平成12(わ)1194 覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反(変更後の訴因 国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反)

裁判年月日・裁判所
平成15年1月20日 神戸地方裁判所
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判決文本文15,106 文字)

判決平成15年1月20日神戸地方裁判所平成12年(わ)第1194号覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反(変更後の訴因国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律違反,覚せい剤取締法違反,大麻取締法違反,麻薬及び向精神薬取締法違反)被告事件 主文 被告人を懲役11年及び罰金500万円に処する。 未決勾留日数中630日をその懲役刑に算入する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 被告人から金2209万3550円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,X及びYと共謀の上,みだりに,営利の目的で 1 平成12年6月26日,大阪市A区B町c番先路上付近において,Dに対し,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類を含有する結晶粉末約0.3グラム及び大麻樹脂約1グラムを代金2万円で譲り渡したほか,同年4月11日から同年9月12日までの間,多数回にわたり,同市内及び大阪府吹田市内において,氏名不詳の多数の者に対し,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類等を含有する結晶粉末,大麻樹脂,乾燥大麻,麻薬であるコカイン塩類を含有する粉末,麻薬であるN・αージメチルー3・4ー(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)を含有する錠剤を,代金合計3945万8000円で譲り渡し,もって,規制薬物を譲り渡すことを業とした 2 同年9月12日午後7時20分ころ,大阪市E区Fg丁目h番i号先路上において,覚せい剤であるフェニル る錠剤を,代金合計3945万8000円で譲り渡し,もって,規制薬物を譲り渡すことを業とした 2 同年9月12日午後7時20分ころ,大阪市E区Fg丁目h番i号先路上において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する白色結晶粉末約24.253グラム(平成13年押第20号の1ないし47はその鑑定残量),大麻樹脂約47.348グラム(同押号の48ないし92はその鑑定残量),麻薬であるコカイン塩類を含有する薄黄色粉末約3.426グラム(同押号の93ないし107はその鑑定残量)及び麻薬であるN・α―ジメチル―3・4―(メチレンジオキシ)フェネチルアミン(別名MDMA)塩類を含有する白色錠剤7錠(同押号の108はその鑑定残量)を所持した 3 同日午後8時10分ころ,前同所に駐車中の普通乗用自動車(省略)内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する白色結晶粉末約329.456グラム(同押号の109ないし157,159ないし165はその鑑定残量),覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する白色結晶粉末約0.303グラム(同押号の158はその鑑定残量),大麻樹脂約993.84グラム(同押号の166ないし171はその鑑定残量)を所持した 4 同月18日午後4時ころ,大阪府J区K町l丁目m番n号所在のOに駐車中の普通乗用自動車(省略)内において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩類を含有する白色結晶粉末約98.619グラム(同押号の172はその鑑定残量),覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する白色結晶粉末約61.398グラム(同押号の173ないし372はその鑑定残量),大麻樹脂約519.315グラム(同押号の373ないし573はその鑑定残量),麻薬であるコカイン塩類を 塩酸塩を含有する白色結晶粉末約61.398グラム(同押号の173ないし372はその鑑定残量),大麻樹脂約519.315グラム(同押号の373ないし573はその鑑定残量),麻薬であるコカイン塩類を含有する薄黄色粉末約6.813グラム(同押号の574ないし603はその鑑定残量)を所持したものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点の整理等弁護人は,被告人とX(以下「X」という。)