平成29(行ウ)77 不動産登記申請却下処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年1月23日 東京地方裁判所 その他
ファイル
hanrei-pdf-88289.txt

判決文本文11,808 文字)

平成30年1月23日判決言渡平成29年(行ウ)第77号不動産登記申請却下処分取消請求事件主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求東京法務局A出張所登記官が平成29年1月4日付けで原告に対してした原告の同出張所平成28年12月9日受付第54487号登記申請を却下する処分を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,被相続人B(平成14年▲月▲日死亡。以下「被相続人」という。)の遺産である別紙2物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について,「平成14年▲月▲日相続」を原因とする所有権移転登記の申請(以下「本件登記申請」という。)をしたところ,東京法務局A出張所登記官(以下「処分行政庁」という。)から,本件登記申請は,数次相続で中間の相続人が複数であるにもかかわらず,被相続人から最終の相続人に直接相続させる登記が申請されていることを理由に,不動産登記法(以下「不登法」という。)25条5号及び8号の却下事由に該当するとして,本件登記申請を却下する処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,被告を相手に,本件処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め別紙3のとおり。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 被相続人は,平成14年▲月▲日死亡し,同人につき相続が開始した。 (2) 原告は,被相続人の配偶者Cの兄であるDの長男である。Cは,他の相続人とともに被相続人を相続した後,平成14年▲月▲日に死亡し,Dが他の相続人とともにCを相続したが,Dが平成18年▲月▲日に死亡したため,原告が他の相続人とともにDを相続した。(甲3)(3 続人とともに被相続人を相続した後,平成14年▲月▲日に死亡し,Dが他の相続人とともにCを相続したが,Dが平成18年▲月▲日に死亡したため,原告が他の相続人とともにDを相続した。(甲3)(3) 原告は,被相続人に係る相続人ら及び被相続人の相続開始後に死亡した相続人に係る相続人ら合計59名を相手方として,被相続人の遺産に係る遺産分割審判を申し立てたところ,東京家庭裁判所において,平成26年3月5日,被相続人の遺産である本件不動産の競売を命じ,その売却代金から競売費用を控除した残額を,相続分の譲渡により審判から脱退した者を除いた53名(審判手続の承継人を含む。以下「認定相続人ら」という。)に対し各人の相続分に応じて分配する旨の審判(以下「本件審判」といい,本件審判に係る審判書を「本件審判書」という。)がされ,同年6月19日,本件審判は確定した。 なお,本件審判書において,原告は,被相続人の相続人であるE並びにDの相続人であるF,G及びHから,それぞれ相続分の譲渡を受けた旨が認定されている。 (以上につき,甲3)(4) 原告は,平成28年12月9日,処分行政庁に対し,被相続人名義のままとなっていた本件不動産について,「所有権移転」を登記の目的とし,「平成14年▲月▲日相続」を登記原因として,被相続人から認定相続人らへの所有権移転登記を求める登記申請(本件登記申請)をした。 その際,原告は,本件審判書を不登法61条所定の登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」ということがある。)として提供した。 (以上につき,甲1,3)(5) 処分行政庁は,平成29年1月4日,本件登記申請が,数次相続で中間の相続人が複数であるにもかかわらず,被相続人から最終の相続人に直接相続させる登記を申請 (以上につき,甲1,3)(5) 処分行政庁は,平成29年1月4日,本件登記申請が,数次相続で中間の相続人が複数であるにもかかわらず,被相続人から最終の相続人に直接相続させる登記を申請するものであるとして,申請情報(登記申請に必要な事項として政令で定める情報)の内容と登記原因証明情報の内容が合致しないこと(不登法25条8号)及び中間省略登記であること(同条5号)を理由に,本件登記申請を却下する処分(本件処分)をした(甲2)。 (6) 原告は,平成29年2月18日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 3 争点本件処分の適法性(本件登記申請に係る却下事由の存否) 4 当事者の主張の要旨(原告の主張の要旨)(1) 確定した遺産分割審判書は,家庭裁判所が全ての法定相続人を確定して手続を進めることが前提とされていること,及びその審判の性質は形成判決であって,これにより法律関係が成立することから,登記実務上,相続による権利移転の登記を申請する場合の登記原因証明情報として認められている。そして,遺産分割審判は形成力を有するものであることからすると,審判によって確定した相続人及び相続分等の相続関係は,家庭裁判所の審判によって形成されたものであるといえる。そうすると,本件審判書は,被相続人から認定相続人らに本件不動産の所有権が直接移転していることを認定しているのであるから,その相続の過程を公示する必要性はない。 特に,本件の場合,本件不動産について競売手続が予定されており,競売後は直ちに新たな競落人の名義になることから,相続の登記による公示の期間は極めて短く,その公示の意義もほとんどない。 これに対し,被告は,本件登記申請は中間省略登記を申請するものであって認められないと主張するが,遺産分割審判が前 ら,相続の登記による公示の期間は極めて短く,その公示の意義もほとんどない。 これに対し,被告は,本件登記申請は中間省略登記を申請するものであって認められないと主張するが,遺産分割審判が前述のとおり形成力を有することからすると,本件審判によって相続人が確定したといえるため,本件審判書による登記申請は,そもそも中間省略登記を申請するものではないといえる。 (2) 仮に,数次相続や相続分の譲渡があるために,本件審判書が被相続人の相続を原因として認定相続人らに直接所有権が移転したことを証する書面であるとはいえないというのであれば,処分行政庁は,原告に対し,本件審判の確定した日をもって「平成26年6月19日相続人確定」あるいは「平成26年6月19日審判」等の登記原因にするよう補正を促し,その旨の登記を実行すべきであり,それをしないまま本件登記申請を却下した本件処分は違法である。すなわち,権利変動が判決によって生じた場合には,「年月日判決」を登記原因とする登記が認められているのであるから,相続人及び相続分を確定する本件審判についても,同様にこれを登記原因とすることが認められるべきである。 (3) また,中間省略登記は,判決主文に基づく所有権移転登記申請においては広く認められているところ,その理由は,裁判によって物権変動の過程が確認されているため,その結果のみの公示となっても公示上何らの不都合もないということにある。そうすると,本件においても,相続人の認定は家庭裁判所の審判手続により精査され,確定したものであり,その点は判決と変わるところがないのであるから,物権変動の過程を公示することに特段の意味はなく,確定した結果のみを公示したとしても公示上何らの不都合はないのであり,本件審判書をもって登記原因証明情報とすることは認められるべ ろがないのであるから,物権変動の過程を公示することに特段の意味はなく,確定した結果のみを公示したとしても公示上何らの不都合はないのであり,本件審判書をもって登記原因証明情報とすることは認められるべきである。 なお,内閣府規制改革推進室の投資等ワーキング・グループにおいて,相続登記手続の簡略化のため,法定相続人への登記を経ることなく被相続人名義の不動産について遺産の売却先への移転登記を認めることなどが提言されていることに照らしても,相続の過程を忠実に登記しなければならない必要性はないというべきである。 (4) 加えて,本件において,相続の過程等に従った登記申請をすべきものとすると,第一次相続から最終の相続までに係るもの及び相続分の譲渡に係るものなど合計11件の登記申請が必要となり,登録免許税及び司法書士の報酬も11件分となるなど,登記申請の負担は過重なものとなる。競売手続を前提とした相続登記の意味しかないものに,そのような過重な経済的負担を求めることは,違法かつ不当である。 さらには,相続の過程をすべて公示することになると,53名の認定相続人らのほか,相続から脱退した7名についても登記がされることとなるが,これらの登記は,その後直ちに行われる競売手続とは何ら関係のないものであり,登記記録上全く必要のない個人の情報が公開されることは,個人情報保護の観点からも許されるべきものではない。 (被告の主張の要旨)(1) 本件審判は,本件不動産の所有権が,平成14年▲月▲日に発生した被相続人の相続を原因として,認定相続人らに直接移転していることは何ら認定しておらず,単に,本件不動産を競売に付し,その売却代金から競売手続費用を控除した残額を認定相続人らの相続分等に応じて分配すると判示しているにすぎず,現に認定相続人ら各自の相続又は ることは何ら認定しておらず,単に,本件不動産を競売に付し,その売却代金から競売手続費用を控除した残額を認定相続人らの相続分等に応じて分配すると判示しているにすぎず,現に認定相続人ら各自の相続又は相続分取得時は同一日ではないのであるから,本件審判書をもって,平成14年▲月▲日の相続発生を原因として,被相続人から認定相続人らに直接所有権が移転したことを証する書面とすることはできない。 