平成30(行コ)125 損失補償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成30年9月12日 東京高等裁判所
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判決文本文12,023 文字)

平成30年9月12日判決言渡平成30年(行コ)第125号損失補償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成28年(行ウ)第348号) 主文 1 原判決中被控訴人の予備的請求に関する部分を次のとおり変更する。 2 東京都収用委員会が平成28年1月29日付けでした別紙物件目録記載1の土地に係る収用の裁決における被控訴人に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億1069万7872円に変更する。 3 控訴人は,被控訴人に対し,764万3788円及びこれに対する平成28年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 被控訴人のその余の予備的請求を棄却する。 5 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを8分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中被控訴人の予備的請求を認容した部分を取り消す。 2 上記の部分につき,被控訴人の予備的請求を棄却する。 第2 事案の概要(略称は,原判決のものを用いる。) 1 本件は,被控訴人が,別紙物件目録記載1の土地(本件土地)及び同記載2の建物(本件建物)を所有していたところ,控訴人を起業者とする本件街路に係る都市計画事業の用に供するため,東京都収用委員会がした本件土地の収用に係る本件裁決において,損失の補償が合計2億0305万4084円の金銭補償とされたことを不服として,土地収用法133条2項及び3項に基づき, 控訴人に対し,①主位的請求として,本件裁決を変更し,a)控訴人が被控訴人に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことの確認,b)被控訴人に対する損失補償額を8985万6238円とすること,c)同額及びこれに対する本件裁決における権利取得日(平成28年3月 人に対して替地の提供の義務及び移転の代行の義務を負うことの確認,b)被控訴人に対する損失補償額を8985万6238円とすること,c)同額及びこれに対する本件裁決における権利取得日(平成28年3月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,②予備的請求として,a)本件裁決における損失補償額のうち家賃減収に係る補償額に不足があるとして,本件裁決における被控訴人に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億8718万1354円に変更すること,b)その差額である8412万7270円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は,①主位的請求を棄却し,②予備的請求のうち,a)本件裁決における被控訴人に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億3356万4240円に変更し,b)その差額である3051万0156円及びこれに対する本件裁決が定める明渡しの期限の翌日(平成28年7月12日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを認容し,その余の予備的請求を棄却した。そこで,控訴人がこの予備的請求の認容部分を不服として控訴した。 2 土地収用法の定め原判決の「第2 事案の概要等」1記載のとおりであるから,これを引用する。 3 前提事実原判決の「第2 事案の概要等」2記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,6頁18行目の「合意に至らなかった(乙5)。」を次のとおり改める。 「被控訴人は,平成元年から平成3年にかけて,金融機関の勧めで賃貸ビルである本件土地建物を取得し,その際に受けた合計約3億円の融資の残債務を多 く抱えており,合意に至らなかった(甲2,3,21,乙5)。」 4 争点及び当事者の主張次の の勧めで賃貸ビルである本件土地建物を取得し,その際に受けた合計約3億円の融資の残債務を多 く抱えており,合意に至らなかった(甲2,3,21,乙5)。」 4 争点及び当事者の主張次のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか,原判決の「第2事案の概要等」3(2)記載のとおりであるから,これを引用する。 (被控訴人)(1) 土地収用法88条の補償対象事業計画認可等の告示から収用裁決までの家賃減収が,土地収用法88条の補償の対象となることは,同法の逐条解説にも記載されている。 事業計画認可等の告示がされると,起業者が周知のため看板を立て,隣接地を任意買収してフェンスを設置するなど,道路予定地であることが一見して明らかになる。建物を賃借する事業者は,事務所や店舗の移転によって,移転費用,関係機関への手続,取引先への挨拶状の作成,名刺や封筒等の変更など多くの負担を伴い,場所の変更で顧客を失う可能性もあり,退去を迫られる可能性がある物件をあえて選択することはない。告示により賃貸人に家賃減収の損失が生じることは,社会常識として当然予想される事態であり,補償の対象とすべきは当然である。 (2) 本件建物における告示後の家賃減収本件建物は,本件告示の後,いつ明渡しを求められるか不確定・不安定な物件となり,賃借人の確保が困難となって,得られるはずの家賃に減収が生じた。実際に契約できたテナントは,短期間,一時的に使用する希望があった事業者である。賃料を大幅に値下げして一時的に継続したテナントもあったが,そのテナントも賃料を滞納して退去した。そもそも,賃借しなかった事業者にその理由を確認することは不可能であり,本件告示のために募集をしてもテナントが入らない場合などに,家賃減収の発生を具体的に主張 ,そのテナントも賃料を滞納して退去した。そもそも,賃借しなかった事業者にその理由を確認することは不可能であり,本件告示のために募集をしてもテナントが入らない場合などに,家賃減収の発生を具体的に主張立証することは,極めて困難であることを考慮すべきである。なお,1年ごとに更新されるみなし告示日より前に本件建物を賃借した賃借人は,補償を受け ることが可能であるとしても,リスクがあるテナント物件であることに変わりはない。 被控訴人は,本件建物の1階,4階及び5階について,3年の定期借家としてテナント募集をしたが,この条件はよくあることで,家賃減収の原因ではない。2階のワイズとの契約書に,「借主は退室依頼を受けた時は,トラブルなくすみやかに退室すること。」との記載があるが,これは本件告示のために記載せざるを得なかったもので,この記載が原因で家賃が減額されたのではない。4階及び5階の契約書に,「この契約は,収用調査終了後の締結であるため,転居に伴う費用,補償金等は東京都及び貸主から一切支払われない」とあるのも同様である。被控訴人は,4階及び5階を一括でテナント募集していたが,これは従前の賃借人が一括で賃借していたからで,状況に応じて4階のみを賃貸しており,募集方法が家賃減収の原因ではない。 (3) 建物移転に伴う家賃減収の算定基礎となる賃料家賃減収に対する補償の算定基礎となる賃料は,裁決時の賃料ではなく,現に契約がされていた賃料を基準とすべきである。 (控訴人)(1) 土地収用法88条の補償対象土地収用法88条の損失補償は,「土地を収用すること」を原因とする損失を補償する規定であるから,家賃減収については建物移転期間に発生したものを意味し,都市計画事業認可の告示がされたことによるものは含まれない 法88条の損失補償は,「土地を収用すること」を原因とする損失を補償する規定であるから,家賃減収については建物移転期間に発生したものを意味し,都市計画事業認可の告示がされたことによるものは含まれない。 実質的に,告示がされても,当該事業地の収用が確定するわけではなく,その後の事業計画変更認可により対象から外れることがある。また,事業認定告示から裁決申請まで長期間を要し,その間に様々な手続が行われ,事業地や土地所有者等の数が膨大であるが,建物の継続的な使用ができなくなったり,建物を賃借することを躊躇させる原因となったりすることはない。告示後,賃貸人は起業者に対して裁決申請の請求をして,早期に補償金を得るこ とができ,賃料収入の減少を建物賃貸人に負担させるとしても公平性を欠くことにはならない。 (2) 本件建物における告示後の家賃減収本件建物に家賃減収があったとしても,それは本件告示を原因とするものではない。このことは,3階について,本件告示前から同額の家賃で契約が継続していることからも明らかである。本件告示は平成16年12月28日にされているが,その後1年ごとにみなし告示日が更新される結果,平成25年1月8日より前に本件建物を賃借すれば,賃借人も補償を受けることができるから,賃借を躊躇する原因とはならない。 1階に賃借人がいない原因は,被控訴人が,3年の定期賃貸借という条件を設定したためであり,これは被控訴人の自由な判断にすぎず,原審が減収額の3割を損失とする根拠も不明である。2階を賃借していたワイズは,本件告示がされても,関係人として補償が受けられるから,本件告示を理由に賃貸借契約の終了を申し出たとは考え難く,これに被控訴人が応じなければならない理由もない。