平成15(ワ)2950 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成19年1月24日 名古屋地方裁判所 棄却
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判決文本文73,083 文字)

平成19年1月24日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成15年(ワ)第2950号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年9月15日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由《目次》第1請求-----------------------------------------------------------第2事案の概要 争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は争いがない。)(1)当事者等-----------------------------------------------------(2)Aの経歴・配属部署等-----------------------------------------(3)Aの通院状況-------------------------------------------------(4)Aの自殺----------------------------------------------------- 争点 (1)争点①(Aのうつ病り患の有無,発症時期,程度及び経過)について【原告らの主張】------------------------------------------------【被告の主張】--------------------------------------------------12(2)争点②(Aの担当業務と本件自殺との間の相当因果関係の有無)について【原告らの主張】------------------------------------------------16【被告の主張】--------------------------------------- 主張】------------------------------------------------16【被告の主張】--------------------------------------------------26(3)争点③(被告の安全配慮義務違反の有無)について【原告らの主張】------------------------------------------------40 【被告の主張】--------------------------------------------------45(4)争点④(損害額)について【原告らの主張】------------------------------------------------48【被告の主張】--------------------------------------------------49第3当裁判所の判断 被告におけるAの業務内容等について(1)Aの性格,障害及び趣味---------------------------------------50(2)本件出向までのAの経歴等-------------------------------------50(3)本件出向後から東海デジタルホンが開業するまでの期間におけるAの業務内容について-------------------------------------------------51(4)被告開業後から本件異動までのAの業務内容について-------------51(5)Aの時間外労働時間及び休日取得状況について-------------------54(6)ISO9002の認証取得について-----------------------------55(7)被告への転籍につ 及び休日取得状況について-------------------54(6)ISO9002の認証取得について-----------------------------55(7)被告への転籍について-----------------------------------------55(8)時差出勤制度について-----------------------------------------56(9)新人事制度及び自己評価シートの書き直しをめぐるBの対応等について-------------------------------------------------------------56(10)本件異動について--------------------------------------------58(11)被告におけるAの様子等--------------------------------------64(12)本件自殺----------------------------------------------------65(13)Aの通院状況Ⅰ(C病院精神科)-----------------------------65(14)Aの通院状況Ⅱ(Dクリニック)-----------------------------66 争点①(Aのうつ病り患の有無,発症時期,程度及び経過)について(1)うつ病へのり患の有無及び発症時期について---------------------68(2)C病院精神科を受診していた際の症状の程度及び経過について---69(3)Dクリニックを受診していた際のAの症状について-------------70 (4)E医師の意見書について------------------- 状の程度及び経過について---69(3)Dクリニックを受診していた際のAの症状について-------------70 (4)E医師の意見書について-----------------------------------71(5)小括---------------------------------------------------------72 争点②(Aの担当業務と本件自殺との間の相当因果関係の有無)について(1)業務とうつ病自殺との相当因果関係の判断方法について-----------72(2)本件出向から平成6年11月ころまでの業務とAのうつ病発症との相当因果関係について------------------------------------------------72(3)平成6年12月ころから平成14年11月ころまでの期間における業務とAのうつ病増悪との相当因果関係について------------------------76(4)本件異動について---------------------------------------------78(5)本件自殺とAのうつ病の影響について---------------------------81(6)小括---------------------------------------------------------81 争点③(被告の安全配慮義務違反の有無)について(1)前提---------------------------------------------------------81(2)Aのうつ病り患に関する被告の認識又は認識可能性について-------83(3)原告らの主張について---------------------- ------------------81(2)Aのうつ病り患に関する被告の認識又は認識可能性について-------83(3)原告らの主張について-----------------------------------------84(4)小括---------------------------------------------------------85 結論 -----------------------------------------------------------85第1請求 被告は,原告Fに対し,5327万6623円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Gに対し,2663万8311円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 被告は,原告Hに対し,2663万8311円及びこれに対する平成15年7月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,被告の従業員であったAが自殺したのは,被告がAに対し長時間労働等の過重労働を課し,また,同人を新規事業等に従事させたために,Aが心理的負荷を受けてうつ病を発症し,その後の異動の強行等によりうつ病を悪化させたことによるものであるなどとして,Aの相続人である原告らが,被告に対し,被告の安全配慮義務違反に基づき,損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年7月26日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は争いがない。)(1)当事者等ア原告らAは,昭和21年2月20日生まれで,原告Fは,Aの妻であり,原告Gと原告Hは, 金の支払を求める事案である。 争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は争いがない。)(1)当事者等ア原告らAは,昭和21年2月20日生まれで,原告Fは,Aの妻であり,原告Gと原告Hは,Aと原告F間の子である。 イ被告(甲9,弁論の全趣旨)(ア)株式会社東海デジタルホン(以下「東海デジタルホン」という。)は,平成4年3月7日に設立され,平成6年7月26日に通話サービスを開始して開業し,平成11年10月1日にジェイフォン東海株式会社に商号変更した。 ジェイフォン株式会社は,平成13年11月1日,ジェイフォン東海株式会社,ジェイフォン東日本株式会社及びジェイフォン西日本株式会社を吸収合併した。 ジェイフォン株式会社は,平成15年10月1日,ボーダフォン株式会社に商号変更した。 ボーダフォンホールディングス株式会社は,平成16年10月1日,ボーダフォン株式会社を吸収合併し,同日,ボーダフォン株式会社に商号変更した。 (以下,特に必要がある場合を除き,上記の承継関係及び商号変更を 捨象して,単に「被告」として行為主体等を摘示することを基本とする。 また,被告には,携帯電話機の販売及び保守業務の取扱い拠点として,直営店,代理店,保守店等があるが,以下では,これらを特に区別することなく,「取扱店」として摘示することとする。)(イ)被告は,平成9年11月25日,我が国初のインターネット接続文字メール(以下「携帯メール」という。)のサービスであるスカイウォーカーを開始した。 被告は,平成11年12月10日,上記スカイウォーカーを発展させたインターネット接続サービスであるJ-スカイサービス(以下「J-スカイ」という。)を開始した。 被告は,平成12年12月21日,品質管理保証の国際標準規格であるISO9002を取得した(以下「本件IS ンターネット接続サービスであるJ-スカイサービス(以下「J-スカイ」という。)を開始した。 被告は,平成12年12月21日,品質管理保証の国際標準規格であるISO9002を取得した(以下「本件ISO取得」という。)。 (2)Aの経歴・配属部署等アAは,株式会社ケンウッド(当時の商号はトリオ株式会社。以下「ケンウッド」という。)に長年勤務し,平成6年4月1日,被告に在籍出向となり(以下「本件出向」という。),平成13年4月1日,ケンウッドから被告に転籍した(以下「本件転籍」という。)。 イ被告におけるAの配属部署等(乙106~111,弁論の全趣旨)(ア)本件出向当初Aは,営業本部カスタマーサービス部サービス課(以下「サービス課」という。)に,複数いる担当課長の一人として配属された。なお,カスタマーサービス部内に設置されていた課は,サービス課のみであった。この当時,Aの上司としては,部長兼課長のIがいた。 (イ)平成7年4月1日被告の組織変更により,カスタマーサービス部はお客様サービス部に改称され,同部内にお客様センター,故障受付センター,技術センター 及び本社サービスカウンターの4部署が設置された。Aは,故障受付センターの担当課長の一人として配属された。 (ウ)平成8年5月1日被告の組織変更により,故障受付センターと技術センターが統合されて,保守センター(以下「本社保守センター」という。)が設置された。 Aは,本社保守センターの担当課長の一人として配属された。 この当時,Aの上司としては,部長のJ及び課長のKがいた。 (エ)平成9年9月1日被告の組織変更により,本社保守センターは技術センターに改称された。Aは,技術センターの担当課長として配属された。 この当時,Aの上司として,部長のL及び課長のKがいた。 (オ)平成14 年9月1日被告の組織変更により,本社保守センターは技術センターに改称された。Aは,技術センターの担当課長として配属された。 この当時,Aの上司として,部長のL及び課長のKがいた。 (オ)平成14年2月1日被告の大規模な組織変更により,営業本部全体が再編成され,マーケティング営業本部(東海営業統括部)にマーケティング営業企画部が設置され,同部内に営業企画グループ,営業促進グループ,ショップ推進グループの3グループが設置された。Aは,ショップ推進グループ内のアフターチームに課長代理の一人として配属された。 この当時,Aの上司としては,マーケティング営業企画部部長のM,ショップ推進グループ課長のK及び同じく課長のNがいた。また,課長代理としては,Aのほかに,嘱託社員のO及びPがいた。 (カ)平成14年4月1日被告の組織変更により,アフターチームがショップ推進グループから分離し,技術サポートグループが設置された。Aは,技術サポートグループの課長代理の一人として配属された。 この当時,Aの上司としては,部長のMがおり,課長は配置されていなかった。課長代理としては,Aのほかに,B,N,Q,O及びPがい た。また,Bは,技術サポートグループの取りまとめ役(グループリーダー代行)を担っていた。 なお,技術サポートグループの事務所(以下「駅前事務所」という。)は,JRa駅前にあるJRb内にあったが,その他に,愛知県海部郡c町(現・愛西市)に保守センター(以下「c保守センター」という。)があった。OとPは,平成11年1月から平成15年1月31日に被告を退職するまで,c保守センターにおいて勤務していた。 (キ)Aは,平成14年12月2日からc保守センターで勤務することになった(以下「本件異動」という。)。 ウ被告は,平成14年4月1日,新人事制度 職するまで,c保守センターにおいて勤務していた。 (キ)Aは,平成14年12月2日からc保守センターで勤務することになった(以下「本件異動」という。)。 ウ被告は,平成14年4月1日,新人事制度を導入した。 (3)Aの通院状況(甲10の1及び2)アAは,平成6年11月17日,C病院精神科で受診し,投薬を受けた。 イAは,平成7年7月28日,精神科医であるD医師が開設するDクリニックを受診し,以後,次のように断続的に通院をし,投薬を受けていた(当時,Aがうつ病にり患していたかどうかについては,当事者間に争いがある。)。 ①平成7年7月28日から同年8月8日まで(以下「第1次受診期間」という。)②平成8年9月21日から平成9年4月15日まで(以下「第2次受診期間」という。)③平成9年9月1日から同年10月16日まで(以下「第3次受診期間」という。)④平成10年3月2日から同年11月19日まで(以下「第4次受診期間」という。)⑤平成12年7月17日から平成14年11月21日まで(以下「第5次受診期間」という。) (4)Aの自殺(甲3)Aは,平成14年12月7日,自宅において,自ら首をつって窒息により死亡した(以下「本件自殺」という。)。 争点 本件の争点は,以下のとおりである。 ①Aのうつ病り患の有無,発症時期,程度及び経過②Aの担当業務と本件自殺との間の相当因果関係の有無③被告の安全配慮義務違反の有無④損害額(1)争点①(Aのうつ病り患の有無,発症時期,程度及び経過)について【原告らの主張】アAは,以下に主張するとおり,平成6年11月ころにうつ病を発症し,その後,うつ病が治癒することはなく,逆に増悪し,平成14年12月7日に自殺するまでうつ病にり患していた。 イAがうつ病にり患していたこ ,以下に主張するとおり,平成6年11月ころにうつ病を発症し,その後,うつ病が治癒することはなく,逆に増悪し,平成14年12月7日に自殺するまでうつ病にり患していた。 イAがうつ病にり患していたことについて(ア)C病院精神科の医師は,平成6年11月17日,Aを初めて診察した際に,カルテに「Depression」と記載している(甲73の2)が,この記載は,このころ,Aがうつ病を発症していたことの証左である。 また,うつ病の症状がない患者に対し抗うつ剤を処方することは通常あり得ないから,C病院精神科の医師が,アナフラニール,ドグマチール,テトラミドという抗うつ剤をAに処方したことは,同医師がAをうつ病であると診断したことを裏付ける。また,うつ病の治療薬の効果が生じるためには,一定期間の服薬が必要であるから,C病院精神科の受診後に一時的に症状が改善されたとしても,かかる状態をもってAのうつ病が治癒又は寛解したということはできない。 また,アナフラニール及びドグマチールについて標準的な量が処方さ れていたこと,テトラミドは眠気を伴う副作用があるために睡眠前一回の服用にとどめられたこと及び抗うつ作用のあるこれら3種の薬が一度に処方されたことからすれば,Aのうつ病の症状が軽度であったとはいえない。 (イ)Aは,平成7年7月28日,Dクリニックを受診したが,その際,D医師は,Aが「depression」であると診断し,うつ病及びうつ状態に適応があるアンプリット及びミラドールを処方し,その投薬量も標準的なものであった(甲10の2)。また,D医師は,2回目以降の診察においても,Aに対し,うつ病及びうつ状態に適応があるプロチアデン及びミラドールを処方している。 さらに,Aは,Dクリニックを受診した各期間を通じ,被告における業務に関係する訴えのほか 目以降の診察においても,Aに対し,うつ病及びうつ状態に適応があるプロチアデン及びミラドールを処方している。 さらに,Aは,Dクリニックを受診した各期間を通じ,被告における業務に関係する訴えのほかに,憂うつである,気分がよくない,やる気がでない,疲れやすい,全身けん怠感がある,朝に体が重い,不安がある,睡眠障害がある,食欲が余りないなどとD医師に話をしているが,これらの愁訴はICD-10のうつ病エピソードに該当するものが多い。 以上のように,Dクリニックにおける受診及び投薬の状況に照らしても,Aがうつ病にり患していたことは明らかである。 ウうつ病の経過について平成7年8月から平成13年10月までのAの症状は,以下のとおりであり,Aのうつ病は,治癒又は寛解したことはなく,通院が一時的に中断した後の最初の受診時には,常にAの症状は悪化しており,また,医学的にも,うつ病が治癒したとみられる状況は全くなかったのであって,Aは,多かれ少なかれ,継続的にうつ病に苦しむ状態にあったものである。 (ア)Aには,第1次受診期間の最後である平成7年8月8日に,早朝覚せい,思考運動抑制が見られ,うつ病の症状を抱えたままの状態でしばらく受診が途絶えることになった。 (イ)第2次受診期間の最初である平成8年9月21日,Aの経過は,余りよくない状態であり,睡眠障害,思考運動抑制が見られた。 平成9年3月25日には,特に症状が悪化し,D医師は,Aに対し,服薬と休養を勧めており,第2次受診期間の最後である同年4月15日の受診時において変化がないまま,しばらくAの受診が途絶えることになった。 (ウ)第3次受診期間の最初である平成9年9月1日,Aは,薬なしではつらい,食欲が余りない旨などを訴え,D医師は,自殺念慮を危ぐし,Aに対し,自殺念慮が生じたらD医師や が途絶えることになった。 (ウ)第3次受診期間の最初である平成9年9月1日,Aは,薬なしではつらい,食欲が余りない旨などを訴え,D医師は,自殺念慮を危ぐし,Aに対し,自殺念慮が生じたらD医師や家族にいうように指示し,また,休養を勧めている。 そして,平成9年9月18日,同年10月16日には,Aの経過は安定したが,D医師は,Aに対し,引き続き服薬をするように指示した。 (エ)第4次受診期間の最初である平成10年3月2日,Aには自殺念慮がみられるなど,従前よりうつ病が悪化していたことがうかがわれ,その後,服薬による治療を続けた。そして,第4次受診期間の最後である同年11月19日には,Aは,経過に大きな変化がなく,D医師から,そのまま同様の服薬を続けていくことを指示されたまま,受診が途絶えることになった。 (オ)第5次受診期間の最初である平成12年7月17日,Aには恐怖心や自殺念慮がみられ,D医師は,自殺の考えをやめられない場合には,家族あるいはD医師に伝えるように指示し,また,休職を勧めた。Aは,団体生命保険に加入する際の告知義務との関係で来院することを我慢していたものである。