主文 1 被告は,原告Aに対し,2420万円及びうち2200万円に対する平成25年4月11日から,うち220万円に対する同年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,1760万円及びこれに対する平成24年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,両事件を通じてこれを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 5 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 1277号事件被告は,原告Aに対し,3300万円及びうち2200万円に対する平成22年11月13日から,うち1100万円に対する平成25年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,被告の負担とする。 仮執行宣言 2 862号事件被告は,原告Bに対し,2640万円及びこれに対する平成24年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は,被告の負担とする。 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は,被告の従業員として,石綿(アスベスト)製品の製造作業等に従事していた原告A及び同B(以下,併せて「原告ら」という。)が,被告の安全配慮義務違反によって石綿粉じんに曝露し,石綿肺に罹患したなどと主張して,被告に対し,債務不履行に基づく損害賠償請求(包括請求)として,原告Aにおいては3300万円及びうち2200万円に対する1277号事件の訴状送達日の翌日(平成22年11月13日)から,うち1100万円に対する ,債務不履行に基づく損害賠償請求(包括請求)として,原告Aにおいては3300万円及びうち2200万円に対する1277号事件の訴状送達日の翌日(平成22年11月13日)から,うち1100万円に対する訴え変更申立書送達日の翌日(平成25年5月24日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を,原告Bにおいては2640万円及びこれに対する862号事件の訴状送達日の翌日(平成24年12月28日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うよう求めた事案である。 前提事実(争いがない事実,後掲証拠〔いずれも1277号事件のものを指し,また,枝番があるものは特に指摘しない限り全ての枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者(甲B1,C1,弁論の全趣旨) ア原告A(昭和18年4月11日生まれ)は,昭和34年3月21日に被告に入社し,昭和42年12月25日に退職するまでの間,岐阜県羽島市所在の被告の羽島工場(従前の名称は竹鼻工場であったが,昭和40年1月に羽島工場と改称された。以下改称前後にかかわらず「羽島工場」という。)において勤務していた者である。 イ原告B(昭和10年3月7日生まれ)は,昭和35年10月18日に被告に入社し,平成7年3月31日に定年退職するまでの間,羽島工場において勤務していた者である。 ウ被告(昭和56年までの旧商号は「日本アスベスト株式会社」である。)は,耐火断熱吸音材料・土木建築材料等の製造・販売及びこれらに付帯又は関連す る工事に関する業務等を業とする株式会社である。被告は,長らく羽島工場,王寺工場,鶴見工場等の生産拠点で各種石綿製品を製造し,これらを全国各地の支店,営業所を通じて販売してきた。 る工事に関する業務等を業とする株式会社である。被告は,長らく羽島工場,王寺工場,鶴見工場等の生産拠点で各種石綿製品を製造し,これらを全国各地の支店,営業所を通じて販売してきた。 石綿の特性等について(甲A1,2,乙1,弁論の全趣旨) ア石綿は,単一の鉱物名ではなく,ほぐすと綿のようになる性質をもった一群の繊維状鉱物の総称であり,クリソタイル,アモサイト及びクロシドライトなどに分類される。 イ石綿は,耐摩擦性,耐熱性,断熱・防音・吸音性及び耐薬品性等の物質的特性を持ち,鉱物でありながら木綿のように繊維状に織れることから,糸や布などの紡織品,屋根や外壁に使われるスレート・ボード類や煙突・上下水道に使われるパイプ,パッキングやガスケットなどのシール材,ブレーキライニングやクラッチフェーシングなどの摩擦材,ボイラーや加熱配管などの熱損失を防ぐための保温材,耐火・断熱・吸音・結露防止目的での石綿吹付材など幅広く使用されてきた。 ウ我が国では,戦前から使用・消費する石綿の大部分を輸入に頼っていたが,経済成長に伴って石綿の消費量が大きく伸び始め,戦争で輸入が中断した後,昭和25年以降は年々輸入が増加し,昭和40年代半ばから昭和60年代にかけて大量輸入・消費が続いた。しかし,平成2年頃からは通商産業省の石綿含有率低減化政策などにより,急激に消費量が減少し,平成17年9月には,石綿含有製品の製造,使用等がほぼ全面的に禁止されるに至り,石綿の輸入・消費はほとんどなくなった。 石綿関連疾患の概要(甲A1,2,乙10,弁論の全趣旨)ア石綿繊維は,極めて細かい繊維からなっているため,人が呼吸をする際に鼻や気管・気管支の繊毛を通り抜けて呼吸細気管支・肺胞に到達し,また,石綿繊維は変化しにくい性質を有するた 弁論の全趣旨)ア石綿繊維は,極めて細かい繊維からなっているため,人が呼吸をする際に鼻や気管・気管支の繊毛を通り抜けて呼吸細気管支・肺胞に到達し,また,石綿繊維は変化しにくい性質を有するため,吸い込まれた石綿繊維は呼吸細気管支や肺内に沈着して長く滞留することになり,石綿関連疾患を引き起こす。石綿関連疾患としては,石 綿肺,肺がん,中皮腫及び非腫瘍性の胸膜疾患である胸膜炎,びまん性胸膜肥厚,円形無気肺(無気肺性偽腫瘍),そして疾患ではないが,石綿曝露の結果生じる胸膜プラーク(胸膜肥厚症)が挙げられる。胸膜プラークは,他の粉じんの暴露ではみられることはなく,石綿暴露の重要な指標とされている。 イこれらのうち,石綿肺は,石綿粉じんを大量に吸入することによって発生するびまん性間質性肺炎・肺線維症である。石綿肺による肺線維化の機序は,石綿繊維が呼吸細気管支又は肺胞道,肺胞腔に達すると,白血球の一種である肺胞マクロファージ(貪食細胞)が繊維の周囲に集簇して繊維を貪食しようとすることにより,マクロファージが活性化され,ライソゾーム酵素や各種のサイトカイン又は繊維芽細胞増殖因子などの成長因子を放出し炎症反応が惹起され,肺の細気管支周囲が線維化し,進行性のびまん性線維化をきたすというものである。石綿肺の自覚症状としては,労作時の息切れやせき及びたんの症状などがあり,病状が進行すると,安静時でも息切れがするようになり,呼吸不全のため常時酸素吸入が必要となる場合もある。また,続発性気管支炎等の合併症を併発することがあり,それが進行して死亡に至る例もある。石綿肺は,石綿粉じんの曝露がなくなった後でも病変が進行し,現時点においても,本質的な治療法はなく,症状の緩和を図る対症療法しかない。 ウ後述のじん肺法は,じん肺を,粉じんを吸入す もある。石綿肺は,石綿粉じんの曝露がなくなった後でも病変が進行し,現時点においても,本質的な治療法はなく,症状の緩和を図る対症療法しかない。 ウ後述のじん肺法は,じん肺を,粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病と定義しており(同法2条1項1号),石綿肺はじん肺の一種である。 じん肺法及びじん肺管理区分(以下,単に「管理区分」という。)制度の概要等(甲B8) アじん肺法は,じん肺に関し,適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的として定められた法律である(同法1条)。昭和35年に制定,施行された。 イじん肺法においては,じん肺健康診断を行い,次のとおり,エックス線写真の像を第1型から第4型までに区分するとともに,粉じん作業に従事した労働者を,じん肺健康診断の結果に基づき管理1から管理4に区分して健康管理を行うこととしている(同法4条)。 エックス線写真の像第1型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり,かつ,大陰影がないと認められるもの第2型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり,かつ,大陰影がないと認められるもの第3型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり,かつ,大陰影がないと認められるもの第4型大陰影があると認められるもの 管理区分管理1 じん肺の所見がないと認められるもの管理2 エックス線写真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能障害がないと認められるもの管理3イエックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能障害がないと認められるもの管理3ロエックス 真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能障害がないと認められるもの管理3イエックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能障害がないと認められるもの管理3ロエックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能障害がないと認められるもの管理4 1)エックス線写真の像が第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分 の1を超えるものに限る。)と認められるもの2)エックス線写真の像が第1型,第2型,第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能障害があると認められるものウじん肺健康診断事業者は,じん肺法の定める健康管理の一環として,常時粉じん作業に従事する,あるいは,従事させたことのある労働者等に対して,就業時健康診断,定期健康診断(常時粉じん作業に従事する管理1の労働者は3年ごと,管理2又は管理3の労働者は1年ごとに1回などと定められている。),定期外健康診断,離職時健康診断の実施義務を負っている(同法7条ないし9条の2)。 じん肺健康診断は,次のaないしcの方法によって行うとされている(同法3条,同法施行規則4条ないし8条)。 a 粉じん作業についての職歴の調査及びエックス線写真による検査b 胸部に関する臨床検査及び肺機能検査c 結核精密検査その他厚生労働省令で定める検査(合併症に関する検査)これらの具体的な内容は,のとおりである。 粉じん作業についての職歴の調査粉じん作業の職歴の調査は,事業場の名称,従事している又は従事していた粉じん作業の内容及び従事した期間を把握することによって行われる。 である。 粉じん作業についての職歴の調査粉じん作業の職歴の調査は,事業場の名称,従事している又は従事していた粉じん作業の内容及び従事した期間を把握することによって行われる。 エックス線写真による検査じん肺のエックス線写真の像は,上記のとおり第1型から第4型までに区分される(同法4条1項)。 胸部に関する臨床検査胸部に関する臨床検査は,①じん肺の経過の調査,②既往歴の調査,③自覚症状の調査及び④他覚所見の有無の検査によって行われる。 このうち,①じん肺の経過の調査は,じん肺管理区分決定通知書等の書面の他,事業場で作成している管理台帳,健康管理個人票等を利用して行う。②既往症の調査は,肺結核,胸膜炎,気管支炎,気管支拡張症,気管支喘息,肺気腫及び心臓疾患を対象に行われ,その調査は被検者に直接問診を行うか,あらかじめ被検者に問診票に記入させて,検査の場面での再確認によって行う。③自覚症状の調査は,呼吸困難,せきとたん,心悸亢進,喫煙歴等について行われるが,このなかでも呼吸困難が最も重要とされる。④他覚所見の有無の検査は,視診によるチアノーゼやばち状指の確認,聴診による水疱音及び捻髪音の副雑音の聴取の確認を行うとされている。 肺機能検査肺機能検査は,スパイロメトリー及びフローボリューム曲線による検査(一次検査)並びに動脈血ガス測定検査(二次検査)により,それぞれ行われる。ただし,二次検査は,一次検査の結果,じん肺による著しい肺機能の障害がある疑いがあると診断された者等一定の者に限って行われる。 結核精密検査結核精密検査は,①結核菌検査,②エックス線特殊撮影による検査,③赤血球沈降速度検査及び④ツベルクリン反応検査によって行われる。 ただし,医師が必要でないと認 て行われる。 結核精密検査結核精密検査は,①結核菌検査,②エックス線特殊撮影による検査,③赤血球沈降速度検査及び④ツベルクリン反応検査によって行われる。 ただし,医師が必要でないと認める一部の検査は省略することができる。 合併症に関する検査合併症に関する検査は,①結核菌検査,②たんに関する検査及び③エックス線特殊撮影による検査のうち医師が必要であると認めるものが行われる。 エ管理区分の決定手続等じん肺健康診断の結果,じん肺の所見がないと診断された者の管理区分は管理1とされる(同法13条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,じん肺の所見があると診断された労働者について,エックス線写真及びじん肺健康診断の結果を証明する書面(以下「じん肺健康診断結果証明書」という。)等を都道府県労働局長(以下「労働局長」という。)に提出する(同法12条)。 労働局長は,上記エックス線写真及びじん肺健康診断結果証明書等が提出されたときは,これらを基礎として,地方じん肺診査医の診断又は審査により,当該労働者について管理区分の決定をする(同法13条2項)。労働局長は,地方じん肺診査医の意見により上記決定を行うため必要があると認めるときは,事業者に対し,エックス線写真の撮影若しくは厚生労働省令で定める範囲内の検査を行うべきこと又はその指定する物件を提出すべきことを命じることができる(同条3項)。 なお,地方じん肺診査医とは,じん肺に関し相当の学識経験を有する医師のうちから厚生労働大臣が任命した者であり(同法39条4項),同法の規定によるじん肺の診断又は審査等について,その職務を行うために必要があるときは,事業所への立入り等一定の権限が認められている(同法40条1項)。 労働局長は,労働者に 同法39条4項),同法の規定によるじん肺の診断又は審査等について,その職務を行うために必要があるときは,事業所への立入り等一定の権限が認められている(同法40条1項)。 労働局長は,労働者について管理区分の決定をしたときは,事業者にその旨を通知し,事業者は,当該労働者等に対し,その者について決定された管理区分及びその者が留意すべき事項を通知しなければならない(同法14条1項,2項)。 常時粉じん作業に従事する労働者又は常時粉じん作業に従事する労働者であった者は,いつでも,じん肺健康診断を受けて,厚生労働省令で定めるところにより,労働局長に管理区分を決定すべきことを申請することができる(同法15条1項)。 事業者は,じん肺健康診断の結果,労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは,就業上適切な措置を講じ,適切な保健指導を受けることができるための配慮をする努力義務を負い(同法20条の2),管理区分が管理2又は管理 3イである労働者について,粉じんにさらされる程度を低減させるため,就業場所の変更,粉じん作業に従事する作業時間の短縮その他の適切な措置を講ずるように努める義務を負う(同法20条の3)。また,労働局長は,管理3イである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを勧奨することができ,管理3ロである労働者が現に常時粉じん作業に従事しているときには,事業者に対し,当該労働者を粉じん作業以外の作業に常時従事させるべきことを指示することができること等も規定されている(同法21条,22条,22条の2)。そして,管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は,療養を要するものとされている(同法23条)。 原告らに対 こと等も規定されている(同法21条,22条,22条の2)。そして,管理4と決定された者及び合併症にかかっていると認められる者は,療養を要するものとされている(同法23条)。 原告らに対する管理区分決定(甲B2ないし4,12ないし14,甲C2,3,乙C7,8,10,弁論の全趣旨)原告Aは,被告を退職した後の平成17年7月19日,被告が実施したじん肺健康診断を受けたところ,胸部エックス線写真にじん肺(第1型の不整形陰影)及び胸膜プラークの所見が認められるとの診断を受けた。その後,同年8月23日に上記じん肺健康診断の二次検診(らせんCT及び肺機能検査)を受けたところ,胸膜プラーク,石灰化プラーク,両下肺間質陰影の所見のほか,パーセント肺活量(肺活量の正常予測値に対する実測値の割合)が62パーセントであり肺機能障害が認められるとの診断を受けた。 岐阜労働局長は,上記じん肺健康診断の結果に基づき,エックス線写真の像が第1型,じん肺による肺機能の障害があるとして,同年10月20日付けで,原告Aについて,管理2の管理区分決定をし,被告にその旨通知し,被告は,同月31日付けで,原告Aに対し,上記決定の内容を通知した。 さらに,原告Aは,平成25年1月11日から同年3月6日にかけて,杉浦医院及び羽島市民病院でじん肺健康診断を受けたところ,胸部エックス線写真に じん肺(第1型の粒状影,第1型の不整形陰影,大陰影)及び胸膜プラーク等の所見が認められるとの診断を受け,さらに,肺機能検査において,パーセント肺活量が50.0パーセントであり,著しい肺機能障害が認められるとの診断を受けた。 岐阜労働局長は,上記健康診断の結果に基づき,エックス線写真の像が第1型,じん肺による著しい肺機能の障害があるとして,同年4月1 0パーセントであり,著しい肺機能障害が認められるとの診断を受けた。 