2階の賃料が従前より安く設定されたのは,被控訴人とワ も,関係人として補償が受けられるから,本件告示を理由に賃貸借契約の終了を申し出たとは考え難く,これに被控訴人が応じなければならない理由もない。2階の賃料が従前より安く設定されたのは,被控訴人とワイズの間で,「借主は退室依頼を受けた時は,トラブルなくすみやかに退室すること。」という合意がされたためである。4階及び5階は,被控訴人が一括して3年の定期賃貸借を条件とし,賃借人の使用に大幅な制約を加えている上,平成17年5月の事業用建物賃貸借契約書には,「この契約は,収用調査終了後の締結であるため,転居に伴う費用,補償金等は東京都及び貸主から一切支払われない」と誤った記載がされている。賃料が安く設定されたとしても,本件告示とは関係がない。 (3) 建物移転に伴う家賃減収の算定基礎となる賃料土地収用法73条は,「この節に別段の定めがある場合を除くの外,損失の補償は,明渡裁決の時の価格によって算定してしなければならない。」と規定する。そのため,建物移転に伴う家賃減収の補償額の算定時期を,都市計画 事業認可等告示時以前の時点とすることは,同条の規定に反する。家賃減収は,本件告示を原因とするものでもない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,被控訴人の予備的請求のうち,本件裁決における被控訴人に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億1069万7872円に変更し,その差額である764万3788円及びこれに対する本件裁決が定める明渡しの期限の翌日(平成28年7月12日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の予備的請求は棄却するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」2において説示するとおりであるから, 害金の支払を求める限度で認容し,その余の予備的請求は棄却するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「第3 当裁判所の判断」2において説示するとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決の付加訂正ア 22頁9行目の「そのため,」から23頁19行目末尾までを次のとおり改める。 「そのため,上記告示がされ,そのことが公に周知されると,都市計画法63条により事業計画の変更がされない場合には,いずれは,任意買収か,起業者の申請による権利取得裁決を経て,当該事業地が収容又は使用され,移転を余儀なくされる事態が生じることが予想され,周知されることとなる。この場合,建物の賃借人によっては,将来,事務所や店舗の移転が必要となった場合,移転費用はもとより,関係機関への手続,挨拶状の作成,名刺や封筒の変更に至るまで,数多くの負担が発生し,それまでの顧客や取引先を失う可能性も考えて,賃借するのを控える者が生じる可能性は否定できない。 しかしながら,都市計画事業については,通常その規模が大きく,執行に至るまでには長期間を要する場合も多く(乙29(各枝番を含む。),30),都市計画事業認可等告示があったとしても,その日から1年以内に収 用裁決の申請がないときは,その時点で新たに事業認定告示があったものとみなされて(みなし告示日),その後も裁決申請までは,みなし告示日が1年ごとに更新される(都市計画法71条1項。なお,本件事業についても,当初の告示があったのは平成9年3月6日であり,その後,都市計画が変更され,本件告示がされたのが平成16年12月28日であり,本件裁決がされたのが平成28年1月29日であった(前提事実(2),(3))。)。 したがって,都市計画事業認可等告示があったからと 計画が変更され,本件告示がされたのが平成16年12月28日であり,本件裁決がされたのが平成28年1月29日であった(前提事実(2),(3))。)。 したがって,都市計画事業認可等告示があったからといって,事業の内容や進捗状況,今後の見通し,建物賃借人の使用目的,使用予定期間によっては,建物を賃借するのに支障がないと考える賃借人も相当程度存在することが想定できる。 また,都市計画事業認可等告示後に新たに事業地上の建物を賃借した者についても,裁決申請日の直前のみなし告示日より前の賃借人であれば,関係人としての補償を受けることができ,移転によって賃借人の通常被る損失については,借家人補償のほか,移転雑費補償等によって塡補されることが予定されているから(土地収用法88条),建物賃借人は,本来,法的には損失を被らないはずである。 以上によれば,告示によって,直ちに賃借人の確保や従前の賃貸借条件の維持に支障が生じ,告示から収用裁決までの空き室や家賃減収について,土地収用法88条の補償の対象となるとの被控訴人の主張は採用することができない。 