平成29年9月21日判決言渡平成27年(行ウ)第125号源泉所得税の過誤納付金還付請求事件 主文 1 被告は,原告に対し,5048万4000円及びうち5048万円に対する平成27年5月15日から還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成27年5月15日から平成28年12月31日までについては年1.8%の割合,平成29年1月1日以降については年7. 3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合のいずれか低い割合による金員(ただし,これに100円未満の端数があるときはその端数金額を切り捨てる。)を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,5048万4000円及びうち5048万円に対する平成27年5月8日から還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成27年5月8日から平成28年12月31日までについては年1.8%の割合,平成29年1月1日以降については年7.3%の割合又は租税特別措置法93条に規定する特例基準割合のいずれか低い割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要A株式会社(なお,同社は,平成20年5月16日,B株式会社に商号変更した。 以下では,商号変更の前後を問わず「A株式会社」という。)は,その代表者であったCに対し,退職慰労金2億8000万円(以下「本件退職慰労金」という。)を支給する旨の株主総会決議(以下「本件株主総会決議」という。)が成立したとして,源泉徴収に係る所得税5048万4000円(以下,源泉徴収に係る所得税 を「源泉所得税」といい,本件においてA株式会社が納付した源泉所得税を「本件源泉所得税」という。) )が成立したとして,源泉徴収に係る所得税5048万4000円(以下,源泉徴収に係る所得税 を「源泉所得税」といい,本件においてA株式会社が納付した源泉所得税を「本件源泉所得税」という。)及び市県民税1198万8000円(以下「本件市県民税」という。)を控除した2億1752万8000円(以下「本件退職慰労金手取額」という。)を支払うとともに,平成20年6月3日,本件源泉所得税を納付した。 本件は,その後,合併によりA株式会社の権利義務を承継した原告が,本件株主総会決議が不存在であることを理由に,Cに本件退職慰労金の返還を請求し,本件退職慰労金手取額の支払を受けたことから,本件源泉所得税は過誤納金に当たると主張して,被告に対し,国税通則法56条1項に基づき,5048万4000円及びうち5048万円に対する同法58条1項3号,国税通則法施行令24条2項2号所定の日である平成27年5月8日から支払決定の日又は充当の日までの国税通則法58条1項,租税特別措置法95条,93条所定の割合による還付加算金の支払を求めている事案である。 2 関係法令等の定め関係法令等については,別紙「関係法令等の定め」に記載のとおりである。 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実等)(1) 当事者等ア原告は,遊技場の経営,遊技機械の販売等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)イ A株式会社は,昭和56年5月19日に設立され,平成20年5月16日,B株式会社に商号変更した。(甲4)ウ D株式会社は,平成25年8月1日,A株式会社を合併し,その権利義務を承継した。(甲1,2)エ原告は,平成26年2月25日,D株式会社を合併し,その権利義務を承継した。(甲1 甲4)ウ D株式会社は,平成25年8月1日,A株式会社を合併し,その権利義務を承継した。(甲1,2)エ原告は,平成26年2月25日,D株式会社を合併し,その権利義務を承継した。(甲1)オ原告代表者であるEは,Cの元妻であり,Cとの間にF,G及びH(以下「子 ら」という。)をもうけた。EとCの離婚後,E及び子ら(以下「Eら」という。)とCとの間で,E及びCが経営してきたA株式会社等の経営等をめぐって多くの法的紛争が発生し,多数の訴訟等が提起された。(甲25,26,弁論の全趣旨)(2) Cに対する退職慰労金の支払等ア Cは,A株式会社の設立時からその代表取締役であったところ,平成20年5月16日付けで,代表取締役退任登記及び取締役辞任登記がされ,同日付けで,Iの代表取締役就任登記がされた。(甲4,25,弁論の全趣旨)イ A株式会社の平成20年4月6日付け臨時株主総会議事録には,同日付けで,Cに対し,退職慰労金2億8000万円を支給する旨の本件株主総会決議がされた旨の記載がある。なお,本件株主総会決議は,CがA株式会社の唯一の株主であることを前提にされたものであった。(甲5)ウ A株式会社は,Cに対し,本件退職慰労金として,平成20年5月30日に1億1263万0400円を,同年12月10日に1000万円を,平成21年10月22日に8300万円を,同月23日に1189万7600円をそれぞれ支払った。(甲10,12,13)エ A株式会社は,平成20年6月3日,本件源泉所得税5048万4000円及び本件市県民税1198万8000円を納付した。(甲6ないし9)(3) 還付請求に至る経緯等ア Eらは,平成20年5月14日,A株式会社及びCに対し,EがA株式会社の株式4万7020株を有する株 市県民税1198万8000円を納付した。(甲6ないし9)(3) 還付請求に至る経緯等ア Eらは,平成20年5月14日,A株式会社及びCに対し,EがA株式会社の株式4万7020株を有する株主であること,FがA株式会社の株式1万8580株を有する株主であること,G及びHがA株式会社の株式各1万8500株を有する株主であること並びにA株式会社の発行済株式総数が15万株であることの確認を求める訴えを名古屋地方裁判所に提起した(名古屋地方裁判所平成20年(ワ)第2495号事件。以下「別件訴訟1」という。)。名古屋地方裁判所は,平成22年3月11日,別件訴訟1について,EがA株式会社の株式4万7020株を有する株主であること,FがA株式会社の株式1万8580株を有する株主で あること,G及びHがA株式会社の株式各1万8500株を有する株主であることの各確認請求(以下「本件各株主権確認請求」という。)を認容するとともに,A株式会社の発行済株式総数が15万株であることの確認請求については,A株式会社の発行済株式総数が21万8000株であることの確認を求める限度で認容し,その余を棄却する旨の判決(以下「別件訴訟1第1審判決」という。)をした。(甲17,25)イ A株式会社及びCは,別件訴訟1第1審判決について控訴を提起しなかったが,Eらは,その敗訴部分を不服として,名古屋高等裁判所に控訴を提起し(名古屋高等裁判所平成22年(ネ)第437号事件),A株式会社の平成13年11月14日付け変更登記に係る普通株式4万8000株の新株発行及び平成17年12月6日付け変更登記に係る普通株式2万株の新株発行がいずれも存在しないことの確認請求を追加した。