【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人弁護士白井源喜上告理由第一点について。 本件は、上告人が被上告人に
主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告代理人弁護士白井源喜上告理由第一点について。 本件は、上告人が被上告人に賃貸した家屋につき、賃貸借契約の解約申入による期間満了を請求原因として、家屋の明渡を訴求する案件である。そして、争点の中心は、上告論旨もいうとおり、右解約の申入が、借家法第一条の二の「正当ノ事由アル場合」に当るかどうかであり、第一審判決においてはこれに該当すると判断したが第二審判決においてはこれに該当しないと判断したのであつた。解約申入当時における社会事情の外、各当事者のもつ利害関係その他の事情、両当事者間に存在する諸種の関係等は、記録上相当複雑なものがあり、したがつて本件解約の申入が前記『正当ノ事由アル場合』に該当するかどうかは、相当微妙な判断を必要とする事件であると言わねばならぬ。しかし、原判決が適法な証拠の取捨判断によつて、本件上告人の解約の申入は、昭和二〇年一〇月一六日書面でなされ、該書面は翌一七日被上告人に到達したと認定したことはもとより適法な認定であつて違法のかどは存しない。また、借家法一条の二にいわゆる「正当の事由があるかどうかは、賃貸人及び賃借人双方の利害得失を考慮する外、社会上経済上のいろいろな事情を参酌して、これを定めなければならない」と判示していることは正当な見解であつて違法のかどを認めることはできない。次に、原判決は多くの証拠を総合して、「被控訴人(上告人、以下同じ)は大阪市内で運搬業等を営んでいたが、郷里のa町に将来本宅を建築しようとして本件宅地家屋を買い受け、その一部を控訴人(被上告人以下同じ)に賃貸した。そして昭和十三年以来本宅新築のため控訴人に明渡の交渉をしたが、控訴人が移転する家がないのでそのままとなつた。被 築しようとして本件宅地家屋を買い受け、その一部を控訴人(被上告人以下同じ)に賃貸した。そして昭和十三年以来本宅新築のため控訴人に明渡の交渉をしたが、控訴人が移転する家がないのでそのままとなつた。被控訴人が所有し- 1 -たり借用していた家屋は、本件家屋を除いて全部戦時強制疎開や戦災によりなくなり、被控訴人自身再度戦災にあつたが、大阪市b区c町d丁目e番地には、その四男D、五男E、六男F、妾G各所有名義の住家四棟床面積合計二百十五坪余があり、被控訴人はその内妾G名義の一戸にF、Gとともに同居して居り、その長男一家は別に一家を構えて居る一面控訴人は農業に従事する傍、本件家屋が省線及びH双方のf駅に近いため、自転車保管を業として一家の生計を立てて居り、a町内に控訴人の親族所有の家屋はあるが、控訴人及びその家族を入れる余裕なく、現在控訴人は極力物色しても他に適当な転居先を見つけることができない状況である。しかも控訴人は戦災にかかつた被控訴人の要求により昭和二十一年三月下旬から別紙目録記載の(一)の家屋の二階十一畳、六畳の二室を明渡し、被控訴人(上告人)の妾I(戸籍上はその養女)及び被控訴人とIとの間に生れたJがこれを使用して居り、控訴人一家四名は一階(六畳、一畳半の二室と土間)に居住して居ることを認めることができる」との事実を適法に認定している。そしてさらに、原判決は「以上に認定するような当事者双方の利害得失を比較考慮し、殊に控訴人が既に被控訴人に対し二階二室全部を明け渡し、自ら一階の狭い二室に居住していることその他いろいろな事情を考えると、たとえ、被控訴人が自ら本件家屋を使用しようとするものであるとしても、右解約の申入は正当の事由があるものということができない」と判示しているのである。そこで、原判決の認定した限りのすべての事実関係を基礎 、被控訴人が自ら本件家屋を使用しようとするものであるとしても、右解約の申入は正当の事由があるものということができない」と判示しているのである。そこで、原判決の認定した限りのすべての事実関係を基礎において考えると、原判決が昭和二〇年一〇月一六日になされた本件賃貸借解約の申入は、借家法一条の二にいわゆる『正当ノ事由アル場合』に該当しない旨を判示したのは、各当事者の利害関係、その利害関係の比較考量、当事者双方の間の経緯、諸関係その他諸般の事情をも考慮斟酌してなされたものであつて、結局正当な判断でありその判断に違法のかどは存在しないものと言わなければならぬ。上告人は、上告論旨において正当の事由を論証せんとして、多くの事実を挙げているが、本件- 2 -において原判決が認定した事実は前に掲げただけに尽きるのであつて、その余の事実はたとい記録中の証拠から窺える節であるとしても、その証拠の取捨判断や事実認定は、経験則に反しない限り専ら事実審である原裁判所の裁量に委ねられている。 それ故、法律審である当審としては、原審の適法に認定した事実の外に、上告人の上告理由で主張する事実をも加味斟酌して、正当事由の有無を判断するという立場をとることは法律上許されない。この意義においてかかる原審の認定に副わない事実を前提とする主張は、適法な上告理由と認めることはできないのである。また、上告人は論旨の末尾において「被上告人は昭和十三年以来家屋明渡債務を不履行していたもので……上告人の本訴請求は正当な債権の行使である」と主張するが、本件訴は、賃貸借解約申入の期間満了を請求原因とするものであつて、昭和十三年以来の家屋明渡債務の存在を前提としてその履行を求めるものではない。したがつて、この点に関する論旨は、本件訴とは別な法律関係に基く権利の行使を主張するものであるから、採 するものであつて、昭和十三年以来の家屋明渡債務の存在を前提としてその履行を求めるものではない。したがつて、この点に関する論旨は、本件訴とは別な法律関係に基く権利の行使を主張するものであるから、採用することを得ない。論旨は、最後に違憲をいう点もあるが、前に述べたように前提を欠くものであつて、不適法として採ることを得ない。 よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。 最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官斎藤悠輔裁判官真野毅裁判官岩松三郎裁判官沢田竹治郎は退官につき署名押印することができない。 裁判長裁判官斎藤悠輔- 3 -
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