一方,土地収用法88条は,「建物の移転による賃貸料の損失その他土地を収用し,又は使用することに因って土地所有者又は関係人が通常受ける損失」を補償の対象としているから,起業者が土地の所有権を取得すること,また,土地上の物件の占有者が明渡をすることを原因として通常生じる損失については,これを補償する趣旨と解される。そして,収用によって通常生じる損失とは,建物移転期間中の賃料減収分が典型とされるけれ ども,それに限定されるものではなく,その前後を含めて,やむを得ない事由により,建物所有者が,収用を原因として家賃を得ることができない場合を含むと解すべきである。「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」( れに限定されるものではなく,その前後を含めて,やむを得ない事由により,建物所有者が,収用を原因として家賃を得ることができない場合を含むと解すべきである。「東京都の事業の施行に伴う損失補償基準」(乙12)によれば,第4章第1節に,土地等の取得又は使用に伴い建物の全部又は一部を賃貸している者が当該建物を移転することにより移転期間中賃貸料を得ることができないと認められるときは,当該移転期間に応じた家賃減収の補償をする旨定める(33条)と共に,第7節において,「本節及び前6節に規定するもののほか,土地等の取得又は土地等の使用によって土地等の権利者について通常生じる損失は,これを補償するものとする」旨の定めを置いていること(59条),東京都実施細目が,「やむを得ない事由により,建物所有者が家賃を得ることができない場合は,相当と認められる期間を建物移転期間に加えることができるものとする。」旨を記載していることも,この趣旨に沿うものである。 以上によれば,土地収用法88条は,建物を移転することによる移転期間中の家賃減収を補償すると共に,それ以外にも,やむを得ない事由により,収用を原因として,家賃の減収,欠損が生じたと具体的に認められる場合にも,これを補償する趣旨と解するのが相当である。」イ 23頁23行目の「21」の次に「,25,26,28」を加える。 ウ 24頁1行目の「賃貸していた」を「賃貸し,契約書の特約条項に,「都市計画道路事業予定地になっており一時使用貸として賃借人に賃貸する。」と記載した」に改める。 エ 24頁5行目の「見付けられなかったこと」の次に「,④この間,近隣地の任意買収が進行し,平成23年頃に撮影された写真をみると,本件土地の公道に面した両側は,柵で囲まれた更地の状態になっていたこと」を加える。 「見付けられなかったこと」の次に「,④この間,近隣地の任意買収が進行し,平成23年頃に撮影された写真をみると,本件土地の公道に面した両側は,柵で囲まれた更地の状態になっていたこと」を加える。 オ 24頁10行目の「いなかった」から25頁5行目末尾までを次のとお り改める。 「いなかったことが認められる。 しかしながら,本件建物の1階(店舗・事務所)は,①平成15年8月に本件土地が本件街路の区域に含まれる旨が告示された後も,平成16年3月末までテナントが入っていたこと,②一方,本件告示後も,平成19年12月から平成20年4月までは,契約書の特約条項に,「都市計画道路事業予定地になっている」旨明示していたにもかかわらず,短期とはいえ賃借人が入居したこと,③同年5月から本件裁決があった平成28年1月まで7年以上の空室があるが,この間の賃借人や賃借希望者との交渉ないし契約成否の状況,あるいはテナント募集時の条件設定など,具体的な事実関係の主張立証が存在しないこと,④これに対し,一般に1階より賃貸条件が劣ると考えられる2階や3階には,本件告示から本件裁決まで,常に賃借人が存在しており,もともと1階の賃貸条件があまり良好とはいえなかった可能性を否定できないこと,⑤賃貸借の需給関係は,本件建物の現状,近隣における同種建物の状況,景気の動向,賃借人の募集態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況等,多くの事情が存在することが認められる。こうしてみると,1階の空室の原因を考えるに当たり,収用の存在が全く無関係とはいえないとしても,上記①ないし⑤は無視できない重要な要素というべきであり,これらの事実に照らすと,1階に生じた空室が収用が原因で生じたものとまでは認定できず,土地収用によって被控訴人が通常受ける損失であるとは認め 上記①ないし⑤は無視できない重要な要素というべきであり,これらの事実に照らすと,1階に生じた空室が収用が原因で生じたものとまでは認定できず,土地収用によって被控訴人が通常受ける損失であるとは認められない。 また,本件建物の1階の賃料は,本件告示前の平成16年6月から11月までが月額22万2600円であったのに対し,平成19年12月から平成20年4月までは月額21万9048円(平成19年12月は中途から)と減額されている。