主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中180日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (犯罪事実)被告人は、令和5年12月17日午前5時20分頃、山口県山陽小野田市ab丁目c番d号所在の被告人方において、妻であるA(当時73歳)に対し、殺意をもって、仰向けに寝ていた同人に馬乗りになってその頸部を両手で絞め付けるなどしたが、同人に全治約1か月間を要するてんかん重積の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 (証拠)省略(事実認定の補足説明) 1 証拠によれば、被告人が、判示のとおり、殺意をもって両手で被害者の頸部を絞め付け、全治約1か月間の傷害を負わせた事実が容易に認められる。その上で、弁護人は、本件当時、被害者は殺害されることに同意しており、仮に同意していなかったとしても、被告人は被害者が同意していると誤信していたから、被告人には殺人未遂罪ではなく、同意殺人未遂罪が成立するにとどまると主張するので、裁判所の認定を補足して説明する。 2 被告人は、当公判廷において、被害者の頸部を絞め付ける前に、被害者としばらく昔の話をし、その後、被害者に対して死にたいかねなどと尋ねたところ、被害者がうなずいた旨供述する。この点、関係証拠によれば、本件犯行当日まで、被害者が周囲に死にたいなどと述べたことはなかったものと認められるし、その他、被害者が死んでもよいとまで思うような事情を直接うかがわせるものは見当たらないものの、被害者は、長年統合失調症の治療を受けてきたことに加え、本件の6日前からインフルエンザに罹患し、被告人の介助がなけれ 者が死んでもよいとまで思うような事情を直接うかがわせるものは見当たらないものの、被害者は、長年統合失調症の治療を受けてきたことに加え、本件の6日前からインフルエンザに罹患し、被告人の介助がなければ一人で起き上がれない状態が続いていたことからすると、被告人から死にたいかねと問われた被害者が衝動的にうなずいた可能性があり得ないとまではいえない。 しかしながら、被告人は、当公判廷において、被害者の頸部を両手で絞め付けようとした際、被害者は死にたくないと言い、抵抗することもあったと供述する。被害者が死にたくないと述べたことに関しては、弁護人も争っておらず、被告人が、この点に関して敢えて虚偽を述べる理由はない。また、弁護人は、被害者から抵抗されたとの被告人の供述は曖昧なものであると主張するが、被告人は、当公判廷において、被害者の抵抗の有無に関して何度か聞かれた際、それを一度も否定することはなく、少し抵抗されたとか、ふりほどこうとする行為があったかもしれないなどと述べている。そうすると、被害者が死にたくないと言ったことに加え、多少の抵抗をしたとの限度では、被告人の前記供述は十分に信用することができるというべきである。 そうすると、仮に、被害者が、本件当時、一旦は被告人から死にたいかねと尋ねられた際にうなずいたとしても、その後、死にたくないと述べて抵抗したことが認められるのであるから、殺害されることに同意していたとの合理的な疑いは生じない。また、被害者から死にたくないと言われて抵抗された被告人において、被害者が殺害に同意していると誤信していたということもおよそ考えられない。 3 弁護人は、死にたくないと言いながらも被害者が抵抗した痕跡がないことからすると、被害者が殺害されることに同意し、あるいは、被告人が同意の存在を誤信していた疑 ということもおよそ考えられない。 3 弁護人は、死にたくないと言いながらも被害者が抵抗した痕跡がないことからすると、被害者が殺害されることに同意し、あるいは、被告人が同意の存在を誤信していた疑いがあると主張する。しかし、そもそも、被告人に対して死にたくないと述べること自体、被告人の殺害行為に対する言葉での抵抗ということができる上、前記のとおり、被告人自ら、犯行時に死にたくないと言われる以外にも抵抗があったと述べている。