名古屋高等裁判所は,平成23年2月18日,別件訴訟1第1審判決を変更し,A株式会社の発行済株 7年12月6日付け変更登記に係る普通株式2万株の新株発行がいずれも存在しないことの確認請求を追加した。名古屋高等裁判所は,平成23年2月18日,別件訴訟1第1審判決を変更し,A株式会社の発行済株式総数が15万株であることの確認を求める訴えを却下するとともに,A株式会社の平成13年11月14日付け変更登記に係る普通株式4万8000株の新株発行及び平成17年12月6日付け変更登記に係る普通株式2万株の新株発行がいずれも存在しないことの確認請求を認容する判決(以下「別件訴訟1控訴審判決」という。)をし,その後,別件訴訟1第1審判決のEらの本件各株主権確認請求を認容した部分及び別件訴訟1控訴審判決が確定した。(甲17,18,25)ウ Eは,京都地方裁判所にA株式会社の株主総会の招集許可の申立てをし(京都地方裁判所平成23年(ヒ)第54号事件),平成24年2月9日,許可の決定を受け,同年3月9日,A株式会社の株主総会が開催され,Hが原告の代表取締役に就任した。(甲19,25)エ原告は,平成26年1月8日,Cに対し,本件株主総会決議が不存在であったため,本件退職慰労金として支払われた2億8000万円が法律上の原因を欠く利得であると主張して,不当利得返還請求権に基づき,その返還を求める訴えを名 古屋地方裁判所に提起した(名古屋地方裁判所平成26年(ワ)第45号事件。以下「別件訴訟2」という。)。名古屋地方裁判所は,同年10月28日,別件訴訟2について,平成20年4月6日当時におけるA株式会社の発行済株式総数は15万株であり,その株主構成は,Cが4万7400株,Eが4万7020株,Fが1万8580株,G及びHが各1万8500株であったところ,同日,Cのみが出席してA株式会社の株主総会(以下「本件株主総会」という。)が開催され,本 成は,Cが4万7400株,Eが4万7020株,Fが1万8580株,G及びHが各1万8500株であったところ,同日,Cのみが出席してA株式会社の株主総会(以下「本件株主総会」という。)が開催され,本件株主総会決議がされたが,Eらには本件株主総会の招集通知がされていなかったため,本件株主総会決議は不存在であり,これに基づく本件退職慰労金の支給は,法律上の原因を欠くとして,Cに対し,2億8000万円及びこれに対する平成22年3月12日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を命じる判決(以下「別件訴訟2第1審判決」という。)をした。(甲10,25)オ Cは,別件訴訟2第1審判決を不服として,名古屋高等裁判所に控訴を提起したところ(名古屋高等裁判所平成26年(ネ)第1066号事件),名古屋高等裁判所は,平成27年3月19日,本件退職慰労金のうちCが実際に受領した2億1752万8000円(本件退職慰労金手取額)については同人の利得となるが,本件源泉所得税及び本件市県民税の合計額に相当する合計6247万2000円については,同人の利得とはならないとして,別件訴訟2第1審判決を変更し,Cに対し,2億1752万8000円及びこれに対する平成22年3月12日から支払済みまで年5分の割合による利息の支払を命じる判決(以下「別件訴訟2控訴審判決」という。)をし,その後,別件訴訟2控訴審判決が確定した。(甲11,弁論の全趣旨)カ原告は,平成27年3月24日付けで,Cとの間で和解契約を締結し,同人から,本件退職慰労金手取額及びその利息として,同月30日に7214万8386円の,同年4月14日に2億円の各支払を受けた。(甲16,弁論の全趣旨)キ原告から委任を受けたJ税理士は,平成27年4月7日,名古屋中税務署長に対し,源泉所得税の誤納額還 に7214万8386円の,同年4月14日に2億円の各支払を受けた。(甲16,弁論の全趣旨)キ原告から委任を受けたJ税理士は,平成27年4月7日,名古屋中税務署長に対し,源泉所得税の誤納額還付請求書(甲12。以下「本件還付請求書」という。) を提出して本件源泉所得税の還付を求めたが(以下「本件還付請求」という。),名古屋中税務署長は,これに応じなかった。(甲12,弁論の全趣旨)ク原告から委任を受けたJ税理士は,平成27年4月7日,名古屋市長に対し,退職所得に対する住民税の過誤納額還付請求書を提出して本件市県民税の還付を求め,名古屋市長は,原告に対し,本件市県民税を還付した。(甲13ないし15,弁論の全趣旨)(4) 本件訴えの提起原告は,平成27年10月23日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 4 争点(1) 本件源泉所得税の還付請求権(以下「本件還付請求権」という。)が時効により消滅したか(争点1)(2) 還付加算金の起算点(争点2) 5 当事者の主張(1) 争点1(本件還付請求権が時効により消滅したか)について(被告の主張)ア国税通則法74条所定の「その請求をすることができる日」とは,民法166条1項の「権利を行使することができる時」と同義であり,権利の行使についての法律上の障害がないことをいうところ,下記イ及びウによれば,本件源泉所得税は,その納付時において,租税実体法上,被告がこれを保有する正当の理由のない利得として,国税通則法56条1項所定の「還付金等」に該当しており,本件源泉所得税について納税義務を確定する行政処分も存在しないため,本件還付請求権の行使について法律上の障害は存在しなかったというべきであるから,本件還付請求権の消滅時効の起算点は,本件源泉所得税の 件源泉所得税について納税義務を確定する行政処分も存在しないため,本件還付請求権の行使について法律上の障害は存在しなかったというべきであるから,本件還付請求権の消滅時効の起算点は,本件源泉所得税の納付日の翌日である平成20年6月4日である。したがって,本件還付請求権は,同日から5年間が経過したことによって,時効により消滅したというべきである。 イ本件退職慰労金は,その支払の時点においてはCの所得を構成しており,同 人が原告に対して本件退職慰労金手取額を返還したことにより,その経済的成果が失われ,Cの所得を構成しないこととなったということができるものの,下記(ア)及び(イ)のとおり,本件退職慰労金は所得税法199条所定の「退職手当等」には当たらないから,原告には,当初から,本件退職慰労金に係る源泉所得税を徴収して被告に納付する義務はなかったというべきである。 (ア) 金員の支払が所得税法199条所定の「退職手当等」に当たるというためには,従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有することが必要と解されるところ,Cに対する本件退職慰労金の支払は,客観的にみて,従来の継続的な勤務に対する報償としての性質を有するものではなく,また,Cの代表取締役としての地位や権限等を考慮してされたという関係も認められないから,労務の対価の一部の後払いの性質を有するということもできない。 