平成23年9月28日判決言渡平成22年(行ケ)第10388号審決取消請求事件平成23年7月27日口頭弁論終結判決 原告ローベルトボッシュゲゼルシャフトミットベシュレンクテルハフツング 訴訟代理人弁理士亀谷美明同松本一騎同小原寿美子同平山淳 被告特許庁長官 指定代理人新川圭二同石井研一同樋口信宏同小林和男 主文 1 特許庁が不服2008-19854号事件について平成22年8月5日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 主文と同旨第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯原告は,平成13年12月27日,発明の名称を「複数の加入者間におけるデータ交換方法,通信システム,バスシステム,メモリ素子,コンピュータプログラム。」とする発明について,特許出願(特願2001-397733。パリ条約による優先権主張2000年12月28日,ドイツ。以下「本願」という。)をしたが,平成20年4月28日付けで拒絶査定を受け,同年8月5日付けで拒絶査定に対する不服 願2001-397733。パリ条約による優先権主張2000年12月28日,ドイツ。以下「本願」という。)をしたが,平成20年4月28日付けで拒絶査定を受け,同年8月5日付けで拒絶査定に対する不服審判請求(不服2008-19854号事件)をし,同日付けで手続補正書を提出(以下「本件補正」という。)した。 特許庁は,平成22年8月5日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲(1) 本件補正後の本願の特許請求の範囲(甲3)の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「補正後発明」という。)。 「【請求項1】バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者間におけるデータ交換方法であって,前記データは,前記加入者から前記バスシステムを介して伝送されるメッセージ内に含まれており,前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間は,前記データは事象指向でバスシステムを介して伝送され,他の場合には,前記データは時間制御されるモードでバスシステムを介して伝送される,ことを特徴とする複数の加入者間におけるデータ交換方法。」 (2) 本件補正前の本願の特許請求の範囲(甲2。以下,明細書及び図面と併せて「当初明細書」という場合がある。)の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「補正前発明」という。)。 「【請求項1】バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者間におけるデータ交換方法であって,前記データは,前記加入者から前記バスシステムを介して伝 補正前発明」という。)。 「【請求項1】バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者間におけるデータ交換方法であって,前記データは,前記加入者から前記バスシステムを介して伝送されるメッセージ内に含まれており,前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間は,前記データは事象指向でバスシステムを介して伝送され,他の場合には,前記データは決定論的にバスシステムを介して伝送される,ことを特徴とする複数の加入者間におけるデータ交換方法。」 3 審決の理由(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,①補正後発明は,特開平8-274788号公報(甲1。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,本件補正は,補正後発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する特許法126条5項の規定に適合せず,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきである,②補正前発明は,引用例の記載に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに補正後発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容 「無線通信媒体を介して相互に接続されている無線基地局と端末間におけるデータ交換方法であって 並びに補正後発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア引用発明の内容 「無線通信媒体を介して相互に接続されている無線基地局と端末間におけるデータ交換方法であって,前記データは,前記端末から前記無線通信媒体を介して伝送されるパケット信号内に含まれており,前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合には,前記データは衝突の起こりうるアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送され,他の場合には,前記データは衝突の起こりえないアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送される,無線基地局と端末間におけるデータ交換方法。」イ一致点両者が「データが,衝突の起こりうるアクセス方式と衝突の起こりえないアクセス方式で伝送されるデータ交換方法。」である点。 ウ相違点(ア) 相違点1補正後発明では,「データ交換」が「バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者間」で行われ,「データ」は「前記加入者から前記バスシステムを介して伝送されるメッセージ内に含まれて」いるのに対し,引用発明では「データ交換」が「無線回線を介して相互に接続されている無線基地局と端末間」で行われ,「データ」は「前記端末から前記無線回線を介して伝送されるパケット信号内に含まれて」いる点。 (イ) 相違点2「衝突の起こりうるアクセス方式」に関し,補正後発明では「事象指向」であって,「前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間」は,データは当該方式で「バスシステムを介して伝送され」 るのに対し,引用発明では「前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送す 送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間」は,データは当該方式で「バスシステムを介して伝送され」 るのに対し,引用発明では「前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合」は,データは当該方式で「無線通信媒体を介して伝送され」る点。 (ウ) 相違点3「衝突の起こりえないアクセス方式」に関し,補正後発明では「時間制御されるモード」であって,「他の場合に」は,データは当該方式で「バスシステムを介して伝送される」のに対し,引用発明では「他の場合に」は,データは当該方式で「無線通信媒体を介して伝送される」点。 (エ) 相違点4補正後発明が「複数の加入者間における」データ交換方法であるのに対し,引用発明が「無線基地局と端末間における」データ交換方法である点。 