平成23(行ウ)279 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年1月22日 東京地方裁判所
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判決文本文27,018 文字)

平成26年1月22日判決言渡平成23年(行ウ)第279号遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 主文 1 大田労働基準監督署長が原告に対していずれも平成20年3月21日付けでした労働者災害補償保険法による休業補償給付,遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の各処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨主文と同旨。 第2 事案の概要本件は,亡Aの妻である原告が,亡Aの肺がんによる療養及び死亡について,亡Aが,勤務先において石綿ばく露作業に従事したことにより肺がんを発症したものであると主張して,大田労働基準監督署長(以下「労基署長」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく休業補償給付,遺族補償給付及び葬祭料の各支給を請求したところ,労基署長がこれらをいずれも支給しない旨の処分(以下「本件各不支給処分」という。)をしたことから,本件各不支給処分の取消しを求める事案である。 以下の1から3までの各事実は,掲記の証拠(なお,乙2に含まれる各文書については,表題と乙2の頁数をもって表示する。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により認められる。 1 前提となる事実(1) 当事者等亡A(昭和8年▲月▲日生)は,昭和30年2月10日,B株式会社(昭和38年にC株式会社と合併。現在の名称は「株式会社DE事業所」。以下, 上記合併等の前後を問わず「本件会社」という。)に入社し,平成5年2月28日,本件会社を定年退職し,平成18年▲月▲日,死亡した。 原告は,亡Aの妻であり,亡Aの死亡当時,亡Aと生計を同じくしていた。 (2) 本件会社における亡Aの経歴本件会社における亡Aの経歴は ,本件会社を定年退職し,平成18年▲月▲日,死亡した。 原告は,亡Aの妻であり,亡Aの死亡当時,亡Aと生計を同じくしていた。 (2) 本件会社における亡Aの経歴本件会社における亡Aの経歴は,以下のとおりである。 昭和30年2月10日入社同年5月10日技術部発動機課昭和34年2月24日原動機部機械課昭和37年11月15日原動機工場機械課溶接係昭和39年1月13日原動機工場溶接班長昭和42年4月1日原動機工場溶接課溶接作業班長昭和47年4月1日原動機工場整備管理者昭和48年5月10日原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)昭和54年12月1日原動機工場溶接課技師平成5年2月28日定年退職この間,亡Aは,主としてαの原動機工場における航空機のエンジン部品の修理に係る溶接作業のほか,溶接技術の研究,開発,指導等に従事していた。 (甲23,乙2(石綿業務従事証明〔128頁〕,面談調査報告書〔173頁から175頁まで〕,Aさんの経歴〔185頁〕))(3) 亡Aの肺がんによる死亡亡Aは,平成17年8月15日,Fセンターを受診したところ,原発性肺がん(肺腺がん)と診断され,3回にわたる入院治療の末,平成18年▲月▲日,肺がんにより死亡した(死亡時73歳)。 (甲15から17まで,34,乙2(死亡診断書〔136頁〕,意見書〔162頁から164頁まで〕)) (4) 亡Aの肺組織に関する医学的所見等ア平成17年8月15日にFセンターにおいて行われた胸部エックス線検査及び胸部CT検査において,亡Aには,石綿肺及び胸膜プラークの所見のいずれも認められなかった。 また,平成18年▲月▲日,Fセンターにおいて病理解剖が行われた際の組織学的検索において,亡Aの肺内に石 び胸部CT検査において,亡Aには,石綿肺及び胸膜プラークの所見のいずれも認められなかった。 また,平成18年▲月▲日,Fセンターにおいて病理解剖が行われた際の組織学的検索において,亡Aの肺内に石綿小体の存在は認められなかった。 (甲2,乙2(意見書2通〔160頁から164頁まで〕,病理解剖診断報告書〔165頁〕))イ平成19年3月20日に独立行政法人労働者健康福祉機構G病院において行われた亡Aの肺組織検体の位相差顕微鏡による石綿小体の計数結果(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)は,右肺下葉につき122本,左肺下葉につき469本であった。 (甲3,乙2(石綿小体計測結果報告書〔166頁から168頁まで〕,ホルマリン固定肺組織の提供について(回答)〔169頁,170頁〕,意見書〔171頁,172頁〕))ウ平成19年12月21日付けで独立行政法人労働安全衛生総合研究所が労基署長に報告した亡Aの肺組織検体の分析透過型電子顕微鏡による石綿繊維の計数結果(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)は,以下のとおりであった。 (ア) 右肺下葉a 総石綿繊維数154万本(うちクリソタイル136万本,クロシドライト8.5万本,トレモライト8.5万本)b 1μm 超の石綿繊維数102万本(うちクリソタイル85万本,アモサイト8.5万本,クロシドライト8.5万本)c 5μm 超の石綿繊維数検出下限値(8.5万本)未満 (イ) 左肺下葉a 総石綿繊維数273万本(うちクリソタイル170万本,アモサイト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万本)b 1μm 超の石綿繊維数255万本(うちクリソタイル153万本,アモサイト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万本) ト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万本)b 1μm 超の石綿繊維数255万本(うちクリソタイル153万本,アモサイト34万本,クロシドライト34万本,トレモライト34万本)c 5μm 超の石綿繊維数51万本(うちアモサイト34万本,クロシドライト17万本)(甲4,乙2(原動機工場溶接作業者の肺内石綿繊維数濃度の計数結果〔154頁から156頁まで〕))(5) 本件訴訟に至る経緯原告は,労基署長に対し,平成19年5月16日,労災保険法に基づく遺族補償給付(遺族補償年金)及び葬祭料の各支給を請求し,同年6月1日,亡Aの平成17年8月15日から平成18年▲月▲日までの328日間の肺がん療養に係る休業補償給付の支給を請求した(以下,これらの請求を「本件各請求」という。なお,亡Aによる生前の休業補償給付の支給請求は行われていない。)が,労基署長は,いずれも平成20年3月21日付けで,亡Aの肺がんが,労働基準法施行規則(平成25年9月30日厚生労働省令第113号による改正前のもの。以下「労基則」という。)別表第1の2第7号7に定める「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」には該当しないとの理由により,本件各不支給処分をした。 原告は,東京労働者災害補償保険審査官に対し,平成20年5月13日付けで審査請求をしたが,同審査官は,平成22年1月8日付けで上記審査請求を棄却する旨の決定をした。 原告は,労働保険審査会に対し,平成22年2月25日付けで再審査請求をしたが,同審査会は,同年11月4日付けで上記再審査請求を棄却する旨 の決定をした。 原告は,平成23年4月27日,本件各不支給処分の取消しを求める本件訴えを提起した。 (甲5,乙1,2(労働保険再審査請求書〔1頁〕,休業 記再審査請求を棄却する旨 の決定をした。 原告は,平成23年4月27日,本件各不支給処分の取消しを求める本件訴えを提起した。 (甲5,乙1,2(労働保険再審査請求書〔1頁〕,休業補償給付支給請求書及び不支給決定通知〔129頁から132頁まで〕,遺族補償年金支給請求書及び不支給決定通知〔133頁から135頁まで〕,葬祭料請求書及び不支給決定通知〔137頁から141頁まで〕,労働保険審査請求書〔280頁から282頁〕,決定書〔283頁から309頁まで〕),当裁判所に顕著な事実) 2 石綿の定義,種類,性質等(1) 石綿とは,これまで産業用に使用されてきた繊維状の鉱物の総称であり,その種類は,蛇紋石族石綿と角閃石族石綿に大別され,蛇紋石族石綿にはクリソタイル(白石綿)が,角閃石族石綿にはアモサイト(茶石綿),クロシドライト(青石綿),アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライトがそれぞれ含まれる。