- 1 -平成25年9月10日判決言渡平成24年(行ケ)第10424号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成25年8月6日判決 原告三菱重工業株式会社 原告株式会社日立プラントテクノロジー承継人株式会社日立製作所 原告ら訴訟代理人弁護士三村量一東崎賢治中島慧 被告株式会社新来島どっく 訴訟代理人弁理士大滝均 主文 特許庁が無効2011-800251号事件について平成24年10月26日にした審決中,「特許第4509156号の請求項6に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 - 2 - 事実 及び理由 第1 原告らの求めた判決主文同旨 第2 事案の概要本件は,特許無効審決の取消訴訟である。争点は,明確性要件,及びサポート要件である。 1 特許庁における手続の経緯発明の名称を「船舶」とする本件特許第4509156号(出願日:平成19年9月13日,登録日:平成22年5月14日)の特許権者は,審決時において,原告三菱重工 1 特許庁における手続の経緯発明の名称を「船舶」とする本件特許第4509156号(出願日:平成19年9月13日,登録日:平成22年5月14日)の特許権者は,審決時において,原告三菱重工業株式会社,株式会社日立製作所及び承継前原告株式会社日立プラントテクノロジーであった。 その後,原告株式会社日立製作所は本件特許の持分を放棄した後,承継前原告株式会社日立プラントテクノロジーを吸収合併して同社を包括承継した。現在は原告らが本件特許権者となっている。 被告は,平成23年12月6日,本件特許の請求項すべてについて無効審判を請求した(無効2011-800251号)。 本件特許について,平成24年3月26日付けで,特許請求の範囲の訂正請求(本件訂正,甲224)があった。この訂正の内容は,後記審決の理由の要点に示すが,請求項6を削除し,請求項7を6に繰り上げる訂正を含むものである。 特許庁は,平成24年10月26日,本件訂正を認めた上で,「特許第4509156号の請求項6に係る発明についての特許を無効とする。特許第4509156号の請求項1ないし5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年11月6日,特許権者に送達された。 - 3 - 2 本件発明の要旨本件発明の要旨は,平成24年3月26日付け訂正請求書(甲224)に添付した訂正特許請求の範囲に記載された下記のとおりである。 【請求項1】バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特 ラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とする船舶。 【請求項2】前記バラスト水処理装置が前記舵取機室内またはその空間に設けたデッキに配設されていることを特徴とする請求項1に記載の船舶。 【請求項3】前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースが使用されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船舶。 【請求項4】前記舵取機室は非防爆エリアであることを特徴とする請求項1に記載の船舶。 【請求項5】前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることを特徴とする請求項1に記載の船舶。 【請求項6】バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,- 4 -バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とする船舶。 (以下,請求項ごとに「本件発明1」などという。) 3 被告が審判で主張した無効理由被告が審判で主張した無効理由(訂正後に関するもの)は,以下のとおりである。 (1) 無効理由1(特許法29条の2)本件発明6は,甲1の1(特開2008-86892号公報)に記載の発明である。すなわち,本件特許の出願の日前の特許出願であつて本件特許出願後に特許出願公開公報が発行がされ,その出願公開前に手続補正がされていない特許出願の願書に最初に添付し 892号公報)に記載の発明である。すなわち,本件特許の出願の日前の特許出願であつて本件特許出願後に特許出願公開公報が発行がされ,その出願公開前に手続補正がされていない特許出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,かつ,本件特許の各請求項に係る発明者は当該特許出願に係る発明の発明者と同一の者ではなく,また,当該特許出願についての出願時の出願人と,本件特許に係る特許権者とは同一の者ではなく,特許法29条の2の規定に該当する。 (2) 無効理由2(特許法29条1項3号)本件発明6は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2の1に記載された発明と同一であるから,特許法29条1項3号の規定に該当する。 (3) 無効理由3(特許法29条2項)本件発明1~6は,甲2の1及び甲3に記載された発明に基づいて,本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。 (4) 無効理由4(特許法36条6項1号及び2号)本件発明6は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許され- 5 -たものであり,特許法36条6項1号の規定に該当し,又は,本件発明6の構成のうちの「非防爆エリア」が不明瞭であり,結局,本件発明6が明確でなく,特許法36条6項2号の規定に該当する。 4 審決の理由の要点審決は,無効理由1について「本件発明6は,甲1に記載された発明とはいえないから,特許法29条の2の規定に該当せず,これを無効とすることができない。」と判断し,無効理由2について「本件発明6は,甲2に記載された発明とは明らかに構成上相違しているから,甲2の1には,本件発明6と実質的に同一のものが記載 該当せず,これを無効とすることができない。」と判断し,無効理由2について「本件発明6は,甲2に記載された発明とは明らかに構成上相違しているから,甲2の1には,本件発明6と実質的に同一のものが記載されているとはいえないので,特許法29条1項3号の規定に該当するとはいえない。」と判断し,無効理由3について「本件発明1~6は甲2に記載された発明及び甲3,甲4,甲5の1に記載された事項から当業者が容易に想到することができたものとすることができないから,特許法29条2項の規定に該当せず,これを無効とすることができない。」と判断したが,無効理由4については,「本件発明6は,特許法36条6項1号の規定に違背する,又は,特許法36条6項2号の規定に違背することになり,特許法123条1項4号の規定により,無効とすべきものである。」と判断した。 本件訴訟で原告らが争う無効理由4に関する審決の判断の理由は,以下のとおりである。 (1)特許法36条6項1号についての審決判断本件発明6は,「バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されている」と訂正され,特に「バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアに配設されている」構成を特徴としている。 本件発明6におけるバラスト水処理装置20の設置場所について,「バラストポンプ13の近傍という観点では,バラスト水処理装置20を機関室8内に設置する- 6 -ことも考えられる。しかし,通常の船舶設計における機関室8内は,メンテナンスや操作性を考慮すると,特別な要件がある場合を除いて種々の機器類を配置する場所とされる。しかも,機関室8の内部は,通行性や作業性を考慮するとともに,機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要 ナンスや操作性を考慮すると,特別な要件がある場合を除いて種々の機器類を配置する場所とされる。しかも,機関室8の内部は,通行性や作業性を考慮するとともに,機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり,実質的には余分な空間は存在しない。従って,機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば,機関室8を大型化するように船殻設計を変更するなど,船体構造や船型の大幅な変更が必要となる。特に,既存船に適用する場合には,機関室8を改造してバラスト水処理装置20を設置することは,船体構造の大規模な改造工事が必要となる。このような改造工事は,コストや工事期間の増大を伴うものであるから,機関室8をバラスト水処理装置20の設置場所とすることには問題が多くきわめて困難である(本件明細書【0028】参照)」と記載されており,「舵取機室9は,機関室8の上部に配置された乗員の居住区7から近く,作業時等のアクセス面でも有利になる。このような観点から見ても,舵取機室9はバラスト水処理装置20の設置場所に適している。また,舵取機室9は船内空間であるから,海洋環境下における波浪や風雨に対する腐食対策を施す必要がなく,この点でもバラスト水処理装置20の設置場所に適している(同【0029】参照)」としていることからみて,本件特許の明細書の趣旨は,バラスト水処理装置20を機関室8ではなく舵取機室9に配設することが適するとしていることである。 そうすると,「非防爆エリア」という語は,当業者において「非危険区域」や「非危険区画」と解釈すると,「バラスト水処理装置」は船舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でもよいことになり,これは本件特許の明細書の趣旨からみて,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許されたことになり ,「バラスト水処理装置」は船舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でもよいことになり,これは本件特許の明細書の趣旨からみて,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許されたことになり,特許法36条6項1号の規定に違背し,特許法123条1項4号の規定により,無効とされるべきものである。 (2)特許法36条6項2号についての審決判断- 7 -本件明細書【0033】には「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある」と記載され,「非防爆エリア」という語は,当業者において「非危険区域」や「非危険区画」と解釈できるが,本件明細書には舵取機室9以外に具体的な場所を特定しているものではないので,「非防爆エリア」が具体的に船舶後方のどの区画を示しているのか不明瞭であり,特許法36条6項2号の規定に違背し,特許法123条1項4号の規定により,無効とされるべきものである。 