第3 当事者の主張 1 審決の取消事由に係る原告の主張審決には,以下の(1)ないし(4)記載のとおりの認定,判断の誤りがあり,これらの誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。 (1) 取消事由1(相違点2の認定等の誤り)審決は,引用発明について,「前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合には,前記データは衝突の起こりうるアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送され,他の場合には,前記データは衝突の起こりえないアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送される」無線基地局と端末間におけるデータ交換方法(上記第2,3,(2),ア) と認定し,これに基づいて補正後発明との相違点2を「『衝突の起こりうるアクセス方式』に関し,補正後発明では『事象指向』であって,『前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者 後発明との相違点2を「『衝突の起こりうるアクセス方式』に関し,補正後発明では『事象指向』であって,『前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間』は,データは当該方式で『バスシステムを介して伝送され』るのに対し,引用発明では『前記無線通信媒体の負荷に従っ て,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合』は,データは当該方式で『無線通信媒体を介して伝送され』る点。」(上記第2,3,(2),ウ,(イ))と認定した。 しかし,審決の認定は誤りである。 審決は,引用発明を認定するに当たり,「パケット信号の受信誤り率が衝突によるものであり,衝突は高トラヒックによるものであるから,パケット信号の受信誤り率は無線通信媒体の負荷に従う」ことを前提としている。しかし,審決の理解は,以下のとおり誤りである。引用例の段落【0004】,【0006】,【0009】,【0011】及び図5の記載によれば,パケット信号の受信誤り率は,衝突のみによって変化するものではなく,無線回線品質の劣化によっても生じる。また,引用例の段落【0004】には,衝突系のアクセス方式として挙げられたCSMA方式において,移動体通信のように端末が互いに見通しにある場合が少なく,隠れ端末の影響が大きい場合には,キャリアセンスが出来ないため,ICMA方式が用いられ,パケットの衝突を低減してスループットを改善することが記載され,甲15には,隠れ端末が存在した場合には,衝突を起こす可能性が高いことが記載され(段落【0005】,【0006】),甲16には,無線通信間の距離や電波を通さない障害物などの影響により,互いの無線信号が到達しない状態(隠れ端末問題)が起こるこ を起こす可能性が高いことが記載され(段落【0005】,【0006】),甲16には,無線通信間の距離や電波を通さない障害物などの影響により,互いの無線信号が到達しない状態(隠れ端末問題)が起こることが記載されている。上記各記載のとおり,隠れ端末が生じると,パケット信号の衝突が発生し,トラヒックに関わらずスループット特性が悪化するから,パケット信号の受信誤り率は,隠れ端末の存在によっても変化する。受信誤り率は,無線通信回線の品質の劣化,隠れ端末の存在等の要因によって変動するので,受信誤り率とトラヒックとの間には一定の相関関係はない。したがって,「パケット信号の受信誤り率が衝突によるものであり,衝突は高トラヒックによるものであるから,パケット信号の受信誤り率は無線通信媒体の負荷に従う」との審決の認定は誤りである。 また,引用例には,受信誤り率に応じてアクセス方式を変更することは記載され ているが(請求項2),トラヒック(無線通信媒体の負荷)に従ってアクセス方式を変更することは記載も示唆もされていない。 以上のとおり,審決には,引用発明について,「前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合には,前記データは衝突の起こりうるアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送され,他の場合には,前記データは衝突の起こりえないアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送される」と認定した誤りがあり,これに基づいてした補正後発明との相違点2の認定にも誤りがある。 (2) 取消事由2(一致点認定の誤り)審決は,補正後発明の「事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとした上,「両者が『データが,衝突の起こ 事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとした上,「両者が『データが,衝突の起こりうるアクセス方式と衝突の起こりえないアクセス方式で伝送されるデータ交換方法。』である点」を一致点として認定した。 しかし,審決の上記認定は誤りである。 補正後発明の「事象指向」は,当初明細書の段落【0004】に記載されるように,CAN-プロトコルのような,プロトコルアクティビティが通信システムの外部事象を起源として開始され,優先順位に基づくビット調停により通信システムへの一義的なアクセスを可能としたアクセス方式を包含するものであり,この方式では,各メッセージに一義的な優先順位が割り当てられる。すなわち,CANのアドレス指定方式では,各メッセージがラベルを持ち,それぞれのメッセージに独自の「識別子(ID)」が与えられる。識別子(ID)は,データの内容とメッセージの優先度の両方を分類し,複数のステーションが同時に伝送を行おうとした場合は,システムは「ワイヤードAND方式」のバスアービトレーションによりバス利用者を決定し,最も優先度の高いメッセージに,ビットロスや遅れがなく,最初にバス使用権が与えられる(甲17の801頁)。このように,補正後発明の「事象指 向」においては,通信システムへの一義的なアクセス権が与えられるため,衝突が起こることはあり得ず,衝突による受信誤りも生じない。一方,引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」は,引用例の段落【0003】に記載されたALOHA方式,CSMA方式など,衝突が起こり得るアクセス方式である。すなわち,ALOHA方式では,パケット信号が新たに発生した場合,その直後にパケット信号を送信するた 落【0003】に記載されたALOHA方式,CSMA方式など,衝突が起こり得るアクセス方式である。すなわち,ALOHA方式では,パケット信号が新たに発生した場合,その直後にパケット信号を送信するため,複数の端末からランダムにパケット信号が送信されることとなる結果,衝突が起こり得るし,CSMA方式では,端末が互いに見通しにある場合が少なく,隠れ端末の影響が大きい場合には,キャリアセンスが出来ないため,衝突が起こり得る(引用例の段落【0003】)。そうすると,補正後発明の「事象指向」は,衝突が起こり得ないものであり,引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当するとはいえない。 