岐阜労働局長は,上記健康診断の結果に基づき,エックス線写真の像が第1型,じん肺による著しい肺機能の障害があるとして,同年4月10日付けで,原告Aについて管理4の管理区分決定をし,原告Aにその旨を通知した(以下,この決定を「本件管理4決定(原告A)」という。)。 イ原告Bは,昭和53年8月28日付けで,管理3イの管理区分決定を受けた。この際,じん肺健康診断の結果としては,胸部エックス線写真の像が第2型であり,じん肺による肺機能の障害はないとされていた。その後,原告Bは,被告を退職する平成7年までの間,毎年,管理3イの管理区分決定を受けていた。 原告Bは,平成21年8月6日から同年10月17日にかけて,杉浦医院でじん肺健康診断を受けたところ,胸部エックス線写真にじん肺(第2型の不整形陰影)及び胸膜石灰化等の所見が認められるとされたほか,平成21年10月14日に実施された肺機能検査では,パーセント肺活量が32.3パーセントであり著しい肺機能の障害が認められるとの診断を受けた。 岐阜労働局長は,上記じん肺健康診断の結果に基づき,エックス線写真の像が第2型,じん肺による著しい肺機能の障害があるとして,同年12月7日付けで,原告Bについて,管理4の管理区分決定をし,原告Bにその旨を通知した(以下この決定を「本件管理4決定(原告B)」という。)。 本件念書の作成(乙C1,弁論の全趣旨)原告Bは,平成7年3月31日付けで被告を退職した。被告は,同年6月16日,原告Bに対し,じん肺退職者特別補償見舞金として600万円を支払い,原告Bは,同 日,被告に対し,領収証兼念書(以下「本件念書」という。)を差し入れた。 本件念書には,「 同年6月16日,原告Bに対し,じん肺退職者特別補償見舞金として600万円を支払い,原告Bは,同 日,被告に対し,領収証兼念書(以下「本件念書」という。)を差し入れた。 本件念書には,「但し,じん肺退職者特別補償見舞金として正に領収いたしました。尚,領収に当り私を始め家族の者よりじん肺に関し,いかなる事情が生じても補償等につき何等一切の異議を申し立てないことを確約いたします。」との文言が記載されている。 第3 争点 1 被告が安全配慮義務に違反したか否か被告に予見可能性があったか否か 被告の安全配慮義務の具体的内容及び被告が同義務に違反したか否か 2 損害の発生及びその額 原告らの石綿肺罹患の有無及びその程度原告らの損害の減額事由の有無原告Bについての本件念書の効力原告らの損害額第4 争点に対する当事者の主張 1 争点1(被告が安全配慮義務に違反したか否か)について被告に予見可能性があったか否か(原告らの主張) ア我が国における石綿肺に関する知見我が国におけるじん肺一般の知見は,けい肺を中心として進展し,昭和5年,鉱夫のけい肺に関する通牒が出され,けい肺が業務上疾病として取り扱われるようになった。さらに,昭和10年,職業病を定めている労働者災害扶助法 において「硅肺」が労働者の業務上疾病として定められた。 石綿肺についても,昭和2年,初めて石綿肺の報告がされて以降,各種論文等において当時の知見が紹介されていたところ,昭和12年から昭和15年にかけて,内務省保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所長らによって,当時の大阪近郊における19石綿工場,1024名の石綿作業従事者の調査がなされ,その調査結果におい ところ,昭和12年から昭和15年にかけて,内務省保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所長らによって,当時の大阪近郊における19石綿工場,1024名の石綿作業従事者の調査がなされ,その調査結果において,勤続年数の増加に従って石綿肺の罹患率も増大することなどが明らかにされた。このように,遅くとも昭和15年の時点においては,石綿粉じんの曝露により石綿肺に罹患するとの知見が我が国においても確立していた。 戦後においても,多数の石綿肺に関する論文や文献が発表され,その危険性や安全対策について指摘がされるようになった。 イ我が国における石綿粉じんに対する安全対策に関する知見上記アのとおり,石綿粉じんへの曝露の危険性・有害性に関する知見は,昭和15年頃には確立されていたが,それに対する安全対策についても当時から知られていた。 そして,戦前から戦後にかけて,石綿粉じんに対する安全対策について述べた各種文献が発表されるとともに,以下のとおり石綿肺等について国の法令による各種規制がされたことからすれば,原告Aが被告に入社した昭和34年当時の知見において,石綿粉じんに対する各種安全対策は一般的に知られており,かつ容易に実践可能であった。 ウ石綿肺等に関する国の法令による規制等 昭和22年4月に労働基準法(昭和22年法律第49号。以下「旧労働基準法」という。)が公布され,同法は,使用者に対し,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講ずべき義務(42条)や労働者の健康,風紀及び生命の保持 に必要な措置を講ずべき義務(43条),労働者の業務に関し必要な安全及び衛生のための教育をすべき義務(50条),定期健康診断を実施すべき義務(52条)などを課す旨が定められた。また,災害補償をするべき業務上の疾病について定めた同 3条),労働者の業務に関し必要な安全及び衛生のための教育をすべき義務(50条),定期健康診断を実施すべき義務(52条)などを課す旨が定められた。また,災害補償をするべき業務上の疾病について定めた同法75条2項を受けた同法施行規則35条7号は,災害補償をするべき業務上の疾病について,「粉塵を飛散する場所に於ける業務に因るじん肺症及びこれに伴う肺結核」と定め,補償対象がけい肺のみならず石綿肺を含むじん肺一般に拡大された。 そして,同年10月31日に定められた労働安全衛生規則(以下「旧労働安全衛生規則」という。)により,粉じんによる労働者の健康障害を防止するために使用者が講ずべき粉じんに対する安全対策が明確になった。 昭和23年には,けい肺対策協議会が労働省内に設置され,けい肺に関する各種調査や対策の検討に当たることになり,昭和24年には,けい肺措置要綱が定められ,エックス線写真像と呼吸器系の異常所見及び労働能力の減退の有無によって,症状の程度を要領1から要領3に区分し,それぞれに応じて事業者が講ずべき措置が示された。 また,労働省は,昭和25年12月,労働衛生保護具検定規則(労働省告示19号)を定めて,防じんマスクの国家検定制度を導入した。 さらに,昭和30年7月,けい肺及び外傷性せき随障害に関する特別保護法が成立し,昭和33年5月には,けい肺及び外傷性せき随障害の療養等に関する臨時措置法が制定された。 労働省は,昭和31年5月18日,「特殊健康診断指導指針について」という通達を出し,石綿を混合する場所における作業,石綿又は石綿製品を切断し又は研磨する場所における作業等石綿を取り扱う場所における作業を列挙し,使用者は,これ らの作業に従事した労働者に対して,エックス線直接撮影による胸部の変化の検査を行うものとし 製品を切断し又は研磨する場所における作業等石綿を取り扱う場所における作業を列挙し,使用者は,これ らの作業に従事した労働者に対して,エックス線直接撮影による胸部の変化の検査を行うものとした。 昭和31年には,労働省労働衛生試験研究「石綿肺の診断基準に関する研究」の共同研究班が組織され,同年度から昭和34年度にわたる調査結果において(被告の王寺工場も調査対象とされた。),勤続年数5年を経過して初めて石綿肺の確実所見が現れ,年数の経過と共に有所見率が増加するなどとの報告がされるとともに,石綿肺の診断基準などが示された。 労働省は,昭和33年5月26日,石綿粉じん作業を含む諸作業について,労働環境の改善等予防対策のあるべき一般的措置の種類を「労働環境における職業病予防に関する技術指針」(以下「環境改善技術指針」という。)に定めた。この中で,石綿を取り扱う場所における作業においては,粉じん濃度測定を行うこと,局所排気装置を設けること,労働者を局所排気の吸引気流外で作業させること及び国家検定に合格した防じんマスクを着用させること等を示した。 昭和35年3月31日には,じん肺法が制定された。同法は,じん肺の適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とし,その保護範囲をけい肺だけでなく,石綿肺を含むじん肺一般としており,「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゅう綿し,紡糸し,紡織し,積み込み,若しくは積みおろし,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研磨し,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」(同法施行規則別表第1の23)が「粉じん作業」の一つに定められた。 エ上記アないしウのとおり,昭和15年の時点において,既に,石綿肺やそれに対 ,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」(同法施行規則別表第1の23)が「粉じん作業」の一つに定められた。 エ上記アないしウのとおり,昭和15年の時点において,既に,石綿肺やそれに対する安全対策についての知見はすでに確立されており,昭和22年頃以降からは,国 の法令においても,使用者に対して石綿肺を含むじん肺の予防等のための各種粉じん対策を実施することが義務付けられるようになった。 したがって,日本における石綿製品製造のトップ企業であった被告としては,原告Aが被告において勤務を開始した昭和34年当時においては,石綿粉じんへの曝露により,石綿肺等の生命・健康に対する重大な健康障害が生じる危険性を十分に予見し得たというべきである。 (被告の主張) ア一般に,医学的知見が確立するためには一定の過程・時間が必要であって,現在の知見を前提に,過去のある時点における医学的知見の存否や当該知見の形成過程を検討することは不適切である。そして,原告らが主張する国内外の報告書等は,これらが発表された時点では,その内容の正当性に関する評価が未だ定まっていなかったにもかかわらず,原告らは,現在の知見を前提に,あたかも当時から現在と同様の医学的知見が存在していたかのように主張しており,誤った検討方法である。 イ戦前における海外の情報が,その発表に伴って当然に我が国に伝わっていたわけではなく,我が国においては,国内の一部の論文に断片的に海外の情報が紹介されていたにすぎない。また,我が国においては,欧米諸国と比べて石綿の産業利用開始時期が遅く,作業従事者の健康被害についての問題の発生も遅かったのであるから,研究を必要とする社会的状況が存在しなかった。原告らが提出する我が国の文献は,いずれも戦前の我が国において石綿への曝露と石 期が遅く,作業従事者の健康被害についての問題の発生も遅かったのであるから,研究を必要とする社会的状況が存在しなかった。原告らが提出する我が国の文献は,いずれも戦前の我が国において石綿への曝露と石綿肺発症の関連性に関する医学的知見が確立していたことを示すものではない。 被告の安全配慮義務の具体的内容及び被告が同義務に違反したか否かについて (原告らの主張) 上記の原告ら主張のとおり,石綿肺及び石綿粉じん対策に関する知見が昭和15年頃には確立していたことからすれば,被告は,原告Aが被告に入社した昭和34年3月頃までには,石綿粉じんへの曝露が原告ら従業員の生命・健康に重大な影響を及ぼすことを十分に予見できたものであり,原告らを被告の作業に従事させるに当たっては,信義則上,当時の実践可能な最高の工学的技術水準に基づいて石綿粉じん対策をとる義務を負っていたというべきである。 その具体的な内容は以下のとおりであるが,被告は,いずれの義務についても履行していない。 ア粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務粉じん濃度の測定方法は戦前から知られており,昭和32年6月には,各種の濃度測定方法が詳しく解説された書籍も発刊されていたのであるから,被告において,原告らが勤務していた当時,粉じん濃度を測定することは可能であった。 したがって,被告は,粉じん濃度の測定を行い,その測定結果を適切に評価し,湿潤化の充実や有効な保護具の使用など作業環境の改善のための必要な措置を講じる義務を負っていた。しかしながら,被告は,原告らが在籍していたとき,粉じん濃度を測定したことはなく,それゆえ,工場内の粉じん対策が改善されることはなかった。 イ石綿粉じんの発生・飛散防止措置をとる義務原告らが作業 がら,被告は,原告らが在籍していたとき,粉じん濃度を測定したことはなく,それゆえ,工場内の粉じん対策が改善されることはなかった。 イ石綿粉じんの発生・飛散防止措置をとる義務原告らが作業していた建物内では石綿粉じんが発生・飛散していたのであるから,被告は,発生した石綿粉じんを除去し,あるいはその飛散を防止するため,建物内に粉じん発生源がある場合には,十分な性能を有する局所排気装置を設置して,石綿粉じんを除去する,又は粉じんの発生源を隔離して,他の作業場所に飛散しないようにし なければならなかった。さらに,粉じん発生源を特定できない場合には,全体換気装置を設置して,建物内の空気を新鮮な空気と入れ換える義務を負っていた。 また,原告らが石綿袋を積み込んだり積み下ろしたりする際などにも石綿粉じんが発生したのであるから,被告としては,それらの作業を開始する前に石綿袋を湿らせる等の湿潤化措置をとるべき義務を負っていた。 しかしながら,被告は,上記の各義務に違反して有効な措置をとらなかったため,各建物内に石綿粉じんが飛散し,原告らは石綿粉じんに曝露することになった。 ウ適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務被告は,原告らが作業をするに当たり,石綿粉じんを吸入しないよう十分な性能を有する国家検定品(特級)である防じんマスクを配布し,その着用を義務付けるとともに,作業の際には必ず顔面に密着させてこれを装着するよう指導監督する義務を負っていた。しかしながら,被告は,そのような十分な性能を有する防じんマスクを配布することが十分可能だったにもかかわらず不十分な性能のマスクを支給したのみであり,また,原告ら従業員に対し,従業員がマスクを着用していないときに着用を徹底するなどの指導監督も行わなかった。 エ石綿肺及び石 可能だったにもかかわらず不十分な性能のマスクを支給したのみであり,また,原告ら従業員に対し,従業員がマスクを着用していないときに着用を徹底するなどの指導監督も行わなかった。 エ石綿肺及び石綿粉じん対策について定期的に安全教育や安全指導を行う義務上記のとおり,昭和15年の段階で,石綿粉じんへの曝露が石綿肺の原因になることの知見は十分に確立しており,昭和22年には旧労働基準法及び旧労働安全衛生規則が制定され,使用者が粉じん対策をすべきことが定められていた。 したがって,被告には,石綿作業に従事する原告ら従業員が石綿粉じんに曝露しないようにするため,従業員に対し,石綿肺及び石綿粉じん対策について,定期的に安全教育や安全指導を行う義務があった。しかしながら,被告は,かかる義務を怠り,従業員に対し,安全教育や安全指導を行わなかった。 (被告の主張) 原告らが主張する安全配慮義務違反の内容は,粉じん濃度測定義務に関するものを除き,極めて抽象的であって,原告らが勤務していた当時の具体的状況及びその当時の労働安全衛生関係の諸法令がいかなる内容のものとして定められていたか,被告においていかなる内容の義務を負っていたかについて何ら具体的に主張しておらず,原告らによる請求原因事実の主張が欠けていると評価すべきである。 以下,念のため原告らの主張する義務ごとに具体的に反論する。 ア粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務について粉じん濃度の測定(環境測定)義務が法令上課されるようになったのは,昭和46年4月28日のことである。しかも,その時点においてでさえ環境測定の実施には精度の確保その他の技術的な困難さが伴っていたこと,また,昭和40年までは石綿粉じんの許容濃度すら定められていなかったことなどからす 8日のことである。しかも,その時点においてでさえ環境測定の実施には精度の確保その他の技術的な困難さが伴っていたこと,また,昭和40年までは石綿粉じんの許容濃度すら定められていなかったことなどからすれば,被告は,原告らが主張するような粉じん濃度の測定義務を負っていなかった。 もっとも,羽島工場においては,昭和40年代前半から,デジタル粉じん計を用いて粉じん濃度を測定しており,その測定結果を活かし,作業環境を改善するための措置を講じていた。 イ石綿粉じんの発生・飛散防止措置をとる義務について局所排気装置等を設置すべき義務について,原告らが従事していた作業のうち,製品が水分を含む状態であった段階のものについては,そもそも粉じんが発生しないため,この段階の作業場等に局所排気装置等を設置すべき義務はない。また,原告らが従事していた作業のうち,屋外における作業についても,局所排気装置等を設置すべき義務の前提を欠く。 屋内における作業についても,被告は各作業場の窓や扉を開放して外気を出入りさせ,ルーフファンや扇風機等を設置し使用していたのであるから,旧労働安全衛生規 則173条が要求する「換気」が行われていた。また,製品の運搬など原告らが従事した作業の多くについては,粉じんの発生源が常に動いている作業か又は扇風機等による換気が行われており気流が発生している場所における作業であるため,その性質上,局所排気装置による粉じんの除去に向いていなかった。 したがって,被告は局所排気装置等を設置する義務を負っていなかった。そもそも,原告らは,各作業について,いかなる局所排気装置等の設置が実際に可能であったかについて全く特定していない。 また,石綿袋を湿らせるなどの湿潤化措置をとるべき義務についても,当時の知見 も,原告らは,各作業について,いかなる局所排気装置等の設置が実際に可能であったかについて全く特定していない。 