それにもかかわらず,本件登記申請は「平成14年▲月▲日相続」を登記原因とし,被相続人から認定相続人らに対して本件不動産の所有権が移転したとして登記を申請するものであるから,申請情報の内容と登記原因証明情報の内容が合致しておらず,不登法25条8号の却下事由があるといえるから,本件登記申請を却下した本件処分は適法である。 (2) また,不動産登記制度は,不動産に関する現在の権利関係を公示するための制度であるというにとどまらず,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする原則が採られており,この物権変動の過程を明らかならしめるものとして,登記原因及びその日付を登記記録に記録しなければならないとされている(不登法59条3号)。 そうすると,登記原因ごとに一つの登記をしなければ,物権変動の過程は明らかにならないと考えられるのであり,この理は登記原因が相続である場合にも同様であるから,本来,相続による所有権移転登記も各相続の原因ごとに登記すべきものである。不動産登記令(以下「不登令」という。)4条は,「申請情報は,登記の目的及び登記原因に応じ,一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。」と規定している。 本件では,登記申請書に「相続人」と掲げられた各人が相続分を承継した経緯は,それぞれ別個の相続又は相続分譲渡の過程に基づくものであり,そ 作成して提供しなければならない。」と規定している。 本件では,登記申請書に「相続人」と掲げられた各人が相続分を承継した経緯は,それぞれ別個の相続又は相続分譲渡の過程に基づくものであり,それぞれが異なる登記原因となるものである。ところが,本件登記申請は,本来は上記のようにそれぞれ別個の相続又は相続分の譲渡の過程を経て相続分を承継した認定相続人らについて,「平成14年▲月▲日相続」という単一の登記原因により所有権移転登記の申請をするものであるから,不登令4条に規定する「登記原因に応じ」て申請情報を作成して提供しなければならないという方式に合致しないものであり,不登法25条5号の却下事由がある。 なお,不登法59条は,権利に関する登記の登記事項として「登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所」(4号)を定め,不登令3条も,登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない申請情報の内容として,申請人の氏名又は名称及び住所(1号)を規定している。しかし,本件登記申請では,申請情報の権利者となる相続人の一部の者について「住所不詳」とされており(甲1),この点からも,本件登記申請は不登法及び不登令で定められた方式に適合しておらず,不登法25条5号の却下事由がある。 (3)アこれに対し,原告は,遺産分割審判によって確定した相続人及び相続分について,その過程を公示する必要はないなどとして,本件においては,いわゆる中間省略登記が許されるかのような主張をする。 この点,不登法は,「不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより,国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資すること」を目的としている(1条)ことなどからすると,我が国の不動産登記制度は,現在の権 公示するための登記に関する制度について定めることにより,国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資すること」を目的としている(1条)ことなどからすると,我が国の不動産登記制度は,現在の権利関係を公示することのみならず,現在の権利関係に至るまでの経緯についても公示することを要請しているものといえる。 中間省略登記は,不登法が予定している真実の事項の公示に反し,本来の登記制度に適合しないものであるから,原則として許されないものというべきである(中間省略登記不許の原則)が,例外的に中間省略登記が許容される場合があり得るとしても,本件登記申請に係る中間省略登記は,次のイに述べるとおり,その例外的な場合にも当たり得ないものである。 イすなわち,登記をめぐる訴訟において,登記記録上の登記名義人から最終の所有者への直接の所有権移転登記を命ずる判決が確定し,又はその旨の裁判上の和解が成立した場合は,これらの判決等で現に中間省略登記が命じられた以上は,これに従おうとの趣旨から,中間省略登記不許の原則の例外の一つとされる。