これまで世界で使用された石綿の9割以上を占めているのはクリソタイルであり,角閃石族石綿のうち大量に使用されたのは,アモサイト及びクロシドライトである。 (乙21)(2) 石綿ばく露により肺内に吸入された比較的長い石綿繊維は,体内で消失することなく長期間肺内に滞留し,その一部の表面に鉄質蛋白が付着して亜鈴状の小体(石綿小体)を形成することがあるところ,肺内に吸入された石綿繊維は,下肺野により多く集積する傾向があることから,石綿小体及び石綿繊維は,一般に肺の上葉部よりも下葉部に多くみられる。 (甲32,乙3,8,18)(3) クリソタイルは,角閃石族石綿と比較して,生体液の作用による溶解及びマクロファージによる運搬排出の両作用により体内で消失しやすく,肺内吸入後に他の部位に移動する度合も大きい。また,これらの性質 3) クリソタイルは,角閃石族石綿と比較して,生体液の作用による溶解及びマクロファージによる運搬排出の両作用により体内で消失しやすく,肺内吸入後に他の部位に移動する度合も大きい。また,これらの性質に加え,ク リソタイルは,表面がプラスに帯電しているため鉄質蛋白を吸着し難いなどの性質を有しており,結果として,角閃石族石綿に比べて石綿小体を形成し難いという特質を有している。 (甲13,29,32,乙3,6,8,10,13,18,23の1・2) 3 石綿ばく露作業と肺がん発症との因果関係に関する医学的知見及び認定基準(1) 石綿ばく露と肺がん発症との関係石綿ばく露と肺がん発症との間には,石綿累積ばく露量が増加すれば肺がん発症率が高まるという直線的な量-反応関係が存在する。しかし,肺がんについては,石綿に特異的な疾患である中皮腫とは異なり,喫煙を始めとする石綿以外の発症原因が多く存在する一方で,石綿による肺がんと石綿以外の原因による肺がんとを医学的に区別することはできない。 そこで,肺がん発症の原因を石綿ばく露とみなすためには,疫学的観点に照らして,肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める(危険要因のばく露を受けた人口群における健康障害の発症数が,当該危険要因のばく露を受けない人口群における発症数の2倍以上となる)石綿累積ばく露量の存在が必要であると解するのが合理的であるとされている。なお,肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める石綿累積ばく露量については,石綿の種類を区別することなく,25本/ml×年(「本/ml×年」は,空気1ミリリットル当たりの石綿繊維数にばく露年数を乗じた値の単位。)とするのが妥当とされている。 (甲29,33,乙3,6,7,13,14,16,23の1・2)(2) ヘルシンキ国際専門家会議において リットル当たりの石綿繊維数にばく露年数を乗じた値の単位。)とするのが妥当とされている。 (甲29,33,乙3,6,7,13,14,16,23の1・2)(2) ヘルシンキ国際専門家会議において合意された判断基準1997年(平成9年)1月,フィンランドのヘルシンキにおいて,石綿産出国以外の8か国から19人の専門家が参加して,石綿,石綿肺及びがんについての国際専門家会議が開かれ,同会議において,石綿関連疾患の診断及び原因の特定に関する最新基準(以下「ヘルシンキ基準」という。)の合意 が得られた。ヘルシンキ基準のうち,肺がんに関連する内容は,以下のとおりである。 ア臨床目的で,職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するために推奨される基準は,専門の実験室における電子顕微鏡での計数結果として,乾燥肺重量1グラム当たりの角閃石族石綿の繊維数が10万本以上(5μm 超)若しくは100万本以上(1μm 超)の場合,又は,専門の実験室における光学顕微鏡での測定結果として,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が1000本以上の場合である。 イ肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める25本/ml×年の石綿累積ばく露量の指標としては,以下の場合が挙げられる。 (ア) 1年の高濃度石綿ばく露(石綿製品製造,石綿吹き付け,石綿製品による断熱作業,古い建築物の解体)又は5年から10年の中等度石綿ばく露(建築,造船)(イ) 乾燥肺重量1グラム当たりの角閃石族石綿の繊維数200万本(5μm 超)又は500万本(1μm 超)(ウ) 乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本から1万5000本(ただし,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が1万本未満の場合には,電子顕微鏡による繊維分析が推奨される。)ウクリソタイル繊 重量1グラム当たりの石綿小体数5000本から1万5000本(ただし,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が1万本未満の場合には,電子顕微鏡による繊維分析が推奨される。)ウクリソタイル繊維は,クリアランス(浄化)の速度が速く,角閃石族石綿繊維と同程度には肺組織内に蓄積されない。そのため,クリソタイルによる肺がん発症の危険度については,肺組織内の繊維分析よりも,職業歴(繊維数×曝露年数)の方がより良い指標となる。 エ 25本/ml×年の石綿累積ばく露量の存在を認める上で,上記イのすべての基準が満たされている必要はない。明確な職業上のばく露歴を有するが,肺組織内の繊維数が少量である場合や,肺組織内に高濃度の繊維数が検出されるが,職業上のばく露歴が不明確又は短期である場合等には, 上記の石綿累積ばく露量の存在を認めて差し支えない。 (甲29,乙6,7,23の1・2)(3) 石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達労働省又は厚生労働省(以下「厚労省」という。)は,昭和53年以降,石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達を定め,これを順次改定してきた。これらの内容,変遷状況等は,以下のとおりである。 ア 「石綿による疾病」及び「石綿ばく露作業」の定め昭和53年以降の前述の一連の行政通達は,「石綿による疾病」(石綿との関連が明らかな疾病)の一つとして肺がんを定め,また,「石綿ばく露作業」(石綿による疾病の発生のおそれのある作業内容)の一つとして,「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱被覆」(後述の昭和53年認定基準)あるいは「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業」(後述の平成15年認定基準,平成18年認定基準及び平成24年認定基準)を定めている。 (甲6, 3年認定基準)あるいは「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業」(後述の平成15年認定基準,平成18年認定基準及び平成24年認定基準)を定めている。 (甲6,7,乙4の1,乙15,17)イ一連の行政通達の内容,変遷状況等(ア) 昭和53年10月23日付け労働省労働基準局長通達「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(基発第584号。以下「昭和53年認定基準」という。)労働省設置の医学専門家による「石綿による健康障害に関する専門家会議」は,昭和53年9月18日付けで,「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」(以下「昭和53年報告書」という。)を作成した。昭和53年報告書においては,石綿ばく露と肺がん発症との関係について,当時の疫学調査結果から,石綿ばく露量が大となるにつれて肺がん発生の超過危険が大きくなる傾向がみられ,症例としては石綿ばく露期間がおおむね10年を超える労働者に発生したものが多いが, 高濃度で比較的短期間の石綿ばく露を受けた作業者や,一時的に高濃度の石綿ばく露を受ける作業が間けつ的に行われる業務に従事した労働者に肺がん発生がみられたこともあるので,これらの症例における石綿ばく露と肺がんとの関連については,石綿ばく露歴,臨床所見,病理学的所見等を調査の上,個別に詳細な検討が加えられるべき旨が報告されている。 労働省労働基準局長は,昭和53年報告書の内容を踏まえ,同年10月23日付けで昭和53年認定基準を定め,都道府県労働基準局長あてに発出した。 