平成25年2月19日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第28813号特許権移転登録請求権不存在確認請求事件口頭弁論終結日平成25年1月24日判決愛知県豊川市<以下略>原告大林精工株式会社茨城県猿島郡<以下略>原告A 原告ら訴訟代理人弁護士大野聖二同井上義隆同小林英了大韓民国ソウル特別市<以下略>被告エルジーディスプレイ株式会社訴訟代理人弁護士古田啓昌同岩瀬吉和同元芳哲郎同綱島康介主文 1 本件訴えをいずれも却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告が,原告大林精工株式会社に対し,別紙目録1記載の各特許権について移転登録手続を求める権利を有しないことを確認する。 (2) 被告が,原告Aに対し,別紙目録2記載の各特許権について移転登録手 続を求める権利を有しないことを確認する。 (3) 被告が,原告Aに対し,別紙目録3記載の各特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことを確認する。 (4) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告(1) 本案前の答弁主文同旨(2) 本案の答弁ア原告らの請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 負担とする。 2 被告(1) 本案前の答弁主文同旨(2) 本案の答弁ア原告らの請求をいずれも棄却する。 イ訴訟費用は原告らの負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,原告らが,被告に対し,被告が別紙目録1及び2記載の各特許権の移転登録手続を求める権利及び同目録3記載の各特許出願の特許を受ける権利の移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める事案である。 2 前提事実(証拠の摘示のない事実は,弁論の全趣旨により認められる事実又は当裁判所に顕著な事実である。)(1) 当事者ア(ア) 原告大林精工株式会社(以下「原告大林精工」という。)は,金型,自動車部品等の製造及び販売等を業とする株式会社である。 (イ) 原告Aは,平成3年4月から平成10年6月までの間,韓国法人であるエルジー電子株式会社(以下「LG電子」という。)の液晶ディスプレイ事業部門に技術顧問として勤務していた者である(甲33,乙22)。 イ被告(旧商号「エルジー・フィリップスエルシーディー株式会社」)は,液晶ディスプレイパネル等の開発,製造等を業とする韓国法人であ る。被告は,平成10年12月31日付けで,LG電子から液晶ディスプレイ事業を譲り受けた(甲34,乙21)。 (2) 原告らの特許出願等ア原告大林精工は,日本において,別紙目録1記載のとおり,同目録の「出願日」欄記載の日に各特許出願を行い,「登録日」欄記載の日に各特許権(以下「目録1の各特許権」と総称する。)の設定登録を受けた(甲1の1ないし6,29の1ないし6)。 イ原告Aは,日本において,別紙目録2記載のとおり,同目録の「出願日」欄記載の日に各特許出願(以下「目録2の各出願」と総称し,それぞれを「目録2の1の出願」,「目録2の2の出願」 1ないし6)。 イ原告Aは,日本において,別紙目録2記載のとおり,同目録の「出願日」欄記載の日に各特許出願(以下「目録2の各出願」と総称し,それぞれを「目録2の1の出願」,「目録2の2の出願」という。)を行い,「登録日」欄記載の日に各特許権(以下「目録2の各特許権」と総称する。)の設定登録を受けた(甲2の1,2,甲30の1,2)。 また,原告Aは,別紙目録3記載のとおり,平成20年10月31日に目録2の1の出願の分割出願として別紙目録3の1及び2記載の各特許出願を,同年11月28日に目録2の1の出願の分割出願として別紙目録3の3記載の特許出願を,同年12月7日に目録2の2の出願の分割出願として別紙目録3の4記載の特許出願を行った(甲31の1ないし4。以下,別紙目録3の1ないし4記載の各特許出願を「目録3の各出願」と総称し,それぞれを「目録3の1の出願」,「目録3の2の出願」などという。)。 (3) 原告らと被告間の特許権の移転等に関する合意書ア原告らと被告(当時の商号「エルジー・フィリップスエルシーディー株式会社」)が作成した2004年4月付け合意書(以下「本件合意書」という。)には,次のような条項がある(甲4)。 「1.Aは1995.6.23から1998.6.15までLG.PhilipsLCD株式会社の前身であるLG電子でLCD開発関 連業務に従事した事実を確認する。」「2.Aと大林精工は,LG.PhilipsLCDが定める日程と方法に従って,下の[表]に記載された特許に関する全ての権利をLG.PhilipsLCDに無償にて移転する。」(判決注・同条項中の「下の[表]」の記載内容は,別表1のとおりである。)「3.Aと大林精工は,第2項[表]記載の特許に関し,本合意以前に行った実施権設定,譲渡又 sLCDに無償にて移転する。」(判決注・同条項中の「下の[表]」の記載内容は,別表1のとおりである。)「3.Aと大林精工は,第2項[表]記載の特許に関し,本合意以前に行った実施権設定,譲渡又は担保の設定は,全て無効であることを確認する。」「4.LG.PhilipsLCDは,第2項[表]記載の特許に関するAの出願及び登録手続きで所要した努力を認め,Aの要請がある場合は,Aに無償にて通常実施権を付与するものとする。」「9.本件合意書に関し紛争が行った場合,その準拠法は韓国法令とし,管轄法院(裁判所)はソウル中央地方法院にする。」イ別表1のとおり,本件合意書2項の表には,「№1ないし19」欄に,目録1の1及び2の各特許権,目録1の3ないし6に記載の各出願,目録2の各出願を含む合計19の特許権及び特許出願の記載があり,また,「№20」欄に,「上記の各特許発明に対応する韓国,米国などの外国特許出願及び登録特許一切」との記載がある。 (4) 原告らと被告間の韓国及び日本における訴訟の経緯ア被告は,2006年(平成18年)10月20日,ソウル中央地方法院に,被告が本件合意書2条の合意(以下「本件権利移転合意」という。)