また,石綿袋を湿らせるなどの湿潤化措置をとるべき義務についても,当時の知見においては,原料としての石綿を水に濡らすと,その後製品の原料として用いることが技術的に困難になるとされており,水に濡らすことは厳禁とされていたので,湿潤化措置は,被告に不可能を要求することにほかならず,被告はそのような湿潤化措置をとるべき義務を負っていなかった。 そもそも,原告らの作業過程において,原告らが主張するような大量の粉じんが発生・飛散していた事実はない。 ウ適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務について被告は,原告らが被告に入社する以前の昭和28年から昭和31年頃には,既に従業員に対してガーゼマスクを支給しており,原告Aが被告に入社した昭和34年3月時点では,従業員に対してスポンジマスクを支給していた。そして,昭和38年頃には,防じんマスクを支給するようになった。 当時市販されていた防じんマスクは,いずれも国家検定に合格していたものであるから,被告が支給していたマスクは,国家検定に合格した十分な性能を有していたものであった。また,被告は,防じんマスクの交換用フィルターを用意して原告ら従業員に配布した上,交換も適切に行い,管理方法についても指導していた。 被告においては,安全衛生委員会及び衛生管理者を置き,衛生教育を行うととも に,マスクの点検及び整備を行っていた。そして,遅くとも昭和40年頃からは,新入社員に対する安全教育を行い,粉じんが発生する場所においてマスクを着用するよう義務付けていたほか,毎年設けられていた労働衛生週間においては,応募された中から標語を掲示するなどし 40年頃からは,新入社員に対する安全教育を行い,粉じんが発生する場所においてマスクを着用するよう義務付けていたほか,毎年設けられていた労働衛生週間においては,応募された中から標語を掲示するなどして,マスクを着用するよう周知していた。 以上のとおり,被告は,十分な性能を有する防じんマスクを配布し,交換用フィルターも準備した上,原告ら従業員に対し,作業の際にはマスクを装着するよう指導監督していたのであるから,従業員に対してマスクを適切に使用させるべき義務を果たしていた。 エ安全教育及び安全指導を行う義務について我が国における石綿に関する医学的知見のレベルは,じん肺法が制定された昭和35年の時点においてすら,ようやく石綿粉じんへの曝露とじん肺発症に関する医学的知見が成立したと評価できる程度のものであった。 そのような状況の下で,被告は安全衛生委員会及び衛生管理者を置き,同管理者が衛生教育を行うとともにマスクの点検及び整備を行うこととしており,また,粉じんが発生する場所においてマスクを着用するよう明確に義務付け,少なくとも昭和38年3月当時から,従業員に対し,作業の際にはマスクを着用する旨の教育を行っており,遅くとも昭和40年頃には,新入社員に対する安全教育も行っていた。さらに,被告は,従業員に対して配布する社内報においても明確にマスク着用について指導し,併せて粉じんを吸ったら健康上問題があることについても教育していた。遅くとも昭和41年の労働衛生週間においては,防じんマスクを着用するよう促すスライドによる安全衛生の教育を行っていた。加えて,保温材製造部門においては,昭和32年から昭和45年まで保温材製造部門の職長であったCが,労働衛生週間に,同部門の従業員を食堂に集め,安全衛生教育を行っていた。 この っていた。加えて,保温材製造部門においては,昭和32年から昭和45年まで保温材製造部門の職長であったCが,労働衛生週間に,同部門の従業員を食堂に集め,安全衛生教育を行っていた。 このように,被告は,安全衛生に関する教育・指導を行っていたのであるから,被告は,石綿関連疾患や石綿粉じん対策について定期的に安全教育や安全指導を行うべき義務を果たしていたというべきである。 2 争点2(損害の発生及びその額)について 原告らの石綿肺罹患の有無及びその程度について(原告らの主張) 原告らは,被告の安全配慮義務違反によって,石綿肺に罹患し,その結果,著しい肺機能障害が生じたものであり,その病状は管理4に相当する。被告は,原告Aについて,石綿肺に罹患していることを裏付ける証拠はない,あるいは,管理区分決定の正当性に疑問があるなどと主張するが,次のとおり,採用できない。 ア被告は,原告Aの健康管理手帳や健康診断実施報告書において,石綿肺との積極的な診断の記載がないとして,原告Aが石綿肺に罹患していることについて争っているが,これらに石綿肺との積極的な診断の記載がないのは,当該健康診断が石綿粉じんに曝露した被災者の健康管理のために実施されるものであり,石綿肺を当然の前提としているからである。原告Aは,じん肺健康診断を受け,その結果として間質陰影ないし網状影といった不整形陰影が認められているのであるから,原告Aが石綿肺に罹患していることは明らかである。 イまた,被告は,原告Aの肺機能障害は石綿肺ではなく結核及び結核性胸膜炎の既往症によるものであると主張するが,原告Aに結核及び結核性胸膜炎の既往症はなく,昭和54年頃に肺内に胸水が溜まったことがあっただけである(良性石綿胸水)。 原告Aの肺機能障害の増悪は石綿肺 胸膜炎の既往症によるものであると主張するが,原告Aに結核及び結核性胸膜炎の既往症はなく,昭和54年頃に肺内に胸水が溜まったことがあっただけである(良性石綿胸水)。 原告Aの肺機能障害の増悪は石綿肺の進行・悪化によるものである。 さらに,原告Aは,被告が主張するように肺機能検査において意図的に結果を操作したこともない。原告Aは公的医療機関である羽島市民病院において肺機能検査 を受けているのであり,もしも検査技師の前で不正を行えば,当然にやり直しが命じられ,正しい検査が行われることになるのは明らかである。 したがって,本件管理4決定(原告A)に何ら不当な点はなく,同決定のとおり,原告Aは石綿肺によって著しい肺機能障害を患ったものである。 (被告の主張)否認ないし争う。 ア原告Aの健康管理手帳(石綿)や健康診断実施報告書(石綿)において,石綿肺との積極的な診断の記載がなく,原告Aが石綿肺に罹患しているか否かは明らかではない。 イ原告Aには両肺の肺尖部に肺結核及び結核性胸膜炎の既往症があり,これらの既往症は原告Aの肺機能障害に影響を与えているものというべきであるから,原告Aの肺機能障害と石綿粉じんへの曝露との間に因果関係があるかは不明である。 また,本件管理4決定(原告A)は,胸膜炎(肋膜炎)の既往症がないという既往歴に関する原告Aの虚偽の申告を前提とするものであり,仮に岐阜労働局長が原告Aに胸膜炎(肋膜炎)等の既往症があること等を知っていれば,原告Aの肺機能障害がじん肺によるものであると認められたかは極めて疑わしい。 さらに,本件管理4決定(原告A)に関し,原告Aは,平成25年1月11日に行われた肺機能検査において意図的にその結果を操作したことが疑われ,原告Aに著しい肺機能障害があるとは認められない しい。 さらに,本件管理4決定(原告A)に関し,原告Aは,平成25年1月11日に行われた肺機能検査において意図的にその結果を操作したことが疑われ,原告Aに著しい肺機能障害があるとは認められない。 以上のように,本件管理4決定(原告A)の正当性には重大な問題があり,原告Aに著しい肺機能障害があるとはいえず,たとえこれが認められるとしても,これと石綿肺との因果関係は証明されていないというべきである。 ⑵ 原告らの損害の減額事由について(被告の主張) ア原告Aの損害の算定に当たっては,衡平の観点から,以下の事情を考慮すべきである。 マスク不着用の点原告Aは,被告における作業の際,特段の事情がないのにマスクをしていないことがあったのであり,過失がある。 肺結核の既往症の点原告Aには肺結核の既往症があり,かかる既往症が,後述の原告Aの喫煙歴と併せて原告Aの肺機能障害に影響を与えている可能性がある。 喫煙歴の点原告Aは,34年間にわたり,一日当たり20本のたばこを喫煙してきたものであり,原告Aの肺線維化(肺の不整形陰影像)は,自身の喫煙歴の結果である可能性がある。また,たばこは発がん性物質であり,発がん因子としては,約8年間にすぎない被告での勤務歴よりも34年間にわたる喫煙歴の方が大きい。 イ原告Bの損害の算定に当たっては,衡平の観点から,以下の事情を考慮すべきである。 マスク不着用の点原告Bも,原告Aと同じように,被告における作業時に,特段の事情がないのにマスクの着用を怠っており,過失がある。 石綿肺以外のじん肺に罹患していること原告Bは,被告入社以前に,別の会社において,じん肺法上の「粉じん作業」に該当する金属鉱山の坑内作 いのにマスクの着用を怠っており,過失がある。 石綿肺以外のじん肺に罹患していること原告Bは,被告入社以前に,別の会社において,じん肺法上の「粉じん作業」に該当する金属鉱山の坑内作業に従事していた。このことは,原告Bの厚生年金保険被保険者期間の計算上,原告Bが同会社に勤務していた全期間について「坑内員」(常時坑内作業に従事する被保険者)として扱われていることから明らかである。そして,国内外を問わず,鉱夫にけい肺が多発していたところ,原告Bのエックス線写真及びC T画像によれば,原告Bには,けい肺等石綿肺以外のじん肺への罹患を示唆する粒状影や,石綿肺では出現することが極めて少ない大陰影の所見が表れている。 これらの事情によれば,原告Bは,けい肺等石綿肺以外のじん肺に罹患しているというべきである。 喫煙歴の点原告Bは,少なくとも昭和30年頃から平成19年まで,一日当たり20本程度のたばこを喫煙していたものであり,原告Bの肺線維化(肺の不整形陰影像)は,自身の喫煙歴の結果である可能性がある。また,たばこは発がん性物質であり,喫煙者の肺がんのリスクを大きく高めるものであり,原告Bは,少なくともある程度の肺がんリスクを甘受していたものとすら評価できる。 (原告Aの主張)アマスク不着用の点否認ないし争う。 イ肺結核の既往症の点上記のとおり原告Aに結核の既往症はなく,昭和54年頃に肺内に胸水が溜まったことがあっただけである(良性石綿胸水)。原告Aの肺機能障害は石綿粉じんへの曝露によるものであり,肺機能障害の増悪は石綿肺の進行・悪化によるものであるから,この点が損害を減額すべき事由とはなりえない。 ウ喫煙歴の点否認ないし争う。 (原告Bの主張) アマスク不着用の点否認 機能障害の増悪は石綿肺の進行・悪化によるものであるから,この点が損害を減額すべき事由とはなりえない。 ウ喫煙歴の点否認ないし争う。 (原告Bの主張) アマスク不着用の点否認ないし争う。 イ石綿肺以外のじん肺に罹患していること原告Bは,被告入社前に金属鉱山における作業をしていたことがあるが,それは坑内作業ではなく,坑外における仕上げ作業であり,その際,鉱石は水洗いされていた ので粉じんが発生したことはなかった。したがって,原告Bは,被告以外で粉じん作業に従事したことはなく,石綿肺以外のじん肺に罹患していることもないから,この点が損害を減額すべき事由とはなり得ない。 ウ喫煙歴の点否認ないし争う。 原告Bについての本件念書の効力(被告の主張)ア原告Bは,自らの意思に基づいて,その内容を認識した上で本件念書を作成したものである。原告Aは,その当時,自己の病状が進行し得ることも当然認識していたのであり,その上で,万が一退職後に自己の病状が進行し,管理3ロや管理4の状態になったとしても,何等異議を申し立てないことを確約している。 したがって,原告Bと被告との間では,被告の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権について和解契約が成立し,原告Bの同請求権は消滅している。かかる和解契約について,原告Bが錯誤に陥っていたということはできず,詐欺取消しもできない。また,同契約は公序良俗に違反するものでもない。 イ仮に原告Bの管理4に対する損害賠償請求権が消滅していないとしても,原告Bと被告との間では,管理3イに相当する病状の限度で和解契約が成立しているのであるから,原告Bに認められる損害賠償請求権の金額は,管理4に相当する病状に対する損害賠償請求権の金額から,管理3イに 告Bと被告との間では,管理3イに相当する病状の限度で和解契約が成立しているのであるから,原告Bに認められる損害賠償請求権の金額は,管理4に相当する病状に対する損害賠償請求権の金額から,管理3イに相当する病状に基づく損害賠償請求権の金額を控除した金額になる(既払の600万円を控除するのではない。)。 (原告Bの主張) 原告Bが本件念書を作成したことは争わない。しかしながら,本件念書は,原告Bがこれを作成した際の管理3イに相当する病状に対する補償について異議を申し立てないというものにすぎず,本件念書によって管理4に相当する病状 に基づく損害賠償請求権を放棄するという趣旨のものであったとは解されない。原告Bは,本件念書を作成した時点において,自己の症状がどの程度進行するかはもとより,進行しているのか固定しているのかすら確定できない状況であったのであり,その時点で,将来管理4に相当する病状になることを想定して損害額を決めることは不可能であった。 仮に,本件念書が,じん肺の進行により質的に異なる病状に至った段階の損害賠償請求権など将来生じる可能性のある全ての請求権を放棄する趣旨であるとしても,原告Bのかかる意思表示は要素の錯誤に基づくものであって無効であり,被告の欺罔行為により行ったものであるから詐欺による取消しが認められ,又は,公序良俗に違反するものとして無効である。 したがって,原告Bが,本件念書によって管理4に相当する病状に基づく損害賠償請求権を失うことにはならない。 原告らの損害額(原告Aの主張) ア原告Aは,石綿肺に罹患し,著しい肺機能障害により呼吸困難を感じるなどしている上,これらの症状の進行により更に健康上の不安が強くなっている。かかる原告Aの肉体的・精神的苦痛は極めて甚大であり,その慰謝料は 綿肺に罹患し,著しい肺機能障害により呼吸困難を感じるなどしている上,これらの症状の進行により更に健康上の不安が強くなっている。かかる原告Aの肉体的・精神的苦痛は極めて甚大であり,その慰謝料は3000万円を下ることはない。 イまた,原告Aは,本件訴訟遂行を弁護士に委任しており,上記損害額の1割に当たる300万円の弁護士費用が損害として生じている。 ウしたがって,原告Aの損害額は,3300万円となる。 (原告Bの主張)ア原告Bも,原告Aと同様に石綿肺に罹患し,著しい肺機能障害が生じたことにより,甚大な肉体的・精神的苦痛を感じており,その慰謝料は3000万円を下る ことはない。原告Bは,被告に対し,同額から支払済みの600万円を差し引いた2400万円の慰謝料請求権を有している。 イまた,原告Bは,本件訴訟遂行を弁護士に委任しており,上記損害額の1割に当たる240万円の弁護士費用が損害として生じている。 ウしたがって,原告Bの損害額は,2640万円となる。 (被告の主張) いずれも否認ないし争う。第5 争点1(被告が安全配慮義務に違反したか否か)に対する当裁判所の判断 1 前記前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,下記の⑴ないし⑻の各事実が認められる。 石綿肺に関する医学的知見の発展(甲A1,4ないし10,13,15,17,18,20ないし27,乙2ないし4)ア我が国においては,昭和4年に初めて石綿肺の報告がされ,その後,昭和13年までの間に,けい肺や石綿肺に関する相当数にわたる調査研究が発表され,その中で海外の知見も報告された。また,昭和12年から,保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所長らによって,大阪府泉南郡を中心とした19工場,1024名を対象とする 当数にわたる調査研究が発表され,その中で海外の知見も報告された。また,昭和12年から,保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所長らによって,大阪府泉南郡を中心とした19工場,1024名を対象とする石綿肺の調査が開始された。そして,昭和15年,同調査の結果をまとめた報告書の中で,石綿肺の罹患率は勤続年数に比例して増加することが報告されるとともに,工場設備に防じん装置として適当なものが見受けられなかったことが指摘され,速やかにその予防と治療の適切な対策を樹立することが緊要である旨が述べられた。 イ戦後も,石綿肺に関する相当数の研究が報告・発表される中,労働省は,労働衛生試験研究として,昭和31年以降,石綿肺等のじん肺に関する研究を専門家に 委託し,同年から昭和32年にかけて石綿肺の実態調査が行われ(被告の王寺工場も調査対象とされた。),昭和34年度まで研究が実施された。 このうち,昭和31年度(昭和32年3月31日報告)及び昭和32年度(昭和33年3月31日報告)の報告では,石綿工場においては勤務年数3年を過ぎる頃から石綿肺罹患者を認めるようになり,その後勤続年数が増加するに従って罹患者が増加すること,石綿肺罹患者のエックス線画像所見についても,じん肺の国際分類法に準じて分類できることなど石綿肺についての一応の診断基準が示されるとともに,石綿肺が重大な疾病であることが指摘された。その後も研究結果が順次報告され,昭和35年3月には,これらの研究の報告を踏まえて,昭和34年度労働省労働衛生試験研究成果報告書「石綿肺等のじん肺に関する研究」として,石綿肺の診断基準や合併症・続発症についてまとめられた。 ウそして,上記イの研究成果等を踏まえ,昭和35年3月31日,じん肺法が制定された。その後も,随時,石綿肺を含むじん肺に関する文 として,石綿肺の診断基準や合併症・続発症についてまとめられた。 ウそして,上記イの研究成果等を踏まえ,昭和35年3月31日,じん肺法が制定された。その後も,随時,石綿肺を含むじん肺に関する文献が多数発表された。 じん肺の予防に関する知見の発展等(甲A7,8,11,16,24,26,30,弁論の全趣旨)ア昭和13年頃までに,各種粉じんに対する安全対策についても相当数の報告がされた。それらの中では,各種粉じんに対する安全対策として,粉じん発生原因の除去及び粉じん発生源からの拡散防止の具体的方法,例えば,粉じん作業を湿式にすること,粉じん作業を被覆又は密閉すること,送風装置により場内空気の浄化を図ることなどが紹介され,粉じんの除去・拡散等が困難である場合には,粉じんの吸入を防ぐための呼吸用保護具等の予防具が必要であること,その具備すべき条件等などが報告されていた。 