第3 原告ら主張の審決取消事由 1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)(1) 審決は,特許法36条6項2号について,上記のとおり判断した。 しかし,訂正後の請求項6で用いられている「非防爆エリア」という用語は,防爆構造が要求されない領域を指すものであり,より具体的には,電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域をいう。このことは,以下の文献等によれば,当業者にとって技術常識であるから,「非防爆エリア」という用語の意義が明確であることは明らかである。 ア株式会社東芝が平成16年に発行した防爆形電磁流量計のカタログ(第2版)(甲208)には,次の記載がある。 「防爆形電磁流量計LF435/LF405形は,労働安全衛 は明らかである。 ア株式会社東芝が平成16年に発行した防爆形電磁流量計のカタログ(第2版)(甲208)には,次の記載がある。 「防爆形電磁流量計LF435/LF405形は,労働安全衛生法に基づき,IEC規格に整合した「電気機械器具防爆構造規格の技術的基準(労働省通達第556号)」(以下新技術的基準といいます)で示す爆発性,または引火性のガス/蒸気の発生する危険雰囲気で使用できる機器です。 ・・・・・・さらに専用の通信用端末機器であるハンドヘルドターミナルAF900形,また- 8 -はHARTコミュニケータModel375を使用すれば,非危険場所(非防爆エリア)からの測定値のモニタリング,設定,調整など各種遠隔操作が可能です。」上記記載によれば,「非防爆エリア」という用語が,本件特許の出願日(平成19年9月13日)以前から,引火性のガス/蒸気の発生する危険雰囲気ではない場所という意味で用いられていたことは明らかである。 イ被告の出願に係る登録実用新案公報第3053636号(平成10年4月28日出願)(甲209)には,次の記載がある。 「【実用新案登録請求の範囲】【請求項1】貨物タンク内の圧力を許容範囲内に制御する通風装置に加え,本質安全防爆型の計装システムに圧力システムを組み込み,信号送信は同一の電線で送信を行い,貨物タンク内の圧力を電気的にも常時,監視をしようとする弱電回路の圧力システムを設けることを特徴とする貨物タンク内圧力監視装置。」上記登録実用新案公報に係る考案は,「液体油送船の貨物タンクに装備される貨物タンク内圧を監視する装置に関するもの」(【0010】)であり,本件発明6と同じ船舶の分野に関するものである。 上記記載によれば,「防爆」という用語が,本件特許の出願日(平成19年 装備される貨物タンク内圧を監視する装置に関するもの」(【0010】)であり,本件発明6と同じ船舶の分野に関するものである。 上記記載によれば,「防爆」という用語が,本件特許の出願日(平成19年9月13日)以前から,船舶の分野で用いられていたことは明らかである。 また,川崎重工業株式会社の出願に係る特開2009-130906号公報(甲210)には,次の記載がある。 「【0002】引火性ガス雰囲気等の危険区域である防爆エリア内で使用される本質安全防爆構造の機器に対して,防爆エリア外に設置された外部装置から信号を送信する際には,電流・電圧制限回路を備えたバリア装置が使用される(例えば,特許文献1参照。)。」上記記載によれば,「防爆エリア」という用語は,引火性ガス雰囲気等の危険- 9 -区域を意味するものとして用いられていることが理解できる。 ウ昭和44年に社団法人日本海難防止協会によって発行された『海と安全/11(VOL.3.NO.11:NOV.‘69)』(甲104)には,次の記載がある。 「原油やガソリンのように,揮発分の多い液体を輸送するタンカーでは,ふつう,危けんガスはベントラインを通つて大気中に拡散される(10頁)・・・・・・ベントラインの放出口の配置は,そのふきんのガスの拡散を効果的に行なうと同時に,船全体の配置を考えて,できるだけ,危けんガスが居住区などの非防爆区画に侵入しないように注意するのは当然であろう。(11頁)・・・・・・万一,上甲板上の区画が開放されていた場合,ガスがしだいに侵入して室内に滞留し,知らない間に,高い濃度になる場合が,全然ないとはいえない。とくに,区画が,上甲板上から低部に位置すると,比重の重いガスがしだいに蓄積されてゆくものと考えられる。したがって,少 入して室内に滞留し,知らない間に,高い濃度になる場合が,全然ないとはいえない。とくに,区画が,上甲板上から低部に位置すると,比重の重いガスがしだいに蓄積されてゆくものと考えられる。したがって,少なくとも,上甲板上の第一層の区画,および上甲板から下方に位置する藪囲区画(上甲板より出入する)は,出入口の閉鎖方法とともに,通風に対して十分考えるべきであって,もし十分な通風が行なえないときは,防爆区画としての対策を考えるべきであろう。(12頁)」このように,甲104には,原油やガソリンなどの危険ガスを「非防爆区画」に侵入させてはならないこと,比重の重いガスが蓄積され得る区画について,十分な通風が行えない場合には「防爆区画」としての対策を考えるべきであることが記載されている。 上記記載によれば,遅くとも甲104が発行された昭和44年の時点において,「防爆区画」という用語は,爆発性混合気を生じるおそれのある区画を指し,「非防爆区画」という用語は,爆発性混合気が存在しない区画(すなわち,設置,使- 10 -用等される電気機器について特別な対策が施されていない区画)を指すものであったことは,明らかである。 エ昭和53年に発行された『商船設計の基礎知識下巻』(甲211)402頁には,次の記載がある。 「直接危険ガスにさらされるおそれのある区画を防爆区画と称し,貸油槽内,上甲板上,ポンプ室内および同エントランスは全面的に防爆区画(域)とされ,そこに設けられる電気装置はすべて防爆規定を満足したものでなければならない。また機関室内,居住区域は荷役中外舷への出入口を通行時以外は閉鎖し,かつ十分換気されているので非防爆区画とされ,そこにおかれる電気装置は特に防爆を考慮しなくても一般の舶用電気品でよいとされている。」上記記載のと 域は荷役中外舷への出入口を通行時以外は閉鎖し,かつ十分換気されているので非防爆区画とされ,そこにおかれる電気装置は特に防爆を考慮しなくても一般の舶用電気品でよいとされている。」上記記載のとおり,遅くとも甲211が発行された昭和53年の時点において,「防爆区画(域)」という用語が直接危険ガスにさらされるおそれのある区画を意味するものであり,また,「非防爆区画」という用語が「防爆区画(域)」ではない区画を意味するものであったことは,明らかである。 オ財団法人日本海事協会(日本海事協会)発行の「鋼船規則 H編電気設備」(甲102)には,次の記載がある。 「1.1.5 用語本編で使用される用語の意味は,次のとおりとする。 (1)危険場所とは,引火又は爆発しやすい物質が置かれる場所及び同場所から発生するガス又は蒸気が侵入して爆発性混合気を生じるおそれのある次の区画又は区域をいう。 ・・・・・・(2)非危険場所とは,電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域をいう。(1頁)・・・・・・- 11 -2.16.2防爆構造の種類船舶の危険場所において使用する防爆形電気機器は,次に掲げる防爆構造の中から選定されなければならない。(31頁)」上記引用の記載によれば,「防爆」という用語が一般的に使用されているものであること,船舶の危険場所において使用する「防爆形電気機器」は,複数の「防爆構造」の中から選定されなければならないことが理解できる。 そして,「鋼船規則 H編電気設備」は,船級協会である日本海事協会が定めたものであり,船級協会である日本海事協会の検査に合格するために遵守しなければならないのであるから,遅くとも甲102の発行日である て,「鋼船規則 H編電気設備」は,船級協会である日本海事協会が定めたものであり,船級協会である日本海事協会の検査に合格するために遵守しなければならないのであるから,遅くとも甲102の発行日である平成19年4月の時点において,上記の内容が当業者にとって技術常識であったことは明らかである。 カ財団法人日本規格協会発行の『JIS 船用電気設備-第502部:タンカー-個別規定』(甲103)4~5頁には,次の記載がある。 「3.15危険区域(hazardousarea)電気機器の構造,設置及び使用について特別な対策を必要とするほどの量の爆発性雰囲気が存在するか,又は存在するおそれのある区域・・・3.20非危険区域(non-hazardousarea)電気機器の構造,設置及び使用について特別な対策が必要となるほどの量の爆発性雰囲気が存在すると予想できない区域3.25防爆構造“n”(protection “n”)通常の操作において周囲の爆発性雰囲気への発火の可能性がなく,発火の要因となる故障を生じるおそれのない防爆構造(4~5頁)」上記記載のとおり,JIS規格においても,「鋼船規則 H編電気設備」と同様の内容で,「危険区域」及び「非危険区域」の定義がなされて,「防爆構造」という用語が用いられており,「防爆」ないし「防爆構造」という用語も,「危- 12 -険区域」,「非危険区域」と同様,当業者にとって一般的なものである。 (2) 「非防爆エリア」が具体的に船舶のどの区画を示しているのかも,当業者にとって明確な事項である。 ア 「鋼船規則 H編電気設備」2頁の記載によれば,タンカー,液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船については,危険場所(防爆エリア)を示す図面を提出することが義務付けられている。この 。 ア 「鋼船規則 H編電気設備」2頁の記載によれば,タンカー,液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船については,危険場所(防爆エリア)を示す図面を提出することが義務付けられている。このことから,当業者にとって具体的に船舶のどの区画が危険場所(防爆エリア)に該当するのかが明確であることは,明らかである。 また,「鋼船規則 H編電気設備」の「4.2.3危険場所」(44頁),「4.3.1危険場所の分類」(46頁),「4.4.1危険場所の分類」(47頁),「4.5.1危険場所の分類」(47頁),「4.6.1危険場所の分類」(47~48頁),「4.7.1危険場所の分類」(48~49頁)の記載によれば,「鋼船規則 H編電気設備」においては,タンカー,液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船の各船種に応じて,危険場所の指定に関する規則が詳細に定められている。さらに,「鋼船規則検査要領 H編電気設備」(甲102)の45~47頁では,「鋼船規則 H編電気設備」の「4.3.1」及び「4.7.1」に掲げる危険場所の例が具体的に図示されている。 イ JIS規格の規定「JIS 船用電気設備-第502部:タンカー-個別規定」(甲215)の「4.危険区域の種類」(5~10頁)では,危険区域の分類について詳細な規定が定められている。また,危険区域の分類の例が,附属書A~E(23~34頁)において具体的に図示されている。