また,補正後発明の「時間制御されるモード」は,当初明細書の段落【0004】に記載されるように,TTP/Cのような,プロトコルアクティビティがタイムベースの進行によって作動され,バスシステムへのアクセスは時間領域の割り当てに基づいており,その割り当てにおいて加入者が排他的な送信権を有するアクセス方式を包含するものである。このアクセス方式では,データは,時分割多重接続(Time-Division-Multiple-Access/TDMA)に基づいて時間制御されて伝送される(当初明細書の段落【0019】)。TTP/Cにおいては,バスへのアクセスがTDMA方式で行われ,時間領域の割り当てが行われて(甲18の88頁Fig.8に示されたAないしE),各データが転送される。すなわち,補正後発明の「時間制御されるモード」においては,割り当てられた時間領域では排他的にデータの送信を行うことができ,割り当ての際に優先順位が設定されることはなく,割り当てられた時間領域にデータを分割して少しずつ送ることが可能であり,これにより待ち時間を保証することが可能である。一方,引用発明の「衝 ことができ,割り当ての際に優先順位が設定されることはなく,割り当てられた時間領域にデータを分割して少しずつ送ることが可能であり,これにより待ち時間を保証することが可能である。一方,引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」は,引用例の段落【0005】,【0015】等に記載されるように,Polling(ポーリング)により伝送す る端末(データ)を決定して伝送するものである。ポーリング方式とは,無線基地局が端末の一つ一つに伝送すべき信号があるか否かを問い合わせ,端末に伝送すべき信号がある場合に端末から信号が伝送されるものである(引用例の段落【0005】)。ポーリング方式では,ポーリングアドレスで指定された端末が継続してデータを送信し,指定された端末の伝送が終了して継続して送られるパケット信号が無くなると,次の端末が指定されてパケット信号が送られる(引用例の段落【0015】,【0019】,【0025】)から,ポーリングで指定されなかった端末(優先順位の低い端末)は,ポーリングで指定された端末(優先順位の高い端末)のデータが全て伝送されるまでの間は,データの伝送ができずに待機する。このため,優先順位の低い端末では,待ち時間を保証することは不可能である。そうすると,補正後発明の「時間制御されるモード」は,引用発明のポーリング方式と対比すると,割り当てられた時間領域にデータを分割して送ることができるか否かという点において相違するから,引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとはいえない。 したがって,審決は,補正後発明の「事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとの誤った前提に基づいて補正後発明と引用発 指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとの誤った前提に基づいて補正後発明と引用発明の一致点を認定し,補正後発明が独立特許要件を欠くと判断した誤りがある。 (3) 取消事由3(相違点2,3の容易想到性判断の誤り)審決は,以下のとおり,補正後発明の相違点2,相違点3に係る構成の容易想到性の判断を誤り,補正後発明が独立特許要件を欠くと判断した誤りがある。すなわち,ア相違点2に係る構成の容易想到性について-その1審決は,相違点2について,引用例に「衝突の起こりうるアクセス方式」として記載されるALOHA方式は,パケット信号が新たに発生した場合には,その直後 にパケット信号を送信するというものであることも記載されているから,事象制御に当たると認定して,容易想到性を判断した。 しかし,審決の認定,判断は誤りである。 上記(2) のとおり,ALOHA方式は,パケット信号が新たに発生した場合には,その直後にパケット信号を送信するため,多くの端末が共通の無線通信路にランダムアクセスし,パケット信号の送信は無秩序(ランダム)に行われる。一方,補正後発明の「事象制御」は,CAN-プロトコルのようなアクセス方式を包含し,優先順位に応じた通信システムへの一義的なアクセスを可能としたものであるため,バスへのデータ伝送が無秩序に行われることはあり得ない。 したがって,審決が,ALOHA方式が「事象制御」に当たると認定して,補正後発明の相違点2に係る構成を容易想到であると判断した点には,誤りがある。 イ相違点2に係る構成の容易想到性ついて-その2審決は,相違点2について,引用例には,受信誤り率の大小の判定に予め設定さ 明の相違点2に係る構成を容易想到であると判断した点には,誤りがある。 イ相違点2に係る構成の容易想到性ついて-その2審決は,相違点2について,引用例には,受信誤り率の大小の判定に予め設定されたしきい値を用いることが記載されるが,伝送すべきパケット信号の衝突が少ない場合に送信から受信までの待ち時間が小さくなることは当然であり,「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定することから,伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定することへの変更は,当然に導き得る単なる判断指標の変更に過ぎない」旨認定し,「引用発明の『前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合』を『前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間』とすることは当業者が容易に想到し得たものと認められる」と判断した。 しかし,審決の認定,判断は誤りである。 受信誤り率は,無線通信におけるALOHA方式,CSMA方式など,衝突の発生が前提となる方式で問題となるものであり,引用発明は,無線通信において,接続遅延を小さくして高トラヒック時にも高いスループットを実現することを目的と するものであることから,「受信誤り率」が問題となる。これに対して,補正後発明は,スループットの向上を目的とするものではなく,バスを介して相互に接続されたシステムにおいて,バスにアクセスする際の有限の最大待ち時間を保証することを目的とするものであり(当初明細書の段落【0008】),「事象指向」と「時間制御」のいずれにおいても衝突は起こらないため,「受信誤り率」は問題とならない。 したがって,審決が,「引用発明の『前記無 目的とするものであり(当初明細書の段落【0008】),「事象指向」と「時間制御」のいずれにおいても衝突は起こらないため,「受信誤り率」は問題とならない。 したがって,審決が,「引用発明の『前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合』を『前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間』とすることは当業者が容易に想到し得た」とした判断には,誤りがある。 ウ相違点3に係る構成の容易想到性ついて審決は,相違点3について,引用例に「衝突の起こりえないアクセス方式」として記載されるポーリング方式は,端末の送信権を巡回させることも記載されており,送信権の巡回が時分割で行われることは技術常識であるから,時間制御されるモードと言い得るとの認定を前提として,容易想到性を判断した。 しかし,審決の認定,判断は誤りである。 