平成20(行コ)331 所得税更正処分取消請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(行ウ)第502号)

裁判年月日・裁判所
平成21年4月15日 東京高等裁判所 租税
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判決文本文6,076 文字)

- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 処分行政庁が控訴人に対し平成18年2月28日付けでした,控訴人の平成14年分,平成15年分及び平成16年分の所得税に係る各更正処分のうち,平成14年分の総所得金額254万0962円,納付すべき税額13万8400円を超える各部分,平成15年分の総所得金額315万1604円,納付すべき税額19万2800円を超える各部分及び平成16年分の総所得金額314万5812円,納付すべき税額18万4300円を超える各部分並びに上記各年分の所得税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分を取り消す。 第2事案の概要 控訴人は,柔道整復師であり,平成14年から平成16年までの各年分の所得税について,租税特別措置法26条1項(社会保険診療報酬の所得計算の特例。以下「本件特例規定」という)の適用を前提として同項所定の率の必要。 経費を控除して確定申告をしたところ,処分行政庁から,柔道整復師は同項に規定する「医業又は歯科医業を営む個人」に当たらないことを理由として各更正処分(以下「本件各更正処分」という)及び過少申告加算税の各賦課決定。 処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と併せて「本件,各処分」という)を受けた。 。 そこで,控訴人は,本件訴訟を提起し,控訴人が上記の「医業又は歯科医業を営む個人」に当たることなどを理由として,本件各更正処分のうち控訴人の各申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた。 原審は控訴人の請求を棄却したので,控訴人が控訴をして,上記第1のとお- 2 -りの判決を求めた。 関連法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次の4及び5のとおり当事 原審は控訴人の請求を棄却したので,控訴人が控訴をして,上記第1のとお- 2 -りの判決を求めた。 関連法令の定め,前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次の4及び5のとおり当事者の当審における主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1項ないし4項に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決7頁10行目の「弁論の全趣旨」の前に「甲16」を加える。 ,。) 控訴人の当審における主張(1)本件特例規定は,医師等に対する国税庁の運用上の特別措置を法制化したものであるところ,そのような特別措置を講じた理由は,国民皆保険という政策を実現するため,社会保険診療の担い手である医師等に対する税負担を軽減することにあったものである。柔道整復師は,社会保険制度との関連では,医師と並んで医療制度の一環を担っているから,柔道整復師の受け取る社会保険収入についても本件特例規定を適用すべきである。 (2)本件特例規定の施行後,昭和32年から昭和57年まで,当時の国税庁長官の通達に基づき,柔道整復師の社会保険収入の経費率を53パーセントとする特別措置が実施され,また,昭和58年から昭和62年まで,同経費率をAと国税当局の間で収入階層別に定めた。 このように,柔道整復師についても,医師と同様に税負担を軽減するために所得計算上の特別措置が実施されていたのであるから,本件特例規定の解釈をするに当たり,本件特例規定の制定の沿革及び文言の立案の経緯は決定的なものではなく,医業に柔道整復業その他の業務を含むか否かは,なお解釈に委ねられている。 (3)柔道整復師の行う業務のうち,社会保険の対象となる骨折,不全骨折,脱臼,打撲,捻挫,肉離れ等についての施術(業務上災害等による場合を除く。以下「保険対象施術」と なお解釈に委ねられている。 (3)柔道整復師の行う業務のうち,社会保険の対象となる骨折,不全骨折,脱臼,打撲,捻挫,肉離れ等についての施術(業務上災害等による場合を除く。以下「保険対象施術」という)は,医師の医学的知識及び技術をもっ。 てするのでなければ人体に危害を及ぼす恐れのある行為であるが,柔道整復- 3 -師は,相応の知識と技術を有するため,その免許を有することによりこれらの施術をすることが認められている。 したがって,保険対象施術をすることは,医行為をすることであり,柔道整復師がこれを反復継続する意思で行っているのであるから,柔道整復師は医業を営んでいるということができる。 