昭和53年認定基準のうち肺がんに関連する内容は,以下のとおりである。 a 石綿肺の所見が認められない石綿ばく露作業従事労働者に発生した原発性肺がんについては,① 石綿 局長あてに発出した。 昭和53年認定基準のうち肺がんに関連する内容は,以下のとおりである。 a 石綿肺の所見が認められない石綿ばく露作業従事労働者に発生した原発性肺がんについては,① 石綿ばく露作業への従事期間がおおむね10年以上であり,かつ,② 肺組織内の石綿繊維又は石綿小体等の病理学的所見が得られている場合には,労基則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱う。 b 石綿ばく露作業従事労働者に発生した肺がんのうち,上記aに該当しない肺がんについては,例えば,比較的短期間に高濃度の石綿ばく露を受ける作業又は一時的に高濃度の石綿ばく露を間けつ的に受ける作業に従事した労働者に肺がん発生がみられたこともあるので,かかる労働者に発生した肺がんについては,石綿ばく露作業の内容,同従事歴,臨床所見,病理学的所見等を調査の上,関係資料を添えて本省にりん伺する。 (甲6,乙16,17)(イ) 平成15年9月19日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾病の認定基準について」(基発第0919001号。以下「平成15年認 定基準」という。)厚労省設置の医学専門家による「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会」は,平成15年8月26日付けで,「石綿ばく露労働者に発生した疾病の認定基準に関する検討会報告書」(以下「平成15年報告書」という。)を作成した。 厚労省労働基準局長は,平成15年報告書の内容を踏まえ,平成15年9月19日付けで,平成15年認定基準を定め,都道府県労働局長あてに発出し,平成15年認定基準の施行に伴い,昭和53年認定基準を廃止した。 平成15年認定基準のうち肺がんに関連する内容は以下のとおりであるところ,その内容については,昭和53年認定基準の内容をおおむね踏襲したも 年認定基準の施行に伴い,昭和53年認定基準を廃止した。 平成15年認定基準のうち肺がんに関連する内容は以下のとおりであるところ,その内容については,昭和53年認定基準の内容をおおむね踏襲したものとなっている。 a 石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,① 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,② 肺組織内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合には,労基則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱う。 b 上記aに該当しない原発性肺がんであって,上記a①又は②に該当する事案は,本省に協議する。 (甲7,乙2(平成15年報告書〔25頁〕))(ウ) 平成18年2月9日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾病の認定基準について」(基発第0209001号。以下「平成18年認定基準」という。)環境省及び厚労省設置の医学専門家による「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」は,平成18年2月,「『石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方』報告書」(以下「平成18年報告書」という。)を作成した。平成18年報告書においては,新たに累積ば く露量と肺がん発症の関係等に関する医学的知見(前記(1),(2)等)を踏まえた平成15年認定基準の再検討が行われ,その結果,肺がん発症の原因を石綿ばく露とみなすための相対リスクが2倍となる石綿累積ばく露量(25本/ml×年)に相当する指標につき,①医学的指標としては肺内石綿繊維数又は石綿小体数等が,職業ばく露歴に関連した指標としては石綿ばく露作業従事期間がある,②肺内石綿繊維数又は石綿小体数による指標としては,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本以上又は石綿繊維数(角閃石族石綿のみならず,クリソタイルも含む。)200万本以上 業従事期間がある,②肺内石綿繊維数又は石綿小体数による指標としては,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本以上又は石綿繊維数(角閃石族石綿のみならず,クリソタイルも含む。)200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(2μm超)の場合に,肺がん発症の相対リスクが2倍以上であると判断し得るが,石綿小体数と石綿繊維数を比べた場合,石綿繊維数の方がより正確にばく露量を反映するので,電子顕微鏡を用いて石綿繊維数を測定するのが最も望ましいほか,石綿小体は,角閃石族石綿(クロシドライト,アモサイト)についてはばく露の良い指標となるが,クリソタイルについては,前記2(3)の性質から実際のばく露量とずれを生じる可能性がある,③石綿ばく露作業従事期間による指標については,我が国における業種別,職業別等のばく露濃度に関する数値データが存在せず,同業種,同職種でも作業内容やその頻度によって石綿ばく露の程度に差があり,業種,職種等をもって石綿ばく露の濃淡を評価することが困難であることから,業種,職業等の別を問わず,原則として石綿ばく露作業におおむね10年以上従事した場合に,肺がん発症の相対リスクが2倍以上であると判断し得るが,作業従事期間だけを判断指標とすることは,石綿ばく露作業の内容,頻度及び程度によっては,必ずしも25本/ml×年の累積ばく露量を満たすとは限らず,石綿ばく露に関する医学的所見を併せて評価することが必要である,等と報告されている。 厚労省労働基準局長は,平成18年報告書の内容を踏まえ,平成18 年2月9日付けで,平成18年認定基準を定め,都道府県労働局長あてに発出し,平成18年認定基準の施行に伴い,平成15年認定基準を廃止した(なお,平成18年認定基準のうち,肺がんに関する部分については,平成22年12月10日 年認定基準を定め,都道府県労働局長あてに発出し,平成18年認定基準の施行に伴い,平成15年認定基準を廃止した(なお,平成18年認定基準のうち,肺がんに関する部分については,平成22年12月10日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾病の認定基準の一部改正について」(基発第1210第6号)により一部改正され,後記bの「乾燥肺重量1グラム当たりの石綿繊維数500万本以上」という基準の対象となる石綿繊維の長さについて,従前「2μm」とされていたのが「1μm」に改められ,同改正内容が,平成18年2月9日にさかのぼって適用された。以下において,「平成18年認定基準」という場合には,上記改正後のものをいうものとする。)。 平成18年認定基準のうち肺がんに関連する内容は,以下のとおりである。 a 石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,① 肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められ,かつ,② 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上ある場合には,労基則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱う。 b 石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,乾燥肺重量1g当たりの石綿小体数が5000本以上又は石綿繊維数が200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超)認められる場合は,石綿ばく露作業への従事期間が10年未満でも,業務上の疾病として取り扱う。 c 石綿ばく露作業への従事期間が10年未満の事案であっても,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合は,本省に協議する。 (乙3,4の1・2)(エ) 平成19年3月14日付け厚労省労働基準局労災補償部補償課長通達「石綿による肺がん事案の事務処理について」(基労補発第03140 01号。以下「平成19年通達」とい 4の1・2)(エ) 平成19年3月14日付け厚労省労働基準局労災補償部補償課長通達「石綿による肺がん事案の事務処理について」(基労補発第03140 01号。