- 1 - 主文 被告人は無罪。 理由 第1 本件公訴事実の要旨及び争点並びに当裁判所の判断の骨子 1 本件公訴事実は、令和4年2月28日付け起訴状、同年3月29日付け追起訴状、同年4月26日付け追起訴状及び同年6月30日付け追起訴状に各記載のとおりであるから、これらを引用する。本件は、要するに、税理士である被告人が、メンズパブの経営者や同店で働くホストらと共謀の上、令和2年6月、ホスト4名分にかかる持続化給付金合計400万円をだまし取ったとして起訴された事案である。 本件申請時に適用される持続化給付金(以下、単に「持続化給付金」という。)の支給要件は次のとおりである。 ⅰ 申請者が令和元年(2019年)以前から事業により事業収入を得ており、今後も事業を継続する意思があることⅱ ⅰの前提として、申請者が所得税法上の事業所得に係る事業を営んでいること(本件に即していえば、申請者が個人事業者に当たること)ⅲ 令和2年(2020年)1月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等により、前年同月比で事業収入が50%以上減少した月が存在すること(白色申告者の場合は、前年の月平均の事業収入と比べて事業収入が50%以上減少した月)検察官の主張に係る本件詐欺の手口は、被告人らにおいて、真実はホストらが給与所得者であって個人事業者には該当しないのに、個人事業者であると偽り、事業所得を計上した確定申告書の控えや架空の売上減少月を記載した売上台帳を添付して持続化給付金の申請をした、というのである。 2 本件の争点は次のとおりである。 ① 本件各申請内容が虚偽といえるか - 2 -(1) 本件各申請者が「個人事業者等に該当しない」といえるか(2) 確定申告書の記載が虚偽といえるか 2 本件の争点は次のとおりである。 ① 本件各申請内容が虚偽といえるか - 2 -(1) 本件各申請者が「個人事業者等に該当しない」といえるか(2) 確定申告書の記載が虚偽といえるか(3) 売上台帳等の記載が虚偽といえるか② 被告人は本件各申請内容が虚偽であることを認識していたか③ 被告人と共犯者との間で持続化給付金の詐取に関する共謀があったか④ 被告人の責任の程度等 3 関係各証拠によれば、別表「申請名義人」欄記載の各ホストにおいて、真実は別表「実際の報酬」欄各記載の報酬を得ていたにもかかわらず、別表「申請内容」欄各記載のとおり虚偽の事項を入力して持続化給付金を申請し、それぞれ持続化給付金100万円(合計400万円)をだまし取った事実が認定できる。したがって、別表「売上減少月(令和2年)」欄及び「売上減少月の売上額(円)」欄と同じ内容を記載した売上台帳は虚偽である(争点①(3))。しかし、下記第3にて詳述するとおり、被告人は、売上台帳の記載が虚偽であることを認識していたと認めるには合理的な疑いが残る(争点②)。また、下記第4及び第5にて詳述するとおり、その他の申請内容の虚偽性を被告人が認識していたと認めるにも合理的な疑いが残る(争点①(1)、(2)、②)。したがって、その余の争点につき判断するまでもなく、本件各公訴事実について無罪の言い渡しをすべきであると判断した。 第2 本件の概要関係各証拠により認定できる本件の概要は次のとおりである。 1(1) 被告人は、本件当時、甲という税理士法人に所属していた税理士であり、名古屋オフィスで勤務していたが、月に1回、札幌オフィスに訪れて、札幌オフィスが所管する顧客の決算や確定申告に関する事務も行っていた。 (2) Aは、乙という株式会社の代表取締役である。乙で あり、名古屋オフィスで勤務していたが、月に1回、札幌オフィスに訪れて、札幌オフィスが所管する顧客の決算や確定申告に関する事務も行っていた。 (2) Aは、乙という株式会社の代表取締役である。乙では、札幌市内の繁華街であるS地区において複数のメンズパブ(ホストが客の隣に座ってお酌するなどの接客を伴う飲食を提供する店)を経営しており、丙はその一つである。 - 3 -本件申請者であるB、C、Dは、いずれも丙のホストとして接客業務に従事していた。 (3) また、A’が経営する丁も、乙傘下のメンズパブであり、本件申請者であるB’は、丁のホストとして接客業務に従事していた。 