イ昭和28年に発刊された「珪肺」(労働省労働基準局監修,日本産業衛生協会編集)においては,防じん対策の根本的な手段としては,①まず,粉じんの発生原因を除くこと,②次いで,粉じんが発生源から拡散するのを防ぐこと,③さらにやむを得ない場合に労働者が粉じんを吸入するのを防ぐ方法と設備を実施することであるとされている。その上で,①については,作業の機械化や,有害な粉じんを比較的無害なものに置き換えることが有効であるとし,②について,隔離,操作の包囲,給湿及び局所排気装置の四つの方法を挙げた上,それぞれについて解説を加え,③について,後述の昭和25年12月26日労働省告示第19号により示された防じんマスクの規格を前提に,国家検定に合格したマスクの型式,性能及びそれらの製造所名を挙げるなどしている。また,粉じん濃度測定に関しても,個数濃度の測定方法として 日労働省告示第19号により示された防じんマスクの規格を前提に,国家検定に合格したマスクの型式,性能及びそれらの製造所名を挙げるなどしている。また,粉じん濃度測定に関しても,個数濃度の測定方法として労研式じん埃計など,重量濃度の測定方法としてインピンジャー法や電気集じん法,濾過法などが紹介,解説された。そして,上記のような防じん対策が実施された上,労働者に対する管理が徹底して初めてけい肺予防は完全になるとして,体質的な不適格者を発じん作業から除くことや定期健康診断によるけい肺及び結核の早期発見に努力すべきであることなどが述べられている。 ウ上記「珪肺」でも指摘された局所排気装置とは,一般に,特定の発生源から(通常,高濃度で)発生する有害物質を,それが周囲の空気中に拡散する前に,可能な限り発生源に近いところにおいて,吸込気流によって高濃度の状態で補足し,清浄化した上で大気中に排出する装置をいう。上記のように,局所排気装置などの粉じん対策手段についての研究が進むにつれ,昭和30年頃には,民間の工場において徐々に局所排気装置が設置されるようになり,局所排気装置の制作等を行う業者も一定数存在していた。 そして,労働省は,昭和30年から毎年,労働省要望研究課題の一つとして労働環境改善の研究を取り上げ,安全工学,医学など各分野の研究者らに研究を委託し,その成果は,昭和32年9月に発表された「労働環境の改善とその技術―局所排出装置による―」(労働省労働基準局労働衛生課監修)にまとめられた。同書は,工場における汚染空気除去のための換気法一般や粉じんの有害性から始まり,局所排気装置の重要部分である排出フード,ダクト及び排風機の設計又は選択の基礎,局所排気装置についての機能試験,保全点検の実施方法及び工場における各種の作業別に最も有効な や粉じんの有害性から始まり,局所排気装置の重要部分である排出フード,ダクト及び排風機の設計又は選択の基礎,局所排気装置についての機能試験,保全点検の実施方法及び工場における各種の作業別に最も有効な局所排気装置の設計の実例を説明している。また,末尾の資料編においては,複数のメーカーの局所排気装置等が写真入りで紹介されている。 関係法令等の概要(甲A11,14,19,28)ア旧労働基準法(昭和22年4月7日法律第49号)は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものとして労働条件を確保することを目的とするものであり(1条),使用者は,粉じん等による危害防止等のために必要な措置を講じなければならないものとし(42条等),労働者は,危害防止のために必要な事項を遵守しなければならないものとしている(44条)。また,同法では,使用者は,労働者を雇い入れた場合にその労働者に安全衛生教育を実施しなければならないものとされている(50条)。そして,上記の各規定に違反した者には罰則が科されるものとしている(119条1号,120条1号)。 イまた,旧労働基準法42条ないし44条までの規定により使用者が講ずべき措置及び労働者が遵守すべき事項は命令に委任されており(45条),旧労働安全衛生規則(昭和22年労働省令第9号)がその内容を定めている。これによれば,事業者は,粉じんを発散する等衛生上有害な作業場においては,その原因を除去するため,作業又は施設の改善に努めなければならず(172条),粉じんを発散する屋内作業場 においては,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他新鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならず(173条),屋外又は坑内において, は,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他新鮮な空気による換気等適当な措置を講じなければならず(173条),屋外又は坑内において,著しく粉じんを飛散する作業場においては,作業の性質上やむを得ない場合を除き,注水その他粉じん防止の措置を講じなければならず(175条),多量の粉じんを発散するなど衛生上有害な場所における業務においては,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えなければならない(181条)などとされている。なお,これらの規定を含む旧労働基準法42条以下に定められていた安全及び衛生に関する規定は,昭和47年に労働安全衛生法が公布されるに当たって改正され,労働者の安全及び衛生に関しては,同法の定めるところによるものとされた。 ウ昭和25年12月26日労働省告示第19号において,労働衛生保護具のうち,防じんマスクの規格が示され,各種防じんマスクについて型式検定が義務付けられ,同検定は労働省労働衛生保護具検定室で行われることになった。 エ労働省は,昭和31年5月18日付けで,「特殊健康診断指導指針について」(基発第308号)と題する通達を発出し,同通達において,過去の試験研究及び実態調査の結果等を検討し,差し当たり明らかに衛生上有害な業務又は有害であることについて一般に認められてはいるが,なお検討の余地を残す有害のおそれのある業務のうち主要なものについて,使用者の自発的措置として特殊健康診断を実施するよう指導し,有害な又は有害のおそれある主要な作業の一つとして,石綿をときほぐす場所における作業,石綿を混合する場所における作業,石綿を織る場所における作業などを挙げた。 オ労働省労働基 導し,有害な又は有害のおそれある主要な作業の一つとして,石綿をときほぐす場所における作業,石綿を混合する場所における作業,石綿を織る場所における作業などを挙げた。 オ労働省労働基準局長は,昭和33年5月26日付けで,都道府県労働基準局長宛ての「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」(基発第338号)と題する通達を発出した。同通達では,関連事業場の職業病予防対策実施上の参考に供するため,粉じん作業等につき労働環境の改善等予防対策でよるべき一般的措置の種類がその別紙「労働環境における職業病予防に関する技術指針」(環境改善技術指針。 甲A19の2)に定められ,その実施の促進が指示された。 環境改善技術指針は,上記通達の趣旨につき,労働環境の改善に関する技術上の問題点がある程度解決し得るに至ったので一般的措置の種類を定めたものであるとして,作業の種類,発散有害物,その抑制目標限度,準拠すべき測定法及び労働環境に対する措置等を定めた。具体的には,石綿をときほぐす場所,石綿を混合する場所並びに石綿及び石綿製品を切断し又は研磨する場所における作業については, ①石綿粉じんの抑制目標限度を1立方センチメートル当たり1000個(1立方メートル当たり20ミリグラム)とすること,②測定法を,労研式じん埃計法,インピンジャー法,沪紙式じん埃計法,電気集じん器法とすること,③労働環境に対する措置として,局所排気装置(その技術方法について参考書が添付されていた。)を設けること,④でき得る限り窓を開放すること,⑤局所排出の吸引気流外で作業すること,⑥防じんマスクに関し,労働環境に対する措置を行っても抑制目標限度以下にならない場合には検定に合格した防じんマスクを着用すること,⑦抑制目標限度以下であっても粉じんが1立方センチメートル当たり と,⑥防じんマスクに関し,労働環境に対する措置を行っても抑制目標限度以下にならない場合には検定に合格した防じんマスクを着用すること,⑦抑制目標限度以下であっても粉じんが1立方センチメートル当たり400個(1立方メートル当たり8ミリグラム)以上の場合には,でき得る限り検定に合格した防じんマスクの着用を勧奨することなどが指針として定められた。また,石綿を積込み又は運搬する作業については,でき得る限り局所排出装置を設けること,検定に合格した防じんマスクを着用することが指針として定められた。 カまた,昭和35年3月31日にじん肺法が制定されたところ,同法は,前提事実記載のとおり石綿肺をも含むようにじん肺を定義しており,事業者に対し,じん肺の予防のための措置を講ずるよう努める義務を課すほか(5条),じん肺に関する予防及び健康管理のために労働者に必要な教育を実施する義務を課しており(6条),同法6条の規定に違反した者には罰則が科される(45条1項)。 羽島工場の概要(甲B9,11,乙11ないし13) 羽島工場は,昭和18年に被告により操業が開始され,それ以降,各種石綿製品が同工場において製造されてきた。羽島工場においては,クロシドライトについては昭和46年,アモサイトについては平成3年,クリソタイルについては平成15年にそれぞれ使用が中止されているが,それまでの間は上記各種石綿が使用されてきた。 羽島工場の昭和33年頃の建物の位置関係は概ね別紙建物配置図のとおりである。 原告らが従事していた作業の内容及び石綿粉じんの発生,飛散状況(甲B9,10,甲C7,乙11ないし15,20ないし24,26,乙C4,25,証人D,証人E第1回,証人F,証人G,原告A第1回,原告B。ただし,以下の認定に反する部分を除 じんの発生,飛散状況(甲B9,10,甲C7,乙11ないし15,20ないし24,26,乙C4,25,証人D,証人E第1回,証人F,証人G,原告A第1回,原告B。ただし,以下の認定に反する部分を除く。)原告らが羽島工場において従事していた作業の内容及び各作業における石綿粉じんの発生,飛散状況は以下のとおりである。 ア保温材製造部門での作業 保温材製造部門では,シリカライト(カルシウムシリケートと石綿繊維を主成分とする,ブロック状,筒状又は板状の成型保温材をいう。)とスーパーライト(塩基性炭酸マグネシウムと石綿繊維を主成分とする,ブロック状,筒状又は板状の成型保温材をいう。)を製造する作業を行っていた。これらの保温材は,工場,発電所,船舶等のボイラー・配管等の保温・断熱のために用いられていた。 作業工程(昭和43年頃まで) 昭和43年頃までにおけるシリカライトの製造工程は,以下のaないしgのとおりである。スーパーライトの製造工程も,dの工程がない他はシリカライトの製造工程と概ね同様である。 a 混合場(シリカライトについては別紙建物配置図の34の建物内に,スーパーライトについては同14の建物内にある。以下,これらを併せて「混合場」という。)において,石灰とケイ藻土に石綿等を混合し,それを蒸気で熱したものを容器に入れ,2時間半ほど置いておく。 baの容器の底から水を抜き,固まった石灰とケイ藻土と石綿等の混合物を容器ごと混合場と同じ建物内にある作業場まで持って行く。 c 上記作業場において,bの混合物をスコップでほぐし,作業台の上の金型に詰めて上蓋をし,プレス機に入れて圧縮して水を抜く。プレス機で圧縮したときに材料自体が水を抜く穴から押し出されてしまわないよう上下の金型には目の細か ,bの混合物をスコップでほぐし,作業台の上の金型に詰めて上蓋をし,プレス機に入れて圧縮して水を抜く。プレス機で圧縮したときに材料自体が水を抜く穴から押し出されてしまわないよう上下の金型には目の細かい金網を敷いておく。 d 作業台の上で,金型から半製品を取り外し,取り外された半製品を蒸釜用トロッコに載せ替え,レール上を移動させてトロッコのままシリカライト混合場の東側にある蒸釜に1日間入れておく。 e 上記蒸釜から出した半製品を棚状の乾燥機用トロッコに載せ替え,レール上を移動させて,別紙建物配置図の12,13及び51の建物内にあった乾燥機に入れて約1日間乾燥させる。 f 乾燥が終わると,乾燥機から乾燥機用トロッコを出してレール上に何台も並べ,3人か4人が一組となり,二組で2台ずつ,レール上の乾燥機用トロッコを後ろから押して仕上場(別紙建物配置図の11の建物の北側半分)内の箱詰作業場まで運び, そこで製品を縁台上のタンカ(金属製のアングルにバーを渡したもの)に載せ替える。 昭和38年頃,この作業にターレットが導入され,ターレットで乾燥機用トロッコを押すようになり,その頃から倉庫係の従業員がこの作業を担当することになった。 g 箱詰作業場において,必要があれば帯鋸などで注文に応じた大きさに切断し,大きさ別に仕分けした後,製品を段ボール箱に箱詰めする。この作業については,仕分作業部分は主に保温材製造部門の女性社員の,箱詰め作業部分は主に倉庫係の担当であった。 作業工程(昭和43年頃から)昭和43年頃,新たに仕上場の南側に保温材成型場(以下「新成型場」という。)が,その南側に混合場(以下「新混合場」という。)が設立され,半製品を蒸釜に入れる前の工程(上記からdの途中までの工程)が自動化され ,新たに仕上場の南側に保温材成型場(以下「新成型場」という。)が,その南側に混合場(以下「新混合場」という。)が設立され,半製品を蒸釜に入れる前の工程(上記からdの途中までの工程)が自動化された。自動化後のシリカライトの製造工程は以下のとおりである。なお,この時点では既にスーパーライトの製造はされていなかった。 a 新混合場において,石綿を麻袋から取り出しベルトコンベアに載せる。すると,石綿はベルトコンベアから開綿機に送られ,開綿された石綿がエアで同建物の2階に送られ,混合槽に投入される。併せてケイ藻土と石灰も自動的にタンクから配管を通じて混合槽に投入される。この作業に関し,混合槽の落とし口に石綿が詰まることがあり,その場合には,混合槽に設置された小窓から身体を入れて,詰まっている石綿をこそぎ落とす作業をする必要があった。 b 上記混合槽内で,ケイ藻土,石灰及び石綿が自動的に混合され,水が加わって更に混合される。その後,これらの混合物は,配管を通じて自動的に新成型場内にある 反応槽に送られる。反応槽では,これらの混合物に蒸気がかけられ,温度を上げて更に撹拌される。 c 反応槽で撹拌され終わった混合材料は,自動的に新成型場内にある成型機(カバー用,ボード用)に投入され,プレスで水を抜かれ,成型される。 d 成型された半製品を蒸釜用トロッコに載せ替え,レール上を移動させてトロッコのまま新成型場内にある蒸釜に1日間入れておく。半製品を蒸釜用トロッコに載せる際には,半製品同士がくっつかないようにするために,これらの間にブリキ板を差し込む。 e 上記蒸釜から出した半製品を棚状の乾燥機用トロッコに載せ替え,レール上を移動させて,乾燥機に入れて約1日間乾燥させる。半製品を乾燥機用トロッコに載せ替える際には,上記 リキ板を差し込む。 e 上記蒸釜から出した半製品を棚状の乾燥機用トロッコに載せ替え,レール上を移動させて,乾燥機に入れて約1日間乾燥させる。半製品を乾燥機用トロッコに載せ替える際には,上記dで差し込んでおいたブリキ板を取り外す。 f 乾燥が終わると,乾燥機から乾燥機用トロッコを出して,レール上の乾燥機用トロッコをターレットによって後ろから押して仕上場内の箱詰作業場まで運び,そこで製品を縁台上のタンカ(金属製のアングルにバーを渡したもの)に載せ替える。この時点ではこの作業は,保温材製造部門ではなく,倉庫係の担当になっていた。 g 箱詰作業場において,必要があれば帯鋸などで注文に応じた大きさに切断し,大きさ別に仕分けした後,製品を段ボール箱に箱詰めする。この作業については,仕分作業部分は主に保温材製造部門の女性社員の,箱詰め作業部分は主に倉庫係の担当であった。 各作業工程における粉じんの発生・飛散状況a 昭和43年頃までの作業工程(上記 )について 上記の作業工程のうち,半製品が乾燥機に入れられるまでの工程(aないしe)については,半製品が水分を含んでいる状態であり,石綿粉じんが飛散することはなかった。 一方,乾燥機から仕上場内の箱詰作業場まで乾燥機用トロッコを押して移動させる工程(f)では,既に半製品は乾燥している状態であり,その表面や角の部分から石綿粉じんが発生していた。そして,乾燥機用トロッコを動かすレールのジョイント部でトロッコが弾んだ際に半製品から発生した石綿粉じんが飛散し,後ろからトロッコを押す従業員に降りかかった。 仕上場内において,製品を乾燥機用トロッコから載せ替える作業や製品を箱詰めする作業(f及びg)では,製品から石綿粉じんが発生した。また,仕上場の建物内で トロッコを押す従業員に降りかかった。 仕上場内において,製品を乾燥機用トロッコから載せ替える作業や製品を箱詰めする作業(f及びg)では,製品から石綿粉じんが発生した。また,仕上場の建物内では,保温材を帯鋸で切断する作業が行われており,同帯鋸には集じん機が付いていたものの,集めきれなかった若干の石綿粉じんは残っていた。このように,仕上場内の各作業において石綿粉じんが発生していたため,それらの石綿粉じんが仕上場内の床に堆積しており,人が動いたり物を動かしたりすると,石綿粉じんが舞い上がる状態であった。 b 昭和43年頃からの作業工程(上記 )について上記の作業工程のうち,aの作業において,石綿を麻袋からかき出してベルトコンベアに載せる際,袋内に溜まっていた若干の石綿粉じんが飛散した。 また,混合槽の落とし口に石綿が詰まった時に石綿をこそぎ落とす作業をする際には,水分が混ざる前の乾燥した石綿の塊が細かく砕けて,その作業をする従業員の頭に砕けた石綿が降り注いだ。 その後,半製品が乾燥機に入れられるまでの工程(bないしe)については,自動化前と同様,半製品が水分を含んでいる状態であり,半製品から石綿粉じんが飛 散することはなかった。もっとも,eの作業の際には,蒸釜用トロッコから取り外したブリキ板を地面に下ろした際などに,地面に積もっていた石綿粉じんが舞い上がることがあった。 乾燥機から仕上場内の箱詰作業場まで乾燥機用トロッコを押して移動させる作業(f),仕上場内において製品をトロッコから載せ替える作業や製品を箱詰めする作業(f及びg)については,自動化前と同様の状態であり,製品等から発生した石綿粉じんが飛散する状態であった。 