平成27年6月18日判決言渡平成27年(行コ)第7号処分取消等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成25年(行ウ)第104号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人交通局自動車部A営業所に所属し,バスの運転業務に従事していた被控訴人が,控訴人が職員に対して組合・政治活動及び入れ墨に関する各アンケート調査を実施したことが違憲・違法であるとして,被控訴人が入れ墨に関するアンケート調査への回答を拒否したことを理由とする戒告処分の取消し及び慰謝料の支払を求めて提訴したが,交通局長から同訴訟の取下げを要求され,これを拒否したところ,自動車部運輸課に転任を命じられたとして,①ア主位的に,同転任が裁量権の逸脱・濫用がある違法な処分であるとして,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)30条に基づき,その取消しを求め(以下「本件取消請求」という。),イ予備的に,上記転任命令が行政処分ではないとしても,違法な転任であり,確認の利益も認められるとして,行訴法4条に基づき,自動車部運輸課に勤務する義務のないことの確認を求め(以下「本件無効確認請求」という。),②違法な転任命令により精神的苦痛による損害を被ったとして,国家賠償法に基づき,損害賠償金440万円及びこれに対する不法行為の日である平成24年12月11日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求める事案である。 以下においては,特に記載のない限り,日時については平成 に対する不法行為の日である平成24年12月11日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求める事案である。 以下においては,特に記載のない限り,日時については平成24年の出来事を指し,課,営業所は上記自動車部に所属するものを指すものとする。 原審は,被控訴人の請求のうち,上記①については本件取消請求を理由があるものと認め,上記②については110万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認め,その余の請求を棄却した。控訴人は,控訴人敗訴部分を不服として控訴した。 2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記3に当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第2の1ないし3(原判決3頁5行目から22頁9行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決7頁4行目「当庁」を「大阪地方裁判所」に改める。 (2) 同7頁10行目「B所長」を「A営業所の所長であったB(以下「B所長」という。)」に改める。 (3) 同12頁15行目「取り下げろと」の後に「告げて」を加える。 (4) 同12頁24行目「想定される」の後に「被控訴人への」を加える。 (5) 同16頁21行目「原告が」から24行目までを「被控訴人が運輸課において業務上孤立させられているとか,差別的取扱いを受けているなどという実態はなく,被控訴人が精神的苦痛を被るようなものではない。」に改める。 (6) 同20頁13行目「乗務」を「乗務担当」に改める。 (7) 同20頁24行目「多いことに変わりはなく,現在に至るまで」を「多いことに変わりはなかった。このように,被控訴人は,現在に至るまで」に改める。 (8) 同20頁26行目冒頭に「以上によれば,」を加える。 3 当審におけ とに変わりはなく,現在に至るまで」を「多いことに変わりはなかった。このように,被控訴人は,現在に至るまで」に改める。 (8) 同20頁26行目冒頭に「以上によれば,」を加える。 3 当審における控訴人の主張(1) 訴えの利益について 原判決は,本件転任命令は,処分の取消しにより回復される不利益を伴うものと認めるのが相当であると判断している。 しかしながら,本件転任命令による職務内容の変更は,「不利益」と評価すべきものではないし,仮に,本件転任命令が被控訴人に何らかの心理的負担等を生ぜしめるとしても,このような負担は,転任に通常伴う事実上のものにすぎず,当該転任の「直接の法的効果として,処分の取消しにより回復されるべき」不利益とは到底評価できない。 