主文 1 被告は,原告乙に対し,1389万0748円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告丙に対し,631万2134円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告丁に対し,701万2134円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを3分し,その2を原告らの,その余を被告の各負担とする。 6 本判決は,第1項から第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 請求の趣旨(1) 被告は,原告乙に対し,4403万0780円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告は,原告丙及び原告丁に対し,それぞれ2144万7649円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 請求の趣旨に対する答弁原告らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要 1 本件は,甲(以下「甲」という。)の相続人である原告らが,福島県双葉郡ⓖ町大字ⓗに居住していた甲が,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)及びこれに伴う津波により,被告が設置,運転する福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)にお いて発生した放射性物質の放出事故により避難を余儀なくされたこと等が原因となって同年7月23日に自死するに至ったと主張し,被告に対し,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。 にお いて発生した放射性物質の放出事故により避難を余儀なくされたこと等が原因となって同年7月23日に自死するに至ったと主張し,被告に対し,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)3条1項本文及び選択的に民法709条ないし711条に基づき,損害賠償として,原告らが相続した甲の逸失利益及び慰謝料,原告らに直接生じた葬儀費用,慰謝料及び弁護士費用並びにこれらの損害に対する損害発生の日(甲が死亡した日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金として,原告乙(以下,原告らを特定する場合には,「原告乙」などと姓を省略する。)は4403万0780円及びこれに対する平成23年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を,原告丙及び原告丁はそれぞれ2144万7649円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めた事案である。 2 前提事実(認定に供した証拠等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア甲(甲1の1,甲7,原告乙本人)甲は,昭和18年1月26日,福島県双葉郡ⓖ町大字ⓗ(当時の行政区分は福島県双葉郡ⓙ村であった。また,以下,福島県内の市町村については市町村名を省略する。)において出生し,平成23年3月11日まで,ⓖ町大字ⓗ字ⓘ㋐番地所在の自宅(以下「ⓖ町ⓗの自宅」又は,単に「自宅」という。)に居住していた。 甲は,平成23年7月24日,南相馬市ⓚ区ⓛ字ⓜ㋑番㋒号所在の橋の下において死亡していることが確認された。死因は多発外傷による外傷性ショックであり,橋から飛び降りて死亡したものと認められた。 イ原告ら(甲1の1~甲3,甲13,57,58,原告乙本人)原告乙は,昭和23年9月23日に宮城県柴田郡ⓝ町ⓞで生まれ,昭和 ショックであり,橋から飛び降りて死亡したものと認められた。 イ原告ら(甲1の1~甲3,甲13,57,58,原告乙本人)原告乙は,昭和23年9月23日に宮城県柴田郡ⓝ町ⓞで生まれ,昭和 39年に中学校を卒業した後,南相馬市ⓢ区(当時の行政区分はⓢ市)に転居し,昭和47年5月10日に甲と結婚した。その後,平成23年3月までの間,ⓖ町ⓗの自宅において甲と同居していた。 甲と原告乙の間には,長男戊(昭和○年○月○日生。以下「戊」という。)及び二男原告丙(昭和○年○月○日)の2子が生まれた。 戊には,原告丁及び己の2人の子がおり,甲の法定相続人は,甲の配偶者である原告乙,甲の子である原告丙,戊を代襲相続した原告丁及び己の4人であったが,己は,その相続分全部を原告丁に譲渡したことから,甲の相続分は,原告乙が2分の1,原告丙が4分の1,原告丁が4分の1となった。 ウ被告(弁論の全趣旨)被告は,電力供給事業を主な目的とする株式会社であり,双葉郡ⓟ町及び同郡ⓠ町に福島第一原発を設置し運転していた,原賠法2条3項の原子力事業者である。 (2) 平成23年3月11日,本件地震が発生し,本件地震に伴う津波等によって原子炉の冷却機能を喪失したことにより,福島第一原発から大量の放射性物質が大気中に放出される事故(以下「本件事故」という。)が発生した(以下,本件地震及び本件事故を併せて「東日本大震災」という。)。 本件事故は,原賠法2条1項にいう原子炉の運転等の際に生じた事故であり,放出された放射性物質は原賠法2条2項にいう核燃料物質等に該当する(弁論の全趣旨)。 (3) 本件事故により福島第一原発周辺で空間放射線量率が上昇したことから,甲,原告乙及び原告丁が居住していたⓖ町ⓗの住民は,福島第一原発から20キロメートルの 質等に該当する(弁論の全趣旨)。 (3) 本件事故により福島第一原発周辺で空間放射線量率が上昇したことから,甲,原告乙及び原告丁が居住していたⓖ町ⓗの住民は,福島第一原発から20キロメートルの圏内にあるとして,平成23年3月12日,原子力災害対策特別措置法(平成24年6月27日号外法律第41号による改正前のもの。 以下同じ。)15条3項の規定に基づき,避難を行うよう指示された。同年 4月22日には,同法20条3項の規定に基づく指示に従い,ⓖ町ⓗは警戒区域に指定されて立入りを禁止された。同地区は,平成25年4月1日に避難指示解除準備区域に見直されたが,現時点(口頭弁論終結時)においても宿泊できない状況が継続している。(甲6の1~6の3) 3 争点本件の争点は,①本件事故と甲の自死との間に因果関係を認めることができるか,②因果関係を認めることができるとした場合,甲の個体側の要因を理由に損害額を減額すべきか否か,減額すべきとした場合,その減額の割合は幾らとするのが相当か,③甲及び原告らの損害額は幾らか,の3点である。 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点①(本件事故と甲の自死との間に因果関係を認めることができるか。)について(原告らの主張)ア甲は,本件事故のために平成23年3月13日に避難を開始して以降,うつ病(大うつ病性障害(MajorDepressiveDisorder)を意味する。以下同じ。)又はうつ状態(以下「うつ病等」という。)というべき精神状態の悪化を呈し,同年6月中旬頃には重篤な状態に移行し,同年7月23日に自死に至ったものであり,本件事故と甲の自死との間には因果関係がある。 甲が本件事故とその後の避難生活によりうつ病等を発症したことは,本件事故と甲の自死との間の因果関係を認定するに当 日に自死に至ったものであり,本件事故と甲の自死との間には因果関係がある。 甲が本件事故とその後の避難生活によりうつ病等を発症したことは,本件事故と甲の自死との間の因果関係を認定するに当たっての中間事象として位置付けられる。本件事故により甲がうつ病等を発症したといえ,さらにうつ病等により甲が自死したといえる場合に,本件事故と甲の自死との間には因果関係が認められるべきといえる。 イ甲が本件事故とその後の避難生活によりうつ病等を発症したことについて (ア) 本件事故と甲のうつ病等の精神疾患の発症との間の因果関係を判断するについては,以下のような枠組みによるべきである。 本件事故とうつ病等の発症時期との時間的近接性,本件事故発生前の甲の生活状況と本件事故及びその後の避難生活における生活状況との違いが甲に与えた心身的負荷の有無及び程度,他方で,甲の基礎疾患,精神疾患の既往歴といった個体側の要因等の間接事実を具体的かつ総合的に判断し,うつ病等の精神疾患の発症及び増悪の要因等に関する医学的知見に照らし,社会通念上,本件事故による避難生活が甲の心身に過重な負荷を与える態様のものであり,本件事故にうつ病等の精神疾患を発症させる一定程度以上の危険性が存在するものと認められる場合に相当因果関係を肯定することができる。 (イ) うつ病に関する操作的診断基準であるDSM-Ⅳ及びICD-10を,本件事故後の甲の生活状況の経過に当てはめると,甲は,本件事故直後の避難生活当初からうつ状態になり,この症状は平成23年6月中旬には相当程度進行していたことがわかる。 (ウ) 甲の精神状態の悪化を示す諸症状は,本件事故直後に生じ,避難生活の継続とともに進行したものであり,本件事故と甲のうつ病等の発症時期との時間的近接性は極めて高い。 (エ いたことがわかる。 (ウ) 甲の精神状態の悪化を示す諸症状は,本件事故直後に生じ,避難生活の継続とともに進行したものであり,本件事故と甲のうつ病等の発症時期との時間的近接性は極めて高い。 (エ) 本件事故後に,甲はⓖ町ⓗでの生活を送ることができなくなり,ⓖ町ⓗへの帰還の見通しも立たない中で,住宅ローン等の経済的負担を負いながら,体育館での過酷な避難生活や手狭なアパートでの暮らしを強いられ,母親である庚(以下「庚」という。)の認知症が進行することにも対応しなければならなかった。 甲は,本件事故により生じたこれらのストレス強度の高い事柄に,予期なく短期間に遭遇することを余儀なくされ,過酷な精神的負担を強いられたものである。 (オ) 甲には精神疾患の既往症はなかった。糖尿病の持病はあったものの,本件においては,糖尿病が甲のうつ病等の原因とはなっていない。 また,甲は社交的で面倒見がよく,楽しく穏やかな人物であり,就職した会社では退職まで勤め上げ,退職後は趣味に打ち込み充実した生活を送っていた。甲に社会適応上特に問題点はなかった。そして,甲は職場で転落事故に遭った後も仕事に復帰し,長男である戊が死亡した後も,戊の子である原告丁の養育に励んでおり,通常人と比べても十分に強いストレス耐性を持った人物であったといえる。 したがって,甲には,因果関係を検討するについて考慮すべき個体としての脆弱性は存在しなかった。 (カ) 以上のとおり,本件事故による避難生活は,甲の心身に過酷な精神的負担を強いるものであり,本件事故には,うつ病等の精神疾患を発症させる危険性が十分に存在したものであり,本件事故と甲のうつ病等の精神疾患の発症との間には因果関係があるというべきである。 ウ精神疾患と自死との間には,統計的に高い相関関係があるこ 精神疾患を発症させる危険性が十分に存在したものであり,本件事故と甲のうつ病等の精神疾患の発症との間には因果関係があるというべきである。 ウ精神疾患と自死との間には,統計的に高い相関関係があることが指摘されており,とりわけ気分障害と自死との関連性が高いとされている。 本件に関しても,甲が自死に至る原因として,うつ病等の精神疾患が重要な因子を占めていたから,本件事故と甲の自死との間にも相当因果関係があるというべきである。 (被告の主張)ア本件事故と甲の自死との間に相当因果関係があるかを判断するに当たっては,特段の法律関係を有しない第三者が発生させた事故という点で共通する交通事故における判断方法を参照し,事実関係を総合的に考慮して相当因果関係の有無を判断する方法が用いられるべきである。そして,判断に際しては,自死や精神疾患についての知見を参考にする必要がある。 自死は単一の原因からなる現象ではなく,自死に至るまでには長期にわ たって形成される準備状態ともいうべき過程があり,環境因,精神障害,問題を抱えやすい性格傾向,家族負因等が複雑に関係しあって,自死につながる準備状態が形成されていくものである。自死の直接の契機は一見して些細なものである場合があるとされていることに留意する必要がある。 また,精神医学,心理学においては,精神障害の成因について,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神障害が起こり,反対に個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生ずるという「ストレス―脆弱性」理論が広く受け入れられている。そして,この場合のストレスの強度は,環境由来のストレスを,多くの人が一般的にどう受け止めるかという客観的な評価に基づくものによって理解されることに留意する必要がある。 これらの知見 ている。そして,この場合のストレスの強度は,環境由来のストレスを,多くの人が一般的にどう受け止めるかという客観的な評価に基づくものによって理解されることに留意する必要がある。 これらの知見を参考にすると,相当因果関係の有無を判断するに当たっては,個体側の要因が十分に考慮されるべきである。具体的には,既往歴,生活史,アルコール等依存状況,性格傾向,家族歴を考慮する必要がある。 イ甲の性格傾向について甲は,自分だけで考え込んでしまい,なんでも自分一人で解決してしまうところがあり,長男である戊が死亡した際にも,戊の話はせずに,じっと一人で考えているようであったとの評価がある。また,甲は,考え込んでいるときであっても,原告乙に対して積極的に相談するのではなく,原告乙が声かけをするとそれに答えるということもあった。 このような甲の性格傾向は,甲の個体側の脆弱性を示唆する事情として適切に斟酌されるべきである。 ウ甲の既往症について甲は,勤務していた会社の健康診断で糖尿病と診断され,平成17年以降,南相馬市内の辛を受診していた。甲の糖尿病の治療は少なくとも6年以上に及び,その間の血糖値コントロールは必ずしも良好とはいえず,足 の裏の感覚喪失の症状がみられる等,糖尿病の程度は軽くはなかった。 糖尿病患者におけるうつ病の有病率は非糖尿病患者と比べて約2~3倍に上り,糖尿病患者の自死率は非糖尿病患者と比べて高いと考えられる。 糖尿病は,長期にわたる自己管理や治療が必要で,合併症にも留意する必要があるなど患者の社会的,精神的負担が大きく,甲もこのような意味でのストレスを受けていたと推察される。 そうすると,甲が糖尿病に罹患していた事実は,相当因果関係の判断に当たって,甲の個体側の要因を示す事実として斟酌されるべ 負担が大きく,甲もこのような意味でのストレスを受けていたと推察される。 そうすると,甲が糖尿病に罹患していた事実は,相当因果関係の判断に当たって,甲の個体側の要因を示す事実として斟酌されるべきである。 エその他の事情について甲の長男である戊は,本件事故と比較的近い平成20年3月3日に,その子である原告丁を遺して死亡しており,そのことが甲に大きな衝撃を与えたことは明らかであり,本件事故時もなお,戊が自死したことによるストレスが残存していたとも考えられる。 また,戊の死亡により,甲は64歳にして原告丁の未成年後見人に就職し,法的にも原告丁を監護すべき義務を負うことになったのであるから,このことによる心理的負荷も考慮されるべきである。 オ本件事故と甲の自死との間の相当因果関係の有無を判断するについては,上記の甲の個体側の脆弱性を考慮する必要があり,これを考慮するならば,甲が自死に至った原因が本件事故にあるとすることはできない。 (2) 争点②(因果関係を認めることができるとした場合,甲の個体側の要因を理由に損害額を減額すべきか否か,減額すべきとした場合,その減額の割合は幾らとするのが相当か。)について(被告の主張)ア本件は,原賠法3条1項に基づく損害賠償請求訴訟であるものの,基本的には不法行為訴訟であるから,不法行為訴訟で広く行われている被害者の素因の斟酌についても同様に妥当するものと解すべきである。 原告らと被告との間に立場の互換性がない等の本件事故の特殊性を斟酌するとしても,不法行為訴訟における損害額算定の際の一般的な判断枠組みが排除されることにはならず,被害者の素因を斟酌することは妨げられない。 イしたがって,本件事故と甲の自死との間の相当因果関係が肯定される場合であっても,争点①にお 算定の際の一般的な判断枠組みが排除されることにはならず,被害者の素因を斟酌することは妨げられない。 イしたがって,本件事故と甲の自死との間の相当因果関係が肯定される場合であっても,争点①において主張した,甲の個体側の要因を適切に斟酌して,素因減額がされるべきである。 その際,被害者と特段の法律関係を有しない第三者が発生させた事故という点で本件事故と共通する交通事故において,被害者が自死した場合には,被害者の心因的要因や性格等を考慮して損害額を80パーセント程度減額した裁判例が大勢を占めていることが参照されるべきである。本件事故による避難者のほとんどが強度の精神的ストレスが生じる困難の中でも生活を続けている状況を考慮すると,自死という結果が重きに過ぎるということは指摘せざるを得ない。 (原告らの主張)ア甲の自死について,本件事故以外の競合要因部分としての素因があり,それが損害の発生又は拡大に影響している場合であっても,その物理的な寄与度のみによって,常に損害賠償額が減額されるべきではない。その素因が斟酌すべき素因であると法的に評価できる場合に限り,民法722条2項の類推適用により,損害賠償額の減額が許されると解するべきである。 イそして,競合要因部分としての素因が性格等の精神的素因である場合には,健康で平均的な人間を基準とし,これを逸脱した場合に直ちに斟酌するというのではなく,その性格等が,個性の多様さとして通常想定される範囲に収まっている限り,これを斟酌すべきではなく,その範囲を外れる場合に初めて,斟酌することが許されるというべきである。 本件においては,以下の諸点からみた素因減額が可能であるかどうかが 問題となり得るが,いずれも減額の理由とはならない。 (ア) 性格・人格通常想定される個体差 というべきである。 本件においては,以下の諸点からみた素因減額が可能であるかどうかが 問題となり得るが,いずれも減額の理由とはならない。 (ア) 性格・人格通常想定される個体差の範囲を外れるような異常な性格,人格である場合には個体的要因として斟酌することができるが,通常想定される個体差の範囲に含まれる場合には斟酌することができないというべきである。 親族らの評価によると,甲は,真面目,凝り性,几帳面という性格傾向を持つ一方で,明るく冗談を言う性格傾向も併せ持っていたものである。そして,本件事故以前の生活史を通じて,甲の社会適応に特段の問題はなかった。 したがって,甲は,通常想定される個体差の範囲に収まる真面目な性格であったといえ,甲の性格・人格は,精神的素因として減額要素にはならない。 (イ) 生活史過去の学校生活,職業生活,家庭生活等における適応に困難が認められる場合には,個体的要因として斟酌することができるといえる。 しかし,甲は,中学校卒業後65歳になるまで,何ら問題なく継続して就労し,家庭生活においても問題なく,地域においても交流会に参加する等し,複数の趣味を仲間や親族とともに楽しみ生活しており,社会適応上の問題はなかった。 したがって,甲の生活史という観点から,素因減額をすることはできない。 (ウ) 精神的既往症の有無・程度精神的既往症については,精神障害に当たるものについては,素因減額において斟酌することができるといえる。 しかし,証拠上,甲が本件事故以前に精神的既往症に罹患していた事 実は一切うかがわれず,甲が,精神科の診断書を提出して猟銃免許を問題なく更新できていたことからも,精神的既往症はなかったといえる。 また,甲には本件事故以前にストレスに起 往症に罹患していた事 実は一切うかがわれず,甲が,精神科の診断書を提出して猟銃免許を問題なく更新できていたことからも,精神的既往症はなかったといえる。 また,甲には本件事故以前にストレスに起因する身体症状もなく,心身症と評価することもできない。 したがって,甲が精神的既往症を有していたことを理由に,素因減額をすることはできない。 (エ) 意思的要素の有無・程度被害者の回復意欲や社会復帰の意欲が欠如している場合には,本来の過失相殺に近い意味で個体的要因として斟酌することができるといえる。 甲は,避難生活を強いられ,全く将来が見えない状況に置かれていたのであるから,一般的な交通事故被害者のように,自ら意欲を出せば社会復帰できる状況ではなかった。したがって,意思的要素の有無・程度という観点から,素因減額をすることはできない。 (オ) 生物学的・遺伝的要素生物学的・遺伝的要素により減額をするには,その存在と現在の精神症状の関係を医学的に説明することが必要であり,医学的裏付けがされない限り,安易に親族の精神病歴等から安易に遺伝的脆弱性を推認することはできない。 甲の親族には自死に関連する精神的既往症を持つ者はいなかった。甲の長男である戊は職場での苦悩などを原因として自死に至ったのであり,先天的な精神的既往症により自死したものではないし,親族が自死した事実をもって,安易に遺伝的脆弱性を推認することはできない。 したがって,生物学的・遺伝的要素の観点から,素因減額をすることはできない。 (カ) 本件事故以外の私生活上のストレス因子 本件事故とは無関係の職場,家庭環境上のストレス因子が競合している場合には,精神に与える衝撃の大きいストレス因子は斟酌要素とされることがある。 本件事故以 私生活上のストレス因子 本件事故とは無関係の職場,家庭環境上のストレス因子が競合している場合には,精神に与える衝撃の大きいストレス因子は斟酌要素とされることがある。 本件事故以前,甲は,家族と共に暮らし,趣味を楽しみながら,充実した生活を送っていたことから,本件事故と関係のない職場や家庭環境のストレス因子はなかった。平成20年に長男の戊が死去した際にも,死亡当時はストレスを受けたものの,その後は気持ちを入れ替えて生活していた。 したがって,本件事故以外の私生活上のストレス因子という観点から,素因減額をすることはできない。 ウ甲が糖尿病に罹患していたことについて(ア) 甲の糖尿病とうつ病発症に関係がないことについて一般的に2型糖尿病患者は,通常人と比べて睡眠障害・うつ病になるリスクが高く,血糖コントロールの悪化は睡眠障害・うつ病の促進要因になるといわれている。 他方で,精神的・肉体的ストレスにより血糖値を上昇させるホルモンの分泌が亢進し,2型糖尿病の血糖コントロールを悪化させるともいわれている。 甲は2型糖尿病に罹患していたところ,平成22年10月以降,過去1~2か月間の平均血糖値を表す指標であるHbA1cは6パーセント前後であり血糖コントロールは良好であったが,平成23年5月以降のHbA1cは8.1パーセントとなっており,血糖コントロールが悪化していた。しかしながら,血糖コントロールの悪化の程度は軽く,平成19年3月から平成20年5月まで,HbA1cが9パーセント以上の値であったときにも,甲はうつ病を発症しなかったのであるから,平成23年5月以降の血糖コントロールの悪化が,甲のうつ病発症に影響 していたとはいえない。 (イ) 甲の糖尿病が重症ではなく,本件事故前には改善傾向に はうつ病を発症しなかったのであるから,平成23年5月以降の血糖コントロールの悪化が,甲のうつ病発症に影響 していたとはいえない。 (イ) 甲の糖尿病が重症ではなく,本件事故前には改善傾向にあったことについて糖尿病が進行した場合,患者は口渇感(喉の渇き)を訴えるようになるが,甲は口渇感をほとんど訴えたことがなかった。甲の肝機能,腎機能には問題がなく,末梢神経障害も軽度であった。また,甲に投与されていたスルホニル尿素薬は,インスリンを作る能力が保たれている患者にのみ有効な処方であった。 さらに,甲の血糖コントロールは,平成22年3月頃から改善傾向がみられ,同年10月以降には正常値を示すこともあった。 以上の事実からすると,甲の糖尿病は,それほど重症ではなく,しかも,事故前には改善傾向にあったといえる。 (ウ) 甲の怪我等による運動不足の影響がないことについて被告は,甲が,平成22年7月10日以降,運動不足であったことが,血糖コントロールの悪化に影響していたと主張するが,甲のHbA1cは,平成22年7月以降平成23年3月まで良好な値を示していたのであり,甲の運動不足が糖尿病の悪化に影響していたとはいえない。 (エ) 甲がマイスリーの投与を受けていたことについて甲は糖尿病のために通院を続けていた平成22年1月9日から同年8月11日までの間,入眠剤であるマイスリーの処方を受けていたのであるが,処方された期間は短く,処方量は1日当たり5ミリグラムに過ぎなかったのであるから,マイスリーの処方はうつ病とは全く関係がなく,素因減額の要素にもならない。 エその他の事情について(ア) 原告らの落ち度について原告らが甲と同居してその生活状況等を把握していたとしても,原告 らが,甲の状況を改善する く,素因減額の要素にもならない。 エその他の事情について(ア) 原告らの落ち度について原告らが甲と同居してその生活状況等を把握していたとしても,原告 らが,甲の状況を改善する措置を採り得る立場にあったとはいえないから,これをもって損害額を減額することはできない。 (イ) 停電や余震によるストレスについて甲が,本件地震による停電や余震を原因とするストレスを訴えた形跡はなく,仮にストレスがあったとしても,甲が避難生活により受けたストレスと比較すれば,無視できるほどわずかなものというべきである。 したがって,本件地震による停電や余震を原因とする心理的負荷は,損害額を減額すべき事情とはならない。 (ウ) 甲の母の認知症について甲は,本件事故後に母である庚の認知症の悪化を懸念していたが,庚の認知症は,本件事故による避難生活において環境が激変したことに起因して悪化したのであるから,上記の事情をもって,損害額を減額する一要素とすることはできない。また,甲は庚の面倒を一人でみていたわけではないから,庚の介護を理由に損害額を減額することもできない。 (3) 争点③(甲及び原告らの損害額は幾らか。)について(原告らの主張)ア甲に生じた損害(ア) 慰謝料本件事故には,その原因である原子力事業により,被告が利益を上げていたこと,原告らと被告との間に立場の互換性がないこと,被告が本件事故を起こしたことについて故意又は過失があること,原子力発電所の安全性に対する国民の信頼を裏切ったという点で背信性及び悪質性があること,甲及び原告らには全く過失がなく被害を回避できなかったこと,避難生活の過酷さやそれがいつまで続くかわからないという不安,ⓖでの暮らしを一挙に奪われた悲しみ,絶望感という精神的苦痛が甚大である こと,甲及び原告らには全く過失がなく被害を回避できなかったこと,避難生活の過酷さやそれがいつまで続くかわからないという不安,ⓖでの暮らしを一挙に奪われた悲しみ,絶望感という精神的苦痛が甚大であること,という他の事故にはない特徴がある。 以上を考慮するならば,甲の避難生活や死亡に伴う精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は3000万円を下らない。 (イ) 逸失利益甲の死亡による逸失利益のうち,就労部分については,基礎収入として365万9100円を採用し,死亡時に67歳であったことから,就労可能期間8年に対応する6.4632を乗じ,生活費として40パーセントを控除する。 甲の死亡による逸失利益のうち,年金部分については,基礎収入として老齢基礎年金,老齢厚生年金,厚生年金基金の合計額208万1600円を採用し,受給可能期間17年に対応するライプニッツ係数11. 2741を乗じ,生活費として40パーセントを控除する。 そうすると,甲の逸失利益は2827万0596円となる。 [計算式]365万9100円×(1-0.4)×6.4632+208万1600円×(1-0.4)×11.2741=1418万9697円+1408万0899円=2827万0596円(ウ) 相続甲に生じた損害は上記(ア)及び(イ)を合計した5827万0596円であり,甲は被告に対して同額の損害賠償請求権を有していたところ,原告乙は甲の妻であり,原告丙は甲の子であり,もう一人の子である戊の子が原告丁であり,戊は甲が死亡する前に死亡しているから,原告丁が甲を代襲相続する。また,戊の子には,原告丁のほかに己がいるが,同人の相続分は,全部原告丁に譲渡された。 したがって,原告乙は2分の1,原告丙及び原告丁はそれぞれ4分の1の割 るから,原告丁が甲を代襲相続する。また,戊の子には,原告丁のほかに己がいるが,同人の相続分は,全部原告丁に譲渡された。 したがって,原告乙は2分の1,原告丙及び原告丁はそれぞれ4分の1の割合で,甲の上記請求権を相続した。原告乙が甲の上記請求権を相 続したことによる請求額は,2913万5298円となり,原告丙及び原告丁の請求額はそれぞれ1456万7649円となる。 イ原告ら固有の損害(ア) 葬儀費用原告乙は,甲の葬儀費用として98万5482円を支出したところ,これは本件事故と相当因果関係のある損害である。 (イ) 慰謝料本件事故による甲の自死により,原告らにも固有の精神的苦痛が生じたところ,上記ア(ア)の事情も考慮すると,原告らの精神的苦痛を慰謝するために必要な慰謝料は,原告乙につき1000万円,原告丙および原告丁について各500万円を下回ることはない。 ウア及びイの小計原告乙が相続し,又は直接被った損害の合計額は4012万0780円となり,原告丙及び原告丁が相続し,又は直接被った損害の合計額はそれぞれ1956万7649円となる。 エ弁護士費用原告らは,本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人らに委任したところ,その弁護士費用のうち,原告乙について391万円,原告丙及び原告丁についてそれぞれ188万円は,本件事故と因果関係のある損害として被告が負担すべきである。 オ合計したがって,原告乙は被告に対し,4403万0780円の損害賠償請求権を,原告丙及び原告丁は被告に対し,それぞれ2144万7649円の損害賠償請求権をそれぞれ有する。 (被告の主張)ア死亡慰謝料 死亡慰謝料については,一般的な水準である総額2400万円を目安として斟酌事由を考慮した上で,適切に 万7649円の損害賠償請求権をそれぞれ有する。 (被告の主張)ア死亡慰謝料 死亡慰謝料については,一般的な水準である総額2400万円を目安として斟酌事由を考慮した上で,適切に総額及びその配分について決定される必要がある。原告らは,被告の背信的要素や基本的注意義務の違反を主張するが,これらの事情は本件においては必ずしも明らかではない。また,原告らは,加害者と被害者の立場に互換性がないことも主張するが,このことが直ちに慰謝料の増額事由になるわけではない。 イ葬儀費用等葬儀費用等のうち,火葬料,搬送代等4万1350円について,原告乙において支出した事実は証拠上明らかとはいえない。 ウ以上を考慮して損害額を計上したうえで,争点②において被告が主張するとおり,適切な素因減額を行い,最終的な損害額が確定されるべきである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の各事実を認めることができ,この認定を覆すに足りる証拠はない。 (1) 甲の住居地について(公知の事実,甲11,原告乙本人)ⓖ町は,福島県浜通りに位置する町で,その東部は太平洋に面し,西部は阿武隈高地の一部を構成している。甲が出生し,本件事故の発生した平成23年3月11日まで生活していたⓗは,ⓖ町の東部に位置しており,ⓖ町ⓗの自宅から自動車で5分程度の距離に㋗築港があり,海釣りをすることができた。ⓖ町の西部の山間にはⓣ地区があり,そこから阿武隈高地を北上すると相馬郡ⓨ村があり,阿武隈高地を南下すると田村市ⓡ地区があり,これらの地区では狩猟をすることができた。 (2) 本件事故前までの甲の生活状況ア甲は,昭和18年10月26日,壬と庚(大正○年○月○日生まれ)の 夫 地を南下すると田村市ⓡ地区があり,これらの地区では狩猟をすることができた。 (2) 本件事故前までの甲の生活状況ア甲は,昭和18年10月26日,壬と庚(大正○年○月○日生まれ)の 夫婦の間の長男として,ⓖ町ⓗの自宅に生まれた。甲は中学卒業後,いわき市内の自動車店において住み込みで働き,昭和47年頃は,ⓖ町ⓗの自宅に戻り,バイクの修理,販売店を営んでいた。(甲9,13)イ原告乙は,昭和23年9月23日,㋔と㋕の夫婦の間の長女として,宮城県柴田郡ⓝ町ⓞ(当時の行政区分は宮城県柴田郡ⓞ町であった。)に生まれた。原告乙は,昭和39年に中学校を卒業してから,南相馬市ⓢ区(当時の行政区分はⓢ市である。)に移住し,病院で働きながら准看護師の資格を取得し,昭和43年から平成18年3月までⓟ町にあるⓤ病院で准看護師として勤め,その後は,ⓖ町にあるⓥ科で勤務していた。(甲1の1,13)ウ甲と原告乙は,昭和47年に知人の紹介で見合いを行い,同年5月30日に入籍し,甲の実家であるⓖ町ⓗの自宅において同居を開始し,以後,本件事故により避難を余儀なくされるまで,同所において同居を続けた。 甲は結婚後1年程度で,借金のために上記アのバイクの修理,販売店の閉店を余儀なくされた。その後,昭和48年にⓦ(当時の商号は「ⓧ」であり,その後商号変更を経ているが,商号変更の前後を区別せずに「ⓦ」と表記する。)に就職し,主に福島第二原子力発電所における資材管理を担当していた。その間は,午前7時頃に自宅を出発し,午後5時頃に帰宅する生活を送っていた。甲はⓦを58歳で退職し,その後65歳まで嘱託職員として勤務し,平成20年頃には完全に退職した。ⓦにおいて勤務していた頃の給料は月27~30万円程度であり,退職後は,老齢基礎年金,老齢厚生年金及び退職年金 58歳で退職し,その後65歳まで嘱託職員として勤務し,平成20年頃には完全に退職した。ⓦにおいて勤務していた頃の給料は月27~30万円程度であり,退職後は,老齢基礎年金,老齢厚生年金及び退職年金として年間208万1600円を受給していた。その他に,原告乙の准看護師としての収入が月23万円程度あったほか,原告丁の未成年後見人であった甲に対し,戊の遺族年金として月13万円程度が支給されていた。(甲13,原告乙本人)エ甲の趣味(甲10,13,原告乙本人) 甲は多くの趣味を持ち,子らを一緒に連れて楽しむことも多かった。 甲は,昭和50年から平成9年まで,趣味として狩猟を行っており,猟犬を連れて,鴨などの鳥を捕っていた。狩猟の免許は1年に1回更新することとされているところ,更新の際には,精神科医の診断書の提出が求められていたが,甲は毎年免許の更新を許されていた。 甲は一年を通じて釣りをしており,これを何よりの楽しみとしていた。 ⓖ町ⓗの自宅から自動車で5分程度のところに㋗海岸があり,そこで釣りをすることが多かったが,その他にも福島や宮城の様々な海岸線で,海岸や堤防からの釣りを楽しみ,イシモチやアイナメ,メバル,カレイ等の魚をよく釣っていた。釣り仲間としては,甲の妹の夫である癸を連れ立って行くことが多く,その他にⓖフィッシングクラブという釣りクラブに入り,幹事役を務めており,このクラブで釣り船を借りて,沖釣りをすることもあった。また,釣りに行かないときでも自宅で釣りの仕掛けを作っており,細かな手作業を丁寧にしていたことから,癸からは凝り性という評価もされていた。 甲は嘱託職員としてⓦに勤務していた平成18年頃に自宅の庭を使って家庭菜園を開始した。ⓦを退職した後の平成21年頃には,自宅から歩いて5分位の距離にある からは凝り性という評価もされていた。 甲は嘱託職員としてⓦに勤務していた平成18年頃に自宅の庭を使って家庭菜園を開始した。ⓦを退職した後の平成21年頃には,自宅から歩いて5分位の距離にある,甲の実弟である㋖が所有する10畳程度の広さの土地を借りて,より本格的に家庭菜園を行うこととした。甲は草刈りを行い,石を取り除き,トラクターで耕耘する等,土地作りから始め,平成22年の夏にはナス,キュウリ等の野菜を,秋以降は大根や白菜といった野菜を収穫することができるようになった。甲は,家庭菜園についても風よけを工夫して作ったり,休憩所を設ける等,種々の手間を掛けており,癸からは,ここにも凝り性な面が表れていたという評価がされていた。 甲の住んでいたⓖ町ⓗは,海にも山にも近く,甲がこれらの趣味を楽しむのには最適の環境であった。 オ甲と家族の関係(甲11,13,原告乙本人,原告丁本人)原告乙は甲のことを「お父さん」と呼んでいた。甲は自宅ではあまり仕事の話をすることはなく,仕事が忙しくなったときなどに,仕事のことを考え込んでしまうことがあり,原告丙が話しかけても答えないことがあった。しかし,その様子を見た原告乙が話しかけると,原告乙に対しては相談していた。 甲は子である戊や原告丙に対して優しく接しており,怒鳴りつけることはなかった。しかし,子らが悪いことをしたときなどは,その態様に合わせてしっかりと怒っていた。戊の子である原告丁は,戊とその最初の妻であるⓐが離婚した後,6歳くらいの頃からⓖ町ⓗでの生活を始めた。その後,戊が二人目の妻であるⓑと結婚して,ⓖ町ⓗの自宅を出てからも,原告丁は甲らとⓖ町ⓗの自宅での生活を続けていた。甲は原告丙や原告丁と一緒に釣りに行くことも多かった。 原告丁が10歳になる年である平成1 人目の妻であるⓑと結婚して,ⓖ町ⓗの自宅を出てからも,原告丁は甲らとⓖ町ⓗの自宅での生活を続けていた。甲は原告丙や原告丁と一緒に釣りに行くことも多かった。 原告丁が10歳になる年である平成15年に,戊はⓑと離婚し,ⓖ町ⓗの自宅に戻って,甲や原告丁らと再び一緒に生活するようになった。その頃から,原告丁は,戊がコーチを務めるⓗドジャースという少年野球のチームで軟式野球を始めた。甲は練習のための送迎を行い,原告丁の試合は必ず観戦し,試合前には原告丁に対して「勝ってこい」等と激励し,試合中にも「いいぞ」等と声援を送っていた。 原告丁が中学校2年生であった平成20年3月3日,戊は自死した。原因は職場での人間関係とみられたが定かではない。その後,同年6月11日に,甲は原告丁の未成年後見人に就職し,親代わりとして原告丁を育てることになった。 原告丁はⓖⓣ高校に進学したが,自宅にあまり帰らなくなる等,素行が悪くなり,高校から謹慎処分を受けるなどしたため,高校を辞めるという話をしたこともあった。しかし,甲は,原告丁に対して落ち着いた態度な がら,本気で怒り,涙を流して,高校だけは卒業するように説得した。その後,原告丁の素行は改善し,部活や授業にきちんと取り組むようになった。原告丁は高校を卒業してから専門学校に行き,自動車整備士になりたいという希望を持つようになったため,甲はそれに応えなければならないという意識で,原告丁を育てていた。 戊が自死したことにより,甲は当初落ち込み,糖尿病の薬を飲まなくなり,糖尿病の症状が悪化したこともあったが,しばらくして以前と変わらない生活に戻り,平成23年頃には気持ちの整理もできている様子であった。 カ甲と地域の関係(甲12,原告乙本人)甲がかつて在籍していたⓗ中学校は,毎年1回必ず が,しばらくして以前と変わらない生活に戻り,平成23年頃には気持ちの整理もできている様子であった。 カ甲と地域の関係(甲12,原告乙本人)甲がかつて在籍していたⓗ中学校は,毎年1回必ず同窓会を開いており,甲はこれに参加し,同級生と一緒に県外へ旅行に行くこともあった。 また,甲の住居地であるⓖ町ⓗを含む部落においては,跡取りの父親たちが作る集まりとして二桁会という会が作られており,部落の行事や祭りの際に準備や片付けの手伝いをしたり,懇親会を開いたりすることがあった。 キ自宅の建替え(甲15の4,15の6,原告乙本人)甲は平成5年にⓖ町ⓗの自宅の建替えを行った。建て替えた自宅は,庚らと甲らとがそれぞれ生活できるように二世帯住宅の造りとなっており,部屋は8部屋ほどあった。家具はすべて作り付けとし,材料にもこだわった。甲らは,将来にわたりこの家に住み続けるつもりで自宅を建て替えた。 自宅の建替えには約4000万円を要したが,うち1890万円については,甲が借主となり,原告乙が連帯債務者となって住宅ローンを組んで借り入れた,本件事故当時,この住宅ローンの残額は794万4660円となっていた。 ク甲の性格等(甲11,12,原告乙本人) 甲は真面目である一方,明るい性格の持ち主であり,よく冗談を言って周囲を笑わせていた。甲は酒をあまり飲めない体質であったが,酒を飲んでいる仲間と合わせて楽しむことができた。フィッシングクラブでは幹事の役割を担っており,他のメンバーからは楽しい人だと評されていた。 甲は家族に対しては優しく接しており,原告丙には,甲と喧嘩をしたり,甲に怒鳴られたりした記憶はない。また,原告丁に対しては宿題をちゃんとやることや,服を脱ぎっぱなしにしないことなどを指導し,しつけをしてい に対しては優しく接しており,原告丙には,甲と喧嘩をしたり,甲に怒鳴られたりした記憶はない。また,原告丁に対しては宿題をちゃんとやることや,服を脱ぎっぱなしにしないことなどを指導し,しつけをしていた。戊が自死してからは,特に原告丁に対して心配して声を掛けるようになった。 一方,甲は自分だけで考え込んでしまい,何でも自分一人で解決しようとしてしまうところがあった。上記オのとおり,考え込んでしまったときには,周囲に積極的に相談することはなく,原告乙が話しかけると,原告乙に対して相談するという様子であった。 (3) 本件事故前までの甲の通院状況及び投薬状況ア甲の通院経過(甲13,14の1,31~34,原告乙本人)甲は,昭和55年頃,ⓦでの作業中に墜落し,頭蓋,骨盤,踵等を骨折する事故に遭い,半年程度入院し,その事故がきっかけとなり,糖尿病を発症した。その後,会社の定期健康診断では,糖尿病の境界型と診断されていたが,治療の必要性はないとされていた。その後,喉が渇いたり足の裏の感覚がおかしいという自覚症状が出てきたため,甲は平成16年3月にⓢ市立病院に通院し,同月29日にⓒ医師(以下「ⓒ医師」という。)に糖尿病と診断された。甲の糖尿病は2型糖尿病であり,平成17年5月2日以降は,同年9月7日から平成19年3月3日の間を除いては,本件事故により避難を余儀なくされるまで,おおむね1か月に1回程度,南相馬市ⓢ区(当時の行政区分ではⓢ市)にⓒ医師が開業した内科又は消化器科を診療科目とする辛に通院し,同医師による治療を継続して受けていた。 本件事故前の最後の通院日は平成23年2月19日であった。 イ甲が訴えた合併症の内容(甲31~34,原告乙本人)甲は喉の渇きや足裏の感覚異常を訴えて,ⓒ医師の診察を受け始めたところ,通 本件事故前の最後の通院日は平成23年2月19日であった。 イ甲が訴えた合併症の内容(甲31~34,原告乙本人)甲は喉の渇きや足裏の感覚異常を訴えて,ⓒ医師の診察を受け始めたところ,通院を開始してからは喉の渇きや痺れを訴えることは少なくなった。 もっとも,平成20年3月に長男の戊が亡くなった後,一時薬を飲まなくなったために症状が悪化し,喉の渇きや両足の痺れを訴えたことがある等,ときどき,合併症を発症することがあった。 ウ甲の血糖コントロールの状況(甲31~34,51,52,原告乙本人)後記(9)ウのとおり,糖尿病患者における血糖コントロールの指標としては,空腹時血糖値及びHbA1cがあるが,甲は,辛に通院した際には,これらの測定を受け,ⓒ医師が健康手帳に数値を記載して甲に渡していた。 その値を抜粋すると別表のとおりとなる。 エ甲に対してとられた治療方法(甲31~34,原告乙本人)甲は,ⓒ医師から運動療法と食事療法を実行するように指示を受けた。 しかし,甲は,好きな物を飲食するのが一番であるとして,厳密な食事制限を伴う食事療法はせず,甘い物を多少控えるようにする程度のものであった。運動療法は,散歩をするのが一番であるという指導を受けて,平成22年頃には,ほぼ毎日1時間程度散歩をしていた。 甲は,平成22年9月7日,脚立から落下して腰を打ったことがあり,その後,痛みが続いた数日間は散歩に行かなくなり,その後も寒くなってきたこともあり,散歩に行く機会は減っていた。 オ甲が処方を受けていた内服薬の内容及び分量(甲31~34,乙8,9)甲は運動療法と食事療法のほかに,内服薬の処方も受けていた。ⓒ医師より処方を受けていた薬のうち糖尿病又は精神障害に関係すると考えられるものの概要及び甲に対する処方量は以下のと 34,乙8,9)甲は運動療法と食事療法のほかに,内服薬の処方も受けていた。ⓒ医師より処方を受けていた薬のうち糖尿病又は精神障害に関係すると考えられるものの概要及び甲に対する処方量は以下のとおりである(処方量は1日当たりの量)。 (ア) アマリールa 効能等アマリールは,膵臓のベータ細胞を刺激してインスリンの分泌を増やすスルホニル尿素薬の一つであり,1日当たりの用量は0.5から4ミリグラムとされている。スルホニル尿素薬は,インスリンを作る能力が保たれている患者にのみ有効な薬である。 b 処方量平成17年5月2日から同年9月7日 1ミリグラム平成19年3月3日から平成20年1月10日 3ミリグラム平成20年2月9日から同年4月10日 4ミリグラム平成20年5月12日から平成21年1月17日 5ミリグラム平成21年2月14日から同年6月20日 4ミリグラム平成21年7月25日から同年12月12日 5ミリグラム平成22年1月9日から平成23年2月19日 6ミリグラム(イ) グルコバイa 効能等グルコバイは,腸でのブドウ糖の吸収速度を抑えることにより,食後の急激な血糖の上昇を抑えるα-グルコシダーゼ阻害薬の一つであり,1日当たりの用量は150から300ミリグラムとされている。 b 処方量平成17年5月2日から同年9月7日 300ミリグラム(ウ) アクトスa 効能等アクトスは,筋肉や肝臓などのインスリンが働く組織でインスリンに対する感受性を高めて血糖を下げるチアゾリジン系薬の一つであり,1日当たりの用量は15から30ミリグラムとされている。 b 処方量平成19年6月30日から平成21 組織でインスリンに対する感受性を高めて血糖を下げるチアゾリジン系薬の一つであり,1日当たりの用量は15から30ミリグラムとされている。 b 処方量平成19年6月30日から平成21年1月17日 30ミリグラム(エ) キネダックa 効能等キネダックは神経内ソルビトールの蓄積を抑制して,糖尿病性末梢神経障害に伴うしびれ感,疼痛等に適応のあるアルドース還元酵素阻害薬であり,1日当たりの用量は150ミリグラムとされている。 b 処方量平成20年3月29日から平成23年2月19日 150ミリグラム(オ) マイスリーa 効能等マイスリーは,統合失調症,躁うつ病の不眠症以外の不眠症に適応のある非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であり,1日当たりの用量は5から10ミリグラムとされている。 