平成18(わ)506 殺人

裁判年月日・裁判所
平成19年7月31日 和歌山地方裁判所
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判決文本文13,240 文字)

主文 被告人を懲役5年以上10年以下に処する。 未決勾留日数中260日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,平成2年2月9日に出生し,両親の下で暮らしていたところ,小学校3年生のころに両親が離婚し,それ以降,被告人の母親であるA(以下「A」という。)が,離婚の際に相談にのってもらった男性と交際して自宅を不在がちにしていた時期もあったものの,やがてAが同男性の暴力に耐えかねて,同人との関係を断ち自宅に戻ってきてからは,A及び母方の祖母に育てられていた。被告人は,平成12年7月ころ(小学校5年生),Aが結婚相談所の紹介を受け,再婚を前提として交際し始めた男性及びその娘と同居するようになったところ,被告人は,同男性を気に入り,新しい父親と姉ができることを喜び,この再婚を非常に強く望んでいたが,Aは,その被告人の希望を知ってはいたものの,暴力に耐えかねて別れたはずの上記男性とのよりを戻していたこともあり,同居した男性と再婚してもいいと思うほどの好意を持つこともできなかったため,再婚話を破談としたことなどから,被告人は,次第にAを嫌い,更には大人全体を嫌い,ひいては人付き合い自体をも嫌うようになり,感情を心の中に抑え込むようになっていった。 その後,被告人は,平成15年1月(中学校1年生)に,Aがよりを戻していた前記男性との間にできた女児を出産したことなどを機に,自分の家は普通の家庭と違うと考えるようになり,また,Aが,そのような家庭になった事情や同女児の父親について被告人にきちんと説明しようとしないばかりか,何でも被告人に責任転嫁しようとする態度を示すことに不満を抱いて,ストレスからくる鬱屈した苛立ちの感情を募らせていたところ,平成16年(中学校2年生ないし3年生)ころ,Aの再婚話の破談が,被告人自身は好意を抱いていた 嫁しようとする態度を示すことに不満を抱いて,ストレスからくる鬱屈した苛立ちの感情を募らせていたところ,平成16年(中学校2年生ないし3年生)ころ,Aの再婚話の破談が,被告人自身は好意を抱いていた相手の男性に対してAが嫌悪感を抱いていたからであったこと等をA自身の口から知るに至って強い衝撃を受け, 苛立ちの感情が我慢できなくなると,Aに反抗して奈良や京都などという遠方まで自分の足で歩いて家出をすることにより苛立ちの感情の解消を試みるなどの行動を起こすようになっていた。 被告人は,平成17年2月にB高等学校の入学試験に合格し,同年4月に同校に入学したが,その後も上記のようにたまっていた苛立ちの感情を解消することができず,人付き合いもますます苦手になり,不登校になって同校を退学した。被告人は,中学生のころ通っていた塾の講師の勧めもあり,同年10月にはC高校に編入し,寄宿舎に入ってAと離れて暮らすようになり,授業や寺院参り等の課外活動には一応順応して生活していたが,寄宿舎生活を始めたことにより苦手な人付き合いをしなければならなくなったことなどから,苛立ちの感情はなお一層募るばかりであった。被告人は,自分なりにストレスを解消しようと考え,平成18年2月ころ,空手部に仮入部するなどしていたが,思ったほどストレスを解消することができず,一人煩悶していた。 被告人は,上記空手部の正式入部に証明写真が必要になったため,教員から,和歌山県伊都郡D町大字EF番地所在のG写真館を紹介され,平成18年4月16日,初めて同写真館を訪れ,同写真館店主H(以下「H」という。)に証明写真を撮影してもらったが,被告人は,その際初めてHと会った。 被告人は,同月18日にもG写真館を訪れて,でき上がっていた証明写真1枚を受け取ったが,空手部入部のためには写真が更にもう1枚 。)