及びY(以下「Y」という。 なお,X及びY両名を併せて「Xら」という。)との間で判示の各犯行につき共謀した事実はない旨主張し,被告人もこれに沿う供述をする。 当裁判所は,前掲関係各証拠によれば,被告人が,Xらと共謀の上,判示の各犯行に及んだものと優に認められると判断したのであるが,所論にかんがみ,以下,その理由につき説明を加える(以下,括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号である。)。 第2 前提事実前掲関係各証拠並びに被告人の検察官(60)及び司法警察員(4通。53,55,814,817)に対する各供述調書の謄本,Xの司法警察員に対する供述調書(768),司法警察員作成の捜査復命書(845),P作成の電話用紙(830),司法警察員作成の捜索差押調書(849),押収してある通話料金明細書1綴(同押号の611。843),同名刺1枚(同押号の612。846)及び同通話料金明細書1枚(同押号の613。847)によれば,次の事実が認められる(なお,これらの事実については,被告人及び弁護人においても特段争っていない。)。 1 被告人の出入国状況被告人の平成9年5月5日から平成12年9月21日までの間の出入国状況は,次のとおりである。 平成 9年 5月 告人及び弁護人においても特段争っていない。)。 1 被告人の出入国状況被告人の平成9年5月5日から平成12年9月21日までの間の出入国状況は,次のとおりである。 平成 9年 5月 5日入国平成10年 1月29日出国4月 2日入国平成11年 4月 1日出国8月30日入国11月26日出国12月29日入国平成12年 1月15日出国1月26日入国4月17日出国6月22日入国7月 1日出国7月 9日入国7月17日出国9月21日入国 2 Xらによる規制薬物の密売Xらは,平成12年4月11日から同年9月11日までの間,D(以下「D」という。)及びQのほか不特定多数の氏名不詳者に対し,多数回にわたり覚せい剤,大麻樹脂及びコカイン等の規制薬物を有償で譲渡した。 3 被告人名義の郵便貯金口座の出入金状況Xらの自宅から被告人名義の郵便貯金総合通帳1冊(平成13年押第20号の606。724。以下「本件郵便貯金通帳」という。)が押収された。この郵便貯金通帳は,平成12年3月30日に新規開設されたものであるが,同日から同年9月12日までの間の出入金状況は次のとおりである。なお,同年6月23日及び同月27日の出金を行った人物は被告人であり,同年8月2日以降の入金を行った人物はXである(ただし,9月7日の入金分は同人によるものとは断定できない。)。 出入金日出入金額出入金の別平成12年3月30日 1000円入金4月 し,9月7日の入金分は同人によるものとは断定できない。)。 出入金日出入金額出入金の別平成12年3月30日 1000円入金4月24日  64万6000円入金4月27日  78万3000円入金5月 1日  93万2000円入金5月 8日  61万3000円入金5月12日  54万1000円入金5月17日  55万6000円入金5月22日  72万9000円入金5月26日  54万円入金6月 1日  84万7000円入金6月 6日  67万1000円入金6月11日  64万4000円入金6月17日  59万8000円入金6月23日 110万円出金6月27日 700万円出金8月 2日  74万4000円入金8月 7日  60万3000円入金8月11日  57万円入金8月17日  76万円入金8月21日  45万5000円入金8月27日  53万3000円入金9月 2日  67万5000円入金9月 7日  57万5000円入金9月12日  60万7000円入金最終残高  555万3000円 4 携帯電話の通信状況Xの自 9月 7日  57万5000円入金9月12日  60万7000円入金最終残高  555万3000円 4 携帯電話の通信状況Xの自宅又はXが本件犯行に使用していた判示3記載の普通乗用自動車(トヨタマークⅡ。以下「マークⅡ」という。)