b 処方量平成20年3月29日 5ミリグラム平成22年1月9日から同年8月11日 5ミリグラム(カ) セイブルa 効能等セイブルは,グルコバイと同じα-グルコシダーゼ阻害薬の一つであり,1日当たりの用量は150から225ミリグラムとされている。 b 処方量平成22年1月9日から平成23年2月19日 150ミリグラム(4) 本件事故発生後の経緯ア本件事故の概要等(前記前提事実(2)及び(3),公知の事実) (ア) 平成23年3月11日,本件地震が発生した。本件地震に伴う地震動によって送電鉄塔が倒壊し,また津波によって福島第一原発の海側エリア及び主要建屋設置エリアが広く浸水したことなどにより,福島第一原発1号機ないし4号機は原子炉の冷却機能を喪失した。同月12日から15日にかけて福島第一原発1号機,3号機及び4号機の原子炉建屋が,原子炉建屋 建屋設置エリアが広く浸水したことなどにより,福島第一原発1号機ないし4号機は原子炉の冷却機能を喪失した。同月12日から15日にかけて福島第一原発1号機,3号機及び4号機の原子炉建屋が,原子炉建屋内に充満した水素ガスが原因とみられる爆発を起こし,大量の放射性物質が大気中に放出される本件事故が発生した。放出された放射性物質は風に乗って主に同原発の北西方向に広がり,降雨等の影響により土壌に付着した。 (イ) 前記前提事実(3)のとおり,ⓖ町ⓗは,平成23年7月当時,警戒区域に指定されて立入りを禁止されていた。当時は,特にセシウム137から放出されるガンマ線の影響で,主に福島県の浜通りから中通りにかけての広範囲において空間放射線量率が平常時より高い状態が続いていた。放射性物質であるセシウム137の半減期は約30年であり,空間放射線量率が高い状態は長期間にわたることが予想されていた。同地域において空間放射線量率を低減させる方法としては,洗浄や表土の剥ぎ取り等により,土壌等に付着した放射性物質を物理的に除去する除染の方法がある。 イ甲及び原告らの避難の経過(ア) 避難の開始から避難所での生活まで(甲10,13,原告乙本人)平成23年3月11日に本件地震が発生した際,甲はⓖ町ⓗの自宅におり,原告乙は職場で勤務中であった。ⓖ町ⓗの自宅に同居していた原告乙,原告丁,甲及び庚(以下「原告ら家族」という。)は津波から避難するために,一家で高台に逃げて,親戚の家で一泊した。この間,甲が余震に怯えていたり怖がったりする様子は見受けられなかった。 その翌日である平成23年3月12日の早朝に,消防団員から原発が 危ないから避難するよう勧告を受けたため,原告ら家族は,一旦ⓖ町内のⓙ小学校に避難し,同日中に福島第一原発から更に遠方にあるⓖ その翌日である平成23年3月12日の早朝に,消防団員から原発が 危ないから避難するよう勧告を受けたため,原告ら家族は,一旦ⓖ町内のⓙ小学校に避難し,同日中に福島第一原発から更に遠方にあるⓖ町内のⓣ小学校に避難した。 平成23年3月12日の午後に,ⓣも危険であるという情報を聞いた原告ら家族は,同月13日の昼過ぎにⓣ小学校を出発し,午後5時頃,郡山市のⓩ高校の体育館に避難した。ⓩ高校の体育館では,避難者は武道館から畳を運んで体育館の床に敷き,支給された毛布をその上に敷いて寝ていた。体育館にはジェットヒーターが1台あるのみであり,朝晩は吐く息が白くなるほどの寒さであった。また,体育館には仕切りはなく,プライバシーが十分に確保されない状態であった。 甲は,ⓩ高校への避難当初は元気な状態であったが,2週間が経過した頃から,元気がなくなり食欲が落ちた様子がみられ,会話も減少し,睡眠も十分にとれていない様子であった。また,喉の渇きや足の痺れを訴えるようになった。俺だけでもいいからもう帰りたいと言うこともあった。 平成23年4月10日,原告丁が通学していたⓖⓣ高校のサテライト校が,二本松市にできることが分かり,原告ら家族は二本松市に転居することにした。 (イ) 二本松市に転居してからの平成23年6月までの状況(原告丁本人,原告乙本人)平成23年4月13日,原告ら家族は二本松市の2LDKのアパートに転居し,同年5月16日からは,原告丁の同級生であったⓓも,ⓖⓣ高校への通学のために原告ら家族と同居するようになった。 アパートに転居した直後,甲は,本件事故前と同様とまではいえないものの若干回復した様子であった。足の裏が痺れる等の症状を訴えたことはあったものの,睡眠はとれており,一人で二本松市内の観光に出歩 ートに転居した直後,甲は,本件事故前と同様とまではいえないものの若干回復した様子であった。足の裏が痺れる等の症状を訴えたことはあったものの,睡眠はとれており,一人で二本松市内の観光に出歩 くこともあった。また,上記アパートは手狭であったため,不動産屋を回って転居先を探し,同年6月下旬頃には,現在の原告乙の住所地であるアパートを見つけた。ただし,その家賃は,甲らが負担することとなった。 (ウ) 二本松市に転居してからの平成23年6月以降の状況(原告丁本人,原告乙本人)平成23年6月半ば頃から,甲の体調は再び悪化し,食欲が減り,ごはんを半分程度しか食べなかったり,昼ご飯をとらなかったりするようになった。表情は乏しくなり,家でごろごろしてぼうっとしていることが多くなり,コンビニエンスストアへ買い物に行くこともなくなった。 この頃,被告から損害賠償に関する仮払申請書が届けられたり,ⓖ町から避難の登録に関する書類が届けられたりしたため,甲は,生真面目に全て読んで記入しようとしたものの,その分量の多さに,読み切れない,書き切れないと悩んでいる様子であった。 また,ⓖ町ⓗの自宅に残してきた釣り道具を持ってくることができず,釣りをすることができないと愚痴をこぼしたり,肥料を準備していたのに家庭菜園ができなくなったことへの不満を述べたりすることもあった。甲はⓖフィッシングクラブの仲間の声掛けで,避難後,平成23年6月に1度だけ新潟に釣りに出かけたことがあったものの,それが気晴らしになっている様子はなく,それ以外には釣りに行くこともなかった。 ⓖフィッシングクラブの仲間からは,同年7月にも釣りに行く誘いがあったものの,甲は行きたくないとしてこれを拒んだ。 また,避難生活が進む中で,庚(平成23年5月26日に89歳となった。)の 。 ⓖフィッシングクラブの仲間からは,同年7月にも釣りに行く誘いがあったものの,甲は行きたくないとしてこれを拒んだ。 また,避難生活が進む中で,庚(平成23年5月26日に89歳となった。)の認知症の症状が悪化し,避難前にはなかった徘徊がみられるようになった。二本松市のアパートで生活している際には,甲や原告乙が不在の間に,庚がアパートから出て失踪し,二本松署で保護されるこ ともあった。また,庚が毎日,「いつになったらⓖに帰れるんだ。」と甲に尋ね,それに対して甲がもう帰れないことを繰り返し説明しており,甲は実母が弱っていく姿を見て疲弊している様子であった。 甲は,ⓖ町ⓗの自宅に帰りたいということをときどき話していたところ,原告乙と甲は,平成23年6月下旬頃に,原告丁が野球の試合に出場するための道具を回収するために,自宅に一度帰宅した。自宅の内部は地震によって雑然とした状態であったが,自宅の外観には地震や津波の被害はなかった。その様子を見て,甲は,自宅は居住できる状態なのに,自宅に帰ることができないのが一番辛いという趣旨のことを話していた。 平成23年7月9日から同月11日にかけて,原告丁の高校生活最後の野球大会が行われた。甲は,本件事故前は必ず原告丁の試合を観戦していたが,同大会については,当初応援に行かないと話していた。原告乙は甲を無理矢理に応援に連れ出して,一緒に原告丁を応援したが,甲は応援を楽しむ様子はなく,うろうろしていた。同月10日の試合では,原告丁が初めて先発投手を務め,試合にも勝利し,勝利投手になったにもかかわらず,甲は原告丁に「勝って良かったな。」と声を掛ける程度にとどまり,本件事故前のように大きい声を出して喜ぶ様子はみられなかった。 (エ) 避難生活中の甲の通院状況(甲31,32,原告乙本人) かわらず,甲は原告丁に「勝って良かったな。」と声を掛ける程度にとどまり,本件事故前のように大きい声を出して喜ぶ様子はみられなかった。 (エ) 避難生活中の甲の通院状況(甲31,32,原告乙本人)甲はⓖ町ⓗの自宅からの避難に際して薬を持参していなかったため,当初辛からの処方薬を服用することができず,上記イ(ア)のとおり,喉の渇きや足の痺れといった糖尿病の合併症とみられる症状を訴えていた。ⓩ高校の体育館に避難していた当時,医療支援者に血糖値を測定してもらい,薬を処方してもらうことはあったが,甲は薬が合わないと言っていた。そこで,ⓩ高校の近くにある内科の㋘に行き,血糖値の検査 を受けて薬の処方を受けたが,甲はやはり薬が合わないと言っていた。 二本松市のアパートに転居した後の平成23年5月9日,甲は原告乙の運転で南相馬市ⓢ区の辛に行き,ⓒ医師の診察を受けた。辛では,空腹時血糖が202,HbA1cが8.0パーセントと測定され,コントロールが不良であると指摘された。ⓒ医師からは,従前と同様の内服薬(アマリール6ミリグラム,キネダック150ミリグラム,セイブル150ミリグラム)の処方を受けた。甲は,やっぱりⓒ先生の薬じゃないと駄目なんだと言い,糖尿病の症状には若干の改善傾向がみられた。 平成23年6月6日に辛で診察を受けた際には,空腹時血糖が68,HbA1cが8.1パーセントと測定され,もう少し改善が必要である旨指摘され,同年5月9日と同様の処方を受けた。 平成23年7月6日に辛で診察を受けた際には,空腹時血糖が221,HbA1cが7.7パーセントと測定され,まだ高いと指摘された。この日,甲は暑くて眠れない旨を訴え,同年5月9日と同様の処方のほか,睡眠薬であるマイスリー5ミリグラムの処方を受けた。また,胸部レントゲ A1cが7.7パーセントと測定され,まだ高いと指摘された。この日,甲は暑くて眠れない旨を訴え,同年5月9日と同様の処方のほか,睡眠薬であるマイスリー5ミリグラムの処方を受けた。また,胸部レントゲンと心電図の検査を受けたが,異常はみられなかった。 (オ) 避難生活中の甲の運動の状況(原告丁本人,原告乙本人)甲は,本件事故前は毎日1時間程度の散歩を日課とし,これを糖尿病に対する運動療法としていたところ,ⓩ高校での避難生活中もグラウンドを回って30分程度散歩することがあった。 二本松市のアパートに転居してからは,最初の1,2か月程度は,元気を取り戻した様子であり,近くのコンビニにタバコと新聞を買うために,毎日1時間程度散歩をしていた。しかし,それ以降は,何もせずに家にずっといることが多く,散歩に行かなくなった。 (カ) 避難生活中の家計の状況等について(甲15の1~15の6,原告丁本人,原告乙本人) 本件事故により,原告乙が勤務していたⓥ科はしばらく閉鎖することになり,原告乙は退職の扱いとなった。 上記(2)キのとおり,本件事故当時,甲は自宅の住宅ローンが約800万円程度残っており,遅くとも平成23年7月の時点では延滞も生じていた。そのため,原告乙と甲は,同月16日に手続を行い,既に発生している延滞分の遅延損害金の免除を受けるとともに,同月17日から平成28年7月16日までを元本と利息の支払をしなくてよい据置期間とし,その間の利率を年率0.5パーセントとする内容で独立行政法人㋓と返済方法を変更する合意をした。これによって,元利金の支払は5年間繰り延べになったものの,5年後には,繰り延べた5年間についての年率0.5パーセントの割合による利息を併せて支払わなければならないことになった。 甲は,住宅ローンにつ よって,元利金の支払は5年間繰り延べになったものの,5年後には,繰り延べた5年間についての年率0.5パーセントの割合による利息を併せて支払わなければならないことになった。 甲は,住宅ローンについて,なるようにしかならないとあきらめ気味に話していた。 原告丁は,本件事故前は,高校卒業後に専門学校に進学し,整備士になりたいという希望を持っていたが,避難により生活が厳しくなり,進学する資金を確保することが困難であると考え,高校卒業後は進学しないで就職することを決め,原告乙及び甲らに話した。甲は,原告丁を進学させられないことについて,残念がり,申し訳ないと言っていた。 (5) 甲の自死前後の状況等ア自死前日までの状況(甲13,原告丁本人,原告乙本人)甲は,自死する3日前である平成23年7月20日頃から,少し元気になった様子を見せ,原告丁やⓓに対して冗談を言って,ふざけ合うことがあった。 また,同月22日には,甲から原告乙に対して,衣類の乾燥のためにコイン・ランドリーに出かけたり,買い物に行ったりすることを誘い,原告 乙と甲は一緒にコイン・ランドリーやスーパーマーケットに出かけた。同年6月以降,甲が原告乙に対して外出することを誘うことはなくなっていたので,このように外出することは久しぶりであった。この日,甲は午後10時頃には就寝した。 このようなエピソードがあったため,原告乙は,甲の調子が少し良くなって,本件事故前に戻ってきているように感じた。 イ自死当日及び翌日の状況(甲7,13,原告乙本人)平成23年7月23日午前5時半頃に原告乙が目覚めた際には,甲はまだ寝入っていたが,同日午前6時半頃に原告乙が目覚めた際には,甲の姿はなく,自動車の鍵もなくなっていた。 同日午後4時から5時頃になって 年7月23日午前5時半頃に原告乙が目覚めた際には,甲はまだ寝入っていたが,同日午前6時半頃に原告乙が目覚めた際には,甲の姿はなく,自動車の鍵もなくなっていた。 同日午後4時から5時頃になっても甲が帰宅しなかったことから,原告乙は甲の携帯電話に電話を掛けたが,携帯電話は家のテーブルの下に置いたままにされていたため連絡をとることができず,知人に問い合わせても甲の行方は分からないままであった。そこで,原告丙に促されて,原告乙は二本松警察署に捜索願を提出し,甲が自動車で出かけたまま帰らないことや,自動車の車種やナンバーについての情報を提供した。そうすると,甲が使用した自動車と似た自動車が,同日午後4時頃に相馬郡ⓨ村の㋙ダム付近で目撃されていたという情報が得られ,同日午後9時頃,警察官が確認したところでは,同車両には鍵がささっているが,運転者はいない状況であった。 翌日である平成23年7月24日早朝から,警察が捜索を行い,同日午前6時30分頃,㋙ダム付近である南相馬市ⓚ区ⓛ字ⓜ㋑番㋒号所在の橋の下で甲の遺体が発見された。死因は多発外傷による外傷性ショックであり,橋から飛び降りて死亡したものと認められた。 ウその後の状況等(甲1の2,甲46の1~49の2,原告乙本人)甲が乗っていた自動車のガソリンは,自死の前日である平成23年7月 22日には満タンであったが,同月24日に発見された際には空に近い状態であった。 原告乙は,南相馬と二本松とで,甲の葬儀を2回行い,100人程度の人が参列した。甲の位牌は,現在原告乙が住んでいる二本松市の家に置いてあり,原告乙が供養を行っている。また,ⓖ町にある墓は倒れていたため,原告乙は,平成26年になって墓を起こして,甲の遺骨を納骨した。 甲が死亡した後,原告乙は平成23年9月 二本松市の家に置いてあり,原告乙が供養を行っている。また,ⓖ町にある墓は倒れていたため,原告乙は,平成26年になって墓を起こして,甲の遺骨を納骨した。 甲が死亡した後,原告乙は平成23年9月2日に原告丁と養子縁組をし,養親として原告丁を育てていくこととした。 (6) うつ病の診断基準(甲27,28)うつ病は気分障害の一種であり,抑うつ気分と興味・喜びの低下の2つを基本症状とする精神疾患である。従来,うつ病は,その成因によって,内因性,神経症性,反応性に大別されて考えられていたが,原因にかかわらず症状の程度と持続時間によって線引きを行う操作的手順を採用した分類が導入され,世界保健機関の国際疾病分類に採用された(ICD-10)。また,アメリカ精神学会は,ICD-10との相互互換性を意識した診断基準であるDSM-Ⅳを作成している。これらの基準がうつ病の一般的な診断基準とされている。 また,うつ病では,気分の障害,意欲の障害,思考の障害及び身体症状が現れる。DSM-ⅣやICD-10では,診断の客観性を高めるため,一定数の症状があるときに診断を下し,症状の数が多いほど重症と判断する。 ア DSM-Ⅳの基準(甲17,28)(ア) DSM-Ⅳでは,次項のAからEをうつ病エピソードの診断基準としているが,このうちB,D及びEはいわば他原因の排除(除外診断)に関する基準であり,積極的な診断基準はA及びCである。 A 以下のうち5つ以上が同じ2週間に存在し,病前の機能からの変化を起こしている。これらのうち少なくとも1つは,下記の1.抑うつ 気分あるいは,2.興味又は喜びの喪失である。 1 その人自身の言明か,他者の観察によって示される,ほとんど1日中,ほとんど毎日の抑うつ気分。 2 ほとんど1日中,ほとんど毎日の,すべて 気分あるいは,2.興味又は喜びの喪失である。 1 その人自身の言明か,他者の観察によって示される,ほとんど1日中,ほとんど毎日の抑うつ気分。 2 ほとんど1日中,ほとんど毎日の,すべて,またはほとんどすべての活動における興味,喜びの著しい減退(その人の言明,または他者の観察によって示される)。 3 食事療法をしていないのに,著しい体重減少,あるいは体重増加(例:1月で体重5%以上の変化),またはほとんど毎日の,食欲の減退または増加。 4 ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。 5 ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止(他者によって観察可能で,ただ単に落ち着きがないとか,のろくなったとかという主観的感覚でないもの)。 6 ほとんど毎日の易疲労性,気力の減退。 7 ほとんど毎日の無価値感,または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある。単に自分をとがめたり,病気になったことに対する罪の意識ではない)。 8 思考力や集中力の減退,または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言明による,または他者によって観察される)。 9 死についての反復思考(死の恐怖だけではない),特別な計画はないが反復的な自殺念慮,または自殺企図,または自殺するためのはっきりとした計画。 B 症状は混合性エピソード基準(躁うつ病の基準)を満たさない。 C 症状は,臨床的に著しい苦痛,または,社会的,職業的,または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。 D 症状は物質(例:乱用薬物,投薬)の直接的な生理学的作用,また は一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。 E 症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち,愛する者を失った後,症状が2か月を超えて続くか,または,著明な機能不全,無価値感 は一般身体疾患(例:甲状腺機能低下症)によるものではない。 E 症状は死別反応ではうまく説明されない。すなわち,愛する者を失った後,症状が2か月を超えて続くか,または,著明な機能不全,無価値感への病的なとらわれ,自殺念慮,精神病性の症状,精神運動制止があることで特徴づけられる。 (イ) 少なくとも2週間の抑うつ症状のエピソードがあるが,症状数がうつ病に要求されている上記(ア)Aの5項目未満である場合を小うつ病性障害と呼び,DSM-Ⅳにおいては,特定不能のうつ病性障害として区分されている。 イ ICD-10の基準(甲18,28)以下のAとBが同時に2週間以上持続すれば,うつ病エピソードと診断される。これに加えて,Cに該当すれば,身体性症候群を伴ううつ病エピソードに該当する。 A 以下のうち少なくとも2つがみられること(重症うつ病エピソードに該当するためには,3つ全てがみられなければならない。) 1 抑うつ気分 2 興味と喜びの喪失 3 活力の減退による易疲労感の増大,活動性の減少B 以下のうち少なくとも2つがみられること(中等症うつ病エピソードに該当するためには少なくとも3つが存在する必要がある。重症うつ病エピソードに該当するためには少なくとも4つ存在し,そのうちのいくつかが重症でなければならない。) 1 集中力と注意力の減退 2 自己評価と自信の低下 3 罪責感と無価値感 4 将来に対する希望のない悲観的な見方 5 自傷あるいは自死の観念や行為 6 睡眠障害 7 食欲不振C 身体性症候群:以下のうち4項目以上認められる場合 1 通常楽しいと感じる活動への喜びや興味の喪失 2 通常楽しむことができる状況や出来事への情動的な反応性の欠如 3 早朝覚醒(普段と比べて2時間以上) 4 日内変動(午 項目以上認められる場合 1 通常楽しいと感じる活動への喜びや興味の喪失 2 通常楽しむことができる状況や出来事への情動的な反応性の欠如 3 早朝覚醒(普段と比べて2時間以上) 4 日内変動(午前中に抑うつが強い) 5 明らかな精神運動制止または焦燥(他人から気づかれたり報告されたりすること) 6 明らかな食欲の減退 7 体重減少(過去1月に5%以上) 8 明らかな性欲の減退(7) 精神障害に関する労災認定実務(甲50,乙1)ア 「ストレス―脆弱性」理論多くの精神障害の発病には,単一の原因ではなく,素因,環境因(身体因,心因)の複数の原因が関与するとされている。そして,精神障害が生じる原因を考えるについて,今日の精神医学,心理学では「ストレス―脆弱性」理論に依拠することが適当であると考えられており,労災認定実務において,労働者が発病した精神障害が業務に起因するものか否かを判定する基準としても用いられている。 「ストレス―脆弱性」理論とは,環境由来の心理的負荷(ストレス)と個体側の反応性,脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まるという考え方であり,ストレスが非常に強ければ,個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こり,反対に,個体側の脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生ずるとされる。 イストレスの強度について労災認定実務においては,「ストレス―脆弱性」理論における考慮要素であるストレスの強度を客観的に基準化するために,個別の出来事が与えるストレスの強度について,業務に関連する出来事と業務以外の場面での出来事に分けて評価表が作成されて用いられている。評価表については,平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」の別表が従 事と業務以外の場面での出来事に分けて評価表が作成されて用いられている。評価表については,平成11年9月14日基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」の別表が従前用いられていたところ,平成23年12月26日基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「平成23年認定基準」という。)が定められ,同通達の別表が用いられているが,業務外のストレスの強度の評価に関しては,若干の項目が追加された他には大きな変更点はない。業務以外の場面での出来事についての評価表の概要は以下のとおりである。 (ストレス強度)Ⅰ:日常的に経験する心理社会的ストレスで,一般的に問題とならない程度のストレスⅡ:ⅠとⅢの中間に位置する心理社会的ストレスⅢ:人生の中で希に経験するような強い心理社会的ストレス(評価表の抜粋)[具体的出来事] [ストレスの強度]自分が病気やケガをした Ⅱ配偶者や子供,親又は兄弟が死亡した Ⅲ親族とのつきあいで困ったり,辛い思いをしたことがあった Ⅱ親が重い病気やケガをした Ⅱ多額の財産を損失した又は突然大きな支出があった Ⅲ収入が減少した Ⅱ借金返済の遅れ,困難があった Ⅱ 天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた Ⅲ騒音等,家の周囲の環境(人間環境を含む)が悪化した Ⅱ引越した Ⅱウ個体側の脆弱性について労災認定実務においては,「ストレス―脆弱性」理論において精神障害の成因の 境を含む)が悪化した Ⅱ引越した Ⅱウ個体側の脆弱性について労災認定実務においては,「ストレス―脆弱性」理論において精神障害の成因のもう一方の極にある個体側の脆弱性を判断するために,個体側の脆弱性に関連する以下の要素を取り上げている。 (ア) 既往歴既往の精神障害,脳の疾患,著しい身体疾患等が挙げられる。このうち,既往の精神障害に関しては,特別なストレス要因なしに精神障害に罹患した既往歴があれば,その人の精神的な脆弱性を推測する一つの根拠になる。 (イ) 生活史(社会適応状況)これまでの生活史の中で,社会適応に明らかな個人的問題を持つ人の場合,それは精神的な脆弱性の表れである場合がある。その人の過去の学校生活,職業生活,家庭生活の状況はその人のストレスに対する反応性,脆弱性を具体的に示すものである。生活史については複数の人からの情報を必要とする。 (ウ) アルコール等依存状況飲酒歴も個体側要因としては重要な要素である。軽いアルコール依存状態でも職業生活遂行上重大な支障を来す可能性がある。アルコールへの依存傾向は,それ自体が精神障害(アルコール性うつ病など)の発病原因となり得ることとは別に,逃避的,自棄的衝動から自死行動に至ることもあるので,特に治療歴のない自死事案にあっては重要な意味を持つことがある。 (エ) 性格傾向 その人の元々の性格傾向を明らかにすることは,新たに生じた精神状態がその人にとってどれくらい異常に変化したものであるかを判断する上で必要であるし,また,その人がどのような行動様式をとる人であるか,どのような種類のストレスに強いか弱いかを知る上で必要である。 精神医学的には,一定の精神障害との結びつきにおいていく 断する上で必要であるし,また,その人がどのような行動様式をとる人であるか,どのような種類のストレスに強いか弱いかを知る上で必要である。 精神医学的には,一定の精神障害との結びつきにおいていくつかの性格傾向(循環気質,メランコリー親和型性格,分裂気質,強迫性格など)が議論され,精神障害の成因の理解に役立つが,類型判定自体難しく,あえて拘泥する必要はない。 (オ) 家族歴家族に精神障害に罹患した者がいるということは,遺伝要因の関係から,ときに重要な資料となるが,その価値は絶対的なものではなく,参考資料とすればよい。 エストレス強度の研究上記イのストレス強度の分類は,様々なストレス強度の分類に関する研究結果を基に作成されたものであるが,そのような研究結果には,以下のようにストレスを評価しているものがある。 (ア) ストレス強度を100点満点で示している(100点が最も強い。)平成5年に発表された研究成果において,住宅ローンが47点,住宅環境の大きな変化が42点とされている。 (イ) 同じくストレス強度を100点満点で示している(100点が最も強い。)昭和42年に発表された研究成果において,家計状態の大きな変化が38点とされている。 (ウ) ストレス強度を0ないし3の段階評価している(3点が最も強い。)昭和63年に発表された研究成果において,自分の親の介護・介助が1. 09点,転居が0.93点とされている。なお,同研究結果において,自分の病気・けがは,0.95点とされている。 (エ) ストレス強度を1ないし5の段階評価している(5点が最も強い。)平成6年に発表された研究成果において,多額の財産の損失が3.08点,悪環境の場所への引っ越しが2.87点とされている。 (オ) 同じくストレス強度を1ないし5の 階評価している(5点が最も強い。)平成6年に発表された研究成果において,多額の財産の損失が3.08点,悪環境の場所への引っ越しが2.87点とされている。 (オ) 同じくストレス強度を1ないし5の段階評価している(5点が最も強い。)昭和49年に発表された研究成果において,自宅が火事で焼けそうになったことが4.13点,住居を引っ越した,又は引っ越しの話が出たことが3.57点とされている。 (カ) ストレス強度を1ないし7の七段階で評価している(7の「破局的」が最も強い。)昭和57年に発表された研究成果において,取り返しのつかない天災が7に,大きな経済的損失が5の「高度」に分類されている。 (8) 災害によるストレスが被災者の精神状態にもたらす影響に関する知見ア一般的知見(甲19)災害は生命や財産を突発的に脅かす事態をもたらすものであり,被災住民に災害ストレスと呼ばれるストレスを与えるものである。しかし,災害は全ての被災住民に対して類似の反応を引き起こすわけではなく,精神的に不安定というレベルで留まる被災住民もいれば,神経症的症状や心身症的症状を呈する被災住民もおり,ときには錯乱状態に陥る被災住民もいる。 平成3年に発生した雲仙・普賢岳噴火災害の避難住民の精神医学的問題の特徴をまとめるならば,避難住民の自覚する精神的ストレスは一般住民より著しく高く,それは避難生活の終了,噴火活動の終息とともに軽快傾向を示した。GHQと呼ばれるテストによると,66.9パーセントの避難住民に精神医学的問題の存在が疑われ,そのうち個別的な継続的援助を必要とした者は20ないし30パーセントに及んだ。 イ本件事故によるストレスに関する調査結果等(ア) 本件地震及びこれに伴う津波によって福島県では約9万戸の住宅が 全半壊し,本件事故 を必要とした者は20ないし30パーセントに及んだ。 イ本件事故によるストレスに関する調査結果等(ア) 本件地震及びこれに伴う津波によって福島県では約9万戸の住宅が 全半壊し,本件事故によって福島県浜通りを中心に避難指示が出されたことや,避難指示が出されなかった地域においても放射線の健康影響に対する不安等を理由に,当初約16万人が避難生活を送ることとなった。 このうち,福島県浜通り地方等から最大9500名程度の被災者が避難していた福島県会津地方の避難所において巡回診療を担当した会津地方の精神科医療機関や県外チームで構成された医師のチームによれば,平成23年4月12日から同年7月26日にかけて診療・相談を行った250名の被災者,被災市町村職員等のうち,約70パーセントが何らかの心理的問題を有しており,暫定診断で反応性抑うつ状態とされた者が22パーセントに及んだ。また,それら心理的問題の原因,背景として「避難所生活や対人関係のストレス」を有していた者が50.4パーセント,「震災や原発被害に関する喪失・ストレス」を有していた者が38.4パーセントに上った。(甲25)(イ) 平成23年3月12日から同年6月15日までの期間中における,福島県精神医学会に入会している精神科病院,精神科・心療内科クリニック,総合病院精神科外来における新患患者を対象とする調査によると,この時期の新患患者のうち,急性ストレス反応,PTSD,適応障害,うつ病エピソード,その他の抑うつと診断された患者は約31パーセントであった。さらに,そのうち,本件事故との関連があるとされた者が19パーセント,関連があるかもしれないとされた者が13.4パーセントであった。本件事故との関連があり又はあるかもしれないとされた患者のうち,避難指示又は自主判断により避難した者の あるとされた者が19パーセント,関連があるかもしれないとされた者が13.4パーセントであった。本件事故との関連があり又はあるかもしれないとされた患者のうち,避難指示又は自主判断により避難した者の割合は46パーセントであり,その全員が避難生活によるストレスがあると回答した。 (甲24)(ウ) 本件事故の発生から約1年が経過した平成24年3月から同年4月に,福島県から埼玉県に避難した避難者を対象にした調査においては, 心理的ストレス反応尺度(SRS-18)のテストで,約77パーセントの避難者が,ストレス程度が「高い」レベルであり,「やや高い」レベルを合わせると,約94パーセントに上った。また,改訂出来事インパクト尺度(IES-R)のテストでは,67.3パーセントの者がPTSDの可能性がある高いストレス状況にあった。(甲26)(9) 糖尿病に関する知見ア糖尿病に関する一般的知見(甲52,乙7)糖尿病はインスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群であり,1型と2型に分けられる。甲が罹患していた2型糖尿病は,遺伝因子に,過食,運動不足,肥満,ストレスなどの環境因子及び加齢が加わり発症するといわれている。 糖尿病の主要な合併症には,網膜症,腎症及び末梢神経障害があり,そのうち,末梢神経障害が最も早期に発症する。全糖尿病患者のうち,何らかの神経症状を持つ者が20~30パーセントを占める。糖尿病性神経障害のうち多発神経障害の初期症状は感覚神経の障害として現れ,足先や足裏のピリピリ感やジンジン感などの異常なしびれ感に代表される陽性症状や,足が薄皮で覆われたような感覚鈍麻に代表される陰性症状がある。 これらの症状が進行すると運動神経,自律神経の障害も生じるようになる。 イ糖尿病の治療(甲52,56,乙8 れ感に代表される陽性症状や,足が薄皮で覆われたような感覚鈍麻に代表される陰性症状がある。 これらの症状が進行すると運動神経,自律神経の障害も生じるようになる。 イ糖尿病の治療(甲52,56,乙8)糖尿病の治療においては,血糖,体重,血圧,血清脂質の良好なコントロール状態を維持することが目標とされ,特に血糖コントロールが重視される。 血糖コントロール状態の指標としては,空腹時血糖値のほか,採血時から過去1,2か月間の平均血糖値を反映するHbA1cという安定型糖化産物の値が用いられる。血糖コントロールの具体的な目標は,年齢,罹病期間,臓器障害,低血糖の危険性,サポート態勢などを考慮して個別に設 定されるが,HbA1cが5.8パーセント未満で,空腹時血糖値が80以上110未満の場合には「優」,HbA1cが5.8パーセント以上6. 5パーセント未満で,空腹時血糖値が110以上130未満の場合には「良」,HbA1cが6.5パーセント以上7.0パーセント未満で,空腹時血糖値が130以上160未満の場合には「不十分」,HbA1cが7.0パーセント以上8.0パーセント未満で,空腹時血糖値が130以上160未満の場合には「不良」,HbA1cが8.0パーセント以上で,空腹時血糖値が160以上の場合には「不可」とされている。(なお,HbA1cについては,平成24年4月1日以降,従来わが国で用いられてきたJDS値より約0.4パーセント高い値であるNGSP値を用いることとされているが,本件では診療録に記載のあるJDS値により表記することとする。)2型糖尿病の治療の具体的な方法としては,食事療法及び運動療法によりインスリンの働きをよくすることで血糖コントロールを改善することから始め,それでもインスリンの働きが不足する場合には内服薬に 2型糖尿病の治療の具体的な方法としては,食事療法及び運動療法によりインスリンの働きをよくすることで血糖コントロールを改善することから始め,それでもインスリンの働きが不足する場合には内服薬による治療を行うこととされている。運動療法は,脈拍数が1分間に120くらいの中等度の強さの運動を1回10分から30分,週3日から5日以上行うというものである。また,運動療法の効果は3日経つと小さくなり,1週間でほとんどなくなるため継続することが重要であるとされている。 ウ糖尿病とストレスに関する知見(甲54,55)糖尿病の治療は,発病からほぼ一生涯という長期にわたり行う必要があり,食事や運動など生活習慣の変容や,血糖測定,自己注射などの治療を生活行動に組み込むことが求められる。このような努力が必要とされる上,常に合併症への不安を抱えていることから,糖尿病患者は長期的・慢性的なストレスにさらされている。 他方,心理的あるいは環境的ストレスにより,ストレス関連ホルモンが 分泌され,血糖値やインスリンホルモンの分泌に影響を与え,また,ストレスが自己管理行動を阻害することによって,血糖管理に影響を与えるとされている。 エ糖尿病と睡眠障害,精神障害の関係についての知見(甲53,54,乙5,6)糖尿病には抑うつ状態が出現しやすいとされており,抑うつ気分,精神運動制止,不安,焦燥,食欲不振,不眠などの精神症状が認められることがある。これらの精神症状はうつ病のうつ状態と区別がつかないとされており,身体疾患の経過中に認められる感情障害である二次性うつ病といわれることもある。 糖尿病患者におけるうつ病の有病率が一般人口の約2~3倍高いという報告や,糖尿病患者は健常者と比較して不眠を訴える頻度が約2倍と有意に高く,2型糖尿病 ある二次性うつ病といわれることもある。 糖尿病患者におけるうつ病の有病率が一般人口の約2~3倍高いという報告や,糖尿病患者は健常者と比較して不眠を訴える頻度が約2倍と有意に高く,2型糖尿病患者群のうつ病合併頻度が17.6パーセントであり,糖尿病のない群の9.8パーセントと比較して高いという報告もある。 糖尿病にうつ病あるいはうつ状態を伴うことの説明としては,糖尿病もうつ病も視床下部-下垂体系の内分泌機能障害によるものであるとか,低血糖によるノルアドレナリンの過放出及び枯渇が関係するというものがあるほか,上記ウのとおり,糖尿病患者がストレスの影響を受けやすいことも指摘されている。また,糖尿病からうつ病になるのか,うつ病から糖尿病になるのか,という点については双方向性であるという見解が多いとされている。 (10) 精神障害と自死の関連性に関する知見ア自死の要因と概要(乙10)警察庁の統計によると,日本における自死者は平成10年に年間3万人を超え,それ以降,ほぼ年間3万人を超える水準で推移している。自死は様々な原因からなる複雑な現象であり,環境因,精神障害,問題を抱えや すい性格傾向,家族負因等が複雑に関係し合って,自死につながる準備状態が形成され,その上で,何らかの出来事が引き金になって自死が生ずるものとされ,その直接の契機は,外部からは非常に些細な出来事にみえることもあるとされている。 イ精神障害と自死の関連性(甲20,27,50,乙3,4,10,11)自死者の遺族や知人,医療機関等から同意を得て情報を収集し,自死者が生前に抱えていた問題を探る心理学的剖検の方法により,世界保健機関が実施した多国間共同調査に基づく結果によると,自死に及ぶ前にその90パーセント以上の人が何らかの精神障害の診断に該 収集し,自死者が生前に抱えていた問題を探る心理学的剖検の方法により,世界保健機関が実施した多国間共同調査に基づく結果によると,自死に及ぶ前にその90パーセント以上の人が何らかの精神障害の診断に該当する状態にあり,そのうち気分障害(主にうつ病)の診断に該当する人が30.2パーセントに上り,最多であるとされている。1990年代後半に行われた別の心理学的剖検調査でも,日本の自死者の90パーセント近くに精神科診断がつくことが推認されており,自死者のうち気分障害が約30~50パーセントを占め,最多となっている。 一般人口における自死率と比較して,うつ病の場合,36.1倍の自死危険性があるというデータがあるほか,うつ病等の気分障害の患者における自死率が6~15パーセントとする研究,うつ病全体で2パーセントの高頻度で自死が起こるという調査,うつ病患者の自死率が2ないし5パーセントに及ぶというデータもあり,一般人口と比較してうつ病患者における自死率は高率である。 うつ病患者の自死リスクは,症状が一番重い時期ではなく,少し良くなりかけた時期に高まるとされている。また,高齢者の自死の危険因子として,うつ病がしばしば認められるとされている。また,自死を決意した人には,これまでの抑うつ的な態度とは打って変わって,不自然なほど明るく振る舞うという「嵐の前の静けさ」といった状態もしばしば生じるものとされている。 平成23年認定基準によると,業務によりICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発病したと認められる者が自死を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自死行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認めることとされている。うつ病等 ,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自死行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認めることとされている。うつ病等の気分障害はICD-10のF3に該当するため,業務によりうつ病等の気分障害を発病した者が自死した場合には,原則として業務起因性が認められることになる。 2 争点①(本件事故と甲の自死との間に因果関係を認めることができるか。)について(1) 被告が負担すべき損害賠償責任及びその範囲についてア原賠法3条1項本文は,原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずると規定する。 前記前提事実(1)ウ及び(2)のとおり,被告は同項でいう原子力事業者に当たり,本件事故は福島第一原発の各原子炉の運転等の際に発生したものであるから,被告は,本件事故により,甲及び原告らに生じた原子力損害について,その損害を賠償すべき責任を負うというべきである(なお,原告らは,選択的に,本件事故に関し被告には過失があるから不法行為が成立すると主張するが,被告が原賠法3条1項本文に基づき損害賠償責任を負うことは上記のとおりであるから,被告の不法行為責任については判断することを要しない。)。 イそして,原子力損害とは,「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等(核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物をいう。)の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損 害」をいうものとされている(原賠法2条1項5号,2項本文)ところ,上記文言を文理解釈すれば,原賠法3条1項が規定す ることにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損 害」をいうものとされている(原賠法2条1項5号,2項本文)ところ,上記文言を文理解釈すれば,原賠法3条1項が規定する原子力事業者が賠償責任を負う原子力損害の範囲については,民法が規定する不法行為における賠償責任が生じる損害の範囲と同様に解するのが相当である。 すなわち,不法行為による損害賠償においては,その賠償すべき損害の範囲について民法416条2項が類推適用されるべきところ(最高裁昭和48年6月7日第一小法廷判決・民集27巻6号681頁),原賠法3条1項が規定する原子力事業者が賠償責任を負う原子力損害の範囲もこれと同様に解すべきであり,原子力事業者は,原子炉の運転等の結果生じた核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用との間に相当因果関係が認められる全損害について賠償責任を負う一方,賠償責任を負うのは上記各作用との間に相当因果関係が認められる損害に限られると解するのが相当である。 (2) 本件事故と甲の自死との間の因果関係を判断する枠組みについてア原告らは,本件事故により原告ら家族が避難生活を余儀なくされたことが原因となって,甲がうつ病を発症し,その結果自死に至ったと主張し,本件事故と甲の自死との間には相当因果関係があると主張するので,以下,この点について検討する。 イ相当因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものであると解するのが相当である た関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁)。 本件においてこれをみるに,上記1(10)アのとおり,自死は単一の原因 により生じるものではなく,環境因,精神障害,性格傾向等の様々な原因によって自死につながる準備状態が形成され,何らかの出来事が引き金になって自死が生ずるものとされ,その直接の契機は,外部からは非常に些細な出来事にみえることもあるとされている。そうであれば,本件事故と甲の自死との間の相当因果関係(本件に即して厳密に言えば,本件事故によって大気中に放出された核燃料物質等の放射線の作用と甲の自死との間の相当因果関係)の有無を判断するに当たっては,本件事故が自死の引き金となったか否かという観点からだけではなく,甲の自死につながる準備状態がいかなる原因で形成されたのか,その準備状態を形成した諸原因の中で,本件事故がどの程度の重きをなすものであったのかを,本件全証拠に照らして詳細に検討し,評価する必要がある。 したがって,原告らの主張に係る甲がうつ病を発症したかどうかは,本件事故と甲の自死との間の相当因果関係の有無を判断する上で,不可欠の前提事実ではなく,甲の自死につながる準備状態を形成した諸原因の一つとして検討,評価すれば足りるというべきである。 もっとも,上記1(10)イのとおり,精神障害のうちの気分障害(主にうつ病)は,自死につながる準備状態の形成との関連性が強く,統計的にも自死に至る大きな原因とされていることから,まず,本件全証拠に照らし,甲がうつ病に罹患していたと認めることができ の気分障害(主にうつ病)は,自死につながる準備状態の形成との関連性が強く,統計的にも自死に至る大きな原因とされていることから,まず,本件全証拠に照らし,甲がうつ病に罹患していたと認めることができるかについて検討する。 (3) 甲が自死した際にうつ病に罹患していたかについてア原告らは,甲が,本件事故後にうつ病等を発症した結果自死に至ったと主張し,これを裏付ける証拠として,精神科医であるⓔ医師(以下「ⓔ医師」という。)作成に係る,甲がうつ病に罹患していたとの医学意見書(甲36。以下「ⓔ意見書」という。)を提出する。ⓔ意見書の概要は次のとおりである。 (ア) 意見書作成の前提として参照した資料は,本件の訴訟資料及び証拠 資料並びに原告ら代理人及び原告乙の陳述内容である。ⓔ意見書では,訴状,陳述書,辛における診療録,ⓒ医師の回答書(甲14の1)等のほか,その他の関係書類を参照したこととされている。ただし,列挙されている証拠の標目と証拠番号が一致していないこともあり,具体的にどの資料を参照して作成したかは明らかではない。 (イ) 甲の生活歴,家族歴,既往歴及び性格傾向について検討したうえで,本件事故に伴い甲が被った精神的負荷の内容について分析し,本件事故後に甲が呈していたと考えられる精神症状について,DSM-Ⅳに当てはめて検討した結果,甲が本件事故後にうつ病を罹患した可能性が最も高いとしている。その上で,外傷後ストレス障害(PTSD)に罹患していた可能性を否定している。