以下「平成19年通達」という。)厚労省労働基準局労災補償部補償課長は,平成18年認定基準の運用に関する事務処理についての通達として,平成19年3月14日付けで,平成19年通達を定め,都道府県労働局労働基準部長あてに発出した。 平成19年通達は,平成18年認定基準において,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿ばく露量の指標として,乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上の石綿小体が認められる場合が挙げられているところ,石綿ばく露作業に10年以上従事した場合にも,肺がん発症の相対リスクが2倍と評価されていることから,石綿ばく露作業に10年以上従事した労働者の肺内には,石綿小体に関し,「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」と同水準のばく露量が想定されるとする。その上で,平成19年通達は,石綿小体数が乾燥肺重量1グラム当たり5000本を下回る場合には,「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」と同水準のばく露とみることができるかどうかという観点から,作業内容,頻度,ばく露形態,石綿の種類,肺組織の採取部位等を勘案し,総合的に判断することが必要であるから,「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」の基準に照らし,石綿小体数が明らかに少ない場合は,本省に照会されたいとしている。 (乙5)(オ) 平成24年3月29日付け厚労省労働基準局長通達「石綿による疾病の認定基準について」(基発第0329第2号。以下「平成24年認定基準」という。)厚労省設置の医学専門家による「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」は,平成24年2月,「石綿による疾病の認定基 ついて」(基発第0329第2号。以下「平成24年認定基準」という。)厚労省設置の医学専門家による「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」は,平成24年2月,「石綿による疾病の認定基準に関する検討会報告書」(以下「平成24年報告書」という。)を作成した。平成24年報告書は,平成18年報告書以降の石綿による肺がんに関する重要な 知見を収集,検討した結果として,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める25本/ml×年の石綿累積ばく露量の指標につき,① 肺内石綿繊維数又は石綿小体数による指標については,クリソタイルのクリアランスの程度が大きいとされる一方で,クリソタイルによる肺がん発症リスクが角閃石族石綿と比較して低いとする報告が多数存在しており,これらの報告を踏まえると,クリソタイルによる肺がん発症リスクは,角閃石族石綿と比べて1/10以下の低いものと考えられ,クリソタイルについては,クリアランスの影響が最大に現れたとしても,肺がん発症リスクの低さを考慮すれば,角閃石族石綿以上の肺内石綿繊維数がなければ,肺がん発症の相対リスクが2倍となる石綿ばく露量に至らないという結果になる,② これらを総合的に勘案すれば,クリソタイルについて角閃石族石綿と同じ基準で評価する平成18年認定基準の内容は,石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点を考慮したものと判断される,③ただし,石綿小体については,肺の各葉での分布が異なる可能性や,クリソタイル繊維では形成されにくい旨の特性等を考慮する必要があることから,従前と同様,石綿小体数が乾燥肺重量1グラム当たり5000本未満であることをもって直ちに業務外とせず,職業ばく露が疑われるレベルである乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上ある事案については,本省の検討会で個別に審査する方法を継続 1グラム当たり5000本未満であることをもって直ちに業務外とせず,職業ばく露が疑われるレベルである乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上ある事案については,本省の検討会で個別に審査する方法を継続するのが妥当である, 労災補償の対象と判断するためには,労働者としての石綿ばく露作業従事歴が1年以上あるとの要件を付加すべきであり,同従事歴が1年未満である場合は,職業ばく露以外の要因についての検討が必要である,石綿ばく露作業従事期間による指標については,石綿小体計測が行われた3000件余の事例について,労働者が従事していた作業の種類ごとに分類の上,各事例の乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本に到達する期間を推定して比較検討した結果,3種の作業(① 石④⑤ 綿糸,石綿布等の石綿紡績製品製造作業,② 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等のセメント製品の製造工程における作業,③ 石綿の吹き付け作業)のいずれかに従事した者については,その期間が5年程度であることが確実である場合には,肺がん発症の相対リスクが2倍以上になる石綿ばく露があったものとみなすことに合理性がある一方,それ以外の作業従事者については,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本に到達する期間に大きな差が認められ,作業内容や従事頻度により累積ばく露量が大きく異なることが改めて示唆されており,石綿ばく露作業従事期間によって累積ばく露量を推定することは,現在までに我が国で得られた知見からは適当ではないとする。 厚労省労働基準局長は,平成24年報告書の内容を踏まえ,平成24年3月29日付けで,平成24年認定基準を定め,都道府県労働局長あてに発出し,平成24年認定基準の施行に伴い,平成18年認定基 厚労省労働基準局長は,平成24年報告書の内容を踏まえ,平成24年3月29日付けで,平成24年認定基準を定め,都道府県労働局長あてに発出し,平成24年認定基準の施行に伴い,平成18年認定基準を廃止した。 平成24年認定基準のうち,肺がんに関連する内容は,以下のとおりである。 a 石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,① 乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本以上又は石綿繊維数200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超)の所見が得られ,かつ,② 石綿ばく露作業への従事期間が1年以上ある場合には,労基則別表第1の2第7号7に該当する業務上の疾病として取り扱う。 b 石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって,① 石綿糸,石綿布等の石綿紡績製品の製造工程における作業,② 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等 のセメント製品の製造工程における作業,③ 石綿の吹き付け作業のいずれかの作業への従事期間又はそれらを合算した従事期間が5年以上ある場合は,上記aの基準にかかわらず,業務上の疾病として取り扱う。 c 乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上5000本未満の石綿小体が認められるものについては,関係資料を添えて本省に協議する。 (乙13,15) 4 争点及び当事者の主張本件の争点は,亡Aの療養及び死亡の原因である肺がんの業務起因性の有無であり,これに関する当事者の主張は,以下のとおりである。 (1) 原告の主張ア業務起因性に関する判断基準について(ア) 厚労省が定める業務上外認定基準に関する行政通達は,業務上外認定に関する行政判断の統一を図るために活用されているものであり,行政手続法5条に規定する審査基準にも該当す る判断基準について(ア) 厚労省が定める業務上外認定基準に関する行政通達は,業務上外認定に関する行政判断の統一を図るために活用されているものであり,行政手続法5条に規定する審査基準にも該当することから,少なくとも処分時に適用のある行政通達における業務上外認定基準の要件に該当すれば,直ちに業務上認定がなされるべきである。