なお、丁は、同名の合同会社(代表社員はA’)が運営主体となっているが、実質は乙の子会社であり、丁の売上等は毎日乙に報告され、乙のグループ全体で使うスプレッドシートに入力する方法で売上等が管理されていた。 また、B’らからは、丁も丙と同じグループ傘下にあり、そのグループの頂点にAがいると認識されていた(以下では、法人として乙及び丁を指す場合は「乙等」といい、メンズパブとして丙及び丁を指す場合は「丙等」という。)。 (4) Xは、X事務所という合同会社の代表社員であり、税理士ではないが、顧客からの税務相談対応や税務に関する資料の回収等を行っていた。Xの顧客には、S地区の飲食店関係者や風俗店関係者が多くおり、A及びA’もXの顧客であった。 被告人は、飲食店でXと知り合ったのを機として、平成31年2月頃、甲の札幌オフィスを立ち上げた。Xは、甲から業務委託を受けて、甲の新規顧客開拓や資料回収等を行っていた。 (5) 乙等は、甲札幌オフィス設立の際に、Xから引き継がれる形で、甲と税務顧問契約を締結した。そして、持続化給付金申請の前年度に当たる平成30年7月18日から 客開拓や資料回収等を行っていた。 (5) 乙等は、甲札幌オフィス設立の際に、Xから引き継がれる形で、甲と税務顧問契約を締結した。そして、持続化給付金申請の前年度に当たる平成30年7月18日から令和元年6月30日までの期間(以下、「前期」という。)の乙等の決算や確定申告の手続は甲で行ったが、ホストに支払われた報酬は給料手当として処理されており、その旨が記載された確定申告書の関与税理士欄には被告人が署名している。 もっとも、乙等の経費伝票や給料明細等といった資料の回収は、引き続きXが担当していた。また、AにおいてもA’においても、乙等の税務は引き - 4 -続きXに一任していた。そして、本件申請に至る前から、XとA及びA’との間では、ホストを外注(個人事業者)として扱う方向での話が出ていたが、その後話が進展せずにいた。 2 持続化給付金の制度は令和2年5月9日(以下、月のみ及び月日のみの記載は令和2年を指す。)から始まったものであるが、被告人は、5月頃、Xに対し、甲の事業として次のような仕組み(以下、「本件スキーム」という。)を提案した。 ○ 個人事業者として確定申告をしていないホステスらに対し、その収入を個人事業者の事業所得として確定申告する方法を指南する(これによって、持続化給付金の支給要件ⅱを満たす)○ 併せて、ホステスらに対し、持続化給付金の申請方法を指導する(なお、当初は、被告人らにおいては確定申告の指南のみを行い、持続化給付金の申請はホステスら各自で行ってもらう予定であったが、Xの元に申請方法が分からないとの問合せが多く寄せられたので、後述のマニュアルを作成して交付することになった)○ これらの対価として、一人当たり15万円の手数料を徴収する本件スキームには、被告人及びXのほか、甲従業員のYらも参 が多く寄せられたので、後述のマニュアルを作成して交付することになった)○ これらの対価として、一人当たり15万円の手数料を徴収する本件スキームには、被告人及びXのほか、甲従業員のYらも参加することとなり、まずはS地区等で、6月1日から5日までの間に上記指南等を実行することになった。 被告人は、Xが知り合いのホステスらに送るための案内文の文案や、持続化給付金を申請する際の注意事項等を記載したマニュアル(以下、「本件マニュアル」という。)を作成した。なお、本件スキームでは、申請者らに対し、個人事業者であることや売上等について偽らない旨の誓約書を提出させることになっていた。 3 Xは、5月、Aから持続化給付金に関して次のような相談を受けた。 ○ 丙等では、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言中の4月は休業してい - 5 -たため、ホストらに支払った報酬が半分以下になった〇 乙は法人として持続化給付金を申請済みである○ 当期から乙のホストらを個人事業者として処理するとともに、ホストらに個人事業者として確定申告させれば、ホストらも持続化給付金の給付対象になるのか教えてもらいたい実際には丙等は4月も営業を継続していたが、Xは、Aの上記相談を聞いて、丙等が4月は休業していたものと信じるとともに、従前からホストらを個人事業者として扱う話が出ていたこともあって、ホストらを個人事業者として扱うことは可能であると考えた。 