令和6年9月12日判決言渡 令和6年(行コ)第10003号特許料納付書却下処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和5年(行ウ)第5003号)口頭弁論終結日令和6年7月4日判決 控訴人株式会社コンピュータ・システム研究所 同訴訟代理人弁護士岩永利彦 被控訴人国 処分行政庁特許庁長官 同指定代理人橋本政和 同長崎良平 同澤﨑哲哉 同藤井雄一 同坂本千鶴子 同大谷恵菜 同中島あんず 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は、控訴人の負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 特許第5535344号の特許権に係る第8年分の特許料納付書について、特許庁長官がした令和4年12月1日付け手続却下処分を取り消す。 第2 事案の概要(略称等は、特に断らない限り、原判決の表記による。) 1 本件は、特許第5535344号の特許権(本件特許権)を有していた控訴人が、本件特許権の第8年分の特許料を所定の期限までに納付せず、かつ、特許法(令和3年法律第42号(「特許法等の一部を改正する法律」)による改正前のもの。以下、特に断りのない限り同じ。)112条1項により追納することができる期 所定の期限までに納付せず、かつ、特 許法(令和3年法律第42号(「特許法等の一部を改正する法律」)による改正前のもの。以下、特に断りのない限り同じ。)112条1項により追納することができる期間を徒過したため、同法112条の2による特許権の回復を求めて、特許庁長官に対し、同条1項に基づいて本件特許権の第8年分の特許料を納付する旨の納付書(本件納付書)を提出したところ、特許庁長官から本件納付書 に係る手続を却下する旨の処分(本件処分)を受けたため、本件処分の取消しを求めた事案である。 原判決は控訴人の請求を棄却したので、控訴人が原判決を不服として控訴した。 2 前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁11行目ないし 5頁6行目)に記載のとおりであるから、これを引用する。 3 関係法令の定め⑴ 特許法(令和3年法律第42号による改正前のもの)112条の2第1項は、次のとおりである。 「前条第4項若しくは第5項の規定により消滅したものとみなされた特許権 又は同条第6項の規定により初めから存在しなかったものとみなされた特許権の原特許権者は、同条第1項の規定により特許料を追納することができる期間内に同条第4項から第6項までに規定する特許料及び割増特許料を納付することができなかったことについて正当な理由があるときは、経済産業省令に定める期間内に限り、その特許料及び割増特許料を追納することができ る。」 ⑵ 令和3年法律第42号による改正(令和3年改正)後の特許法(改正後特許法)112条の2第1項は、次のとおりである。 「前条第4項若しくは第5項の規定により消滅したものとみなされた特許権又は同条第6項の規定により初めから存在しなかったものとみなされた特許権の原特許権者は、経済産業省令で定め 、次のとおりである。 「前条第4項若しくは第5項の規定により消滅したものとみなされた特許権又は同条第6項の規定により初めから存在しなかったものとみなされた特許権の原特許権者は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定 めるところにより、同条第4項から第6項までに規定する特許料及び割増特許料を追納することができる。ただし、故意に、同条第1項の規定により特許料を追納することができる期間内にその特許料及び割増特許料を納付しなかったと認められる場合は、この限りでない。」⑶ 令和3年法律第42号による改正前の特許法では、同法112条の2第1 項による特許権の回復の手続を行うための手数料は不要であったが、改正後は、1件につき29万7000円の範囲内において政令で定める額の手数料を納付することが必要となった(改正後特許法195条2項、別表11号)。 特許法等関係手数料令1条2項の表11号は、上記手数料を1件につき21万2100円と規定している。 ⑷ 令和3年法律第42号附則1条5号は、特許法112条の2第1項の改正規定の施行日につき、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日とする旨定めた。 そして、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和4年政令第250号)は、令和3年法律第42号附則1条第5号に掲 げる規定の施行期日を令和5年4月1日とする旨定めた。 ⑸ 令和3年法律第42号附則2条8号は、 改正後特許法112条の2第1項の規定につき、その改正規定の施行日前に特許法112条4項から6項までの規定により消滅したもの又は初めから存在しなかったものとみなされた特許権については、なお従前の例によると規定する。 4 争点 本件の争点は、本件処分の違法性の有 条4項から6項までの規定により消滅したもの又は初めから存在しなかったものとみなされた特許権については、なお従前の例によると規定する。 4 争点 本件の争点は、本件処分の違法性の有無である。 5 争点に対する当事者の主張争点に対する当事者の主張は、次のとおり控訴人の当審における補充主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第2の4(5頁10行目から12頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決6 頁6行目、9頁17行目、20行目及び23行目、10頁4行目、7行目、11行目、13行目、15行目及び25行目の「改正後特許法附則」をいずれも「令和3年法律第42号附則」に改める。 〔控訴人の当審における補充主張〕⑴ 適用法令について 令和3年法律第42号の公布は令和3年5月21日であったが、改正後特許法112条の2第1項の施行は令和5年4月1日であって、公布から施行まで約1年10か月もの時間がかかっている。改正後特許法112条の2第1項は、権利の回復を容易にする規定であるから、国民の利益となるものであって、本来一刻も早い施行が求められる類の法律である。 控訴人代理人が生成AIを用いて調査したところ、多くの法律は公布から3か月ないし6か月以内に施行されており、これを超えるのは約35%程度にすぎず、平均は約4.5か月という結果であった。したがって、本件でも、公布からせいぜい4か月半もあれば施行に十分であったと解される。 令和3年法律第42号による改正前の特許法112条の2第1項は、特許 料を追納することができる場合について、それ以前の「特許権者の責めに帰することができない理由」という基準から「正当な理由」の基準に大きく変更したものであったが、公布から施行までの期間 、特許 料を追納することができる場合について、それ以前の「特許権者の責めに帰することができない理由」という基準から「正当な理由」の基準に大きく変更したものであったが、公布から施行までの期間は10か月もなかった。それに比べ、令和3年法律第42号附則1条5号は、施行まで2年を超えない範囲とされ、いたずらに無駄な期間をとった極めて不当なものである。 以上のとおり、実際の多くの法律の公布から施行までの期間、令和3年法 律第42号による改正前の特許法112条の2第1項の公布から施行までの期間、改正後特許法112条の2第1項の適用の必要性などからして、改正後特許法112条の2第1項は、公布日から4か月半以内に施行すべきであった。したがって、令和3年法律第42号附則1条5号は、公布の日から起算して4か月半を超えた部分につき、十分な合理性を基礎付ける事実を認め ることができないから、違憲、無効である。 仮に、法律を違憲と認めることが難しいとしても、改正後特許法112条の2第1項の施行日を令和5年4月1日とした令和4年政令第250号は、十分な合理性を基礎付ける事実を認めることができず、違憲、無効である。 したがって、本件については、改正後特許法112条の2第1項の規定が 適用される。 ⑵ 正当な理由の有無について仮に、本件において令和3年法律第42号による改正前の特許法112条の2第1項の規定が適用されるとしても、以下のとおり、本件では「正当な理由」が存在する。 ア控訴人は、本件弁理士が令和4年2月14日に控訴人に対してショートメッセージにより「今は鬱がひどく対応ができません。」と伝えてきた後、控訴人が本件弁理士と全く連絡が取れなくなったことを、本件弁理士が本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができ に対してショートメッセージにより「今は鬱がひどく対応ができません。」と伝えてきた後、控訴人が本件弁理士と全く連絡が取れなくなったことを、本件弁理士が本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができないほどの病状にあったことを推認させる事実の一つとして主張したが、原判決は、本件追納期 間後の事情であるとの理由でこれを排斥した。