に証明写真を撮影してもらったが,被告人は,その際初めてHと会った。 被告人は,同月18日にもG写真館を訪れて,でき上がっていた証明写真1枚を受け取ったが,空手部入部のためには写真が更にもう1枚必要であったため,同月23日,再度G写真館に赴き,Hに対し,証明写真の焼き増しを依頼した。 被告人は,同月24日,C高校において,2時限目である英語の授業中に,携帯電話で音楽を聴いていたことを担当教師から注意されたことがきっかけとなって,次第に感情を昂らせ,Aとの確執など不愉快な出来事を思い出して,普段より遥かに激しい苛立ちの感情を一気に募らせた。 被告人は,同日放課後,激しい苛立ちの感情に耐え切れなくなったため,同日午後4時ころ,どこへ行くともなく寮を出たが,その途上で,漠然とHのことを想い 起こし,かねてから大人全体に対する嫌悪感を抱いていたところ,同人が高野山付近において唯一面識のある大人であり,しかも同人が老齢で,体力的にも被告人のほうが優位にあったことなどから,最早耐え難いものとなっていた激しい苛立ちの感情を解消するために,Hに暴行を加えようと考えるに至った。 (罪となるべき事実)被告人は,少年であるが,自己の激しい苛立ちの感情を解消するため,上記のとおり面識のあったG写真館店主のHに暴行を加えようと決意し,平成18年4月24日午後4時15分ころ,注文していた証明写真を受け取りに来たとの名目で,前記G写真館を訪れ,証明写真を受け取った後,同写真館に併設されているH方において,H(当時71歳)に背後から近付き,振り向いた同人に対し,スタンガンを握った右手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加え,逃げようとした同人の服を摑んで引き倒した上,なおも苛立ちを晴らすため,Hが死亡するかもしれないことを認識しながら,敢えて,同人方台所にあった電気 握った右手拳でその顔面を殴打するなどの暴行を加え,逃げようとした同人の服を摑んで引き倒した上,なおも苛立ちを晴らすため,Hが死亡するかもしれないことを認識しながら,敢えて,同人方台所にあった電気ポット等でその頭部・顔面を多数回殴打するとともに,料理ばさみの先端部で,その後頭部を多数回突き刺す暴行を加え,よって,同日午後5時ころ,同所において,同人を頭部・顔面部の多数の挫裂創及び刺創群に起因する出血性ショックにより死亡させて殺害したものである。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 弁護人の主張等本件公訴事実の外形的事実については,前掲の本件各証拠上,これを容易に認めることができ,弁護人も争っておらず,本件の罪体における争点は殺意の有無である。 すなわち,弁護人は,本件公訴事実について,被告人は,被害者を一回殴った後,歯止めが全く効かなくなり,目の前で何が起こっているかについて意識・認識ができず,自分の行動を制御することもできないまま被害者を死に至らしめた ものであり,被告人には殺意がなかったから,傷害致死罪が成立するにとどまると主張しており,被告人も,当公判廷において,弁護人の上記主張に沿った供述をしている。 そこで,以下,上記主張について,当裁判所の判断を補足して説明する。 2(1)本件犯行態様ア(ア)関係各証拠によれば,被害者は,本件犯行によって,①頭部・顔面部の多数の挫裂創,②頭部・顔面部の多数の略Z字状の刺創,③頭蓋骨の陥没骨折,④鼻骨の陥没骨折,⑤右手の手背・手掌の刺創の各創傷を受け,①②の挫裂創・刺創群からの出血による出血性ショックで死亡していることが認められる。 (イ)まず,前記①④についてみると,右後頭部から頭頂部付近,右前額部に約2.5ないし7.5センチメートルの挫裂創が複数生じており,被害者は による出血性ショックで死亡していることが認められる。 (イ)まず,前記①④についてみると,右後頭部から頭頂部付近,右前額部に約2.5ないし7.5センチメートルの挫裂創が複数生じており,被害者は,鈍器により執拗に頭部及び顔面を強打されたことが認められる。 