Aは,平成12年8月ころには,被告の社内体制の変革,職場環境の変化について不安を漏らしており,不安感が極度に強くなった恐怖心の症状がみられるほどにうつ病は増悪した。その後,Aは,多少落ち着きを取り戻したようだが,平成13年10月ころまで, 症状はさほど変わらない状態であった。 また,平成14年11月21日,Aの状態は悪く,「気分がゆううつ」,「不活発な感じ」,「全身けん怠感あり」などの評価を医師から受けている。 (カ)Aは,平成14年11月29日,三重県尾鷲市の海で,入水自殺を図ったと疑われるが,これは,うつ病の自殺念慮による発作的なものというべきで 全身けん怠感あり」などの評価を医師から受けている。 (カ)Aは,平成14年11月29日,三重県尾鷲市の海で,入水自殺を図ったと疑われるが,これは,うつ病の自殺念慮による発作的なものというべきである。 そして,Aは,平成14年12月2日にc保守センターでの勤務を開始すると,ストレスが極限まで達し,同センターに勤務していたRに対し,「もういっぱいいっぱいですわ。」などと述べており,同月7日には,朝から食欲がない様子であり,原告Gが仕事のことなどを聞いてもぼんやりしていて,ほとんど返事をせず,同日午後に自殺したが,これは,うつ病が増悪し自殺念慮が高まったことによるものと理解すべきである。 エ被告主張に対する反論被告は,Aがしばしば受診を中断していることをもって,Aがうつ病にり患したことがあったとしても,治癒又は寛解した旨を主張する。 しかし,Dクリニックの診療録に,「寛解」という記載がされたことは一度もない。また,Aが,勤務時間と診療時間との兼ね合いから,うつ病の状態が改善した時点で受診をやめたと推測することはできるとしても,治癒したがゆえの受診中断と考えることはできない。 さらに,Aは,平成7年8月9日から平成8年9月20日まで,平成9年4月16日から同年8月31日まで,同年10月17日から平成10年3月1日まで,同年11月20日から平成12年7月16日までの各受診中断期間において,S病院口腔外科において,抑うつ症状に適応のあるメイラックスの処方を継続的に受けて服薬していたが,Aは,メ イラックスの服用により上記各受診中断期間中も何とか生活できる状態を維持することができたものである。 【被告の主張】ア平成6年11月17日ころにAがうつ病にり患していなかったことについて(ア)原告らは,平成6年11月17日ころに,Aがうつ病 生活できる状態を維持することができたものである。 【被告の主張】ア平成6年11月17日ころにAがうつ病にり患していなかったことについて(ア)原告らは,平成6年11月17日ころに,Aがうつ病にり患したと主張するが,Aは,単なる感情不安定又は気分障害としての抑うつ状態であったにすぎないというべきである。 すなわち,Aが抑うつ状態を愁訴として,C病院精神科を受診したのは,平成6年11月17日の受診の1回だけであり,その後は原告Fが1回だけ治療薬を受取りに行ったにすぎないこと,同病院でのAに対する処方薬が多種類であったことからすると,同病院の医師はAの症状について確定的な判断をしていないといえる。また,平成6年11月30日から平成7年7月28日にDクリニックで受診するまでの約8か月間,Aが医師の診察を受けていないことに照らすと,Aがうつ病にり患していたとはいえない。 これに対し,原告らは,C病院精神科での受診からDクリニックを受診するまでの期間について,S病院で処方されていたメイラックスを継続的に服用していたことにより,何とか生活を維持していた旨を主張する。しかし,仮にメイラックスでしのげる程度の症状であれば,それはうつ病とはいえない。 (イ)また,Dクリニックの初診時である平成7年7月28日においても,診療録表紙の傷病名の欄に「抑うつ状態」と記載されていた(甲10の1・2丁)にすぎず,「VerlaufからみてDepression」との診療録の記載(甲10の1・6丁)についても,D医師が,Aの症状からはうつ病と診断はできないが,AがD医師に対して説明した経過からすればその 可能性も全くないわけではないと考えて記載したにすぎないと考えるのが自然であることからすれば,D医師は,当初うつ病ではなく,抑うつ状態と診断していたにとどま に対して説明した経過からすればその 可能性も全くないわけではないと考えて記載したにすぎないと考えるのが自然であることからすれば,D医師は,当初うつ病ではなく,抑うつ状態と診断していたにとどまるといえる。また,Dクリニックでの処方についても,アンプリット及びプロチアデンの投薬量が通常よりも少ないこと,プロチアデンはドレスピンを含有するところ,ドレスピンはアミトリプチシンよりも薬効が弱いと臨床現場において評価されていること,及びミラドールは内因性の重傷うつ病の第1選択薬にならないことからしても,Dクリニックでの初診時のAは,うつ病にり患していたのではなく,単なる感情不安定としての「抑うつ状態」を示していたものにすぎず,かつ,その程度も軽微であったというべきである。 イうつ病の経過について(平成6年11月17日ころのうつ病り患を前提とする仮定的主張)仮に,Aが平成6年11月17日ころにうつ病にり患していたとしても,その程度は,C病院精神科で処方された薬にうつ病又はうつ状態に必ずしも劇的な効果を有しないドグマチールが含まれていたこと,アナフラニール及びテトラミドについては,通常の成人に対する処方量に満たない投薬量にとどまっていたこと並びにアナフラニールについては,投薬開始後数日で効果が認められたことからすれば,決して自殺するがい然性が認められるほどに重篤なものではなく,相当軽度であったというべきである。 また,Aが平成6年11月17日ころにうつ病にり患していたとしても,以下に主張するとおり,Aのうつ病は,各通院中断期間において,治癒又は寛解していたものであり,各受診期間において,Aのうつ病が増悪した事実もない。 一般的に,うつ病は,未治療例では6か月から1年くらい続いた後に自然に消退し,薬物療法を始めとする治療を行うことにより,3か していたものであり,各受診期間において,Aのうつ病が増悪した事実もない。 一般的に,うつ病は,未治療例では6か月から1年くらい続いた後に自然に消退し,薬物療法を始めとする治療を行うことにより,3か月から6か月で回復する旨が指摘されているところ,原告らが主張するように,当 初の発病から8年にもわたってうつ病が治癒することなく継続するということは考えられない。また,うつ病の増悪とは,うつ病発症後の病態の急激な増悪を意味し,うつ病発症後,更に明りょうな強い心理的負荷が加わり,それと時間的関連をもって,明らかに通常の病状の経過の変動の幅を超える大きな症状の悪化があった場合に初めて認められるところ,原告らが主張するうつ病の増悪が,上記の意味における増悪に当たらないことは明白である。 (ア)第1次受診期間についてAは,平成6年11月17日にC病院精神科において診察を受け,同年12月にT医師から紹介状を受領していたにもかかわらず,平成7年7月28日のD医師による初診まで,約8か月間の間,精神科への通院を中断した。かかる通院中断の事実及びC病院精神科における投薬の奏功の事実からすれば,Aのうつ病は中断期間中に寛解又は治癒し,平成7年7月ころに再度発症したものと考えるべきである。 原告らは,上記の通院中断期間は,S病院で処方されていたメイラックスを服用することでしのげたと主張するが,メイラックスでしのげる程度の症状であれば,Aのうつ病は寛解していたというべきである。 (イ)第2次受診期間についてAは,平成7年8月8日を最後に,Dクリニックへの通院を中断し,平成8年9月21日に,Dクリニックへの通院を再開しているが,1年以上にわたって治療を受けなかったにもかかわず,Aがその間異常な言動も全く見せずに何ら問題なく職場生活を送っていたことなどから 断し,平成8年9月21日に,Dクリニックへの通院を再開しているが,1年以上にわたって治療を受けなかったにもかかわず,Aがその間異常な言動も全く見せずに何ら問題なく職場生活を送っていたことなどからすれば,この通院中断期間に,Aのうつ病は,いったんは治癒又は寛解していたことは明らかである原告らのメイラックスの服用に関する主張に。 ついては,上記(ア)で主張したとおりである。 第2次受診期間における投薬内容は,第1次受診期間の投薬内容と同 じであったところ,かかる投薬内容に照らせば,Aのうつ病の程度は,第2次受診期間においても,自殺するがい然性が認められるほどに重篤なものであったとはいえない。また,Aは,受診のたびに14日分の薬を処方されていたが,Aが14日ごとに通院していなかったことからすれば,Aは,D医師の指示に従って薬を服用していなかったといえるが,Aがうつ病にり患していたのであれば,薬なしでは耐えられなかったはずである。 (ウ)第3次受診期間から第4次受診期間について第3次及び第4次受診期間におけるAの投薬内容及び投薬量が,第2次受診期間のそれらと同様であることからすれば(第4次受診期間においては,エナデールが0.3gから0.4gへと増量されているが,それ以外は変化がない。),Aの症状が第2次受診期間と比べて増悪していないことは明らかであり,また,薬の処方日数分を超える通院間隔があったことについても第2次受診期間と同様のことがいえる。 (エ)第5次受診期間以降本件自殺までについてAは,平成10年11月19日を最後にDクリニックへの通院を中断し,平成12年7月17日にDクリニックへの通院を再開するまで,1年8か月もの長期間にわたって通院を中断しながら,その間,異常な言動も見せずに職場生活を送っていたことなどからすれば, への通院を中断し,平成12年7月17日にDクリニックへの通院を再開するまで,1年8か月もの長期間にわたって通院を中断しながら,その間,異常な言動も見せずに職場生活を送っていたことなどからすれば,上記通院中断期間に,Aのうつ病は,治癒又は寛解していたというべきである。 原告らは,Aが団体保険に関する約款を誤解していたがために,通院することを断念していた旨を主張するが,そもそも団体保険の加入時の告知義務と加入後の通院とは全く関係がない。さらに,AがD医師に対して上記原告らの主張と同旨の発言をした際には,2年半前に家を購入し,団体保険に加入した旨を述べているところ,Aは,かかる発言をした平成12年7月の2年半前である平成10年1月以降の同年3月2日 から同年11月19日まで,Dクリニックへ通院していることに照らせば,上記Aの発言は不合理であるというべきである。原告らのメイラックスの服用に関する主張については,上記(ア)で主張したとおりである。 第5次受診期間の投薬の内容及び量は,第4次受診期間以前のものとほとんど同じであるから,Aがうつ病にり患していたとしても,その症状の程度は,極めて軽いものであったというべきである。 (2)争点②(Aの担当業務と本件自殺との間の相当因果関係の有無)について【原告らの主張】ア相当因果関係の考え方について(ア)業務とうつ病及び自殺との相当因果関係の判断においては,いわゆる共働原因論に立脚し,業務と関連性を有しない基礎疾患等が原因となった場合であっても,業務が基礎疾患などを誘発又は増悪させて発症の時期を早めるなど,基礎疾患等と共働原因となって発症等の結果を招いたと認められれば,相当因果関係があると解すべきである。 また,現在,到達している精神医学的知見によれば,うつ病の発症と増悪において,過労や 早めるなど,基礎疾患等と共働原因となって発症等の結果を招いたと認められれば,相当因果関係があると解すべきである。 また,現在,到達している精神医学的知見によれば,うつ病の発症と増悪において,過労や心理的葛藤などの精神的・身体的ストレスの環境要因(状況因)と人格や遺伝といった個体側の要因とが密接不可分に結びついていると考えられている。したがって,業務による負荷と個体側の要因とを切り離して,どちらが有力な原因であるかを論ずることは誤りであり,業務に従事する中で,当該労働者が具体的にどのような心理的負荷を受け,精神障害を発症したかという点を個別具体的かつ総合的に考察すべきである。この場合,ストレスに対する耐性には個人差があるのであるから,当該労働者にとって,業務がどのような心理的負荷を与えたかこそが問題とされるべきである。 (イ)次に,業務に起因してうつ病を発症した上,うつ病の症状である自 殺念慮から自殺した場合には,当該自殺と業務との間には相当因果関係があるというべきである。 また,うつ病の発症が業務に起因したものかどうか明らかでない場合であっても,被災者のうつ病が業務に起因して増悪した結果,自殺に至った場合には,当該自殺と業務との間には相当因果関係があるというべきである。 (ウ)本件において,Aは,以下に主張するとおり,Aにとって過重な業務に従事したことにより心理的負荷を受け,平成6年11月ころ,うつ病を発症し,その後,うつ病にり患したAにとって過重な業務に更に従事し続けた結果,うつ病が増悪し,そして,平成14年12月の本件異動によって受けた心理的負荷が要因の一つになって本件自殺に至ったものである。したがって,Aの業務と本件自殺との間に相当因果関係が存在することは明らかである。 イ平成6年4月から平成7年初旬ころまでの期間に て受けた心理的負荷が要因の一つになって本件自殺に至ったものである。したがって,Aの業務と本件自殺との間に相当因果関係が存在することは明らかである。 イ平成6年4月から平成7年初旬ころまでの期間について(ア)本件出向後から被告開業までの業務内容,環境等の変化についてAは,技術者としてケンウッドに入社し,ステレオなどの家庭用電子機器の修理及びアフターサービス業務に従事してきた。しかし,Aは,本件出向後,新しく開発される製品である携帯電話のアフターサービス業務に従事することになり,同じアフターサービス業務とはいえ,用語の違いや,レンタルの携帯電話があり,修理の全体的な流れが異なるなどの未経験の業務を理解した上で,被告におけるアフターサービス業務の処理に関する概括的なマニュアル(以下「取扱店マニュアル」という。)及び帳票等の諸書式の作成(以下「取扱店マニュアル等作成業務」という。)を担当することになり,また,取扱店マニュアルを利用して,取扱店の研修指導を担当したが,これも未経験の業務であった。 そして,被告は,開業を当初の予定よりも5か月繰り上げたため,Aは, 本件出向から約4か月後の平成6年7月26日の開業に間に合うように,時間的余裕がない状況下において,取扱店マニュアル等作成業務を完了する必要に迫られ,同業務に従事したことによってAが受けた心理的負荷は,更に強いものになった。 また,Aは,ケンウッド時代は係長であったが,本件出向後,担当課長として責任ある立場になった。そして,Aは,上記のように,時間的余裕がない中で未経験の取扱店マニュアル等作成業務に従事し,また,Aの業務内容を的確に理解して相談に応じてくれる上司がいなかったこともあり,Aが受けた心理的負荷は更に強いものになった。 さらに,Aは,本件出向により,それまで仕事を共に ル等作成業務に従事し,また,Aの業務内容を的確に理解して相談に応じてくれる上司がいなかったこともあり,Aが受けた心理的負荷は更に強いものになった。 さらに,Aは,本件出向により,それまで仕事を共にしてきた同僚から一人切り離され,被告において,新たに人間関係を築く必要に迫られた。そして,Aは,本件出向により,以上のように心理的負荷がかかる被告の業務に定年まで従事しなければならないかもしれないという不安を抱き,かかる不安によっても心理的負荷を受けた。 (イ)被告開業後の業務内容についてAは,被告開業後,サービス課担当課長として,顧客及び修理店を相手に交渉するなどして苦情処理業務に従事した。苦情処理は,一般的にも精神的負担が重い業務であるが,Aは,元来,技術者であり,ケンウッド時代から,アフターサービス関係業務に苦手意識を有していたこと,Aの業務内容を的確に理解して相談に応じてくれる上司がいなかったこと,被告開業後に顧客数が増大し,顧客から寄せられる苦情の数も増大したことによりAの業務量が増大したこと,休み時間であっても責任者として苦情に対応しなければならないという緊張状態に置かれていたこと及び苦情の内容によっては難しい交渉をする必要があったことにより,Aは上記苦情処理業務に従事することで心理的負荷を受けた。 さらに,被告開業後にAが担当した業務は,上記(ア)で主張した取扱 店マニュアル等作成業務と質的に異なることになり,かかる業務内容の変化によって,Aは,心理的負荷を受けた。 (ウ)組織体制及び故障受付態勢の不備について本件出向当時の被告は,出向者や派遣社員が多く,また,その後の度重なる組織機構及び分掌業務の変化にみられるように,被告では組織体制が整備されない状態が続き,このような組織体制の不備により,担当課長として責任ある立 告は,出向者や派遣社員が多く,また,その後の度重なる組織機構及び分掌業務の変化にみられるように,被告では組織体制が整備されない状態が続き,このような組織体制の不備により,担当課長として責任ある立場にあったAは,心理的負荷を受けた。 また,Aは,被告が開業した後も,顧客及び基地局の増大並びに新規サービス及びこれに対応する新機種の携帯電話機の導入というめまぐるしい変化の中にあって,担当課長として絶え間なく故障受付態勢を整備する必要に迫られ,これにより,Aは心理的負荷を受けた。 (エ)労働時間についてaAは,本件出向当初,ほぼ毎日残業をしており,開業前の平成6年5月ころから同年6月ころにかけて,開業準備のために業務量が大変多くなり,午前2時,3時までの時間外労働をしたり,午前3時ないし4時まで,自宅で取扱店マニュアル等の作成をすることが何度もあった。 また,開業後についても,平成6年12月にかけて,苦情の数の増大等に伴いAの業務量も必然的に多くなり,そのため,Aは,帰宅時間が,連日午後11時を過ぎるなど,深夜までの残業をし,過酷な労働を強いられた。 Aは,このような被告開業前後の長時間労働によって,心理的負荷を受けた。 bところで,本件出向後からAがうつ病を発症した後間もない平成6年12月までの時間外労働時間は,超過勤務命令簿(乙1から9までの各2)の記載によれば,1か月の平均が約44時間,被告開業直前 である平成6年6月から同年12月までの時間外労働時間の1か月の平均は,約47時間となっている。しかし,上記超過勤務命令簿における時間外労働時間の記載は,自己申告方式であったこと,法定時間内残業分が含まれていないこと,給与支給明細書に記載された時間外労働時間との間にそごがあることに照らすと,Aの労働時間を正確に反映したものでは 外労働時間の記載は,自己申告方式であったこと,法定時間内残業分が含まれていないこと,給与支給明細書に記載された時間外労働時間との間にそごがあることに照らすと,Aの労働時間を正確に反映したものではない。 もっとも,上記超過勤務命令簿の記載によっても,本件出向後から平成6年12月までの時間外労働時間の1か月の平均が約44時間という相当程度の長時間に達していたものであるから,これによりAが心理的負荷を受けたことは明らかである。 cまた,平成5年3月16日から平成6年3月15日までのケンウッドにおけるAの時間外労働時間の平均は,1か月約18時間であり,上記期間における休日出勤は,平成5年10月に約4時間の労働をしただけで,深夜残業をしたことはなかったものである。 したがって,本件出向前の約1年間のケンウッドにおける上記時間外労働時間の1か月の平均よりも,上記bで主張した本件出向後の時間外労働時間の1か月の平均は,平成6年4月から同年12月までの期間だと約2.5倍増加し,同年6月から同年12月までの期間だと約3倍増加したことになるが,このように,本件出向後,Aの時間外労働時間が大幅に増加したことは,Aに心理的負荷を与えた。 ウ平成7年初旬ころから平成14年11月ころまでの期間について(ア)顧客等対応業務についてAは,平成7年初旬ころから平成14年11月ころまでの期間においても,顧客及び取扱店からの問い合わせへの対応(2次的対応のみならず,Aが直接対応することも多々あった。),故障受付対応,苦情処理等を内容とする顧客等対応業務に従事していたが,かかる顧客等対応業 務は,苦情処理を内容とする点において,心理的負荷が掛かる業務であった。 また,上記期間中,被告の顧客及び取扱店の数が急増し,被告は企業規模を拡大させ,これに伴って顧客等対応 かる顧客等対応業 務は,苦情処理を内容とする点において,心理的負荷が掛かる業務であった。 また,上記期間中,被告の顧客及び取扱店の数が急増し,被告は企業規模を拡大させ,これに伴って顧客等対応業務の量も増大し,さらに,被告が次々と新機種の携帯電話機を導入したことで,顧客及び取扱店からの問い合わせの内容も複雑化していったが,かかる業務量の増大及び業務内容の複雑化により,Aは,心理的負荷を受けた。 そして,争点①で主張したように,上記期間中,Aがうつ病にり患していたことに照らすと,Aが仕事一般に対する自信を喪失していたこともあって,顧客等対応業務によりAが受けた心理的負荷は,強いものであったといえる。 (イ)エリア調査業務その他の業務による心理的負荷についてエリア調査業務は,通信不良の苦情が多いなど通信エリアに関する問題が生じた際に,現地に赴いて電波状況を調査する業務である。