被控訴人に命じうる職ないし職務は営業用自動車の運転に限定されていないし,原判決が挙げる「不慣れな事務作業を一から覚えなければならない」ことは,転任に伴って通常当然に生ずる程度のものであって,仮に,これによって職員に何らかの心理的負担が生じたとしても,かかる事情は,何ら不利益と評価すべきものではない。 運輸課は,運転手経験者による勤務を求められる部門であって,運輸課で勤務する際には,どの運転手経験者も,不慣れな事務作業を一から覚えなければならないのであり,それを法的な不利益と評価することはできない。 (2) 裁量逸脱についてア本件転任目的を排斥し,他意の存在を唯一の目的とする原判決の誤り控訴人は,本件転任命令の際,別件訴訟提起・追行による被控訴人に対する心理的影響,かかる状況下で事故等を起こした場合の市民への説明責任,他の運転手への影響等を勘案したものである(以下「本件転任目的」という。)。 ところが,原判決は,本件転任目的を完全に排斥し,別件訴 理的影響,かかる状況下で事故等を起こした場合の市民への説明責任,他の運転手への影響等を勘案したものである(以下「本件転任目的」という。)。 ところが,原判決は,本件転任目的を完全に排斥し,別件訴訟に対する対抗措置という他意の存在が唯一の目的であったと認定しており,かかる認定は,運転業務の特性,とりわけ生命身体の安全確保の重要性を理解することのない,誤った前提に基づくものであり,失当である。 被控訴人は,その判断・動作が市民の生命・安全に即時・直接に影響を 与える運転手である。控訴人としては,このような市民の生命・安全に直結する運転業務において,実際に業務上の支障が発生してから対応するのでは遅きに失することは明らかであるから,市民や利用者の安全確保に支障を与える可能性が存する事態に至った以上,対処の必要性を認め,被控訴人を運転業務から外すことは当然に許容されるというべきである。健康状態等を確認し受診を指示するなどの行動を取るとか,他にバスの運転手としての心身の状態が万全でないことをうかがわせる具体的な事実が別途現実に存在しない限り,被控訴人をバスの運転業務に従事させ続けるはずであるなどという前提に立つ原判決は,かような心理的負荷の運転に与える影響,安全信頼の確保の重要性,交通事業者たる控訴人において心身の故障以外の事情によっても乗務の適正を判断しているという実態に対する無理解によるものであり,失当である。 ことに,バスの安全運行に影響を与える可能性があるのは,健康診断や産業医療等の受診で判断し得るような,運転手の身体的状態(生理的問題)による場合だけではない。心理的要因の場合,医学的な傷病に該当しなくとも,それによる危険性の高まりは経験的・理論的にも明らかになっているのであり,かかる心理的要因を発生させる事情が認めら 理的問題)による場合だけではない。心理的要因の場合,医学的な傷病に該当しなくとも,それによる危険性の高まりは経験的・理論的にも明らかになっているのであり,かかる心理的要因を発生させる事情が認められれば,運転業務から外すことは当然に許容される。 控訴人においては,実際,バス運転手について,心身の故障の場合のみならず,重大事故や不祥事案の惹起など諸般の事情により,市民や利用者の安全や信頼確保等の観点に照らし必要と認められた場合には,把握できた情報等に基づき,当該職員を運転業務から外す取扱いをすることは何ら例外的な対処ではない。これらの事例については,いずれも,当該運転手のある特定の心身の故障(医学上の傷病)を理由とするものではなく,その客観的状況から推察される心理的負荷等の影響を懸念したものである。 本件では,訴訟提起が控訴人の職務命令に対する強い不満に基づくもので あり,運行上の信頼関係を確保することが困難とされる状況にあった。よって,控訴人が,被控訴人に対し,健康状態を確認したり,診断書の取得や産業医等の受診指示等を行ったりする必要はなかったといえる。また,他の運転手にも,安全に対する不安,指揮命令を行う控訴人に対する信頼低下といった影響を与える可能性は否定できない。 イ原判決の本件面談の理解の誤り原判決は,①「もし,本件転任命令の目的が控訴人の主張するとおりであれば,C局長において被控訴人と本件面談を行った際,被控訴人に対し,別件訴訟の取下げを強く促す前に,同訴訟を提起したことによる心理的影響やそれによりバス乗務に支障が生じているか否かをまず確認してしかるべきであるし,仮にその点を危惧したというのであれば,被控訴人に対し,健康診断の受診を命じるなどの措置をとってしかるべきである」のに,「C局長は,本件面談の際 が生じているか否かをまず確認してしかるべきであるし,仮にその点を危惧したというのであれば,被控訴人に対し,健康診断の受診を命じるなどの措置をとってしかるべきである」のに,「C局長は,本件面談の際に上記事項について何ら確認せず,上記指示等をもしない」こと,②本件面談時の内容の2点のみから,C局長が,本件面談において,「別件訴訟の取下げを一貫して強く促しているのは…自己が行った被控訴人に対する本件戒告の取消しを被控訴人が求めて別件訴訟を提起したことを嫌悪したことによるものと推認」しているが,失当である。 