しかし,本件では,中間省略登記を命ずる判決等に基づいて登記申請がされたものではなく,本件審判書の主文も,登記記録上の登記名義人から最終の所有者に直接登記を命ずる内容となっていないから,本件登記申請が上記の場合に当たらないことは明らかである。 また,数次相続の場合においては,その中間の相続人が単独で相続しているときに限り,1個の登記申請で所有権移転登記をすることが認められているところ,本件では,数次の相続のみならず,相続分の譲渡といった,相続とは法律構成の異なる原因までもが混在しているのであるから,上記のような1個の登記申請による登記が認められる場合にも当たらない。 (4) また,原告は,仮に「平成14年▲月▲日 といった,相続とは法律構成の異なる原因までもが混在しているのであるから,上記のような1個の登記申請による登記が認められる場合にも当たらない。 (4) また,原告は,仮に「平成14年▲月▲日相続」を原因とする登記が認められないのであれば,処分行政庁において,本件審判の確定した日をもって「平成26年6月19日相続人確定」等の登記原因にするよう補正を促すべきであったと主張する。 しかし,登記申請書の補正は,提出された登記申請書に形式的な不備があり,当該不備が補正することのできるものである場合に限られる。しかるに,本件登記申請は,本来複数の登記原因ごとに申請情報を作成しなければならないにもかかわらず,単一の登記原因を前提とした単一の申請情報を提出して登記を求めるものであり,申請方法そのものが法定の方式に違背したものであった。そうすると,このような不備の補正をすることは困難であり,処分行政庁においてその補正を求めるべきであったとはいえないから,原告の主張は理由がない。 原告のいう「相続人確定」とは,結局のところ,数次の相続や,相続人間での相続分の譲渡がされたことを意味するにすぎず,登記の原因となる事実又は法律行為は,あくまでも個々の相続や相続分の譲渡であるから,登記を行うためには,これらの登記原因に応じ,一の不動産ごとに申請情報を作成して提供し,登記の申請をしなければならないのであり,処分行政庁において「平成26年6月19日相続人確定」等の登記をすることはできない。 (5) さらに,原告は,本件登記申請のように,遺産の競売を命じ,その売却代金の相続人への分配を命じる審判に従って競売手続を進める場合,その相続の過程を登記事項として公示する必要はない等とも主張する。 しかしながら,本件審判書によると,本件では,遺産分割方法とし の売却代金の相続人への分配を命じる審判に従って競売手続を進める場合,その相続の過程を登記事項として公示する必要はない等とも主張する。 しかしながら,本件審判書によると,本件では,遺産分割方法として,いわゆる換価分割が選択されたものと理解できるところ(民法258条2項参照),この方法によって後日形式競売が申し立てられた場合においても,当該不動産が売却され,無事に換価まで至るか否かは未知数であって,当該物件が換価されず,53名の認定相続人らの共有状態のままとなる事態が生じることも否定できないのである。そうである以上,その公示の意義がほとんどないなどと言い得るものではなく,原告が主張する事情は,本件において,中間省略登記不許の原則を後退させてまで,中間省略登記を例外的に許容すべき事情とはなり得ないというべきである。 第3 当裁判所の判断当裁判所は,本件登記申請は申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致せず,不登法25条8号所定の登記の申請を却下するべき事由に該当するから,本件処分は適法であると判断する。その理由の詳細は以下のとおりである。 1 不登法18条は,登記申請の方法につき,不動産を識別するために必要な事項のほか,登記申請に必要な事項として政令で定める情報(申請情報)を登記所に提供しなければならない旨を定め,不登令3条は,申請情報として,「登記の目的」(5号),「登記原因及びその日付」(6号)等を定めている。また,不登法59条3号は,権利に関する登記の登記事項として,「登記原因及びその日付」を定め,同法5条2項ただし書は,登記原因について,「登記の原因となる事実又は法律行為」と定義している。さらに,同法61条は,権利に関する登記を申請する場合について,申請人は,法令に別段の定めがある場合を除き,その申請情報と併せ 登記原因について,「登記の原因となる事実又は法律行為」と定義している。さらに,同法61条は,権利に関する登記を申請する場合について,申請人は,法令に別段の定めがある場合を除き,その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならないと定め,同法25条8号は,「申請情報の内容が第61条に規定する登記原因を証する情報の内容と合致しないとき」は登記の申請を却下しなければならないと定めている。 