Aは,エリア調査業務に従事したが,同業務は,被告が開業当初に抱えていた競合他社よりも悪い電波状態という全社的問題を改善するため重要な業務であり,また,顧客等対応業務において多くの対応を迫られたのが通信障害の問題であったこともあり,うつ病にり患していたAにとって過重な業務であった。 また,Aは,アンテナ工具,携帯電話機テスター及び電池テスターの整備管理業務,取扱店などへの取扱い指導,保守管理並びに手配業務にも従事し,これらの業務によっても心理的負荷を受けた。 さらに,Aは,担当課長として,上記イ(ウ)で主張した故障受付態勢の整備を引き続き行ったことによっても心理的負荷を受けた。 (ウ)スカイウォーカー,J-スカイ関連業務について被告は,平成9年11月,我が国最初の携帯メールを可能にするスカ イウォーカーを導入し,Aは,平成10年1月ころ,携帯メールの操作方 けた。 (ウ)スカイウォーカー,J-スカイ関連業務について被告は,平成9年11月,我が国最初の携帯メールを可能にするスカ イウォーカーを導入し,Aは,平成10年1月ころ,携帯メールの操作方法の問い合わせ,通信障害の原因調査を行う業務を担当することになった。その後,被告は,平成11年12月に,J-スカイを導入し,Aは,引き続き,スカイチームの責任者として,上記同様の業務を担当したが,競合他社に先駆けたサービスの提供としてスカイウォーカー及びJ-スカイが戦略的重要性を有していたため,Aが担当したスカイウォーカー及びJ-スカイに関するアフターサービス業務も当然に重要性を有していたところ,かかるアフターサービス業務の重要性,アフターサービス業務自体の多忙さ及びAがコンピューターに関して苦手意識を持っていたことにより,うつ病にり患していたAは,強い心理的負荷を受けた。 (エ)本件ISO取得関連業務について本件ISO取得は,Aが所属していたお客様サービス部技術センターの業務を対象業務としており,Aは,担当課長としての責任ある立場で,ISOプロジェクト事務局と協力して本件ISO取得のための準備をしたほか,ISO9002取得審査の対象となり得るマニュアルなどの書類を自ら作成するという中核的部分の業務を担当した。 そして,本件ISO取得は,社長を最高責任者とする全社的な取組であり,かつ,本件ISO取得に関連したAの業務も多忙を極め,うつ病にり患していたAは,強い心理的負荷を受けた。 (オ)被告への転籍についてAは,本件出向後,ケンウッドに復帰することを希望していたが,本件転籍により,かかる希望が断たれ,これまでに主張した過重な業務を担当しなければならなくなったことにより,心理的負荷を受けた。 (カ)社内体制の変革について被告は,平成7 ことを希望していたが,本件転籍により,かかる希望が断たれ,これまでに主張した過重な業務を担当しなければならなくなったことにより,心理的負荷を受けた。 (カ)社内体制の変革について被告は,平成7年初旬ころから平成14年11月ころまでの間に,組 織名称及び分掌業務の変更などの組織体制の改革を何度も行い,その都度,Aは,担当する業務内容が変更されたり,職場環境が変化したことなどにより,心理的負荷を受けた。 また,被告は,平成13年9月,外資系会社であるボーダフォングループの傘下に入ったが,これにより,Aは,60歳以後に嘱託社員として勤務ができなくなるのではないかといったことや,今後の給与体系の変更を予想して強い不安を抱くなどし,心理的負荷を受けた。 さらに,被告が平成14年4月に導入した新人事制度は,賃金・昇格に関する業績主義及び成果主義制度を採用し,従業員に対して自己責任による人生の選択を求める思想に立つものであった。しかし,その当時,Aは,55歳であり,また,業務遂行における裁量選択の余地がそれほど多くなかったため,新人事制度は,Aに対して心理的負荷を与えた。 そして,新人事制度に関連して,Aは,ミッション遂行度評価シート及び目標達成度評価シート(以下,これらを併せて「自己評価シート」という。)への記入を課されることになったが,部下に対し,積極的に細部に至るまでを逐一指導するという強権的タイプの上司であるBから具体的な指示を受けることなしに何度も書き直しを命じられたことにより,うつ病にり患していたAは,強い心理的負荷を受けた。 (キ)時差出勤制度について被告の始業時間は,当初,午前9時のみであったが,被告は,平成13年8月以降,時差出勤制度を導入し,これにより,Aは,勤務時間の変更に対応して,種類分けをしながら勤務することを余 差出勤制度について被告の始業時間は,当初,午前9時のみであったが,被告は,平成13年8月以降,時差出勤制度を導入し,これにより,Aは,勤務時間の変更に対応して,種類分けをしながら勤務することを余儀なくされ,当時うつ病にり患していたこともあって,心理的負荷を受けた。 エ本件異動について(ア)本件異動の経緯についてAは,被告から本件異動を打診された際,c保守センターの前任者で あるOとPの二人分の仕事を引き継ぐことになること,それまでやっていたテスター業務も引き続き担当し続けなければならなかったこと,本件異動後の業務内容が未経験の物流業務であったこと及び通勤時間が長くなることから,本件異動について不安を覚え,納得していなかった。 そこで,Aは,BとNに対し,上記の本件異動に関する不安を繰り返し述べ,ほかの者を異動させるように求め,平成14年11月15日には,Nに対し,強い調子で「自分を辞めさせたいのか。」と言った。これに対し,Nは,Aに対し,「勝手にしたらいい。」と言い,Bも,Aに対し,「Aさん,甘えているんじゃないの。」と言い,かかる発言は,Aが「嫌なら辞めろ。」という暴言を受けたと理解するほどの態度であった。 ところで,被告は,A以外にOとPの後任を検討した旨及び佐川物流サービス株式会社(以下「佐川物流」という。)との間で,c保守センターにおける業務を佐川物流に委託し,被告社員による業務量を削減することを協議していた旨を主張する。しかし,上記のようなBとNの強硬な態度等の本件異動の経緯等からすれば,被告がA以外に後任を検討していた事実がなかったことは明らかであるし,被告社員による業務量の削減についても,Aは説明を受けておらず,実際に業務量の削減が決まったのは,Aが死亡した後であり,Aは,上記の本件異動に関する不安を払し た事実がなかったことは明らかであるし,被告社員による業務量の削減についても,Aは説明を受けておらず,実際に業務量の削減が決まったのは,Aが死亡した後であり,Aは,上記の本件異動に関する不安を払しょくできないまま,本件異動に関する命令を受けることになったのである。 以上のように,本件異動は,BとNによる上記のようなAを精神的に追い詰める言動等によって強行されたものであるが,これにより,当時うつ病にり患していたAは,強い心理的負荷を受けた。 (イ)本件異動後の業務内容の変化についてAは,本件異動後,それまで経験したことがない在庫品の管理,配送, 修理の受付,修理期間中に用いられる代替機の管理及び修理済み機種の発送という物流業務を担当することになった。Aは,物流業務に苦手意識を有していたが,本件異動により,56歳にもなって,苦手意識のある物流業務に新たに習熟する必要に迫られたことにより,心理的負荷を受けた。 (ウ)本件異動後の業務量についてAは,本件異動後,OとPが担当していた二人分の業務を一人で担当しなければならなくなり,さらに,それまで担当していたテスター業務も引き続き担当することになるなど,過剰な業務量をこなさなければならなくなり,強い心理的負荷を受けた。 (エ)前任者からの引継ぎ状況についてOとPは,それぞれが担当していた業務のすべてをAに引き継ごうとし,また,本件異動の命令が下されたのがOとPの定年退職までの残り期間が実質的に1か月余りの時点であったため,二人分の業務を引き継ぐための十分な期間はなかった。 そのため,業務引継ぎは,O又はPのいずれか一方が引継ぎをしているところに,他方が割り込むような忙しい状況下で行われ,これにより,Aは,心理的負荷を受けた。 (オ)本件異動後の処遇についてc保守センターは,広い倉 ぎは,O又はPのいずれか一方が引継ぎをしているところに,他方が割り込むような忙しい状況下で行われ,これにより,Aは,心理的負荷を受けた。 (オ)本件異動後の処遇についてc保守センターは,広い倉庫の一角に机を置いたような場所であり,冬には,暖房が効かず,従業員がダウンジャケットを着たり,毛布をひざに掛けるなどして仕事をしなければならないような場所であり,駅前事務所とは雰囲気も環境も全く異なる場所であった。 さらに,Bは,Aが平成14年12月5日までパソコンを起動できる状況になかったにもかかわらず,同月4日,Aに対し,業務に関するメールを送るように指示し,Aがメールを使えないことを伝えても,O又 はPのパソコンを使うようにと指示するにとどまった。このようなBの対応は,そのころ,被告が従業員の出退勤管理をその個人用パソコンに出退勤時刻を入力する方式で行っており,また,Aが引き継ぐべきc保守センターの業務がパソコンを必要とするものであったことからして,Aに対するいじめであったというべきである。 Aは,それまでと環境が著しく異なるc保守センターでの勤務をせざるを得ない状況に追い込まれ,また,上記のようなBのいじめにより,心理的負荷を受けた。 (カ)通勤時間の長時間化等についてAは,本件異動により,片道約2時間を要する通勤をしなければならなくなり,また,c保守センターの最寄り駅からc保守センターまでの車による送迎時間に合わせて通勤する必要にも迫られた。 Aが当時うつ病であったことに加えて,左下肢機能障害による歩行の困難性もあって,通常人に増して通勤の負担は重大であったところ,従前の約2倍となる通勤時間及び上記最寄り駅から送迎に合わせた通勤時間の調整を迫られたことにより,心理的負荷を受けた。 【被告の主張】ア相当因果関係の考え方につい 通勤の負担は重大であったところ,従前の約2倍となる通勤時間及び上記最寄り駅から送迎に合わせた通勤時間の調整を迫られたことにより,心理的負荷を受けた。 【被告の主張】ア相当因果関係の考え方について(ア)業務とうつ病及び自殺との相当因果関係の判断においては,いわゆる有力原因論に立脚し,業務による負荷と個体側の要因その他の業務以外の要因を切り離して,どちらが有力であるかを判断すべきである。 (イ)次に,労働者が業務に起因してうつ病を発症し,自殺した場合であっても,業務と自殺との間に相当因果関係が認められるためには,うつ病の症状としての自殺念虜の発現による自殺であることが必要である。 また,労働者がうつ病にり患していることを使用者が認識していない場合には,うつ病の認識がないことを前提に相当因果関係の有無を検討し なければならず,この場合,業務とうつ病増悪との間の相当因果関係は原則として否定されると考えるべきである。 (ウ)原告らは,当該労働者にとって過重な業務であれば,業務とうつ病自殺との相当因果関係が認められる旨を主張するが,かかる見解は結果責任を認めるものであり妥当ではない。 相当因果関係の判断に当たっては,使用者が,当該労働者に固有の特別な事情をあらかじめ認識していた場合を別として,客観的に過重な業務,すなわち,社会通念上許容される限度を超えた過剰なものといえない限り,相当因果関係は否定されなければならないと解すべきである。 そして,被告は,Aに固有の特別な事情をあらかじめ認識していなかったのであり,後述するように,Aの業務は,客観的に過重な業務ではなかったものであるから,仮にAがうつ病にり患していたとしても,Aの担当業務とうつ病り患ないし増悪及び自殺との相当因果関係はない。 イ平成6年4月から平成7年初旬までの期間について に過重な業務ではなかったものであるから,仮にAがうつ病にり患していたとしても,Aの担当業務とうつ病り患ないし増悪及び自殺との相当因果関係はない。 イ平成6年4月から平成7年初旬までの期間について(ア)本件出向後から被告開業までの業務内容,環境等の変化について被告は,Aがケンウッド時代にアフターサービス業務に従事してきた経歴を考慮して,本件出向後,Aを取扱店マニュアル等作成業務,各種携帯電話機製造メーカーとの修理契約の締結交渉業務などを担当させることにした。そして,取扱店マニュアルの作成は,東海デジタルホンに先行して開業していた関連会社や同業他社のマニュアルを転用することで足りる部分が多く,Aもそれらのマニュアルを参照して取扱店マニュアル等作成業務に従事していた。また,取扱店マニュアルの内容の大半は,故障受付態勢やその窓口,サービス処理の流れなどに関するものであり,携帯電話固有の特別な専門的技術的知識を必要とするものではなかった。したがって,本件出向後から被告開業までのAの業務がAに対して心理的負荷を与えることはない。 また,当初の開業予定である平成6年12月20日は,そもそも3か月の猶予期間をあらかじめ盛り込んだ上での日程であり,実際の工程管理自体は同年9月1日開業を予定して行われていたものであり,開業時期の繰上げは,十分に実現可能であったからこそ決定されたのであり,また,Aが上記のとおり,被告に先行して作成されていた同種マニュアルを参照することができたことからしても,開業時期を平成6年7月26日に変更したことにより,Aが時間的余裕がない状況に置かれたということはない。 Aは,ケンウッド時代に中間管理職の地位にあったところ,本件出向後のAの役職である担当課長は,中間管理職に相当するものではなかったのであるから,Aは,本 余裕がない状況に置かれたということはない。 Aは,ケンウッド時代に中間管理職の地位にあったところ,本件出向後のAの役職である担当課長は,中間管理職に相当するものではなかったのであるから,Aは,本件出向に伴って初めて責任ある立場になったわけではない。そして,Aには,本件出向当時,上司として,I及びLがいたのであるから,同人らの存在を無視した原告らの主張は失当である。 さらに,Aが,本件出向までに2回の転職,6回の異動及び1回の出向を経験していたことからすれば,Aは,新しい職場環境に適応する能力をそれなりに有していたと考えられるし,実際に,Aが人間関係を含めた被告の職場環境になじめなかったということはない。本件出向は,転居を伴うものではなく,Aが,平成7年11月29日には,上司との面談においてケンウッドへの復帰の意向を示さず,平成9年1月22日には,被告で継続して働きたい旨を自己申告表(乙119の2)に記載していた点も看過すべきではない。 したがって,本件出向後の業務内容の変化,Aの役職,勤務環境の変化がAに心理的負荷を与えたということはない。 (イ)被告開業後の業務内容についてAは,被告開業後,主に携帯電話機の故障に伴う保険金の請求及び支 払業務,帳票の整理などの業務に従事したが,これらの業務は,Aに対して,特別な困難を強いる業務ではなかった。また,Aは,代理店及び顧客からの問い合わせへの対応業務なども行っていたが,これらの業務が,Aの担当業務に占める割合は必ずしも多くなく,問い合わせに対応するとしても複数の従業員で分担しており,Aのケンウッドにおける経歴に照らせば,Aに強度の心理的負荷を与えるような過重な業務ではなかったというべきである。さらに,当時,カスタマーサービス部には,サービス課以外の課は存在せず,Aには,上記(ア ケンウッドにおける経歴に照らせば,Aに強度の心理的負荷を与えるような過重な業務ではなかったというべきである。さらに,当時,カスタマーサービス部には,サービス課以外の課は存在せず,Aには,上記(ア)で主張したように,上司としてI及びLがおり,Aは,難しい案件については,上司に相談して処理をゆだねることも多く,時にはLが直接顧客のもとに同行するなどして案件を処理することも多かったものである。原告らは,Aが休み時間にも責任者として苦情に対応するなどの緊張状態に置かれていた旨を主張するが,休日や夜に被告従業員がA宛に電話したことは,極めてまれであり,休日や夜に電話があった場合でも,Aが直接顧客と交渉することになるわけではなく,1次対応をした従業員や契約社員の相談に乗ることが中心であったのであるから,Aが常に緊張状態に置かれていたという事実はない。 また,原告らは,顧客からの苦情が増えてきた開業当時のサービス課に,十分な人員が配置されなかったと主張するが,被告は,平成6年11月には,派遣社員を10名から44名に増員するなどし,サービス課に十分な人員を配置している。 さらに,被告開業後のAの業務が,自ら作成を担当した取扱店マニュアル等を活用するものであったことからすれば,Aの開業前の業務と開業後の業務は,継続性を有することが明らかであり,開業の前後で業務内容が変わったことがAに心理的負荷を与えたことはない。 (ウ)組織体制及び故障受付体制について 東海デジタルホンが設立されたのは本件出向の約2年前であり,また,東海デジタルホンは,JR東海系列の企業として企業経営のノウハウを有していたのであって,本件出向当時,既に東海デジタルホンの組織体制は確立されており,職場内のルールも明確に定められていた。 また,原告らは,Aが絶え間なく故障受付態勢 企業として企業経営のノウハウを有していたのであって,本件出向当時,既に東海デジタルホンの組織体制は確立されており,職場内のルールも明確に定められていた。 また,原告らは,Aが絶え間なく故障受付態勢を整備する必要に迫られた旨を主張するが,故障受付態勢の見直し業務は,過酷な業務というわけではなく,故障受付態勢の整備確立がAに心理的負荷を与えることはなかった。 (エ)労働時間についてa本件出向時である平成6年4月から平成7年初旬までにおけるAの時間外労働時間及び休日取得日数は,法定労働時間である1週間当たり40時間を基準として算出すると,別紙1勤務時間等表の上記期間に対応する各被告主張時間欄に記載のとおりとなる。 とりわけ,本件出向時である平成6年4月からAがうつ病にり患したと原告らが主張する同年11月までのAの時間外労働時間は,1か月当たり0時間の月が3か月もあり,最大でも56時間21分,1か月の平均は29時間6分にすぎず,夜間勤務の1か月の平均も3時間10分にすぎなかった。そして,一般に,業務の客観的過重性に関して,月間80時間から100時間以上の時間外労働時間がうつ病発症と強い関連性を有すると指摘されていることからすれば,Aの時間外労働時間は,0に近いといってもよい時期が長く,特に過酷な労働でなかったことは明らかである。また,Aは,本件出向時である平成6年4月から被告が開業した同年7月までの間の4か月間において,82日しか勤務していなかったのであって,2日働いて1日休むという状態にあり,休養を十分にとっていた。 原告らは,Aが持ち帰り残業をしていた旨を主張する。しかし,A が持ち帰り残業をしていたことの客観的証拠は存在しないし,Aが持ち帰り残業をしていたのであれば,同居していた原告らがその状況をよく知っていたはずであるに 残業をしていた旨を主張する。しかし,A が持ち帰り残業をしていたことの客観的証拠は存在しないし,Aが持ち帰り残業をしていたのであれば,同居していた原告らがその状況をよく知っていたはずであるにもかかわらず,原告らは,当初は持ち帰り残業をしていた可能性が高い程度の主張しかしていなかったことなどに照らせば,Aが持ち帰り残業をしていないことは明らかである。 b平成6年4月から同年11月までの期間に関する別紙1勤務時間等表の被告主張時間欄の各記載は,超過勤務命令簿(乙1から8までの各2)の各記載に基づくものであるが,Aの上司は,正しい超過勤務時間を申告するように指導してきたし,当時,Aは,ケンウッドからの出向社員であったところ,被告は,ケンウッドに対し,Aの人件費相当額について,Aの時間外労働の量にかかわらず一定額の支払をしていたのであるから,Aが時間外労働時間を過少申告しても,被告は何の利益も享受しない。したがって,Aが,上記超過勤務命令簿に記載する際,過少申告しなかったことは明らかである。 原告らは,給与支給明細書と超過勤務命令簿に記載された各残業時間が異なると主張するが,そもそも,超過勤務命令簿は毎月1日から末日までを計算期間としているのに対し,ケンウッドの給与支給明細書は,毎月16日から翌月15日までを計算期間としているのであるから,両者の記載が一致しないのは当然である。 c原告らは,本件出向に伴う時間外労働時間の変化を,Aが受けた心理的負荷の原因として主張する。 しかし,被告とケンウッドでは,所定労働時間が異なるから,この違いを無視した主張は不合理であるし,原告らは,本件出向前後の時間外労働時間を比較するに当たり,原告らに有利になるように,比較の対象となる労働時間の算定期間を一致させず,かつ,時間計算の誤りがある。なお,本 した主張は不合理であるし,原告らは,本件出向前後の時間外労働時間を比較するに当たり,原告らに有利になるように,比較の対象となる労働時間の算定期間を一致させず,かつ,時間計算の誤りがある。なお,本件出向後3か月で平均値をとれば,被告における 1か月の平均時間外労働時間は,26.42時間となり,本件出向前のそれとほとんど変わらないものとなる。 ウ平成7年初旬ころから平成14年11月ころまでの業務等について(ア)労働時間及び休暇取得状況について平成7年初旬ころから平成14年11月ころまでの期間のAの労働時間は,別紙1勤務時間等表の上記期間に対応する各被告主張時間欄に記載のとおりであるところ,Aの労働時間は,我が国における平均的な会社員のそれに比べて,非常に短い部類に含まれるといえるし,休日出勤も,ほとんどしていない。 また,Aは,上記期間において,同表の上記期間に対応する各欄に記載の有給休暇を取得しており,決して多忙な状況などにはなかったものである。 