しかし、控訴人が主張する上記事実と、本件追納期間における本件弁理士の病状との間に因果関係があるか否かを吟味しなければならないはずであり、これを怠った原判決には経験則違反がある。本件追納期間の末日が令和3年11月9日であり、上記ショートメッセージの送信までの期間は約3か月しかないから、上記 事実から、本件追納期間においても本件弁理士がうつ病等により本件特許 料等の納付の期間管理及びその納付ができないほどの病状にあったことを十分に推認することができる。 イ弁理士Aの本件弁理士に関する供述(甲14)の要点は、本件弁理士が介護事業の副業を行っており、これに相当の力を入れていたこと、この副業がコロナ禍で甚大な不振となったこと、これにより本件弁理士がうつ病 にり患し、又はうつ病が悪化したということであるが、これらの内容は、裏付けがあるか、経験則上高い確度で推認することができる事情であって、これを弁理士Aの推測や考えを述べたものにすぎないとして、本件弁理士の病状を推認するのに十分なものといえないとした原判決は誤りである。 ウ本件弁理士は、令和4年2月14日以降連絡が取れず、本件弁理士の診 断書や通院の証明書などを徴収することが不可能であるから、その病状の直接の立証はできない。それにもかかわらず、本件弁理士が本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができないことを要証事実とするのは、「できない」 明書などを徴収することが不可能であるから、その病状の直接の立証はできない。それにもかかわらず、本件弁理士が本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができないことを要証事実とするのは、「できない」ことの立証を求めるものであって、そのような立証は不可能である。 本件弁理士の症状は双極性うつ病と解されるものであって、ある時は活動でき、ある時は活動できなくなることが繰り返されるのであって、一定の手続を行えたとしても、本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができないこととは矛盾しない。それ故、本来はこれらのことを総合考慮した上で「正当な理由」を判断すべきであるのに、原判決はこれを怠った。 エ本件弁理士は、平成29年に3件、令和元年から令和2年にかけて2件、同年に1件、弁理士としての業務である手続を怠り、本件追納期間を含む令和3年から令和4年にかけて、怠った手続が集中しており、これらの怠った手続の合計は18件にものぼる(甲25~42)。被控訴人である国が情報の開示を拒んでいるが、控訴人以外にも本件弁理士に委任して特許庁 の手続を行っていた特許権者等がいると思われる。これらの懈怠手続の存 在は、本件弁理士が、本件追納期間当時、本件特許料等の納付の期間管理及びその納付ができない状態であったことを強く推認させる。 また、本件弁理士は、令和4年10月以降の日本弁理士会の会費を滞納し、退会処分となった(甲43、44、51の1・2)。このことからすると、遅くとも同月以降、本件弁理士は活動停止の状態まで病状が悪化して いたと考えられる。さらに、弁理士は、法定の義務研修を所定の期間に履修しなければならないが、本件弁理士は、1単位ではあるが、義務研修の履修単位不足が生じ、所定の処分を受けている(甲45)。1単位だけ不足した られる。さらに、弁理士は、法定の義務研修を所定の期間に履修しなければならないが、本件弁理士は、1単位ではあるが、義務研修の履修単位不足が生じ、所定の処分を受けている(甲45)。1単位だけ不足したということは、ある研修は受講でき、ある研修は受講できなかったことが分かり、本件弁理士が双極性うつであったことを推認させる。この履 修期間は令和3年11月1日から令和5年3月31日までであり、一部が本件追納期間と重なっている。これらの事情も、本件弁理士が、本件追納期間当時、本件特許料等の期間管理及びその納付ができない状態であったことを推認させる。 第3 当裁判所の判断 当裁判所も、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。 その理由は、以下のとおりである。 1 適用法令について当裁判所も、特許庁長官が、本件処分において、令和3年法律第42号による改正前の特許法112条の2第1項を適用したことに誤りはなく、適用法令 に関する控訴人の主張は採用できないと判断する。