このように,不登法は,権利に関する登記について,「登記原因及びその日付」(すなわち,登記の原因となる事実又は法律行為とその日付)を登記所に提供すべき申請情報及び公示の対象となるべき登記事項とした上で,申請人に対し,その登記原因を証する情報(登記原因証明情報)を提供することを義務付け,これにより,権利に関する登記の登記事項である登記原因が客観的な裏付けのあるものであることを確保し,また,このように客観的に裏付けられた不動産に関する権利の発生,移転,変更,消滅等の原因となる事実又は法律行為を登記することをもって,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させることとしているものと解される。 2 これを本件についてみるに,前記前提事実(4)及び証拠(甲1)によれば,本件登記申請において,原告が登記所に提供した不登法18条及び不登令3条所定の申請情報は,「所有権移転」を登記の目的とし,登記原因及びその日付を「平成14年▲月▲日相続」とするものであり,これらの申請情報に基づいて,本件不動産につき被相続人から認定相続人らへの所有権移転登記を求めるものである。したがって,本件登記申請は,本件不動産の所有権が被相続人から認定相続人らに直接移転したとするものであり,その原因となる事実が平成14年▲月▲日に開始した被相続人の相続であるとして,これを「登記原因及び って,本件登記申請は,本件不動産の所有権が被相続人から認定相続人らに直接移転したとするものであり,その原因となる事実が平成14年▲月▲日に開始した被相続人の相続であるとして,これを「登記原因及びその日付」に係る申請情報として提供したものと解される。 他方,前記前提事実(3)のとおり,原告が本件登記申請に際し不登法61条所定の登記原因証明情報として提供した本件審判書は,被相続人について相続が開始した後に一部の相続人が死亡して更に数次の相続が開始したこと及びこれらの相続により被相続人の遺産に係る相続分を取得した者の間で相続分の譲渡がされたことを前提に,被相続人の遺産である本件不動産の最終の共有関係を確定し,遺産分割の方法を指定するものであって,本件不動産の所有権が平成14年▲月▲日の被相続人に係る相続の開始により認定相続人らに直接移転したことを認定するものではない。そうすると,本件審判書は,本件登記申請において申請情報として提供された登記原因を証明するものには当たらない。 以上によれば,本件登記申請は,申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しないものといえるから,不登法25条8号所定の登記の申請を却下するべき事由に該当するというべきである。 3(1) これに対し,原告は,遺産分割審判は形成力を有するため,審判によって確定した相続人及び相続分等の相続関係は,家庭裁判所の審判によって形成されたものといえるから,本件審判は,被相続人から認定相続人らに本件不動産の所有権が直接移転していることを認定したものである旨主張する。 しかしながら,前記2のとおり,本件審判は,被相続人について相続が開始されたことにより相続人らの共有となった本件不動産につき,その共有持分権が更に数次の相続及び相続分の譲渡により順次原告その他の認定相続人らに移転し 2のとおり,本件審判は,被相続人について相続が開始されたことにより相続人らの共有となった本件不動産につき,その共有持分権が更に数次の相続及び相続分の譲渡により順次原告その他の認定相続人らに移転したことを前提として,審判時における共有者(認定相続人ら)を認定したものにすぎず,本件不動産の所有権が被相続人に係る相続を原因として認定相続人らに直接移転したことを認定したものではない。原告の上記主張は,遺産分割審判の形成力により本件不動産の所有権が被相続人から認定相続人らに対し直ちに移転するとの法効果が生じるとするものと解されるが,そのような法効果ないし権利変動を是認すべき実体法上及び訴訟法上の根拠はなく,原告の上記主張は採用することができない。 なお,原告は,本件審判の確定した日をもって「平成26年6月19日相続人確定」,「平成26年6月19日審判」等の登記原因への補正を促すべきであったなどと主張するが,以上に説示したところによれば,これらの主張もまたその前提を欠くものといわざるを得ない。 (2) また,原告は,不動産登記実務において中間省略登記は判決の主文に基づく所有権移転登記申請につき広く認められているところ,本件における認定相続人らについても家庭裁判所の審判手続によって本件不動産の共有持分権を有することが認定されたものであり,判決による中間省略登記と変わるところはないのであるから,本件登記申請に係る中間省略登記を認めるべきである旨主張する。 