令和5年10月4日判決言渡 令和5年(ネ)第10012号不正競争行為差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第19198号) 口頭弁論終結日令和5年7月19日判決 控訴人アストラゼネカ株式会社 同訴訟代理人弁護士末吉剛 同高橋聖史 同訴訟代理人弁理士青木博通 被控訴人日本ジェネリック株式会社 被控訴人東亜薬品株式会社 上記両名訴訟代理人弁護士古城晴実 同牧野知彦 同岡田健太郎 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人日本ジェネリック株式会社(以下「被控訴人日本ジェネリック」という。)は、原判決別紙被控訴人商品目録記載の各医療用医薬品を譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。 3 被控訴人東亜薬品株式会社(以下「被控訴人東亜薬品」という。)は、原判決別紙被控訴人商品目録記載の各医療用医薬品を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。 4 被控訴人らは、原判決別紙被控訴人商品目録記載の各医療用医薬品を廃棄せよ。 5 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して2億3886万2925円並びにうち1億1756万4694円に対する令和2年3月31日から年5分の割合による金員及びうち1億21 薬品を廃棄せよ。 5 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して2億3886万2925円並びにうち1億1756万4694円に対する令和2年3月31日から年5分の割合 による金員及びうち1億2129万8231円に対する被控訴人日本ジェネリックについては同年8月26日から、被控訴人東亜薬品については同月27日から、各支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。) 1 本件は、気管支喘息用の医療用医薬品である原判決別紙控訴人商品目録記載 の各商品(控訴人商品)を製造販売する控訴人が、被控訴人東亜薬品が製造し、被控訴人日本ジェネリックが販売する原判決別紙被控訴人商品目録記載の各商品(被控訴人商品)の形態は、控訴人商品の形態と類似しており、被控訴人らが被控訴人商品を製造、販売する行為は、控訴人の周知な商品等表示と同一又は類似の商品等表示を使用した商品の譲渡等であって、これによって控訴人は 営業上の利益を侵害されたなどとして、不正競争防止法(不競法)2条1項1号の不正競争に当たるなどと主張し、被控訴人らに対し、①同法3条1項に基づき、被控訴人商品の譲渡等の差止めを求め、②同条2項に基づき、被控訴人商品の廃棄を求め、③同法4条、5条2項に基づき、令和元年12月から令和2年5月までの損害賠償金として2億3886万2925円並びにうち1億1 756万4694円(令和元年12月から令和2年3月までの被控訴人らの利 益額により推定される控訴人の損害額及び同額の1割に相当する弁護士費用の合計額であると控訴人が主張する金額)に対する上記期間にされた不正競争行為の後である令和2年3月31日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の する弁護士費用の合計額であると控訴人が主張する金額)に対する上記期間にされた不正競争行為の後である令和2年3月31日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金及びうち1億2129万8231円(令和2年4月及び5月の被控訴人らの利益額により推 定される控訴人の損害額及び同額の1割に相当する弁護士費用の合計額であると控訴人が主張する金額)に対する訴状送達の日の翌日(被控訴人日本ジェネリックについては令和2年8月26日、被控訴人東亜薬品については同月27日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原判決は控訴人の請求をいずれも棄却し、控訴人が原判決を不服として控訴した。 2 前提事実、争点及びこれに対する当事者の主張は、後記3のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の1、第3及び第4(3頁2行目から64頁25行目まで)に記載のとおりであるから、 これを引用する。 ただし、原判決42頁2行目の「照らせは、」を「照らせば、」に、48頁22行目の「表示すぎず、」を「表示にすぎず、」に、それぞれ改める。 3 当審における控訴人の補充主張⑴ 商品の形態が特別顕著性及び周知性の二つの要件を充足する場合、不競法 2条1項1号の商品等表示に該当する。しかし、原判決は、この二つの要件を直接判断することなく、控訴人商品の形態は商品等表示に該当しないと判断しており、従前の裁判例の規範から逸脱している。すなわち、原判決は、商品の形態の出所表示機能が否定される場合は、上記2要件のいずれかが否定されると判断したが、上記2要件の判断を経て、商品形態が商品の出所表 示機能を発揮して商品等表示に該当 なわち、原判決は、商品の形態の出所表示機能が否定される場合は、上記2要件のいずれかが否定されると判断したが、上記2要件の判断を経て、商品形態が商品の出所表 示機能を発揮して商品等表示に該当するとの結論が得られるのであって、出 所表示機能の結論を先行させることは論理矛盾かつ本末転倒である。 また、原判決は、医療用医薬品の形態は商品等表示にはおよそ該当しないとの独自の見解に立脚し、その結論に基づいて商品等表示該当性を否定したが、控訴人商品のようにデバイスと一体となった医薬品の場合、ユーザは日々その形態に接して使用するのであるから、医療機器と同様に商品等表示に該 当する(医療機器について、知財高裁令和元年8月29日判決(知財高裁平成31年(ネ)第10002号参照))。 ⑵ 原判決は、医師、薬剤師及び患者は、医療用医薬品を選択するに当たり、医療用医薬品の形態自体によってその出所を識別するものではないと判断した。しかし、原判決が上記判断の前提とした取引の実情は誤っている。 呼吸器内科を専門とするA教授(以下「A’教授」という。)は、その意見書(甲110)において、医師(特に、呼吸器やアレルギーの専門医ではない非専門医)、薬剤師及び患者は、吸入器をその形態で認識し区別していることがある事実を指摘している。吸入薬は、錠剤やカプセル薬と異なり、一定の大きさを有しており、個々の吸入器ごとに固有の特徴的な形態があるから、 吸入器の形態の印象が強く、医師は、販売名及び製造販売元ではなく、使用方法の特徴や吸入器の形態で控訴人商品を想起しており、特に非専門医はこの傾向が強い。