さらに,「10.1.1」(20頁)では,「タンカーの危険区域は,危険区域分類図として文書化しなければならない」と規定されており,JIS規格においても,タンカーの危険区域を危険区域分類図として文書化することが義務付けられている。 - 13 -また,危険区域の分類は,『爆発性雰囲気で使用する電気機械器具-第10部: り,JIS規格においても,タンカーの危険区域を危険区域分類図として文書化することが義務付けられている。 - 13 -また,危険区域の分類は,『爆発性雰囲気で使用する電気機械器具-第10部:危険区域の分類』(甲216)においても詳細に定められている。 (3) 以上のとおり,「非防爆エリア」という用語の意義は明確であり,かつ,これが具体的に船舶のどの区画を示しているのかも明確であるから,訂正後の請求項6の記載は,特許法36条6項2号に違反しない。 2 取消事由2(サポート要件についての理由不備ないし判断の誤り)(1) 審決の理由不備審決は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを何ら対比することなく,また,本件発明の課題すら認定せずに,「本件特許の明細書の趣旨からみて」とだけ述べて,特許法36条6項1号違反という結論を導いている。 このように,審決は,結論を導くための理由を全く付しておらず,明らかな理由不備が存在するから,重大な違法性を有するものとして取消しを免れない。 (2) 審決の判断の誤り以下に述べるとおり,本件発明6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,特許法36条6項1号に違反しない。 ア本件明細書には,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設することにより,本件発明の課題を解決できることが記載されていること(ア)本件発明の課題発明の課題は,明細書全体の記載を参酌して認定されるところ,本件明細書の【0005】~【0007】には,バラスト水処理装置が大型化する傾向にある中で,①海洋環境下での波浪・風雨に対する耐食性の確保,②貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載 て認定されるところ,本件明細書の【0005】~【0007】には,バラスト水処理装置が大型化する傾向にある中で,①海洋環境下での波浪・風雨に対する耐食性の確保,②貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載に伴う危険区画等からの隔離,③船尾の機関室に配置されるバラストポンプ近傍に設けられた取水口からバラスト水処理装置までの距離の短縮といった観点から,船舶にバラスト水処理装置の適当な設置場所を確保するこ- 14 -とが困難な状況にあったことが記載されている。 また,本件明細書には,バラスト水処理装置の配設場所について,乗員の居住区から近くに配設すれば,作業時等のアクセス面で有利になること(【0029】),船舶の吃水より上方に配設すれば,緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点があること(【0033】)なども記載されている。 以上によれば,本件発明は,船舶にバラスト水処理装置の適当な設置場所を確保することが困難であるという状況下において,船舶におけるバラスト水処理装置の適切な設置場所を提供することを課題とするものということができる。 (イ)本件明細書【0033】の記載a 本件明細書【0033】の記載の意味本件明細書の【0033】には,「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載がある。この記載は,当業者が読めば,「舵取機室9は非防爆エリアであるから,バラスト水処理装置を構成する各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という意味であると当然に理解することができる。すなわち,バラスト水処理装置は各種の制御機器や電気機器類によって構成されるところ,バラスト水処理装置を非防爆エリア(非危険場所)に配設する場合には,防爆エリ 味であると当然に理解することができる。すなわち,バラスト水処理装置は各種の制御機器や電気機器類によって構成されるところ,バラスト水処理装置を非防爆エリア(非危険場所)に配設する場合には,防爆エリア(危険場所)に配設する場合と比較して,その制御機器や電気機器類についての制約が少なくて済むという利点があるということを理解する。 財団法人日本海事協会が発行した「鋼船規則 H編(2006年版)」(甲101)の「2.16.3材料」,「2.16.4構造」,「2.16.5基準周囲温度」,「2.16.6個別要件」(30~31頁)の記載によれば,防爆エリアに配設される電気機器(防爆構造の電気機器)は,材料や構造等について厳しい要件を充足しなければならない。本件明細書の【0033】にいう「各種制御機器や電気機器類の制約」とは,このことを意味するものである。そして,防- 15 -爆エリアに配設される電気機器(防爆構造の電気機器)が上記のような要件を充足しなければならないことは当業者の技術常識であるから,本件明細書【0033】の「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載を当業者が読めば,ここには,①バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設する場合には,バラスト水処理装置を構成する各種制御機器や電気機器類の制約が少なくて済むというメリットがあるという事項と,②舵取機室は非防爆エリアであるから,バラスト水処理装置を舵取機室に配設すれば,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設した場合のメリットを享受することができるという事項が併せて記載されていると当然に理解することになる。逆に,技術常識を理解している当業者が,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」のことを,バラスト水処 受することができるという事項が併せて記載されていると当然に理解することになる。逆に,技術常識を理解している当業者が,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」のことを,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設した場合に共通する利点ではなく,舵取機室に配設した場合に特有の利点であると理解することは,あり得ない。 b 【0033】の記載と本件発明の課題との関係バラスト水処理装置を防爆エリアに配設した際に,バラスト水処理装置を構成する各種制御機器や電気機器類について厳しい要件を充足しなければならないという上記の制約が生じる結果として,①バラスト水処理装置が大型化する,②バラスト水処理装置の製造コストが高くなる,③バラスト水処理装置の納期が長くなるといったデメリットが生じることになる。 なぜなら,バラスト水処理装置を防爆エリアに配設するためには,装置電気品部分について可燃ガスの侵入を最小限にすること,万一発火した場合でも内部に火炎を封じ込めて延焼起爆を防止することが必要となる。そのため,防爆エリアに配設する場合には,非防爆エリアに設置する場合と比較して,機器の通気隙間を小さくする,外装・蓋類を爆発に耐える強固なものとする,外部との換気を遮断する等といった処置が必要となり,制御盤・変圧・電源設備においては,外部- 16 -冷却装置を具備する等の対策を施さなければならない。このような対策を施すことにより,バラスト水処理装置は大型化し,また,製造コストは高くなってしまうことになる。また,防爆仕様の場合には,一品一品について個別の検査に合格することが必要となるため,業者に発注してから納品されるまでの納期が相当長期となる(甲217)。そして,このように,通常のバラスト水処理装置と防爆構造のバラスト水処理装置との間で, 個別の検査に合格することが必要となるため,業者に発注してから納品されるまでの納期が相当長期となる(甲217)。そして,このように,通常のバラスト水処理装置と防爆構造のバラスト水処理装置との間で,大きさ,コスト及び納期について差異が生じることは,当業者であれば当然に理解している事項である。 甲218,甲219を見ると,防爆構造のモーターは,通常のモーターと比較して赤枠部分の部品が大型化しており,その分だけ全体のサイズが大きくなっていることが分かる。このモーターは,「耐圧防爆」という種類の防爆構造を備えるものであり,容器内部で爆発性ガスの爆発が起こった場合に,容器がその圧力に耐え,かつ外部の爆発性ガスに引火するおそれがないよう,通常のモーターと比較して上記の部分が大型化している。そして,一つのバラスト水処理装置には十数個のモーターが使用されるため,バラスト水処理装置の全体の大きさは,結果的に相当程度大きくなってしまうことになる。 甲220を見ると,防爆構造のリード式レベルセンサには上方に大きな具材が装着されていることが分かる。このリード式レベルセンサも,防爆構造のモーターと同様,「耐圧防爆」という種類の防爆構造を備えるものであり,上方に大きな具材が装着されている理由は,モーターについて述べたのと同様である。 バラスト水処理装置において,モーターは,例えばバラストポンプ駆動やフィルタ切替えのために用いられており,リード式レベルセンサは,例えばバラスト水や薬液のレベル検知に用いられている。 このように,通常の電気機器であれば,防爆構造の電気機器において必要となる構造を備える必要がなくなるため,全体のサイズを小さくすることができる。 また,防爆構造の電気機器の製造コストは安くなり,納期も短縮することが可能- 17 -となる。この 気機器において必要となる構造を備える必要がなくなるため,全体のサイズを小さくすることができる。 また,防爆構造の電気機器の製造コストは安くなり,納期も短縮することが可能- 17 -となる。このことは,当業者であれば当然に理解している技術常識である。 したがって,当業者が,本件明細書【0033】の「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載に接すれば,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設することによって,それを構成する各種制御機器や電気機器類として防爆構造のものを使用する必要がなくなり,その結果,バラスト水処理装置のサイズを小型化し,製造コストを減少させた上で,納期も短くすることができるという効果を奏することを理解する。そして,そのような効果を奏する非防爆エリアが,バラスト水処理装置の配設場所として適切であるということを認識することになる。 