上記(2) のとおり,引用例には,ポーリング方式において,ポーリングアドレスで指定された端末がデータを送信し,指定された端末の伝送が終了して継続して送られるパケット信号が無くなると,次の端末が指定されてパケット信号が送られることが記載されているから(段落【0015】,【0019】,【0025】),ポーリング方式は,データの伝送中に送信権の巡回を時分割で行うものではなく,ポーリングで指定されなかった端末(優先順位の低い端末)は,ポーリングで指定された端末(優先順位の高い端末)のデータが全て伝送されるまでの間は,データの伝送ができずに待機する。そうすると,引用例に記載されたポーリング方式は,割り当てられた時間領域にデータを分割して送るものではなく,待ち時間を保証で きるも 送されるまでの間は,データの伝送ができずに待機する。そうすると,引用例に記載されたポーリング方式は,割り当てられた時間領域にデータを分割して送るものではなく,待ち時間を保証で きるものではない。一方,補正後発明の「時間制御されるモード」は,割り当てられた時間領域にデータを分割して少しずつ送ることができ,待ち時間を保証することができるから,補正後発明は,引用例にはない特有の効果を奏するものである。 したがって,審決が,ポーリング方式が,「時間制御されるモード」に当たると認定して,補正後発明の相違点3に係る構成を容易想到であると判断した点には,誤りがある。 (4) 取消事由4(補正前発明の容易想到性を判断した誤り)審決は,本件補正を却下した誤りがあり(上記(1)ないし(3)のとおり),その結果,補正前発明について容易想到性を判断した誤りがある。 2 被告の反論原告の主張する取消事由はいずれも理由がないから,審決に取り消されるべき違法はない。 (1) 取消事由1(相違点2の認定等の誤り)に対し原告は,審決が,引用発明について,「前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合には,前記データは衝突の起こりうるアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送され,他の場合には,前記データは衝突の起こりえないアクセス方式で無線通信媒体を介して伝送される」とした認定には誤りがあり,これに基づく補正後発明との相違点2の認定にも誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 ア引用例には,「前記端末と前記無線基地局間の通信トラヒックに応じて,衝突の起こりうる多重アクセス方式と衝突の起こりえない多重アクセス方式を適応的に使い分ける」(【請求項1】),「前記無線基地局が受信したパケ は,「前記端末と前記無線基地局間の通信トラヒックに応じて,衝突の起こりうる多重アクセス方式と衝突の起こりえない多重アクセス方式を適応的に使い分ける」(【請求項1】),「前記無線基地局が受信したパケット信号の受信誤り率に応じて,受信誤り率が小さい場合には衝突の起こりうる多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合には衝突の起こりえない多重アクセス方式を用いることを特徴とする請求項1記載の多重アクセス方法。」(【請求項2】)と記 載されるから,衝突の起こり得ない多重アクセス方式が大きい受信誤り率を改善すること,受信誤り率の主たる要因が衝突であることが示されているといえる。 また,引用例の請求項1,2の具体例である第2の実施例(段落【0017】ないし【0020】)の「D203(0)」,「D204(0)」,第4の実施例(段落【0023】ないし【0026】)の「D303(0)」,「D304(0)」に示される衝突が主たる要因となって受信誤り率(FER)を増大させ,これを契機として,衝突の起こり得ない多重アクセス方式(具体的にはポーリング方式)に変更することが示されるから,受信誤り率の主たる要因が衝突であることが記載されているといえる。そして,衝突の発生確率が通信トラヒックの混み具合によることは技術常識であるから,パケットの受信誤り率が衝突によるものであり,衝突は高トラヒックによるものであるといえる。 さらに,無線通信の技術分野において,トラヒックはトラヒック負荷とも呼ばれ,無線通信媒体の負荷と同義であることは技術常識である。 したがって,審決が,引用発明を認定する前提として,「パケット信号の受信誤り率が衝突によるものであり,衝突は高トラヒックによるものであるから,パケット信号の受信誤り率は無線通信媒体の負荷に従う」としたことに誤り 審決が,引用発明を認定する前提として,「パケット信号の受信誤り率が衝突によるものであり,衝突は高トラヒックによるものであるから,パケット信号の受信誤り率は無線通信媒体の負荷に従う」としたことに誤りはない。 イ原告は,受信誤り率は,無線通信回線の品質の劣化,隠れ端末の存在等の要因によって変動するものであるから,受信誤り率とトラヒックとの間には一定の相関がないと主張するが,原告の上記主張は理由がない。 無線通信回線の劣化と受信誤り率の変動については,引用例の段落【0004】,【0006】,【0009】,【0011】に記載があるが,引用発明におけるこれらの記載は付加的なものである。引用例の段落【0021】,【0022】及び図5によれば,衝突の起こり得ない多重アクセス方式を採用してもなお,受信誤り率が低下しない時は,衝突によるものではない他の原因(例えば,無線チャネルが当該通信系以外の外乱や干渉等で受信誤り率が大きくなっているような状況。)で無線回線が劣化したものとみなして,チャネル(例えば,搬送波周波数。)そのも のを変更しようとするプロセスが記載されているが,基本的には,受信誤り率に基づいて,衝突の起こり得る多重アクセス方式から衝突の起こり得ない多重アクセス方式に移行するプロセスが行われていることが理解できる。「受信誤り率とトラヒックの間には一定の相関がない」とする原告の主張は,引用例における,衝突の発見と回避のための基本プロセスを無視し,あるいは,これと付加的なプロセスとを混同したことによるものである。 また,引用例の段落【0003】によれば,隠れ端末による受信誤り率の変動は,衝突の起こり得るアクセス方式としてCSMA方式を採用した場合に,端末間でキャリアセンスが出来ないことにより生じる現象であること,引用例の各実施例で 03】によれば,隠れ端末による受信誤り率の変動は,衝突の起こり得るアクセス方式としてCSMA方式を採用した場合に,端末間でキャリアセンスが出来ないことにより生じる現象であること,引用例の各実施例では,この問題に対処するために,CSMA方式に替えてICMA方式を採用していること,引用例の図1のアクセス制御情報,図2,3,6のシーケンス図から理解できるように,ICMA方式では,端末間でキャリアセンスを行うのではなく,無線基地局が各端末に同時送信するアクセス制御情報により,端末の無線基地局へのアクセスを制御するから,CSMA方式におけるような隠れ端末の問題は生じないことが記載されている。そうすると,引用発明において,受信誤り率は隠れ端末の存在によって変動することを前提とする原告の主張は失当である。 ウ以上のとおり,審決の引用発明の認定に誤りはなく,これに基づく補正後発明との相違点2の認定にも誤りはない。 (2) 取消事由2(一致点認定の誤り)に対し原告は,審決が,補正後発明の「事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとの誤った前提に基づいて補正後発明と引用発明の一致点を認定し,補正後発明が独立特許要件を欠くとした判断には誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 ア補正後発明の「事象指向」が引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」 に相当することについて確かに,原告主張のとおり,補正後発明の「事象指向」は,「CAN-プロトコルのような,プロトコルアクティビティが通信システムの外部事象を起源として開始され,優先順位に基づくビット調停により通信システムへの一義的なアクセスを可 正後発明の「事象指向」は,「CAN-プロトコルのような,プロトコルアクティビティが通信システムの外部事象を起源として開始され,優先順位に基づくビット調停により通信システムへの一義的なアクセスを可能とした」アクセス方式を包含する。