また,下記2(4)キ(ア)甲のうつ病が糖尿病に基づく外因性(二次性)うつ病である可能性は低いとしている。 (ウ) 精神疾患と自死との間に非常に高い統計的関連性があり,近代精神医学によっても,自死と精神疾患との強い関連性が指摘されていることから,本件における 性)うつ病である可能性は低いとしている。 (ウ) 精神疾患と自死との間に非常に高い統計的関連性があり,近代精神医学によっても,自死と精神疾患との強い関連性が指摘されていることから,本件における甲の自死についても精神疾患に基づくものとの推察が可能であり,具体的には上記(イ)のうつ病に起因する可能性が高いとしている。 (エ) 結論として,甲は,本件事故とその後に発生した精神負荷によってうつ病を発症し,その結果自死に至った可能性が高いとしている。 イ ⓔ意見書は,精神科医であるⓔ医師が,精神医学的観点から作成したものであり一定の信用性を有するものであるといえるが,その意見書作成の前提となる資料は,甲がうつ病に罹患していたと主張する原告らの主張書面や,原告らの陳述書,原告乙及び原告ら代理人によるⓔ医師への直接の陳述等のほか,内科・消化器科の医師であるⓒ医師が糖尿病に関して甲を診察した際に作成した診療録などである。また,ⓔ医師は,その他の関係 書類も参照してⓔ意見書を作成しており,ⓔ意見書作成に当たり参照した資料の全体を確定することはできない。 いずれも甲の当時の様子を示すものとしては,ⓔ医師が直接甲の様子を観察したものではないという意味で間接的な資料であるといわざるを得ない。特にⓔ医師も採用した基準であるDSM-Ⅳのうつ病の診断基準(以下,特に断らない限り「DSM-Ⅳ」というときは,DSM-Ⅳのうち,うつ病の診断基準のことを指す。)は,「ほとんど1日中,ほとんど毎日の,すべて,またはほとんどすべての活動における興味,喜びの著しい減退」,「ほとんど毎日の易疲労性,気力の減退」等となっており,患者の毎日の精神活動を観察する必要があり,かつそれが2週間の間に存在するかを継続してみることが診断基準として重要であるものといえ,しか 退」,「ほとんど毎日の易疲労性,気力の減退」等となっており,患者の毎日の精神活動を観察する必要があり,かつそれが2週間の間に存在するかを継続してみることが診断基準として重要であるものといえ,しかも,それが専門的知見を有した医師等により観察される必要があるものといえる。ところが,上記原告らの主張書面や陳述書等は,甲の一時点の様子を述べるか,抽象的に甲の様子を述べるものがほとんどであり,甲の毎日の精神活動の様子を観察して示したものではない上,そもそも原告らは精神科の専門的知見を有している者でもない。また,原告らは,甲がうつ病に罹患していたと主張し,それに沿う主張書面や陳述書等が作成されていることにも鑑みれば,資料の客観性にも欠けるものといわざるを得ない。 辛の診療録については,医師が作成したものではあるものの,ⓒ医師は内科又は消化器科の医師であって精神科や心療内科の医師ではない上,その診療録の記載内容は既に認定したとおり糖尿病に関する記載がほとんどである。 ウ ⓔ意見書作成の基礎となった資料には,上記イのとおりの問題点が存在する。また,精神障害の確定診断は希ならず困難で,専門家の意見が分かれることも少なくなく,特に自死事案にあっては,専門家の診断,治療歴がない場合が圧倒的に多く,得られた情報だけから確定診断及び発病時期 を推測することは極めて困難とされている(乙1の21頁)。 したがって,ⓔ意見書の信用性は慎重に検討しなければならない。 エそこで,上記1(4)及び(5)で認定した事実とDSM-Ⅳの診断基準に沿って,ⓔ意見書の判断内容について検討する。 (ア) 甲は,本件地震が発生した翌日である平成23年3月12日に,消防団員から原発が危ないから避難するように指示を受けてから,同日にⓖ町内のⓙ小学校,ⓣ小学校,その翌日には 容について検討する。 (ア) 甲は,本件地震が発生した翌日である平成23年3月12日に,消防団員から原発が危ないから避難するように指示を受けてから,同日にⓖ町内のⓙ小学校,ⓣ小学校,その翌日には郡山市のⓩ高校にまで避難し,それから同年4月12日までの間,同高校の体育館内に設けられた避難所での生活を継続した。約1か月に及ぶ避難所生活の当初は,甲は何とか元気な様子を見せていたが,2週間が経過した頃から,元気がなくなっていった。 平成23年4月13日に二本松市のアパートに転居した直後は,甲は避難所生活の過酷さから解放されたためか,回復した様子を見せたが,それでも本件事故前と同程度に回復するには至らなかった。そして,特に同年6月半ば頃からは,再度体調が悪化し始め,同年7月20日頃から同月22日までの間,少し回復した様子を見せたところ,同月23日の早朝に失踪したものである。甲の遺体は,同月24日に発見されているが,同月23日午後9時頃には,遺体が発見された㋙ダム付近に,甲の自動車が鍵のささったまま放置されていたのであるから,その頃までには,甲が㋙ダム付近の橋から飛び降りて自死したものと推測される。 以上の経過に照らして,甲の精神状態が最も重篤な状態であったと考えられる平成23年6月中旬から同年7月19日頃までの甲の状況を中心に,ⓔ意見書の判断内容について検討する。 (イ) 甲は,平成23年6月中旬以降,体調が再び悪化し,表情が乏しく,家でごろごろしてぼうっとしていることが多くなっており,本件事故前は毎日1時間は散歩をしていたにもかかわらず,コンビニエンスストア にたばこを買いに行くことさえしないようになり,趣味で頻繁に通っていた釣りに誘われても行かなくなっていた。 以上の事実は,甲が平成23年6月中旬以降,抑うつ気分 ず,コンビニエンスストア にたばこを買いに行くことさえしないようになり,趣味で頻繁に通っていた釣りに誘われても行かなくなっていた。 以上の事実は,甲が平成23年6月中旬以降,抑うつ気分の症状を呈していたことを示す事実であるとみることが可能である。そして,同年7月20日頃から同月22日の間を除いて,甲の抑うつ気分が回復したことをうかがわせる事情はなく,上記のとおり,様々な場面で抑うつ気分の症状を呈していたとみられることに照らすと,上記のような抑うつ気分の症状は相応の期間,継続していたと推察され,少なくとも平成23年6月下旬から平成23年7月19日までの約3週間以上は,甲が抑うつ気分の症状を有していたと考えられる。そうすると,甲が上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA1に該当していた蓋然性は高いと認められる。 (ウ) 甲は,釣りを何よりの楽しみとしていたにもかかわらず,平成23年6月にⓖフィッシングクラブの友人と新潟に釣りに行って帰った際には,気晴らしになった様子はなかった。また,同年7月には,同様に釣りに行く誘いがあったにもかかわらず,甲は行くことさえも断った。 また,甲は,本件事故前には原告丁の野球の試合を必ず観戦して激励し声援を送る等していたが,本件事故後の同月9日から同月11日に原告丁の試合があった際には,当初観戦にすら出かけようとせず,また,観戦した試合で原告丁が初めて先発投手として登板し,勝利投手になる活躍を見せたにもかかわらず,喜びを全面に出すことがなくなっていた。 以上の事実は,甲が特に楽しみを感じるはずの活動である釣りと野球観戦について,ほとんど興味や喜びを感じることがなくなっていたことを示す事実である。これらの事実に照らせば,釣りや野球観戦以外の活動については,更に興味や喜びを感じることが ずの活動である釣りと野球観戦について,ほとんど興味や喜びを感じることがなくなっていたことを示す事実である。これらの事実に照らせば,釣りや野球観戦以外の活動については,更に興味や喜びを感じることがなかったと考えられ,ほとんど全ての活動において興味,喜びが著しく減退していたものと推認 することができる。甲が平成23年6月のどの時期に新潟に釣りに出掛けたかは明らかではないが,少なくとも平成23年7月に入ってから同月9日から同月11日の野球観戦を経て,同月20日に一時回復するまでの間は,同様の状態にあったものと考えられ,その期間は少なくとも約3週間に及んでいるから,甲が上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA2に該当していた蓋然性は高いと認められる。 (エ) 甲は,平成23年6月半ば頃から,食欲が減り,昼食をとらなかったり,ご飯は半分でよいというなどするようになっていた。本件事故前の状態と比べて,どの程度食欲が減少し,それがどのくらいの期間継続していたかを認めるに足りる的確な証拠はない。しかし,本件事故前,甲は,糖尿病に罹患しており食事療法が必要であるにもかかわらず,これをあまり意に介さず,好きな物を飲食すると言って実際にそのようにしていたのであるが,本件事故後の甲にそのような様子がみられず,昼ご飯をとらないなどしていることからすると,上記(イ)及び(ウ)で認定した抑うつ気分の症状やほとんど全ての活動における興味,喜びの喪失に伴って,食欲も落ちた状態が継続していたとみても矛盾はない。 したがって,甲は平成23年6月中旬以降,毎日,食欲の減退があったとみても矛盾はなく,甲が上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA3に該当していた蓋然性があると認められる。 (オ) 甲は平成23年7月6日に辛を受診した際,ⓒ医師に対し ,食欲の減退があったとみても矛盾はなく,甲が上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA3に該当していた蓋然性があると認められる。 (オ) 甲は平成23年7月6日に辛を受診した際,ⓒ医師に対して不眠を訴え,マイスリーを1日当たり5ミリグラム処方されている。辛において作成されたカルテ(甲31)によれば,甲は暑さを理由に眠れないとⓒ医師に述べており,甲が訴えた不眠が,甲の精神面に起因するものであるのか,単に暑さに起因するものであるのかは必ずしも明らかではない。しかし,マイスリーは不眠症に対して適応がある処方薬であり,その処方量も不眠症に対する標準的な処方量であって,ⓒ医師が,暑さに よって眠れないだけの病気に罹患していない者に処方することは考え難いことからすると,当時,甲の精神状態の悪化も認められたものと考えるのが自然である。 以上の事実によれば,甲は,平成23年7月上旬頃から,不眠の症状を呈していたとみることができ,そのことは,ⓒ医師の処方によっても裏付けられるから,甲が上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA4に該当していた蓋然性があると認められる。 (カ) 甲は,上記のとおり,遅くとも平成23年6月下旬頃には,外出をしなくなり,趣味であった釣りや,本件事故前は楽しみにしていた原告丁の野球の試合観戦にも消極的になるなどしていた。 以上の事実によれば,甲は,平成23年6月下旬頃から,ほとんど毎日の気力の減退をみせていたとみて矛盾はなく,上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうA6に該当していた蓋然性があると認められる。 (キ) 本件全証拠に照らしてみても,上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうB又はDで挙げられるような他の疾患に当たる事情は見当たらない。甲の子である戊は,平成20年3月3日に自死 られる。 (キ) 本件全証拠に照らしてみても,上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうB又はDで挙げられるような他の疾患に当たる事情は見当たらない。甲の子である戊は,平成20年3月3日に自死しており,その後,睡眠薬などを処方されていた時期もあるものの,上記(イ)ないし(カ)で挙げた事実と同様の事実が存在したことを示す証拠はなく,本件事故時に至るまで戊の自死の影響が残存していたとはいえないことは,下記(4)ク(ア)のとおりであり,DSM-Ⅳの基準にいうEにも該当しない。 また,甲は,上記のとおり,家でごろごろしてぼうっとしていることが多くなり,食事量も減少し,釣りや原告丁の野球観戦にも積極的に出掛けなくなっていたのであるから,社会生活又は原告丁に対する教育をし得なくなっており,社会的機能の障害を引き起こしているとみることも可能であり,上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準にいうCに該当していたと認めることも可能である。 オ以上検討したところを総合してⓔ意見書の信用性について検討すると,上記エで検討したとおり,平成23年6月以降にみられた甲の症状において,上記1(6)ア(ア)のDSM-Ⅳの基準に明らかに該当する事実関係は,必ずしも多くはないといわざるを得ない。しかし,DSM-Ⅳの基準に沿う事実関係が複数認められることも確かであり,これらの事実関係があることに加え,甲がうつ病を発症していたことを否定する所見を示す証拠も見当たらないことに鑑みれば,上記ⓔ意見書の判断は,甲が,遅くとも平成23年7月以降,うつ病を発症していた可能性があり,少なくとも小うつ病性障害(上記1(6)ア(イ))を発症していた蓋然性が高いとみても矛盾のない精神状態(以下「本件うつ状態」という。)に至っていたという限度で,これを採用することができる 性があり,少なくとも小うつ病性障害(上記1(6)ア(イ))を発症していた蓋然性が高いとみても矛盾のない精神状態(以下「本件うつ状態」という。)に至っていたという限度で,これを採用することができるというべきである。 (4) 甲の精神状態と本件事故との因果関係ア上記(3)のとおり,甲は,遅くとも平成23年7月以降,本件うつ状態に至っていたと認められる。そして,上記1(10)イのとおり,うつ病は,自死につながる準備状態の形成との関連性が強く,統計的にも自死に至る大きな原因とされているのであるから,少なくとも小うつ病性障害を発症していた蓋然性が高い本件うつ状態にあったことは,甲の自死につながる準備状態を形成した大きな原因をなしているものと認めるのが相当である。 そこで,次に,本件うつ状態の成因について検討する。上記1(7)で認定したとおり,精神障害について,今日の精神医学,心理学においては,その成因,すなわち精神障害に至った原因を究明するに当たって「ストレス―脆弱性」理論に依拠することが適当であると考えられており,同理論は労災認定実務にも用いられている。同理論は,ストレス要因の強度と個体側の脆弱性,すなわちストレスに対する脆弱性との関係で精神的破綻が生じ,精神障害に至るとする考え方であり,両者の関係から精神障害の原 因を究明する理論であるということができるから,本件うつ状態の原因が本件事故にあるといえるかについて,甲を本件うつ状態に陥らせた様々なストレス要因とその強度及び甲の個体側の脆弱性に係る事情並びにその両者の関係について,以下検討する。 イ避難によるストレスに関する一般論(ア) 上記1(8)のとおり,一般的に,災害は被災者の生命や財産を突発的に脅かすものであり,ストレスを与えるものであるが,特に避難者が感じ 以下検討する。 イ避難によるストレスに関する一般論(ア) 上記1(8)のとおり,一般的に,災害は被災者の生命や財産を突発的に脅かすものであり,ストレスを与えるものであるが,特に避難者が感じる精神的ストレスは著しく大きいとされている。個人差はあるものの本件事故による避難者の多くが大小のストレスを感じていることは,各種調査結果にも表れているところであり,避難者の半分以上が高いレベルのストレスを感じていることや,医師の診察を受けた避難者のうち3割前後が何らかの精神疾患を発症していることが示されている。 特に,本件事故に基づく避難の特徴について検討するに,局地的な土砂崩れの災害等と異なり,避難を求められる範囲が福島第一原発周辺の市町村を広く含む非常に広範囲に及び,避難を余儀なくされた地域における被災者の生活が広範に失われる結果をもたらすものといえる。 (イ) 避難をするについても,もともと居住していた地域が避難指示の出された区域であるのか否か,自主的避難をしたものであるのか,避難後に仮設住宅に入居したのか,他の住宅に入居したのか等避難者によって様々な事情があり,一口に避難者といっても同じ事情の下に避難しているものではない以上,このような調査の結果から直ちに甲が本件事故による避難によって感じていたストレスの大小を論じることはできない。 しかしながら,そのような個別事情の違いがあるにもかかわらず,大多数の避難者に避難によるストレスや精神疾患の発症がみられる事実は,本件事故に基づき避難することが,一般的に避難者にストレスを課し,その結果,精神疾患を発症させ得る可能性を有する程度の強度のも のであることを示しているとみることができる。 ウ ⓖでの生活をし得なくなり,帰還の見通しも持てなくなったことによるストレス(ア) ,精神疾患を発症させ得る可能性を有する程度の強度のも のであることを示しているとみることができる。 ウ ⓖでの生活をし得なくなり,帰還の見通しも持てなくなったことによるストレス(ア) 甲にとってⓖにおける生活が有していた意味a 上記1(2)のとおり,甲は昭和18年にⓖ町ⓗの自宅に生まれてから,本件事故により避難を余儀なくされるまで,いわき市の自動車店において住み込みで働いていた期間(その具体的な長さは明らかではない。)は除くとしても,67年余りにわたり,ⓖ町ⓗの自宅に住み,生活を営んでいた。 ⓖにおける生活の中で,甲は原告乙との結婚や,子である戊や原告丙の誕生と育児を経験した。子らが成人してからも,戊とともに,又は戊に代わり孫である原告丁と同居して,原告丁を育てていた。 地域との関係では,甲は中学校の同窓会に毎年参加し,近隣の人々と二桁会という集まりを作って,良好な関係を築いていた。また,甲は平成5年に自宅を建て替えて,将来にわたってⓖ町ⓗに住み続けることを当然に予定していた。 b そして,特に,平成20年頃に甲がⓦを完全に退職してからは,甲は,退職前からの何よりの趣味であった釣りを一層楽しむようになり,自宅から自動車で5分の㋗海岸を中心に頻繁に釣りに出かけており,自宅にいるときでも釣りの仕掛けを自作して準備をする等,釣りに打ち込んでいた。甲は幼いころの原告丙に加えて,しばしば原告丁を連れて,㋗海岸に釣りに出かけていたのであり,甲にとって釣りとは,子や孫とのコミュニケーションの手段でもあったということができる。 家庭菜園に関しては,平成21年頃に弟から借りた土地を使って,石を取り除くなど耕作に適した土作りから始め,平成22年には早く も様々な野菜の収穫が始まり,その成果が出始めていた。そして,ⓖ 家庭菜園に関しては,平成21年頃に弟から借りた土地を使って,石を取り除くなど耕作に適した土作りから始め,平成22年には早く も様々な野菜の収穫が始まり,その成果が出始めていた。そして,ⓖ町ⓗの自宅は,海にも近く,家庭菜園を行っていた弟の土地にも近く,これらの趣味を甲が楽しむには,この上ない環境であったということができる。すなわち,甲にとって,ⓖで生活するということは,趣味を通して自分らしく生きることを意味するものに他ならなかったと考えられる。 c 以上を要するに,甲にとってⓖにおける生活は,67年余りにわたって積み重ねてきた人生の大半を形成するものであったとともに,将来を見ると,退職後の第二の人生を生きるための第一歩を踏み出したところであり,甲は,終生をⓖで送ることを当然予定していたものといえる。 (イ) 本件事故により甲がⓖでの生活をし得なくなり,帰還の見通しも持てなかったことa 本件事故は,本件地震による津波の影響等により,福島第一原発が冷却機能を喪失し,放射性物質が大気中に大量に放出されたというものである。この放射性物質が発する放射線が住民にもたらす健康影響を回避するために,平成23年3月12日,内閣総理大臣は,原子力災害対策特別措置法15条3項,同法28条2項において読み替えて適用される災害対策基本法60条1項の規定に基づき,ⓖ町ⓗを含む地域の住民に避難のための立退きを行うよう,ⓖ町長に対して指示を出した。そして,降雨等の影響により土壌に付着した放射性物質が,継続的に放射線を発することになったため,それが住民にもたらす健康影響を回避するために,同年4月21日,原子力災害対策本部長である内閣総理大臣は,原子力災害対策特別措置法28条2項において読み替えて適用される災害対策基本法63条1項の規定に基づき,ⓖ らす健康影響を回避するために,同年4月21日,原子力災害対策本部長である内閣総理大臣は,原子力災害対策特別措置法28条2項において読み替えて適用される災害対策基本法63条1項の規定に基づき,ⓖ町ⓗを含む地域を警戒区域に設定した。 これらの避難指示及び警戒区域の設定により,原告ら家族を含む住民は,直接にはⓖ町長から,同町長が一時的な立入りを認める場合を除き,当該区域への立入りが禁止され,退去が命じられることになった。その結果,原告ら家族は,区域外への避難を余儀なくされ,事実上,区域内に有していた家屋等の不動産についてこれを使用,収益,処分することはもちろんのこと,そこで生活をし,趣味を楽しむことすらも不可能となった。そして,このような状態は,避難指示が解除されるまで継続することが予想されるものである。なお,ⓖ町ⓗは,平成25年4月1日には避難指示解除準備区域に設定されたが,現時点においても避難指示は解除されておらず,宿泊できない状態が継続している。 b ⓖ町ⓗにおいて避難指示及び警戒区域の設定がされたのは,上記aのとおり,福島第一原発から放出された放射性物質が発する放射線の健康影響を回避するためであるところ,その主要な線源であるセシウム137の半減期は約30年にわたるものであることからすれば,避難の帰還が長期にわたることは,容易に想定できる状況にあった。そうであれば,当時の原告ら家族は,避難指示が相当長期に及ぶことを容易に予測することができ,したがって,ⓖへの帰還の見通しを持つことは困難であったということができる。 c 上記a及びbのとおり,本件事故により,ⓖ町ⓗの住民について避難指示が出され,同地区が警戒区域に設定されたことにより,甲が同所での生活を送ることは不可能となったものである。その結果,甲は,67年余 上記a及びbのとおり,本件事故により,ⓖ町ⓗの住民について避難指示が出され,同地区が警戒区域に設定されたことにより,甲が同所での生活を送ることは不可能となったものである。その結果,甲は,67年余りにわたって築いてきたⓖでの生活,自然と触れ合いながら楽しむ趣味,家族や地域とのつながりの中での生活,これら全てを支える自宅とそれを取り巻く環境といった,生活の基盤ともいうべきものの全てを相当長期間にわたって現実に失い,さらに,ⓖへの帰還の 見通しすらも持てなかったものといえ,多大な喪失感を抱いていたものと認めることができる。 (ウ) ストレスの強度評価a そこで,上記(イ)のとおり,甲が生活の基盤ともいうべきもの全てを相当期間にわたって失い,かつ,それを取り戻せる見込みがない状態に置かれたことによるストレスを,どのように評価すべきかについて検討する。 b 甲が生活の基盤ともいうべきもの全てを相当期間にわたって失ったことについて,「ストレス―脆弱性」理論のストレス強度の評価表(上記1(7)イ。以下「ストレス強度評価」という。)には,これに相当する評価項目は見当たらない。 