平成23(ワ)8942 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月22日 大阪地方裁判所
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判決文本文559,160 文字)

主文 1 被告国は,別紙2「認容額等一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告に対し,各原告に係る同一覧表の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 別紙2「認容額等一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告の被告国に対するその余の請求並びに原告4,原告5-1,原告5-2,原告8-1,原告8-2,原告8-3,原告8-4,原告8-5,原告9,原告10-1,原告10-2,原告10-3,原告10-4,原告10-5,原告14及び原告15-1の被告国に対する各請求を棄却する。 3 別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「原告」欄記載の各原告らの,同一覧表の対応する「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業らに対する各主位的請求及び同一覧表の対応する「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業らに対する各予備的請求を,いずれも棄却する。 4 訴訟費用の負担は,以下のとおりとする。 (1) 原告1,原告7-1,原告11,原告13,原告18及び原告19と被告国との間に生じた訴訟費用は,これを9分し,その2を被告国の負担とし,その余を前記各原告らの負担とする。 (2) 原告2-1,原告2-2,原告6-1,原告6-2,原告12-1及び原告17-1と被告国との間に生じた訴訟費用は,これを4分し,その1を被告国の負担とし,その余を前記各原告らの負担とする。 (3) 原告3及び原告16と被告国との間に生じた訴訟費用は,これを8分し,その1を被告国の負担とし,その余を前記各原告らの負担とする。 (4) 原告4,原告5-1,原告5-2,原告8-1,原告8-2,原告8-3,原告8-4,原告8-5,原告9,原告10-1, を8分し,その1を被告国の負担とし,その余を前記各原告らの負担とする。 (4) 原告4,原告5-1,原告5-2,原告8-1,原告8-2,原告8-3,原告8-4,原告8-5,原告9,原告10-1,原告10-2,原 告10-3,原告10-4,原告10-5,原告14及び原告15-1と被告国との間に生じた訴訟費用は,前記各原告らの負担とする。 (5) 別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「原告」欄記載の各原告らと,同一覧表の対応する「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業ら及び同一覧表の対応する「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業らとの間に生じた訴訟費用は,前記各原告らの負担とする。 5 この判決は,第1項に限り,被告国にこの判決が送達された日から14日経過した時から,仮に執行することができる。 ただし,被告国が別紙2「認容額等一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告に対し,同一覧表の「担保額」欄記載の各金員の担保を供するときは,その執行を免れることができる。 事実及び理由 第1章請求第1 主位的請求 1 別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告らは,同一覧表の対応する「原告」欄記載の各原告に対し,連帯して,各原告に係る同一覧表の「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する同一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 前項の一覧表の「原告」欄記載の各原告の訴訟費用は,各原告に係る同一覧表の「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄に記載した被告らの負担とする。 第2 予備的請求 1 別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被 一覧表の「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄に記載した被告らの負担とする。 第2 予備的請求 1 別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告らは,同一覧表の対応する「原告」欄 記載の各原告に対し,連帯して,各原告に係る同一覧表の「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する同一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 前項の一覧表の「原告」欄記載の各原告の訴訟費用は,各原告に係る同一覧表の「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄に記載した被告らの負担とする。 第2章事案の概要等第1節事案の概要(用語の略称等は別紙4「略称等一覧」のとおり。以下同じ。) 1 本件は,建築作業従事者として建築物の新築,改修,解体作業等に従事した被災者らが,建築現場において建築作業に従事する際,同所で使用された石綿含有建材から発生した石綿粉じんに曝露し,これによって,石綿関連疾患(石綿肺,肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚)に罹患したとして,被災者本人又はその相続人である原告らが,石綿含有建材の使用についての規制権限を有していた被告国及び石綿含有建材を製造・販売した建材メーカーである被告企業らに対し,損害賠償請求として,連帯して,被災者1人当たり3850万円(被災者の相続人による請求の場合には,各自の相続分に相当する金額)及びこれに対する損害発生時(別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の各原告の「遅延損害金起算日」欄記載の日)から支払済みに至るまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 被告国に対する請求は,①旧労基法及び安衛法等の法令に基づき,建築作業従事者(労基法の適用を受ける労働者及び一人親方 に至るまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 被告国に対する請求は,①旧労基法及び安衛法等の法令に基づき,建築作業従事者(労基法の適用を受ける労働者及び一人親方等)の石綿粉じん曝露による生命,健康の侵害(石綿関連疾患に罹患すること)を防止するための各種規制を適時適切に行うべきであったのに,これを怠ったこと,②昭和40年改正労災保険法に基づき,一人親方等及び元方責任者に対し,石綿粉 じん曝露による一人親方等の生命,健康の侵害を防止するための各種規制を行うべきであったのに,これを怠ったこと,③石綿の危険性が明らかになって以降も,建基法等の法令に基づく石綿含有建材やこれを用いた構造の指定,認定を取り消さず,また,何ら条件を付さずに新たな指定,認定を行い,さらに,建基法に基づき,建築作業従事者を含む工事関係人の生命,身体を保護するために,石綿粉じん曝露を防止するための技術的基準を定めるべきであったのに,これを怠ったことなど,これらの規制権限の不行使が違法であると主張し,国賠法1条1項に基づく損害賠償を請求するものである。 3 被告企業らに対する請求は,①主位的に,被災者らの「病気発症の危険性が相当程度ある建材」を製造販売し,流通に置く行為を行った被告企業に対し,②予備的に,被災者らの石綿関連疾患罹患に関する「主要原因建材」を製造販売し,流通に置く行為を行った被告企業に対し,これらの企業が,警告義務及び石綿含有建材の一時製造販売停止又は製造販売中止義務を怠り,石綿含有建材を製造販売し流通に置いたことによって,建築現場において大量の石綿粉じんが発生し,被災者らはこれに曝露することによって石綿関連疾患に罹患し,損害を被ったと主張して,民法719条1項前段又は後段(適用又は類推適用)に基づき,また,③被 ,建築現場において大量の石綿粉じんが発生し,被災者らはこれに曝露することによって石綿関連疾患に罹患し,損害を被ったと主張して,民法719条1項前段又は後段(適用又は類推適用)に基づき,また,③被告企業らのうち平成7年7月1日以降に石綿含有建材を製造販売した企業(合計27社)に対しては,これらの企業が製造販売した石綿含有建材は通常有すべき安全性を欠いていたと主張して,製造物責任法3条に基づき,損害賠償を請求するものである。 第2節前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠により容易に認められる事実。ただし,関係法令の定め等を除く。なお,書証については,今後,特に断らない限り,枝番がある場合には枝番を含む。)第1 当事者 1 原告ら原告らは,建築作業従事者であった者又はその相続人である。 なお,被災者8平成24年2月5日に死亡し,同人の法定相続人である原告8-1(相続割合2分の1),原告8-2(相続割合8分の1),原告8-3(相続割合8分の1),原告8-4(相続割合8分の1)及び原告8-5(相続割合8分の1)が被災者8の本件訴訟に関する権利義務を相続して本件訴訟を受継した。被災者 日に死亡し,原告14が本件訴訟に関する権利義務を単独で相続して本件訴訟を受継した(弁論の全趣旨)。 2 被告企業ら被告企業らは,国交省データベースにおいて,石綿含有建材を製造ないし販売していた企業であるとして掲載されているか,過去に同データベースに掲載され又はその地位を承継するなどした旨原告らが主張する株式会社である。 第2 石綿の種類等 1 石綿の種類石綿(アスベスト,アミアントス)は,天然に産する繊維状けい酸塩鉱物である(蛇文石系及び角閃石系の繊維状鉱物の総称である。乙アB64)。WHO,ILO及び各国の公的 石綿の種類等 1 石綿の種類石綿(アスベスト,アミアントス)は,天然に産する繊維状けい酸塩鉱物である(蛇文石系及び角閃石系の繊維状鉱物の総称である。乙アB64)。WHO,ILO及び各国の公的機関は,蛇文石系(サーペンタイン系)石綿のクリソタイル(温石綿又は白石綿),角閃石系(アンフィボール系)石綿のアモサイト(茶石綿。繊維状のグリュネ閃石-カミングトン閃石),クロシドライト(青石綿。リーベック閃石),アンソフィライト(直閃石),トレモライト(透角閃石),アクチノライト(緑閃石)と6種類に分類し,これらの鉱物のうち繊維状であるものを石綿と定義する。 石綿は,粉砕したときに縦に裂けて細い繊維になり,クリソタイルの単一繊維の直径は0.02から0.04μm,角閃石系のアスベストの単一繊維の直径は0.1から0.2μmと,ヒトの髪の毛の直径およそ40μmと比 べて非常に細く,肉眼では見ることができない。 (甲A2,4,乙アA9の12頁・13頁,35,55,97,乙アB34) 2 石綿の物性石綿は,①木綿や羊毛と見間違うほどにしなやかで,糸に紡いだり,布に織ることができる(紡織性),②熱に強く燃えにくい(耐熱性),③曲げる力や引っ張る力,摩擦・摩耗に強い(耐久性,耐摩擦性),④酸やアルカリなどの薬品に強く,腐食しない(耐薬品性,耐腐食性),⑤熱や電気を通しにくい(絶縁性),⑥熱や音を遮断する(断熱性,防音性),⑦比較的面積が大きく,他の物質との密着性に優れている(親和性),⑧安価である(経済性)という性質を有するところ,このような特徴を単一の天然鉱物や人工物質がもつことはほとんどないことから,「奇跡の鉱物」と呼ばれたこともあり,工業用から日用品にいたるまで,幅広く利用された(甲A1,2,4,乙アA35)。 3 石綿の用途等 を単一の天然鉱物や人工物質がもつことはほとんどないことから,「奇跡の鉱物」と呼ばれたこともあり,工業用から日用品にいたるまで,幅広く利用された(甲A1,2,4,乙アA35)。 3 石綿の用途等我が国における石綿の工業的な利用としては,明治時代の後半に保温材やシール材などの生産が開始され,大正時代に建築材料の生産がはじまり,第二次世界大戦後は戦後の経済復興の重要な資材として,工業的に各分野で使用されるようになった。 石綿は,その優れた物性から,石綿紡織品(船舶の保温材,自動車の摩擦材等),シール材(グランドパッキング,ガスケット等),石綿板(ディスクロール等),石綿紙(電線被覆等),摩擦材(ブレーキライニング,クラッチフェーシング等),石綿タイル,保温材,煙突材,石綿吹付け材,石綿含有建材(波板スレート,住宅用屋根スレート,ボード類,石綿セメント円筒等)等として製品化され,重要な工業材料として広く使用された。石綿製品の種類は3000以上あったと言われている。 石綿の種類別に見ると,クロシドライトは耐酸性が強いので長繊維は耐酸 用の紡織品に,短繊維はアスベストスレート,高圧管,シートパッキング等に用いられ,中間の長さのものは吹付け石綿として利用された。アモサイトは保温材として単体で板や筒に成型され,また,つなぎ材としてマグネシア,珪藻土に混入して使用されることがあり,その弾力性からアスベスト布団の中綿としても使われた。最も多く産業界で使用されてきたのは,クリソタイルであり,石綿糸,石綿パッキング,ジョイントシート,石綿板,石綿スレート,石綿円筒,石綿高圧管等様々な工業分野で用いられた。 (甲A4,35の55ないし63頁・89頁,394の7頁,乙アA9の13頁,35)平成7年頃には,我が国の石綿消費量のうち,約9割を建 ート,石綿円筒,石綿高圧管等様々な工業分野で用いられた。 (甲A4,35の55ないし63頁・89頁,394の7頁,乙アA9の13頁,35)平成7年頃には,我が国の石綿消費量のうち,約9割を建材製品が占めるようになっていた(甲A394の7頁・8頁,395の4頁・6頁)。 4 我が国における石綿輸入量の推移等我が国においては,明治20年に石綿製品の輸入が始まり,富国強兵,殖産興業の国策の下に軍事と工業の発展が図られた。さらに,石綿セメント製品や石綿ジョイントシートの生産が昭和初期に始まり,石綿は産業発展を支える重要な役割を果たしてきた。 しかし,昭和17年から昭和23年の間は第二次世界大戦により石綿の輸入が途絶えたため,一時的に国内産の石綿に頼ることとなった。 戦後は専ら輸入に依存し,昭和25年以降輸入量は増加の一途を辿り,昭和36年頃には10万tを超え,昭和45年には30万t近くに達した。昭和49年に35.2万tと最高を記録した後,増減を繰り返しながら序々に減少し,昭和60年頃から平成元年頃まで再度増加したものの,平成2年以降は,石綿条約や通産省の石綿含有率低減化政策があり,急速に減少していった。平成7年にはクリソタイル以外の石綿の輸入・使用が禁止され,平成12年には輸入量が10万tを切り,平成16年には1万tを下回り,平成18年には安衛法の改正により石綿の使用が全面的に禁止されたことから, その輸入量はゼロとなった。昭和5年以降平成17年までの石綿の総輸入量は,合計987万9865tである。 (甲A4,乙アA19) 5 建築物における石綿の使用石綿は,耐火・断熱・吸音・耐湿を目的としてセメントなどの結合材及び水と混合して直接壁,天井,柱,梁等に吹き付けられたほか,波形石綿スレートや石綿セメント板として床材 建築物における石綿の使用石綿は,耐火・断熱・吸音・耐湿を目的としてセメントなどの結合材及び水と混合して直接壁,天井,柱,梁等に吹き付けられたほか,波形石綿スレートや石綿セメント板として床材,壁材,天井材,軒天材,防火壁材等に用いられた。特に,鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリート造,鉄骨造,コンクリートブロック造の構造のものには,相当量の石綿が用いられている。 吹付け石綿の使用は昭和30年頃から始められ,昭和39年に防音用として航空基地付近の建築物に使われたことをきっかけとして一般に使用されるようになった。昭和42年頃から建築物の超高層ビル化,鉄骨構造化に伴い,鉄骨造建築物の軽量耐火被覆材として大量に使われ始め,設備投資が盛んに行われた昭和46,47年の高度成長期が吹付け材の最需要期であった。 吹付け材,保温材等は石綿が飛散しやすい(飛散性)が,成型板はセメント等と混ぜ,成形・乾燥させていることから飛散性が比較的低い(非飛散性)とされる。ただし,非飛散性であっても,粉砕,切断等の作業を行う場合には飛散レベルに応じた曝露対策が必要とされる。 (甲A394,395)第3 建築物の種類及び建築工程等 1 建築物の種類建築物は,その構造を構成する材料によって,木造,鉄骨造,鉄筋コンクリート造,鉄骨鉄筋コンクリート造などに分類できる(甲A370の9頁,弁論の全趣旨)。 (1) 木造建築物木造建築では,構造耐力上主要な部分(柱・梁・壁・床・階段など)に製 材(木材を角材や板材にしたもの)や木質材料(合板・集成材・LVL・パーティクルボードなどの木材を素材にしてつくられた材料)が用いられる。 木造建築は,その構造形式の違いにより,我が国の伝統的木造構法を承継した在来軸組工法,木材を使用した枠組みに構造用合板などを打 ーティクルボードなどの木材を素材にしてつくられた材料)が用いられる。 木造建築は,その構造形式の違いにより,我が国の伝統的木造構法を承継した在来軸組工法,木材を使用した枠組みに構造用合板などを打ち付けることにより壁及び床板を設ける枠組壁構法,木材を使用した枠組みに構造用合板などをあらかじめ工場で接着することにより壁及び床板を設ける木質プレハブ工法,丸太・角材などを水平に積み上げることにより壁を設ける丸太組構法,大断面の集成材を用いた軸組構造で,構造計算によって構造安全性を確認する構造で,大断面集成材の特徴を生かした構造が実現できる大断面集成材構造などに分類される。 (甲A113の2の18頁・19頁)(2) 鉄骨造建築物(S造)鉄骨構造物とは,構造部材に形鋼などを用いた構造の建築物であり,鋼構造建築ともいう。 鉄骨造は,鉄筋コンクリート造に比べ,材料強度が高く,じん性が大きいことから構成する部材が軽量化できるため,大スパン構造・超高層などの大規模建築物に適している。工場や事務所ビルなどにその使用が多い。その反面,耐久性,耐火性に劣り,剛性も低いため,揺れ・振動が大きいことが欠点である。耐火性能については耐火被覆を施すことによってその欠点を補っている。 鉄骨構造には,立体トラスなどで屋根を構成する大規模建築物もあるが,一般の建築物では,超高層も含め,柱・梁部材の接合部を剛接合としたラーメン架橋によるものがほとんどである。 なお,鉄骨造は,大規模建築物以外にも,住宅・車庫などの小規模なものまで広く用いられ,その建築物の用途も多種多様なものにわたっている。 (甲A370の9頁・80頁) (3) 鉄筋コンクリート造建築物(RC造)鉄筋コンクリート(ReinforcedConcrete。略してRC)とは,棒鋼を組 なものにわたっている。 (甲A370の9頁・80頁) (3) 鉄筋コンクリート造建築物(RC造)鉄筋コンクリート(ReinforcedConcrete。略してRC)とは,棒鋼を組み立てて作った鉄筋の周囲にコンクリートを打設し,一体に働くようにしたものをいい,これを柱や梁などの構造上主要な部分に用いた建築物を鉄筋コンクリート造建築物という。 鉄筋は,引っ張り力には強いが,圧縮力を受けると座屈しやすく,また,熱に弱くて錆びやすい。一方,コンクリートは圧縮力には比較的強く,耐火性に優れている反面,引っ張り力には弱い。しかし,両者は互いの付着性がよく,熱膨張率はほぼ等しいため,一体化して互いの欠点を補い合った構造をつくることができる。さらに,コンクリートは鉄筋を火熱から守るとともに,アルカリ性であることから錆の発生を防ぐ役割も果たす。このような原理を利用して造られるものが鉄筋コンクリート造建築物である。 鉄筋コンクリート造は,力の処理の仕方によって,軸組工法の柱と梁の接合を剛接合としたラーメン式と,耐力壁を主たる構造要素とした壁式に分けられる。生産方式で区別すると,現場に組み立てた型枠の中にコンクリートを打設する現場打ちのコンクリート造と,現場で組み立てるためのコンクリート部材を,あらかじめ工場で打設するプレキャストコンクリート造がある。 (甲A371の10頁・11頁)(4) 鉄骨鉄筋コンクリート造建築物(SRC造)鉄骨鉄筋コンクリート造(Steelframed (encased) ReinforcedConcrete。 略してSRC)とは,鉄骨材を鉄筋とともにコンクリートに埋め込むものであり,高層建築物に用いられる(甲A371の11頁)。 2 建築工程等更地に建築物を造る新築工事の作業工程は,建築物の種類, 略してSRC)とは,鉄骨材を鉄筋とともにコンクリートに埋め込むものであり,高層建築物に用いられる(甲A371の11頁)。 2 建築工程等更地に建築物を造る新築工事の作業工程は,建築物の種類,構造及び工法の違いによって,具体的な作業工程は異なるものの,大きく分けると,仮設工事,基礎工事,躯体工事(建方工事),仕上げ工事(屋根工事,外壁工事, 軒天工事,内装工事,建具工事等),設備工事(電気設備工事,給排水衛生設備工事等)となる。 また,建築物は,新築された後,増築及び改築等の改修工事がなされることがあり,さらに,老朽化した建築物については解体工事が行われることとなる。 (甲A370,371,乙アA260ないし264,弁論の全趣旨)。 第4 石綿関連疾患等に関する現在の医学的知見 1 石綿曝露の指標等について医師が患者の診察において石綿関連疾患を疑う場合,まずその患者の職歴を確認するが,職歴から石綿曝露の有無を確認することは難しいことが多い。 そこで,職歴から明確に石綿との接触が認められない場合に,他の方法によって石綿曝露の有無や曝露レベルの評価をすることが求められる。(甲A4の79頁)石綿曝露の指標となる医学的所見としては,石綿小体,石綿繊維,胸膜プラーク,石綿肺が挙げられる(甲A106の3頁)。 (1) 石綿小体及び石綿繊維ア人の呼吸器官には進入してくる異物を排除する機能が備わっているので,普通の粉じん粒子はその粒径に依存して鼻腔,咽頭,喉頭,気管,気管支の各箇所で捕捉され排出され,肺胞には数μm以下の極めて微細な粒子の一部のみが到達し得るが,石綿繊維の場合は吸入された数十μmといった比較的長い繊維も直径が極めて細いために肺胞まで到達することができる。 石綿曝露で肺内に吸入された比較的長い石綿繊維は,マ 細な粒子の一部のみが到達し得るが,石綿繊維の場合は吸入された数十μmといった比較的長い繊維も直径が極めて細いために肺胞まで到達することができる。 石綿曝露で肺内に吸入された比較的長い石綿繊維は,マクロファージ等の貪食・運搬作用がうまく機能せずに,そのまま細気管支や肺胞などの局所に長期間滞留する(なお,同じ石綿でも,クロシドライト,アモサイトは局所滞留期間が長く,クリソタイルではクリアランスが早いとされる。)。 そのうちの一部は多数のマクロファージの作業で鉄亜鈴のような形をした いわゆる石綿小体(石綿繊維の表面に鉄質蛋白が付着して雪だるまのように太って鉄亜鈴状になる。通常直径は2から5μmである。)を形成する。 肺内に石綿小体があれば,石綿小体を形成していない石綿繊維も何倍か存在する。石綿小体は,石綿繊維と異なり,位相差顕微鏡でも見やすいので石綿曝露の良い指標として扱われている。 ただし,石綿小体については,角閃石系石綿(クロシドライト,アモサイト)については曝露の良い指標となるが,クリソタイルは石綿小体を作りにくく,また,肺からのクリアランスがよく体内滞留時間が短いことなどから,クリソタイル曝露については石綿小体の計数値による曝露評価による検討では実際の曝露量とずれが生じるおそれがある。そのため,クリソタイルの曝露が疑われる場合には,分析電子顕微鏡法を用いて,繊維形態と元素分析からクリソタイルを確定する方法をとらなければならないとされている。 (甲A4の80頁,106の3頁・4頁,乙アA9の31頁,11,12の131頁・140頁,35の69頁ないし71頁,156の3頁・4頁)イ一般に人の試料を用いた石綿曝露の評価には,電子顕微鏡を用いて肺組織中の石綿繊維の種類,量及びサイズ分布などを計測する方法と,位相差光学顕微鏡 35の69頁ないし71頁,156の3頁・4頁)イ一般に人の試料を用いた石綿曝露の評価には,電子顕微鏡を用いて肺組織中の石綿繊維の種類,量及びサイズ分布などを計測する方法と,位相差光学顕微鏡を用いて肺組織(染色切片)中の石綿小体を計測する方法のほか,気管支肺胞洗浄液(BALF)中の石綿小体を計測する方法がある。 石綿小体と石綿繊維数を比べた場合,石綿繊維数の方がより正確に曝露量を反映するため,電子顕微鏡を用いて石綿繊維数を測定することが最も望ましいが,高度な技術を要するため,測定者によって測定結果にばらつきがあることが多い。 位相差光学顕微鏡を用いて石綿小体を測定する方法が比較的容易であり,トレーニングにより測定者によるばらつきはそれほど大きくならないと考 えられている。しかし,厚さ数μmの染色切片中に幅1から2μmで長さが5から20μmの石綿小体を位相差光学顕微鏡で検出する確率は極めて低く,石綿肺が認められるような高濃度曝露を受けた患者においては石綿小体を病理切片標本中に確認できる確率が高いが,それより低い石綿曝露レベルの評価を切片標本で行うことは難しい。 また,肺組織中の石綿小体,石綿繊維数を測定する場合には,手術等により肺組織を採取しなければならないが,BAL法は気管支鏡があればよく,患者への侵襲が少ない。しかし,BAL法については,相当以前に石綿曝露があった場合には,石綿小体が肺胞間室に移行して適切に採取できないことがあり,また,石綿繊維が蓄積されやすいと考えられる下葉での採取は技術的に難しく,かつ注入液の回収率の問題もあるとされる。 (甲A4の79頁・80頁,106の4頁,乙アA9の33頁,11,12の131頁・140頁,35の69頁ないし71頁,156の4頁)(2) 胸膜プラーク(胸膜肥厚斑,限局性 問題もあるとされる。 (甲A4の79頁・80頁,106の4頁,乙アA9の33頁,11,12の131頁・140頁,35の69頁ないし71頁,156の4頁)(2) 胸膜プラーク(胸膜肥厚斑,限局性胸膜肥厚,胸膜斑)胸膜プラークは限局性,板状の胸膜肥厚であり,その大部分は壁側胸膜に生じるが,稀に葉間胸膜など臓側胸膜にも生じる。胸膜プラークを引き起こす物質としては,石綿,エリオナイト,ウォラストナイトの3つの鉱物繊維と,人造ガラス繊維の一種である耐火セラミック繊維が知られているが,我が国では石綿を除いた前記鉱物繊維の影響は極めて少なく,胸膜プラークは専ら石綿に起因すると考えられている。そのため,現在の我が国では,疾病としての意味合いはないが,石綿曝露との関係が濃厚であるので,胸膜プラークは石綿曝露の良い指標とされる。 胸膜プラークは,低濃度の石綿曝露や石綿曝露期間が1年に満たない場合でも発生する。石綿曝露直後には認められず,最初の曝露から胸膜プラークの発生には最低でも10年,おおむね15から30年を要するとされ,石灰化プラークの出現にはおおむね20年以上を有すると考えられている。 なお,石灰化の頻度は10から15%程度とされている。また,胸部エックス線で発見されて以後も,石綿曝露なしに非常にゆっくりと進行する。 胸膜プラークの病変の場は原則として壁側胸膜であるが,ごくまれに臓側胸膜にも見られる。びまん性胸膜肥厚とは異なり,臓側胸膜との癒着は認められない。肉眼的には表面に光沢のある白色ないし薄いクリーム色を呈し,凹凸を有する平板状の突起である。刷毛で掃いたような薄いものから10㎜以上の厚さを有するものまで存在し,石灰化すると硬くなり,厚いものでは胸腔穿刺時等に針が通らないこともある。 胸膜プラークは良性のものであり 平板状の突起である。刷毛で掃いたような薄いものから10㎜以上の厚さを有するものまで存在し,石灰化すると硬くなり,厚いものでは胸腔穿刺時等に針が通らないこともある。 胸膜プラークは良性のものであり,胸膜プラークそのものによる肺機能の低下はほとんどない。ただし,石灰化プラークがある場合や,プラークが互いに癒合し,胸壁のほぼ全域に及ぶような場合には,その程度に応じて拘束性障害が進行する(癒着を伴うびまん性胸膜肥厚ほどの低下は見られない。)。 胸膜プラークを胸部エックス線で確認し診断できる確率は30%程度といわれており,胸部エックス線でまったく異常を指摘できない症例も多数存在するため,胸膜プラークの有無の精査には胸部CTが必要不可欠と考えられている。 胸膜プラークのある患者の肺内からは,ない患者に比べて多くの石綿小体が検出される。また逆に,肺内石綿小体数の多い人ほど胸膜プラークの発生頻度が高くなる。しかし,時には,両側に明らかな石灰化プラークが存在するにもかかわらず,肺内に石綿小体を見出しにくいこともあり,特にクリソタイルでその傾向が強い。胸膜プラーク内にも石綿小体が存在することはあるが,その数はかなり少ない。胸膜プラークを有する人は,無い人に比べて,中皮腫や肺がんが多いとされる。 (甲A1,106の3頁,1093の7頁・8頁,乙アA9の27頁・82頁・83頁,12の56頁・104頁・121頁ないし124頁,17,35の55頁ないし63頁,156の3頁,証人k) (3) 石綿肺石綿肺はじん肺の一種である。じん肺法の定める石綿肺は,後記のとおり高濃度の石綿曝露によって発生する疾患でもあり,同時に,石綿曝露の重要な医学的所見の1つでもある。(甲A106の5頁) 2 石綿関連疾患石綿関連疾患とは,石綿を吸入することによっ ,後記のとおり高濃度の石綿曝露によって発生する疾患でもあり,同時に,石綿曝露の重要な医学的所見の1つでもある。(甲A106の5頁) 2 石綿関連疾患石綿関連疾患とは,石綿を吸入することによって生ずる疾患のことであり,には,石綿肺,肺がん,中皮腫及び非腫瘍性の胸膜疾患である胸膜炎,びまん性胸膜肥厚,円形無気肺がある(甲A106の6頁,乙アA35の103頁,156の6頁)。 (1) 石綿肺ア石綿肺石綿は,肺に入ると,細い気管支や肺胞を刺激して細気管支肺胞炎(炎症)を起こし,これが進行した結果,肺胞が広い範囲にわたって線維化し,これにより細い気管支が引っ張られて拡張する。石綿肺においては,特に肺の下部の細気管支全体が拡張し,蜂の巣のようになる(蜂窩肺と呼ばれる。)ことが特徴である。石綿粉じんによって発生する前記のようなじん肺症を石綿肺といい,病理組織学的には細気管支周辺から始まるびまん性間質性肺炎である。 クロシドライトやアモサイトはクリソタイルより繊維化を強く起こすとされている。 (甲A1,107の10頁,乙アA9の24頁,12の50頁)イ潜伏期間等石綿肺は,一般に石綿への高濃度曝露により発生するため,断面が3から5μm以下の石綿繊維を5から20本/㎖吸入することが継続的に起こるような環境でなければ石綿肺は発生しないとされており,一般環境下における発症例はこれまでに報告されていない。また,石綿肺発生と石綿曝 露濃度には量反応関係が見られ,より高濃度曝露を来す職場での発生頻度が高くなる。石綿セメント等の石綿製品製造作業においては5年程度の曝露で,石綿吹付け,石綿紡織では1年程度の曝露でも所見がみられることがある。 石綿肺は,最初の石綿曝露から10年以内に発症することはほとんどない。 (甲A106 品製造作業においては5年程度の曝露で,石綿吹付け,石綿紡織では1年程度の曝露でも所見がみられることがある。 石綿肺は,最初の石綿曝露から10年以内に発症することはほとんどない。 (甲A106の17頁,107の11頁,乙アA11,12の40頁,156の17頁)ウ臨床症状等自覚症状は,早期病変のみの場合にはない。病気が進行すると,広範囲に線維化が起こるため肺の弾力性が無くなり,肺活量が少なくなる。また,肺胞の壁が厚くなり,繊維化が進むことで,酸素が血液中に取り込まれにくくなるため,強い呼吸困難を覚えるようになる。石綿肺の自覚症状は,労作時息切れにはじまり,階段や平地での急ぎ足の際に自覚される。その後,病状の進行に伴い,呼吸困難を安静時にも訴えるようになる。その他の症状としては,頑固な乾性咳嗽が特徴で,痰を伴った場合でも少量の粘性痰であることが多い。ときに頑固な咳に胸痛や血痰を伴うこともある。 進展症例ではバチ状指(指先が太鼓のバチのように太くなった状態で,慢性呼吸不全の患者などでみられる。)やチアノーゼを認めることもある。 さらに,呼吸困難と酸素欠乏の状態が続くことによって心臓に負担がかかり,肺性心(肺実質疾患や肺血管疾患などにより肺血管抵抗が増大し,右心室圧負荷が増強し右心室機能不全に至った状態をいう。)と呼ばれる心不全がおこる。 石綿曝露中止後も病状は進展し,拘束性呼吸機能障害を来して肺活量が減少するため,他のじん肺に比べて予後が悪いが,肺がん,中皮腫と異なり,短期間で死に至るような重篤な疾患ではない。 石綿肺の診断は必ずしも容易ではなく,しばしば特質性間質性肺炎,膠原病や薬剤性,感染症などによる間質性肺炎との識別が重要となる。すなわち,石綿肺と,肺線維症の一種で他の原因で発症する間質性肺炎は,ともに肺下 断は必ずしも容易ではなく,しばしば特質性間質性肺炎,膠原病や薬剤性,感染症などによる間質性肺炎との識別が重要となる。すなわち,石綿肺と,肺線維症の一種で他の原因で発症する間質性肺炎は,ともに肺下葉に好発することから,胸部エックス線写真上では区別がつかず,職業曝露歴の客観的な情報が確認できなければ,その画像所見だけから石綿肺であると診断することは困難である。 石綿肺の鑑別診断には,胸部エックス線写真よりも胸部HRCTが有用である。 なお,石綿肺の約80%に胸膜プラークが認められるといわれている。 治療法は,一般の間質性肺炎と同様に病状が進行している場合は免疫抑制剤やステロイド剤で炎症を改善させる。また,低酸素血症に関しては酸素投与(在宅酸素療法)が行われる。 (甲A1,4の161頁・162頁,106の18頁,107の12頁,1093の4頁・5頁・10頁・11頁,乙アA9の25頁,11,12の40頁,35の137頁,156の18頁,証人k)エ合併症石綿肺を含むじん肺は,じん肺病変の進展に伴って種々の疾病が合併又は続発する。昭和52年法律第76号による改正後のじん肺法2条2項及び同法施行規則1条は,肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸,原発性肺がんの6つの疾病をじん肺の合併症としている。(甲A6の19頁ないし21頁)(2) 肺がんア石綿による肺がんの発生について従来,石綿肺がんの定義は,石綿に合併した肺がんであり,肺の繊維化が発がんメカニズム上重要であると考えられていたが,近年ではアスベスト肺を合併しない肺がんの存在も明らかとなり,アスベスト自体が肺がん 発生に重要であるとの考えが提唱されている。 沈着するアスベストの種類による肺がんの発生の差異については十分な検討がな ト肺を合併しない肺がんの存在も明らかとなり,アスベスト自体が肺がん 発生に重要であるとの考えが提唱されている。 沈着するアスベストの種類による肺がんの発生の差異については十分な検討がなされているとは言い難い状況にあるものの,手術摘出肺がん例,中皮腫例及び非肺がん剖検例の肺に沈着したアスベスト繊維について,その種類,絶対量,長さを検討した報告によれば,肺がん例では繊維の種類はアモサイトが最も多いとされ,絶対量は中皮腫が最も多く,次に肺がん例,非肺がん例という順序であり,長さでは肺がん例が中皮腫例よりも長いことから,中皮腫ではクロシドライト自体が発がん性に大きく関与するのに対して,肺がんでは,長い繊維であるアモサイトがその高い吸着性によって,たばこなどに含まれる発がん物質の担体として作用していることが示唆されるといった推測がなされている。 (乙アA9の61頁・65頁)イ量反応関係及び潜伏期間等石綿累積曝露量と肺がんの発症率とには,累積曝露量が増えれば発症リスクが上がるという直線的な量反応関係(化学的,物理的あるいはその他の手段によって把握した環境条件の変化量(生体負荷量)とそれに対する生体の反応(影響)との関係をいう。乙アA13)があると認められている。肺がんの相対的危険度はファイバー(本)/㎖×曝露年数が増加するごとに0.5から4%ずつ増加する。 後記ウのとおり,石綿以外の原因による肺がんと医学的に区別できない以上,肺がんの発症リスクを2倍以上に高める石綿曝露があった場合に,当該肺がんが石綿に起因するものであるとみなすことが相当であると考えられており,ヘルシンキ国際会議のコンセンサスレポート(以下「ヘルシンキ・クライテリア」という。)(平成9年)では,石綿肺がんのリスクが2倍になる石綿曝露レベルとして,25本/ とが相当であると考えられており,ヘルシンキ国際会議のコンセンサスレポート(以下「ヘルシンキ・クライテリア」という。)