令和4年9月29日判決言渡令和4年(ネ)第10029号特許権に基づく損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第22071号)口頭弁論終結日令和4年6月16日判決 控訴人 X 被控訴人株式会社ユーグレナ 同訴訟代理人弁護士志甫治宣市川浩行同訴訟代理人弁理士秋山敦福士智恵子角渕由英 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人に対し、300万円及びこれに対する令和2年9月26日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。) 1 事案の要旨 本件は、発明の名称を「角栓除去用液状クレンジング剤」とする特許第62 71790号(以下「本件特許」といい、本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である控訴人が、被控訴人に対し、原判決別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)が本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し、被控訴人による被告製品の製造及び販売が本件特許権の侵害に該当すると主張 して、本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求 販売が本件特許権の侵害に該当すると主張 して、本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として300万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、本件特許は、特許法36条6項1号に違反するものであり、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、控訴人は、被控訴人に 対し、同法104条の3第1項の規定により、本件特許権を行使することができないとして、控訴人の請求を棄却した。 控訴人は、原判決を不服(ただし、遅延損害金の割合は年3パーセントの限度とする。)として、本件控訴を提起した。 2 前提事実 原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。 3 争点原判決5頁7行目末尾に行を改めて「エ訂正の再抗弁の成否(争点2-4)」を加えるほか、原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであ るから、これを引用する。 第3 争点に関する当事者の主張原判決20頁1行目末尾に行を改めて次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから、これを引用する。 「(4) 争点2-4(訂正の再抗弁の成否) (控訴人の主張) ア訂正の内容(ア) 控訴人は、令和4年6月16日の当審第1回口頭弁論期日において、同年2月22日付け控訴理由書に基づいて、本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書を次のとおり訂正する旨の訂正(以下「本件訂正」という。)の主張をした。 (訂正事項1)本件明細書の【0060】を削除する。 (訂正事項2)【請求項1】に、以下のとおり下線部を追加する。 「 水と、 (訂正事項1)本件明細書の【0060】を削除する。 (訂正事項2)【請求項1】に、以下のとおり下線部を追加する。 「 水と、 オクチルドデカノールと、水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%であるものを除く。)と、 を含む角栓除去用液状クレンジング剤。」(訂正事項3)本件明細書の【0005】を削除する。 (イ) なお、控訴人は、被控訴人が請求した本件特許の特許無効審判(無効2020-800119号事件)において、令和3年12月2 7日付けの審決の予告(甲29)を受けたため、令和4年1月9日付け訂正請求書(甲30の1)及び同年2月21日付け手続補正書(訂正事項を追加するもの。甲30の3)をもって、本件訂正と同内容の訂正請求をした。 イ本件訂正の適法性 本件訂正は、以下のとおり、訂正要件を満たすものである。 (ア) 訂正事項1訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」(特許法134条の2第1項ただし書3号)を目的とするものである。 本件明細書の【0061】の「第2タンパク質抽出剤を液状化粧品に使用した場合の各成分の含量としては、液状化粧品の製品形態と した場合に好適な量を示すものであり、実際の使用態様において、これより薄い濃度にて使用することを許容するものである。・水を含有する態様水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。…」の下線部の記載 い濃度にて使用することを許容するものである。・水を含有する態様水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。…」の下線部の記載は、【0060】の「第2のタンパク質抽出剤を液状 化粧品として使用する場合、…炭化水素の濃度が低い場合には、タンパク質抽出剤(液状化粧品)をより多く使用することにより、タンパク質の抽出は可能である。しかし、炭化水素の含有量が全量に対して3体積%を下回ると、化粧品として実用的な範囲を上回る量を使用しなければならなくなるため、好適ではない。」の下線部の記載と矛盾 するため、本件発明において、炭化水素の量が不明確となっている。 そして、本件発明においては、本件明細書の【0059】、図1(A)ないし図14(C)に記載のとおり、炭化水素の油層にタンパク質を一度抽出し、これをオクチルドデカノールによって水層に再抽出する。これは、試験管レベルのみならず、分子レベルでも起こる。 したがって、【0060】の記載は正確ではなく、【0061】の記載との矛盾によって発明の内容が不明瞭となっているから、訂正事項1は、この矛盾を解消して、明瞭でない記載を釈明するものである。 