しかしながら,これまでに説示したところからすれば,避難を余儀なくされることによって生活の基盤ともいうべきもの全てを相当期間にわたって失うことは,自宅のような自己の多額の財産を事実上相当期間にわたって失うことと,その喪失感の点で大きく異なるところはないといえる。これに加えて,上記(ア)で説示したとおり,甲にとって,ⓖでの生活は,67年余りにわたって積み重ねてきた人生そのものであったとともに,退職後の趣味を中心に据えた人生を指すものであったのであり,これらはⓖでの生活以外では決して賄うことができないものであったというべきである。このような意味で,甲にとって そのものであったとともに,退職後の趣味を中心に据えた人生を指すものであったのであり,これらはⓖでの生活以外では決して賄うことができないものであったというべきである。このような意味で,甲にとって,ⓖでの生活の基盤はかけがえのないものであったのであり,それを自己の意思に反して失うことは,多額の財産を失うこと以上に甲に大きな喪失感をもたらしたであろうことは想像に難くない。 そうすると,甲が生活の基盤ともいうべきもの全てを相当期間にわたって失ったことにより,ストレス強度評価でいうところの,ストレスの強度がⅢである「多額の財産を損失した又は突然大きな支出があ った」ことによるストレスと,少なくとも同程度かそれ以上のストレスを受けたものと認めることが相当である。 c また,甲が生活の基盤ともいうべきもの全てを失うに至った原因は,本件事故にあるところ,本件事故そのものは天災ではなく,その原因が本件地震による地震動と津波にあったというものである。しかも,本件事故は,原子力発電所の原子炉建屋が爆発することにより放射性物質が周辺地域の広範囲に向けて放出され,それから放出される放射線によって居住するには危険があるとされる程高い放射線量が観測され,広範囲にわたって住民が避難を余儀なくされるという,我が国の歴史上一度も体験したことのない事故であった。そして,本件事故が発生し,放射性物質が放出され,避難を余儀なくされるという一連の経過は,甲及び原告らにとって防ぎようがなく,コントロールもできない事態であった。 このような本件事故の態様及び甲ら避難者の状況に照らすと,甲は,ストレス強度評価でいうところのストレスの強度がⅢとされている「天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた」ことによるストレスと同程度かそれ以上のストレスを受けたものと 者の状況に照らすと,甲は,ストレス強度評価でいうところのストレスの強度がⅢとされている「天災や火災などにあった又は犯罪に巻き込まれた」ことによるストレスと同程度かそれ以上のストレスを受けたものと認めることができる。 d 上記のとおり,甲は生活の基盤ともいうべきもの全てを失った上,さらに,それらを取り戻せる見込みを持つことができない状態に置かれたものである。上記のとおり,セシウム137の半減期が約30年にわたることからすると,ⓖへの帰還が叶うのは,十年から数十年後になることも考えられたところである。このことは,とりわけ,67歳と若くはない甲にとっては,ⓖへ帰還できずに避難生活を続けたまま,最期を迎えてしまう可能性があることを意味するものといえ,甲に耐え難い苦痛を与えたことは想像に難くない。 このようなストレスに相当する評価項目は,ストレス強度評価には存在せず,これに類似した評価項目も見当たらないところであるが,上記b及びcで認定したストレスを一層強める働きをしたものということができる。 e その余の研究結果(上記1(7)エ)においても,取り返しのつかない天災を七段階評価中最もストレス強度の強い7に分類した研究結果がある。また,「多額の財産の損失」を,ストレス強度を五段階で評価するうちの3.08点としているもの,「自宅が火事で焼けそうになったこと」を4.13点としているものがあるなど,自宅や多額の財産の損失については,比較的大きなストレスがあるものとされている。これらの研究結果を併せ考えると,本件事故によるストレスの強度は著しいものであったということができる。 f 以上によれば,甲が,本件事故に伴い避難を余儀なくされ,生活の基盤ともいうべきもの全てを相当長期間にわたって失い,ⓖへの帰還の見通しを持てなくなったこと 著しいものであったということができる。 f 以上によれば,甲が,本件事故に伴い避難を余儀なくされ,生活の基盤ともいうべきもの全てを相当長期間にわたって失い,ⓖへの帰還の見通しを持てなくなったことにより,非常に強いストレスを受けたものと認めることが相当である。 エ避難生活によるストレス(ア) 本件事故後の経過a 避難所における生活甲は,平成23年3月12日に,本件事故により放出された放射性物質による被害を避けるための避難を開始した。同日は,ⓖ町内の小学校を転々としたが,同月13日からは,郡山市内のⓩ高校の体育館における避難所生活を開始し,同年4月12日までの約1か月間,避難所における生活を継続した。 上記1(4)イ(ア)のとおり,ⓩ高校の体育館では,避難者は,朝晩は吐く息が白くなるほどの寒さの中,畳の上に毛布を敷いて寝ていたの であり,当初は布団もなく非常に寒い環境であった。また,他の避難者との間に仕切りはなくプライバシーは十分に保てなかった。このような避難所生活は,過酷な環境下での生活ということができ,それ自体,甲に大きなストレスを与えるものであったといえる。特に,本件事故前には,約8部屋ある一戸建ての住宅に居住していた甲にとっては,非常に窮屈に感じる生活であったことは想像に難くない。加えて,避難所は,浜通りの太平洋近くに位置するⓖ町ⓗから遠く離れた中通りの郡山市内にあったのであり,冬でも温暖な浜通りと比較して中通りは3月でも雪が降る程寒く,気候にも大きな違いがあり,この点でも,甲は慣れない環境に大きなストレスを感じていたと推察できる。 そして,突然の避難のために,甲は糖尿病の薬を持参することができなかった。甲の持病であった糖尿病の治療においては,日常的な血糖コントロールが重要であり,甲は,食事療法, 感じていたと推察できる。 そして,突然の避難のために,甲は糖尿病の薬を持参することができなかった。甲の持病であった糖尿病の治療においては,日常的な血糖コントロールが重要であり,甲は,食事療法,運動療法に加えて,内服薬による血糖コントロールを行っていた。したがって,突然の避難所生活を強いられて,処方されていた内服薬を持参できなかったことは,甲にとって,内服薬による血糖コントロールができなくなり,糖尿病が重篤化する可能性を高めることを意味していたものであり,現に末梢神経障害の症状が現れるなどしていたのであって,そのことも大きなストレスであったと推察できる。 b 二本松市内のアパートにおける生活甲は,平成23年4月13日から,二本松市内のアパートにおいて,原告ら家族と生活を始め,後にⓓもこれに加わった。同アパートは2LDKの間取りであり,避難所と比較すると広く,また,設備等に問題があった事情もうかがわれない。また,甲は,転居当初は二本松市内を観光するなどしていたものであり,その生活環境自体に不都合を感じていた形跡はない。 (イ) ストレスの強度評価a 甲の避難所生活が継続したのは1か月のみであり,その後は二本松市内のアパートでの生活に移行しているのであるから,期間としては短かったということができる。しかしながら,上記のとおり,その間の生活は過酷なものであり,糖尿病の治療においては,毎日の血糖コントロールが重要とされていることに照らすと,1か月の期間でも大きなストレスを甲に与えるに十分なものであったということができる。 b 避難所生活に引き続く二本松市内のアパートでの生活は,避難所生活と比較すると,良好な環境であったということができる。しかし,二本松市内での生活に甲が順応できていたかといえば,そのように認める b 避難所生活に引き続く二本松市内のアパートでの生活は,避難所生活と比較すると,良好な環境であったということができる。しかし,二本松市内での生活に甲が順応できていたかといえば,そのように認めることはできない。すなわち,甲は,釣りを趣味として頻繁に出かけていたにもかかわらず,避難後に釣りにでかけたのは1回のみであり,コンビニエンスストアに買い物に行くことすら次第にしなくなったというのであるから,甲が二本松市内での生活に大きなストレスを感じていたことは明らかであるといえる。 c 以上によれば,甲が避難所生活を強いられたこと及びそれに引き続き二本松市内のアパートにおける生活を続けることを余儀なくされたことによるストレスは,ストレス強度評価でいうところの「騒音等,家の周囲の環境(人間環境を含む)が悪化した」又は「引越した」と同程度のもの(いずれもストレス強度はⅡ)と認めることが相当である。 オ経済面でのストレス(ア) 本件事故後の経過本件事故前においては,原告ら家族には,原告乙の准看護師としての収入に加え,甲の年金収入,原告丁の遺族年金収入があり,家計に困る ことはなかった。 しかしながら,本件事故により原告乙の勤務先が閉鎖することになったため,原告乙は退職扱いとなって准看護師としての収入は途絶え,その余の収入で家計を維持する必要があった(少なくとも甲が自死した平成23年7月の時点においては,就労不能損害について被告が本格的な賠償を開始していたことをうかがわせる証拠はない。)。その中で,当時約800万円残っていた住宅ローンの支払や,原告丁の専門学校への進学費用等を捻出することに甲は頭を悩ませており,さらに,生活費等を得るための賠償金の仮払申請書の作成にも苦心していたというのであるから,そのことが甲に精神的負 ローンの支払や,原告丁の専門学校への進学費用等を捻出することに甲は頭を悩ませており,さらに,生活費等を得るための賠償金の仮払申請書の作成にも苦心していたというのであるから,そのことが甲に精神的負荷を与えていたものと推認することができる。 住宅ローンの支払については,甲は,若干の延滞があり,遅延損害金も生じていたものであるが,平成23年7月に手続を行い,遅延損害金も含めた元利金の返済について,5年間の猶予を受けた。しかし,5年間の返済猶予は,反面,総支払期間を5年間延長し,猶予期間の年率0. 5パーセントの利息も併せた金額を,猶予期間終了後から支払わなければならないことを意味し,収入の見通しが立たない中で負債ばかりを増やすものといえる。これは,甲にとって,むしろストレスになったとしても不自然ではなく,現に甲は,なるようにしかならないとあきらめ気味であった様子がうかがえる。 原告丁は,整備士になることを希望していたものであるが,原告乙の収入が途絶えたこともあって,原告丁自身の申出によって進学を諦め就職することとなった。甲は,戊の自死後に原告丁の未成年後見人となり,文字どおり親代わりとなって原告丁を育ててきたものである。そのような甲にとって,原告丁の将来の希望を,自己の経済的理由により叶えることができなかったことは,多大な無力感や自責の念を生じさせるもの であったことは想像に難くない。 (イ) ストレスの強度評価甲は上記のとおり,経済的な面でのストレスを強く感じていたと考えられるところ,住宅ローンの返済が仮にできなくなれば,甲が原告ら家族(少なくとも原告乙)との終生の住居として建築した自宅を失うことを意味するといえる。原告乙の収入が失われたり,5年後から増額して毎月の返済をしなければならなくなったりしたことは,将来 甲が原告ら家族(少なくとも原告乙)との終生の住居として建築した自宅を失うことを意味するといえる。原告乙の収入が失われたり,5年後から増額して毎月の返済をしなければならなくなったりしたことは,将来の経済的な安定を失ったといえるものである。また,原告丁が進学をあきらめたことは,結果として甲の経済的負担を軽減するものとはなったが,それが甲にかかる精神的負荷を軽くしたとは考え難く,むしろ上記のとおりストレス原因になったものと考えられる。 以上の事情を考慮するならば,甲が経済的な面に関して抱いたストレスは,ストレス強度評価でいうところの「借金返済の遅れ,困難があった」ことによるストレス(ストレス強度はⅡ)と同程度のものと認めるのが相当である。 カ庚の認知症の悪化に伴うストレス(ア) 本件事故後の経過a 甲の実母である庚は,甲,原告乙及び原告丁と避難生活を続ける中で,認知症を悪化させ,二本松市のアパートに転居してからは,徘徊をくりかえすようになり,警察に保護されることもあった。また,庚は甲に対して,いつになればⓖに帰れるのかを繰り返し尋ねており,甲が苛立ちながら帰れないと答えることが続く状態であった。 徘徊の症状が出るほど認知症が進行した者へのケアは,それだけをもってしても介護者に精神的負荷を与えるに十分なものであることはいうに及ばず,加えて避難生活という自らの生活を維持するにも心理的負担が生じる中で,さらに徘徊を繰り返す母のケアをすることは, 甲に大きな心理的負荷を与えるものであったことは,容易に想像することができる。庚は,甲に対して,ⓖへ帰還したい旨を繰り返し述べていたものであり,これに甲は,ⓖには帰れない旨を繰り返し説明していた。自身こそが自宅に帰りたかった甲が,庚とこのようなやり取りを繰り返していたことは は,甲に対して,ⓖへ帰還したい旨を繰り返し述べていたものであり,これに甲は,ⓖには帰れない旨を繰り返し説明していた。自身こそが自宅に帰りたかった甲が,庚とこのようなやり取りを繰り返していたことは,庚のケアの心理的負担を増加させる一因になっていたと考えられる。 b 庚の認知症の症状の悪化は,本件事故と関わりなく,単に加齢により病状が進行しただけとみる余地もある。しかしながら,徘徊は本件事故前にはなかった症状であるほか,ストレスにより認知症が進行する例がみられること(甲42)に照らすと,庚の認知症の悪化には,本件事故により避難を余儀なくされたことが寄与しているということができる。 (イ) ストレスの強度評価a 庚の認知症の症状がどの程度重篤なものであったかは十分に明らかにはされておらず,介護が必要な程度であったかも不明である。しかし,上記(ア)aにおいて検討したとおり,庚の世話をみることにより甲は困惑し,疲弊していたということができる。甲が庚の認知症の悪化によって受けたストレスは,ストレス強度評価でいうところの「親族とのつきあいで困ったり,辛い思いをしたことがあった」又は「親が重い病気やケガをした」ことによるストレス(ストレス強度はⅡ)に近いものと認めることが相当である。 b また,上記1(7)エのとおり,その余の研究結果においても,ストレス強度を0ないし3の段階評価している(3点が最も強い。)研究成果においては,自分の親の介護・介助が1.09点とされており,自分の病気・けがの0.95点よりもストレス強度が高いとされている。 キ甲の個体側の脆弱性に係る事情について(ア) 糖尿病を甲の個体側の脆弱性とみるべきかについてa 糖尿病と精神障害の関係(上記1(9))糖尿病患者におけるうつ病の有病率又は合併頻度 キ甲の個体側の脆弱性に係る事情について(ア) 糖尿病を甲の個体側の脆弱性とみるべきかについてa 糖尿病と精神障害の関係(上記1(9))糖尿病患者におけるうつ病の有病率又は合併頻度は,一般人口と比較して少なくとも約2倍程度あり,糖尿病とうつ病等の精神障害は親和性があるということができる。 このような親和性があることの理由としては,類似の内分泌機能障害であるから等という器質的なものの他に,糖尿病患者がストレスの影響を受けやすいことも挙げられている。糖尿病患者においては,軽症の患者においても,食事療法や運動療法といった自らの生活習慣を変更しなければならない治療法をとる必要があり,しかも運動療法については,その効果は3日経つと小さくなり,1週間でほとんどなくなるといわれている。治療の効果が上がらなければ,合併症の発症が危惧されるところであり,糖尿病患者はただでさえ,長期的・慢性的なストレスを抱いているといわれている。また,心理的又は環境的ストレスがストレス関連ホルモンの分泌を促し,患者の自己管理行動を阻害することが,血糖コントロールに悪影響を与えるともいわれている。 b 本件事故前の甲の糖尿病の状況(上記1(3))甲は,昭和55年頃,職場での作業中の事故がきっかけで2型糖尿病を発症し,その境界型という診断を受け,20年以上経過した平成16年3月から通院を開始した。 甲の血糖コントロールの状況は,別表のとおりであるところ,過去1,2か月間の平均血糖値を反映する指標であるHbA1cに着目すると,治療の全期間を通じて,おおむねHbA1cが7.0パーセント以上の「不良」の状態であり,平成19年3月31日から平成20 年7月12日までの間や平成21年2月28日から同年9月26日までの間については,HbA て,おおむねHbA1cが7.0パーセント以上の「不良」の状態であり,平成19年3月31日から平成20 年7月12日までの間や平成21年2月28日から同年9月26日までの間については,HbA1cが8.0パーセント以上の「不可」の状態にあった(上記1(9)イ)。その間,ⓒ医師は再三にわたり,「高い」「コントロール不良」「もう少し」等と,血糖コントロールができていないことを指摘していたものである。もっとも,平成22年10月16日以降,本件事故前の最後の診察となった平成23年2月19日までの間の5回の測定結果は,それぞれ,5.4パーセント,5.2パーセント,6.0パーセント,6.8パーセント及び6.5パーセントであり,血糖コントロールはおおむね「優」又は「良」という比較的良好な状態にあった。 甲は糖尿病の合併症として,末梢神経障害のうち感覚神経障害を訴えることがあり,血糖コントロールが悪化すると,足裏の感覚異常や足の痺れを感じることがあった。甲については,食事療法と運動療法のほか,投薬治療もされていた。本件事故時には,インスリンの分泌を増やすアマリールを通常の最大用量の1.5倍である1日当たり6ミリグラム,食後の血糖上昇を抑えるセイブルを1日当たり150ミリグラム投与されていたほか,合併症である痺れに適応のあるキネダックを1日当たり150ミリグラム投与されていた。 以上の経過に照らすと,甲の2型糖尿病は重篤な合併症を伴うものではなかったが,糖尿病患者の20から30パーセントにおいてみられるとされる末梢神経障害の合併症を伴っており,その症状には陽性症状であるしびれ感や,陰性症状である感覚鈍麻の双方が含まれていたのであるから,軽いとはいえない糖尿病であったということができる。本件事故直前には比較的良好な血糖コントロールであ ,その症状には陽性症状であるしびれ感や,陰性症状である感覚鈍麻の双方が含まれていたのであるから,軽いとはいえない糖尿病であったということができる。本件事故直前には比較的良好な血糖コントロールであったとはいえるが,長期的に見れば改善が見られていたとはいえず,食事療法と運動療法に加えて,上記の投薬の効果で状態の良い時期にあったにす ぎないとみることができ,糖尿病の症状がなくなったというものではない(そもそも,糖尿病は,完全に治癒する疾患であるとはされていない。)。 c 本件事故後の甲の糖尿病の経過甲は,本件事故前には糖尿病の運動療法としての散歩を日課としており,ⓩ高校の体育館における避難所生活の際や二本松市のアパートに避難した際にも,その当初は,本件事故前と同様に散歩をしていた。 しかし,甲は,辛からの処方薬を持参せずに避難したため,ⓩ高校の体育館における避難所生活の際には,これを服用することができず,ⓒ医師とは別の医師から処方された糖尿病治療薬では効果を感じることができなかった。また,甲は,二本松市のアパートに避難してから1~2か月が経過する頃から,あまり散歩に行かなくなり,アパートで過ごすことが多くなっていった。 そうした中で,ⓩ高校の体育館における避難所生活では,甲には,喉の渇きや足の痺れといった糖尿病の合併症とみられる症状がみられるようになった。また,平成23年5月9日以降,再び辛への通院を開始した際には,HbA1cがおおむね8.0パーセント以上の「不可」の状態になっており,本件事故直前に比較的良好な血糖コントロールであったことと比較すると,著しく悪化していることがうかがわれる。 このように,避難生活に伴って,従前と同様の薬を服用し,運動療法としての散歩を行うという,甲の生活の一部となっていた糖尿病 ールであったことと比較すると,著しく悪化していることがうかがわれる。 このように,避難生活に伴って,従前と同様の薬を服用し,運動療法としての散歩を行うという,甲の生活の一部となっていた糖尿病の治療をうまく行うことができずに,血糖コントロールが悪化し,糖尿病の合併症と思われる症状が発生したことは,甲にとって,喉の渇きや足の痺れといった症状そのものに伴う負担感のほか,血糖コントロールが思い通りに行かない不満を感じさせるものであるとともに,糖 尿病の悪化に対する不安を抱かせるものであったと推察される。 d 意見書の内容について甲が罹患していた糖尿病が,甲の自死又は精神障害に対して及ぼした影響に関しては,ⓔ意見書のほか原告らから2通の意見書(作成者の名前をとり,「ⓒ意見書」,「ⓕ意見書」という。)が提出されているので,それぞれの内容について検討する。 ⓒ意見書(甲14の1)ⓒ意見書は,甲の主治医であるⓒ医師が,平成25年6月22日に作成したものである。 甲には,本件事故の前後を通じて,うつや自死に関して気になる言動が特になかったとされている。また,本件事故後に甲の血糖コントロールが不良となり,その原因は避難生活により散歩ができなくなったことによる可能性が大きいとされている。また,甲が糖尿病を罹患していたことや糖尿病が悪化したこと,甲に対する処方薬が,うつや自死に影響した可能性は考えられないとされている。 ⓔ意見書(甲36)甲の糖尿病とうつ病の関係について,因果関係がなく単に併存しているだけであることも考えられること,身体疾患においてしばしば認められる抑うつ症状である可能性もあること,本件事故前に甲に処方されていた向精神薬の量が少なく一時的であることや,ⓒ医師が糖尿病のうつ,自死への影響を否定 考えられること,身体疾患においてしばしば認められる抑うつ症状である可能性もあること,本件事故前に甲に処方されていた向精神薬の量が少なく一時的であることや,ⓒ医師が糖尿病のうつ,自死への影響を否定していること等を踏まえ,甲が糖尿病に基づく外因性(二次性)うつ病である可能性は低いと結論づけている。 ⓕ意見書(甲51)ⓕ意見書は,日本糖尿病学会専門医等の資格を持つⓕ医師が,平成27年2月25日に作成したものである。意見書作成に当たって 参照した資料については明らかではない。 一般論として,2型糖尿病は,健常人と比べ睡眠障害・うつ病になるリスクが高く,血糖コントロールの悪化が睡眠障害・うつ病発症の促進要因になることを挙げ,本件事故により甲の糖尿病が増悪したことは認められるとしている。 しかし,ⓔ意見書におけるⓔ医師の意見と同意見であるとし,避難生活が甲の糖尿病を増悪させ,その結果としてうつ病発症を促進させたという機序は成立せず,本件事故及びそれに伴う避難生活によるストレスがうつ病を発症させた主要因であり,血糖コントロールの悪化は軽度で期間も短いため,直接うつ病発症の要因とはならないとしている。 結論として,甲が,本件事故とその後の避難生活による精神的・肉体的ストレスによってうつ病を発症したと考えられるとしている。 e 糖尿病に関する総合判断以上の検討を踏まえて,甲が罹患していた2型糖尿病を,甲の個体側の脆弱性として因果関係の存否判断において考慮するべきかについて検討する。 上記aのとおり,糖尿病患者におけるうつ病の有病率又は合併頻度は,一般人口と比較して少なくとも約2倍程度あるとされている。その要因としては,器質的なものが挙げられるほか,その治療過程において生活習慣に大きな変化を要するこ 者におけるうつ病の有病率又は合併頻度は,一般人口と比較して少なくとも約2倍程度あるとされている。