このため、控訴人商品と被控訴人商品の形態が類似し、使用方法の特徴が同一であることにより、医師、特に非専門医は、被控訴人商品を控訴人商品のマイナーチェンジ又 しており、特に非専門医はこの傾向が強い。このため、控訴人商品と被控訴人商品の形態が類似し、使用方法の特徴が同一であることにより、医師、特に非専門医は、被控訴人商品を控訴人商品のマイナーチェンジ又は新しいバージョンと認識するおそれが ある。調剤薬局の薬剤師の事情も、非専門医と同様である。これらの事実は、医師会や病院が独自に作成している吸入薬に関する服薬指導資料において、被控訴人商品の説明の中で控訴人商品のデバイスの名称(タービュヘイラー)及び写真が使用されていることからも裏付けられる(甲111、112、114、115)。 また、A’教授は、前記意見書において、吸入器の形態が類似している場 合、吸入器の内部の構造及び薬剤に同一の技術が使用され、同一の治療効果をもたらすとの期待が生じると述べている。被控訴人商品の形状は控訴人商品と極めて類似しており、医師(特に非専門医)、薬剤師及び患者は、被控訴人商品が控訴人商品のオーソライズド・ジェネリック(AG)であると誤解する。典型的な例では、AGは、先発医薬品と同じ生産設備で、同じ原材料 により、同じ製造方法で製造され、先発医薬品メーカーによって供給されており、製造販売承認の内容及び製造販売元のみが先発医薬品と異なるから、需要者がAG以外の後発医薬品(GE)をAGと誤信することは、上記の典型的な例においては、GEの出所が先発医薬品と同じであると誤信すること、すなわち狭義の出所の混同が生じていることを意味する。また、先発医薬品 メーカーは、AGについて様々な態様で積極的に関与しており、AGが先発医薬品メーカー又は先発医薬品と同一の生産者によって供給されていない場合でも、AGの出所は少なくとも先発医薬品メーカーと何らかの密接な関連を有しているから、需要者がGEをAGと誤 ており、AGが先発医薬品メーカー又は先発医薬品と同一の生産者によって供給されていない場合でも、AGの出所は少なくとも先発医薬品メーカーと何らかの密接な関連を有しているから、需要者がGEをAGと誤信することは、そのGEの出所が先発医薬品メーカーと何らかの緊密な関連を有すると誤信すること、すな わち少なくとも広義の混同が生じていることを意味する。 ⑶ア処方及び調剤には、①医師が銘柄名処方(本事案の場合「シムビコートタービュヘイラー」又は「シムビコート」)を行い、変更不可欄にチェックをする場合、②医師が銘柄名処方を行い、変更不可欄を空欄にする場合、③医師が一般名処方(本事案の場合「ブデゾニドホルモテロール」)を行 う場合の3通りがある。このうち、①の場合は患者に控訴人商品が手渡されるが、②及び③の場合、控訴人商品が手渡される場合と被控訴人商品が手渡される場合がある。 イ上記②の場合、医師会等の吸入薬に関する服薬指導資料において、被控訴人商品に「タービュヘイラー」が使用されていると表記されている事実 (前記⑵)等から認められるように、医師ですら被控訴人商品は控訴人商 品と同一のデバイスが用いられていると誤解し、あるいは被控訴人商品では技術供与により控訴人商品と同一の技術が使用されていると誤解している場合があり、薬剤師や患者も同様の誤解をするおそれがあるから、患者は、被控訴人商品のデバイスが控訴人商品と同じ製造元から供給されていると誤信し、あるいは被控訴人商品の製造元と控訴人商品の製造元とが 密接な関係にあると誤信して被控訴人商品を選ぶから、出所の混同が生じる。あるいは、薬剤師及び患者が、被控訴人商品が控訴人商品のAGと誤信して被控訴人商品を選ぶという事態も生じ、前記⑵のとおり、狭義の混同又は少なくとも広 して被控訴人商品を選ぶから、出所の混同が生じる。あるいは、薬剤師及び患者が、被控訴人商品が控訴人商品のAGと誤信して被控訴人商品を選ぶという事態も生じ、前記⑵のとおり、狭義の混同又は少なくとも広義の混同が生じる。 ウ上記③のうち、医師が控訴人商品と被控訴人商品との違いを正確に認識 しつつ、最終的な決定権を患者に委ねる趣旨で一般名処方を選択した場合、その場合の患者による薬剤の選択は、上記イのとおりである。 医師が、被控訴人商品には控訴人商品と同一のデバイスが使用されている、あるいは被控訴人商品では技術供与により控訴人商品と同一の技術が使用されていると誤解し、又は被控訴人商品はAGであると誤解している 場合があり、この誤解に基づき、控訴人商品と被控訴人商品のいずれを選択しても構わないと考えて一般名処方をした場合、薬剤師及び患者にも同様の誤解が生じており、医師に誤解が生じているために薬剤師及び患者に生じた誤解が是正される機会がなく、患者は、上記内容の誤解をして被控訴人商品を選ぶから、出所の混同が生じている。 ⑷ 被控訴人商品は、控訴人商品とデバイス及び製剤として同一ではなく、控訴人商品の技術が使用されているわけでもないにもかかわらず、患者がこの事情を十分認識しないまま、控訴人商品を被控訴人商品に切り替え、漫然と使用し続ける場合、患者に深刻な不利益が及び得る。A’教授は意見書でこの事情を指摘している。 また、後発医薬品の吸入薬の形態について、薬事規制上又は技術上、先発 品の形態と実質同一にする必要があるという事情は存在しない。控訴人が原審においても主張したとおり、控訴人商品の後発医薬品を製造するとしても、カウンター(残量計)やマウスピースの形態を大きく変えることが可能なのであって、被控訴人はそれにもか 情は存在しない。控訴人が原審においても主張したとおり、控訴人商品の後発医薬品を製造するとしても、カウンター(残量計)やマウスピースの形態を大きく変えることが可能なのであって、被控訴人はそれにもかかわらず控訴人商品と酷似した形態をあえて採用しており、需要者の注意を惹く見た目に着目して、被控訴人商品の形 態を控訴人商品に近づけたことを示している。 ⑸ア原判決は、控訴人商品のAGは販売されていないから、需要者において、現実には存在しない控訴品商品のAGと被控訴人商品とを誤認混同する余地はないと判断した。 しかし、控訴人商品のAGに関して業界紙にて報道がされており、医師 らは控訴人商品のAGが上市される可能性を認識している。また、今日では多く先発医薬品に関しAGが上市されており、医師、薬剤師及び患者は、いずれの医薬品についても、AGが上市される可能性を認識している。したがって、実際にAGが上市されたか否かに関わらず、AGでない後発医薬品(GE)である被控訴人商品がAGと誤信されるおそれがあり、出所 の混同が生じる。 