平成18(わ)1082 受託収賄被告事件

裁判年月日・裁判所
平成18年8月25日 大阪地方裁判所
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判決文本文2,921 文字)

主文 被告人を懲役1年に処する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 大阪地方検察庁で保管中の背広上下1着(平成18年領第1958号符号2)を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,大阪府教育委員会事務局教育監として,教育長の命を受け,府立学校教職員の採用選考に関すること等の教育の専門的事項に関する重要な事務を掌理するなどの職務に従事していたものであるが,平成16年3月24日ころ,大阪市中央区(以下略)大阪府庁別館5階の教育監室において,学校法人A理事長を務めていたBから,その孫であるCが府立学校非常勤講師に採用されるよう有利便宜な取り計らいをしてもらいたいという趣旨の請託を受け,Bから,その謝礼等の趣旨で供与されるものであることを知りながら,同年4月11日ころ,大阪府高槻市(以下略)被告人方において,Bの妻であるDらを介して,仕立券付き紳士服地1着分(価格35万円相当,大阪地方検察庁平成18年領第1958号符号2の背広上下1着はこれを仕立てたものである。)の供与を受け,もって自己の職務に関して賄賂を収受した。 (証拠)省略(事実認定の補足説明等)弁護人は,被告人が,①Bから,その孫の非常勤講師採用に関して「有利便宜な取り計らい」をしてもらいたいという趣旨の請託を受けた事実はなく,②服地を受け取った際は賄賂であるとの認識がなかった旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。また,弁護人は,③上記主張を前提に,本件起訴は検察官の訴追裁量権の範囲を著しく逸脱したものであり,公訴権濫用を理由に公訴棄却されるべきである旨 主張するので,これらについて,以下検討する。 関係証拠によれば,平成16年3月24日,Bが孫のCと共に,被告人を教育監室に訪ね,Cが府立高校の国語科非常勤講師に採用されるよう,「よろしくお願いし 主張するので,これらについて,以下検討する。 関係証拠によれば,平成16年3月24日,Bが孫のCと共に,被告人を教育監室に訪ね,Cが府立高校の国語科非常勤講師に採用されるよう,「よろしくお願いします。」などと述べたこと,Cは,これ以前から大阪府教育委員会に非常勤講師採用希望の登録をしていたが,当時まだ採用の話がなかったこと,被告人は,Bらとの面会直後,教育委員会事務局で国語科の非常勤講師希望者のファイルを見て,講師候補者を探していた府立J高校のE校長を見つけ,同人を教育監室に呼び,帰ろうとしていたBとCも教育監室に呼び戻して,Eに紹介し,Cが非常勤講師採用を希望している旨を伝えたこと,Eは二日後にJ高校で面接することをその場でCに伝えたこと,その後,Eの面接を経て,CはJ高校の非常勤講師に採用されたこと,同年4月11日,Bの妻であるDとCの母であるFが被告人方を訪ね,Cの採用について礼を述べ,紳士服地の入った紙袋を渡し,被告人はこれを受領したことが認められる。 まず,以上の事実関係によれば,Bは,Cが非常勤講師採用希望の登録をしているだけでは,3月になっても採用が決まらなかったことから,何とか採用してもらえるよう被告人に依頼したのであって,これはCの採用について,通常の採用手続よりも,あるいは他の採用希望者よりも有利便宜な取り計らいを求める趣旨の請託に他ならず,被告人もその趣旨を理解していたことは,被告人のその後の行動からも明らかである。弁護人は,教育監には非常勤講師の採用決定自体に関与する権限がなく,実際にもCはE校長の面接を経て,その適格を認められて採用されたのであって,被告人が有利便宜な取り計らいをする余地はない旨主張する。しかし,上記のような校長への紹介行為があれば,紹介がなかった場合と比べて,採用希望者にとって有利であると を認められて採用されたのであって,被告人が有利便宜な取り計らいをする余地はない旨主張する。しかし,上記のような校長への紹介行為があれば,紹介がなかった場合と比べて,採用希望者にとって有利であると解されることには疑いがない。 次に,上記の被告人が服地を受け取った際の状況からすると,その服地は被告人が上記Bの請託を受け,Cが実際に非常勤講師として採用されたことに対する謝礼として供与されたことは明白であり,被告人もこのことを当然認識していたものと 認められる。被告人は,これまで何度かBから受領していたものと同様,社交的儀礼としての進物品と理解した旨述べているが,上記の請託から1か月も経たない時期に,Cの母Fからも,Cの採用について礼を述べられたという状況で,賄賂としての認識がなかったとは到底考えられない。 そして,上記の認定事実を前提にすると,弁護人の公訴権濫用の主張はその前提を欠くことになり,本件起訴が検察官の訴追裁量権を逸脱したものではないことは明らかであって,他に検察官が公訴権を濫用したことをうかがわせる事情は見あたらない。 以上によれば,弁護人の主張はいずれも理由がない。 (法令の適用)罰条刑法197条1項後段刑の執行猶予刑法25条1項没収刑法197条の5前段(量刑の理由)本件は,大阪府教育委員会の教育監であった被告人が,学校法人の理事長から,同人の孫が府立高校の非常勤講師として採用されるよう便宜を取り計らってもらいたいとの趣旨の請託を受け,その謝礼等の趣旨で紳士服地1着分を賄賂として受け取った事案である。教育委員会において教育長に次ぐ地位にあった被告人が,教育者としての自覚を忘れ,大阪府の教育行政,ひいては学校教育に対する国民の信頼を損なった悪質な犯行である。その背景には贈賄側の理事長が被告人を含む教育委員会幹部に対 長に次ぐ地位にあった被告人が,教育者としての自覚を忘れ,大阪府の教育行政,ひいては学校教育に対する国民の信頼を損なった悪質な犯行である。その背景には贈賄側の理事長が被告人を含む教育委員会幹部に対し,高級料亭で接待し,栄転祝を贈るなどしてきた馴れ合いともいうべき関係があったと指摘できる。被告人が有利便宜な取り計らいを頼まれたこと,服地を受領したときに賄賂との認識があったことはいずれも明白であるにもかかわらず,公判においてはこれらの点を否認し,不合理な弁解に終始しており,真摯な反省の態度がみられないといわざるを得ない。 したがって,被告人の刑事責任は重いというべきであるが,被告人は本件が教育 行政に対する信頼を損なわせ,公務員に対する信用を失墜させる結果になったことについては謝罪の意を示しており,受領した服地の価格に相当する35万円の贖罪寄付を行ったこと,退職後に就任していた大学教授の職を辞任しており,一定程度の社会的制裁を受けたものと評価することもできること,教育関係者を中心とした被告人の知人が多数の嘆願署名を集め,これが提出されていること,前科がないこと等被告人のために酌むべき事情もあるので,これらを総合考慮して主文のとおり量刑し,その刑の執行を猶予するのが相当である。 (求刑懲役1年,没収)平成18年8月25日大阪地方裁判所第9刑事部裁判官島本吉規

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