令和2(行ケ)10044 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年8月30日 知的財産高等裁判所 1部 判決 審決取消
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1令和3年8月30日判決言渡令和2年(行ケ)第10044号 審決取消請求事件口頭弁論終結日 令和3年7月20日判 決原 告 アーシャ ニュートリションサイエンシーズ, インコーポレイテッド同訴訟代理人弁護士 葛 和 百合絵同訴訟代理人弁理士 葛 和 清 司千 野 櫻 子被 告 特許庁長官同指定代理人 瀬 良 聡 機大 熊 幸 治吉 岡 沙 織小 暮 道 明小 出 浩 子主 文1 特許庁が不服2016-5871号事件について令和元年12月2日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由第1 請求主文第1項と同旨第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等⑴ア 原告は,平成21年4月20日(優先日平成20年4月21日,同年62月25日,同年11月5日及び平成21年4月17日(以下「本願優先日」という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2011−506377号)の一部を分割して,平成26年5月12日,発明の名称を「脂質含有組成物およびその使用方法」とする発明について,新たな特許出願(特願2014−99072号。以下「本願」という。)をした(甲1)。 原告は,平成27年12月17日付けで拒絶査定(甲5)を受けたため,平成28年4月20日,拒 する発明について,新たな特許出願(特願2014−99072号。以下「本願」という。)をした(甲1)。 原告は,平成27年12月17日付けで拒絶査定(甲5)を受けたため,平成28年4月20日,拒絶査定不服審判(不服2016−5871号事件。 甲6)を請求するとともに,特許請求の範囲について手続補正(甲7)をした。 原告は,平成29年4月17日付けの拒絶理由通知(甲12)を受けたため,同年11月9日付けで特許請求の範囲について手続補正(甲13)をした。 イ その後,特許庁は,平成30年4月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「第1次審決」という。甲15)をした。 原告は,同年8月15日,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成30年(行ケ)第10117号事件)を提起した。 知的財産高等裁判所は,平成31年4月12日,原告主張の取消事由のうち,明確性要件及びサポート要件の判断の誤りは理由があるとして第1次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。甲16)をし,その後,前訴判決が確定した。 ⑵ 原告は,前訴判決の確定により,再開した不服2016−5871号事件の審理において,令和元年5月28日付けの拒絶理由通知(以下「本件拒絶理由通知」という。甲17)を受けたため,同年9月4日付けで特許請求の範囲について手続補正(以下「本件補正」という。甲18)をした。 その後,特許庁は,令和元年12月2日,「本件審判の請求は,成り立たな3い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。 (3) 原告は,令和2年4月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし4 月18日,原告に送達された。 (3) 原告は,令和2年4月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし47からなり,その請求項19の記載は,次のとおりである(以下,請求項19に係る発明を「本願発明」という。下線部は本件補正による補正箇所である。甲18)。 【請求項19】異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって,前記配合物は,ある用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の用量を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上であり:(i)ω-3脂肪酸は,前記配合物中の総脂質の0.1~20重量%であるか;または(ii)ω-6脂肪酸の用量は,40g以下である,脂質含有配合物。 3 本件審決の理由の要旨⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。 その要旨は,本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物である特開平3-53869号公報(以下「刊行物5」という。甲24)に記載された発明(以下「刊行物5発明」という。)であるか,又は刊行物5発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものであるというものである。 ⑵ 本件審決が認定した刊行物5発明,本願発明と刊行物5発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。 4ア 刊行物5発明ω-3,ω-6脂肪酸をバランス良く摂取することで心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善に効果がある,カツオ魚油からω-3脂肪酸を濃縮した油脂15gに300ppmの抗酸化剤を添加 ω-3,ω-6脂肪酸をバランス良く摂取することで心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善に効果がある,カツオ魚油からω-3脂肪酸を濃縮した油脂15gに300ppmの抗酸化剤を添加し,さらに月見草油を35g加えて混合油を作り,β-サイクロデキストリン100gに,水100mlを加えて撹拌後,該混合油を加えてホモジナイザーで混練し,エタノールで洗浄して,沈澱を集め,室温で減圧乾燥して混合油のサイクロデキストリン粉末を約70g得た後,該サイクロデキストリン粉末をドリンク剤に添加した含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4であるドリンク剤組成物イ 本願発明と刊行物5発明の一致点及び相違点(一致点)「異なる供給源に由来する脂質の混合物を含む脂質含有配合物であって,ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上である,脂質含有配合物」である点。 (相違点1)本願発明は,「配合物は,ある用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸の用量を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上であり」と特定しているのに対して,刊行物5発明は,「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」であり,用量の特定がない点。 (相違点2)本願発明は,「(i)ω-3脂肪酸は,前記配合物中の総脂質の0.1~20重量%であるか;または(ii)ω-6脂肪酸の用量は,40g以下である」と特定されているのに対して,刊行物5発明は,ω-3脂肪酸の組成物中の総脂質中の割合又はω-6脂肪酸の用量が明記されていない点。 5第3 当事者の主張1 取消事由1(刊行物5を主引 れていない点。 5第3 当事者の主張1 取消事由1(刊行物5を主引用例とする本願発明の新規性及び進歩性の判断の誤り)⑴ 原告の主張ア 一致点の認定の誤り及び相違点の看過本件審決は,刊行物5(甲24)の実施例4(ドリンク剤)の記載に基づいて刊行物5発明を認定し,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載(11欄9行~10行)から刊行物5発明は「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有するとした上で,「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上である」点を本願発明と刊行物5発明の一致点である旨認定した。 しかしながら,以下のとおり,刊行物5記載の実施例4のドリンク剤は「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有しない点で本願発明と相違するから,本件審決は,上記一致点の認定を誤り,相違点を看過したものである。 (ア) 刊行物5の実施例4には,ドリンク剤組成物の調製のために,ω-3脂肪酸の供給源としては,カツオ魚油をウィンタリングしてω-3脂肪酸を濃縮した油脂15g(エイコサペンタエン酸6.3%,ドコサヘキサエン酸26.9%)を使用したことの記載がある。そうすると,このカツオ魚油をウィンタリングしてω-3脂肪酸を濃縮した油中には,エイコサペンタエン酸が0.945g(=15g×6.3%),ドコサヘキサエン酸が4.035g(=15g×26.9%)含まれているから,ω-3脂肪酸としては,4.980g(=0.945g+4.035g)含まれていると計算される。