本件各不支給処分時に適用されていたのは平成18年認定基準であり,労基署長は,平成18年認定基準に法的に拘束され,これを遵守すべきものであるから,平成18年認定基準の要件を満たすにもかかわらず,業務上認定をしない場合は違法であり,その不支給処分は取消しを免れない。 (イ) 昭和53年認定基準,平成15年認定基準及び平成18年認定基準は,多少の表現上の相違を除き,業務上認定の要件として,① 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,② 肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合という二つの要件のみを一貫して掲げている。 平成18年認定基準において新たに付加された石綿小体又は石綿繊維の 具体的な数値基準(乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数5000本以上又は石綿繊維数200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超))は,石綿ばく露作業への従事期間が10年未満の場合(上記①の要件を満たさない場合)でも,一定数以上の石綿小体又は石綿繊維が認められた場合には業務上認定をする旨を新たに定め,従前の業務上認定の要件を緩和する趣旨で設けられたものである。 (ウ) 平成19年通達は,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合(上記(イ)①及び②の要件を満たす場合)であっても,石綿小体の具体的な数値基準(乾燥肺重量1グラム当たり5000本 業への従事期間が10年以上あり,かつ,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合(上記(イ)①及び②の要件を満たす場合)であっても,石綿小体の具体的な数値基準(乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上)を業務上認定の要件に加えることによって,平成18年認定基準における業務上認定の要件を狭めるものであり,局長名義による平成18年認定基準の内容を,職制上下位に位置する課長名義による通達によって実質的に変更するという不当なものである。また,医学的知見においても,クリソタイルは,クリアランスの程度が大きい上,石綿小体を形成しにくい性質を有しており,石綿小体数は,クリソタイルの実際のばく露量の指標として適切ではないとされているところ,平成19年通達は,クリソタイルのばく露を受けていた者を含め,一定数以上の石綿小体の存在を業務上認定の不可欠な要件とする点において,医学的知見に反する不合理なものである。よって,平成19年通達の内容を前提に,業務起因性の判断を行うのは違法である。 (エ) 平成24年認定基準は,本件各不支給処分時には存在しなかった通達であり,その内容の如何は,本件各不支給処分の違法性とは無関係であって,この点について論じる被告の主張は失当である。 イ亡Aの石綿ばく露作業への従事期間,ばく露濃度等について本件会社における亡Aの石綿ばく露作業への従事期間は,昭和30年5 月(技術部発動機課への配属時)から平成5年2月(定年退職時)までの約38年間である。その間,亡Aは,航空機のエンジン部品の溶接作業に従事しており,同作業時には,石綿が使用された手袋及び防熱衣を着用し,断熱材又は保温材として使用する石綿(クリソタイル)が加熱後に乾燥して飛散する中で,飛散する石綿を息で飛ばしながら溶接作業を行っていたとこ り,同作業時には,石綿が使用された手袋及び防熱衣を着用し,断熱材又は保温材として使用する石綿(クリソタイル)が加熱後に乾燥して飛散する中で,飛散する石綿を息で飛ばしながら溶接作業を行っていたところ,溶接作業後には,乾燥した石綿の除去作業が行われることもあり,溶接作業場内では,他の従業員の溶接作業に伴うものも含め,就労時間中,常時石綿ばく露を受ける状況にあった。また,亡Aは,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)となった昭和48年5月以降も,度々溶接作業場に出向いては,後進に対する溶接技術の指導を行っており,依然として石綿ばく露を受けていた。よって,亡Aは,ヘルシンキ基準にいう石綿製品製造作業や石綿吹き付け作業と同程度の高濃度石綿ばく露,あるいは高濃度とまではいえなくとも,中等度石綿ばく露を受けていたものといえる。 ウ業務起因性について亡Aにおいては,約38年間にわたる石綿ばく露作業への従事期間が認められ,かつ,肺内に石綿小体及び石綿繊維が認められることから,平成18年認定基準における業務上認定の要件を満たしていることは明らかである。また,仮に,亡Aの肺がんの業務上外認定において,上記以外の事情を総合考慮する必要があるとしても,亡Aの石綿ばく露の程度は前述のとおり高濃度あるいは中等度であるほか,肺内の石綿繊維数は,ヘルシンキ基準における職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するために推奨される基準を超えていることからすれば,亡Aの肺がんについては,業務上の石綿ばく露に起因するものと認めるのが相当である。 亡Aの肺内石綿小体数及び石綿繊維数が,肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量の指標となる一定数に達していないという事実は,クリアランスの程度が大きく,石綿小体を形成しにくいというクリソタイ の肺内石綿小体数及び石綿繊維数が,肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量の指標となる一定数に達していないという事実は,クリアランスの程度が大きく,石綿小体を形成しにくいというクリソタイ ルの性質に照らして,必ずしも肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が存在しなかったことを裏付けるものとはいえない。 (2) 被告の主張ア業務起因性に関する判断基準について(ア) 平成18年認定基準は,その文言上,① 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,② 肺内に石綿小体又は石綿繊維がわずかでも認められれば,すべからく業務起因性を認めることができるかのような規定となっている。しかし,現在の医学的知見によれば,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上認められても,肺内に一定数の石綿小体又は石綿繊維が認められない場合には,必ずしも肺がん発症の相対リスクを2倍に高めるほどの石綿累積ばく露量が存在したとはいえないところ,平成18年認定基準は,上記医学的知見を踏まえた上で,石綿ばく露作業従事期間のみを指標とせず,肺内石綿小体数や石綿繊維数等の医学的所見をも併せて考慮することとしたものである。すなわち,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が存在したとすれば,肺内にわずかの石綿小体しか存在しないということは考えられず,上記の石綿累積ばく露量に相当する乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上の石綿小体が存在することが想定される。よって,10年以上の石綿ばく露作業従事期間が認められるものの,乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が上記本数を下回る場合には,その他の事情も総合的に考慮した上で,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が存在したか否かを判断することが必要である。平成19年通達は, たりの石綿小体数が上記本数を下回る場合には,その他の事情も総合的に考慮した上で,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量が存在したか否かを判断することが必要である。平成19年通達は,このことを明確にし,平成18年認定基準が上記医学的知見に照らして正確に適用されるための事務取扱について定めたものであって,平成18年認定基準の内容と矛盾するものでも,これを変更するものでもない。 (イ) 平成18年以降の新たな医学的知見を踏まえて定められた平成24 年認定基準においても,明らかに高濃度の石綿ばく露が認められる一部の作業内容を除き,石綿ばく露作業従事期間によって石綿累積ばく露量を推定することは不適当であるとの見解に基づいて,業務上認定につき,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量に相当する乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数又は石綿繊維数の存在を基本的要件としつつ,石綿ばく露作業従事期間の要件については原則として1年以上でよいとされたものである。 (ウ) 肺内石綿小体数及び石綿繊維数が,実際の累積ばく露量を的確に反映せず,累積ばく露量の指標として適切でないとされているのは,純粋にクリソタイルのみのばく露を受けた場合であり,上記見解は,クリソタイルと角閃石族石綿との混合ばく露において,ばく露を受けた石綿の種類の中でクリソタイルの割合が比較的多かったという場合にまで妥当するものではない。また,クリソタイルについては,角閃石族石綿と比べてクリアランスの程度が大きい一方,肺がん発症リスクが低いとされ,肺内に角閃石族石綿以上の石綿繊維数が存在しなければ,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める累積ばく露量には至らないものと認められることから,肺内石綿小体数及び石綿繊維数について,クリソタイルを角閃石族石 角閃石族石綿以上の石綿繊維数が存在しなければ,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める累積ばく露量には至らないものと認められることから,肺内石綿小体数及び石綿繊維数について,クリソタイルを角閃石族石綿と区別せず同じ基準で評価することは,クリソタイルばく露の事案において被災労働者に有利なものということができ,石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点を考慮した妥当な方法というべきである。 (エ) 平成24年認定基準は,平成18年以降の最新の医学的知見を踏まえて定められたものであるところ,行政処分の取消訴訟においては,口頭弁論終結時の知見に基づいて,当該処分の違法性の有無が判断されるべきであるから,本件各不支給処分の違法性の有無を判断するに当たり,最新の医学的知見に基づく平成24年認定基準を考慮することは,何ら問題がない。 イ亡Aの石綿ばく露作業への従事期間,ばく露濃度等について本件会社における亡Aの石綿ばく露作業への従事期間は,亡Aが石綿を使用した溶接作業を主として行っていた昭和37年ころ(ジェットエンジンの溶接作業が業務に加わるようになった時期)から昭和42年ころ(原動機工場溶接課溶接作業班長への就任前)までの約6年間にすぎないと考えるべきである。また,溶接作業の内容・実態及び溶接作業場の広さ・内部状況に照らすと,亡Aの石綿ばく露の程度はさほど深刻なものではなく,ヘルシンキ基準にいう高濃度石綿ばく露や中等度石綿ばく露と同程度のばく露を受けていたものとはいえない。 ウ業務起因性について上記イのとおり,亡Aの石綿ばく露作業従事期間は約6年間であり,平成18年認定基準における10年以上の石綿ばく露作業従事期間の要件を満たしていない。また,亡Aの乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数及び石綿繊維数は,平 の石綿ばく露作業従事期間は約6年間であり,平成18年認定基準における10年以上の石綿ばく露作業従事期間の要件を満たしていない。また,亡Aの乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数及び石綿繊維数は,平成18年認定基準及び平成24年認定基準において肺がん発症の相対リスクを2倍に高める累積ばく露量の指標とされる数値基準を大幅に下回っているほか,石綿小体数については,平成24年認定基準において本省協議の対象とされている最下限値の1000本をも下回っている。その上,亡Aの石綿ばく露作業の内容は,航空機のエンジン部品の溶接作業における断熱材及び保温材としての石綿製品の使用であり,平成24年認定基準における従事期間のみで業務起因性を肯定し得る各作業内容には該当しないし,その作業実態等に照らして,石綿ばく露の程度が高濃度あるいは中等度であったともいえない。これらの事情に照らすと,亡Aにおいて肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量の存在を認めることはできないから,亡Aの肺がんについて,業務起因性を認めることはできない。 なお,亡Aの乾燥肺重量1グラム当たりの石綿繊維数が,ヘルシンキ基 準における職業上の石綿粉じんばく露の可能性が高い人を特定するために推奨される基準を超えているとしても,これにより肺がん発症の相対リスク自体が直ちに左右されるものではなく,相対リスクが2倍となるものでもないから,これをもって業務起因性を肯定すべき根拠の一つとする原告の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 本件の業務起因性に関する法的判断の枠組み(1) 労災保険法に基づく休業補償給付(同法12条の8第1項2号)は,労働者が業務上の疾病による療養のため労働することができず,賃金を受領できない場合に,当該労働者に対して支給され(同法7条1項 (1) 労災保険法に基づく休業補償給付(同法12条の8第1項2号)は,労働者が業務上の疾病による療養のため労働することができず,賃金を受領できない場合に,当該労働者に対して支給され(同法7条1項1号,12条の8第2項,労働基準法(以下「労基法」という。)76条1項,75条),遺族補償給付(労災保険法12条の8第1項4号)及び葬祭料(同項5号)は,労働者が業務上死亡した場合に,当該労働者の遺族又は葬祭を行う者に対して支給される(同法7条1項1号,12条の8第2項,労基法79条,80条)。なお,休業補償給付を受ける権利を有する者が死亡した場合,死亡した者が死亡前に休業補償給付を請求していなかったときは,その者の配偶者であって,その者の死亡当時その者と生計を同一にしていた者は,自己の名で休業補償給付を請求することができるとされている(同法11条2項,1項)。また,遺族補償給付及び葬祭料の支給要件とされる「労働者が業務上死亡した場合」とは,労働者が業務上の疾病に起因して死亡した場合を含むものと解される。そして,前述の「業務上の疾病」としては,労基法75条2項,労基則35条,別表第1の2第7号7により「石綿にさらされる肺がん又は中皮腫」が規定されている。 (2) 被災労働者の疾病に業務起因性が認められるためには,業務と当該疾病との間に条件関係のみならず相当因果関係があることが必要である(最高裁判所昭和50年(行ツ)第111号昭和51年11月12日第二小法廷判 決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労働者災害補償保険制度が労基法上の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失をてん補する制度であって,いわゆる危険責任の法理に由来するものであることにかんがみれば,業務と当該疾 の災害補償責任を担保する制度であり,災害補償責任が使用者の過失の有無を問わずに被災労働者の損失をてん補する制度であって,いわゆる危険責任の法理に由来するものであることにかんがみれば,業務と当該疾病との間に相当因果関係を認めるためには,当該疾病が,被災労働者の従事していた業務に内在する危険性の現実化によるものと評価されることが必要である(最高裁判所平成6年(行ツ)第24号平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁判所平成4年(行ツ)第70号平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁参照)。 (3) 前述の業務起因性に関する法令解釈の内容(前記(2))に加え,石綿ばく露作業と肺がん発症との因果関係に関する前述の医学的知見(前記第2の3(1))を併せて考慮すれば,石綿ばく露作業に従事した労働者が発症した原発性肺がんについて,業務起因性を肯定するためには,当該労働者において,肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める25本/ml×年の石綿累積ばく露量が存在したことが認められる必要があるものと解するのが相当である。 2 業務上外認定基準に関する行政通達の位置付け(1) 石綿による疾病の業務上外認定基準に関する行政通達(前記第2の3(3))は,石綿ばく露作業従事労働者に発症した疾病に係る労災保険法上の業務起因性について,行政内部における認定判断の統一化,明確化を図るため,当該時点における医学的知見を踏まえた解釈基準等を定めたものであり,一定の合理性があるものと認めることができるところ,本件各不支給処分時に適用のあった平成18年認定基準は,行政手続法5条に基づく申請に対する処分についての審査基準として定められ(同条1項,2項),公表されていたものである(同条3項)。 (2) この点につき,被告は,本件 のあった平成18年認定基準は,行政手続法5条に基づく申請に対する処分についての審査基準として定められ(同条1項,2項),公表されていたものである(同条3項)。 (2) この点につき,被告は,本件各不支給処分の適法性を判断するに当たり, 平成18年認定基準後の医学的知見が反映された平成24年認定基準を考慮すべきであると主張する。 すなわち,平成24年認定基準は,具体的な業種,職業等の別を問わず,石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あることをもって,肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める石綿累積ばく露量が存在することの基本的指標とする考え方を採用せず,明らかに高濃度の石綿ばく露が認められる一部の作業内容を除き,石綿ばく露作業への従事期間によって石綿累積ばく露量を推定することは不適当であるとの見解に基づいて,一定数の石綿小体又は石綿繊維の存在(乾燥肺重量1グラム当たりの石綿小体数が5000本以上又は石綿繊維数200万本以上(5μm超)若しくは500万本以上(1μm超))をもって,肺がん発症の相対リスクを2倍に高める石綿累積ばく露量の基本的指標としつつ,石綿ばく露作業従事期間の要件については原則として1年以上でよいとした上で,乾燥肺重量1グラム当たり1000本以上5000本未満の石綿小体が認められるものについては,関係資料を添えて本省に協議する旨を規定しているところ,被告は,平成18年認定基準,平成19年通達及び平成24年認定基準の内容,平成18年報告書及び平成24年報告書の内容並びにヘルシンキ基準及びその他の医学的知見を根拠として,現在の医学的知見によれば,仮に,平成18年認定基準における10年以上の石綿ばく露作業従事期間が認められたとしても,肺内に一定数の石綿小体又は石綿繊維が認められない場合には,必ずしも肺がん発症の ,現在の医学的知見によれば,仮に,平成18年認定基準における10年以上の石綿ばく露作業従事期間が認められたとしても,肺内に一定数の石綿小体又は石綿繊維が認められない場合には,必ずしも肺がん発症の相対リスクを2倍以上に高める石綿累積ばく露量が存在したとはいえないとして,上記石綿累積ばく露量の存在を裏付ける指標としては,石綿ばく露作業従事期間ではなく,肺内石綿小体数又は石綿繊維数による指標を原則的要件とすべき旨主張する。 (3) 確かに,平成18年認定基準は,法令としての対外的な拘束力を有するものではないから,本件各不支給処分の違法性に関する裁判所の判断を直接拘 束する性質のものではないが,一連の認定基準は,単に,その時々の医学的知見をそのまま基準としたものではなく,各時点において請求対象とされる事案の石綿ばく露時期における石綿使用の実情,石綿規制の有無・内容,石綿含有製品を取り扱う職場環境等を踏まえた石綿ばく露作業従事者に対する救済の必要性の程度を踏まえた政策的な要素をも含んでいると解するのが相当であり,このことは,平成24年報告書において,平成18年認定基準策定当時に既に存在していた調査研究等に基づき,クリソタイルについて,クリアランスの影響が最大に現れたとしても,肺がん発症リスクが角閃石族石綿と比べて1/10以下と低いことを考慮すれば,角閃石族石綿以上の肺内石綿繊維数がなければ発症リスク2倍のばく露量に至らないとの結論が導き出されるとしたうえで,「これらを総合的に勘案し,クリソタイルについて角閃石族石綿と同じ基準で評価する現行の労災認定基準は,石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点を考慮しているものであると判断する。」としていること(乙13)からも窺われるところである。 そうだとすると,平成18年認定基準が適用され 行の労災認定基準は,石綿ばく露労働者の幅広い救済という観点を考慮しているものであると判断する。」としていること(乙13)からも窺われるところである。 そうだとすると,平成18年認定基準が適用されるべき事例であって,平成18年認定基準によれば業務起因性が肯定されるようなものについては,その後の医学的知見を踏まえて策定された平成24年認定基準に合致しないとしても,そのことの故に業務起因性が否定されるべきものではないというべきである。 (4) なお,平成19年通達は,① 石綿ばく露作業への従事期間が10年以上あり,かつ,② 肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められる場合であっても,肺内石綿小体数を指標とする要件(乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上)を満たさない場合は,これを満たす場合と同水準のばく露とみることができるかどうかという観点から,諸般の事情を勘案して総合的に判断することを要し,肺内石綿小体数が「乾燥肺重量1グラム当たり5000本以上」の基準に照らして明らかに少ない場合は,本省に照会されたい旨を定めてい るところ,原告は,平成19年通達は,平成18年認定基準の要件を狭めるものであり,平成19年通達の内容を前提として業務起因性の有無の判断を行うことは違法である旨主張する。しかしながら,平成19年通達は,その発出者,宛名,表題からも明らかなとおり,平成18年認定基準を前提として,その適用判断に当たっての事務処理の方法(一定の場合に本省照会をすべきこと)を示した「事務連絡」にすぎないのであって,新たな要件を付加するものではないというべきであるから,平成19年通達に従って,本省照会をした案件であっても,労基署長は,あくまでも,平成18年認定基準に則って,業務起因性の有無を判断すべきことに変わりはないというべきである。 いうべきであるから,平成19年通達に従って,本省照会をした案件であっても,労基署長は,あくまでも,平成18年認定基準に則って,業務起因性の有無を判断すべきことに変わりはないというべきである。 そのように解すると,平成19年通達に記載されたような場合には,労基署長は,本省照会を経て,「石綿ばく露作業への従事期間が10年以上」といえるか否かを,総合的に判断することとなり,亡Aの石綿ばく露作業従事期間は約6年であるとの被告の主張は,そのような趣旨のものとしてとらえることができる。 3 本件会社における石綿使用状況及び亡Aの業務内容証拠(甲21,26,27,乙2(石綿業務従事証明〔128頁〕,面談調査報告書〔173頁から175頁まで〕,聴取書2通〔176頁から182頁まで〕,報告書〔183頁から190頁まで〕,メンテナンス・マニュアル〔205頁から207頁まで〕),22,証人H(以下,同人を「H」といい,同人の証言を「証人H」という。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件会社における石綿使用状況等ア本件会社においては,昭和30年前後ころから昭和60年前後ころまでの間,航空機のエンジン部品の溶接作業に際し,熱伝導による変形を防ぐための断熱材,または急激な冷却による収縮を防ぐための保温材としてク リソタイル(白石綿)を主たる原料とする石綿が使用されており,溶接前に溶接箇所の周辺部分あるいは部品全体に水を含ませた石綿を巻き付けたり塗布したりして溶接が行われていた(ただし,エンジン部品の溶接作業に石綿が必ず使用されていたわけではなく,溶接箇所が少ない場合や,加熱により変形しにくい性質の金属の場合等には,石綿を使用しないこともあり,石綿を使用する作業は,溶接作業全体の5割程度であった。)。溶接後 必ず使用されていたわけではなく,溶接箇所が少ない場合や,加熱により変形しにくい性質の金属の場合等には,石綿を使用しないこともあり,石綿を使用する作業は,溶接作業全体の5割程度であった。)。溶接後,乾燥した石綿は,ワイヤーブラシで溶接作業場の床に擦り落とされ,1日の作業終了時等に,箒で掃くなどして回収されていた。 イ少なくとも昭和40年ころから昭和43年ころにかけて,マグネシウム合金製のエンジン部品の一部では,エンジン部品全体に帯状の石綿を巻き付け,これをふたの付いた箱状のケースに入れて全体を保温器に入れて加熱した後,これをケースごと取り出し,ケースに在中するエンジン部品の溶接箇所のみ石綿を除去して溶接を行い,再度,全体を加熱して,冷却した後,エンジン部品全体を覆う乾燥した石綿を除去するという作業が行われていた。上記作業では,溶接のためにケースのふたを開けると,乾燥した石綿が噴き出すため,溶接作業員は,舞い上がった石綿を息で吹き飛ばしながら溶接作業を行っていた。 (2) 本件会社における溶接作業状況ア昭和43年ころ,亡Aを含む溶接作業員らは,石綿取扱時や溶接作業時において,石綿粉じんの吸入を防ぐためのマスクをほとんど着用していなかった。 