平成29(ワ)3728 未払賃金等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年12月9日 京都地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-91213.txt

判決文本文29,188 文字)

主文 1 被告は,別紙1「認容額一覧表」の「原告名」欄記載の各原告に対し,当該原告に対応する「認容額」欄記載の金員及びうち「未払割増賃金」欄記載の金額に対する令和3年7月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,別紙1「認容額一覧表」の「原告名」欄記載の各原告に対し,当該原 告に対応する「付加金」欄記載の金員及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原告A1,原告A2,原告A3,原告A5,原告A7,原告A8,原告A9,原告A10,原告A12及び原告A13と被告との間においては,同 原告らに生じた費用と被告に生じた費用の20分の1を同原告らの負担とし,その余は被告の負担とし,原告A4,原告A6,原告A11,原告A14及び原告A15と被告との間においては,全部被告の負担とする。 5 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙2「請求額一覧表」の「原告名」欄記載の各原告に対し,当該原告に対応する「元利合計金額」欄記載の金員及びうち「未払割増賃金」欄記載の金額に対する令和3年7月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,別紙2「請求額一覧表」の「原告名」欄記載の各原告に対し,当該原告に対応する「付加金」欄記載の金員及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,タクシー乗務員として被告に勤務していた原告らが,未払の時間外割 増賃金があると主張して,被告に対し, ①雇用契約に基づき,各原告に対応する 員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,タクシー乗務員として被告に勤務していた原告らが,未払の時間外割 増賃金があると主張して,被告に対し, ①雇用契約に基づき,各原告に対応する 別紙3「原告ら計算表」の「未払割増賃金」欄記載の各未払割増賃金及びこれらに対する各約定支払期日の翌日から支払済みまで平成29年法律第45号による改正前の商法514条所定の商事法定利率(以下,単に「商事法定利率」という。)年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づき,各原告に対応する別紙3「原告ら計 算表」の「付加金」欄記載の金額及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の各証拠〔枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) ⑴ 当事者等ア被告は,一般乗用旅客自動車運送事業等を目的とする株式会社であり,タクシー事業を営んでいる。 イ原告らは,いずれも被告との間で労働契約を締結し,本件各請求に係る期間(以下「本件請求期間」という。),被告においてタクシー乗務員(以下 「乗務員」という。)として勤務していた者である。 ウ洛東グループ労働組合(以下「本件組合」という。)は,原告らが所属していた労働組合である。 ⑵ 被告における勤務体制及び労働条件アシフト 1車2人制1台の車両を2名で使用するシフトであり,5日間乗務をした後の翌日が公休日となる。 2車3人制2台の車両を3名で使用するシフトであり,2日間乗 1車2人制1台の車両を2名で使用するシフトであり,5日間乗務をした後の翌日が公休日となる。 2車3人制2台の車両を3名で使用するシフトであり,2日間乗務をした後の翌日 が公休日となり,さらに2日間乗務をした後の翌日が明け番となって,そ のサイクルを繰り返すこととなる。 イ月平均所定労働時間数 1車2人制 171.87時間 2車3人制 172.29時間ウ賃金締め支払日 毎月18日締め,当月27日支払(以下,支払日の属する月をもって「○月度」という。) 各原告の稼働期間及び勤務シフトア原告A1は,平成11年4月,乗務員として被告に入社し,平成30年3月19日,退職した。原告A1の勤務シフトは,2車3人制であった(以上 につき,甲28の1)。 イ原告A2は,平成12年4月16日,乗務員として被告に入社し,平成31年2月18日,退職した。原告A2の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の2,乙11の2)。 ウ原告A3は,平成16年9月22日,乗務員として被告に入社し,令和元 年10月,退職した。原告A3のシフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の3,乙11の3)。 エ原告A4は,平成17年9月20日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A4の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)である(以上につき,甲28の4,乙11の4)。 オ原告A5は,平成18年10月31日,乗務員として被告に入社し,平成30年1月7日,退職した。原告A5の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の5,乙11の5)。 カ原告A6は A5は,平成18年10月31日,乗務員として被告に入社し,平成30年1月7日,退職した。原告A5の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の5,乙11の5)。 カ原告A6は,平成20年11月17日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A6の勤務シフトは,1車2人制(夜勤) である(以上につき,乙11の6)。 キ原告A7は,平成22年3月19日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A7の勤務シフトは,2車3人制である(以上につき,甲28の7,乙11の7)。 ク原告A8は,平成22年12月21日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A8の勤務シフトは,1車2人制(夜勤) である(以上につき,甲28の8,乙11の8)ケ原告A9は,平成24年3月5日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A9の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)である(以上につき,甲28の9,乙11の9)。 コ原告A10は,平成24年3月16日,乗務員として被告に入社し,現在 も被告において勤務している。原告A10の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)である(以上につき,甲28の10,乙11の10)。 サ原告A11は,平成24年3月26日,乗務員として被告に入社し,現在も被告において勤務している。原告A11の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)である(以上につき,甲28の11,乙11の11)。 シ原告A12は,平成25年3月27日,乗務員として被告に入社し,令和2年4月29日,退職した。原告A12の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の12,乙11の12)。 ス原告A13は,平成25 年3月27日,乗務員として被告に入社し,令和2年4月29日,退職した。原告A12の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の12,乙11の12)。 ス原告A13は,平成25年12月17日,乗務員として被告に入社し,平成30年12月31日,退職した。原告A13の勤務シフトは,1車2人制 (夜勤)であった(以上につき,甲28の15,乙11の15)。 セ原告A14は,平成27年3月24日,乗務員として被告に入社し,令和2年6月18日,退職した。原告A14の勤務シフトは,1車2人制(夜勤)であった(以上につき,甲28の16,乙11の16)。 ソ原告A15は,平成24年7月12日,乗務員として被告に入社し,令和 2年2月18日,退職した。