そこで、Xは、5月26日、乙の事務所に赴き、ホストらに対して個人事業者に関する説明をしようとしたが、集まったホストらが酔っ払うなどして話を聞ける状態になく、また、Aも必要な資料を持参していなかったため、説明をやめて上記事務所を退出した。 その後、XのもとにAから謝罪の連絡があり、もう一度手続を ったホストらが酔っ払うなどして話を聞ける状態になく、また、Aも必要な資料を持参していなかったため、説明をやめて上記事務所を退出した。 その後、XのもとにAから謝罪の連絡があり、もう一度手続をしてほしいと依頼された。そこで、Xは、被告人と連絡を取り、被告人に対して、丙等を含む乙傘下の店では緊急事態宣言中は休業しており、ホストの売上が半分以下になったので、丙等のホストらも本件スキームに入れられないか相談した。被告人も、当時のS地区の閑散とした状況に照らすと休業は当然のことと考え、丙等のホストらも本件スキームに入れることを承諾した。 4(1) 本件スキームに基づく丙等のホストらに対する確定申告の指南は、6月3日に丙の店舗内で行われた(以下、この確定申告の指南を行う集まりを「本件説明会」といい、本件説明会の会場としての丙を「本件店舗」という。)。 本件説明会に集まったのは、乙等側の人間として、Aのほか、本件申請者であるB、C、D及びB’(以下、この4人を「Bら」という。)を含むホスト約15名、指南する側の人間として、被告人及びXのほか、甲の従業員であるY及びZの4名であった。 - 6 -本件説明会では、被告人らが手分けして各ホストらに確定申告書の作成方法を指南した。このうち経費については、被告人らが各ホストから家賃や交通費等を聞き取り、その額をもとに算出した数値を各ホストに伝え、各ホストにおいて伝えられた数値を収支内訳書の所定の科目に記入して、確定申告書を作成していった。 (2) 当初、Xらは、丙等のホストらの持続化給付金申請を指導する予定ではなかったが、本件説明会の最中、AからXに対し、翌日である6月4日に再度ホストらを集めるので持続化給付金の申請も指導してもらいたいとの依頼があった。Xは、元々6月4日は被告人らとともに する予定ではなかったが、本件説明会の最中、AからXに対し、翌日である6月4日に再度ホストらを集めるので持続化給付金の申請も指導してもらいたいとの依頼があった。Xは、元々6月4日は被告人らとともに別の案件の説明会を行う予定であったが、Aの依頼に応じ、丙等のホストらの持続化給付金申請を指導することにした。 6月4日、丙等のホストらが再び本件店舗に集まり、X及びWの指導を受けながら、ホストらがスマホを操作して持続化給付金の申請手続を行った(なお、被告人は上記別の案件の説明会に入っており、本件店舗には参集していない。)。Bらは、申請に当たり、別表「申請内容」欄各記載のとおり、4月の売上が前年同月比で50%以上減少した旨の虚偽の数値等を入力したが、これらの数値等はXらから指示されたものであった。Bらは、このような虚偽の売上減少月がある旨を記入した売上台帳及び税務署の受付印のある確定申告書の控えを添付し、上記入力した事項を送信して、持続化給付金を申請した。 (3) これらの申請を受けて、別表「振込入金日(令和2年)」欄記載の日に、持続化給付金としてBらに各100万円が入金された。ホストらが受領した持続化給付金はいったんAが集め、Xに対する手数料等が支払われた後、ホストらに還元された。Xは、Aから受領した手数料の一部を甲に振り込んだほか、被告人に対して約70万円を渡した。 第3 売上台帳の記載が虚偽であることを被告人が認識していたとは認められない - 7 -こと 1 Bらの4月の売上が前年同月比で50%以上減少したことは虚偽であり、これと同じ内容の売上台帳の記載も虚偽であるところ、Dは、当公判廷において、「自分の売上台帳は、6月3日に被告人に言われて記載したものである」旨供述する。仮にこのDの供述が信用できるのであれば、売上台帳の 同じ内容の売上台帳の記載も虚偽であるところ、Dは、当公判廷において、「自分の売上台帳は、6月3日に被告人に言われて記載したものである」旨供述する。仮にこのDの供述が信用できるのであれば、売上台帳の記載はでたらめの数値を書いたものなので、これを教えた被告人は売上台帳の虚偽性を認識していたと認めることができる。