イ控訴人は、原審において、公益財団法人日本医療機能評価機構のデータベースに基づき、平成22年から令和3年までの間に、外観、外形、形状又は形態の類似に伴う事故(医療事故情報又はヒヤリ・ハット事例)が50件以上発生していることを説明したが、原判決は、ヒヤリ・ハット事例 は、医師及び薬剤師において一般に払われる注意力を欠いている事例であるため、不競法2条1項1号にいう混同の判断基準となる一般の需要者を前提にしていないと判断した。しかし、医師及び薬剤師においても医療事故及びヒヤリ・ハット事例が起きるという事実こそ、医師及び薬剤師がミスのない完璧な人間ではなく、実際には常に完全な注意力を発揮できるわ いないと判断した。しかし、医師及び薬剤師においても医療事故及びヒヤリ・ハット事例が起きるという事実こそ、医師及び薬剤師がミスのない完璧な人間ではなく、実際には常に完全な注意力を発揮できるわ けではないことを示しており、原判決の判断は、理想的かつ誤りのない需 要者のみによって構成される仮想の市場に依拠しているが、このような現実にあり得ない架空の市場を想定すべきではない。 ウ原判決は、控訴人が原審で提示した本件アンケート調査について、単純にラベルを剥がした状態の控訴人商品と被控訴人商品の形態を比較したものであるから、必ずしも取引の際における需要者の医療用医薬品に関す る識別又は選択の実情を示すものではないと判断した。しかし、実際の医療現場では、常に細心の注意を払って誤りなく薬剤の処方及び調剤ができるわけではなく、本件アンケート調査と同様の事象が生じる。まして、患者の注意力は医療関係者と大きな違いがある。また、販売名の表示されたラベルを付した状態の写真を示せばアンケートの意味を失わせることに なるし、ラベルに差異があったとしても、需要者は、一方が他方の改良品、用量の異なる製品、同一シリーズの派生品と認識する。 エ控訴人は、原審において、患者は調剤薬局を選択することにより後発医薬品メーカーを選択することができるから、需要者に含まれると主張したが、原判決は、あらかじめ調剤薬局の在庫を検討した上で医療用医薬品を 選択するような患者が、形態のみに着目し、控訴人商品と被控訴人商品を混同することは極めて不自然であるから、そのような患者は一般の需要者に含まれないと判断した。しかし、吸入器については、その形態が薬剤を区別する手がかりとなっており、患者が調剤薬局の在庫を検討する際に、自身が所望する吸入器と形態が類似する吸入 うな患者は一般の需要者に含まれないと判断した。しかし、吸入器については、その形態が薬剤を区別する手がかりとなっており、患者が調剤薬局の在庫を検討する際に、自身が所望する吸入器と形態が類似する吸入器が存在する場合、当該吸入 器を自身が所望する吸入器と同一であるか、同じ技術が使用されていると誤認して入手することになる。 ⑹ 原判決は、控訴人商品の保管時形態の特徴的な形態はアズマネックスが全て備えているとともに、控訴人商品の使用時形態の特徴的な形態はアズマネックスがその大半を備えているから、控訴人商品の形態には特別顕著性が認 められないと判断した。 しかし、気管支喘息治療用の吸入薬としては、主としてICS及びICS/LABAの2種類が使用されているところ、控訴人商品はICS/LABAに属する一方で、アズマネックスはICSに属するのであって、控訴人商品とアズマネックスは異なる市場に属する。したがって、控訴人商品の特別顕著性の判断において、アズマネックスを比較対象とすべきではない。 仮に、ICS及びICS/LABAなる市場を想定するとしても、アズマネックスの処方数は控訴人商品のわずか約二、三パーセントにすぎないから、アズマネックスは控訴人商品の特別顕著性に影響を及ぼさない。 しかも、控訴人商品は、カウンターの位置が大きく異なり、マウスピース及びキャップの形状も異なるなど、保管時形態及び使用時形態のいずれにつ いても、アズマネックスとは異なる。 ⑺ 医薬品「セルベックス」のカプセル剤及びPTPシートに関する不正競争が争われた一連の事件(知財高裁平成18年9月28日判決(知財高裁平成18年(ネ)第10009号)、知財高裁平成18年9月27日判決(知財高裁平成18年(ネ)第10011号)、知財高裁平成18年11月 争われた一連の事件(知財高裁平成18年9月28日判決(知財高裁平成18年(ネ)第10009号)、知財高裁平成18年9月27日判決(知財高裁平成18年(ネ)第10011号)、知財高裁平成18年11月8日判決(知 財高裁平成18年(ネ)第10014号))及び医薬品「クレメジン」の分包包装体及びカプセル剤の封入されたPTPシートに関する不正競争が争われた事件(知財高裁平成19年1月30日判決(知財高裁平成18年(ネ)第10061号))は、カプセル剤、PTPシート及び分包包装体の形状には選択の幅が無いか極めて乏しいという事情の下、色彩及びその組合せ(色彩構 成)による商品等表示該当性が争われた事案である。これに対し、吸入薬は、形状の自由度が大きく、患者は吸入薬を持ち歩き、日々手に取って口にくわえて使用しており、形態への関心も高いから、本件において上記カプセル剤、PTPシート及び分包包装体の事例は参考とならない。 むしろ、本件は、デバイスの形状に自由度があり、ユーザにとって利便性 や使いやすさが重視されるという観点で、知財高裁令和元年8月29日判決 (携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器事件・知財高裁平成31年(ネ)第10002号)が参考となる。同事件では、医療機器の使用に当たっては、その形態が使用感や使いやすさ、利便性等に大きな影響を与えるのであるから、医療機器の商品の形態は医療従事者が当該商品を選定する際の考慮要素になっているものと認められるのみならず、医療機器であっても、他の同種 の商品と識別し得る独自の特徴を有する商品の形態が、特定の営業主体によって継続的・独占的に使用されることによって、当該商品の形態が当該営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得することはあり得ると判断された。また、同事件 商品の形態が、特定の営業主体によって継続的・独占的に使用されることによって、当該商品の形態が当該営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得することはあり得ると判断された。また、同事件では、当該事件の一審被告が、当該吸引器の購入には安全性及び品質を吟味して所定の手続を経る必要があり、形態のみに よって商品が識別されることはないと主張したが、その主張は排斥されており、本件でも、医師及び薬剤師は所定の手続に従って慎重に処方又は調剤を行うのだから形態による識別は行われないとの被控訴人の主張は排斥されるべきである。 第3 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。 