平成19(く)558

裁判年月日・裁判所
平成19年11月8日 東京高等裁判所 棄却
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判決文本文4,815 文字)

19(く)558東京高裁19.11.8一部開示命令316条の20 主文 原決定を次のとおり変更する。 検察官に対し,被告人の取調べに係るA警部補作成の取調べメモ(手控え),備忘録等の開示を命じる。 その余の本件証拠開示命令請求を棄却する。 理由 本件即時抗告の趣意は,弁護人B作成の即時抗告申立書記載のとおりであるから,これを引用する。論旨は,弁護人は,刑訴法316条の20に基づき,①検察官の取調メモ(手控え),取調小票等,②検察事務官の取調メモ(手控え),③警察官の取調メモ(手控え),取調小票,調書案,備忘録等,④警察官・警察官間の連絡メモ等の開示命令を求める請求をしたが,これらは本件一件捜査記録中には存在せず,捜査官がこれらを作成,所持していたとしても,個人的な手控えの類であり,開示の対象となる証拠に該当しないとして,これを棄却した原決定は不当であるから,その取消しと上記証拠の開示命令を求める,というのである。 そこで,まず,刑訴法316条の20により検察官が開示義務を負う証拠の範囲について検討する。検察官は,刑訴法316条の20により開示が予定されている証拠は,検察官が現に保管している一件捜査記録や証拠物を意味すると解される旨主張し,その根拠として,刑訴法316条の27第2項に,裁判所が被告人側からの開示命令の請求を決定するに当たり,検察官の保管する証拠であって,裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができる旨の規定が置かれていることを挙げている。 裁判員法の制定とともに改正された刑訴法316条の2以下の争点及び証拠の整理手続の規定は,受訴裁判所主宰の下,当事者双方が,公判においてする予定の主張を明示し,その証明に用いる証拠の取調べを請求すること等を通じ,事件の争点 正された刑訴法316条の2以下の争点及び証拠の整理手続の規定は,受訴裁判所主宰の下,当事者双方が,公判においてする予定の主張を明示し,その証明に用いる証拠の取調べを請求すること等を通じ,事件の争点を明らかにし,公判で取り調べるべき証拠を決定して,明確な審理計画を策定することを目的とするものである。 そして,同手続は,検察官が公判前整理手続(期日間整理手続)において取調べを請求した証拠以外の証拠であっても,検察官請求証拠の証明力を判断するために重要な一定類型の証拠(刑訴法316条の15)のほか,被告人側が明らかにした主張に関連する証拠(刑訴法316条の20)についても,開示の必要性及び弊害を勘案して相当と認めるときは開示しなければならない,として,事前の広範な証拠開示により公判前整理手続(期日間整理手続)の目的を達成しようとしたものであるが,ここで前提とされている証拠開示が,原則として,検察官手持ち証拠を前提としていることは,検察官主張のとおりであり,多くの場合,これで十分公判前整理手続(期日間整理手続)の目的を達成することができると考えられる。 しかしながら,このような解釈は,一件捜査記録にその証拠を加えるかどうかという検察官の判断のみによって形式的に刑訴法316条の20による開示の対象となるか否かを第一次的に決するというものであるから,このような解釈を徹底した場合には,たまたま検察官が一件捜査記録にその証拠を入れていない又はこれを拒絶するという一事によって,被告人の主張に関連する重要な証拠が開示されず,実質的に争点を整理して審理計画を策定するという公判前整理手続(期日間整理手続)の目的が達せられなくなるおそれがないとはいえない。そして,このような例外的な場合にまで,あくまでも証拠開示の範囲を検察官の現在の手持ち証拠に限られると解すること いう公判前整理手続(期日間整理手続)の目的が達せられなくなるおそれがないとはいえない。そして,このような例外的な場合にまで,あくまでも証拠開示の範囲を検察官の現在の手持ち証拠に限られると解することは,かえって公判前整理手続(期日間整理手続)の目的を阻害することになるといわざるをえない。 他方,証拠開示義務の範囲をいたずらに拡大することは,検察官に重い証拠収集義務を課してしまうこととなり公訴追行にあたる検察官に過度の負担をかけることになるし,いわゆる「証拠あさり」的な運用を招きかねない結果,公判前整理手続(期日間整理手続)が散漫なものとなり,手続が過度に長引いてしまうことにもなりかねない。 そこで,上記のような諸点を勘案すると,刑訴法316条の20により検察官が開示義務を負う証拠の範囲は,原則として,検察官の手持ち証拠に限られるというべきであるが,検察官が容易に入手することができ,かつ,弁護人が入手することが困難な証拠であって,弁護人の主張との関連性の程度及び証明力が高く,被告人の防御の準備のために開示の必要性が認められ,これを開示することによって具体的な弊害が生じるおそれがない証拠が具体的に存在すると認められる場合には,これは,いわば「検察官が保管すべき証拠」というべきであるから,検察官の手持ち証拠に準じ,これについても証拠開示の対象となると解すべきである。 そこで,上記基準に従って,弁護人が求めている証拠開示の範囲を検討する。一件記録によれば,検察官は,当初,犯行に至る経緯,共謀状況等を立証趣旨として,被告人の検察官に対する供述調書6通の取調べを請求したが,弁護人においてその任意性を争ったところ,検察官は,被告人の警察官に対する供述調書5通の取調べを追加して請求した上で検察官に対する供述調書の証拠申請を撤回し,被告人の取り調べを担当し べを請求したが,弁護人においてその任意性を争ったところ,検察官は,被告人の警察官に対する供述調書5通の取調べを追加して請求した上で検察官に対する供述調書の証拠申請を撤回し,被告人の取り調べを担当したA警部補を任意性立証のために証人申請していることが認められる。