主文 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 上記取消しに係る部分の被控訴人らの請求を棄却する。 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨(1)(主位的)ア原判決を取り消す。 イ本件訴えを却下する。 (2)(予備的)主文1,2項と同旨(3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 控訴の趣旨に対する答弁(1)本件控訴を棄却する。 (2)控訴費用は控訴人の負担とする。 第2事案の概要1(1)本件は,山梨県中巨摩郡α(以下「α」という。)の住民である被控訴人らが,原判決の別紙工事一覧表記載の各公共工事(以下「本件各工事」という。)について玉穂町の締結した各請負契約(以下「本件各契約」という。)は,当時の玉穂町長であった控訴人が直接的又は間接的に漏えいした予定価格(本件各契約の場合,予定価格の制限の範囲内で最低の価格をもって入札をした者が落札者となる。)を基にして行われた入札者間の談合の結果,不当に高額な請負代金によって締結されたものであり,玉穂町は,控訴人による予定価格の漏えい行為により,談合がなければ自由競争によって形成されたであろう請負代金額(以下「適正な競争価格」という。)と実際の 請負代金額との差額相当額の損害を被ったとして,地方自治法(ただし,平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「旧法」という。)242条の2第1項4号により,玉穂町に代位して,控訴人に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,ア(一次的請求)玉穂町は控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を怠っているところ,「怠る事実」に係る住民監査請求に期間制限規定(地方自治法242条2項)が適用さ 請求)玉穂町は控訴人に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を怠っているところ,「怠る事実」に係る住民監査請求に期間制限規定(地方自治法242条2項)が適用されないとして,旧法242条の2第1項4号に基づき,怠る事実に係る相手方である控訴人に対し,本件各工事のうち明らかに談合が成立しなかったとされる都市整備課発注分№48ないし50を除いた工事について,適正な競争価格と実際の契約金額の差額相当額2億9607万7386円及びこれに対する不法行為の日の後である平成14年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払イ(二次的請求)仮に,本件訴えに期間制限規定が適用されるか,又は,一次的請求が「怠る事実」を主張するのに対して被控訴人らの本件訴えに先立つ住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)が「財務会計上の行為」の違法をいうことから,本件監査請求と一次的請求の間に同一性が認められず,一次的請求に係る訴えが適法な住民監査請求を経ているとはいえないとしても,最終の支払から1年以内に本件監査請求が行われた原判決の別紙予備的請求対象工事一覧表記載の各工事については,その工事に係る支出全体が違法な財務会計行為となり,この範囲で期間制限規定を充足しているとして,旧法242条の2第1項4号に基づき,同一覧表記載の各工事につき,適正な競争価格と実際の契約金額の差額相当額1754万1636円及びこれに対する不法行為の日の後である平成14年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払ウ(三次的請求)仮に,期間制限規定の適用が最終の支払日を基準にす るのではなく,各支払日を基準とするとしても,原判決の別紙予備的請求対象工事一覧表記載の各工事のうち,本件監査請求から1年以内にされた 次的請求)仮に,期間制限規定の適用が最終の支払日を基準にす るのではなく,各支払日を基準とするとしても,原判決の別紙予備的請求対象工事一覧表記載の各工事のうち,本件監査請求から1年以内にされた各支出については期間制限規定を充足している旨主張して,旧法242条の2第1項4号に基づき,前記各支出につき,適正な競争価格と実際の契約金額の差額相当額1538万3934円及びこれに対する不法行為の日の後である平成14年7月16日から支払済みまで民法所定の年5分の遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 (2)これに対し,控訴人は,要旨次のとおり主張して争った。 ア本件監査請求は地方自治法242条2項の期間制限が経過した後にされており,本件訴えは適法な住民監査請求を経ておらず不適法である。 イ本件各工事のうち五つの工事について被控訴人らの主張するような予定価格の漏えい及び談合が行われたことは認めるが,本件各工事のすべてにおいて被控訴人らの主張するような予定価格の漏えい及び談合が行われた事実はない。 