に基づいて原告らから特許権及び特許出願中の特許を受ける権利を無償で譲り受けたと主張して,原告大林精工に対し,目録1の各特許権及び韓国,米国等の対応特許権の特許権移転登録手続等の履行を,原告Aに対し,目録2の各出願について被告を出願人とする出願人名義変更手続等の履行を求める訴訟(ソウル中央地方法院2006カハプ89 560特許権移転登録請求事件。以下,審級を問わず,「本件韓国訴訟」という。)を提起した(甲6,弁論の全趣旨)。 ソウル中央地方法院は,2007年(平成19年)8月23日,①被告の請求 560特許権移転登録請求事件。以下,審級を問わず,「本件韓国訴訟」という。)を提起した(甲6,弁論の全趣旨)。 ソウル中央地方法院は,2007年(平成19年)8月23日,①被告の請求のうち,日本などの外国で登録された特許権の移転登録手続及び外国の特許出願の出願人変更手続の履行を求める部分(目録1の各特許権の移転登録手続及び目録2の各出願の出願人名義変更手続の履行請求を含む。)は,その登録及び出願手続が進められている国に国際裁判管轄が専属し,本件合意書に関する紛争の管轄法院(裁判所)をソウル中央地方法院とする本件合意書9条の管轄合意(以下「本件管轄合意」という。)の効力が認められないので,ソウル中央地方法院が国際裁判管轄権を有せず,上記部分に係る訴えは不適法である,②被告のその余の請求(韓国で登録された特許権の移転登録手続の履行請求)は,原告大林精工が,原告Aが行った発明が被告に対する職務発明でないのに,職務発明であると誤信して本件権利移転合意を行ったものであるから,本件権利移転合意には動機の錯誤が成立し,原告大林精工の取消しの意思表示により,本件合意が遡及的に消滅しているため理由がないなどとして,被告の上記①の請求に係る訴えを却下し,上記②の請求を棄却する旨の判決(以下「ソウル中央地方法院判決」という。)を言い渡した(甲6)。 被告は,ソウル中央地方法院判決を不服として控訴(ソウル高等法院2007ナ96470特許権移転登録請求事件)した。 その後,ソウル高等法院は,2009年(平成21年)1月21日,被告の上記①の請求に係る訴えは,原告らと被告間の本件管轄合意に従って韓国の裁判所が国際裁判管轄権を有するものであり,特許権の登録国裁判所の専属管轄に服するものではない,原告らの本件権利移転合意の動機の錯誤,詐欺, に係る訴えは,原告らと被告間の本件管轄合意に従って韓国の裁判所が国際裁判管轄権を有するものであり,特許権の登録国裁判所の専属管轄に服するものではない,原告らの本件権利移転合意の動機の錯誤,詐欺,強迫による取消しの主張はいずれも理由がないな どとして,ソウル中央地方法院判決を取り消し,被告の原告らに対する請求を全部認容する旨の判決(以下「ソウル高等法院判決」という。)を言い渡した(甲11)。別紙「ソウル高等法院判決の主文」は,ソウル高等法院判決の主文のうち,本件に必要な部分を抜粋したものである。 原告らは,ソウル高等法院判決を不服として上告(韓国大法院2009ダ19093特許権移転登録請求事件)をした。 イ原告らは,平成22年7月29日,東京地方裁判所に,被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利及び目録3の各出願の特許を受ける権利の移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める本件訴訟を提起した。 なお,原告Aは,ソウル高等法院判決の言渡しがされるまでの間に,前記(2)イのとおり,目録2の各出願の分割出願として目録3の各出願を行い,また,上記言渡し後本件訴訟が提起されるまでの間に,別紙目録2記載のとおり,目録2の各出願に係る特許権の設定登録を受けた。 ウ韓国大法院は,2011年(平成23年)4月28日,原告らの上告をいずれも棄却する旨の判決(以下「韓国大法院判決」という。)をし,同日,ソウル高等法院判決が確定した(乙1,2)。 韓国大法院判決は,原告らの国際裁判管轄権に関する上告理由について,①本件権利移転合意に基づいて特許権の移転登録又は特許出願人の名義変更を求める「本事件」の訴えは,その主な紛争及び審理の対象が本件合意の解釈及び効力の有無だけであり,「本事件」に係る特許権の成立に関する 権利移転合意に基づいて特許権の移転登録又は特許出願人の名義変更を求める「本事件」の訴えは,その主な紛争及び審理の対象が本件合意の解釈及び効力の有無だけであり,「本事件」に係る特許権の成立に関することやその有効無効,又は取消しを求めることは関係がないため,「本事件」に係る特許権の登録国又は出願国である日本国等の裁判所が専属管轄を有するとは判断されない,②「本事件」は,韓国の裁判所と合理的な関連性があり,かつ,本件管轄合意が著しく不合理又 は不公正で公序良俗に反するような事情も見当たらないので,本件管轄合意は,国際的な専属裁判管轄の合意として有効である旨判示して,排斥している(乙1の訳文4頁)。 エ(ア) 被告は,平成23年7月29日,名古屋地方裁判所豊橋支部に,原告大林精工を相手に,ソウル高等法院判決の主文の「第2項イのうち別紙1目録記載の特許に関する特許権の移転登録手続を履行せよとの部分」及び「第3項」について,民事執行法24条に基づき,執行判決を求める訴訟(名古屋地方裁判所豊橋支部平成23年(ワ)第561号執行判決請求事件。以下「別件訴訟①」という。)を提起した(乙21)。 また,被告は,同日,水戸地方裁判所下妻支部に,原告Aを相手に,ソウル高等法院判決の主文の「第2項アのうち別紙4目録順番2及び4記載の特許出願に関する出願人名義変更届の手続を履行せよとの部分」及び「第3項」について,民事執行法24条に基づき,執行判決を求める訴訟(水戸地方裁判所下妻支部平成23年(ワ)第206号執行判決請求事件。以下「別件訴訟②」という。)を提起した(乙22)。 (イ) 水戸地方裁判所下妻支部は,平成24年11月5日,別件訴訟②について,外国裁判所の属する国が国際裁判管轄を有するかについては,ソウル高等法院判決の時点において 。)を提起した(乙22)。 (イ) 水戸地方裁判所下妻支部は,平成24年11月5日,別件訴訟②について,外国裁判所の属する国が国際裁判管轄を有するかについては,ソウル高等法院判決の時点においてこれを直接的に規定した法令がないことからすれば,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を帰するという理念により,条理に従って決定するのが相当である(最高裁判所平成10年4月28日第三小法廷判決・民集52巻3号853頁参照。