イ 「別荘」での作業保温材製造部門の従業員は,別紙建物配置図 箱詰めする作業(f及びg)については,自動化前と同様の状態であり,製品等から発生した石綿粉じんが飛散する状態であった。 イ 「別荘」での作業保温材製造部門の従業員は,別紙建物配置図の19の建物(羽島工場では別荘と呼ばれていた。以下,単に「別荘」という。)での作業も命じられることがあった。 別荘においては,昭和34年から昭和38年頃の間,以下の2つの作業が行われていた。 a 石綿原綿の開綿作業麻袋に入った石綿原綿を麻袋から取り出して機械(粉砕機)に入れ綿状にする。従業員は,出てきた石綿を箱に入れる作業をするが,その際,できるだけ大量に箱に入るよう,綿状になった石綿を上から棒で押さえつけていた。 b 吹付けアスベストを作る作業石綿とケイ藻土をコンクリートの床にぶちまけ,スコップを使って混ぜ合わる。そして,混合した材料を木箱に入れ,一斗缶ですくってベルトコンベアに載せる。ベルトコンベアに載せられた石綿とケイ藻土の混合物は,ベルトコンベアの終点で撹拌機に入れられ,撹拌される。最後に,撹拌された材料を撹拌機の下で紙袋に入れて袋詰めし,袋の口にミシンがけをして封をする。 別荘内の石綿粉じんの発生・飛散状況別荘内で用いられた石綿やケイ藻土等の原材料はいずれも乾燥しており,上記各作業によって石綿粉じんが発生していた。特に,上記の作業でそれらの原材料を床に ぶちまける際や混ぜ合わせる際に,大量の石綿粉じんが発生,飛散した。後述のとおり,同所では,扇風機を建物の外に向けて回すことによる換気が行われていたが,飛散した石綿粉じんすべてを屋外に排出するには到底至らず,別荘内には視界が悪くなるほどの大量の石綿粉じんが飛散している状態であった。 ウ倉庫係の作業倉庫係の作業は,大別すると以下のとお 飛散した石綿粉じんすべてを屋外に排出するには到底至らず,別荘内には視界が悪くなるほどの大量の石綿粉じんが飛散している状態であった。 ウ倉庫係の作業倉庫係の作業は,大別すると以下のとおりであり,倉庫係の従業員は,これらの作業を1日ごとのローテーションで行っていた。 a 保温材運搬作業上記の作業である。昭和38年頃,同作業にターレットが導入され,この頃から倉庫係がこの作業を担当するようになった。 b 耐火板運搬作業耐火板製造工場(別紙建物配置図の24の建物)で作られた耐火板(建物の天井や壁に使う板状の建築資材)を同工場から耐火板仕上場(別紙建物配置図の27の建物の南側に昭和33年より後に新築された建物)内までフォークリフトで運搬したり,耐火板仕上場内でフォークリフトを使って移動させたりする作業である。 c 原材料配達作業原料保管倉庫(別紙建物配置図の21の建物)に保管されていた石綿,石灰及びケイ藻土等の原材料を,フォークリフトやターレットを用いて,混合場等へ配達する作業である。また,この作業を担当する日は,午後3時頃以降,堀津倉庫まで赴き,同倉庫から羽島工場まで石綿の入った袋を運ぶ作業を行っていた。いずれの作業においても,石綿の入った袋は,手鉤を使用して積み下ろすなどしていた。 d 小口原材料配達作業倉庫(別紙建物配置図の20の建物)から,絶縁部やふとん部やパッキング部など石綿製品を製造する部署へ,それらの製造に必要な原料をフォークリフトやターレッ, トを使って配達する作業である。この作業を担当した日も,上記cと同様,堀津倉庫から羽島工場まで石綿の入った袋を運ぶ作業を行っていた。 e 耐火板出荷作業耐火板の完成品を耐火板置場(別紙建物配置図の27の建物)からフォークリフト 業を担当した日も,上記cと同様,堀津倉庫から羽島工場まで石綿の入った袋を運ぶ作業を行っていた。 e 耐火板出荷作業耐火板の完成品を耐火板置場(別紙建物配置図の27の建物)からフォークリフトで運び出し,トラックに積み込む作業である。 f 原料保管倉庫内作業及び雑務原料保管倉庫における倉庫内作業としては,トラックで運ばれてきて積み下ろされた石綿が入った袋を原料保管倉庫内の所定の保管場所付近まで運ぶ作業などがあった。雑務としては,保温材の箱詰め作業(上記ア及びア )に加え,耐火板仕上場で発生するガラやくず,丸鋸や穿孔機についている集じん機で集めた粉じんをスクラップ置場に持って行く作業及びスクラップ置場にたまった粉じん等をトラックに積み込み,所定の埋立地に投棄する作業などがあった。 各作業の石綿粉じんの発生・飛散状況a保温材運搬作業(a)について乾燥した半製品の表面や角の部分からは石綿粉じんが発生する状態であり,ターレットが導入されても,レールのジョイント部でトロッコが弾んだ際に,乾燥した半製品から石綿粉じんが発生,飛散することに変わりはなかった。 b 耐火板運搬作業(b)について耐火板仕上場においては,耐火板を切断・研磨したり,耐火板に穴を開けたりする作業が行われており,切断機(丸鋸)やペーパーサンダーには集じん機が付いていたものの,集めきれなかった相当量の石綿粉じんが発生,飛散していた。また,同建物の一角には,他の空間と隔離されていない廃材置場があり,集じん機にたまった粉じんがぶちまけられていた。これらにより,同建物内においては,床が白く見える程度に石綿粉じんが堆積していた。同建物内をフォークリフトで移動すると, 床に堆積していた石綿粉じんが舞い上がり,飛散した。また,耐火板をパレット上に り,同建物内においては,床が白く見える程度に石綿粉じんが堆積していた。同建物内をフォークリフトで移動すると, 床に堆積していた石綿粉じんが舞い上がり,飛散した。また,耐火板をパレット上に横倒しにして積み上げる際,表面から発生し又は床に堆積していた石綿粉じんが横倒しにした際の風圧で舞い上がり,飛散した。 c 原材料配達作業(c)について原料保管倉庫に保管していた石綿及び堀津倉庫から運んでくる石綿は,編み目の粗い麻袋に入っており,これらの積み下ろしをする際,手鉤の使用によって破れた穴や麻袋の編み目の隙間から石綿が多少こぼれることがあり,若干の石綿粉じんが発生した。 d 小口原材料配達作業(d)について小口原材料が保管されている倉庫の床には,袋からこぼれた石綿を含む各種原材料の粉じんが堆積しており,ターレットで同倉庫内に入ると,床に堆積している石綿粉じんが舞い上がった。 e 耐火板出荷作業(e)について耐火板置場の床にも,耐火板から発生する石綿粉じんが積もっており,フォークリフトを使用すると,その排気ガスで石綿粉じんが舞い上がった。 f 倉庫内作業及び雑務(f)について原料保管倉庫において石綿の積み下ろしなどをする際,石綿が入っていた麻袋の破れた部分などから石綿がこぼれ落ち,若干量の石綿粉じんが発生,飛散した。また,スクラップ置場の粉じん等をトラックに積み込む際やこれを埋立地に投棄する際,相当量の石綿粉じんが飛散した。 被告による粉じん対策(甲B10,甲C7,乙18ないし24,26,乙C11ないし21,証人D,証人E第1回,証人F,原告A第1回,原告B。ただし,以下の認定に反する部分を除く。) 原告Aが羽島工場での勤務を開始した昭和34年以降,被告においては,以下のような粉じん対策がとられて ,証人D,証人E第1回,証人F,原告A第1回,原告B。ただし,以下の認定に反する部分を除く。) 原告Aが羽島工場での勤務を開始した昭和34年以降,被告においては,以下のような粉じん対策がとられていた。 ア粉じん濃度の測定について被告は,少なくとも原告Aが被告に入社した昭和34年頃から昭和40年前半頃までの間は,粉じん濃度を測定していなかった。 イ石綿粉じんの発生・飛散防止措置について 別荘原告らが作業に従事していた昭和34年から昭和38年頃までの間,別荘には局所排気装置は設置されておらず,作業が行われる際には,換気のため窓が開けられており,さらに,粉じんを建物の外に飛ばすため,北側の通路に向けて扇風機を回していた。別荘においては,飛散した石綿粉じんすべてを屋外に排出するには到底至らず,別荘内には大量の石綿粉じんが飛散し,視界も悪いというような状態であった(なお,被告は,別荘の天井にルーフファンが設置されていた旨主張し,証人Dもその旨供述するが,原告らはいずれもこれを否定している。そして,本件全証拠によっても,別荘の天井にルーフファンが設置されていたことを認めるに足る適確な証拠はなく,この事実を認めることはできない。)。 仕上場 a 仕上場は,原告らが同所での作業に従事していた間,屋外から続くトロッコのレールが東西に建物を貫通する構造になっており,東西の側面には扉が付いていたところ,それらの扉や窓は作業時は常時開放されていた。 b 仕上場では,原告らが同所での作業に従事していた間,保温材を帯鋸で切断する作業が行われていたところ,帯鋸には集じん機が付いていた。ただし,上記のとおり,同集じん機によっても完全に石綿粉じんの飛散を防止することはできず,若干の石綿粉じんが飛散した。 材を帯鋸で切断する作業が行われていたところ,帯鋸には集じん機が付いていた。ただし,上記のとおり,同集じん機によっても完全に石綿粉じんの飛散を防止することはできず,若干の石綿粉じんが飛散した。 c また,原告らが仕上場での作業に従事していた間,仕上場まで運ばれた乾燥機用トロッコから保温材を取り出す作業を行う場所の床下には,床下集じん装置が設け られており,床下に大きな穴を掘ってあり,製品から落ちる石綿粉じんがその穴に落ちる仕組みになっていた。もっとも,これも上記のとおり石綿粉じんの発生・飛散を十分防止することはできず,仕上場内には相当量の粉じんが飛散することになった。 その他の建物における設備等 a スーパーライトについての混合場と乾燥機がある建物の間には,昭和29年の時点で,サイクロン除じん機が設置されていた(ただし,昭和36年頃には,サイクロン除じん機は耐火板製造工場の北側に設置されていたものと認められ,昭和29年から昭和36年頃の間に移転された可能性がある。)。 b 耐火板仕上場において,原告らが作業に従事していた間,耐火板を切断する切断機(丸鋸)やペーパーサンダーには集じん機が付いていた。ただし,上記のとおり,同集じん機によっても完全に石綿粉じんの発生を防止することはできず,相当量の石綿粉じんが発生していた。また,同建物の一角には,他の空間と隔離されていない廃材置場があり,集じん機にたまった粉じんがぶちまけられていた。これらにより,同建物内においては,床が白く見える程度に石綿粉じんが堆積していた。 c 原告らが作業に従事していた間,原料保管倉庫の西側及び北側の2か所には扉が設置されており,作業時間内は,常時開け放たれており,空気が通る状態であった。 ウマスクの支給等について 原告らが作業に従事していた間,原料保管倉庫の西側及び北側の2か所には扉が設置されており,作業時間内は,常時開け放たれており,空気が通る状態であった。 ウマスクの支給等について 被告は,従業員に対し,昭和32年頃の時点では,ガーゼマスクを支給していたが,原告Aが入社した昭和34年3月時点では,スポンジマスクを支給しており,昭和38年頃には,防じんマスク(乙20写真㊲に映っているものをいう。以下「本件防じんマスク」という。)を支給するようになった。 被告は,後述のように昭和37年に安全衛生規定を定め,従業員に対してマスクの着用を義務付けた。もっとも,原告らが作業に従事していた間,原告ら従業員は,上記のとおり粉じんを吸入する可能性がある作業に従事する際にも,上記マスクをしないことがあり,それについて,被告から,特に注意などはされていなかった。 また,本件防じんマスクは,薄い青の外観の中にフィルターが付いており,このフィルターは取り外しができるものであった。上記スポンジマスクや本件防じんマスクを継続して使用しているとスポンジやフィルターが目詰まりし,呼吸が苦しくなることがあったため,これを定期的に掃除したり,交換したりする必要があり,被告は,各従業員に向けて予備のマスクとフィルターを準備し,配布する体制を整えていた。 もっとも,現実には,原告ら従業員がマスクやフィルターの交換を求めても,直ちにこれに応じてもらえず,洗って使うよう指示されることもあった。 エ安全教育等について安全衛生委員会の設置,安全衛生規定の整備羽島工場においては,昭和37年,安全衛生委員会を置くとともに,安全衛生規定が定められた。同規定では,衛生管理者を置き,同人が労働者の衛生教育,健康相談及び衛生用保護 の設置,安全衛生規定の整備羽島工場においては,昭和37年,安全衛生委員会を置くとともに,安全衛生規定が定められた。同規定では,衛生管理者を置き,同人が労働者の衛生教育,健康相談及び衛生用保護具等の点検,整備などの業務を行うものとされていた。また,同規定では,粉じんの発散する業務に携わる者は呼吸用保護具を使用しなければならないと定められていた。 安全教育の実施被告は,昭和40年の時点では,新入社員に対して,「従業員教育テキスト」を配布し,その中には,粉じんを吸うと病気になることがあることや粉じんの多い作業場で は防じんマスクを着用するべきことが記載されていた。また,羽島工場では,昭和41年の労働衛生週間(10月1日から同月7日)において,「職場にほこりはつきものです。」「新鮮な空気を吸うようにしよう。」「定められたところでは防じんマスクをしよう。」などと呼びかけるスライドを上映し,その内容を従業員に配布される社内報にも記載していた。昭和50年代には,従業員に対し,粉じん衛生教育について修了テストを実施したり,従業員同士で健康に関する討論をさせたりするなどの安全衛生教育を実施するようになった。 ⑺ 原告Aの経歴,羽島工場における職務内容及び石綿粉じんへの曝露の有無(甲B1,10,原告A第1回)ア原告Aは,昭和18年4月11日出生し,昭和34年3月21日に被告に入社した後,昭和42年12月25日に退職するまでの間,羽島工場において勤務した。 原告Aは,昭和43年10月に不二精工株式会社に入社し,平成15年4月に同社を定年退職するまでの間,同社において,ビードワイヤというタイヤのゴムの部分をホイールに固定するための部品を製造する業務に従事した。 イ昭和34年3月から昭和38年頃の就労状況原告 に同社を定年退職するまでの間,同社において,ビードワイヤというタイヤのゴムの部分をホイールに固定するための部品を製造する業務に従事した。 イ昭和34年3月から昭和38年頃の就労状況原告Aは,昭和34年3月から昭和38年頃までの間,保温材製造部門に配属されていた。そして,上記ないしfの工程を担当したことがあった(gの工程については担当していなかった。)。また,この頃,少なくとも週に1日は,上記⑸イの別荘での作業にも従事していた。 ウ昭和38年頃から昭和42年12月の就労状況原告Aは,昭和38年頃,保温材製造部門から倉庫係に配置換えになった。原告Aは,上記aないしfの作業を1日ごとのローテーションで行っていた。原告Aは,この頃には,上記⑸イの別荘での作業をすることはなかった。 エ原告Aの石綿粉じんへの曝露状況原告Aの就労状況及び各作業における石綿粉じんの発生状況は上記のとおりであり,原告Aは,石綿粉じんが発生,飛散していた各作業に従事する際に石綿粉じんに曝露した。特に,上記のとおり別荘においては大量の石綿粉じんが飛散しており,原告Aは,別荘における作業をする際,大量の石綿粉じんに曝露していた。原告Aは,上記各作業に従事する際,被告から支給されたスポンジマスクや本件防じんマスクをしないこともあった。 ⑻ 原告Bの経歴,羽島工場での職務内容及び被告における石綿粉じんへの曝露の状況(甲C1,7,9,原告B)ア原告Bは,昭和10年3月7日に出生し,昭和26年から昭和35年10月までの間,染色工場や金属鉱山において勤務した後,昭和35年10月に被告に入社し,その後平成7年3月31日に定年退職するまでの間,羽島工場において勤務した。 イ昭和35年10月から昭和59年6月頃の就労状況 金属鉱山において勤務した後,昭和35年10月に被告に入社し,その後平成7年3月31日に定年退職するまでの間,羽島工場において勤務した。 イ昭和35年10月から昭和59年6月頃の就労状況原告Bは,昭和35年10月から昭和59年6月頃までの間,保温材製造部門に配属されており,上記aないしfの作業 作業を担当し(なお,昭和38年頃以降はfの作業は担当していない。),自動化後は,上記ないしeの作業を担当していた。 また,原告Bは,昭和38年頃までは,週に2,3日の割合で,上記⑸イの別荘での作業にも従事していた。 ウ昭和59年7月頃以降の就労状況 原告Bは,昭和59年7月頃,保温材製造部門からパッキン製造部門に配置換えになった。その後,原告Bは,平成6年7月には総務部に配置換えになり,工場内や事務所内の清掃等の雑務に従事するようになり,平成7年3月31日に定年退職した。 エ原告Bの石綿粉じんへの曝露状況原告Bの就労状況及び各作業における石綿粉じんの発生状況は上記のとおりであり,原告Bは,石綿粉じんが発生する各作業に従事する際に石綿粉じんに曝露した。 特に,上記のとおり,別荘においては大量の石綿粉じんが飛散しており,原告Bは,別荘における作業をする際,大量の石綿粉じんに曝露していた。原告Bは,上記各作業に従事する際,被告から支給されたスポンジマスクや本件防じんマスクをしないこともあった。他方,パッキン製造部門に配置換えになった昭和59年7月以降は,原告Bはほとんど石綿粉じんに曝露することはなかった。 について労働契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが,通常の場合,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器 について労働契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが,通常の場合,労働者は,使用者の指定した場所に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて労務の提供を行うものであるから,使用者は,報酬支払義務にとどまらず,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において,労働者の生命及び健康等を危険から保護するように配慮する義務,いわゆる安全配慮義務を信義則上負っていると解される。そして,安全配慮義務の前提として使用者が認識すべき予見義務の内容は,労働者の生命・健康という被害法益の重大性に鑑みると,安全性に疑念を抱かせる程度の抽象的な危惧があれば足り,必ずしも,生命・健康に対する障害の性質・程度や発症頻度まで具体的に認識する必要はないというべきである。