次に,前記②③⑤についてみると,③の陥没骨折は,②の刺創のうち複数箇所が頭蓋骨に達して生じており,その防御創であると認められる⑤についても,右手環指の創傷は指を貫通している。かかる創傷の部位及び程度からすれば,被害者は,鋭器により,強い力を込めて,執拗に後頭部を突き刺されたことが認められる。 イ次に,本件犯行に用いられた凶器について検討するに,関係各証拠によれば,本件犯行には,少なくとも,重量2.0キログラムのステンレス製電気ポット及び刃体の長さ9.0センチメートルで鋭利な先端部を有するステンレス製料理ばさみが使用され,これにより前記アの各創傷が生じたことが認められる。 ウ前記事実関係からすると,本件犯行は,前記電気ポットで被害者の頭部及び顔面を執拗に殴打し,前記料理ばさみにより,強い力を込めて,執拗に後頭部を突き刺すという態様のものであったことが認められるところ,前記電 気ポット及び前記料理ばさみは,被害者方にあったものを被告人がたまたま発見して犯行に用いたもので,いずれも本来的には凶器とは言い難いとはいえ,料理ばさみはその刃で刺突などすることにより,電気ポットはその本体で殴打などすることにより,いずれも人の生命・身体を害し得るものであり,現に,被告人はこれら電気ポットや料理ばさみを被害者に創傷を負わせるのに適した方法で使用しており,これらの犯行態様は,いずれも人体の枢要部に重大な傷害を負わせて死に至らしめる非常に高い危険性を有するものであることが認められるのであって,実際 被害者に創傷を負わせるのに適した方法で使用しており,これらの犯行態様は,いずれも人体の枢要部に重大な傷害を負わせて死に至らしめる非常に高い危険性を有するものであることが認められるのであって,実際,被害者はこれにより前記アの各創傷を負って失血死するに至っている。 加えて,被害者の創傷の部位が概ね頭部・顔面という被害者の生命の維持にとり重要な部分に限局し,特に刺創は後頭部に集中していること,身長155.5センチメートル・体重64キログラムで当時71歳の被害者と,身長172.8センチメートル,体重61.5キログラムで当時16歳の被告人の体力差・体格差等からすれば,被告人は圧倒的に優位な立場で,一方的に被害者に暴行を加え続けていたことが認められる。 以上の犯行態様からは,被告人が被害者に対する殺意をもって本件犯行に及んだことが非常に強く推認される。 (2)本件犯行後の事情等本件犯行後の事情として,被告人は,大量出血した被害者を放置して,大量の返り血のついた衣服をその場に脱ぎ捨て,血塗れになった手を本件犯行現場の流し台で洗い,被害者の背中を踏んで逃走しており,かかる被告人の行為からは,思いがけない被害者の死に直面した場合に生じるであろう驚愕や後悔の念はまったく看取することができないのであって,この点からも,犯行時における殺意の存在が強く推認される。 3(1)このように,犯行態様の執拗さをはじめとする客観的な事実関係に照らした場合,その殺意に対する推認力は非常に強いものがあり,被告人の殺意の存 在に疑念を抱かせるような特段の主観的事情が被告人に窺えない限り,被告人には殺意が肯定できるものと解される。 そして,上記の特段の主観的事情として,弁護人は,①被告人は,被害者に対して暴力を振るう意図はあったが,積極的に被害者にけがをさせようとする意 ない限り,被告人には殺意が肯定できるものと解される。 そして,上記の特段の主観的事情として,弁護人は,①被告人は,被害者に対して暴力を振るう意図はあったが,積極的に被害者にけがをさせようとする意識がなく,被害者が死ぬことの認識もなかったが,被害者を引き倒した後,何かが爆発したようになって暴行が止まらなくなったもので,自分がどんなものを凶器として用い,またその間に被害者がどのような様子であったかということはきちんと認識できなかった,②被告人が被害者に暴行を加えたのは様々なものから逃げるためであった,と主張して殺意を争い,被告人も,当公判廷において,これに沿うと思われるような供述をしている状況にある。 (2)そこで検討するに,まず,①の点については,確かに,本件犯行当時,被告人がかなり強い興奮状態にあったことは明らかである。しかしながら,他方で,上記にみたとおり,被告人は,被害者方で発見した電気ポットや料理ばさみを,被害者に創傷を負わせるのに適した用法で使用しており,このことからも,被告人が犯行当時,周囲の状況や被害者の状況を判断しながら犯行に及んでいたものと認められるし,被告人が犯行直前に写真の引き取りを装って写真館に入った際の行動や,犯行直後に現場から逃走した際の行動も,理性的かつ合理的なものと認められる。また,被告人は,犯行前後の行動について明確に記憶しているのはもとより,犯行の最中についても,一,二回殴った後で被害者を床に倒したこと,両手で何かを持って被害者を殴っていたこと,殴っている間,「くそ」「ぼけ」などと被害者を罵るような言葉を発していたことなどを断片的ながら覚えている旨述べており,その意識状態は清明であったと認められる。このような事実からすれば,被告人は,本件犯行当時,強度の興奮状態にあったものの,状況を判断しつつ,理 していたことなどを断片的ながら覚えている旨述べており,その意識状態は清明であったと認められる。このような事実からすれば,被告人は,本件犯行当時,強度の興奮状態にあったものの,状況を判断しつつ,理性的かつ合理的な行動ができていたのだから,被告人が本件当時かなり強い興奮状態にあったことは,被告人の殺意の存在に疑念を抱かせるような事情とはならないというべきである(なお, かかる認定は,医師I作成の精神鑑定書(甲46)及び同医師の証言とも矛盾しない。)。 また,②の点については,確かに,被告人が本件に及んだ原因としては,ストレスや苛立ちの根源から逃避したいとの欲求があったことが窺われ,この点は,後記のとおり,被告人が本件犯行当時,適応障害の状態にあったと認められることとも整合する。また,被告人と被害者との関係の薄さからすると,被告人には,被害者を殺害しなければならないような動機が存在しないようにも思えるところではある。しかし,被告人は,結局のところ,耐え難い苛立ちの感情を解消して逃れるために被害者に暴行を加えることを決意し,本件に及んだもので,その動機は,極めて短絡的といわざるを得ないが,被告人が大人全体に対する嫌悪感を抱いていたこと等からすれば,了解することは可能であるし,上記認定のとおり,被告人が状況を判断しつつ,理性的かつ合理的行動ができていたことからすれば,被告人が適応障害等の状態にあったことや動機の希薄さといった事情も,被告人の殺意の存在に疑念を抱かせるものではないというべきである。 それから,被告人は,当公判廷において,殺意の存在を否定する趣旨の供述をしているところではあるが,被告人の供述状況や供述内容等に鑑みれば,被告人の当公判廷における供述は,本件犯行当時の被告人の心理状態を深く分析してなされたものではなく,その心理状態 定する趣旨の供述をしているところではあるが,被告人の供述状況や供述内容等に鑑みれば,被告人の当公判廷における供述は,本件犯行当時の被告人の心理状態を深く分析してなされたものではなく,その心理状態の分析に対する思考を放棄した結果なされたものと認められるから,被告人の上記供述も,被告人の殺意の認定の妨げにはならないというべきである。 以上のとおり,被告人の犯行態様及び犯行後の行動等の客観的事実関係が,それ自体被告人の殺意を非常に強く推認させるものであり,他方で,被告人の殺意の存在に疑念を抱かせるような特段の主観的事情が被告人には何ら窺えないことからすれば,被告人が,判示のとおり未必的な殺意をもって本件犯行に及んだ事実が優に認められるのであって,これに反する弁護人の前記主張は採用すること ができない。 (法令の適用)被告人の判示所為は,殺意発生前の暴行も含めて包括して刑法199条に該当するところ,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で,少年法52条1項により,被告人を懲役5年以上10年以下に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数(家庭裁判所での少年鑑別所収容及び鑑定留置の日数を含む。)中260日をその刑に算入し,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (少年法55条による移送についての判断及び量刑の理由) 被告人に対する処遇につき,弁護人は,被告人に対しては,刑事罰ではなく,家庭裁判所による保護処分に付するのが相当であり,少年法55条を適用して本件を和歌山家庭裁判所に移送すべきであると主張している。 そこで検討するに,本件は,犯行時16歳の少年が故意の犯罪行為により被害者を死に至らせた,いわゆる原則検送(少年法20条2項)に該当する事件であり,刑事裁判所による少年法55条に基 と主張している。 そこで検討するに,本件は,犯行時16歳の少年が故意の犯罪行為により被害者を死に至らせた,いわゆる原則検送(少年法20条2項)に該当する事件であり,刑事裁判所による少年法55条に基づく移送の判断に当たっても,少年法20条2項の趣旨を十分に考慮する必要があると解され,同項ただし書に規定するような例外的な事情がある場合,すなわち,犯行の動機・態様,犯行後の情況,少年の性格・年齢・行状・環境その他の事情により刑事処分以外の措置が相当と認められる場合に限って,少年法55条に基づく移送を行うべきものと解される。 そして,そのような例外的事情があるかどうかの判断において検討すべき上記の諸要素は,刑事裁判所がその量刑において検討すべき諸要素とほとんど重なっていることから,以下,まず,本件に関連する事情ないし情状について検討した上,上記のような例外的事情の有無について,検討を加えることとする。 本件に関連する事情本件は,少年である被告人が,自己の苛立ちの感情を解消するため,数度面識があるほかには何らの接点もなかった近隣の写真館の店主に対し,その頭部等を 電気ポット等で殴打したり料理ばさみで突き刺すなどして殺害したという殺人の事案である。 (1)まず,犯行に至る経緯や犯行動機についてみるに,被告人は,前記のとおり,本件犯行当日に授業中に音楽を聴いていたことを教師に注意されるや,自らの非を省みることなく苛立ちの感情を昂らせ,それを解消するために誰かに暴行することを思い立ち,多少の面識があるにとどまる一人暮らしの老人である写真館の店主を,その苛立ちの感情をぶつける標的としたもので,被害者は,被告人の上記の苛立ちの感情について,何らの関わりもなく,まして何らの落ち度もない。被告人が上記のような苛立ちの感情を募らせていた背景には,母親に 苛立ちの感情をぶつける標的としたもので,被害者は,被告人の上記の苛立ちの感情について,何らの関わりもなく,まして何らの落ち度もない。被告人が上記のような苛立ちの感情を募らせていた背景には,母親に対する強い嫌悪・拒否的感情があったことが認められるが,この点も,本件被害者に対してその苛立ちの感情をぶつけることをおよそ正当化するものではなく,結局,本件は極めて自己中心的かつ短絡的な犯行というほかなく,動機及び経緯に酌量の余地があるとは到底いえない。 次に,犯行態様についてみるに,被告人は,証明写真を受け取る名目で写真館を訪れた上,被害者が釣銭を取りに店の奥に入った際には,何の関係もない被害者に暴行を加えることを一瞬躊躇したものの,敢えて被害者を追いかけた上で暴行を加え,未必の殺意を生じた後は,周囲にあった電気ポットや料理ばさみ等を凶器として用い,抵抗できない被害者に対し,体力差に物を言わせて一方的に,極めて執拗かつ強度の暴行を加えている。