第1審裁判所は,次のとおり判断して,被控訴人らの一次的請求のうち,1億4152万8000円及びこれに対する平成14年7月16日から支払済みまで年5分の遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余を棄却した。 (1)本件各工事の入札に当たり予定価格を漏えいすることはおよそ許されない違法行為であるから,これが財務会計上の行為の準備行為に当たるといえず,本件監査請求には期間制限規定は適用されない。また,本件監査請求及び一次的請求は,いずれも控訴人が本件各工事に関する入札に先立って予定価格を漏えいした事実を問題としているから,両者の間には事実の同一性が認められる。したがって,本件訴えは適法な住民監査請求を経ている。 (2)控訴人は,平成3年選挙 各工事に関する入札に先立って予定価格を漏えいした事実を問題としているから,両者の間には事実の同一性が認められる。したがって,本件訴えは適法な住民監査請求を経ている。 (2)控訴人は,平成3年選挙で玉穂町長に当選した後,自分を支援してくれた土木建設業者等に報いるため,玉穂町の公共工事を自分の支援者に受注させるとともに多くの利益を与えようと考え,それまで玉穂町では,指名競争 入札の場合,従前から入札者に予定価格を漏えいし,それを基に入札者間で談合が行われていたことから,玉穂町の公共工事に関する入札について,指名業者に自己を支援してくれた業者を指名し,予定価格を漏えいした上で,入札者間で受注の調整のための談合を行わせることとした。平成3年選挙で控訴人を支援していた土木建設業者は,平成3年11月ころAという名称の団体を結成し,Bがその会長に就任した。そして,控訴人は自ら又は担当課長等を通じて,Bに対し玉穂町の公共工事に関する入札の予定価格を漏えいし,Bは,この漏えいされた予定価格を基に,Aの会員及び控訴人から特に指名のあったα外の業者等との間で入札価格及び落札業者の調整を図り,その結果,指名業者の間で談合が行われた。控訴人による予定価格の漏えい行為によって玉穂町の被った損害額は,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法248条に基づき,控訴人によって漏えいされた予定価格に基づいて談合が行われた各契約の合計支払金額の3%に相当する金員であると認める。 これに対し,控訴人が上記判決につき控訴した。 玉穂町は平成18年2月10日旧田富町,旧豊富村と合併して中央市となった。これにより,被控訴人らが玉穂町に代位する住民訴訟は,中央市に代位する住民訴訟となった。 前提となる事実,争点およびこれに関する当事者双方の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決 市となった。これにより,被控訴人らが玉穂町に代位する住民訴訟は,中央市に代位する住民訴訟となった。 前提となる事実,争点およびこれに関する当事者双方の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の第2の2及び3と同じであるから,これを引用する。 (1)控訴人の当審における主張玉穂町議会は,平成18年2月7日,本件請求に係る損害賠償請求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)を放棄する旨の議決をした(以下「本件議決」という。)。本件損害賠償請求権は本件議決により消滅した。 (2)被控訴人の認否及び反論ア(1)については,本件議決がされたことは認めるが,その効果は争う。 以下述べるとおり,本件損害賠償請求権は本件議決によって消滅するものではない。 イ住民訴訟の趣旨から議会の議決による権利放棄は許されない。 住民訴訟の係属中に議会が権利放棄の議決をすると,住民はもはや違法の防止又は是正をすることができず,住民訴訟の趣旨・目的を達成することができなくなることから,議会の議決による権利放棄は違法であると解すべきである。 ウ非訟事件手続法76条の類推適用本件訴訟は,住民が地方公共団体に代位して損害を負わせた相手方に対し損害賠償請求権を行使するという訴訟である。非訟事件手続法76条は,債権者代位権について履行期前の裁判上の代位の申請がされたときの手続として,申請を許可した裁判は職権をもって債務者に告知すべきこととし,告知を受けた債務者はその処分をすることができない旨規定している。したがって,非訟事件手続法76条の類推適用により,地方公共団体は住民訴訟の係属中に損害賠償請求権を放棄できず,権利放棄の議決をしても違法であると解すべきである。 エ地方公共団体が権利放棄の一般規定を根拠に,違法な事務執行によって発生した より,地方公共団体は住民訴訟の係属中に損害賠償請求権を放棄できず,権利放棄の議決をしても違法であると解すべきである。 エ地方公共団体が権利放棄の一般規定を根拠に,違法な事務執行によって発生した損害を回復するための権利を放棄しても,違法な公金支出が適法になるわけではなく,法治主義に反する状態が続くことになる。