以下,この最高裁判決を「平成10年最高裁判決」という。)とした上で,「日本における登記・登録に関する訴訟」は,日本の裁判所の専属管轄に服するとするのが国際裁判管轄に関する条理にかなう というべきであり,この理は私法上の合意に基づいて特許権の移転登録を求める訴訟であっても異なることはなく,ソウル高等法院判決の主文第2項アは,上記専属管轄に違反し,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くなどとして,被告の請求を棄却する旨の判決(以下「別件判決②」という。)を言い渡した(甲32)。 被告は,同月14日,別件判決②を不服として控訴(東京高等裁判所平成24年(ネ)第7779号執行判決請求控訴事件)し,同控訴事件は,本件口頭弁論終結日現在,東京高等裁判所に係属中である(乙23,24,弁論の全趣旨)。 (ウ) 名古屋地方裁判所豊橋支部は,平成24年11月29日,別件訴訟①について,平成10年最高裁判決の判断基準を示した上で,平成23年法律第36号による改正前の民事訴訟法の下においても,日本国内において登録すべき知的財産権の登録に関する訴えは,我が国の裁判所に専属すると解するのが条理にかなうというべきであり,本件のように,複数国で登録されている特許権を一括譲渡する契約を締結し,同契約に基づき所定の登録手続を請求するような類型の訴 えは,我が国の裁判所に専属すると解するのが条理にかなうというべきであり,本件のように,複数国で登録されている特許権を一括譲渡する契約を締結し,同契約に基づき所定の登録手続を請求するような類型の訴訟も含め,我が国の裁判所に専属すると解するのが相当であり,本件管轄合意の成否,有効性について判断するまでもなく,本件韓国訴訟のうち,原告大林精工が日本国内において登録を受けている特許権の移転登録を求めた訴訟は,韓国の裁判所に国際裁判管轄は存せず,ソウル高等法院判決の主文第2項イは,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くなどとして,被告の請求を棄却する旨の判決(以下「別件判決①」という。)を言い渡した(甲35)。 被告は,平成24年12月10日,別件判決①を不服として控訴(名古屋高等裁判所平成24年(ネ)第1289号執行判決請求控訴事件)し,同控訴事件は,本件口頭弁論終結日現在,名古屋高等裁判 所に係属中である(乙25,弁論の全趣旨)。 第3 当事者の主張当事者の主張は,別紙当事者の主張に記載のとおりである。 第4 当裁判所の判断 1 本件訴えの確認の利益の有無について(1) 本件の事案に鑑み,まず,本件訴えについて確認の利益が認められるかどうかについて判断することとする。 この点に関し,原告らは,被告が,原告らに対し,本件権利移転合意(本件合意書2条の合意)に基づき,本件韓国訴訟を提起し,原告らと被告間で,原告らの目録1及び2の各特許権並びに目録3の各出願の特許を受ける権利の移転登録義務等の存否について争いがあることから,原告らとしては,本件権利移転合意が無効であり,被告に対して上記各特許権等の移転登録手続等を行う義務がないことを確認する必要性があり,かつ,当該義務のないことを確認することが,原告らと被告間の紛 ,原告らとしては,本件権利移転合意が無効であり,被告に対して上記各特許権等の移転登録手続等を行う義務がないことを確認する必要性があり,かつ,当該義務のないことを確認することが,原告らと被告間の紛争解決にとって有効かつ適切であるから,本件訴えには確認の利益がある旨主張する。 (2) ところで,確認の利益は,原告の権利又は法的地位に現に危険又は不安が存し,それを除去又は解消する方法として,一定の権利又は法律関係の存否について確認判決を得ることが,紛争の解決のために必要かつ適切である場合に認められると解すべきである。 アそこで検討するに,前記前提事実によれば,原告らは,被告が,原告らと被告間の本件権利移転合意(本件合意書2条の合意)に基づいて,原告大林精工に対し,目録1の各特許権及び韓国,米国等の対応特許権の特許権移転登録手続等の履行を,原告Aに対し,目録2の各出願について被告を出願人とする出願人名義変更手続等の履行を求めた本件韓国訴訟において,被告の請求を全部認容するソウル高等法院判決の言渡しがあった後に,原告らの本件権利移転合意の意思表示の錯誤無効又は詐 欺による取消しを主張して,被告が本件権利移転合意に基づいて目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める本件訴訟を提起したものであり,本件訴訟の提起時までに,原告Aが目録2の各出願の分割出願として目録3の各出願を行った後,目録2の各出願の特許権の設定登録を受けていたことからすると,本件韓国訴訟と本件訴訟(本件訴え)とは,目録1及び2の各特許権並びに目録3の各出願の特許を受ける権利に関し,被告の原告らに対する本件権利移転合意に基づく特許権移転登録手続等請求権に基づく給付の ,本件韓国訴訟と本件訴訟(本件訴え)とは,目録1及び2の各特許権並びに目録3の各出願の特許を受ける権利に関し,被告の原告らに対する本件権利移転合意に基づく特許権移転登録手続等請求権に基づく給付の訴えと原告らの被告に対する上記請求権と同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないことの確認を求める消極的確認の訴えの関係にあるものと認められる。 イまた,前記前提事実によれば,被告は,本件韓国訴訟のソウル高等法院判決が平成23年4月28日に確定したことから,同年7月29日,民事執行法24条に基づき,外国裁判所の判決であるソウル高等法院判決の主文第2項(目録1の各特許権の移転登録手続の履行を命じた部分及び目録2の各出願の出願人名義変更手続の履行を命じた部分)等についての執行判決を求める別件訴訟①及び②を名古屋地方裁判所豊橋支部及び水戸地方裁判所下妻支部にそれぞれ提起したところ,両支部は,いずれもソウル高等法院判決の主文第2項に係る訴訟の国際裁判管轄は,日本の裁判所に専属し,韓国の裁判所に国際裁判管轄が存しないとして,ソウル高等法院判決の主文第2項は,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くことを理由に,被告の請求を棄却する旨の別件判決①及び②をそれぞれ言い渡し,これらを不服とする被告が控訴をし,別件訴訟①及び②の控訴事件が名古屋高等裁判所及び東京高等裁判所にそれぞれ係属中であることが認められる。 