これらの上記期間における勤務時間及び有給休暇の取得状況は,Aの業務が過重でなかったことの証左である。 (イ)顧客等対応業務についてaAは,平成9年8月末日まで,故障受付等の業務を担当してきたが,当時のAの主たる業務は,取扱店への教育指導業務であり,顧客からの苦情への対応がAの担当する業務量に占める割合は大きくなく,Aは,1日数件程度顧客対応をしていたにすぎない。そして,顧客等対応業務は,確かに,ほかの業務と比較すれば,心理的負荷の程度が強いかもしれないが,同業務は特別の専門的知識を要求されるような業務ではなく,試用機や取扱説明書を参照する程度で問題なく処理できるものであり,また,Aがケンウッド時代にアフターサービス業務に従事してきた経験があったことからすれば,顧客等対応業務が されるような業務ではなく,試用機や取扱説明書を参照する程度で問題なく処理できるものであり,また,Aがケンウッド時代にアフターサービス業務に従事してきた経験があったことからすれば,顧客等対応業務がAに対して特別な強い心理的負荷を与えることはなかったといえる。 被告は,平成9年9月1日,本社保守センターの名称を技術センタ ーに改称し,その際,Aは,上記故障受付業務から外れ,主として,携帯電話機及び付属品並びにネットワークに係る技術判断に関すること,携帯電話機及び付属品の修理に係るメーカーとの契約に関すること,携帯電話機及び付属品の故障の責任判断に関すること,携帯電話機及び付属品の品質管理に関すること,その他技術支援に関することを担当することとなった。被告は,本件出向から3年以上が経過し,Aが携帯電話に関する技術的知識を一応蓄積したことから,当時のAが有していた知識で足りる上記業務を担当させることにしたものである。そして,この当時,被告が,技術センターに,携帯電話機の技術・品質管理専任の技術系従業員4人を配置したこと及びAが上記業務を遂行するに当たり必要となる新たな知識が,取扱説明書を読んで試用機を操作する程度で習得できるものであったことからして,技術センターにおけるAの業務がAに対して心理的負荷を与えたということもない。 Aの担当業務は,技術センターの名称が平成14年2月1日にマーケティング営業企画部ショップ推進グループに変わった後も,それまでと基本的には変わりなかった。 b原告らは,顧客数の増大等により,Aの業務量が増えた旨を主張する。しかし,被告は,顧客数の増大に応じて従業員数も増加させており,Aに特別の業務上の負荷が掛かることはなかった。 また,原告らは,新機種の導入により,Aの業務が複雑化した旨を主張する。しかし,新機 る。しかし,被告は,顧客数の増大に応じて従業員数も増加させており,Aに特別の業務上の負荷が掛かることはなかった。 また,原告らは,新機種の導入により,Aの業務が複雑化した旨を主張する。しかし,新機種の導入は,軽微な変更にとどまることが多く,また,新機能が導入された場合には,順次各メーカーのモデルに新機能が搭載されることになるので,必ずしも一つ一つの機種ごとに深い専門的知識を習得していかなければならないものではなく,さらに,一人一人の負担が大きくならないように,機種ごとに担当者を決 めるなどの配慮もされており,特にAの担当業務の負担が大きいということはなかった。 (ウ)エリア調査業務その他の業務についてAは,平成9年9月1日以降,エリア調査業務などを担当するようになったが,これらの業務は,Aが携帯電話に関する技術的知識を一応蓄積し,当時のAが有していた知識で足りる程度のものであったから,被告は,これらの業務をAに担当させたものである。 そして,エリア調査業務は,顧客から電波が届かないといった報告があれば,現場へ向かい,電波が届くか否か調査するといったような業務で,特に過重な業務ではなかった。 また,原告らが何をもって故障受付態勢の確立と主張するのかは判然としないが,被告本社が平成7年4月にOMCビルへ移転した後は,故障受付態勢は,大きな変化もなく現在に至っているのであるから,その時点で,既に故障受付態勢は確立していたといえる。 (エ)スカイウォーカー,J-スカイ関連業務についてAは,スカイウォーカーに関するアフターサービス業務を遂行するに当たり,高度又は最先端の技術的知識を要求されることはなく,4人程度の契約社員の取りまとめが中心であった。そして,複雑な問い合わせが寄せられた場合には,他部署に対応を依頼するなどしていた。また, に当たり,高度又は最先端の技術的知識を要求されることはなく,4人程度の契約社員の取りまとめが中心であった。そして,複雑な問い合わせが寄せられた場合には,他部署に対応を依頼するなどしていた。また,スカイウォーカー関連業務をAが担当することになったのは,平成9年9月に保守業務の大半がAの手から離れたことに起因するものであり,被告は,Aに対し,業務量が過重な状態で,新たな業務を担当させたわけではない。 Aは,J-スカイ関連業務を担当した際,実質的な責任者ではなく,技術的知識を要する業務を担当することはなかったものであり,上記と同様に,契約社員4人程度の取りまとめを行っていたにすぎない。 原告らは,スカイウォーカー及びJ-スカイ関連業務の重要性を強調するが,被告において,これらの業務について重要な役割を担っていたのは,開発業務及び営業業務の関連部署である。 (オ)本件ISO取得関連業務について本件ISO取得の対象となったのは,Aが所属していた技術センターの業務のうち,取扱店から寄せられる顧客からの2次対応業務や,ネットワーク異常があった場合の連絡,部内の教育などのみであり,テスター関連業務などは対象外とされていたものである。したがって,技術センターの業務は本件ISO取得関連業務にほとんど影響を受けなかった。 また,Aは,プロジェクトチームのメンバーではなく,本件ISO取得に責任ある立場にあったわけでもなく,また,本件ISO取得のために休日出勤をしたこともない。 以上のとおり,本件ISO取得関連業務がAに心理的負荷を与えるものでなかったことは明らかである。 (カ)被告への転籍についてAは,平成7年ころは,ケンウッドへの復帰を望んでいたが,平成9年1月に被告に提出した平成8年度の自己申告表には,継続して被告で勤務したい旨を記載するな 明らかである。 (カ)被告への転籍についてAは,平成7年ころは,ケンウッドへの復帰を望んでいたが,平成9年1月に被告に提出した平成8年度の自己申告表には,継続して被告で勤務したい旨を記載するなどしていたのであるから,ケンウッドから被告へ転籍したことは,Aに心理的負荷を与えるものではなかった。 (キ)社内体制の変革について原告らは,組織体制の改革が頻繁に行われたことがAに心理的負荷を与えた旨を主張する。しかし,組織体制の改革があったからといって,業務内容の見直しが必ずされたわけではないし,職場環境がめまぐるしく変化したこともなく,業務内容の複雑化もなかった。また,Aが担当する業務と関係がない組織体制の改革がほとんどであった。したがって,被告における組織体制の改革は,Aに心理的負荷を与えていない。 また,原告らは,被告がボーダフォングループの傘下となったことがAに心理的負荷を与えたと主張するが,合併に伴い,Aの給与は年収ベースで増額されるなど,Aの待遇は上昇している。定年の関係についても,そもそもすべての労働者が必ず退職後に嘱託契約を締結することができたわけでなく,63歳までの雇用が保障されていたわけではない。 したがって,被告がボーダフォングループの傘下に入ったことは,Aに心理的負荷を与えていない。 原告らは,成果主義を中心とする新人事制度の導入がAに対し心理的負荷を与えたと主張する。しかし,このような人事制度の導入は広く一般に行われており,特別な心理的負荷とはならない。 Bは,Aに対し,Aが作成した自己評価シートについて,必要な箇所に記載がないなどの不備があったため,書き直しを指示し,その際には,チャレンジ目標が足りないことを指摘し,グループスタッフの育成や,修理完了データに関する目標を記入するよう提案するなど,具体的な指 に記載がないなどの不備があったため,書き直しを指示し,その際には,チャレンジ目標が足りないことを指摘し,グループスタッフの育成や,修理完了データに関する目標を記入するよう提案するなど,具体的な指示を行っている。そして,BのAに対する対応は,ほかの部下に対するものと変わるものではなく,Bは,Aを特別に扱ってはいない。また,Bは強権的タイプの上司ではない。 Aは,ケンウッドに在籍している間においても,ケンウッドの1部上場や,様々な新規分野の開拓による職場環境や担当業務の変化に直面したことがあったものであり,時代の変化に応じていく経験及び能力は有していたと考えられるから,被告の社内体制の変革がAに心理的負荷を与えることはなかったといえる。 (ク)時差出勤制度の導入平成13年8月から導入された時差出勤制度についても,Aは,週1日程度,また,1時間から2時間程度遅く出勤するようになっただけである。したがって,時差出勤制度の導入によりAが生活のリズムを維持 できないようになったわけではなく,Aが心理的負荷を受けることはなかったと考えるべきである。 エ本件異動について(ア)本件異動の経緯についてBとNは,退職を平成15年1月に控えたOとPの後任人事を検討したところ,c保守センターで当時使用されていた故障受付のマニュアルを作成したことがあるなどのAの経歴に照らし,Aがc保守センターの業務に習熟するのも早いと考え,Aが後任として適任であると判断した。 また,AをOとPの後任とすることは,Aの上司であったKの発案であるし,平成14年11月初旬には,M,B及びNの3人においてAが後任として適任であるとの意見の一致をみたことからしても,人選は合理的であった。 そして,本件異動をAに打診すると,Aが本件異動を拒んだため,BとNは,c保守センター M,B及びNの3人においてAが後任として適任であるとの意見の一致をみたことからしても,人選は合理的であった。 そして,本件異動をAに打診すると,Aが本件異動を拒んだため,BとNは,c保守センターにおける業務量が大幅に減少する予定であることなどを説明し,再三の説得を試みた。しかし,Aは,本件異動を執ように拒み,Nと話し合っていた際に,激こうして,Nに対し,「自分を辞めさせたいのか。」と何度も繰り返した。これに対し,Nは,そのようなつもりはない旨を述べたが,Aが本件異動を執ように拒むため,Nは,あきれ果てて「勝手にしたらいいではないか。」と告げたことがあった。また,同様に,Aは,Bに対しても本件異動を執ように拒んだため,BがAに「Aさん,甘えているんじゃないの。」と言ったことがあった。ただし,BとNは,上記のやりとりにおいて,Aに対して「嫌なら辞めろ。」と言ったことはない。 なお,本件異動は,降格や賃下げを伴うものではなかった。 以上からすれば,本件異動の経緯において,Aが心理的負荷を受けることはなかったというべきである。 (イ)本件異動命令後の業務内容の変化についてAがc保守センターにおいて担当する予定となっていた業務は,携帯電話機の修理期間中に使用される代替機の管理及び修理済み携帯電話機の顧客への発送などが主であった。原告らが主張する在庫品の管理及び配送は行っておらず,また,修理品の受付についても頻度は少なく,主業務というものではない。 そして,Aは,平成8年ころに本社保守センターに在籍していたこともあり,保守業務の基本については理解していたところ,被告は,かかるAの経験を踏まえて,c保守センターの業務を担当させることにしたものである。 したがって,Aが本件異動命令後に業務内容が変化したことにより心理的負荷を受けたとはいえ 解していたところ,被告は,かかるAの経験を踏まえて,c保守センターの業務を担当させることにしたものである。 したがって,Aが本件異動命令後に業務内容が変化したことにより心理的負荷を受けたとはいえない。 (ウ)本件異動後の業務量についてAがOとPから業務を引き継ぐ以前のc保守センターの業務内容は,別紙2c保守センター業務一覧表の管理業務(以下「別紙管理業務」という。)及び担当業務(以下「別紙担当業務」という。)の各業務であった。ただし,平成11年1月ころから,別紙担当業務については佐川物流及び軽急便の2社と適宜分担して行っていたものである。AがOとPから業務を引き継ぐに当たっては,別紙担当業務を佐川物流に全面的に業務委託することとなり,Aが担当する業務は,別紙管理業務のみとなった。さらに,別紙管理業務の量自体も大幅に減少する予定であった。 また,テスター業務とは,各取扱店や取扱店に貸し出している電池テスターや携帯電話機テスターの管理・発送等をする業務であるが,そもそもテスターは,ほとんど故障することがなく,新規取扱店の開設時以外は,2年に1回のメンテナンスの際に配送などが行われる程度であった。そして,c保守センターにおいて,Aが継続して担当することにな ったテスター業務を行うために必要な時間は,毎月10時間にも満たないものであり,特別に過重な負荷が与えられるような業務ではない。 以上のように,c保守センターでの業務は決して過重なものではなく,Aに自殺を決意させるほどの多大な心理的負荷を与えるものではなかった。 (エ)前任者からの引継ぎ状況についてOとPは,退職する2か月以上も前である平成14年11月20日から十分な期間を与えて,業務引継ぎを開始したものであるから,OとPの後任としてAを決定した時期は,特に遅くなかった。 (オ 状況についてOとPは,退職する2か月以上も前である平成14年11月20日から十分な期間を与えて,業務引継ぎを開始したものであるから,OとPの後任としてAを決定した時期は,特に遅くなかった。 (オ)本件異動後の処遇についてAがc保守センターで業務を開始した後,平成14年12月4日まで,Aのパソコンはサーバーに接続されていなかったが,AがBに提出すべき書類は社内メールに添付されており,所定の書式に入力してもらう必要があり,O又はPのパソコンを借りれば送信することが可能であったため,Bは,Aに対し,社内メールを使うよう指示したものであり,Aに無理強いをしていないし,いじめてもいない。また,Aのパソコンがサーバーに接続されていなかったのも,Aが,異動直前まで使用していたパソコンをc保守センターでも使用しようとしていたためで,何ら他意はない。 (カ)通勤時間の長時間化等について本件異動後のAの通勤時間は,合理的な経路を選択すれば,乗換え時間を含めても1時間30分程度であり,従前よりも20分程度長くなるにすぎない。また,Aの左下肢機能障害は,日常生活にほとんど支障がない程度のものであったというべきである。 したがって,本件異動後の通勤時間やAの左下肢機能障害が,Aに心理的負荷を与えたということはない。 (3)争点③(被告の安全配慮義務違反の有無)について【原告らの主張】ア被告が負っている安全配慮義務違反の内容について(ア)被告は,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務(安全配慮義務)を一般に負っているが,安全配慮義務の具体的内容は,以下の4点である。 a適正労働条件措置義務労働者が過重な労働が原因となって健康を破壊して過労自殺することがないように,労働時間 安全配慮義務)を一般に負っているが,安全配慮義務の具体的内容は,以下の4点である。 a適正労働条件措置義務労働者が過重な労働が原因となって健康を破壊して過労自殺することがないように,労働時間,休憩時間,休日,労働密度,休憩場所,人員配置,労働環境等適切な労働条件を措置すべき義務b健康管理義務必要に応じ,メンタルヘルス対策を講じ,労働者の精神的健康状態を把握して健康管理を行い,精神障害を早期に発見すべき義務c適正労働配置義務精神障害にり患しているか又はその可能性がある労働者に対しては,その症状に応じて,勤務軽減,作業の軽減,就業場所の変更等労働者の健康保持のための適切な措置を講じ,労働者の精神障害等に悪影響を及ぼす可能性のある労働に従事させてはならない義務d看護・治療義務過労により,精神障害を発症したか又は発症する可能性がある労働者に対し,適切な看護を行い,適切な治療を受けさせるべき義務(イ)また,上記4つの安全配慮義務を更に具体化するものとして,労働安全衛生法に基づいて策定された事業場における労働者の心の健康づくりのための指針(以下「メンタルヘルス指針」という。)において推進することが示された以下の点がある。 aセルフケア労働者自身がストレスや心の健康について理解し,自らのストレスを予防,軽減あるいはこれに対処することbラインによるケア労働者と日常的に接する管理監督者が,心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行うことc事業場内産業保険スタッフ等によるケア事業場内の健康管理担当者が,事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに,その推進を担い,また,労働者及び管理監督者を支援することd事業場外資源によるケア事業場外の機関及び専門家を活用し,その支援を受けることイAの 業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに,その推進を担い,また,労働者及び管理監督者を支援することd事業場外資源によるケア事業場外の機関及び専門家を活用し,その支援を受けることイAのうつ病について予見可能性があったことについて(ア)予見可能性があるというためには,使用者が特定の具体的な疾病の発症や死亡の結果まで予見することまでは必要ではない。本件であれば,Aのうつ病の発症,増悪やそれによる自殺についての予見までは必要ではなく,Aが被告の業務に従事したことにより健康状態への悪影響を生じることが予見できれば足りると解すべきである。 また,被告は,上記アで主張した義務をすべて履行したとしても,Aの健康状態への悪影響を予見できなかった場合に初めて予見可能性が否定されると考えるべきである。 (イ)本件の検討a過重な業務にAを従事させていた事実等について争点②で主張したように,被告は,出向社員であるAが,開業の前後を通じて,長時間労働,顧客対応業務,エリア調査業務,スカイサービス関連業務等の過重な業務に従事していたことを認識していた。 被告は,本件異動により,Aの業務内容に変化が生じること,Aが本件異動を拒んでいたこと,BとNが,本件異動を強制したこと,本件異動までの準備期間が短かかったこと,二人分の仕事を任せるにもかかわらず,Aに十分な説明をしなかったこと及びAの通勤時間が長時間化することを認識していた。 以上の被告の認識からすれば,被告は,Aの健康状態への悪影響を予見できたはずである。 bAの様子についてAは,口腔心身症,口内炎等にり患しており,これらの症状が強いときには,口を動かしたり,舌を動かしていたところ,かかる外形的症状は,周囲の者が明確に認識できる異変であった。 また,Aは,本件異動後,誰の目にも明らか ,口内炎等にり患しており,これらの症状が強いときには,口を動かしたり,舌を動かしていたところ,かかる外形的症状は,周囲の者が明確に認識できる異変であった。 また,Aは,本件異動後,誰の目にも明らかなほどに落ち込んだ様子を呈しており,被告も,かかるAの様子を認識していた。 以上の認識からすれば,被告は,Aの健康状態への悪影響を予見できたはずである。 c健康診断内容の問診票の記載についてAは,毎年健康診断を受けており,その際の問診等において,①何となくだるい,②疲れやすくだるい,③よくいらいらする,④疲れがとれない,⑤よく眠れない,⑥何かと心配して不安になる,⑦気分転換がうまくゆかない,⑧眠れている方である,⑨職場や家庭に大きな変化があった,⑩楽しみや,生きがいがないとの回答をしていた。 そして,これらの回答を受けた被告としては,労働安全衛生法66条の4に基づき,うつ病等の精神疾患について医師の意見を聴くなどすべきであったのであり,そうすれば,被告は,Aがうつ病にり患していたことまで十分に予見できたはずである。 dAが死亡した後の被告の対応等 Bは,Aが死亡した後,原告らに対し,「僕が確かに強く言い過ぎました。」,「(Aの自殺について)思い当たる節があります。」と述べ,Nも「和解しましょう。」などと述べ,さらに,BやNらは,被告の東海支社限りで処理しようとした形跡がある。 これらの事実からすると,BとNは,Aの自殺について自らの責任が問われることに十分に理由があると考えていたといえるが,これは,BとNが本件異動を強行することにより,Aの健康状態への悪影響が生じることを予見できたことを裏付ける。 (ウ)以上より,本件において,被告の業務に従事することでAの健康状態への悪影響が生じることについて,被告の予見可能性に欠けるところはな 康状態への悪影響が生じることを予見できたことを裏付ける。 (ウ)以上より,本件において,被告の業務に従事することでAの健康状態への悪影響が生じることについて,被告の予見可能性に欠けるところはない。 ウ被告が安全配慮義務に違反したことについて(ア)うつ病発症に関する適正労働条件措置義務違反人事異動による配転,業務内容の大幅な変更,昇格があった場合,労働者は,その後3か月の間に精神的ストレスによる疾病にり患しやすいのであるから,使用者は,通常の業務負荷が多い場合に比較して,より一層,労働条件について配慮する必要がある。 