したがって,権利放棄の一般規定よりも旧法242の2第1項4号が優先するから,本件損害賠償請求権を放棄する旨の本件議決は無効である。 オ本件議決について長の執行行為がない。 権利放棄は,議会の議決によって地方公共団体の内部の意思が決定し,長の意思表示によって地方公共団体の意思として対外的に効力が発生するものであり,議決について長の執行行為を要する。本件議決には長の執行行為がなく,いまだ対外的に効力が発生していないから,本件損害賠償請 求権は消滅していない。 カ本件議決は手続的に違法であり,無効である。 権利放棄の議案の提出権は長に専属するものである。しかるに,本件損害賠償請求権を放棄する旨の本件議決は議員提出議案によりされたものであって,手続的に違法であり無効である。 キ地方自治法96条1項10号の趣旨からは,権利放棄の議決が,地方公共団体及び住民の利益を一方的に害するにもかかわらず,専ら特定の個人の利益を図る目的をもってされた場合等,同号が権利放棄を議会の議決にゆだねた趣旨に明らかに背いてされたものと認め得るような特別の事情がある場合には,議会にゆだねられた権限を濫用し,又はその範囲を逸脱するものとして違法となり,その効力が否定されるものと解するのが相当である。 本件議決については,町民有志の会の上申書がきっかけとなっているが,町民有志の会の代表者は,控訴人の町長1期目からの裏の金庫番を任され,町発注の工事請負代金に応じた るものと解するのが相当である。 本件議決については,町民有志の会の上申書がきっかけとなっているが,町民有志の会の代表者は,控訴人の町長1期目からの裏の金庫番を任され,町発注の工事請負代金に応じた上納金を預かり,保管する役割を担っていた人物である。これは,いわば談合事件における控訴人の共犯者ともいうべき人物が町民有志を名乗って町議会に対し,控訴人に対する損害賠償請求権の放棄を要請したものである。しかも,この要請当時,玉穂町は平成18年2月20日に合併して中央市となる予定であり,本件議決は合併によって玉穂町が中央市となる13日前の2月7日に駆け込み的にされたものである。これは,控訴人を支持するいわゆる「C派」の議員によって,合併直前にされたものであることが明白である。このような事情からすれば,特定の個人の利益を図る目的をもってされた場合等,同号が権利放棄を議会の議決にゆだねた趣旨に明らかに背いてされたものと認め得るような特別の事情がある場合であるから,本件議決は違法であってその効力を否定されるべきである。 第3当裁判所の判断 本件訴えの適法性について(1)弁論の全趣旨によれば,被控訴人らはαの住民であった者であり,かつ,現在中央市の住民であることが認められる。 (2)控訴人は,控訴人による入札予定価格の漏えいは予定価格の秘密保持義務違反行為であり,財務会計上の権限を有する職員がした財務会計上の行為の準備行為の違法を構成するから,地方自治法242条2項の期間制限規定が適用されるとし,その前提に立って,本件監査請求は制限期間が経過した後にされたものであるから,本件訴えは適法な監査請求を経たとはいえず不適法であると主張する。 しかしながら,怠る事実については地方自治法242条2項の期間制限規定の適用はないのが原則であることにか 後にされたものであるから,本件訴えは適法な監査請求を経たとはいえず不適法であると主張する。 しかしながら,怠る事実については地方自治法242条2項の期間制限規定の適用はないのが原則であることにかんがみると,実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象としてされた監査請求において,監査委員が当該怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,期間制限規定の趣旨を没却するものとはいえず,当該監査請求に期間制限規定は適用されないと解すべきである(最高裁平成14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。 これを本件についてみるに,本件監査請求の対象事項は,玉穂町が控訴人に対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実とされているところ,当該損害賠償請求権は,控訴人が入札予定価格を漏えいし,これに基づいて入札予定工事業者間において談合が行われ,その結果,工事業者と不当に高額な代金で本件各契約を締結させて玉穂町に損害を与える不法行為により発生したというのである。これによれば,本件監査を遂げるためには,監査委員は,控訴人による入札予定価格漏えい及び入札予定工事業者間の談合,これに基 づく工事業者の入札及び玉穂町との契約締結が認められ,それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか,これにより玉穂町に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえすれば足りる。