(平成9年)では,石綿肺がんのリスクが2倍になる石綿曝露レベルとして,25本/㎖×年を提唱している。これは,空気1㎖当たり25本のアスベストの環境に1年いた場合を意味し, 0.5本/㎖の環境であれば50年いたことに相当する。環境省が設定している敷地境界基準値(大気中の許容濃度)は10本/ℓ(0.01本/㎖)以下であるので,25本/㎖×年に達するには2000年以上の曝露期間が必要であり,仮に近隣曝露で0.2本/㎖の曝露を受けても,肺がん発生までに125年かかることになるため,職業性曝露以外にはこの計算式を満たす石綿濃度は極めて少ないと考えられることから,近隣曝露等の低濃度曝露では肺がんが発生する可能性は少ないと解されている。 また,現時点において,人については,肺がんに関し,それ以下では石綿曝露が健康に影響を与えないという閾値曝露レベルが存在することを示す実質的な証拠はないとされている肺がんは高濃度曝露によって発生し,その潜伏期間は,中皮腫よりは短いが,少なくとも10年が必要と推測されている。低濃度の曝露ではさらに潜伏期間は長くなるとされる。最近の我が国での報告では,最初の石綿曝露から40年以上経過して発生する事例もある。よって,石綿による肺がんは,その多くが曝露開始から発症までが30年から40年程度といった,潜伏期間の長い疾患であるといえる。 胸膜プラークから肺がんが発症することはないが,胸膜プラーク有所見者の肺がんリスクが高いとされる。 (甲A7の8頁,9の473頁,106の10頁ないし15頁,107の13頁,乙アA3,9の25頁・60頁,12の53頁・61頁,35の108頁,156の10頁ないし の肺がんリスクが高いとされる。 (甲A7の8頁,9の473頁,106の10頁ないし15頁,107の13頁,乙アA3,9の25頁・60頁,12の53頁・61頁,35の108頁,156の10頁ないし15頁)ウ石綿曝露に関連する肺がんの病理学的特徴等石綿曝露に関連する肺がんについては,他の一般の(石綿曝露を受けていない者の)肺がんと比べて,扁平上皮がんや小細胞がんが多いとの報告もあったが,喫煙,石綿曝露濃度,石綿肺の進行度,年齢などを加味した場合に,石綿曝露によって生じる肺がんには,その発生部位,病理組織型 に特徴はないとされている。画像上でも,共存する胸膜や肺病変を除いて,他の肺がんとの違いはない。ただし,石綿曝露患者の肺がんでは,どちらかといえば下葉に優位に生じることが報告されている。 診断においては,じん肺である石綿肺所見があって,肺がんを疑う腫瘤陰影あるいはスリガラス機陰影がある場合には,まず精密検査を行い,胸部エックス線や通常のCT等の画像所見を参考にする。また,石綿肺を伴わないが職業性石綿曝露があり石綿肺がんを疑う場合には,まずは石綿曝露の医学的・客観的所見として胸膜プラークの存在を胸部エックス線やCTにより確認する。さらに,確定診断を行うためには,喀痰細胞診や経気管支生検など組織学的な検査が必要であるとされ,さらに,石綿曝露の確認をするために気管支肺胞洗浄を行い,肺内石綿小体の有無を調べる必要がある場合があるとされる。 石綿肺に関連する肺がんの症状は,一般的な肺がんと同様,血痰,慢性的な激しい咳,喘鳴,胸痛,体重減少,食欲不振,息切れ等である。 治療は,一般の肺がん同様,早期病変は手術療法で治癒可能であるが,石綿肺が進展している場合などは呼吸機能障害の問題で手術ができない場合があり,また,進行がんでは 重減少,食欲不振,息切れ等である。 治療は,一般の肺がん同様,早期病変は手術療法で治癒可能であるが,石綿肺が進展している場合などは呼吸機能障害の問題で手術ができない場合があり,また,進行がんでは化学療法や放射線療法が行われるが,石綿肺を合併している症例には放射線療法が制限される場合があるとされており,一般の肺がんよりも治療手段が制限され,予後は不良である。 なお,肺がんは,一般に非常に予後の悪い疾患であり,WHO(IARC)は,WorldCancerReport(2003年)の中で,肺がんについては,効果的な治療はなく,5年生存率は15%であるとする。 (甲A106の15頁,107の12頁,乙アA9の26頁,12の53頁・60頁・61頁,35の150頁・151頁・212頁,156の15頁)エたばこによる肺がん発症リスクとの関係 石綿と喫煙には肺がんの発生について相乗作用があり,肺がんの発症リスクは,石綿に曝露せずたばこを吸わない人を1とすると,石綿に曝露した人は約5倍,たばこを吸う人は約10倍,石綿に曝露しかつたばこを吸う人は約50倍であると報告されている(甲A1,106の10頁,107の13頁,乙アA9の65頁,12の52頁・53頁,35の108頁,156の10頁)。 (3) 中皮腫ア中皮腫胸膜,腹膜,心膜(心嚢腔)及び精巣鞘膜から発生する悪性新生物を中皮腫という。主に胸膜に発生(約80から90%)し,次いで腹膜(約10%)であり,心膜及び精巣鞘膜に発症することは稀であるとされている。 中皮腫はめったに見られない病気であるが,石綿の曝露を受ける作業者には非常に高率に中皮腫が発症する。平成9年のヘルシンキ・クライテリアによれば,中皮腫の約80%が石綿曝露によるといわれている。また,我が国における 見られない病気であるが,石綿の曝露を受ける作業者には非常に高率に中皮腫が発症する。平成9年のヘルシンキ・クライテリアによれば,中皮腫の約80%が石綿曝露によるといわれている。また,我が国における70%以上の中皮腫症例は職業性石綿曝露が原因となって発生しているとの調査結果がある。 全ての種類の石綿が胸膜中皮腫を引き起こすが,その発がん性はクロシドライトが最も強く,アモサイト,クリソタイルの順であるとされ,クリソタイルを1とすると,アモサイトは100倍,クロシドライトは500倍とする意見もある。 (甲A1,106の6頁・7頁,107の16頁,乙アA9の24頁,16,17,35の112頁ないし115頁・213頁,156の6頁・7頁)イ潜伏期間及び量反応関係等中皮腫は,短期間ないし微量の石綿曝露でも発症するとされ,石綿に最初に曝露してから中皮腫が発症するまでの潜伏期間は20年からおおむね 40年と言われており,曝露量が多いほど短くなる。肺がんと異なり,年数を経るほど発生頻度が高くなる,つまり,アスベストの体内沈着量がさほど多くなくても,沈着した期間が長くなるほど中皮腫発生の危険性は増大すると言われている。 また,多くの専門家は,中皮腫の発生は石綿の曝露量に比して高くなる関係がある(量反応関係がある)とする見解に立っている。 それ以下では中皮腫が起こらないという石綿曝露の閾値が存在するという実質的な証拠は存在しないとされている。ただし,ヘルシンキ国際会議において,Tossavainen(平成9年)は,大気中の石綿繊維0.01本/㎖以下の一般環境曝露ではほとんど問題にならないと報告しており,一般環境曝露程度では中皮腫の発症リスクは増加しないと考えられる。 (甲A1,7の40頁,9の433頁ないし437頁,106の8頁・ /㎖以下の一般環境曝露ではほとんど問題にならないと報告しており,一般環境曝露程度では中皮腫の発症リスクは増加しないと考えられる。 (甲A1,7の40頁,9の433頁ないし437頁,106の8頁・9頁,乙アA3,9の24頁,16,35の120頁,156の8頁・9頁)ウ臨床所見の特徴及び治療法等(ア) 中皮腫は,発生形態(限局性,びまん性)と組織像(繊維型又は肉腫型,上皮型,二相型)により分けられる。通常単に中皮腫といえば,びまん性中皮腫を指す。 上皮型中皮腫は,中皮細胞に類似を求められる比較的小型で異型性の弱い上皮性格を示す細胞が,乳頭状,管状あるいは充実性に増殖するもので,乳頭状のものでは特に間質が少ない。肉腫型中皮腫は,紡錘形の異型細胞の密な増殖からなっており,胞体にほっそりした長いものと,ずんぐりして短いものとがあり,時に巨核の細胞が種々の程度に混在する。二相型中皮腫は,上皮性格を示す細胞群と肉腫性格を示す細胞群とが種々の割合に混在するのみならず,互いに移行し合う像が特徴である。 (甲A5の98頁ないし101頁) (イ) 中皮腫が実際に発見される場合には,大きく分けて,胸水が溜まってくる場合と,腫瘤がエックス線上で発見される場合の2つがある。胸水が溜まっている場合には,CTにより胸水の位置を判断し,胸水を穿刺して胸水の性状を確認し,胸膜組織を採取して腫瘍の性状を確認するという診断方法となる。腫瘤がエックス線上で発見された場合で胸水が溜まっていない場合には,CT又は超音波ガイド下で生検を行うことにより診断することとなる。画像診断により肺がんとの区別をすることが必要であるが,肺がんが疑われる場合には,まず気管支鏡により,次に細胞診を行うことになるとされる。ただし,中皮腫の診断において,胸水細胞診で診断が ととなる。画像診断により肺がんとの区別をすることが必要であるが,肺がんが疑われる場合には,まず気管支鏡により,次に細胞診を行うことになるとされる。ただし,中皮腫の診断において,胸水細胞診で診断が確定することは約30%程度であるとされており,胸水中のヒアルロン酸濃度等の検査を行う必要が出てくることが指摘される。また,臨床所見からは確定診断が困難であり,確定診断のためには病理組織学的な診断が必要であるといわれている。(甲A106の7頁,乙アA9の34頁・35頁・87頁・88頁,156の7頁)(ウ) 中皮腫の症状としては,中皮腫が胸膜に発生した場合には,多くの場合(約80%),胸水がたまり肺を圧迫するため,胸の痛みや息切れを感じ,また,咳や痰も出るようになる。胸痛は特定の部位に限局せず持続的で,中皮腫の進展と共に強くなる。なお,理学的所見として,胸膜中皮腫では,胸水貯留や胸膜腫瘍のため,聴診での呼吸音の減弱や打診での濁音を来す。腹膜の中皮腫では,腹部に水がたまるため,腹部膨満と腹痛が多い。心膜中皮腫は,不整脈,息切れ,進行例では心タンポナーデによる症状がみられ,精巣鞘膜中皮腫では鼠径から睾丸部の腫瘍と疼痛が主症状である。(乙アA9の24頁,35の155頁)(エ) 現在,中皮腫に対して標準的といえる治療法はなく,非常に予後の悪い疾患である。上皮型中皮腫の予後は12か月,肉腫型中皮腫が6か月であるといわれており,上皮型胸膜中皮腫は肉腫型や二相型よりも予 後が良いといわれ,肉腫成分の割合が多くなるほど予後が不良といわれている。中皮腫の2年生存率は30%であるとされている。平均余命の中央値は15か月であり,平均値は21か月である。 中皮腫は,化学療法剤耐性の悪性腫瘍であり,単剤で効果があると言われる薬剤でも奏功率は10から30 2年生存率は30%であるとされている。平均余命の中央値は15か月であり,平均値は21か月である。 中皮腫は,化学療法剤耐性の悪性腫瘍であり,単剤で効果があると言われる薬剤でも奏功率は10から30%程度にすぎないとされている。 また,放射線治療法単独では効果がないといわれている。 治療としては,シスプラチンとゲムシタビン併用療法等があり,早期病変に対しては手術療法として胸膜肺全摘術(EPP)などが行われている。 なお,中皮腫を抗がん剤等による治療で治癒させることは,現時点では期待できないと考えられているが,胸膜中皮腫に関しては,早期の病変(壁側胸膜もしくは臓側胸膜に病変が限局している例)で,胸膜と肺をすべて摘出(心膜と横隔膜も部分切除)するという手術によれば治癒可能であるとの報告があり,危険を伴う手術ではあるが,これが現時点において唯一中皮腫の治癒を期待できる方法であると考えられている。 また,上皮型には抗がん剤が効きやすく,肉腫型にはほとんど効果がないとされているところ,医学の進歩とともに,上皮型については早期であれば胸膜肺全摘術に化学療法や放射線療法を加えた集学的治療により,以前とは比べものにならないほど予後が改善してきていることから,他の悪性腫瘍と同様,早期発見・早期診断の重要性が増してきている。 腹膜中皮腫については,胸膜中皮腫と異なり,臓器を全摘することができないため,腫瘍のある部分を効果的に切除する腫瘍細胞減量腹膜切除術と術前術後の腹腔内化学療法剤投与を組み合わせた治療法(あらかじめ術前に,腹腔内あるいは全身化学療法などによって遊離した腫瘍細胞をほぼ皆無にしてから,腹膜切除術を行い,更に術後化学療法を加える方法)が注目されている。 (甲A4の199頁ないし202頁,107の16頁,乙アA9の24頁・34頁 遊離した腫瘍細胞をほぼ皆無にしてから,腹膜切除術を行い,更に術後化学療法を加える方法)が注目されている。 (甲A4の199頁ないし202頁,107の16頁,乙アA9の24頁・34頁ないし36頁,16,35の169頁,証人k)(4) びまん性胸膜肥厚(びまん性胸膜繊維症)アびまん性胸膜肥厚の発生原因等びまん性胸膜肥厚は,病理学的にびまん性胸膜繊維症とも呼ばれる。 びまん性胸膜肥厚は,関節リウマチなど膠原病に合併したもの,薬剤によるもの,感染によるもの,原因不明のものなど,石綿曝露と無関係なものも少なくない。したがって,びまん性胸膜肥厚と石綿曝露の関係は,胸膜プラークと石綿曝露との関係に比べると,特異度が低く,びまん性胸膜肥厚は必ずしも石綿によるとは限らない。 (乙アA9の26頁,12の105頁,35の189頁)イ病理及び臨床症状等胸膜プラークが通常壁側胸膜の病変であり,臓側胸膜(肺側胸膜)との癒着を伴わないのに対して,びまん性胸膜肥厚は臓側胸膜の病変である。 ただし,病変が臓側胸膜のみに限局していることは極めてまれで,通常は壁側胸膜にも病変が存在し,両者は癒着していることが多い。また,肺実質の繊維化や局所的無気肺等の病変を併せ持つ。 また,びまん性胸膜肥厚は胸膜プラークとは異なり,息切れや肺機能の低下をもたらすため,一つの疾病とされる。びまん性胸膜肥厚の臨床症状としては,咳と痰,呼吸困難等が挙げられる。初期は,無症状か軽度の労作時呼吸困難にとどまるが,進行すると著しい肺機能障害を来す。 診断においては,前記のとおり,びまん性胸膜肥厚は石綿曝露だけが原因となるものではないことから,石綿曝露歴の客観的な情報がなければ,他の原因によるものと区別して判断することは困難である。 石綿肺の所見がないびまん性胸膜 とおり,びまん性胸膜肥厚は石綿曝露だけが原因となるものではないことから,石綿曝露歴の客観的な情報がなければ,他の原因によるものと区別して判断することは困難である。 石綿肺の所見がないびまん性胸膜肥厚所見は,石綿肺有所見者ほどではないが,中皮腫のリスクが高いとされる。 治療方法としては,びまん性胸膜肥厚に対しての加療はなく,気管支拡張剤による対症療法,及び,肺機能障害が著しくなり慢性呼吸不全となった場合における在宅酸素療法である。 (甲A2,107の21頁,乙アA9の26頁・67頁,12の105頁,35の129頁・130頁・189頁・190頁) 3 業務上疾病の認定等労働基準法施行規則(平成25年厚生労働省令第113号による改正後の労働基準法施行規則。以下同じ。)35条は,労働基準法(平成24年法律第42号による改正後の労働基準法。以下同じ。)75条2項に基づき,業務上疾病の範囲について規定し,そのうち石綿に関連する疾病として,「石綿にさらされる業務による良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚」(同規則別表1の2第4号7),「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法(昭和35年法律第30号)に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号)第1条各号に掲げる疾病」(同規則別表第1の2第5号),「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」(同規則別表第1の2第7号8)を定める。 労働者に発生した疾病が前記各石綿に関連する業務上疾病に該当するか否かの認定基準として,石綿認定基準(「石綿による疾病の認定基準について」(平成15年基発第0919001号))が発せられ,その後,「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」の検討結果を踏まえ,平成18年に前記通達の内容を改正する通達( 病の認定基準について」(平成15年基発第0919001号))が発せられ,その後,「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」の検討結果を踏まえ,平成18年に前記通達の内容を改正する通達(「石綿による疾病の認定基準について」(平成18年基発第0209001号)。乙アA8)が発せられ,さらに,「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」の検討結果を踏まえて,平成24年に前記平成18年の通達を廃止して石綿認定基準を改正する通達(「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年基発0329第2号)。乙アA1011)が発せられた。なお,平成18年の改正の際には,石綿関連工 場周辺での環境曝露による健康障害の救済に関する事項に主眼をおいて検討がなされ,また,肺がんの労災認定基準については,ヘルシンキ・クライテリア等が参考にされ,加えて,びまん性胸膜肥厚については,平成15年時点では認定要件(基準)が定められず,すべての事案について専門家による個別検討により業務上外を判断するものとされていたが,同改正においてはイギリスの補償基準を参考として認定基準が策定された。その後,ヘルシンキ・クライテリアの内容に批判的なものも含め多くの医学文献が報告されたこと,及び,イギリスの補償基準が変更されたこと等を受け,肺がん及びびまん性胸膜肥厚に関する医学文献について収集・検討がされ,平成24年の改正がなされた。(乙アA1012)平成18年以降の石綿認定基準は,石綿との関連が明らかな疾病として,石綿肺,肺がん,中皮腫,良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚があるとし,また,石綿曝露作業には,①石綿の吹付け作業,②耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業,③石綿製品の切断等の加工作業,④石綿製品が被覆材又は建材として用いら とし,また,石綿曝露作業には,①石綿の吹付け作業,②耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業,③石綿製品の切断等の加工作業,④石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物,その附属施設等の補修又は解体作業,⑤これらの作業と同程度以上に石綿粉じんの曝露を受ける作業,⑥前記作業の周辺等において,間接的な曝露を受ける作業が含まれることを示した(乙アA8,1011)。 なお,石綿認定基準が平成18年に改正された当時の労働基準法施行規則(平成18年労働省令第6号による改正前の労働基準法施行規則)においては,「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」は別表第1の2第7号7に規定されており,また,「石綿にさらされる業務による良性石綿胸水又はびまん性胸膜肥厚」については,平成22年厚生労働省令第69号による改正により個別の規定が設けられるまでの間は,化学物質等による疾病として別表第1の2第4号1ないし7に掲げるもののほか,これらの疾病に付随する疾病その他化学物質等にさらされる業務に起因することの明らかな疾病 (別表1の2第4号8)として業務上疾病に該当すると解されていた。 (1) エックス線写真像の区分及びじん肺管理区分石綿認定基準においては,昭和52年法律第76号による改正後のじん肺法におけるエックス線写真像の区分及びじん肺管理区分が用いられているところ,これらの管理区分の内容は以下のとおりである。(甲A6の109頁・132頁・133頁)ア昭和52年法律第76号による改正後のじん肺法におけるエックス線写真像の区分(甲A6の35頁・132頁)第1型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり,かつ,じん肺による大陰影がないと認められるもの第2型両肺野にじん肺による粒状影又 クス線写真像の区分(甲A6の35頁・132頁)第1型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が少数あり,かつ,じん肺による大陰影がないと認められるもの第2型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が多数あり,かつ,じん肺による大陰影がないと認められるもの第3型両肺野にじん肺による粒状影又は不整形陰影が極めて多数あり,かつ,じん肺による大陰影がないと認められるもの第4型じん肺による大陰影があると認められるものイ昭和52年法律第76号による改正後のじん肺法におけるじん肺管理区分管理1 じん肺の所見がないと認められるもの管理2 エックス線写真の像が第1型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの管理3イエックス線写真の像が第2型で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの管理3ロエックス線写真の像が第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る)で,じん肺による著しい肺機能の障害がないと認められるもの管理4 1 エックス線写真の像が第4型(大陰影の大きさが一側の肺野 の3分の1を超えるものに限る。)と認められるもの 2 エックス線写真の像が第1型,第2型,第3型又は第4型(大陰影の大きさが一側の肺野の3分の1以下のものに限る。)で,じん肺による著しい肺機能の障害があると認められるもの(2) 石綿肺(石綿肺合併症を含む。)に関する業務上疾病の認定基準ア平成18年以降の石綿認定基準(乙アA8,1011)においては,石綿曝露作業に従事しているか又は従事したことのある労働者(以下「石綿曝露労働者」という。)に発生した疾病であって,じん肺法4条2項に規定するじん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺又は石綿肺に合併したじん肺法施行規 しているか又は従事したことのある労働者(以下「石綿曝露労働者」という。)に発生した疾病であって,じん肺法4条2項に規定するじん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺又は石綿肺に合併したじん肺法施行規則(昭和36年労働省令第6号)1条1号から5号までに掲げる疾病(肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸)(じん肺管理区分が管理4の者に合併した場合を含む。)は,労働基準法施行規則別表第1の2第5号に該当する業務上の疾病として取り扱うこととされた。 なお,じん肺管理区分の決定を受けていない者が療養を必要とする石綿肺にかかったり,じん肺の合併症にかかったとの診断を受けた場合は,じん肺法に基づくじん肺管理区分の決定を受けた上で労災保険給付の請求を行うのが基本であるが,当該決定を受ける前に死亡した場合や重篤な疾病にかかっており,必要な検査等を実施することが困難である場合,じん肺法上の粉じん作業に該当する作業に常時従事した職歴がなく,他の石綿曝露作業に従事していた場合等においては,じん肺法に基づくじん肺管理区分の決定を受けることができないが,このような場合でも,労働者として業務による長期間の石綿曝露歴があり,エックス線写真,肺機能検査結果,合併症に関する検査結果,死亡例の場合の解剖所見でその他石綿肺の進展の程度を示す医学的資料や合併症の有無を示す医学的資料から,石綿肺に ついてじん肺管理区分の管理4に相当すると認められる場合や石綿肺の所見があり合併症にかかっていると認められる場合には,業務上の疾病と認定される。 (乙アA35の245頁・246頁)イ粉じん曝露に労働者性の認められない期間を含む者の石綿肺及びその合併症については,「粉じん曝露歴に労働者性の認められない期間を含む者に発生したじん肺症等の取扱 乙アA35の245頁・246頁)イ粉じん曝露に労働者性の認められない期間を含む者の石綿肺及びその合併症については,「粉じん曝露歴に労働者性の認められない期間を含む者に発生したじん肺症等の取扱いについて」(昭和62年基発第51号)が発出され,①労基法9条に規定する労働者又は労災保険法33条に規定する特別加入者(以下「労働者等」という。)として粉じん作業に従事した期間及び②前記①の労働者等以外の者として粉じん作業に従事した期間のいずれも有する者については,業務起因性の判断において,前記①における粉じん作業と前記②における粉じん作業とを比較検討して,粉じんの種類に明らかな差異が認められないこと,粉じんの濃度に明らかな差異が認められないこと,前記①の期間が前記②の期間より明らかに長いと認められることのいずれにも該当する場合には,業務起因性があるものとして取り扱うとされた。また,前記の基準により業務起因性が認められない場合であっても,従事した粉じん作業の内容,粉じんの種類,気中粉じん濃度,作業の方法,粉じん作業従事期間,1日の粉じん作業時間等の調査及びじん肺の経過等に関する地方じん肺診査医の意見聴取を行った上で,総合的に業務起因性の判断を行うことが示された。(乙アA35の247頁・248頁)(3) 肺がんに関する職務上疾病の認定基準平成18年改正後の石綿認定基準(乙アA8)においては,石綿曝露労働者に発症した原発性肺がんであって,①じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られているか,又は,②胸部エックス線検査,胸部CT検査等により,胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認め られるか,又は,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められるという医学的所見が得られ,かつ,石綿曝露作業への従事期間が10年以上 線検査,胸部CT検査等により,胸膜プラーク(胸膜肥厚斑)が認め られるか,又は,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められるという医学的所見が得られ,かつ,石綿曝露作業への従事期間が10年以上ある場合には,労働基準法施行規則別表1の2第7号の「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」に該当する業務上の疾病として取り扱うこととされた。ただし,肺内に石綿小体又は石綿繊維が認められるとの医学的所見が得られたもののうち,肺内の石綿小体又は石綿繊維が一定量以上(乾燥肺重量1g当たり5000本以上の石綿小体若しくは200万本以上(5μm超。2μm超の場合は500万本以上)の石綿繊維又は気管支肺胞洗浄液1㎖中5本以上の石綿小体)認められたものは,石綿曝露作業への従事期間が10年に満たなくとも,本要件を満たすものとして取り扱うこととされている。また,石綿曝露期間が10年に満たない事案であっても,前記②に掲げる医学的所見が得られているものについては,本省に協議することとの指示がなされた。 平成24年改正後の石綿認定基準においては,①石綿製品等への石綿含有量の低下等の実情を考慮し,石綿含有製品等の一定の石綿製品の製造工程における作業に係る従事期間の算定において,平成8年以降の従事期間を実際の従事期間の2分の1として算定すること,②2μm超の場合は500万本以上とされていたが,これを1μm超とすること,③(ⅰ)胸膜プラークに関する一定の所見が得られ,かつ,石綿曝露作業の従事期間が1年以上あること,(ⅱ)石綿紡織製品及び石綿セメント製品の製造工程における作業並びに石綿の吹付け作業に従事した期間が5年以上あること(ただし,従事期間の算定において,平成8年以降の従事期間は,実際の従事期間の2分の1とする。),(ⅲ)平成24年改正後のびまん性胸膜肥厚に 業並びに石綿の吹付け作業に従事した期間が5年以上あること(ただし,従事期間の算定において,平成8年以降の従事期間は,実際の従事期間の2分の1とする。),(ⅲ)平成24年改正後のびまん性胸膜肥厚についての石綿認定基準を満たすびまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの,を認定基準として加えること,といった内容の改正がされた(乙アA1011,1012)。 (4) 中皮腫に関する業務上疾病の認定基準 石綿認定基準(乙アA8,1011)においては,石綿曝露労働者に発症した胸膜,腹膜,心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって,①じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られているか,又は,②石綿曝露作業への従事期間が1年以上ある場合には,労働基準法施行規則別表第1の2第7号の「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」に該当する業務上の疾病として取り扱うこととされ,これに該当しない中皮腫の事案については,本省に協議することとされている(ただし,平成24年改正においては,最初の石綿曝露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除くとされた。)。 なお,認定に当たっての留意事項として,中皮腫は診断が困難な疾病であるため,臨床所見,臨床検査結果だけでなく,病理組織検査に基づく確定診断がなされることが重要であり,また,確定診断に当たっては,肺がん,その他のがん,結核性胸膜炎,その他の炎症性胸膜などとの鑑別も必要となるため,中皮腫の業務上外の判断に当たっては,病理組織検査記録等を収集し,確定診断がなされているか確認すること,及び,病理組織検査が行われていない事案については,臨床所見,臨床経過,臨床検査結果,他疾患との鑑別の根拠等を確認することが指示されている。 記録等を収集し,確定診断がなされているか確認すること,及び,病理組織検査が行われていない事案については,臨床所見,臨床経過,臨床検査結果,他疾患との鑑別の根拠等を確認することが指示されている。 (5) びまん性胸膜肥厚に関する業務上疾病の認定基準平成18年改正後の石綿認定基準(乙アA8)においては,石綿曝露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって,①胸部エックス線写真で,肥厚の厚さについては,最も厚いところが5㎜以上あり,広がりについては,片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の2分の1以上,両側に肥厚がある場合は側胸壁の4分の1以上あるものであって,著しい肺機能障害を伴い,かつ,②石綿曝露作業への従事期間が3年以上ある場合には,労働基準法施行規則別表第1の2第4号に該当する業務上の疾病として取り扱い,前記①の要件に 該当するものであって,かつ,前記②の要件に該当しないびまん性胸膜肥厚の事案については,本省に協議することとされている。 なお,認定に当たっての留意事項として,びまん性胸膜肥厚は石綿曝露に起因するものの他,関節リウマチ等の膠原病に合併したもの,薬剤によるもの,感染によるもの等石綿曝露と無関係なものもあるため,その業務上外の判断に当たっては,その診断根拠となった臨床所見,臨床経過,臨床検査結果等の資料を収集し,石綿によるとの診断が適正になされていることを確認することが指摘されている。また,びまん性胸膜肥厚が業務上疾病として療養の対象となる要件として,「著しい肺機能障害を伴うこと」(前記①)としたが,これは,じん肺法4条でいう「著しい肺機能障害」と同様であるとされた。 平成24年改正後の石綿認定基準(乙アA1011)においては,石綿曝露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって,①胸部CT画像上,肥厚の広がりが, いう「著しい肺機能障害」と同様であるとされた。 平成24年改正後の石綿認定基準(乙アA1011)においては,石綿曝露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって,①胸部CT画像上,肥厚の広がりが,片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の2分の1以上,両側に肥厚がある場合は側胸壁の4分の1以上あるものであること,②著しい呼吸機能障害を伴うこと,③石綿曝露作業への従事期間が3年以上あること,のいずれの要件にも該当する場合には,業務上の疾病として取り扱うこととされた。 第3節前提事実(関係法令の定め等)(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠により容易に認められる事実)第1 労働関係法令における石綿粉じん等に関する規制(法令,通達等の定め) 1 戦前から旧じん肺法制定(昭和35年)前までに定められた規制(1) 工場危害予防及び衛生規則の制定(昭和4年)昭和4年6月20日に制定,同年9月1日に施行された「工場危害予防及び衛生規則」は,工場法(明治44年法律第46号)の適用を受ける常時15人以上の職工を使用する工場(工場法第1条1号)について,使用者に対し,①「瓦斯,蒸気又は粉塵を発散し衛生上有害なる場所又は爆発の虞ある 場所には之が危害を予防する為其の排出密閉其の他適当なる設備を為すべし」とし,これを受けて,同法施行標準は「瓦斯,蒸気又は粉塵は先ず発生を防止するか又は発生の局所を密閉するに努め其の不可能なるときは成るべく発生の局所に於いて吸引排出する装置を設くること」とした。さらに,②瓦斯,蒸気又は粉じんを発散し衛生上有害なる場所に,必要ある者以外の立入ることを禁止し其の旨掲示する義務(工場危害予防及び衛生規則27条2号),及び③「研磨機による金属研磨,炭酸含有清涼飲料水の瓶詰其の他物体の飛来の虞ある作業高熱物体又は毒劇薬,毒 要ある者以外の立入ることを禁止し其の旨掲示する義務(工場危害予防及び衛生規則27条2号),及び③「研磨機による金属研磨,炭酸含有清涼飲料水の瓶詰其の他物体の飛来の虞ある作業高熱物体又は毒劇薬,毒劇物の製造又は取り扱いを為す作業,有害光線に曝露する作業,多量の粉塵又は有害の瓦斯,蒸気若は粉塵を発散する場所に於ける作業其の他危害の虞あり又は衛生上有害なる作業に於いては之に従事する職工に使用せしむる為適当なる保護具を備ふべし。」とした(同規則28条)。また,職工に対し,作業中に前記保護具を使用すること義務付けた(同規則28条)。(甲A1087,1088,1106,乙アB1001)なお,工場法においては,適用対象となる「職工」についての定義規定は置かれていなかったが,主として工場内に在って工場の目的とする作業の本体たる業務に付き労役に従事する者及び直接にその業務を助成する為労役に従事する者と解されており,同法13条においては,行政官庁は,命令の定めるところにより,工場及び付属建設物並びに設備が危害を生じ又は衛生,風紀その他公益を害するおそれありと認めるときは,予防又は除外の為必要な事項を工業主に命じ,必要と認めるときはその全部又は一部の使用を停止することができると定め,さらに,主務大臣は,工場法の適用範囲外の工場であって,原動力を用いるものについても,同条を適用することができる旨定めていた(甲A1087,1092)。 (2) 旧労基法の制定(昭和22年)昭和22年に制定された旧労基法(乙アB2)は,労働条件は,労働者が 人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならないとし,労働条件の最低基準を定めることを目的とするものであり(同法1条),建設業(改造,修理,解体等を含む)を適用事業に含めていた(同法 値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならないとし,労働条件の最低基準を定めることを目的とするものであり(同法1条),建設業(改造,修理,解体等を含む)を適用事業に含めていた(同法8条3号)。同法においては,職業の種類を問わず,8条の事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者を「労働者」(同法9条),事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について,事業主のために行為する全ての者を「使用者」と定義された(同法10条)。 