令和7年9月4日判決言渡 令和7年(行ケ)第10024号審決取消請求事件 口頭弁論終結日令和7年7月10日判決 原告 X 同訴訟代理人弁理士 吉田正義 山崎薫 被告 特許庁長官 同指定代理人 真鍋伸行 旦克昌 根まり子 阿曾裕樹 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が不服2024-2424号事件について令和7年2月6日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経過等(当事者間に争いがないか、又は当裁判所に顕著である。) (1) 原告は、令和5年1月17日、別紙「本願商標」記載の構成からなり、指定役務を第35類「宝飾品の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とする動き商標(以下「本願商標」という。)について商標登録出願をした。 (2) 原告は、令和5年11月14日付けで拒絶査定を受けたため、令和6年2月13日、拒絶査定不服審判を請求した。特許庁は、上記請求を不服2024-2424号事件として審理を行い、令和7年2月6日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同月25日原告に送達された。 (3) 原告は、令和7年3月26日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨 本願商標は、円形状の宝石(ダイヤモンド石)を は同月25日原告に送達された。 (3) 原告は、令和7年3月26日、本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 本件審決の理由の要旨 本願商標は、円形状の宝石(ダイヤモンド石)を表した標章について、その宝石の色彩が無色から青色に変化したように見える様子を3秒間で表した動き商標と認められる。これをその指定役務に使用した場合に、これに接する需要者は、単にその役務に係る取扱商品が、円形状の宝石であり、同宝石の色彩が、光を当てることにより無色から青色に変化して見えるという特徴を有すること や、同特徴を有する宝石を使用した宝飾品であること、すなわち、提供する役務に係る取扱商品の品質、特徴、特性や優位性を表し、当該役務に関心を持たせるための宣伝広告を表示したものと理解するにとどまる。その他、本願商標の構成中に、自他役務の識別標識と認識し得る構成要素を有さないことから、本願商標は、特定人によるその独占使用を認めるのを公益上適当としないもの であるとともに、一般的に使用されるものであって、役務の出所を識別する標識として認識させるものとはいえない。 したがって、本願商標は、その指定役務との関係では、需要者が何人かの業務に係る役務であるかを認識することができない商標というのが相当であり、商標法3条1項6号に該当する。 3 原告主張の取消事由 商標法3条1項6号該当性判断の誤り第3 取消事由に関する当事者の主張 1 原告の主張(1) 本件審決における「広く一般に紹介され」の認定の誤りについて「一般に慣れ親しまれて」いない、あるいは「一般に使用されて」いな い商標は、自他役務の識別力を有すると判断されるべきである。そして、本願商標の指定役務にある「宝飾品の小売の業務において」は、需要者は一般 親しまれて」いない、あるいは「一般に使用されて」いな い商標は、自他役務の識別力を有すると判断されるべきである。そして、本願商標の指定役務にある「宝飾品の小売の業務において」は、需要者は一般消費者であり、「クリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷するダイヤモンド石」は一般消費者には慣れ親しまれていないから、自他役務の識別力を発揮するはずである。 本件審決は、宝飾品の業界において、光を当てることにより無色から青色に色彩が変化して見えるという特徴を有する宝石(ダイヤモンド石)も、広く一般的に紹介されている実情がうかがえるとし、その根拠をウェブサイトの画像等に求めるが、日本語で書かれたウェブサイトは1億2000万ページと推測されており(甲8、1999年時点)、1頁のウェブサイトが 見られる確率は0.0000008%(1億2000万分の1)にすぎない。 ジュエリーがウェブサイトに掲載されたからといって、これが「見られた」とはいえない。 実際、原告はジュエリーの購入に当たってどの程度ウェブサイトが利用されるかを調査したが(甲9の1~4)、「ネットショップでジュエリーを 購入した経験」は5.8%にすぎず、ネットショップで現物も見ずに高額のジュエリーを購入する一般消費者は少ない。原告は、実店舗で「ダイヤモンド石の蛍光の提示」の有無も調査したところ、「宝飾品小売等役務を提供する場面でダイヤモンド石の蛍光を提示された経験」を有する女性は1000人中43人にすぎなかった。