玉穂町の控訴人に対する損害賠償請求権は,本件各契約が違法,無効であるからこそ発生するというものでないから,本件監査請求について期間制限規定の適用がないものと認めても,期間制限規定の趣旨を没却するものとはいえず,期間制限が及 賠償請求権は,本件各契約が違法,無効であるからこそ発生するというものでないから,本件監査請求について期間制限規定の適用がないものと認めても,期間制限規定の趣旨を没却するものとはいえず,期間制限が及ばないものと解するのが相当である。 控訴人は上記主張の根拠として,最高裁判所平成14年10月3日判決(民集56巻8号161頁)を引用する。しかしながら,上記判例は,特定の財務会計上の行為が行われた場合において,これにつき権限を有する職員が行ったその準備行為は,財務会計上の行為と一体としてとらえられるべきものであり,準備行為の違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にあるときは,準備行為が違法であるとし,これに基づいて発生する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた監査請求は,実質的には財務会計上の行為を違法と主張してその是正を求める趣旨のものであり,上記監査請求が期間制限を受けないとすれば,法が監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるから,上記監査請求には当該財務会計上の行為があった日又は終わった日を基準として期間制限規定を適用すべきであるとするものであり,財務会計職員が行った財務会計上の行為の準備行為が違法であることに基づいて発生する当該職員に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた住民監査請求において,準備行為の違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にある場合の判断を示したものと解される。これに対し,本件監査請求においては,監査委員は,控訴人による入札予定価格漏えいと入札予定工事業者間の談合,これに基づく工事業者の入札及び玉穂町との契約締結が認められ,それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか,これにより玉穂町に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえ すれば足りるのであり,控訴人によ 入札及び玉穂町との契約締結が認められ,それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか,これにより玉穂町に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえ すれば足りるのであり,控訴人による予定価格漏えい行為は財務会計職員の財務会計上の行為の準備行為とみるべきものでもないし,本件各契約の違法を構成する関係にもない。控訴人引用の上記判決は本件と事案を異にするものである。 また,本件監査請求及び一次的請求は,いずれも控訴人が本件各工事に関する入札に先立って予定価格を漏えいした事実を問題としているのであるから,両者の間には事実の同一性が認められる。 以上のとおりであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。 (3)したがって,本件訴えは適法な住民監査請求を経ているものであって,適法である。 本件請求について(1)被控訴人らは,玉穂町長であった控訴人に対し,中央市に代位して本件損害賠償の請求をするものである。 ア本件損害賠償請求権に関して,証拠(甲75,76)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア)玉穂町議会議員Dらは,平成17年12月8日付けで,玉穂町議会議長に対し,本件損害賠償請求権について権利を放棄する旨の議決を求める議案を議員提出議案として提出した。上記議案の提案理由は,「11月14日,住民の有志1147人から議長あてに,『控訴人は,一連の事件の責任をとり,町長を辞任し,刑事事件では有罪判決を受けるなど,既に十分な社会制裁を受けていますし,町長在任中,医大北部区画整理事業,E小学校新設,α生涯学習館新設など町の発展に貢献し,現在も農業を営みながら,地元の自治会活動に積極的参加するなど地域社会に貢献している。このようなことから,控訴人に対する損害賠償請求権を放棄し,心機一転して新市での新しいま 設など町の発展に貢献し,現在も農業を営みながら,地元の自治会活動に積極的参加するなど地域社会に貢献している。このようなことから,控訴人に対する損害賠償請求権を放棄し,心機一転して新市での新しいまちづくりに取り組むのが最も良いことだと考える』との内容の上申書が提出された。このように多 くの住民の意思があることから,議会として,控訴人に対する損害賠償請求に関するすべての権利を放棄するため,提出するものである」というものであった。 (イ)上記議案は同年12月の定例会において総務常任委員会に付託され,平成18年2月7日,総務常任委員会において上記議案が審理され,賛成3名,反対2名により原案のとおり決定すべきものと決定された。そこで,同日開会された玉穂町議会において,上記議案について審議し,質疑,討論を経て,16名の出席議員のうち15名が記名投票し,賛成9名,反対6名により,上記議案は可決された。 イ地方自治法96条1項10号は,議会の議決事項として,「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか,権利を放棄すること。」と規定し,地方公共団体の権利の放棄については,執行機関である地方公共団体の長ではなく,議会の議決によるべきものとしているから,議会は,法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合でない限り,自らが本来有する権限に基づき,権利放棄の議決をすることができる。そして,本件損害賠償請求権の放棄については,法令又は条例に何ら特別の定めはないと認められるから,本件議決は,玉穂町議会が自らが本来有する権限(同法96条1項10号)に基づき行ったものであって有効であり,仮に,控訴人が入札予定価格を漏えいして業者間で談合を行い,これによって玉穂町が控訴人に対して本件損害賠償請求権を取得したとしても 権限(同法96条1項10号)に基づき行ったものであって有効であり,仮に,控訴人が入札予定価格を漏えいして業者間で談合を行い,これによって玉穂町が控訴人に対して本件損害賠償請求権を取得したとしても,本件損害賠償請求権は本件議決により消滅したものというべきである。 (2)被控訴人らは,本件議決により本件損害賠償請求権は消滅していないとして種々の主張をするので,判断する。 ア被控訴人らは本件議決による本件損害賠償請求権の権利放棄は許されないと主張し,その根拠として,①本件議決は住民訴訟の趣旨に反すること, ②本件の住民訴訟に非訟事件手続法76条を類推適用すべきであること,③違法な事務執行によって発生した損害を回復するための権利を放棄しても,違法な公金支出が適法になるわけではなく,法治主義に反する状態が続くことになることを挙げる。 しかしながら,なるほど,住民訴訟は,地方公共団体の執行機関又は職員による財務会計上の違法な行為又は怠る事実が当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害することにかんがみ,住民が当該地方公共団体に代わって提訴し,自らの手により違法の防止又は是正をし,もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであるが,他方,住民訴訟が提起されたからといって,住民の代表である地方公共団体の議会がその本来の権限に基づいて住民訴訟における個別的な請求に反した議決に出ることまで妨げられるべきものではない。本件は,財務会計上の違法行為を前提とするものではなく,怠る事実に係る損害賠償請求事案であるところ,当該損害賠償請求権の発生原因のいかんによって放棄の可否を定めた法令はなく,その放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することによる影響・効果等を総合考慮した上 権の発生原因のいかんによって放棄の可否を定めた法令はなく,その放棄の可否は,住民の代表である議会が,損害賠償請求権の発生原因,賠償額,債務者の状況,放棄することによる影響・効果等を総合考慮した上で行う良識ある合理的判断にゆだねられているというほかないのであって,上記のとおりαの住民の代表で構成される玉穂町議会は,本件議案について質疑,討論を行い,民主主義の原則にのっとり,多数決で本件損害賠償請求権を放棄する旨議決したのであるから,本件議決によって本件損害賠償請求権は消滅しており,そのことによって「法治主義に反する状態が続く」ことになるものでもない。また,住民訴訟は,住民である原告が,地方公共団体に代わって,専ら原告を含む住民全体の利益のために,いわば公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するものであって,債権者が自己の個人的利益のために行う民法423条の定める債権者代位権に基づく訴訟とは性質を異にする。したがって, 裁判上の代位に関する非訟事件手続法76条2項の規定は,住民訴訟の場合に類推適用する余地はないというべきである。したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 イ次に,被控訴人らは,本件議決は効力を生じていないと主張し,その根拠として,①権利放棄の議決には長の執行行為を要するのに,本件議決にはいまだ長の執行行為がないから,損害賠償請求権は消滅していないこと,②権利放棄の議案の提出権は長に専属するものであるのに,本件損害賠償請求権の放棄に係る本件議決は議員提出議案によりされたものであるから,手続的に違法であって無効であることを挙げる。 しかしながら,地方自治法96条1項10条が,権利の放棄を議会の議決事項としたことは,住民の意思をその代表者を通じて直接反映させるとともに,執行機関の専断を排除しようと って無効であることを挙げる。 