原告A15の勤務シフトは,1車2人制(夜勤) であった(以上につき,甲28の27,乙11の17)。 被告と本件組合との間の賃金に関する協定ア被告及び本件組合は,平成4年5月20日,乗務員の賃金規定について,要旨,以下の内容の合意をした(乙1。以下「平成4年協定」という。)。 初任基本給 8万6700円 月間水揚高35万円以上の者に対して総水揚の55パーセントを支給する。 基準外手当法定計算通りとする。 イ被告及び本件組合は,平成5年5月11日,乗務員の賃金規定について,要旨,以下の内容の合意をした(乙2。以下「平成5年協定」という。) 初任基本給 8万6700円 基準外手当a 月間35万円未満 1車2人制 7.5パーセント月間37.5万円未満 2車3人制 7.5パーセントb 1車2人は35万円以上,2車3人は37.5 準外手当a 月間35万円未満 1車2人制 7.5パーセント月間37.5万円未満 2車3人制 7.5パーセントb 1車2人は35万円以上,2車3人は37.5万円以上 売上高に応じたパーセントとする。 能率給月間水揚高1車2人は39万円を超える額の25パーセント2車3人は40万円を超える額の25パーセントウ被告及び本件組合は,平成15年5月6日,乗務員の賃金規定について, 要旨,以下の内容の合意をした(乙3。以下「平成15年協定」という。)。 基準内賃金基本給初任基本給 13万円 基準外賃金a 1車2人制 (a)基準外⑴ ① 月間売上35万円未満は法定計算とする。 ② 月間売上35万円以上は賃金表による。 (b)基準外⑵① 月間売上35万円以上40万円未満は,35万円を超える額の20パーセント ② 月間売上40万円以上は,40万円を超える額の25パーセントb 2車3人制(a)基準外⑴① 月間売上39万円未満は法定計算とする。 ② 月間売上39万円以上は賃金表による。 (b)基準外⑵① 月間売上39万円以上45万円未満は,39万円を超える額の25パーセント 公休出勤手当① 当日売上額の60パーセントを支給(売上1万8000円以上の場 合)② 当日売上額の58パーセントを支給(売上1万円以上1万8000円未満の場合)③ 当 ① 当日売上額の60パーセントを支給(売上1万8000円以上の場 合)② 当日売上額の58パーセントを支給(売上1万円以上1万8000円未満の場合)③ 当日売上額の50パーセントを支給(売上1万円未満の場合)エ被告及び本件組合は,平成26年4月18日,乗務員の賃金規定について, 要旨,以下の内容の合意をした(乙16。以下「平成26年協定」という。 本件各請求のうち,平成27年6月度の請求に適用される協定である。)。 1車2人制夜勤a 算定基準額月間営業収入(以下「月間営収」という。)額÷104.5パーセン ト=算定基準額とする。 b 基準内賃金基本給 13万6800円c 基準外賃金(a)基準外1① 月間営収が36万5750円未満は法定計算とする。 ② 月間営収が36万5750円以上は,算定基準額を賃金表に記載のパーセントにて計算した額を支給する。 (b)基準外2① 算定基準額35万円以上40万円未満は,算定基準額35万円を超える額の20パーセント ② 算定基準額40万円以上は,定額1万円と算定基準額40万円を超える額の30パーセントd 能率給① 算定基準額35万円以上40万円未満は,定額1万1000円と算定基準額35万円を超える額の25パーセント ② 算定基準額40万円以上45万円未満は,定額2万8000円と算定基準額40万円を超える額の25パーセント③ 算定基準額45万円以上50万円未満は,定額4万3000円と算定基準額45万円を超える額の25パーセント④ 算定基準額50万円以上55万円未満は,定額6万1000円 5パーセント③ 算定基準額45万円以上50万円未満は,定額4万3000円と算定基準額45万円を超える額の25パーセント④ 算定基準額50万円以上55万円未満は,定額6万1000円と算 定基準額50万円を超える額の25パーセント⑤ 算定基準額55万円以上60万円未満は,定額7万6000円と算定基準額55万円を超える額の25パーセント⑥ 算定基準額60万円以上70万円未満は,定額9万2000円と算定基準額60万円を超える額の25パーセント ⑦ 算定基準額70万円以上は,定額12万円と算定基準額70万円を 超える額の25パーセントe 公休出勤手当① 当日営収額の60パーセントを支給(当日営収1万8000円以上の場合)② 当日営収額の58パーセントを支給(当日営収1万円以上1万80 00円未満の場合)③ 当日営収額の50パーセントを支給(当日営収1万円未満の場合)f 上記のほか,乗務手当,家族手当,皆勤手当,無事故無違反手当及び有給休暇手当についての定めがある。 2車3人制 a 算定基準額月間営収÷103.5パーセント=算定基準額とする。 b 基準内賃金基本給 13万6800円c 基準外賃金 (a)基準外1① 月間営収が40万3650円未満は法定計算とする。 ② 月間営収が40万3650円以上は,算定基準額を賃金表に記載のパーセントにて計算した額を支給する。 (b)基準外2 ① 算定基準額39万円以上65万円未満は,算定基準額39万円を超える額の25パーセント② 算定基準額65万円以上は,定額6万 算した額を支給する。 (b)基準外2 ① 算定基準額39万円以上65万円未満は,算定基準額39万円を超える額の25パーセント② 算定基準額65万円以上は,定額6万5000円と算定基準額65万円を超える額の30パーセントd 能率給 ① 算定基準額39万円以上45万円未満は,定額1万6000円と算 定基準額39万円を超える額の25パーセント② 算定基準額45万円以上50万円未満は,定額3万3000円と算定基準額45万円を超える額の25パーセント③ 算定基準額50万円以上55万円未満は,定額5万3000円と算定基準額50万円を超える額の25パーセント ④ 算定基準額55万円以上60万円未満は,定額6万8000円と算定基準額55万円を超える額の25パーセント⑤ 算定基準額60万円以上65万円未満は,定額8万3000円と算定基準額60万円を超える額の25パーセント⑥ 算定基準額65万円以上は,定額9万8000円と算定基準額65 万円を超える額の25パーセントe 公休出勤手当1車2人制夜勤の定めと同じ。 f 上記のほか,乗務手当,家族手当,皆勤手当,無事故無違反手当及び有給休暇手当についての定めがある。 オ被告及び本件組合は,平成27年6月5日,乗務員の賃金規定について,要旨,以下の内容の合意をした(甲31,乙10。以下「平成27年協定」という。本件各請求のうち,平成27年7月度から平成28年7月度までの請求に適用される協定である。)。 1車2人制 a 基本給 13万6800円b 基準外賃金(a)基準外1① 月間営収が36万円未満は法 8年7月度までの請求に適用される協定である。)。 1車2人制 a 基本給 13万6800円b 基準外賃金(a)基準外1① 月間営収が36万円未満は法定計算とする。 ② 月間営収が36万円以上は,賃金表に記載のパーセントにて計算 した額を支給する。 (b)基準外2① 月間営収が36万円未満は法定計算とする。 ② 月間営収36万円以上40万円未満は,月間営収36万円を超える額の20パーセント③ 月間営収40万円以上は,定額1万円と月間営収40万円を超え る額の25パーセントc 能率給① 月間営収36万円以上40万円未満は,定額1万1000円と月間営収36万円を超える額の25パーセント② 月間営収40万円以上45万円未満は,定額2万1000円と月間 営収40万円を超える額の25パーセント③ 月間営収45万円以上50万円未満は,定額3万4000円と月間営収45万円を超える額の25パーセント④ 月間営収50万円以上55万円未満は,定額4万7000円と月間営収50万円を超える額の25パーセント ⑤ 月間営収55万円以上60万円未満は,定額6万円と月間営収55万円を超える額の25パーセント⑥ 月間営収60万円以上70万円未満は,定額7万3000円と月間営収60万円を超える額の25パーセント⑦ 月間営収70万円以上は,定額9万8000円と月間営収70万円 を超える額の25パーセントd 公休出勤手当(平成26年協定と同一内容)① 当日営収額の60パーセントを支給(当日営収1万8000円以上の場合)② 当日営収額の5 0万円 を超える額の25パーセントd 公休出勤手当(平成26年協定と同一内容)① 当日営収額の60パーセントを支給(当日営収1万8000円以上の場合)② 当日営収額の58パーセントを支給(当日営収1万円以上1万80 00円未満の場合) ③ 当日営収額の50パーセントを支給(当日営収1万円未満の場合)e 上記のほか,乗務手当,皆勤手当,無事故無違反手当,家族手当及び有給手当についての定めがある。 2車3人制a 基本給 13万6800円 b 基準外賃金(a)基準外1① 月間営収が40万円未満は法定計算とする。 ② 月間営収が40万円以上は,賃金表に記載のパーセントにて計算した額を支給する。 (b)基準外2① 月間営収が40万円未満は法定計算とする。 ② 月間営収40万円以上65万円未満は,月間営収40万円を超える額の25パーセント③ 月間営収65万円以上は,定額6万3000円と月間営収65万 円を超える額の25パーセントc 能率給① 月間営収40万円以上45万円未満は,定額1万5000円と月間営収40万円を超える額の25パーセント② 月間営収45万円以上50万円未満は,定額2万8000円と月間 営収45万円を超える額の25パーセント③ 月間営収50万円以上55万円未満は,定額4万1000円と月間営収50万円を超える額の25パーセント④ 月間営収55万円以上60万円未満は,定額5万4000円と月間営収55万円を超える額の25パーセント ⑤ 月間営収60万円以上65万円未満は,定額6万7000円と月間 営収 収55万円以上60万円未満は,定額5万4000円と月間営収55万円を超える額の25パーセント ⑤ 月間営収60万円以上65万円未満は,定額6万7000円と月間 営収60万円を超える額の25パーセント⑥ 月間営収65万円以上は,定額8万円と月間営収65万円を超える額の25パーセントd 公休出勤手当1車2人制の定めと同じ。 e 上記のほか,乗務手当,皆勤手当,無事故無違反手当,家族手当及び有給手当についての定めがある。 カ被告及び本件組合は,平成28年6月28日,乗務員の賃金規定について,要旨,以下の内容の合意をした(乙14。以下「平成28年協定」という。 本件各請求のうち,平成28年8月度から平成29年5月度までの請求に適 用される協定である。)。 1車2人制a 公休出勤手当を除き,各賃金費目の支給条件や金額等は,平成27年協定と同じである。 b 公休出勤(現取)制度を以下のとおり変更する。 ① 現取日も営収加算とし,給与前借金として扱い,当月給与にて差し引きとする。 ② 限度額は,公休出勤日営収の60パーセントとする。 ③ 現取申込方法及び条件は現行どおりとする。 2車3人制 a 公休出勤手当を除き,各賃金費目の支給条件や金額等は,平成27年協定と同様である。 b 公休出勤(現取)制度は,上記bと同一内容で変更する。 被告における営業車両の管理システムア被告は,デジタル・タコグラフ及びGPSにより営業車両を管理するシス テム(以下「管理システム」という。)を採用している。 イ被告の管理システムの概要は,以下のとおりである。 ア被告は,デジタル・タコグラフ及びGPSにより営業車両を管理するシス テム(以下「管理システム」という。)を採用している。 イ被告の管理システムの概要は,以下のとおりである。 SDカードが営業車両の機器に挿入された時点が,出庫時刻として記録される。 SDカードが営業車両の機器から抜去された時点が,入庫時刻として記録される。 乗務員が機器の「F3」(休憩)ボタンを押してから解除されるまでの時間,及び営業車両が15分以上停車したときにその時刻からタイヤが動き出す時刻までの時間が,休憩時間として記録される。 出庫時刻から入庫時刻までの時間を「拘束時間」として,賃金台帳上にその集計が自動生成される。また,上記休憩時間と記録される時間を「休 憩時間」として,賃金台帳上にその集計が自動生成される。さらに,上記「拘束時間」から「休憩時間」を控除した時間を「実働時間」として,賃金台帳上に自動生成される。 なお,上記拘束時間には,SDカードの挿入前及び抜去後に行われる所定の手続(アルコール呼気検査,運転免許証の確認等)に要する時間は含 まれていない。 原告らは,平成29年7月22日,被告に対し,各割増賃金支払債務の履行を催告した上で,同年12月8日,第1事件に係る訴訟を提起し,平成30年3月29日,第2事件に係る訴訟を提起した。 被告は,原告A1,原告A2,原告A3,原告A5,原告A7,原告A9, 原告A10,原告A12及び原告A13に対し,令和3年6月10日の本件第17回口頭弁論期日において,上記各原告の平成27年6月度の賃金請求につき,消滅時効を援用するとの意思表示をした。 3 争点⑴ 原告らの労働時間数(争点⑴) ⑵ 割増賃金の算定基 回口頭弁論期日において,上記各原告の平成27年6月度の賃金請求につき,消滅時効を援用するとの意思表示をした。 3 争点⑴ 原告らの労働時間数(争点⑴) ⑵ 割増賃金の算定基礎(争点⑵) ⑶ 消滅時効の成否(争点⑶)⑷ 未払割増賃金額(争点⑷)⑸ 付加金支払の要否(争点⑸) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 原告らの労働時間数(争点⑴) ア原告らの主張各原告の各月の総労働時間,時間外労働時間及び深夜労働(午後10時から午前5時までの間の労働)時間は,被告作成の賃金台帳(乙4)の記載を基にしており,それぞれ各原告に対応する別紙3「原告ら計算表」の「実働時間(総労働時間数)」,「時間外労働時間」及び「深夜時間」(午 後10時から午前5時までの労働時間のこと。以下同じ。)欄各記載のとおりである。 被告は,後記イの①ないし④の4つの類型に該当する時間について,労働時間に当たらないと主張する。 a しかしながら,①(長時間ドライブ)については,原告らは,それぞ れの経験に基づき,客を乗せることができると考える場所を「流し」で走行しており,客が見つかれば乗車させるのであるし,空車の走行時も被告グループの名称等が明記されたタクシーを走行させること自体が広告宣伝になるから,①の時間も労働時間である。 b また,②(出庫前休憩)については,被告の本社付近の客を探して走 行するも見つからずに車庫等へ戻って休憩した際の「流し」走行である場合や,営業車両の機器にSDカードを挿入して車両を動かし始めた後,業務に必要な付随業務として,一旦車両を停車させて,給油や車両整備を行ったり,事務所等に行って職員と業務上のやり取りをした 行である場合や,営業車両の機器にSDカードを挿入して車両を動かし始めた後,業務に必要な付随業務として,一旦車両を停車させて,給油や車両整備を行ったり,事務所等に行って職員と業務上のやり取りをしたりする場合などの時間であって,いずれも労働時間である。 仮に,原告らが,SDカードを挿入した後,比較的間を置かずに休憩 に入ることがあったとしても,上記のような準備行為をしたり,車体を移動させたりする行為自体は,客観的に営業開始に向けた行為であり,そのときに被告が注意したりした等の事情がない限り,労働時間というほかない。 c さらに,③(休憩場所に向かう時間)及び④(休憩場所から戻る時間) については,原告らは,いずれの時間についても,空車の行燈を点灯させて走行しており,乗車を希望する客がいた場合には乗車させるのであるから,③及び④の時間も労働時間である。 イ被告の主張 原告らの主張する労働時間のうち,別紙4「被告計算表」の「否認時間」 欄記載の時間については,後記のとおり,労働時間であることを否認する。なお,同表の各月度最終日の下部の枠で囲まれた欄に記載された時間数は,否認時間のうち深夜労働に該当しない時間と深夜労働に該当する時間に分けて,後記の否認の類型に応じた合計時間を,各月度ごとにまとめたものである。 次の4つの類型に該当する時間は,いずれも労働時間には当たらない。 a ①被告は,原告らに対し,タクシーの営業として合理的な経路を走行せよとの業務指示をしているところ,客を乗せる考えなどなく,営業として合理的でない経路を気の向くままに走行している時間は,単なるドライブであって,被告の業務指示に従った走行とはいえないから,労働 時間ではない(以 いるところ,客を乗せる考えなどなく,営業として合理的でない経路を気の向くままに走行している時間は,単なるドライブであって,被告の業務指示に従った走行とはいえないから,労働 時間ではない(以下,この類型に該当する時間を「長時間ドライブ」という。)。 b ②原告らの中には,車庫内で機器にSDカードを挿入した後,車庫を出て短時間営業車両を使用した上で,すぐに車庫に営業車両を戻している者がいるが,この場合,軽食等を調達するため近所のコンビニエンス ストアに出かけるなどしていることが多いと考えられる。このような私 的用務のための走行時間は,営業のために出庫したとはいえないから,労働時間ではない(以下,この類型に該当する時間を「出庫前休憩」という。)。 c ③各原告が定型的に休憩場所としている場所に向かう時間(以下,この類型に該当する時間を「休憩場所に向かう時間」という。)や,④定 型的に休憩場所としている場所から定型的に客待ちをする場所に戻っている時間(以下,この類型に該当する時間を「休憩場所から戻る時間」という。)については,原告らが,被告の指揮命令とは関わりなく好みの休憩場所へ移動し,そこから戻っているにすぎず,好きに車を運転している時間であるから,いずれも労働時間ではない。 ⑵ 割増賃金の算定基礎(争点⑵)ア原告らの主張 使用者が労働者に対して労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,前提として,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別す ることができることが必要である。そして,使用者が特定の手当を支払うことにより労基法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において,上記判別が める割増賃金に当たる部分とを判別す ることができることが必要である。そして,使用者が特定の手当を支払うことにより労基法37条の定める割増賃金を支払ったと主張している場合において,上記判別ができるというためには,当該手当が,時間外労働,休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」という。)の対価として支払われていることを要するところ,当該手当がそのような趣旨で支払われ ているか否かは,労働契約の契約書等のほか,当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等も考慮して検討する必要がある。 また,通常の労働時間の賃金の意義については,当該法定時間外労働ないし深夜労働が,深夜でない所定労働時間中に行われた場合に支払われる賃金と解すべきであり,通常の労働時間の賃金に該当するか否かは,労働契 約上の名称のいかんに関わらず,労基法施行以来の定義,意義に沿って判 断されるべきである。 本件請求期間における被告の賃金体系は,月給制部分と歩合給(出来高払制)部分とで構成されている。 a 月給制部分については,基本給のほか,乗務手当,皆勤手当及び無事故無違反手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たる。 b 歩合給部分については,能率給のほか,「基準外1」及び「基準外2」の各手当並びに公休出勤手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たる。 「基準外1」及び「基準外2」の各手当について「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,時間外労働及び深夜労働の有無並びにその時間の多寡に関わらず,運送収入に対して賃率をかけるこ とによって金額が特定される賃金であり,純然たる歩合給である。歩合給(出来高払制賃金)は,常に賃金算定期間の総労働時間の対価であり,賃金算定期間中の特定の時間帯の対価とは観念できない。すな とによって金額が特定される賃金であり,純然たる歩合給である。歩合給(出来高払制賃金)は,常に賃金算定期間の総労働時間の対価であり,賃金算定期間中の特定の時間帯の対価とは観念できない。すなわち,歩合給は,その全額が判別不可能な形で総労働時間の対価とされるのであり,契約によりその内部に割増賃金に当たる部分を設定することはできず,実際 に上記各手当は,時間外労働等との対価性を観念できない。また,被告と本件組合との間で締結された労働協約や被告の就業規則にも,上記各手当が割増賃金に該当する旨の記載は一切なく,原告らは,上記各手当が割増賃金であると説明されたこともない。さらに,被告は,労働者を募集する際に,上記各手当が,時間外労働に対する対価であることを一切表示して いない。 したがって,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,通常の労働時間の賃金であり,割増賃金の基礎賃金とされるべきである。 公休出勤手当について公休出勤手当については,労働者が公休出勤手当の受給を選択した場合 には,公休出勤手当を支給される公休日の当日の営収は,月次の賃金計算 (月間営収)から除外され,他方で,労働者が公休出勤手当の受給を選択しない場合には,公休日の当日の営収は,月間営収に算入される。 これは,「通常の労働時間の賃金」(算定基礎賃金)であるところの「基準外1」手当の一部を,所定休日労働の対価であるかのように装って公休出勤手当に置き換えるもの,あるいは,実質的には賃金の前借りにすぎず, 判別可能性はない。また,労働者の側からみて,この制度に経済的合理性があるわけでもない。さらに,被告は,公休出勤手当の支給額と「法定計算」による手当の多寡を比較したことはないのであるから,被告の認識としても休日労働に た,労働者の側からみて,この制度に経済的合理性があるわけでもない。さらに,被告は,公休出勤手当の支給額と「法定計算」による手当の多寡を比較したことはないのであるから,被告の認識としても休日労働に対する対価性はない。 したがって,公休出勤手当は,通常の労働時間の賃金であり,割増賃金 の基礎賃金とされるべきである。 イ被告の主張 労基法37条は,時間外労働等の割増賃金として,法定の計算額以上の金額の支給を要求するにとどまり,同条とは異なる計算方法による割増賃金であっても,法定の割増賃金額を下回らず,通常の労働時間の賃金に当 たる部分と割増賃金に当たる部分とを明確に区分できるものである限り適法である。そして,ある手当が時間外労働等の対価として支払われているか否かは,当事者間の労働契約の内容等により定まるものである。 本件請求期間における被告の賃金体系が,月給制部分と歩合給(出来高払制)部分とで構成されていることは認める。 a 月給制部分について,基本給のほか,乗務手当,皆勤手当及び無事故無違反手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たることは認める。 b 歩合給部分について,能率給が割増賃金の基礎となる賃金に当たることは認めるが,「基準外1」及び「基準外2」の各手当並びに公休出勤手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たることは否認する。なお,平成 28年協定において公休出勤制度が変更され,平成28年8月度以降, 公休出勤手当はなくなっている。 「基準外1」及び「基準外2」の各手当について原告らは,本件組合の組合員であるから,被告と本件組合との間で締結された労働協約の内容により,原告らと被告との間の労働契約の内容も規律される。そして,被告と本件組合との間で締結された労働協 ついて原告らは,本件組合の組合員であるから,被告と本件組合との間で締結された労働協約の内容により,原告らと被告との間の労働契約の内容も規律される。そして,被告と本件組合との間で締結された労働協約において は,「基準外」との文言が初めて用いられた平成4年協定以来,一貫して,「基準外」とは,法定時間外労働,深夜労働,法定休日労働あるいはその賃金である割増賃金を指すものとされてきた。すなわち,平成4年協定には「基準外手当法定計算通りとする。」と定められているところ,法定の計算があるのは各種の割増賃金のみであるから,同協定の締結時点で, 「基準外」とは各種の割増賃金のことを指すことが定まり,その後,平成5年協定及び平成15年協定においても「基準外」の意義や用語例が変更されることはなく,以後の協定においても,労使に共有された用語例として受け継がれてきたのである(なお,平成15年協定において初めて「基準外」と「基準外」の2つに分かれた。)。加えて,被告においては, 所定内労働に対する賃金で,歩合計算によって算定される「能率給」が存在することからすれば,原告らと被告との間の労働契約においては,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,時間外労働等の対価として支払われているというべきである。また,被告の賃金体系上,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,独立の手当として位置づけられており,明確区 分性の要件も満たしている。 したがって,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,割増賃金であるから,通常の労働時間の賃金として割増賃金の基礎賃金になるものではない。 公休出勤手当について 公休出勤手当は,乗務員が,被告の指定する公休日に勤務した場合に, 当該公休日の営収額に応じて定まる上 賃金の基礎賃金になるものではない。 公休出勤手当について 公休出勤手当は,乗務員が,被告の指定する公休日に勤務した場合に, 当該公休日の営収額に応じて定まる上限の範囲内で,現金を即日受領することが可能な制度である。 したがって,公休出勤手当は,公休出勤日の勤務に対する割増賃金であり,通常の労働時間の賃金として割増賃金の基礎賃金になるものではない。 ⑶ 消滅時効の成否(争点⑶)(平成27年6月度の賃金請求に対する抗弁-原 告A1,原告A2,原告A3,原告A5,原告A7,原告A9,原告A10,原告A12及び原告A13につき)ア被告の主張原告らは,平成29年7月22日,被告に対して各割増賃金支払債務の履行を催告しているところ,平成27年7月22日以前に支払期日が到来した 賃金については,既に消滅時効が完成しており,時効中断の効力が及ばない。 すなわち,平成27年6月度の賃金については,平成27年6月27日が支払期日であるから,上記催告時点で,既に2年の消滅時効の期間が満了している。 被告は,令和3年6月10日の本件第17回口頭弁論期日において,原告 らに対し,上記消滅時効を援用する旨の意思表示をした。 イ原告らの主張争う。 ⑷ 未払割増賃金額(争点⑷)ア原告らの主張 各原告の未払割増賃金額は,各原告に対応する別紙3「原告ら計算表」の「未払割増賃金」欄記載(合計額は別紙2「請求額一覧表」の「未払割増賃金」欄記載)のとおりである。 イ被告の主張否認ないし争う。被告は,原告らに対し,割増賃金として,「基準外1」 及び「基準外2」の各手当並びに公休出勤手当を支払っており,未払の割増 賃金はない。な イ被告の主張否認ないし争う。被告は,原告らに対し,割増賃金として,「基準外1」 及び「基準外2」の各手当並びに公休出勤手当を支払っており,未払の割増 賃金はない。なお,原告らに対する上記各手当の支給額は,別紙3「原告ら計算表」記載のとおりである。 ⑸ 付加金支払の要否(争点⑸)ア原告らの主張被告は原告らに支払うべき割増賃金を支払っていないから,被告に対し, 別紙2「請求額一覧表」の「付加金」欄記載の金額の付加金の支払を命じるべきである。 イ被告の主張否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(原告らの労働時間数)について⑴ 被告は,原告らの主張する労働時間のうち,①タクシーの営業として合理的とはいえない長時間の乗客なしの走行時間(長時間ドライブ),②車庫内で機器にSDカードを挿入した後,車庫を出て営業車両を短時間使用した上で,すぐに車庫に戻した場合の,その営業車両の使用時間(出庫前休憩),③各原告 が定型的に休憩場所としている場所に向かう時間(休憩場所に向かう時間)及び④定型的に休憩場所としている場所から定型的に客待ちをする場所に戻る時間(休憩場所から戻る時間)の4つの類型に該当する時間について,いずれも労働時間に当たらない旨主張するので,以下判断する。 ⑵ 判断枠組み 労基法32条の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,それは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものというべきである(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合 には, 定まるものというべきである(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決・民集54巻3号801頁参照)。そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合 には,労働からの解放が保障されているとはいえず,労働者は使用者の指揮命 令下に置かれているというのが相当である(最高裁平成9年(オ)第608号,第609号同14年2月28日第一小法廷判決・民集56巻2号361頁参照)。 ⑶ 「長時間ドライブ」の労働時間該当性についてア乙第5号証(各原告の運転日報)によれば,被告が「長時間ドライブ」と 主張する時間について,原告ら(ただし,原告A3を除く。)は,客を乗せずに走行していることが認められる。 イしかしながら,タクシー営業において,乗車希望の客を見つけるために,乗客なしに一定時間走行することは当然に想定されるところ,そのような時間であっても,乗車希望の客が見つかった場合には,当該客を乗せて走行す ることになると考えられる上,実際に,原告らは,それぞれが慣れた経路や地域を中心に,各自の経験に基づいて客を見つけることができると考える場所を「流し」で走行していたものであって,乗客なしの走行をしている間,原告らが行燈の表示を回送等にするなど,およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない(以上につき,甲28,38,原告A1 0本人)。 そうとすれば,原告らが,客を乗せることなく,長時間走行していたとしても,そのことから直ちに,当該時間について労働から解放されていたとは認め難く,むしろ乗車を希望する客がいた場合には,すぐに客を乗車させて運送業務を行うこととなるのであるから,当該時間についても労働契約上の 役務の提供が義務付けられていたものであり,被告の指 認め難く,むしろ乗車を希望する客がいた場合には,すぐに客を乗車させて運送業務を行うこととなるのであるから,当該時間についても労働契約上の 役務の提供が義務付けられていたものであり,被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 ウしたがって,被告が「長時間ドライブ」として否認する時間は,労働時間に当たるというべきである。 エこれに対し,被告は,客を乗せる考えなどなく,営業として合理的でない 経路を気の向くままに走行するのは単なるドライブであって,被告の業務指 示に従った走行とはいえない旨を主張する。 しかしながら,被告が「長時間ドライブ」と主張する時間の走行中,原告らに客を乗せる考えがなかったことを的確に裏付ける証拠はない。また,被告代表者が自身の望ましいと考える営業地域等について供述した被告代表者の本人調書(甲38の5)が存在するが,被告が原告らに対し,その旨の 具体的な業務指示をしたことまでは認められず,また,原告らには営収に繋がらない無意味な走行をする動機も認め難く,客を乗せていないからといって,原告らの走行経路が営業として合理的でないとも一概にいうことはできないから,被告代表者の上記本人調書(甲38の5)をもって上記認定を覆すには足りず,他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。 「出庫前休憩」の労働時間該当性についてア乙第5号証(各原告の運転日報)によれば,被告が「出庫前休憩」と主張する時間について,原告ら(ただし,原告A3,原告A9及び原告A13を除く。)は,車庫内で機器にSDカードを挿入して出庫した後,数分ないし数十分走行した上で車庫に戻り,被告の本社等で休憩を取っていたことが認 められる。しかるに,被告は,上記のような短時間の走行時間について 車庫内で機器にSDカードを挿入して出庫した後,数分ないし数十分走行した上で車庫に戻り,被告の本社等で休憩を取っていたことが認 められる。しかるに,被告は,上記のような短時間の走行時間について,原告らは軽食等を調達するために近所のコンビニエンスストアに出かけるなどしていることが多く,私的用務のための走行時間であって営業のために出庫したとはいえないから,労働時間ではない旨主張する。 イこの点,SDカード挿入後に,営業車両を用いて近所のコンビニエンスス トアに行ったことがある旨を供述する原告らの同僚B1の本人調書(甲38の3)が存在する。また,他の原告らについては,コンビニエンスストア等に出かけた証拠はないものの,原告らの上記走行時間の中には非常に短いものもある。 しかしながら,上記イと同様に,たとえコンビニエンスストアに向かっ て走行する時間などであっても,走行中に乗車希望の客が見つかった場合に は,乗車を拒否することはできず,当該客を乗せることになるのであり,また,上記走行中,原告らが行燈の表示を回送等にするなど,およそ客の乗車が想定されない状態にしていたことはうかがわれない(甲28,38,原告A10本人)。 そうとすれば,たとえ短時間の走行であっても,当該時間についても労働 契約上の役務の提供が義務付けられていたものであり,被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 ウまた,原告らは,SDカードの挿入後に,ときには,燃料を入れるために社内のスタンドまで,若しくは車両整備のために社内の整備部門まで,又は職員と業務上のやり取りをするために事務所や相談室まで,それぞれ営業車 両を走行させることがあるが(甲28,38,原告A10本人),これらの走行時間も被告が「出庫前休憩」として 部門まで,又は職員と業務上のやり取りをするために事務所や相談室まで,それぞれ営業車 両を走行させることがあるが(甲28,38,原告A10本人),これらの走行時間も被告が「出庫前休憩」として否認する時間の中に含まれているものと考えられるところ,当該走行時間は,運送業務に必要な付随業務として,労働時間であると認められる。 そして,上記否認時間について,他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。 