C局長は,一職員との直接の面談について懸念を示す声も理解した上で,あえて被控訴人と二人きりで面談を行い,被控訴人が不要な緊張を抱かないように心を配り,職場の上下関係や高圧的態度を示すこともなく被控訴人に理解を求めている。 ウ本件転任命令には,本件転任目的以外に他意はなく,他意の存在と相容れない事情が存在すること(ア) 本件面談は方針決定後に実施されたこと本件転任命令は,本件面談以前に決まっていたのであるから,C局長が,「被控訴人に対し,別件訴訟を取り下げることを求めたが,被控訴 人が求めに応じなかった」ことを理由に本件転任命令が行われたという因果の流れにはない。本件面談は,既に決まっていた本件転任命令について,できることなら今までどおり運転手として働いてもらうのが最善であるという趣旨から行われたものであり,本件面談によって本件転任命令の方針が決定されたわけではない。 よって,原判決の認定は誤った認識に基づくものである。 (イ) 公務遂行上の必要性があること運輸課では,深刻な人員不足にあり,現に欠員を生じていたところ,市バス事業の運行業務の全般を担当している同課では,被控訴人の運転手としての知識,経験を活用す (イ) 公務遂行上の必要性があること運輸課では,深刻な人員不足にあり,現に欠員を生じていたところ,市バス事業の運行業務の全般を担当している同課では,被控訴人の運転手としての知識,経験を活用することができ,実際,被控訴人は運輸課において,バスの運行業務や利用者対応,経路確認,路線巡視車運転業務等,運転手としての知識・経験を活用する職務に従事している。このように,控訴人が,欠員を生じていた運輸課に対し,公務遂行上の必要に基づき配置したとの事実は,制裁・対抗措置とは相容れないものである。 (ウ) 本件転任命令は別件訴訟提起に対する対抗措置になりえないこと本件転任命令は,実質的にも法律的にも不利益がなく,被控訴人に精神的苦痛等の不利益を与えるとか,別件訴訟の追行を困難にするなどの効果を有するものではない。制裁的効果もなく,被控訴人の意向にも即したものであった。 (エ) 被控訴人の利益に配慮していること控訴人は,本件転任命令にあたって,被控訴人に不利益を生じさせることがないよう,職種や身分,給与の変更がないようにした。転任後についても,被控訴人が運輸課業務に習熟していないこと等を踏まえ,業務量ないし業務内容に配慮しつつ,習熟度に合わせて徐々に拡大するなどしており,被控訴人が業務を与えられず孤立しているとか差別的な取 扱いを受けているという事実はなく,職場の上司や同僚とも良好な人間関係を築いている。 (オ) 制裁措置になるとの認識が控訴人になかったこと本件転任命令は,客観的に被控訴人にとって不利益にはならないし,不利益にならないよう控訴人においても配慮していた。仮に,被控訴人が本件転任命令を自己の意に沿わないものと認識していたとしても,別件訴訟への支障を主張したことはない。かえって,被控訴人自身,事務職として にならないよう控訴人においても配慮していた。仮に,被控訴人が本件転任命令を自己の意に沿わないものと認識していたとしても,別件訴訟への支障を主張したことはない。かえって,被控訴人自身,事務職としての局内応募歴等もあり,本件面談では本件転任が意に沿うかのような発言もみられた。 以上によれば,本件転任命令当時,控訴人には,C局長,D課長,E課長いずれにおいても,原判決が指摘するような別件訴訟に対する制裁措置などという他意を有するに至る主観的な前提を欠いているといえる。 エ以上のとおり,控訴人は,訴訟追行即転任という判断をしているわけではなく,訴訟追行という客観的事実関係から,本件転任目的で掲げた諸点に留意する必要があると判断したのである。かかる本質部分をしんしゃくせず,訴訟追行による転任は裁判を受ける権利の侵害であるとし,本件転任目的はなかったと認定する原判決は,生命・身体の安全という重要な価値をあえて無視するものか,裁判を受ける権利と生命・身体の安全を的確に衡量しないものである。 (3) 国家賠償法に基づく損害賠償請求権がないこと本件の事実関係からすれば,本件面談,本件出張命令,本件転任命令が国家賠償法上の違法な行為と評価される余地はない。 原判決は,①本件転任命令が,別件訴訟の提起・追行という裁判を受ける権利を行使したことに対する対抗措置として,公務遂行上の必要性も全く認められないにもかかわらず行われたものであること,②被控訴人が従事する職務内容等に大きな変化が生じ,被控訴人が長年一貫して従事してきた自動 車運転手の職務から外れ,全く不慣れな事務方の業務に就くことになったこと,③結果的に本件転任命令後は超過勤務が減少したことにより超過勤務手当が平均すると月8万円余り減少していることを指摘して本件転任命令に 手の職務から外れ,全く不慣れな事務方の業務に就くことになったこと,③結果的に本件転任命令後は超過勤務が減少したことにより超過勤務手当が平均すると月8万円余り減少していることを指摘して本件転任命令による慰謝料の額を100万円と認定しているが,しんしゃくすべきでない事情を偏重しており不当である。 仮に,転任に関し被控訴人に不満があるとしても,これらは控訴人の職員において当然に受容すべき事柄であるから,かかる事情につき,金銭をもって慰謝すべき精神的苦痛であると法的に評価することはできない。 以上のとおり,控訴人に国家賠償法上の違法行為はないし,これを措いても,原判決は,本件転任命令による具体的な支障も不利益も一切認定することなく,前記事情①ないし③をもって損害を導いているが,これらが損害を基礎づける不利益や精神的苦痛を生ぜしめるものではない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,本件取消請求について理由があるものと認め,国家賠償法に基づき110万円及びこれに対する不法行為日である平成24年12月11日から支払済みまで民法所定の遅延損害金の支払を認めた原判決は相当であり,控訴人の本件控訴は理由がないと判断する。 その理由は,次のとおり補正し,後記2に当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中第3の1ないし6(原判決22頁11行目から32頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決22頁21行目「職員部長であるFとともに」を「職員部長であるFとともに」に改める。 (2) 同22頁25行目「A営業所の所長であったB(以下「B所長」という。)」を「B所長」に改める。 (3) 同23頁2行目「本件面談において,」の後に「『何を言いたいか,まず ちょっと ) 同22頁25行目「A営業所の所長であったB(以下「B所長」という。)」を「B所長」に改める。 (3) 同23頁2行目「本件面談において,」の後に「『何を言いたいか,まず ちょっときょうは聞かせてくれというのが一つですわ。訴えるというのはやな。』,」を加える。 (4) 同23頁11行目冒頭に「『現場が,Gさんの思いとは逆に,もうやめてと思ってるんよと。それから,お客さんは,私はやめさせという市民の声はあったとしても無視しますよ。そやけども,無視できへんのは,私たちはそういうバスに乗ってんのかという声があるわけ,そういう運転手の。』,」を加える。 (5) 同23頁21行目「など」の前に「『僕は人間としての常識だとか,これは民間とか公営じゃないわ,これ。やっぱり人間としての常識。部下をそしる上司,公営でも民営でもだめや。ほんで,上司を訴える部下,民営でも公営でもだめ。』」を加える。 (6) 同24頁12行目「施令」を「指令」に改める。 (7) 同26頁15行目から16行目「全くこれと異なっており,本来であれば,職種を変更すべき職務内容の変更を伴うものである。」を「全くこれと異なっている。」に改める。 2 当審における控訴人の主張に対する判断(1) 訴えの利益について控訴人は,本件転任命令による職務内容の変更により被控訴人に不利益が生じるものではないし,仮に何らかの不利益が生じたとしても,事実上のものにすぎないから,法律上の不利益はない旨主張する。 前記前提事実によれば,本件転任命令は,被控訴人を,運輸課勤務に変更して運転業務の担当から外すものである。被控訴人は,平成3年に交通局に入所し,研修所に入所して以降,20年以上バス運転手の職種にあり,大型車の運転免許のほか必要な技術を取得かつ習熟し,時刻 務に変更して運転業務の担当から外すものである。被控訴人は,平成3年に交通局に入所し,研修所に入所して以降,20年以上バス運転手の職種にあり,大型車の運転免許のほか必要な技術を取得かつ習熟し,時刻表どおり正確に運行するなど公共交通機関であるバス運転手としての技能を活用し,能力を発揮してきたと考えられる。