次に、訂正事項1は、本件特許の原出願から踏襲されていた明細書の【0060】を削除するものであり、願書に添付した明細書、特 許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質 上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項、6項に適合する。 (イ) 訂正事項2訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。 で準用する同法126条5項、6項に適合する。 (イ) 訂正事項2訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」(特許法134条の2第1項ただし書1号)を目的とするものである。 次に、訂正事項2で、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に追加する記載は、本件明細書の【0061】の以下の記載に基づくものである。 「【0061】第2のタンパク質抽出剤を液状化粧品として使用する場合、水を 含有する態様及び水を含有しない態様という、2つの態様がある。 …・水を含有する態様水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。…」 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項に適合する。 また、訂正事項2は、請求項1に係る発明を減縮するものであるため、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには 該当せず、同法134条の2第9項で準用する同法126条6項に適合する。 (ウ) 訂正事項3訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」(特許法134条の2第1項ただし書3号)を目的とするものである。 本件発明の構成要件Cは、界面活性剤の量が全量に対して0~1 0体積%であるものを除く旨を規定しており、「界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の量がごく少量である」ものは除かれている。しかしながら、本件明細書の【0005】は、「界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の量がごく少量である」ものが求められていた旨が記載され、本件発明の内容と 矛 」ものは除かれている。しかしながら、本件明細書の【0005】は、「界面活性剤を使用していないか、又は、界面活性剤の量がごく少量である」ものが求められていた旨が記載され、本件発明の内容と 矛盾するものであり、特許請求の範囲及び明細書に記載された本件発明の内容を不明瞭なものにする記載である。 次に、訂正事項3は、本件特許の原出願から踏襲されていた明細書の段落【0005】を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂 正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項、6項に適合するものである。 ウ本件訂正による無効理由の解消(ア) サポート要件違反について 訂正事項3により、【0005】は削除され、本件発明が解決しようとする課題は「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」であること(【0006】)が明確になった。 また、訂正事項1により、【0060】は削除され、水を含有する第2のタンパク質抽出剤の液状化粧品は、炭化水素の配合量が 水への溶解度以上、第2の高級アルコールの配合量が炭化水素の体積に対して1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲の量であることが明確となった。 そして、本件訂正後の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という場合がある。)は、本件明細書の【0061】に記載さ れている。 よって、本件訂正によって、サポート要件違反の無効理由は解消される。 (イ) 新規性欠如及び進歩性欠如についてa 本件訂正後の請求項1の「水への溶解度 よって、本件訂正によって、サポート要件違反の無効理由は解消される。 (イ) 新規性欠如及び進歩性欠如についてa 本件訂正後の請求項1の「水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種 類以上の炭化水素と、」との構成は、乙5ないし7に記載がないものであり、本件訂正発明は、乙5ないし7に記載された発明と同一の発明ではないから、本件訂正によって、被控訴人主張の新規性欠如の無効理由は解消される。 b 本件訂正発明においては、例えば、【0059】、図1(A) ないし図14(C)記載のとおり、炭化水素の油層ないし油成分を含む分子集合体にタンパク質を一度抽出し、これをオクチルドデカノールによって水層ないし水を含む分子集合体に再抽出するが、この技術思想は乙5ないし7に記載がない。 また、本件訂正発明によれば、一度抽出されたタンパク質汚れ は水層に存在するため、洗浄が極めて容易となるという効果を奏する(【0149】)。 このように、クレンジング剤に、水と、水への溶解度より多い量の炭化水素を配合し、炭化水素の油層ないし油成分を含む分子集合体にタンパク質を一度抽出し、これをオクチルドデカノール によって水層ないし水を含む分子集合体に再抽出することによって角栓等のタンパク質汚れを除去・洗浄するという技術思想は、当業者が乙5ないし7に接しても容易に想到することができたと論理付けることはできない。 したがって、本件訂正発明は、乙5ないし7に基づいて、当業 者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正 によって、被控訴人主張の進歩性欠如の無効理由は解消される。 