それゆえ,本件明細書【0033】の「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載に接した場合,当業者は,訂正後の請求項6に記載された構成(すなわち,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設するという構成)により,バラスト水処理装置のサイズを小さくすることができるため,「船体設計の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船に設置する場合はもとより,既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能」(【0007】)となり,船舶におけるバラスト水処理装置の適切な設置場所を提供するという本件発明の課題が解決されることを認識することができる。 (ウ)本件明細書【0006】の記載本件明細書の【0006】には,「バラスト水処理装置を船内に配置する場合,貨物積載量 するという本件発明の課題が解決されることを認識することができる。 (ウ)本件明細書【0006】の記載本件明細書の【0006】には,「バラスト水処理装置を船内に配置する場合,貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載に伴う危険区画等を考慮すると,船体中央部分に配置することを避け,船首または船尾に配置することが望ましい。」と記載されている。「危険区画」とは「防爆エリア」と同義であるから,上記の記載を当業者が読めば,バラスト水処理装置は防爆エリアを避けて(すなわち非防爆エリアに)配置することが望ましいということを理解することができる。したが- 18 -って,本件明細書【0006】の上記記載に接した場合,当業者は,訂正後の請求項6に記載された構成(すなわち,バラスト水処理装置を非防爆エリアに配設するという構成)により,船舶におけるバラスト水処理装置の適切な設置場所を提供するという本件発明の課題が解決されることを認識することができる。 イ本件明細書には,バラスト水処理装置を機関室に配設することを排除する旨の記載はないこと本件明細書には,バラスト水処理装置を舵取機室内に配設する構成が実施例として記載されているが,これはあくまでも「発明を実施するための最良の実施形態」として例示されているものにすぎない。そして,【0028】の記載は,一般論として,機関室はバラスト水処理装置の設置場所として望ましくない場合が多いことを記載したものにすぎず,あらゆる船舶構造についてバラスト水処理装置を機関室に配設することを排除するものではない。【0028】は,通常の船舶設計における機関室には余分な空間がないことを理由として,機関室にバラスト水処理装置を設置することは困難であると述べているにすぎず,機関室に特有の技術的な問題等を指摘しているわけでは は,通常の船舶設計における機関室には余分な空間がないことを理由として,機関室にバラスト水処理装置を設置することは困難であると述べているにすぎず,機関室に特有の技術的な問題等を指摘しているわけではなく,スペースの観点から,機関室にバラスト水処理装置を配設するのは困難な場合が多いという一般論を述べるものにすぎない。これに対し,実際には,舵取機室と同様に,バラスト水処理装置の配設が可能なスペースを有する機関室も存在するのであるから,【0028】の記載は,バラスト水処理装置を機関室に配設することを排除するものではない。 特に,本件発明の課題との関係で言えば,ある空間が,バラスト水処理装置の配設場所として適当であるかどうかにおいては,当該空間がどのような性質を有しているかが重要なのであって,当該空間にどういう名称が付されているかは問題ではない。 ウ本件明細書の記載は,バラスト水処理装置を舵取機室に配設する構成に限定するものではないこと- 19 -舵取機室がバラスト水処理装置を配設する上で最適の場所である理由について,本件明細書の【0026】,【0029】~【0031】,【0033】の記載によると,バラスト水処理装置を舵取機室に配設する利点は,①舵取機室の内部には,バラスト水処理装置の設置が可能となる大きな設置空間を容易に確保することができること,②舵取機室は,機関室の上部に配置された乗員の居住区から近く,作業時等のアクセス面でも有利であること,③舵取機室は船内空間であるから,海洋環境下における波浪や風雨に対する腐食対策を施す必要がないこと,④バラスト水処理装置がバッファタンクを必要とする方式の場合,近傍にあるボイドに設置されるアフト・ピーク・タンク等をバッファタンクとして利用することができること,⑤舵取機室は船舶の吃水線より こと,④バラスト水処理装置がバッファタンクを必要とする方式の場合,近傍にあるボイドに設置されるアフト・ピーク・タンク等をバッファタンクとして利用することができること,⑤舵取機室は船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部より下方に位置すること,⑥舵取機室は,バラストポンプが設置される機関室に隣接して近いため,処理装置入口側配管系統及び処理装置出口側配管系統に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくて済み,バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができること,⑦舵取機室は非防爆エリアであることから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくて済むことにある。①~⑦は,バラスト水処理装置の設置場所を選定する上での考慮要素を示すものであり,より多くの項目を満たすほど望ましいということができるが,他方で,バラスト水処理装置の設置場所としての必須要件として記載されているわけではない。すなわち,舵取機室は,これらの条件を全て充足する区画であるから,バラスト水処理装置を配設する上で最適の場所であるとされているにすぎず,本件明細書の記載は,舵取機室以外の場所にバラスト水処理装置を配設することを排除するものではない。 本件発明6は,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が,(A)船舶後方の非防爆エリアで,(B)船舶の吃水線より上方,かつ,(C)バラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とするものであるところ,- 20 -これらの要件により,上記①~⑦の大部分(少なくとも③,⑤,⑦)の利点を享受することができることは,当業者が,本件明細書の記載に基づき,容易に理解できる。 エ小括上記のとおり,本件発明6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の 者が,本件明細書の記載に基づき,容易に理解できる。 エ小括上記のとおり,本件発明6は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,訂正後の請求項6の記載は,特許法36条6項1号に違反しない。 第4 被告の反論 1 取消事由1(明確性要件についての判断の誤り)に対し(1) 審決の「本件明細書には舵取機室9以外に具体的な場所を特定しているものではない」との認定について本件明細書(甲224)の【0019】, 【0025】~【0033】に記載された事柄は全て,「バラスト水処理装置20の舵取機室9への配設」を明示する記載であるか,「バラスト水処理装置について機関室8への配設」との比較において,「バラスト水処理装置を舵取機室に配設することが適する」との記載である。バラスト水処理装置の機関室への配設を排除するものとも読める箇所もある。 これに対し,本件明細書には,バラスト水処理装置を舵取機室以外の場所に配設することについての具体的な記載はなく,舵取機室以外の場所が最適であるとか,優位であるとする記載もない。 したがって,審決の,「本件明細書には舵取機室9以外に具体的な場所を特定しているものではない」との認定は正しい。 (2) 審決の「『非防爆エリア』が具体的に船舶後方のどの区画を示している- 21 -のか不明瞭である」との認定についてア 「危険区画」「危険場所」の語については,JIS規格4.1.1. 1(甲103,215)の記載の外,鋼船規則H電気設備(甲102)の1頁,31頁,4~49頁ほかに詳細にこと細かに記載されている一方,「非危険場所」,「非危険区域」の語については,鋼船規則(甲10 1(甲103,215)の記載の外,鋼船規則H電気設備(甲102)の1頁,31頁,4~49頁ほかに詳細にこと細かに記載されている一方,「非危険場所」,「非危険区域」の語については,鋼船規則(甲102の1頁)やJIS規格(甲103の4頁)の僅か2カ所に注意的に記載されているにすぎない。 鋼船規則(甲102,214)やJIS規格(甲103,215)の規定の仕方は,この種の概念を規定する場合そうであるように,まず,積み荷等の漏洩ガスからの爆発のおそれのあるエリアを「危険区画・危険区域」と定義し,そこでは,防爆形の電気機器類を使用しなければならないと規定し,それらの危険区画・危険区域については,さらにこと細かに種別を分けてまで規定するのに対し,その反対概念であるそれ以外のエリアの「非危険区画」「非危険区域」については,それが具体的にどの場所を指し示すかなどについては積極的に規定していない。 したがって,「爆発性混合気が存在しない区画又は区域」,「爆発性雰囲気が存在すると予想できない区域」の記載から,「非防爆エリア」の用語が当業者に明確であるとの原告の主張は誤りである。 イ日本舶用機関学会誌(1968-4 Vol.3 no.2)(乙2)の20頁右欄の記載は,「危険場所」「危険区画」について,鋼船規則(甲102,214)等では統一されつつあるが,実際問題としては,「危険区画」となるか否か,解釈上の相違があり,また,同一表現であっても見解の差があり,一義的に定まるものではないことを示している。 したがって,「危険区画」である「防爆エリア」でさえ一義的に定まるものではないのであり,ましてこれの反対概念である「非防爆エリア」の用語が当業者に明確であるとの考えは誤りである。 - 22 -ウ日本海事協会機関部主管A氏作成の電 でさえ一義的に定まるものではないのであり,ましてこれの反対概念である「非防爆エリア」の用語が当業者に明確であるとの考えは誤りである。 - 22 -ウ日本海事協会機関部主管A氏作成の電子メールでも,「『非防爆エリア』という表現については,単独で使用される場合,適格な表現とは言えませんが,前後の防爆に関する内容に対比する形で使用されるものであれば,言葉のバリエーションの範囲として,上記の内容が理解できるものと考えます。」(甲221) と述べられている。 本件との関係で見れば,前述したように,本件特許の出願当初の明細書(乙1)には,「非防爆エリア」の用語については,「また,舵取機室9は,非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくて済むという利点もある(当初明細書【0030】)」と,ただ一か所のみの記載があり,その後の特許審査における平成22年3月24日付け手続補正書(甲223)では,請求項7に格上げすると共に【0012】,【0013】,【0014】に拡張的に追加され,本件明細書(甲224)には,「非防爆エリア」の語は4カ所使用されているように見えるが,実質は当初の一か所の「舵取機室9は,非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくて済むという利点もある(【0030】)」の一文を拡張的に焼き直したに過ぎず,この当初の一か所の記載は,A氏電子メール(甲221)で指摘するところの「単独で」使用される場合に外ならず,したがって,A氏の指摘によれば,適格な表現とは言えず,「非防爆エリア」の語が,当業者に明確であるとはいえない。 