その要因としては,器質的なものが挙げられるほか,その治療過程において生活習慣に大きな変化を要することによるストレスの影響を受けやすい点も挙げられており,また,ストレスにより血糖コントロールが悪化することで,合併症等の症状が現れ,さらに日常生活に影響を及ぼすことがストレス要因になることも指摘されている。このように糖尿病患者は,一般人と比べて,うつ病を発症するリスクを多く負 っているということができる。 これを甲についてみると,甲が罹患していた糖尿病は必ずしも軽いものではなく,しかも長期にわたって継続していたものであるところ,本件事故により血糖コントロールが悪化したことにより,甲には合併症である神経症状が生じていたものである。そうすると,甲は,本件事故前から罹患していた糖尿病により,避難によるストレスとは別に,非糖尿病患者と比べうつ病の合併頻度を健常者の2倍以上とする程のより多くのストレスを賦課される状況にあったということができる。 そうであれば,甲を本件うつ状態に至らしめたストレスの原因として糖尿病という個体側の要因が存在したことは否定し難いというべきであるから,甲の罹患していた糖尿病は,甲の個体側の脆弱性としてこれを考慮することが相当である。 f 上記d記載の各意見書は,いずれも糖尿病がうつ病や自死に与えた影響を限定的に捉えるものである。しかし,詳細に検討すれば,いずれの意見書も,糖尿病が主要因となってうつ病を発症したことを否定しているものであって,糖尿病に罹患していたことが甲のストレス要因になることを否定しているものではない。これまでに検討したとおり,糖尿病に関する一般的な知見においては,糖尿病が患者のストレス要因 しているものであって,糖尿病に罹患していたことが甲のストレス要因になることを否定しているものではない。これまでに検討したとおり,糖尿病に関する一般的な知見においては,糖尿病が患者のストレス要因となることや,糖尿病患者のうつ病有病率が一般人に比して高いことを否定するものはなく,上記各意見書もこの一般的知見を否定しているものではない。 そうすると,上記各意見書の内容は,上記eの認定判断と矛盾対立するものではないといえるから,上記認定を左右するものとはいえない。 g このような糖尿病に罹患していることによるストレスは,本件事故 及びこれに伴う避難生活がもたらすストレスとは別個に生じるストレスというべきであるから,甲の精神的破綻と本件事故との因果関係を検討するに当たっては,それぞれ別々に斟酌すべきものといえる。 もっとも,糖尿病に罹患していることによるストレスは,一回的な出来事によるストレスではなく,いわば慢性ストレス要因というべきものであり,出来事を中心に記載したストレス評価表には,必ずしもこれに合致する項目はない。しかしながら,糖尿病という病気の処置に伴うストレスである点に着目すれば,「自分が病気やケガをした」ことによるストレス(ストレス強度はⅡ)に近いものと認めるのが相当である。 (イ) 甲の性格についてa 甲は,明るい性格の持ち主で,冗談を言って周囲を楽しませており,楽しい人だと評価されることが多かった。他方で,原告丙の陳述書(甲11)によれば,甲は,仕事が忙しくなったときや,戊が自死した際には,1人で考え込んでしまい,なんでも自分1人で解決しようとしてしまうところがあったとされている。原告乙も,甲が一人で考え込んでいるときは,原告乙から声を掛けると,悩みを話してくれた旨供述している。これらの供述によれば, い,なんでも自分1人で解決しようとしてしまうところがあったとされている。原告乙も,甲が一人で考え込んでいるときは,原告乙から声を掛けると,悩みを話してくれた旨供述している。これらの供述によれば,甲がストレスを抱え込みやすい性格であったことは否定できない。 また,甲は,趣味においてはこだわりが強く,釣りの仕掛けについては市販のものに飽きたらず自作し,家庭菜園については風よけを工夫して作る等,手間をかけていた。これらは,几帳面で凝り性な甲の性格を表しているものといえ,繊細な面があったとの推察が可能である。 b しかしながら,そのような甲の性格が,甲の社会生活に問題を生じさせる程度のものであったことをうかがわせる事情は全くない。むし ろ,甲は,ⓦに約35年にわたり特に問題なく勤め続けており,地域の同窓会や二桁会(上記1(2)カ)にも参加するなど地域住民との交流も有していたものであり,家族との関係でも,子に対して暴力を振るったり怒鳴りつけたりすることなく,優しい父親であったことがうかがわれる。 また,甲は,ⓖ町ⓗの自宅で営んでいたバイクの修理,販売店が倒産したり(上記1(2)ア),ⓦでの作業中に墜落事故を起こして半年程度入院したり(上記1(3)ア),子である戊が自死する(上記1(2)オ)という,強いストレス要因となりうる出来事があっても,その後の生活に支障を来していたことはうかがえず,性格的にストレスに弱かったということもできない。 c そうすると,他に甲の性格の特異性を示す事情が見当たらない以上,甲の性格は一般人に通常想定される個体差の範囲内の差異にとどまるものと認められ,これをもって,甲の個体側の脆弱性と評価することは相当ではないというべきである。 (ウ) 甲の個体側の脆弱性に係るその他の要素について「 される個体差の範囲内の差異にとどまるものと認められ,これをもって,甲の個体側の脆弱性と評価することは相当ではないというべきである。 (ウ) 甲の個体側の脆弱性に係るその他の要素について「ストレス―脆弱性」理論においては,アルコール等への依存状況及び家族歴が脆弱性の要素とされているところ,甲はそもそもアルコールを飲めない体質であり,その他の薬物を含めて,依存状況は認められない。また,甲の長男である戊は,平成20年3月3日に自死しているが,これは職場での人間関係を苦にしての自死とみられており,遺伝的要因があったことは何らうかがわれない。その他に,甲が個体側の脆弱性を有すると認めるに足りる証拠はない。 ク甲のその他のストレス要因について(ア) 戊の自死によるストレス上記1(2)オのとおり,本件事故の約3年前である平成20年3月3 日に甲の長男である戊は自死しており,被告は,この出来事によるストレスが,本件事故時にも残存していたと考えられる旨主張する。 確かに,ストレス強度評価においては「配偶者や子ども,親又は兄弟が死亡した」ことは,ストレス強度がⅢとされ,一般的に遺族に対して大きなストレスを与えるものといえる。特に子に先立たれることが,親である遺族に対して与えるストレスは著しいものであると考えられる。 しかし,原告乙の供述によれば,甲は当初は落ち込み,糖尿病の症状が悪化したこともあったが,しばらく後は以前と変わらない生活を送っていたと認められる。辛の診療録(甲31,32)には,戊の自死から8日後の平成20年3月11日に甲が受診した記録があるが,そこには戊の自死についての記載はなく,夜間の尿についての記載はあるが甲が特段心身の不調を訴えていた旨の記載もない。血糖コントロールに関してもHbA1cの値は同 月11日に甲が受診した記録があるが,そこには戊の自死についての記載はなく,夜間の尿についての記載はあるが甲が特段心身の不調を訴えていた旨の記載もない。血糖コントロールに関してもHbA1cの値は同年2月9日に9.6パーセントだったものが,同年3月11日には8.5パーセントに改善しており,その後も特に血糖コントロールが悪化したことをうかがわせる記載はない。これらの診療録の記載は,甲が当初戊の自死により強いストレスを感じていたとしても,これによる心身への影響は限定的であったことを示すものといえる。 この他に,戊の死が,死後約3年が経過した本件事故時においても甲に影響を及ぼしていた事実を認めるに足りる証拠はないから,子である戊が死亡したことをもって,甲の自死につながる準備状態の形成に寄与したストレス要因と認めることはできない。 (イ) 原告丁の未成年後見人としての責任に伴うストレス戊が自死したことによって,その子である原告丁について後見が開始され,甲は,平成20年6月11日に,原告丁の未成年後見人に就職した。被告は,甲が64歳にして原告丁の未成年後見人に就職したことが, 甲に心理的負荷を与えるものであったと主張する。 甲が原告丁の未成年後見人に就職することは,甲が法的に原告丁を監護すべき立場に立ったことを意味するものである。しかしながら,原告丁の供述によれば,甲は戊が死亡する前から,出張等で不在のことが多かった戊に代わって原告丁を養育することも多く,戊の死亡前後で,甲と原告丁の関係は変わらなかったとされている。 また,原告丁は,甲が未成年後見人に就職した後,中学生の終わりの頃から高校2年生頃まで素行不良であり,このことについて甲が心を悩ませ,負担を感じていた可能性は否定できない。しかし,甲の働きかけもあって ,原告丁は,甲が未成年後見人に就職した後,中学生の終わりの頃から高校2年生頃まで素行不良であり,このことについて甲が心を悩ませ,負担を感じていた可能性は否定できない。しかし,甲の働きかけもあって,本件事故時には既に原告丁の素行は改善していたのであるから,ストレスが残存していたとみることもできない。 元来,子の養育における精神的負担は避け難いものであり,それは未成年後見人と孫の関係であっても同様といえるところ,そのような通常生じる心理的負担は個体差の範囲内のものといえる以上,これをもって個体の脆弱性として考慮することは相当とはいえない。甲が原告丁を養育するに当たって,そのような精神的負担を超える特段のストレスが生じていたことを示す証拠もない以上は,甲が原告丁の未成年後見人に就職していた事情をもって,甲の自死につながる準備状態の形成に与ったストレス要因と認めることはできない。 ケ本件うつ状態の原因が本件事故にあるといえるかについて(ア) 上記ウないしカにおいて検討したとおり,平成23年3月12日に本件事故に伴う避難指示及び警戒区域設定により避難を余儀なくされて以降,甲は,本件事故に起因する様々な事象により,複数の強いストレスを受け続けていたことが認められる。とりわけ,甲がⓖでの生活をし得なくなり,帰還の見通しも持てなくなったことは,甲が退職後の人生の中心に据えていた自宅での生活と趣味を長期にわたって失うもの であり,ストレスの強度は著しいものであったと認められる。その他のストレス要因も,いずれも一般人に対して強いストレスを生じさせると客観的に評価できるものである上,日常生活において経験することも希な出来事であり,甲を含む一般人であれば,通常予期しない出来事であるといえる。そして,甲において,本件事故による影響を回避す させると客観的に評価できるものである上,日常生活において経験することも希な出来事であり,甲を含む一般人であれば,通常予期しない出来事であるといえる。そして,甲において,本件事故による影響を回避する等,ストレス要因に対して何らかのコントロールを及ぼすことはできなかったというべきである。 そして,予期せずに,そのような強いストレスを生む要因たり得る出来事に,回避する術も持たないまま,短期間に次々と遭遇することを余儀なくされることは,健康状態に異常のない通常人にとっても過酷な経験となるであろうことは容易に推認することができる。 (イ) 甲は,本件事故時に2型糖尿病に罹患していたものであり,このことは,上記キのとおり,甲の個体側の脆弱性と評価できる事情であって,このことがストレス要因になっていたことは,上記キ(ア)のとおりである。そして,そのストレスの内容や,糖尿病の有病者が,一般人に比してうつ病罹患率が高いなどの統計的結果に照らせば,甲の自死の要因の一つに,本件事故前から甲が糖尿病に罹患していたことが含まれることは否定し難いものといわざるを得ない。 しかしながら,甲は,少なくとも平成16年以降本件事故まで約7年間,特にうつ病を発症することなく,血糖値のコントロールに努めてきていたことはこれまでに認定判断したとおりである。他方,本件事故により,短期間の間に次々と予期しない強度のストレス要因に直面することとなった甲が受けた精神的負担の大きさは,上記のとおり,コントロールされていた糖尿病に係る精神的負担よりも相当に大きいものというべきである。 したがって,糖尿病に関する精神的負担が,甲が本件うつ状態に至る 原因の形成に寄与したことは認め得るとしても,その主たる要因は本件事故にあったと認めるのが相当である。 (ウ) 以上 る。 したがって,糖尿病に関する精神的負担が,甲が本件うつ状態に至る 原因の形成に寄与したことは認め得るとしても,その主たる要因は本件事故にあったと認めるのが相当である。 (ウ) 以上のとおりであるから,甲が本件うつ状態に至った主たる原因は,本件事故にあったと認められる。 (5) 甲の自死と本件事故との間の因果関係に関する総合的検討ア上記(3),(4)の検討の結果を踏まえれば,甲の自死につながる準備状態は,まず,甲が本件事故前から糖尿病に罹患していたため,元々健常者よりもその精神的負担が大きい状態にあったところに,本件事故に基づいて生じた一般的に強いストレスを生む要因となる複数の出来事(避難指示及び警戒区域設定により,ⓖでの生活をし得なくなり,帰還の見通しも持てなくなったこと,1か月にわたる避難所生活を含む避難生活を強いられたこと,避難生活により金銭的に困窮したこと,実母である庚の認知症が悪化したこと)が甲の周囲に短期間に次々と発生し,これらの出来事に予期なく遭遇することを余儀なくされ,このような苛酷な経験が甲に耐え難い精神的負担を強いたために,甲を本件うつ状態に至らしめたことよって形成されたものと認めるのが相当である。さらに,その原因となったストレス要因自体が,甲の自死に至る準備状態の形成に大きく寄与したと評価することができる。 イ甲は自死した当日である平成23年7月23日の早朝5時30分から6時30分までの間に,携帯電話を置いたまま,原告乙を含む家族に何も告げずに,自動車で出発した。そして,同日の夕方頃までの間に,相馬郡ⓨ村所在の㋙ダム付近の橋から飛び降りて自死したものと認められる。 もっとも,前日である同月22日には満タンであったガソリンは空に近い状態となっていたことに照らせば,甲は自死するまでの間,自動 馬郡ⓨ村所在の㋙ダム付近の橋から飛び降りて自死したものと認められる。 もっとも,前日である同月22日には満タンであったガソリンは空に近い状態となっていたことに照らせば,甲は自死するまでの間,自動車に乗って様々な場所を巡っていたと推測されるが,それがどこであるかは明らかではない。上記のとおり,甲が家族に気付かれないような態様で出発し, 自死に至っていることに照らせば,甲は同日の早朝頃には自死を決意していたとも考えられるが,甲を自死に至らしめる引き金になった出来事が何であったかについては,本件全証拠に照らしても明らかではない。 甲は,同月20日頃から同月22日頃までの間,以前のように冗談を言い,買い物に出掛ける等,回復したかのような様子をみせていた。自死を決意した人には,これまでの抑うつ的な態度とは打って変わって,不自然なほど明るく振る舞うという「嵐の前の静けさ」といった状態もしばしば生じるものとされている。また,うつ病による自死者は,その重症期よりも,抑うつ気分が続いているにもかかわらず行動力だけが先行して回復している回復期に多いとの調査結果もある。甲を自死に至らしめる引き金となった出来事は不明であるが,上記甲の態度は,これらの調査結果と合致するものであり,本件うつ状態が原因となって自死に至ったとみることと矛盾しない。 そして,うつ病と自死との間に強い関連性が認められていることも考え併せれば,うつ病を発症していた可能性があり,少なくとも小うつ病性障害を発症していた蓋然性が高いとみても矛盾のない本件うつ状態にあった甲も,何らかのきっかけにより自死に至ってもおかしくない状況にあり,そのような自死につながる準備状態が,甲を自死の実行に及ばせたと認めるのが相当である。 ウ甲が糖尿病に罹患していたことが,甲の自死につながる のきっかけにより自死に至ってもおかしくない状況にあり,そのような自死につながる準備状態が,甲を自死の実行に及ばせたと認めるのが相当である。 ウ甲が糖尿病に罹患していたことが,甲の自死につながる準備状態の形成に寄与したと認めることができることは既述のとおりであるが,それ自体が単独で上記の準備状態を形成するには不十分であることもまた説示したとおりであり,主として本件事故を原因とするストレスによって,甲の自死につながる準備状態が形成されたという関係を否定するものとはいえない。 エ既に説示したように,甲の自死による損害は,福島第一原発から大気中 に放出された核燃料物質等が風に乗って飛散し,それが降雨等により土壌に付着することにより,当該核燃料物質等から放出される放射線の作用によって発生したものである。 被告は,原子力発電所を設置,運転する原子力事業者であり,関係法令による原子力発電所の設置,運転に関する安全規制に従って,福島第一原発を運転していたのであるから,そのような放射線の作用の危険性,より具体的には,原子力発電所が一度事故を起こせば核燃料物質等が周辺地域に広範に飛散する可能性があること,そのようにして飛散した核燃料物質等が付着した地域においては,放射線の作用の影響が相当長期にわたって残るため,相当長期にわたって当該地域での人々の生活に影響を与え,放射線量の高い地域においては当該地域の居住者が避難を余儀なくされるであろうことを予見することが可能であったといえる。また,過去の経験により,災害による避難者が様々なストレスを受け,それがうつ病を始めとする精神障害発病の原因となることは一般に知られているところであったから,放射線の作用による悪影響を避けるための相当長期間の避難により,避難者が様々なストレスを受け,その結果, それがうつ病を始めとする精神障害発病の原因となることは一般に知られているところであったから,放射線の作用による悪影響を避けるための相当長期間の避難により,避難者が様々なストレスを受け,その結果,ストレスを受けた避難者の中にうつ病を始めとする精神障害を発病する者が出現するであろうこともまた,被告において予見可能であったということができる。そして,精神障害と自死との間には強い関連性があるとされていることも一般に知られているところであるから,避難によるストレスの結果,精神障害を発症して自死に至る者が出現するであろうことについても,被告において予見することが可能であったというべきである。 オしたがって,甲の自死と本件事故との間には,相当因果関係があると認めるのが相当である。 3 争点②(甲の個体側の要因を理由に損害額を減額すべきか否か,減額すべきとした場合,その減額の割合は幾らとするのが相当か。)について (1) 被告は,本件事故と甲の自死との間に相当因果関係が認められるとしても,甲の個体側の要因が同人の自死という結果発生に寄与したことを考慮するべきであり,民法722条2項を類推適用して適切な減額をするべきであること,その際の減額の割合は,交通事故の被害者が心身に影響を受けて自死に至った事案に関して,被害者の心因的要因や性格等を考慮して損害額を80パーセント程度減額した裁判例が大勢を占めていることが参照されるべきであると主張する。 (2) そこで検討するに,被害者に対する加害行為と被害者の罹患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用し 発生した場合において,当該疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,裁判所は,損害賠償の額を定めるに当たり,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,被害者の当該疾患を斟酌することができるものと解するのが相当である(最高裁平成4年6月25日第一小法廷判決・民集46巻4号400頁)。 (3) 本件においてこれをみるに,本件は,一般の不法行為に基づく損害賠償請求の事案とは異なり,原賠法3条1項本文に基づき損害賠償請求がされているものではあるが,同規定に基づく損害賠償請求は,賠償責任者である原子力事業者の過失を問わずに賠償責任を負わせる点で被害者の保護を図るものである一方,賠償の対象となる原子力損害は,一般の不法行為における損害と同様に,本件事故と相当因果関係のある全ての原子力損害に及ぶものであるから,具体的な損害額の算定において,損害の公平な分担を図るという損害賠償法の理念は,原賠法3条1項本文の場合にも同様に妥当するということができ,民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して,損害の拡大に寄与した被害者の罹患していた疾患を適切に斟酌して損害額を判断することが相当と解するべきである。 (4) そこで,甲の自死による損害について損害賠償の額を定めるに当たり, 甲が糖尿病に罹患していたことを斟酌することができるかどうかについて検討する。 ア上記2(5)のとおり,甲の自死という結果は,本件事故に基づいて生じた一般的に強いストレスを生む要因となる複数の出来事が,甲の自死につながる準備状態を形成するとともに,甲に種々の強いストレスを与えて甲を本件うつ状態に至らしめたために生じたものである。そして,甲に種々の強いストレスを与える原因となったストレス要因の一つ一つが,それ自体,甲の自 を形成するとともに,甲に種々の強いストレスを与えて甲を本件うつ状態に至らしめたために生じたものである。そして,甲に種々の強いストレスを与える原因となったストレス要因の一つ一つが,それ自体,甲の自死に至る準備状態の形成に大きく寄与すると評価できることも上記2(5)のとおりである。 イ一方,甲は,一般人に通常想定される個体差の範囲を超えた疾患として2型糖尿病の既往症を有し,それが甲の有する個体側の脆弱性とみるべきこと,甲の自死の要因の一つに,本件事故前から甲が糖尿病に罹患していたことが含まれることは上記2(4)ケ(イ)のとおりである。 そして,上記1(8)で認定した事実に加え,公知の事実によれば,本件事故による避難者の大多数が避難による様々なストレスを抱えながらも,自死に至っていないこともまた事実であるから,本件事故に基づく甲の自死という結果が,本件事故のみによって通常発生する結果を超えているという客観的評価は避けられないことにも鑑みれば,甲の自死によって生じた損害の全部を被告に賠償させることは公平を失するといわざるを得ない。 そうすると,甲が2型糖尿病の既往症を有し,これによるストレスが甲を本件うつ状態に至らせる要因となっていたことは,甲の罹患していた疾患として斟酌すべき事情と認めるのが相当である。 なお,甲が,自死を決断した当時,本件うつ状態にあったことは前記認定のとおりであるが,その時点で,自死の意味を理解できず,自由な意思による判断が阻害されるほど精神的破綻の状態が進行していたことを認 めるに足りる証拠はない。 ウ上記2(4)ケのとおり,本件事故後に甲が遭遇したストレス要因は,いずれも一般人に対して強いストレスを生じさせると客観的に評価できるものであった上に,予期せずに,そのような強いストレスを生む ウ上記2(4)ケのとおり,本件事故後に甲が遭遇したストレス要因は,いずれも一般人に対して強いストレスを生じさせると客観的に評価できるものであった上に,予期せずに,そのような強いストレスを生む要因たり得る出来事に,短期間に次々と遭遇することを余儀なくされることは,健康状態に異常のない通常人にとっても過酷な経験となるであろうことが認められる。