同法においては,石綿を含めた粉じん等による危険を防止するため,使用者の義務として,①粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法42条),②労働者を就業させる建築物等について,労働者の健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講じる義務(同法43条),③労働者を雇い入れた場合においてその労働者に対して当該業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施す義務(同法50条),④一定の事業について労働者の雇入れの際及び定期に医師に労働者の健康診断をさせる義務(同法52条1項),⑤一定の事業について安全管理者及び衛生管理者を選任する義務(同法53条1項)が定められ,また,労働者に対しては⑥危害の防止のために必要な事項を遵守すべき義務(同法44条)を定めた。 そして,前記①又は②の規定に違反した者は6か月以下の懲役又は5000円以下の罰金に処する旨定められ(同法119条1号),前記③ないし⑥に違反した者は5000円以下の罰金に処する旨定められた(同法120条1号)。 さらに,旧労基法においては,黄りんマッチその他命令で定める有害物を製造,販売,輸入又は販売の目的で所持することを禁止する旨が定められた(同法48条)。 旧労基法は,第8章として災害補償に関する定めを ,旧労基法においては,黄りんマッチその他命令で定める有害物を製造,販売,輸入又は販売の目的で所持することを禁止する旨が定められた(同法48条)。 旧労基法は,第8章として災害補償に関する定めを置き,労働者が業務上負傷し,又は疾病にかかった場合においては,使用者は,その費用で必要な 療養を行い,又は必要な療養の費用を負担しなければならないこと(療養補償。同法75条),労働者が前記療養のため,労働することができないために賃金を受けない場合においては,使用者は,労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならないこと(休業補償。同法76条)のほか,障害補償(同法77条),遺族補償(同法79条),葬祭料(同法80条)の支払について規定した。また,療養補償(同法75条)の規定によって補償を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては,使用者は,平均賃金の1200日分の打切補償を行い,その後はこの法律による補償を行わなくてもよい(打切補償。同法81条)旨定められた。請負事業に関しては,同法87条において,事業が数次の請負によっておこなわれる場合においては,災害補償については,その元請負人を使用者とみなすこと(同条1項),前記場合に元請負人が書面による契約で下請負人に補償を引き受けさせた場合には,その下請負人もまた使用者とすること(同条2項本文。ただし,2以上の下請負人に,同一の事業について重複して補償を引き受けさせてはならない(同項ただし書)。)とされた。 前記療養補償,休業補償,障害補償,遺族補償及び葬祭料に関する規定に違反した者は,6か月以下の懲役又は5000円以下の罰金に処する旨規定された(同法119条1項)。 なお,旧労基法の制定に伴い工場法が廃止されたことによ 障害補償,遺族補償及び葬祭料に関する規定に違反した者は,6か月以下の懲役又は5000円以下の罰金に処する旨規定された(同法119条1項)。 なお,旧労基法の制定に伴い工場法が廃止されたことにより,工場危害予防及衛生規則は廃止された(旧労基法附則123条)。 (3) 旧安衛則の制定(昭和22年)旧労基法45条は,使用者が同法42条(前記(2)①)及び同法43条(前記(2)②)の規定によって講ずべき措置の基準及び労働者が同法44条(前記(2)⑥)の規定によって遵守すべき事項は命令で定めるとした。また,同法52条1項(前記(2)④)の事業の種類及び規模並びに定期の健康診断 の回数及び同法53条1項(前記(2)⑤)の事業の種類及び規模並びに安全管理者及び衛生管理者の資格及び職務に関する事項についても命令で定めるものとされた(同法52条4項,53条2項)。 前記旧労基法の委任に基づき,旧安衛則(乙アB3)が定められ,以下の内容の規定が設けられた。 ア粉じん対策等粉じんに関し,①粉じんを発散する等衛生上有害な作業場においては,その原因を除去するため,作業又は施設の改善に努める義務(旧安衛則172条),②粉じんを発散する屋内作業場において,場内空気のその含有濃度が有害な程度にならないように,局所における吸引排出又は機械若しくは装置の密閉その他新鮮な空気による換気等適当な措置を講ずべき義務(同規則173条),③屋外において著しく粉じんを発散する作業場においては,注水その他粉じん防止の措置を講ずべき義務(同規則175条),④粉じんを発散し衛生上有害な場所に,必要ある者以外の者の立入を禁止し,その旨を掲示すべき義務(同規則179条1項4号),⑤粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務において,その作業に従事する労働者に使 発散し衛生上有害な場所に,必要ある者以外の者の立入を禁止し,その旨を掲示すべき義務(同規則179条1項4号),⑤粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務において,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えるべき義務(同規則181条)及び前記保護具について,同時に就業する人数と同数以上を備え,常時有効且つ清潔に保持すべき義務(同規則184条)が定められた。 イ健康診断①常時50人以上の労働者を使用する事業において,常時使用する労働者を雇い入れる場合(旧安衛則48条1項),及び②粉じんを発散する場所における業務に常時使用する労働者を雇い入れる場合(同規則48条2号ヲ)に,健康診断を行うべき義務,並びに,③粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者についての年2回以上の定期健康診断を すべき義務(同規則49条2項)が定められた。 なお,これらの規定に基づく健康診断の診断項目については,同規則50条1項において規定されていた。 ウ安全管理者常時50人以上の労働者を使用する建設業については安全管理者を選任しなければならず(旧安衛則1条1号),安全管理者の業務として,①建設物,設備,作業場所又は作業方法に,危険がある場合における応急措置又は適当な防止の措置を行うこと,②安全装置,保護具,消火設備その他危害防止施設の性能の定期的点検及び整備を行うこと,③安全作業に関する教育及び訓練を行うこと等が定められた(同規則6条1号,2号)。 エ衛生管理者常時50人以上の労働者を使用する事業においては,医師である衛生管理者及び医師でない衛生管理者を選任しなければならないものとされ(旧安衛則11条),衛生管理者の業務として,①健康に異常のある者の発見及び処置,② の労働者を使用する事業においては,医師である衛生管理者及び医師でない衛生管理者を選任しなければならないものとされ(旧安衛則11条),衛生管理者の業務として,①健康に異常のある者の発見及び処置,②労働環境衛生に関する調査,③作業条件,施設等の衛生上の改善,④衛生用保護具,救急用具等の点検及び整備,⑤衛生教育,健康相談その他労働者の健康保持のために必要な事項等が定められ,加えて,医師である衛生管理者は健康診断を行わなければならないと規定された(同規則19条)。 オ労働者の負う義務労働者に対しては,①粉じんを発散し衛生上有害な場所であって,必要ある者以外の者の立入りが禁止された場所にみだりに立ち入らない義務(旧安衛則179条2項),②粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務に従事する際,その就業中保護具を使用すべき義務(同規則185条)が課された。 (4) 旧安衛則の改正,労働衛生保護具検定規則の制定及び同規則に基づく告 示等による防じんマスクの規格及び使用基準の定め(昭和24年ないし昭和30年)ア旧安衛則の改正及び労働衛生保護具検定規則の制定前記(3)のとおり,旧安衛則において,使用者に対し呼吸用保護具等を備え付けるべき義務が定められ,労働者に対してその使用義務が定められていたところ,労働省は,昭和24年に旧安衛則を改正し,石綿を含む粉じんを発生し衛生上有害な場所における業務において備えるべき労働衛生保護具のうち,労働大臣が規格を定めるものについて,検定を義務付けた(同規則183条の2)(昭和24年労働省令第30号。乙アB1002)。 当該検定については,昭和25年12月26日に労働衛生保護具検定規則(昭和25年労働省令第32号。乙アB4)が定められ,保護具を製造する者の申請により,労働大臣が別に告示に 号。乙アB1002)。 当該検定については,昭和25年12月26日に労働衛生保護具検定規則(昭和25年労働省令第32号。乙アB4)が定められ,保護具を製造する者の申請により,労働大臣が別に告示により定める規格に基づいて,労働省労働基準局長が行うものとされた(同規則2条)。 イ防じんマスクの規格労働衛生保護具検定規則が制定された同日に,「労働衛生保護具のうち防じんマスクの規格」(昭和25年労働省告示第19号。乙アB5)により,ろじん能力について,気積15㎥以上の粉じん室において,粒子の大きさ325メッシュ以下の沈降性炭酸カルシウム粉末を用い,粉じん濃度を1㎥中150±50㎎に安定し,その粉じん空気を毎分30ℓの流量で10分間ろじん部を通過せしめた後,その通過前後の粉じん濃度を比較測定する方法によって試験した結果,ろじん効率が90%以上のものを第一種マスク,60%以上のものを第二種マスクとすることが定められた(同 ウ防じんマスクの使用基準防じんマスクの使用基準については,労働省労働基準局から各都道府県労働基準局長宛の「防じんマスクの規格の制定及び検定の実施について」 (昭和26年基発第24号。乙アB6)によって指定され,石綿採掘におけるさく岩の作業等石綿を含む粉じんを発する場所における業務について,作業場における空気中の粉じん数量が1㎤中1000個以上の場合には第1種マスクを,1㎤中500個以上であれば第2種マスクを使用すべきものとされた。 エ防じんマスクの使用に関する指導,監督についての通達の発出防じんマスクの使用の実効性を担保するため,労働省労働基準局長から都道府県労働基準局長宛に,「防じんマスクの使用に関する指導,監督について」(昭和26年基発第25号。乙アB7)が発出され,指導,監督の要領として 使用の実効性を担保するため,労働省労働基準局長から都道府県労働基準局長宛に,「防じんマスクの使用に関する指導,監督について」(昭和26年基発第25号。乙アB7)が発出され,指導,監督の要領として,①新たに使用させるマスクについては,マスク及び部分品に添付された検定合格標章により労働衛生保護具検定規則の定める検定に合格したものであることを確認させること,②使用中のマスクについては,ろ過層が粉じんでふさがらないようにろ過材等に付着している粉じんを適時除去させ,③ろ過材,吸気弁及び面体等に欠損を生じ又は脆弱性を帯びている等の場合には新品と交換させることとし,さらに,留意させるべき事項として,④予備の部分品を常時備え付けさせ,できる限り労働者にろ過剤等の部分品を携行させ,適時作業場において交換使用できるようにすること,⑤労働者に,マスクの正確な使用方法を理解させ,実施させること,⑥衛生管理者等にマスクを常時点検させること等を示した。 オ防じんマスクの規格及び使用基準の改正防じんマスクの規格について定めた,「防じんマスクの規格」(昭和30年労働省告示第1号。乙アB8)において,防じんマスクは高濃度粉じん用マスクと低濃度用粉じんマスクとに区別され,さらにそれぞれにつき,ろ過材を水にぬらしているか否かで分けた上で,吸気抵抗とろじん効率に応じて1種から4種までの種別が設けられた。なお,ろじん効率については,気積27㎥以上の粉じん室において,JISZ8801(標準フル イ)の規定による44μの標準網ふるい(325メッシュの標準網ふるい)を通沈降性炭酸カルシウムを発じんさせ,浮遊粒子の大きさを1μ前後にしたのち,高濃度粉じん用マスクにあっては粉じん濃度1㎥中150±50㎎,低濃度粉じん用マスクにあっては1㎥中60±30㎎の粉じん含有 沈降性炭酸カルシウムを発じんさせ,浮遊粒子の大きさを1μ前後にしたのち,高濃度粉じん用マスクにあっては粉じん濃度1㎥中150±50㎎,低濃度粉じん用マスクにあっては1㎥中60±30㎎の粉じん含有空気を,毎分30ℓの流量で,ろじん部に10分間通じたのち,その通過前後の空気中の粉じん量を測定する方法により試験した結果が,95%以上のものを1種,90%以上のものを2種,75%以上以上のものを3種,60%以上のものを4種とした。 防じんマスクの使用基準については,「防じんマスクの規格の制定及びそれに伴う労働衛生保護具検定規則の一部の改正について」(昭和30年基発第49号。乙アB9)が発出され,前記ウ記載の内容に加え,指導要領として,石綿等の粉じんについて,作業場における空気中の粉じん量及び主作業の強度(代謝率)に応じてマスクの種類,種別を選択すべきものとされ,具体的には,作業場における空気中の粉じん量が3000/㎤以上の場合には高濃度粉じん用マスクを使用し,400/㎤以上3000/㎤未満の場合には低濃度粉じん用マスクを選択すること等が示された。なお,使用上の心得として,「選択すべきマスクは,衛生学的にはろじん効率が,高いもの程望ましいのであるが,実際上は,マスクの息苦しさの程度即ち吸気抵抗の程度を考慮して,マスクの選択を行わざるを得ない」として,同通達の定める使用区分は主作業の強度により選択すべき種別にかなりの巾をもたせているため,使用が可能である限りは高いろじん効率のものを選択すべきである,と記載されていた。 (5) 昭和31年通達の発出アけい特法の制定(昭和30年)昭和30年7月29日,けい肺(遊離けい酸じん又は遊離けい酸を含む粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化の疫病及びこれ と肺結核の合併した アけい特法の制定(昭和30年)昭和30年7月29日,けい肺(遊離けい酸じん又は遊離けい酸を含む粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖性変化の疫病及びこれ と肺結核の合併した疾病をいう。けい特法2条1項1号)にかかった労働者(他人に使用される者で,労働の対価として賃金,給料その他の報酬を支払われる者。同法2条1項5号)の病勢の悪化の防止を図るとともに,けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった労働者に対して療養給付,休業給付等を行い,もって労働者の生活の安定と福祉の推進に寄与することを目的として,けい特法(乙アB11)が制定された。 同法においては,使用者に対し,一定の条件を満たす労働者に対して,その就業の際又は定期的に,けい肺健康診断を行うべき義務(同法3条)や,けい肺健康診断等の結果,けい肺に罹患していると判断され,その症状の決定を受けた一定の労働者については,都道府県労働基準局長が使用者に対して,当該労働者を粉じん作業以外の作業につかせることを勧告することができ,これを受けた使用者は当該労働者を粉じん作業以外の作業につかせるように努める義務(同法8条),さらには,政府が,けい肺にかかった労働者等が旧労基法又は労災保険法による打切補償費の支給を受けた後2年間,療養給付を支給すること(けい特法11条)等が定められた。 しかし,同法においては,石綿に係る作業については,その適用範囲外であった。 イ昭和31年通達の発出石綿に係る作業についてはけい特法の適用範囲外であったが,昭和31年5月,労働省労働基準局長は,昭和31年通達(「特殊健康診断指導指針について」昭和31年基発第308号。乙アB12)において,過去の試験研究及び実態調査の結果等を検討した結果,「けい肺を除くじん肺を起こし又はそのおそれある粉じん 31年通達(「特殊健康診断指導指針について」昭和31年基発第308号。乙アB12)において,過去の試験研究及び実態調査の結果等を検討した結果,「けい肺を除くじん肺を起こし又はそのおそれある粉じんを発散する場所における業務」として,①石綿及び石綿を含む岩石を掘さくし,破さいし若しくはふるいわける場所における作業又はこれらの物を積み込み,若しくは運搬する作業,②石 綿をときほごす作業,③石綿を混合する場所における作業,④石綿布を織る場所における作業,⑤石綿又は石綿製品を切断し又は研まする場所における作業を,「有害な又は有害のおそれある主要な作業」と定め,特殊健康診断(エックス線直接撮影による胸部の変化の検査)の実施を使用者に勧奨すべき作業とした。 (6) 「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」の発出(昭和33年)昭和33年5月,労働省労働基準局長は,けい特法によるけい肺健康診断の実施並びに前記昭和31年通達に基づく特殊健康診断の実施等による結果によれば,異常所見者が各関係作業に従事する労働者中にかなり存在するものと推定されることから,これらの各関係作業につき労働環境の改善が必要であるとして,都道府県労働基準局長宛に「職業病予防のための労働環境の改善等の促進について」(昭和33年基発第338号。乙アB13)を発出した。 同通達の別紙(「労働環境における職業病予防に関する技術指針」。乙アB14)においては,けい特法に定める粉じん作業のほか前記昭和31年通達における特殊健康診断の指導対象作業についても,労働環境の改善を含む予防対策のよるべき一般的措置として,各作業の種類に応じ,発散有害物の抑制目標限度,労働環境に対する措置,労働衛生保護具による措置等の対策が定められた。当該指針においては,石綿の抑制目標限度は 含む予防対策のよるべき一般的措置として,各作業の種類に応じ,発散有害物の抑制目標限度,労働環境に対する措置,労働衛生保護具による措置等の対策が定められた。当該指針においては,石綿の抑制目標限度は1000個/㏄とされ,前記(5)イ②ないし⑤の各作業においては,労働環境に対する措置としては,局所排気装置を設け,また,できうる限り窓を開放し,作業方法としては局所排出の吸引気流外で作業し,労働環境に対する措置を行っても抑制目標限度以下にならない場合には検定に合格した防じんマスクを着用し,さらに,抑制目標限度以下であっても粉じんが400個/㏄以上の場合にはできうる限り検定に合格した防じんマスクの着用を勧奨することとされた。 2 旧じん肺法の制定(昭和35年)(1) 昭和35年3月31日に制定,公布され,同年4月1日に施行された旧じん肺法(乙アB19)は,じん肺に関し適正な予防及び健康管理その他必要な措置を講ずることにより,労働者(旧労基法9条に規定する労働者をいう。旧じん肺法2条3項)の健康の保持その他福祉の増進に寄与することを目的とするものであり(同法1条),同法においては,同法2条1項1号により,じん肺について「鉱物性粉じんを吸入することによって生じたじん肺及びこれと肺結核の合併した病気をいう。」と定義され,石綿肺もその対象とされた。 同法が適用される「粉じん作業」については,「当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業をいう。」とし,その具体的な範囲については「労働省令で定める。」とされ(同法2条1項2号,2項),これを受けて制定されたじん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号。乙アB20)において,前記「粉じん作業」には「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゆう綿し,紡糸し,紡織し,積 2号,2項),これを受けて制定されたじん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号。乙アB20)において,前記「粉じん作業」には「石綿をときほぐし,合剤し,ふきつけし,りゆう綿し,紡糸し,紡織し,積み込み,若しくは積みおろし,又は石綿製品を積層し,縫い合わせ,切断し,研まし,仕上げし,若しくは包装する場所における作業」を含む旨定められた(同規則1条,別表第1第23号)。なお,「じん肺法の施行について」(昭和35年基発第331号。乙アB21)において,じん肺法施行規則別表第1第23号の「石綿」は天然の無機繊維をいい,岩綿,ガラス繊維等人口無機繊維等は含まないとされた。 また,旧じん肺法においては,使用者及び粉じん作業に従事する労働者に対し,旧労基法及び鉱山保安法の規定によるほか,粉じんの発散の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講ずる努力義務(旧じん肺法5条)が定められ,さらに,使用者に対しては,常時粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺に関する予防及び健康管理のため必要な教育を行う義務(同 法6条),及び常時粉じん作業に従事する労働者等に対してじん肺健康診断を実施すべき義務(同法7条ないし9条)が定められた。 なお,使用者の前記教育義務(同法6条)及びじん肺健康診断実施義務(同法7条ないし9条)に違反した場合には,5000円以下の罰金に処する旨定められた(同法45条1号)。 前記昭和35年基発第331号(乙アB21)においては,旧じん肺法6条の教育義務は,じん肺の予防及び健康管理に十分な効果をあげるためには,常時労働者に対し,それらに関して必要な知識を得させる必要があることから設けられたものであり,したがって,使用者は,単に雇入れ時に限らず,労働者に必要な知識を付与するよう措置する義務を負うものであるが,「必 に対し,それらに関して必要な知識を得させる必要があることから設けられたものであり,したがって,使用者は,単に雇入れ時に限らず,労働者に必要な知識を付与するよう措置する義務を負うものであるが,「必要な教育」の内容,時期及び回数等は,医学及び衛生工学の進歩,技術の変革,さらには事業場の実情等に応じてそれぞれ異なるべきものであり,これを一律化することは必ずしも適当ではないので,これが運用にあたっては,各事業場の実情に即して最も効果的な方法により行わしめるよう指導に努めることとされた。また,「常時粉じん作業に従事する」とは,労働者が業務の常態として粉じん作業に引き続いて従事することをいうが,必ずしも労働日の全部について粉じん作業に従事することを要件とするものではないとされた。 (2) 旧じん肺法は,その後,産業活動の進展に伴う粉じん作業を行う事業場数と従事労働者数の増加や,作業環境等の変化によるじん肺発生状況の変化,じん肺に関する医学的研究の進歩等を踏まえ,粉じん作業従事労働者のより一層の健康管理の充実を図るため,①じん肺及び合併症の定義,②じん肺健康診断の方法,③X線写真像の区分及びじん肺管理区分,④じん肺健康診断の実施,⑤じん肺管理区分の決定等,及び⑥健康管理のための措置等の整備充実を主要な内容として,一部改正が行われ,昭和53年3月31日から施行された(乙アB106)。 3 旧じん肺法の制定以降,旧特化則の制定(昭和46年)までに定められた規制(法令,通達等の定め)(1) 防じんマスクの規格の改正(昭和37年)防じんマスクについて,「防じんマスクの規格」(昭和37年労働省告示第26号。乙アB10)により,昭和30年労働省告示第1号による規格が昭和37年5月31日限りで廃止され,新たな規格が定められた。 新たな規 クについて,「防じんマスクの規格」(昭和37年労働省告示第26号。乙アB10)により,昭和30年労働省告示第1号による規格が昭和37年5月31日限りで廃止され,新たな規格が定められた。 新たな規格においては,防じんマスクの種類が隔離式防じんマスク(濾過材,連結管,面体及び装着帯からなり,かつ,濾過材によって粉じんを濾過した清浄空気を連結管を通じて吸入し,呼吸は排気弁から外気中に排出するもの)と直結式防じんマスク(濾過材及び面体からなり,かつ,濾過材によって粉じんを濾過した清浄空気を吸入し,呼気は排気弁から外気中に排出するもの)に区分され,それぞれについて,重量及び性能(圧力差,粉じん捕集効率等)に応じて等級が分けられた。なお,等級は,標準人頭に装着した防じんマスクに石英粉じん含有空気を毎分30ℓの流量で通じ,通過前及び算定した結果,粉じん捕集効率が99%以上であれば特級,95%以上であれば1級,80%以上であれば2級とされた。 (2) 「じん肺法に規定する粉じん作業に係る労働安全衛生規則第173条の適用について」の発出(昭和43年)「じん肺法に規定する粉じん作業にかかる労働安全衛生規則第173条の適用について」(昭和43年基発第609号。乙アB22)が発出され,旧安衛則173条により,粉じん抑制のため,通常局所排気装置による措置を講じる必要のある作業場として,①石綿に係る装置により,ときほぐしする作業,合剤する作業,ふきつけする作業,りゆう綿する作業,②石綿製品に係る装置により,切断する作業,研まする作業を行う作業場が定められた。 (3) 「石綿取扱い事業場の環境改善等について」の発出(昭和46年) 「石綿取扱い事業場の環境改善等について」(昭和46年基発第1号。乙アB23)においては,その冒頭において,「石綿取扱 3) 「石綿取扱い事業場の環境改善等について」の発出(昭和46年) 「石綿取扱い事業場の環境改善等について」(昭和46年基発第1号。乙アB23)においては,その冒頭において,「石綿取扱い作業に関しては,石綿肺の予防のため,これまで,局所排気装置の設置を,労働安全衛生規則第173条に基づき促進してきたところである。最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた。一方,石綿は耐熱性,電気絶縁性等が高いという特性のためその需要は急速に増加してきている。よってこの際,石綿によるこの種の疾病を予防するため,関係事業場に対して下記の点に留意の上監督指導を行われたい。なお,その結果についてはすみやかに報告されたい。」との記載がなされた上で,留意すべき事項として,①昭和43年基発第609号に定める以外の石綿取扱い作業についても技術的に可能な限り局所排気装置を設置させること,②作業場内における石綿粉じんの飛散を極力減少させるため,既存の局所排気装置についてもその性能の向上に努めさせること,③局所排気装置には,ろ布式除じん装置等の除じん装置を併せ設置させること,④じん肺健康診断を完全に実施させ,異常者の早期発見に努めさせること,⑤石綿取扱い作業を有する事業場に対しては,粉じん対策指導委員,地方労働衛生専門官等の職員により技術的指導を行うとともに,産業安全衛生施設等特別融資制度の利用を勧奨すること,が挙げられた。 4 旧特化則の制定等(昭和46年)(1) 旧特化則制定に至る経緯等ア労働環境技術基準委員会による検討と報告(昭和46年)有害物等による業務上疾病の増加がみられたことなどを踏まえ,労働省 4 旧特化則の制定等(昭和46年)(1) 旧特化則制定に至る経緯等ア労働環境技術基準委員会による検討と報告(昭和46年)有害物等による業務上疾病の増加がみられたことなどを踏まえ,労働省に労働環境技術基準委員会が設置され,同委員会において,石綿を含む有害物等による障害の防止に関する対策(規制)について技術的な検討が行われた。そして,その検討結果については,昭和46年1月21日付け 「有害物等による障害の防止に関する対策について」(乙アB15)としてまとめられた。そこでは,有害物等による障害を防止するには,作業環境内の有害物等の発散を抑制することが重要であり,そのためには,作業環境内に有害物が発散することを防止するための設備の整備を進めるべきであるとされ,これに関連する抑制濃度の値としては,当面,日本産業衛生協会(昭和47年に日本産業衛生学会に名称変更。以下,当該名称変更前後を通じて「日本産業衛生学会」という。)が勧告する許容濃度(労働者が有害物に曝露される場合,当該物質の空気中濃度がこの数値以下であれば,ほとんど全ての労働者に健康被害が見られないという濃度。乙アB16)の値及びこれに定めがないものについては,ACGIH(米国労働衛生専門官会議)等で定める値を利用することが適当であるとされた。 当該報告においては,①障害発生の事例があること,②毒性が強くて重篤な障害の発生のおそれがあるものであること,③障害が多発するおそれがあるものであること,④講ずべき施設,保護具その他の措置が明らかであること,⑤抑制のための濃度がきめられていること,⑥実施し得る測定の方法があること,を総合的に勘案した結果選定された「取り急ぎ対策を講ずる必要がある有害物等」として石綿が選定されており,また,石綿については日本産業衛生学会が許容 られていること,⑥実施し得る測定の方法があること,を総合的に勘案した結果選定された「取り急ぎ対策を講ずる必要がある有害物等」として石綿が選定されており,また,石綿については日本産業衛生学会が許容濃度を2㎎/㎥(当該濃度は,繊維数濃度に換算すると33本/㎤に相当する)と定めていた。 イ旧特化則の制定労働省は,前記アの報告を踏まえ,中央労働基準審議会に対して労働環境の技術基準に関する諮問を行った上,その答申を踏まえて,旧労基法45条,52条5項及び53条2項の規定に基づき,同法を実施するため,旧特化則(乙アB17)を定めた。 なお,昭和46年通達(甲A83,1089,乙アB85)において,旧特化則と旧安衛則の関係について,旧特化則は,一定の化学物質等によ る中毒等の障害の予防に必要な事項のうち,旧安衛則に規定されていない事項及び規定されてはいるがさらに具体的に規定する必要がある事項について規定したものであり,両規則の規定が競合する部分については旧特化則の規定が優先するものであること,及び,旧特化則に規定されていない事項については,当然旧安衛則が適用されることが示された。 (2) 旧特化則の内容旧特化則においては,石綿が第二類物質として規制対象とされ(同規則2条2号,別表第二),石綿の取扱いに関し,使用者に対して以下の内容の義務が定められた。 なお,以下の義務に使用者が違反した場合には,旧労基法の定める①粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法42条)又は②労働者を就業させる建築物等について,労働者の健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講じる義務(同法43条)に違反した者として,同法119条1項の定めにより,6か月以下の懲役又は5000円以下の罰金に処せられる。 ア局所排気装置(ア 健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講じる義務(同法43条)に違反した者として,同法119条1項の定めにより,6か月以下の懲役又は5000円以下の罰金に処せられる。 ア局所排気装置(ア) 使用者は,第二類物資(石綿)粉じんが発散する屋内作業場について,当該発散源に局所排気装置を設ける義務を負うものと定められた(旧特化則4条1項本文)が,例外として,局所排気装置の設置が著しく困難な場合又は臨時の作業を行う場合は局所排気装置を設けなくてもよいとされ,その場合には,全体換気装置を設け,石綿を湿潤な状態にする等労働者の障害を予防するため必要な措置を講じなければならないとされた(同条1項ただし書,2項)。 なお,昭和46年通達においては,①旧特化則4条1項の「設置が著しく困難な場合」には,種々の場所に短期間ずつ出張して行う作業の場合又は発散源が一定していないために技術的に設置が困難な場合がある こと,②同項の「臨時の作業を行う場合」とは,その事業において通常行っている作業のほかに一時的必要に応じて行う第二類物質に係る作業を行う場合をいい,したがって,一般的には,作業時間が短時間の場合が少なくないが,必ずしもそのような場合のみに限られる趣旨ではないこと,③旧特化則において,「屋内作業場」には,作業場の建屋の側面の半分以上にわたって,壁,羽目板,その他の遮蔽物が設けられておらず,かつガス,蒸気又は粉じんがその内部に滞留するおそれがない作業場は含まれないこと,④同規則4条2項の「湿潤な状態にする等」の「等」には,短期間出張して行う作業又は臨時の作業を行う場合における適切な労働衛生保護具の使用が含まれること,が示されていた。 (イ) 旧特化則4条1項によって設置が義務付けられる局所排気装置については,①フードが第二類物質(石 業又は臨時の作業を行う場合における適切な労働衛生保護具の使用が含まれること,が示されていた。 (イ) 旧特化則4条1項によって設置が義務付けられる局所排気装置については,①フードが第二類物質(石綿)の発散源ごとに設けられ,かつ,外付け式又はレシーバ式のフードにあっては当該発散源にできるだけ近い位置に設けられていること,②排気口は屋外に設けられていること等の要件を満たすものでなければならず(同規則6条1項),また,③そのフードの外側における第二類物質の濃度が労働大臣が定める値を超えないものとする能力を有するものでなければならないとされ(同規則6条2項),石綿粉じんについては,前記濃度は,摂氏25度,1気圧の空気1㎥あたり2㎎と定められた(昭和46年労働省告示第27号。乙アB18)。 (ウ) 使用者は,第二類物質(石綿)に係る作業が行われている間,局所排気装置を稼働させる義務を負うとされた(旧特化則7条1項)。 (エ) 第二類物質(石綿)粉じんを含有する気体を排出する局所排気装置その他の設備には,粉じんを除去する除じん装置を設置すべき義務が定められた(旧特化則8条)。 昭和46年通達においては,同条は,化学物質等の含じん気体をその まま大気中に放出すると,労働環境を汚染して労働者に中毒,障害をおよぼすおそれがあるのみならず,ひいては公害をもたらすことになるので,その放出源である局所排気装置のダクトまたは生産設備等の排気用スタックについて有効な除じん方式の除じん装置を設けること,およびそれを有効に維持稼働させることを規定したものである,とされた。 イ立入禁止措置使用者は,第二類物質(石綿)等を製造し又は取り扱う作業場に関係者以外が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務を負うことが定められた( ある,とされた。 イ立入禁止措置使用者は,第二類物質(石綿)等を製造し又は取り扱う作業場に関係者以外が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務を負うことが定められた(旧特化則25条)。 ウ容器等使用者は,石綿を運搬し又は貯蔵する場合は,石綿がこぼれる等のおそれがないように,堅固な容器を使用し又は確実な包装をし(旧特化則26条1項),前記容器又は包装の見やすい箇所に石綿の名称及び取扱い上の注意事項を表示し(同条2項),石綿の保管については一定の場所を定め(同条3項),さらに,石綿の運搬又は貯蔵のために使用した容器又は包装については石綿が発散しないような措置を講じ,保管する場合には一定の場所を定めて集積しておくべき義務を負う(同条4項)ものとされた。 なお,昭和46年通達においては,①同条1項の措置は,素材としての石綿等のように塊状であって,そのままの状態では発じんのおそれがないものについては,適用されない趣旨であるとされ,②同条2項の「名称」については,化学名等これらを取り扱う関係労働者が容易に判るものであれば,略称,場合によっては記号でも差し支えないとされ,③同項の「取扱い上の注意事項」については,例えば,その物質を口にしないこと,その物質に触れないこと,保護具を着用すべきこと,みだりに他の物と混合しないこと等,それぞれの物質の取り扱いに際し障害を予防するために特に留意すべき事項を具体的に表示する必要があるとされた。 エ環境測定使用者は,石綿を常時製造し,又は取り扱う屋内作業場について,当該物質の空気中における濃度を6月を超えない一定の期間ごとに測定し,そのつど,測定日時,測定方法,測定箇所,測定条件,測定結果,測定を実施した者の氏名及び測定結果に基づいて石綿による障害の予防措 当該物質の空気中における濃度を6月を超えない一定の期間ごとに測定し,そのつど,測定日時,測定方法,測定箇所,測定条件,測定結果,測定を実施した者の氏名及び測定結果に基づいて石綿による障害の予防措置を講じた場合は,当該措置の概要を記録し,これを3年間保存すべき義務を負うものとされた(旧特化則29条)。 なお,昭和46年通達においては,前記測定は,労働環境内における粉じん等の発散を抑制するための施設面の改善措置等を進める上でも極めて重要な意義をもつとされた。 オ休憩室使用者は,石綿を常時製造し,又は取り扱う作業に労働者を従事させる場合は,当該作業を行う作業場以外の場所に休憩室を設ける義務を負い,石綿が粉状である場合には,休憩室の入口に労働者の衣服等に付着した粉じんを除去するための措置(ブラシの備付け等)を講じ,かつ,休憩室の床は,真空掃除機を使用し又は水洗によって容易に掃除できる構造のものとし,毎日1回は掃除することが義務付けられた(旧特化則30条1項,2項)。 カ洗浄設備使用者は,石綿を製造し,又は取り扱う作業に労働者を従事させる場合は,洗眼,洗身又はうがいの設備,更衣設備及び洗濯のための設備を設ける義務を負うものとされた(旧特化則31条)。 キ呼吸用保護具使用者は,石綿を製造し,又は取り扱う作業場には,石綿粉じんを吸入することによる障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同時に就業する労働者の人数と同数以上備え付け,常時有効かつ清潔に保持すべき義務 を負う旨定められた(旧特化則32条,34条)。 