しかるところ,変更後の運輸課の職務は,自動車の 営業及び運行業務の統括及び実施に係る連絡調整,自動車事業の事業計画等の実施に関する業務,自動車の路線計画及び運行計画の策定及び実施に関する業務,自動車路線の許認可事務,連絡調整等(乙16別紙)を内容とするものであって,この業務への転任は,これまで従事してきた職務により得られた経験や技能を活かすことが困難となる一方で,新たな知識や技術等の習得が一から必要となることは容易に推認できる。 この点,控訴人は,運輸課で勤務する際はどの運転手経験者も不慣れな事務作業を一から覚えなければならないから,これは法的な不利益とはいえないと主張する。しかしながら,被控訴人は,昭和33年▲月▲日生まれ(乙2)で本件転任命令当時は54歳になり,上記のとおり,20年以上もの間,バス運転手の職務に一貫して従事していたこと,運輸課での業務がデスクワークと認められるもので,これまでの業務とは相当の差違があることからすると,その職務内容の変更は異動に伴い当然に甘受すべきであるとか事実上の不利益にとどまるとは到底評価することができない。 以上によれば,被控訴人には,本件転任命令を取り消すことによる法律上の利益があると認めるのが相当である。 (2) 裁量の逸脱についてア本件転任目的について控訴人は,本件転任命令の際,本件転任目的が存在し,これによる本件転任命令は裁量を逸脱する違法なものではないと主張 認めるのが相当である。 (2) 裁量の逸脱についてア本件転任目的について控訴人は,本件転任命令の際,本件転任目的が存在し,これによる本件転任命令は裁量を逸脱する違法なものではないと主張する。 しかしながら,本件転任命令が,市民や利用者の安全確保の観点に基づくものであるとする控訴人の主張が採用できないことは原判決27頁25行目から同29頁8行目までにおいて説示のとおりである。 この点,控訴人は,バスの安全運行に影響を与える可能性があるのは,健康診断や産業医療等の受診で判断しうるような運転手の身体的状態(生理的問題)による場合だけではない,心理的要因の場合は医学的な傷病に 該当しなくとも,それによる危険性の高まりは経験的・理論的にも明らかになっているのであり,かかる心理的要因を発生させる事情が認められれば,運転業務から外すことは当然に許容される旨主張し,本件では,訴訟提起が控訴人の職務命令に対する強い不満に基づくものであり,運行上の信頼関係を確保することが困難とされる状況にあり,被控訴人に健康状態を確認したり,診断書の取得や産業医等の受診指示等を行ったりする必要はなかった旨,他の運転手にも安全に対する不安,指揮命令を行う控訴人に対する信頼低下といった影響を与える可能性は否定できない旨主張する。 前記認定事実によれば,被控訴人は10月15日に別件訴訟を提起し,それから間もない10月22日には本件出張命令がなされ,その後被控訴人はバスの運転業務をほとんど行っていないことが認められる。また,別件訴訟提起後の被控訴人のバス運転業務において,被控訴人が控訴人との間の信頼関係を確保することが困難な状態にあったとか,心理的要因等によりバス運転業務に支障を生じさせたとかの事情は認められないし,控訴人がこれらを確認したり,確 転業務において,被控訴人が控訴人との間の信頼関係を確保することが困難な状態にあったとか,心理的要因等によりバス運転業務に支障を生じさせたとかの事情は認められないし,控訴人がこれらを確認したり,確認のための手段を尽くしたりした等の事実も認められない。 また,本件転任目的の故をもって本件転任命令がなされたとするならば,転任に際しては,別件訴訟に関わることによる心理状況や運行安全に対する影響の有無を確認し,かつそのような転任理由の説明が控訴人から被控訴人になされるのが通常であるが,本件面談を含めて,そのような確認や説明がなされた形跡もない。 そうすると,本件事実関係のもとでは,別件訴訟提起後,被控訴人によるバス運転業務によりバスの安全運行に影響を及ぼし事故発生の危険性が高まる状況にあったとか,控訴人と被控訴人との間の信頼関係が保たれない状況にあったなどと認定することはおよそ困難であるというほかなく,また,別件訴訟を提起したことによって上記の状況に至る可能性が高くな ったとも認め難い。よって,控訴人の上記主張は採用できない。 イ C局長の本件面談について前記認定事実,証拠(甲31)によれば,C局長は,本件面談において,「明日からしっかりドライバーしいやと,もう。