しかし,本件補正後の請求項1には,「事象指向」との記載があるのみで,アクセス方式の限定はない。また,審査手続において,平成19年8月7日付け拒絶理由通知の中で,引用例が主たる拒絶の根拠として提示されており,原告は,その後,アクセス方式を補正限定して引用発明との差異を明確にすることができたにもかかわらず,そのような補正をしなかった。そして,本件補正後の請求項の記載に不明確な点はないから,明細書等を斟酌して,原告主張のようなアクセス方式に限定解釈する余地はない。そうすると,補正後発明における「事象指向」は,原告主張のようなアクセス方式のみに限定解釈すべきものではなく,「プロトコルアクティビティが通信システムの外部事象を起源として開始され」るアクセス方式全般を指すと解釈すべきであり,通信システムの外部事象は通信システムの状況とは関係なく発生するものであって,複数の加入者において外部事象が同時に発生する場合があり,そのような場合には,「事象指向」で伝送されるデータが衝突を起こし得る。 したがって,補正後発明の「事象指向」が引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 イ補正後発明の「時間制御されるモード」が引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当することについて確かに,原告主張のとおり,補正後発明の「時間制御されるモード」は,「TTP/Cのような,プロトコルアクティビティがタイムベースの進行によって作動され,バスシステムへのアクセスは時間領域の割り当てに基づいてお 告主張のとおり,補正後発明の「時間制御されるモード」は,「TTP/Cのような,プロトコルアクティビティがタイムベースの進行によって作動され,バスシステムへのアクセスは時間領域の割り当てに基づいており,その割り当てにおいて加入者は排他的な送信権を有するアクセス方式」を包含する。しかし,前記アクセス方式においては,割り当ての際に優先順位が設定されることはなく, 待ち時間を保証することが可能であるかもしれないが,本件補正後の請求項1には,「時間制御されるモード」との記載があるのみで,アクセス方式の限定はない。また,特許庁における審査手続において,引用例は主たる拒絶の根拠として提示されており,原告は,その後,アクセス方式を補正限定して,引用発明との差異を明確にすることができたにもかかわらず,そのような補正をしなかった。そして,本件補正後の請求項の記載に不明確な点はないから,明細書等を斟酌して,原告主張のようなアクセス方式に限定解釈する余地はない。そうすると,補正後発明における「時間制御されるモード」は,TTP/Cのような,割り当ての際に優先順位が設定されることはなく,また,待ち時間を保証することが可能であるアクセス方式に限定解釈すべきものではなく,「プロトコルアクティビティがタイムベースの進行によって作動され,バスシステムへのアクセスは時間領域の割り当てに基づいており,その割り当てにおいて加入者は排他的な送信権を有する」アクセス方式全般を指すと解釈すべきであり,このようなアクセス方式ではデータの衝突が起こり得ない。 したがって,補正後発明の「時間制御されるモード」が引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 ウ以上のとおり,補正後発明の「事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセ 明の「時間制御されるモード」が引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとした審決の認定に誤りはない。 ウ以上のとおり,補正後発明の「事象指向」は引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当し,補正後発明の「時間制御されるモード」は引用発明の「衝突の起こりえないアクセス方式」に相当するとの前提に基づいて両発明の一致点を認定し,補正後発明が独立特許要件を欠くとした審決の判断に誤りはない。 (3) 取消事由3(相違点2,3の容易想到性判断の誤り)に対し原告は,審決は,①「ALOHA方式は事象制御と言い得るものである」との認定を前提とした点,②「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定することから,伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定することへの変更は,当然に導きうる単なる判断指標の変更に過ぎない」との認定を前提とした点,③「ポーリング方式は時間制御されるモードと言い得るものである」 との認定を前提とした点で誤りがあり,補正後発明が独立特許要件を欠くとの審決の判断にも誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。 ア相違点2に係る構成の容易想到性ついて-その1原告主張のとおり,ALOHA方式は,パケット信号が新たに発生した場合には,その直後にパケット信号を送信する方式であるが,パケット信号の送信のタイミングは,パケット信号の発生,すなわち,事象の発生と無関係に行われるのではなく,事象の発生の直後であるから,たとえ事象が無秩序(ランダム)に発生したとしても,パケット信号の送信はその直後に行われ,送信が行われるか否かは事象によって制御されている。 したがって,ALOHA方式は事象制御に当たるとした審決の認定に誤りはない。 イ相違点2に係る構成の容易 パケット信号の送信はその直後に行われ,送信が行われるか否かは事象によって制御されている。 したがって,ALOHA方式は事象制御に当たるとした審決の認定に誤りはない。 イ相違点2に係る構成の容易想到性ついて-その2補正後発明において,「事象指向」は,特別な制御を行わない限り必然的にデータの衝突を起こし得るものであるところ,「事象指向」に何ら限定を付加していない以上,引用発明の「衝突の起こりうるアクセス方式」に相当するというべきである(上記(2)ア )。 また,衝突の発生によって受信誤り率は変動するから,「補正後発明では,『事象指向』と『時間制御』のいずれにおいても衝突は起こらないため,『受信誤り率』は問題とならない」とはいえない。 さらに,多重アクセス方式において,衝突の発生とスループットすなわち通信速度とが負の相関をもつことは一般によく知られている事実であり,衝突の発生により受信誤りが発生し,送信から受信までの待ち時間が変動することは自明であることに鑑みれば,「受信誤り率」と「送信から受信までの待ち時間」は,多重アクセス方式における通信状況を判断するための指標として同等といえる。 したがって,「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定することから,伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定することへ の変更は,当然に導きうる単なる判断指標の変更に過ぎない。」という審決の認定に誤りはない。 