そして、被告人の供述によれば、本件犯行当時、被告人は、布団がかけられた被害者の上に馬乗りになり、両手で頸部を絞め付けたのであるから、かかる体勢で被害者が激しい抵抗をすることができなくても何ら不自然ではない。そうすると、被害者が抵抗した痕跡が残っていないからといって、被害者が殺害されることに同意していたとか、被告人が同意していると誤信していたとの疑いは生じない。 4 以上によれば、被告人には殺人未遂罪が成立する。弁護人の主張は採用できない。 (法令の適用) 罰条刑法203条、199条刑種の選択有期懲役刑法律上の減軽刑法43条本文、68条3号(未遂)未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項訴訟費用刑事訴訟法181条1項本文(量刑の理由)本件は、同居の妻に対する殺人未遂の事案である。 被告人は、被害者の身体に馬乗りになって被害者が意識を失うまでその頸部を絞め続けたものであり、危険な犯行態様であるが、包丁等の凶器を用いた犯行と比べれば、殺害行為の悪質性は高いものとはいえない。一方で、被害者は、本件犯行により判示のとおりの傷害を負い、かなりの期間にわたって意識不明の状態となったほか、その後の生活環境にも大きな変 た犯行と比べれば、殺害行為の悪質性は高いものとはいえない。一方で、被害者は、本件犯行により判示のとおりの傷害を負い、かなりの期間にわたって意識不明の状態となったほか、その後の生活環境にも大きな変化を強いられている。長年連れ添った夫から殺害されそうになったという精神的苦痛も察するに余りがある。幸いにして後遺症が生じなかったことを踏まえても、本件がもたらした結果は到底軽いものではない。 被告人は、統合失調症を患う被害者と長年にわたって同居してきたものであるが、被害者が本件の6日前にインフルエンザにかかって一人での寝起きや移動が困難となり、昼夜を問わず被告人による介助が必要な状態となったことから疲弊し、将来を悲観して本件犯行に及んだものと認められる。もとより、そのような事情があったからといって殺人が正当化される余地はなく、被告人が被害者を介助していた期間が短いことや、本件犯行に至るまでに現実的な解決策を模索しなかったこと、当公判廷において、被告人が、死にたいかねとの問いに対する被害者の回答如何に関わらず犯行に及ぶつもりであったと述べていることからすれば、本件犯行は総じて短絡的で自分勝手なものと評価せざるを得ない。しかしながら、前記の経緯に加え、犯行前に被害者に死にたいかねと問いかけていることや、最初は馬乗りにならず片手で被害者の首を絞めたことを考えると、被告人が本件犯行を実行するまでには、被告人なりの苦悩や犯行を躊躇する気持ちがあったことがうかがわれる のであって、これらの事情も適切に考慮する必要がある。 以上の犯情を踏まえた上で、同種の事案(殺人未遂の単独犯1件で、被害者の立場が配偶者(内縁を含む)、負傷の程度が2週間から1か月であり、量刑上考慮した前科がないもの)の量刑傾向をみると、本件は執行猶予を選択し得る事案というべきである 案(殺人未遂の単独犯1件で、被害者の立場が配偶者(内縁を含む)、負傷の程度が2週間から1か月であり、量刑上考慮した前科がないもの)の量刑傾向をみると、本件は執行猶予を選択し得る事案というべきである。 そこで、被告人が、本件犯行直後に自首したこと、当公判廷において、被害者の同意があったとの弁解をする一方で、自らに不利益な事実についても素直に供述し、本件に対する後悔や被害者への謝罪の言葉を重ねて述べていること、更には被告人の身を案じる家族がいること等の事情も考慮し、主文のとおり量刑した。 (求刑-懲役5年、弁護人の科刑意見-同意殺人未遂罪が成立することを前提に懲役2年・執行猶予4年、殺人未遂罪が成立する場合には懲役2年6月・執行猶予4年)(検察官田邊哲寛、同上林玲衣香国選弁護人作良昭夫(主任)、同伊藤洋一各出席)令和6年9月20日山口地方裁判所第3部 裁判長裁判官安達拓 裁判官諸井雄佑 裁判官小西大地
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