蛍光そのものすら提示されていないのだから、 「クリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷するダ イヤモンド石」は実店舗で提示されていないと考えるべきであり、このようなダイヤモンド石は、明らかに「一般に慣れ親し 「クリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷するダ イヤモンド石」は実店舗で提示されていないと考えるべきであり、このようなダイヤモンド石は、明らかに「一般に慣れ親しまれて」いないし「一般的に使用され」てもいない。 (2) 本件審決における「瞬時であるか、徐々に変遷するか」の判断の誤りについて 原告は、「クリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷するダイヤモンド石」を演出する宝飾箱に関して特許第6450881号(甲14)を所有する特許権者である。この宝飾箱では、上蓋の開放に応じてダイヤモンド石がユーザーの視界に入ると、ダイヤモンド石に照射される紫外線が徐々に強まるようになっており、「徐々に変遷する」輝きを見せることが できる。逆に、一般に市販されるブラックライトでは単純なオンオフスイッチが利用されることから、「徐々に変遷する」は実現されない。このように、「徐々に変遷する」の実現に当たっては、特定の電子回路が必要であり、原告しかこれを実現できていないから、原告以外の者による「クリアな輝きから徐々にベリーストロングの青色蛍光の輝きに変遷するダイヤモンド石」の使用 を確保すべき公益上の要請も存在しない。 2 被告の主張(1) 「広く一般に紹介され」の認定の誤りに関する原告の主張について一般に広くアクセス可能なウェブサイトや動画などの内容を参酌すれば、ダイヤモンド石には蛍光性(青色蛍光を含む。)を持つものがあることが知 られている。その特性は鑑定書にも記載され、蛍光性の強いダイヤモンドを選ぶ人がいるなど、その蛍光性の有無、強弱は、商品の特性として顧客の商品選択の要素、関心事項の一つとなっている。そのような宝石の特徴や魅力を紹介するに当たり、光を照射して宝石の の強いダイヤモンドを選ぶ人がいるなど、その蛍光性の有無、強弱は、商品の特性として顧客の商品選択の要素、関心事項の一つとなっている。そのような宝石の特徴や魅力を紹介するに当たり、光を照射して宝石の色彩や輝きが変化する様子を動画を用いて示すことは、広く採択、採用されている一般的な演出手法にすぎな い。そうすると、本願商標は、その指定役務に使用しても、その取引者、需 要者をして、提供する役務に係る取扱商品の品質、特徴、特性や優位性などを表し、当該役務に関心を持たせるための宣伝広告を表示したものと理解するにとどまるものであって、自他役務の識別標識と認識し得る構成要素を有さない。 (2) 「瞬時であるか、徐々に変遷するか」の判断の誤りに関する原告の主張 について宝石の色彩が変化する様子の動きの速度が、瞬時であるか、徐々に変遷するかの違いは、見せる側が光の当て方などを人為的にコントロールする範ちゅうのものにすぎず、ダイヤモンドの特徴や魅力などを紹介する際に広く一般的に採択、採用されている演出手法のうちのバリエーションの違いにす ぎない。その色彩の変化の動きの速度の違いが、自他役務の出所識別標識たり得る特徴として機能するとは到底考えられない。 第4 当裁判所の判断 1 本願商標の商標法3条1項6号該当性(1) 本願商標は、円形状の多面体にカットされた宝石(ダイヤモンド石)の 色彩が無色でクリアな輝きから、青色蛍光の輝きに変化した様子(背景色も青色に変化している。)を表した動き商標である。 (2) そして、宝飾品に係る取引の実情(甲13、乙5~42)によれば、以下の事実が認められる。 ア宝飾品業界における宝石には、「カット」と呼ばれる、宝石を原石から 切り出し、宝石の輝きや魅力を引き出すためのカ に係る取引の実情(甲13、乙5~42)によれば、以下の事実が認められる。 ア宝飾品業界における宝石には、「カット」と呼ばれる、宝石を原石から 切り出し、宝石の輝きや魅力を引き出すためのカッティング方法による加工が通常施されており、「ラウンドカット」と称する、宝石を円形にカットする手法もある。そして、ダイヤモンドが取り込んだ光を内部で美しく反射させるために設計されたカット技術である「ブリリアントカット」の一種として、「ラウンドブリリアントカット」(ダイヤモン ドの中央部分を円形にカットし、そこから放射状に57個から58個の カット面で構成されたもの)のように、円形状の多面体にカットする手法が広く採択されている(以上、乙4、5)。 イダイヤモンドは、その屈折率の高さから、キラキラとした美しい輝きを特徴とし、宝飾品を取り扱う分野において、美しく輝くダイヤモンドの画像や動画を用いる演出が一般的に採択、採用されている(乙6~21、 23、25~42)。 ウダイヤモンドには、無色透明なもののほか、青・黄・紅・緑・褐・黒色など様々な色彩のものがある。中には、紫外線やX線などを当てると、様々な色と強さの蛍光を帯びる蛍光性を有するものがあり、そのような蛍光性を帯びているダイヤモンドは、全体の3割前後といわれており、 そのうち90%以上は青(Blue)の色調を示す。