そして,外国裁判所の判決について執行判決を求める訴えにおいては,外国裁判所の判決が確定したこと及び民事訴訟法118条各号所定の要件を具備することについて審理をし(民事執行法24条3項),その裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないこと(同条2項),執行判決が確定した場合には,当該外国裁判所の判決は執行判 件を具備することについて審理をし(民事執行法24条3項),その裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないこと(同条2項),執行判決が確定した場合には,当該外国裁判所の判決は執行判決と合体して債務名義となること(同法22条6号)に照らすならば,別件訴訟①及び②は,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る本件権利移転合意に基づく特許権移転登録手続等請求権についての債務名義の取得を目的とするものであり,実質上,ソウル高等法院判決に係る給付の訴え(本件韓国訴訟)の日本国内における事後的継続であるということができる。このような債務名義の取得という観点からみると,別件訴訟①及び②と本件訴訟(本件訴え)との関係は,本件韓国訴訟と本件訴訟との関係と同様に,実質上,給付の訴えと消極的確認の訴えの関係にあるものということができる。 次に,別件訴訟①及び②と本件訴訟の国際裁判管轄に係る当事者の主張をみると,被告は,本件管轄合意(本件合意書9条の合意)は,本件合意書に関する紛争の第一審はソウル中央地方法院の専属的管轄とすることを定めた専属的管轄の合意であること,平成23年法律第36号による改正後の民事訴訟法(「平成23年改正法」)3条の5第2項は,登記又は登録に関する訴えの管轄権は登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは日本の裁判所の専属管轄に服する旨規定するが,平成23年改正法が施行された平成24年4月1日の時点で,本件訴えは東京地方裁判所に現に係属していたのであるから,平成23年改正法の附則2条1項により,本件訴えに民事訴訟法3条の5第2項が適用されないことなどを根拠として,別件訴訟①及び②においては,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求について,ソウル高等法院に民事訴訟 法118条1号所定の「裁判権」,すな 項が適用されないことなどを根拠として,別件訴訟①及び②においては,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求について,ソウル高等法院に民事訴訟 法118条1号所定の「裁判権」,すなわち国際裁判管轄(間接管轄)が認められ,本件訴訟においては,原告らの消極的確認請求について,日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められない旨主張するのに対し,他方で,原告らは,本件管轄合意及び本件権利移転合意は,原告らの錯誤無効又は詐欺による取消し等により効力を有しないこと,平成23年改正前の民事訴訟法の下においても,登記又は登録に関する訴えの管轄権は登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは日本の裁判所の専属管轄に服すると解すべきであることなどを根拠として,別件訴訟①及び②においては,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求について,ソウル高等法院に国際裁判管轄(間接管轄)が認められないので,民事訴訟法118条1号所定の要件を欠くものであり,本件訴訟においては,原告らの消極的確認請求について,日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められる旨主張している(甲32ないし35,乙21ないし25,弁論の全趣旨)。 このように別件訴訟①及び②において,ソウル高等法院判決の主文第2項に係る給付請求についてソウル高等法院に国際裁判管轄(間接管轄)が認められるかどうかと,本件訴訟において,原告らの消極的確認請求について日本の裁判所に国際裁判管轄(直接管轄)が認められるかどうかとは表裏一体の関係にある。 ウ前記ア及びイの諸点を踏まえると,外国裁判所の確定した給付判決であるソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟①及び②が現に係属している場合に,給付判決の基礎とされた同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないこと 国裁判所の確定した給付判決であるソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟①及び②が現に係属している場合に,給付判決の基礎とされた同一の請求権又は実質的に同一の請求権が存在しないことの確認を求める消極的確認の訴えである本件訴訟を許容するならば,執行判決の要件である民訴法118条1号の外国裁判所における国際裁判管轄の有無と表裏一体の関係にある消極的確認の訴えの国際裁判管轄の有無について,執行判決を求 める訴えの係属する裁判所の判断と消極的確認の訴えの係属する裁判所の判断とが矛盾抵触するおそれが生じ得るのみならず,請求権の存否についても,外国裁判所の確定判決の判断内容の当否を再度審査して,それと矛盾抵触する判断がされるおそれが生じ得ることとなり,裁判の当否を調査することなく,執行判決をしなければならないとした民事執行法24条2項の趣旨に反するのみならず,当事者間の紛争を複雑化させることにつながりかねないものと認められる。 