柔道整復師の業務は,広義の医業類似行為とされるが,それに尽きるものではなく,上記のとおり,その一部が医行為であることと矛盾しない。 (4)後記被控訴人の主張5(4)に関し柔道整復師の施術は,健康保険法87条の「療養費の支給」の対象であるが,実務的には,被保険者は,柔道整復師に対し,療養費の請求に基づく給付金を受領する代理権を与えており,柔道整復師が同給付金を代理受領すると,被保険者の柔道整復師に対する同給付金の引渡請求権と柔道整復師の被保険者に対する施術費の請求権が相殺されることになり,結果として,被保険者は,施術費の一部負担金を柔道整復師に支払うだけで柔道整復師から保険診療を受けることができ,実質的に療養の給付を受けた場合と同様の効果を享受している。したがって,被保険者が療養費の支給につき給付金の代理受領の制度を利用した場合には,療養の給付を受ける場合と実態は同じであるから,租税特別措置法26条2項の適用については,療養の給付と同様に扱うべきである。 被控訴人の当審における主張(1)本件特例規定は,社会保険制度の維持発展という政策目的との関 態は同じであるから,租税特別措置法26条2項の適用については,療養の給付と同様に扱うべきである。 被控訴人の当審における主張(1)本件特例規定は,社会保険制度の維持発展という政策目的との関係で導入されたとはいえない。本件特例規定は,社会保険診療について支払を受けるべき金額を有する場合に,主体が誰であっても適用されるわけではなく,医師及び歯科医師に限って適用があるとされているのであるから,社会保険診療報酬の支払を受けているからといって,本件特例規定が当然に柔道整復師に適用されるとはいえない。 - 4 -(2)本件特例規定が柔道整復師をも対象としているのであれば,本件特例規定の適用後に別途柔道整復師について医師と異なる特別措置を実施する必要はないから,柔道整復師について特別措置を実施したということは,本件特例規定が柔道整復師に適用されないことを示すものである。 また,柔道整復師に関する特別措置に係る経費率は,納税者が所得金額を実額で計算できない場合の目安とされる標準率であり,本件特例規定とは,趣旨,目的を異にするものである。 (3)柔道整復師の施術が医行為に該当するといえないことは原判決の判示するとおりであり,また,租税特別措置法26条2項の「療養の給付」にも当たらないことは後記(4)のとおりである。 (4)租税特別措置法26条1項(本件特例規定)は「医業又は歯科医業を,営む個人」が「社会保険診療」について支払を受けるべき金額を有する場合の特例を定めるものであるところ「社会保険診療」は,同条2項により,,健康保険法等における「療養の給付(現物給付)等に限定されており,」「療養費の支給(現金給付)は含まれていない。柔道整復師の社会保険診」療に係る施術は,療養費の支給の対象とされ,療養の給付等の対象とはされていないから 養の給付(現物給付)等に限定されており,」「療養費の支給(現金給付)は含まれていない。柔道整復師の社会保険診」療に係る施術は,療養費の支給の対象とされ,療養の給付等の対象とはされていないから,柔道整復師の社会保険診療に係る施術について本件特例規定は適用されない。 第3当裁判所の判断当裁判所も,本件各更正処分のうち控訴人の各申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求める控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおり付加訂正するほか,原判決「事実及び理由」欄の「第3争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 原判決13頁16行目の次に,行を改めて次のとおり加える。 「原告(控訴人)は,本件特例規定は,医師等に対する国税庁の運用上の特別措置を法制化したものであるところ,そのような特別措置を講じた理由は,国- 5 -民皆保険という政策を実現するため,社会保険診療の担い手である医師等に対する税負担を軽減することにあったものであり,柔道整復師も医師とともに社会保険診療を担っているから,柔道整復師の受け取る社会保険収入についても本件特例規定を適用すべきであると主張する。 しかし,上記の医師等に対する特別措置は,医師等に対する税負担を軽減する目的でとられたものと考えられるが,それを超えて,国民皆保険という政策を実現するためにこの措置がとられたとまではいえず,この特別措置を法制化した本件特例規定が社会保険制度の維持発展という目的のために導入されたことを認めるに足りる証拠はないから,これを前提として,本件特例規定の「医業又は歯科医業を営む個人」が柔道整復師を含むと解釈すべきであるとの原告の主張は理由がない。 また,原告は,本件特例規定の施行後,柔道整復師についても医師と同様に税負担を軽減す ,本件特例規定の「医業又は歯科医業を営む個人」が柔道整復師を含むと解釈すべきであるとの原告の主張は理由がない。 