また,実施例4には,ω-6脂肪酸 サヘキサエン酸が4.035g(=15g×26.9%)含まれているから,ω-3脂肪酸としては,4.980g(=0.945g+4.035g)含まれていると計算される。また,実施例4には,ω-6脂肪酸の供給源としては,月見草油35g(リノール酸71.1%,γ-リノレン酸610.0%)を使用したことの記載がある。そうすると,この月見草油には,リノール酸が,24.885g(=35g×71.1%),γ-リノレン酸が3.500g(=35g×10%)含まれているから,ω-6脂肪酸としては,28.385g(=24.885g+3.500g)含まれていると計算される。上記計算により求められたω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の重量からω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率を求めると,「1:5.7」(4.980g:28.385g)となる。この比率は,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載(11欄9行~10行)と整合しないから,刊行物5は,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することを実質的に開示するものではない。 (イ) また,刊行物5に係る特許出願の出願当時(出願日平成元年7月21日),食品等における脂肪酸の測定には,ガスクロマトグラフィーを用いる測定方法が多用されていたが,その前処理である脂肪酸の誘導体化法には多くのバリエーションが存在し,その違いによる測定値への影響は無視できない程度のものであった。例えば,甲36には,ガスクロマトグラフィーを用いる測定方法において,脂肪酸の誘導体化法としてBF3・MeOH法,NaOMe法及びHCl・MeOH法の改良法を用いる測定方法についての記載があるが,その測定方法の違いによりω-3脂肪酸の測定値が異なっている において,脂肪酸の誘導体化法としてBF3・MeOH法,NaOMe法及びHCl・MeOH法の改良法を用いる測定方法についての記載があるが,その測定方法の違いによりω-3脂肪酸の測定値が異なっていることが記載されており,この差異が,ω-3,ω-6脂肪酸の比率に大きな影響を与えることは明らかである。 しかるところ,刊行物5の実施例4には,「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載(11欄9行~10行)に関し,脂肪酸を測定したこと及びその測定条件(ガスクロマトグラフィー,その試料の誘導体化法等)についての記載がないから,刊行7物5は,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することを実質的に開示するものとはいえない。 (ウ) 以上のとおり,刊行物5には,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することの実質的な開示はなく,刊行物5記載のドリンク剤は,上記構成を有しない点で本願発明と相違するから,本件審決には,一致点の認定の誤り及び相違点の看過がある。 イ 相違点2の判断の誤り本件審決は,相違点2に関し,①刊行物5の記載(2欄17行~5欄15行)からみて,刊行物5には,固体の脂肪酸エステルである脂肪の摂取量について1日当たり40gと増加したことと疾病の増加との関係を認識し,ω-6脂肪酸の過剰摂取による各種疾病の誘発や,ω-3脂肪酸の過剰摂取による新たな疾病の原因の認識があるから,脂質の大量の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用量」でω-6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考えられず,「ω-6脂肪酸の用量は,40g から,脂質の大量の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用量」でω-6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考えられず,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点2に係る本願発明の構成)は,記載自体がなくとも記載されているに等しい事項であるといえる,②また,刊行物5の上記脂肪酸の認識からみて,1日にω-6脂肪酸だけで40gを超えて用いることは,過剰摂取であり,ω-3脂肪酸の過剰摂取による新たな疾病の原因の認識があることを考慮すると,ω-6脂肪酸に対応してω-3脂肪酸を増加させることもできないから,脂質の脂肪酸組成の適正比率のバランスも崩すことになることは自明である,③したがって,上記技術常識も考慮すると,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行物5発明において,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用8量」であるかにかかわらず当業者が容易になし得る技術的事項である旨判断した。 (ア) しかしながら,刊行物5には,「ω-6脂肪酸の用量」を「40g以下」とすることについての記載はない。そして,刊行物5には,「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,」との記載(2欄17行~19行)はあるが,この記載は,単に脂肪の摂取量が近年増加している事実を述べたものにすぎず,ω-6脂肪酸の摂取量について示唆するものではない。まして,刊行物5には,「ω-6対ω-3の比が4:1以上」,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」として,ω-6対ω-3のバランス(比率)とω-6の配合量の上限とを組み合わせる本願発明の技術的思想の示唆はない。また,本件優先日 6対ω-3の比が4:1以上」,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」として,ω-6対ω-3のバランス(比率)とω-6の配合量の上限とを組み合わせる本願発明の技術的思想の示唆はない。また,本件優先日当時,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であったことを裏付ける証拠はない。 したがって,刊行物5には,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点2に係る本願発明の構成)の記載や開示はなく,相違点2は,実質的な相違点というべきであるから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。 (イ) そして,本件審決のいう技術常識を考慮しても,刊行物5記載のドリンク剤において,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることの動機付けがないから,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が容易になし得るものではない。 したがって,本件審決における相違点2の容易想到性の判断には誤りがある。 ウ 小括以上によれば,本件審決は,本願発明と刊行物5に記載された発明との9一致点の認定を誤り,相違点を看過し,相違点2の判断を誤った結果,本願発明の新規性及び進歩性を否定する誤った判断をしたものであるから,違法として取り消されるべきである。 ⑵ 被告の主張ア 一致点の認定の誤り及び相違点の看過の主張に対し(ア) 刊行物5記載の実施例4に「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」(11欄9行~10行)と明記されている以上,刊行物5に「含有脂質中のω-3,ω-6の脂肪酸の比率が1:4であるドリンク剤組成物」が開示されていないという原告の主張に理由がないことは明らかである。 原告は,刊行物5の実施例4における原料からの計算上の比率と,「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は であるドリンク剤組成物」が開示されていないという原告の主張に理由がないことは明らかである。 原告は,刊行物5の実施例4における原料からの計算上の比率と,「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載の不整合を主張するが,組成物において原料組成(仕込み組成)と最終的な製品組成が異なることは不思議なことではないのみならず,実施例4記載の原料混合油は,ホモジナイザーによる混練,洗浄,沈澱収集,減圧乾燥といった工程を経ているのであるから,ω-3,ω-6脂肪酸の比率が原料混合油中の計算上の比率と異なっていることはむしろ自然なことである。 (イ) また,当業者であれば,刊行物5発明のω-3,ω-6脂肪酸の比率を,本願優先日当時に存在している規格(乙2の「基準油脂分析試験法2003年版」)に定められている食品に含まれる脂肪酸組成の試験方法に従って,食品からの脂質の抽出,抽出溶液のけん化,エステル化,ガスクロマトグラフによる各脂質の測定といった工程によって行うと理解できる。