エしたがって,被告が「出庫前休憩」として否認する時間は,労働時間に当たるというべきである。 「休憩場所に向かう時間」の労働時間該当性についてア証拠(甲28,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,原告A1,原告A3,原告A8,原告A11,原告A14及び原告A15は,被告の本社など特定 の場所で休憩を取る場合が多いこと,上記各原告らが休憩場所に向かっている間,客を乗せることなく走行している時間があることが認められる。そして,被告は,上記走行時間について,被告の指揮命令とは関わりなく,原告らが好みの休憩場所へ移動するために好きに営業車両を運転している時間であるから,労働時間ではない旨主張する。 イしかしながら,上記イ及びイと同様に,たとえ原告らが好みの休憩場 所に向かって走行する時間であっても,「空車」の行燈を点灯させて走行しており,その途中に乗車希望の客がいた場合には,当該客を乗車させて客の目的地まで走行することになるのである(甲28,38,原告A10本人)。 そうとすれば,原告らが休憩場所に向かう時間については,休憩時間とは異なり,労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価でき,労働か らの解放が保障されているとはいえず,被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 ウ については,休憩時間とは異なり,労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価でき,労働か らの解放が保障されているとはいえず,被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 ウしたがって,被告が「休憩場所に向かう時間」として否認する時間は,労働時間に当たるというべきである。 「休憩場所から戻る時間」の労働時間該当性について ア乙第5号証(各原告の運転日報)によれば,被告が「休憩場所から戻る時間」と主張する時間について,原告A1,原告A3,原告A7,原告A11,原告A12及び原告A13は,被告の本社等で休憩を取った後,客を乗せることなく走行している時間があることが認められる。そして,被告は,上記走行時間について,被告の指揮命令に関わりなく,原告らが好きに営業車両 を運転している時間であるから,労働時間ではない旨主張する。 イしかしながら,上記イと同様に,休憩場所から戻る時間についても,「空車」の行燈を点灯させて走行しており,その途中に乗車希望の客がいた場合には,当該客を乗車させて客の目的地まで走行することになるのである(甲28,甲38)。 そうとすれば,休憩が終わった後の上記走行時間については,労働契約上の役務の提供が義務付けられていたと評価でき,労働からの解放が保障されているとはいえず,被告の指揮命令下に置かれていたと認めるのが相当である。 ウしたがって,被告が「休憩場所から戻る時間」として否認する時間は,労 働時間に当たるというべきである。 以上によれば,被告が労働時間であることを否認する4つの類型に該当する時間は,いずれも労働時間に当たると認められる。 なお,原告らは,賃金台帳(乙4)の「残業時間」欄の記載は,「実動時間」欄記載の労働時間数 被告が労働時間であることを否認する4つの類型に該当する時間は,いずれも労働時間に当たると認められる。 なお,原告らは,賃金台帳(乙4)の「残業時間」欄の記載は,「実動時間」欄記載の労働時間数のうち,1日8時間を超える時間を合計したものが記載されていることを前提に時間外労働の時間を算定しているのに対し,被告は,「残 業時間」欄の記載は「実動時間」欄記載の労働時間数のうち,1日7時間30分を超える時間を合計したものが記載されていると主張する。この点については,①出庫前点呼から出庫までの時間と入庫から入庫後点呼までの時間の合計時間は概ね30分を超えていたこと(弁論の全趣旨),②乗務員は出庫前点呼の前及び入庫後点呼の後に洗車等の業務を行う場合もあり,それらの業務に一 定時間を要したと見込まれること(甲28),③前記前提事実イのとおり,被告の管理システム上,営業車両が15分以上停車した場合,そこから営業車両のタイヤが動くまでの間は休憩時間と記録されることなどが認められるところ,これら①ないし③の時間は上記「実動時間」欄記載の労働時間数に含まれていないことに照らせば,少なくとも賃金台帳の「残業時間」欄に記載され た時間数の時間外労働がなされたと認めるのが相当である。 そうすると,原告らは,賃金台帳の記載を基に,別紙3「原告ら計算表」の労働時間数を記載しているから,各原告の各月の総労働時間,時間外労働時間及び深夜労働(午後10時から午前5時までの間の労働)時間は,それぞれ各原告に対応する別紙3「原告ら計算表」の「実働時間(総労働時間数)」,「時 間外労働時間」及び「深夜時間」欄各記載のとおりであると認められる。 2 争点⑵(割増賃金の算定基礎)について平成27年7月度から平成28年7月度までの期間について 働時間数)」,「時 間外労働時間」及び「深夜時間」欄各記載のとおりであると認められる。 2 争点⑵(割増賃金の算定基礎)について平成27年7月度から平成28年7月度までの期間についてア前記前提事実オのとおり,平成27年7月度から平成28年7月度までの賃金には,平成27年協定(甲31,乙10)が適用される。1車2人制 と2車3人制との間で基準となる金額等に一部異なる部分があるものの,そ の賃金体系は概ね同様のものとなっており,基本給のほか,「基準外1」手当,「基準外2」手当,能率給,公休出勤手当,乗務手当,皆勤手当,無事故無違反手当,家族手当及び有給手当についての定めがあり,月給制部分と歩合給(出来高払制)部分とで構成されている。 そして,上記賃金体系のうち月給制部分については,基本給,乗務手当, 皆勤手当及び無事故無違反手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たることで,当事者間に争いがない。 一方で,上記賃金体系のうち歩合給部分については,能率給が割増賃金の基礎となる賃金に当たることは当事者間に争いがないが,「基準外1」及び「基準外2」の各手当並びに公休出勤手当が割増賃金の基礎となる賃金に当 たるかが争われているので,以下検討する。 イ判断枠組み使用者が労働者に対して労基法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労基法37 条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別すること した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,その前提として,労働契約における賃金の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・集民172号673頁,最高裁 同21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・集民240号121頁,最高裁平成27年(受)第1998号同29年2月28日第三小法廷判決・集民255号1頁,最高裁平成28年(受)第222号同29年7月7日第二小法廷判決・集民256号31頁参照)。そして,使用者が,労働契約に基づく特定の手当を支払うことにより労基法37条の定める割 増賃金を支払ったと主張している場合において,上記の判別をすることがで きるというためには,当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていることを要するところ,当該手当がそのような趣旨で支払われるものとされているか否かは,当該労働契約に係る契約書等の記載内容のほか諸般の事情を考慮して判断すべきであり(最高裁平成29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・集民259号77頁参照), その判断に際しては,当該手当の名称や算定方法だけでなく,労基法37条の趣旨を踏まえ,当該労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである(最高裁平成30年(受)第908号令和2年3月30日第一小法廷判決・裁判所時報1745号12頁参照)。 ウ 「基準外1」及び「基準外2」の各手当について前記前提事実に加えて,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 被 1745号12頁参照)。 ウ 「基準外1」及び「基準外2」の各手当について前記前提事実に加えて,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 被告は,自社のホームページ上の労働者募集の広告において,賃金の項目に基準外手当,残業代,時間外手当などの記載をしたことはなかっ た(甲25,26,38の5)。 