なお,昭和46年通達においては,「呼吸用保護具」とは,ホースマスク,防毒マスク及び防じんマスクをいうとされた。 ク特定化学物質等作業主任者の選任旧特化則においては,使用者に対し,石綿を製造する作業に 和46年通達においては,「呼吸用保護具」とは,ホースマスク,防毒マスク及び防じんマスクをいうとされた。 ク特定化学物質等作業主任者の選任旧特化則においては,使用者に対し,石綿を製造する作業に従事する労働者が石綿を吸入しないように作業方法を決定ないし指揮し,局所排気装置等を1か月ごとに点検し,保護具の使用状況を監視する,特定化学物質等作業主任者を選任する義務が定められていたが(同規則28条),当該義務を負う作業は石綿を「製造する作業」に限られていたため,石綿含有建材を取り扱う作業はその対象とはならなかった。 5 安衛法,安衛令,安衛則及び特化則の制定等(1) 安衛法,安衛令,安衛則及び特化則の制定(昭和47年)ア安衛法(乙アB24)は,旧労基法と相まって,労働災害の防止のための危害防止基準の確立,責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的な対策を推進することにより職場における労働者(旧労基法9条に規定する労働者をいう。安衛法2条2号)の安全と健康を確保するとともに,快適な作業環境の形成を促進することを目的として制定され(同法1条),昭和47年10月1日に施行された。また,安衛法の施行に伴い,安衛令(乙アB25)が制定されるとともに,旧労基法に基づき制定されていた旧安衛則及び旧特化則に代えて,安衛則(乙アB26)及び特化則(乙アB27)が制定され,いずれも昭和47年10月1日に施行された。 イ労働者の危険又は健康障害を防止するための措置(ア)a 安衛法においては,事業者(事業を行う者で,労働者を使用する者をいう。同法2条3号)に対し,①粉じん等による健康障害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法22条1号),②労働者を 就業させる建設物その他の作業場について労働者の健 を使用する者をいう。同法2条3号)に対し,①粉じん等による健康障害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法22条1号),②労働者を 就業させる建設物その他の作業場について労働者の健康,風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じる義務(同法23条),③労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため必要な措置を講じる義務(同法24条)等が課せられた。また,労働者に対しては,事業者が同法20条から25条までの規定に基づき講ずる措置に応じて,必要な事項を守るべき義務が課せられた(同法26条)。そして,同法20条ないし25条に基づき事業者が講ずべき措置及び同法26条により労働者が守らなければならない事項については労働省令で定めるものとされた(同法27条1項)。 さらに,事業者が同法23条及び24条の規定に違反した場合には,6か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する旨規定され(同法119条1号),労働者が同法26条の規定に違反した場合には5万円以下の罰金に処する旨が定められた(同法120条1号)。 b 元方事業者(一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている者で,当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため,その者が2以上あることとなるときに,当該請負契約のうちのもっとも先次の請負契約における注文者。そのうち,建設業その他政令で定める業種に属する事業(特定事業)を行う者を「特定元方事業者」という。安衛法15条1項)に対しては,①関係請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって行われる場合には,当該請負人の請負契約の数次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む,請負人のこと。同項)及び関係請負人の労働者が,当該仕事に関し,安衛法又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な には,当該請負人の請負契約の数次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む,請負人のこと。同項)及び関係請負人の労働者が,当該仕事に関し,安衛法又はこれに基づく命令の規定に違反しないよう必要な指導を行う義務(同法29条1項),②関係請負人及び関係請負人の労働者による,当該仕事に関する安衛法又はこれに基づく命令の規定違反を是正するため,必要な指示を行う義務(同条2項)が 定められ,関係請負人及びその労働者に対しては,前記②の指示に従うべき義務が定められた(同条3項)。 c 特定元方事業者は,その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため,①協議組織の設置及び運営,②作業間の連絡及び調整,③作業場所の巡視,④関係請負人が行う労働者の安全又は衛生のための教育に対する指導及び援助,⑤①ないし④のほか,当該労働災害を防止するための必要事項に関して必要な措置を講ずる義務が定められた(安衛法30条1項)。これに違反した場合には,5万円以下の罰金に処する旨定められた(同法120条1項)。 d 特定事業の仕事の発注者(注文者のうち,その仕事を他の者から請け負わないで注文している者をいう)で,特定元方事業者以外の者は,一の場所において行われる特定事業の仕事を2以上の請負人に請け負わせている場合において,当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を行うときは,労働省令で定めるところにより,請負人で当該仕事を自ら行う事業者である者のうちから,前記c①ないし⑤の措置を講ずべき者として一人を指名しなければならないとされ,当該義務は,一の場所において行われる特定事業の仕事の全部を請け負った者で,特定元方事業者以外の者のうち,当該仕事を2以上の請負人に請け負わせている者 き者として一人を指名しなければならないとされ,当該義務は,一の場所において行われる特定事業の仕事の全部を請け負った者で,特定元方事業者以外の者のうち,当該仕事を2以上の請負人に請け負わせている者についても課せられた(安衛法30条2項)。そして,前記指名を受けた事業者は,当該場所において当該仕事の作業に従事するすべての労働者に関し,安衛法30条1項に規定する措置を講じなければならないとされ,この場合には,当該指名された事業者及び当該指名された事業者以外の事業者については,同項の規定は適用しないと規定された(同条4項)。 また,安衛法30条1項又は4項の場合において,同条1項に関 する措置を講ずべき事業者以外の請負人で,当該仕事を自ら行う者に対しては,これらの項の規定により講ぜられる措置に応じて必要な措置を講ずべき義務が定められた(同法32条1項)。 安衛法30条1項若しくは4項,32条1項に違反した場合には,5万円以下の罰金に処する旨定められた(同法120条1号)。 e 特定事業の仕事を自ら行う注文者(当該仕事が数次の請負契約によって行われる場合には,先次の注文者)は,建設物,設備又は原材料を,当該仕事を行う場所においてその請負人(当該仕事が数次の請負契約によって行われるときは,当該請負人の請負契約の数次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。)の労働者に使用させるときは,当該建設物等について,当該労働者の労働災害を防止するために必要な事項を講じなければならないと規定された(安衛法31条)。 また,安衛法31条1項の場合において,当該建設物等を使用する労働者にかかる事業者である請負人は,同項の規定により講ぜられる措置に応じて必要な措置を講ずべき義務を負うとされた(同法32条2項)。 同法31条1項に違反した者 において,当該建設物等を使用する労働者にかかる事業者である請負人は,同項の規定により講ぜられる措置に応じて必要な措置を講ずべき義務を負うとされた(同法32条2項)。 同法31条1項に違反した者は6か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処せられ,同法32条2項に違反した者は5万円以下の罰金に処せられる旨規定された(同法119条1号,120条1号)。 f 労働者に対しては,安衛法30条1項若しくは4項,31条1項,32条1項,2項により講ぜられる措置に応じて必要な事項を守る義務が定められた(同法32条3項)。当該規定に違反した労働者は,5万円以下の罰金に処せられる旨定められた(同法120条1項)。 また,同法32条1項,2項の義務を負う請負人及び同条3項の義務を負う労働者は,同法30条1項若しくは4項,31条1項又は32条1項,2項の規定に基づく措置の実施を確保するためにする, 特定元方事業主,注文者又は請負人の指示に従うべき義務を有する旨定められた(同法32条4項)。 g 安衛法30条1項若しくは4項,31条1項,32条1項,2項の規定により講ずべき措置,及び同法32条2項,3項及び33条3項の規定により守らなければならない事項は,労働省令で定めるとされた(同法36条)。 (イ)a 安衛法22条,23条,25条に基づき,安衛則においては,事業者に対し,①粉じんを発散する等有害な作業場においては,その原因を除去するため,代替物の使用,作業の方法又は機械等の改善等必要な措置を講ずる義務(同規則576条),②粉じんを発散する屋内作業場においては,当該屋内作業場における空気中の粉じんの含有濃度が有害な濃度にならないようにするため,発散源を密閉する設備,局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じる義務(同規則57 業場においては,当該屋内作業場における空気中の粉じんの含有濃度が有害な濃度にならないようにするため,発散源を密閉する設備,局所排気装置又は全体換気装置を設ける等必要な措置を講じる義務(同規則577条),③有害物を含む排気を排出する局所排気装置その他の設備については,当該有害物の種類に応じて,吸収,燃焼,集じんその他の有効な方式による排気処理装置を設ける義務(同規則579条),④粉じんを著しく発散する屋外又は坑内の作業場においては,注水その他の粉じんの発散を防止するため必要な措置を講ずる義務(同規則582条),⑤粉じんを発散する有害な場所には,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい場所に表示する義務(同規則585条1項5号),⑥粉じんを発散する有害な場所における業務においては,当該業務に従事する労働者に使用させるために,保護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適切な保護具を備える義務(同規則593条),⑦同時に就業する労働者の人数と同数以上の保護具を備え,常時有効かつ清潔に保持する義務(同規則596条)が定められた。 また,粉じんを発散する有害な場所における業務に従事する労働者には,事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときには,当該保護具を使用する義務が定められた(同規則597条)。 b 安衛則は,特定元方事業者による安衛法30条1項1号の協議組織の設置及び運営について,特定元方事業者及びすべての関係請負人が参加する協議組織を設置し,当該協議組織の会議を定期的に開催するようにしなければならないとし(安衛則635条1項),関係請負人には協議組織への参加義務を定めた(同条2項)。また,安衛法30条1項2号の作業間の連絡及び調整については,随時,特定元方事業者と関係請負人との間及び関係請負人相 (安衛則635条1項),関係請負人には協議組織への参加義務を定めた(同条2項)。また,安衛法30条1項2号の作業間の連絡及び調整については,随時,特定元方事業者と関係請負人との間及び関係請負人相互間における連絡及び調整を行わなければならないとし(安衛則636条),特定元方事業者は作業日に少なくとも1回は安衛法30条1項3号の規定による巡視を行わなければならないと定めた(安衛則637条1項)。 (ウ) 特化則においては,石綿が第二類物質として規制対象とされ(同規則2条4号,安衛令別表第3第3号),安衛法22条,23条に基づき,以下のとおりの義務が定められた。 a 局所排気装置(a) 事業者は,第二類物質の粉じんが発散する屋内作業場については,当該発散源に局所排気装置を設ける義務を負うが,局所排気装置の設置が著しく困難なとき又は臨時の作業を行うときは,この義務を負わない旨定められ(特化則5条1項),前記義務を負わず局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は第二類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならないと定められた(同条2項)。 (b) 設置が義務付けられる局所排気装置は,①フードは第二類物質の粉じんの発散源ごとに設けられ,かつ,外付け式又はレバー式 のフードにあっては当該発散源にできるだけ近い位置に設けられていること,②排出口は屋外に設けられていること等の要件を満たすものでなければならず(特化則7条1項),そのフードの外側における第二類物質の粉じんの濃度が,第二類物質の種類に応じて労働大臣が定める値を超えないものとする能力を有するものでなければならない旨定められた(同条2項)。 (c) 事業者は,局所排気装置について,第二類物質に係る作業が行われている間 質の種類に応じて労働大臣が定める値を超えないものとする能力を有するものでなければならない旨定められた(同条2項)。 (c) 事業者は,局所排気装置について,第二類物質に係る作業が行われている間稼働させる義務を負う旨定められた(特化則8条1項)。 (d) 第二類物質の粉じんを含有する気体を排出する局所排気装置その他の設備には,粉じんを除去する除じん装置を設置すべき義務が定められた(特化則9条)。 b 立入禁止措置事業者は,第二類物質を製造し,又は取り扱う作業場には,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務を負う旨定められた(特化則24条1号)。 c 容器等事業者は,石綿を運搬し又は貯蔵するときは,石綿が漏れ,こぼれる等のおそれがないように,堅固な容器を使用し,又は確実な包装をし(特化則25条1項),当該容器又は包装の見やすい箇所に石綿の名称及び取扱い上の注意事項を表示する義務を負い(同条2項),また,石綿の保管については一定の場所を定めておかなければならず(同条3項),石綿の運搬又は貯蔵に使用した容器又は包装については,石綿が発散しないような措置を講じ,保管するときは一定の場所を定めて集積する義務を負う旨定められた(同条4項)。 d 特定化学物質等作業主任者の選任 事業者に対し,特定化学物質等作業主任者の選任等の義務が定められたが,その対象は石綿を製造する作業であって,石綿を取り扱う作業は対象外とされていた(特化則27条,安衛令6条18号)。 e 呼吸用保護具事業者は,石綿を製造し,又は取り扱う作業場に,石綿粉じんを吸入することによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同作業場において同時に就業する労働者の人数と同数以上備え,常時有効かつ清潔に保 綿を製造し,又は取り扱う作業場に,石綿粉じんを吸入することによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同作業場において同時に就業する労働者の人数と同数以上備え,常時有効かつ清潔に保持する義務を負う旨定められた(特化則43条,45条)。 ウ安全衛生教育(ア) 安衛法においては,事業者に対し,労働者を雇い入れたとき及び労働者の作業内容を変更したときに,当該労働者に対し,労働省令で定めるところにより,その従事する職務に関する安全又は衛生のための教育を行う義務(同法59条1項,2項),危険又は有害な業務で,労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは,労働省令で定めるところにより,当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行う義務(同条3項)が定められ,同法59条1項に違反した者は5万円以下の罰金に,同条3項に違反した者は6か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する旨規定された(同法119条1号,120条1号)。 また,事業者に対しては,その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは,新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く)に対し,①作業方法の決定及び労働者の配置に関すること,②労働者に対する指導又は監督の方法に関すること,③前記①及び②のほか,労働災害を防止するため必要な事項で,労働省令で定めるものについて,労働省令で定めるところにより,安全又は衛生のための教育を行う義務も定められた(同法 60条)。 (イ) 安衛令においては,安衛法60条による職長等に対する安全衛生教育が義務付けられる事業として,建設業が含まれる旨定められた(同施行令19条1号)。 (ウ) 安衛法59条1項に基づき,安衛則において,雇入れ時及び作業内容の変更時にお る職長等に対する安全衛生教育が義務付けられる事業として,建設業が含まれる旨定められた(同施行令19条1号)。 (ウ) 安衛法59条1項に基づき,安衛則において,雇入れ時及び作業内容の変更時においては,①機械,材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること(同規則35条1項1号),②安全装置,有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること(同項2号),③作業手順に関すること(同項3号),④作業開始時の点検に関すること(同項4号),⑤当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること(同項5号),⑥前各号に掲げるもののほか,当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項(同項8号)等のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生に必要な事項についての教育を行わなければならないとした。ただし,同規則35条1項各号に掲げる事項の全部又は一部に関し十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については,当該事項についての教育を省略することができると定められていた(同条2項)。 一方,安衛則36条は,安衛法59条3項による特別教育の対象となる事業を定めていたが,石綿の取扱い作業は同条に記載されておらず,特別教育の実施対象には含まれなかった。 エ作業環境測定(ア) 安衛法においては,事業者に対し,有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で,政令で定めるものについて,労働省令で定めるところにより,空気環境その他の作業環境について必要な測定をし,及びその結果を記録しておく義務を定め(同法65条),これに違反した場合には6か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する旨定められた(同法 119条1号)。 (イ) 安衛法65条に基づき,安衛令においては,作業環境測定が義務付けられ ),これに違反した場合には6か月以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する旨定められた(同法 119条1号)。 (イ) 安衛法65条に基づき,安衛令においては,作業環境測定が義務付けられる作業場として,土石,岩石又は鉱物の粉じんを著しく発散する屋内作業場(同施行令21条1号),石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場(同条7号,別表第3第3号2)が定められた。 (ウ) 安衛法65条に基づき,特化則においては,事業者に対し,石綿を含む特定化学物質等を製造し又は取り扱う屋内作業場について,6月以内ごとに1回,定期に,石綿等の空気中における濃度を測定し,その都度,測定日時及び測定結果等を記録し,これを3年間保存しなければならない旨定められた(同規則36条)。 オ健康診断(ア) 安衛法においては,事業者に対し,労働者に対して労働省令の定めるところにより,医師による健康診断を行うべき義務(同法66条1項),有害な業務で,政令で定めるものに従事する労働者に対して,労働省令で定めるところにより,医師による特別の項目についての健康診断を行うべき義務(同条2項)が定められた。そして,これらの規定に違反した者については,5万円以下の罰金に処せられる旨定められた(同法120条1号)。 一方で,労働者に対しては,原則として,前記事業者が行う健康診断を受ける義務を定めた(同条5項)。 (イ) 安衛令において,医師による特別健康診断の対象となる有害な業務には,石綿及び石綿を含有する製剤その他の物を製造し又は取り扱う業務が含まれないとされた(同施行令22条1項3号,別表3第3第3号2)。 (ウ) 安衛法66条1項に基づき,安衛則においては,事業者に対し,常時使用する労働者について,雇入れ時(同規則43条)及び定期(1年 以内に1回) 条1項3号,別表3第3第3号2)。 (ウ) 安衛法66条1項に基づき,安衛則においては,事業者に対し,常時使用する労働者について,雇入れ時(同規則43条)及び定期(1年 以内に1回)(同規則44条)に,自覚症状及び他覚症状の有無等の項目についての医師による健康診断を受けさせる義務が定められた。 カ安全管理者,衛生管理者等の選任等安衛法においては,事業者に対し,統括安全衛生管理者の選任義務(同法10条),安全管理者の選任義務(同法11条),衛生管理者の選任義務(同法12条),統括安全責任者の選任義務(同法15条),安全衛生責任者の選任義務(同法16条),安全委員会の設置義務(同法17条),衛生委員会の設置義務(同法18条)が定められたが,建設業において統括安全衛生管理者の選任義務並びに安全委員会及び衛生委員会の設置義務が生ずるのは常時100人以上の労働者を使用する事業場であり(安衛令2条1号,8条,9条),安全管理者及び衛生管理者の選任義務が生ずるのは常時50人以上の労働者を使用する事業場であるとされた(同施行令3条,4条)。一方,統括安全衛生責任者を選任すべき業種は造船業のみとされていた(同施行令7条)。 キ局所排気装置等の定期自主点検等安衛法45条は,事業者に対し,局所排気装置,除じん装置等で労働省令で定めるものについて(安衛令15条8号),定期に自主検査を行い,その結果を記録すべき義務を定め,これに違反した場合には5万円以下の罰金に処する旨定められた(安衛法120条1項)。 ク(ア) 安衛法55条においては,黄りんマッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で,政令で定めるものは,原則として,製造し,輸入し,譲渡し,提供し,又は使用してはならないとされた。しかし りんマッチ,ベンジジン,ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で,政令で定めるものは,原則として,製造し,輸入し,譲渡し,提供し,又は使用してはならないとされた。しかし,これに石綿は含められなかった(安衛令16条)。 (イ) 安衛法57条においては,労働者に健康障害を生ずるおそれのある物についての警告表示義務が定められたが,石綿はその対象物に含まれ ていなかった(安衛令16条,安衛則30条,別表第2)。 (ウ) また,安衛法においては,作業主任者の選任義務(同法14条)及び容器への警告表示義務の規定(同法57条)が設けられたが,これらの規定については,安衛法制定当初,石綿の取扱い作業を対象としておらず(安衛令6条),後述のとおり,昭和50年の特化則等の改正によって,その対象に含まれることとなった。 ケ安衛法67条は,都道府県労働基準局長は,がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で,政令で定めるものに従事していた者のうち,労働省令で定める要件に該当する者に対し,離職の際に,当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとすると定め(同条1項),当該健康管理手帳を所持している者に対する健康診断においては,政府は労働省令で定めるところにより必要な措置を行う旨定めた(同条2項)。安衛令23条は,健康管理手帳を交付する業務として,じん肺法に規定する粉じん作業に係る業務を定めた(同条3号)。 (2) 「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」の発出(昭和48年)労働省は,石綿に関する局所排気装置に係る抑制濃度について,前記のとおり,昭和46年労働省告示第27号で,2㎎/㎥(33本/㎤)を超えないものと定めていたところ,昭和48年に「 発出(昭和48年)労働省は,石綿に関する局所排気装置に係る抑制濃度について,前記のとおり,昭和46年労働省告示第27号で,2㎎/㎥(33本/㎤)を超えないものと定めていたところ,昭和48年に「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(昭和48年基発第407号。乙アB51)を発出して,「最近,石綿が肺がん及び中皮腫等の悪性新生物を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつある」ことを考慮し,当面,石綿粉じんの局所排気装置の抑制濃度を5μ以上の石綿繊維で5繊維/㎤(約0.3㎎/㎥)とするよう指導することを指示した。 6 安衛令,安衛則及び特化則の改正(昭和50年)(1) 改正に至る経緯等昭和47年に,ILO,WHOの専門家会議等において石綿のがん原性が指摘されたことなどを受けて,労働省は,特化則等の関係政省令の改正を検討し,中央労働基準審議会の答申を経て,昭和50年改正安衛令(乙アB30)及び昭和50年改正特化則(乙アB29)が公布され,前者は一部の規定を除き昭和50年10月1日に,後者は一部の規定を除き昭和50年4月1日に施行された。 これらの改正に関し,「安衛法施行令の一部を改正する政令の施行について」(昭和50年基発第110号。乙アB171)及び,昭和50年特化則改正通達(乙アB31)が発出された。 (2) 安衛令及び特化則の主な改正内容ア特別管理物質昭和50年改正特化則は,人体に対する発がん性が疫学調査の結果明らかとなった物,動物実験の結果発がんの認められたことが学会等で報告された物等人体に遅発性効果の健康障害を与える,又は治ゆが著しく困難であるという有害性に着目し, に対する発がん性が疫学調査の結果明らかとなった物,動物実験の結果発がんの認められたことが学会等で報告された物等人体に遅発性効果の健康障害を与える,又は治ゆが著しく困難であるという有害性に着目し,特別の管理を必要とするものを「特別管理物質」と定め(乙アB31),特別管理物質について,事業者に対し,所定事項の掲示や作業の記録等を行う義務を定めた(昭和50年改正特化則38条の3,38条の4)。 「石綿」及び「石綿を含有する製剤その他の物(ただし,石綿の含有率が重量の5%以下のものを除く。)」は,前記特別管理物質に該当する旨定められた(昭和50年改正特化則38条の3,38条の4,別表第1第4号,昭和50年改正安衛令別表第3第2号4)。 なお,前記作業の記録については,①労働者の氏名,②従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間等を,1月を超えない期間ごとに記録し, これを当該労働者が当該事業場において常時当該作業場に従事することとなった日から30年間保存するものと定められた(昭和50年改正特化則38条の4)。 イ作業主任者(特定化学物質等作業主任者)を選任すべき作業の拡大安衛法においては,政令で定める作業について,事業者に対して作業主任者の選任義務が定められていた(同法14条)が,その適用範囲は石綿を「製造する作業」(安衛令6条18号及び別表第3第3号2)に限定されていた。 この点について,昭和50年改正安衛令において,前記「製造する作業」が「製造し,又は取り扱う作業(試験研究のために取り扱う作業を除く。)」に改められ,さらに,昭和50年改正安衛令別表第3第2号37,昭和50年改正特化則2条2項及び別表第1第4号により,石綿の含有量が重量の5%を超える石綿含有製剤その他の物を製造し又は取り扱う作業もこれに含まれるこ に,昭和50年改正安衛令別表第3第2号37,昭和50年改正特化則2条2項及び別表第1第4号により,石綿の含有量が重量の5%を超える石綿含有製剤その他の物を製造し又は取り扱う作業もこれに含まれることとなったことから,事業者は,石綿の含有量が重量の5%を超える石綿含有製剤その他の物を取り扱う作業について,特定化学物質等作業主任者を選任し,①当該作業に従事する労働者が石綿により汚染され,又はこれらを吸入しないように,作業の方法を決定し,作業を指揮すること,②局所排気装置,除じん装置等その他労働者が障害を受けることを予防するための措置を1月を超えない期間ごとに点検すること,③保護具の使用状況を監視すること等を行わせる義務を負うこととなった(昭和50年改正特化則27条,28条)。 前記昭和50年基発第110号によれば,石綿を建築物内外装工事に使用する場合であって,石綿成形品の貼付け等発じんのおそれのない作業等のような,特定化学物質等のガス,蒸気,粉じん等に労働者の身体が曝露されるおそれがない作業については,昭和50年改正安衛令6条18号の特定化学物質等を「取り扱う作業」には含まれないとされていた。 ウ特殊健康診断石綿を製造し又は取り扱う業務について,安衛令22条の改正によって,安衛法66条2項前段及び後段の特殊健康診断を行う対象に含まれることとなった(昭和50年改正安衛令22条1項,2項,別表第3)。 エ警告表示安衛法57条においては,ベンゼン,ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定める物又は同法56条1項の物を譲渡し,又は提供する者は,労働省令で定めるところにより,その容器(容器に入れないで譲渡し,又は提供するときにあっては,その包装。以下同じ。)に,①名称,②成分及びその る物又は同法56条1項の物を譲渡し,又は提供する者は,労働省令で定めるところにより,その容器(容器に入れないで譲渡し,又は提供するときにあっては,その包装。以下同じ。)に,①名称,②成分及びその含有量,③労働省令で定める物にあっては,人体に及ぼす作用,④労働省令で定める物にあっては,貯蔵又は取扱い上の注意,⑤以上に掲げるもののほか,労働省令で定める事項を表示しなければならない(ただし,その容器のうち,主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては,この限りでない。)と規定されていたところ,安衛令においては前記表示を要する物質に石綿を含めていなかった。昭和50年改正安衛令においては,18条2号の2として石綿を加え,さらに,同施行令18条39号及び同条2号の2により石綿を含有する製剤その他の物で,労働省令で定めるものについても前記の表示を要する物質とされた。これを受けて,昭和50年改正安衛則30条及び別表第2第2号の2として,石綿を含有する製剤その他の物(ただし,石綿の含有量が重量の5%以下のものを除く。)が加えられ,さらに,昭和50年改正安衛則32条2号の2として石綿が加えられ,これらの改正により,石綿の含有量が重量の5%を超える石綿含有建材等について,安衛法57条の警告表示が義務付けられることとなった(乙アB38)。 警告表示の具体的内容については,昭和50年表示方法通達(乙アB172)において,名称,成分,含有量,表示者の氏名又は名称及び住所の ほか,「注意事項」として,以下のとおり記載すべきこととされた。 「多量に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守ってください。 1 粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所排気装置を設けて下さい。 2 取扱中は,必要に応じ防 に粉じんを吸入すると健康をそこなうおそれがありますから,下記の注意事項を守ってください。 1 粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所排気装置を設けて下さい。 2 取扱中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下さい。 3 取扱い後は,うがい及び手洗いを励行して下さい。 4 作業衣等に付着した場合は,よく落として下さい。 5 一定の場所を定めて貯蔵して下さい。」オ代替化の努力義務昭和50年改正特化則においては,事業者は,化学物質等による労働者のがん,皮膚炎,神経障害その他の健康障害を予防するため,使用する物質の毒性の確認,代替物の使用,作業方法の確立,関係施設の改善,作業環境の整備,健康管理の徹底その他必要な措置を講じ,もって,労働者の危険の防止の趣旨に反しない限りで,化学物質等に曝露される労働者の人数並びに労働者が曝露される期間及び程度を最小限度にするよう努めなければならないとされ(同規則1条),事業者に対して石綿の代替化の努力義務が課された。 カ石綿吹付け作業の原則的禁止昭和50年改正特化則38条の7は,事業者に対し,石綿及び石綿の含有量が重量の5%を超える石綿含有製剤その他の物(以下「石綿含有率5%を超える石綿含有製品等」という。)を吹き付ける作業に労働者を従事させることを原則として禁止し(同条1項),例外として,①吹付けに用いる石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を容器に入れ,容器から取り出し,又は混合する作業場所は,建築作業に従事する労働者の汚染を防止するため,当該労働者の作業場所と隔離された屋内の作業場所とし,② 当該吹付け作業に従事する労働者に送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用させた場合には,建築物の柱等として使用されている鉄骨等へ石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける し,② 当該吹付け作業に従事する労働者に送気マスク又は空気呼吸器及び保護衣を使用させた場合には,建築物の柱等として使用されている鉄骨等へ石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける作業に労働者を従事させることができると定めた(同条2項)。 なお,前記例外的に認められる吹付け作業に従事する労働者については,事業者から前記②の保護具の使用を命じられたときにはこれを使用する義務が規定された(同条3項)。 昭和50年特化則改正通達においては,前記規定は,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付け業務が石綿の粉じんを特に著しく飛散させるため,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける作業に労働者を従事させてはならないとしたものであり,一方で,建設物の建設,修理等の際に柱,はり等として使用されている鉄骨等へ石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けを認めたのは,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けによらなければ建築基準法に基づく鉄骨等の耐熱性能を確保することができないとの理由によるものであると説明された。