しかしながら,地方自治法96条1項10条が,権利の放棄を議会の議決事項としたことは,住民の意思をその代表者を通じて直接反映させるとともに,執行機関の専断を排除しようとする趣旨をも含むものであるから,権利放棄の議決につき長の執行行為を要するとは解されない。また,地方自治法112条1項が,普通地方公共団体の議会の議員は,議会の議決すべき事件につき,議会に議案を提出することができる旨を規定していること,議会の議決事項の一つである権利放棄(同法96条1項10号)の議案の提出権については,予算のような議員に議案提出権がない旨の規定(同法112条1項ただし書)がないことからみて,権利放棄の議案の提出権が長に専属すると解すべき根拠はないというほかなく,議員提出議案によることができるものと解するのが相当である。 ウ被控訴人らは,地方自治法96条1項10号の趣旨からは,権利放棄の議決が,地方公共団体及び住民の利益を一方的に害するにもかかわらず,専ら特定の個人の利益を図る目的をもってされた場合等,同号が権利放棄を議会の議決にゆだねた趣旨に明らかに背いてされたものと認め得るような特別の事情がある場合には,議会にゆだねられた権限を濫用し,又はその範囲を逸脱するものとして違法となり,その効力が否定されるとし,本 件議決については,町民有志の会の上申書がきっかけとなっているが,町民有志の会の代表者は,控訴人の町長1期目からの裏の金庫番を任され,町発注の工事請負代金に応じた上納金を預かり,保管する役割を担っていた人物である上,同人による上申書提出当時,玉穂町は平成18年2月20日に合併して中央市となる予定であり,本件議決は合併によって玉穂町が中央市となる予定日の13日前の2月7日に,控訴人を支持するいわゆる「C派」の議員によ る上申書提出当時,玉穂町は平成18年2月20日に合併して中央市となる予定であり,本件議決は合併によって玉穂町が中央市となる予定日の13日前の2月7日に,控訴人を支持するいわゆる「C派」の議員によって駆け込み的にされたものであるから,特定の個人の利益を図る目的をもってされた場合等,同号が権利放棄を議会の議決にゆだねた趣旨に明らかに背いてされたものと認め得るような特別の事情がある場合に当たり,本件議決は違法であってその効力を否定されるべきであると主張する。 しかしながら,地方自治法96条1項10号の文言及び趣旨に照らせば,議会は,法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合でない限り,自らが本来有する権限に基づき,権利放棄の議決をすることができるものである。しかるところ,本件損害賠償請求権の放棄については,法令又は条例に何ら特別の定めはないから,本件議決は有効でり,違法は存しないというべきである。 なお,権利放棄の議決に裁量権の逸脱又は濫用が認められる場合には当該議決が違法になり得ると解するとしても,権利放棄の議決は議会の自律的判断として最大限に尊重されるべきものであることに照らせば,議会が付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを議決したと認め得るような特別の事情がある場合に限られると解すべきである。なお,損害賠償請求権を放棄することは,その性質上,特定債務者に対し債務消滅の利益を与えるものであるから,そのことゆえに権利放棄が許されないことにはならないのは明らかである。そして,本件議決については,被控訴人らと同じαの住民の有志1147人から議長あてに本件損害賠償請求権の放棄の上 申書が出されたことを受けて,玉穂町議会議員から本件損害賠償請求権を放棄する旨の議決を求める議案が議員提出議案として提出され,上記議案が付 1147人から議長あてに本件損害賠償請求権の放棄の上 申書が出されたことを受けて,玉穂町議会議員から本件損害賠償請求権を放棄する旨の議決を求める議案が議員提出議案として提出され,上記議案が付託された総務常任委員会において,賛成3名,反対2名により原案のとおり決定すべきものとの決定を経て,玉穂町議会において,上記議案について質疑,討論をした上で,賛成9名,反対6名により,上記議案が可決されたことは前示のとおりであって,本件において玉穂町議会が付与された権限の趣旨に明らかに背いて本件議決をしたと認め得るような特別の事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 結論 以上によれば,被控訴人らの請求は,本件議決がなされた以上,その余の点につき判断するまでもなく理由がないので棄却すべきである。 よって,これと異なる原判決中控訴人敗訴部分を取り消し,その取消しに係る部分の被控訴人らの請求を棄却することとして,主文のとおり判決する(なお,1審原告Fの本件訴訟は同人の死亡により終了した。)。 東京高等裁判所第16民事部裁判長裁判官宗宮英俊裁判官坂井満裁判官畠山稔
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