本件においても,被告において,労働者が石綿粉じんに曝露することにより,その生命・健 康に重大な障害が生じる危険性があることについて認識し得るのであれば,安全配慮義務違反の前提となる予見可能性があるというべきである。 これを本件についてみると,前記認定事実によれば,①我が国においても,戦前の段階で,既に相当数の石綿粉じんに係る健康被害に関する調査研究がなされ,その報告がされるとともに,海外の知見が紹介されていたこと,②昭和22年に制定された旧労働基準法及び旧労働安全衛生規則により,労働者を粉じん等による危害から保護するよう定められたこと,さらに,③昭和31年から昭和34年にかけて,労働省の委託による大規模な石綿肺等のじん肺に関する研究が行われ(被告の王寺工場も調査対象となった。),昭和32年3月及び昭和33年3月の研究報告において,石綿肺についての一応の診断基 年にかけて,労働省の委託による大規模な石綿肺等のじん肺に関する研究が行われ(被告の王寺工場も調査対象となった。),昭和32年3月及び昭和33年3月の研究報告において,石綿肺についての一応の診断基準が示されるとともに,石綿肺が重大な疾病であることが指摘されたこと,④昭和33年5月26日には,労働省労働基準局長が環境改善技術指針において,労働環境の改善に関する技術上の問題点がある程度解決し得るに至ったとして,粉じん作業等につき労働環境の改善等予防対策のよるべき一般的措置の種類を具体的に定め,その中で石綿粉じんに関する措置も定めたこと,以上の事実が認められる。 上記の事情によれば,我が国においても,戦前から戦後にかけて,石綿肺に関する医学的知見が積み上げられ,上記③の研究報告が発表されるに至り,上記④ のとおり,公的機関によって,労働環境の改善に関する技術上の問題点がある程度解決し得るに至ったとして,石綿粉じんに対する各種予防対策措置が指針として示されたのであるから,遅くとも上記④の環境改善技術指針が定められた昭和33年5月26日の時点においては,石綿肺及びその予防に係る知見が既に確立していたというべきである。 これに対して,被告は,一般に,医学的知見が確立するためには一定の過程・時間が必要であるなどとして,石綿肺に関する医学的知見が確立されたのは,早くともじん肺法が制定される直前の時点である旨主張する。確かに,医学的知見が確立するには一定の過程が必要であることは被告の指摘するとおりであるが,石綿肺に関しては,上記のとおり,戦前から相当数の研究・報告が重ねられた上で,上記③ の研究報告が発表されていることなどからすれば,昭和33年5月26日の時点では,既に医学的知見が確立するための十分な過程を経ているものというべきである から相当数の研究・報告が重ねられた上で,上記③ の研究報告が発表されていることなどからすれば,昭和33年5月26日の時点では,既に医学的知見が確立するための十分な過程を経ているものというべきである。 上記のとおり,遅くとも昭和33年5月26日の時点において既に石綿肺に関する医学的知見が確立していたことに加え,被告が石綿製品の製造を取り扱う国内有数の株式会社であったこと(弁論の全趣旨)にも照らせば,被告は,原告らが勤務していた時期(昭和34年以降)において,原告ら従業員が石綿粉じんに曝露することにより,石綿肺等その生命・健康に重大な障害を与える危険性があることについて当然認識することができ,かつ認識すべきであったというべきである。 したがって,被告には,安全配慮義務の前提となる予見可能性があったと認められる。 被告の安全配慮義務の具体的内容及び被告が同義務に違反したか否か)について上記判示のとおり,被告には,従業員が石綿粉じんに曝露することにより,その生命・健康に重大な障害が生じる危険性があるとの予見可能性があったと認められるため,労働契約上の付随的義務として安全配慮義務を負っている被告は,原告ら従業員に対し,昭和34年以降,石綿粉じんの発生・飛散の防止及び粉じん吸入の防止についてその時期に応じて必要な措置を講じ,粉じん作業従事者のじん肺罹患やその増悪を防止するべき義務を負っていたものと解される。 本件において,原告らは,被告には,原告らが勤務している当時の知見に基づく実践可能な最高の工学的水準に基づいて石綿粉じん対策をとる義務があったと主張し,そ の具体的内容として,①粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務,②石綿粉じんの発生・飛散防止措置(局所排気装置や全体換気装置の設置な 粉じん対策をとる義務があったと主張し,そ の具体的内容として,①粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務,②石綿粉じんの発生・飛散防止措置(局所排気装置や全体換気装置の設置ないし湿潤化措置)をとる義務,③適切な呼吸用保護具を適正に使用させる(十分な性能を有する国家検定品(特級)である防じんマスクを配布し,その着用等を指導監督する)義務,④石綿肺及び石綿粉じん対策について,定期的に安全教育や安全指導を行う義務を挙げている。 そこで,以下,被告においてこれらの義務を安全配慮義務の具体的内容として負っていたか否か,負っていたとして当該義務に違反していたと認められるか否かを検討する。なお,被告は,原告らによる安全配慮義務違反の特定が不十分であると主張するが,原告らの上記主張は,被告が負う安全配慮義務の内容を十分具体的に特定しているというべきであるから,この点に係る被告の主張は採用できない。 粉じん濃度を測定し,その結果に従い改善措置を講じる義務ア先に検討したように,昭和33年5月26日の時点においては,石綿肺及びその予防に係る知見が既に確立していたと認められる。そして,その予防に係る知見の具体的な内容としては,粉じん作業従事者の石綿肺罹患やその増悪を防止するための適切な措置を講じるためには,その前提として,粉じんの濃度を測定して現状を把握し,その測定結果を適切に評価することが必要であることが指摘され,昭和33年5月26日に発出された環境改善技術指針には,石綿に関する作業について,粉じんの抑制目標限度が定められ,準拠すべき測定法として,労研式じん埃計法,インピンジャー法,沪紙式じん埃計法,電気集じん器法が挙げられていた。そうすると,被告において,原告Aが就労を開始した昭和34年の時点では,粉じん濃度を測定し 拠すべき測定法として,労研式じん埃計法,インピンジャー法,沪紙式じん埃計法,電気集じん器法が挙げられていた。そうすると,被告において,原告Aが就労を開始した昭和34年の時点では,粉じん濃度を測定した上で改善措置を講じることが重要であることの知見は確立しており,粉じん濃度を測定することも技術的に可能であったというべきである。 これらの事情に照らせば,被告の指摘するように昭和46年頃まで粉じん濃度の測定が法令で明確に義務付けられてはいなかったとしても,被告には,昭和34年の段階で,原告ら従業員の身体・健康を守るため,定期的に粉じん濃度を測定し,その結果を踏まえた改善措置をとるべき義務があったと解される。 イ先に認定したとおり,被告は,少なくとも原告Aが被告に入社した昭和34年から昭和40年代前半頃までの間は,粉じん濃度を測定しておらず,上記期間において,粉じん濃度を測定する義務を果たしていなかったというべきである。 石綿粉じんの発生・飛散防止措置をとる義務ア前記認定事実のとおり,石綿粉じんへの対策としては,まず,粉じんの発生・飛散の防止が重要であるところ,我が国においては,各種粉じんの発生・飛散防止措置として,昭和28年頃までに,粉じん発生場所の隔離や送風装置等による空気の浄化,局所排気装置の設置などの方法が紹介され,昭和30年頃には,民間の工場において徐々に局所排気装置が設置されるようになり,その頃には,局所排気装置の制作等を行う業者も一定数存在し,昭和33年5月には,環境改善技術指針において,石綿をときほぐす場所,石綿を混合する場所並びに石綿及び石綿製品を切断し又は研磨する場所における作業について,局所排気装置(その技術方法について参考書が添付されていた。)を設けること,でき得る限り窓を開放すること,石 所,石綿を混合する場所並びに石綿及び石綿製品を切断し又は研磨する場所における作業について,局所排気装置(その技術方法について参考書が添付されていた。)を設けること,でき得る限り窓を開放すること,石綿を積込み又は運搬する作業についても,でき得る限り局所排出装置を設けることなどが定められた。 そうすると,原告Aが就労を開始した昭和34年の時点で,被告において局所排気装置を設置することなど石綿粉じんの発生・飛散防止措置をとるために必要な実用性のある技術的知見が存在するに至っていたというべきである。 これらの事情を踏まえると,被告は,昭和34年の時点で,作業内容,労働環境,粉じんの発生量などに応じ,必要かつ可能であれば,石綿粉じんの発生源に局所排気 装置を設置し,これを設置しないとしても,発生源の隔離,新鮮な空気による換気などの必要な措置を講じることによって,粉じんの発生・飛散を防止すべき義務を負っていたものと解される。 なお,原告らは,石綿袋を積み込んだり,積み下ろしたりする前に石綿袋を湿らせるなどの湿潤化措置をとるべきであったと主張するが,当時,原料としての石綿を水に濡らすと,製品として用いることに技術的困難が伴うとする知見があったことから(乙16,17),このような措置をとるべき義務があったとまで認めることはできない。 以下,原告らが作業に従事した建物に関する石綿粉じんの発生・飛散防止措置について検討する。 イ別荘前記認定事実のとおり,昭和34年から昭和38年頃までの別荘における作業のうち,吹付けアスベストを作る作業では,石綿とケイ藻土を混合場のコンクリートの床にぶちまける際や,スコップを使って混ぜ合わせる際に大量の石綿粉じんが発生し,飛散したが,同所における石綿粉じんの発生・飛散防止措置として被告が行って 業では,石綿とケイ藻土を混合場のコンクリートの床にぶちまける際や,スコップを使って混ぜ合わせる際に大量の石綿粉じんが発生し,飛散したが,同所における石綿粉じんの発生・飛散防止措置として被告が行っていたのは,窓を開け,扇風機を屋外に向けて作動させるなどといった対策だけであって,その結果,別荘においては,作業中,視界が悪くなるほどの大量の石綿粉じんが飛散している状況となっていた。 別荘における作業時における石綿粉じんの飛散状況は,環境改善技術指針における石綿粉じんの抑制目標限度を超えたものであったことは明らかであり,石綿をコンクリートの床にぶちまけるという作業方法をとるにしても,ぶちまける作業の範囲を限定するなどして局所排気装置の設置が可能な環境を整えた上で,局所排気装置を設置すべき義務があったというべきである。また,より強力な送風装置等によって換気を して石綿粉じんの飛散状況の改善を図り,換気などによる飛散状況の改善が十分でない場合には,最も石綿粉じんが発生する石綿をコンクリートの床にぶちまけた後,しばらく作業を中止するなど,原告ら従業員が別荘内において視覚が悪くなるほどの大量の石綿粉じんが飛散するという状況下で作業を行うようなことがないようにするための改善措置を講じるべき義務があり,上記のような措置を講じることによって石綿粉じんに曝露することを相当程度防ぐことができたというべきである。 それにもかかわらず,被告は,窓を開け,扇風機を屋外に向けて作動させるなどといった対策しかとっておらず,その結果,別荘においては,作業中,視界が悪くなるほどの大量の石綿粉じんが飛散する状況であったのであるから,被告の対応は極めて不十分であり,上記のとおり,粉じんの発生・飛散を防止すべき義務を果たしていなかったことは明らかである。 ウ仕 なるほどの大量の石綿粉じんが飛散する状況であったのであるから,被告の対応は極めて不十分であり,上記のとおり,粉じんの発生・飛散を防止すべき義務を果たしていなかったことは明らかである。 ウ仕上場前記認定事実のとおり,昭和43年頃までの仕上場における作業については,保温材を帯鋸で切断する作業,製品を載せ替える作業,製品の箱詰作業おいて石綿粉じんが発生していた。これに対して,被告は,帯鋸に集じん機を付けたり,製品を載せ替える場所に床下集じん機を設置したりした上,窓や東西の側面にある扉を常時開けて換気をするなど,石綿粉じんの発生・飛散を防止するための一定の対応はとっていたといえる。 しかしながら,上記の一定の対応によっても,仕上場では,集じん機で集めきれなかった石綿粉じんや箱詰作業で発生した石綿粉じんなどが床に堆積し,人や物が移動する際に舞い上がる状況になっていたことからすれば,箱詰作業を実施する場所に局所排気装置を設置することが困難であったという事情があったとしても,被告が行っていた窓や東西の側面にある扉を常時開けて自然換気を図るという対応だけでは不十 分であって,送風装置等によって換気を促進すべきであり,そうすれば仕上場内における石綿粉じんの飛散は相当程度防げたといえる。 エその他の建物耐火板仕上場においても,前記認定事実のとおり,石綿粉じんが,耐火板を切断機やペーパーサンダーで切断・研磨した際に大量に発生し,耐火板を積み上げる際にも発生しており,被告は,切断機やペーパーサンダーに集じん機を付けるなどの措置をとっているものの,集めきれなかった相当量の石綿粉じんが飛散していた上,集じん機にたまった石綿粉じんが耐火板仕上場内の隔離されていない一角にぶちまけられ,それが飛散することもあった。その結果,耐火板仕 っているものの,集めきれなかった相当量の石綿粉じんが飛散していた上,集じん機にたまった石綿粉じんが耐火板仕上場内の隔離されていない一角にぶちまけられ,それが飛散することもあった。その結果,耐火板仕上場では,床が白く見える程度に石綿粉じんが堆積し,フォークリフトで移動した際に舞い上がるなどして原告ら従業員がこれに曝露していたのであるから,やはり上記集じん機を付けるなどの措置は十分なものであったとはいえず,集じん機にたまった石綿粉じんを隔離して保管したり,送風装置等によって換気を促進したりすれば,このような石綿粉じんの飛散は相当程度防げたといえる。 その他,前記認定事実のとおり,小口原材料が保管されている倉庫,耐火板置場などでも,原材料や製品等から発生した石綿粉じんが堆積し,ターレットやフォークリフトで移動した際に舞い上がり,原告ら従業員が石綿粉じんに曝露しているが,これらについても,送風装置等によって換気を促進したり,床に堆積した石綿粉じんを都度除去したりしていれば,石綿粉じんの飛散を相当程度防げたといえる。 オ以上を踏まえると,別荘,仕上場,その他の建物(耐火板仕上場,小口原材料が保管されている倉庫,耐火板置場など)において行われていた上記のような対応は,石綿製品の製造を大規模に取り扱う株式会社であった被告にとって,既に石綿に関する医学的知見が確立し,その予防についても相当の知見が確立していた当時 における有効かつ十分な対策であったとはいえず,この点について,被告は,石綿粉じんの発生・飛散防止措置を講じる義務を果たしたとは評価できない。 他方,前記認定事実によれば,原告らはそれ以外の作業においても石綿粉じんに曝露しているが,これらの作業については,局所排気装置の設置が有効かつ可能であり,発生源の隔離や新鮮な空気によ できない。 他方,前記認定事実によれば,原告らはそれ以外の作業においても石綿粉じんに曝露しているが,これらの作業については,局所排気装置の設置が有効かつ可能であり,発生源の隔離や新鮮な空気による換気によっても飛散を防止できると認めるに足りないから,被告における石綿粉じんの発生・飛散防止措置が不十分であるとはいえず,後述の適切な呼吸用保護具を適正に使用させることなどで防ぐべきものといえる。 カ以上のとおり,被告の羽島工場における石綿粉じんの発生・飛散防止措置は,上記に述べた点について,原告らが勤務していた当時において求められる水準に達しておらず,被告は,石綿粉じんの発生,飛散防止措置を講じる義務を果たしていなかったというべきである。 適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務ア前記認定事実によれば,粉じんの発生・飛散の防止が十分でない場合には,粉じんの吸入防止の措置を講じる必要があり,同措置としては,防じんマスクの着用が最も重要であることについては,原告らが被告に入社する以前から指摘されており,昭和25年には防じんマスクの国家検定制度が実施されていたこと,環境改善技術指針において,石綿をときほぐす場所,石綿を混合する場所及び石綿・石綿製品を切断し又は研磨する場所における作業については,抑制目標限度(1立方メートル当たり20ミリグラム)以下にならない場合には,検定に合格した防じんマスクを着用すべきであり,抑制目標限度以下であっても粉じんが1立方メートル当たり8ミリグラム以上の場合には,できる限り検定に合格した防じんマスクを着用するように勧奨するとされ,石綿を積込み又は運搬する作業についても検定に合格した防じんマスクを着 用することが定められていたことなどからすれば,被告は,原告Aが被告に入社した昭和34年時点 するように勧奨するとされ,石綿を積込み又は運搬する作業についても検定に合格した防じんマスクを着 用することが定められていたことなどからすれば,被告は,原告Aが被告に入社した昭和34年時点において,上記のような粉じんを吸入する可能性がある作業をする従業員に対し,国家検定に合格した十分な性能を有する防じんマスクを支給し,これを着用するよう指導監督する義務を負っていたというべきである。 イ前記認定事実のとおり,被告は,羽島工場の従業員に対し,原告Aが入社した昭和34年3月時点ではスポンジマスクを,昭和38年頃からは本件防じんマスクをそれぞれ支給していた。 しかしながら,前記認定事実及び証拠(甲B10,甲C7,乙22,原告A第1回,原告B)によれば,原告らを含む従業員は,上記のような粉じんを吸入する可能性のある作業に際して,支給されていたマスクを着用しないときがあったこと,被告において,昭和37年に安全衛生規定を定め,従業員に対してマスクの着用を義務づけたものの,原告らがマスクを着用しなかった際に特に注意などせず,マスク着用について十分な指導がされていなかったことが認められる。