そして,昭和50年改正特化則38条の7第1項の「吹付ける作業」には,乾式又は湿式によるものがあるが,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けが認められる場合であっても,乾式による吹付けは,石綿粉じんの飛散が著しく,労働者の健康障害はもとより公害の原因ともなることから,できるだけ湿式による吹付けに転換することが望ましいとされた。また,前記①の作業場所には,同規則5条に基づく局所排気装置等の設置が必要であるとされた。 キ石綿粉じんが発生する特定の作業における湿潤化の義務付け昭和50年改正特化則38条の8は,事業者に対し,①石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を塗布し,注入し,又は貼り付けた物の破砕,解 。 キ石綿粉じんが発生する特定の作業における湿潤化の義務付け昭和50年改正特化則38条の8は,事業者に対し,①石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を塗布し,注入し,又は貼り付けた物の破砕,解 体等の作業,③粉状の石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を容器に入れ,又は容器から取り出す作業,④粉状の石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を混合する作業のいずれかの作業に労働者を従事させるときは,原則として,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を湿潤な状態のものとする義務を定め,例外的に,湿潤な状態のものとすることが著しく困難な場合には前記義務を負わないものとした(同条1項)。さらに,事業者は,前記作業を行う場所に,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の切りくず等を入れるためのふたのある容器を備える義務を負うものと定められた(同条2項)。 なお,昭和50年特化則改正通達においては,前記湿潤化措置は,屋内,屋外の作業場を問わず,昭和50年改正特化則38条の8第1項に定める前記①ないし④の作業を行う場合には,石綿粉じんの発散を防止するため,原則として湿潤にしなければならないこととしたものであるとされた。また,同項の「著しく困難なとき」には,湿潤な状態とすることによって石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の有用性が著しく損なわれるときが含まれ,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を建築物内外装工事に使用する場合であって,発じんのおそれのない作業については,同項の適用がないが,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等が塗布され,注入され,又は貼り付けられた建築物等を解体する等の作業は,前記②の作業に該当するとされ,さらに,同項3号及び4号(前記③及び④)の「粉状の石綿等」には,繊維状の石綿含有率5%を超える石綿含有製品等が含まれ,樹 貼り付けられた建築物等を解体する等の作業は,前記②の作業に該当するとされ,さらに,同項3号及び4号(前記③及び④)の「粉状の石綿等」には,繊維状の石綿含有率5%を超える石綿含有製品等が含まれ,樹脂等で塊状,布状等に加工され発じんのおそれのないものは含まれないと説明がされた。 ク掲示義務昭和50年改正特化則38条の3は,事業者は,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を製造し,又は取り扱う作業場には,①特別管理物質 (石綿等)の名称,②特別管理物質の人体に及ぼす作用,③特別管理物質の取扱い上の注意事項,④使用すべき保護具を,作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示する義務を負う旨定めた。 7 昭和50年以降,安衛令,安衛則及び特化則改正(平成7年)までに定められた規制(法令,告示,通達等の定め)(1) 抑制濃度の厳格化(昭和50年)労働省は,昭和50年労働省告示第75号(乙アB52)により,昭和46年労働省告示第27号を改正し,抑制濃度を従来の2㎎/㎥(33本/㎥相当)から5繊維/㎥に改め,前記昭和48年基発第407号による規制を法令による規制へと強化した。 (2) 昭和51年通達の発出労働省労働基準局長は,昭和51年通達(甲A390の1,乙アB32)の冒頭において,「最近,各国における広範囲な石綿関連労働者についての研究調査の結果,10年をこえて石綿粉じんにばく露した労働者から肺がん又は中皮腫が多発することが明らかとされ,その対策の強化が要請されている」ところであり,「最近の石綿による肺がん又は中皮腫発生の報告をみるとき環境改善の技術的指針をまつまでもなく,早急な作業環境改善等健康障害防止対策の推進が肝要であると考えられる」が,「対象業種が広範で,かつ,中小企業が多いことから,これが徹底には困難を伴うと思 るとき環境改善の技術的指針をまつまでもなく,早急な作業環境改善等健康障害防止対策の推進が肝要であると考えられる」が,「対象業種が広範で,かつ,中小企業が多いことから,これが徹底には困難を伴うと思料されるが,上記対策の推進にあたっては,特化則の関係規定の遵守を徹底させることはもとより,特に下記事項に留意するとともに,別添の資料を参考として関係者に石綿の有害性についての周知を図り,もって関係事業場の石綿粉じんによる健康障害の防止措置の徹底を図られたい。」と指示した。 同通達においては,①建設業における石綿の使用実態が十分把握されていないので,元方事業者又は関係業界を通じて関係事業(過去に取り扱った事業場を含む。)を把握すること,②石綿による悪性新生物の発生には20か ら25年にわたる潜伏期間が見込まれることから,関係事業場に対し在職者及び退職者(配置替えとなった者を含む。)の氏名,性,生年月日,本籍地,作業歴,石綿への曝露状況及びじん肺健康診断結果等の記録並びに過去における環境測定結果を蒐集整備し,これを長期にわたり保存するよう指導すること,③石綿は,可能な限り,有害性の少ない他の物質に代替させるとともに,現在までに石綿を使用していない部門での石綿又は石綿製品(発じん防止処理したものであっても,使用中又はその後において発じんすることの明らかなものを含む。)の導入は,避けるように指導すること,特に,青石綿(クロシドライト)については,他の石綿に比較して有害性が著しく高いことからその製品を含め優先的に代替措置をとるよう指導すること,④石綿については,昭和50年改正特化則において,環気中における石綿粉じん濃度を5繊維/㎤以下に抑制するための局所排気装置等の設置を規定しているが,最近,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を 綿については,昭和50年改正特化則において,環気中における石綿粉じん濃度を5繊維/㎤以下に抑制するための局所排気装置等の設置を規定しているが,最近,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつあることから,労働省においても,今後環気中の石綿粉じん濃度について検討を加えることとしているが,当面,2繊維/㎤(青石綿にあっては0.2繊維/㎤)以下の環気中粉じん濃度を目途とするよう指導すること,⑤石綿の運搬又はその空容器若しくは石綿製品の運搬等に際しての二次的な発じんによる影響も無視できないので,石綿粉じんが堆積するおそれのある作業床は,少なくとも毎日1回以上水洗により清掃するよう指導すること,⑥環気中石綿濃度が2繊維/㎤(青石綿にあっては0.2繊維/㎤)を超える作業場所で石綿作業に労働者を従事させるときには特級防じんマスクを併用させ常時これらを清潔に保持するように指導すること,⑦石綿により汚染した作業衣も二次発じんの原因となり,また,最近石綿業務に従事する労働者のみならず,当該労働者が着用する作業衣を家庭に持込むことによりその家族にまで被害の及ぶおそれがあることが指摘されていることから,関係労働者に対して,専用の作業衣を着用させるとともに,石綿により汚染した作業衣はこれら以 外の衣服等から離隔して保管するための設備に保管させ,かつ作業衣に付着した石綿は,粉じんが発散しないよう洗濯により除去するとともに,その持出しは避けるよう指導し,なお,作業終了後及び必要に応じ,手洗い,洗面及びうがいを励行させること,⑧石綿粉じんに曝露する労働者からの肺がん発生は,石綿粉じんの曝露の程度とともに,喫煙が極めて大きく関与することが明確となったため,石綿作業者に対し,できるだけ喫煙を避けるよう教育指導させることを求めた。 また,同 る労働者からの肺がん発生は,石綿粉じんの曝露の程度とともに,喫煙が極めて大きく関与することが明確となったため,石綿作業者に対し,できるだけ喫煙を避けるよう教育指導させることを求めた。 また,同通達には昭和51年4月に労働衛生課により作成された「石綿関係資料」(甲A390の2)が添付されており,これを参考として関係者に石綿の有害性についての周知を図るようにとの指示がされていた。「石綿関連資料」には,石綿の産出及び用途,石綿が曝露労働者に与える影響,労働省が石綿をがん原性物質として確認した根拠,石綿粉じんの許容濃度についての考え方,最近の学会等での発表論文の要旨,我が国における石綿取扱い作業の実態等について記載されていた。 (3) 「作業環境測定基準」の制定(昭和51年)昭和50年,安衛法改正(作業環境測定法附則4条)により,安衛法65条の見出しが「(作業環境測定)」に改められるとともに,作業環境測定は労働大臣の定める作業環境測定基準によることとされた。また,作業環境測定法(昭和50年法律第28号。乙アB118)が制定され,作業環境測定は原則として作業環境測定士によることとし,その資格が規定された。そして,「作業環境測定基準」(昭和51年労働省告示第46号。乙アB53)が定められ,各有害物質ごとに,測定点,捕集方法,分析方法など具体的測定方法が定められた(乙アA78)。ただし,当時の省令等においては,屋外作業場は,作業環境測定の対象となる事業場に含まれていなかった。 (4) 防じんマスクの規格の改正(昭和58,59年)昭和58年,防じんマスクの規格が改正された(昭和58年労働省告示第 84号。乙アB45)。 同改正では,旧規格における等級区分を廃止し,面体を全面形及び半面形の2種類に区分すること,吸気弁がない防じん んマスクの規格が改正された(昭和58年労働省告示第 84号。乙アB45)。 同改正では,旧規格における等級区分を廃止し,面体を全面形及び半面形の2種類に区分すること,吸気弁がない防じんマスクやろ過材の取替えができない防じんマスクを許容しないこと,その性能として,粒子の大きさが2μ以下の石英粉じん濃度が1㎥当たり30㎎±5㎎の空気を毎分30ℓの流量で防じんマスクの内側へ流す試験の結果粉じん捕集効率が95%以上であることなどの新たな規格を,昭和59年1月1日から適用するなどとされた。 (5) 管理濃度に基づく指導の導入(昭和59年)労働省は,作業環境管理について,労働衛生管理の重要な柱の一つであり,作業環境測定による作業環境の評価に基づく作業環境管理がその中でも重要な部分を占めるとの認識のもと,「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」を設け,作業環境の評価方法について検討し,これを踏まえて,昭和59年に「作業環境の評価に基づく作業環境管理の推進について」(昭和59年基発第69号。乙アB54)を発出した。同通達においては,作業環境測定結果についての評価方法及びこれに基づく事業者の自主的対策の進め方について,「作業環境の評価に基づく作業環境管理要領」として,その手順を示すとともに,局所排気装置についての抑制濃度とは別に,作業内のほとんど全ての場所で気中有害物質の濃度を一定の値以下とする管理濃度による規制を導入することとし,石綿の管理濃度については2本/㎤とした。 なお,同通達においては,管理濃度の定義等として,「管理濃度は,作業環境管理を進める過程で,有害物質に関する作業環境の状態を評価するために,作業環境測定基準に従って単位作業場所について実施した測定結果から当該単位作業場所の作業環境管理の良否を判断する 濃度は,作業環境管理を進める過程で,有害物質に関する作業環境の状態を評価するために,作業環境測定基準に従って単位作業場所について実施した測定結果から当該単位作業場所の作業環境管理の良否を判断する際の管理区分を決定するための指標である。具体的には測定値を統計的に処理したものと対比すべきもので,個々の測定値とは直接対比することはできない。したがって,個々 の労働者の曝露濃度と対比することを前提として設定されている曝露限界((社)日本産業衛生学会の「許容濃度」,ACGIHの「TLV(TWA等)」等)とは異なるものである。」と説明された。 (6) 昭和61年通達の発出労働省は,昭和61年通達(乙アB42)において,「石綿は,昭和30年代初頭から昭和50年初頭までを中心にビル等の建築物に耐火被覆材として吹き付け使用されているほか,壁,天井,床,空調設備等に保温材,吸音材又は軽量建材として多量に使用されている。これらの建築物の解体又は改修の工事(以下「解体等の工事」という。)においては,石綿の除去及び石綿を含有する建材の破砕,解体等の作業が伴うが,今後,これらの建物の老朽化による解体等の工事が増加していくことが予想されることから,労働者の石綿粉じんによる健康障害予防対策の徹底が急務となっているところである。」との認識を示した上で,昭和50年改正特化則における関係規定(石綿及び石綿を含有する建材の湿潤化,呼吸用保護具の着用,特殊健康診断の実施等)の周知を図るとともに,特に以下の①ないし⑧の点に留意して法令に規定する措置を適切に講ずるよう,各団体の会員である事業者に対し徹底を図るよう求めた。 ① 建築物の解体等の工事の元方事業者は,当該工事の対象となる建築物について,石綿及び石綿を含有する建材が使用されている箇所及び使用の状況を 各団体の会員である事業者に対し徹底を図るよう求めた。 ① 建築物の解体等の工事の元方事業者は,当該工事の対象となる建築物について,石綿及び石綿を含有する建材が使用されている箇所及び使用の状況を事前に把握すること。 ② 元方事業者は,石綿及び石綿を含有する建材が使用されている箇所等を関係請負人に知らせるとともに,石綿及び石綿を含有する建材の破砕,解体等に関する適切な作業方法等について指導すること。 ③ 石綿及び石綿を含有する建材の破砕,解体等を行う場合には,当該箇所及びその周辺の湿潤化のために十分な散水ができるように必要な水圧の水源,適切なノズルを備えた散水のための設備を設け,適切に散水を行うこ と。 ④ 破砕,解体等により生ずる石綿及び石綿を含有する建材の廃棄物については,石綿が乾燥しないよう散水を行って湿潤な状態に保つこと,発じん防止用の薬液を使用すること,できるだけ早く丈夫な容器又は袋に入れること等により,2次的な発じんの防止に努めること。 ⑤ 解体等を行う場所については,必要に応じ,ビニールシート等を用いて石綿粉じんの他の場所への飛散を防止すること。 ⑥ 石綿及び石綿を含有する建材の取扱い作業者には,防じんマスク(国家検定品)を使用させること。この場合において,当該防じんマスクの選定に当たっては,顔面への密着性が良好なものを選ぶこと。 なお,粉じんの発散が著しい場合には,送気マスクを使用させることが望ましいこと。 ⑦ 作業衣等は,石綿が付着しにくく,かつ,付着した石綿を容易に除去できるものを選定し,又は,保護衣を使用することが望ましいこと。 ⑧ 石綿及び石綿を含有する建材を使用した建築物の解体等の工事の増加に備え,特定化学物質等作業主任者の有資格者の養成に努めること。 (7) 昭和63年通達の発出労働 用することが望ましいこと。 ⑧ 石綿及び石綿を含有する建材を使用した建築物の解体等の工事の増加に備え,特定化学物質等作業主任者の有資格者の養成に努めること。 (7) 昭和63年通達の発出労働省は,昭和63年通達(乙アB43)において,「昭和30年初頭から昭和50年初頭までの間に建設されたビル等の建築物には断熱材,吸音材等として石綿が多量に使用されているものが多く,最近,老朽化等によりこれら建築物の解体等の工事件数が次第に増加していることから,石綿粉じんによる労働者の健康障害防止対策を一層徹底させることが緊急の課題となっている。また,石綿を含有する建設資材が多量に流通していることから当該資材の加工時に発生する石綿粉じん曝露防止対策の充実も必要とされている。」との認識を示した上で,これらの問題に対処するために以下に記載した内容の対策(「基本的な対策」及び「作業別の対策」等)を進めるべく, 関係事業者及びその団体に対する指導援助,関係行政機関との連携の強化等を通じ,従来の対策と併せて石綿粉じん曝露防止対策のなお一層の推進を図るよう求めた。 ア対象作業①建築物の解体,改修等の工事における石綿等の除去,封じ込め等の作業,②建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業,③ボイラー,熱交換器等の設備の解体,修理等の工事における石綿を含有する断熱材等の除去等の作業等を対象とした。 これらの作業については,一現場での作業が比較的短期間で終了し,また,一定の場所での作業が行われることが少ないものであり,さらに,中小の事業者が行うことが多いというように,石綿粉じんによる健康障害防止対策の推進を図る上では困難な要因が存するが,今後これらの作業件数の増加が予想されること われることが少ないものであり,さらに,中小の事業者が行うことが多いというように,石綿粉じんによる健康障害防止対策の推進を図る上では困難な要因が存するが,今後これらの作業件数の増加が予想されることから,特にこれらの作業に着目した健康障害予防対策の推進を図る必要があることが注意喚起された。 イ基本的な対策(ア) 作業現場の把握及び発注機関との連携石綿除去等及び建設工事の発注機関(地方公共団体,住宅供給公社,大規模木造住宅団地開発業者等)等の連絡協議を密にし,作業現場,工期,施行業者等の把握に努めるとともに,必要な安全衛生経費及び適切な工期の確保等を行わせ,これらの工事の計画段階における石綿粉じん曝露防止対策の充実を図るものとすること。 (イ) 関係事業者団体に対する指導援助関係事業者団体に対し,自主的な石綿粉じん曝露防止対策の策定,特定化学物質等作業主任者の選任及び今後の工事量の増加に対応した作業主任者の養成について,必要な指導援助を行うものとすること。 ウ作業別の対策(ア) 建築物の解体,改修等の工事における石綿等の除去,封じ込め等の作業発注機関との連絡協議の場等で得られた情報をもとに施工業者に対し作業計画及びその対策を提出させる等の手法により,当該事業者が作業開始前に必要な対策を自主的に講ずるよう指導することとし,その指導等に際しては①石綿等の使用箇所及び使用状況の事前把握及び作業者に対する周知,②石綿等の破砕,解体作業時における当該箇所及びその周囲の湿潤化,③石綿粉じんの飛散防止,④防じんマスク,保護衣の使用,⑤特定化学物質等作業主任者の選任,を徹底すること。 (イ) 建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業建設工事現場 衣の使用,⑤特定化学物質等作業主任者の選任,を徹底すること。 (イ) 建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業建設工事現場等の監督指導,木造家屋建築工事現場に対するパトロール監督指導等の実施時に石綿を含む建設用資材の使用が確認された場合には,①石綿が含有されていることの表示の有無の確認,②石綿が含有されていること等の労働者への周知,③特定化学物質等作業主任者の選任,④防じんマスク及び移動式局所排気装置の使用又は局所排気装置が設置されている作業現場における石綿を含有する資材の事前の加工の励行,⑤その他石綿に係る法定事項の遵守の徹底を図ること。 (ウ) ボイラー,熱交換器等の設備の解体,修理等の工事における石綿を含有する断熱材等の除去等の作業関係事業者団体に対する指導に際して,①当該工事の開始前に石綿の使用の有無の確認を行うこと,②湿潤な状態で作業を行うとともに当該作業を行う者に防じんマスクを使用させること,③作業マニュアルに関連する部分の対策を講じさせることを徹底すること。 エその他の対策 労働省においては,石綿を含有する建設用資材の製造者の団体に対して,安衛法57条の表示等の徹底につき指導を行っており,また,流通段階における適切な表示を確保するため包装のみならず個々の製品に表示を行うよう指導しているところであるが,各局においても別途指示するところに従い管内の製造業者に対して同様の指導を行うこと。 (8) 防じんマスクの規格の改正(昭和63年)労働省は,ろ過材の品質の改良及び生産技術の進歩等による簡易防じんマスクの性能の向上等を考慮して,昭和63年労働省告示第19号(昭和63年4月1日施行。乙アB47)により,簡易防じんマスクその他吸気 労働省は,ろ過材の品質の改良及び生産技術の進歩等による簡易防じんマスクの性能の向上等を考慮して,昭和63年労働省告示第19号(昭和63年4月1日施行。乙アB47)により,簡易防じんマスクその他吸気弁を有しない防じんマスクを「使い捨て式防じんマスク」として許容することなどを内容とする新たな規格を定めた。そして,「防じんマスクに係る労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び機械等検定規則の一部を改正する省令の施行並びに防じんマスクの規格の適用について」(昭和63年基発第205号。乙アB48)を発出して,その周知徹底を図った。なお,同改正においても,粉じん捕集効率についての試験方法及び条件に変更はなかった(粉じん捕集効率95%以上)。 (9) 安衛法の改正による作業環境評価基準の策定等(昭和63年)昭和63年法律第37号(乙アB56)により,安衛法の改正が行われ,その改正内容の一つとして,事業者は,労働大臣の定める作業環境評価基準に従って作業環境測定の結果の評価を行わなければならず,当該評価に基づいて,労働者の健康を保持するために必要があると認められるときは,労働省令で定めるところにより,施設又は設備の設置又は整備,健康診断の実施等の適切な措置を講じなければならないこととされた(同法65条の2)。 また,この改正に基づき,「作業環境評価基準」(昭和63年労働省告示第79号。乙アB57)が定められ,これによって昭和59年に導入された管理濃度に基づく作業環境管理が法制度として組み入れられた。同基準は一 部の規定を除き昭和63年10月1日から施行され,同基準の定める石綿の管理濃度は,5μ以上の繊維として2本/㎤(クロシドライトにあっては,0.2本/㎤)とされた(同基準2条,別表の5)。 そして,労働省は,「作業環境評価基準の適 日から施行され,同基準の定める石綿の管理濃度は,5μ以上の繊維として2本/㎤(クロシドライトにあっては,0.2本/㎤)とされた(同基準2条,別表の5)。 そして,労働省は,「作業環境評価基準の適用について」(昭和63年基発第605号。乙アB55)を発出し,作業環境評価基準の円滑な運用を図るとともに,労働省労働基準局編集に係る「労働衛生のしおり」昭和63年度版(乙アB58)の中で,作業環境測定結果の評価等に応じた措置について周知した。 また,労働省は,「第7次労働災害防止計画」(昭和63年度からの5か年計画。乙アB59)において,5つの重点事項のうちの一つに「適正な作業環境管理の推進」を位置付け,職業性疾病予防対策の推進として,作業環境の測定,評価から作業環境の改善に至る一貫した作業環境管理の推進や,適正な作業環境測定のための精度管理の実施,評価結果に応じた作業環境の改善措置の適正化,作業環境測定士等の関係者に対する評価方法等の周知等を図ることとした。 (10) 平成4年通達の発出労働省は,平成4年通達(乙アB44)において,「最近の国内における石綿の使用量は年間約30万t前後で推移しているが,その約80パーセントは石綿スレート,石綿セメント板等の石綿含有建築材料として使用されており,これらの石綿含有建築材料は,そのままでは石綿粉じんを発散することはほとんどないが,施工にあたっての電動工具を用いた切断等の作業においては石綿粉じんを発散し,これらの作業に従事する労働者の健康障害を引き起こすおそれがある。」との認識を示した上で,建設業における石綿粉じん対策として特化則に規定する事項についてはもとより,建築物の解体,改修工事における曝露防止に関し従来より進めてきた対策及びじん肺等の粉じん障害防止のための対策に加え,石綿含有建築材料 ける石綿粉じん対策として特化則に規定する事項についてはもとより,建築物の解体,改修工事における曝露防止に関し従来より進めてきた対策及びじん肺等の粉じん障害防止のための対策に加え,石綿含有建築材料の施工作業における曝露 防止のための対策の推進を図ることとして,以下の事項に留意した上であらゆる機会をとらえて関係事業者及び関係事業者団体等に対し石綿による健康障害の防止対策が適正に行われるよう指導することを求めた。 ア曝露防止のための対策等について(ア) 電動丸鋸による石綿含有建築材料の切断等の作業において,散水等の措置により湿潤な状態で作業を行う以外の場合には,当該電動丸鋸に除じん装置を取り付けて使用することが切断時の発じんを防止するために有効であるので,作業が極めて短時間である場合等にはダストボックス付きの電動丸鋸を使用し,そうでないときは,除じん装置付きの電動丸鋸を使用し,併せて,防じんマットを使用すること。 (イ) 切断作業中は,着用者の顔面に合った適切な防じんマスク等の呼吸用保護具を使用すること。 (ウ) 石綿粉じんの再飛散防止のため,切断加工作業終了後は後片付け,清掃を徹底し,廃棄物の処理を適正に行うこと。 (エ) 建築現場での切断作業を少なくするために,建築材料のメーカー,建築工事の設計者,施工者等の協力を得て,建築材料はあらかじめメーカー等で所定の形状に切断しておく方法(プレカット)を採用することが望ましいこと。 イ石綿含有建築材料の識別安衛法57条による石綿製品の包装等への表示のほか,個々の石綿製品ごとに押印又は刻印されている石綿業界による自主表示「a」マークにより,石綿含有建築材料であることを識別できることを周知徹底すること。 ウ労働衛生教育の推進について石綿含有建築材料の施工業務従事者 に押印又は刻印されている石綿業界による自主表示「a」マークにより,石綿含有建築材料であることを識別できることを周知徹底すること。 ウ労働衛生教育の推進について石綿含有建築材料の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領を,事業者をはじめ安全衛生団体等に周知するとともに,当該教育の推進について指導・援助すること。 エ(ア) なお,前記石綿含有建築材料の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領においては,当該教育については,石綿粉じんによる健康障害防止対策の一環として,石綿含有建築材料の施工業務に従事する者に対し,①作業環境管理,②作業管理,③健康管理,④災害事例及び関係法令についての知識を付与することを目的として,原則として,作業従事者を石綿含有建築材料の施行業務に就かせる前に実施するものとされた。 (イ) 同通達に添付された参考書面には,石綿の名称等表示の方法について,包装の有無,荷姿,出荷の形態等により異なるものの,製品の種類により概ね次の方法が採られているとして,①石綿スレート,住宅屋根用石綿スレート,石綿セメントサイディング,石綿セメント板(内外装材),石綿セメントけい酸カルシウム板,パルプセメント板,押出成形セメント板のいずれについても,パレット積みで出荷の際文書を挟み込むという方法が採用され,②住宅屋根用石綿スレート及び石綿セメントサイディングについては包装に注意事項を印刷するという方法が,③石綿スレート,石綿セメント板(内外装材)及び押出成形セメント板については注意事項を記載した文書を相手方に交付する方法が,④石綿スレートには請求書・納品書に注意事項を記載する方法が,それぞれ採用されており,「これにより石綿含有建築材料か否かの判断が可能になる」と記載されていた。 また,発じん状況について,通風 が,④石綿スレートには請求書・納品書に注意事項を記載する方法が,それぞれ採用されており,「これにより石綿含有建築材料か否かの判断が可能になる」と記載されていた。 また,発じん状況について,通風の不十分な屋内作業場において電動丸鋸を使用して切断作業を行う場合には,石綿の管理濃度(2本/㎤)を超える状況もある旨の記載がされていた。 8 安衛令,安衛則及び特化則の改正(平成7年)平成7年に安衛令が改正され(平成7年改正安衛令。乙アB35),一部の規定を除き同年4月1日から施行された。同施行令の改正により,労働者に 重度の健康障害を生ずる物として安衛法55条により製造,輸入,譲渡,提供又は使用が禁止される有害物としてクロシドライト及びアモサイト並びにこれらをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物が加えられた(平成7年改正安衛令16条1項4号,5号,10号)。 また,同年,安衛則及び特化則が改正され(平成7年改正安衛則及び平成7年改正特化則。乙アB36),これらは,平成7年改正安衛令と同様,一部の規定を除き平成7年4月1日から施行された。平成7年改正安衛則及び平成7年改正特化則においては,これらの規則の規制対象となる石綿を含有する製剤その他の物の範囲が,石綿の含有量が重量の5%を超えるものから重量の1%を超えるものに拡大され,事業者に対し,①「石綿及び石綿を含有する製剤その他の物(ただし,石綿の含有率が重量の1%以下のものを除く。)」(以下,「石綿含有率1%を超える石綿含有製品等」という。)が吹き付けられている耐火建築物等における,それらの除去作業に関する計画の届出義務(平成7年改正安衛則90条),②石綿含有率1%を超える石綿含有製品等の切断,穿孔,研ま等の作業,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を塗布し,注入し, ける,それらの除去作業に関する計画の届出義務(平成7年改正安衛則90条),②石綿含有率1%を超える石綿含有製品等の切断,穿孔,研ま等の作業,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を塗布し,注入し,又は貼り付けた物の破砕,解体等の作業,粉状の石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を容器に入れ,又は容器から取り出す作業,粉状の石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を混合する作業に労働者を従事させる場合に,事業者が当該労働者に呼吸用保護具等を使用させるべき義務(平成7年改正特化則38条の9第1項,2項),③建築物の解体等の作業を行うときは,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等による労働者の健康障害を防止するため,あらかじめ,当該建築物について,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等が使用されている箇所及び仕様の状況を,設計図書等により調査し,その結果を記録しておく義務(同規則38条の10),④柱等として使用されている鉄骨等に石綿含有率1%を超える石綿含有製品等が吹き付けられた建物の解体等の作業を行う場合において,当該石綿含有率 1%を超える石綿含有製品等を除去する作業に労働者を従事させるときは,当該除去を行う作業場所を,それ以外の作業を行う作業場所から隔離する義務(同規則38条の11)が定められ,また,労働者に対しては,前記②に従い事業者から保護具等の使用を命じられたときはこれを使用すべき義務(同規則38の9第3項)が定められた。 これらの改正に関し,平成7年2月20日付けで平成7年通達(乙アB37,84)が発出された。同通達においては,平成7年の安衛令等の改正は,最近石綿粉じんによる職業性疾病の増加を踏まえて石綿による健康障害防止対策の充実を図るほか,作業環境測定の結果を評価し行う特定物質等の追加等を行うこととしたものであるとされ 7年の安衛令等の改正は,最近石綿粉じんによる職業性疾病の増加を踏まえて石綿による健康障害防止対策の充実を図るほか,作業環境測定の結果を評価し行う特定物質等の追加等を行うこととしたものであるとされ,アモサイト及びクロシドライトの製造等を禁止した理由として,石綿のうちアモサイト及びクロシドライトは,他の種類の石綿に比べて発がん性が著しく強く,人体に与える影響が大きいこと,また,昭和61年にILOにおいて採択された石綿条約においてクロシドライトの使用禁止が求められ,平成元年に開催されたWHOの専門家会議においてアモサイト及びクロシドライトの使用禁止が求められていることから,これら2物質を製造等が禁止される有害物に追加した旨が説明され,また,規制対象となる石綿含有製品の石綿含有率を5%から1%に改めた理由としては,近年,石綿の含有率が5%以下の製品が生産されてきており,含有率の低いものであっても,取扱いの方法によっては労働者が高濃度の石綿粉じんに曝露するおそれもあることから,石綿の含有率の範囲を1%を超えて含有するものに拡大することとした旨説明された。さらに,解体等の作業に関して,吹付け石綿の除去はスレート材等石綿含有建築板の除去と比較すると石綿粉じんの発じん量が多く,このような作業に従事する労働者の曝露防止対策を確実に行う必要があるため,石綿の吹付けが行われているものについては,吹付け材が石綿を1%を超えて含有しているか否かについて設計図書等により調査ができない場合は,定量分析を行う必要があること,吹 付け石綿を除去する作業を行う場合は石綿粉じんの発生量が多く,このような作業場所に隣接した場所で作業を行う労働者が石綿に曝露するおそれもあるため,それ以外の作業を行う場所から隔離(当該除去を行う作業場所をビニールシートで覆うなど は石綿粉じんの発生量が多く,このような作業場所に隣接した場所で作業を行う労働者が石綿に曝露するおそれもあるため,それ以外の作業を行う場所から隔離(当該除去を行う作業場所をビニールシートで覆うなど,石綿粉じんが他の作業場所に漏れないようにすること)すべきであるとされた。 なお,平成7年4月1日より前に製造又は輸入されたアモサイト,クロシドライト及びこれらの含有物は,安衛法55条の規定を適用しないとされ,その際には,作業主任者の選任等従前とられていた措置を講じることとされた(平成7年改正安衛令附則3条,4条1項)。 9 安衛令改正(平成15年)平成15年改正安衛令(乙アB39)が平成16年10月1日から施行され,これによって,安衛法55条により製造等が禁止される有害物等に,石綿セメント円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング,クラッチフェーシング,クラッチライニング,ブレーキパッド,ブレーキライニング,接着剤で,その石綿含有率が当該製品の重量の1%を超えるものが含まれる旨定められた(平成15年改正安衛令16条1項9号,別表第8の2)。 なお,前記各製品のうち平成15年改正安衛令施行日前に製造又は輸入されたものについては,安衛法55条の規定を適用しないとされた(平成15年改正安衛令附則2条1項)。 平成15年以降,安衛令改正(平成18年)までに定められた規制(法令,告示,通達等の定め)(1) 平成16年厚生労働省告示第369号による作業環境評価基準の改正等(平成16年)厚労省は,「管理濃度等検討会」の報告書(平成16年3月付け。乙アB61)を踏まえて,平成16年10月1日付け平成16年厚生労働省告示第 369号(乙アB62)により,作業環境評価基準の一部を改正 ,「管理濃度等検討会」の報告書(平成16年3月付け。乙アB61)を踏まえて,平成16年10月1日付け平成16年厚生労働省告示第 369号(乙アB62)により,作業環境評価基準の一部を改正し,石綿の管理濃度を2本/㎤から0.15本/㎤に引き下げ,当該管理濃度は平成17年4月1日から適用された。 (2) 「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインについて」の発出(平成17年)ア厚労省は,屋内作業場については,安衛法等に基づく作業環境測定及びその結果の評価に基づく作業環境管理が労働者の健康確保のための手法として定着し重要な役割を果たしているが,屋外作業場等については,屋内作業場等と同様に有害物質等への曝露による健康障害の発生が認められているものの,屋外作業場等に対応した作業環境の測定の結果の評価手法が確立されていないことから,適切な作業環境管理が行われていない現状にあるため,屋外作業場等の作業環境を的確に把握し,その結果に基づいた作業環境の管理を推進して屋外作業場における有害な化学物質への曝露の低減を図る必要があるとして「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインについて」(平成17年基発第0331017号。