だから,提訴も取り下げて」,「社長を訴えるということはどういうことか,腹くくりあるやろう」,「そんなもん,わし,認めるわけにはいかんもん」,「一番は,もう明日からきれいさっぱり,私と話をしたことを受けて,がたがた言うのはやめまっせと,しっかりバス回らせてもらいますよというのが私は最善やと思うし。ほんで,やっぱりそれこそ皆さんがちゃがちゃ言う者があって,それでもがたがたということやったら,1回,本局へ来たらどうやと。別のとこから職場をずっと見たげて,これどうやと うのが私は最善やと思うし。ほんで,やっぱりそれこそ皆さんがちゃがちゃ言う者があって,それでもがたがたということやったら,1回,本局へ来たらどうやと。別のとこから職場をずっと見たげて,これどうやというのが二つ目。(中略)その二つぐらいで,一両日考えて。」,「もうHさんに俺どうするって,明日ぐらいに返事しといてくれ」,「Hさんから返事もろたら,頑張れよと言うか,こっち来いと言うか,どっちかや。それでよろしいか」などと発言し,ほかにも,上司を訴えることはだめだという趣旨の発言が度々みられること,C局長は,被控訴人に対し,バスの運転乗務において,支障が生じているかといったことは特段確認していないことが認められる。 上記事実を総合すれば,本件面談におけるC局長の発言により,別件訴訟が取り下げられれば,運転手の職務を続けさせることが可能であるが別件訴訟が取り下げられなければ,運転手の職務を続けさせるわけにはいかず,本局へ異動させるとする控訴人の姿勢が明確に示されていること,C局長自身が,別件訴訟提起を,あるまじきことであるとの認識を有していることが認定でき,原判決が,C局長が,別件訴訟の取下げを一貫して強く促しているのは,「自己が行った被控訴人に対する本件戒告の取消しを被控訴人が求めて別件訴訟を提起したことを嫌悪したものによるものと推認できる。」と判断したことは相当である。 この点,控訴人は,C局長が,本件面談時に,被控訴人が不要な緊張を抱かないように心を配り,職場の上下関係や高圧的態度を示すこともなく被控訴人に理解を求めていると主張する。たしかに,前記認定事実,証拠(甲31)によれば,本件面談時のC局長と被控訴人のやりとりは,お互いに話合いをするという雰囲気,姿勢がみられる場面があるものの,C局長の上記発言内容からす と主張する。たしかに,前記認定事実,証拠(甲31)によれば,本件面談時のC局長と被控訴人のやりとりは,お互いに話合いをするという雰囲気,姿勢がみられる場面があるものの,C局長の上記発言内容からすれば,本件面談は別件訴訟取下げを求める説得作業であると認められる以上,上記認定を左右するものとはいえない。 ウ本件転任目的以外の他意の存在について(ア) 控訴人は,本件転任命令は,本件転任目的以外に他意はなく,①本件面談は方針決定後に実施されている,②本件転任命令は公務遂行上の必要性があった,③本件転任命令は対抗措置になり得ない,④本件転任命令は被控訴人の利益にも配慮している,⑤本件転任命令が対抗措置になるという認識は控訴人にはなかったとし,他意の存在と相容れない事情があると主張する。 (イ) 上記①について前記認定事実によれば,本件面談において,C局長は,「一番は,もう明日からきれいさっぱり,私と話をしたことを受けて,がたがた言うのはやめまっせと,しっかりバス回らせてもらいますよというのが私は最善やと思うし。」,「もうHさんに俺どうするって,明日ぐらいに返事しといてくれ」,「ほんで,どっちでもええ。それであれや。Hさんから返事もろたら,頑張れよと言うか,こっち来いと言うか,どっちかや。それでよろしいか」などと発言していることが認められる。 そうすると,本件面談以前より転任命令の発令について検討されていたことがあるとしても,本件出張命令及び本件転任命令は,本件面談を経てもなお被控訴人が別件訴訟を取り下げる態度を示さなかったことを受けて発令に至ったものと認定するのが相当である。 よって,本件面談は方針決定後に実施されたとの控訴人の主張は採用できない。 (ウ) 上記③⑤について控訴人は,本件転任命令は 受けて発令に至ったものと認定するのが相当である。 よって,本件面談は方針決定後に実施されたとの控訴人の主張は採用できない。 (ウ) 上記③⑤について控訴人は,本件転任命令は,実質的にも法律的にも不利益がなく,別件訴訟の追行を困難にするなどの効果を有するものではないから,別件訴訟提起・追行への対抗措置にはなりえないし,被控訴人は以前に局内公募申込みをしたことがあり,本件面談では,転任が意に沿うような発言もみられたから,控訴人においては,制裁措置になるとの認識がなかったと主張する。 