等から「①(注:携帯電話番号)」,「②(注:携帯電話番号)」,「③(注:携帯電話番号)」,「④(注:携帯電話番号)」,「⑤(注:携帯電話番号)」,「⑥(注:携帯電話番号)」の6台の携帯電話が押収された。そのうち次の各携帯電話の通信状況は次のとおりである。 (1) ②(注:携帯電話番号)平成12年5月27日から同年9月7日までの間,同携帯電話から次の各携帯電話に対し多数回にわたる発信がなされている。 ア Yが使用していた携帯電話「③(注:携帯電話番号)」及び同「④(注:携帯電話番号)」イ Xの自宅から押収された携帯電話「①(注:携帯電話番号)」及び同「⑤(注:携帯電話番号)」ウ被告人名義の名刺(846。以下「本件名刺」という。)に記載されている携帯電話「⑦(注:携帯電話番号)」エ Xの自宅から押収されたノート(15の添付資料。Xによれば密売客の携帯電話番号等が記載されたノート。以下「顧客ノート」という。)中の「R(注:アルファベット人名)」の携帯電話「⑧(注:携帯電話番号)」等(2) ③(注:携帯電話番号)同年9月10日,被告人がイランで使用していた携帯電話から着信がある。 (3) ⑥(注:携帯電話番号)同年9月8日,同月10日及び同月11日の3日間,同携帯電話からYが使用していた携帯電話「③(注:携帯電話番号)」のほか,顧客ノート中の「R(注:アルファベット人名)」の携帯電話「 話番号)同年9月8日,同月10日及び同月11日の3日間,同携帯電話からYが使用していた携帯電話「③(注:携帯電話番号)」のほか,顧客ノート中の「R(注:アルファベット人名)」の携帯電話「⑨(注:携帯電話番号)」及び「S(注:アルファベット人名)」の携帯電話「⑩(注:携帯電話番号)」に発信がなされている。 5 Xら及び被告人の逮捕並びに証拠物の押収経緯等(1) Xらは,平成12年9月12日午後7時20分ころ,判示2記載の場所において,張り込み中の警察官から職務質問を受け,判示2記載の覚せい剤及び大麻樹脂等を所持しているところを現認され,同日午後7時51分,覚せい剤取締法違反及び大麻取締法違反の容疑で現行犯逮捕された。 (2) 警察官は,同日午後8時10分ころ,マークⅡの捜索を実施し,同車内から,判示3記載の覚せい剤及び大麻樹脂のほか,電子秤1台及び未使用の注射器合計20組等を発見し,これらを押収した。 (3) 警察官は,同月13日,Xの自宅を捜索し,携帯電話3台,密封機,ポリ袋,Xら名義の各郵便貯金通帳等のほか,本件郵便貯金通帳,ノート2冊(平成13年押第20号の607。833及び同押号の608。834。以下前者を「密売ノート」と後者を「控えノート」という。),顧客ノート等を押収した。 (4) 警察官は,同月18日,判示4記載の普通乗用自動車(以下「アリスト」という。)を捜索し,同車内から,判示4記載の覚せい剤,大麻樹脂及びコカインのほか,電子秤2台,スプーン等の小分け用具を押収し,さらに,同車のトランク内から,本件名刺及び被告人名義の印鑑等を押収した。 (5) 同月21日,被告人は,新東京国際空港から日本に再入国し,同日午後1時過ぎころ,同空港内の郵便局キャッシュコーナーにおいて,本件郵便貯金通帳の口座から 及び被告人名義の印鑑等を押収した。 (5) 同月21日,被告人は,新東京国際空港から日本に再入国し,同日午後1時過ぎころ,同空港内の郵便局キャッシュコーナーにおいて,本件郵便貯金通帳の口座から出金しようとしたが,同コーナーの機械が作動しなかったため同所の郵便局員に相談し,その後東京三菱銀行の自己名義の預金口座から現金を引き出した上,前記郵便局で待機していたところ,警察官から任意同行を求められた後,同日午後4時15分ころ,通常逮捕された。 前記逮捕の際,被告人は前記「①(注:携帯電話番号)」の携帯電話の名義変更書類(以下「本件名義変更書類」という。)を所持していた。 6 その他の客観的証拠(1) Xら所持に係る携帯電話の名義人前記4冒頭記載の携帯電話のうち,Xが犯行に使用した前記「①(注:携帯電話番号)」の携帯電話は,その名義人がXから被告人の妻の実弟であるTに変更されたものであり,また,前記「②(注:携帯電話番号)」の携帯電話は,被告人の妻の実姉であるU名義のものであった。 (2) 本件名刺の記載内容本件名刺には被告人の携帯電話番号として「携帯(日本)⑦(注:携帯電話番号)」及び「携帯(イラン)⑪(注:電話番号)」との各記載があるところ,被告人は後者の携帯電話をイラン国内で使用していた。 (3) 密売ノート及び控えノートの記載内容等密売ノートにはXの供述によると密売状況等の詳細の記録であるとされる多数の記載があり,また,控えノートにもこれとほぼ同一内容の記載がある。