すなわち,Cは,Eらによる別件訴訟1の提起等を受けて,遅くとも平成20年5月初旬頃には,EらがA株式会社の株主としての地位を主張していることを認識したというべきであるところ,同月16日付けでCの代表取締役退任登記及び取締役辞任登記がされ,同月30日から平成21年10月23日にかけて,本件退職慰労金の支払がされていること,本 ていることを認識したというべきであるところ,同月16日付けでCの代表取締役退任登記及び取締役辞任登記がされ,同月30日から平成21年10月23日にかけて,本件退職慰労金の支払がされていること,本件退職慰労金の支払は,A株式会社が債務超過となった一因とされていること,A株式会社には退任取締役の退職慰労金に関する内規が存在しなかったため,Cに退職慰労金を支給するためには,株主総会決議が必要であったところ,本件株主総会決議は,A株式会社の発行済株式総数の約68%の株式を有するEらに対する招集手続を欠き,不存在と評価されるものであったこと,Cは,A株式会社のいわゆる一人株主として振る舞っており,Iの選任や同人による本件退職慰労金の支払を含む職務行為は,Cの思わくどおりに行われていたこと,Cについて,A株式会社の代表取締役として退職慰労金を受給するに値するだけの執務実体があったことを裏付ける証拠はないことに加え,本件退職慰労金がCの従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いとして支払われたというのであれば,その後にCが原告に対してこれを返還したこ とと整合しないというべきであること等の諸事情に照らせば,Cは,A株式会社の株主たる地位やその経営権をEらに取得されることを恐れ,先んじてA株式会社の資産を流出させるため,A株式会社の事業活動と関係なく,あたかも本件株主総会決議が存在したかのように装い,本件退職慰労金の支払を受けたというべきである。 (イ) 金員の支払が所得税法199条所定の「退職手当等」に当たるというためには,その前提として,退職の事実が必要であるところ,原告が平成27年4月7日付けで名古屋中税務署長に対して提出した本件還付請求書には,Cの退職が仮装である旨の記載があるほか,後任の代表者であるIの は,その前提として,退職の事実が必要であるところ,原告が平成27年4月7日付けで名古屋中税務署長に対して提出した本件還付請求書には,Cの退職が仮装である旨の記載があるほか,後任の代表者であるIの選任や同人による職務行為がCの思わくどおりに進められていたこと等を考慮すると,Cの退職の事実についても疑義があるというべきである。 ウ仮に,本件退職慰労金が所得税法199条所定の「退職手当等」に当たるとしても,下記(ア)ないし(ウ)のとおり,源泉所得税は,納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定するから,各種所得の金額に事後的に異動が生じることは予定されていない。したがって,一旦確定し,具体化された納税義務の数額に誤りがあったとしても,そのことをもって,租税法律関係を変動させるものとはいえず,当該誤りがある部分は,当初から租税法律関係が存在していなかったものと解さざるを得ない。 (ア) 源泉所得税については,納付済みの国税の還付に係る特別の救済手続である国税通則法56条に基づく還付請求や,いわゆる後発的事由による更正請求(同法23条2項)の制度は存在しない。また,給与等を支給するのは源泉所得税を徴収して被告に納付する義務(以下「源泉徴収義務」という場合がある。)を負う者(以下「徴収義務者」という。)自身であるから,課税要件は一義的に明確であり,徴収義務者が給与等を支給する際に課税標準等を捕捉することも容易であるということとあいまって,後の取消しや変更は予定されていない。したがって,「所得」の支払に係る源泉所得税の納付後,当該所得に相当する金員の返還がされるなどの当該「所得」が「所得」を構成しないものと評価されるような事実が生じたとして も,当該事実は,当該「所得」の支払後に租税法律関係を変動させるものとはいえない。仮に,金 員の返還がされるなどの当該「所得」が「所得」を構成しないものと評価されるような事実が生じたとして も,当該事実は,当該「所得」の支払後に租税法律関係を変動させるものとはいえない。仮に,金員の返還等の事実により「所得」を構成しないこととなったことを理由に納税義務が消滅することとなれば,納税義務の消滅に伴い,確定済みの税額に変更が生じることとなるが,それは,税額が納税義務の成立時点と異なる時点で確定したり,重畳的に確定したりすることを意味し,源泉所得税が納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定することに明らかに反する。 (イ) 還付金等に係る国に対する請求権は,その請求をすることができる日から5年を経過したときは時効により絶対的に消滅するとされ,民法上の金銭債権に係る消滅時効とは異なる規律が設けられている(国税通則法74条1項,2項)。この5年の消滅時効期間は,会計法30条と同様に,国の債権債務に係る不安定な状態をなるべく速やかに解決し,会計上の決済を早期に完了させる必要性に基づく規定と解すべきである。そして,仮に,源泉所得税について,事後的にその租税法律関係に異動を生じることが許容され,原告が主張するように,その異動時点から還付請求権が発生すると解した場合,徴収義務者から支払を受けた者が,時効の利益を放棄して,当該支払を一部でも返還すれば,支払時点から長期間が経過した後であっても,当該返還額に対応する源泉徴収税額の還付請求権が発生することになりかねず,当該源泉徴収に係る租税法律関係がいつまでも不安定な立場に置かれることとなり,国税通則法74条1項,2項の趣旨を没却しかねない。 (ウ) 国税通則法58条1項1号ロは,納税の告知がされた後に納付した額が過納となり,これにより生じた過納金を還付する場合には,当該過納金に係る国税 通則法74条1項,2項の趣旨を没却しかねない。 (ウ) 国税通則法58条1項1号ロは,納税の告知がされた後に納付した額が過納となり,これにより生じた過納金を還付する場合には,当該過納金に係る国税の納付の日の翌日から還付加算金を加算することとされており,同項3号,国税通則法施行令24条2項2号は,上記以外の場合(国税通則法58条4項の適用がある場合を除く。)には,税務署長がその過誤納の事実の確認をした日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日から還付加算金を加算するとしているところ,源泉所得税に係る過誤納の発生が,納付日ではなく,徴収義務者が支払った所得の返還を受けた日と解すると,当該徴収義務者が納税の告知を受けていたのであれば,還付金 等の請求権の発生前の期間に対して還付加算金を付することとなり,民法及び国税通則法と整合しないというべきである。 エ Cは,平成22年3月12日,EがA株式会社の株式4万7020株を有する株主であること等の確認請求を認容した別件訴訟1第1審判決の送達を受け,本件株主総会決議が不存在であることを確定的に認識したのであるから,A株式会社は,遅くとも同日から,Cが唯一の株主であることを前提にされた本件株主総会決議の不存在を理由として,被告に対し,本件源泉所得税の還付請求をすることができたというべきである。 (原告の主張)ア本件源泉所得税の納付は,代表取締役及び取締役であったCが退任するに当たり,同人に退職慰労金を支給する旨の本件株主総会決議がされたとして,これに基づいて本件退職慰労金が支払われたためにされたものであるから,その納付の時点では適法なものであり,後に,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けたことにより,過納金となったものである。すなわち,違法又は無効な行為を原因とす たためにされたものであるから,その納付の時点では適法なものであり,後に,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けたことにより,過納金となったものである。すなわち,違法又は無効な行為を原因とする所得についても,税法の見地からは,課税の原因となった行為が関係当事者の間で有効なものとして取り扱われ,これにより,現実に課税要件が満たされていると認められる場合には,課税することが認められるところ,本件退職慰労金の支払が違法又は無効な行為を原因とするものであったとしても,その返還義務の履行により,経済的成果が失われることがない限り,源泉徴収義務を定めた所得税法199条所定の「退職手当等」に当たるというべきである。したがって,本件還付請求権は,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けた平成27年4月14日に発生したものであり,本件還付請求権の消滅時効の起算点は,同日になるというべきであるから,時効期間が経過していないことは明らかである。 イ所得税基本通達181ないし223共-6は,源泉所得税の還付を認める場合として,源泉徴収の対象となった支払額が誤払等により過大であったため徴収義務者が返還を受けた場合及び徴収義務者が既に支払った金額の全部又は一部の返 還を受けた場合を定めており,徴収義務者が支払額の返還を受けたときに,源泉所得税の還付請求権が発生することを認めていることは明らかであるから,所得税法181条,183条及び199条所定の「支払」によって,源泉徴収義務が発生するのに対し,「支払」の反対概念である「返還」によって,源泉所得税の還付請求権が発生すると解すべきである。 ウ源泉所得税が,納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定するのは,その課税要件が単純で容易に把握することができる建前になっていること等により,直ち 還付請求権が発生すると解すべきである。 ウ源泉所得税が,納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定するのは,その課税要件が単純で容易に把握することができる建前になっていること等により,直ちに履行の段階,すなわち,その税額の納付又は徴収の段階に移行することができるからである。これに対し,被告の主張は,源泉徴収義務の発生要件として,単純で容易に把握することができる「退職慰労金の支払があったこと」では足りず,本件株主総会決議の存否やCの動機を問題とするものであり,法的根拠を明らかにしないまま,源泉徴収義務の発生要件を加重するものであって,不当である。 エ国税不服審判所平成11年6月17日裁決は,①法人の役員によって不法に持ち出された上記法人の資金が上記役員の経済的利得を構成し,給与又は退職金の支払に当たるか,②上記法人に源泉徴収義務があるかが争われた事案で,不法に持ち出された資金の返還が問題とされているところ,異議審理庁が,法人の役員によって不法に持ち出された法人の資金の一部が返還されたことを受けて,源泉所得税の納税告知の一部を取り消す決定をしたことを認定した上で,その余の部分について,法人が上記資金の返還を受けた事実がないことを根拠に審査請求を棄却したものである。被告は,従来から,法人の役員が在職中にその地位を利用して法人の資金を不法に持ち出したような場合,法人からの賞与(給与)の支払があったと認定し,法人の利益処分による臨時的給与の支払として,法人税の増額更正処分を行うとともに,法人に当該臨時的給与の支払につき,源泉徴収義務があるにもかかわらず,これを怠ったとして,源泉所得税の納税告知を行っている。また,被告は,法人の役員の退職後に法人の資金が当該役員に支払われた場合には,退職金の支給を認定している。 オ源 かかわらず,これを怠ったとして,源泉所得税の納税告知を行っている。また,被告は,法人の役員の退職後に法人の資金が当該役員に支払われた場合には,退職金の支給を認定している。 オ源泉所得税は,納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定することを理由に,事後的に課税関係に異動が生じることは予定されていないと解することは,源泉所得税について還付があることを前提とする還付加算金の規定(国税通則法58条1項1号ロ,ハ,国税通則法施行令24条2項2号)が存在することと矛盾するから,被告の主張は失当である。 カ原告は,前記前提事実(3)アないしカのとおり,複数の訴訟等を経て,ようやくCから本件退職慰労金手取額の返還を受けることができたのであるから,被告が原告の還付請求について消滅時効を理由にこれを認めないことは正義に反する。 (2) 争点2(還付加算金の起算点)について(原告の主張)原告は,被告に対し,5048万円に対する国税通則法58条1項3号,国税通則法施行令24条2項2号所定の日である平成27年5月8日から還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成27年5月8日から平成28年12月31日までについては年1.8%の割合,平成29年1月1日以降については年7. 3%の割合又は租税特別措置法93条に規定する特例基準割合のいずれか低い割合による還付加算金の支払を求める。 (被告の主張)国税通則法は,還付加算金の起算日について,納税告知以外に起因して納付された源泉所得税の過誤納金については,税務署長がその過誤納の事実を確認した日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日と定めており,実務上,過誤納の事実の確認申請書(以下「確認申請書」という。)が提出された日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日 事実を確認した日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日と定めており,実務上,過誤納の事実の確認申請書(以下「確認申請書」という。)が提出された日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日として取り扱うこととされている。しかし,本件においては,原告の主張を前提とすると,本件退職慰労金について過誤納の事実が発生したのは,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けた平成27年4月14日となるところ,確認申請書に当たる本件還付請求書が名古屋中税務署長に提出されたのは同月7日であり,名古屋中税務署長は確認申請書の提出によっては過誤 納の事実を知り得ない。