そして,刊行物5の実施例4の記載から,含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率とは,最終的に製造されたドリンク剤組成物中の組成が記載されていると理解できる。 10(ウ) 以上によれば,刊行物5には,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することの開示があるから,本件審決には,原告主張の一致点の認定の誤り及び相違点の看過はない。 イ 相違点2についての判断の誤りの主張に対し刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当たり40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識していることの記載がある。 刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制(ω-6脂肪酸だけでなく,ω-3脂肪酸も過剰摂取 については1日当たり40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識していることの記載がある。 刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制(ω-6脂肪酸だけでなく,ω-3脂肪酸も過剰摂取は問題であること)を前提に,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸の更に一部であるω-6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには強い動機付けがある(乙3)。 しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たりω-6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし得る技術的事項である。 したがって,本件審決における相違点2の容易想到性の判断に誤りはない。 ウ 小括以上のとおり,本件審決には,原告主張の一致点の認定の誤り及び相違点の看過はなく,相違点2の判断にも誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(手続違背)⑴ 原告の主張本件審決は,刊行物5に記載された発明として,刊行物5の実施例4に基11づいて前記第2の3(2)アのとおりの刊行物5発明を認定したのに対し,本件拒絶理由通知は,刊行物5に記載された発明として,「ω-3,ω-6脂肪酸をバランス良く摂取することで心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善に効果がある,含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4であるドリンク剤組成物」を認定したものであり,このように刊行物5に記載された発明の認定が異なるため,本件審決が認定した本願発明と刊行物5発明との一致点及び相違点は,本件拒絶理由通知の拒絶理由に :4であるドリンク剤組成物」を認定したものであり,このように刊行物5に記載された発明の認定が異なるため,本件審決が認定した本願発明と刊行物5発明との一致点及び相違点は,本件拒絶理由通知の拒絶理由に係る「請求項19に係る発明」(以下「本願発明19」という。)と刊行物5に記載された発明との一致点及び相違点とが異なり,本件審決と本件拒絶理由通知とでは本願発明の新規性及び進歩性を否定した論理構成が異なるから,本件審判手続において,原告に対し,新たな拒絶理由通知をし,反論の機会を与えるべきであったのに(特許法159条2項において準用する同法50条本文),これを怠った手続違背の違法がある。 ⑵ 被告の主張本件拒絶理由通知には,平成29年11月9日付け手続補正(甲13)による補正後の請求項19に係る発明(本願発明19)について,「(ア) 刊行物1組成物発明と対比」として「本願発明19は,刊行物1に記載された発明であるか又は刊行物1に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものである。」,「(イ) 刊行物2発明,刊行物4発明,刊行物5発明,刊行物6発明との対比」として「…刊行物5の摘記(5b)…の記載から,異なる供給源に由来する脂質の混合物であることは明らかである(…)。したがって,上記(ア)で検討したのと同様に,本願発明19は,刊行物2,4,5,6に記載された発明であるか又はそれらの発明から当業者が容易に発明することができたものである。」との記載がある。また,本件拒絶理由通知記載の「刊行物5の摘記(5b)」は「刊行物5の摘記(5c)」の誤記であり,本件拒絶理由通知認定の刊行物5に記載された発明と本件審決認定の刊行物512発明は,具体的表現に変化はあるが,実施例4を認定の根拠とする点で変わりはない。 そして,本件拒絶理 」の誤記であり,本件拒絶理由通知認定の刊行物5に記載された発明と本件審決認定の刊行物512発明は,具体的表現に変化はあるが,実施例4を認定の根拠とする点で変わりはない。 そして,本件拒絶理由通知と本件審決は,本願発明19(「本願発明」に相当)が実施例4に基づく刊行物5に記載された発明であるか,又は刊行物5に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであるという拒絶理由の骨格は変わっていないのはもちろんのこと,その判断内容においても異なるところはないから,本件審決が本願発明の新規性及び進歩性を否定した理由は,新たな拒絶理由に当たらない。 したがって,本件審判手続に手続違背はないから,原告主張の取消事由2は理由がない。 第4 当裁判所の判断1 本願明細書の記載事項について本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する表1及び9については別紙を参照)。 ⑴ 【背景技術】【0002】脂肪酸は,重要な生理機能を果たす。脂肪酸は,リン脂質および糖脂質の構成単位,細胞膜の極めて重要な成分である。脂肪酸は,炭水化物またはタンパク質が生み出すより1グラム当たり2倍以上ものエネルギーを産生する能力のある最良の生体燃料分子である。脂肪酸は,多くのタンパク質の機能に,当該タンパク質の共有結合修飾を通じて直接影響する。脂肪酸は,膜流動性および関連の細胞過程に影響する。さらに,脂肪酸は,遺伝子調節にも関与する。例えば,プロスタグランジン,トロンボキサン,ロイコトリエン,リポキシンおよびレゾルビンなどの脂肪酸の誘導体も,重要なホルモンおよび生体メッセンジャーである。このようなホルモンおよびメッセンジャーは,脈管拡張,血小板凝集,疼痛調節,炎症および細胞増殖などの広 リポキシンおよびレゾルビンなどの脂肪酸の誘導体も,重要なホルモンおよび生体メッセンジャーである。このようなホルモンおよびメッセンジャーは,脈管拡張,血小板凝集,疼痛調節,炎症および細胞増殖などの広範な生理機13能に影響する。 【0003】ヒトおよび動物の体は,多様な数および位置の二重結合を有する多様な長さの炭素鎖である多くの種類の脂肪酸を合成する。二重結合が脂肪酸の鎖の中に加わると,脂肪酸は,生理機能において顕著な役割を果たす不飽和脂肪酸に変換される。不飽和脂肪酸分子中の二重結合の位置を追跡する1つの方式は,末端の炭素,すなわち,ω 炭素からのその距離による。例えば,ω 位から9番目の炭素に二重結合を有する18-炭素オレイン酸は,ω-9脂肪酸と呼ばれる。下記の表1は,ω 位に対するその二重結合の位置により命名されている多様な不飽和脂肪酸群を記載するものである。 【0004】上記の表に示すように,リノール酸(LA)およびα-リノレン酸(ALA)は,ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸すべての前駆体である。LAおよびALAが「必須」脂肪酸であることは十分確立されている。LAおよびALAは食餌で補給しなければならないが,その理由は,ヒトおよび他の哺乳動物はLAおよびALAを他の供給源から合成できないからである。この2つの必須脂肪酸が食餌に欠乏するかまたは過剰にあると,多くの疾病が引き起こされる可能性がある。LAおよびALAは同じ代謝経路を共有し,一方が過剰であれば他方の必要量が増し,または他方の欠乏を招くことがあることも周知である。LAおよびALAと同様,オレイン酸など一定の他の脂肪酸および一定の飽和脂肪酸も,こちらは体が作ることはできるとはいえ,ヒトの栄養にとって重要と考えられる。最新の科学により,非必須脂肪酸は,最適量では およびALAと同様,オレイン酸など一定の他の脂肪酸および一定の飽和脂肪酸も,こちらは体が作ることはできるとはいえ,ヒトの栄養にとって重要と考えられる。最新の科学により,非必須脂肪酸は,最適量では有益であるが,過剰な場合には必須脂肪酸の活性および代謝を妨げることがあり,食餌性脂肪の量も脂肪酸の代謝に影響を及ぼすことがあるという証拠も示されている。食餌中に存在する他の脂肪酸の量によっては,ヒトの体はALAを優先的に代謝することが公知である。 14【0005】証拠により,抗酸化物質,植物性化学物質,微生物,ビタミンおよびミネラル,他の食餌性要素(タンパク質および炭水化物など),ならびに,ホルモンおよび遺伝子も,必須脂肪酸の代謝に関与することが示されている。