そして,被告人は,被害者が被告人の暴行を避けようと手で頭を庇った際には,その上から更に強度の暴行を加えているのであって,殺害に至った経緯には計画性こそないものの,本件犯行態様は極めて悪質で,冷酷かつ残忍である。 また,被告人は,本件犯行後,血塗れで絶命する被害者の様子を認めながら,何ら救命の措置を講じることもなく,その場で被害者の血に塗れた自らの手を洗い,被害者の血に濡れた衣服を脱ぎ捨てた上,逃走に当たり,床が血で滑りやすいからなどとの理由で敢えて被害者の背中を踏みつけ乗り越えていくなど, 被害者の死後の尊厳さえ全く顧みない行為に及んでおり,事後の情状も著しく悪い。 被害者は,本件犯行によって尊い一命を奪われており,本件犯行の結果は極めて重大である。被害者は,本件のごとき被害に遭わなければならないような え全く顧みない行為に及んでおり,事後の情状も著しく悪い。 被害者は,本件犯行によって尊い一命を奪われており,本件犯行の結果は極めて重大である。被害者は,本件のごとき被害に遭わなければならないようないわれは絶無であったのに,先代から引き継いだ写真館を守り,約7年前に妻を亡くした後は単身で穏やかな日々を送っていた,本来安全な場所でなければならない自宅兼店舗において,思いもかけず,写真館の客として訪れた被告人から,理不尽にも突如として極度の暴行を受けて重傷を負い,激痛に苦しみながらもなお執拗な暴行を受け,全く事情のわからぬまま失血死させられたのであるが,犯行態様が上記のとおり激しいものであったため,被害状況は凄惨を極め,遺体の損傷は目を覆うばかりであり,被害者が絶命までの間に味わった驚愕や絶望,孤独,その心身の苦痛は想像を絶するものであったと推察され,その無念は察するに余りある。また,本件は,被害者の遺族である姉妹らはもとより,周囲の関係者にも深い悲しみをもたらしており,遺族である実妹が被害者が何のいわれもなく惨殺されたことに強い衝撃を受け,被告人に対して,社会復帰してほしくない,できるだけ長い間刑務所に入っていてほしい,との峻烈な処罰感情を表明しているのも至極当然である。 しかも,本件被害現場は,寺院が建ち並ぶD町中心街における旧来からの住宅街・商店街であるところ,このような場所で平穏に写真館を営んでいた被害者が,恨みも何もない一高校生に家に押し入られ惨殺されたことで,社会一般や付近住民に与えた衝撃や不安感は極めて大きいといわなければならない。 また,被告人は,事実関係についてこそ比較的淡々と供述するものの,捜査,家庭裁判所の審判及び公判を通じ,自己が苛立ちの感情を募らせていたことや,その原因であると被告人が考える自己の母親に対する嫌悪感 また,被告人は,事実関係についてこそ比較的淡々と供述するものの,捜査,家庭裁判所の審判及び公判を通じ,自己が苛立ちの感情を募らせていたことや,その原因であると被告人が考える自己の母親に対する嫌悪感等に目を奪われて,母親に責任を転嫁して自己の責任と向き合うことを避ける態度が顕著であり,自己の行為により本件のごとく極めて重大な結果が発生したことについて,正 面から向き合って内省を深めるという状態にはいまだ達しているとはいえない。 以上の諸点に照らすと,犯情は非常に悪く,被告人の責任は誠に重大である。 (2)他方,被告人が本件犯行に至った経緯には,被告人がかねて社会的スキルが未熟な状態で生育していたところ,母親に対するストレスの高まりを機に適応障害を生じさせていたことが少なからず影響していたと認められること,被告人は,前記のとおり本件の審理経過を経ても,なお内省の深まりが十分でないとはいえ,当公判廷において母親の証人尋問を聞いた後,これまでほとんど会話さえしていなかった母親に対し,自己の感情をあらわに記す手紙を送り,その中で自己の性格についても書き記すなどしたほか,公判においては,遺族に対する謝罪の必要性を感じながら,その謝罪の気持ちを素直に表すことができないでいたが,公判の最終段階に至り,短いものではあるが,ようやく遺族に対する謝罪の手紙を書き記すに至っており,今後,被告人なりに母親に対する感情を整理し,ひいては,被害者意識から脱却して,遺族や被害者の立場をも理解し,自らの犯した罪と向かい合うに至ることもなお期待し得るものと考えられること,被害者に対する慰謝の措置としては,被告人の母親が,被害者の遺族に対し,被害の慰謝のための精一杯の額として,1000万円を用意してその支払を申し出ていること,被告人は本件犯行以前は一応学校生活に自己 