エ 「危険区画」「防爆エリア」の語が明確であるとしても,その反対概念であり,単なる機能的な表現に過ぎない「非防爆エリア」の語から船舶構造上特定の場所が明確となるこ 明確であるとはいえない。 エ 「危険区画」「防爆エリア」の語が明確であるとしても,その反対概念であり,単なる機能的な表現に過ぎない「非防爆エリア」の語から船舶構造上特定の場所が明確となることはあり得ない。「危険区画」「防爆エリア」の用語は,単に船舶における積載貨物等からの漏洩ガスへの電気機器からの引火・爆発の危険を避けようとする趣旨で規定されてきたものであり(甲102,103,204),「非防爆電気機器の使える区画(甲221)」を示す機能的表現に過ぎず,本来的に船舶構造における具体的な特定の場所を指すものではない。 - 23 -原告らの主張によれば,船種の如何を問わず,①「船首係船甲板」,②「船首部分バラストタンク/ボイドスペース」,③「貨物倉部分上甲板」,④「貨物倉周辺バラストタンク/ボイドスペース」,⑤「居住区」,⑥「居住区周辺上甲板」,⑦「機関室」,⑧「機関室内バラストタンク/ボイドスペース」,⑨「エンジンケーシング(含む煙突)」,⑩「船尾部係船甲板」,⑪「舵取機室」,⑫「舵取機室周囲バラストタンク/ボイドスペース」の合計12カ所の場所は「非防爆エリア」である。 しかし,これらのうち,⑪舵取り機室は,本件発明6の課題解決に応ずることができ,その結果,発明の効果も奏することができる(【0007】,【0015】)が,その他の場所,すなわち「舵取機室」以外は,本件発明6の課題解決たり得ない(乙3)。 すなわち,①船首係船甲板は暴露甲板,つまり,船外であり,本件明細書(甲224)の【0006】(1)の「船内設置」に反し,発明の課題解決になり得ない。 ②船首部分バラストタンク/ボイドスペースは,船首部分であるため,取水口から船首まで長距離の配管が必要となり,【0006】(3)の「長距離配管」に反し,発明の解決課題 の課題解決になり得ない。 ②船首部分バラストタンク/ボイドスペースは,船首部分であるため,取水口から船首まで長距離の配管が必要となり,【0006】(3)の「長距離配管」に反し,発明の解決課題なり得ない。また,没水型のバラスト水処理装置は現在のところ存在しないので,バラストタンク内にバラスト水処理装置を設けることはできず,【0007】の「大幅設計変更」に反し,発明の課題解決になり得ない。 さらには,船首部分バラストタンク/ボイドスペースは,メンテナンスのために人が行き来する必要があるため,囲まれたスペースであるボイドスペースにバラスト水処理装置を設けることはできず,【0007】の「大幅設計変更」に反し,発明の課題解決になり得ない。 ③貨物倉部分上甲板は,暴露甲板,つまり,船外であり,本件明細書の【0006】(1)の記載の「船内設置」に反し,発明の課題になり得ない。 - 24 -④貨物倉周辺バラストタンク/ボイドスペースに関しては,没水型のバラスト水処理装置は存在しないので,バラストタンク内にバラスト水処理装置を設けることはできないので,【0007】の記載に反し,さらには,この場所は,メンテナンスのために人が行き来する必要があるため,囲まれたスペースであるボイドスペースにバラスト水処理装置を設けることはできないので,同様に,【0007】の記載に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑤居住区は,船内であるが,バラスト水処理装置を設けるスペースがないのが通常であり,また,改造して設置するとすれば,大幅な設計変更が必要となり,【0007】に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑥居住区周辺上甲板は,暴露甲板,つまり,船外であり,本件明細書(甲224)の【0006】(1)に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑦機関室は,船内であ に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑥居住区周辺上甲板は,暴露甲板,つまり,船外であり,本件明細書(甲224)の【0006】(1)に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑦機関室は,船内であるが,通常はバラスト水処理装置のような大きな設備を設けるスペースがないので,設置できず,既存の船舶を改造する場合には容易に設置することができず,大幅な設計変更を必要とし,【0007】に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑧機関室バラストタンク/ボイドスペースへのバラスト水処理装置の設置は,現在のところ,没水型の装置は存在しないので,バラストタンク内にバラスト水処理装置を設けることはできず,【0007】に反する。また,囲まれたスペースであるボイドスペースは,メンテナンスのために人が行き来する必要があるため,バラスト水処理装置を設けることはできないので,この点でも【0007】に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑨エンジンケーシング(含む煙突)は,船内であるが,バラスト水処理装置を設けるスペースがないので,大きな設備であるバラスト水処理装置を設置することはできず,既存の船舶を改造して設置する場合には容易に設置することができず,大改造を必要とするので,【0007】に反し,発明の課題解決になり得な- 25 -い。 ⑩船尾部係船甲板は,暴露甲板,つまり,船外であり,【0006】(1)に反し,発明の課題解決になり得ない。 ⑫舵取り機室周囲バラストタンク/ボイドスペースへのバラスト水処理装置の設置は,現在のところ,没水型のバラスト水処理装置は存在しないので,バラストタンク内にバラスト水処理装置を設けることはできず,【0007】に反する。 また,ボイドスペースは,メンテナンスのために人が行き来する必要があるため,囲まれたスペースであるボイドス ないので,バラストタンク内にバラスト水処理装置を設けることはできず,【0007】に反する。 また,ボイドスペースは,メンテナンスのために人が行き来する必要があるため,囲まれたスペースであるボイドスペースにバラスト水処理装置を設けることはできないので,【0007】に反し,発明の課題解決になり得ない。 以上のとおり,本件明細書の発明の解決課題及び発明の効果の記載を参酌しても,本件発明6のバラスト水処理装置の配設について,船舶舵取機室以外の場所に配置しても,本件発明6の課題を解決することはできず,また,発明の効果も奏することはできない(乙3)。したがって,本件明細書(甲224)に記載の発明の解決課題及び発明の効果の記載から見ても,「『非防爆エリア』にバラスト水処理装置を設置」というだけでは,「舵取機室」を除けば,船舶構造のうちの具体的な場所を特定することはできない。 これらのことから,船舶構造において,「非防爆エリア」の用語から,船舶構造のうちの他の具体的な場所を特定することはできない。 オ小括これらの結果,「「非防爆エリア」が具体的に船舶後方のどの区画を示しているのか不明瞭である」との審決認定は正しい。 2 取消事由2(サポート要件についての理由不備ないし判断の誤り)に対し(1) 審決の,「(本件明細書【0028】【0029】の記載)からみて,本件特許の明細書の趣旨は,バラスト水処理装置20を機関室8ではなく舵取機室9に配設することが適するとしていることである」との認定について- 26 -【0028】の「バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。」の文に続く「しかし,・・・」で連なる文章は,「しかし」の文の前後で逆の意味を示唆する。したがって,普通に読む限り,「しかし」の語に連なる ト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。」の文に続く「しかし,・・・」で連なる文章は,「しかし」の文の前後で逆の意味を示唆する。したがって,普通に読む限り,「しかし」の語に連なるのは,「バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することは考えられない。」と記載されていると見るのが論理的に自然な読み方である。 当該記載の後ろに続く,①「通常の船舶設計における機関室8内は,メンテナンスや操作性を考慮すると,特別な要件がある場合を除いて種々の機器類を配置する場所とされ,設置スペースに難がある」こと,そして,「しかも」に続いて,②「機関室8の内部は,通行性や作業性を考慮するとともに,機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり,実質的には余分な空間は存在しない」ことが記載され,これは,バラスト水処理装置の機関室設置が困難であることの理由が記載されている。 さらに続けて,上記理由①②の結論として,③「機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば,機関室8を大型化するように船殻設計を変更するなど,船体構造や船型の大幅な変更が必要となる」,④「特に,既存船に適用する場合には,機関室8を改造してバラスト水処理装置20を設置することは,船体構造の大規模な改造工事が必要となる」とし,その結果,⑤「機関室8をバラスト水処理装置20の設置場所とすることには問題が多くきわめて困難である」として,バラスト水処理装置の機関室設置が困難であることの理由が記載されている。 これらの記載されている理由は,「問題が多くきわめて困難」,すなわち,通常の場合には,実現がほとんど不可能に近いことを意味し,バラスト水処理装置の機関室配設排除と理解できる。 この「きわめて困難な事柄」を否定するためには,通常 問題が多くきわめて困難」,すなわち,通常の場合には,実現がほとんど不可能に近いことを意味し,バラスト水処理装置の機関室配設排除と理解できる。 この「きわめて困難な事柄」を否定するためには,通常,打破する特別の事情でも記載されてない限り,当該「困難」の克服はできないものと解するのが通常- 27 -であるが,その観点から,本件明細書の全記載を検討してみても,「困難を打破する事情」についての記載はない。 【0028】に続く【0029】には,⑥「舵取機室9は,機関室8の上部に配置された乗員の居住区7から近く,作業時等のアクセス面でも有利になる」,⑦「このような観点から見ても,舵取機室9はバラスト水処理装置20の設置場所に適している」,⑧「舵取機室9は船内空間であるから,海洋環境下における波浪や風雨に対する腐食対策を施す必要がなく,この点でもバラスト水処理装置20の設置場所に適している」として,バラスト水処理装置の舵取機室への配設の優位の上記理由⑥~⑧を記載している。 上記記載から,本件発明6の出願時には,明細書起草者の意図は,当初から舵取機室配置のみを考慮し,機関室配置は意識の外にあったと見ることができる。 