しかし,その減額幅は小さく,両契約の 時期が異なる上,契約条件も異なることに照らせば,収用の存在が賃料減額の原因であるとも認められず,土地収用によって通常受ける損失であるともいえない。」カ 25頁18行目の「約して」を「約し,その旨を賃貸借契約書の特約事項に付記して」に改める。 キ 25頁22行目の「原告は,」から25行目の「本件告示がなければ,」までを次のとおり改める。 「被控訴人は,ワイズから,本件土地が収用されることを理由に賃貸借契約の終了を求められ,やむを得ず,賃料の減額(月額5万3600円)に応じたことが認められ,収用されないのであれば,」ク 26頁1・2行目の「本件告示がされたことによるものと認められ」を「収用を原因とするものと認められ,両者の関係が具体的に立証されたものとして」に改める。 ケ 26頁15行目の「見付けられなかったこと」の次に以下のとおり加える。 「,③上記の平成17年5月からの賃貸借契約書には,特記事項として「この賃貸借する建物の所在地は,都市計画道路予定地である。しかし,この契約は,収用調査終了後の締結であるため,転居に伴う費用,補償金等は東京都及び貸主から一切支払われない。貸主から退室依頼を借主にされた時は,トラブルなくすみやかに退室すること。」 ある。しかし,この契約は,収用調査終了後の締結であるため,転居に伴う費用,補償金等は東京都及び貸主から一切支払われない。貸主から退室依頼を借主にされた時は,トラブルなくすみやかに退室すること。」との記載があること」コ 26頁19行目の「いなかった」から27頁8行目末尾までを次のとおり改める。 「いなかったことが認められる。 しかしながら,①本件建物の4階及び5階(事務所)は,本件告示(平成16年12月28日)より前である平成15年2月末の時点で,既に空室が発生していたこと,②一方,本件告示後も,平成17年5月から 平成24年9月までは,4階又は4階と5階に賃借人が入居していたこと,③本件建物のエレベーターは4階までしかなく,4階から5階までは階段を使う必要があるため,最上階である5階の用途や賃借人は相当制約されており,4階の利用もこれと関連があり,被控訴人は不動産広告で4階及び5階を一括で賃貸する条件で募集していたこと(甲17),④5階は,空室が平成18年3月から同年10月,平成20年2月から同年7月,平成22年1月から平成24年9月に生じたが,その間も賃借人が4階の賃借を続け,平成18年11月に再び5階を賃借しており,このような利用状況の推移は,主に賃借人の業務上の必要によるものと解されること,⑤4階及び5階は,平成24年10月から本件裁決があった平成28年1月まで空室になったが,この間の賃借人や賃借希望者との交渉ないし契約成否の状況,あるいはテナント募集時の条件設定など,具体的な事実関係の主張立証が存在しないこと,⑥これに対し,2階及び3階は,それぞれ本件告示から本件裁決まで常に賃借人がおり,もともと4,5階の賃貸条件があまり良好とはいえなかった可能性を否定できないこと,⑦賃貸借の需給関係は,本件建物の現状, れに対し,2階及び3階は,それぞれ本件告示から本件裁決まで常に賃借人がおり,もともと4,5階の賃貸条件があまり良好とはいえなかった可能性を否定できないこと,⑦賃貸借の需給関係は,本件建物の現状,近隣における同種建物の状況,景気の動向,賃借人の募集態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況など,多くの事情から複合的に影響を受けることが認められる。こうしてみると,4階及び5階の空室の原因を考えるに当たり,本件告示の存在が全く無関係とはいえないとしても,上記①ないし⑦は無視できない重要な要素というべきであり,これらの事実に照らすと,4階及び5階に生じた空室が収用を原因として生じたものとまでは認定できず,土地収用によって被控訴人が通常受ける損失であるとは認められない。 また,本件建物の4階及び5階を併せて借りた場合の賃料は,本件告示前の平成12年6月から平成15年5月までが月額39万2800円 であったのに対し,平成17年6月から平成18年2月までは月額20万円,同年3月から平成20年1月までは月額18万0952円,同年9月から平成21年11月までは月額18万1000円とほぼ半減しているところ,賃料が減額となった平成17年5月の賃貸借契約書には,都市計画道路予定地である旨の記載がある。 しかし,前記の認定及び証拠(甲12,13,21)によれば,①本件建物のエレベーターが4階止まりであるという構造上の制約から,もともと5階とこれに続く4階の市場性に大きな制約があったこと,②平成17年5月の賃貸借契約書の特約条項は,都市計画道路予定地である旨を告知する目的で設けられたが,東京都から補償金が一切支払われないとか,貸主の依頼があれば速やかに退室が必要となる旨の不正確な記載で,賃借人に本来受ける以上の不利益を承認させる内容であり 地である旨を告知する目的で設けられたが,東京都から補償金が一切支払われないとか,貸主の依頼があれば速やかに退室が必要となる旨の不正確な記載で,賃借人に本来受ける以上の不利益を承認させる内容であり,これが賃貸条件の設定にも関係した可能性があること,③前記のとおり,賃貸借における需給条件は,多くの事情から複合的に影響を受けることが認められる。