後述のとおり,被告の安全教育によっては,石綿粉じんの危険性も十分に周知されていなかったため,従業員にとって,マスクを着用することの意義が明らかになっておらず,原告らがマスクを着用しない一因となっていた。さらに,前記認定事実のとおり,被告が支給したマスクはいずれも使用を継続していると目詰まり等で呼吸がしづらくなるものであるところ,被告は,原告ら従業員が予備のマスクやフィルターとの交換を申し出た際に,特段の理由なく交換に応じなかったこともあり,このことも支給していたマスクの着用が徹底されなかった一因にもなっていたというべきである。 ウこれらの事情に クやフィルターとの交換を申し出た際に,特段の理由なく交換に応じなかったこともあり,このことも支給していたマスクの着用が徹底されなかった一因にもなっていたというべきである。 ウこれらの事情によれば,原告ら従業員がマスクの着用を徹底しなかったのは,後述の安全教育体制も含め,被告による従業員に対する指導やマスクの支給体制の不備によるものというべきであるから,被告の従業員に対するマスクの着用に関する指 示,監督は全体として不十分であり,被告は,原告らに対し,適切な呼吸用保護具を適正に使用させる義務を果たしていなかったものと認められる。 石綿肺及び石綿粉じん対策について定期的に安全教育や安全指導を行う義務ア前記認定事実によれば,昭和34年頃には,石綿肺発生のメカニズム,その予防措置についての知見が既に確立していたものといえ,また,旧労働基準法では,使用者は,労働者を雇い入れた場合にその労働者に安全衛生教育を実施なければならないと規定されていたことが認められる。被告は,石綿粉じんの曝露が人体に与える影響の重大性からすれば,粉じん作業従事者の石綿肺罹患やその増悪を防止するため,従業員自身が,石綿肺発生のメカニズム,有害性及び危険性を十分認識し,石綿肺の予防措置や石綿肺に罹患した場合の適切な処置を自ら主体的に行うことができるように,従業員に対して定期的・計画的な安全教育や安全指導を行うべき義務が昭和34年以降にはあったと解される。 イ前記認定事実のとおり,羽島工場においては,昭和37年の時点で,安全衛生規定が定められ,安全衛生に関する業務を行う衛生管理者についての定めが置かれていたほか,粉じんの発散する業務に携わる者は呼吸用保護具を使用しなければならないと定められるなど,安全衛生に対する一定の制度が構築されていた。ま 生に関する業務を行う衛生管理者についての定めが置かれていたほか,粉じんの発散する業務に携わる者は呼吸用保護具を使用しなければならないと定められるなど,安全衛生に対する一定の制度が構築されていた。また,昭和40年の時点では,新入社員に対して,粉じんを吸うと病気になることがあることや粉じんの多い作業場では防じんマスクを着用することなどの教育を行っていた。さらに,昭和41年の労働衛生週間においては,「職場にほこりはつきものです。」「新鮮な空気を吸うようにしよう。」「定められたところでは防じんマスクをしよう。」などと呼びかけるスライドを上映し,その内容を社内報にも記載するなど,一定の安全衛生教育は行われていた。 しかしながら,被告が社内報において,防じんマスクの着用を呼びかけた理由は職場にほこりがあるからとの説明になっているなど,被告が行っていた上記のような教育内容は,石綿肺発生のメカニズム,その具体的な有害性や危険性にまで及ぶものではなく,石綿肺の予防措置や石綿肺に罹患した場合の適切な処置を自ら主体的に行うことを目的とする安全教育としては,不十分であるといわざるを得ない。また,上記で検討したように,被告の従業員に対するマスクの使用に関する指示監督も全体として不十分であった。 ウ以上によれば,少なくとも昭和41年頃までの間,被告は,従業員に対し,定期的・計画的な安全教育や安全指導を行う義務を果たしていなかったものというべきである。 被告の安全配慮義務違反についてのまとめ以上検討したとおり,被告は,石綿粉じんの発生・飛散防止の対策として,一定の集じん装置を設け,建物内の換気に留意するなど一定の対策を講じ,また,年代を経るにつれて,マスクの支給や安全教育等についても一定の対策を講じてきたものの,これらの対策は,石 防止の対策として,一定の集じん装置を設け,建物内の換気に留意するなど一定の対策を講じ,また,年代を経るにつれて,マスクの支給や安全教育等についても一定の対策を講じてきたものの,これらの対策は,石綿粉じん及び粉じん対策に関する知見が確立していた時点におけるものとしては,不十分であったと評価せざるを得ない。 特に,大量の石綿粉じんが発生していた別荘における作業において,粉じんの発生・飛散防止措置が十分でなかったことは,原告らの石綿粉じんへの曝露量を増大させたものである。また,原告らに,石綿粉じんを吸入することがいかなる意味で有害なのかなどの安全教育を十分に行っておらず,原告らがマスクの着用の重要性について認識できていなかったことや,被告によるマスクの着用の指導が十分にできていなかったことから,原告ら従業員においてマスクの着用が徹底されなかったのであり,それが,原告らの石綿粉じんへの曝露を防止できなかった要因になっているというべきである。 以上のとおり,被告は,原告ら石綿粉じん作業に従事する者の石綿肺への罹患やその増悪を防止するべき義務を履行しなかったものと評価できるから,被告には安全配慮義務違反があったと認められる。 第6 争点2(損害の発生及びその額)についての当裁判所の判断 1 争点 (原告らの石綿肺罹患の有無及びその程度)について 前記前提事実記載のとおり,原告Aは,平成17年10月20日付けで管理2の管理区分決定を,平成25年4月10日付けで本件管理4決定(原告A)を受けている。また,原告Bは,昭和53年8月28日付けで管理3イの管理区分決定を,平成21年12月7日付けで本件管理4決定(原告B)を受けている。 ところで,じん肺法が定める管理区分の決定手続は,同法及び同法施行規則等に定めら 3年8月28日付けで管理3イの管理区分決定を,平成21年12月7日付けで本件管理4決定(原告B)を受けている。 ところで,じん肺法が定める管理区分の決定手続は,同法及び同法施行規則等に定められ,その具体的内容は前提事実記載のとおりであって,健康診断の実施方法及び判定方法が具体的に定められている。また,その決定過程においては,一般の医師によるじん肺健康診断の段階に加え,相当な学識経験を有する医師のうちから任命された地方じん肺診査医の診断・審査の段階でも,医学的な観点からの検討を経ることとされており,複数の医師が関与することになっている。さらに,管理区分制度は,じん肺法が昭和35年に施行されて以降,50年以上安定的に運用されてきている。 このような事情に照らせば,管理区分制度における管理区分の決定手続は,じん肺罹患の有無及びその病状の程度を判断する方法として一般的な合理性を有するものと評価することができるから,その手続に従って決定された管理区分の決定についても,当該対象者のじん肺の罹患の有無及びその程度を適切に評価した結果であることにつき高度の信用性を有すると認めることができるというべきである。 したがって,管理区分決定がされた場合には,当該管理区分に相当するじん肺に罹患している事実が強く推認されるものといえ,これを覆すに足りる反証がされない限り,当該事実を認めるのが相当である。 被告は,原告Bについては,上記管理区分決定を覆すための反証を何らしていないから,原告Bは,石綿肺に罹患し,その病状が管理4に相当するものであることが認められる。そして,原告Bは,先に認定したように,被告以外においては石綿粉じん作業に従事したことはないから,原告Bは,被告の安全配慮義務違反によって石綿肺に罹患したと認められる。 被告 とが認められる。そして,原告Bは,先に認定したように,被告以外においては石綿粉じん作業に従事したことはないから,原告Bは,被告の安全配慮義務違反によって石綿肺に罹患したと認められる。 被告は,原告Aについては,①そもそも,本件管理4決定(原告A)は,「じん肺」に罹患しているとの決定にすぎず,石綿肺に罹患していることを示す積極的な診断は存在しないため,管理区分決定を受けていたとしても,原告Aが石綿肺に罹患しているかは不明であり,②原告Aの肺機能検査の信憑性に疑問があると主張するとともに,仮に原告Aに肺機能障害があるとしても,これは原告Aの肺結核及び結核性胸膜炎(肋膜炎)の既往症を原因とするものであり,③原告Aには肋膜炎(胸膜炎)の既往歴があったにもかかわらず,胸膜炎の既往症はない旨の原告Aの虚偽申告を前提として本件管理4決定(原告A)がされたなどと主張し,原告Aについてじん肺による著しい肺機能障害が認められるとした本件管理4決定(原告A)の正当性を争っている。そこで,以下,原告Aについて,管理4に相当する石綿肺に罹患しているといえるか否かについて検討する。 ア上記①の主張について前記前提事実及び証拠(甲B2,5,8,12,乙25)によれば,原告Aの健康管理手帳の表紙には「(石綿)」の記載があり,健康管理手帳による健康診断実施報告書の表題にも「(石綿)」の記載があること,管理区分決定の前提となったじん肺健康診断においては,職歴欄には被告での就業歴のみが記載され,石綿肺の特徴である不整 形陰影や石綿粉じんへの曝露の指標とされる胸膜プラークもあるとされていることが認められ,これらの事情を踏まえると,原告Aの受けた管理区分決定は,石綿肺への罹患とそれによる肺機能障害を前提としてされたものであるというべきである。 し る胸膜プラークもあるとされていることが認められ,これらの事情を踏まえると,原告Aの受けた管理区分決定は,石綿肺への罹患とそれによる肺機能障害を前提としてされたものであるというべきである。 したがって,この点に係る被告の主張は採用できない。 イ上記②の主張について被告は,原告Aの肺機能検査は,同人が意図的な操作をした結果であるから,肺機能検査の信憑性に疑問があると主張するが,意図的な操作をしたことを窺わせる証拠は何ら存在しない。むしろ,前記認定のとおり,じん肺健康診断は実施方法及び判定方法が具体的に定められ,医療機関においてその定めに従って実施されることになっており,被告A(原文ママ)も羽島市民病院においてじん肺健康診断の実施方法に従った肺機能検査を受けていること(甲B15)からすれば,被告が主張するような意図的な操作をすることは困難であると考えられる。 証拠(甲B2,10,19,乙27ないし29,原告A第1,2回)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 原告Aの両肺尖部にはびまん性胸膜肥厚が認められるが,原告Aに係るじん肺健康診断結果証明書(甲B2)中,平成17年7月20日付けH医師作成の「エックス線写真による検査」欄に,原告Aの両肺尖部を指して「結核」との記載がある。また,同証明書の「既往歴」欄には,「肺水腫(S54.12~3月まで入院)」との記載がある。 b 杉浦医院の原告Aに関する診療録(乙28)中,平成22年8月5日の欄に,「30年前に胸水をぬく手術をした(S54年11月~S55.3月羽島市民HSP.)肋膜炎と言われた(結核の治療,SM100本うった。)→(耳鳴,メマイはでた)」との記載がある。 c 原告Aは,昭和54年から昭和55年頃,羽島市民病院に入院し,肺結 島市民HSP.)肋膜炎と言われた(結核の治療,SM100本うった。)→(耳鳴,メマイはでた)」との記載がある。 c 原告Aは,昭和54年から昭和55年頃,羽島市民病院に入院し,肺結核の治療薬として用いられるストレプトマイシンを注射されたことがあった。この頃に原告Aに対して行われた検査の具体的な内容は不明であるが,検査の結果,原告Aから結核菌が検出されたことはなかった。 d 原告Aは,平成25年2月27日付けで,本件管理4決定(原告A)の根拠となったじん肺健康診断に際して,杉浦医院に対し,問診票を提出しており,その問診票の中で,「次の病気にかかったり,かかっているといわれたことがありますか?」との問いについて,肺結核,胸膜炎(肋膜炎)のいずれについても「いいえ」と回答している。そして,杉浦医院のI医師は,じん肺健康診断結果証明書の「既往歴」の欄に,何らの疾病も記載していない。 被告は,上記診療録及びじん肺健康診断結果証明書の各記載並びにJ医師の意見(乙38)などによれば,原告Aが肺結核及び結核性胸膜炎(肋膜炎)の既往症を有しており,これが肺機能障害に影響している旨主張する。 しかしながら,原告Aが結核の確定診断を受けたことを認めるに足りる証拠はないし,ストレプトマイシンは疑似症患者にも投与されるものであって(甲B18,乙38),これを注射された事実は,原告Aが結核に罹患していたことを直ちに示すものではない。また,上記の診療録の記載は,単に原告Aの問診に基づいて杉浦医院のI医師が記載したものにすぎず(甲B18),「結核の治療」という記載があることをもって,原告Aが結核に罹患していたことを示すものとはいえない。 上記 aのじん肺健康診断結果証明書に「結核」の文言が記載されていることについても,エ 18),「結核の治療」という記載があることをもって,原告Aが結核に罹患していたことを示すものとはいえない。 上記 aのじん肺健康診断結果証明書に「結核」の文言が記載されていることについても,エックス線写真上,その疑いがある旨を記載したにすぎない可能性があり,H医師が,このじん肺健康診断において,原告Aにじん肺による肺機能障害があると診 断をしていることからしても,上記記載をもって,直ちに原告Aに結核の既往症があり,それが原告Aの肺機能障害に影響したということはできない。 さらに,被告がその主張の根拠とする上記J医師の意見についても,原告Aの病変は結核の可能性が高いとしながらも,石綿粉じんへの暴露による肺尖収縮型のびまん性胸膜肥厚の可能性も否定できないとしているし,そもそもJ医師は,画像診断を中心に上記結論を導いているが,管理区分決定では,じん肺以外の原因の有無についても,エックス線写真の読影などを通じ,じん肺健康診断の段階と地方じん肺診査医の診断・審査による段階で検討がされているのであるから,上記J医師の意見のみで,本件管理4決定(原告A)の信用性を覆すことはできない。 以上の検討によれば,原告Aについて,原告Aの肺機能障害がじん肺によるものではなく,肺結核又は結核性胸膜炎(肋膜炎)の既往症によるものであると疑わせるに足りる反証はされていないというべきであり,この点に係る被告の主張は採用できない。 ウ上記主張③について被告は,原告Aに肋膜炎(胸膜炎)の既往歴があったこと自体は医師も認める客観的事実であり,本件管理4決定(原告A)は,胸膜炎の既往症がない旨の原告Aによる虚偽申告を前提としたものであるとして,本件管理4決定(原告A)の正当性を争う。 しかしながら,被告が指摘する上記イ bの診断書にお 件管理4決定(原告A)は,胸膜炎の既往症がない旨の原告Aによる虚偽申告を前提としたものであるとして,本件管理4決定(原告A)の正当性を争う。 しかしながら,被告が指摘する上記イ bの診断書における「肋膜炎」の記載は,原告Aの問診の内容を踏まえてI医師が記載したものにすぎない(甲B18)のであるから,実際に原告Aが胸膜炎に罹患していたかどうかは必ずしも明らかではない。また,仮に原告Aが胸膜炎に罹患したことがあったとしても,それは昭和54年頃のものであり,その後,長期間,原告Aの肺機能障害の程度に変化はなかったのであるか ら(原告A),胸膜炎の既往症が,平成25年における同人の著しい肺機能障害に強い影響を与えたとは考えにくく,既往症の存在が,本件管理4決定(原告A)の正当性を否定することにはならないというべきである。 エ以上によれば,じん肺による著しい肺機能障害が認められるとした本件管理4決定(原告A)の正当性を疑わせるに足る反証はされていないといわざるを得ない。 したがって,原告Aは,石綿肺に罹患し,その病状は管理4相当であることが認められる。そして,原告Aは,先に認定したように,被告以外においては石綿粉じん作業に従事したことはないから,原告Aは,被告の安全配慮義務違反によって石綿肺に罹患したと認められる。 2 争点 (原告らの損害の減額事由の有無)について 原告Aに関する減額事由の有無についてアマスク不着用の点前記認定のとおり,原告Aは,粉じんが発生する作業をする際にも,マスクをしないことがあった。 しかしながら,先に述べたとおり,少なくとも昭和40年頃までは,被告において,原告ら従業員に対し,石綿粉じんに曝露する危険性等に関する適切な安全教育を実施したとは認められないことからす あった。 しかしながら,先に述べたとおり,少なくとも昭和40年頃までは,被告において,原告ら従業員に対し,石綿粉じんに曝露する危険性等に関する適切な安全教育を実施したとは認められないことからすれば,原告ら従業員が自らその危険性を理解してマスクを着用することは期待することができない状況であったというべきである。 また,原告Aが大量の石綿粉じんに曝露した別荘での作業に従事していた昭和34年から昭和38年当時,被告が支給していたのは,防じんマスクではなく,スポンジマスクにすぎなかった。 これらの事情に鑑みると,原告Aが粉じん作業時にマスクをしなかったことが,衡平の観点から損害を減額すべき事由に該当するということはできない。 イ肺結核の既往症の点上記1で検討したところによれば,原告Aに肺結核の既往症があったと認めることはできないから,この点を根拠に損害額を減額する余地はない。 ウ喫煙歴の点について原告Aに喫煙歴があることは当事者間に争いがなく認められるが,石綿肺の罹患やその症状の悪化と喫煙歴との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない(なお,被告が指摘する文献〔乙10〕も,喫煙が肺線維化に影響を与えることが知見として確立していることを認めるに足るものではなく,その他,喫煙と石綿肺〔肺線維化〕との関係を証明する適確な証拠はない。)。 被告は,喫煙によって肺がん発生リスクが高まると主張しているが,原告Aは肺がん発症による損害の賠償を請求しているわけではないから,上記主張は,原告Aの損害の減額事由となるものではない。 したがって,原告Aの喫煙歴を損害の減額事由とするのは相当ではない。 原告Bに関する減額事由の有無についてアマスク不着用の点について前記認定事実のとおり,原告Bも,粉 。 したがって,原告Aの喫煙歴を損害の減額事由とするのは相当ではない。 