1 認定事実認定事実は、原判決「事実及び理由」第5の1(65頁2行目から74頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ただし、原判決71頁9行目の「普段が」を「普段」に改め、同頁18行目、72頁13行目、73頁12行目、14行目及び15行目の「医療医薬品」をいずれも「医療用医薬品」に改める。 2 争点1(不競法の適用の可否)について当裁判所も、争点1に関する被控訴人らの主張は採用できないと判断する。 その理由は、原判決「事実及び理由」第5の2(74頁15行目から75頁1 3行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点2(控訴人商品の形態の商品等表示該当性)について⑴ 商品の形態は、商標等とは異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではなく、当然には不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当しないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに 至る場合がある。そして、このように 出所を表示する目的を有するものではなく、当然には不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当しないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに 至る場合がある。そして、このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し、同号の「商品等表示」に該当するためには、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその 形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)が必要であると解される。 ⑵ 争点2-3(特別顕著性)について控訴人商品について、商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していると認められず、特別顕著性の要件を満たすとは認められ ないことは、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第5の3⑶アないしエ(81頁5行目から84頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決82頁14行目の後に改行して次のとおり加える。 「 そして、アズマネックスの販売が開始されたのは平成21年であり(弁 論の全趣旨)、控訴人商品の販売が開始された平成22年(前提事実⑵ア)よりも前であるから、アズマネックスの形態が控訴人商品の形態を模倣したものとは認められない。」イ原判決84頁8行目から12行目までを次のとおり改める。 「エまた、控訴人商品の吸入器(本体部及びマウスピースの部分)は、控 訴人商品の薬剤の性能を発揮し、患者が薬を最も効果的に吸入すること ができるように設計された形状であり(甲16、27、乙38の1・3・4、弁論の全趣旨) 及びマウスピースの部分)は、控 訴人商品の薬剤の性能を発揮し、患者が薬を最も効果的に吸入すること ができるように設計された形状であり(甲16、27、乙38の1・3・4、弁論の全趣旨)、被控訴人東亜薬品は、控訴人商品の後発医薬品を開発するに当たり、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら開発を進め、控訴人商品との治療学的同等性(臨床試験による評価における同等性)及び製剤学的同等性の点で同等であるとの判 定を得るために、吸入器の構造及び形状を控訴人商品の吸入器と同様のものとした(乙38の1、弁論の全趣旨)。 上記事情によれば、控訴人商品の吸入器及びマウスピースの部分の形態は、控訴人商品の実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であるといえ、このような形態について、特別顕著性の要件を 満たすとして、商品等表示として保護を与えることは、同等の機能を有する商品間の自由な競争を阻害する結果をもたらすから、相当でない。 そして、控訴人商品から吸入器本体とマウスピースの部分を除いた部分は、キャップと回転グリップの部分であるが、これらの部分の形状はありふれたものであるということができる。 以上の点からしても、控訴人商品が特別顕著性の要件を満たすとは認められない。」⑶ 争点2-4(周知性)についてア控訴人商品については、認定事実⑻イのとおり、その吸入器の形態に関し、平成12年1月28日、意匠に係る物品を「吸入器」とする意匠権が 登録されたが、平成27年1月28日にその存続期間が満了したことが認められる。控訴人が控訴人商品の吸入器の形態に関する上記意匠権を有している間は、他者が控訴人商品の形態と同様の形態を有する商品を製造・販売することは制限されていたといえる。 また、 了したことが認められる。控訴人が控訴人商品の吸入器の形態に関する上記意匠権を有している間は、他者が控訴人商品の形態と同様の形態を有する商品を製造・販売することは制限されていたといえる。 また、認定事実⑻ア(ア)のとおり、控訴人商品の配合剤に関し、発明の 名称を「新規な配合」とする特許が平成14年8月23日に登録されたが、 平成29年12月7日にその存続期間が満了したことが認められる。控訴人が控訴人商品の配合剤に関する特許権を有している間は、他者が控訴人商品の後発医薬品の製造販売承認を受けることはできず、後発医薬品の製造販売をすることはできなかったと認められる。そして、前記のとおり、控訴人商品の吸入器及びマウスピースの形態は、控訴人商品の薬剤の性能 を発揮し、患者が薬を最も効果的に吸入することができるように設計された形状であり、控訴人商品の機能から要請されるものであるから、控訴人が上記特許権を有し、他者が控訴人商品の後発医薬品の製造販売をすることができない間は、他者が控訴人商品の形態と同様の形態を有する商品を製造販売することは実質的に制限されていたものということができる。 このように、控訴人商品の形態を控訴人が独占的に使用できたのは控訴人が上記意匠権及び特許権を有していたことによるものであるところ、知的財産権の存在により独占状態が生じ、これに伴って周知性が生じるのはある意味では当然のことであり、このような独占状態に基づいて控訴人商品の形態について一定の周知性が生じたとしても、このような周知性だけ を根拠に不競法の適用を認めることは、結局、上記知的財産権の存続期間満了後も、第三者によるその利用を妨げることに等しい。