さらに,ヒトの研究から,必須脂肪酸の代謝能力には男女差があるらしいことが確認されている。このような差には,性ホルモンが関わっていることが示唆されている。多価不飽和脂肪酸分子は,二重結合により,ジグザグ様の構造を有する。この分子は,柔軟性があり緊密に密集していないことから,低温でも液体のままであり,集まって組織に柔軟性を与える。そのため,より寒冷な気候では,ヒトの体はより多量の多価不飽和脂肪酸から利益を得る。しかし,脂質分子中の二重結合の数が多いほど,いくつかの疾患と関連することがあり加齢を加速することがある過酸化の生じやすさが高まる。これが,多価不飽和脂肪酸を注意して摂取する別の理由である。 【0006】多数の研究により,ω-3脂肪酸の補給を用いた医学的状態の予防および治療についての証拠が示され,ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されている。関係する医学的状態としては,更年期障害,心血管疾患,精神障害,神経障害,筋骨格障害,内分泌障害,癌,消化器系障害,加齢症状,ウイ いての証拠が示され,ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されている。関係する医学的状態としては,更年期障害,心血管疾患,精神障害,神経障害,筋骨格障害,内分泌障害,癌,消化器系障害,加齢症状,ウイルス感染症,細菌感染症,肥満,過体重,腎疾患,肺障害,眼障害,皮膚障害,睡眠障害,歯科疾患,および,自己免疫などの免疫系疾患が挙げられる。例えば,特許文献1では,ω-3脂肪酸,ω-6脂肪酸およびω-9脂肪酸を含む潰瘍性大腸炎患者用の脂質配合物が教示された。こうした脂質配合物中のω-3脂肪酸の含有量は,顕著に高かった。同様に,最近公開された特許文献2では,糖尿病患者用に使用される,ω-3脂肪酸,ω-6脂肪酸およびω-9脂肪酸を含有しω-6対ω-3の具体的な比率が0.25:1~3:1の間である脂質組成物が開示された。 15⑵ 【発明が解決しようとする課題】【0008】ω-3脂肪酸を増やしω-6脂肪酸の摂取を減らすことについての伝統的な強調は十分な解決策(relieves)とならないことが多いが,食餌的および人口統計学的な要素によりもたらされる不確実性がその理由である。したがって,改善された脂質組成物を使用する,医学的状態および予防のための改善された方法および治療が未だに必要とされている。事実,2009年1月26日,米国心臓学会は初めて,ω-6脂肪酸は健康によくないという認識を正す勧告を発した(http://americanheart.mediaroom.com/index.php?s=43&item=650)。現在の方法論は摂取者を混乱させるものであることから,重大な健康上の結果を伴う,決定的に重要な栄養素の過剰摂取または摂取不足を招く。 ⑶ 【課題を解決するための手段】【0009】本開示は,他の要素と関わりの 乱させるものであることから,重大な健康上の結果を伴う,決定的に重要な栄養素の過剰摂取または摂取不足を招く。 ⑶ 【課題を解決するための手段】【0009】本開示は,他の要素と関わりのある1つまたは複数の脂質の不均衡と関連する医学的状態を予防および/または治療するための組成物および方法に関する。より詳細には,本開示は,栄養的に適切なω-3脂肪酸の存在下でω-6脂肪酸のより有利な供給源を使用する組成物および方法の使用に関する。 本開示は,さらに,1つまたは複数の脂質の不均衡に関連する医学的状態の予防および/または治療のための,ω-6およびω-3を毎日送達し,また,生体利用率を最適化する他の栄養素と共にω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を送達する方法および組成物にも関する。本開示は,さらに,その広範且つ突然の変動が有害であると考えられる生体活性物質を1日,1週間,1カ月またはそれより長い期間にわたり安定して送達する方法にも関する。さらに,本開示は,勧告について最適範囲内の必須脂肪酸を毎日送達する方法に16も関する。 【0010】本開示の全般的な一実施形態は,最適量の脂肪酸,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質を含む哺乳動物対象のための脂質含有組成物であって,該対象の年齢,性別,食餌,体重,身体活動,医学的状態および該対象の生活圏の気候を含む群から選択される1つまたは複数の要素に基づく組成物である。そのような組成物は,本開示の一実施形態によれば,追って説明するような安定な送達過程により対象に投与される。本開示の別の実施形態によれば,この組成物の脂質内容物である脂肪酸,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質成分は,以下の高濃度の脂質供給源:油,バター,ナッツおよび種子のうち1つまたは複数を使用することにより少なくとも れば,この組成物の脂質内容物である脂肪酸,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質成分は,以下の高濃度の脂質供給源:油,バター,ナッツおよび種子のうち1つまたは複数を使用することにより少なくとも部分的に達成される。 ⑷ 【0022】脂質配合物一態様では,本開示は,ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸両方の最適な1日送達量を維持しながら,ω-3脂肪酸に対して比較的高率のω-6脂肪酸を組み込む。高率を維持する1つの理由は,配合物の不可欠な構成要素として,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質の含有量が多く,過剰なω-3を不要にすると考えられる他の特性を有するナッツ,種子およびナッツ油が組み込まれているからである。場合により,過剰なω-3(3~6つの二重結合を有する)は,過酸化ストレスを伴うことがある。本開示の一定の実施形態は,用量依存的な抗炎症特性および他の健康上の利益を有すると考えられるリノール酸代謝産物γ-リノレン酸(3つの二重結合)およびジホモ-γ-リノレン酸(3つの二重結合)のin-vivo形成を容易にすると考えられる。ナッツおよび種子は,治療域が狭く,望ましくない相互作用,および,慎重な使用が必要な他の特性を有する可能性があることから,この17配合物は,測定され最適化された量のナッツおよび種子を油と共に送達する。 【0037】投与いくつかの実施形態では,本明細書中で開示する脂質配合物を含む組成物は,経口的に許容される任意の形態で個体に投与できる。この脂質配合物は,1,2,3,4またはそれを超える相互補完的な1日用量で包装してもよい。 いくつかの実施形態では,この脂質配合物は,場合により,デンプン,糖,希釈剤,造粒剤,滑沢剤,結合剤,崩壊剤などの担体と共に調製される,単回用量または持続放出および制御放出用のカ で包装してもよい。 いくつかの実施形態では,この脂質配合物は,場合により,デンプン,糖,希釈剤,造粒剤,滑沢剤,結合剤,崩壊剤などの担体と共に調製される,単回用量または持続放出および制御放出用のカプセル,ソフトゲルカプセル,ハードカプセル,錠剤,散剤,ロゼンジまたは丸剤;粉末または顆粒;栄養バー;パン,デザート,ペストリー,トリュフ,プリンまたはケーキなどのベーカリー食品;液体,オイルブレンド,ゲル,ソース,ドレッシング,スプレッド,バター,ドロップ,半固形物を含有する密封された単回用量の小袋または再密封可能な包装;液体など;または,フライ油,フライパン料理用油,離型油などの料理油のうちいずれか1つもしくは複数の中に入っていてもよいがこれらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では,この脂質配合物は,封を切って経口摂取されるか,または,予め調理済もしくは未調理の食品調製物(脂肪は加えられていてもいなくてもよい)に料理原料の一部として加えてもよい。例えば,この脂質配合物は,特別な料理油,バター,ドレッシングなどにすることもでき,そのような食品が調製される間に食品中に加えることができる。一定の実施形態では,この組成物の成分のいくつかまたはすべては,皮をむきおよび/または皮をむかず,予め浸漬しおよび/または浸漬せず,発芽させおよび/または発芽させず,カットしおよび/またはカットせず,さいの目に切り,細かく刻み,ピューレにし,粉砕し,ブレンドし,あぶり,焼き,ローストし,ソテーし,および/または,調理しもしくは調理せず,加工せず,および/または任意の他の方法に18より加工してもよい。この組成物の成分は,食事の多様な構成要素としての一部または複数部分の形態で,または,例えば食事を補完するように,送達してもよい。いくつかの実施形態で は任意の他の方法に18より加工してもよい。この組成物の成分は,食事の多様な構成要素としての一部または複数部分の形態で,または,例えば食事を補完するように,送達してもよい。いくつかの実施形態では,この脂質含有組成物は,当該組成物を含有するためのゼラチン状のケース,バイアル,ポーチまたはフォイルを用いて送達してもよい。いくつかの実施形態では,この脂質含有組成物は,経腸または非経口用の配合物の一部またはその組合せであってもよい。いくつかの実施形態では,投与される組成物を毎日変えて,本明細書中に記載の多様な脂質配合物を含む1日,1週間,2週間,隔週,隔月または1カ月の食餌計画を考案してもよい。 