ウ相違点3に係る構成の容易想到性ついて引用例に記載されたポーリング方式は時分割多重アクセス方式であり,引用例の図2,3,6のシーケンスに記載されているように,パケット信号を送信するタイミングは,事象指向のように外部事象の発生に基づくものではなく,時分割で巡回される送信権の付与に基づいて決定されるも 用例の図2,3,6のシーケンスに記載されているように,パケット信号を送信するタイミングは,事象指向のように外部事象の発生に基づくものではなく,時分割で巡回される送信権の付与に基づいて決定されるものであり,各加入者に割り当てられた時間領域にデータを分割して送るものである。そして,上記(2)イのとおり,補正後発明におけるアクセス方式について,「時間制御されるモード」以外の限定はなく,「時間制御されるモード」は,「プロトコルアクティビティがタイムベースの進行によって作動され,バスシステムへのアクセスは時間領域の割り当てに基づいており,その割り当てにおいて加入者は排他的な送信権を有する」アクセス方式全般を指すと解釈すべきであるから,補正後の発明の時間制御されるモードは,引用発明のポーリング方式を包含する。 また,補正後発明に特有の効果がある旨の原告の主張は,補正後発明の構成,すなわち,請求項の記載に基づかないものである。 したがって,ポーリング方式は,時間制御されるモードに当たるとした審決の認定に誤りはない。 エ以上のとおり,審決は,相違点2,相違点3に関する補正後発明の容易想到性の判断に誤りはなく,補正後発明が独立特許要件を欠くとの判断にも誤りはない。 (4) 取消事由4(補正前発明の容易想到性を判断した誤り)に対し上記(1)ないし(3)のとおり,補正後発明に容易想到性はなく,独立特許要件を欠くとして,本件補正を却下した審決の判断には誤りがなく,また,補正前発明について容易想到性を判断した点についても誤りはない。 第4 当裁判所の判断当裁判所は,原告主張に係る取消事由3における,「補正後発明について,引用 発明の『前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合』を『前記バスシステム 当裁判所は,原告主張に係る取消事由3における,「補正後発明について,引用 発明の『前記無線通信媒体の負荷に従って,伝送すべきパケット信号の受信誤り率が小さい場合』を『前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間』とすることは,容易に想到し得た」とした審決の判断は誤りであると解する。その理由は,以下のとおりである。 1 事実認定(1) 補正後発明の請求項1及び当初明細書の記載ア補正後発明に係る本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記第2の2の(1) 記載のとおりである(甲3)。 イ当初明細書(甲2)には次の記載があることが認められる。なお,下記の記載は,いずれも本件補正の対象とされていない。 【0006】CAN-通信システムは,通常,バスの平均負荷が十分に小さくなるように設計されているので,バスシステムに極めて迅速にアクセスすることができる。しかしながら,通信システムから見て最悪の場合(例えば全ての加入者が永遠に送信しようとすること)は,CAN-バスシステムにおいては,極めて無限に長い待ち時間を意味している。・・・【0007】さらに,従来技術からは,時間制御されるプロトコルを所定の時間領域が予約され,予約された時間領域内部では事象制御されるメッセージ伝送が実行されることにより,よりフレキシブルにする方法が既知である。この場合には,プロトコル全体は,依然として時間制御されて作動するが,予約された所定の時間領域においてのみメッセージが事象制御されて伝達される。予約された各時間領域内でどのようにアクセスが制御されるかに応じて,通常の場合とアプリケーション固有の個別場合の処理を改良することができ, 時間領域においてのみメッセージが事象制御されて伝達される。予約された各時間領域内でどのようにアクセスが制御されるかに応じて,通常の場合とアプリケーション固有の個別場合の処理を改良することができ,最悪の場合の原理的な処理能力(有限の最大待ち時間)が失われることはない。・・・【0008】【発明が解決しようとする課題】・・・本発明の目的は,バスシステムを介して互いに接続されている複数の加入者間のデータ交換を,一方では通常の 場合においてメッセージの送信がより少ない待ち時間で高い確率で可能であって,他方では最悪の場合において有限の最大待ち時間を保証することが可能な新規かつ改良されたデータ交換方法等を提供することにある。 【0009】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,本発明の第1の観点においては,バスシステムを介して相互に接続されている少なくとも2つの加入者(2,3,4)間におけるデータ交換方法であって,前記データは,加入者(2,3,4)からバスシステム(5)を介して伝送されるメッセージ内に含まれており,前記バスシステム(5)の負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者(2,3,4)の送信意図と実行された加入者(2,3,4)の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間(tL)が保証できる間は,前記データは事象指向でバスシステム(5)を介して伝送され,他の場合には,前記データは決定論的にバスシステム(5)を介して伝送される,ことを特徴とする複数の加入者間におけるデータ交換方法が提供される。 【0064】【発明の効果】通信システムが,バスシステムの全てのメッセージあるいは加入者のために,有限の最大の待ち時間が保証できないことを検出した場合には,事象制御されるモードから時間制御されるモードへのメッセー 発明の効果】通信システムが,バスシステムの全てのメッセージあるいは加入者のために,有限の最大の待ち時間が保証できないことを検出した場合には,事象制御されるモードから時間制御されるモードへのメッセージ伝達の移行が実行される。通常の場合において,バスシステムへ極めて迅速にアクセスする事象制御されるシステムの利点は,完全にそのまま維持される。というのは,データ交換は,事象制御される通信システムにおけるのと同様に実行されるからである。 最大の待ち時間の保証及び非常に強い決定論という決定論的な通信システムの主要な利点は,同様にそのまま維持される。というのは,データ交換は,長い待ち時間について,決定論的な通信システムと全く同様に実行されるからである。 (2) 引用例の記載引用例(甲1)には次の記載があることが認められる。 【0001】【産業上の利用分野】本発明は,通信システムにおける多重アクセス方法に関する。 【0003】従来,種々のマルチアクセス方式が提案されてきている。最も制御が単純で基本的な方式はALOHA方式・・・である。本方式の基本的な考え方は,パケット信号が新たに発生した場合には,その直後にパケット信号を送信するというものである。このため,衝突は起こりうるが,非常に小さい遅延を達成することが出来る。・・・しかしながら移動体通信のように,端末が互いに見通しにある場合が少なく,隠れ端末の影響が大きい場合には,キャリアセンスが出来ないため,ICMA・・・方式が用いられ,多重アクセス時のパケット信号の衝突を低減し,スループットを改善している。・・・【0004】・・・しかしながら,衝突系のアクセス方式では送信開始時の衝突は避けえなく,送信を希望する端末数が多い場合には大きな問題となる。また,送信を希望する端末数が多い場合に している。