しかし、Dの供述は次に述べる理由により信用できない。 (1) Xは、「ホストらに売上台帳を作成させたのが6月3日か4日かは覚えていない」旨供述しており、ホストであるC及びB’も、「自身の売上台帳を作成したのが6月3日か4日かは覚えていない」旨供述している。そうすると、丙等のホストらに対する売上台帳の作成指導は、被告人不在の6月4日に行われた可能性がある。 (2) Zは、「6月3日にホストらに売上台帳を作成させた記憶はなく、そもそも売上台帳のひな型が所収された本件マニュアルを6月3日に渡した記憶もない」旨供述しており、この供述を排斥する事情は認められない。このZの供述によれば、6月3日に売上台帳を作成するのは不可能なので、上記Dの供述はZの供述とも整合しない。 (3) Dは、確定申告書及び収支内訳書の作成状況につき、当公判廷において、「6月3日は確定申告書の作成を始めた当初から横に被告人がいて、ずっと手を挙げて被告人を呼び、作成方法を教えてもらったのであって、メモなどは作った覚えがない」旨供述する。しかし、Dは、11月に作成された警察官に対する供述調書においては、「収入・経費などは、ある程度は自分のメモを見ながら書いたが、計算が苦手なので、税理士に計算してもらいながら書いた」旨述べていたのであって、供述を変遷させた理由も全く説明されていない。したがって、Dは、理由は判然としないものの、捜査等を経て、本 - 8 -件説明会に で、税理士に計算してもらいながら書いた」旨述べていたのであって、供述を変遷させた理由も全く説明されていない。したがって、Dは、理由は判然としないものの、捜査等を経て、本 - 8 -件説明会に関する認識・記憶を被告人の関与がより強くなる方向に変容させた疑いがある。 (4) Dは、6月3日に売上台帳を作成したと記憶する理由として、「紙系は全部6月3日にやっている(作成した)からである」旨供述する。しかし、上記Zの供述によれば、6月3日は売上台帳のひな型すらDらには渡されていないのであるから、書類はすべて6月3日に作成したという理由自体が不合理である。また、そもそも指南する側であるXらは、当初、丙等のホストらに対しては確定申告の指南をするのみで、持続化給付金の申請に関する指導は予定していなかったのであるから、確定申告の指南をする6月3日に持続化給付金の申請に関する売上台帳の作成まで行ったとも考えにくく、また、そのための準備をしていたとも考えにくい。この点からも、売上台帳を含む書類はすべて6月3日に作成したというのは不合理といわざるを得ない。 なお、Bも、当公判廷において、「6月4日はスマホの申請しかしていないと思うので、書き物をしたのは6月3日であり、売上台帳も6月3日に作成したと思う」旨供述する。しかし、Bも、当初、警察官や検察官に対しては、「売上台帳を作成したのが6月3日か4日かよく分からない」旨供述していたところ、その後考え直して上記のとおり供述するに至ったというのであるから、供述が変遷しているところ、その理由として挙げる「書類全部を作成したのが6月3日である」とする点が上記のとおり不合理であることに照らすと、何故供述を変遷させたのか不明といわざるを得ない。したがって、上記Bの当公判廷における供述と整合するからといって、 部を作成したのが6月3日である」とする点が上記のとおり不合理であることに照らすと、何故供述を変遷させたのか不明といわざるを得ない。したがって、上記Bの当公判廷における供述と整合するからといって、上記Dの供述を信用することもできない。 (5) このほか、Dは、6月3日の時点では、被告人を見るのが初めてであった可能性があることから、当時マスクを着用していた被告人を本当に識別できたかも疑問なしとしない。 2 以上から、上記Dの供述は、本当に認識・記憶しているところを述べたもの - 9 -か疑問があるため信用できず、6月3日に行われた本件説明会で被告人がDに虚偽の売上台帳を記載するよう指導したとは認められない。 翻って本件説明会に至る経緯を見ても、そもそも被告人は、Xを介して、丙等が4月に休業したためホストらにも持続化給付金を申請させたいとのAの意向を聞き、両店が4月に休業していたと信じたものである。そして、当時の状況等に照らすと、そのように信じたこと自体不合理ではない。