害者に対する慰謝の措置としては,被告人の母親が,被害者の遺族に対し,被害の慰謝のための精一杯の額として,1000万円を用意してその支払を申し出ていること,被告人は本件犯行以前は一応学校生活に自己を順応させてきており,その生活態度は特段不良というわけではなく,もとより何らの保護処分等の非行歴もないことなど,被告人のために考慮すべき事情も認められるところではある。 弁護人の主張について上記2にみた諸事情を検討すると,本件は,何ら落ち度のない被害者に対し,自己の苛立ちを解消するためだけというあまりに不条理な理由で,一方的に執拗,残忍な暴行を加え,被害者を惨殺したという,誠に重大な事案であって,前記の被告人のため考慮すべき諸事情等をふまえ,特に,本件での検送決定後に生じた事情(すなわち,被告人が今後自己の罪と向き合うに至る兆しを見せていること や,被告人の母親が被害の慰謝の準備をしていることなど)を最大限に考慮しても,本件において,少年法20条2項ただし書にいうような保護処分等を相当とする例外的事情があるとは到底言えず,むしろ,本件は刑事処分相当性の非常に高い事案であるといわなければならない。 この点,弁護人は,被告人は適応障害によって本件犯行に至ったものであって,かかる被告人について再犯を防ぐためには,単に懲罰を科すことは意味がなく,適応障害に対し有効な対応をすることが必要であるとして,被告人に対しては医療少年院による処遇が適切であると主張するので,更に検討するに,確かに,被告人は狭義の精神障害及び発達障害の状態にはないものの,幼少時から対人関係に必要な社会的スキルが未熟なまま生育し,母親に関連するストレスに直面してこれを抑圧的に処理しようとしたが,処理能力を超える母親からのストレスに直面して適応障害の状態に至り,このことが,社会 人関係に必要な社会的スキルが未熟なまま生育し,母親に関連するストレスに直面してこれを抑圧的に処理しようとしたが,処理能力を超える母親からのストレスに直面して適応障害の状態に至り,このことが,社会的状況を十分考えることなく自己の苛立ちの感情と何ら関係のない本件被害者に対する常軌を逸した加害行為に至った一因となっていると考えられる。そして,被告人のストレス対処能力は今なお非常に未熟であり,被告人の今後の更生や社会適応を期するためには,適切な矯正教育による社会的機能の向上を図る必要が認められ,また,被告人に本件の責任を自覚し内省を深めさせるためには,母親に対する被害者意識から脱却させるべく,母親に対する感情を整理させることが必要であることが認められる。 また,I医師がその鑑定において指摘しているように,被告人に対する教育・指導においては,児童・青年精神医学や心理学の専門家が関与してゆくことが望ましいものと考えられる。 しかしながら,更に進んで,上記のような被告人に対する処遇の目標を実現するため,少年院(とりわけ医療少年院)における処遇を選択することの当否について検討するに,もとより少年院は,人格発達の途上にある未成年者を主たる処遇対象としており,その職員配置において刑務所に比して恵まれているということは一応言えるけれども,その処遇内容は,各少年の非行の内容や性格的特性等 をふまえた個別的なものにならざるを得ないのであって,上記のような処遇の目標があることゆえに,直ちに,少年院による処遇でなければその目標を達し得ないということにはならないと考えられる。