令和4(わ)428 危険運転過失致死被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年6月26日 札幌地方裁判所
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判決文本文5,546 文字)

- 1 - 主文 被告人を懲役9年に処する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和4年2月4日午後11時16分頃、大型貨物自動車を運転し、北海道樺戸郡a町bc番地先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下、「本件交差点」という。)を滝川市方面からd町方面に向かい直進するに当たり、前車を追い越すために対向車線を約73km/hで走行中、本件交差点の対面信号機が赤色の灯火信号を表示しているのを本件交差点入口の停止線(以下、「本件停止線」という。)手前約88.6mの地点で認め、直ちに制動措置を講じれば本件停止線手前で停止することができたにもかかわらず、帰社を急ぐあまり、追越しを完遂したいと考え、同信号表示を殊更に無視して自車を加速させ、重大な交通の危険を生じさせる速度である約79km/hで自車を運転して進行したことにより、折から左方道路から信号に従って本件交差点内に進行してきたA(当時44歳)運転の軽四輪乗用自動車右側面部に自車前部を衝突させ、A運転の自動車を約61.3m先の歩道上まで弾き飛ばし、よって、Aに多発外傷の傷害を負わせ、その頃、同所において、Aを前記傷害により死亡させた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)注。以下、日付のみの記載は令和4年を指す。また、特に断らない限り、距離の記載は本件停止線からの距離をいう。 第1 争点本件の争点は、被告人が赤色信号を殊更に無視したかである。関係証拠によれば、本件のように乾燥した道路を75km/hで走行した場合の停止距離は約66m(空走距離約17m、制動距離約49m)と認められるところ、検察官は、被告人が本件交差点の信号が赤色であることを認めたのは約88.6m手前の地点であり、その地点 - 2 -で 停止距離は約66m(空走距離約17m、制動距離約49m)と認められるところ、検察官は、被告人が本件交差点の信号が赤色であることを認めたのは約88.6m手前の地点であり、その地点 - 2 -で直ちにブレーキを踏んでいれば本件停止線手前で停止できたのに、被告人は自車を加速させて進行したので、赤色信号を殊更に無視したと主張する。 これに対し、弁護人は、被告人が赤色信号を認めたのは約28.7m手前の地点であって、赤色信号を殊更に無視したわけではなく、検察官の主張する事実には合理的な疑いが残ると主張する。 当裁判所は、被告人が赤色信号を認めたのは約88.6m手前の地点であったと認めたので、以下、理由を説明する。 第2 被告人の供述経過赤色信号を認めた地点等に関する被告人の供述経過は次のとおりである。 1 本件事故直後に行われた実況見分(以下、「1回目の実況見分」という。)では、被告人は、走行車線を進行していたことを前提に、赤色信号に気付いたのは約28.7m手前の地点であると説明した。そして、事故の翌日である2月5日に行われた取調べでは、被告人は、考え事をしながら走行車線を進行中、約28.7m手前の地点でふと前方を見て赤色信号に気付き、ブレーキをかけたが間に合わず、被害者の車と衝突したと供述した。 2 その後、B警察官が被告人運転車両に取り付けられたドライブレコーダー(以下、「本件ドラレコ」という。)を確認したところ、走行状況が違っていたので、被告人を再度呼び出し、2月15日に実況見分を行った(以下、「2回目の実況見分」という。)。B警察官から被告人に「1回目の実況見分で指示説明した内容に違うところはないか」と尋ねて説明を求めたところ、被告人は、対向車線にはみ出して衝突したと述べた。そして、被告人は、赤色信号は見たと述べた上で、衝 から被告人に「1回目の実況見分で指示説明した内容に違うところはないか」と尋ねて説明を求めたところ、被告人は、対向車線にはみ出して衝突したと述べた。そして、被告人は、赤色信号は見たと述べた上で、衝突地点から遠ざかる方に向かって歩きながら確認して、赤色信号を見た地点を特定した。これが約88.6m手前の地点である。 さらに、同じようにして、被告人が黄色信号を見た地点(約150.4m手前の地点)を特定した。