・・・【0004】・・・しかしながら,衝突系のアクセス方式では送信開始時の衝突は避けえなく,送信を希望する端末数が多い場合には大きな問題となる。また,送信を希望する端末数が多い場合には無線基地局での受信誤りが衝突によるものか無線回線品質の劣化によるものかを判断することは出来ず,対処が困難である。 【0005】以上のような衝突系のアクセス方式に対して,衝突の発生しないアクセス方式もある。・・・これは端末の送信権を巡回させることによって実現される。 非衝突系のアクセス方式の一つにポーリング方式と呼ばれる多重アクセス方式がある。ポーリング方式では,無線基地局が端末の一つ一つに伝送すべき信号があるか否かを問い合わせ,端末に伝送すべき信号がある場合に端末から信号が伝送され,次々に端末にポーリングが行われることになる。このようなポーリング方式では,無線基地局による集中管理が可能であるため,複数端末による多重アクセス時の信号衝突は生じないが,端末に送信すべき信号が発生してもポーリングによって送信権が付与されるまでは送信出来ないため,送信遅延が生じるという問題がある。 【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,限りある資源である無線資源やイーサネットのような共有媒体の一つのチャネルに多くのユーザを収容する多重アクセス方式において,ALOHA方式に代表される衝突系の多重アクセス方式は,接続遅延が短いものの,高トラヒック時には,衝突が繰り返し発生することにより,スループットが上がらないという欠点を持ち,一方,ポーリング方 式に代表される非衝突系の多重アクセス方式は,高トラヒック時にもスループットの低下が起きないものの,衝突を避けるためのチャネルの割り当てに時間が掛かり接続遅延が大きくなるという各々の方式の問題点を解 式に代表される非衝突系の多重アクセス方式は,高トラヒック時にもスループットの低下が起きないものの,衝突を避けるためのチャネルの割り当てに時間が掛かり接続遅延が大きくなるという各々の方式の問題点を解決するための多重アクセス方式を提供することにある。・・・【0008】第2の本発明は,複数の端末と無線基地局間の一つの無線通信媒体を共有してパケット通信を行う多重アクセス方法において,前記端末と前記無線基地局間の通信トラヒックに応じて,衝突の起こりうる多重アクセス方式と衝突の起こりえない多重アクセス方式を適応的に使い分ける多重アクセス方法であって,前記無線基地局が受信したパケット信号の受信誤り率に応じて,受信誤り率が小さい場合には衝突の起こりうる多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合には衝突の起こりえない多重アクセス方式を用いることを特徴とする。 【0011】【作用】本発明では,受信側が受信誤り率に応じて,衝突系および非衝突系の多重アクセス方式を適応的に使用し,低トラヒック時には衝突系の多重アクセス方式を,高トラヒック時には非衝突系の多重アクセス方式を取る。・・・【0019】衝突系のアクセス方式ICMA方式が用いられているときに,端末201からパケット信号D201(0),D201(1)が送信された後,端末203,204からのパケット信号D203(0),D204(0)が衝突し,無線基地局200はポーリングアドレスを設定し,非衝突系のアクセス方式であるポーリング方式が用いられることになる。この設定されたポーリングアドレスに基づいて,端末はパケット信号を送信することになる。ポーリング方式が用いられるようになり,端末201-202のポーリングアドレスP201,P202にポーリングが行われても,送信すべきパケット信号の無い端末201,202 ット信号を送信することになる。ポーリング方式が用いられるようになり,端末201-202のポーリングアドレスP201,P202にポーリングが行われても,送信すべきパケット信号の無い端末201,202からはパケット信号が無線基地局200に送信されてこないため,端末203のポーリングアドレスP203にポーリングが行われる。端末203は送信すべきパケット信号D203(0)を無線基地局200に送信する。無線基地局では端末203から継続するパケット信号がないため,ポーリングアドレスを端末204のポーリングアドレスP204に して,ポーリングを行う。端末204では,送信すべきパケット信号D204(0)を送信し,無線基地局200は端末204からパケット信号D204(1)が継続して送られてくるため,ポーリングアドレスを変更せずにポーリングを行うことになる。 【0020】本実施例においては無線基地局が受信したパケット信号の受信誤り率に基づいて多重アクセス方式の変更を行う。・・・このように,衝突系のアクセス方式において受信誤り率がFER1を越えた場合に衝突系のアクセス方式から非衝突系のアクセス方式へ移行し,衝突による受信誤りが低下してFER2を下回った場合には,非衝突系のアクセス方式から衝突系のアクセス方式に移行する。・・・【0027】【発明の効果】本発明が提供する多重アクセス方法では,受信側が受信誤り率に応じて,衝突系および非衝突系の多重アクセス方式を適応的に使用し,低トラヒック時には衝突系の多重アクセス方式を,高トラヒック時には非衝突系の多重アクセス方式を取ることにより,接続遅延も小さく高トラヒック時にも高いスループットを実現する多重アクセス方式を提供することが可能となる。・・・ 2 判断上記事実認定に基づいて判断する。 (1) クセス方式を取ることにより,接続遅延も小さく高トラヒック時にも高いスループットを実現する多重アクセス方式を提供することが可能となる。・・・ 2 判断上記事実認定に基づいて判断する。 (1) 補正後発明は,バスシステムを介して互いに接続されている複数の加入者間で,データを交換する方法に係る発明であり,バスシステムを介してメッセージ(データ)を伝送するに当たり,メッセージが伝送されるまでの待ち時間として,予め設定される待ち時間を保証できる間は,メッセージを事象指向で伝送し,他の場合,すなわち予め設定される待ち時間を保証できない場合には,メッセージを時間制御されるモードで伝送するように構成した発明である。従来の事象指向のプロトコル(CAN-プロトコルなど)は,バスシステムの負荷が比較的少ない通常の場合においては,バスシステムに極めて迅速にアクセスすることができ,データが含まれるメッセージを即座に又は極めて短時間内に送信できるが,例えば全ての加入者が送信しようとするなど,最悪の場合,待ち時間が無限に長くなる可能性があ ったのに対して,従来の時間制御されるプロトコルは,プロトコル全体が時間制御され,予約された所定の時間領域においてのみメッセージが事象制御されて伝送されるものであり,最悪の場合においても,有限の最大待ち時間でメッセージを送信することができた(段落【0006】,【0007】)。補正後発明は,通常の場合においては,少ない待ち時間で高い確率でメッセージ(データ)の伝送が可能であるとともに,最悪の場合においても有限の最大待ち時間を保証することが可能なデータ交換方法等を提供することを解決課題として(段落【0008】),補正後発明の構成を採用することによって,通常の場合においては,バスシステムへ迅速にアクセスでき,少ない待ち 保証することが可能なデータ交換方法等を提供することを解決課題として(段落【0008】),補正後発明の構成を採用することによって,通常の場合においては,バスシステムへ迅速にアクセスでき,少ない待ち時間でメッセージの伝送が可能であるという効果を維持しつつ,最悪の場合においては,メッセージが伝送されるまでの最大の待ち時間が保証されるという効果が得られる(段落【0009】,【0064】)。 