さらに,控えノートは,密売ノートと同一の記載事項を訂正する旨の書き込みがあったり,「ここまで精算した。」という意味のものを含めペルシャ語の書き込みが複数存在する。なお,密売ノート及び控えノートからは対照可能な指紋が採取 密売ノートと同一の記載事項を訂正する旨の書き込みがあったり,「ここまで精算した。」という意味のものを含めペルシャ語の書き込みが複数存在する。なお,密売ノート及び控えノートからは対照可能な指紋が採取されたが,これらの指紋中に被告人の指紋と一致するものはなかった。 (4) 顧客ノートの記載内容顧客ノートは,その表紙に「7-03-2000」と書き込みがあるほか,見開き右頁の冒頭に「V(注:アルファベット人名)(「V´」の誤記と認められる。以下同じ)」として本件名刺に記載された前記被告人がイラン国内で使用していた携帯電話番号の記載がある。 (5) 被告人が逮捕時に所持していた手帳の記載内容被告人が逮捕時に所持していた手帳(以下「本件被告人の手帳」という。)には,Xの自宅等から押収された前記4の携帯電話番号等の記載がある。 7 密売ノート等の分析結果密売ノートによれば,平成12年4月11日以降の小分け済み薬物の販売数が同日以降に仕入れた薬物の小分け数及び判示2ないし4の各犯行の際に所持していた小分け薬物の数の合計数より多くなっており,同日以前に仕入れた薬物が存在したことが窺われる。 また,密売ノート記載の売上総額から仕入総額を差し引いた残額の半額及び同売上総額から本件郵便貯金通帳の口座への総入金額を差し引いた残額は,いずれも前掲関係各証拠により認められる平成12年6月23日及び同年8月25日の両日に行われた両替金額より多い。 第3 Xらの供述(当公判廷における各供述,前掲各公判調書及び各供述調書)の概要 1 Xの供述の概要二度にわたり,被告人から高給を支払うので規制薬物の密売に協力するよう誘われてこれに応じ,平成10年10月15日から被告人とともに規制薬物の密売を始めたが,平成11年8月ころ,密売を 述の概要二度にわたり,被告人から高給を支払うので規制薬物の密売に協力するよう誘われてこれに応じ,平成10年10月15日から被告人とともに規制薬物の密売を始めたが,平成11年8月ころ,密売をやめて帰国することを決意し,被告人と話し合った結果,Tが密売を引き継ぐことになり,平成11年9月16日,Yとともに母国ブラジルに帰国した。 ところが,被告人から電話で日本に戻ってこないかと誘われ,平成12年2月27日,Yとともに日本に再入国したところ,同年3月1日,Tがブラジルに帰国したため,同月9日被告人と交渉し,同月10日,「売上金を折半とし,仕入費用も分担して負担する。」という約束で規制薬物の密売を再開した。規制薬物の密売を再開するにあたり,在庫分の代金として50万円ないし100万円を支払い,被告人から規制薬物を保管していた車の鍵,携帯電話,在庫目録等の資料を受け取った。 同年3月10日から同年9月11日までの間,被告人の指示に基づいて名古屋で薬物を仕入れ,被告人やYとともにこれを小分けするなどして自動車内に保管し,ほぼ毎日,その日密売する薬物を車から取り出してレンタカーを使用して大阪市内で待機し,携帯電話で密売客からの注文を受けては規制薬物を密売し,売れ残りを前記自動車に戻すという方法で密売を続けた。 また,被告人の指示により規制薬物の販売数や売上金額等を記載した控えノートを毎日作成し,自分用のものとして密売ノートを作成した。控えノートは同年4月11日以前から作成していた。 規制薬物の売上金は,ほぼ5日ごとにこれを折半し,その半額を,被告人が日本にいるときは,直接被告人に手渡して交付し,被告人が日本にいないときは,被告人から預かった本件郵便貯金通帳を使用してその口座に入金して交付した。なお,被告人は,控えノートに その半額を,被告人が日本にいるときは,直接被告人に手渡して交付し,被告人が日本にいないときは,被告人から預かった本件郵便貯金通帳を使用してその口座に入金して交付した。なお,被告人は,控えノートに確認した旨の記載をしたこともあった。 同年6月23日,名古屋に大麻樹脂等を仕入れに行き,その後,被告人とともにコカイン等の小分けをし,被告人と手分けして薬物を密売したが,同月25日から27日ころ,Dに覚せい剤等を密売した際,被告人は車中にいた。また,同年7月被告人がイランに帰国する前日に,同人から必要があればアリストを使用してよいといわれてアリストの鍵を預かり,同年8月ころからアリストを規制薬物を保管場所として使用するようになった。 