これを本件についてみると,Aは,本件出向により被告で勤務することになり,業務内容に大幅な変更があったのであるから,被告は,Aに対し,より一層,その労働条件について配慮をしなければならない義務を負っていたにもかかわらず,Aに対して,特別なサポート体制を全くせず,職場内の組織を十分に整えることもせず,Aが上司に相談してサポートを受けることができない状況を放置し,Aを中間管理職として責任ある地位に就け,さらに,争点②で主張したように,Aを過重な業務に長時間労働等に従事させ,また,持ち帰り残業をもせざるを得ない状況に置いた。 以上より,被告の適正労働条件措置義務違反は明白である。 (イ)うつ病増悪に関する健康管理義務違反被告は,Aを担当課長という責任ある地位に就け,過重な長時間労働等に従事させてきたものである。したがって,Aは,特別に業務負荷が大きい者として,被告において,ラインによるケアとして個別の配慮が必要であったというべきである。しかし,被告は,BとNに対して,管理職に要求されるメンタルヘルスに関する最低限の知識も提供せず,また,BとNによる予防的な声掛け等の個別の配慮もしなかった。 さらに,被告は,Aが, いうべきである。しかし,被告は,BとNに対して,管理職に要求されるメンタルヘルスに関する最低限の知識も提供せず,また,BとNによる予防的な声掛け等の個別の配慮もしなかった。 さらに,被告は,Aが,職場で自己のうつ病り患について率直に述べることができるように,Aに対して必要な知識を提供し,かつ,職場の環境を整えるべきであったにもかかわらず,これを怠った。 そして,管理職及びAに必要な知識が提供されなかったため,事業場内産業保険スタッフ等によるケアもされなかった。 以上より,被告の健康管理義務違反は明白であり,また,被告がAのうつ病り患を認識していなかったとすれば,それ自体,健康管理義務違反を構成するというべきである。 (ウ)うつ病増悪に関する適正労働配置義務違反被告は,平成6年11月ころに,Aがうつ病にり患したにもかかわらず,その後も,従前と同様の業務に従事させ,さらに,顧客対応業務,エリア調査業務などにAを従事させただけではなく,被告経営上の重要性を有するスカイチームの責任者としての業務及び本件ISO取得関連業務という重大な責任を負う業務にまで従事させた。また,補助人員の配置等のサポート体制を整えることもなかった。 さらに,被告は,うつ病にり患しているAに対し,十分な配慮や説明をすることなしに本件異動を強行した。 したがって,被告の適正労働配置義務違反は明白である。 (エ)うつ病増悪に関する看護・治療義務違反Aは,自分でDクリニックに通院し,治療を受けていたが,被告がAを休養させるなどの措置を採らなかったため,Aは,満足な治療を受けることができなかった。 したがって,被告の看護・治療義務違反は明白である。 【被告の主張】ア(ア)原告らは,被告が適正労働条件措置義務,健康管理義務,適正労働配置義務,看護・治療義務なる義務を負っ ことができなかった。 したがって,被告の看護・治療義務違反は明白である。 【被告の主張】ア(ア)原告らは,被告が適正労働条件措置義務,健康管理義務,適正労働配置義務,看護・治療義務なる義務を負っている旨を主張する。 しかし,かかる原告らの主張は,安全配慮義務を一種の結果債務であると把握する考え方を前提とするものである点において妥当でない。 (イ)原告らは,メンタルヘルス指針の実施が,使用者の安全配慮義務の内容となっていた旨も主張する。 しかし,メンタルヘルス指針は,そもそも,労働安全衛生法などの法律上の根拠に基づいて作成されたものではなく,単なる指針にすぎない。 そして,メンタルヘルスの方法論には様々な考え方があり,またメンタルヘルス指針を実施することには,労働者のプライバシーを不可避的に侵害又は制限してしまうなどの問題を内包している。 したがって,使用者は,労働者に対して,メンタルヘルス指針を履行すべき法的義務を負うものではないと考えるべきである。 イ予見可能性がなかったことについて(ア)予見可能性は,抽象的に健康への悪影響を予見できただけでは足りず,自殺という結果又は自殺するがい然性が認められる程度に重いうつ病やそのほかの精神疾患にAがり患していたことを被告が具体的に予見できたことが必要である。 そして,労働時間の短縮等の特別の結果回避措置を講じるべき義務が生じる前提となる予見可能性が認められるのは,①当該労働者の健康状 態の悪化を使用者が認識していた場合,②労働者又はその家族等が使用者に労働者の健康状態の悪化を申告してきた場合,③使用者が,定期健康診断等の結果として専門医から指摘を受けた場合,④社会通念上許容される範囲を超えた客観的にみて過酷な勤務状況であった場合,⑤職場において特異な言動を見せていた場合などであるという 使用者が,定期健康診断等の結果として専門医から指摘を受けた場合,④社会通念上許容される範囲を超えた客観的にみて過酷な勤務状況であった場合,⑤職場において特異な言動を見せていた場合などであるというべきである。 (イ)本件の検討a被告は,本件出向からAが自殺するまでの間に,A及び原告らからうつ病り患等のAの精神状態の悪化や薬の服用について何ら申告を受けていない。また,被告は,本件出向の年である平成6年から平成14年までの間にAが受診した定期健康診断及び人間ドッグのいずれにおいても,これらを担当した診療機関からAの健康状態に関して異常な所見があることの報告を受けていないし,問診票などの交付も受けていない。これにより,被告は,Aの健康状態の悪化を認識できなかったものである。 なお,定期健康診断における医師の注意義務の水準は,一般の臨床医を基準とすべきであって,精神科医を基準とすべきではない。そして,使用者が労働者に対して労働時間の短縮等の必要な措置を講じるべき義務が生じるのは,定期健康診断等における医師の意見を端緒とすれば足り,その際には,専門家たる医師の判断を尊重すべきなのであって,使用者が定期健康診断等のすべての過程に関与して,労働者が何らかの疾病にり患している可能性がないかを探求しなければならないというものではない。 bまた,Aは,本件出向から自殺するまでの間に,服装等に特に乱れもなく,体型に目立った変化もなく,特異な言動を見せることもなかった。Aが,職場において,抗うつ剤等の薬やそれを服用しているところや口や舌を動かすといった様子を目撃した被告従業員はいない。 cさらに,Aが担当していた業務内容は,争点②で主張したとおり,それ自体過酷なものとは到底いえず,Aは,頻繁に有給休暇も取得し,その労働時間も平均的な労働者と を目撃した被告従業員はいない。 cさらに,Aが担当していた業務内容は,争点②で主張したとおり,それ自体過酷なものとは到底いえず,Aは,頻繁に有給休暇も取得し,その労働時間も平均的な労働者と比べて極めて短かかったものであるから,Aが社会通念上許容される範囲を超えた客観的にみて過酷な勤務状況にあったものではない。したがって,かかるAの勤務状況からは,Aがうつ病ないしその他の類似する精神疾患にり患することを予見することはできない。 d上記ア(イ)で主張したとおり,メンタルヘルス指針の履行は安全配慮義務の内容をなすものではないが,上記aからcで主張した本件の各事情に照らせば,仮に被告がメンタルヘルス指針に従った体制を構築していたとしても,Aがうつ病ないしその他の類似する精神疾患にり患していることを予見できたとはいえない。 (ウ)以上より,被告は,Aがうつ病にり患していたとしてもこれを認識できず,また,Aがうつ病ないしその他の類似する精神疾患にり患していることを予見できなかったのであるから,Aのうつ病増悪を予見することも不可能であり,Aの自殺に関する予見可能性もなかったものである。 ウ安全配慮義務違反がなかったことについて(ア)使用者が労働者に対して負うべき安全配慮義務(結果回避義務)の内容については,従業員一般に対する措置を講じるべき義務と特別の事情の予見可能性が存在する従業員に対する措置を講じるべき義務の二段階に分けて考えられるべきである。 (イ)従業員一般に対する措置を講じるべき義務として,使用者が負う安全配慮義務の内容は,①健康診断を適切に行い労働者の健康状態を把握すること,②長時間労働による過労が生じないように労働時間を管理すること,③労働時間,休憩場所等の適正労働条件を確保することと解す べきである。 これ 健康診断を適切に行い労働者の健康状態を把握すること,②長時間労働による過労が生じないように労働時間を管理すること,③労働時間,休憩場所等の適正労働条件を確保することと解す べきである。 これらを本件について検討すると,被告は,健康診断を適切に行ってきたし,Aの労働時間は長時間労働とは到底いえず,その他の労働条件についても,何ら問題はなかった。 さらに,被告は,うつ病その他の精神疾患に関する啓もう活動を行い,また,産業医による巡視及び問診を行うなどのメンタルヘルスに関する諸策も講じるなど,メンタルヘルス対策には積極的に取り組んできたものであり,一般の会社と比べても,その取組は決して劣っているとはいえない。 そして,これらの結果回避義務は,本件出向後からAが自殺するまで,いずれの時期においても尽くされている。 (ウ)特別の事情の予見可能性がある従業員に対する措置を講じるべき義務における特別の事情とは,例えば,従業員自らが精神疾患にり患していることを申告している場合や,周囲の従業員が,日常業務を行う過程において,明らかにある特定の人物の様子がおかしいなど精神的変調を見い出し得る場合のことを指す。このような特別の事情がある場合には,使用者は,一般的な義務を超えて,当該従業員に特別な配慮を講じるべき義務を負うと解される。しかし,Aについては,このような特別の事情が全く認められなかったものであるから,被告はAに対して,特別な配慮を講じるべき義務を負うものではない。 (4)争点④(損害額)について【原告らの主張】Aは以下の損害を受け,その合計額は,1億0655万3245円となるが,原告Fはその2分の1に当たる5327万6623円の損害賠償請求権を,原告G及び原告Hはその4分の1に当たる2663万8311円の損害賠償請求権を,それぞれ相 は,1億0655万3245円となるが,原告Fはその2分の1に当たる5327万6623円の損害賠償請求権を,原告G及び原告Hはその4分の1に当たる2663万8311円の損害賠償請求権を,それぞれ相続した。 ア逸失利益6370万4565円Aの平成14年分の所得である803万9697円(341日分)を365日に引き直して計算すると,Aの死亡時の年収は,860万5541円となる。Aは,死亡時には満55歳で,少なくとも67歳までの12年間が就労可能であり,中間利息控除の趣旨からして,中間利息の利率は,年2%と解すべきであるところ,かかる利率に基づく就労可能年数12年のライプニッツ係数は,10.57534である。 そして,生活費控除率を30%として,逸失利益を計算すると,その額は,6370万4565円となる。 イ慰謝料3000万円被告の安全配慮義務違反により,Aは本件異動後に本件自殺に至ったものであるところ,初孫も含めた家族とこれから迎えるはずであった楽しみも喜びも奪われることになったこと,部屋中を荒らしてしまうほどの心境で自殺に至った無念さなどの事情を考慮すれば,Aが受けた著しい精神的苦痛に対する慰謝料は,3000万円を下らない。 ウ葬儀費用184万8680円Aの死亡により,葬儀費用として,原告らは,中日本葬儀社ナゴヤ香流苑に対して葬儀料142万7680円及び貸し衣装代2万1000円,名古屋市東区d町にあるU寺に対して40万円をそれぞれ支払った。 エ弁護士費用1100万円原告らは,被告との間で,Aの死亡に関する被告の安全配慮義務違反について交渉を進めてきたが,被告は,自らの責任を否定する態度を示し続けた。そのため,原告らは,弁護士に依頼した上での本件訴訟の提起を余儀なくされたが,その弁護士費用は,1100万円を下らない 違反について交渉を進めてきたが,被告は,自らの責任を否定する態度を示し続けた。そのため,原告らは,弁護士に依頼した上での本件訴訟の提起を余儀なくされたが,その弁護士費用は,1100万円を下らない。 【被告の主張】ア被告では60歳が定年とされているから,被告が支払っていた賃金を基 準に逸失利益を計算することが許されるのは60歳までであって,それから67歳までは,賃金センサスによる高卒労働者の平均賃金を用いるべきである。 イ中間控除利息については,民法所定の年5%で計算すべきである。 ウ原告らは,安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権を相続したと主張しているのであって,葬儀費用は損害に含まれない。 エ原告らの請求する慰謝料は,過大である。 第3当裁判所の判断 被告におけるAの業務内容等について前記争いのない事実等及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1)Aの性格,障害及び趣味(甲10の1・2,69,70,75,84,91の4,乙212,証人B,証人N)Aは,まじめでき帳面な性格であり,神経質な面があった。 Aは,左下肢機能障害を有しており,左足のふくらはぎ部分にほとんど筋肉がなく,左足のすねから下を固定する装具を身に付けており,障害の程度は,Ⅱ種4級であった。しかし,Aは,歩行に際して足を引きずる感じがあったが,健常者と同程度の速度で歩くことができた。 また,Aは,昭和56年ころから卓球を始め,その後も卓球を続け,平成4年ころから,卓球を活動の中心とするVクラブに所属していた。Aは,おおむね週1回程度,同クラブのメンバーと卓球をしていた。 (2)本件出向までのAの経歴等(甲84,乙119の2)Aは,工業高等学校を卒業後,昭和42年7月,ケンウッドに就職し,四日市営業所,中京サービスセンタ 程度,同クラブのメンバーと卓球をしていた。 (2)本件出向までのAの経歴等(甲84,乙119の2)Aは,工業高等学校を卒業後,昭和42年7月,ケンウッドに就職し,四日市営業所,中京サービスセンター,九州支社及び関西サービスセンター等において勤務した。Aが従事した業務内容は,主に音響機器の修理及び修理担当者に関する管理的な業務であった。 (3)本件出向後から東海デジタルホンが開業するまでの期間におけるAの業務内容について(甲12,乙213,214,証人B,証人K)アAは,本件出向後,サービス課の担当課長として,東海デジタルホンが開業する前日の平成6年7月25日ころまで,取扱店が顧客の苦情を受け付けたときの苦情処理に関する取扱店マニュアル等の作成,各種携帯電話機製造メーカーとの修理契約の締結交渉などの業務,取扱店マニュアル等を使用した取扱店等の指導育成業務に従事した。Aは,取扱店マニュアル等の作成に当たり,東海デジタルホンに先行して開業していた関連会社のマニュアル等を参照していた。 なお,被告における担当課長という役職は,課長の下の位置づけであり,一般の会社において課長が管理職として担うような職責を負うものではない。 イ被告は,当初の開業予定日を平成6年12月1日としていたが,同年3月17日の経営会議において,開業時期の繰上げを決定し,結局,同年7月26日に開業した。上記開業の前後ころ,どの部署も忙しい状況にあった。 (4)被告開業後から本件異動までのAの業務内容について(甲12,乙211,213,証人K,証人N,証人B)ア故障受付業務等Aは,被告開業後から平成9年9月1日の業務分掌規程の変更まで,取扱店の指導研修,顧客や取扱店から寄せられる携帯電話の取扱い方法等に関する問い合わせ及び顧客の苦情への対応に従事した。こ 障受付業務等Aは,被告開業後から平成9年9月1日の業務分掌規程の変更まで,取扱店の指導研修,顧客や取扱店から寄せられる携帯電話の取扱い方法等に関する問い合わせ及び顧客の苦情への対応に従事した。これらの業務のうち,携帯電話の取扱方法等に関する問い合わせ及び顧客の苦情への対応については,Aが1日当たり5件程度直接対応することもあったが,基本的には,お客様センターのオペレーター(派遣社員を含む。)やAの所属部署の女性社員が技術的な事項も含めて1次対応をし,1次対応で処理しき れない場合に,Aが1次対応者から質問を受けて回答するという2次対応が基本とされていた。また,A以外の担当課長もかかる2次対応に従事していた。 平成6年8月ころ,カスタマーサービス部における顧客からの電話への応答率は,85%であったが,顧客数が増加するとともに,問い合わせの電話の数が増加して,徐々に応答率が低下し,同年10月には,応答率が20%を下回る事態に陥った。そこで,被告は,同年11月,カスタマーサービス部に配属する派遣社員の数を,それまでの10人から44人に増やしたところ,応答率は,85%台に回復した。 Aは,そのほか,取扱店における修理対応に必要なアンテナ工具,携帯電話機テスター及び電池テスターについて,新設取扱店への取扱い指導や,保守管理,手配(発送)業務などをしていた。 イエリア調査業務などAは,平成9年9月1日,技術センターに担当課長として配属され,上記アの故障受付業務から離れ,携帯電話機及び付属品並びにネットワークに係る技術判断に関すること,携帯電話機及び付属品の修理に係るメーカーとの契約に関すること,故障の責任判断に関すること,エリア調査業務(客から携帯電話が通話中に切れるとか,つながらないという苦情の多い地域に直接出かけて電波状況を調査し 及び付属品の修理に係るメーカーとの契約に関すること,故障の責任判断に関すること,エリア調査業務(客から携帯電話が通話中に切れるとか,つながらないという苦情の多い地域に直接出かけて電波状況を調査して,ネットワーク上の問題があれば,ネットワークセンターに対して基地局の増設や既存基地局のアンテナの角度を変えてもらうよう依頼することなどを内容とする業務)などを担当することになった。なお,技術センターには,携帯電話機の技術・品質管理専任の技術系従業員4人が配置されていた。 ウスカイウォーカー・J-スカイ関連業務Aは,平成9年11月25日に開始されたスカイウォーカーのアフターサービス業務を扱うスカイチームの責任者を担当することになった。 上記アフターサービス業務は,顧客からの携帯メール関連の操作方法の問い合わせがあった場合の説明や携帯メール通信障害の苦情があった場合の原因を調査し,ネットワーク障害等があれば,その旨をネットワークセンターに報告することを内容としていたが,かかる業務は,オペレーターが1次対応をして,スカイチームの女性社員(4人程度)が2次対応をする形で遂行されており,Aは,上記2次対応の女性社員を補助するという3次対応の役割を主に担っていた。 Aは,J-スカイ開始後も,平成12年末ころまで,同様にスカイチームの責任者を務めていたが,そのころ,ジャバと呼ばれる新機能のソフトを搭載した携帯電話が市場に出まわることが予想されたため,被告は,平成13年初めころ,パソコンの知識が豊富なZをJ-スカイのアフターサービス業務の責任者とすることにした。 なお,Aは,スカイチームの責任者を務めている間,一般顧客からの問い合わせに対応することがあったが,スカイチーム関連の顧客対応と一般顧客への対応を合わせても,その業務量は,KやNと同程度であ した。 なお,Aは,スカイチームの責任者を務めている間,一般顧客からの問い合わせに対応することがあったが,スカイチーム関連の顧客対応と一般顧客への対応を合わせても,その業務量は,KやNと同程度であった。 エ新機種及び新サービスへの対応(甲12,乙213,証人B・6頁,証人K・6頁,29頁)被告の顧客数は順次増加し,携帯電話機の新商品が続々と投入され,また新サービスが展開され,会社の体制の整備や基地局の改善などが急務となったが,その反面,携帯電話機の性能も向上したので,Aが担当していた2次・3次的対応業務の件数は横ばいであり,携帯電話機の新商品が発売される場合や,新サービスが始まる場合には,開発担当者などから,Aが所属するアフターサービス部門に対して,適宜,講義がされたり,新機種が発売される1か月くらい前に,試用機と取扱説明書で操作要領を習得するなどして顧客対応に備えた。また,新機種が発売される際には,極力,特定の者が当該機種に関する顧客対応を担当することになっていた。 (5)Aの時間外労働時間及び休日取得状況について(乙1から105≪枝番含む≫,乙214,証人K)ア本件出向当時,被告では,社員が残業をする場合には,社員自らが,超過勤務命令簿に,月日,用務及び超過勤務時間などを記入し,その日のうちに上司の机の上に提出し,上司が,翌日に内容を確認して決裁する方法が採られていた。 そして,本件出向後から平成14年12月6日までの超過勤務命令簿上のAの時間外労働時間,超過勤務日数,休日出勤日数及び有給休暇取得日数は,別紙1勤務時間等表の命令簿記載時間欄,超過勤務日数欄,休日出勤欄及び有給休暇欄にそれぞれ記載のとおりであり,1か月の法定労働時間を超える超過勤務時間は,おおむね別紙1勤務時間等表の被告主張時間欄に記載のとおりとなる 命令簿記載時間欄,超過勤務日数欄,休日出勤欄及び有給休暇欄にそれぞれ記載のとおりであり,1か月の法定労働時間を超える超過勤務時間は,おおむね別紙1勤務時間等表の被告主張時間欄に記載のとおりとなる。これが,Aの時間外労働時間及び休日取得状況を示すものである。 イ原告らは,Aが,平成6年5月から同年6月にかけて,午前2時ないし3時までの残業をしたり,午前3時ないし4時まで自宅で取扱店マニュアル等の作成をすることが何度もあった旨を主張し,これに沿う証拠(甲79,82,84,原告F)がある。 