エ被告製品が本件訂正発 し7に基づいて、当業 者が容易に発明をすることができたものではないから、本件訂正 によって、被控訴人主張の進歩性欠如の無効理由は解消される。 エ被告製品が本件訂正発明の技術的範囲に属すること証拠(甲21、22、乙1)によれば、被告製品は、本件訂正発明の技術的範囲に属する。 オ小括 以上によれば、本件特許の無効理由について本件訂正の再抗弁が成立するから、被控訴人主張の無効の抗弁は理由がない。 (被控訴人の主張)ア本件訂正の適法性の主張に対し(ア) 訂正事項1について 控訴人が指摘する本件明細書の【0060】の下線部の記載は、それ自体意味が不明瞭な記載ではないし、また、本件明細書の他の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっている記載でもない。 したがって、訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」を目的と するものに当たらない。 (イ) 訂正事項2について控訴人の主張によれば、訂正事項2で追加された「水への溶解度より多い量の」(炭化水素)とは、「0(ゼロ)より多い量の」という意味であり、本件訂正前と同様に炭化水素に下限値がない のと変わらない。 したがって、訂正事項2は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではない。 (ウ) 訂正事項3について控訴人が指摘する本件明細書の【0005】の記載は、それ 自体意味が不明瞭な記載ではないし、また、本件訂正前(本件特 許の設定登録時)の請求項1の記載との関係で不合理を生じているために不明瞭となっているものではない。 したがって、訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに当たらない。 イ本件訂正による無効理由の 合理を生じているために不明瞭となっているものではない。 したがって、訂正事項3は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに当たらない。 イ本件訂正による無効理由の解消及び被告製品が本件訂正発明の技術 的範囲に属するとの主張に対し控訴人の主張はいずれも争う。 ウ小括以上のとおり、訂正事項1ないし3はいずれも訂正要件を満たさず、また、本件訂正によってもサポート要件違反及び進歩性欠如の無 効理由は解消されないから、控訴人主張の訂正の再抗弁は成立しない。」第4 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載事項等次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の第4の1記載のとおり であるから、これを引用する。 ⑴ 原判決43頁末行から44頁4行目までを次のとおり改める。 「イ 「本発明」は、「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」ことを課題とするものであり、「本発明者」は、所定の高級アルコ ールと、脂肪酸又は炭化水素とを少なくとも含むタンパク質抽出剤によれば上記課題を解決できることを見出し、「本発明」を完成するに至った(【0005】ないし【0007】、【0009】、【0065】)。」⑵ 原判決44頁5行目の「「本発明」」を「ウ 「本発明」」と改める。 2 争点2(無効の抗弁の成否)について 本件事案に鑑み、サポート要件違反の無効理由から判断する。 ⑴ 争点2-3(サポート要件違反)について次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の44頁12行目から51頁21行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決44頁12行目の「 3(サポート要件違反)について次のとおり改めるほか、原判決の「事実及び理由」の44頁12行目から51頁21行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決44頁12行目の「⑴」を「ア」と、同頁21行目の「⑵」を「イ」と、同頁22行目の「ア」を「(ア)」と、46頁15行目の「イ」 を「(イ)」と、同頁17行目の「ア」を「(ア)」と、同頁21行目の「⑶」を「ウ」と、47頁3行目の「⑷」を「エ」と、同頁4行目の「ア」を「(ア)」と、同頁22行目の「イ」を「(イ)」と、同行目の「⑵ア」を「イ(ア)」と改める。 イ原判決48頁8行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「(ウ) 【0061】には、「ここで、第2タンパク質抽出剤を液状化粧品に使用した場合の各成分の含量としては、液状化粧品の製品形態とした場合に好適な量を示すものであり、実際の使用態様において、これより薄い濃度にて使用することを許容するものである。」、「・水を含有する態様水を含有する態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化 粧品)において、炭化水素の配合量は、水への溶解度以上の量である。 第2の高級アルコールの配合量は、炭化水素の体積に対し、1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲内の量である。」、「・水を含有しない態様水を含有しない態様の第2のタンパク質抽出剤(液状化粧品)において、炭化水素の配合量は、第 2のタンパク質抽出剤全体に対して3体積%以上99体積%以下である。第2の高級アルコールの配合量は、炭化水素の体積に対し、1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲内の量である。」との記載がある。」ウ原判決48頁9行目の「ウ」を「(エ)」と、同頁10行目の「 、炭化水素の体積に対し、1体積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲内の量である。」との記載がある。」