このような事態は、価値ある情報の提供の対価として、その利用の一定期間の独占を認める一方、 法の適用を認めることは、結局、上記知的財産権の存続期間満了後も、第三者によるその利用を妨げることに等しい。このような事態は、価値ある情報の提供の対価として、その利用の一定期間の独占を認める一方、期間経過後はこれを公衆に開放してその利用を認める知的財産権の制度趣旨に反し、相当でない。もっとも、このように、周知性が知的財 産権に基づく独占により生じた場合でも、知的財産権の存続期間が経過し、第三者の同種競合商品が市場に投入されて相当期間経過するなどして、知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭された後で、なお控訴人商品の形態が出所を表示するものとして周知であるとの事情が認められれば、不競法2条1項1号を適用する余地があると解すべきであ る。 イこの点から本件について検討すると、被控訴人商品が製造販売承認を受けたのは平成31年2月(前提事実⑶ア)、販売開始は令和元年12月であり(前提事実⑶イ)、控訴人商品の吸入器の形態に関する意匠権の存続期間が満了した平成27年1月28日から、それぞれ約4年、約4年10か月という比較的短い期間しか経過しておらず、また、控訴人商品の配合剤の 特許権の存続期間が満了した平成29年12月7日から、被控訴人商品が製造販売承認を受けるまでは約1年2か月、被控訴人商品の販売までは約2年という短い期間しか経過していない。この期間に、被控訴人商品以外の第三者の後発医薬品が販売されたという事情は認められないから、この期間をもって、第三者の同種競合商品が市場に投入されて相当期間経過す るなどして知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭されたとはいえないし、控訴人商品の形態が控訴人によって長期間独占的に使用されたとはいえず、その他、本件の全証拠によっても、上記期間に るなどして知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭されたとはいえないし、控訴人商品の形態が控訴人によって長期間独占的に使用されたとはいえず、その他、本件の全証拠によっても、上記期間に、控訴人商品について控訴人が知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭され、控訴人がこの期間に極めて強力な宣伝広告や爆発 的な販売実績を獲得したことなどによって、控訴人商品の形態が新たに周知性を獲得したとは認められない。 ウこの点に関して控訴人は、東京高裁平成5年2月25日判決は特許権の消滅から競合品の販売までの期間が約3年半である事案において商品等表示性を肯定しており、本件では、控訴人商品に係る意匠権の存続期間が 満了してから被控訴人商品の販売が開始されるまで約5年が経過しているから、控訴人が控訴人商品に関する知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響は払拭されていると主張する(原判決第4の5(原告の主張)⑷ウ)。 しかし、そもそも、本件においては、上記配合剤による特許権の存続期 間が満了してから約1年2か月ないし2年という短い期間しか経過して いないのであるから、仮に3年半の経過によって商品等表示性を肯定した裁判例があったとしても本件の判断に何ら影響するものではなく、また、控訴人が挙げる東京高裁平成5年2月25日判決は、当該事件の一審被告の商品の一部が一審原告の商品の一部と形状及び形態において類似し、出所の混同のおそれがあると判断したが、これらの一審原告の商品は、特許 権、意匠権その他の知的財産権が登録されていたものではない(この事案では、一審原告の商品には、その形態につき意匠権が登録されていたものがあると認定されたものの、このように意匠権が登録されていた一審原告の商品は一審被告の商 産権が登録されていたものではない(この事案では、一審原告の商品には、その形態につき意匠権が登録されていたものがあると認定されたものの、このように意匠権が登録されていた一審原告の商品は一審被告の商品と形状及び形態において類似するとは認められないと判断された。)。 したがって、上記判決が知的財産権の消滅から競合品の販売までの期間が約3年半である事案において商品等表示性を肯定する判断をしたことを前提とする控訴人の主張は誤りであり、同裁判例を根拠として、控訴人商品につき、被控訴人商品の販売開始までに、知的財産権を有していたことに基づく独占状態の影響が払拭され、その後に控訴人商品の形状が新た に周知性を獲得したと認めることはできない。 エ以上によれば、控訴人商品の形態について、周知性の要件を充足するとは認められない。 ⑷ 上記⑵及び⑶によれば、控訴人商品の形態については、商品の形態が不競法2条1項1号の「商品等表示」に該当するといえるために必要な特別顕著 性の要件及び周知性の要件のいずれも充足しないから、これが同号の「商品等表示」に該当するとは認められない。 4 争点4(混同のおそれ)について⑴ 混同のおそれがあると認められるか否かの判断の前提として、医師及び薬剤師のほか、患者が控訴人商品及び被控訴人商品の需要者に含まれるか否か について検討する。 控訴人商品及び被控訴人商品は医療用医薬品であるが、医療用医薬品は、医師が患者を診察し、その診察における診断に基づいて処方する薬の種類や量を決定する。控訴人商品及び被控訴人商品は、患者が吸入器による薬剤の吸入を行う医薬品であるから、医師が診察の際に患者に対して吸入器の使用方法を説明するために医薬品の現物を示すことがあり、この際に患者が意見 を述べる 及び被控訴人商品は、患者が吸入器による薬剤の吸入を行う医薬品であるから、医師が診察の際に患者に対して吸入器の使用方法を説明するために医薬品の現物を示すことがあり、この際に患者が意見 を述べる機会があると認められるものの(認定事実⑹及び⑺)、薬の処方はあくまで医師が患者の病態や薬の効能、副作用等を考慮して行うのであって、患者が自由に薬の種類等を選択できるということはない。また、薬剤師は、医師の処方に基づいて医薬品を調剤するが、医師が銘柄名処方をしたが後発医薬品への変更を不可と判断しなかった場合、及び医師が一般名処方をした 場合には、後発医薬品を調剤することが可能であり、その際、患者に対し、後発医薬品を希望するか否かにつき患者の意向を確認した上で医薬品の調剤を行う(認定事実⑺)。患者は、調剤薬局において、上記の範囲で意向を示し、先発医薬品か後発医薬品かの選択をすることができるが、それ以上に患者が医薬品の選択を行うことができるとは認められない。 