つまり,本件明細書では,「バラスト水処理装置20を機関室ではなく,舵取機室9に配設することが適している」として,舵取機室配置を第一義的に考慮していたと見ることができ,審決判断に誤りはない。 (2) 審決の,「そうすると,「非防爆エリア」という語は,当業者において「非危険区域」や「非危険区画」と解釈すると,「バラスト水処理装置」は船舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でもよいことになる」との認定について本件明細書の【0028】,【0029】の記載は,上述のとおり,バラスト水処理装置を機関室に配設することは,否定 舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でもよいことになる」との認定について本件明細書の【0028】,【0029】の記載は,上述のとおり,バラスト水処理装置を機関室に配設することは,否定ないし排除している。その理由は,上述の訂正明細書の記載から読めることに加え,本件発明6の解決課題の記載(【0006】),【0033】の記載が,舵取機室を離れた独立した議論となる読み方もできないことが根拠となる。 特許権者は,特許審査の過程で,「早期審査に関する事情説明書(甲2の2)」を提出し,本件発明と文献1(特開2006-272147号公報(甲203))- 28 -の図2の開示と対比し,「文献1に開示のものが「バラスト水処理装置」を船尾機関室4に設けたものであるのに対し,本件発明は,舵取機室9内にバラスト水処理装置20を備えたものである」との本件発明の特徴を主張して特許を得ている。すなわち,バラスト水処理装置の機関室配設は,特許権者が出願過程において意識的に除外したものに外ならない。ところが,特許を得るや否や,原告らは,機関室配設も含むと主張する。これは,特許法36条6項1号の解釈においても包袋禁反言あるいは信義則に反し許されない。 また,船舶構造において,技術的に見ても,実際上も舵取機室以外の場所である機関室へのバラスト水処理装置の配設は不可能だからでもある。 以上,「「バラスト水処理装置」は,船舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でもよいことになる」」との審決の認定は正しい。 (3) 以上のとおり,審決が,本件明細書(甲224)の【0028】及び【0029】の記載に基づき,「本件特許の明細書の趣旨は,バラスト水処理装置20を機関室ではなく,舵取機室9に配設することが適していることである」と認定したことは正しく,ま 24)の【0028】及び【0029】の記載に基づき,「本件特許の明細書の趣旨は,バラスト水処理装置20を機関室ではなく,舵取機室9に配設することが適していることである」と認定したことは正しく,また,「そうすると,「非防爆エリア」という語は,当業者において,「非危険区域」や「非危険区画」と解釈すると,「バラスト水処理装置」は船舶後方の舵取機室以外の場所(機関室も含む)でも良いこととなり,これは本件特許の明細書の趣旨からみて,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許されたこととなる」との認定は正しい。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(明確性要件(特許法36条6項2号)についての判断の誤り)について(1) 本件明細書の記載本件明細書(甲224)には,以下の事項が記載されている。 - 29 -ア技術分野本発明は,たとえば船舶のバラスト水に含まれる微生物類を処理して除去または死滅させるバラスト水処理装置を備えた船舶に関する(【0001】)。 イ背景技術船舶のバラスト水は,船体の姿勢制御や復原性確保のためにバラストタンクに積載される海水または淡水であり,船舶の安全運航上欠くことのできないものである。このバラスト水は,空船時にポンプでバラスト水を吸い込んでバラストタンク内に積載(取水)し,貨物を積み込む港において積荷の進行に合わせて排出(排水)される。上述したバラスト水には,種々の微生物類(水生生物)が含まれている。 この微生物類には,微小な生物(バクテリア等の微生物やプランクトン等の浮遊生物等)に加えて,魚類等の卵や幼生等も含まれる(【0002】)。 従って,バラスト水は積載地と異なる港(水域)に排水されることとなるため,バラスト水とともに移動した微生物類が新たな環境に定着す 生物等)に加えて,魚類等の卵や幼生等も含まれる(【0002】)。 従って,バラスト水は積載地と異なる港(水域)に排水されることとなるため,バラスト水とともに移動した微生物類が新たな環境に定着すれば,その水域の生態系や水産業等の経済活動に影響を与えることが懸念される。また,バラスト水とともに移動した一部の病原菌は,人体の健康に直接影響を与えることも懸念される。 このため,国際海事機関(InternationalMaritimeOrganization:IMO)においては,バラスト水に含まれる微生物類の管理に関する条約が批准され,バラスト水の取水時または排水時に微生物類を除去または死滅させることが求められる(【0003】)。 このようなバラスト水中の微生物類を除去または死滅させる装置としては,流路内に設けたスリット板をバラスト水が所定流速以上で通過するようにして,スリット通過により乱れた流れの内部に存在する剪断現象(場所による流速の急激な差)を利用し,この剪断により液中の微生物を破壊して殺減する液中微生物殺滅装置が提案されている。また,スリット位置をずらしたスリット板を前後に配置しておき,前のスリット板で剪断により破壊されなかった微生物については,前のスリット板- 30 -で発生させたキャビテーションを後側のスリット板で潰す際に生じる衝撃圧を利用して破壊することにより,さらに殺減させるようにした液中微生物殺滅装置も提案されている(【0004】)。 ウ発明が解決しようとする課題ところで,上述したバラスト水処理装置は,荷役の進行と略同時に吸入または排水されるバラスト水を処理するものであるから,高い処理速度(たとえば,大型原油タンカーの場合には7000m3/hr 程度)が求められる。このため,バラスト水処理装置自体が 進行と略同時に吸入または排水されるバラスト水を処理するものであるから,高い処理速度(たとえば,大型原油タンカーの場合には7000m3/hr 程度)が求められる。このため,バラスト水処理装置自体が大型化する傾向にあり,船舶にバラスト水処理装置の適当な設置場所を確保することは,下記の理由により困難な状況にある(【0005】)。 (1)バラスト水処理装置は,電気や薬剤などを使用する高度な処理レベルが求められるため,海洋環境下での波浪・風雨に対する耐食性を考慮すると,甲板等の船外よりも船内に設置することが好ましい。(2)バラスト水処理装置を船内に配置する場合,貨物積載量の確保や可燃性貨物の積載に伴う危険区画等を考慮すると,船体中央部分に配置することを避け,船首または船尾に配置することが望ましい。 (3)一般的な船舶設計では,バラストポンプ等の機器類は船尾の機関室に配置される。このため,船首にバラスト水処理装置を配置すると,船尾のバラストポンプ近傍に設けられた取水口から船首まで長距離の配管が必要となる(【0006】)。 このように,今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置について,船体設計の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船に設置する場合はもとより,既存の船舶を改造して設置する場合にも容易に適用可能な構造の船舶が望まれる。すなわち,新造船や既存船の区別がなく,しかも,タンカー(LPG船,LNG船,油送船等),貨物船(コンテナ船,ロールオン/ロールオフ船,一般貨物船等)及び専用船(ばら積貨物船,鉱石運搬船,自動車運搬船等)等のように多種多様な船舶(特に一般商船)に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする構造の船舶が望まれている。本発明は,上記の事情に鑑みてなされ- 31 -たものであり,その目的とする 特に一般商船)に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする構造の船舶が望まれている。本発明は,上記の事情に鑑みてなされ- 31 -たものであり,その目的とするところは,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を船内適所に容易に設置可能とする船舶を提供することにある(【0007】)。 エ課題を解決するための手段本発明は,上記の課題を解決するため,下記の手段を採用した。本発明の請求項1に係る船舶は,バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の舵取機室内に配設され,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置することを特徴とするものである(【0008】)。 このような船舶によれば,バラスト水処理装置を船舶後方の舵取機室内に配設するようにしたので,船体構造や船型を大きく変更することなく,船舶内の空間を有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。また,上記の船舶において,前記舵取機室は吃水線よりも上方に位置するので,緊急時にバラスト水を容易に船外へ排水することができる(【0009】)。 上記の船舶においては,前記バラスト水処理装置を前記舵取機室内の空間に設けたデッキに配設することが好ましく,これにより,舵取機室内の空間をより一層有効に利用して,すなわち,空間を立体的に有効利用して種々のバラスト水処理装置を設置することができる(【0010】)。 また,上記の船舶においては,前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースを使用することが好ましく, 理装置を設置することができる(【0010】)。 また,上記の船舶においては,前記バラスト水処理装置のバッファタンクとしてアフト・ピーク・タンク等の船尾部ボイドスペースを使用することが好ましく,これにより,バッファタンクを必要とする方式のバラスト水処理装置であっても,バッファタンクの新設が不要となる(【0011】)。 また,上記の船舶においては,前記舵取機室は非防爆エリアであることが好ましく,これにより,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくなる。また,上記の船- 32 -舶において,前記舵取機室はバラストポンプが設置される機関室に隣接していることが好ましく,これにより,バラスト水処理に伴う圧力損失を最小限に抑えることができる(【0012】)。 本発明の請求項6に係る船舶は,バラスト水の取水時または排水時にバラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させるとともにバラスト水が供給されるバラスト水処理装置を備えている船舶であって,バラスト水が供給される前記バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアで,船舶の吃水線より上方かつバラストタンクの頂部よりも下方に配設されていることを特徴とするものである(【0013】)。 