【0041】本開示の一態様は,この脂質組成物からのω-6およびω-3の1日送達量の合計およびそれ以外の食餌が1日推奨量に関して最適であるような方式で脂肪酸を送達することである。 ⑸ 【0050】(実施例3)年齢,性別および食餌に基づく脂質組成物本開示の一態様は,異なるヒト対象に,その年齢および性別および食餌に基づいてあつらえた脂質配合物を供給することである。下記の表9は,本開示の実施形態により開示されるような,菜食主義者,または,多量の抗酸化物質および/または多量の植物性化学物質を摂取する非菜食主義者対象用の,総脂肪酸内容物についての用量範囲(単位:グラム),一価不飽和脂肪酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲および一価不飽和脂肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲,ω-6脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム),ω-9脂肪酸対ω-6脂肪酸の比率範囲,ω-3脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)およびω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲を,性別および年齢群により示すものである。 19【0061】(実施例6)医学的状態に基づく配合物多様 3脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)およびω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率範囲を,性別および年齢群により示すものである。 19【0061】(実施例6)医学的状態に基づく配合物多様な実施形態では,本明細書中に記載の脂質組成物は,疾患,障害または状態の予防および/または治療のために個体に投与される。例えば,この脂質配合物は,更年期,すなわち月経の停止する過程の症状を緩和するために使用される。この脂質配合物は,内分泌障害の症状を緩和するためにも使用される。 【0077】(実施例12)高コレステロール血症,心血管疾患についてのケーススタディー宿主対象は,大部分がオリーブ油(75%が一価不飽和脂肪),魚油栄養補助食品1グラムを毎日,および総必須脂肪酸(EFA)栄養補助食品1グラムを毎日の,低脂肪の菜食主義食を摂取していて,高コレステロール血症に罹患した。治療の一部として,魚油およびEFA栄養補助食品は中止した。 次に,対象に,植物油およびナッツおよび種子の組合せで主に構成される,ω-6脂肪酸11グラムおよびω-3脂肪酸1.2グラムを含有する毎日摂取用の脂質組成物の栄養補助食品を投与した。この脂質組成物を投与した結果,LDLは160mgから120mgに減少した。ω-3を1.8グラムに増加すると非常に低レベルの血圧90/55mmHgが観察されたが,血圧レベルは,ω-6脂肪酸11グラムおよびω-3脂肪酸1.2グラムで105/70mmHgで正常化した。ω-3を1日当たり1.8グラムから1. 2グラムに減らすと対象は不整脈を起こし,この不整脈は,2~3週間かかって鎮静化した。しかし,ω-3を1日当たり0.5グラムにさらに減らすと,不整脈が継続する結果となった。 【0078】20このケーススタディーにより,ω-6脂肪 の不整脈は,2~3週間かかって鎮静化した。しかし,ω-3を1日当たり0.5グラムにさらに減らすと,不整脈が継続する結果となった。 【0078】20このケーススタディーにより,ω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比率が約9:1である植物油,ナッツおよび種子を補給すると,血中のLDLコレステロールレベル(アテローム性硬化症と関連のある脂質異常)が顕著に低下すると考えられることが実証された。このケーススタディーにより,本明細書中に記載の脂質組成物および比率は,血圧および不整脈を和らげるうえで有用であると考えられることも実証された。 2 取消事由1(刊行物5を主引用例とする本願発明の新規性及び進歩性の判断の誤り)について⑴ 刊行物5の記載事項について刊行物5(甲24)には,次のような記載がある。 ア 「2.特許請求の範囲食品中の脂肪酸組成をω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整した高度不飽和脂肪酸を含む食品。」(1欄4行~7行)イ 「(産業上の利用分野)本発明は高度不飽和脂肪酸を含む食品に関するものである。」(1欄9行~11行)ウ 「(従来の技術)高度不飽和脂肪酸には代表的な2つの系列ω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸がある(ωとは,脂肪酸のメチル基末端から数えて最初の二重結合がある炭素までの数を示している)。 ω-6脂肪酸の例としては,リノール酸,γ-リノレン酸,アラキドン酸,また,ω-3脂肪酸の例としては,α-リノレン酸,エイコサペンタエン酸,ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。ここで我々日本人の摂取脂肪酸を分析してみると,ω-6に大きく偏っている。これは,ω-6脂肪酸が鳥獣肉類,卵製品,乳製品,コーンやサフラワーなどの植物油に含21まれており,我々の食卓には欠 る。ここで我々日本人の摂取脂肪酸を分析してみると,ω-6に大きく偏っている。これは,ω-6脂肪酸が鳥獣肉類,卵製品,乳製品,コーンやサフラワーなどの植物油に含21まれており,我々の食卓には欠かせないものとなっているからである。 ω-3脂肪酸を含む食品は,大豆,なたね油などに8~10%含まれるほか,シソ,エゴマ,アマニ油などであり,さらに海産魚類や海藻類に多く含まれている。しかし,これらの食品は,昔は,比較的よく摂取されていたが,現在の我々の食卓には,あまり上がって来ないものばかりである。 これらω-3脂肪酸およびω-6脂肪酸は,いずれも人体内では生合成ができず,しかも両脂肪酸系統の間では相互変換がなく,体内におけるω-3,ω-6の比率は全く食物のそれを反映している。」(1欄12行~2欄16行)エ 「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これらの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω-6脂肪酸であるアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリエンなどが過剰になり,ω-3脂肪酸によって産出される3型のプロスタグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。 このような食習慣を考慮して,エイコサペンタエン酸を高濃度に濃縮した油脂をカプセルに詰めた健康食品や,鶏に魚油を食べさせてエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の含量を高めた卵など る事による。 このような食習慣を考慮して,エイコサペンタエン酸を高濃度に濃縮した油脂をカプセルに詰めた健康食品や,鶏に魚油を食べさせてエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の含量を高めた卵など,ω-3脂肪酸を強化した食品の開発がなされてきた。」(2欄17行~3欄17行)オ 「(発明が解決しようとする課題)ω-6脂肪酸の過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイコトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし22動脈硬化や血栓症を誘発する。しかしω-3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制したり,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(L.M.Brander & K.K.Carroll,Lipids 21,285(1985),R.K.Karmali et.al.,J.Natl.Cancer Inst.,73,457(1984)),癌細胞の転移能を低下させる(T.Hori et.al.,Chem.Pharm.Bull.,35,3925(1987))ことが報告されている。 高度不飽和脂肪酸から誘導されるプロスタグランジン,ロイコトリエン,トロンボキサンなどは局所ホルモンといわれ腎臓,肝臓,血管内などの細胞で生産され,解熱作用,血小板凝集,血小板凝集抑制,血圧上昇,血圧降下などの相反する作用を有し,互いがバランスをとりながら生体の恒常性を正常に保っている。しかし,そのバランスがくずれることによって,血栓症や心筋梗塞,高血圧,免疫性疾患(糖尿病,喘息,乾癬症),アレルギー症状などが顕在化する。気をつけなければならないのは,ω-3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することである。 しかし,前述のように現在の日本人の食事はω-6脂肪酸の摂取に偏っている。 