また,仮に外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が認容され,その判決が確定した場合には,同一の請求権について消極的確認請求を認容する判決が確定したとしても,当該判決には,前に確定した判決(外国裁判所の確定判決)と抵触する再審事由(民事訴訟法338条1項10号)が存することとなり,他方で,外国裁判所の確定判決の執行判決を求める訴えに係る請求が棄却され,当該判決が確定した場合には,日本において同一の請求権に基づく給付の訴えが提起される可能性があり,その場合には,同一の請求権についての消極的確認の訴えは訴えの利益を欠く関係にあるから,いずれの事態も消極的確認の訴えにより紛争の解決に直結するものとは認め難い。 以上を総合すると,ソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件 的確認の訴えは訴えの利益を欠く関係にあるから,いずれの事態も消極的確認の訴えにより紛争の解決に直結するものとは認め難い。 以上を総合すると,ソウル高等法院判決の執行判決を求める訴えである別件訴訟①及び②が現に控訴審に係属している状況下において,本件訴訟(本件訴え)により被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利について移転手続を求める権利を有しないことの確認を求めることは,原告らと被告間の上記各特許権及び特許を受ける権利の帰属に関する紛争の解決のために必要かつ適切なものであるとはいえないから,本件訴えは,いずれも確認の利益を欠く不適法なものであるというべきである。 これに反する原告らの主張は,採用することができない。 2 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの本件訴えは,いずれも確認の利益がなく,不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官高橋彩 裁判官上田真史 (別紙) 目録1出願番号出願日登録番号登録日発明の名称特許権者 特願平8-15874 平成8年4月16日第3194127号平成13年6月1日液晶表示装置大林精工株式会社 特願平8-21489 平成8年6月14日第3486859号平成15年10月31日液晶表示装置大林精工株式会社 特願平8-27279 平成8年8月19日第3567183号平成16年6月25日液晶表示装置大林精工株式会社 特願平9-15564 平成9年4月25日第 置大林精工株式会社 特願平8-27279 平成8年8月19日第3567183号平成16年6月25日液晶表示装置大林精工株式会社 特願平9-15564 平成9年4月25日第3774855号平成18年3月3日液晶表示装置と製造方法大林精工株式会社 特願平9-33928 平成9年10月21日第3831863号平成18年7月28日液晶表示装置大林精工株式会社 特願2001-157 平成13年4月7日第3774858号平成18年3月3日液晶表示装置とその駆動方法大林精工株式会社 (別紙) 目録2出願番号出願日登録番号登録日発明の名称特許権者 特願平10-2831 平成10年8月17日第4264675号平成21年2月27日液晶表示装置とその製造方法A 特願平11-1642 平成11年4月22日第4292350号平成21年4月17日液晶表示装置とその製造方法A (別紙) 目録3出願番号出願日公開番号公開日発明の名称出願人 特願2008-316237(特願平10-283194の分割出願)平成20年10月31日特開2009-756 平成21年4月9日低コスト表示装置を製造するためのホトマスク構造A 特願2008-316238(特願平10-283194の分割出願)平成20年10月31日特開2009-116 平成21年5月28日液晶表示装置と製造方法A 特願2008-336052(特願平10-283194の分割出願)平成20年11月28日特開2009-111 平成21年5月21日薄膜トラ 液晶表示装置と製造方法A 特願2008-336052(特願平10-283194の分割出願)平成20年11月28日特開2009-111 平成21年5月21日薄膜トランジスタ素子と表示装置A 特願2008-336151(特願平11-164223の分割出願)平成20年12月7日特開2009-163 平成21年7月23日高性能表示装置とその製造方法A (別表1)No. 発明の名称 出願日(出願番号)公開日(公開番号)備考欄 液晶表示装置 平成8年4月16日(特願平8-158741) 平成9年12月2日(特開平9-311334)出願人:大林精工(株)発明者:B特許番号:特許第3194127号登録日:平成13年6月1日 液晶表示装置 平成8年6月14日(特願平8-214896) 平成10年1月6日(特開平10-3092) 出願人:大林精工(株)発明者:B特許番号:特許第3486859号登録日:平成15年10月31日 液晶表示装置 平成8年8月19日(特願平8-272792)平成10年3月6日(特開平10-62802)出願人:大林精工(株)発明者:B 液晶表示装置と製造方法平成9年4月25日(特願平9-155647)平成10年11月13日(特開平10-301150)出願人:大林精工(株)発明者:B 液晶表示装置 平成9年10月21日(特願平9-339281)平成11年5月11日(特開平11-125835)出願人:大林精工(株)発明者:B 株)発明者:B 液晶表示装置 平成9年10月21日(特願平9-339281)平成11年5月11日(特開平11-125835)出願人:大林精工(株)発明者:B プラズマ装置 平成9年11月12日(特願平9-363082)平成11年5月28日(特開平11-144892)出願人:A発明者:A 液晶表示装置とその製造方法平成10年8月17日(特願平10-283194) 平成12年3月3日(特開2000-66240)出願人:A発明者:A 大型基板用露光装置平成11年3月9日(特願平11-115306)平成12年9月22日(特開2000-258916)出願人:A発明者:A 液晶表示装置とその製造方法平成11年4月22日(特願平11-164223) 平成12年11月2日(特開2000-305113)出願人:A発明者:A 液晶パネルの製造方法とその製造装置平成11年5月27日(特願平11-197914) 平成12年12月8日(特開2000-338508)出願人:A発明者:A アクティブマトリックス基板の検査方法平成11年6月22日(特願平11-224336) 平成13年1月12日(特開2001-4970)出願人:A発明者:A 液晶注入機と注入口封止装置平成11年7月22日(特願平11-253394) 