このような船舶によれば,バラスト水処理装置が船舶後方の非防爆エリアに配設されているので,船舶構造や船型を大きく変更することなく,船舶後方の非防爆エリアを有効に利用して種々のバラスト水処理装置を容易に設置することがができる(【0014】)。 オ発明の効果上述した本発明の船舶によれば,今後義務づけられるバラスト水処理装置を設置する際,船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に スト水処理装置を設置する際,船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に設置可能となる(【0015】)。 カ発明を実施するための最良の形態以下,本発明に係る船舶の一実施形態を図面に基づいて説明する。図4は,船舶の一例としてLNG船1の船体構造を示す図である。このLNG船1は,船体前方より順に,船首部2,船体中央部3及び船尾部4に分類される。船首部2は,LNG船1の航行方向前方に位置する部分であり,船首側倉庫等が設けられている。船首部2の後方に配置された船体中央部3には,複数(図示の例では3基)のLNGタンク5が船体軸線に沿って配列されている。また,船体中央部3には,球形とし- 33 -たLNGタンク5の下部周辺に形成される空間を利用して,複数に分割されたバラストタンク6が船体の左右両側に形成されている(【0016】)。 上述したLNG船1の適所には,バラスト水処理装置20が設けられている。このバラスト水処理装置20は,船体の姿勢制御や復原性確保を目的としてバラストタンク6に積載されるバラスト水に含まれる種々の微生物類を除去または死滅させる装置である。すなわち,バラスト水処理装置20は,積み荷の状態等に応じてバラストタンク6内に取水したバラスト水が貨物の積載量を増すにつれて排水されることから,バラスト水に含まれる微生物類を除去または死滅させた状態で排水できるように取水時または排水時に処理して,取水港周辺に生息する微生物類が他の海域に排水されて生態系に影響を及ぼすことを防止するための装置である(【0018】)。 上述したバラスト水処理装置20は,船舶後方となる船尾部4の舵取機室9内に配置されて 生息する微生物類が他の海域に排水されて生態系に影響を及ぼすことを防止するための装置である(【0018】)。 上述したバラスト水処理装置20は,船舶後方となる船尾部4の舵取機室9内に配置されている。図1に示すバラスト水処理装置20は,第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22を備えている。この場合の第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22は,必要な処理能力をふたつのユニットに分割して配置したものであり,いずれのユニットも舵取機室9内に配置されている。なお,バラスト水処理装置20については,第1処理ユニット21及び第2処理ユニット22に分割する構成に限定されることはなく,処理方式や諸条件に応じて適宜変更可能である(【0019】)。 さて,上述したバラスト水処理装置20は,LNG船1の後方となる舵取機室9内に配置されている。このバラスト水処理装置20は,荷役の進行に合わせて取水または排水されるバラスト水を処理するため,高い処理速度が求められて大型化する。このため,バラスト水処理装置20の設置には,大きなスペースが必要となる。 また,バラスト水処理装置20には,種々の方式が存在するため,現状では大きな設置スペースが必要なことに変わりはないものの,設置スペースとして求められる- 34 -条件(形状等)は多種多様となる(【0025】)。 LNG船1のような通常の船舶は,プロペラ11及び航行用エンジンが船体後方に配置されている。このため,バラストポンプ13は,特別な事情がなければ船体後方の機関室8内に設置される。従って,バラスト水処理装置20は,配管長及び配管設置スペースの増加を抑制するため,バラストポンプ13の近傍に設置することが望ましい。一方,舵取機室9は機関室8に隣接し,しかも,プロペラ11及び舵の直上に位置しているので, 20は,配管長及び配管設置スペースの増加を抑制するため,バラストポンプ13の近傍に設置することが望ましい。一方,舵取機室9は機関室8に隣接し,しかも,プロペラ11及び舵の直上に位置しているので,これらの駆動に起因する振動対策等から比較的広い空間が設けられている。このため,舵取機室9の内部には,バラスト水処理装置20の設置が可能となる大きな設置空間を容易に確保することができる。すなわち,舵取機室9には,船体構造や船型を大きく変更することなく,バラスト水処理装置20の設置に必要な空間を容易に確保することができる(【0026】)。 具体的に説明すると,舵取機室9の空間は,上述した振動の問題があるため,通常機器類の設置に適さない場所(空間)として残されている。しかし,バラスト水処理装置20は,主としてLNG船1の停船時に使用されるものであるから,上述した振動のない状態での使用が可能となる。本発明者らは,上述した船舶構造に着目し,舵取機室9がバラスト水処理装置20の設置場所として最適であること発見したものである。すなわち,バラスト水の取水または排水は,船舶が港に停船して荷役作業を行う際に実施されるので,バラスト水処理装置20の運転時には船舶航行用のエンジンや舵が駆動されることはなく,従って,舵取機室9は,バラスト水処理装置20の運転時に周囲の振動を考慮する必要はなく,バラスト水処理装置20の設置場所としては最適である。なお,要すれば航海中にも処理することがあるが,これを否定するものではない(【0027】)。 バラストポンプ13の近傍という観点では,バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。しかし,通常の船舶設計における機関室8内は,メンテナンスや操作性を考慮すると,特別な要件がある場合を除いて種々の機器類- 35 - ,バラスト水処理装置20を機関室8内に設置することも考えられる。しかし,通常の船舶設計における機関室8内は,メンテナンスや操作性を考慮すると,特別な要件がある場合を除いて種々の機器類- 35 -を配置する場所とされる。しかも,機関室8の内部は,通行性や作業性を考慮するとともに,機器類の設置及メンテナンスを可能にする必要最小限の空間を確保しているのが実情であり,実質的には余分な空間は存在しない。従って,機関室8内にバラスト水処理装置20を設置しようとすれば,機関室8を大型化するように船殻設計を変更するなど,船体構造や船型の大幅な変更が必要となる。特に,既存船に適用する場合には,機関室8を改造してバラスト水処理装置20を設置することは,船体構造の大規模な改造工事が必要となる。このような改造工事は,コストや工事期間の増大を伴うものであるから,機関室8をバラスト水処理装置20の設置場所とすることには問題が多くきわめて困難である(【0028】)。 また,舵取機室9は,機関室8の上部に配置された乗員の居住区7から近く,作業時等のアクセス面でも有利になる。このような観点から見ても,舵取機室9はバラスト水処理装置20の設置場所に適している。また,舵取機室9は船内空間であるから,海洋環境下における波浪や風雨に対する腐食対策を施す必要がなく,この点でもバラスト水処理装置20の設置場所に適している(【0029】)。 また,舵取機室9は,舵取装置の上方に比較的大きな上部空間が存在するので,たとえば図1に示すように,この空間の中間位置等にデッキ30を形成してバラスト水処理装置20を設置することも可能である。このような構成は,舵取機室9内の空間を立体的に有効利用できるので,たとえば図1に示すように,第1処理ユニット21をデッキ30上に設置し,第2処理ユ ラスト水処理装置20を設置することも可能である。このような構成は,舵取機室9内の空間を立体的に有効利用できるので,たとえば図1に示すように,第1処理ユニット21をデッキ30上に設置し,第2処理ユニット22を舵取機室9の床面上に設置するというような分割構造を容易にする。従って,構成及び形状等が異なる各種方式のバラスト水処理装置20を設置する際には,諸条件に応じた柔軟な対応が可能となる。なお,図1に示す構成例では,デッキ30の上に第1処理ユニット21を設置しているが,特に限定されるものではない(【0030】)。 また,バラスト水処理装置20を舵取機室9に設置すると,バラスト水処理装置20がバッファタンクを必要とする方式の場合,近傍にあるボイド10に設置され- 36 -るアフト・ピーク・タンク等をバッファタンクとして利用することができる。このような構成とすれば,ボイド10の空間を有効利用してバッファタンクの設置スペースを容易に確保できる。すなわち,バッファタンクは単にバラスト水を貯蔵するものであるから,船尾に位置して複雑な形状となるボイド10内であっても,空間形状の制約を受けることなく有効利用が可能である。また,大気開放型のバラスト水処理装置20の場合,その構成上万が一の際に備え船舶の喫水線40以下に設置することは避けるべきである。一方,バラストタンク6の頂部以上にバラスト水処理装置20を設置しかつ既存のバラストポンプ13を利用する場合はバラストポンプ13の吐出圧力を上げる等の余分な改造が必要となり無駄が生じる。よって,大気開放型のバラスト水処理装置20の場合は,船舶の吃水線40より上方かつバラストタンク6の頂部より下方に位置する舵取機室9に設置することは極めて合理的であると言える(【0031】)。 このように,上述した本発明の 水処理装置20の場合は,船舶の吃水線40より上方かつバラストタンク6の頂部より下方に位置する舵取機室9に設置することは極めて合理的であると言える(【0031】)。 このように,上述した本発明の船舶によれば,今後設置が義務づけられるバラスト水処理装置20について,船体設計や船型の大幅な変更を必要とせず,しかも,新造船や既存の船舶を改造して設置する場合においても,多種多様な船舶に対して,多種多様な方式のバラスト水処理装置を容易に設置することができる。すなわち,本発明は,船舶としては必要である舵取機室9の空間を有効に利用し,配置上の制約や他の船舶構造に及ぼす影響が小さい舵取機室9が,船舶におけるバラスト水処理装置20の最適な設置場所であることを見いだしたものである(【0032】)。 また,舵取機室9は,バラストポンプ13が設置される機関室8に隣接して近いため,処理装置入口側配管系統15及び処理装置出口側配管系統16に必要となる配管長及び配管設置スペースが少なくてすみ,バラスト水処理に伴う圧力損失も最小限に抑えることができる。また,舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。また,舵取機室9は,- 37 -船舶の吃水より上方に位置するため,緊急時においてはバラスト水を容易に船外へ排水できるという利点もある。