このように、被告人においては、Bらの4月の売上が前年同月比で50%以上減少したと信じたとしても無理からぬ事情も認められる。 したがって、被告人において、売上台帳の記載が虚偽であることを認識していたと認めるには合理的な疑いが残る。 第4 その他の申請内容の虚偽性に対する被告人の認識 1 検察官は、Bらは給与所得者であって個人事業者には該当しないので、個人事業者として本件給付金を申請したことは虚偽である上(争点①(1))、確定申告書に事業所得や経費を計上している点も虚偽であって(争点①(2))、被告人はこれらのことを認識していた(争点②)と主張するので、以下検討する。 2 Bらの個人事業者該当性を偽ったことに関する被告人の認識について(1) まず検察官は、 偽であって(争点①(2))、被告人はこれらのことを認識していた(争点②)と主張するので、以下検討する。 2 Bらの個人事業者該当性を偽ったことに関する被告人の認識について(1) まず検察官は、Bらが給与所得者であって個人事業者に該当しない根拠として、Bらが丙等に所属し、固定給が支払われたり店全体の売上に応じた報酬が支払われたりしていたこと、遅刻や早退した場合に罰金を徴収されるなど時間的拘束性があったこと、経営者であるAやA’の指揮命令下にあったこと、客の代金が回収不能になった場合の負担はホスト個人ではなく店が負担していたこと、前期の決算報告書ではBらに対する報酬の支払いを給料手当として計上していたことなどを挙げる。 (2) この点、たしかに検察官の主張する事実は証拠上認定できるが、他方で、丙等においては、営業活動のための遅刻や中抜けは許容されていたのであるから、時間的拘束性はそれほど強くはなく、AやA’の指揮命令に服してい - 10 -た程度は低いと見ることもできる。また、客となるホステスへの誕生日祝い等といった営業活動にかかる費用は、Bらホストの自己負担であったことからすると、Bらは自己の計算において稼働していたと見ることもできる。 そして、丙を含む乙においては、昼の事務に従事するEやFは社会保険に加入するなどして給与所得者として扱われていたのに対し、B、C及びDをはじめとするホストらについては、社会保険に加入しなかったのであるから、ホストらは自己の計算と危険において報酬を得る個人事業者として扱われていたと見ることもできる。 また、丁においては、本件より前にも、B’の方からA’に対して自身を外注(個人事業者)扱いにしてほしいと申し出たことがあり、A’もこれに応じてB’を外注(個人事業者)扱いとし、B’に支払う報 また、丁においては、本件より前にも、B’の方からA’に対して自身を外注(個人事業者)扱いにしてほしいと申し出たことがあり、A’もこれに応じてB’を外注(個人事業者)扱いとし、B’に支払う報酬から所得税相当額を控除しなかった時期があった。また、本件後もB’は丁で稼働しているが、支払われた報酬は事業所得として確定申告している。これらの事情からすると、B’の稼働実態もまた個人事業者に当たると見ることができる。 (3) このように、Bらはいずれも個人事業者に当たると見る余地があるところ、そもそも名古屋オフィスを本拠とする顧問税理士の被告人が、丙等におけるBらの稼働実態の詳細まで把握していたとは考えにくい。そうすると、被告人の供述、すなわち、ホストは外注(個人事業者)に当たると認識しており、丙に飲みに行った時に見た同店のホストらの働き方からしても個人事業者に当たるので、実態に合わせて給与から外注に科目を切り替えることは問題ないと認識していたとの供述には一応の合理性があり、無下に排斥することはできない。 (4) なお、検察官は、前期の決算報告書ではBらに対する報酬が給料手当として計上されていたことを指摘して、Bらが給与所得者であったことの根拠の一つとするとともに、その旨の確定申告書に署名したのが被告人であることから、被告人は乙等の従業員に給料手当が支給されていたことを認識してい - 11 -たと推認される旨主張する。 しかし、被告人、X、Aいずれにおいても、前期にホストらを給与所得者として扱ったことを前提として、今回の持続化給付金申請を機に、当期からはホストらを個人事業者として扱うことに切り替えようとしていたのである。 