甲にとって,この過酷な経験は,ささやかな趣味を中心としたⓖ町ⓗでの生活を突如として奪われたことによる著しい苦痛として表れ,甲をして最終的に自死に至らしめたものである。 一方,上記のストレスに加え,上記イのとおり,甲の既往症である糖尿病が寄与することで甲の精神状態を悪化させたものと認められる。甲が本件事故前から罹患していた糖尿病に起因する精神的負荷による寄与は,本件事故に起因する精神的負荷が寄与した割合を超えるものではないが,なお相当程度あったものと認めざるを得ない。 また,上記2(3)オのとおり,平成23年7月当時の甲の精神状態は,小うつ病性障害を発症していた蓋然性が認められるにとどまり,うつ病そのものの発症の可能性はそれほど高くないと考えられることから,当時の甲の精神状態と自死との間の関連性は,うつ病患者と自死との間に関連性が認められるのと同程度のものとまではいえない。このことは,甲の自死につながる準備状態の形成に,その精神障害以外の要因が関与している可能性を示唆するものである。 そこで,本件事故に基づいて生じたストレス要因が一般的に強いストレスを生むものであることを前提に,上記イのとおり甲が糖尿病に罹患していたこと及び甲の自死に精神障害以外の要因が関与した可能性を適切に斟酌すると,本件事故に基づいて生じたストレス要因が,甲の自死に至る準備状態の形成に寄与した割合は6割(甲の個 り甲が糖尿病に罹患していたこと及び甲の自死に精神障害以外の要因が関与した可能性を適切に斟酌すると,本件事故に基づいて生じたストレス要因が,甲の自死に至る準備状態の形成に寄与した割合は6割(甲の個体側の要因を理由とする減 額割合は4割)と認めるのが相当である。 (5) 原告らの主張についてア原告らは,ある業務に従事する特定の労働者の性格が同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り,裁判所は業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり,その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を,心因的要因として斟酌することはできないと判示した最高裁判決(最高裁平成12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号1155頁。以下「最高裁平成12年判決」という。)を引用しつつ,甲の性格が個性の多様さとして通常想定される範囲を外れない以上,甲の個体的要因を考慮して,損害額を減額することは許されないと主張する。 イしかしながら,原告らの上記主張は採用することができない。その理由は以下のとおりである。 (ア) 最高裁平成12年判決が,「(労働者)の性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた損害の発生又は拡大に寄与したとしても,そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。しかも,使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は,各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して,その配置先,遂行すべき業務の内容等を定めるのであり,その際に,各労働者の性格をも考慮することができるのである。」と判示しているとおり,同判決は,加害者である使用者が,被害者である労働者の心因的要因を把握す ,遂行すべき業務の内容等を定めるのであり,その際に,各労働者の性格をも考慮することができるのである。」と判示しているとおり,同判決は,加害者である使用者が,被害者である労働者の心因的要因を把握することを期待される立場にあり,かつそのように把握した心因的要因に基づいて,業務上の人事権,指揮命令権を適切に行使することで損害の拡大を防止することができる地位にあった事案におけるものである。 (イ) 民法722条2項の類推適用によって損害の拡大に寄与した被害者の心因的要因を,賠償すべき損害額を定めるに当たって斟酌すべきとする理由は,被害を受けた被害者においても,加害行為から通常発生する損害を超える損害が発生しないよう対処することが合理的な範囲で期待されていることにあるといえる。これは裏を返せば,加害者は,被害者が通常発生し得る範囲を超えて被害を拡大しないよう合理的に対処することを求めるほかない立場にあることに由来するものといえる。被害者においてそのような合理的対処をすることなく,当該加害行為から通常発生し得る損害の範囲を超えて損害を拡大させた場合には,これについても加害者に賠償させることが公平の理念からして相当とはいえないことから,民法722条2項の類推適用によって損害の拡大に寄与した被害者の心因的要因を,賠償すべき損害額を定めるに当たって斟酌すべきとするものである。 しかし,最高裁平成12年判決の事案においては,加害者が使用者,被害者が労働者であるとの関係があったことから,加害者においても,適切な人事権,指揮命令権の行使により,被害者に過重な負担のかからない業務を与えるなど,被害者の損害が拡大しないよう適切な対処をすることが法的に可能であったものであり,かつ,使用者による労働者のための適切な労務管理の一環として,そのよう 害者に過重な負担のかからない業務を与えるなど,被害者の損害が拡大しないよう適切な対処をすることが法的に可能であったものであり,かつ,使用者による労働者のための適切な労務管理の一環として,そのような権限の行使が合理的に期待される地位にあったといえる。よって,上記のような民法722条2項を類推適用して損害の公平な分担を図る必要が生じる加害者と被害者の地位関係にはない事案であったと解することができる。 (ウ) 本件では甲の罹患していた疾患を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するものであり,心因的要因を斟酌するものではないから,最高裁平成12年判決の理が直ちに当てはまるものではない。 この点を措くとしても,被告と甲との間において,被告が,甲の避難 による損害の拡大を防止するため適切な対処をすることができる法律上又は事実上の地位にあった事実については,これを認めるに足りる証拠はない(原告らは,本件事故の発生について被告には過失があると主張するが,上記主張について,何ら具体的事実の主張はされておらず,的確な立証もない。)。そうであれば,本件においては,被告が,甲がその損害の拡大のために合理的な対処をすることを求めるほかない地位にあったことを前提に判断せざるを得ないというべきであるから,本件は上記最高裁平成12年判決とは事案を異にするものといわざるを得ない。 (エ) 以上のとおり,原告らが引用する最高裁平成12年判決は,本件と事案を異にしており,本件では民法722条2項の類推適用を否定すべき事情は見当たらないというべきであるから,原告らの上記主張を採用することはできない。 (6) 被告の主張について被告は,本件事故と同様に,被害者と特段の法律関係を有しない第三者が発生させた事故である自動車事故において,被害者が自死した場合 記主張を採用することはできない。 (6) 被告の主張について被告は,本件事故と同様に,被害者と特段の法律関係を有しない第三者が発生させた事故である自動車事故において,被害者が自死した場合には,被害者の心因的要因等を考慮して,損害額を80パーセント程度減額した裁判例が大勢を占めており,本件においても参照されるべきであると主張する。 しかし,損害賠償額を定めるに当たって,被害者の心因的要因等を斟酌することができる理由は,そのような心因的要因等が,加害者に賠償をさせることが公平とはいえない被害者の損害の拡大を招くからであって,どのような心因的要因等がどのような損害の拡大を招いたのかという個別事情の違いを考慮せずに減額の割合のみを取り出してその適否を論ずることができないことは明らかである。 したがって,被告の上記主張は採用できない。 4 争点③(甲及び原告らの損害額は幾らか)について(1) 甲に生じた損害ア慰謝料 2000万円(ア) 以下の事情に加え,本件に現れた一切の事情を斟酌すれば,甲が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,2000万円と認めるのが相当である。 a 甲は,本件事故が発生するまでの67年余りの人生において,一時いわき市に住む期間はあったものの,ほとんどの期間を,ⓖ町ⓗの自宅で過ごし,そこで生活するという法的保護に値する利益を一年一年積み重ねてきた。甲にとっての上記利益の核心は,自然豊かなⓖにあって,趣味を自ら楽しみ,趣味を通じて,子や孫,友人と触れ合い,原告乙とともに原告丁を育てていくというささやかなものであり,本件事故により避難を余儀なくされなければ,将来にわたって享受できるはずのものであった。 しかしながら,本件事故によって,甲のそ ,原告乙とともに原告丁を育てていくというささやかなものであり,本件事故により避難を余儀なくされなければ,将来にわたって享受できるはずのものであった。 しかしながら,本件事故によって,甲のそのような望みが絶たれてしまったことは既に説示したとおりである。 b 甲は,何らの予期もなく本件事故により避難を余儀なくされたものであり,糖尿病の薬も持参できないまま,避難2日目には,十分な設備もなく,朝晩の寒さが厳しく,プライバシーも十分に保たれない避難所での生活を余儀なくされ,1か月もの避難所生活を強いられた。 また,その避難所生活を送る中で,糖尿病の合併症と思われる喉の渇きや足の痺れを訴えるに至ったのであり,糖尿病の悪化に対する不安も大きかったと推察される。 二本松市内のアパートへの転居は,住環境という点では,避難所生活から相当改善したものと考えられるが,自宅への帰宅について見通しを持つには至らなかった上,家賃の負担という新たな問題が生じた ものである。これに加えて,この頃,住宅ローンの支払という経済的な問題も生じたものである。 甲は,全く予期することなく,このような生活の激変に対応する必要があり,その中で,種々のストレスを受けながら,自死につながる準備状態を形成していったのであり,そのこと自体が,甲にとって著しい苦痛だったということができる。 そして,このような避難生活の最期に,甲は自死を選択したものである。この一連の経過の中で,甲の落ち度らしい落ち度といえるものは見当たらない。 c 以上の事情を考慮するならば,甲が死亡したことによる精神的苦痛は,非常に大きなものであったと推認される。 (イ) 原告らの主張についてa 原告らは,原子力発電所の設置,運転は原子力事業者しかすることができず,加害者と被害者の立 亡したことによる精神的苦痛は,非常に大きなものであったと推認される。 (イ) 原告らの主張についてa 原告らは,原子力発電所の設置,運転は原子力事業者しかすることができず,加害者と被害者の立場の互換性がないこと,及び原子力発電所の運転は利潤追求行為であって,それによって損害が発生した際には,これに対する制裁や再発防止の見地も考慮して慰謝料を算定するべきであると主張する。 しかし,被告は株式会社であり,株式会社が利潤を求める活動をすることは会社法を始めとする各種法令によって認められている活動であり,このことは,電気事業法その他の法令に基づきその活動が規制されている被告のような電気事業者であっても異なるものではない。また,立場の互換性がないことは原告ら主張のとおりであるが,それは,電気事業法その他の法令によって,電力供給事業等を行える者が規制されている結果であり,法令に基づくものといえる。 したがって,原告らが主張する上記事情は,いずれも法令の定めの結果というべきものであって,被告を法的に非難することを正当化で きる事情とはいえないから,原告らの上記主張を採用することはできない。 b 原告らは,被告には本件事故発生について故意・過失があると主張するが,上記主張について,何ら具体的事実の主張はされておらず,的確な立証もないことは既に説示したとおりである。 したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。 c 原告らは,本件事故に関し,被告を始めとする電力業界及び国は,原子力発電所の危険性,過酷事故のリスク等を隠蔽し続けてきたものであり,背信性,悪質性が極めて大きいから,慰謝料の算定に当たって考慮するべきであると主張する。 しかし,被告に,原告らの主張に係る事情が存在することについては,これを認め 蔽し続けてきたものであり,背信性,悪質性が極めて大きいから,慰謝料の算定に当たって考慮するべきであると主張する。 しかし,被告に,原告らの主張に係る事情が存在することについては,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,原告らの主張を採用することはできない。 イ逸失利益 1408万0899円前記前提事実及び上記1の事実関係によれば,甲は,本件事故当時,満67歳の男性であり,糖尿病の既往症はあったものの,日常生活に支障がない程度であったものと認められる。甲はⓦを退職後は,新たな就職先を探すことはなく,趣味に打ち込む生活を送っており,その収入としては老齢年金があるのみであったと認められる。甲が本件事故に遭遇しなければ,平均余命年数である17年間は,従前と同様に老齢年金収入を得ることができたものと推認される。 原告らは,上記の老齢年金に係る逸失利益に加えて,賃金センサス学歴計全年齢男女別の基礎収入を8年間得ることができたことを前提に,甲の就労部分の逸失利益を計上している。しかし,本件事故時及び自死時のいずれについても,甲が現に就労していたこと又は就労の意欲があったことを認めるに足りる証拠はなく,むしろ前記認定事実のとおり,甲は,退職 後は趣味を中心とした生活を送ることを考えていたと認められることから,甲が賃金センサス学歴計全年齢男女別の基礎収入を得ることを前提とした上記就労部分の逸失利益の損害を認めることはできない。 そこで,甲の逸失利益については,上記説示に従い,甲が自死当時に現に得ていた老齢年金208万1600円を基礎収入とし,平均余命期間である17年間について上記基礎収入に相当する得べかりし利益を失ったものと認めるのが相当である。そして,甲の生活費控除率を40パーセント ていた老齢年金208万1600円を基礎収入とし,平均余命期間である17年間について上記基礎収入に相当する得べかりし利益を失ったものと認めるのが相当である。そして,甲の生活費控除率を40パーセントとし,ライプニッツ方式に従い年5パーセントの割合で上記得べかりし利益について自死時以降17年間の中間利息を控除して自死時の甲の逸失利益の現価を算定すると,次の算定式のとおり,1642万7716円となる。 [計算式]208万1600円×11.2741×(1-0.4) =1408万0899円(小数点以下切捨て)ウ上記ア及びイの損害を合計すると,3408万0899円となるところ,上記3において認定判断したとおり,民法722条2項の規定を類推適用して損害額の4割を減額するのが相当であるから,その4割を減額した残額は2044万8539円(小数点以下切捨て)となり,甲は被告に対して同額の損害賠償請求権を有していたことになる。 前記前提事実(1)イのとおり,原告乙は2分の1の相続分,原告丙及び原告丁はそれぞれ4分の1の相続分に従って甲の損害賠償請求権を相続するから,原告乙が相続した損害賠償請求権は1022万4269円,原告丙及び原告丁が相続した損害賠償請求権はそれぞれ511万2134円(いずれも小数点以下切捨て)となる。 (2) 原告らに生じた損害ア葬儀費用 94万4132円 原告乙は,甲の死亡に関して,死体画像料1万5750円,死体検案書料5万円を負担し,甲の葬儀における喪主として,南相馬市における葬儀費用28万8622円,南相馬市における葬儀に係る斎場使用料5万9000円,二本松市における葬儀費用53万0760円を負担し,これらを合計すると94万4132円になるこ として,南相馬市における葬儀費用28万8622円,南相馬市における葬儀に係る斎場使用料5万9000円,二本松市における葬儀費用53万0760円を負担し,これらを合計すると94万4132円になることが認められる。(甲44~47,49の1,49の2)原告乙は,これらの費用とは別に,火葬料,搬送代等として4万1350円を負担したと主張し,これを裏付ける書証として甲48号証の1及び2を提出する。しかし,同各書証は,原告乙が葬儀会社に対して支払った費用の一部について,南相馬市から償還を受けるために作成された書面であることがうかがわれるところ,原告乙が同書証記載の費用を,甲46号証に記載されている原告乙が葬儀会社に支払った費用とは別途負担したといえるかについては明らかでない。また,原告乙が,甲48号証の1及び2記載の費用について,南相馬市から償還を受けなかったといえるかについても明らかでない。よって,原告乙の主張する火葬料,搬送代4万1350円については,損害が発生したことの証明はないといわざるを得ない。 したがって,原告乙の主張する葬儀費用等のうち94万4132円の限度で,原告乙に発生した損害と認めることができる。 イ慰謝料上記(1)アのとおり,甲にとって,本件事故及びこれに伴う避難生活がもたらした精神的苦痛は甚大であったといえるところ,甲の受けた苦痛を共に分かち合ってきた甲の家族である原告らにとっても,甲が自死という形で命を絶ったことは大きな精神的苦痛をもたらすものであったと認められる。また,甲は,退職してからこそ稼働せず,年金収入のみとなったものの,退職までの間はⓦで稼働し,原告乙と共に一家の家計を支え(収 入も原告乙以上にあったものである。),自ら借主となって住宅ローンを組み,原告ら家族のための自宅を建 ,年金収入のみとなったものの,退職までの間はⓦで稼働し,原告乙と共に一家の家計を支え(収 入も原告乙以上にあったものである。),自ら借主となって住宅ローンを組み,原告ら家族のための自宅を建て上げ,さらに父親である戊を失った原告丁の未成年後見人に就任し,その監護養育に当たってきたものであり,一家の中心的存在であったといえ,その甲を,避難中の自死という形で失った原告ら家族の心情は,察するに余りあるものである。 特に,原告乙は,甲と昭和47年5月30日に結婚してから,ⓖ町ⓗの自宅において甲と同居して,39年余りにわたり夫婦として過ごしていたものである。また,原告丁は,幼少の頃から甲を父親代わりに慕っており,特に平成20年3月に実父である戊を亡くしてからは甲が未成年後見人に就職したこともあり,一層,甲との深い関わりあいができていたものである。 これらの事情を考慮すると,原告らに対する慰謝料は,原告乙について300万円,原告丁について200万円,原告丙について100万円と認めるのが相当というべきである。 ウ甲についてと同様,原告らに直接生じた損害についても,民法722条2項の規定を類推適用して,その4割を減額することが相当であるから,原告乙が取得する固有の損害賠償請求権は上記葬儀費用等94万4132円及び慰謝料300万円の合計394万4132円の6割に相当する236万6479円,原告丙が取得する固有の損害賠償請求権は上記慰謝料100万円の6割に相当する60万円,原告丁が取得する固有の損害賠償請求権は上記慰謝料200万円の6割に相当する120万円となる。 (3) 原告らが甲から相続した損害賠償請求権と,原告らが取得した固有の損害賠償請求権を合計すると,原告乙については1259万0748円,原告丙については571万2134 当する120万円となる。 (3) 原告らが甲から相続した損害賠償請求権と,原告らが取得した固有の損害賠償請求権を合計すると,原告乙については1259万0748円,原告丙については571万2134円,原告丁については631万2134円となる。 (4) 弁護士費用 原告らは,甲の自死による損害の回復を求めるために,原告ら代理人に本訴の提起・追行を委任し,その費用として相当額の弁護士費用の負担を余儀なくされたことが認められる(弁論の全趣旨)ところ,その自死に至る経緯及び態様,本件訴訟の難易の程度,進行経過及び認容額等に照らすと,本件事故と相当因果関係がある弁護士費用相当の損害額は,原告乙については130万円,原告丙については60万円,原告丁については70万円と認めるのが相当である。 (5) 合計したがって,原告乙は被告に対し1389万0748円,原告丙については631万2134円,原告丁については701万2134円の損害賠償請求権を有することになる。 5 したがって,被告は,原賠法3条1項本文に基づき,原告乙に対しては1389万0748円,原告丙に対しては631万2134円,原告丁に対しては701万2134円及びこれらに対する損害発生日(甲の死亡の日)である平成23年7月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うというべきである。 第4 結論以上のとおりであるから,原告らの請求は,主文の限度で理由があるからこれをいずれも認容するが,その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 福島地方裁判所第一民事部 裁判長裁判官潮見直之 することとして,主文のとおり判決する。 福島地方裁判所第一民事部 裁判長裁判官潮見直之 裁判官松長一太 裁判官島田壮一郎 (別表) 日付 HbA1c(%) 空腹時血糖値 医師のコメント H17.5.30 7.8 H17.6.27 5.0 もう少し H17.8.10 7.3 下がってはきている H17.9.7 8.2 コントロール不良になってきた H19.3.31 13.4 コントロール不良 H19.3.31 12.1 まだまだ高い H19.5.19 9.8 下がってきている H19.6.29 9.0 まだ高い H19.6.30 9.7 高い H19.8.4 9.1 よくなっているか H19.9.1 8.5 このまま H19.9.29 8.1 まだ高い H19.11.3 8.6 続けて H20.1.1 9.1 高い H20.2.9 9.6 コントロール不良 H20.3.1 8.5 まだまだ H20.4.1 9.5 コントロール不良,次回までまってみる H20.5.1 29.1 まだ高い H20.6.1 38.5 下がってきている H20.7.1 28.1 もう少し H20.8. 次回までまってみる まだ高い 下がってきている もう少し まだ高いが もう少し もう少し。次回の結果をみる。 もう少し 少し高いよ コントロール悪いよ 日付 HbA1c(%) 空腹時血糖値 医師のコメント まだコントロール悪い もう少し 次回の結果をみて薬どうするか考える 下がりはじめた 下がっているか コントロール不良 頑張って,次回楽しみ もう少し もう少し コントロール不良 コントロール不良 頑張ってきた 下がってきたか 下がってきた,もう少しで6%台だ 下がってきた,もう少し 下がってきたか 下がってきた、もう少しで6%台だ 下がってきた、もう少し よくなってきた コントロール甘い、ほめたせいか 次回に期待 コントロールよくなってきたか コントロール良好となった コントロール良好、しかし前回に比べると甘い コントロール甘くなった、食いすぎた コントロール甘くなってきた コントロール不良 もう少しだよ まだ高いよ
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