そこで検討するに,超過勤務命令簿の命令時間が,各日ごとに区々であること,上司がAに対して残業時間を過少申告をするように明示又は黙示に申し向けた事実を認めるに足りる証拠がないこと,Aが在籍出向者であり,Aの給与はケンウッドから支給されていたので(乙128の1・2),被告がAに対して時間外労働時間を過少申告させる動機が乏しいこと,給与支払明細書と超過勤務命令簿の時間が異なるのは,被告の出務表の期間(毎月1日から末日)とケンウッドの給与計算期間(毎月16日から翌月15日)が異なるという事情に基づくものであることに照らせば,超過勤務命令簿の時間は,実際の時間外労働時間をほぼ示すものと推認できる。 証拠(甲79)によれば,Aが自宅で被告の業務に関連した書類を作成したことがあったと認められるが,その頻度は不明であり,かかる自宅における業務関連書類の作成について,被告の明示又は黙示の命令があったと認めるに足りる証拠はない。以上より,原告らの上記主張は採用できない。 (6)ISO9002の認証取得について(乙178,211,213,証人N,証人K)ア被告は,平成12年1月,本件ISO取得に向けた取組を開始することとした。 本件ISO取得の意義は,サービス (6)ISO9002の認証取得について(乙178,211,213,証人N,証人K)ア被告は,平成12年1月,本件ISO取得に向けた取組を開始することとした。 本件ISO取得の意義は,サービス品質の向上に向けた全社的な業務改革取組体制の構築や法人・官公庁向けのビジネス拡大への効果,株式公開を見据えた被告の企業価値の向上などにあるとされ,初期段階の認証審査対象部門には,お客様サービス部が含まれていた。 被告は,ISO管理責任者,各認証取得対象部門の代表らをメンバーとするISO推進プロジェクトチームを設けて,本件ISO取得への取組を推進することとした。 イAが所属するお客様サービス部技術センターからISO推進プロジェクトチームのメンバーに選出されたのは,Zであり,技術センターの所管業務で認証取得の対象とされたのは,顧客の苦情等への対応業務,ネットワーク異常があったときの連絡,部内教育等であり,当時,Aが担当していた電池テスター業務及び携帯電話機テスター業務は対象外とされた。 AがZの指示で同人を手伝うということはなかった。 (7)被告への転籍について(乙119の1,213,証人K・10頁)Aは,人事関係の希望に関する自己申告表において,平成7年11月29日の面談に際して,ケンウッドに復帰する意向を記載していたが,平成9年1月22日の面談に際しては,ケンウッドに復帰する意向を撤回し,被告で 勤務を続けたい旨を記載していた。そして,Aは,平成13年4月1日付けで被告に転籍した。 (8)時差出勤制度について(乙89から105まで)Aの始業時間は,本件出向後,午前9時からであった。被告は,平成13年8月から時差出勤制度を導入し,Aは,おおむね,下記各ⅰの始業時間を基本として,週に1回程度,下記各ⅱ又はⅲの始業時間に合わせて出勤した。 間は,本件出向後,午前9時からであった。被告は,平成13年8月から時差出勤制度を導入し,Aは,おおむね,下記各ⅰの始業時間を基本として,週に1回程度,下記各ⅱ又はⅲの始業時間に合わせて出勤した。 記①平成13年8月から平成14年3月までⅰ午前9時,ⅱ午前10時②平成14年4月ⅰ午前9時30分,ⅱ午前10時③平成14年5月以降ⅰ午前9時30分,ⅱ午前10時,ⅲ午前11時20分(9)新人事制度及び自己評価シートの書き直しをめぐるBの対応等についてア新人事制度について(甲5)平成14年4月から導入された新人事制度は,自己責任による人生の選択を目指し,①等級制度(ミッショングレードによる役割機能の明確化),②人材活用(ジョブポスティングの導入による社員と組織の自律),③評価制度(ミッショングレードとMBOに基づく納得,公平性があるオープンな評価システム),④給与制度(業績・成果を反映した報酬体系,市場競争力のある報酬水準)を骨子とするものであった。 ミッショングレードとは,会社の目標を達成していく上で,各段階の人材が果たすべきミッション(課題)を定義し,これに基づいてグレード(等級)を設定するもので,会社が必要としているミッションを果たせるか否かが評価されるものとされていた。ミッショングレード内における評価は,MBOにおける「目標達成度(貢献度×達成レベル)」と「ミッシ ョン遂行度(行動指針の遵守度)」から行われる。ミッション遂行度の評価は年に1回行われ,これが昇格や降格の基準とされたが,同一グレード(等級)での累積点を基に昇格,降格が行われる。 なお,平成14年4月1日,Aの給与は,年収ベースで増額されることになった。 イ自己評価シートの書き直しをめぐるBの対応等について(乙218,証人N,証人B)Aは, を基に昇格,降格が行われる。 なお,平成14年4月1日,Aの給与は,年収ベースで増額されることになった。 イ自己評価シートの書き直しをめぐるBの対応等について(乙218,証人N,証人B)Aは,新人事制度の導入により,平成14年5月ころ,自己評価シートを作成して,1次評価者であるBに提出することになった。 自己評価シートにおいては,期初における目標テーマを3項目設定し,目標テーマの設定においては,数値目標を含めることとされており,その旨は,Aに対しても通知されていたが,Aは,テスターの維持管理に関する項目を2項目に分けて書いただけで,それ以外に書く項目がないとBに相談した。そこで,Bは,テスターの維持管理に関する項目を一つにまとめた上で,チームリーダーとしての役割であるグループスタッフの育成や故障の受付率などを見て,メーカーのサービスセンターに働きかけることなどを内容とする修理完了データに関する目標を記入するように提案し,それらの業務についても積極的に取り組むように告げた。 その後,Aは,Bに対し,設定目標の実現に関して,書き直した自己評価シートを再提出した。しかし,Bが再提出された自己評価シートを見分すると,文章の書き方として適切でない箇所があり,また,目標値の欄に具体的な数値目標が記載されていなかったため,週又は月に1回といった数値目標を示すべきである旨などの提案をして,自己評価シートの書き直しを指示し,結局,Aは,3回程度,自己評価シートを書き直した。 なお,Bは,A以外の社員に対しても自己評価シートの書き直しを指示していた。 (10)本件異動についてア本件異動の経緯について(甲61,63,84,98の1,2,甲99,乙211,213,218,証人N,証人K,証人B)(ア)Kは,平成14年3月までAの上司であったが 10)本件異動についてア本件異動の経緯について(甲61,63,84,98の1,2,甲99,乙211,213,218,証人N,証人K,証人B)(ア)Kは,平成14年3月までAの上司であったが,平成13年ころから,保守センターと技術センターの業務が関連していたこと,及びAが以前に故障受付センターに在籍しており修理品等の物の流れを十分に理解していると考えたことから,AをOとPの後任とすることが適当であると考えていた。なお,Kは,c保守センターにおける業務委託の内容を見直せば,OとPの後任はA一人で十分であると考えていた。Kは,AがOとPの後任として適当であることを,MとNに伝えた。 (イ)Nは,平成14年9月ころ,Mとの間で,OとPの後任人事を検討し,Aが後任として適当であることで意見が一致した。なお,Nは,Aが1次対応のメンバーを仕切れていなかったため,c保守センターで定型的な業務に従事することがAにとってもよいと考えていた。 そこで,Nは,そのころ,喫煙室において,Aに対し,「PさんとOさんの後任は,Aさんしかいないよね。」と言ったところ,Aは,「できれば移りたくない。ほかに適任者がいないかを当たってほしい。」と言った。 (ウ)N,B及びMは,AがOとPの後任となることに消極的な態度であったこともあり,平成14年11月初めころ,OとPの後任人事を再検討したが,A以外に適任者はおらず,Aを後任とすることで3人の意見が一致した。なお,Bは,駅前事務所における技術センターの業務とc保守センターの業務が密接に関連しているところ,Aが保守業務に継続して携わってきたこと,Aと駅前事務所の技術サポートグループのメンバーとの間に人間関係が構築されており,Aがc保守センターで勤務することになった後も,駅前事務所の技術サポートグループとc保守 に継続して携わってきたこと,Aと駅前事務所の技術サポートグループのメンバーとの間に人間関係が構築されており,Aがc保守センターで勤務することになった後も,駅前事務所の技術サポートグループとc保守セン ターとの間で日常業務における連携が取りやすいと考えたため,AがOとPの後任として適当であると考えた。 dそこで,BとNは,Mの指示を受けて,ミーティングブースにおいて,Aに対し,OとPの後任としてc保守センターで勤務すること,平成14年11月下旬から引継ぎを開始すること,正式な勤務の開始は同年12月2日からとなることを伝えた。なお,引継ぎの開始を平成14年11月下旬からとした理由は,同年11月と12月の2回にわたって月次棚卸しをOとPとともに行えば,これを習得しやすいと考えたことにあった。 これに対し,Aは,c保守センターの業務がそれまで経験したことがない物流業務であること,OとPにより遂行されていた二人分の業務を一人で遂行することはできないこと,テスター業務も引き続き担当しなければならず更に負担が重くなること,通勤時間が長くなることを理由に,OとPの後任となることを拒絶した。 上記のように,AがOとPの後任となることを拒絶したため,BとNは,3回程度の面談を実施し,また,喫煙所において,本件異動に関する話をするなどしたが,その都度,BとNは,Aには保守業務の経験があること,同じ技術サポートグループ内での業務であること,c保守センターにおける業務量が従前よりも減少する予定であることなどを説明し,また,通勤時間についても合理的な通勤経路を提案するなどして説得を試みた。ただし,c保守センターにおける業務量の減少については,書面等によって具体的な説明が提示されることはなく,口頭による説明がされたにとどまった。 テスター業務については 提案するなどして説得を試みた。ただし,c保守センターにおける業務量の減少については,書面等によって具体的な説明が提示されることはなく,口頭による説明がされたにとどまった。 テスター業務については,Aは,従前,各取扱店に貸し出している電池テスターや携帯電話機テスターの管理業務及び発送業務を担当していたところ,上記発送業務をc保守センターにおいて行うことが不可能で あったため,Aは,上記管理業務のみを本件異動後は担当することになっていた。なお,上記管理業務は,台帳管理等を内容とするものであり,業務遂行に必要な時間は,1か月に5時間程度であった。 eAは,上記dのBとNによる説明に納得せず,平成14年11月中旬ころ,Nに対し,「自分を辞めさせたいのか。」と強い調子で言った。 Nは,かかるAの発言を受けて,本件異動を拒み続けるAの態度にあきれ果て,「勝手にしたらいいではないですか。」と述べた。また,同日,Bも,喫煙所において,Aと本件異動に関する話をしたが,再三にわたる説明にもかかわらず,Aが「保守センターでやっていく自信がない。」と言ったため,「Aさん,甘えているんじゃないの。」と強い調子で言った。その後,Aは,BとNに対し,本件異動を承知した旨を明言したことはなかった。 fAは,平成14年10月24日,原告Fに対し,「今日の面接で年明けに佐川倉庫に異動になる可能性あり。通勤に2時間かかるので行きたくないけど。」と携帯メールを送った。また,Aは,平成14年11月15日ころ,原告Fに対し,「会社で異動に伴う業務の件で頭にきた。 いやならやめろとの暴言をうけた!」と携帯メールを送った。 gAは,平成14年11月18日,同年12月1日を始期とするc保守センターの最寄り駅である近鉄e駅までの通勤手当を申請した(以下「第1次通勤手当申請」と との暴言をうけた!」と携帯メールを送った。 gAは,平成14年11月18日,同年12月1日を始期とするc保守センターの最寄り駅である近鉄e駅までの通勤手当を申請した(以下「第1次通勤手当申請」という。甲61)。第1次通勤手当申請における通勤経路は,市バス(f・g間),地下鉄(g・a間),近鉄線(近鉄a・e間)であった。 Aは,平成14年12月1日,平成15年1月1日を始期とするc保守センターの最寄り駅である近鉄e駅までの通勤手当申請を行った(以下「第2次通勤手当申請」という。甲63)。第2次通勤手当申請における通勤経路は,バイク(自宅・地下鉄h駅間),地下鉄(h・a間), 近鉄線(近鉄a・e間)であった。 イc保守センターにおける佐川物流への業務委託内容の変更等について(乙120の1・2,212,215,218,証人O,証人B)(ア)OとPは,別紙管理業務を行い,佐川物流で契約した派遣社員が別紙担当業務を行うこととされていたが,実際には,派遣社員は急に休むこともあったため,OとPは,別紙担当業務も手伝っていた。 (イ)c保守センターでは,顧客の携帯電話機が故障した際に,リンク機と呼ばれる故障した携帯電話機と交換するための携帯電話機の受払が,各取扱店とc保守センターとの間及び各修理拠点とc保守センターとの間でそれぞれ行われていた(なお,リンク機の在庫は保守在庫と呼ばれていた。)。 しかし,平成14年11月に,故障修理品の受付業務の体制が変更され,各取扱店と各修理拠点との間で直接行われることが多くなったため,c保守センターにおける各取扱店及び各修理拠点との間におけるリンク機の各受払の数が,それぞれ従前の約10分の1になることが見込まれることになり,また,これに伴い,リンク機の月次在庫管理,期末棚卸しの各業務量も大幅に減少する 扱店及び各修理拠点との間におけるリンク機の各受払の数が,それぞれ従前の約10分の1になることが見込まれることになり,また,これに伴い,リンク機の月次在庫管理,期末棚卸しの各業務量も大幅に減少することが予定されていた。この故障修理品の受付業務体制の変更及びc保守センター所管業務の減少の見込みは,Aも出席していたグループ内のミーティングで報告されていた。 (ウ)上記の故障修理品の受付業務体制の変更及びc保守センター所管業務の減少の見込みを受けて,Bは,平成14年11月中旬,Wに対し,佐川物流への委託業務及び管理費用の見直しをするように指示した。Wは,上記指示を受けて,佐川物流の担当者との間で協議を行い,平成14年12月2日,佐川物流との間に合意が成立した。なお,Wは,上記合意を,同月3日にBに対して報告し,Bは,上記合意内容を承認し,同月17日,関係者に対して,業務委託の内容及び管理費用の見直しの 結果を報告した。 上記合意においては,平成15年1月1日から,別紙担当業務を全面的に佐川物流において担当すること,Aが担当することになっていたテスター機の管理業務も新たに業務委託することとされた。これに伴い,佐川物流は,c保守センターで勤務していた派遣社員1名を,派遣社員の取りまとめ役になる正社員に替えることにした。 平成14年12月4日には,Aも出席した技術サポートグループのミーティングが開催されたが,Bは,Aに対し,佐川物流との上記合意内容を知らせなかった。 ウOとPからの引継ぎ状況について(甲89,90,乙212,証人O)(ア)Aは,平成14年12月2日から,c保守センターにおいて正式に勤務することになったが,OとPのAに対する業務の引継ぎは,これに先立つ平成14年11月20日,同月27日及び28日にも行われた。 OとPは,A 平成14年12月2日から,c保守センターにおいて正式に勤務することになったが,OとPのAに対する業務の引継ぎは,これに先立つ平成14年11月20日,同月27日及び28日にも行われた。 OとPは,Aに対する業務引継ぎに当たり,c保守センターにおける仕事の内容を記載した引継書を作成してAに交付し,各業務を実際にやりながら,Aに仕事の流れなどを説明した。Aは,OとPによる説明をノートに書き留めていた。なお,OとPは,Aに対し,仕事の流れを覚えてもらうために,OとPが遂行していた別紙担当業務を含む業務全般について説明したが,Aがそれらすべてを担当するものではないことや,どの業務が特に重要かについても言及していた。 (イ)原告らは,業務引継ぎはO又はPのいずれか一方が引継ぎをしているところに,他方が割り込むような忙しい状況下で行われたと主張し,これに沿う証拠(甲81,証人R・2頁等)がある。 しかし,Rの証言によれば,Aが1日に10回くらい,ふらっと喫煙のために席を外して,一度席を立つと,10分くらい戻ってこなかったことが認められるが,Aがそれほどの回数及び時間を喫煙に費やしてい たのであれば,Aには一定の時間的余裕があったといえるので,上記の原告らの主張に沿う証拠は採用できない。 ウ本件異動に係るAの勤務環境等について(甲56,59,60,67,乙217,218,証人N,証人O,証人B)(ア)Aがc保守センターにおける業務を遂行するに当たっては,パソコンの使用が必要であり,Aは,駅前事務所で使用していたパソコンを本件異動に際してc保守センターに持ち込んだ。しかし,平成14年12月2日当時,Aの席の最寄りの電源コンセントに空きがなかったため,Aは自ら持ち込んだパソコンを使用することができず,被告のホストコンピューターに接続することが ーに持ち込んだ。しかし,平成14年12月2日当時,Aの席の最寄りの電源コンセントに空きがなかったため,Aは自ら持ち込んだパソコンを使用することができず,被告のホストコンピューターに接続することが不可能な状態であった。そこで,Aは,パソコンが使えない旨を駅前事務所の社員に連絡し,また,Oは,延長コードの購入を佐川物流c倉庫のX所長に依頼するなどした。 Bは,Aのパソコンが被告のホストコンピューターに接続することが可能になる前に,Aに対し,平成14年度予算第4四半期実績見込みを記載した書類を作成し,社内メールに添付して送信すること及び送信に際しては,O又はPのパソコンを使用することを指示した。 結局,Aのパソコンは,Aが平成14年12月5日に自ら延長コードを持参したことにより,被告のホストコンピューターに接続することが可能になった。 (イ)Aは,本件異動に際し,Bに対し,c保守センターでの業務に必要であるとして,ロッカー(観音開き,高さ180センチのもの)を設置してほしい旨を要望した。これに対し,Bは,c保守センターの業務量が従来よりも大幅に減少するので,上記ロッカーを設置するまでの必要はないと判断し,代わりに技術サポートグループ内にあった書類キャビネット2本と袖机1台をc保守センターに移動することを許可し,平成14年12月2日,これらがc保守センターに設置された。 (ウ)本件異動に伴うAの給与額の引下げ,地位の降格はなかった。 (エ)第2次通勤手当申請における経路(ただし,近鉄a駅で急行電車に乗車し,近鉄i駅で普通電車に乗り換える。)に基づく通勤時間は,Aが左下肢機能障害を有していたことを前提に,原告ら及び被告による通勤実験の結果を総合すると,おおむね1時間30分である。 エc保守センターについて(乙220,証人O,証人N・ に基づく通勤時間は,Aが左下肢機能障害を有していたことを前提に,原告ら及び被告による通勤実験の結果を総合すると,おおむね1時間30分である。 エc保守センターについて(乙220,証人O,証人N・40頁)c保守センターは,佐川物流の倉庫様建物の一角に設けられた,マーケティング営業企画部の一部門である。また,駅前事務所の技術サポートグループは,毎週水曜日,駅前事務所において,OとPも参加するミーティングを開いていた。 c保守センターは,がらんとした感じはあったが,掃除はされており,整理はされていた。 (11)被告におけるAの様子等(証人N,証人K,証人O,証人B)アA及び原告らは,本件出向後からAが自殺するまでに間に,被告に対して,Aがうつ病にり患していること並びにDクリニック及びC病院精神科に通院していたことを報告しておらず,Aの同僚で,これを知る者もいなかった。また,Aは,職場において,特に異常な言動を見せることはなかった。なお,Aは,Kが被告に在任していた間,ほとんど毎日,K,Nと昼食を共にしていたが,KとNの面前で薬を服用することはなく,舌を気にして口を動かすなどの不自然なしぐさをすることもなかった。 イAは,月に2回から3回くらい頻度で,Kらと一緒に酒を飲みに行き,その際,ビール中ジョッキ1杯と焼ちゅうのお湯割りを2杯から3杯飲んでいた。Aは,2か月に1回くらいの頻度で,K,B,Nなどとマージャンをし,部内行事のボーリング大会にも参加していた。 Aは,K,Nに対し,家族のことや,週末に卓球をしていることなどを話していた。 (12)本件自殺(甲3,84,乙105)Aは,平成14年12月2日(月曜日),c保守センターにおいて正式に勤務し始め,同日と同月3日は,午前9時から午後5時50分まで勤務し,同月4日と同月5日 (12)本件自殺(甲3,84,乙105)Aは,平成14年12月2日(月曜日),c保守センターにおいて正式に勤務し始め,同日と同月3日は,午前9時から午後5時50分まで勤務し,同月4日と同月5日は,午前9時から午後7時まで勤務し,同月6日(金曜日)は,午前9時から午後5時50分まで勤務した。 