また、被告人が前方のトラックを追い越し始めた地点は、橋の名前の書かれた看板が見えた地点(約279.6m手前の地点)として特定し - 3 -た。 そして、2月28日に行われた取調べでは、被告人は、わざと信号無視したと言えば罪が重くなると思い、事故直後は本当のことが話せなかったが、前方のトラックを追い越している時にそのまま走って本件事故を起こしたのであり、2回目の実況見分で指示した各地点で、本件交差点の信号が黄色や赤色に変わっていたのを見た旨供述した。 3 当公判廷において、被告人は、前方のトラックの追越しを始め、2回目の実況見分で指示した地点(約150.4m手前の地点)で黄色に変わったのを確認したが加速を続け、追越しをかけるトラックの動向や対向車の有無を見ていて、赤色信号に気付いたのは約28.7m手前の地点であると供述する。 第3 当裁判所の判断以下に述べる理由により、赤色信号に気付いたのが約28.7m手前であるとする被告人の供述は信用できず、約88.6m手前で赤色信号に気付いたとする2回目の実況見分及び2月28日の取調べにおける被告人の供述は信用できる。 1 被告人が進行していた道路は見通しの良い直線道路である。被告人は、夜間に前方のトラックを追い越すために対向車線を走行したところ、約150.4m手前の地点で本件交差点の信 人の供述は信用できる。 1 被告人が進行していた道路は見通しの良い直線道路である。被告人は、夜間に前方のトラックを追い越すために対向車線を走行したところ、約150.4m手前の地点で本件交差点の信号が黄色を表示していることを認識した。そうすると、信号が赤色に変わらないか注意するのが通常なので、約28.7m手前に至るまでの約6秒間ずっと赤色信号に気付かないということは通常考えられない。 この点、被告人は、追越しをかけるトラックの動向等を見ていて赤色信号に気付くのが遅れた旨供述する。しかし、本件ドラレコを見る限り、被告人は追越し中ハンドル操作をぶれさせることなく加速しながら直進できているので、追越しをかけるトラック側(自車の左側)ばかりを見ていたとは考えられない。そして、一般に、追越しを行う際は、追い越す車両ばかりを見るのではなく、主に進路前方を見て対向車の有無や対面する信号の状況等に注意しながら走行するものなので、約28.7m手前に至るまで前方の赤色信号に気付 - 4 -かなかったというのは信ぴょう性に欠ける。そもそも被告人は運送業務に携わるプロの運転手なのであるから、信号表示が目に入っていながらその内容を認識していなかったとも考えられない。 2 一方、2回目の実況見分で被告人が約88.6m手前で赤色信号を見たと指示した点は、たしかに具体的な根拠を伴わない感覚的なものではある。しかし、本件ドラレコと信号表示等を対照して分析した結果によると、被告人が約88.6m手前で赤色信号を見たのは、約150.4m手前で黄色信号を見た約3秒後であって、実際にこの間に信号表示が黄色から赤色に変わっていたことと合致するし、追越しを行う際に前方を見ながら走行するのが通常であることに照らして自然でもある。2回目の実況見分の際に本件ドラレコの内容は告げ 、実際にこの間に信号表示が黄色から赤色に変わっていたことと合致するし、追越しを行う際に前方を見ながら走行するのが通常であることに照らして自然でもある。2回目の実況見分の際に本件ドラレコの内容は告げられていないことからすると、被告人が本件ドラレコ等の分析結果と合致する地点を指示できたのは偶然や誘導によるものとは考えられず、信ぴょう性が高い。したがって、2回目の実況見分で被告人が約88.6m手前の地点で赤色信号に気付いたと指示した点は信用でき、2月28日の取調べにおける被告人供述も信用できる。 3 被告人は、昼間に行われた2回目の実況見分で赤色信号に気付いた地点として指示した場所は、夜間に行われた1回目の実況見分と同じ地点を示していたつもりだったのに、昼と夜の見え方の違いなどにより距離感を誤った旨供述する。しかし、1回目の実況見分で赤色信号に気付いた地点として指示したのは約28.7m手前であるのに対し、2回目の実況見分で赤色信号に気付いた地点として指示したのは約88.6m手前であり、両地点は約60mも異なる。昼と夜で見え方が異なるとしても、これほどに異なる地点を同じ場所であると勘違いするとは考えられない。 また、弁護人は、2回目の実況見分で被告人が赤色信号に気付いた地点として指示した場所が1回目の実況見分で指示した場所と異なっていたにもかかわらず、B警察官は被告人に確認しておらず、重要な事項について基本的な - 5 -確認を怠っている旨指摘する。