これに対して,引用例に記載された発明(引用発明)は,複数の端末と無線基地局間で,一つの無線通信媒体を共有してパケット通信を行う多重アクセス方法に関する技術である(段落【0001】)。一つのチャネルに多くのユーザを収容する従来の多重アクセス方式においては,ALOHA方式のように,パケット信号が新たに発生した場合には,その直後にパケット信号を送信する,衝突系の多重アクセス方式は,接続遅延が短いものの,高トラヒック時には,衝突が繰り返し発生することにより,スループットが低下するという欠点があり,一方,無線基地局が端末の一つ一つに伝送すべき信号があるか否かを問い合わせ,端末に伝送すべき信号がある場合に端末から信号が伝送され,次々に端末にポーリングが行われるポーリング方式のような非衝突系の多重アクセス方式は,高トラヒック時にもスループットの低下は発生しないものの,接続遅延が大きくなるという欠点があった(段落【0003】ないし【0005】)。そこで,引用発明は,受信誤り率が小さい場合においては,接続遅延が小さく,また,受信誤り率が大きい高トラヒック時においても高いスループットを実現する多重アクセス方式を提供することを解決課題として(段落【0006】),同課題を解決するために,端末と無線基地局間の通信トラ ヒックに応じて,受信誤り率が小さい場合には,ALO トを実現する多重アクセス方式を提供することを解決課題として(段落【0006】),同課題を解決するために,端末と無線基地局間の通信トラ ヒックに応じて,受信誤り率が小さい場合には,ALOHA方式のような衝突の起こり得る多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合には,ポーリング方式のような衝突の起こり得ない多重アクセス方式を用いる構成としたものである(段落【0008】,【0011】,【0020】,【0027】)。 そうすると,補正後発明は,通常の場合においては少ない待ち時間で高い確率でメッセージ(データ)の伝送が可能であるとともに,最悪の場合においても有限の最大待ち時間を保証することを解決課題とし,その課題を解決するために,「前記バスシステムの負荷に従って,伝送すべき各メッセージが前記加入者の送信意図と実行された加入者の送信プロセスとの間に経過する予め設定される待ち時間が保証できる間は,前記データは事象指向でバスシステムを介して伝送され,他の場合には,前記データは時間制御されるモードでバスシステムを介して伝送される」との構成を採用したのであるから,上記「時間制御されるモード」は,有限の最大待ち時間を保証するように制御されるアクセス方式ということができる。 これに対して,引用発明では,受信誤り率が小さい場合においては接続遅延が小さく,かつ,受信誤り率が大きい場合(高トラヒック時)においても高いスループットを実現する多重アクセス方式を提供することを解決課題として,同課題を解決するため,端末と無線基地局間の通信トラヒックに応じて,受信誤り率が小さい場合にはALOHA方式のような衝突の起こり得る多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合にはポーリング方式のような衝突の起こり得ない多重アクセス方式を用いる構成とした発明である。 り率が小さい場合にはALOHA方式のような衝突の起こり得る多重アクセス方式を用い,受信誤り率が大きい場合にはポーリング方式のような衝突の起こり得ない多重アクセス方式を用いる構成とした発明である。 ポーリング方式は,各端末に送信権が巡回して付与されるアクセス方式であり(引用例の段落【0005】),パケット信号は時間制御されて伝送されるため,引用発明においても,最大の待ち時間を保証することは可能といえる。しかし,引用発明は,高いスループットを実現することを解決課題とする発明であって,最大の待ち時間を保証することを解決課題とする発明ではない。また,引用発明が,時間制御されるアクセス方式を用いており,最大の待ち時間を保証することが可能で あるとしても,高いスループットを実現することによって,必然的に最大の待ち時間を保証することができるとはいえない。引用例の段落【0019】には,ポーリングを行った端末からパケット信号が継続して送られてくる場合,ポーリングアドレスを変更せずにポーリングを行う旨記載され,同記載部分からも,引用発明が必ずしも最大の待ち時間を保証するものではないことが理解できる。 したがって,引用発明と補正後発明において,「伝送すべきパケット信号の衝突が少ない場合に,伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間が小さくなる」ことがあるとしても,引用発明と補正後発明との解決課題が相違する以上,引用発明における「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定すること」から,補正後発明における「伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定すること」に変更する動機付けはなく,また,その作用効果においても相違するから,上記変更が,「当然に導きうる単なる判断指標の変更に過ぎない」ということはできない。 信から受信までの待ち時間を設定すること」に変更する動機付けはなく,また,その作用効果においても相違するから,上記変更が,「当然に導きうる単なる判断指標の変更に過ぎない」ということはできない。 (2) これに対し,被告は,多重アクセス方式において,衝突の発生とスループットすなわち通信速度とが負の相関を持つことは一般によく知られた事実であり,衝突の発生により受信誤りが発生し,通信速度により送信から受信までの待ち時間が変動することは自明であるから,受信誤り率と送信から受信までの待ち時間とは,多重アクセス方式における通信状況を判断するための指標として同等である旨主張する。 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。多重アクセス方式において,衝突の発生とスループット(通信速度)とが負の相関を持つことが一般によく知られ,通信速度によって待ち時間が変動するとしても,引用例において,「最悪の場合においても有限の最大待ち時間を保証する」との解決課題について,何らの記載ないし示唆がされていない以上,当業者が,引用発明の「伝送すべきパケット信号の受信誤り率のしきい値を設定する」ことから,「伝送すべき各パケット信号の送信から受信までの待ち時間を設定する」との構成に変更しようとする動機付けはな いというべきである。 (3) したがって,補正後発明が引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断には誤りがある。 第5 結論以上のとおり,原告主張の取消事由3には理由があり,補正後発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないから本件補正を却下すべきであると判断した審決には誤りがあり,この誤りは結論に影響を及ぼすものである。したがって,その余の争点について判断するまでもなく,審決は,違法として取り消されるべき できないから本件補正を却下すべきであると判断した審決には誤りがあり,この誤りは結論に影響を及ぼすものである。したがって,その余の争点について判断するまでもなく,審決は,違法として取り消されるべきである。これに対し,被告は,他にも縷々反論するが,いずれも採用の限りでない。 よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官飯村敏明 裁判官池下朗 裁判官武宮英子
▼ クリックして全文を表示