また,原告は,本件特例規定の施行後,柔道整復師についても医師と同様に税負担を軽減するために所得計算上の特別措置が実施されたから,医業に柔道整復業その他の業務を含むと解釈することも可能であると主張する。 しかし,本件特例規定の「医業又は歯科医業を行う者」が柔道整復師を含むのであれば,本件特例規定の適用後に別途柔道整復師について医師等と異なる特別措置を実施する必要はないから,柔道整復師について特別措置を実施したということは,むしろ本件特例規定が柔道整復師に適用されないことを示すものということができる。よって,原告の主張は理由がない」。 原判決14頁1行目から6行目までを次のとおり改める。 「これに対し,柔道整復とは,打撲,捻挫,脱臼,骨折等に対して,応急的又は医療補助的方法により,その回復を図る施術をいうものと解される(乙6号証参照)ところ,これらの施術は,一般的に医行為と比べて危険度の低い行為であるし,医師ではなく柔道整復師が施術をすることから,その業務の範囲や施術法について制限がある(柔道整復師は外科手術,薬品の投与等ができないし,医師の同意がなければ原則として脱臼又は骨折の患部に施術をすることが- 6 -できない(柔道整復師法16条,17条)のであるから,一般的に柔道整)。 復が医行為に当たるということはできない。また,仮に,柔道整復の一部に上記医行為に重複するものがあり得るとしても,柔道整復師の資格・技能は,医師の資格・技能とは異なるから,上記の施術の限られた一部が重複することから,直ちに柔道整復が上記医行為と一般的に同質のものであるということはできない。 原告(控訴人)は,柔道整復師の行う業務のうち,保険対象 ・技能とは異なるから,上記の施術の限られた一部が重複することから,直ちに柔道整復が上記医行為と一般的に同質のものであるということはできない。 原告(控訴人)は,柔道整復師の行う業務のうち,保険対象施術は,医師の医学的知識及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼす恐れのある行為であるが,柔道整復師は,相応の知識と技術を有するため,その免許を有することによりこれらの施術をすることが認められているとして,保険対象施術は医行為に当たると主張する。しかし,柔道整復の一部である保険対象施術についても,上記と同様の議論が当てはまるのであって,一般的に保険対象施術が医行為に当たるとはいえないし,保険対象施術の限られた一部について医行為と重複するものがあったとしても,それをもって,上記結論が左右されるものではない」。 原判決21頁3行目の次に,行を改めて次のとおり加える。 「(8)なお,租税特別措置法26条1項(本件特例規定)は「医業又は歯科,医業を営む個人」が「社会保険診療」について支払を受けるべき金額を有する場合の特例を定めるものであるところ,この規定中の社会保険診療は,健康保険法,国民健康保険法等における「療養の給付(現物給付)としての」診療等に限定され「療養費の支給(現金給付)の対象となる診療を含ま,」ない(同条2項。 )柔道整復師の社会保険診療に係る施術は「療養の給付(健康保険法6,」3条,国民健康保険法36条参照)ではなく「療養費の支給(療養の給,」付等を行うことが困難であると認めるとき又は被保険者が保険医療機関等以外の病院等その他の者から診療,手当等を受けた場合において,保険者がや- 7 -むを得ないものと認めるときに実施される。健康保険法87条,国民健康保険法54条参照)の対象であるから,柔道整復師の 外の病院等その他の者から診療,手当等を受けた場合において,保険者がや- 7 -むを得ないものと認めるときに実施される。健康保険法87条,国民健康保険法54条参照)の対象であるから,柔道整復師の社会保険診療に係る施。 術については,本件特例規定の適用の余地はない。したがって,本件特例規定の適用を前提とする控訴人の請求は,この点からも理由がないが,租税特別措置法26条2項が療養費の支給の対象である行為を同条1項が規定する「社会保険診療」としていないことは,とりもなおさず,療養費の支給の対象である施術の担い手である柔道整復師が本件特例規定の「医業又は歯科医業を営む個人」に該当しないことを意味するものと解される。 もっとも,原告(控訴人)は,実務上,被保険者は,柔道整復師に対し,療養費の請求に基づく給付金を受領する代理権を与えており,その場合,療養の給付の場合と実態は同じであるから,療養の給付の場合と同様に扱うべきであると主張する。 しかし,健康保険法等において,療養の給付をする場合と療養費の支給をする場合を明確に区分して定め,租税特別措置法が,保険者から直接診療報酬を支払う前者の場合についてのみ本件特例規定を適用するものと定めている以上,原告の主張のような実態があるからといって,本件特例規定が適用されるとはいえない」。 第4 結論 よって,原判決は正当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第23民事部裁判長裁判官鈴木健太裁判官大沼和子- 8 -裁判官後藤健

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