Aは,平成14年12月7日(土曜日),自宅の和室において,首をつって自殺したが,自殺する前,上記和室の押し入れから扇風機などを取りだして,上記和室の至る所に物を散乱させ,上記和室を荒らしていた。 Aは,遺書を作成していなかった。 (13)Aの通院状況Ⅰ(C病院精神科)(甲73の2,乙193ないし197)アAは,平成6年11月17日,原告FとともにC病院精神科を受診し,その際,担当医師は,診療録に診断として「Depression」と記載し,Aに対し,下記の薬を6日分処方した。 記①アナフラニール錠10mg(うつ病・うつ状態及び遺尿症に効果がある。)②ドグマチール錠100mg(統合失調症及びうつ病・うつ状態に効果がある。)③ワイパックス錠1.0(神経症における不安・緊張・抑うつ,心身症における身体症候及び不安・緊張・抑うつに効果がある。)④ロヒプノール2⑤テトラミド錠10mg(うつ病・うつ状態に効果がある。)⑥リストシンイC病院精神科の担当医師は,平成6年11月29日,Aに対し,上記アの①,②,③,⑤,⑥の各薬及びサイレース1を14日分処方した。 ただし,アナフラニール錠10mgについては,初診時は1回3錠の処方であったが,これが1錠に減量された。 (14)Aの通院状況Ⅱ(Dクリニック)(甲10の1・2,甲11の4ないし11,乙200ないし206)ア第1次受診期間(ア)Aは,平成7年7月28日,Dクリニックを初 れが1錠に減量された。 (14)Aの通院状況Ⅱ(Dクリニック)(甲10の1・2,甲11の4ないし11,乙200ないし206)ア第1次受診期間(ア)Aは,平成7年7月28日,Dクリニックを初受診し,その際,D医師は,診療録に「VerlaufからみてDepression」(「経過からみてうつ」の意味)と記載し,Aに対し,下記の薬を7日分処方した。なお,このとき,Aに自殺念慮はみられなかった。 記①アンプリット錠10mg(うつ病及びうつ状態に効果がある。)②ミラドール(胃・十二指腸かいよう,統合失調症,うつ病・うつ状態に効果がある。)③エナデール④ソロン(胃薬)⑤レンドルミン錠(不眠症に効果がある。)(イ)Aは,同年8月8日,Dクリニックを受診し,その際,D医師は,Aに対し,アンプリット錠10mgをプロチアデン錠25(薬の効能は同じ。)に変更し,その他については上記(ア)の②ないし⑤の薬を14日分処方した。 イ第2次受診期間(ア)Aは,平成8年9月21日から平成9年3月25日まで,おおむね2週間から1か月の間隔をおいて,合計7回,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,上記ア(イ)と同じ投薬を,各14日分処方した。 (イ)Aは,平成9年4月15日,Dクリニックを受診し,その際,D医師は,Aに対し,レンドルミンについて,1回の処方量を2錠(2倍)として7日分に変更し,その余について上記ア(イ)と同じ薬を,各14日分処方した。 (ウ)第2次受診期間におけるAの症状の経過はおおむね良好であり,Aが自殺念慮をみせることはなかった。 ウ第3次受診期間(ア)Aは,平成9年9月1日,同月18日及び同年10月16日,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,上記イ り,Aが自殺念慮をみせることはなかった。 ウ第3次受診期間(ア)Aは,平成9年9月1日,同月18日及び同年10月16日,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,上記イ(イ)と同一かつ同期間の薬を処方した。 (イ)Aは,自殺念慮をみせることはなかったが,平成9年9月1日の受診において,D医師は,Aに対し,自殺念慮が出たら,家族又はD医師に告げてほしい旨の助言をした。 エ第4次受診期間(ア)Aは,平成10年3月2日から同年11月19日までの間,おおむね1週間から1か月半の間隔をおいて,合計12回,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,プロチアデン錠25,ミラドール及びエナデール等を14日分,レンドルミンを7日分,それぞれ処方した。 (イ)Aは,平成10年3月2日の受診の際,自殺念慮が時々ある旨を述べた。 オ第5次受診期間(ア)Aは,平成12年7月17日,Dクリニックを受診し,その際,D医師は,Aに対し,下記の薬を7日分処方した。Aは,その際,自殺念慮をみせたので,D医師は,原告Fの来院を促し,自殺の考えを自力でやめられないときは,家族又はD医師に自殺念慮があることを告げてほ しい旨の助言をした。 記①ソラナックス錠②プロチアデン錠25③ミラドール④ガスモチン(胃薬)⑤レンドルミン錠⑥ベゲタミン錠(統合失調症,老年精神病,そう病,うつ病又はうつ状態,神経症における鎮静及び催眠に効果がある。)(イ)Aは,平成12年7月22日から平成14年2月22日までの間に,おおむね1週間から1か月の間隔をおいて,合計29回,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,レンドルミンの処方量を1錠から2錠に増量し,ベゲタミンに代えてデパス(神経症に ,おおむね1週間から1か月の間隔をおいて,合計29回,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,レンドルミンの処方量を1錠から2錠に増量し,ベゲタミンに代えてデパス(神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害等に効果がある。)を処方した他は,上記(ア)と同じ薬を処方した。ただし,上記(ア)①ないし④は14日分処方している。この間,Aが自殺念慮をみせることはなく,受診するたびに,さほど憂うつではない旨をD医師に述べるなどしていた。 (ウ)Aは,平成14年4月4日から同年11月21日までの間に,おおむね1週間から1か月の間隔をおいて,合計12回,Dクリニックをそれぞれ受診し,各受診の際,D医師は,Aに対し,レンドルミンの処方量を2錠から1錠に減量したほか,上記(イ)と同じ薬を14日分処方した。この間,Aが自殺念慮をみせることはなく,Aは,さほど憂うつではない旨をD医師に述べることもあったが,平成14年11月11日,同月21日の受診では,気分が憂うつである旨をD医師に述べた。 争点①(Aのうつ病り患の有無,発症時期,程度及び経過)について(1)うつ病へのり患の有無及び発症時期について 上記1(13)で認定したとおり,Aは,平成6年11月17日,C病院精神科を受診し,その際,担当医師が診療録に「Depression」と記載しており(「Depression」は,通常,うつという意味で用いられる。),同担当医師は,Aに対して,うつ病に効果があるとされている薬を処方している。 したがって,Aは,遅くとも平成6年11月17日までに,うつ病にり患していたと認めるのが相当である。 (2)C病院精神科を受診していた際の症状の程度及び経過について上記1(13)で認定したとおり,C病院精神科の担当医師は,第2回目の診察におい でに,うつ病にり患していたと認めるのが相当である。 (2)C病院精神科を受診していた際の症状の程度及び経過について上記1(13)で認定したとおり,C病院精神科の担当医師は,第2回目の診察において,Aに対する,アナフラニールの処方量を減少させている。また,上記1(5)で説示したAの時間外労働時間及び休日取得状況からすると,Aにおいて,通院が困難なほど多忙であったとは認められないにもかかわらず,平成6年11月30日以降,平成7年7月28日にDクリニックを受診するまで,精神科に通院していなかったものである。 もっとも,証拠(甲29,30,33,乙198)によれば,Aは,平成5年9月27日から平成13年5月12日まで,口腔異常感症のため,S病院を月1ないし2回程度の割合で継続的に受診し,S病院から,継続的にメイラックスを処方されており,メイラックスは,神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害,心身症における不安・緊張・抑うつ睡眠障害に効果がある薬であることが認められる。そうすると,メイラックスはうつ病そのものに効果がある薬ではないものの,Aが,神経症における不安・緊張・抑うつ・睡眠障害に効果のあるメイラックスの処方を受け,これを服用していたことによって,うつ症状がある程度緩和されていたものと推認される。 これらの本件各事情に,Aが職場において特に異常な言動を見せることがなかったことを併せて考慮すると,Aのうつ病は,C病院精神科の2回目の受診ころ以降,メイラックスの効果により日常生活を支障なく送ることができる程度の軽症又は部分寛解の状態に至ったと推認するのが相当である。 (3)Dクリニックを受診していた際のAの症状についてアAがうつ病にり患していたかどうかについて証拠(甲72,100)によれば,D医師は,第1次受診期間の初診時に 認するのが相当である。 (3)Dクリニックを受診していた際のAの症状についてアAがうつ病にり患していたかどうかについて証拠(甲72,100)によれば,D医師は,第1次受診期間の初診時において,Aがうつ病にり患していたと診断していた事実が認められ,上記1(14)で認定したように,第1次受診期間の初診時から第5次受診期間において,継続して,うつ病に効果がある薬を処方していることからすると,Aは,平成7年7月28日当時,うつ病にり患しており,その後もうつ病が治癒するには至らなかったと推認するのが相当である。 イ各受診期間におけるAのうつ病の程度についてDクリニックの診療録(甲10の1・2)によれば,第1次受診期間から第3次受診期間において,Aの症状に大きな変化はなく,症状が軽快及び安定したこと,第4次受診期間及び第5次受診期間の各初回の受診の際には,Aに自殺念慮があったこと,並びにその後の受診により,うつ病が幾分か軽快したものの,必ずしも良好とはいえない状態で症状が安定していたことが推認できる。 他方,上記1(14)で認定したように,Aは,各受診時において,初受診時である平成7年7月28日を除き,14日分の抗うつ剤の処方をそれぞれ受けているものの,受診間隔が14日を超えることが大半である。また,上記1(5)で説示したAの時間外労働時間及び休日取得状況からすると,Aにおいて,通院が困難なほど多忙であったとは認められないにもかかわらず,第1次受診期間から第5次受診期間までの間において,半年から1年8か月程度の間,Dクリニックに通院していなかったものである。もっとも,AがS病院においてメイラックスの処方を受け,これを服用していたことによって,うつ症状がある程度緩和されていたものと推認されることは,上記(2)と同様である。 以上の各 かったものである。もっとも,AがS病院においてメイラックスの処方を受け,これを服用していたことによって,うつ症状がある程度緩和されていたものと推認されることは,上記(2)と同様である。 以上の各事情に,Aが職場において特に異常な言動をみせることがなか ったことを併せて考えると,Aのうつ病は,各受診期間中は抗うつ剤の処方により日常生活を続けることができる程度であり,各通院中断期間からその後の各受診再開の前ころまでの間は,メイラックスの効果により日常生活を支障なく送ることができる程度の軽症又は部分寛解の状態に至ったが,自殺念慮があった第4次受診期間及び第5次受診期間の各初回受診ころ,症状が一時的に増悪していたと推認するのが相当である。ただし,Dクリニックの診療録の記載(甲10の1・2)によれば,第3次受診期間までと第4次受診期間以降とでは,第4次受診期間以降の方が,症状の経過がよくないといえることからすると,Aのうつ病の程度は,第4次受診期間と第5次受診期間の症状が,第3次期間までの症状よりも,若干悪化していたと推認するのが相当である。 (4)E医師の意見書(乙219)について精神科,神経科及び心療内科の専門医であるE医師(Y病院の院長)は,意見書において,Aの症状は,単なる感情不安定としての抑うつ状態を示していたにすぎず,口腔異常感症などの他疾病を原因とするものであった可能性が高く,そもそもうつ病を発症していなかったというべきであり,仮にうつ病を発症していたとしても極めて軽度であった上,8年間にわたりうつ病が継続していたことはなく,寛解とうつ病の再発を繰り返していたと考えられる旨の記載している。 しかしながら,E医師は,Aを直接診察したことはなく,被告からの依頼を受けて,C病院精神科やDクリニックのカルテを検討して意見を記載し 解とうつ病の再発を繰り返していたと考えられる旨の記載している。 しかしながら,E医師は,Aを直接診察したことはなく,被告からの依頼を受けて,C病院精神科やDクリニックのカルテを検討して意見を記載しているものであり,Aを直接診察したD医師の診断や意見書(甲72)と比べ,自ずから説得力に差があるといわざるを得ず,また,E医師の意見には,可能性の指摘や疑問を呈するにとどまるものが多い。 以上からすると,E医師の意見書にはたやすく依拠することはできないというべきである。 (5)小括以上より,Aは,平成6年11月ころにうつ病にり患し,その症状の程度は,ドグマチールの処方がない場合に,日常生活を続けることに幾分かの困難を生じる程度であり,その後,抑うつ状態が残る部分寛解に至り,平成7年7月28日ころ以降は,Dクリニックにおける各受診期間において,おおむね,抗うつ剤の処方がない場合に,日常生活を続けることに幾分かの困難を生じる程度のうつ病の症状を呈し(第4次受診期間及び第5次受診期間については,若干の悪化がうかがえる。),第1次受診期間から第4次受診期間の後の各通院中断期間からその後の各受診再開の前ころまでの間,メイラックスの効果により日常生活を支障なく送れる程度の抑うつ状態が残存する部分寛解の程度にあったものといえる。 争点②(Aの担当業務と本件自殺との間の相当因果関係の有無)について(1)業務とうつ病自殺との相当因果関係の判断方法について原告らは,相当因果関係の判断に際しての業務の過重性は,当該労働者を基準に考えるべきである旨を主張するが,かかる考え方に立って業務の過重性を検討することは,結果責任につながりかねず妥当ではない。 したがって,業務の過重性を検討するに際しては,当該労働者が置かれた個別具体的事情を基に当該業務が社会通 が,かかる考え方に立って業務の過重性を検討することは,結果責任につながりかねず妥当ではない。 したがって,業務の過重性を検討するに際しては,当該労働者が置かれた個別具体的事情を基に当該業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰な業務であったかどうかを検討すべきである。 (2)本件出向から平成6年11月ころまでの業務とAのうつ病発症との相当因果関係についてア原告らは,本件出向後の用語や修理の流れが異なるなどの未経験の業務がAにとって過重であった旨を主張する。 しかし,上記原告らの主張に係る用語の変化及び修理の流れの変化が,通常の学習能力をもってしても,対応できない程度に達していたと認めるに足りる証拠はない。そして,上記1(2)で説示したAの経歴からすれば, Aは通常の学習能力を有していたと推認できる。したがって,Aが従事した業務が用語や修理の流れが異なるなどの点において未経験であったとしても,かかる業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰な業務であったとはいうことはできない。 イ原告らは,開業時期を約5か月繰り上げるという時間的余裕がない状況における未経験の取扱店マニュアル等作成業務及び取扱店マニュアル等を用いた未経験の取扱店指導業務がAにとって過重であった旨を主張する。 しかし,上記1(3)で説示したように,被告は,当初の予定より,4か月強の開業時期の繰上げを行い,その当時,どの部署も忙しかったものであるが,Aが担当した取扱店マニュアル業務においては,Aは,先行した関連会社で作成されたマニュアルを参照して,取扱店マニュアル等作成業務に従事していたことを併せて考慮すると,開業時期を繰り上げてされた取扱店マニュアル等作成業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰な業務であったということはできない。また,取扱店指導業務では,Aが 務に従事していたことを併せて考慮すると,開業時期を繰り上げてされた取扱店マニュアル等作成業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰な業務であったということはできない。また,取扱店指導業務では,Aが自ら作成に関与した取扱店マニュアルが使用されていたこと及び取扱店マニュアル等作成業務の過程で上記指導業務に必要な知識の蓄積もされていったと推察できることからすれば,取扱店指導業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰な業務であったとはいうことはできない。 ウ原告らは,被告開業後の顧客対応業務がAにとって過重であった旨を主張する。 確かに,顧客対応業務における苦情処理業務は,通常,心理的負荷が掛かる業務であり,また,本件では,上記1(4)アで説示したように,カスタマーサービス部の人員不足による電話応答率の低下が平成6年9月から同年10月にかけて認められる。しかし,Aは,基本的に2次対応業務に従事していたこと,A以外の担当課長も苦情処理業務に従事していたこと,カスタマーサービス部の人員不足及び電話応答率の問題は,同年11月に はほぼ解消されていること等を考慮すると,Aの顧客対応業務において受ける心理的負荷の程度は,必ずしも強いものではなかったというべきである。 また,原告らは,Aが休み時間であっても苦情処理に対応するという緊張状態に置かれ,これがAにとって過重であった旨を主張するが,当該主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。 エ原告らは,担当課長としての地位及び責任並びに相談できる上司が存在しなかったことがAにとって過重であった旨を主張する。 しかし,上記1(3)で説示したように,被告における担当課長は,一般の会社における課長のような職責を負う地位に相当するものではないことが認められるところ,そうすると,担当課長としての地位に伴う責任 しかし,上記1(3)で説示したように,被告における担当課長は,一般の会社における課長のような職責を負う地位に相当するものではないことが認められるところ,そうすると,担当課長としての地位に伴う責任の重さは比較的限られたものにとどまるといえる。また,証人Kの証言によれば,Aは,業務に関して上司に相談することも多かったことが認められ,さらに,当時のカスタマーサービス部にはサービス課1課のみが設置されており,Iが同部の部長と同課の課長を兼務していたことからすると,原告らの上記主張は前提を欠くというべきである。 オ原告らは,被告開業の前後において,Aの業務内容が変わったことがAにとって過重であった旨を主張する。 しかし,開業前の業務は,開業後の業務である故障受付業務の準備行為といえる取扱店マニュアル等作成業務が主であり,したがって,被告開業の前後におけるAの担当業務は,相互に密接に関連し,また継続性を有するものであったというべきである。 カ原告らは,本件出向後,Aが長時間労働をしており,それがAにとって過重であった旨を主張する。 確かに,上記1(5)で説示したとおり,平成6年4月から同年11月までの期間におけるAの時間外労働時間は,別紙1勤務時間等表記載のとお りであり,同記載によると,同年6月から同年10月にかけて,超過勤務命令簿上の時間外労働時間は,47時間から69時間と比較的長時間に及んでいるといえる。しかし,上記期間におけるAの休日出勤回数は1回のみにとどまっていること及び有給休暇を合計5日取得していることからすると,Aは,時間外労働による疲労やストレスを過度に蓄積するような状況にはなかったといえる。 また,原告らは,ケンウッド時代における時間外労働時間と本件出向後の時間外労働時間を対比して,本件出向後にAの時間外労働時間が大 による疲労やストレスを過度に蓄積するような状況にはなかったといえる。 また,原告らは,ケンウッド時代における時間外労働時間と本件出向後の時間外労働時間を対比して,本件出向後にAの時間外労働時間が大幅に増大して,これが過重であった旨を主張する。しかし,証拠(甲55)及び別紙1勤務時間等表によれば,本件出向後の時間外労働時間の平均は,本件出向前の同時間より増加したものの,本件出向前後の時間外労働時間の変化は,多くても月20時間程度であり,本件出向前後の3か月間についてみれば,その変化が1時間程度にとどまることが認められるから,必ずしも顕著な増加があったとはいえない。 キ小括その他,原告らの主張する内容は,いずれもAの業務内容及び業務量が,過剰なものであったことにつながるものではない。以上より,本件出向後,平成6年11月までの間のAの業務内容及び業務量は,社会通念上許容される範囲を超える過剰なものであったということはできず,したがって,同月ころのうつ病発症と被告における業務との間に,相当因果関係はないといわざるを得ない。 