こうしてみると,本件建物の4階及び5階の賃料の決定においても,上記①ないし③は無視できない重要な要素というべきであり,これらの事実に照らすと,4階及び5階に平成17年5月以降に生じた賃料の減額が,収用の存在を原因として生じたものとは認められず,土地収用によって被控訴人が通常受ける損失であるとは認められない。」サ 27頁20行目の「その要因の」から28頁2行目末尾まで,28頁16行目の「その要因の」から26行目末尾までを,それぞれ次のとおり改める。 「原因が本件収用にあったと認められないことは,前記のとおりであるから,建物移転に伴う家賃減額の補償の対象に含めることはできない。」シ 29頁4行目の「本件告示から」から7行目末尾までを次のとおり改める。 「本件告示から本件裁決までの家賃減収分として691万4400円,建物移転に伴う家賃減収分として72万9388円,合計764万3788円を認めるべきである。」ス 29頁12行目の「前記(1)エの」から13行目末尾までを「764万3788円を加えた2億1069万7872円である。」に改める。 セ 29頁16行目の「2億3356万4240円」を「2億1069万7872円」に,17行目の「3051万0156円」を「764万3788円」にそれぞれ改める。 (2) 当審における被控訴人の補充主張(本件建物における 3356万4240円」を「2億1069万7872円」に,17行目の「3051万0156円」を「764万3788円」にそれぞれ改める。 (2) 当審における被控訴人の補充主張(本件建物における告示後の家賃減収)について被控訴人は,本件告示の後,本件建物は,いつ明渡しを求められるか不確定・不安定な物件となり,賃借人の確保が困難となって,空室が生じたり,賃料を大幅に値下げしたりして,得られるはずの家賃に減収が生じたことを重ねて主張し,賃借しなかった事業者に理由を確認することは不可能で,本件告示のために募集をしてもテナントが入らなかった場合などに,家賃減収の発生を具体的に主張立証することは,極めて困難であると主張する。 しかしながら,土地収用法88条は,土地を収用することによって土地所有者が通常受ける損失を補償する旨を定めており,争いがある場合には,減収が土地収用を原因として生じたものであることの立証が必要である。確かに,本件告示の存在により,都市計画事業が土地の収用に向けて動き出し,事業計画の変更がされない場合には,いずれ,必ずしも明確には予測できない時期に土地及び建物の使用収益が困難になることから,それが建物の賃貸条件を悪化させる要素となりうることは否定できない。しかし,前示のように,賃貸借の需給関係は,建物の状況,近隣の状況,景気の動向,賃借人の募集態様,従前の賃料額の相当性,本件事業の進捗状況等,様々な要素により定まるものであることからすれば,本件告示から本件裁決まで11年以上 にわたり,家賃減収に対する補償を求める以上,補償を受けようとする被控訴人において,それが収用を原因として,やむを得ない理由で生じたことを具体的に主張立証する必要があると解すべきである。事案の中には,本件告示後に賃借希望者 補償を求める以上,補償を受けようとする被控訴人において,それが収用を原因として,やむを得ない理由で生じたことを具体的に主張立証する必要があると解すべきである。事案の中には,本件告示後に賃借希望者からの引合いがなかった場合もあり,収用と減収の相当因果関係や,収用がなければ得られた賃料収入の額など,立証が困難な場面がありうることは,被控訴人も指摘するとおりであるが,そのような場面があることを考慮しても,本件告示後の空室の原因が直ちに収用にあるとか,本件告示前と後の家賃の差額が直ちに収用を原因とした家賃減収であると評価することはできず,被控訴人の主張は,前記認定の限度で採用できるにとどまる。 2 以上によれば,被控訴人の予備的請求は,本件裁決における被控訴人に対する損失補償額を2億0305万4084円から2億1069万7872円に変更し,その差額である764万3788円及びこれに対する平成28年7月12日以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決は一部失当であって,本件控訴の一部は理由があるから,原判決を変更し,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官秋吉仁美 裁判官齊木利夫 裁判官篠原絵理(別紙省略)

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