しかし、このような確認をしていないからといって、被告人の記憶に疑問を生じさせるものではないので、弁護人の指摘は前記認定を左右するものではない。 4 なお、検察官は、被告人が約88.6m手前で赤色信号を認めたと認定できなかった場合の予備的訴因として、被告人が信号表示を意に介することなく ので、弁護人の指摘は前記認定を左右するものではない。 4 なお、検察官は、被告人が約88.6m手前で赤色信号を認めたと認定できなかった場合の予備的訴因として、被告人が信号表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行したと主張する。 当裁判所は、以上のとおり、被告人が赤色信号を認めたのは約88.6m手前であると認定するので、予備的訴因について判断するものではないが、被告人は、本件交差点の信号が半感応式の信号(交差道路に車が停止すればそれに反応して対面信号の表示が変化するタイプの信号)であることを知っており、そのような信号が黄色になったことを約150.4m手前で認識しながら、約79km/hまで加速して進行したのである。被告人の運転する車両が大型貨物自動車であり、すぐに停止することが困難な状況でありながら、交差点付近で無理な追越しをかけていることにも照らすと、そもそも被告人は、赤色信号になっても行ってしまおうという意思、すなわち信号表示を意に介することなく、たとえ赤色信号であったとしてもこれを無視する意思で進行し、かつ、約88.6m手前で赤色信号を認めながらブレーキをかけず更に加速して本件交差点に進入したのが実態であると認められる。 5 以上から、被告人は赤色信号を殊更に無視したと認定した。 (法令の適用)罰条自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律2条7号(人を死亡させた場合)訴訟費用(不負担) 刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由)被告人の運転態様が極めて危険であることは明らかである。被告人は、ひとたび事故が起きれば大事故に繋がりやすい大型貨物自動車を運転しながら、交差点付近 - 6 -で無理な追越しをかけ、ブレーキを踏めばまだ停止できる距離で 危険であることは明らかである。被告人は、ひとたび事故が起きれば大事故に繋がりやすい大型貨物自動車を運転しながら、交差点付近 - 6 -で無理な追越しをかけ、ブレーキを踏めばまだ停止できる距離で前方の信号が赤色表示したことを認識しながら、加速して制限速度を上回る高速度で交差点に進入したのであるから、被告人の交通ルールを甘く見る態度は顕著である。そもそも被告人は職業運転手として大型貨物自動車の危険性を理解していたのであって、にもかかわらず、本件当日だけでも赤色信号の交差点に3回進入している。被告人の交通違反歴も踏まえると、本件は、交通ルールに対する認識が甘い被告人による起こるべくして起こった悪質な事件であり、厳しい非難が妥当する。 被害者は、介護施設の管理者として深夜まで働いて帰宅する途中、信号に従って本件交差点を通過しようとしたところ本件被害に遭ったもので、尊い命が失われたという結果が重大であることはいうまでもない。娘の卒業式等子どもの成長を楽しむ機会を一瞬にして奪われた被害者の無念は察するに余りある。また、被害者の妻及び二人の子どもは、本件によって家族の精神的支柱を突然失い、多大な喪失感等に苦しんでいる。とりわけ被害者の娘は現在もカウンセリングを受けなければならない状況にあるなど、被害者の子どもらの生活や成長に対する影響も大きく、遺族が被告人に対して厳しい処罰を望むのも当然である。 同種事犯の量刑傾向(信号殊更無視)を前提に、以上の事情に加えて、被告人は遺族にも自身の罪にも真摯に向き合えていないことも考慮すると、被告人に対しては、検察官の求刑を1年上回る、懲役9年の刑を科すのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑-懲役8年、被害者参加人の科刑意見-検察官の求刑を下回らず法律上可能な最大限の刑、弁護人の科刑 察官の求刑を1年上回る、懲役9年の刑を科すのが相当である。 よって、主文のとおり判決する。 (求刑-懲役8年、被害者参加人の科刑意見-検察官の求刑を下回らず法律上可能な最大限の刑、弁護人の科刑意見-禁錮3年、執行猶予5年)令和5年7月4日札幌地方裁判所刑事第2部裁判長裁判官井戸俊一裁判官新宅孝昭裁判官滝嶌秀輝

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