したがって、前期にBらを給与所得者として扱ったからといって、必ずしも当期もBらが給与所得者に当たると認識し 請を機に、当期からはホストらを個人事業者として扱うことに切り替えようとしていたのである。 したがって、前期にBらを給与所得者として扱ったからといって、必ずしも当期もBらが給与所得者に当たると認識していたとはいえない。そして、前述のとおり、稼働実態に合わせて給与から外注に切り替えることは問題はないとする被告人の考えにも一応の合理性が認められることからすると、被告人においては、Bらの稼働実態が個人事業者に該当すると認識していたと見る余地は十分にある。したがって、前期にBらを給与所得者として扱ったからといって、被告人において、当期もBらが給与所得者に当たると認識していたと推認することはできない。 (5) 以上より、被告人において、Bらを個人事業者として申請したのが虚偽であることを認識していたと認めるには、合理的な疑いが残る。 3 確定申告書の記載の虚偽性に関する被告人の認識について(1) 次に、検察官は、本件給付金申請の際に添付された確定申告書についても、事業所得や経費を計上している点で虚偽である上、所得算定の基となる収支内訳書の作成に当たっては、何らの証憑に基づかず、家事按分も考慮せず、当該経費が事業に必要なものであったかの確認もせずに経費を計上していることから、確定申告書の内容は虚偽であると主張する。 そして、このような収支内訳書の作成方法は被告人らが指南したものなので、被告人においては、Bらの稼働実態や支給要件該当性を意に介しておらず、ひいてはBらが持続化給付金の支給要件を満たしていないことを認識していたことが推認される旨主張する。 (2) しかし、前述のとおり、Bらはいずれも個人事業者に当たると見る余地があり、被告人がBらを個人事業者であると認識していた可能性が排斥できな - 12 -いのであるから、Bらに個人事業 (2) しかし、前述のとおり、Bらはいずれも個人事業者に当たると見る余地があり、被告人がBらを個人事業者であると認識していた可能性が排斥できな - 12 -いのであるから、Bらに個人事業者として事業所得や経費を計上するよう指導した点が、直ちに虚偽性の認識を推認させるものではない。 そもそも白色申告においては、領収書等を保存していない事業者について、経費を口頭で聞き取って計上すること自体が不当な税務処理とは言えないのであって、経費に該当するか否かの判断にはもともと一定の幅が認められ得る。本件においては、被告人らがBらの一応の回答内容に基づいて経費を計上している以上、被告人が明らかに虚偽と認識しながら確定申告書の作成を指南したと認めるには疑問が残る。 また、検察官は、被告人らがホストらの稼働実態や支給要件該当性を意に介していなかった旨主張するが、Aは、本件説明会を開催するに先立ち、Xからの指示を受けて、乙内で給与所得者として扱われていたEやFを除外して、ホストらに集合を呼び掛けている。また、本件説明会においては、戊というメンズパブで稼働していたGについて、戊の売上を計上する手間の大きさを考慮してGの持続化給付金の申請を止めている。このように、被告人らは、持続化給付金の支給要件を満たせない者は申請から除いていたのであって、検察官が主張するように、稼働実態や支給要件該当性を意に介していなかったとは認められない。 (3) 以上より、被告人において、確定申告書の記載内容が虚偽であることを認識していたと認めるのにも、合理的な疑いが残る。 第5 本件スキームを通じた被告人の認識 1 検察官は、被告人が発案した本件スキームの内容等を踏まえれば、単にホストやホステスというだけで持続化給付金が受給できるなどと広く宣伝して集客すれば 。 第5 本件スキームを通じた被告人の認識 1 検察官は、被告人が発案した本件スキームの内容等を踏まえれば、単にホストやホステスというだけで持続化給付金が受給できるなどと広く宣伝して集客すれば、持続化給付金の支給要件を満たさない申請希望者が出現することは十分予想できるのであって、にもかかわらず、被告人が作成した本件マニュアルには、持続化給付金が100万円支払われることを当然の前提とした記載があることや、被告人が500人もの多数の申請予定者を1週間で捌ききることを - 13 -目標とした発言をしたことなどから、被告人においては、申請予定者が持続化給付金の支給要件を満たすかどうかを意に介しておらず、少なくとも、詐欺の未必の故意が認められる旨主張する。 