この状態 のは,ω-3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することである。 しかし,前述のように現在の日本人の食事はω-6脂肪酸の摂取に偏っている。 この状態を改善するためにω-3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆にω-3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω-3,ω-6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。 本発明は,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(3欄18行~5欄15行)23カ 「(課題を解決するための手段)本発明の食品は,脂肪酸組成をω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。 本発明に使用されるω-3脂肪酸はイワシ油,カツオ油,イカ油,タラ肝油,メンハーデン油などの海産動物由来の脂質から得られる高度不飽和脂肪酸が挙げられ,例えばドコサヘキサエン酸,エイコサペンタエン酸,α-リノレン酸などが一般的ではあるが,その給源は海藻や微生物,動物,植物などに限定されるものではない。さらにそのような油脂を物理的,化学的,生物学的な手法によってドコサヘキサエン酸,エイコサペンタエン酸を高濃度に濃縮したものであっても問題はない。またα-リノレン酸などについても植物由来のものが一般とされてはいるが微生物,動物など,その給源については問わない。一方,ω-6脂肪酸はその代表例としてリノール酸やγ-リノレン酸などの高度不飽和脂肪酸が挙げられるが,その給源は微生物や植物,動物などがあり,特に限定 微生物,動物など,その給源については問わない。一方,ω-6脂肪酸はその代表例としてリノール酸やγ-リノレン酸などの高度不飽和脂肪酸が挙げられるが,その給源は微生物や植物,動物などがあり,特に限定されるものではない。また食品の形態も後述の実施例に限定されるものではない。 本発明の食品の脂肪酸組成は,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω-3脂肪酸が過剰になり,この範囲よりも大きいときはω-6脂肪酸が過剰になってしまい,いずれの場合もω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との摂取バランスが崩れてしまうので好ましくない。」(5欄16行~7欄5行)キ 「(発明の効果)本発明によれば,食品に含有される脂質のω-3,ω-6脂肪酸の比率を適正比率である1:1~1:5に保つように調製された食品を提供することができるので,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の24予防や改善に効果が期待される。」(7欄6行~13行)ク 「実施例4(ドリンク剤)カツオ魚油をウィンタリングしてω-3脂肪酸を濃縮した油脂(IV190.2,POV 0.56,エイコサペンタエン酸6.3%,ドコサヘキサエン酸26.9%)15gにミックストコフェロール300ppmを抗酸化剤として添加した。さらに月見草油(IV 104,POV 0. 23,リノール酸71.1%,γ-リノレン酸10.0%)を35g加えて混合油を作った。β-サイクロデキストリン100gに,水100mlを加えて撹拌後,先の混合油を加えてホモジナイザーで約25分間混練した。エタノールで2回洗浄して,沈澱を集めた。この沈澱を室温で減圧乾燥して混合油のサイクロデキストリン粉末を約7 gに,水100mlを加えて撹拌後,先の混合油を加えてホモジナイザーで約25分間混練した。エタノールで2回洗浄して,沈澱を集めた。この沈澱を室温で減圧乾燥して混合油のサイクロデキストリン粉末を約70g得た。このサイクロデキストリン粉末を次表に示す組成のドリンク剤に添加した。この時のサイクロデキストリン粉末のドリンク剤への分散は3%程度まで容易であった。また,含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。さらに粉末のドリンク剤を冷蔵庫にて約150日保存したが,その風味には大きな変化は認められなかった。 表 ドリンク剤の組成NaCl 0.85g/lKCl 0.35g/lCaCl2 0.15g/lMgCl2 0.15g/lクエン酸 1.35g/lクエン酸ソーダ 1.10g/lL-グルタミン酸ソーダ 0.05g/lグルコース 20g/l25砂糖 20g/l果汁 30g/l」(10欄12行~12欄3行)⑵ 一致点の認定の誤り及び相違点の看過について原告は,刊行物5には,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することについての開示はなく,刊行物5記載のドリンク剤は上記構成を有しない点で本願発明と相違するから,本件審決が上記構成を有する点を本願発明と刊行物5発明の一致点と認定したのは誤りであり,相違点の看過がある旨主張するので,以下において判断する。 ア 刊行物5の実施例4の記載(前記⑴ク)によれば,刊行物5には,①「カツオ魚油をウィンタリングしてω-3脂肪酸を 認定したのは誤りであり,相違点の看過がある旨主張するので,以下において判断する。 ア 刊行物5の実施例4の記載(前記⑴ク)によれば,刊行物5には,①「カツオ魚油をウィンタリングしてω-3脂肪酸を濃縮した油脂(IV 190.2,POV 0.56,エイコサペンタエン酸6.3%,ドコサヘキサエン酸26.9%)」15gと「月見草油(IV 104,POV 0. 23,リノール酸71.1%,γ-リノレン酸10.0%)」35gに抗酸化剤(ミックストコフェロール300ppm)を加えて「混合油」を作成したこと,②β-サイクロデキストリン100gに,水100mlを加えて撹拌後,上記「混合油」を加えてホモジナイザーで約25分間混練,エタノールで2回洗浄し,沈澱を集め,この沈澱を室温で減圧乾燥する工程を経て上記「混合油」のサイクロデキストリン粉末約70gを得たことの記載がある。 そして,刊行物5には,上記記載に続けて,「このサイクロデキストリン粉末を次表に示す組成のドリンク剤に添加した。この時のサイクロデキストリン粉末のドリンク剤への分散は3%程度まで容易であった。また,含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載がある。これらの記載によれば,上記記載中の「含有脂質中のω-3,26ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載は,実施例4の表に示す組成の「ドリンク剤」に上記「混合油」のサイクロデキストリン粉末を加えたものの含有脂質を測定した結果,ω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であったことを示したものと理解できる。一方で,刊行物5には,脂肪酸組成の測定方法に関する記載はないが,平成15年7月発行の「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2003年版」(乙2)には,「参3.2 脂肪酸組成及び定量法」の項目に「 方で,刊行物5には,脂肪酸組成の測定方法に関する記載はないが,平成15年7月発行の「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2003年版」(乙2)には,「参3.2 脂肪酸組成及び定量法」の項目に「食品に含まれている油脂の脂肪酸組成を知りたい場合,さらに特定脂肪酸の含有量を求めたい場合とがある。前者の場合には,食品より脂質を抽出し,その一定量を採り,エステル化しガスクロマトグラフィーで測定する。後者の場合には,抽出した脂質から一定量を正しく採り,これに内標準を正しく加え,メチルエステル化した後ガスクロマトグラフィーで分析し,内標準と脂肪酸のピーク面積比及び重量比の関係から脂肪酸量を算出する。」との記載があり,「一般的な動植物油脂」(参3.2.1),「短鎖脂肪酸を含む油脂」(参3. 2.2),「高度不飽和脂肪酸を含む油脂」(参3.2.3)及び「日本農林規格法」(参3.2.4)として,それぞれ,試料のけん化,メチルエステル化又はプロピルエステル化,メチルエステル溶液又はプロピルエステル溶液の調製を経てガスクロマトグラフ測定をする方法についての記載があることからすると,本願優先日当時,食品に含まれる脂質の脂肪酸組成の測定について,このようなガスクロマトグラフによる測定方法が規格として存在することは技術常識であったことが認められる。 上記技術常識を踏まえると,刊行物5に接した当業者は,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載は,ガスクロマトグラフにより「ドリンク剤」の含有脂質を測定した結果,ω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であったことを記載したものと理解するものといえるから,刊行物5には,刊行物5記載のドリン27ク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有 肪酸の比率は,ほぼ1:4であったことを記載したものと理解するものといえるから,刊行物5には,刊行物5記載のドリン27ク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することの開示があるものと認められる。 