以上の事情を総合すれば、不競法2条1項1号にいう主たる「需要者」は医師及び薬剤師であり、患者は「需要者」に含まれるものの、従たる需要者の立場にすぎないと解される。 ⑵ア控訴人商品及び被控訴人商品の主たる需要者である医師は、患者の病態や医薬品の薬効及び副作用等を考慮要素として処方を行うとともに、後発 医薬品への変更の可否を検討するのであって、このような考慮要素に基づいて行う処方の際に、控訴人商品の形態と被控訴人商品の形態が類似しているために、控訴人商品と被控訴人商品を混同するとは考えられないし、そのようなことは本来あってはならないことである。医師が、患者に吸入器の形状を示すために、患者の診察に際し、控訴人商品あるいは被控訴人 商品を使用時形態の状態にして患者に見せ 考えられないし、そのようなことは本来あってはならないことである。医師が、患者に吸入器の形状を示すために、患者の診察に際し、控訴人商品あるいは被控訴人 商品を使用時形態の状態にして患者に見せることがあるとしても、医師の もとにある控訴人商品や被控訴人商品は、箱の中に入った状態であるか、少なくとも保管時形態であり、箱には商品名が印刷されており(甲143の1~4、144の1~4、乙46の1、47の1)、保管時形態の外側には商品名が印刷されたラベルが貼られているから(原判決控訴人商品写真目録、被控訴人商品写真目録1及び2)、医師が箱から商品を出し、キャッ プを外して使用時形態にして患者に示したとしても、その際に形態による控訴人商品と被控訴人商品の混同が生じることはないといえる。 イ薬剤師は、医師の処方に基づき薬を調剤し、医師が後発医薬品への変更を不可と判断した場合を除き、患者の意向を確認した上で、後発医薬品の調剤を行うが、薬剤師が後発医薬品への変更調剤を行うに当たっては、当 該後発医薬品を選択した基準を患者に対して説明することとされており、かつ、保険薬局において、銘柄名処方に係る処方薬につき後発医薬品への変更調剤を行ったときや、一般名処方に係る処方について調剤を行ったときは、調剤した薬剤の銘柄等について、原則として処方箋を発行した保険医療機関に情報提供することとされており(認定事実⑺イ)、薬剤師は、先 発医薬品と後発医薬品との区別を意識して調剤を行うといえる。 しかも、調剤薬局に保管されている控訴人商品及び被控訴人商品は、箱の中に入った状態であるか、又は保管時形態であり、患者に渡す際には保管時形態であると考えられ、前記のとおり、箱及び保管時形態の外観には商品名の記載がある。これらの事情からすれば、薬剤師にお 品は、箱の中に入った状態であるか、又は保管時形態であり、患者に渡す際には保管時形態であると考えられ、前記のとおり、箱及び保管時形態の外観には商品名の記載がある。これらの事情からすれば、薬剤師においても、形態 による控訴人商品と被控訴人商品の混同を生じるおそれがあるとは認められない。 ウ患者は、前記⑴のとおり、原則として、医師が処方し、薬剤師が調剤した医薬品の交付を受けるのみである。 医師が後発医薬品への変更を不可と判断しなかった場合、薬剤師が患者 に対して後発医薬品への変更に関する意向を確認し、患者が薬剤師に対し て後発医薬品への変更に関する意向を述べる機会があるとしても、薬剤師は控訴人商品又は被控訴人商品を保管時形態で交付するから、これを使用時形態にして上記意向確認をするとは考えられず、患者が、形態による控訴人商品と被控訴人商品の混同をするとも考えられない。 また、医師が患者に対して控訴人商品又は被控訴人商品を使用時形態に して示すことがあるとしても、前記アのとおり、医師が患者に使用時形態の控訴人商品又は被控訴人商品を示す際に、医師が形態による混同をするとは認められず、かつ、医師は患者の病態、医薬品の薬効及び副作用を考慮して処方を行うのであるから、先発医薬品である控訴人商品と後発医薬品である被控訴人商品を区別した上でこれを患者に示すといえる。そうす ると、患者も、医師から使用時形態を示されたとしても、その際に形態による控訴人商品と被控訴人商品との混同を生ずるとは認められない。 ⑶ 前記⑵アからウまでの取引の実情に照らせば、控訴人商品と被控訴人商品につき、不競法2条1項1号の混同のおそれがあるとは認められない。 5 当審における控訴人の主張に対する判断 ⑴ 控訴人は、原判決が、商品の形態 引の実情に照らせば、控訴人商品と被控訴人商品につき、不競法2条1項1号の混同のおそれがあるとは認められない。 5 当審における控訴人の主張に対する判断 ⑴ 控訴人は、原判決が、商品の形態に関して特別顕著性及び周知性の二つの要件を直接判断することなく、控訴人商品の形態が商品等表示に該当しないとし、かつ、医療用医薬品の形態は商品等表示におよそ該当しないとの独自の見解に基づいて判断しており、不当であると主張する。 しかし、原判決のように医師の処方箋を要する医療用医薬品の形態が全て 商品等表示に該当しないとの判断が妥当でないとしても、本件においては、控訴人商品の形態に関し、特別顕著性の要件及び周知性の要件のいずれも充足すると認められないことは、前記3⑵及び⑶の説示のとおりであるから、原告の上記主張は、控訴人商品の形態に基づく商品等表示性を認めないとの判断に影響するものではない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑵ 原告は、A’教授の意見書(甲110)には、①医師、薬剤師及び患者は、吸入器をその形態で認識し区別しているとの指摘、及び②吸入器の形態が類似している場合、吸入器の内部の構造及び薬剤に同一の技術が使用され、同一の治療効果をもたらすとの期待が生じるとの指摘がされており、これらの事情によれば、控訴人商品と被控訴人商品の形態が類似し、使用方法の特徴 が同一であることにより、医師、薬剤師及び患者は、被控訴人商品を控訴人商品のAGあるいは新しいバージョンと認識するおそれがあり、狭義の出所の混同又は広義の混同が生じていると主張する。 しかし、控訴人商品及び被控訴人商品の取引の実情からすれば、これらの主たる需要者である医師及び薬剤師並びに従たる立場の需要者である患者の いずれにつ 同又は広義の混同が生じていると主張する。 しかし、控訴人商品及び被控訴人商品の取引の実情からすれば、これらの主たる需要者である医師及び薬剤師並びに従たる立場の需要者である患者の いずれについても、控訴人商品及び被控訴人商品をその形態で区別していることはなく、形態による混同のおそれがあるとは認められないことは、前記4⑵の説示のとおりであり、また、弁論の全趣旨によれば、現在に至るまで、控訴人商品のAGは一切販売されていないことが認められるから、需要者において、現実に存在しない控訴人商品のAGと被控訴人商品を誤認混同する という事態は生じない。 