異常な挙動及び血液に関する記録」の開示を求めるものであるから,これらの開示請求に対して,当該記録の存在について応答すれば,そのことにより,大正天皇が大正14年及び大正15年に病状として異常な挙動を示していたか否か,また,大正天皇の血液に関して病状として何らかの異常があったか否かという情報を開示することになるというべきである。 そして,上記の各情報は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」に該当するから,情報公開法5条1号本文の不開示 そして,上記の各情報は,「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」に該当するから,情報公開法5条1号本文の不開示情報に該当するものと認められる。 そうすると,本件症状記録の存否について応答すれば,同号本文に該当する不開示情報を開示することになるから,被告が本件各決定において,本件症状記録の開示請求に対し,情報公開法8条に基づいて存否の応答を拒否したことは,適法というべきである。 5 なお,原告は,情報公開審査会が本件医療関係録の全部を検討せずに結論を出していること,同審査会が医学上の問題に関して医師の判断を反映していないことを理由に,同審査会による答申書の結論が無効である旨主張するが,同審査会の答申は,本件各決定に対する審査請求に関して行われたものであり,上記答申が違法又は無効であることにより本件各決定が違法となるものではないから,原告の上記主張に係る事実をもって,本件各決定が違法であるということはできない。 そして,他に,本件各行政文書を不開示とした本件各決定が違法であることを認めるに足りる主張及び証拠はない。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官市村陽典裁判官森英明裁判官長井清明 裁判官 森英明 裁判官 長井清明
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