原告Bに関する減額事由の有無についてアマスク不着用の点について前記認定事実のとおり,原告Bも,粉じん作業時においてマスクを着用しなかったことがあった事実は認められるが,のと同様の理由で,このことが損害を減額すべき事由に該当するとは認められないというべきである。 イ石綿肺以外のじん肺に罹患しているとの点について被告は,原告Bが,被告入社以前に別の会社で粉じん作業に従事しており,原告Bのエックス線写真及びCT画像によれば,けい肺等石綿肺以外のじん肺への罹患 を示唆する粒状影の所見が表れていることから,原告Bはけい肺等石綿肺以外のじん肺に罹患している旨主張する。 そこで検討すると,前記前提事実,証拠(甲C9,乙C7,26ないし29,35,38,39,証人E第2回,原告B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 原告Bは,被告に入社する前の昭和33年8月1日から昭和35年10月15日まで,日本亜鉛鉱業株式会社中竜鉱業所に勤務していた。 b 厚生年金保険被保険者期間の計算上,坑内員,すなわち「常時坑内作業をする者」であった期間については,被保険者期間を3分の4倍する取扱いがされていたところ,原告Bの上記会社での就労期間は26か月間であるにもかかわらず,被保険者期間はその3分の4倍である期間とする扱いを受けていた。 上記「常時坑内作業をする者」とは,坑内における作業一般を本業の労務とする者であるとされていた。 c 原告Bの昭和54年から平成7年のじん肺健康診断の診断書及び平成23年から平成26年までの労働者災害補償保険の診断書では,「エックス線写真による検査」上,平成23年のもののみ大陰影 ていた。 c 原告Bの昭和54年から平成7年のじん肺健康診断の診断書及び平成23年から平成26年までの労働者災害補償保険の診断書では,「エックス線写真による検査」上,平成23年のもののみ大陰影の所見(区分A)が認められる旨の記載がされているが,その他の年に撮影されたものについては,大陰影の所見が認められる旨の記載はない。また,上記各診断書のうちの多くの年において,粒状影の所見が認められる旨の記載がされている。 上記のとおり,原告Bは,日本亜鉛鉱業株式会社中竜鉱業所での勤務について,厚生年金保険被保険者期間の計算上は,坑内員,すなわち坑内における作業一般を本業の労務とする者に当たることを前提とした取扱いがされている。しかしながら,原告Bは,同社では坑外での仕上げ作業を担当しており,坑内作業には従事して いなかったと供述等しており(甲C9,原告B),また,厚生年金保険被保険者期間の計算に際して,被保険者が「常時坑内作業をする者」に該当するかをどのような手続で認定するのかは証拠上明らかではなく,被保険者が実際に常時坑内作業をしているかについて,何らかの調査がされていたと認めるに足りる証拠もない。 そうすると,原告Bが厚生年金保険被保険者期間の計算上,坑内員として取り扱われていることは,原告Bがその当時坑内員として粉じん作業に従事していたことを確定的に裏付けるものであるとはいえない。 また,前記認定事実のとおり,確かに被告が主張するように,原告Bのエックス線写真及びCT画像に関し,大陰影や粒状影の所見を記載したじん肺健康診断結果証明書が存在しているところ,石綿肺について大陰影が認められることは極めて少なく,また,粒状影を示すじん肺の代表はけい肺である(甲B8)。 しかしながら,上記のとおり,原告Bについて大陰影の所見 証明書が存在しているところ,石綿肺について大陰影が認められることは極めて少なく,また,粒状影を示すじん肺の代表はけい肺である(甲B8)。 しかしながら,上記のとおり,原告Bについて大陰影の所見が認められる記載があるのは平成23年の診断書のみであり,その後の診断を含め,その他の診断書には大陰影の所見は認められていない。じん肺が肺内に粉じんが存在する限り進行する進行性・不可塑性の疾患であることからすれば,平成23年の診断において認められた大陰影が,その翌年以降の診断において認められないのは不自然であり,上記の診断についてはエックス線画像の読影の誤りである可能性も否定し得ない。 また,粒状影については,石綿肺を含むその他のじん肺でも粒状影を示すことがあり(甲B8),粒状影の所見が認められるからといって,これをもって直ちに原告Bが石綿肺以外のじん肺にも罹患していることを確定的に裏付けるものではない。 損害の減額事由については,被告が立証責任を負っているところ,上記検討したように,原告Bが被告以外でも粉じん作業をし,これによりけい肺等石綿肺以外の じん肺にも罹患したとまで認めることはできないから,この点に係る被告の主張は採用することができない。 ウ喫煙歴の点について原告Bに喫煙歴があることは当事者間に争いがなく認められるが, おり,石綿肺と喫煙歴との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はなく,また,原告Bも,肺がん発症による損害の賠償を請求しているわけではないから,原告Bの喫煙歴を損害の減額事由とするのは相当ではない。 4 争点 (原告Bについての本件念書の効力)について前記前提事実,証拠(甲C7,乙C1,6,16,22,33,証人E第2回,原告B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め ない。 4 争点 (原告Bについての本件念書の効力)について前記前提事実,証拠(甲C7,乙C1,6,16,22,33,証人E第2回,原告B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア原告Bは,平成7年3月31日に被告を退職した。原告Bは,昭和53年に管理3イの管理区分決定を受けており,被告を退職した時点での管理区分も,管理3イであった。 イ原告Bは,平成7年3月31日,被告を退職する際,被告から,退職金として1315万8600円の支払を受けた。 ウ原告Bは,被告従業員であったEからじん肺退職者特別補償見舞金の手続をする必要がある旨連絡を受け,平成7年6月16日,羽島工場を訪れた。原告Bは,上記Eのほか,被告従業員であったK及びゼンセン同盟ニチアス労働組合のLの立会いのもと,本件念書の記載内容の説明を受けた上で,本件念書に署名押印し,その後,本件念書に記載された600万円の金員の振込送金を受けた。本件念書には,「但し,じん肺退職者特別補償見舞金として正に領収いたしました。尚,領収に当り私を始め家族の者よりじん肺に関し,いかなる事情が生じても補償等につき何等一切の異議を申し立てないことを確約いたします。」との記載があった。 エ被告においては,「じん肺取扱規程」が定められており,平成4年に改訂された同規程には,次のような定めが置かれていた(なお,同規程は平成7年4月1日に改訂されており,下記の金額には変更されているものがある。)。 第20条(じん肺退職者特別補償見舞金)会社は,管理3又は管理2の者が退職するとき(死亡を除く)は,次の区分による金額をじん肺退職者特別補償見舞金として支給し,その後は一切の補償を行わない。 管理区分:管理2 肺機能:F(-) 金額:6 ,管理3又は管理2の者が退職するとき(死亡を除く)は,次の区分による金額をじん肺退職者特別補償見舞金として支給し,その後は一切の補償を行わない。 管理区分:管理2 肺機能:F(-) 金額:60万円管理区分:管理2 肺機能:F(+) 金額:240万円管理区分:管理3イ金額:600万円管理区分:管理3ロ金額:1100万円(以下略。なお,F(-)とは肺機能障害がない,F(+)とは肺機能障害があるという意味である。)第21条(じん肺特別傷病補償給付) 会社は,管理4又はじん肺による合併症の者が退職するとき(死亡を除く)は,次の金額をじん肺特別傷病補償給付として支給し,その後は一切の給付を行わない。 有扶養者金額:2700万円無扶養者金額:2200万円(以下略)オ原告Bが管理4の管理区分決定(本件管理4決定(原告B))を受けたのは,被告を退社した後の平成21年のことであった。 ⑵上記認定事実によれば,原告Bは,自らの意思に基づいて本件念書を作成したことが認められる。なお,原告Bは,本件念書について,金額を見ただけでそれ以外 の記載内容を確認する間もなく,求められるがままに署名押印した旨,上記K及び上記Lは本件念書作成に立ち会っていない旨供述するが,いずれも採用できない。 ⑶そこで,以下,本件念書を作成したことによって,原告Bと被告との間で,原告Bが,管理4に相当する病状に基づく損害をも含む一切の損害賠償請求権を放棄する形での和解契約が成立したと認めることができるか否かについて検討する。 ア一般に,じん肺は肺内に粉じんが存在する限り進行する進行性の疾患であり,その病状の進行の有無,程度,速度は,患者によって多様である。ある患者についての特定の時点での病状が ついて検討する。 ア一般に,じん肺は肺内に粉じんが存在する限り進行する進行性の疾患であり,その病状の進行の有無,程度,速度は,患者によって多様である。ある患者についての特定の時点での病状が,今後どの程度まで進行するのかはもとより,進行しているのか,固定しているのかすらも,現在の医学では確定することは困難である。そのようなじん肺の病変の特質などに鑑みると,管理2ないし管理4の各管理区分決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時点で初めて発生する別個の損害と評価すべきである。 重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害が別個の損害であり,また,将来,重い管理区分決定を受けるか否かを推測することも通常は困難であることからすれば,管理区分決定ごとに異なる和解金額を定める方法による和解は,当該管理区分決定に相当する病状に基づく損害の賠償に関する和解と解するのが相当である。 もっとも,将来,重い管理区分決定を受ける可能性があることを踏まえて和解することも不可能ではないが,その場合には,和解金額が,和解時における管理区分決定に相当する病状に基づく損害の賠償金よりは高額なものとなるはずである。被告におけるじん肺退職者特別補償見舞金の額は,管理3イの者が退職するときは600万円である一方,管理4の者が退職するときは,扶養者の有無により2200万円又は2700万円が支払われることになっており,管理3イで退職する者が受け取る600 万円という金額は,今後自らの病状が管理4に進行し得ることをも含んだ和解金額としては,相当に低額であるといえる。 また,別個の損害である将来の重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害までも対象として和解 額は,今後自らの病状が管理4に進行し得ることをも含んだ和解金額としては,相当に低額であるといえる。 また,別個の損害である将来の重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害までも対象として和解するのであれば,当該合意に関する念書には,その旨が明示的に記載されることになると考えられるところ,本件念書には,じん肺に関し,いかなる事情が生じても補償等につき何等一切の異議を申し立てないことを確約する旨の記載はあるものの,今後,より重い管理区分決定を受けた場合や死亡した場合の損害賠償請求権をも対象とする旨の明確な記載はない。 イこれらの事情に照らせば,本件念書により,原告Bと被告の間で,原告Bの当時罹患していた管理3イに相当する病状に基づく損害賠償請求権のみならず,病状が管理4に進行し得ることを前提に,その進行した病状に係る損害賠償請求権をも含めた形で和解契約を成立させる趣旨のものであったとまでは認められないというべきである。 ⑷ また,被告は,仮に原告Bの管理4に相当する病状に基づく損害賠償請求権が消滅していないとしても,原告Bと被告との間では,管理3イに相当する病状に基づくものの限度で和解契約が成立しているから,原告Bに認められる損害賠償請求権の金額は,管理4に相当する病状に基づく損害賠償請求権の金額から,管理3イに相当する病状に基づくものの金額を控除した金額になる(既払の600万円を控除するのではない。)旨主張する。 しかしながら,上記のとおり,管理2ないし管理4の各管理区分決定に相当する病状に基づく各損害が質的に異なるものであり,重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時点で初めて発生する別個の損害である以上,原告が請求している管理4に相当する病状に基づく損害のうち,管理3イに相当する病状の ,重い管理区分決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時点で初めて発生する別個の損害である以上,原告が請求している管理4に相当する病状に基づく損害のうち,管理3イに相当する病状の 部分といったものを観念することはできない。そうすると,上記和解契約によって,同部分が消滅したという被告の主張は採用できず,管理4に相当する病状に基づく損害賠償請求権の金額から既払の600万円が控除されるにすぎないというべきである。 4 争点 (原告らの損害額)について石綿肺罹患による損害額(慰謝料)ア前記前提事実のとおり,石綿肺は,せき,たん,息切れ等の症状を伴うものであり,石綿肺に罹患した者は,このような症状による肉体的苦痛を被る。また,石綿肺は,肺内に粉じんが存在する限り進行する進行性・不可逆性の疾患であり,本質的な治療方法がない上,粉じんを吸入しなくなった後でも病状が進行し,合併症を併発したり,これが重篤化して死に至ったりする場合もあり,石綿肺に罹患することそれ自体により相当の精神的苦痛を被るものというべきである。 原告らの請求は,石綿肺に罹患したことを理由とする包括請求であり,管理区分制度の趣旨や内容からすれば,損害額は,管理区分に応じて評価すべきであるところ,上記のような石綿肺罹患に伴う精神的苦痛や管理4に相当する病状の重さを踏まえると,管理4に相当する病状の原告らの損害額(慰謝料)は,それぞれ2200万円と認めるのが相当である。 イ原告Aについては,前記判示のとおり,損害額の減額事由が認められないので,原告Aに認められる損害額(慰謝料)は2200万円となる。 ウ原告Bについては,前記判示のとおり,損害額の減額事由は認められないが,既払の600万円を控除することになるため,原告Bに認められる損 告Aに認められる損害額(慰謝料)は2200万円となる。 ウ原告Bについては,前記判示のとおり,損害額の減額事由は認められないが,既払の600万円を控除することになるため,原告Bに認められる損害額(慰謝料)は1600万円となる。 弁護士費用 原告らが,訴訟代理人弁護士に本件訴訟の遂行を委任したことは明らかであるところ,本件事件の訴訟の難易度,審理の経過,認容額等の事情を考慮すると,弁護士費用については,それぞれ原告Aについては220万円,原告Bについては160万円が被告の安全配慮義務違反と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。 遅延損害金ア安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償債務は,期限の定めのない債務であるから,債権者から履行の請求を受けたときに遅滞に陥ると解すべきである(民法412条3項)。 そうすると,遅延損害金の起算日は,基本的には被告に訴状が送達された日の翌日となるところ,原告Aの請求については平成22年11月13日,原告Bの請求については平成24年12月28日がこの日に当たる。 イもっとも,原告Aについては,訴訟提起時には管理2の管理区分決定を受けていたが,本件訴訟係属中に管理4の管理区分決定を受け,請求額を拡張するに至っている。 先に述べたとおり,管理2と管理4の病状に基づく各損害は,質的に異なるものがあり,管理4に相当する病状に基づく損害は,その管理区分決定を受けた時点において新たに発生したものと評価すべきである。原告Aの当初の包括請求には,この管理4に相当する病状に基づく損害の請求も含まれていると解されるものの,その時点では,この損害は発生していないから,同損害賠償債務が履行遅滞に陥っているということはできず,本件管理4決定(原告A の管理4に相当する病状に基づく損害の請求も含まれていると解されるものの,その時点では,この損害は発生していないから,同損害賠償債務が履行遅滞に陥っているということはできず,本件管理4決定(原告A)を受けた日の翌日である平成25年4月11日になって初めて履行遅滞に陥ったものと解すべきである。 ウ以上によれば,原告Aの損害賠償請求権に係る遅延損害金の起算日は,その全額について平成25年4月11日となるものの,民事訴訟法246条によって,原告 Aの請求を超えない範囲で,2420万円のうち2200万円については同日から,うち220万円については訴え変更申立書の送達の日の翌日である同年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を認めるのが相当である。 また,原告Bについては,1760万円に対する訴状送達の日の翌日である平成24年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を認めるのが相当である。 第7 結論以上によれば,原告Aの請求については,2420万円及びうち2200万円に対する平成25年4月11日から,うち220万円に対する同年5月24日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告Bの請求については,1760万円及びこれに対する平成24年12月28日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度でそれぞれ認容し,その余の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 岐阜地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官唐木浩之 裁判官平山俊輔 裁判官松田康孝(別紙建物配置図掲載省略) 唐木浩之 裁判官平山俊輔 裁判官松田康孝 (別紙建物配置図掲載省略)
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