2 しかし、上述のとおり、被告人らは、持続化給付金の支給要件を満たさないE及びFを本件説明会から除外しているし、Gについても申請を止めさせている。また、被告人らは、本件スキームに沿って行われた別の説明会において、源泉徴収票を持っていた運転手に対しては、給与所得者に当たるため確定申告の指導をしておらず、当該運転手が不服を述べたのに対しては、被告人自らが説得に当たっている。さらに、本件スキームを始めるに当たり、被告人とXとの間では、ソープランドで働く女性が不支給要件に該当するか否かを調査し、当初はこのような者は不支給要件に該当するので本件スキームには入れられない旨認識を共有していた。以上の事情に照らすと、本件スキームが持続化給付金の支給要件を満たすかどうかを意に介しないものであったとは認められない。 また、被告人が作成した本件マニュアルに持続化給付金が100万円支払われることを当然の前提とした記載がある点についても、持続化給付金の給付額の算定根拠に照らすと、ほとんどの申請予定者が ない。 また、被告人が作成した本件マニュアルに持続化給付金が100万円支払われることを当然の前提とした記載がある点についても、持続化給付金の給付額の算定根拠に照らすと、ほとんどの申請予定者が100万円を受給できると考えたとしても不合理ではない。また、同じ時期に被告人が作成した案内文の文案には、「最大100万円の給付金が受けられる可能性があります」と記載されていることからすると、本件マニュアルの記載から、被告人において、申請予定者が持続化給付金の支給要件を満たすかどうかを意に介していなかったとは評価できない。 このほか、被告人が1週間で500人を捌ききる旨発言した点についても、本件スキームが確定申告書の作成指南を通じて手数料を得るというスキームであることからすると、短い期間に多くの人数を捌こうとすることは当然であって、申請者の中に支給要件を満たさない者が含まれていても構わないという意思を推認させるものではない。 - 14 -以上より、本件スキームの内容等を踏まえても、被告人に詐欺の確定的な認識があったとも未必的な認識があったとも認められない。 3 このほか検察官は、Xの当公判廷における供述からも、被告人においてBらが持続化給付金の支給要件を満たすか否かを意に介していなかったことが強く推認される旨主張する。しかし、Xの当公判廷における供述のうち、これまで認定した事実を述べるもの以外は、個人的な感想や不安等を述べるにすぎず、当裁判所の認定を左右するものではないので、検察官の主張は採用できない。 第6 結論以上によれば、本件各申請内容のうち虚偽であると確実に認定できるのは売上台帳の記載に係る部分であるが、この部分につき被告人が虚偽であることを認識していたと認めるには合理的な疑いが残る。 また、Bらが個人 ば、本件各申請内容のうち虚偽であると確実に認定できるのは売上台帳の記載に係る部分であるが、この部分につき被告人が虚偽であることを認識していたと認めるには合理的な疑いが残る。 また、Bらが個人事業者に該当しないことや確定申告書の記載内容については、少なくとも被告人の認識を前提とすると、明らかに虚偽であるとは認められず、被告人において内容虚偽の申請をすることを認識していたと認めるには合理的な疑いが残る。もとより、本件各申請は本件スキームの一環としてなされたものであるものの、本件スキームを通じて、被告人に詐欺の確定的な認識があったとも未必的な認識があったとも認められない。 以上より、その余の争点を検討するまでもなく、被告人に詐欺の故意は認められず、本件各公訴事実については犯罪の証明がないから、刑訴法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする。 令和5年4月21日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一 裁判官滝嶌秀輝 - 15 - 裁判官宇野遥子は、転補につき、署名押印することができない。 裁判長裁判官井戸俊一
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