b 原告らの雇用契約書には,勤務開始日,試用期間等が記載されているほか,就業規則,賃金規定等の規定を遵守することなどが記載されているものの,被告の賃金体系や支払われる各種手当の内容・趣旨等については,記載されていない(乙11)。 c 平成27年協定には,「基準外賃金」についての定めがあり,「基準外1」と「基準外2」に区分されているが,いずれの手当も時間外労働等の有無及びその時間数に関わらず,月間営収を基に,基準となる金額ごとに定められた率を乗じて算出されるものとされている。同協定には,「基準外」の定義は記載されておらず,「基準外1」及び「基準外2」 の各手当が時間外労働等の対価である旨の記載はない。団体交渉の場に おいても,時間外労働等の長短について議論されることはなかった(以上につき,前記前提事実オb,同b,甲31,38の2,乙10)。 なお,「基準外1」と「基準外2」の各手当の区分について,被告は,「基準外1」は時間外労働,「基準外2」は深夜労働に対応するものと説明するが,「基準外2」は深夜労働のない昼勤の乗務員に対しても支 払われているのが実態である(甲38の5)。 d 被告と本件組合との間で締結された労働協約をみると,平成4年協定において初めて「基準外」との文言が用いられ,その後,平成15年協定において初めて「基準外 ているのが実態である(甲38の5)。 d 被告と本件組合との間で締結された労働協約をみると,平成4年協定において初めて「基準外」との文言が用いられ,その後,平成15年協定において初めて「基準外」と「基準外」の2つに分かれ,以後の協定においても,「基準外」との名称で手当が定められているが,上記 cの平成27年協定を含め,いずれの協定においても「基準外」の定義は記載されておらず,「基準外」手当が時間外労働等の対価である旨の記載はない。また,基準となる金額や率に変動はあるものの,いずれの協定でも「基準外」手当の算出方法は上記cの平成27年協定と同様である(前記前提事実アないしカ,甲31,乙1~3,7,10,14, 16)。 e 被告の就業規則や賃金規程においても,「基準外」の定義について記載されたことはない(甲29,30,38の5,乙8,9)。 上記認定事実によれば,平成27年協定における「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,いずれも時間外労働等の有無及びその時間数に関わ らず,月間営収を基に,基準となる金額ごとに定められた率を乗じて算出される上,平成27年協定において上記各手当が時間外労働等に対する対価である旨の記載はなく,また,原告らと被告との間の雇用契約書,被告の就業規則や賃金規程,被告と本件組合との従前の労働協約などの書面においても,「基準外」の定義は見当たらず,「基準外」手当が時間外労働 等に対する対価である旨の記載はない。 そうすると,平成27年協定における「基準外1」及び「基準外2」の各手当について,乗務員が時間外労働等をして上記各手当の支給を受けた場合に割増賃金の性質を含む部分があるとしても,その全額が時間外労働等の対価として支払われるものとされているとは認められず,ひい の各手当について,乗務員が時間外労働等をして上記各手当の支給を受けた場合に割増賃金の性質を含む部分があるとしても,その全額が時間外労働等の対価として支払われるものとされているとは認められず,ひいては,通常の労働時間の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に 当たる部分とを判別することができるものとは認められない。 これに対し,被告は,被告と本件組合との労働協約においては,平成4年協定以来一貫して,「基準外」とは,法定時間外労働,深夜労働,法定休日労働あるいはその賃金である割増賃金を指すものとされてきたから,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は割増賃金である旨主張する。そ して,その根拠として,平成4年協定には「基準外手当法定計算通りとする。」との定めがあるところ,法定の計算があるのは各種の割増賃金のみであることを挙げる。 しかしながら,前記前提事実によれば,確かに平成4年協定には上記定めがあるほか,平成27年協定にも「基準外1」及び「基準外2」の各 手当において,月間営収が36万円未満(1車2人制の場合)又は40万円未満(2車3人制の場合)は「法定計算とする。」との定めがあるものの,「法定計算」の意義については,いずれの協定上も特に定められていない。また,平成27年協定の適用期間について,月間営収が上記基準額未満の場合の原告らに対する実際の支給状況をみても,「基準外1」及び 「基準外2」のいずれの手当も支給されておらず(乙4),被告における賃金支払の実態によっても,「法定計算」との文言がどのような算出方法を示すものなのかは明らかではない。加えて,上記で認定したとおり,「基準外」手当が時間外労働等に対する対価である旨の記載は雇用契約書等の書面のどこにも見当たらないことにも照らせば,平成 な算出方法を示すものなのかは明らかではない。加えて,上記で認定したとおり,「基準外」手当が時間外労働等に対する対価である旨の記載は雇用契約書等の書面のどこにも見当たらないことにも照らせば,平成4年協定や平成 27年協定において「法定計算」との文言が用いられていることをもって, 「基準外」について,法定時間外労働,深夜労働,法定休日労働あるいはその賃金である割増賃金を指すものであると解釈することは困難であるといわざるを得ない。 また,被告は,被告の賃金体系では,所定内労働に対する賃金として歩合計算によって算定される「能率給」が存在することから,「基準外1」 及び「基準外2」の各手当は割増賃金である旨主張する。 しかしながら,被告の賃金体系については,「基準外1」及び「基準外2」の各手当の性質上の区分についてすら明確ではなく(上記c),歩合計算によって算定される賃金が上記の3種類存在するからといって,そのうち「能率給」のみが通常の労働時間の賃金であり,それ以外は割増賃 金に区分されると解釈することも困難である。 したがって,被告の主張はいずれも採用できない。 以上によれば,「基準外1」及び「基準外2」の各手当は,通常の労働時間の賃金として,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。 エ公休出勤手当について 被告における公休出勤手当の取扱いは,次のとおりである(前記前提事実⑵ア,同オ,甲38の5,弁論の全趣旨)。 a 公休出勤手当は,乗務員が勤務シフトによって定まる公休日(所定休日となる。)に勤務をした場合に,当該乗務員の選択により,当該公休日の営収額から,同金額に応じて定められた上限の範囲内で,現金を「公 休出勤手当」として即日受領することのできる制度である。 日となる。)に勤務をした場合に,当該乗務員の選択により,当該公休日の営収額から,同金額に応じて定められた上限の範囲内で,現金を「公 休出勤手当」として即日受領することのできる制度である。 b 乗務員が公休出勤手当の受給を選択した場合,当該公休日の営収は,「能率給」,「基準外1」手当,「基準外2」手当の金額の算出に当たっての月間営収に加算されない。他方で,乗務員が公休出勤手当の受給を選択しなかった場合,当該公休日の営収は,「能率給」,「基準外1」 手当,「基準外2」手当の金額の算出に当たっての月間営収に加算され る。 c 公休出勤手当の受給の有無にかかわらず,月の総労働時間には,当該公休日の労働時間が含まれる。 d なお,被告は,乗務員が公休出勤手当の受給を選択した場合,その受給額と法定の割増賃金額を比較したことはなかった。 上記認定事実によれば,公休出勤手当は,乗務員が勤務シフトによって定まる公休日(所定休日)に勤務をした場合に,当該公休日の営収額の一定の割合を,被告に納めずに現金で即日受領することのできる手当であると認められる。そうすると,公休出勤手当は,公休日の労働に対する対価として支払われるものとされており,通常の労働時間の賃金としての性質 を有するものとはいえず,割増賃金の基礎となる賃金には当たらないというべきである。 これに対し,原告らは,公休出勤手当は,上記bからすれば,所定休日労働の対価であるかのように装って「基準外1」手当の一部を置き換えたもの,あるいは,実質的には賃金の前借りにすぎず,判別可能性はなく, 通常の労働時間の賃金に当たる旨主張する。 しかしながら,割増賃金の算定方法について,労基法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労 にすぎず,判別可能性はなく, 通常の労働時間の賃金に当たる旨主張する。 