なお,本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく,本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる(【0033】)。 以上のように,本件明細書の全体的な要旨は,バラスト水処理装置の配設場所について,舵取機室に主眼が置かれたものであり,「非防爆エリア」に関しては,【0013】,【0014】,【0033】等に記載があるものの,その意味を含む具体的な内容につ バラスト水処理装置の配設場所について,舵取機室に主眼が置かれたものであり,「非防爆エリア」に関しては,【0013】,【0014】,【0033】等に記載があるものの,その意味を含む具体的な内容については,舵取機室以外の例示はないことを,まず指摘することができる。そこで,そのように記載のある「非防爆エリア」の意味するところを,以下に検討してみる。 (2) 出願時の技術常識の参酌甲102~104,甲208~211によれば,本件特許の出願時において,「非防爆エリア」という用語は,船舶の分野で一般的に用いられている用語であると認められ,危険場所(危険区画又は区域)の反対語である非危険場所と同義であり,防爆構造が要求されない領域,すなわち,電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域を意味するものと認められる。 また,本件特許の出願時において,当業者にとって,船舶のどの場所が「非防爆エリア」であるかについても,以下の理由により明確であると認められる。 すなわち,甲102(「鋼船規則鋼船規則検査要領 H編電気設備」財団法人日本海事協会)には,タンカー,液化ガスばら積船及び危険化学品ばら積船のそれぞれについて,0種,1種及び2種の三段階で危険場所を分類しなければならないことが記載されており,どこを危険場所とすべきについても,危険場所の段階毎に具体的に例示されている。 また,甲215(「JIS 船用電気設備-第502部:タンカー-個別規定」- 38 -日本規格協会)には,危険区域の分類について詳細な規定が定められており,危険区域の分類の例についても具体的に図示されている。 さらに,危険区域の分類については、甲216(「爆発性雰囲気で使用する電気機械器具-第10部 険区域の分類について詳細な規定が定められており,危険区域の分類の例についても具体的に図示されている。 さらに,危険区域の分類については、甲216(「爆発性雰囲気で使用する電気機械器具-第10部:危険区域の分類」日本規格協会)においても詳細に定められている。 これらの記載に照らせば,本件特許の出願時において,当業者にとって,船舶のどの場所が危険場所又は区域になるのかは明確であり,そうである以上,危険場所又は区域ではない「非防爆エリア」がどこかも明確であるというべきである。 また,甲102,215,216は,船舶を設計するにあたって遵守すべき基本指針に関するものであるから,本件特許の出願時において,「非防爆エリア」の意味はもとより,その具体的な場所についても,当業者の技術常識であったものと認めて差し支えない。 上述したように,本件明細書において,「非防爆エリア」という用語の意味が記載されておらず,操舵機室以外に「非防爆エリア」の例示は存在しない。しかしながら,上記技術常識に照らせば,本件明細書に接した当業者は,「非防爆エリア」の意味や場所を明確に理解できるというべきである。また,本件明細書において,「非防爆エリア」という用語が一般的な意味,すなわち,「電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域」という意味で用いられていることは,【0033】の「舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」という記載と整合することからも明らかである。 (3) 小括以上のとおり,本件明細書には,「非防爆エリア」についての説明は存在しないが,本件特許の出願時における技術水準に照らせば,その意味は,その具体的な場所も含めて明 らかである。 (3) 小括以上のとおり,本件明細書には,「非防爆エリア」についての説明は存在しないが,本件特許の出願時における技術水準に照らせば,その意味は,その具体的な場所も含めて明確である。よって,訂正後の請求項6は特許法36条6項2号- 39 -の規定に違背するとした審決の判断は誤りであり,原告の主張する取消事由1には理由がある。 2 取消事由2(サポート要件(特許法36条6項1号)についての理由不備ないし判断の誤り)について(1) 本件明細書【0033】の記載事項本件発明6の構成である「非防爆エリア」について,本件明細書の【0033】には,「また,舵取機室9は非防爆エリアであるから,各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点もある。」と記載されている。 ここに記載された利点は,文理上,舵取機室の副次的な効果として述べられている。しかしながら,当該記載に接した当業者は,この効果は舵取機室に限定されるものではなく,舵取機室とは無関係な「非防爆エリア」の一般的な効果として理解するというべきである。その理由は,以下のとおりである。 まず,「非防爆エリア」の意味およびその具体的な場所が当業者の技術常識であることは,上述したとおりである。「非防爆エリア」は,「電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮しなければならないほどの爆発性混合気が存在しない区画又は区域」を意味するから,「非防爆エリア」であれば,そこに配置される電気機器の構造,設置及び使用について特に考慮する必要がないことは当然で,その結果として,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」があることも明白である。すなわち,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」は,「非防爆エリア」の用語の意味の裏返 として,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」があることも明白である。すなわち,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」は,「非防爆エリア」の用語の意味の裏返しであり,「非防爆エリア」が当然に備える効果を述べたものである。 そうすると,本件明細書の趣旨が全体として舵取機室に主眼を置かれており,【0033】の記載が操舵機室の効果を文理上述べているとしても,【0033】の記載に接した当業者は,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」が舵取機室特有の効果であると理解することはなく,それとは別次元- 40 -の,舵取機室には限定されない,より広義の「非防爆エリア」に着目した効果であると即座に理解するものと認めることができる。そして,かかる理解の下,「非防爆エリア」についても,舵取機室とは別に念頭に置いている独自の構成として理解するというというべきである。 よって,【0033】の記載から,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設する構成によって,「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむ」という効果を奏する,独自の技術的思想を読み取ることができ,本件発明6の「非防爆エリア」は,【0033】によってサポートされているというべきである。 (2) 【0028】との関係ところで,本件明細書の趣旨は,全体として,バラスト水処理装置を舵取機室に配設することに主眼を置いており,特に,【0028】には,舵取機室の優位性が機関室(「非防爆エリア」の一つ)との対比において述べられている。 本件明細書で全体として述べられている,バラスト水処理装置を舵取機室に配設するという技術的思想は,【0027】に記載されているように,舵取機室固有の特性,すなわち,操舵機室は,プロペラ及び舵の直上に 本件明細書で全体として述べられている,バラスト水処理装置を舵取機室に配設するという技術的思想は,【0027】に記載されているように,舵取機室固有の特性,すなわち,操舵機室は,プロペラ及び舵の直上に位置しており,振動の問題があるため,通常機器類の設置に適さない場所(空間)として残されていることに着目したものである。 これに対して,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は,【0028】に記載されているように,「非防爆エリア」が「各種制御機器や電気機器類の制約が少なくてすむという利点」を有することに着目したものである。したがって,バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するという技術的思想は,バラスト水処理装置を舵取機室に配設する技術的思想とは,着目点の次元を異にしているものである。 バラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設するとの技術的思想が【0033】によってサポートされている以上,本件明細書において,全体的には,それ- 41 -とは次元の異なる技術的思想が示されていることや,それに比してバラスト水処理装置を「非防爆エリア」に配設することに関連する記載がさほど多くないとしても,「非防爆エリア」に関する本件発明6のサポート要件の判断を左右するものではない。 また,バラスト水処理装置を舵取機室に配設することと,これを「非防爆エリア」に配設することとは,次元を異にする別個の技術的思想であるから,前者の優位性を後者との関係で述べた【0028】の記載が存在するとしても,後者に関する記載の存在を無視すべきものではない。 (3) 小括以上のとおり,本件発明6の「非防爆エリア」は,本件明細書の【0033】によってサポートされており,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許されたものではな い。 (3) 小括以上のとおり,本件発明6の「非防爆エリア」は,本件明細書の【0033】によってサポートされており,本件明細書の発明の詳細な説明の記載の範囲を超えて特許されたものではない。よって,本件発明6が特許法36条6項1号の規定に違背するとした審決の判断は誤りであり,原告の主張する取消事由2には理由がある。なお,被告は,本件特許の出願時における意図的除外を主張するが,サポート要件に関する事情とすることはできず(原告が援用する甲2の2の早期審査に関する事情説明書の記載から,機関室配設を除外したものと認めることもできない。),理由がない。 第6 結論以上によれば,原告が主張する取消事由1,2はいずれも理由があるから,審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 - 42 - 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官池下朗 裁判官新谷貴昭
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