平成13年2月9日(特開2001-33797)出願人:A発明者:A 液晶表示装置の製造方法と製造装置平成12年1月19日(特願2000 1-253394) 平成13年2月9日(特開2001-33797)出願人:A発明者:A 液晶表示装置の製造方法と製造装置平成12年1月19日(特願2000-64180) 平成13年7月27日(特開2001-201756)出願人:A発明者:A 液晶表示素子の製造方法とバックライト平成12年2月16日(特願2000-100116) 平成13年8月24日(特開2001-228477)出願人:A発明者:A スペーサービーズの位置ぎめ平成12年3月7日(特願2000-121821)平成13年9月14日(特開2001-249342)出願人:A発明者:A 方法と液晶表示装置 液晶パネルの製造装置平成12年3月23日(特願2000-139232)平成13年10月5日(特開2001-272683)出願人:A発明者:A 液晶表示装置とその駆動方法平成13年4月7日(特願2001-157925) 平成14年10月18日(特開2002-303888)出願人:大林精工株式会社発明者:B 液晶表示装置の組み立て方法とその装置平成13年4月22日(特願2001-174844) 平成14年10月31日(特開2002-318378)出願人:三国電子有限会社発明者:D 液状体の吐出塗布方法と吐出塗布装置平成13年6月10日(特願2001-225195) 平成4年12月17日(特開2002-361151)出願人:三国電子有限会社発明者:D上記の各特許発明に対 塗布装置平成13年6月10日(特願2001-225195) 平成4年12月17日(特開2002-361151)出願人:三国電子有限会社発明者:D上記の各特許発明に対応する韓国,米国などの外国特許出願及び登録特許一切 (別紙)ソウル高等法院判決の主文 1.第1審判決を取り消す。 2.原告に対し,ア.被告Aは,別紙4目録記載の特許に関し原告を出願人とする出願人名義変更届の手続を,別紙5目録記載の特許に関する特許権の移転登録手続を,イ.被告大林精工株式会社は,別紙1,2目録記載の特許に関する特許権の移転登録手続を,別紙3目録記載の特許に関し原告を出願人とする出願人名義変更届の手続を,ウ.被告らは連帯して別紙6目録記載の特許に関し原告を出願人とする出願人名義変更届の手続をせよ。 3.訴訟費用は被告らの負担とする。 (ソウル高等法院判決の別紙1目録) 被告大林精工株式会社の日本国における登録特許順番国出願番号登録番号発明の名称登録者 日本 特願平8-158741 3194127 液晶表示装置 大林精工株式会社 日本 特願平8-2148963486859 液晶表示装置 大林精工株式会社 日本 特願平8-2727923567183 液晶表示装置 大林精工株式会社 日本 特願平9-1556473774855 液晶表示装置と製造方法 大林精工株式会社 日本 特願平9-3392813831863 液晶表示装置 大林精工株式会社 日本 2001- 液晶表示装置と製造方法 大林精工株式会社 日本 特願平9-3392813831863 液晶表示装置 大林精工株式会社 日本 2001-1579253774858 液晶表示装置とその駆動方法大林精工株式会社(以下略)(判決注・本件訴訟の目録1の各特許権と同一の特許権である。) (ソウル高等法院判決の別紙4目録)被告Aの日本国における出願特許順番国出願番号公開番号発明の名称出願人 日本 特願平9-363082特開平11-144892プラズマ装置A 日本 特願平10-283194特開2000-66240液晶表示装置とその製造方法A 日本 特願平11-115306特開2000-258916大型基板用露光装置A 日本 特願平11-164223特開2000-305113液晶表示装置とその製造方法A 日本 特願平11-197914特開2000-338508液晶パネルの製造方法とその製造装置A 日本 特願平11-224336特開2001-4970アクティブマトリックス基板の検査方法A 日本 特願平11-253394特開2001-33797液晶注入機と注入口封止装置A 日本 特願2000-64180特開2001-201756液晶表示装置の製造方法と製造装置A 日本 特願2000-100116特開2001-228477液晶表示 願2000-64180特開2001-201756液晶表示装置の製造方法と製造装置A 日本 特願2000-100116特開2001-228477液晶表示素子の製造方法とバックライトA 日本 特願2000-121821特開2001-249342スペーサービーズの位置ぎめ方法と液晶表示装置A 日本 特願2000-139232特開2001-272683液晶パネルの製造装置 A (以下略)(判決注・順番2が本件訴訟の目録2の1の出願と同一であり,順番4が目録2の2の出願と同一である。) (別紙) 当事者の主張第1 本案前の主張 1 被告の主張(1)ア本件合意書9条は,「本件合意書に関し紛争が行った場合…管轄法院(裁判所)はソウル中央地方法院にする。」と規定し,本件合意書に関する紛争について,ソウル中央地方法院の専属的管轄とすることを定めている。 本訴請求は,原告らが,被告に対し,本件権利移転合意(本件合意書2条の合意)の錯誤無効,詐欺取消し等を主張して,被告が目録1及び2の各特許権及び目録3の各出願の特許を受ける権利の移転登録手続等請求権の不存在確認を求めるものであるから,本件合意書に関する紛争に該当する。 ところで,外国の裁判所を第一審の専属的管轄裁判所に指定する旨の国際的専属裁判管轄の合意は,「①当該事件がわが国の裁判権に専属的に服するものではなく,②指定された外国の裁判所が,その外国法上,当該事件につき管轄権を有すること」の2要件を充足する限り有効であると解すべきである(最高裁判所昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁参照。以下,この判 が,その外国法上,当該事件につき管轄権を有すること」の2要件を充足する限り有効であると解すべきである(最高裁判所昭和50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁参照。以下,この判決を「昭和50年最高裁判決」という。)。 しかるところ,平成23年法律第36号による改正後の民事訴訟法(以下,この改正を「平成23年改正」,改正後の民事訴訟法を「平成23年改正法」という。)