以上の審理経過に照らすと,現段階においては,本件期日間整理手続の過程において,被告人の自白状況を立証する証拠としては被告人の警察官に対する供述調書に限られており,この調書の任意性が争点として絞り込まれて,その任意性の立証のために検察官はA警部補の取調べを請求している状況にあると認められる。 そうすると,弁護人が開示を求めている証拠のうち,①,②,④に関しては,検察官の立証計画及びこれに対応する弁護人の主張との関連性が薄く,刑訴法316条の20による開示の対象となると認めることはできない。よって,弁護人が開示を求めている証拠のうち,①,②,④に関する開示請求は理由がない。 次に,弁護人が開示を求めている証拠のうち③に関して検討する。 刑訴規則198条の4は,「検察官は,被告人又は被告人以外の者の供述に関し,その取調べの状況を立証しようとするときは,できる限り,取調べの状況を記録した書面その他の取調べ状況に関する資料を用いるなどして,迅速かつ的確な立証に努めなければならない。」と規定しているところ,これは上記裁判員法の制定,これに伴う刑事訴訟法の改正に併せて新たに設けられた規定である。そして,その趣旨とするところは,これまでのように,取調べ状況を立証するために,被告人と取調べ捜査官の尋問を行い,両者の間で不当な取調べ等を「した」「しない」の水掛け論となり審理が長期化していたことを防止し,できるだけ客観的な資料により取調べの状況を立証していくべきものとしたものである。 このような資料 行い,両者の間で不当な取調べ等を「した」「しない」の水掛け論となり審理が長期化していたことを防止し,できるだけ客観的な資料により取調べの状況を立証していくべきものとしたものである。 このような資料としては,取調べ過程を録音・録画したものが最も客観的であって望ましいと考えられることはいうまでもないところであるが,直ちにこれが具現されていない現状においては,留置人出入簿,留置人動静簿,看守勤務日誌等のほか,捜査官が作成したメモ,取調経過一覧表などのその他の客観的資料により立証がなされるよう努力がなされるべきである。また,犯罪捜査規範13条には,「警察官は,捜査を行うに当たり,当該事件の公判の審理に証人として出頭する場合を考慮し,および将来の捜査に資するため,その経過その他参考となるべき事項を明細に記録しておかなければならない。」旨定めているのであるから,このような取調べ過程に関する備忘録を保存することが警察官には義務づけられているところであり,取調べ状況を尋問するための検察官による証人テストの際にも,警察官はこれらのメモ(備忘録)に基づきながら,記憶を喚起し,証人尋問に備えているものと推測される。 したがって,このような捜査官が作成したメモについては,一律に「個人的な手控え」として,無条件に開示の対象から外すという判断をするのではなく,当該メモの記載内容に応じ,刑訴法316条の20による証拠開示に関する上記2に記載した要件に該当するか否かを慎重に検討すべきである。 ところで,検察官は,当裁判所からの警察官作成の取調べメモ(手控え),備忘録等(警察署・警察官において保管しているものも含む。)の存否に関する求釈明に対し,「証拠開示の対象となる証拠は,検察官が現に保管する一件捜査記録中にある証拠であることについては,すでに本年10月16日付けで東京 警察官において保管しているものも含む。)の存否に関する求釈明に対し,「証拠開示の対象となる証拠は,検察官が現に保管する一件捜査記録中にある証拠であることについては,すでに本年10月16日付けで東京地方裁判所あてに提出した検察官作成の意見書に記載したとおりであり,同記録中には,御指摘の取調メモ及び備忘録等は存在しない。 したがって,その余の事項については釈明する必要はないものと思料する。」と回答するのみで,このような取調べメモ(手控え),備忘録等の存否を明らかにしようとしない。 また,このような取調べメモ等を開示することによる具体的な弊害についてもその主張を行っていない状況にある。 しかしながら,上記のような取調べメモ(手控え),備忘録等は,犯罪捜査規範により警察官に作成及び保存が義務づけられている以上,当裁判所としては,上記のような事情によってその存否が不明な場合には,これが存在することを前提とせざるを得ない。そして,本件において,被告人の取調べに係るA警部補が作成した取調べメモ(手控え),備忘録等が,検察官が容易に入手することができ,かつ,弁護人が入手することが困難な証拠であって,弁護人の主張との関連性の程度及び証明力が高く,被告人の防御の準備のために開示の必要性が認められる証拠に該当することは明らかというべきである。また,このような取調べメモ(手控え),備忘録等を開示することにより一般的に弊害があるとは考えにくいところ,本件における具体的な弊害についても検察官から何ら主張が行われていないのであるから,これがあると認めることもできない。 そうすると,本件証拠開示命令請求は,被告人の取調べに係るA警部補作成の取調べメモ(手控え),備忘録等の開示を求める限度で理由がある。 よって,刑訴法426条2項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・ ,本件証拠開示命令請求は,被告人の取調べに係るA警部補作成の取調べメモ(手控え),備忘録等の開示を求める限度で理由がある。 よって,刑訴法426条2項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・門野博,裁判官・鬼澤友直,裁判官・奥山豪)

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