ウ原判決48頁9行目の「ウ」を「(エ)」と、同頁10行目の「角栓のあ る皮膚」から14行目末尾までを「実施例12において調製した第1の タンパク質抽出剤A及びB、第2のタンパク質抽出剤A及びB、並びに市販の石けんを使用し、角栓のある皮膚に対する洗浄効果を比較した結果、石けんと比較して、本発明のタンパク質抽出剤はいずれも高い洗浄効果を示したというものであり、第2のタンパク質抽出剤Aとして、「オクチルドデカノール」と「スクアラン」(スクワラン)の体積比1対2 (9ml)を含むものが用いられているが(【0141】)、一方で、実施例13の結果として、実際に毛穴に詰まった角栓を除去できたことを明示した記載はない。」と、同頁17行目の「エ」を「(オ)」と、同頁21行目の「⑸」を「オ」と同頁22行目及び24行目の各「前記⑵」をいずれも「前記イ」と、同頁24行目から25行目にかけての「本件明細 書」を「本件発明」と改める。 エ原判決49頁3行目の「⑷」を「エ」と改め、同頁6行目の「炭化水素の含有量」から50頁1行目までを次のとおり改める。 「【0061】の記載によれば、タンパク質抽出剤(液状化粧品)の「水を含有する態様」においては、上記各有効成分の「好適な量」(配合量) が、炭化水素については、水への溶解度以上の量とされており、炭化水素が水に溶けないこと(例えば、「スクアラン」の「安全データシート」(甲21)には、「溶媒に対する溶解性:水;不溶」との記載がある。)に照らすと、実質的にその量について限定はなく、第2の高級アルコールの配合量は、炭化水素の体積に対し アラン」の「安全データシート」(甲21)には、「溶媒に対する溶解性:水;不溶」との記載がある。)に照らすと、実質的にその量について限定はなく、第2の高級アルコールの配合量は、炭化水素の体積に対し、1体積%以上200体積%以下 とされている。このように、上記「水を含有する態様」においては炭化水素の配合量について限定がないものの、【0060】で好適とされている炭化水素の配合量の下限値である、タンパク質抽出剤全体の3体積%(これは、【0061】に記載された「水を含有しない態様」における好適な配合量の下限値でもある。)とすると、その場合の第2の高 級アルコールの好適な配合量は、0.03体積%から6体積%となる。 ここで、本件発明は、「角栓除去用」液状クレンジング剤の発明であり、その用途が限定されているところ、本件明細書には、角栓のある皮膚を対象とした実施例は、実施例13の一例しかなく、同実施例においても、実際に毛穴に詰まった角栓を除去できたことを明示した記載はなく、角栓の除去の有無及びその程度は明らかではない。また、実施例1 3に用いられた、角栓除去用液状クレンジング剤に相当する「第2のタンパク質抽出剤A」(【0141】)は、水性溶媒であるリン酸バッファ(0.5ml)を含有し、水を含むものであるところ、これに含まれる炭化水素であるスクアラン(6ml)及び第2の高級アルコールであるオクチルドデカノール(3ml)の含有量は、それぞれ約63体積%及 び約32体積%であって(計算式スクアラン:6/(0.5+6+3)=0.631、オクチルドデカノール:3/(0.5+6+3)=0. 315)、上記「水を含む態様」の「好適な量」(配合量)に含まれる、炭化水素が3体積%、第2の高級アルコールが0.03体積%から6 )=0.631、オクチルドデカノール:3/(0.5+6+3)=0. 315)、上記「水を含む態様」の「好適な量」(配合量)に含まれる、炭化水素が3体積%、第2の高級アルコールが0.03体積%から6体積%となる配合量を、それぞれ大きく上回るものである。そうすると、 実施例13の記載のみから、当業者が、角栓除去用液状クレンジング剤に含まれる炭化水素の配合量が3体積%、第2の高級アルコールの配合量が0.03体積%から6体積%の場合であっても、当該角栓除去用液状クレンジング剤によって角栓除去の効果が得られると認識することは困難であるというべきである。 したがって、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明の範囲に含まれる上記の好適な配合量の数値範囲全体にわたって、角栓除去作用(すなわち、タンパク質除去作用)があり、「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」という本 件発明の課題(前記イ)を解決できることを認識することができるもの と認めることはできない。 以上によれば、本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと認めることはできないから、本件発明の特許請求の範囲の記載(請求項1)は、サポート要件に適合するものと認められない。」オ原判決50頁2行目の「⑹」を「カ」と、同頁3行目の「ア」を「(ア)」 と、同頁11行目の「イ」を「(イ)」と改め、同頁14行目から51頁11行目までを次のとおり改める。 「 しかし、【0061】の記載を踏まえても、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明の範囲に含まれる【0061】に記載された好適な配合量の数値範囲全 とおり改める。 「 しかし、【0061】の記載を踏まえても、当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、本件発明の範囲に含まれる【0061】に記載された好適な配合量の数値範囲全体にわたって、角 栓除去作用(すなわち、タンパク質除去作用)があり、「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であっても、タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」という本件発明の課題を解決できることを認識することができるものと認めることはできないことは、前記オのとおりである。」 カ原判決51頁12行目の「エ」を「(ウ)」と、同頁20行目の「オ」を「(エ)」と、同行目の「前記アないしエ」を「前記(ア)ないし(ウ)」と改める。 ⑵ 争点2-4(訂正の再抗弁の成否)についてア本件訂正によるサポート要件違反の無効理由の解消について 控訴人は、①訂正事項3により、本件明細書の【0005】は削除され、本件発明が解決しようとする課題は「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」であること(【0006】)が明確になった、②訂正事項1により、本件明細書の【0060】は削除され、水を含有する第2のタンパク質抽出剤の液状化粧品は、炭化水素の配合量が水への溶解 度以上、第2の高級アルコールの配合量が炭化水素の体積に対して1体 積%以上から炭化水素の体積の2倍以下(200体積%以下)の範囲の量であることが明確となり、訂正事項2に係る本件訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明)は、本件明細書の【0061】に記載されているとして、本件訂正により、本件特許のサポート要件違反の無効理由は解消される旨主張する。 しかしながら、控訴人の主張は、以下のとおり理由が は、本件明細書の【0061】に記載されているとして、本件訂正により、本件特許のサポート要件違反の無効理由は解消される旨主張する。 しかしながら、控訴人の主張は、以下のとおり理由がない。 (ア) 本件訂正後の請求項1の記載訂正事項2に係る本件訂正後の請求項1の記載は、次のとおりである(下線部は、本件訂正による訂正箇所である。)。 【請求項1】 水と、オクチルドデカノールと、水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びスクアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素と、界面活性剤(但し、界面活性剤が全量に対して0~10体積%である ものを除く。)と、を含む角栓除去用液状クレンジング剤。 (イ) 控訴人の主張①について本件訂正により、本件明細書の【0005】が削除されたとしても、【0065】に、本件発明の効果に関し、「本発明のタンパク質抽出剤 は、界面活性剤等を含まなくとも、優れたタンパク質抽出効果を奏する。 したがって、本発明のタンパク質抽出剤によれば、皮膚への負担を低減しつつ、所望の洗浄効果が得られる。」との記載があることに照らすと、本件発明の課題は、単に「タンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」にあると解することはできず、前記⑴イのとおり、「界面活性 剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタ ンパク質を抽出できる液状化粧品を提供すること」にあると認めるのが相当である。 (ウ) 控訴人の主張②について訂正事項2に係る本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1に「水と、」、「水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びス クアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素」といった下 訂正事項2に係る本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1に「水と、」、「水への溶解度より多い量のリモネン、スクアレン、及びス クアランからなる群から選ばれる1種類以上の炭化水素」といった下線部の記載が加えられたとしても、本件訂正後の請求項1には、オクチルドデカノールの含有量について規定した記載はなく、また、炭化水素の含有量について「水への溶解度より多い量の」との記載はあるが、炭化水素が水に溶けないこと(前記⑴オ)に照らすと、実質的に炭化水素の 含有量について限定はないものと解される。 そうすると、本件発明の「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」という課題を解決するために必要となるオクチルドデカノール及び炭化水素の含有量については、本件訂正後の請求項1において は、限定がないものと理解される。 そして、本件訂正によって本件明細書の【0060】が削除されたとしても、前記⑴オのとおり、【0061】にはタンパク質抽出剤(液状化粧品)の「水を含有する態様」における、炭化水素及び第2の高級アルコールの好適な配合量についての記載があり、当業者は、本件明細書 の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から、水を含有する本件訂正発明の範囲に含まれる上記好適な配合量の数値範囲全体にわたって、角栓除去作用(すなわち、タンパク質除去作用)があり、「界面活性剤を使用していないか又は界面活性剤の使用量がごく少量であってもタンパク質を抽出できる液状化粧品を提供する」という本件発明の課題(前記⑴ イ)を解決できることを認識することができるものと認めることはでき ない。 したがって、本件訂正によって、本件特許のサポート要件違反の無効 供する」という本件発明の課題(前記⑴ イ)を解決できることを認識することができるものと認めることはでき ない。 したがって、本件訂正によって、本件特許のサポート要件違反の無効理由が解消するものと認めることはできない。 イまとめ以上によれば、控訴人主張の訂正の再抗弁は、その余の点について判 断するまでもなく、理由がない。 ⑶ 小括以上のとおり、本件特許には、サポート要件違反の無効理由(特許法36条6項1号、123条1項4号)が存在し、特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから、控訴人は、被控訴人に対し、同法104条 の3第1項の規定により、本件特許権を行使することができない。 第5 結論以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の請求は、理由がない。 したがって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由 がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官大鷹一郎 裁判官小川卓逸 裁判官遠山敦士
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