したがって,本件において,確認申請書(本件還付請求書)が提出された日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日とすることは不可能である。 第3 当裁判所の判断 1 前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 (1) A株式会社の経営状況等ア原告代表者であるEは,昭和44年▲月▲日,Cと婚姻し,同人との間に子らをもうけるとともに,Cと共に,K株式会社,A株式会社,D株式会社等の複数の会社を経営してきた。なお,Cは,A株式会社の設立時から,A株式会社の代表取締役として,その業務全般を行っていた。(甲4,25,26)イ E及びCは,平成13年▲月▲日,協議離婚し,EはK株式会社を,CはA株式会社及びD株式会社を経営するようになった。(甲25,26)ウ EとCの離婚後,EらとCとの間で,E及びCが経営してきたA株式会社等の経営等をめぐって多くの法的紛争が発生し,多数の訴訟等が提起された。(甲25,26,弁論の全趣旨)エ Cは,平成20年5月16日付けで,A株式会社の代表取締役及び取締役を退任した。また,同日付けで 等をめぐって多くの法的紛争が発生し,多数の訴訟等が提起された。(甲25,26,弁論の全趣旨)エ Cは,平成20年5月16日付けで,A株式会社の代表取締役及び取締役を退任した。また,同日付けで,IのA株式会社の代表取締役就任登記がされた。(甲4,弁論の全趣旨)(2) Cに対する本件退職慰労金の支払等ア A株式会社の平成20年4月6日付け臨時株主総会議事録には,同日付けで,Cに対し,退職慰労金2億8000万円を支給する旨の本件株主総会決議がされた旨の記載がある。なお,本件株主総会決議は,CがA株式会社の唯一の株主であることを前提にされたものであった。(甲5)イ A株式会社は,Cに対し,本件退職慰労金として,平成20年5月30日に1億1263万0400円を,同年12月10日に1000万円を,平成21年1 0月22日に8300万円を,同月23日に1189万7600円をそれぞれ支払った。(甲10,12,13)ウ A株式会社は,平成20年6月3日,本件源泉所得税5048万4000円及び本件市県民税1198万8000円を納付した。(甲6ないし9)エ A株式会社は,第28期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の決算報告書において,販売費及び一般管理費として,本件退職慰労金を「退職金」の勘定科目で計上した。(甲24,弁論の全趣旨)(3) 本件還付請求等ア原告から委任を受けたJ税理士は,平成27年4月7日,名古屋中税務署長に対し,本件還付請求書を提出し,本件源泉所得税の還付を求めた。(甲12,弁論の全趣旨)イ本件還付請求書には,「請求理由」として,平成20年6月3日に納付した本件源泉所得税について,本件退職慰労金の支給が別件訴訟2控訴審判決により無効とされたことにより,誤納額還付請 の全趣旨)イ本件還付請求書には,「請求理由」として,平成20年6月3日に納付した本件源泉所得税について,本件退職慰労金の支給が別件訴訟2控訴審判決により無効とされたことにより,誤納額還付請求をする旨の記載があった。また,本件還付請求書には,「判決に至る詳細経緯の説明」として,別件訴訟1及び2の経緯が記載されていたほか,CがA株式会社の代表取締役を退任したことが退職慰労金を取得するための仮装退職である旨の記載や,後任の代表取締役であるIがCのかいらいである旨の記載があった。(甲12)ウ名古屋中税務署の担当者は,平成27年5月28日,J税理士に対し,本件還付請求権について,国税通則法74条1項に規定する「その請求をすることができる日」が納付日である平成20年6月3日であるため,時効により消滅している旨説明した。(弁論の全趣旨)エ名古屋中税務署の担当者は,平成27年9月9日までの間,原告から委任を受けた原告補佐人L税理士に対しても,複数回にわたって,上記ウと同様の説明をした。(弁論の全趣旨) 2 争点1(本件還付請求権が時効により消滅したか)について (1) 被告は,国税通則法74条所定の「その請求をすることができる日」とは,民法166条1項の「権利を行使することができる時」と同義であり,権利の行使についての法律上の障害がないことをいうところ,本件源泉所得税は,その納付時において,租税実体法上,被告がこれを保有する正当の理由のない利得として,国税通則法56条1項所定の「還付金等」に該当しており,本件源泉所得税について納税義務を確定する行政処分も存在しないため,本件還付請求権の行使について法律上の障害は存在しなかったというべきであるから,本件還付請求権の消滅時効の起算点は,本件源泉所得税の納付日の翌日で ついて納税義務を確定する行政処分も存在しないため,本件還付請求権の行使について法律上の障害は存在しなかったというべきであるから,本件還付請求権の消滅時効の起算点は,本件源泉所得税の納付日の翌日である平成20年6月4日であり,本件還付請求権は,同日から5年間が経過したことによって,時効により消滅した旨主張し,本件還付請求権の消滅時効の起算点について上記のように解すべき具体的根拠として,①本件退職慰労金は所得税法199条所定の「退職手当等」には当たらず,原告には,本件退職慰労金に係る源泉徴収義務はなかった,②仮に,本件退職慰労金が所得税法199条所定の「退職手当等」に当たるとしても,源泉所得税は,納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定するから,各種所得の金額に事後的に異動が生じることは予定されておらず,一旦確定し,具体化された納税義務の数額に誤りがあったとしても,そのことをもって,租税法律関係を変動させるものとはいえず,当該誤りがある部分は,当初から租税法律関係が存在していなかったものと解さざるを得ない旨主張する。 そもそも,所得税法上の所得は専ら経済的面から把握すべきものであり,経済的にみて利得者がその利得を現実に支配管理し,自己のために享受する限りその利得は所得を構成すると解するのが相当であるところ,Cは,本件退職慰労金を受領したことによって経済的利得を受け,その利得を現実に支配管理するようになったのであるから,本件退職慰労金は同人の所得を構成していたというべきであり,この点については,被告も自認するところである。そこで,以下では,まず,本件退職慰労金が源泉徴収義務を定めた所得税法199条の「退職手当等」に該当するか否かを検討し,これが肯定される場合に,これを前提として,本件還付請求権の発生 時期及び消滅時効の起算 ず,本件退職慰労金が源泉徴収義務を定めた所得税法199条の「退職手当等」に該当するか否かを検討し,これが肯定される場合に,これを前提として,本件還付請求権の発生 時期及び消滅時効の起算点について検討することとする。 (2) 本件退職慰労金が所得税法199条の「退職手当等」に該当するか否かについてア所得税法30条1項は,退職所得とは,退職手当,一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(退職手当等)に係る所得をいう旨規定しているところ,ある金員が退職手当等に該当するためには,①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること,②従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること及び③一時金として支払われることという要件を備えていること又は実質的にこれらの要件の要求するところに適合することが必要であると解するのが相当である(最高裁昭和53年(行ツ)第72号同58年9月9日第二小法廷判決・民集37巻7号962頁参照)。 前記前提事実及び認定事実によれば,Cは,平成20年5月16日,A株式会社の代表取締役及び取締役を退任し,その後に原告から本件退職慰労金の支払を受けているから,本件退職慰労金は,退職によって初めて給付されたものということができる。また,Cは,A株式会社が設立された昭和56年5月19日から退任日である平成20年5月16日までの約27年間にわたって,A株式会社の代表取締役としての業務を遂行してきたのであるから,本件退職慰労金は,従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すると認めることができる。さらに,退職に起因して支払われる金員であっても,年金の形式で定期的,継続的に支給されるものは,一時 続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すると認めることができる。さらに,退職に起因して支払われる金員であっても,年金の形式で定期的,継続的に支給されるものは,一時金には当たらないため,退職手当等に含まれないところ,本件退職慰労金の支払は,平成20年5月30日から平成21年10月23日までの間に4回に分割してされたものであるが,A株式会社の年金制度等に基づき支払われたものでないことはもとより,その期間及び回数が年金と同視し得る程度に長期及び多数回に及んでいたということはできないこと,A株式会社は,第28期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の決算報 告書において,本件退職慰労金を「退職金」として計上しているほか,その全額を基準として本件源泉所得税及び本件市県民税の額を算出し,平成20年6月3日付けでこれらを納付していること等の諸事情に照らすと,本件退職慰労金は,退任に当たって支払われる一時金としての実質を備えているということができる。 以上によれば,本件退職慰労金は,所得税法30条1項所定の「退職手当等」に該当するというべきである。 イこれに対し,被告は,①Cは,A株式会社の株主たる地位やその経営権をEらに取得されることを恐れ,先んじてA株式会社の資産を流出させるため,A株式会社の事業活動と関係なく,あたかも本件株主総会決議が存在したかのように装い,本件退職慰労金の支払を受けたというべきであり,本件退職慰労金が,Cの従来の継続的な勤務に対する報償ないしその間の労務の対価の一部の後払いとして支払われたというのであれば,その後にCが原告に対してこれを返還したこととも整合しない,②原告が平成27年4月7日付けで名古屋中税務署長に対して提出した本件還付請求書には,Cの退職が仮装で いとして支払われたというのであれば,その後にCが原告に対してこれを返還したこととも整合しない,②原告が平成27年4月7日付けで名古屋中税務署長に対して提出した本件還付請求書には,Cの退職が仮装である旨の記載があるほか,後任の代表者であるIの選任や同人による職務行為がCの思わくどおりに進められていたこと等を考慮すると,Cの退職の事実についても疑義がある旨主張するため,以下検討する。 (ア) 上記①の点について確かに,本件退職慰労金の支給は,これを決定した本件株主総会決議が不存在であった上,その支給によってA株式会社が債務超過に陥るものであったとすれば,その額も相当性を欠くものであった疑いが強いといわざるを得ない。しかしながら,A株式会社が本件退職慰労金についての源泉徴収義務を履行し,第28期(平成20年4月1日から平成21年3月31日まで)の決算報告書においてこれを計上していることに照らせば,A株式会社の内部の意思決定に基づいて本件退職慰労金が支給されたと認められ,A株式会社の意思と関係なく,本件退職慰労金に相当する資産が持ち出された等の事情はうかがわれないこと,Cは,A株式会社の設立された昭和56年5月19日から退任日である平成20年5月16日までの約27年 間にわたって,A株式会社の代表取締役としての業務を遂行してきたことや,Cが代表取締役及び取締役を退任した直後に本件退職慰労金手取額の過半の額の支払がされていることを考慮すると,本件退職慰労金の支給が株主総会決議という手続的要件を欠き,かつ,その額が相当性を欠く疑いがあったとしても,従来の継続的な職務に対する報償ないしその間の職務の対価の一部の後払いとしての性質が直ちに否定されるものではない。 なお,被告は,Cについて,A株式会社の代表取締役として退職慰労金を たとしても,従来の継続的な職務に対する報償ないしその間の職務の対価の一部の後払いとしての性質が直ちに否定されるものではない。 なお,被告は,Cについて,A株式会社の代表取締役として退職慰労金を受給するに値するだけの執務実体があったことを裏付ける証拠はないとも主張するが,前記認定事実によれば,Cは,A株式会社が設立された昭和56年5月19日からその代表取締役の地位にあり,平成13年▲月▲日にEと協議離婚した際にも引き続きA株式会社を経営していくことを選択していること,その後,CとEらとの間において,A株式会社の株主の地位をめぐって紛争が発生していることを考慮すると,Cは,A株式会社の代表取締役を退任するまで,株主であるEらの意向すら無視し,自らの判断でA株式会社の経営を行っていたと推認するのが相当であるから,被告の主張は採用することができない。 また,別件訴訟1第1審判決のうちEらの本件各株主権確認請求を認容した部分及び別件訴訟1控訴審判決の確定により,EらがA株式会社の発行済株式総数の約68%の株式を有していることが既判力をもって確定されたため,A株式会社において,再度,Cに対して退職慰労金を支給する旨の株主総会決議をすることは事実上不可能となるとともに,別件訴訟2控訴審判決の確定により,Cの原告に対する本件退職慰労金手取額に相当する額の不当利得返還義務の存在が既判力をもって確定され,その履行を命じられたことに照らすと,Cは,本件退職慰労金の性質のいかんを問わず,上記不当利得返還義務を履行せざるを得なかったというべきであるから,Cが別件訴訟2控訴審判決が確定した後に原告に対して本件退職慰労金手取額に相当する額を返還したことをもって,本件退職慰労金に従来の継続的な職務に対する報償ないしその間の職務の対価の一部の後払いとしての性質 件訴訟2控訴審判決が確定した後に原告に対して本件退職慰労金手取額に相当する額を返還したことをもって,本件退職慰労金に従来の継続的な職務に対する報償ないしその間の職務の対価の一部の後払いとしての性質があったこ とが否定されるものではない。 (イ) 上記②の点について確かに,前記認定事実(3)によれば,原告が平成27年4月7日付けで名古屋中税務署長に対して提出した本件還付請求書には,Cの退任が仮装であるとする記載があることが認められる。しかしながら,本件還付請求書の記載からは,Cの退任が仮装であることを裏付ける具体的事情は明らかではない。また,A株式会社の商業登記簿上,Cについて平成20年5月16日付けで,代表取締役退任登記のみならず,取締役辞任登記もされていることに加え,Cは,A株式会社の株主でもあり,特に,別件訴訟1第1審判決及び別件訴訟1控訴審判決が確定するまでは,A株式会社の唯一の株主として行動していたというのであるから,Iが後任の代表取締役としてCの意向に従ってA株式会社の経営を行っていたとしても,その当時において唯一の株主と認識されていた者の意向を尊重していたにとどまるというべきであり,Cが,株主としての影響力を行使することを超えて,事実上の代表取締役として自ら業務を遂行していたとまで認めることはできない。したがって,Cが平成20年5月16日付けでA株式会社の代表取締役及び取締役を退任したとの上記認定が左右されるものではない。 (3) 本件還付請求権の発生時期及び消滅時効の起算点についてア国税通則法74条1項所定の「その請求をすることができる」とは,民法166条1項の「権利を行使することができる」と同義であるから,その権利の行使について法律上の障害がないこと,及び権利の性質上,その権利行使が現実に期 項所定の「その請求をすることができる」とは,民法166条1項の「権利を行使することができる」と同義であるから,その権利の行使について法律上の障害がないこと,及び権利の性質上,その権利行使が現実に期待のできるものであることを要すると解するのが相当である(同項に関する最高裁昭和40年(行ツ)第100号同45年7月15日大法廷判決・民集24巻7号771頁,最高裁平成4年(オ)第701号同8年3月5日第三小法廷判決・民集50巻3号383頁参照)。 イ被告は,源泉所得税は納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定するから,各種所得の金額に事後的に異動が生じることは予定されておらず,一旦確定し, 具体化された納税義務の数額に誤りがあっても,そのことをもって,租税法律関係を変動させるものとはいえず,当該誤りがある部分は,当初から租税法律関係が存在していなかったものと解さざるを得ない旨主張する。そして,確かに,源泉徴収の対象となるべき所得の支払がされるときは,支払者は,法令の定めるところに従って納税義務を負うのであるが,この納税義務は上記所得の支払の時に成立し,その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものとされており(国税通則法15条),源泉所得税については,申告納税方式による場合の納税者の税額の申告やこれを補正するための税務署長等の処分(更正,決定),賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして,その税額が法令の定めるところに従って当然に,いわば自動的に確定するものとされている(最高裁昭和43年(オ)第258号同45年12月24日第一小法廷判決・民集24巻13号2243頁参照)。 しかしながら,支払者が源泉徴収義務の発生する所得を支払い,源泉所得税を納付した後になって,その支払の原因が無効で 258号同45年12月24日第一小法廷判決・民集24巻13号2243頁参照)。 しかしながら,支払者が源泉徴収義務の発生する所得を支払い,源泉所得税を納付した後になって,その支払の原因が無効であったこと等を理由として,支払者が上記所得に相当する金員の返還を受けたことにより,上記所得の支払による経済的成果が失われる場合があり得るところ,このような場合について,被告の主張するとおり,当初から租税法律関係が存在しなかったものとして,源泉所得税の納付時にその還付請求権が発生すると解したとしても,前記(1)で説示したとおり,所得税法上の所得は専ら経済的面から把握すべきものであり,経済的にみて利得者がその利得を現実に支配管理し,自己のために享受する限りその利得は所得を構成するのであるから,上記返還によって所得の経済的成果が失われるまでは,源泉所得税の課税要件に欠けるところはなく,上記源泉所得税についての還付請求権を行使するにつき,法律上の障害があるというべきである。 なお,所得税基本通達181~223共-6は,源泉徴収税額に係る過誤納金と 象となった支払額が誤払い等により過大であったため徴収義務者が返還を受けた場合におけるその返還を受ける前の支払額に対する税額とその支払額からその返還を受けた金額を控除した後の支払額に対する税額との差額に係る過誤納金及び条件の成否により徴収義務者が既に支払った金額の全部又は一部の返還を受けた場合におけるその返還を受ける前の支払額に対する税額とその支払額からその返還を受けた金額を控除した後の支払額に対する税額との差額に係る過誤納金を当該源泉徴収税額を納付した徴収義務者に還付するものとしてい因を欠く誤払いであり,又は条件の成否によってその原因が消滅したとしても,徴収義務者が現実に支払額の全部又は一部の との差額に係る過誤納金を当該源泉徴収税額を納付した徴収義務者に還付するものとしてい因を欠く誤払いであり,又は条件の成否によってその原因が消滅したとしても,徴収義務者が現実に支払額の全部又は一部の返還を受けるまでは,源泉所得税の還付を受けることができないことを前提としていると解するのが相当である。 ウ以上を前提に本件について検討すると,上記(2)で説示したところによれば,本件退職慰労金は,所得税法30条1項所定の「退職手当等」に該当するから,本件源泉所得税は,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けるまでは課税要件に欠けるところはなく,本件還付請求権を行使するについて,法律上の障害があったというべきである。したがって,本件源泉所得税の納付日の翌日である平成20年6月4日をもって,国税通則法74条所定の「その請求をすることができる日」であると認めることはできない(なお,最高裁昭和52年(行ツ)第89号同53年2月10日第二小法廷判決・訟務月報24巻10号2108頁は,納税告知により納付した源泉所得税本税の返還請求権の消滅時効の起算点が当該源泉所得税本税の納付時であるとした原審の判断を是認している式会社は,自己所有の株式を代表者に譲渡したところ,所轄税務署長から当該株式の時価相当額と譲渡価額との差額を役員賞与として認定され,認定賞与に係る源泉については争わなかったが,上記役員賞与の認定を理由とする法人税再更正処分の X株式会社は,法人税再更正処分が取り消された以上,同処分と表裏の関係にある源泉所得税の納税告知は不存在であるなどと主張して,国に対して納付した源泉所得税について,不当利得返還請求をしたというものであり,当該事案においては,X株式会社は,当初から,株式の譲渡価格が時価相当額を下回るものではなく,譲受人である代 主張して,国に対して納付した源泉所得税について,不当利得返還請求をしたというものであり,当該事案においては,X株式会社は,当初から,株式の譲渡価格が時価相当額を下回るものではなく,譲受人である代表者に賞与として認定されるべき経済的利得は存在しないことを主張して,源泉所得税の還付請求をすることが可能であったと考えられるため,原告がCから本件退職慰労金手取額の返還を受けるまで源泉所得税の課税要件に欠けるところのなかった本件とは事案を異にするというべきである。)