本件転任命令の取消しを求めるにつき法律上の利益があることは前記(1)認定のとおりであり,本件転任命令が被控訴人に不利益をもたらすものといえる。また,本件転任命令は,被控訴人が別件訴訟を提起したことを受けて,被控訴人が同訴訟を取り下げるまでは従前の業務に従事させないという別件訴訟への対抗措置としてとられたものであると評価するほかないことは原判決26頁26行目から同27頁20行目まで,29頁9行目から21行目までに説示のとおりである。 たしかに,被控訴人は,平成19年ころ,局内公募の実施を受けて,総務部総務課(広報)への公募申込みを行ったことがある(乙1,2)ものの,その後も引き続きバスの運転業務に従事していたものであり,上記局内公募申込みの事実をもって,平成24年になって,別件訴訟提起を受けて行われた本件転任命令が被控訴人の意に沿ったものであるとは認め難い。 また,証拠(甲31)によれば,本件面談において,「本局おいでや」というC局長の発言に対して,被控訴人が,「そんな僕は,そんなただの運転手で,そんな場所があるんですか」という発言をしているものの,C局長の「しっかりドライバーしいやと,もう。だから,提訴も取り下 言に対して,被控訴人が,「そんな僕は,そんなただの運転手で,そんな場所があるんですか」という発言をしているものの,C局長の「しっかりドライバーしいやと,もう。だから,提訴も取り下 げて。」という発言に対しては,被控訴人は,「それはできないすね。」と答えていることが認められる。 以上によると,被控訴人は,本件面談において,別件訴訟を取り下げることと引き換えにバスの運転手を続けるということは受け容れられないという態度を明確に示しているといえ,このような被控訴人の意思をしんしゃくすれば,別件訴訟を取り下げないことを受けての本件転任命令が被控訴人の意に沿ったものであるとは認め難い。 よって,控訴人の上記主張はいずれも採用できない。 (エ) 上記②④について控訴人は,本件転任命令について公務遂行上の必要性があった,本件転任命令に際し被控訴人の利益にも配慮している等主張するが,転任の時期,急に欠員が生じたなどの事情はみられないことを踏まえると,本件転任命令の合理性は疑わしいものというほかなく,少なくともこれらが別件訴訟に対する対抗措置という他意の存在と相容れない事情であるとは認め難い。 (オ) 以上によれば,控訴人が主張する,「他意の存在と相容れない事情」と認めうるほどの事情は認められず,控訴人の上記主張は採用できない。 (3) 国家賠償法に基づく損害賠償請求権について控訴人は,本件転任命令に関し国家賠償法に基づく責任を負うものではない,仮に違法であるとしても原判決が認定した慰謝料100万円は高額にすぎると主張する。 C局長は,別件訴訟を取り下げなければバスの運転業務から外し,運輸課に転任させることになるという対抗措置を提示して同訴訟の取下げを求め,これに応じない被控訴人に対し,本件出張命令,本件転任命令を行って 局長は,別件訴訟を取り下げなければバスの運転業務から外し,運輸課に転任させることになるという対抗措置を提示して同訴訟の取下げを求め,これに応じない被控訴人に対し,本件出張命令,本件転任命令を行っており,かかる行為は国家賠償法上の違法行為に該当するものと認めるのが相当であることは,原判決30頁3行目から32頁3行目までに説示のとおりである。 そして,上記行為を行ったC局長には少なくとも過失があると認められる。 本件転任命令の内容,同命令に至る経緯,特に職務上ないし人事上の必要性,合理性が特段みられない中で,別件訴訟を取り下げないという被控訴人の態度に起因して別件訴訟への対抗措置として本件転任命令が行われたこと,超過勤務手当の減額,被控訴人の経歴等を併せ考慮すると,被控訴人の精神的苦痛は大きいものというべきであり,その慰謝料は100万円を下回らないものと認めるのが相当である。 3 結論以上によれば,本件取消請求は理由があるものと認められ,国家賠償法に基づく損害賠償請求については,弁護士費用を含め110万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認められるから,これと同旨の原判決は相当である。 よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第12民事部 裁判長裁判官森宏司 裁判官片岡勝行 裁判官鈴木紀子
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