イ これに対し原告は,①刊行物5の実施例4の記載に基づいて,実施例4のドリンク剤の原料となるカツオ魚油及び月見草油について計算上求められる脂肪酸の重量からω-3脂肪酸とω-6脂肪酸の比率を求めると,「1:5.7」となり,この比率は,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載と整合しないから,刊行物5は,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することを実質的に開示するものではない,②ガスクロマトグラフィーを用いる測定方法の前処理である脂肪酸の誘導体化法には,例えば,BF3・MeOH法,NaOMe法及びHCl・MeOH法の改良法を用いる方法があり,その誘導体化法の違いによりω-3脂肪酸の測定値が異なり(甲36),この差異が,ω-3,ω-6脂肪酸の比率に大きな影響を与えることは明らかであるが,刊行物5には,脂肪酸を測定したこと及びその測定条件(ガスクロマトグラフィー,その試料の誘導体化法等)についての記載がないから,刊行物5は,実施例4のドリンク剤が「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することを実質的に開示するものとはいえない旨主張する。 しかしながら,刊行物5に接した当業者が,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載は,ガスクロマトグラフにより「ドリンク剤」の含有脂質を測定した結果,ω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1 者が,刊行物5の「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であった。」との記載は,ガスクロマトグラフにより「ドリンク剤」の含有脂質を測定した結果,ω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であったことを記載したものと理解することは,前記アのとおりである。 また,刊行物5の上記記載は,実施例4記載の原料混合油から,ホモジナイザーによる混練,洗浄,沈澱収集,減圧乾燥といった工程を経て作成28された「ドリンク剤」の含有脂質の脂肪酸の比率を示したものであり,その工程中に原料混合油の脂肪酸組成が変化し得ることは自明であるから,上記比率が原告主張の原料となるカツオ魚油及び月見草油について計算上求められる脂肪酸の重量から求めたω-3脂肪酸とω-6脂肪酸組成の比率(1:5.7)と整合しないからといって,上記比率が不自然であるとはいえいない。 さらに,ガスクロマトグラフィーを用いる測定方法の前処理である脂肪酸の誘導体化法には,例えば,BF3・MeOH法,NaOMe法及びHCl・MeOH法の改良法を用いる方法があり,その誘導体化法の違いによりω-3脂肪酸の測定値が異なることがあるとしても,そのこと自体は,刊行物5の上記記載がガスクロマトグラフにより「ドリンク剤」の含有脂質を測定した結果,ω-3,ω-6脂肪酸の比率は,ほぼ1:4であったことを記載したものと理解されることを否定すべき根拠にはならない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 ウ 以上のとおり,刊行物5には,刊行物5記載のドリンク剤は「含有脂質中のω-3,ω-6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することの開示があるものと認められるから,本件審決が,「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上である」点を本願発明と刊行 -6脂肪酸の比率が1:4である」との構成を有することの開示があるものと認められるから,本件審決が,「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含み,ω-6対ω-3の比が4:1以上である」点を本願発明と刊行物5発明の一致点と認定したことに誤りはない。 したがって,本件審決における一致点の認定の誤り及び相違点の看過をいう原告の前記主張は,理由がない。 ⑶ 相違点2の判断の誤りについて原告は,相違点2に関し,本件審決が,①刊行物5の記載及び脂質の大量の摂取を控えることが健康上の技術常識であることを考慮すると,1回の「用量」でω-6脂肪酸を40gを超えた脂質含有配合物として用いることは考えられないから,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であること(相違点292に係る本願発明の構成)は,刊行物5に記載自体がなくとも記載されているに等しい事項であるから,相違点2は,実質的な相違点ではないか,刊行物5発明において,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることは,「用量」の意味が,1回の「用量」や1日の「用量」であるかにかかわらず当業者が容易になし得る技術的事項である旨判断したのは誤りである旨主張するので,以下において判断する。 ア(ア) 刊行物5(甲24)には,①「従来の技術」として「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。これらの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω-6脂肪酸で これらの疾病の原因は,脂肪酸の摂取過多と考えられていた。しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。これは肉類に多く含まれるω-6脂肪酸であるアラキドン酸から産生される2型のプロスタグランジンやロイコトリエンなどが過剰になり,ω-3脂肪酸によって産出される3型のプロスタグランジンやロイコトリエンとのバランスがくずれる事による。」(前記(1)エ),②「発明が解決しようとする課題」として,「ω-6脂肪酸の過剰摂取は,PGF2α,TXA2などの2型プロスタグランジンやロイコトリエンの産生を促し,血小板凝集や血管収縮を起こし動脈硬化や血栓症を誘発する。しかしω-3脂肪酸は逆に,これらの疾患を抑制したり,更に,乳癌や大腸癌の発癌率を抑えたり(…),癌細胞の転移能を低下させる(…)ことが報告されている。…気をつけなければならないのは,ω-3脂肪酸ばかりを摂取するのではなく,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することである。しかし,前述のように現在の日本人の食事はω-6脂肪酸の摂取に偏っている。この状態を改善す30るためにω-3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発された。しかしこれらの製品を過度に摂取した場合,逆にω-3脂肪酸の過剰摂取につながり新たな疾病の原因となる。そこでω-3,ω-6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要である。」,「本発明は,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ),③「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成をω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1 脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供することを目的とする。」(以上,前記(1)オ),③「課題を解決するための手段」として,「本発明の食品は,脂肪酸組成をω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整した高度不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。」,「本発明の食品の脂肪酸組成は,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整する。この範囲よりも小さいときは,ω-3脂肪酸が過剰になり,この範囲よりも大きいときはω-6脂肪酸が過剰になってしまい,いずれの場合もω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との摂取バランスが崩れてしまうので好ましくない。」(以上,前記(1)カ),④「発明の効果」として,「本発明によれば,食品に含有される脂質のω-3,ω-6脂肪酸の比率を適正比率である1:1~1:5に保つように調製された食品を提供することができるので,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善に効果が期待される。」(以上,前記(1)キ)との記載がある。 