そして、医師、薬剤師又は患者が、後発医薬品である被控訴人商品が控訴人商品と同一の治療効果をもたらすとの期待をもったとしても、前記4⑵のとおりの取引の実情からすれば、控訴人商品と被控訴人商品の形態の類似性に基づく混同が生じたものとはいえない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑶ 控訴人は、医師が処方に際し、銘柄名処方を行った上で、後発医薬品への変更不可欄を空欄にする場合、及び医師が一般名処方を行う場合、患者には控訴人商品が手渡される場合と被控訴人商品が手渡される場合があるが、いずれの場合も、医師、薬剤師及び患者は、被控訴人商品は控訴人商品のAG である、被控訴人商品は控訴人商品と同一のデバイスが用いられている、被 控訴人商品は技術供与により控訴人商品と同一の技術が使用されているといった誤解をするおそれがあるから、狭義の混同又は広義の混同が生じるおそれがあると主張する。 しかし、前記⑵と同様、控訴人商品及び被控訴人商品の取引の実情からすれば、これらの主たる需要者である医師及び薬剤師並びに従たる立場の需要 者である患者のいずれについても、 れがあると主張する。 しかし、前記⑵と同様、控訴人商品及び被控訴人商品の取引の実情からすれば、これらの主たる需要者である医師及び薬剤師並びに従たる立場の需要 者である患者のいずれについても、控訴人商品及び被控訴人商品をその形態で区別していることはなく、形態による混同のおそれがあるとは認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑷ 控訴人は、被控訴人商品は控訴人商品とデバイス及び製剤として同一では なく、控訴人商品の技術が使用されているわけでもないにもかかわらず、患者がこの事情を十分認識しないまま、控訴人商品を被控訴人商品に切り替え、漫然と使用し続ける場合、患者に深刻な不利益が及び得ると主張する。 しかし、控訴人が挙げる事情は、不競法2条1項1号にいう混同のおそれの有無の判断とは関係がないものであるし、後発医薬品としての製造販売承 認を受けて販売されている被控訴人商品について、患者がその使用を続けた場合に問題が生じると認めるに足りる証拠もない。 また、控訴人は、控訴人商品の後発医薬品を製造するとしても、カウンター(残量計)やマウスピースの形態を大きく変えることが可能なのであって、被控訴人はそれにもかかわらず控訴人商品と酷似した形態をあえて採用して おり、被控訴人らは、需要者の注意を惹く見た目に着目して、被控訴人商品の形態を控訴人商品に近づけたと主張する。 しかし、原判決第5の3⑶エ(前記3⑵イによる補正後のもの)のとおり、控訴人商品の吸入器は、控訴人商品の薬剤の性能を発揮し、患者が薬を最も効果的に吸入することができるように設計された形状であり、被控訴人東亜 薬品は、控訴人商品の後発医薬品を開発するに当たり、独立行政法人医薬品 医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら 効果的に吸入することができるように設計された形状であり、被控訴人東亜 薬品は、控訴人商品の後発医薬品を開発するに当たり、独立行政法人医薬品 医療機器総合機構(PMDA)と相談しながら開発を進め、吸入器の構造及び形状を控訴人商品の吸入器と同様のものとしたことが認められるのであって、被控訴人らが、需要者の注意を惹く外観を採用する趣旨で、被控訴人商品の形態を控訴人商品の形態と似たものとしたとは認められない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑸ 控訴人は、①控訴人商品のAGに関して業界紙にて報道がされており、医師らは控訴人商品のAGが上市される可能性を認識しているし、一般的にも多くの医薬品についてAGが上市されているから、実際に控訴人商品のAGが販売されていないとしても、GEである被控訴人商品がAGと誤信されるおそれがあり、出所の混同が生じる、②控訴人が示しているとおり、平成2 2年から令和3年までの間に、外観、外形、形状又は形態の類似に伴う事故(医療事故情報又はヒヤリ・ハット事例)が50件以上発生しており、医師及び薬剤師が医療事故及びヒヤリ・ハット事例を起こしている事実は、医師及び薬剤師が実際には完全な注意力を発揮できないことを示しているから、これらの事例をもって混同のおそれがあると認められない旨判断した原判決 は誤りである、③原判決は、控訴人が原審で提示した本件アンケート調査について、単純にラベルを剥がした状態の控訴人商品と被控訴人商品の形態を比較したものであるから、必ずしも取引の際における需要者の医療用医薬品に関する識別又は選択の実情を示すものではないと判断したが、実際の医療現場では、常に細心の注意を払って誤りなく薬剤の処方及び調剤ができるわ けではなく、本件アンケート調 る需要者の医療用医薬品に関する識別又は選択の実情を示すものではないと判断したが、実際の医療現場では、常に細心の注意を払って誤りなく薬剤の処方及び調剤ができるわ けではなく、本件アンケート調査と同様の事象が生じるし、ラベルに差異があったとしても、需要者は、一方が他方の改良品、用量の異なる製品、同一シリーズの派生品と認識するから、原判決の上記判断は誤りである、④患者は、調剤薬局を選択することにより、後発医薬品メーカーを選択することが可能であり、特に吸入器については、その形態が薬剤を区別する手がかりと なっており、患者が調剤薬局の在庫を検討する際に、自身が所望する吸入器 と形態が類似する吸入器が存在する場合、当該吸入器を自身が所望する吸入器と同一であるか、同じ技術が使用されていると誤認して入手するから、患者は需要者に含まれる、と主張する。 しかし、上記①については、控訴人商品のAGが販売される可能性があるとの報道がされたからといって、現実には控訴人商品のAGは販売されてい ないのであって、それにもかかわらず医師及び薬剤師が被控訴人商品を控訴人商品のAGであると誤信するとは考え難い。また、医業関係の業界紙において上記報道がされたとしても、一般の患者がその報道がされた事実を認識するとは認められず、医師及び薬剤師が上記誤信をしていないことも考慮すれば、患者が被控訴人商品を控訴人商品のAGであると誤信するとも認めら れない。 上記②については、外観、外形、形状又は形態の類似に伴う医療事故やヒヤリ・ハット事例が複数発生した事実があるとしても、これは医療従事者が注意義務を怠ったことに基づいて取違え等が発生した事例であると考えられ、これらの事例の発生によって不競法2条1項1号にいう混同のおそれが生じ たものである 実があるとしても、これは医療従事者が注意義務を怠ったことに基づいて取違え等が発生した事例であると考えられ、これらの事例の発生によって不競法2条1項1号にいう混同のおそれが生じ たものであると認めることはできない。