。 エ被告は,Cが,平成22年3月12日,EがA株式会社の株式4万7020株を有する株主であること等の確認請求を認容した別件訴訟1第1審判決の送達を受け,本件株主総会決議が不存在であることを確定的に認識したのであるから,A株式会社は,遅くとも同日から,Cが唯一の株主であることを前提にされた本件株主総会決議の不存在を理由として,被告に対し,本件源泉所得税の還付請求をすることができたというべきであるとも主張する。しかしながら,前記(1)で説示したとおり,所得税法上の所得は,専ら経済的面から把握すべきものであり,経済的にみて利得者がその利得を現実に支配管理し,自己のために享受する限りその利得は所得を構成するというべきであるところ,A株式会社において,本件株主総会決議が不存在であることが主張できる状態となったとしても,そのことをもって,直ちにCが本件退職慰労金の支給による利得を支配管理している状態に変化が生じたとはいえないから,本件還付請求権を行使するにつき,法律上の障害があるというほかない。よって,被告の主張は,採用することができない。 (4) 小括以上によれば,本件還付請求権について,国税通則法74条所定の時効期間が経過したとは認められないから,本件還付請求権が時効により消 よって,被告の主張は,採用することができない。 (4) 小括以上によれば,本件還付請求権について,国税通則法74条所定の時効期間が経過したとは認められないから,本件還付請求権が時効により消滅したということはできない。 3 争点2(還付加算金の起算点)について(1) 国税通則法58条1項3号,国税通則法施行令24条2項2号は,納税告知以外に起因して納付された源泉所得税の過誤納金の還付加算金の起算日について,還付金等は,原則として還付の請求を受けるまでもなく,遅滞なく還付しなければならないものであるが,源泉所得税の過誤納金等については,そのままでは税務署長が過誤納の事実を知り得ず,納税者からの確認請求等を待って還付することとなるため,税務署長がその過誤納の事実を確認した日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日と定めたものと解するのが相当である。そして,税務署長は,確認申請書が提出されれば,過誤納の事実を知り得るから,税務署長がその過誤納の事実を確認した日とは,原則として,過誤納の事実の確認申請書が提出された日をいうと解すべきであるが,確認申請書が提出された時点において過誤納の事実が発生していないなどの事情がある場合には,税務署長は確認申請書の提出によっては過誤納の事実を知り得ないから,過誤納の事実の確認申請書が提出された日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日とすることはできないというべきである。 (2) 本件において,原告は,名古屋中税務署長に対し,本件退職慰労金手取額全額の返還を受けた平成27年4月14日よりも前である同月7日に確認申請書に当たる本件還付請求書を提出しているところ,前記2(3)で説示したとおり,同日の時点では,Cが本件退職慰労金の支給による経済的利得を現実に支配管理しており, 14日よりも前である同月7日に確認申請書に当たる本件還付請求書を提出しているところ,前記2(3)で説示したとおり,同日の時点では,Cが本件退職慰労金の支給による経済的利得を現実に支配管理しており,名古屋中税務署長は過誤納の事実を知り得なかったというべきであるから,本件還付請求書の提出日をもって税務署長がその過誤納の事実を確認した日とする原告の主張は,失当というほかない。しかしながら,本件還付請求書には,過誤納金の発生を基礎付ける事実関係が記載されており,同月14日に実際に本件退職慰労金手取額全額の返還が完了したことによって,Cの本件退職慰労金に係る所得の支払の経済的成果が失われたこと,名古屋中税務署の担当者は,同年5月28日,J税理士に対し,本件還付請求権について,国税通則法74条1項に規定する「その請 求をすることができる日」が納付日である平成20年6月3日であるため,時効により消滅している旨説明し,その後,平成27年9月9日までの間,L税理士に対しても,複数回にわたって同様の説明をしていたほか,本件訴訟においても,被告は,一貫して,本件源泉所得税が,租税実体法上,その納付時から被告が保有する正当の理由のない利得として,国税通則法56条1項所定の「還付金等」に該当するものであったという見解に立っており,過誤納の発生自体については争っていなかったこと等の諸事情を考慮すると,名古屋中税務署長は,原告がCから本件退職慰労金手取額全額の返還を受け,Cの本件退職慰労金に係る所得の支払の経済的成果が失われた同年4月14日の時点において過誤納の事実を知り得たということができるから,同日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日と認めるのが相当である。 (3) 以上によれば,本件における還付加算金の起算点は,国税通則法58条1項 事実を知り得たということができるから,同日をもって,税務署長がその過誤納の事実を確認した日と認めるのが相当である。 (3) 以上によれば,本件における還付加算金の起算点は,国税通則法58条1項3号,国税通則法施行令24条2項2号により,税務署長がその過誤納の事実を確認した日の翌日から起算して1月を経過する日の翌日である平成27年5月15日となる。 第4 結論よって,原告の請求は,被告に対し,5048万4000円及びうち5048万円に対する平成27年5月15日から還付のための支払決定の日又はその充当の日まで,平成27年5月15日から平成28年12月31日までについては年1. 8%の割合,平成29年1月1日以降については年7.3%の割合又は租税特別措置法93条2項に規定する特例基準割合のいずれか低い割合による金員(ただし,国税通則法120条3項により,これに100円未満の端数があるときはその端数金額を切り捨てる。)を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法61条,64条ただし書を適用し,仮執行宣言は相当でないから付さないこととして,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部 裁判長裁判官市原義孝 裁判官髙瀬保守 裁判官山口貴央(被告代理人目録省略)
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