2 Yの供述の概要平成10年ころ,Xは,毎日午後6時ころに迎えに来た被告人とともに出かけ,翌日午前2時あるいは同3時ころ自宅に戻るという生活ぶりであった。Xから被告人と一緒にタバコの一種を販売していると説明されたことがある程度で,仕事の内容をXから聞いていなかったが,その後,平成11年7月か8月ころ,被告人及び被告人の妻Wから頼まれて覚せい剤や大麻の小分けを何度が手伝ったことがある。平成11年9月,Xとともにブラジルに帰国した。 平成12年2月ころ,Xとともに日本に再入国し,Xが同年3月中旬ころから被告人とともに規制薬物の密売を始めたため,Xに同行して規制薬物の密売を手伝うようになって,Xとともに,同年4月中旬以降同年9月11日までの間,ほぼ毎日規制薬物の密売を続けたが,Xは,被告人が日本にいるときは,密売を終わると被告人に会って売上金や売れ残りを渡しており,被告人が日本にいないときは,薬物と売上金を保管して,5日毎に被告人から渡された被告人名義の郵便貯金通帳を使用して被告人の取り分を入金してい 売を終わると被告人に会って売上金や売れ残りを渡しており,被告人が日本にいないときは,薬物と売上金を保管して,5日毎に被告人から渡された被告人名義の郵便貯金通帳を使用して被告人の取り分を入金していた。また,被告人の提案で,Xは売上管理のためのノートを作成していた。密売に従事中,Yにおいて自動車内でメモ紙に販売相手,販売薬物量,代金額等を記載し,Xにおいてそのメモを基に密売ノートとこれと同一内容の控えノートを作成した。被告人は,日本に来ると,Xから控えノート及び郵便貯金通帳を受け取り,Xとともに精算状況を確認し,自分が確認した日付けまで線を引いてサインしていた。また,Xは,被告人が同年4月に帰国する前に作成した顧客ノートを管理していた。 被告人は,Xと二人で薬物を小分けすることが多かったし,Xが名古屋に薬物を仕入れに行った際には,自ら密売を行うこともあったし,最後にDに覚せい剤等を密売した際には,被告人は自動車の後部座席に乗って密売に同行していた。 第4 以上の前提事実及び証拠を前提として,本件各犯行について,被告人とXらとの間に共謀が存在したか否かについて検討する。 1 本件郵便貯金通帳の口座と密売ノートの各記載を比較検討すると,平成12年4月17日以降の入金額が概ね密売ノート記載の当該時期における約5日毎の売上金額の半額に相当することや,同年8月2日以降の郵便貯金口座への入金がXの手によるものであることに照らすと,本件郵便貯金通帳の口座は判示1の犯行に係る規制薬物の売上金の管理口座であったと認められるところ,同口座は被告人が平成12年4月17日に日本から出国する直前といえる同年3月30日に新規開設され,被告人の出国の約1週間後である同年4月24日から入金が行われており,被告人が日本国内にいるときは同口座への入金がなく,また,被告 月17日に日本から出国する直前といえる同年3月30日に新規開設され,被告人の出国の約1週間後である同年4月24日から入金が行われており,被告人が日本国内にいるときは同口座への入金がなく,また,被告人が同年6月27日までに同口座から1000円を除く残額全額を出金したり,本件逮捕直前に所持していたキャッシュカードを使用してそこから出金しようとしたことを併せ考慮すると,Xによる判示1の犯行に係る売上金の半額の継続的入金は,被告人にその金員を交付するためになされていたと認めるに十分である。 弁護人は,①本件郵便貯金通帳の口座は,被告人がイランショップからの商品代金の決済用に開設したものであって,頼まれてXに同口座の使用を許したことがあるに過ぎず,被告人による前記各出金もXに依頼されて行ったに過ぎない,②被告人は,同年7月17日イランに帰国する際,同口座のキャッシュカードは持ち帰ったが,同口座の通帳と届出印はアリストに積んだままにしていたから,Xが同口座を利用することは可能であった,③被告人が逮捕された当日に同口座から出金しようとしたのは,イランから持ち込んだビデオ等の郵送費用として日本円の持ち合わせがなかったため,最寄りの郵便局に立ち寄ったに過ぎず,仮に被告人が本件各犯行の共犯者であれば,自己名義の同口座に密売の売上金を入金させることや前記郵便局に長時間留まること自体が不自然不合理といわねばならないなどとして,要するに,Xが同口座を勝手に密売利益の管理口座として使用していたものであり,被告人は関知しない旨主張し,被告人も当公判廷でこれに沿う供述をする。 しかしながら,①被告人の公判供述により認められる被告人の妻の出産時期やこれに伴う被告人の出国時期に照らすと,同年3月30日の時点で被告人の供述するような理由で郵便貯金通帳の口座を新設 する。 