これらの記載によれば,刊行物5には,刊行物5記載の高度不飽和脂肪酸を含む食品(「本発明」)の技術的意義に関し,従来は,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の原因は,脂肪酸の「摂取過多」と考えられていたが,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明したこと,現在31の日本人の食事はω-6脂肪酸の摂取に偏っており,この状態(ω-6脂肪酸の「過剰摂取」)を改善するためにω-3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を過度に摂取した場合,逆にω-3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新たな疾 酸の「過剰摂取」)を改善するためにω-3脂肪酸などを高濃度に濃縮して添加した食品や栄養補助剤などが開発されたが,これらの製品を過度に摂取した場合,逆にω-3脂肪酸の「過剰摂取」につながり新たな疾病の原因となるため,ω-3,ω-6脂肪酸の適正な比率での摂取が必要であることから,「本発明」は,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,前述の疾病の予防や改善に効果が期待されるように,脂質の脂肪酸組成を適正比率に調整した食品を提供することを目的とし,その課題を解決するための手段として,脂肪酸組成をω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との比が1:1~1:5になるように調整した高度不飽和脂肪酸を含む構成を採用し,これによりω-3脂肪酸とω-6脂肪酸をバランス良く摂取することができ,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などの疾病の予防や改善の効果が期待されることについての開示があることが認められる。また,前記⑴の刊行物5の記載によれば,刊行物5において,「過剰摂取」の用語は,ω-3脂肪酸,ω-6脂肪酸が適正比率(1:1~1:5)の範囲を基準として,「この範囲よりも小さいときは,ω-3脂肪酸が過剰になり,この範囲よりも大きいときはω-6脂肪酸が過剰にな」ると述べていること(前記⑴カ)に照らすと,ω-3脂肪酸とω-6脂肪酸との摂取バランス(比率)が崩れた状態を表現するために用いており,一方で,「摂取量」が多い状態を表現するときは「摂取過多」の用語を用い,「摂取量」との関係では,「過剰摂取」の用語を用いていないことが認められる。 以上を前提に検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も変化し,高血圧, 検討すると,刊行物5における「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,32こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は,それに引き続き「しかし,研究が進むにつれて,脂肪を構成する不飽和脂肪酸の種類の摂取アンバランスによることが判明した。」などの記載があることに照らすと,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではないと理解するのが自然である。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はない。 (イ) 次に,本件審決が述べるように「脂質の大量の摂取を控えること」自体が健康上の技術常識であるといえるとしても,脂質の適正な摂取量は,年齢,性別,エネルギー摂取量等の要素によって変わり得るものと考えられるから,そのことから直ちに「脂肪の摂取量」を1日当り40g以下とすることが技術常識であることを導出することはできないし,それが技術常識であることを前提に「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすることが技術常識であるということはできない。本件においては,他に「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω-6脂肪酸の用量は,40 ることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 イ(ア) 前記アの認定を総合すると,刊行物5には,本件審決のいう技術常識を踏まえても,刊行物載5発明に含有する「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下であること」についての実質的な開示があるものと認めることはできない。 そうすると,刊行物5発明が「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」であるとの構成(相違点2に係る本願発明の構成)を有することは認められないから,相違点2は実質的な相違点であるものと認められる。 33これと異なる本件審決の判断は誤りである。 (イ) 次に,前記ア認定のとおり,刊行物5には,脂肪の摂取量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はなく,また,「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠がないことに照らすと,刊行物5に接した当業者が,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,上記構成とすることを容易に想到することができたものと認められない。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。 ウ これに対し被告は,①刊行物5には,脂肪の摂取量については1日当たり40gと増加しているとの記載及びそれを問題であると認識していることの記載があり,刊行物5発明は,脂質(脂肪)の取り過ぎの抑制を前提に,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸をバランス良く摂取することを技術思想とする発明であるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部であるω-6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには強い動機付け あるから,脂質の一部である不飽和脂肪酸のさらに一部であるω-6脂肪酸を一定以下に抑えることは当然であり,脂質全体として取り過ぎであるとの認識である40gという値以下と特定することには強い動機付けがある,②しかも,1日の脂質摂取は,刊行物5発明のドリンク剤組成物以外の食品からも生じるのであるから,1日又は1回当たりω-6脂肪酸40g以下との上限を設定することは,当業者が容易になし得る技術的事項であるから,当業者は,刊行物5発明において,相違点2に係る本願発明の構成とすることを容易に想到することができた旨主張する。 しかしながら,前記ア(ア)で説示したとおり,刊行物5における「最近の日本人の食生活は欧米型化が進み,肉類を中心とした食事の機会が大幅に増え,脂肪の摂取量については一日当り40gと増加し,それに伴い,疾34病の種類も変化し,高血圧,心臓病の循環器系疾患や乳癌,大腸癌などが増加して,こちらも欧米型化になり,大きな社会問題になっている。」との記載は,「脂肪の摂取量」が「一日当り40g」に増加したこと自体が問題であることを述べたり,それを改善すべきことを示唆するものではない。 また,刊行物5の記載全体をみても,刊行物5において,脂肪の摂取量を1日当たり40gに差し控えるべきことや,「ω-6脂肪酸の用量」は,1日又は1回当たり「40g以下」とすべきことについての記載や示唆はない。 加えて,本件においては,他に「ω-6脂肪酸の用量は,40g以下」とすることが技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,刊行物5に接した当業者が刊行物5発明において相違点2に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,被告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 小括以上のとおり,本件審決に 業者が刊行物5発明において相違点2に係る本願発明の構成を採用することの動機付けがあるものと認めることはできないから,被告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 小括以上のとおり,本件審決には相違点2の判断に誤りがあるから,本願発明は刊行物5発明と同一の発明であると認めることはできないし,また,当業者が刊行物5発明及び技術常識に基づいて容易に発明をすることができたものと認めることはできない。 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。 第5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきである。 知的財産高等裁判所第1部 35裁判長裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 小 林 康 彦 裁判官 小 川 卓 逸 36(別紙)【表1】 【表9】

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