しかしながら,割増賃金の算定方法について,労基法37条等に定められた方法以外の方法により算定される手当を時間外労働等に対する対価として支払うこと自体が直ちに同条に反するものではないと解されるところ,その算定方法が営収額に一定の割合を乗ずるという歩合的計算によ るものであるとしても,そのことのみをもって割増賃金としての性質を有することが妨げられるものではない。そして,公休出勤手当の受給を選択しなかった場合には当該公休日の営収は月間営収に加算されることになるものの,公休出勤手当の受給を選択して,公休出勤手当が支給される場合には当該公休日の営収は月間営収に加算されないのであるから,公休出 勤手当の中に通常の労働時間の賃金に当たる部分は含まれていないとい うべきであり,このことは,月の総労働時間に当該公休日の労働時間が含まれること(上記c)や,被告が公休出勤手当の受給額と法定の割増賃金額を比較したことがないこと(上記d)を考慮してもなお,覆るものではないと解される。また,前記前提事実オ及び上記の公休出勤手当の算出方法に照らせば,公休出勤手当の受給を選択した場合に,当該公休 出勤手当の金額そのものが,通常の労働時間の賃金である「能率給」や「基準外1」等の手当額から控除されるものではなく,公休出勤手当が,原告らの主張するような「基準外1」手当の一部置き換えであるとか,賃金の前借りであると評価することはできない。 したがって,原告らの上記主張は採用できない。 平成28年8月度から平成29年5月度までの期間についてア前記前提事実カのとおり,平成28年8月度から平成29年5月度までの賃金には,平成28年協定(乙 の上記主張は採用できない。 平成28年8月度から平成29年5月度までの期間についてア前記前提事実カのとおり,平成28年8月度から平成29年5月度までの賃金には,平成28年協定(乙14)が適用される。平成27年協定における賃金体系と比較して,公休出勤手当等について一部変更されている箇所があるが,それ以外は平成27年協定における賃金体系と概ね同様であると 認められる。 イそして,上記と同様に,賃金体系のうち月給制部分については,基本給,乗務手当,皆勤手当及び無事故無違反手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たることで,当事者間に争いがない。 また,賃金体系のうち歩合給部分については,まず能率給が割増賃金の基 礎となる賃金に当たることは当事者間に争いがない。 ウ 「基準外1」及び「基準外2」の各手当について「基準外1」及び「基準外2」の各手当が割増賃金の基礎となる賃金に当たるかは争われているところ,前記前提事実カa及び同aによれば,平成28年協定における上記各手当の定めは,平成27年協定における定め と同様であると認められるから,上記ウで判示したところと同様に,「基 準外1」及び「基準外2」の各手当は,通常の労働時間の賃金として,割増賃金の基礎となる賃金に当たるというべきである。 エ公休出勤手当について前記前提事実カb及び同bによれば,平成28年協定において公休出勤手当に係る制度が変更され,平成28年8月度以降,公休出勤手当はな くなったことが認められる。原告らも,別紙3「原告ら計算表」において,平成28年8月度以降は,公休出勤手当を計上しておらず,これが割増賃金の基礎となる賃金に当たるかは問題にならない。 なお,平成27年6月度の賃金請求については も,別紙3「原告ら計算表」において,平成28年8月度以降は,公休出勤手当を計上しておらず,これが割増賃金の基礎となる賃金に当たるかは問題にならない。 なお,平成27年6月度の賃金請求については,後記3のとおり,時効により当該賃金債権が消滅したと認められるから,その余の点について判断するま でもなく理由がない。 以上によれば,平成27年7月度から平成28年7月度までの期間及び平成28年8月度から平成29年5月度までの期間のいずれについても,割増賃金の基礎となる賃金は,月給制部分については,基本給,乗務手当,皆勤手当及び無事故無違反手当であり,歩合給部分については,能率給,「基準外1」及 び「基準外2」の各手当である。 3 争点⑶(消滅時効の成否)(平成27年6月度の賃金請求に対する抗弁―原告A1,原告A2,原告A3,原告A5,原告A7,原告A9,原告A10,原告A12及び原告A13につき)について前記前提事実⑵ウ,⑹,及び弁論の全趣旨によれば,平成27年6月度の賃 金の約定支払期日は平成27年6月27日であること,原告らは,平成29年7月22日に被告に対して各割増賃金支払債務の履行を催告した上で,同年12月8日に第1事件に係る訴訟を提起し,平成30年3月29日に第2事件に係る訴訟を提起したこと,被告が各原告の平成27年6月度の賃金請求につき消滅時効を援用するとの意思表示をしたことが認められるところ,原告らが上記催告をし た時点において既に2年の消滅時効期間が経過しているから,平成27年6月度 の賃金債権は,時効により消滅したと認められる。 4 争点⑷(未払割増賃金額)について⑴ 上記1ないし3で検討したところによれば,割増賃金の算定基礎となる原告らの賃金は,月額によって定められた基本給 金債権は,時効により消滅したと認められる。 4 争点⑷(未払割増賃金額)について⑴ 上記1ないし3で検討したところによれば,割増賃金の算定基礎となる原告らの賃金は,月額によって定められた基本給,乗務手当,皆勤手当及び無事故無違反手当と,歩合(出来高払制)によって定められた能率給,「基準外1」 及び「基準外2」の各手当とに分かれるから,労基法37条の通常の労働時間の賃金の額は,労基法施行規則19条1項7号により,前者については同項4号,後者については同項6号により計算した額を合計して算定することになる。 そして,所定労働時間は,前記前提事実⑵イのとおり,1車2人制の場合は171.87時間,2車3人制の場合は172.29時間であり,総労働時間は, 別紙5「裁判所計算表」の「実働時間(総労働時間数)」欄記載のとおりであるから,これらにより通常の労働時間の賃金の額を算定すると,別紙5「裁判所計算表」の「時間単価(月給制)」及び「時間単価(出来高払制)」欄記載のとおりとなる。 ⑵ そして,原告らの時間外労働等の時間は,別紙5「裁判所計算表」の「時間 外労働時間」欄及び「深夜時間」欄記載のとおりであり,これに基づいて割増賃金を算定すると,別紙5「裁判所計算表」の「割増賃金合計」欄記載のとおりとなる。 ⑶ そして,前記2で判示したとおり,公休出勤手当は,労基法37条所定の時間外労働等の割増賃金の支払として支給されたものであるから,これを既払金 として控除する。 ⑷ 以上を前提に未払の割増賃金額を算定すると,各原告に対応する別紙5「裁判所計算表」の「未払割増賃金」欄記載のとおりとなる。 また,遅延損害金については,各月の約定支払日の翌日である各月28日から遅延損害金が発生するところ,各月の請求元本である「未払割増賃金 「裁判所計算表」の「未払割増賃金」欄記載のとおりとなる。 また,遅延損害金については,各月の約定支払日の翌日である各月28日から遅延損害金が発生するところ,各月の請求元本である「未払割増賃金」欄記 載の金額に対する各月の弁済期の翌日から令和3年7月26日までの商事法 定利率年6分の割合による確定遅延損害金の額は,別紙5「裁判所計算表」の「遅延損害金」欄記載のとおりであり,さらに,原告らは,各月の請求元本合計額である別紙5「裁判所計算表」の「未払割増賃金」欄の最下部の欄記載の金額に対する令和3年7月27日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金を請求することができる。 5 争点⑸(付加金支払の要否)について本件訴訟の推移,被告の主張立証の内容など,本件に顕れた一切の事情を考慮すれば,付加金の支払を命ずるのが相当である。そして,原告らの各訴訟提起日(前記前提事実),被告が支払うべき割増賃金の額が上記4のとおりであることからすれば,被告が支払うべき付加金は,別紙5「裁判所計算表」の「割増賃 金合計」欄の最下部の欄に記載された金額のとおりとするのが相当である。なお,付加金に対する遅延損害金の率は,民法所定の年3分の割合となる。 6 結論よって,原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるから,それぞれその限度で認容し,その余は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり 判決する。 京都地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官池田知子 裁判官光吉恵子 裁判官荻原惇 裁判官 光吉恵子 裁判官 荻原惇

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る