【DRY-RUN】主 文 原判決および第一審判決を破棄する。 被告人両名はいずれも無罪。 理 由 弁護人井関安治の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、
主文原判決および第一審判決を破棄する。 被告人両名はいずれも無罪。 理由弁護人井関安治の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。しかし、職権をもつて調査すると、原判決および第一審判決は、以下述べる理由により、破棄を免れないものと認められる。原判決が維持した第一審判決の判示事実の要旨は、次のとおりである。 被告人Aは、昭和二八年八月二九日大阪簡易裁判所において、裁判上の和解により、金融業B株式会社に対する金三百万円の債務の存在を承認し、その担保として自己所有の大阪市a区b町c番地所在木造鉄板葺三階建家屋一棟を提供し、これに抵当権を設定し、その登記並びに代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由したが、その後右債務を完済したので、同年一二月二日右各登記は抹消され、右和解調書はその効力を失つた。そのため、かねて被告人Aに対し債権を有し、その担保として右不動産に対し後順位の抵当権の設定を受け、その登記並びに代物弁済予約を登記原因とする右家屋の所有権移転請求権保全の仮登記を経由していたCが一番抵当権者に昇格し、昭和三〇年四月二五日その権利の実行として右不動産の所有権移転登記を了したうえ、同年五月九日右不動産の明渡の強制執行をしたので、右家屋はCの所有かつ占有するところとなつた。しかるに、被告人両名は他三名と共謀のうえ右家屋の奪回を企て、すでに右家屋は被告人Aの所有、占有を離れているのに、依然として同被告人が所有、占有しているかのように装い、同年一一月一八日ごろ大阪簡易裁判所に対し、すでに効力を失つている前記Bとの間の和解調書正本につき執行文付与の申請をし、同裁判所書記官補Dをその旨誤信させて執行文の付与を受けたうえ、同月二六日ご 、同年一一月一八日ごろ大阪簡易裁判所に対し、すでに効力を失つている前記Bとの間の和解調書正本につき執行文付与の申請をし、同裁判所書記官補Dをその旨誤信させて執行文の付与を受けたうえ、同月二六日ごろ大阪地方裁判所構内において同裁判所所- 1 -属執行吏Eに対しても、前示各事実を秘して右執行文を提出し、右執行吏を右書記官補同様誤信させ、よつてそのころ同執行吏をして右家屋に対する強制執行をなさしめ、Cの占有下にある同家屋をBの占有に移転させてこれをCから騙取した。 第一審判決は、右事実は詐欺罪に該当するとして、被告人両名に対し刑法二四六条一項、六〇条を適用処断しており、原判決もまた、これを是認維持しているのである。 ところで、詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によつてなんらかの財産的処分行為をすることを要するのであり、被欺罔者と財産上の被害者とが同一人でない場合には、被欺罔者において被害者のためその財産を処分しうる権能または地位のあることを要するものと解すべきである。 これを本件についてみると、二番目の強制執行に用いられた債務名義の執行債務者は、あくまで被告人Aであつて、Cではないから、もとより右債務名義の効力がCに及ぶいわれはなく、したがつて、本件で被欺罔者とされている裁判所書記官補および執行吏は、なんらCの財産である本件家屋を処分しうる権能も地位もなかつたのであり、また、同人にかわつて財産的処分行為をしたわけでもない。してみると、被告人らの前記行為によつて、被告人らが本件家屋を騙取したものということはできないから、前記第一審判決の判示事実は罪とならないものといわなければならない(もつとも、記録によれば、被告人両名はあらかじめCの占有に属する本件家屋に泊まりこみ、あたかも被告人らがこれを占有しているかのように装い、情を知らな 示事実は罪とならないものといわなければならない(もつとも、記録によれば、被告人両名はあらかじめCの占有に属する本件家屋に泊まりこみ、あたかも被告人らがこれを占有しているかのように装い、情を知らない執行吏をして同家屋に対するAの占有を解いて被告人らと意を通じたBに引き渡す旨の強制執行をなさしめたことがうかがわれ、右行為は、不動産の侵奪にあたることが考えられるけれども、昭和三五年法律第八三号による不動産侵奪罪制定以前のものであるから、同罪による刑事責任を問うこともできない。)。 そうすると、本件において詐欺罪の成立を認めた第一審判決は、法令の解釈適用- 2 -を誤り、罪とならない事実について被告人両名を有罪とした違法があり、これを看過した原判決もまた違法といわなければならない。そして、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであり、刑訴法四一一条一号によつてこれを破棄しなければいちじるしく正義に反するものと認める。 よつて、同法四一三条但書、四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 検察官長戸寛美公判出席昭和四五年三月二六日最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官入江俊郎裁判官長部謹吾裁判官松田二郎裁判官岩田誠裁判官大隅健一郎- 3 -
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