その理由は、後記のとおり、当審における控訴人の補充主張(前記第2の5⑴)に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の1(12頁21行目から14頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決12頁22行目、13頁4行目、12行目、16行目、14頁5行目、16行目の「改正 後特許法附則」をいずれも「令和3年法律第42号附則」に改める。 (当審における控訴人の補充主張に対する判断)控訴人は、前記第2の5⑴のとおり、令和3年法律第42号附則1条5号は、公布の日から起算して4か月半を超えた部分について違憲、無効であるか、又は、改正後特許法112条の2第1項の施行日を令和5年4月1日とした令和4年政令第250 、令和3年法律第42号附則1条5号は、公布の日から起算して4か月半を超えた部分について違憲、無効であるか、又は、改正後特許法112条の2第1項の施行日を令和5年4月1日とした令和4年政令第250号が違憲、無効であるから、本件については、改正後特許法 112条の2第1項の規定が適用されると主張する。 しかし、多くの法律が公布から3か月ないし6か月以内に施行されているとか、公布から施行までの平均が約4.5か月であるとの控訴人の主張の裏付けはない。また、仮にそのような事実があったとしても、改正後特許法112条の2第1項の規定について、公布から起算して2年を超えない範囲内において 政令で定める日を施行日とする旨規定した令和3年法律第42号附則1条5号の規定、又は上記施行日を定めた令和4年政令第250号について、4か月半を超える期間の部分が違憲、無効であるとは解されない。 特許法112条の2第1項に基づく特許権の回復の要件は、平成23年法律第63号による同項の改正により、それまでの「その責めに帰することができ ない理由があるとき」から「正当な理由があるとき」に改められたが、上記改正に際しての法律の公布から改正後の同項の施行までの期間が、令和3年法律第42号による改正に際しての法律の公布から施行までの期間より短いものであったとしても、そのことをもって、令和3年法律第42号附則1条5号の規定、又は上記施行日を定めた令和4年政令第250号の全部又は一部が違憲、 無効であると解されることもない。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 2 正当な理由の有無について⑴ 前提事実(原判決「事実及び理由」第2の2)、証拠(甲2~11〔枝番含む〕、25、26、28~42)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認 ことができない。 2 正当な理由の有無について⑴ 前提事実(原判決「事実及び理由」第2の2)、証拠(甲2~11〔枝番含む〕、25、26、28~42)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認 められる。 ア控訴人は、平成21年6月1日、本件弁理士と顧問契約を締結し、以後、控訴人による特許出願、商標登録出願に関する業務のほか、控訴人が有する特許権に関する特許料の納付、商標権に関する登録料の納付の業務も本件弁理士に委任していた。控訴人において、本件弁理士とやり取りをするのは、専ら専務であるB(以下「B’」という。)であった。 イ本件弁理士は、控訴人の特許権に係る特許料の納付につき、控訴人に事前に確認をとることもあったが、納付を行った後に事後的に報告を行うこともあった。 ウ本件弁理士は、本件特許権に係る第1年分から第7年分までの特許料につき、控訴人からの委任に基づいて納付した。これらの特許料の納付に関 して問題が生じたことはなかった。 エ本件弁理士は、令和3年の夏から秋にかけて、B’と打合せを行い、同年9月から12月までの間に、控訴人からの委任に基づき、前提事実(原判決「事実及び理由」第2の2⑹アないしキ(原判決3頁21行目ないし4頁18行目))に記載の商標登録料の納付、特許料の納付、特許出願に係 る手続補正書及び意見書の提出、特許出願等の業務を行った。しかし、本件弁理士は、本件特許権に関しては、令和3年5月9日が末日である本件納付期間内に本件特許料の納付をせず、同月10日から同年11月9日までの本件追納期間内に本件特許料等を納付することもなかった。控訴人は、本件弁理士に対し、本件追納期間の経過までの間に、本件特許料の納付に 関して確認又は問合せをしなかった。 オ控訴人は、令和4年2 追納期間内に本件特許料等を納付することもなかった。控訴人は、本件弁理士に対し、本件追納期間の経過までの間に、本件特許料の納付に 関して確認又は問合せをしなかった。 