乙アB63)を発出した。 イ 「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドライン」は,有害な業務を行う屋外作業場等について,事業者が講ずべき原則的な措置を次のように示し,事業者は,同ガイドラインを基本としつつ,事業場の実態に即して,有害な業務を行う屋外作業場における労働者の健康を保持するために適切な措置を積極的に講ずることが望ましいとされた。 (ア) 測定対象となる屋外作業場等は,安衛法等で作業環境測定の対象となっている屋内作業場等以外の作業場であり,具体的には,屋外作業場(建家の側面の な措置を積極的に講ずることが望ましいとされた。 (ア) 測定対象となる屋外作業場等は,安衛法等で作業環境測定の対象となっている屋内作業場等以外の作業場であり,具体的には,屋外作業場(建家の側面の半分以上にわたって壁等の遮へい物が設けられておらず,かつ,ガス・粉じん等が内部に滞留するおそれがない作業場を含む。)のほか,船舶の内部,車両の内部,タンクの内部等とされた。 そして,作業環境の測定は,石綿を製造し若しくは取り扱う屋外作業場等であって,当該屋外作業場等における作業又は業務が一定期間以上継続して行われるものについて,実施することとなった。 (イ) 屋外作業場等における作業環境の測定方法は,屋外作業場等において取り扱う有害物質の濃度が最も高くなる作業時間帯に,高濃度と考えられる作業環境下で作業に従事する労働者(測定の対象となる物質を取り扱う労働者)全員の呼吸域(鼻又は口から30㎝以内の襟元,胸元又は帽子の縁をいう。)を測定点として同領域に個人サンプラーを装着し,10分間以上継続して測定すること等が定められた。 (ウ) 測定点ごとに測定結果と管理濃度等とを比較することで作業環境測定の結果を評価し,その結果測定値が管理濃度等を1以上の測定点で超えた場合に講ずべき措置を定め,さらに,作業環境測定の結果及びその評価に基づく必要な措置については,衛生委員会等において調査審議するとともに,関係者に周知することとした。なお,同ガイドラインにおける石綿の管理濃度は,前記平成16年厚労省告示369号と同様,5μm以上の繊維として0.15本/㎤とされていた。 (3) 石綿則の制定等厚労省は,石綿を使用した建築物の解体等の作業が増加していることから,今後の石綿曝露防止対策においては建築物等の解体等の作業が中心となることが予想されるこ とされていた。 (3) 石綿則の制定等厚労省は,石綿を使用した建築物の解体等の作業が増加していることから,今後の石綿曝露防止対策においては建築物等の解体等の作業が中心となることが予想されること,事業者が講ずべき措置の内容が特化則に定める他の化学物質とは大きく異なること等から,石綿曝露防止対策等の拡充を図るため,安衛法に基づく石綿に関する単独の規則として,石綿則(乙アB49)を制定し,同規則は平成17年7月1日から施行された。 石綿則においては,解体等の業務に係る措置として,事業者に対し,①建築物又は工作物の解体,破砕等の作業を行うときは,あらかじめ,当該建築物又は工作物について,石綿等の使用の有無を目視,設計図書等により調査 し,その結果を記録し(同規則3条1項),当該調査を行ったにもかかわらず,当該建築物又は工作物について石綿等の使用の有無が明らかとならなかったときは,原則として,石綿等の使用の有無を分析により調査し,その結果を記録する義務(同規則3条2項),②石綿等が使用されている建築物又は工作物の解体等の作業を行うときは,あらかじめ,作業の方法及び順序,石綿粉じんの発散を防止し,又は抑制する方法,作業を行う労働者への石綿等の粉じんの曝露を防止する方法等を記載した作業計画を定め,これを関係労働者に周知した上で,当該作業計画により作業を行う義務(同規則4条),③石綿等が使用されている保温材,耐火被覆材等の除去作業のうち,石綿等の粉じんを著しく発散するおそれがある作業その他これに類する作業を行うときは,あらかじめ,石綿曝露防止のための措置の概要等を記載した作業届に当該作業に係る建築物又は工作物の概要を示す図面を添えて,所轄労働基準監督署長に提出する義務(同規則5条1項),④前記保温材等の除去作業を行う場合には,当該 止のための措置の概要等を記載した作業届に当該作業に係る建築物又は工作物の概要を示す図面を添えて,所轄労働基準監督署長に提出する義務(同規則5条1項),④前記保温材等の除去作業を行う場合には,当該除去作業を行う場所をそれ以外の作業を行う作業場から隔離する義務(同規則6条),⑤前記保温材等の除去作業を行う場合において,当該作業場所に当該作業に従事する労働者以外の者の立入りを原則として禁止し,その旨を見やすい箇所に表示する義務(同規則7条1項)が定められた。また,特定元方事業者に対しては,その労働者及び関係請負人の労働者の作業が,保温材等の除去作業と同一の場所で行われるときは,当該保温材等の除去作業の開始前までに,関係請負人に当該作業の実施について通知するとともに,作業の時間帯の調整等必要な措置を講じるべき義務が定められた(同規則7条2項)。さらに,石綿等が吹き付けられた建築物等における業務に係る措置として,事業者に対し,労働者を就業させる建築物に吹き付けられた石綿等が損傷,劣化等によりその粉じんを発散させ,労働者がその粉じんに曝露するおそれがあるときは,当該石綿等の除去,封じ込め,囲い込み等の措置を講じる義務(同規則10条1項)を定めた。そして,石 綿等を取り扱う業務に係るその他の措置として,事業者に対し,①特定石綿等(石綿(アモサイト及びクロシドライトを除く。)及びその重量の1%を超える石綿を含有する製剤その他の物)の吹付け作業に労働者を従事させることの全面的な禁止(同規則11条),②特定石綿等の粉じんが発散する屋内作業場については,臨時の作業を行うとき等を除き,当該粉じんの発散源を密閉する設備,局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設ける義務(同規則12条1項),③石綿等の切断等の作業及びこれにより発散した石綿等の粉 は,臨時の作業を行うとき等を除き,当該粉じんの発散源を密閉する設備,局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設ける義務(同規則12条1項),③石綿等の切断等の作業及びこれにより発散した石綿等の粉じんの掃除の作業に労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態にし,労働者に呼吸用保護具,作業衣等を使用させる義務(同規則13条1項,14条1項,2項),④石綿等を製造し,又は取り扱う作業場には,関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,その旨を見やすいところに表示する義務(同規則15条)が定められた。これらの他,同規則は,事業者の義務として,局所排気装置等の定期自主検査義務(同規則21条,22条),石綿等が使用されている建築物又は工作物の解体,破砕等の作業に係る業務についての特別教育の実施義務(同規則27条),健康診断実施義務(同規則40条),呼吸用保護具備付け義務(同規則44条)等を定めた。 なお,石綿則は,平成18年に改正され,建築物又は工作物の解体,破砕等の作業に加え,10条1項の規定する吹付け石綿等の封じ込め又は囲い込みの作業についても,事前調査(同規則3条1項2号),作業計画の作成(同規則4条1項2号),作業の届出(同規則5条1項2号),特別教育(同規則27条1項)等が義務付けられた(乙アB50)。 11 安衛令改正(平成18年)平成18年9月1日から施行された平成18年改正安衛令(乙アB40,69)により,石綿をその重量の0.1%を超えて含有する石綿含有製品等について,安衛法55条により製造等が禁止される旨定められた(平成18年改正安衛令16条1項9号)。 なお,平成7年改正安衛令及び平成15年改正安衛令において定められた経過措置によって使用が可能とされていた石綿含有製品等並びに平成18年改正安衛令の施行日前に製 衛令16条1項9号)。 なお,平成7年改正安衛令及び平成15年改正安衛令において定められた経過措置によって使用が可能とされていた石綿含有製品等並びに平成18年改正安衛令の施行日前に製造又は輸入された石綿又は石綿をその重量の0. 1%を超えて含有する製剤その他の物(以下「石綿含有率0.1%を超える石綿含有製品等」という。)については,平成18年改正安衛令において,これらが同施行令の施行日において現に使用されている場合には,同日以後引き続き使用されている間は,安衛法55条の規定を適用しないとされた(平成18年改正安衛令附則2条1項)。 第2 建築基準法令等における石綿含有建材に関する法令,通達等の定め 1 建基法制定の経緯及び規定の概要(1) 建基法の前身である市街地建築物法(大正8年法律第37号)は,第一次世界大戦がもたらした好景気による大都市の急激な膨張により都市計画の必要が生じたことから,大正8年に都市計画の一環である都市計画制限を目的として,都市計画法とともに制定された。市街地建築物法は,地域地区制,建築線制等のような都市計画に即応して建築物の配置,配列を規制する新しい規定及び個々の建築物の保安衛生上の構造基準を定めた規定の2つの内容を備えており,前者は「集団規定」,後者は「単体規定」と呼ばれ,建基法においてもこれが用いられている。(乙アB78,87,91,111)(2) 建基法は,市街地建築物法と同様に,建築物の構造設備等に関する安全・衛生上等の最低基準と,これを守らせるための行政手段を定めた法律であり,建基法が昭和25年11月23日に施行されたことにより,市街地建築物法は廃止された。なお,建基法は,全国全ての地域のあらゆる建築物を対象として統一的な基準を定めた法令としては,我が国では最初のものである。( 和25年11月23日に施行されたことにより,市街地建築物法は廃止された。なお,建基法は,全国全ての地域のあらゆる建築物を対象として統一的な基準を定めた法令としては,我が国では最初のものである。(乙アB78,111)(3) 建基法制定当時,我が国は,年々火災のために莫大な富を損失しており, この原因は我が国の建築物がほとんど木造であって,火災に対し全く抵抗力を有しないからであると考えられた。そして,火災による損害を防止するためには,特に都市においては,都市計画の実施,消防力の強化とともに,建築物の不燃化を図らなければならないとの考えから,近代的不燃都市の建設の手段の一つとして,建基法が制定された。(乙アB78,111)(4) 建基法の目的は,「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資すること」であるとされ(同法1条),同法においては,ある1個の建築物に着目して,その構造等に制限を加え,建築物を地震及び火災等から守り,その建築物を利用している人々の生命,健康及び財産を守るという観点から定められた単体規定と,接道義務,道路内建築物制限,用途規制等の建築物の形態,用途,接道等について制限を加え,建築物が集団で存している都市の技能確保や市街地環境の確保を図ろうとする集団規定とが定められ,さらに,建基法を守らせるための手段としての建築手続として,「建築主事の確認」が定められた(乙アB78,87,91,111)。 2 建基法における防火規定の定め(1) 個々の建築物の防火規定(単体規定)建基法は,個々の建築物の防火規定として,以下の内容の定めを置いた。 ア大規模木造建築物等の外壁平成10年改正以前の建基法25条は,延べ面積が1000 1) 個々の建築物の防火規定(単体規定)建基法は,個々の建築物の防火規定として,以下の内容の定めを置いた。 ア大規模木造建築物等の外壁平成10年改正以前の建基法25条は,延べ面積が1000㎡を超える木造建築物等について,その外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造とし,その屋根を不燃材料で造り,又はふかなければならない旨定めていた。平成10年改正建基法は,前記のうち屋根の構造について,同法22条1項の構造(特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地 について指定する区域内にある建築物の屋根の構造)とする旨に改めた。 イ防火壁建基法26条は,延べ面積が1000㎡を超える建築物は,防火上有効な構造の防火壁で有効に区画し,かつ,各区画の床面積の合計をそれぞれ1000㎡以内としなければならないと定めたが,建築物の主要構造部が耐火構造又は不燃材料で造られている場合については例外として前記規制の対象外とした。その後,昭和34年改正建基法は,前記例外部分について,①耐火建築物若しくは簡易耐火建築物(平成4年改正後は準耐火建築物)又は②卸売市場の上家若しくは機械製作工場で主要構造部が不燃材料で作られているものその他これらの類する構造でこれらと同等以上に火災発生のおそれの少ない用途に供するものについては,この限りでないとし,さらに,昭和62年改正建基法では,前記②の建築物について,主要構造部が不燃材料で造られたものその他これに類する構造のものであるか,又は構造方法,主要構造部の防火の措置その他の事項について防火上必要な政令で定める技術的基準に適合するもののいずれかに該当するものであることが要件とされ,③畜舎その他の政令で定める用途に供する建築物で,その周辺地域が農業上の利用に供され,又はこれと同様の状況にあって, で定める技術的基準に適合するもののいずれかに該当するものであることが要件とされ,③畜舎その他の政令で定める用途に供する建築物で,その周辺地域が農業上の利用に供され,又はこれと同様の状況にあって,特定行政庁(平成6年法律第62号による改正後の建築基準法においては,建設大臣)がその構造及び用途並びに周囲の状況により避難上及び延焼防止上支障がないと認めるものについても,例外に当たると定めた。 また,防火壁の構造について定めた建基令113条においては,防火壁は耐火構造としなければならない等とされた。 ウ特殊建築物の耐火構造建基法27条は,劇場,映画館,演芸場,公会堂,病院,ホテル,共同住宅,学校,体育館,百貨店,キャバレー,カフェー,遊技場,倉庫等の用途に使用する建築物で,その用途に供する部分が一定の階数以上の階で あったり,その床面積の合計が一定以上の規模のもの等を「特殊建築物」とし,これらの特殊建築物については,原則として,主要構造部を耐火構造としなければならないと定めた。昭和34年改正後の同条では,特殊建築物のうち一定以上の規模のものについて,耐火建築物や,耐火建築物又は簡易耐火建築物(平成4年改正後は準耐火建築物)としなければならない旨定められた。 エ特殊建築物等の内装昭和34年改正建基法において,35条の2が新たに設けられ,一定の用途に供する特殊建築物,一定の居室について,原則として,政令で定める技術的基準に従って,その壁及び天井(天井のない場合においては,屋根)の室内に面する部分の仕上げを防火上支障がないようにしなければならないとされた(内装制限)。これを受けて,建基令129条は,政令で定める技術的基準として,建築物の種類等に応じて,室内に面する部分の仕上げを,準不燃材料,難燃材料ないしこれらに準ずる材 なければならないとされた(内装制限)。これを受けて,建基令129条は,政令で定める技術的基準として,建築物の種類等に応じて,室内に面する部分の仕上げを,準不燃材料,難燃材料ないしこれらに準ずる材料の組み合わせでしなければならないと定めた。その後,昭和45年改正建基法により,内装制限の対象は,階数が3以上である建築物等にも拡大された。 オ無窓の居室等の主要構造部昭和34年改正建基法において,新たに35条の3が設けられ,地階若しくは地下工作物内に設ける居室その他これらに類する居室又は映画館の客席,温湿度調整を必要とする作業を行う作業室その他用途上やむを得ない居室で,同法28条1項本文の要件を満たす採光のための窓その他の開口部を有しない居室については,原則として,その居室を区画する主要構造部を耐火構造とし,又は不燃材料で造らなければならない旨定められた。 その後,昭和45年改正建基法において,「政令で定める窓その他の開口部を有しない居室」が規制対象となる旨改められた。 (2) 集団の防火に関する規定(集団規定) 建築物が密集している市街地においては一旦火災が発生すると次々と延焼していく危険性が高いことから,都市大火を防止するため,建基法は,以下のとおり,一定の市街地地域について,地域全体の防火規制を行う規定を置いている。 ア防火地域及び準防火地域内における規制(ア) 防火地域内の建築物防火地域内の建築物については,建基法61条において,原則として,延べ面積が100㎡をこえる建築物の主要構造部及びその他の建築物の外壁は,耐火構造としなければならない旨定められた。その後,昭和34年改正建基法により,階数が3以上であり,又は延べ面積が100㎡をこえる建築物は耐火建築物とし,その他の建築物は耐火建築物又は簡易耐火建 ,耐火構造としなければならない旨定められた。その後,昭和34年改正建基法により,階数が3以上であり,又は延べ面積が100㎡をこえる建築物は耐火建築物とし,その他の建築物は耐火建築物又は簡易耐火建築物としなければならないとされ,さらに,平成4年改正建基法においては,「簡易耐火建築物」が「準耐火建築物」に改められた。 (イ) 準防火地域内の建築物準防火地域内の建築物については,建基法62条において,原則として,階数が3以上であり,又は延べ面積が500㎡をこえるものは,主要構造部を耐火構造としなければならず(同条1項),木造の建築物は,その外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造としなければならない(同条2項)と定められた。その後,昭和34年改正建基法により,地階を除く階数が4以上である建築物又は延べ面積が1500㎡を超える建築物は耐火建築物とし,地階を除く階数が3である建築物又は延べ面積が500㎡をこえ1500㎡以下の建築物は耐火建築物又は簡易耐火建築物としなければならず(同法62条1項),木造の建築物は,その外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造とし,これに附属する高さ2mをこえる門又はへいで当該門又はへいが建築物の 1階であるとした場合に延焼のおそれのある部分に該当する部分を不燃材料で造り,又はおおわなければならない(同条2項)と改められ,さらに,昭和62年改正建基法において,地階を除く階数が3である建築物については,外壁の開口部の構造及び面積,主要構造部の防火の措置その他の事項について防火上必要な政令で定める技術的基準に適合する建築物でもよいこととされた。なお,平成4年改正建基法により,「簡易耐火建築物」は,「準耐火建築物」に改められた。 (ウ) 屋根建基法63条は,防火地域又は準防火地域内 る技術的基準に適合する建築物でもよいこととされた。なお,平成4年改正建基法により,「簡易耐火建築物」は,「準耐火建築物」に改められた。 (ウ) 屋根建基法63条は,防火地域又は準防火地域内においては,建築物の屋根で耐火構造でないものは,不燃材料で造り,又はふかなければならないと定めていたが,平成4年改正建基法により,耐火構造又は準耐火構造でないものは,不燃材料で造り,又はふかなければならないと改められた。さらに,平成10年改正建基法において,防火地域又は準防火地域内の建築物の屋根の構造は,市街地における火災を想定した火の粉による建築物の構造及び用途の区分に応じて政令で定める技術的基準に適合するもので,建設大臣が定めた構造方法を用いるもの又は建設大臣の認定を受けたものとしなければならないとされた。 (エ) 隣地境界線に接する外壁建基法65条は,防火地域又は準防火地域にある建築物で,外壁が耐火構造のものについては,その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨定めており,これは,外壁が耐火構造のものについて,民法234条1項(境界線から50㎝以上離さなければならない)の規定の例外を認めたものである。 (オ) 看板等の防火措置建基法66条において,防火地域内にある看板等の工作物で,建築物の屋上に設けるもの又は高さ3mをこえるものは,その主要な部分を不 燃材料で造り,又はおおわなければならないとの定めがされた。 イ屋根不燃地域内における規制(ア) 屋根建基法22条は,原則として,特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について関係市町村の同意を得て指定する区域内においては,建築物の屋根は,不燃材料で造り,又はふかなければならない旨定めていた(当該指定区域は「屋根不燃地域」と呼ばれる。)が,昭和 地域以外の市街地について関係市町村の同意を得て指定する区域内においては,建築物の屋根は,不燃材料で造り,又はふかなければならない旨定めていた(当該指定区域は「屋根不燃地域」と呼ばれる。)が,昭和34年改正建基法により,原則として,耐火建築物及び簡易耐火建築物以外の建築物の屋根は,不燃材料で造り,又はふかなければならないこととされ,平成4年改正建基法において,「簡易耐火建築物」が「準耐火建築物」に改められた。さらに,平成10年改正建基法により,屋根不燃地域の建築物の屋根の構造は,原則として,通常の火災を想定した火の粉による建築物の構造及び用途の区分に応じて政令で定める技術的基準に適合するもので,建設大臣が定めた構造方法を用いるもの又は建設大臣の認定を受けたものとしなければならないとされた。 (イ) 外壁建基法23条は,屋根不燃地域内の木造建築物は,その外壁のうち延焼のおそれのある部分を土塗壁とし,又は延焼防止についてこれと同等以上の効力を有する構造としなければならないと定めた(なお,平成4年改正により,「準耐火建築物」については除外された。)。 昭和38年住指発第58号(甲B28)により,石綿スレート板張りは,亜鉛鉄板張り等とともに,建基法第23条に規定する「土塗壁と同等以上の延焼防止の効力を有する構造」に該当するとされ,石綿スレート板は屋根不燃地域の木造建築物の外壁材として位置付けられた。 また,建基法23条に規定する土塗壁と同等以上の延焼防止の効力を有する構造の判定基準(試験方法)を通知した,昭和46年住指発第4 87号「土塗壁と同等以上の延焼防止の効力を有する構造について」(甲B29)において,当該基準に該当するものとして,「厚さ3.2㎜以上の石綿スレートを表面に張ったもの」を挙げた。 (ウ) 木造の特殊建 号「土塗壁と同等以上の延焼防止の効力を有する構造について」(甲B29)において,当該基準に該当するものとして,「厚さ3.2㎜以上の石綿スレートを表面に張ったもの」を挙げた。 (ウ) 木造の特殊建築物の外壁等建基法24条は,屋根不燃地域内にある木造建築物等である特殊建築物で,一定のものについて,その外壁及び軒裏で延焼のおそれのある部分を防火構造(同条1項),もしくは,防火構造又は不燃材料,木毛セメント板その他これらに類するものでおおい,若しくは防火塗料で塗装しなければならない(同条2項)旨定めた。その後,昭和34年改正建基法において,前記2項が削除されたことにより,以後防火構造によることのみが定められた(なお,平成4年改正により,「準耐火建築物」については除外された。)。 3 建基法における構造及び材料に関する定め(1) 耐火構造ア建基法2条7号において,「耐火構造」とは「鉄筋コンクリート造,れん瓦造等の構造で政令で定める耐火性能を有するものをいう。」と定義され,これを受けて建基令107条1項1号ないし6号において耐火性能の内容が具体的に定められ,さらに同項7号において,同項1号ないし6号に掲げるものを除く外建設大臣が国家消防庁長官の意見を聴いて,これらと同等以上の耐火性能を有すると認めて指定するものとされていた。 イ昭和34年建設省告示第2544号「建築基準法施行令第107条第1項七号及び同条第2項の規定に基く耐火構造及び耐火構造とみなすものの指定」(甲B10)では,同条1項1号から4号までに掲げる耐火構造と同等以上の耐火性能を有するもの及び同項の耐火構造とみなすものが指定された。なお,同告示において,耐火性能試験については,加熱試験及び注水試験が定められ,これらの試験についてJISA1304の3ないし 性能を有するもの及び同項の耐火構造とみなすものが指定された。なお,同告示において,耐火性能試験については,加熱試験及び注水試験が定められ,これらの試験についてJISA1304の3ないし 5及び7の規定によることとされていたが,注水試験につては,延焼のおそれのある部分以外の外壁の帳壁にあっては,JISA1304の7によらないことができるとされた。 ウ(ア) 昭和39年改正建基令は,耐火性能について,①壁,柱,はり及び屋根については,建設大臣が,通常の火災時の加熱に,その設置された建築物の階数ごとに定められた一定の時間以上耐える性能を有すると認めて指定するもの(同施行令107条1号),②階数が3以下で述べ面積が1000㎡以下の建築物における壁,柱及びはりにあっては,同条1号に掲げるものを除く外,建設大臣が指定するもの(同条2号),③階段については,鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造等の外,建設大臣が,これらと同等以上の耐火性能を有すると認めて指定するもの,と定めた。 (イ) 昭和39年建設省告示第1675号「建築基準法施行令第107条第一号及び第二号の規定に基づく,耐火構造の指定」(甲B12,乙アB115)において,柱及び梁については,鉄骨を一定の厚さ以上吹付け石綿(かさ比重が0.3以上のものに限る。)で覆ったもの,外壁のうち非耐力壁については,不燃性岩綿保温板,鉱滓綿保温板又は木片セメント板の両面に石綿スレート又は石綿パーライト板を張ったもので,その厚さの合計が4㎝以上のもの等を耐火構造として指定した。 (ウ) 耐火構造の指定に関し,昭和40年建設省告示第1193号「建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第107条第一号の規定に基づく耐火構造の指定に関し,耐火構造の指定の方法を定める件」(甲B13)が 構造の指定に関し,昭和40年建設省告示第1193号「建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第107条第一号の規定に基づく耐火構造の指定に関し,耐火構造の指定の方法を定める件」(甲B13)が発出され,これに従って「両面石綿セメント板張岩綿板パネル」,「アルミ平板張り吹付石綿朝日ブロベスト耐火パネル」,「吹付石綿トムレックス耐火被覆W・デッキプレート」等の石綿含有建材を使用した構造が,昭和39年改正建基令107条1号の規定に基づき,耐 火構造として指定された(昭和40年建設省告示第3513ないし第3551号。甲B16)。その後,耐火構造の指定方法を改める内容の昭和44年建設省告示第2999号「耐火構造の指定の方法を定める件」(甲B14)が発出され,同告示において,建築物の壁,柱,床,はり又は屋根を構成する主たる建築材料又は建築部材を製造する者(これらの建築材料又は建築部材を用いて建築物を建築する場合における工事施行者を含む。)は,これらの構造について耐火構造の指定を受けようとするときは,耐火構造指定申請書に,耐火構造設計図書,申請者の営業概要及び品質管理の説明書,耐火性能試験成績書を添付して建設大臣に申請し,建設大臣は申請に係る構造を耐火構造として指定したときは,その旨を官報に掲載して公告し,かつ,申請者に通知すること,指定耐火構造の使用(又は販売)が中止された場合又は品質管理等の不備により指定耐火構造の性能が確保されないことが明らかになった場合には,建設大臣は,指定を取消し,その旨を,官報に掲載して公告し,かつ,理由を付して申請者に通知すること等が定められた。前記昭和44年建設省告示第2999号に伴い発出された昭和44年住指発第244号「建築基準法に基づく耐火構造の指定の方法の改正について」(甲B15)においては て申請者に通知すること等が定められた。前記昭和44年建設省告示第2999号に伴い発出された昭和44年住指発第244号「建築基準法に基づく耐火構造の指定の方法の改正について」(甲B15)においては,指定は,セメント,石綿,岩綿等の普遍的又は標準的な材料を加工し又は組み合わせた耐火構造に係る場合は,原則として通則的な指定を行うものとされ,指定の申請は,当該耐火構造の主たる建築材料又は建築部材の製造者又はこれを用いる工事施工者が,2以上の場合にはそれらが共同して又はそれらが,構成する法人(業界団体)として行うものとするとされた。また,前記以外の場合には,原則として,構成材料,部材等の製造者が個別に指定の申請を行うものとされた。 (エ) 昭和62年に,前記昭和39年建設省告示第1675号を改正する昭和62年建設省告示第1929号「耐火構造の指定」が発出され,こ れによって,吹付け石綿を用いた構造が耐火構造から削除された(甲B17)。 エ平成10年改正建基法2条7号は,「耐火構造」の定義を「壁,柱,床その他の建築物の部分の構造のうち,耐火性能(通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造,れんが造,その他の構造で,建設大臣が定めた構造方法を用いるもの又は建設大臣の認定を受けたものをいう。」と改め,これを受けた平成12年改正建基令において,平成10年建基法2条7号の耐火性能に関する技術的基準が定められた。 建設大臣は,昭和39年建設省告示第1675号を平成12年建設省告示第1399号「耐火構造の構造方法を定める件」(甲B21)により廃止したが,同告示においても昭和39年建設省告示第1675号 た。 建設大臣は,昭和39年建設省告示第1675号を平成12年建設省告示第1399号「耐火構造の構造方法を定める件」(甲B21)により廃止したが,同告示においても昭和39年建設省告示第1675号と同様,建基令(昭和52年政令266号による改正後の建基令)107条2号及び3号に掲げる技術的基準に適合する非耐力壁である外壁の延焼のおそれのある部分の構造方法として,石綿スレート,石綿パーライト板及び石綿けい酸カルシウム板を用いた構造が定められた。 平成16年国土交通省告示1177号により,平成12年建設省告示第1399号が改正され,石綿スレート,石綿パーライト板及び石綿けい酸カルシウム板を用いた構造が耐火構造から削除された(甲B21,35)。 (2) 準耐火構造ア平成4年改正建基法は,2条7号の2として「準耐火構造」を定め,これを「耐火構造以外の構造であって,耐火構造に準ずる耐火性能で政令で定めるものを有するものをいう。」と定義した。これを受けて,平成5年改正建基令107条の2として,一定の耐火性能を有すると認められるものを,建設大臣が準耐火構造として指定する旨定められた。 イ建設大臣は,平成5年改正建基令107条の2第2項に基づき,平成5年建設省告示第1453号「準耐火構造の指定」(甲B18)を発し,外壁に関する準耐火構造として,石綿スレート及び石綿パーライト板等を用いた構造を指定した。 ウ平成5年建設省告示第1454号「準耐火構造の指定の方法」(甲B19)において,準耐火構造の指定の申請は,壁,柱,床,はり又は屋根を構成する主たる建築材料又は建築部材を製造する者(これらの建築材料又は建築部材を用いて建築物を建築する場合における工事施工者を含む。)は,これらの構造について準耐火構造の指定を受けようとするとき を構成する主たる建築材料又は建築部材を製造する者(これらの建築材料又は建築部材を用いて建築物を建築する場合における工事施工者を含む。)は,これらの構造について準耐火構造の指定を受けようとするときは,準耐火構造指定申請書に,準耐火構造設計図書,申請者の営業概要及び品質管理の説明書,耐火性能試験成績書を添付して建設大臣に申請し,建設大臣は,申請に係る構造を準耐火構造として指定したときは,その旨を官報に掲載して公告し,かつ,申請者に通知するものとし,準耐火構造の使用(又は販売)が中止された場合又は品質管理等の不備により指定準耐火構造の性能が確保されないことが明らかになった場合には,建設大臣は指定を取り消す等しなければならないことが定められた。 エ平成10年改正建基法2条7号の2は,「準耐火構造」の定義を「壁,柱,床その他の建築物の部分の構造のうち,準耐火性能(通常の火災による延焼を抑制するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので,建設大臣が定めた構造方法を用いるもの又は建設大臣の認定を受けたものをいう。」と改め,これを受けて平成12年改正建基令107条の2は,平成10年改正建基法2条7号の2の準耐火性能に関する技術的基準が定められた。 建設大臣は,平成12年建設省告示第1358号「準耐火構造の構造方法を定める件」(甲B22)において,壁,屋根及び階段の構造について,石綿スレート,石綿パーライト板及び石綿けい酸カルシウム板等を用いた 構造を準耐火構造として指定した。 国土交通大臣は,平成16年国土交通省告示1172号により,前記平成12年建設省告示第1358号を改正し,石綿スレート等の石綿含有建材を使用した構造を準耐火構造の指定から削除した(甲B20ないし22, 通大臣は,平成16年国土交通省告示1172号により,前記平成12年建設省告示第1358号を改正し,石綿スレート等の石綿含有建材を使用した構造を準耐火構造の指定から削除した(甲B20ないし22,35)。 (3) 防火構造ア建基法2条8号は,「防火構造」について「鉄網モルタル塗,しつくい塗等の構造で政令で定める防火性能を有するものをいう。」と定義し,これを受けて,建基令108条1号ないし6号では防火性能についての具体的仕様を定め,同条7号において,同条1号ないし6号に掲げるものを除く外,建設大臣が国家消防庁長官の意見を聞いて,これらと同等以上の防火性能を有すると認めて指定する旨定めた。 イその後,昭和34年改正建基令108条1項3号において,瓦又は石綿スレートでふいたものが防火構造として定められ,同項4号では,建設大臣が国家消防本部長の意見を聞いて,同項1号ないし3号と同等以上の防火性能を有すると認めて指定するものも防火構造とすることとした。 建設大臣は,昭和34年建設省告示第2524号「建築基準法施行令第108条第四号の規定に基づく防火構造の指定」(甲B23)により,指定に関する試験方法としてJISA1301又は同1302に規定する屋外二級加熱試験及び衝撃試験に合格するものとする等とした。 ウ昭和39年改正建基令108条2号は,間柱若しくは下地を不燃材料以外の材料で造った壁,根太若しくは下地を不燃材料以外の材料で造った床又は軒裏に関して,石綿スレートを張ったもの等の石綿含有建材を使用した構造を防火構造として指定した。 エ平成10年改正建基法2条8号は,「防火構造」の定義を「建築物の外壁又は軒裏の構造のうち,防火性能(建築物の周囲において発生する通常 の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要と 10年改正建基法2条8号は,「防火構造」の定義を「建築物の外壁又は軒裏の構造のうち,防火性能(建築物の周囲において発生する通常 の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄網モルタル塗,しつくい塗その他の構造で,建設大臣が定めた構造方法を用いるもの又は建設大臣の認定を受けたものをいう。」と改め,これを受けた平成12年改正建基令108条において,平成10年改正建基法2条8号の防火性能についての技術的基準として,①耐力壁である外壁にあっては,これに建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に,加熱開始後三十分間構造耐力上支障のある変形,溶融,破壊その他の損傷を生じないものであること,②外壁及び軒裏にあっては,これらに建築物の周囲において発生する通常の火災による火熱が加えられた場合に,加熱開始後三十分間当該加熱面以外の面(屋内に面するものに限る。)の温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しないものであること,が定められた。 建設大臣は,これらに基づいて,石綿含有建材を使用した構造を,防火構造として個別に指定したほか,平成12年建設省告示第1359号「防火構造の構造方法を定める件」(甲B24)を発し,平成12年改正建基令108条に掲げる技術的基準に適合する耐力壁である外壁の構造方法として,石綿スレートを張るなどしたもの等を指定した。また,国土交通大臣は,平成13年国土交通省告示第1684号(甲B36)により前記平成12年建設省告示第1359号を改め,外壁及び軒裏の構造方法について,石綿スレート,石綿パーライトを使用した構造を指定したが,その後,平成16年国土交通省告示第1173号(甲B25)による改正において,石綿含有建材を使用した構造は ,外壁及び軒裏の構造方法について,石綿スレート,石綿パーライトを使用した構造を指定したが,その後,平成16年国土交通省告示第1173号(甲B25)による改正において,石綿含有建材を使用した構造は削除された。 (4) 不燃材料(準不燃材料,難燃材料)ア建基法は,2条9号において,「不燃材料」を「コンクリート,れん瓦,瓦,石綿板,鉄鋼,アルミニユーム,ガラス,モルタル,しっくいその他これに類する不燃性の建築材料をいう。」と定義した。 イ昭和34年の改正により特殊建築物等の内装制限を導入するに際し,昭和34年改正建基令1条5号及び6号において,準不燃材料(木毛セメント板,石膏板その他の建築材料で不燃材料に準ずる防火性能を有するものとして建設大臣が指定するもの)及び難燃材料(難燃合板,難燃繊維板,難燃プラスチック板その他の建築材料で難燃性を有するものとして建設大臣が指定するもの)が規定され,これを受けて,昭和34年建設省告示第2543号においてその具体的な試験方法が定められ,これに合格したものを準不燃材料,難燃材料とするとされた(甲B1)。 その後,昭和44年建設省告示第3415号(甲B2)により,材料が実際に使われる条件で試験を行うこととされ,また,新たに材料の発煙性状が明確化されるなど,準不燃材料及び難燃材料の指定に関し昭和34年建設省告示第2543号の全面的な改正がされ,さらに,昭和44年建設省住指325号(甲B3)により防火材料認定要領が改正されたことに伴い,前記昭和34年建設省告示第2543号は廃止された。そして,当該改正により,昭和34年建設省告示第2543号による準不燃材料及び難燃材料は,昭和44年12月31日まで,昭和44年建設省告示3415号による準不燃材料又は難燃材料とみなされるが,同日以降は ,当該改正により,昭和34年建設省告示第2543号による準不燃材料及び難燃材料は,昭和44年12月31日まで,昭和44年建設省告示3415号による準不燃材料又は難燃材料とみなされるが,同日以降は効力を失うほか,これまで建設大臣が認定した不燃材料,準不燃材料又は難燃材料についても同日以降効力を失うこととなった。 建設省は,昭和44年住指発第352号「準不燃材料及び難燃材料の指定に関する建設省告示の改正並びに防火材料認定要領の改正について」を発出し,石綿スレート等の普遍的又は標準的な材料(例えば,石綿スレート,石綿ボード,難燃合板等)に係る場合は,原則としてこれらの材料の一般的基準について認定(通則的な認定)を行うものとし,認定の申請は,当該防火材料の製造者又はこれを用いる工事施工者,又は,業界団体が行うとして通則的な認定制度を定め,その他の場合にあっては,原則として 個別の認定によって行うものとし,製造業者等が個別に認定の申請を行うものとした(甲B4)。 ウ昭和45年改正建基法により,「不燃材料」の定義のうち「石綿板」が「石綿スレート」と改められたほか,例示された建築材料以外の不燃材料の具体的内容が政令に委任され,これを受けた昭和45年改正建基令108条の2は,通常の火災時の加熱に対して,①燃焼せず,かつ,防火上有害な変形,溶融,き裂その他の損傷を生じないこと,②防火上有害な煙又はガスを発生しないことといった性能を有すると認めて建設大臣が指定するものを「不燃材料」とすることとした。なお,同条では,建築物の外部の仕上げに用いるものにあっては,前記②の発煙性は問わないものとされた。 不燃材料の指定については,前記施行令108条の2の規定に基づく昭和45年建設省告示第1828号(甲B5,乙アB112)により,具体的な るものにあっては,前記②の発煙性は問わないものとされた。 不燃材料の指定については,前記施行令108条の2の規定に基づく昭和45年建設省告示第1828号(甲B5,乙アB112)により,具体的な試験方法(基材試験及び表面試験)が定められ,これに合格する材料が不燃材料とされ,前記昭和44年住指発第352号に基づき,石綿含有建材が個別的に認定された。 エ平成10年建基法改正により,「不燃材料」の定義が「建築材料のうち,不燃性能(通常の火災時における火熱により燃焼しないことその他の政令で定める性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので,建設大臣が定めたもの又は建設大臣の認定を受けたものをいう。」とされ(同法2条9号),法律の条文上は「石綿スレート」が明記されなくなり,平成12年改正建基令には平成10年改正建基法2条9号を受けて性能及び技術的基準についての定めが置かれた。また,平成12年改正建基令により,「準不燃材料」について,建築材料のうち,通常の火災による火熱が加えられた場合に,加熱開始後10分間108条の2各号(建築物の外部の仕上げに用いるものにあっては,同条の2第1号及び2号)に 掲げる要件を満たしたものとして,建設大臣が定めたもの又は建設大臣の認定を受けたものをいうと改められ(同施行令1条5号),また,「難燃材料」について,建築材料のうち,通常の火災による火熱が加えられた場合に,加熱開始後5分間108条の2各号(建築物の外部の仕上げに用いるものにつき同上)に掲げる要件を満たしているものとして,建設大臣が定めたもの又は建設大臣の認定を受けたものをいうと改正された(同施行令1条6号)。 建設大臣は,前記改正を受け,建基法2条9号に基づく平成12年建設省告示第1400号「不燃材料を定める件」(甲B6 定めたもの又は建設大臣の認定を受けたものをいうと改正された(同施行令1条6号)。 建設大臣は,前記改正を受け,建基法2条9号に基づく平成12年建設省告示第1400号「不燃材料を定める件」(甲B6)において,石綿スレートを,平成12年改正建基令108条の2の要件を充たす不燃材料として定め,平成12年改正建基令1条5号に基づく平成12年建設省告示第1401号「準不燃材料を定める件」(甲B7)及び平成12年改正建基令1条6号に基づく平成12年建設省告示第1402号「難燃材料を定める件」においても,石綿スレートを準不燃材料及び難燃材料として定めた。 その後,国土交通大臣は,平成16年国土交通省告示第1178号(平成16年10月1日施行)により,前記平成12年建設省告示1400号を改正し,告示から石綿スレートが削除され(甲B9),準不燃材料及び難燃材料の定めからも石綿スレートは削除されることとなった(甲B6ないし9)。 (5) 耐火建築物,簡易耐火建築物(準耐火建築物)に関する規定ア昭和34年改正建基法は,「耐火建築物」及び「簡易耐火建築物」の規定を新設し,「耐火建築物」について「主要構造部を耐火構造とした建築物で,外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に政令で定める構造の防火戸その他の防火設備を有するものをいう。」と定義し(同法2条9号の2),また,「簡易耐火建築物」について「耐火建築物以外の建築物で, 外壁を耐火構造とし,かつ,屋根を不燃材料で造り,若しくはふき,政令で定める防火性能を有する構造としたもの又は主要構造部である柱及びはりを不燃材料で,その他の主要構造部を不燃材料若しくは政令で定めるこれに準ずる材料で造り,外壁の延焼のおそれのある部分,屋根及び床を政令で定める防火性能を有する構造としたもののいずれかに該当 及びはりを不燃材料で,その他の主要構造部を不燃材料若しくは政令で定めるこれに準ずる材料で造り,外壁の延焼のおそれのある部分,屋根及び床を政令で定める防火性能を有する構造としたもののいずれかに該当し,外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に政令で定める構造の防火戸その他の防火設備を有するものをいう。」旨定義した(同法2条9の3)。これを受けた昭和34年改正建基令109条は「防火戸その他の防火設備」についてそれぞれ規定し,また,同施行令109条の2は,「簡易耐火建築物の屋根等の構造」について規定し,その中で,不燃材料で造り,又はふくものや,屋根の所定の部分を耐火構造又は防火構造としたものを規定するなどした。 イその後,平成4年改正建基法2条9号の3において,「簡易耐火建築物」を廃止して「準耐火建築物」が新設され,「準耐火建築物」について「耐火建築物以外の建築物で,主要構造部を準耐火構造又は準耐火構造及び耐火構造としたもの,又は前記建築物以外の建築物であって,これと同等の耐火性能を有するものとして主要構造部の防火の措置その他の事項について政令で定める技術的基準に適合するもののいずれかに該当し,外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に政令で定める構造の防火戸その他の防火設備を有するものをいう。」と定義された。これにより,平成5年改正建基令109条の3は,前記平成4年改正建基法2条9号の3にいう技術的基準について,①外壁が耐火構造であり,かつ,屋根が不燃材料で造られ,又はふかれているほか,原則として,屋根の延焼のおそれがある部分が耐火構造,準耐火構造又は防火構造であること,②主要構造部である柱及びはりが不燃材料で,その他の主要構造部が不燃材料又は準不燃材料で造られ,外壁の延焼のおそれのある部分,屋根及び床が,外壁の延焼のおそれのある部分に 造又は防火構造であること,②主要構造部である柱及びはりが不燃材料で,その他の主要構造部が不燃材料又は準不燃材料で造られ,外壁の延焼のおそれのある部分,屋根及び床が,外壁の延焼のおそれのある部分にあっては,耐 火構造,準耐火構造又は防火構造であり,屋根にあっては,不燃材料で造り,若しくはふいたもの又は建設大臣が消防庁長官の意見を聴いて,これらと同等以上の防火性能を有すると認めて指定するものであり,床にあっては,不燃材料又は準不燃材料で造るほか,原則として,3階以上の階におけるものを耐火構造,準耐火構造又は防火構造としたものであることを定めた。 また,建設大臣は,平成12年建設省告示第1367号「準耐火建築物と同等の性能を有する建築物等の屋根の構造方法を定める件」を発し,「準耐火建築物と同等の性能を有する建築物等の屋根の構造方法」として,瓦又は石綿スレートでふいたもの等を定めた(甲B26)が,平成16年国土交通省告示第1175号の改正により,石綿スレートが削除された(甲B27)。 (6) 建築材料の品質(指定建築材料)建基法37条は,建築物の基礎及び主要構造部に使用する鋼材,セメントその他の建築材料の品質は,建設大臣の指定する日本工業規格に適合するものでなければならないと定めた。その後,昭和45年改正建基法において,建築物の基礎,主要構造部その他安全上,防火上又は衛生上重要である政令で定める部分に使用する鋼材,セメントその他の建築材料の品質は,建設大臣の指定する日本工業規格又は日本農林規格に適合するものでなければならないと改められた。さらに,平成10年改正建基法において,前記のほか,指定建築材料ごとに建設大臣が定める安全上,防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであることについて建設大臣の認定を受 られた。さらに,平成10年改正建基法において,前記のほか,指定建築材料ごとに建設大臣が定める安全上,防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであることについて建設大臣の認定を受けたものについても,指定建築材料となり得る旨の定めがされた。 4 「庁舎仕上げ基準」における石綿含有建材等の取扱い等(1) 「庁舎仕上げ基準」の「内部仕上表」からの石綿吹付けの削除(昭和48年)建設省は,昭和39年建設省告示第1675号で,鉄骨を厚さ3ないし6㎝以上の吹付け石綿でおおったものを耐火構造として指定していた(乙アB 115,1003。はりにつき,同告示第1・2号ニ,第2・4号ニ,第3・5号ハ。柱につき,同告示第2・2号ニ,第3・3号ニ。)。しかし,昭和48年には,庁舎仕上げ標準(暫定修正案)において,庁舎の内部仕上げについて石綿吹付けを取りやめることとした(甲A87の1頁,甲B32)。 (2) 建設省による通知の発出(昭和62年)建設省大臣官房官庁営繕部は,昭和62年9月16日付け「石綿及び石綿を含む材料・機材の取扱いに関する当面の方針について(通知)」と題する事務連絡において,「石綿は,数々の優れた特性を有するため,広範囲に利用されてきたが,一方においてその有害性が公的に評価されたのを踏まえて,昭和48年7月2日付け建設省営建発第27号により通知された「庁舎仕上げ標準(暫定修正案)」昭和48年3月」により,石綿吹付け仕上げが取り止められたところである。その後の諸事情を考慮し,石綿及び石綿を含む材料・機材(以下「石綿等」という。)の安全利用又は石綿の飛散の防止を図るために,石綿等の使用並びに既存建築物の解体,修繕・改修及び模様替(以下「解体等」という。)並びに建築物の新築及び増築(以下「新築等」という。) 綿等」という。)の安全利用又は石綿の飛散の防止を図るために,石綿等の使用並びに既存建築物の解体,修繕・改修及び模様替(以下「解体等」という。)並びに建築物の新築及び増築(以下「新築等」という。)に当たっては,これによることとする。」とした上で,地方局等の建設設計主務課長等に対し,次の内容を通知した(甲B30)。 ア既存建築物の使用における方針通常の使用状態において,空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等(例えば建築材料では石綿吹付け材)については,飛散防止又は撤去のための方策を検討の上,適切に処置することとする。 通常の使用状態に置いて,空気中に石綿が飛散するおそれのない石綿等に(例えば,建築材料では石綿スレート,ビニル床タイル,石綿セメントけい酸カルシウム板等)ついては,現段階において特別な処置を行わない。 イ建築物の新築等における方針 通常の使用状態において,空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等については,使用しない。 通常の使用状態において,空気中に石綿が飛散するおそれのない石綿等については安全利用を図る他,工事現場での石綿等の切断,穿孔等の加工時並びに将来の解体等時における石綿の飛散防止を考慮して,同等以上の代替品がないなどやむを得ない場合を除き,できる限り使用しない。 ウ既存建築物の解体等における方針工事における関係者の石綿粉じんの曝露防止等を図るため,解体等の建築物においては,石綿等の使用状況の把握に努める。 また,工事発注に当たっては,関係法令及び昭和61年通達に基づき,適切に処置するよう現場説明等において指導することとする。 特に,石綿吹付け材を使用している建築物の解体工事にあっては,建築物の解体着手前に石綿吹付け材を撤去すること等について設計図書に明記することとする。 第 う現場説明等において指導することとする。 特に,石綿吹付け材を使用している建築物の解体工事にあっては,建築物の解体着手前に石綿吹付け材を撤去すること等について設計図書に明記することとする。 第3 労災保険法の定め及び昭和40年改正労災保険法による労働者災害補償保険特別加入制度に関する定め等 1 労災保険法の制定及び目的等(1) 旧労災保険法の制定等旧労災保険法は,労基法の制定に伴い,労働者の業務災害に対する使用者の災害補償義務が小事業を経営する使用者にも課せられることとなり,かつ,その災害補償の額についても相当高度のものとなったことから,大きな業務災害が生じた場合には災害補償が不可能もしくは著しく遅滞することにより,労働者の基本的権利が侵害されるだけでなく,産業の加重負担となる場合が予想されるため,日本国内の全産業が渾然一体となって相互扶助の精神によって,災害に対する労働者の保護の完璧を図り,併せて使用者の負担を軽減する趣旨で,労基法と共に昭和22年に制定されたものである(乙アB10 3)。 制定当初においては,労基法上の災害補償給付と旧労災保険法上の保険給付の内容は,旧労災保険法による休業補償給付に待期期間が設けられていた他は同一のものであった。 「けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法」13条に応じて政府が行ったけい特法の根本的検討の結果,昭和35年にじん肺法及び「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律」(昭和35年法律第29号)が成立(施行は同年4月1日)し,これによって改正された労災保険法においては,けい肺等に限らず,広く長期療養・休業を必要とする傷病に対して,従前の打切補償を改めて療養開始後3年間を経過しても治癒しない場合には,長期傷病者補償給付が療養の必要がある期間中給付されるこ おいては,けい肺等に限らず,広く長期療養・休業を必要とする傷病に対して,従前の打切補償を改めて療養開始後3年間を経過しても治癒しない場合には,長期傷病者補償給付が療養の必要がある期間中給付されることになるなど,一部で年金化が図られることとなり,さらに数次の改正を経て,適用範囲,適用対象,保険事故及び給付内容の拡充がなされていった。 (2) 労災保険法の目的等労災保険法1条は,その目的について,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,適正な労働条件の確保等を図り(平成19年法律第30号による改正後の労災保険法においては,「労働者の安全及び衛生の確保等を図り」とされた。),もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする旨定める。 労災保険法においては,労働者を使用する事業が適用事業とされ(同法3条1項),同法における保険給付として,業務災害,通勤災害及び二次健康診断等給付の3つを定め(同法7条1項),業務災害に関する保険給付として,療養保障給付,休業補償給付,障害補償給付,遺族補償給付,葬祭料,傷病補償年金及び会議保障給付を定めて,これらのうち傷病補償年金及び介 護保障給付を除く保険給付は,労基法等に規定する一定の事由が生じた場合に,補償を受けるべき労働者若しくは遺族又は葬祭を行う者に対し,その請求に基づいて行う旨定める(労災保険法12条の8第1項,2項)。 労災保険法19条は,業務上負傷し,又は疾病にかかった労働者が,当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷 2条の8第1項,2項)。 労災保険法19条は,業務上負傷し,又は疾病にかかった労働者が,当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には,労基法19条1項の規定の適用については,当該使用者は,それぞれ,当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において,同法81条の規定により打切補償を支払ったものとみなす旨規定する。 労災保険法20条は,同法に定めるもののほか,業務災害に関する保険給付について必要な事項は,厚生労働省令で定める旨規定し,厚生労働大臣に対し省令制定権限が付与されている。 2 戦前から昭和40年労災保険法改正までの一人親方に関する労災の取扱について(1) 戦前の勞働者災害扶助法,勞働者災害扶助責任保險法の取扱い勞働者災害扶助法及び勞働者災害扶助責任保險法においては,「労働者」についての定義規定はおかれておらず,解釈上,事業の本体たる作業について労役に従事する者及び直接にこれに関係ある作業について労役に従事する者であって,その報酬として賃金を受ける者をいうとされており,事業の本体たる作業について労役に従事する者及び直接にこれに関係ある作業について労役に従事する者に関しては,土木建築工事における下請負人は原則として労働者ではないが,単に労働者の代表者又は親方として自己もまた作業に従事する者であるときは,労働者の中に加えられるべきであるとされ,ただし,そのような場合であっても,元請負人との間に工事の請負契約があり下請負人は元請人より賃金を受けることなく自己の計算,負担において独立して事業を経営するものであるときは,下請負人は純然たる事業主であって, 労働者ではないとされた。さらに,配下の労働者を 請負人は元請人より賃金を受けることなく自己の計算,負担において独立して事業を経営するものであるときは,下請負人は純然たる事業主であって, 労働者ではないとされた。さらに,配下の労働者を連れて土木建築工事に従事する下請負人であっても,現場で配下の就労者の作業を指揮監督する労務提供をし,被災した場合には,災害扶助制度の適用対象者たる「労働者」として扱うという運用がされていた。(甲A1092)(2) 昭和22年以降の建設業の一人親方に関する労災擬制適用旧労災保険法が制定された2か月半後,労働省は,「土木建築労働者についての労働者災害補償保険法適用に関する件」(昭和22年基発第285号)を発出し,「土木建築事業の特殊性として,その労働者の一部には恒常的雇用関係を有するものでなく,時に労働者として他に使用される場合もあるが,他面所謂一人親方として営業者とみなされるべき場合の多いものがある。しかも,その実態は一般労働者と同様自ら労務に従事するものであるから,業務上災害を被る危険に曝されているものである。」として,自ら業者の立場に立つ労働者が任意組合を組織し,これを便宜上使用者とすることで,保険加入の申込みができることとした。そして,「一人親方に関する取扱の改正について」(昭和33年基発第209号)により,単独で,業として石工品加工の作業に従事する者については,土木,建築事業場以外の場所においてこれに従事する場合であっても,特に一人親方として取り扱うこととされた。 その後,「一人親方に対する労災保険法の取扱いについて」(昭和37年基発第229号)によって,従前の通達を全て廃止した上で,擬制適用の範囲を,大工,左官,とび職,石工,板金工,屋根ふき工,塗装工,建具工又は造園工を営む一人親方及び一人親方とともに働く技能習得中の者とし 第229号)によって,従前の通達を全て廃止した上で,擬制適用の範囲を,大工,左官,とび職,石工,板金工,屋根ふき工,塗装工,建具工又は造園工を営む一人親方及び一人親方とともに働く技能習得中の者とし,加入方法については,前記の者による任意組合(当該組合には,関連する工事業を営む者を含めても差し支えない。)を組織し,これを便宜,法における使用者とみなして,保険加入させることとし,翌年「一人親方に対する労災保険法の取扱いについて」(昭和38年基発第1312号)により,擬制適用 の範囲に電工を含むこととした。 (甲A256,1092)(3) 昭和28年以降の一人親方に対する日雇労働者健康保険の擬制適用昭和28年に土木建築業は初めて健康保険の強制適用となったが,一人親方については,就労実態は日雇労働者と似ているとされたものの,適用事業所に使用される機会が少ないということから,日雇労働者健康保険の擬制適用とするとの行政措置が講じられた。なお,当該擬制適用とは,大工,左官等が集まって設立した任意組合を日雇労働者健康保険の適用事業所と擬制して加入させるというものであった。その後,擬制適用者が増大し,昭和35年頃には当初の4倍近い41万人となったが,日雇労働者健康保険の赤字問題が大きくなるなかで,一般の日雇労働者よりも高所得の擬制適用者が問題視されるようになり,昭和45年に擬制適用が廃止され,一人親方は国民健康保険へ移行することとなった。これに伴い,被告国は,擬制適用を受けていた任意組合で国民健康保険組合の設立要件を満たしているものについては,その設立を認め,必要な助成を行うこととしたため,同年に約30の建設関係の国民保険組合が新設され,擬制適用者の半数以上が加入した。(甲A1231)(4) 昭和30年以降の一人親方に対するけ は,その設立を認め,必要な助成を行うこととしたため,同年に約30の建設関係の国民保険組合が新設され,擬制適用者の半数以上が加入した。(甲A1231)(4) 昭和30年以降の一人親方に対するけい特法擬制適用アけい特法等の制定経緯等業務上けい肺及び外傷性せき髄障害に罹患した労働者については,その療養開始後3年間を経過してもなお治療等を要する事例が多く,当該長期療養・休業者の大部分が打切補償の対象とされていたものの,当時の医療ではその治癒が不可能であるとされており,かつその症状が重篤であることからすれば,その打切補償金をもって事後の療養ないし生活をすることが困難であると考えられ,長期補償の必要性があるとされた。そこで,けい肺及びせき髄障害に罹患した労働者に対する特別保護制度の一環として けい特法が制定され,療養期間開始後5年間を経過するまでの間は療養給付等を継続する旨定められた。(乙アB81)けい特法の制定施行から2年が経過した頃,けい特法の療養給付の給付期間が経過した者の中には引き続き療養を必要とする者が存在したことから,けい特法を根本的に改めるか否かについて十分な検討を重ねる必要があるとされ,その検討結果に従い何らかの保護措置がなされるまでの間の応急的措置として「けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法」を制定し,前記けい特法の定める期間が経過してもなお療養を必要とする者に対しては,当分の間,療養給付等を支給することとされた。また,同法は,13条において,「政府は,けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった労働者の保護措置について根本的検討を加え,昭和34年12月31日までに,特別保護法の改正に関する法律案を国会に提出しなければならない。」と定め,当該けい特法の改正に関する法律案により何らかの保護 労働者の保護措置について根本的検討を加え,昭和34年12月31日までに,特別保護法の改正に関する法律案を国会に提出しなければならない。」と定め,当該けい特法の改正に関する法律案により何らかの保護措置がなされることを予定し,「けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法」は昭和35年3月31日限りで効力を失うこととした。(乙アB82)イけい特法の擬制適用労働省は,けい特法の施行に伴い,「土木建築事業における「一人親方」に対するけい肺等特別保護法の適用について」(昭和30年基災発第159号)を発出し,けい特法施行の際,前記昭和22年基発第285号により保険関係が成立している者で,けい特法施行の当初(けい特法施行後新たに保険関係が成立したものについては,その成立の日)よりその適用を希望するものについては,当該組合を代表する者より,けい特法施行規則20条に基づく概算負担金の報告書に,9月1日(新たに成立したものについては成立の日)現在における所属組合員の氏名,生年月日,職種,一日当たりの賃金額を記載した名簿を添付の上申請をすること等の一定の 条件の下,けい特法の擬制適用を認めることとした(甲A256)。 3 昭和40年改正労災保険法による労働者災害補償保険特別加入制度の導入等(1) 昭和40年改正労災保険法における特別加入制度ア昭和40年改正労災保険法(甲B1001)において,「労災保険事務組合(同法第4章の3)」及び「特別加入(同法第4章の4)」に関する規定がそれぞれ設けられた。 イ昭和40年改正労災保険法34条の7は,中小企業等協同組合法3条の事業協同組合又は協同組合連合会その他の事業主の団体又はその連合団体(法人でない団体又は連合団体であって代表者の定めがないものを除く。 以下同じ。)は,労働大 34条の7は,中小企業等協同組合法3条の事業協同組合又は協同組合連合会その他の事業主の団体又はその連合団体(法人でない団体又は連合団体であって代表者の定めがないものを除く。 以下同じ。)は,労働大臣の認可を受けて,団体の構成員又は連合団体を構成する団体の構成員である事業主(労働省令で定める数以上の労働者を使用する事業の事業主を除く。)の委託を受けて,これらの者が行うべき保険料の納付その他の労働者災害補償保険に関する事項を処理することができるとした(同条1項,2項。当該認可を受けた事業主の団体又はその連合団体を「労災保険事務組合」という。)。 ウ(ア) 昭和40年改正労災保険法34条の11は,①労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(労働省令で定める事業を除く。)の事業主で労災保険事務組合に労災保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは,代表者)(いわゆる中小事業主),②前記①の事業主が行う事業に従事する者,③労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者(いわゆる一人親方),④前記③の者が行う事業に従事する者,⑤労働省令で定める種類の作業に従事する者を特別加入制度の対象者として定めた。 (イ) 昭和40年改正労災保険法34条の12は,中小事業主が,中小事業主及び中小事業主が行う事業に従事する者を包括して当該事業について第2章の規定により成立する保険関係に基づきこの保険による保険給 付を受けることができる者とすることにつき申請をし,政府の承認があったときは,第3章(保険給付),第4章(費用の負担。同法30条の4を除く。)及び前章(第4章の3)の規定の適用については,中小事業主及び中小事業主が行う事業に従事する者は当該事業に使用される労働者とみなし(同条1項1 険給付),第4章(費用の負担。同法30条の4を除く。)及び前章(第4章の3)の規定の適用については,中小事業主及び中小事業主が行う事業に従事する者は当該事業に使用される労働者とみなし(同条1項1号),これらの者が業務上負傷した場合等においては,労基法75条ないし77条,79条及び80条の災害補償の事由が生じたものとみなす(昭和40年改正労災保険法34条の12第1項2号)旨定めた。なお,給付基礎日額は,当該事業に使用される労働者の賃金の額その他の事情を考慮して労働大臣が定めるものとされ(同項3号),また,政府は,一定の場合に,保険給付の全部又は一部を行わないことや前記政府の承認を取り消すことができる(同項4号,同条3項)とされた。 (ウ) 昭和40年改正労災保険法34条の13は,一人親方について,一人親方の団体が,一人親方及びその者の行う事業に従事する者に関して保険の適用を受けることにつき申請をし,政府の承認があったときは,第2章から第4章まで(同法27条,30条の2及び30条の4を除く。)及び第4章の3の規定の適用については,当該団体は任意適用事業(同法3条2項)及びその事業主とみなされ(同法34条の13第1項1号),当該団体に係る一人親方及びその者の行う事業に従事する者は前記任意適用事業に使用される労働者とみなされる(同項2号)旨規定された。なお,給付基礎日額は,当該事業と同種若しくは類似の事業又は当該作業と同種若しくは類似の作業に使用される労働者の賃金の額その他の事情を考慮して労働大臣が定めるものとされ(同項6号),保険料率についても一定の事情を考慮して労働大臣が定めることとされ(同項8号),さらに,政府は,前記団体が昭和40年改正労災保険法等の規定に違反したときは,当該団体についての保険関係を消滅させる こ ても一定の事情を考慮して労働大臣が定めることとされ(同項8号),さらに,政府は,前記団体が昭和40年改正労災保険法等の規定に違反したときは,当該団体についての保険関係を消滅させる ことができる旨定められた(同法3項)。 (エ) 昭和40年改正労災保険法34条の14は,この章(第4章の4)に定めるもののほか,同法34条の11各号に掲げる者の業務災害に関し必要な事項は,労働省令で定める旨規定した。 エ(ア) 昭和40年改正労災保険法を受けて,昭和40年改正労災保険規則(甲B1002)においては,①労災保険事務組合に労災保険事務の処理を委託することができる事業主は常時300人(金融業若しくは保険業,不動産業,卸売業若しくは小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については,50人)以下の労働者を使用する事業主とすること(同規則46条の8),②中小事業主は,常時300人(金融業若しくは保険業,不動産業,卸売業若しくは小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については,50人)以下の労働者を使用する事業主とすること(同規則46条の16),③一人親方の事業には建設業が含まれること(同規則48条の17第2号)が定められた。 (イ) 「労働者災害補償保険法の一部を改正する法律第2条の規定の施行について」(昭和40年基発第1454号。ただし,平成13年基発第233号による改正後のもの。甲B1003)においては,特別加入の趣旨について,「労災保険は,労働者の業務災害に対する補償を本来の目的としているが,業務の実情,災害の発生状況等に照らし,実質的に労働基準法適用労働者に準じて保護するにふさわしい者に対し,労災保険の適用を及ぼそうとするものである。」とされた。 中小事業主に関し,数次の請負による建設の事業の下請事業を行う事業主 し,実質的に労働基準法適用労働者に準じて保護するにふさわしい者に対し,労災保険の適用を及ぼそうとするものである。」とされた。 中小事業主に関し,数次の請負による建設の事業の下請事業を行う事業主も,特別加入の趣旨から,中小事業主として取り扱うこととした。 一人親方等に関しては,一人親方とは労働者を使用しないで行うことを常態とする者であるから,たまたま臨時に労働者を使用することがあってもよく,建設の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする 者には,大工,左官,とび,石工等いわゆる一人親方が該当するが,特に職種は限定しないとされた。一人親方等の加入申請書には業務災害防止措置の記載が必要(昭和40年改正労災保険規則46条の23第2項)とされているが,これは一人親方等については,その災害防止についての規制措置が未整備であり,そのままの状態で特別加入を認め,補償を行うことには問題があるため,一人親方その他の自営業者団体に対しては,あらかじめ業務災害の防止に関し当該団体が講ずべき措置及び一人親方等が守るべき事項を定めなければならないとしたものであり,この定めがない場合には特別加入の承認をしないとされた。 特別加入の制限に関しては,旅客自動車運送事業,建設の事業等の作業区分により,同種の事業又は作業については,2以上の団体の構成員となっていても,重ねて特別加入することができないが(昭和40年改正労災保険法34条の13第2項),異種の事業又は作業について2以上の団体に属し,重ねて特別加入することは差し支えないとされた。 (2) 労災保険法における特別加入制度アその後数次の改正を経て,労災保険法においては,特別加入者について,①厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(厚生労働省令で定める事業を除く。以下「特定事業 険法における特別加入制度アその後数次の改正を経て,労災保険法においては,特別加入者について,①厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業(厚生労働省令で定める事業を除く。以下「特定事業」という。)の事業主で,労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号。以下「徴収法」という。)33条3項の労働保険事務組合に同条1項の労働保険事務の処理を委託するものである者(事業主が法人その他の団体であるときは,代表者)(いわゆる中小事業主),②前記①の事業主が行う事業に従事する者,③厚生労働省令で定める種類の事業を労働者を使用しないで行うことを常態とする者(いわゆる一人親方),④前記③の者が行う事業に従事する者,⑤厚生労働省令で定める種類の作業に従事する者,⑥この法律の施行地外の地域のうち開発途上にある地域に対する技術協力の実施の事業(事業の 期間が予定される事業を除く。)を行う団体が,当該団体の業務の実施のため,当該開発途上にある地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者,⑦この法律の施行地内において事業(事業の期間が予定される者を除く。)を行う事業主が,この法律の施行地外の地域(業務災害及び通勤災害に関する保護制度の状況その他の事情を考慮して労働省令で定める国の地域を除く。)において行われる事業に従事させるために派遣する者(当該事業が特定事業に該当しないときは,当該事業に使用される労働者として派遣する者に限る。)で,前記②,④及び⑤に掲げる者にあっては,労働者である者を除く者をいうとして(同法33条),その対象範囲が拡大されている。 イ労災保険法34条は,中小事業主が,前記①及び②に掲げる 者に限る。)で,前記②,④及び⑤に掲げる者にあっては,労働者である者を除く者をいうとして(同法33条),その対象範囲が拡大されている。 