イ箱状のケースを使用するマグネシウム合金製のエンジン部品の溶接作業は,少なくとも昭和40年ころから昭和43年ころまでの間,月3回程度行われており,溶接作業自体は10分程度で終了するものの,前後の作業も含めると,1日がかりの作業となった。それ以外の石綿を使用した一般的な溶接作業は,作業場において毎日行われており,亡Aを含む5名か ら20名程度の溶接技術者が,おおむね5,6台程度の酸素アセチレンバーナーを交代で使用して,ほぼ1日中溶接作業を行っていた。 ウ本件会社における当時 毎日行われており,亡Aを含む5名か ら20名程度の溶接技術者が,おおむね5,6台程度の酸素アセチレンバーナーを交代で使用して,ほぼ1日中溶接作業を行っていた。 ウ本件会社における当時の勤務形態は,月曜日から土曜日までの出勤で(ただし,土曜日は半日。),始業は午前8時30分,終業は午後4時30分,昼休憩は50分間であり,溶接作業場のある工場を離れる機会は,昼食のため社員食堂に行くときだけであった。 エ亡Aは,エンジン部品の溶接作業が行われるようになった初期のころを除き,溶接作業前後の石綿巻付けや除去作業には従事していなかった。 オ亡Aが溶接作業等に従事していた当時の溶接作業場のある工場の広さは約9126平方メートル(約117m×約78m)であり,天井の高さは平均約8メートル(形状はのこぎり型。)であったところ,このうち,溶接作業場の広さは約1512平方メートル(約27m×約18m+約27m×約16m+約27m×約22m)であり,溶接作業場と他の作業場との間に仕切りは存在していなかった。 4 亡Aの石綿ばく露作業への従事期間について(1) 上記3(1)及び(2)の事実に加え,証拠(甲21,乙2(石綿業務従事証明〔128頁〕,報告書〔183頁から190頁まで〕),面談調査報告書〔173頁から175頁まで〕,聴取書2通〔176頁から182頁まで〕),証人H)を総合すれば,亡Aは,本件会社において,原動機部機械課配属となった昭和34年2月ころから,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)となった昭和48年5月ころまでの約14年間にわたり,αの原動機工場における航空機のエンジン部品の修理に係る溶接作業に従事しており,その間,上記溶接作業に際し,断熱材又は保温材として,クリソタイルを主たる原料とする石綿を日常的に使用していた わたり,αの原動機工場における航空機のエンジン部品の修理に係る溶接作業に従事しており,その間,上記溶接作業に際し,断熱材又は保温材として,クリソタイルを主たる原料とする石綿を日常的に使用していたことが認められる。当該作業内容は,平成15年認定基準,平成18年認定基準及び平成24年認定基準における「石綿ばく露作業」(石綿による疾病の発生のおそれのある作業内容)の一つで ある「耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業」に該当するものと認められる。 (2) 原告は,亡Aの石綿ばく露作業への従事期間が,技術部発動機課への配属時(昭和30年5月)から定年退職時(平成5年2月)までの約38年間であり,その間,亡Aは,航空機のエンジン部品の溶接作業時に,石綿が使用された手袋及び防熱衣を着用していた旨主張する。しかし,亡Aが,技術部発動機課に配属された昭和30年5月ころから,原動機部機械課配属となった昭和34年2月ころまでの間において,航空機のエンジン部品の溶接作業に従事し,その際,石綿を断熱材又は保温材として使用するなどの石綿ばく露作業に従事していたことを裏付ける証拠はない。また,亡Aが,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)となった昭和48年5月ころ以降も,溶接作業場に出向いて後進に対する溶接技術の指導を行うことがあった事実は前記関係証拠から窺われるが,同事実をもって,亡Aが,職制となる以前と同様に,石綿を使用した溶接作業自体に実際に従事していたものとまでは認めることはできない。亡Aが,溶接作業時に石綿が使用された手袋及び防熱衣を着用していたとの事実についても,これを裏付ける証拠はない。 (3) 他方,被告は,亡Aの石綿ばく露作業への従事期間について,ジェットエンジンの溶接作業が業務に加わるようになっ れた手袋及び防熱衣を着用していたとの事実についても,これを裏付ける証拠はない。 (3) 他方,被告は,亡Aの石綿ばく露作業への従事期間について,ジェットエンジンの溶接作業が業務に加わるようになった昭和37年ころから,原動機工場溶接課溶接作業班長への就任前である昭和42年ころまでの約6年間であると主張する。確かに,前記証拠によれば,亡Aが石綿を使用した溶接作業を主たる業務として行うようになった時期は,ジェットエンジンの溶接作業が業務に加わるようになった昭和37年ころであることが窺われるが,亡Aが,原動機部機械課配属となった昭和34年2月ころから昭和37年ころまでの間,石綿を使用した航空機のレシプロエンジンの溶接作業に従事していたことは,本件会社において作成された亡Aの石綿業務従事証明(乙2〔128頁〕)によって認められ,この認定を覆すべき証拠は存在しない。 また,亡Aが,原動機工場溶接課溶接作業班長に就任した昭和42年ころ以降も,原動機工場溶接課第1溶接係長(職制)に就任した昭和48年5月ころまでの間,石綿を使用した溶接作業に従事していたことは,前記証拠により認められるのであって,これらの期間における亡Aの石綿ばく露が平成18年認定基準において要件とされている石綿ばく露作業従事期間に含まれないとすべき事由は認められない。 (4) 以上によれば,亡Aにおいては,10年を超える約14年間にわたる石綿ばく露作業への従事期間が認められる。 5 亡Aの肺内石綿小体及び石綿繊維について亡Aの肺内には,右肺下葉につき122本,左肺下葉につき469本の石綿小体(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)が認められるところ(前記第2の1(4)イ),その本数は,職業ばく露歴を有しない一般人と同じレベルのばく露量とされる水準にある。これに対し,肺内 469本の石綿小体(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)が認められるところ(前記第2の1(4)イ),その本数は,職業ばく露歴を有しない一般人と同じレベルのばく露量とされる水準にある。これに対し,肺内の角閃石族石綿(アモサイト,クロシドライト,アンソフィライト,トレモライト及びアクチノライト)の繊維数(乾燥肺重量1グラム当たりの本数)は,右肺下葉につき17万本(1μm超),左肺下葉につき51万本(5μm超)又は102万本(1μm超)であり(前記第2の1(4)ウ),左肺下葉の角閃石族石綿の繊維数が,5μm超及び1μm超のいずれにおいても,ヘルシンキ基準における職業上の石綿ばく露を受けた可能性が高いとされる角閃石族石綿の繊維数(乾燥肺重量1グラム当たり10万本以上(5μm 超)又は100万本以上(1μm 超))を上回っている。 6 亡Aの肺がん発症に関するその他の要因の有無について証拠(甲15,16,22,乙2(聴取書〔179頁から182頁まで〕),証人H)によれば,亡Aには喫煙歴がないことが認められる。また,証拠(甲15,22,35)によれば,亡Aの父(明治34年▲ 月▲ 日生)は,平成5年▲ 月▲ 日,肺がんで死亡(死亡時92歳)しているが,同人が喫煙歴を有していたこと,亡Aの兄弟らがいずれも健康であることが認められる。 したがって,亡Aの父が肺がんで死亡した点のみをもって,亡Aに肺がんの遺伝的要因があるものと解することはできない。 7 小括以上によれば,亡Aにおいては,10年を超える約14年間にわたる石綿ばく露作業への従事期間が認められる上,肺内には,ヘルシンキ基準において職業上の石綿ばく露を受けた可能性が高いとされる基準を超える石綿繊維数(角閃石族石綿)が認められる一方,他に,肺がん発症の原因となり得る要因が存した が認められる上,肺内には,ヘルシンキ基準において職業上の石綿ばく露を受けた可能性が高いとされる基準を超える石綿繊維数(角閃石族石綿)が認められる一方,他に,肺がん発症の原因となり得る要因が存したことは窺われないのであるから,亡Aの肺がんについては,業務に起因するものと認めるのが相当であり,業務起因性を認めなかった本件各不支給処分には違法がある。 第4 結論よって,本件各不支給処分の取消しを求める原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第11部 裁判長裁判官團藤丈士 裁判官篠原絵理 裁判官戸畑賢太

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