オ控訴人は、令和4年2月、控訴人についてデューデリジェンスを行った会社から、控訴人が有する特許権の一部が特許料の不納付によって登録抹消となっているとの報告を受け、調査したところ、本件特許権について、本件特許料の納付がされないまま本件追納期間が経過しており、他にも、 複数の特許権について特許料の納付がされずに特許権が抹消されている ことや、特許出願の日から3年以内にすべき出願審査の請求がされていないことが判明した。 カ上記オの事情の判明後である令和4年2月9日、B’が本件弁理士と電話で話したところ、本件弁理士は、四、五年前からうつ病になっていた、癌もわずらっている、配偶者と離婚した、母親の介護もしているとの事情 により、業務を行うのが非常に難しい状況にあるとの説明をして、一方的に電話を切った。B’が、同月14日、携帯電話のショートメッセージサービスにより、本件弁理士に連絡を取ったところ、本件弁理士は、「すみませんCですご迷惑をおかけしてます今は鬱がひどく対応ができません申し訳ありません」とのメッセージをB’に送った。その後、控訴人 においては、本件弁理士と連絡を取ることができなくなっている。 ⑵ 前記1のとおり、特許法112条の2第1項に基づく特許権の回復の要件は、平成23年法律第63号による同項の改正により、それまでの「その責めに帰することができない理由があるとき」から「正当な理由があるとき」に改められたものであるが、これは、同項について、国際調和の観点から救 済の要件を緩和しようとする一方で、第三者の監視負担等の反対利益も とができない理由があるとき」から「正当な理由があるとき」に改められたものであるが、これは、同項について、国際調和の観点から救 済の要件を緩和しようとする一方で、第三者の監視負担等の反対利益も考慮して、特許法条約において選択が認められている「DueCare」の概念が採用されたものである(乙1~3)。 このような特許法112条の2第1項の改正の経緯や趣旨等を考慮すると、同項にいう「正当な理由があるとき」とは、特許権者の側で相当な注意 を尽くしていたにもかかわらず追納期間内に特許料等を納付することができず、追納を認めても第三者の利益を著しく害することのないときをいうものと解するのが相当であり、その有無は、当該特許料の納付にかかわる客観的な事情のほか、特許権者に関する事情、その代理人に関する事情等を総合考慮して判断されるというべきである。 ⑶ そこで、本件について検討すると、本件特許権の特許料の納付をめぐる状 況、本件追納期間中及び同期間後の本件弁理士の活動状況等は、原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁11行目ないし5頁6行目)のとおりであり、控訴人と本件弁理士とのやりとり、本件特許料の不納付が判明した経緯等は、前記⑴認定のとおりである。本件弁理士は、特許料の納付につき、控訴人に事前に確認をとることもあったが、納付後に事後的に報告を行うこ ともあり(前記⑴イ)、その点の対応は定まっておらず、他方、控訴人は、本件追納期間において、本件弁理士と打合せを行っており、本件弁理士と接触をとることがあったにもかかわらず、本件追納期間が経過するまでに、本件弁理士に対し、本件特許料等の納付を行ったのか確認をすることはなかった(前記⑴エ)。また、本件弁理士は、本件追納期間において、本件特許権以外 の特許権に係る 本件追納期間が経過するまでに、本件弁理士に対し、本件特許料等の納付を行ったのか確認をすることはなかった(前記⑴エ)。また、本件弁理士は、本件追納期間において、本件特許権以外 の特許権に係る特許料等の納付、商標登録料の納付、特許出願に係る業務等の業務を行っており(原判決「事実及び理由」第2の2⑹アないしキ(原判決3頁21行目ないし4頁18行目))、このことに照らすと、本件特許料等を本件追納期間に納付することが不可能な状況にあったとは認められない。 そうすると、本件特許権に係る第7年分までの特許料の納付について問題が 生じたことがなかったことなどを考慮しても、本件は、特許権者の側で相当な注意を尽くしていたにもかかわらず追納期間内に特許料等を納付することができず、追納を認めても第三者の利益を著しく害することのないとき、に該当するとは認められない。 ⑷ 当審における控訴人の補充主張(前記第2の5⑵)に対する判断 ア控訴人は、前記第2の5⑵のとおり、本件弁理士がうつ病に罹患していたから、本件追納期間内に本件特許料等を納付することができなかったことについて「正当な理由」があると主張する。