すなわち、上記事例の発生は医療事故の発生を防止するという観点から別途対策が取られるべきものであって、これらの事例が発生したことをもって被控訴人商品の形態につき同号にいう混同のおそれを生じさせるとして、控訴人に被控訴人商品の差止や損害賠償を認める理由にはならない。 上記③については、控訴人商品及び被控訴人商品の取引の実情からして、医師が処方を行う時点、及び薬剤師が調剤を行って患者に控訴人商品又は被控訴人商品を交付する時点においては、控訴人商品又は被控訴人商品は、商品名が記載された箱に入っているか、又は商品名が印字されたラベルの貼られた保管時形態であるから、仮に、商品名が印字されたラベルを剥がした状 態の保管時形態又は使用時形態で被控訴人商品を控訴人商品と誤った者がい たとしても、控訴人商品又は被控訴人商品の取引に際して、医師、薬剤師及び患者が被控訴人商品と控訴人商品を混同するおそれがあると認められることにはならない。 上記④については、一般の患者が、調剤薬局を選択することによって後発医薬品の種類を選択するとの取引の実情があると認めるに足りる証拠はない。 また、仮に、後発医薬品である被控訴人商品の吸入器が控訴人商品の吸入器と類似していることを前提に、被控訴人商品の在庫のある調剤薬局を調べて選択する患者が存在するとすれば、そのような知識を有し調査を行う患者が、被控訴人商品と控訴人商品について、営業主体が同一であるとの混同あるいは会社組織上の親子関係又は系列関係があるとの混同をするとは考え難い。 存在するとすれば、そのような知識を有し調査を行う患者が、被控訴人商品と控訴人商品について、営業主体が同一であるとの混同あるいは会社組織上の親子関係又は系列関係があるとの混同をするとは考え難い。 したがって、控訴人の上記主張はいずれも採用することができない。 ⑹ 控訴人は、①控訴人商品は気管支喘息治療用の吸入薬のうちICS/LABAに属する一方、アズマネックスはICSに属するのであって、控訴人商品とアズマネックスは異なる市場に属するから、控訴人商品の特別顕著性の判断において、アズマネックスを比較対象とすべきではない、②仮に、IC S及びICS/LABAなる市場を想定するとしても、アズマネックスの処方数は控訴人商品のわずか約二、三パーセントにすぎないから、アズマネックスは控訴人商品の特別顕著性に影響を及ぼさない、③控訴人商品は、カウンターの位置が大きく異なり、マウスピース及びキャップの形状も異なるなど、保管時形態及び使用時形態のいずれについても、アズマネックスとは異 なると主張する。 しかし、控訴人商品とアズマネックスは、気管支喘息治療用の吸入薬である点で共通しており、アズマネックスの処方数が控訴人商品より少ないとしても、アズマネックスは市場において販売されているのであるから、控訴人商品の形態の特別顕著性の判断において、アズマネックスの形態との類似性 を考慮することが不当であるとは解されない。 そして、アズマネックスが、控訴人商品の保管時形態において特徴があると控訴人が指摘する形状の全てを備えており、かつ、控訴人商品の使用時形態において特徴があると控訴人が指摘する形状についても、その大半を備えており、共通する部分はいずれもありふれたものであると認められることは、原判決第5の3⑶(前記3⑵による補正後 訴人商品の使用時形態において特徴があると控訴人が指摘する形状についても、その大半を備えており、共通する部分はいずれもありふれたものであると認められることは、原判決第5の3⑶(前記3⑵による補正後のもの)の判断のとおりであり、 控訴人の当審における主張を検討しても、上記判断は左右されない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 ⑺ 控訴人は、本件については知財高裁令和元年8月29日判決(携帯用ディスポーザブル低圧持続吸引器事件・知財高裁平成31年(ネ)第10002号)が参考となり、同事件では、医療機器の商品の形態は医療従事者が当該 商品を選定する際の考慮要素になっているものと認められるのみならず、医療機器であっても、他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有する商品の形態が、特定の営業主体によって継続的・独占的に使用されることによって、当該商品の形態が当該営業主体の商品であることの出所を示す出所識別機能を獲得することはあり得ると判断されているから、控訴人商品の形態も商品 等表示と認められるべきである旨主張し、同事件では、当該事件の一審被告が、当該吸引器の購入には安全性及び品質を吟味して所定の手続を経る必要があり、形態のみによって商品が識別されることはないと主張したが、その主張は排斥されているから、本件でも、医師及び薬剤師が所定の手続に従って慎重に処方又は調剤を行うことを理由に形態による識別は行われないとの 被控訴人の主張は排斥されるべきである旨主張する。 しかし、控訴人が指摘する判決の事案において問題となった商品は医療機器であるのに対し、控訴人商品及び被控訴人商品は医療用医薬品である。医師による医療用医薬品の処方においては、控訴人商品及び被控訴人商品のように吸入器を備える形状のものであるとして なった商品は医療機器であるのに対し、控訴人商品及び被控訴人商品は医療用医薬品である。医師による医療用医薬品の処方においては、控訴人商品及び被控訴人商品のように吸入器を備える形状のものであるとしても、医師は患者の病態や薬の成 分を考慮して処方する薬を決めるのであって、形態のみをもって商品が識別 されることはない。したがって、上記判決の事案と本件とは事案が異なり、上記判決において商品の形態が商品等表示であると認められたことにより、控訴人商品の形態が商品等表示であると認めるべきとは解されない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 6 以上のとおり、控訴人商品の形態が商品等表示に該当するとは認められず、 かつ、不競法2条1項1号にいう混同のおそれが生じたとも認められない。 控訴人が縷々主張する内容を検討しても、上記判断は左右されない。 7 結論以上によれば、控訴人の請求はいずれも棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。 よって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官東海林保 裁判官今井弘晃 裁判官 水野正則 水野正則
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