むしろ,検察官も的確に指摘するように,刑務所における矯正処遇は,その目標及び基本的な内容・方法を,受刑者の資質や環境等をふまえて受刑者ごとに定めた処遇要領に基づいて行われ,かつ,必要に応じ れる。むしろ,検察官も的確に指摘するように,刑務所における矯正処遇は,その目標及び基本的な内容・方法を,受刑者の資質や環境等をふまえて受刑者ごとに定めた処遇要領に基づいて行われ,かつ,必要に応じて,医学・心理学等の専門的知識や技術を活用してなされることとなっており(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律84条),本件審理の全経過にも鑑みれば,被告人が行刑施設において,適切な個別的処遇計画のもと,罪を償うことを通じて本件と真摯に向き合うならば,被告人が母親との関係を自ら改善し,人格的発達を遂げて本件を真に悔悟し,もって更生を遂げる可能性はいまだ十分に存すると認めることができる。 以上から,弁護人の主張を十分に検討しても,本件では,少年法20条2項ただし書にいうような保護処分を相当とする事情は見出されないので,本件を少年法55条を適用して家庭裁判所に移送することは不相当であると解さざるを得ない。 検察官の求刑及び当裁判所の量刑について被告人に対する量刑の検討においては,本件の重大性にかんがみ,有期懲役刑のみならず無期懲役刑の選択についても検討する必要があるところ,少年法の規定によれば,(1)犯行時18歳未満の少年については,「無期刑をもって処断すべきとき」は,①そのまま無期刑を言い渡すか,②10年以上15年以下の範囲で定めた定期の有期刑を科するという緩和をすることができ(少年法51条2項),(2)少年について長期3年以上の有期刑をもって処断すべきときは,その処断刑の範囲内で,長期(10年以下)及び短期(5年以下)を定めた不定期刑を科することになる(少年法52条)。そして,少年法51条2項は,「無期刑をもって処断すべきとき」という表現からも明らかなように,被告人の年齢の点を除けば無期刑で処断される場合(すなわち,その前提として無 ることになる(少年法52条)。そして,少年法51条2項は,「無期刑をもって処断すべきとき」という表現からも明らかなように,被告人の年齢の点を除けば無期刑で処断される場合(すなわち,その前提として無期刑の選択を相 当とする場合)に限って適用されるものである。 そして,検察官は,このような少年法の規定を前提に,本件が犯行時18歳以上の者によって犯されたとすれば無期懲役刑を選択して,これにより処断すべきであると主張し,被告人に対しては,これに少年法51条2項による緩和の規定を適用して処断すべきである(上記(1)②)として被告人に対し懲役15年を求刑している。 しかしながら,本件が18歳以上の者によって犯されたものと見た(すなわち,被告人が犯行時16歳の少年で社会的スキルの未発達等の未熟性があることを捨象した)上,前記した本件事案の重大性,犯行動機の理不尽性,犯行態様の悪質性,被害感情の厳しさ等の諸事情に加えて,従前の科刑の動向をも総合勘案した場合,本件について無期懲役刑を選択してこれにより処断することは,重きに失するといわざるを得ない。そして,本件はなお有期懲役刑の選択の枠内にあるものとみられるから,結局,被告人については有期懲役刑を選択することとするが,その刑期については,上記(2)に記載した範囲内に画されることとなり,上記のとおりの被告人にとって有利不利の一切の事情を考慮すると,被告人に対しては,少年法52条1項により定められた刑期の最長期を科するのが相当と解されるから,主文のとおり判決する。 (求刑-懲役15年)平成19年7月31日和歌山地方裁判所刑事部裁判長裁判官成川洋司裁判官田中伸一 裁判官吉田桃子 山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官成川洋司 裁判官田中伸一 裁判官吉田桃子

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