この蛍光性の強弱は、None(無)、Faint/Slight(弱)、Medium(中)、Strong(強)、VeryStrong(とても強い)の5つの項目に分類され、鑑定書にも記載される。また、蛍光性の強いダイヤモンドを選ぶ人、蛍光ダイヤモンドを好んで選ぶ人がいるなど、その蛍光性の有無、強弱は、商品の特性とし て顧客の商品選択の要素、関心事項 分類され、鑑定書にも記載される。また、蛍光性の強いダイヤモンドを選ぶ人、蛍光ダイヤモンドを好んで選ぶ人がいるなど、その蛍光性の有無、強弱は、商品の特性とし て顧客の商品選択の要素、関心事項となっている。 そして、蛍光性を帯びているダイヤモンドなどの宝石の特徴や魅力を紹介する際も、光を照射して宝石の色彩や輝きが変化する様子を動画を用いて示すことは、広く一般的に採択、採用されている演出手法である。 また、上記の変化の様子を、画像を用いて示すことも、広く一般に採択、 採用されている手法である。こうした動画や画像は、多数のウェブサイトで紹介されている(以上、甲13、乙11、15、25~42)。 (3) 以上によると、本願商標に係るダイヤモンド石の形状(円形状の多面体のカットであり、「ラウンドブリリアンカット」にも近似した、「ラウンドカット」と称されるカット手法で加工された形状)や、「輝く」ないし「ク リアな輝き」という特徴、青色蛍光の色彩及び色彩が変化した様子は、蛍光 性など色彩や輝きが変化する特性を持つダイヤモンドの特徴として広く知られたものであり、当該色彩の変化を示すことは、その魅力を紹介する動画、画像において広く採択、採用されている一般的な演出手法であるといえる。 そうすると、本願商標は、これをその指定役務に使用しても、その取引者、需要者をして、提供する役務に係る取扱商品の品質、特徴、特性や優位性な どを表し、当該役務に関心を持たせるための宣伝広告を表示したものと理解するにとどまるものであって、自他役務の識別標識と認識し得るとは認められない。 よって、本願商標は、自他役務の識別力を欠くため、何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であり、商標法3条1項6 号に該当する。 別標識と認識し得るとは認められない。 よって、本願商標は、自他役務の識別力を欠くため、何人かの業務に係る役務であることを認識することができない商標であり、商標法3条1項6 号に該当する。 2 原告の主張について(1) 「広く一般に紹介され」の認定の誤りに関する主張について原告は、日本語ウェブサイトの総数の多さを指摘し、ウェブサイトに掲載されたからといって「見られた」とはいえず、ダイヤモンド石の青色蛍光 が「一般に慣れ親しまれた」などとはいえないと主張する。 しかし、ウェブサイトの総数と特定のサイトの閲覧回数は、直接には関連しないものである。原告の上記主張は、ウェブサイトの総数を前提に単なる抽象的な確率を指摘するにすぎず、失当である。そして、前記1(2)ウで認定したウェブサイトの多さからいって、青色蛍光性のダイヤモンドは広く一 般に紹介されていると認めるのが相当である。 また、原告は、自身が行った調査結果を挙げて、インターネット上で高額のジュエリーを購入する一般消費者が少ないことや、実店舗で「宝飾品小売等役務を提供する場面でダイヤモンド石の蛍光を提示された経験」を有する女性が少ないことも指摘するが、これらの点を踏まえても、前記証拠に係る ウェブサイトにおいて、ダイヤモンドやその青色蛍光の色彩が頻繁に紹介さ れている事実は何ら否定されない。 (2) 「瞬時であるか、徐々に変遷するか」の判断の誤りに関する主張について原告は、自身が特許を有する宝飾箱によってしか、「徐々に変遷する」ベリーストロングの青色蛍光の輝きは実現されないなどとし、本願商標を原告 以外の者に使用させる公益上の要請はないなどとも主張する。 しかし、宝石の色彩が変化する様子の動きの速度は、見せる側が人為的にコン ロングの青色蛍光の輝きは実現されないなどとし、本願商標を原告 以外の者に使用させる公益上の要請はないなどとも主張する。 しかし、宝石の色彩が変化する様子の動きの速度は、見せる側が人為的にコントロールすることができるものであり、これ自体によって自他役務の識別力が生じるものではない。そして、本件において、原告のみが上記色彩の変化を生じさせることができることを認めるに足りる証拠もない。 よって、自他役務の識別力を欠く本願商標を原告に独占使用させることは、公益上適当でないといえ、原告の主張はやはり採用することができない。 3 結論以上のとおり、本件審決につき、原告主張の取消事由は認められず、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 増田稔 裁判官 岩井直幸 裁判官 安岡美香子 (別紙)本願商標(色彩は、商標登録出願の願書原本を参照。) 本を参照。
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