3条の5第2項は,登記又は登録に関する訴えの管轄権は登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは日本の裁判所の専属管轄に服する旨規定するが,平成23年改正法が施行された平成24年4月1日の時点で,本件訴えは東京地方裁判所に現に係属していたのであるから,平成23年改正法の附則2条1項により,本件訴 えに民事訴訟法3条の5第2項の適用はない。 そして,平成23年改正前には,我が国の法令上,登録をすべき地が日本国内にある特許権等の移転登録に関する訴えを我が国の専属管轄とする規定は存在しない。民事訴訟法5条13号は,登記又は登録に関する訴えは登記又は登録をすべき地を管轄する裁判所に提起することができる旨を規定しているが,その管轄は専属的なものとはされていない。 また,我が国の判例上,特許権等の移転登録に関する訴えのうち,少なくとも,特許権等の譲渡合意の成否又はその解除の成否が争点となる訴えについては,その登録国の裁判所の専属管轄に服するものではないと解されている。 したがって,本訴請求が日本国の裁判権に専属的に服するものではなく,本訴請求は,韓国の裁判所に国際裁判管轄があるから,本件管轄合意は,有効である。 イこの点に関し,原告らは,本件管轄合意が不成立であり,あるいは,錯誤無効又は詐欺により取り消されるべきであるなどと主張するが, 国の裁判所に国際裁判管轄があるから,本件管轄合意は,有効である。 イこの点に関し,原告らは,本件管轄合意が不成立であり,あるいは,錯誤無効又は詐欺により取り消されるべきであるなどと主張するが,いずれも理由がない。 ウ以上によれば,本訴請求の管轄権は,本件管轄合意(本件合意書9条の管轄合意)により,韓国の裁判所に専属し,東京地方裁判所その他の日本の裁判所に管轄権がないから,本件訴えは,管轄権を欠き,不適法である。 (2) また,仮に本件管轄合意が不成立であるか,あるいは,錯誤無効又は取り消されるべきものであったとしても,日本国の裁判所は本訴請求につき国際裁判管轄を有しない。 すなわち,我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うこと が当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁判所平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。 しかるところ,①先行訴訟である本件韓国訴訟については,同訴訟提起当時に原告Aは韓国に住所を有しており,原告大林精工に対する請求には韓国特許権の移転登録請求が含まれていたのであるから,韓国法の規定(韓国民事訴訟法2条,21条,25条1項)(乙20)によっても,我が国の民事訴訟法の規定(平成23年改正前の民事訴訟法4条1項,5条13号,7条)によっても,目録1の各特許権及び目録2の各出願の特許を受ける権利の移転登録手続等請求権についてソウル中央地方法院が管轄を有していたこと,②原告らは,大手法律事務所の弁護士を訴訟代理人と 号,7条)によっても,目録1の各特許権及び目録2の各出願の特許を受ける権利の移転登録手続等請求権についてソウル中央地方法院が管轄を有していたこと,②原告らは,大手法律事務所の弁護士を訴訟代理人として選任して本件韓国訴訟に応訴し,韓国大法院まで約4年半にわたり本件韓国訴訟の審理が行われ,ソウル高等法院判決が確定していること,③本件訴訟における本案の準拠法は韓国法になること,④本件の紛争が韓国で行われた発明に密接に関連するものであること,⑤被告の応訴の負担が大きいこと等から本件の本案の審理を日本で行うことは当事者間の公平に反することなどの事情に鑑みれば,本件訴訟について日本国の裁判所に国際裁判管轄を認めることが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する結果となる特段の事情のあることは明らかである。 したがって,東京地方裁判所その他の日本の裁判所は,本訴請求について国際裁判権を有しないから,本件訴えは,管轄権を欠き,不適法である。 (3) 以上のとおり,本件訴えは,管轄権を欠く不適法なものであるから,却下すべきである。 2 原告らの主張 (1)ア本件訴えは,日本の特許権の登録に関する訴えであって,以下のとおり,日本の裁判権に専属的に服すべきものであるから,日本国特許庁の所在地を管轄する東京地方裁判所の専属管轄となる。 (ア) 平成23年改正法の施行前の我が国の法令上,特許権等の移転登録に関する訴えが我が国の専属管轄とする規定が存在しないことは事実である。 一方で,平成23年改正後の民事訴訟法3条の5第2項は,登記又は登録に関する訴えの管轄権は,登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは,日本の裁判所に専属する旨を規定し,同条項の「登録に関する訴え」には,知的財産権の登録に関する訴えも含まれ 2項は,登記又は登録に関する訴えの管轄権は,登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは,日本の裁判所に専属する旨を規定し,同条項の「登録に関する訴え」には,知的財産権の登録に関する訴えも含まれるが,本件には,直接的に同条項が適用されるものではない。 しかし,平成23年改正法の立法過程における法制審議会国際裁判管轄法制部会の審議経過等を踏まえれば,平成23年改正後の民事訴訟法3条の5第2項は,各国の特許権の登録に関する訴えが,当該登録を認めた国の裁判権に専属的に服すべきものであるとした従前の裁判例(東京地方裁判所平成15年9月26日判決)や条理に基づいて,これを確認的に規定したものである。 (イ) したがって,平成23年改正前の民事訴訟法の下においても,日本の特許権の登録に関する訴えは,日本の裁判権に専属的に服すべきものと解すべきであるから,本件訴えは,日本国特許庁の所在地を管轄する東京地方裁判所の専属管轄となる。 イこれに対し被告は,本件管轄合意(本件合意書9条の管轄合意)は,昭和50年最高裁判決の示す2要件を充足するから,有効であり,本件訴えは,本件管轄合意により,韓国の裁判所に専属し,東京地方裁判所その他の日本の裁判所に管轄権がない旨主張する。 しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。 (ア) 前記ア(ア)のとおり,本件訴えは,日本の裁判権に専属的に服すべきものであり,本件管轄合意は,昭和50年最高裁判決の示す要件を充足しないから,無効である。 (イ) 本件合意書の末尾には,原告Aの署名,原告大林精工の代表者Bの署名,被告の担当者Cの署名がある。 原告らと被告との間における本件合意書を巡る一連の経過に鑑みると,契約としての本件合意書に係る合意の申込みは,原告大林精工作成の2004年 林精工の代表者Bの署名,被告の担当者Cの署名がある。 原告らと被告との間における本件合意書を巡る一連の経過に鑑みると,契約としての本件合意書に係る合意の申込みは,原告大林精工作成の2004年4月3日付けレター(甲20の1)によってされ,これに対する承諾は,被告作成の2005年10月11日付けレター(甲20の6)によってされたと解さざるを得ないが,被告の上記レターは,原告大林精工の上記レターから約1年半も経過して出されたものであり,被告は相当の期間内に承諾の通知を発したものといえないから,被告の上記レターが出された時点では,商法508条により,原告大林精工の上記レターによる申込みの効力が失われていた。 したがって,被告の上記レターは承諾としての効力がないから,本件管轄合意を含む本件合意書に係る合意は,契約として成立していない。 (ウ) 本件管轄合意は,後記第2の1(3)及び(4)と同様の理由により,原告らの錯誤により無効又は被告の詐欺により取り消されるべきである。 (エ) 以上によれば,本件管轄合意により本件訴えが韓国の裁判所に専属するとの被告の主張は,理由がない。 (2) 次に,被告は,本件訴訟について日本国の裁判所に国際裁判管轄を認めることが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する結果となる特段の事情があるから,東京地方裁判所その他の日本の裁判所は,本訴請求について国際裁判権を有しない旨主張する。 しかしながら,被告が挙げる事情は,いずれも当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する結果となる特段の事情に該当しないから,被告の上記主張は理由がない。 (3) 以上の次第であるから,被告の本案前の主張は,いずれも失当である。 第2 本案の主張 1 原告らの主張(1) 反する結果となる特段の事情に該当しないから,被告の上記主張は理由がない。 (3) 以上の次第であるから,被告の本案前の主張は,いずれも失当である。 第2 本案の主張 1 原告らの主張(1) 本件合意書に係る合意の不成立本件合意書2条には,原告らが,被告に対し,目録1の各特許権及び目録2の各出願の特許出願を含む複数の特許権及び特許出願に関する全ての権利を無償で移転する旨(本件権利移転合意)の条項があり,本件合意書の末尾には,原告Aの署名,原告大林精工の代表者Bの署名,被告の担当者Cの署名がある。 しかしながら,前記第1の2(1)イ(イ)と同様の理由により,本件権利移転合意を含む本件合意書に係る合意は,契約として成立していない。 (2) 本件権利移転合意の公序良俗違反による無効本件権利移転合意が,原告らにのみ甚だしく不相当な財産的給付を義務付けるものであること,被告が,原告Aによる目録1の各特許権及び目録2の各出願に係る発明が被告の職務発明に該当しないことを認識しながら,原告らの法律知識が不十分であることに乗じて,これらが原告Aによる被告の職務発明に該当するとして譲渡を強行に求め,さらには,申込みとしての効力が失われている原告らの署名済みの合意書が手元にあることを奇貨として,同合意書に被告の担当者の署名を行うことにより契約成立の外観を作出したものであり,被告の主観的な行為態様が極めて悪質であることなどの事情に鑑みれば,本件権利移転合意は,暴利行為として,公序良俗に反し,無効である。 (3) 本件権利移転合意の錯誤無効 本件権利移転合意は,原告らにおいて,原告Aによる目録1の各特許権及び目録2の各出願に係る発明が被告の職務発明であること,原告AとLG電子間の雇用契約書(甲5)6条に基づき目録1の各特 本件権利移転合意は,原告らにおいて,原告Aによる目録1の各特許権及び目録2の各出願に係る発明が被告の職務発明であること,原告AとLG電子間の雇用契約書(甲5)6条に基づき目録1の各特許権及び目録2の各出願の特許を受ける権利の譲渡義務が存在するという動機の錯誤に基づいてされたものであり,かかる動機は被告において明示されていたから,本件権利移転合意は,原告らの錯誤により無効である。 (4) 本件権利移転合意の詐欺による取消し被告は,原告Aによる目録1の各特許権及び目録2の各出願に係る発明が被告の職務発明に該当しないことを認識しながら,原告らに対し,被告の職務発明に該当する旨主張して,目録1の各特許権及び目録2の各出願の特許を受ける権利の譲渡を要求し続けてきたものであり,かかる被告の行為は,欺罔行為に当たり,これにより原告らが,目録1の各特許権及び目録2の各出願に係る発明が被告の職務発明に該当する旨誤信し,本件権利移転合意をしたものであるから,本件権利移転合意は,被告の詐欺により取り消されるべきである。 (5) まとめア被告が,原告らに対し,本件権利移転合意に基づき,本件韓国訴訟を提起し,原告らと被告間で,原告らの目録1及び2の各特許権並びに目録3の各出願の特許を受ける権利の移転登録義務等の存否について争いがあることから,原告らとしては,本件権利移転合意が無効であり,被告に対して上記各特許権等の移転登録手続等を行う義務がないことを確認する必要性があり,かつ,当該義務のないことを確認することが,原告らと被告間の紛争解決にとって有効かつ適切であるから,本件訴えには確認の利益がある。 イよって,原告らは,被告に対し,被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利につ とって有効かつ適切であるから,本件訴えには確認の利益がある。 イよって,原告らは,被告に対し,被告が目録1及び2の各特許権の移転登録手続を求める権利並びに目録3の各出願の特許を受ける権利につ いて移転手続を求める権利を有しないことの確認を求める。 2 被告の主張原告らの主張は争う。
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