しかしながら,①被告人の公判供述により認められる被告人の妻の出産時期やこれに伴う被告人の出国時期に照らすと,同年3月30日の時点で被告人の供述するような理由で郵便貯金通帳の口座を新設する必要性は全く認められないし,被告人の公判供述によれば,被告人が同口座のキャッシュカードを所持した状態でXが同口座を利用することになるところ,そのこと自体が不自然不合理というべきであるし,被告人の当公判廷における供述並びに検察官(61)及び司法警察員(50,51)に対する各供述調書の謄本によれば,被告人は,同年6月に前後2回にわたり同口座から出金したこと自体を当初否認していたが,その後これを認めるなどその供述を著しく変遷させ,そのような供述の変遷について合理的な理由は見出せないこと,②被告人は,その公判供述によれば同口座への入金者がXであることを容易に知ることができたはずなのに,捜査段階では知らない旨供述し,そのような供述をしたことについて合理的な理由は見出しがたいこと,③被告人の公判供述によれば,被告人が同口座から出金しようとしたのは郵送費用を捻出するためであったというのであるが,被告人は,その供述によれば,東京三菱銀行の預金口座から日本円を出金して前記ビデオ等の郵送手続をすませたにもかかわらず,その後も1000円程度しか残高がないはずの前記郵便貯金口座に固執していたことになるのであって,そのこと自体が不自然不合理であるというべきこと等に照らすと,被告人の前記公判供述はいずれの点でも信用できず,弁護人の前記主張は理由がない。 2 Xは,判示1の犯行につき,仕入れ,小分け及び販売の各状況を密売ノートに詳細に記載し,加えて,これとほぼ同一内容の控えノートを作成していたところ,この控えノートには,その表紙に被告人の愛称である「V´」との記載が 犯行につき,仕入れ,小分け及び販売の各状況を密売ノートに詳細に記載し,加えて,これとほぼ同一内容の控えノートを作成していたところ,この控えノートには,その表紙に被告人の愛称である「V´」との記載があり,本文中にはペルシャ文字で「ここまで精算した」との記載があること,Xの所持に係る顧客ノートの冒頭には「V(注:アルファベット人名)」として被告人の母国における携帯電話の番号が記載されており,本件被告人の手帳にはXらが判示1の犯行で使用した前記携帯電話の番号が記載されていたこと,Xらが判示1の犯行で使用した携帯電話中には被告人の妻の弟や姉名義のものがあり,被告人が本件で逮捕された際に本件名義変更書類を所持していたこと等の事実を総合考慮すれば,被告人がXらの判示各犯行に何らかの形で深く関与していたと推認するに十分である。 弁護人は,Xらの供述によれば,控えノートから被告人の指紋が検出されて然るべきであるのに控えノートから被告人の指紋と一致するものは検出されておらず,また,同ノートの筆跡が被告人のものであるとの証明もない,本件名義変更書類はYが被告人の妻に預けていたものをYに頼まれて日本に持って帰ってきただけであるなどと主張する。 しかしながら,控えノートから被告人の指紋が検出されなかった点は,一般的に素手で証拠物に接触すれば常に対照可能な指紋が採取されるとは限らないのであり,前掲関係各証拠によれば,最終的に被告人が控えノートに触れることができた時点から控えノートに対する指紋採取作業がなされるまでに相当期間が経過していることが認められるところ,控えノートから被告人の指紋が検出されなかったことは一概に不自然不合理であるとはいえない。また,控えノートのペルシャ語の筆跡が被告人のものであることの証明はないが,そのことのみで前記推認を左右し ろ,控えノートから被告人の指紋が検出されなかったことは一概に不自然不合理であるとはいえない。また,控えノートのペルシャ語の筆跡が被告人のものであることの証明はないが,そのことのみで前記推認を左右しうるものではない。 3 そこで,前記1,2の検討を前提として,判示各犯行が被告人との共謀に基づくものであることを明言するXらの前記各供述の信用性を検討すると,Xらの前記各供述は前記認定の各事実に沿うものであって,本件各犯行に至る経緯の点は,概ね相互に一致した具体的で一貫した供述であること,判示1の犯行状況のうち,被告人の日本滞在中の日々の密売状況の一部には,Xの供述とYの供述との間に相反する部分があり,また,後記のとおり他の証拠と整合しない部分がないわけではないが,その余の部分は具体的で前提事実とも矛盾しない概ね相互に一致した供述であることに徴すると,Xらの前記各供述の信用性は十分である。 