前記1の不動産登記制度の目的に照らせば,物権変動の過程,態様を忠実に登記記録に反映させるのが不登法における原則であり,中間省略登記は例外的な場合にのみ認められるものというべきである。 そして,不動産登記実務上,中間省略登記に係る所有権移転登記手続を命ずる確定判決(確定判決と同一の るのが不登法における原則であり,中間省略登記は例外的な場合にのみ認められるものというべきである。 そして,不動産登記実務上,中間省略登記に係る所有権移転登記手続を命ずる確定判決(確定判決と同一の効力を有する和解調書,調停調書等を含む。 以下同じ。)がある場合には,例外的に,当該判決に基づく中間省略登記の申請を受理する運用がされていることが認められるところ(乙1,5),本件審判は,その主文で被相続人から認定相続人らに対する所有権移転登記手続を命ずるものではないのであるから,原告の主張を踏まえても,本件審判につき中間省略登記に係る所有権移転登記手続を命ずる確定判決と同視すべき事情が存在するということはできない。 また,本件のように数次にわたる相続が発生した場合においては,登記原因は各相続ごとに異なるから,登記原因たる相続ごとに当該相続を原因とする所有権移転登記を申請することを要するのが原則であるが,不動産登記実務上,中間の相続が全て単独相続となる場合(遺産分割によりその中の1人が相続した場合等を含む。)には,例外的に1個の登記申請による所有権移転登記が認められている(乙1,6)。しかし,この場合でも,申請情報として登記原因たる数次の相続のそれぞれについてその発生年月日と併せて提供することが必要とされているものであり,複数の登記原因(数次の単独相続)を1個の申請書にまとめて記載することが許されているにすぎないものといえるから,本件審判の前提とされている相続関係のように被相続人から相続した複数の相続人らの一部が死亡したことにより更に数次の相続が発生した上,相続分の譲渡もされたという場合については,上記の例外的場合のような1個の登記申請による所有権移転登記は許されないものというべきである。 以上のほか,本件登記申請に係る所有権移転登記を中 した上,相続分の譲渡もされたという場合については,上記の例外的場合のような1個の登記申請による所有権移転登記は許されないものというべきである。 以上のほか,本件登記申請に係る所有権移転登記を中間省略登記等として1個の登記申請により行うことができる法令上の根拠は認められない。 なお,原告は,本件不動産については競売手続が予定されており,競売後は直ちに競落人の名義になることから,相続登記による公示の期間は極めて短く,その公示の意義もほとんどないとか,内閣府規制改革推進室の投資等ワーキング・グループにおいても相続登記の簡略化が提言されていることなどを根拠に,本件登記申請に係る中間省略登記を認めるべきであるなどと主張するが,これらについては,相続登記の在り方をめぐる立法論として議論されることは別として,現行の不登法の規定によれば,以上に説示したとおり,本件登記申請に係る中間省略登記は認めることができないものであって,原告の上記主張はこれを左右するものではない(なお,原告が主張する上記ワーキング・グループの検討は,「不動産登記に関する論点」との標題の下に論点の整理が行われたものであり,その論点の一つに挙げられた「相続登記の促進」に関連する要望例として,相続財産を売却しその代金を相続人又は第三者に譲与する旨の清算型遺贈につき指摘されたものであって,本件の事案とは異なるものである〔甲5〕。)。 (3) また,原告は,本件において相続の過程等に従った登記申請をすべきとすると,合計11件の登記申請が必要となり,登記申請の負担が過重なものとなるとか,登記記録上全く必要のない個人の情報が公開されることは,個人情報保護の観点からも許されないなどと主張するが,いずれの主張についても,以上に説示したところに照らし採用することができない。 4 よって 登記記録上全く必要のない個人の情報が公開されることは,個人情報保護の観点からも許されないなどと主張するが,いずれの主張についても,以上に説示したところに照らし採用することができない。 よって,本件登記申請に係る申請情報の内容が登記原因証明情報の内容と合致しないとして不登法25条8号に基づき本件登記申請を却下した本件処分は,適法である。 結論以上によれば,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官 清水知恵子 裁判官 進藤壮一郎 裁判官 池田美樹子(別紙1省略)(別紙2省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る