なお,証拠(甲73の2,甲82)によれば,Aは,C病院精神科の医師に対して,技術者として働きたいにもかかわらず,ケンウッドの社長からほとんど脅される形で本件出向を命じられた旨を述べており,また,原告Hに対して,本件出向を断ると会社を辞めなければならなくなる旨を述べていたことが認められるところ,これらの事情からすると,Aが本件出 向をリストラととらえ,本件出向命令を受けたことにより,比較的強い心理的負荷を受けたものと推認できるが,本件出向命令の主体はケンウッドであるから,かかる事情を被告の業務とAのうつ病発症の相当因果関係の検討対象に含めることはできない。 (3)平成6年12月ころから平成14年11月ころまでの期 きるが,本件出向命令の主体はケンウッドであるから,かかる事情を被告の業務とAのうつ病発症の相当因果関係の検討対象に含めることはできない。 (3)平成6年12月ころから平成14年11月ころまでの期間における業務とAのうつ病増悪との相当因果関係についてア原告らは,上記期間における顧客等対応業務が顧客数の増大による業務量の増大及び新機種の導入による業務内容の複雑化もあって,Aにとって過重であった旨を主張する。 しかし,顧客等対応業務については,Aの業務は2次対応を基本とし,A以外の担当課長も上記2次対応に従事していたものであり,上記期間の業務量については,別紙1勤務時間等表記載の上記期間の総労働時間数からすると,平成7年1月を除けば,時間外労働時間が,長いときでも,月約30時間以下であり,平成7年1月についても,時間外労働時間が約46時間であることからすると,Aの業務量が増大したこと及び業務が多忙であったことは推認することはできない。また,上記期間における業務内容の複雑化については,確かに,新機種の導入により,Aは,2次対応を含む顧客対応業務に従事するために,必要な知識の習得に迫られたと推察されるが,それが通常の学習能力をもって対応できない程度のものであったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,顧客等対応業務が社会通念上許容される範囲を超える過剰なものであったということはできない。 イ原告らは,平成9年11月以降のスカイチームの責任者としての業務がAにとって過重であった旨を主張する。 確かに,スカイウォーカー及びJ-スカイが被告において,その経営戦略上,重要な意義を持っており,アフターサービスを担当するスカイチー ムの業務も一定の重要性を持っていたといえる。しかし,Aのスカイチームの責任者としての業務は,顧客の苦情に対する3 その経営戦略上,重要な意義を持っており,アフターサービスを担当するスカイチー ムの業務も一定の重要性を持っていたといえる。しかし,Aのスカイチームの責任者としての業務は,顧客の苦情に対する3次対応が基本とされており,しかも,4人程度の2次対応の契約社員をまとめる業務であったことからすると,スカイチームの責任者としての業務及び責任は,必ずしも困難を強いるものではなかったというべきである。 また,スカイチームの責任者としての業務において習得が必要になる知識が,Aの有する通常の学習能力を超えるものであったことを認めるに足りる証拠もない。 ウ原告らは,AがISO取得関連業務に従事したことで心理的負荷を受けた旨を主張する。しかし,上記1(6)で説示したように,AがISO推進プロジェクトチームの構成員ではなかったことからすれば,上記作業におけるAの心理的負荷は,わずかな程度にとどまるというべきである。 エ原告らは,Aがケンウッドに復帰することを希望したが,本件転籍により,かかる希望が断たれ,それがAの心理的負荷になった旨を主張する。 しかし,上記1(7)で説示したように,Aは,ケンウッドへの復帰の意向を撤回した上で,被告での勤務継続を続けたい旨の自己申告票を作成して被告に提出していたことなどからすれば,原告らの主張は前提を欠くというべきである。 オ原告らは,新人事制度及び自己評価シートをめぐるBの対応により,Aが心理的負荷を受けた旨を主張する。 しかし,上記1(9)で説示した新人事制度の内容及び新人事制度の導入後にAの給料が年収ベースで増額されていることからすると,Aが新人事制度の導入により,強い心理的負荷を受けたことを認めるに足りる証拠はない。また,自己評価シートをめぐるBの対応は,1次評価者の対応として,特段不合理な点があったとはい いることからすると,Aが新人事制度の導入により,強い心理的負荷を受けたことを認めるに足りる証拠はない。また,自己評価シートをめぐるBの対応は,1次評価者の対応として,特段不合理な点があったとはいえないし,自己評価シートを作成すること自体が,特段困難を強いるものとはいえない。 カ小括その他,原告らの主張する内容は,いずれもAの業務内容及び業務量が,過剰なものであったことにつながるものではない。以上によれば,本件出向後,平成6年11月までの間のAの業務内容及び業務量は,社会通念上許容される範囲を超える過剰なものであったということはできず,したがって,Aのうつ病又はその部分寛解状態の増悪と被告における業務との間に,相当因果関係があるということはできない。 (4)本件異動についてアc保守センターにおける業務内容及び業務量についてc保守センターにおける業務は,Aが本件異動当時所属していた技術センターの一部門であり,本件異動前後の業務は一定の関連性を有していたといえるし,Aの被告における経歴からすれば,c保守センターの業務における修理品の流れ等については,一定の理解を有していたというべきである。 また,業務量については,佐川物流への業務委託内容が整理されて,従前OとPが事実上担当していた別紙担当業務は,佐川物流において全面的に担当することが確認され,Aが担当することになっていたテスター機の管理業務も佐川物流において担当することになり,遅くとも平成15年1月以降は,Aが担当すべき業務が,別紙管理業務に限定された上,取り扱うリンク機の減少により,別紙管理業務の業務量自体も減少することになっていたものである。 したがって,本件異動後の業務は,客観的には,Aに不可能を強いるものとはいえない。 イ本件異動に伴うその他の変化についてc保 より,別紙管理業務の業務量自体も減少することになっていたものである。 したがって,本件異動後の業務は,客観的には,Aに不可能を強いるものとはいえない。 イ本件異動に伴うその他の変化についてc保守センターの環境は,倉庫建物の一角の事務所であるから,通常の事務所用の建物にある駅前事務所とは異なり,特に暖房の点において条件 が悪いことは推認される。しかし,c保守センターは,がらんとした感じはあっても,掃除はされており,OとPが,平成11年1月から約3年にわたって,健康を害することなく勤務してきたことからすれば,c保守センターの勤務環境が劣悪であるとまではいえない。 また,本件異動は,降格や給与の減額を伴うものではなく,通勤時間もおおむね1時間30分程度にとどまることからすると,Aが左下肢機能障害を有することを考慮しても,Aにとって,通勤上の過酷な負担を掛けるところはなかったというべきである。さらに,AがOとPの後任として選出された経緯について,被告が人事権の裁量を逸脱して濫用したとまでいうことはできないというべきである。 ウ本件異動に係るAに対する説得状況についてAが,本件異動後の業務が未経験の物流業務になること,OとPの二人で遂行していた業務を一人で遂行することはできないこと,テスター業務も引き続き担当しなければならず,更に負担が重くなること,及び通勤時間が長くなることを理由に本件異動を拒絶したことに対し,BとNは,平成14年11月中旬以降,3回程度の面談を実施し,また喫煙所において,本件異動に関する話をするなどし,その都度,Aには保守業務の経験があることや同じ技術サポートグループ内の業務であること,c保守センターの業務量が従来よりも減少する予定であることなどを説明し,また,通勤時間についても合理的な通勤経路の提案をするなどし 業務の経験があることや同じ技術サポートグループ内の業務であること,c保守センターの業務量が従来よりも減少する予定であることなどを説明し,また,通勤時間についても合理的な通勤経路の提案をするなどして説得を試みたものである。 しかし,c保守センターの業務量が従来よりも具体的にどのように減少するのかという点について,Aに対し,書面による具体的な説明がなされたものではなく,上記説得の過程において,Aが態度を硬化させて「自分を辞めさせたいのか。」と言ったことに対して,Nが「勝手にしたらいいではないですか。」と述べ,これと同日に,Aが「保守センターでやって いく自信がない。」と述べたことに対して,Bが「Aさん,甘えているんじゃないの。」と強い調子で述べ,そのころ,Aは,上記1(10)で説示したように,原告Fに対して,「会社で異動に伴う業務の件で頭にきた。いやならやめろとの暴言を受けた!」と携帯メールを送信している。 これらの事情からすると,Aは,c保守センターへの本件異動を,自らを退職に追い込もうとする意図の下になされたものとして否定的に,かつ重大なものと受け止め,本件異動になかなか応じず,その過程での上記のBとNの対応に憤激したと推認される。 エ本件異動がAを退職に追い込む意図の下になされたことは認められないが,Aは,本件異動をそのようなものとして否定的にとらえた上,平成14年11月当時,抗うつ剤の処方がない場合に,日常生活を続けることに幾分かの困難を生じる程度のうつ病にり患していたため,本件異動の説得経緯及び最終的に本件異動に応じざるを得ないことに強い心理的負荷を受け,うつ病を増悪させたものといえる。したがって,本件異動の打診及び説得経緯とAのうつ病増悪との間には相当因果関係があるといえる。 平成14年11月20日以降のOとPによる引 ことに強い心理的負荷を受け,うつ病を増悪させたものといえる。したがって,本件異動の打診及び説得経緯とAのうつ病増悪との間には相当因果関係があるといえる。 平成14年11月20日以降のOとPによる引継ぎ状況は,当時OとPが実際に行っていた業務を説明したものであり,すべてを引き継ぐものでないことも説明したとはいえ,具体的にどの業務が残るかまで説明したものではないから,Aにとって,業務量の不安を解消することはできなかったものである。また,同年12月2日に佐川物流と被告との間で,正式に合意が成立したにもかかわらず,そのことが速やかにAに伝えられていないし,Aが直ちに業務量の減少を具体的に理解できたとも認められない。 したがって,本件異動後の業務内容等に,上記の相当因果関係を断絶すべき事由は見当たらない。 なお,上記1(10)で説示したところによれば,Aのパソコンの設置に関して若干の不手際があったことは否めないものの,AはO又はPのパソコ ンを使用してBが指示した書類を送信することができたものであるし,また,BがAの要望に可及的に応じる形で書類キャビネット等をc保守センターに移動させていることからすれば,BがAに対するいじめをしたことを推認することはできない。 (5)本件自殺とAのうつ病の影響についてうつ病にり患した者が,その症状として,自傷又は自殺の観念や行為を呈することがあり,うつ病にり患したことにより,正常の認識,行為選択能力が著しく阻害されて,又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されて,自殺に至ることは,今日の精神医学において広く認められているところである(甲39・130頁,甲43・340頁,乙170・93頁,弁論の全趣旨)。 これを本件についてみると,Aは,自宅の和室を荒らした上で,また,遺書を作成せずに自殺し いて広く認められているところである(甲39・130頁,甲43・340頁,乙170・93頁,弁論の全趣旨)。 これを本件についてみると,Aは,自宅の和室を荒らした上で,また,遺書を作成せずに自殺しているところ,かかる事情からすると,本件自殺当時,Aは正常な精神状態にあったということはできない。 以上より,Aは,うつ病の症状の影響下において,本件自殺に及んだというべきである。 (6)小括以上より,平成6年11月ころのAのうつ病発症と担当業務との間,その後のうつ病の部分寛解後の増悪と担当業務との間には,いずれも相当因果関係があるとはいえないが,平成14年11月中旬ころの本件異動の説得状況とAのうつ病の増悪及びその後の本件自殺との間には相当因果関係があるというべきである。 争点③(被告の安全配慮義務違反の有無)について(1)前提ア一般に,使用者は,その雇用する労働者に対し,当該労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負 荷が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないように注意すべき義務(安全配慮義務)を負う。そして,使用者が労働者に対し,異動を命じる場合にも,使用者において,労働者の精神状態や異動のとらえ方等から,異動を命じることによって労働者の心身の健康を損なうことが予見できる場合には,異動を説得するに際して,労働者が異動に対して有する不安や疑問を取り除くように努め,それでもなお労働者が異動を拒絶する態度を示した場合には,異動命令を撤回することも考慮すべき義務があるといえる。 イところで,上記1(10)認定のとおり,Aが本件異動を拒否していた理由は,業務内容が異なり業務量が過大であることや,通勤時間が長くなることであったが,通勤時間については,Aにおいて,第1次通勤手当申 ところで,上記1(10)認定のとおり,Aが本件異動を拒否していた理由は,業務内容が異なり業務量が過大であることや,通勤時間が長くなることであったが,通勤時間については,Aにおいて,第1次通勤手当申請から経路を変更して第2次通勤手当申請を行っていることから,十分な説明と対策を講じたといえるし,業務量や業務内容に関する説明については,佐川物流との業務委託内容の変更の詳細まではAに伝えられなかったものの,業務委託内容の変更により,業務内容が見直され,業務量が減少することは説明されていたといえる。以上からすると,本件異動の説得状況は,うつ病などの精神疾患にり患しておらず,通常の精神状態にある者に対するものであったならば,当該労働者の精神状態を著しく害して自殺等の結果に至ることを予見できるようなものであったとまではいえない。 ウしたがって,詰まるところ,被告は,本件異動の打診をした当時,Aがうつ病(若しくは自殺を惹起する可能性のあるその他の精神疾患)にり患していることを認識していたか,又は,認識することが可能であったことを前提にしなければ,本件異動命令や本件異動の説得状況により,Aがうつ病を悪化させて自殺に至るという結果について予見をすることはできなかったといえる。 そこで,以下,被告が,Aに対して本件異動の打診をした当時,Aがう つ病にり患していることを認識していたか,又は,認識することが可能であったかについて検討する。 (2)Aのうつ病り患に関する被告の認識又は認識可能性について上記1(11)で説示したように,本件では,A及び原告らは,本件出向後から本件自殺までの間に,被告に対して,Aがうつ病にり患していることはもとより,AがDクリニック等に通院していたことの報告をしていないし,Aが職場において,特に異常な言動,服薬,舌を気にして 出向後から本件自殺までの間に,被告に対して,Aがうつ病にり患していることはもとより,AがDクリニック等に通院していたことの報告をしていないし,Aが職場において,特に異常な言動,服薬,舌を気にして口を動かすなどの不自然なしぐさを見せることはなかったものである。 証拠(原告F)によれば,Aが,出勤予定日の朝になって,突発的に欠勤を申し出たことが年に2回から3回程度あったことが認められるが,この程度の頻度の突発的な欠勤では,通常の体調不良による欠勤と考えるのが自然であるから,かかる突発的な欠勤をもって,被告がAがうつ病にり患していることを認識できたとはいえない。 そして,Aは,本件異動の説得がされていた当時である,平成14年11月11日及び同月21日にDクリニックに通院しており,上記21日の受診において,気分が憂うつである旨の愁訴や不活発な感じがする旨のD医師の所見があるものの,D医師は,投薬内容の変更や入院等を勧める措置をしていないことからすると(甲10の1,2),平成14年11月21日当時にAが何らかの異変を呈していたとしても,D医師ですら気付き得ない程度のものであったといえる。 また,本件異動直後のc保守センターにおけるAの様子が見るからにおかしい,挙動不審であり,c倉庫の全員が普通ではないと思うものであった旨の証人Rの証言及び陳述書(甲81)があるが,R及びその他のc保守センターの派遣社員がAの様子を目撃しても特段の行動を採っていないし,原告Hの婚約者(当時)の友人であるRは,原告Hに対してAの様子を伝えていないのであるから,上記証言及び陳述書は,直ちに採用できない。 以上からすれば,被告は,本件異動の当時,Aがうつ病にり患していたことを認識していたとはいえず,また,これを認識することが可能であったということはできない。 ( 陳述書は,直ちに採用できない。 以上からすれば,被告は,本件異動の当時,Aがうつ病にり患していたことを認識していたとはいえず,また,これを認識することが可能であったということはできない。 (3)原告らの主張についてア原告らは,予見可能性に関して,①被告がAのうつ病の発症や増悪,それによる自殺についての予見までは必要ではなく,Aが被告の業務に従事したことにより,健康状態への悪影響を生じることが予見できれば,予見可能性に欠けるものではない旨,また,②適正労働条件措置義務,健康管理義務,適正労働配置義務及び看護・治療義務の4つの義務を履行したとしても,Aの健康状態への悪影響を予見できなかった場合に初めて予見可能性がなかったといえる旨を主張する。原告Hも「父は8年の間,うつ病という病気と闘ってきましたが,会社がそれを全く知らなかったということは,家族として許せません。」などと供述する(原告H・13頁)。 確かに,業務自体に通常の心身の状態にある労働者に強い心理的負荷を与えるような過重性が認められ,かつ,上記の健康状態への悪影響がうつ病の発症や増悪を引き起こすに足りるがい然性を有する程度のものをいうのであれば,上記①の主張は,一定の合理性を有しているといえる。しかし,本件では,本件異動命令自体は,格別不合理ではなかったものであり,また,本件異動命令に係る説得状況は,Aがうつ病にり患していたことを併せて考慮することにより,初めてAに強い心理的負担を与えて,うつ病を増悪させたといえるものであるから,予見可能性の前提として,少なくともAがうつ病又はその他の精神疾患にり患していることの認識又は認識可能性を前提としなければ,被告に不可能を強いることになる。したがって,上記①の主張は,本件において採用することはできない。 また,上記②の主張は, はその他の精神疾患にり患していることの認識又は認識可能性を前提としなければ,被告に不可能を強いることになる。したがって,上記①の主張は,本件において採用することはできない。 また,上記②の主張は,要するに,安全配慮義務を課す前提として要求される結果の予見可能性がなかったというためには,安全配慮義務の履行 をしたことが必要であることになり,理由がない。 イ原告らは,安全配慮義務の具体的として,健康管理義務,すなわち,必要に応じて,メンタルヘルス対策を講じ,労働者の精神的健康状態を把握して健康管理を行い,精神障害を早期に発見すべき義務を負う旨を主張する。使用者が労働者の精神的健康状態に配慮すべき義務があることは原告ら主張のとおりであるが,労働者に異常な言動が何ら見られないにもかかわらず,精神的疾患を負っているかどうかを調査すべき義務まで認めることは,労働者のプライバシーを侵害する危険があり,法律上,使用者に上記健康管理義務を課すことはできないというべきである。 ウ原告らは,本件自殺後の被告の対応やB,Nの言動をもって,本件自殺の予見可能性があり,ひいては,被告の債務不履行責任がある旨を主張する。 確かに,証拠(甲44,95,96,乙211,218,証人B,証人N,原告F,原告G,原告H)によれば,本件自殺後,Nが,「和解しましょう。」と言い,Bが,「僕が確かに言い過ぎたかもしれません。すみませんでした。」と言ったことが認められる。しかし,証拠(甲95)によれば,Bらが弔問に訪れた際,一方的にBらが原告らやその親族から責め立てられる状況にあったことが認められ,上記の発言も,このような状況を前提としたものにすぎない。したがって,本件自殺後のB,Nの言動をもって,本件自殺の予見可能性や,本件自殺に関する被告の法的責任が認められるという ったことが認められ,上記の発言も,このような状況を前提としたものにすぎない。したがって,本件自殺後のB,Nの言動をもって,本件自殺の予見可能性や,本件自殺に関する被告の法的責任が認められるということはできない。 (4)小括したがって,Aのうつ病り患に関する被告の認識及び認識可能性を認めることができない本件において,Aの自殺について,被告の安全配慮義務違反を問うことはできない。 結論 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。 よって,原告らの請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部裁判長裁判官永野圧彦裁判官上村考由裁判官川勝庸史

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