弁護人は,Xらが,自己の刑事責任を軽減し,あるいは,密売組織の防衛等のため,無実の被告人に責任転嫁を図ろうとしている可能性が排斥できず,このことは,①密売開始の時期に関するXの供述が捜査段階から明らかに変遷していること,②仕入先,密売ノートの作成状況及びDに対して薬物を密売した際の被告人の同行の有無につき,Xらの供述には明らかな虚偽供述があること,③Xは被告人との共謀に関する事項になると極めて曖昧な供述に終始していること,判示1の犯行に至る経緯に関する供述は裏付証拠はないことに照らして明白であるから,Xらの前記供述はいずれも信用できない旨主張する。 なるほど,①弁護人請求に係るXの司法警察員に対する平成12年9月15日及び同月17日付け各供述調書によれば,密売の開始時期に関するXの供述が一部変遷していることが認められ,②Dの前掲検察官調書によれ るほど,①弁護人請求に係るXの司法警察員に対する平成12年9月15日及び同月17日付け各供述調書によれば,密売の開始時期に関するXの供述が一部変遷していることが認められ,②Dの前掲検察官調書によれば,Dは男女2人組の密売人から覚せい剤等を購入したというのであって被告人に相当する人物に関する供述部分はなく,X供述によれば密売ノートを一部破損したというのであるが,同ノートにはそのような破損の痕跡等は認められないなど,X及びYの前記各供述の一部には他の証拠と矛盾し,その信用性に乏しい供述部分がないわけではない。 しかしながら,弁護人が指摘する前記の各事情はいずれも本件各犯行に関する個々具体的な事情の1つに過ぎないところ,Xらが被告人らに誘われて薬物密売に関与した合計期間は相当長期間に及ぶこと等を考慮すると,個々具体的な事情につき,捜査段階における記憶喚起の経過で供述内容が若干変遷したり,他の証拠と矛盾する点があるとしても,そのことだけを理由にXらの供述全体の信用性を否定することはできない。Xらが被告人に責任を転嫁しようとしていたとすると,Xらは,あらかじめ長期間にわたり,責任転嫁のため薬物密売利益をわざわざ本件郵便貯金通帳の口座に入金したり,顧客ノートや控えノートに被告人の関与を間接的にだけ示す記載をしてきたことになり,極めて不徹底であり了解しがたいところである。そして,被告人との共謀に関するXらの前記供述は,前記のとおり多数の裏付事実や補強証拠によりその信用性が担保されていることに照らすと,弁護人指摘の事情をもってしてもその信用性が揺らぐものではない。 4 前記1,2の各事実に加え,十分信用できるXらの前記各供述を併せ考慮すれば,被告人が,Xらと共謀の上,判示の各犯行に及んだものと優に認められる。 5 弁護人は,薬物の仕入れ,小分け ではない。 4 前記1,2の各事実に加え,十分信用できるXらの前記各供述を併せ考慮すれば,被告人が,Xらと共謀の上,判示の各犯行に及んだものと優に認められる。 5 弁護人は,薬物の仕入れ,小分けから販売に至るまでの密売行為がすべてXらにより行われているのであり,そこに被告人が入り込む余地はなく,被告人が薬物密売収益の半分を受け取るのは不自然であり,かえって,前記各携帯電話の発信履歴やDに対する密売状況等に照らすと,Xらが薬物の仕入先として供述するZ及びAA等が本件各犯行の共犯者として疑われるのであり,被告人は,Xらにより密売収益のいわゆるマネー・ロンダリングもしくは密売組織又はその構成員等の防衛のためのカモフラージュに利用された可能性が否定できない旨主張する。 しかしながら,本件のような密売組織による犯罪にあっては,証拠上必ずしもその全貌が明らかにならない場合のあることはやむを得ないのであり,Z及びAAと被告人の関係が明らかでないこと自体は前記認定を左右するものではない。また,仕入先をXに指示し,同人らに高収益をもたらす立場に被告人はいたのであるから,被告人に薬物密売収益の約半分を渡していた旨のXらの公判供述は不自然不合理であるとはいえず,かえって,これまで検討を加えた諸点に加え,押収してある東京三菱銀行発行に係る総合口座兼貯蓄預金通帳1通(口座番号省略。平成13年押第20号の614。848)によれば,被告人名義の同預金口座には平成10年12月以降平成12年4月ころまでに多額の出入金がある一方,本件郵便貯金通帳の口座への入金が始まった同月以降は被告人が国内にいる期間を含めほとんど入金がないと認められるところ,これらの事実や判示1の犯行当時における被告人の収入源につき被告人において合理的な説明をなしえないことをも考慮すると,弁護 月以降は被告人が国内にいる期間を含めほとんど入金がないと認められるところ,これらの事実や判示1の犯行当時における被告人の収入源につき被告人において合理的な説明をなしえないことをも考慮すると,弁護人主張の事実は前記認定に合理的な疑いを生じさせるものではなく,弁護人の前記主張は理由がない。 (法令の適用)被告人の判示の各所為は,包括して,刑法60条,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)5条1号,2号,4号(覚せい剤取締法41条の2第2項,1項,大麻取締法24条の2第2項,1項,麻薬及び向精神薬取締法66条2項,1項)に該当するところ,所定刑中有期懲役刑及び罰金刑を選択し,その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役11年及び罰金500万円に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中630日をその懲役刑に算入し,その罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,判示1の犯行により被告人が得た現金3945万8000円は麻薬特例法11条1項1号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消して没収することができないので,同法13条1項前段により既に共犯者X及びYに対する薬物犯罪収益に由来する財産の没収の裁判に基づき没収した現金10万7000アメリカドルの両替時のレートによる日本円換算額1166万2450円,被告人の国に対する通常郵便貯金債権及びその利息債権(通帳番号省略,番号省略)のうち555万2000円並びに普通乗用自動車トヨタマークⅡ(登録番号省略)の購入価格15万円を控除した残額2209万3550円を被告人から追徴し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担 2000円並びに普通乗用自動車トヨタマークⅡ(登録番号省略)の購入価格15万円を控除した残額2209万3550円を被告人から追徴し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,共犯者2名と共謀の上,営利の目的で,規制薬物の譲渡を業とした麻薬特例法違反の事案(これに付随した規制薬物の所持を含む。)である。 被告人は,規制薬物の密売により多額の利益を得るため,共犯者らを誘い込み,同人らをして規制薬物の密売を行わせて本件犯行に及んだのであり,犯行に至る経緯に酌むべき事情はない。その犯行態様をみるに,被告人は,共犯者2名をして大阪市内等で多数回にわたり規制薬物の譲渡を行わせ,わずか5か月間で3945万円余りの莫大な不法収益を得たばかりか,共犯者2名において密売するために仕入れた極めて多種多量の前記規制薬物を所持していたのであり,本件犯行により規制薬物の害悪を本邦内に広範囲にわたり反復継続的に拡散させ,また拡散させようとしたことを考慮すると,本件は著しく反社会的な職業的犯行であるといわざるを得ない。 そして,被告人は共犯者2名をして規制薬物の仕入や小分けのほか現場での密売行為を行わせていたもので,共犯者らから密売により得た利益の約半分を受け取っていたこと等に照らすと,共犯者2名との関係では被告人が本件犯行の主犯格的立場にあったことは明らかであること,被告人が捜査段階から不自然不合理な弁解に終始して反省の態度が全く見受けられないこと,我が国における近時の規制薬物の密売を業とする犯罪組織に対する厳しい取締り・処罰を願う市民感情をも併せ考慮すると,犯情は極めて悪質であり,被告人の刑事責任はまことに重大である。 そうすると,判示2ないし4の規制薬物が全て押収され社会内への拡 る犯罪組織に対する厳しい取締り・処罰を願う市民感情をも併せ考慮すると,犯情は極めて悪質であり,被告人の刑事責任はまことに重大である。 そうすると,判示2ないし4の規制薬物が全て押収され社会内への拡散が未然に防止できたこと,被告人には本邦における前科がないこと,母国で妻子が被告人の帰りを待っていること等,被告人のために有利に酌むべき事情を十分に考慮しても,主文掲記の刑はやむを得ないところである。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年1月20日神戸地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官杉森研二 裁判官橋本一 裁判官林史高 ・

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