そして、本件弁理士が、B’に対し、令和4年2月9日、電話で、うつ病である旨を述べたこと、自分がうつ病である旨のメッセージを送信したこと(前記⑴カ)が認められ、 控訴人は、控訴人訴訟代理人弁護士が作成した弁理士Aからの電話聴取等 報告書(甲14)を証拠として提出する。 しかし、控訴人訴訟代理人弁護士が作成した弁理士Aからの電話聴取等報告書(甲14)については、弁理士Aの具体的な氏名も明らかにされていないことからすると、真に本件弁理士以外の弁理士が供述した内容が記載されているか不明である上、弁理士Aが本件弁理士の状況を具体的に認 告書(甲14)については、弁理士Aの具体的な氏名も明らかにされていないことからすると、真に本件弁理士以外の弁理士が供述した内容が記載されているか不明である上、弁理士Aが本件弁理士の状況を具体的に認 識していたのか否かも明らかでなく、電話聴取等報告書(甲14)に記載された当該弁理士の供述とされるものの内容の真実性は認め難い。また、本件弁理士がうつ病であることをB’に告げた電話は、業務を行うのが難しい状況にある理由として、うつ病以外の複数の理由も述べた上、一方的に電話を切ったというものであり(前記⑴カ)、うつ病の具体的状況を述べ るものではなく、B’の問いかけ等による確認を経たものでもないから、うつ病のために本件特許料の納付ができなかったことを具体的に裏付けるものということはできない。さらに、本件弁理士がB’に送ったメッセージも、「鬱がひどく対応ができない」旨述べるだけのものであり、うつ病の情況や、医師の診断結果等を述べるものでもないから、本件弁理士が真 実うつ病にり患していたこと、うつ病のために本件特許料の納付に関する事務を行うことができなかったことを認めるに足りるものとはいえない。 控訴人は、本件弁理士が双極性うつ病である旨主張するが、本件弁理士が、本件追納期間中及び同期間後に本件特許料の納付等のその他の業務を怠っていたとしても、単に過失により期間管理を怠っていたとも考えられ得 るところであり、本件弁理士にかかわる具体的な医学的証拠が提出されていないことからすれば、本件弁理士が双極性うつ病であったと認めることはできない。 イまた、前記⑴オのとおり、本件弁理士は、本件追納期間内において、本件特許料等を含む複数の特許権に係る特許料等の納付を行わないなど、期 間内に行うべき業務を行わないことがあったものの、 。 イまた、前記⑴オのとおり、本件弁理士は、本件追納期間内において、本件特許料等を含む複数の特許権に係る特許料等の納付を行わないなど、期 間内に行うべき業務を行わないことがあったものの、他方で、原判決「事 実及び理由」第2の2⑹(原判決3頁21行目ないし4頁18行目)のとおり、控訴人からの委任に基づいて行った業務も複数あるのであって、このような本件弁理士の業務遂行状況に照らすと、本件弁理士が、本件特許料等の納付の期間管理及び納付の手続を行うことのできない状態であったとは認められない。したがって、仮に、本件弁理士がうつ病と診断され る状態であったとしても、それ故に、本件特許料等の納付の期間管理及び納付の手続を行うことのできない状態であったとは認められない。 ウその他、本件の全証拠によっても、本件弁理士がうつ病にり患していたことは認められるとは言い難く、仮にうつ病にり患していたとしても、本件特許料の納付が困難になるほどに重度のうつ病にり患していたと認め ることはできない。 エ以上によれば、控訴人が本件追納期間内に本件特許料等の納付をしなかったことにつき、特許権者の側で相当な注意を尽くしていたにもかかわらず追納期間内に特許料等を納付することができず、追納を認めても第三者の利益を著しく害することのないとき、に該当するとは認められず、特許 法112条の2第1項の「正当な理由」があるとは認められない。 3 本件処分の手続における違法事由、本件訴訟における信義則違反等について原判決「事実及び理由」第3の3(15頁25行目から16頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判 断(原判決引用部分を含む。)は左右されな 主文 よって、主文のとおり判決する。 理由 5行目から16頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 4 その他、控訴人が縷々主張する内容を検討しても、当審における上記認定判断(原判決引用部分を含む。)は左右されない。 5 結論以上によれば、控訴人の請求は理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 中平健 裁判官 今井弘晃 裁判官 水野正則
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