イ労災保険法34条は,中小事業主が,前記①及び②に掲げる者を包括して当該事業について成立する保険関係に基づきこの保険による業務災害及び通勤災害に関する保険給付を受けることができる者とすることにつき申請をし,政府の承認があったときは,同法第3章(保険給付)第1節から第3節まで(通則,業務災害に関する保険給付,通勤災害に関する保険給付)及び第3章の2(社会復帰促進等事業)の規定の適用については,中小事業主及び中小事業主が行う事業に従事する者は,当該事業に使用される労働者とみなす旨定め(同条1項1号),また,同法35条は,一人親方の団体又は前記⑤に掲げる者の団体が,当該団体の構成員である一人親方及び一人親方の行う事業に従事する者又は当該団体の構成員である前記⑤に掲げる者の業務災害及び通勤災害(これらの者のうち,住居と就業の場所との間の往復の状況等を考慮して厚生労働省令で定める者にあっては,業務災害に限る。)に関してこの保険の適用を受けることにつき申請をし,政府の承認があったときは,同法第3章第1節から第3節まで(当該厚生労働省令で定める者にあっては,同章第1節及び第2節),第3章の2及 び徴収法第2章から第6章までの規定の適用については,当該団体は,労災保険法3条1項の適用事業及びその事業主とみなし(同法35条1項1号),当該団体に係る一人親方,一人親方の行う事業に従事する者及び前記⑤に掲げる者は,同条1号の適用事業に使用される労働者とみなす(同項3号)旨定めた。 ウなお,中小事業主及び一人親方等の特別加入に関し,給付基礎日額については厚生労働大臣が定めること,政府が一定の事由が存在 は,同条1号の適用事業に使用される労働者とみなす(同項3号)旨定めた。 ウなお,中小事業主及び一人親方等の特別加入に関し,給付基礎日額については厚生労働大臣が定めること,政府が一定の事由が存在する場合に保険給付の全部又は一部を給付しないことができ,また,特別加入についての承認を取り消すことができること,及び,法に定めのある事項のほか特別加入者の業務災害等に関し必要な事項について厚生労働大臣に省令制定権限があることは,昭和40年改正労災保険法と同様である。 エ労災保険規則は,労災保険法33条1号の厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する事業の事業主は,常時300人(金融業若しくは保険業,不動産業又は小売業を主たる事業とする事業主については50人,卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下の労働者を使用する事業主とし(労災保険規則46条の16),じん肺法2条1項3号の粉じん作業が特定業務に該当するとし(労災保険規則46条の19第3項1号),労災保険規則46条の17第2号は,労災保険法33条3号の厚生労働省令で定める種類の事業に「土木,建築その他の工作物の建設,改造,保存,修理,変更,破壊若しくは解体又はその準備の事業」が含まれる旨規定し,労災保険規則46条の18第3号ニは,労災保険法33条5号の厚生労働省令で定める種類の作業に,じん肺法第2条1項3号の粉じん作業が該当する旨定めた。 なお,特別加入者として粉じん作業を行う業務に従事する者であって,その者の業務歴を考慮し特に必要があると認められるときは,所轄都道府県労働局長は,特別加入の申請時において,同局長が指定する病院又は診 療所の医師による健康診断の結果を証明する書類その他必要な書類を所轄労働基準監督署長を経由して提出させることが定 道府県労働局長は,特別加入の申請時において,同局長が指定する病院又は診 療所の医師による健康診断の結果を証明する書類その他必要な書類を所轄労働基準監督署長を経由して提出させることが定められた(労災保険規則46条の16第4項,46条の23第4項)。当該健康診断等の結果,すでにその疾病にかかっている場合には,特別加入について一定の制限がなされることとなる。なお,当該制限等に関する詳細については,昭和62年基発第175号により示された(甲B1004,乙アB96)。 第4 条約等 1 職業がん条約ILOの総会は,昭和49年6月24日,職業がん条約(乙アB28の2)を採択した。 我が国は,昭和52年7月26日に,同条約を批准した。 同条約においては,同条約を批准する各加盟国は,①労働者が就業中にさらされるがん原性物質及びがん原性因子を非がん原性物質若しくは非がん原性因子又は有害性の一層低い物質若しくは因子で代替させるようにあらゆる努力を払うものとし,代替の物質又は因子の選定に当たっては,これらの物質又は因子の発がん性,毒性その他の特性を考慮すること,がん原性物質又はがん原性因子にさらされる労働者の数並びにさらされる期間及び程度は,安全と両立し得る最小限まで減少させるものとすること(同条約2条),②がん原性物質又はがん原性因子にさらされる危険から労働者を保護するためにとられるべき措置を定めるものとし,また,適当な記録の制度を確立することを確保すること(同条約3条),③がん原性物質又はがん原性因子にさらされた労働者,さらされている労働者又はさらされるおそれのある労働者に対しそのもたらす危険及びとられるべき措置に関する利用可能な全ての情報が提供されるように措置をとること(同条約4条),④職業性障害との関係においてがん原性物質 働者又はさらされるおそれのある労働者に対しそのもたらす危険及びとられるべき措置に関する利用可能な全ての情報が提供されるように措置をとること(同条約4条),④職業性障害との関係においてがん原性物質又はがん原性因子に労働者がさらされた程度を評価し及びその健康状態を監視するために必要な健康診断,生物学的検査その他 の検査又は調査を,雇用期間中及び雇用期間の後において,労働者が受けられることを確保するための措置をとること(同条約5条),⑤法令又は国内慣行及び国内事情に適合するその他の方法により,関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体との協議の上,同条約を実施するために必要な措置をとる(同条約6条(a))ことなどが定められた。 2 石綿条約ILOの総会(第72回総会)は,昭和61年6月24日,職業上の石綿への曝露による健康に対する危険の防止と抑制,及びこの危険からの労働者の保護を目的とする,石綿条約(「石綿の使用における安全に関する条約(第162号)」。乙アA55)を採択した。同条約の発効日は,平成元年6月16日であった。 我が国は,平成17年8月11日に,同条約を批准した。 同条約は,その適用範囲について,同条約は,作業の過程において労働者の石綿への曝露を伴う全ての業務について適用する(同条約1条1項)とする。 そして,「一般原則」として,業務上の石綿への曝露による健康に対する危険を防止し,及び管理し,並びにこの危険から労働者を保護するためにとるべき措置については,国内法令において定め(同条約3条1項),当該国内法令は,技術の進歩及び化学的知識の発展に照らして定期的に検討すること(同条約3条2項)とされた。また,同条約3条の規定に従って制定される法令の執行は,十分かつ適当な監督制度により確保し(同条約5条1項) ,技術の進歩及び化学的知識の発展に照らして定期的に検討すること(同条約3条2項)とされた。また,同条約3条の規定に従って制定される法令の執行は,十分かつ適当な監督制度により確保し(同条約5条1項),同条約の効果的な実施及び遵守を確保するために必要な措置(適当な制裁を含む。)については,国内法令において定めるものとされた(同条約5条2項)。 次に,「保護措置及び防止措置」として,①石綿への曝露が生ずるおそれのある作業の実施を適切な工学的管理及び作業慣行(作業場の衛生に関するものを含む。)を定める規則に従うことを条件とすることや,石綿若しくは一定 の種類の石綿若しくは石綿を含有する一定の種類の製品の使用又は一定の作業工程について特別の規則及び手続(許可を含む。)を定めることの措置を講じることによって,石綿への曝露を防止し又は管理することにつき,同条約第3条の規定に従って制定される国内法令において定めること(同条約9条),②労働者の健康を保護するために必要であり,かつ,技術的に実行可能な場合には,石綿若しくは一定の種類の石綿又は石綿を含有する一定の種類の製品を権限のある当局が無害又は有害性がより低いと科学的に評価したその他の物質若しくは製品又は他の技術の利用により代替させることや,一定の作業工程において石綿若しくは一定の種類の石綿又は石綿を含有する一定の種類の製品の使用を全面的に又は部分的に禁止することについて,国内法令で定めること(同条約10条),③クロシドライト及びその繊維を含有する製品の使用を禁止すること(同条約11条1項),④あらゆる形態の石綿吹付け作業を禁止すること(同条約12条1項)(ただし,前記③及び④については,これらが実行可能でない場合は,労働者の健康が危険にさらされないことが確保される手段がとられることを あらゆる形態の石綿吹付け作業を禁止すること(同条約12条1項)(ただし,前記③及び④については,これらが実行可能でない場合は,労働者の健康が危険にさらされないことが確保される手段がとられることを条件として,関係のある最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で,禁止の緩和をすることが認められる。 同条約11条2項,12条2項),⑤石綿の生産者及び供給者並びに石綿含有製品の製造者及び供給者は,権限のある当局の定めるところにより,容器又は適当な場合は製品に,関係のある労働者及び利用者が容易に理解することのできる言語及び方法で適切な表示を行う責任を負うこと(同条約14条),⑥権限のある当局は,労働者の石綿への曝露限界又は作業環境を評価するための他の曝露の基準を定め,これを技術の進歩並びに技術的及び科学的知識の発展に照らして設定し,定期的に検討し,及び更新すること(同条約15条1項,2項),⑦使用者は,労働者が石綿にさらされるすべての作業場において,石綿粉じんの空気中への発散を防止し,又は管理するため,曝露限界又は曝露の基準が遵守されることを確保するため,及び合理的に実効可能な 限り低い水準に曝露の水準を減少させるためにすべての適当な措置をとり(同条3項),この措置により石綿の曝露を前記⑥の曝露限界内に抑制することができない場合又は他の曝露の基準を遵守することができない場合には,労働者に費用を負担させることなく,適切な呼吸用保護具及び適当な場合には特別の保護衣を提供し,保持し,及び必要な場合には取り替えること(呼吸用保護具は,権限のある当局が定める基準に適合し,及び補足的,一次的,緊急又は例外的措置としてのみ使用されるものとし,技術的管理に代わるものではない。同条4項),⑧もろい石綿断熱材を含有する設備又は構造物を取り壊 のある当局が定める基準に適合し,及び補足的,一次的,緊急又は例外的措置としてのみ使用されるものとし,技術的管理に代わるものではない。同条4項),⑧もろい石綿断熱材を含有する設備又は構造物を取り壊すこと及び石綿が浮遊しやすい建築物又は構造物から石綿を除去することは,同条約の定めるところに従って権限のある当局によりそのような作業を行う資格を有すると認められ,かつ,そのような作業を行うことを認められた使用者又は請負人によってのみ行われ(同条約17条1項),使用者又は請負人は,取壊し作業を開始する前に,とるべき措置(労働者に対し全ての必要な保護を与えること,石綿粉じんの空気中への発散を抑制すること等を含む。)を明示した作業計画を作成しなければならないこと(同条2項),⑨使用者は,労働者の個人用衣類が石綿粉じんで汚染されるおそれのある場合には,国内法令に従い,労働者代表と協議した上で,適当な作業衣を提供し,当該作業衣は作業場の外で着用してはならないこと(同条約18条1項),⑩作業衣及び特別の保護衣並びに個人用保護具を自宅に持ち帰ることについては,国内法令において禁止すること(同条3項)などが定められた。 さらに,「作業環境の監視及び労働者の健康状態の把握」として,①使用者は,労働者の健康の保護のために必要な場合には,作業場における浮遊石綿粉じんの濃度を測定し,並びに間隔を置き,及び権限のある当局が定める方法を用いて労働者の石綿への曝露を監視すること(同条約20条1項),②作業環境及び労働者の石綿への曝露の監視の記録は,権限のある当局が定める期間,保存すること(同条2項),③石綿にさらされ又はさらされたことのあ る労働者については,国内法及び国内慣行に従い,業務上の危険に関する健康の管理及び石綿への曝露による職業性疾病の診断のため 存すること(同条2項),③石綿にさらされ又はさらされたことのあ る労働者については,国内法及び国内慣行に従い,業務上の危険に関する健康の管理及び石綿への曝露による職業性疾病の診断のために必要な健康診断を実施すること(同条約21条1項)などを定めた。 「情報及び教育」としては,①権限ある当局は,石綿への曝露による健康に対する危険並びにその防止及び管理の方法に関し,すべての関係者への情報の普及及び教育を促進するために適当な措置をとること(同条約22条1項),②使用者は,石綿にさらされ又はさらされるおそれのあるすべての労働者が作業に関連する健康に対する危険について知らされ,防止措置及び正しい作業慣行にして指示を受け,並びにこれらの分野における継続的な訓練を受けることを確保する(同条3項)こととした。 3 ILO第95回総会平成18年5月31日から同年6月16日にかけてILO第95回総会が開催された。 同総会においては,同年6月14日,石綿に関して,石綿への曝露から労働者を保護し,石綿関連の死亡や疾病の将来的な発生を予防するための最も効果的な措置は,石綿の将来的な利用をなくし,現在使われている石綿の把握と適正な管理であると宣言されるとともに,石綿条約を,石綿の継続的な利用を正当化又は承認するものとして用いてはならないことが決議された。 (甲A324)第3章争点及び当事者の主張第1節争点第1 被告国に対する請求 1 労働関係法令(旧労基法,安衛法)に基づく規制権限不行使の違法性(争点1) 2 労災保険法に基づく規制権限不行使の違法性(争点2) 3 建基法に基づく規制権限不行使の違法性(争点3) 第2 被告企業らに対する請求 1 民法719条1項に基づく共同不法行為責任(争点4) 2 製造物責 限不行使の違法性(争点2) 3 建基法に基づく規制権限不行使の違法性(争点3) 第2 被告企業らに対する請求 1 民法719条1項に基づく共同不法行為責任(争点4) 2 製造物責任法3条に基づく責任(争点5)第3 被告らが原告らに対して負う責任及び損害等(争点6)第2節争点についての当事者の主張(省略)第4章当裁判所の判断(被告国に対する請求)第1節労働関係法令(旧労基法,安衛法)に基づく規制権限不行使の違法性(争点1)第1 規制権限不行使の判断基準 1 国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁,最高裁第771号同年10月9日第一小法廷判決・民集68巻8号799頁参照)。 これを本件についてみると,旧労基法は,労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものとして労働条件を確保することを目的として(同法1条),使用者に対し,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法42条),労働者を就業させる建設物等について,労働者の健康,風紀及び生命の保持に必要な措置を講じる義務(同法43条),労働者を雇い入れた場合にその労働者に当該業務に関し必要な安全及び衛生のための教育を施す義務(同法50条)等を定め,安衛法は,職場における労働者の安全と健康の確保等を目的として(同法1条),事業者に対し,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法22条),労 同法50条)等を定め,安衛法は,職場における労働者の安全と健康の確保等を目的として(同法1条),事業者に対し,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法22条),労 働者を就労させる建設物その他の作業場について,換気その他労働者の健康及び生命の保持のため必要な措置を講じる義務(同法23条),危険又は有害な業務で,労働省令で定めるものに労働者を就かせるときは,当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行う義務(同法59条3項),空気環境その他作業環境について必要な測定をし,その結果を記録する義務(同法65条)等を定め,これらの規定によって使用者又は事業者が講ずべき具体的措置,基準等を命令又は労働省令に委任している(旧労基法45条,52条,安衛法27条1項,59条3項,65条)。また,旧労基法においては,有害物の製造等の禁止を定め,製造等の禁止対象物の指定については労働省令に委任し(同法48条),安衛法においては,労働者に重度の健康障害を生ずる物の製造,使用等の禁止(同法55条),労働者に健康障害を生じるおそれのある物で政令で定めるもの等についての容器等への警告表示義務(同法57条)を定め,製造等の禁止対象物及び警告表示を行うべき物の指定を政令に委任している(同法55条,57条)。 旧労基法及び安衛法が,前記具体的措置や基準,対象物の指定を命令,労働省令又は政令に包括的に委任した趣旨は,使用者又は事業者が講ずべき措置の内容や定めるべき基準,対象物の指定が,多岐にわたる専門的,技術的事項であり,また,その内容等についてできる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには,これを主務大臣や内閣に委ねるのが適当であるとされたことによるものである。 以上の前記各法律の目 容等についてできる限り速やかに,技術の進歩や最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには,これを主務大臣や内閣に委ねるのが適当であるとされたことによるものである。 以上の前記各法律の目的及び前記各規定の趣旨に鑑みると,前記各法律の主務大臣であった労働大臣等又は内閣の前記各法律に基づく規制権限は,粉じん作業等に従事する労働者の労働環境を整備し,その生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保することをその主要な目的として,できる限り速やかに,技術の進歩や医学的知見等に適合したものに改正すべく,適時 にかつ適切に行使されるべきものである(前掲最高裁平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。 2 被告国は,本件は規制権限の不行使(規制の不備)が問題となっている事案の中でも,一定の規制についての省令等が制定されていない場合であるから,既に規制権限が一定程度行使されていたような場合に比して,当該行政庁の裁量的判断を尊重すべきとの要請がより強く働き,その結果として行政庁の省令等制定権限の不行使が「著しく合理性を欠く」と認められる場合は極めて限定的に捉えられるべきであると主張する。 しかし,省令等の制定権限は,委任の根拠となる法律の趣旨及び目的に従って行使すべきものであり,この点は既に一定の規制権限の行使がなされているか否かで異なるものではなく,また,行政庁に規制権限が委任される場合には,専門的,技術的判断を要する事項に関して,技術の進歩及び専門的知見の集積に適合した規制をする必要性が認められることから,一度規制権限が行使された後も,技術の進歩等に伴って規制内容が改正されることを予定していると解されることを考慮すれば,一定の規制についての省令等が既に制定されているか否かによって,当該行政庁の裁量的判断を尊重すべき程度 た後も,技術の進歩等に伴って規制内容が改正されることを予定していると解されることを考慮すれば,一定の規制についての省令等が既に制定されているか否かによって,当該行政庁の裁量的判断を尊重すべき程度や範囲が異なると解すべき合理的な理由はない。よって,被告国の主張は採用できない。 第2 石綿関連疾患に関する医学的知見の集積について 1 認定事実前記第2章第2節及び第3節の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 石綿肺についてア海外における研究報告等1870年代のイギリスにおいて石綿加工が商業的に行われ始めたところ,明治31年には工場監督官のルーシーにより,石綿作業による健康被 害の最初の報告がなされた。その後,明治33年にマレーが初めて33歳の男性石綿織物工の剖検を行って石綿粉じんが原因の肺疾患(肺の線維増生)について最初の症例報告をし,これが明治39年にイギリス国会に職業病の賠償の問題を提起するきっかけとなった。 クックは,昭和2年,このような広範な肺の線維増生をみる病態を石綿肺と呼び,初めて医学雑誌に報告した。 昭和5年,工場医療監督官ミアウェザーと工場監督官プライスは,昭和3年及び昭和4年に行われた広範囲の調査により得られたデータに基づき,純粋な石綿もしくはわずかな割合の木綿を含む石綿粉じんの吸入により曝露している労働者2200名から,サンプルとして363名を対象に胸部エックス線等の医学的検査を実施し,そのうち95名(26.2%)に石綿による肺線維症が認められたこと,また,労働期間ごとにグループに分けて発症率を検討したところ従業年数に比例して罹患率が高まることが明らかになったこと,さらに,肺線維症のリスクは最も粉じんの多い工程に従事した労働者にも強く現れるもので ,労働期間ごとにグループに分けて発症率を検討したところ従業年数に比例して罹患率が高まることが明らかになったこと,さらに,肺線維症のリスクは最も粉じんの多い工程に従事した労働者にも強く現れるものであること等を報告した(ミアウェザー&プライス報告)。当該調査は,昭和3年2月に,石綿労働者の肺に病院で治療を要するほどの重篤な非結核性肺線維症が発見された(ザイラーの症例)ことに基づき,内務省工場局により着手されたものであり,調査においては,その対象を純粋な石綿粉じんの曝露にできる限り近いような労働者とし,混合粉じん(通常20%以下の混合率で石綿が含まれるような粉じん)に曝露している相当数の労働者は除外された。 これを受けて,イギリス政府は,昭和6年,アスベスト産業規則を制定した。 (甲A5の91頁,30の95頁ないし98頁,37,38,39,40,101,乙アA40の91頁)イ国際会議における研究報告等 (ア) 第1回国際けい肺会議ILOは,昭和5年,南アフリカのヨハネスブルグで,第1回国際けい肺会議を開催した。同会議には,オーストラリア,カナダ,ドイツ,イギリス,イタリア,オランダ,南アフリカ,アメリカの8か国が代表委員を派遣したが,我が国から代表委員は派遣されなかった。同会議においては,①けい肺の医学的見解(病理及び臨床),②予防法,③補償が会議事項とされた。 同会議の委員会報告においては,討議内容はほとんどがけい肺に関するものであり,その他のじん肺については,石綿肺以外には,いまだ利用できるような重要な報告はなく,かつ,十分詳細な研究も行われていないとされた。同報告の中には,石綿粉じんの吸入が一定のじん肺(石綿肺)を形成し,時には結核を併発して死亡した例が報告されていること,石綿肺には肺組織中に石綿小体 ,かつ,十分詳細な研究も行われていないとされた。同報告の中には,石綿粉じんの吸入が一定のじん肺(石綿肺)を形成し,時には結核を併発して死亡した例が報告されていること,石綿肺には肺組織中に石綿小体が出現すること,石綿肺の診断としてはけい肺と同様の立証方法(職歴,臨床的及び理学的症状及びレントゲン所見の考慮等)を用いるべきであること等が述べられたものの,肺又は喀痰中に石綿小体が単に現れたからといって必ずしも石綿肺であるとの確証にはならないことや,未だ石綿肺と結核の関連性や他のじん肺にいかなる影響を及ぼすかについては十分明らかになっていないこと等の報告があった。石綿肺に関しては,その発生機序等の具体的な知見についての報告はなされなかった。 (甲A10,63の140頁,1003,乙アA93)(イ) 第2回国際けい肺会議ILOは,昭和13年,ジュネーブの国際労働局で第2回国際けい肺会議を開催した。同会議には,我が国から厚生技師の塚田治作が派遣された。 同会議においては,けい肺症のみならず,一般粉じんによるじん肺の 問題についても討議され,予防対策についても議論がされた。しかし,同会議の報告書においては,多くがけい肺に関する記載であり,じん肺一般,けい肺及びけい酸等とは別に,石綿粉じんや石綿肺に関する個別具体的な討議がなされた旨の記載はされていない。 (甲A49,63の164頁ないし166頁)ウ我が国における研究報告等(ア) 戦前の研究,調査等についてa 内務省社会局(医学博士)であった大西清治は,「内外治療」昭和6年1月号に掲載された「石綿塵と結核」(乙アA20)において,イギリスのマレー及びクックによる石綿粉じんによる肺疾患の症例報告の紹介,イギリスの統計局が行った調査結果をきっかけとして,コリス(Co 年1月号に掲載された「石綿塵と結核」(乙アA20)において,イギリスのマレー及びクックによる石綿粉じんによる肺疾患の症例報告の紹介,イギリスの統計局が行った調査結果をきっかけとして,コリス(Collis)及びホワイトロック(Whitelock)が石綿工場の粉じん発生状況や罹患状況等に関する調査を行い,石綿粉じんが有害であるとの推定を下したこと,その後のグリーブ(Grieve)により石綿工場の研究がなされ,ザイラー(Seiler)による石綿肺の症例報告により,一定の条件の下で石綿粉じんと肺線維症との間に因果関係があることが確認されたことを述べた。さらに,昭和5年のミアウェザー&プライス報告の内容を紹介し,石綿肺とけい肺との相違点も幾分明らかにされたと評価した。 なお,「石綿塵と結核」の冒頭では,工業的粉じんを長年にわたって吸入することによりじん肺を発症し,結核と極めて密接な関係を招来することは既に周知の事実であるが,石綿は工業の発達につれて従来使用されてこなかったものが使用されるようになったものであって,これによるじん肺は我が国においては一例の報告もされておらず,これに関する論文も未だ存在しないと述べられていた。 b 日本パッキング製作所技師長であった杉山旭は,昭和9年6月に発 行された「石綿」(甲A1006)において,石綿の種類及び特質,石綿利用の製品(石綿セメント・スレート,タイル,石綿板,アスベスト・ルーフィング等)等について記載するとともに,「石綿工場の衛生」という項目において,石綿精製場や石綿紡績工場,パッキング工場における石綿粉末及び微細な繊維は,機械作業等により場内に飛散し,労働者の健康を害することが甚だしいこと,我が国における石綿工場労働者の健康状態に関する組織的な報告はまだ存在しないが,工場内の塵 場における石綿粉末及び微細な繊維は,機械作業等により場内に飛散し,労働者の健康を害することが甚だしいこと,我が国における石綿工場労働者の健康状態に関する組織的な報告はまだ存在しないが,工場内の塵芥の程度は杉山旭が見た範囲においては実に甚だしく,一般に使用されるマスク,手ぬぐい等による防じんは甚だ不完全であり,危険であること,我が国における各工場には防じん,除じんの機械的設備が殆どなく,わずかに防じんマスクを使用するにすぎない状況にあるが,粉末飛散の甚だしい梳棉機室のような場所については,集じん機を設備し,ドラフトを取り付けて空気の流通をよくする必要があること等を述べた。 また,同項目においては,イギリスの工場監督官の年報に石綿織物工場における労働者の死亡報告があることや,ロッチダール市の報告に石綿塵芥の有害なことは致命的であると記載されていること,イタリアにおいては完全な除じん装置を備えない石綿工場において15歳以下の男子及び21歳以下の女子を使用することを禁じていること等が紹介された。 c 鯉沼茆吾は,昭和9年1月に発行された「職業病」(甲A1004)において,粉じん対策として,粉じん等を作業場外に排出する装置を設けることや,空気中の有害物の種類,濃度或いは作業の性質に適合した防毒具(マスク)を用いること等の具体的な方法を記載し,また,けい酸塵によって起こるけい肺以外に,石綿粉じんもじん肺を起こすことを指摘した。 d 昭和9年に内務省社会労働部が発行した労働保険資料第41号「職業病及び硅肺に関する資料」(甲A428,1003,乙アA93)には,昭和5年に開催されたILOの第1回国際けい肺会議において採択された前記イ(ア)の報告等が掲載された。 e 馬渡一得は,昭和9年5月に発行された日本産業衛生協会報No. 1003,乙アA93)には,昭和5年に開催されたILOの第1回国際けい肺会議において採択された前記イ(ア)の報告等が掲載された。 e 馬渡一得は,昭和9年5月に発行された日本産業衛生協会報No. 43「鑛肺に就て臨床的方面」(甲A1007)において,外国における最近の研究報告(特に,アメリカのバンコースト,イギリスのグロイン,ドイツのテレーキ,ロツホトケムパー等)を基として臨床家の立場から鑛肺について述べ,その中で石綿肺についても触れている。 f 黒田靜他5名は,昭和11年5月に発行された「労働科学研究」第13巻第3号に掲載された「某耐火煉瓦工場に於ける硅肺症発生の状況及びその対策」(甲A1008)において,じん肺は鉱物の種類によって一般に区分されるが,この中で病理学上肺臓に特有な繊維増殖性変化を認め,従業員の作業能力を奪うものとしては,硅肺と石綿肺のみが知られていると指摘した上で,けい肺を中心として,その予防法に関し,機械設備の改善(防じん,除じん),発じん作業現場の隔離,作業をできる限り湿式とすること,防じん呼吸器の着用,粉じん重量の測定等の必要性を述べた。 g 昭和13年,名古屋予科大学教授であった鯉沼茆吾は,同年に発行された「職業病と工業中毒」(甲A10)において,石綿肺の発生機序,症状及び所見を記載し,さらに,昭和5年のILOの第1回国際けい肺会議において採択された報告(前記イ(ア))等を記述した。 h 石川知福(医学博士)は,昭和13年5月に発行された「塵埃衛生の理論と実際」(甲A11)において,第1回国際けい肺会議以降,塵埃衛生問題は国際的重要性を増してきたとして,クックの報告や, ミアウェザー&プライス報告の内容を紹介した。ただし,同人は同書中で,石綿肺とけい肺の発生機序が全く同一か否かについて ,塵埃衛生問題は国際的重要性を増してきたとして,クックの報告や, ミアウェザー&プライス報告の内容を紹介した。ただし,同人は同書中で,石綿肺とけい肺の発生機序が全く同一か否かについては未だ証明されておらず,また,石綿作業は産業的にはその発達途上にあり,かつ石綿肺に関する調査報告を聞かない我が国において,前記ミアウェザーとプライスの説が正しいか否かの判断は将来の研究を待って解決できるものである,といった評価をした。 i 昭和13年に開催された第2回国際けい肺会議(前記イ(イ))については,昭和15年に黒田靜が報告書(甲A49)を作成した。 j 石川知福は,昭和17年3月に発行された「環境衛生学」(甲A50)において,塵埃発生作業場として,石炭山,金属山,石切場,砂吹打作業場に加え,その他の発じん性作業場として,石綿工場を挙げた。そして,塵埃問題の対策として,従業者の身体検査,作業場空気の浄化,作業方法並びに作業条件の改善等を指摘し,防じんマスクや塵埃並びに煤煙の定量法についても記載した。 k 保険院調査(a) 保険院社会保険局健康保険相談所大阪支所保険技師支所長であった助川らは,昭和12年から昭和15年にかけて,大阪府の泉南地域に所在する石綿工場で働く労働者を対象として,エックス線撮影を主とした石綿肺の臨床検査その他の調査研究(保険院調査)を行い,昭和15年3月にその結果をまとめた昭和15年保険院報告(甲A12)が発行された(ただし,公刊されなかった(甲A13の88頁)。)。 (b) 保険院調査は,当時の我が国において石綿肺に関する系統的調査研究が未だ存在しておらず,現状においては,健康保険の療養給付に関し,特異な症状を呈することに気付きながらもいわゆる私病として扱われているところ,諸外国において,マレー,ク 石綿肺に関する系統的調査研究が未だ存在しておらず,現状においては,健康保険の療養給付に関し,特異な症状を呈することに気付きながらもいわゆる私病として扱われているところ,諸外国において,マレー,クッ ク,コリス及びホワイトロック,ザイラー,ミアウェザーなどによって石綿工場における石綿肺の発生や発生機序が報告されていることから,我が国における石綿工場においても諸外国のような石綿肺が存在するか,存在するとすればどのような要因のもとで発生するか,どのような症状経過を呈するのか,被害状況はどのようなものか等を調査研究することによって,予防対策及び療養給付の参考に資することを目的として,エックス線撮影を主とした臨床的その他の調査研究が昭和12年以降実施されたものである(甲A12の1頁ないし3頁,13の88頁)。 (c) 保険院調査の調査期間は,昭和12年から昭和15年2月までであり,調査対象工場は合計19工場,調査対象人数は合計1024名であり,一般臨床検査を含む各種検査を行い,胸部疾患の疑いがあると認めた者及び3年以上の勤続年数を有する者に対しては,胸部レントゲン検査を行うこととし,必要と認めた者には3か月あるいは1年後及び2年後に追跡調査(再検査)を行った。 なお,最終的に統計分析を行う対象は,「護謨其他特殊の材料を混入し特殊の物理化学的操作を以てするパッキング,ライニング等を製造する工場」と区別するため,保温板・パッキング等を製造している工場を除外した石綿紡織工場14工場(うち11工場が大阪府泉南郡の工場,2工場が大阪市内の工場,1工場が奈良県の工場)の労働者650名(男319名,女331名)とされた。 (甲A12の3頁ないし8頁・64頁,14の297頁・298頁,15の125頁・126頁)(d) また,石綿肺の発生 ,1工場が奈良県の工場)の労働者650名(男319名,女331名)とされた。 (甲A12の3頁ないし8頁・64頁,14の297頁・298頁,15の125頁・126頁)(d) また,石綿肺の発生は環境素質並びに発じんの量と質とに関係するところが大きく,概ね3年以上の勤続者に招来されるといわれていたことから,3年以上の勤続者231名について立証的胸 部の理学的所見について観察がなされ,その結果,石綿作業者の健康障害が特異であり結核罹患を疑うべき例(気管支炎,助膜炎等の罹患を疑わせるもの)が非常に多く見られた(甲A12の9頁・16頁)。 助川らは,これらの成績とレントゲン撮影の結果とにより石綿作業者の健康障害の検討を行うため,3年以上の勤続者全員と3年未満の者で胸部に異常があり必要と認める者(45名)の合計251名に対してレントゲン撮影を実施した。 そして,助川らは,石綿作業員における職業歴,作業場の状況,労働条件,既往歴及び現往歴及び現症を検討し,さらにレントゲン写真を精査した。 (甲A12の16頁ないし29頁)i 石綿肺と認められる者 80名① 石綿肺の疑いがある者 15名(男7名,女8名)② 石綿肺第1期(肺門像が濃くかつ大となり,肺野においては樹枝状陰影が著明となり,肺紋理は増強を来し,細網状にみえるもの) 42名(男30名,女12名)③ 石綿肺第1から2期(第1期又は初期の像に加え,肺野の網状影が結合して微細点状影として見えるに至り,このようなものが限局して存在するもの) 10名(男8名,女2名)④ 石綿肺2期(肺野に多数の微細点状影が散在して播種状結核に似た像を見るが,肺野の樹枝状陰影が強くかつ肺紋像の濃大を認め自ら播種状結核と異なる如き観があるもの) 13名(男12名,女1名)⑤ 石綿肺2期(肺野に多数の微細点状影が散在して播種状結核に似た像を見るが,肺野の樹枝状陰影が強くかつ肺紋像の濃大を認め自ら播種状結核と異なる如き観があるもの) 13名(男12名,女1名)⑤ 石綿肺3期(斑点影の融合による大斑影及び塊状あるいは腫瘍状の大陰影並びに大斑点が播種するもの)に匹敵するレント ゲン像はなかった。 ⅱ 勤続年数別の石綿肺罹患率(甲A12の31頁ないし35頁・86頁)① 勤続年数3年以下 1.9%(8名/419名)② 3年から5年以下 20.8%(20/96名)③ 5年から10年以下 25.5%(24/94名)④ 10年から15年以下 60.0%(18/30名)⑤ 15年から20年以下 83.3%(5/6名)⑥ 20年から25年以下 100.0%(5/5名)⑦ 全体平均 12.3%(80/650名)当該結果から,助川らは,3年未満のものにおいても尚急性罹患者を有し,20年以上において100%となっていることは注目に値するとし,勤続年数が長くなるに従って罹患率が高くなることを指摘した。 ⅲ 作業部署別の石綿肺罹患率(甲A12の31頁)① 混綿 30.2%(13/43名)② 織場 17.8%(13/73名)③ 梳綿 17.2%(11/64名)④ 組物 17.0%(8/53名)⑤ 仕上 12.9%(4/31名)⑥ 雑 12.9%(4/31名)⑦ 保温板 9.2%(6/65名)⑧ 其他 7.7%(3/39名)⑨ 紡績 6.8%(17/251名)当該結果から,助川らは,粉じん量が少ない作業場(雑工や事務織が多い其他)に就業する者の罹患率が低いこと等から,飛じ ん量と勤続年数が石綿肺罹患の二大因子であることを指摘した。 ⅳ 石綿肺の各病期 ,助川らは,粉じん量が少ない作業場(雑工や事務織が多い其他)に就業する者の罹患率が低いこと等から,飛じ ん量と勤続年数が石綿肺罹患の二大因子であることを指摘した。 ⅳ 石綿肺の各病期と勤続年数との関係(甲A12の31頁)第1期及び第2期のいずれにおいても,勤続年数ごとにその割合を見れば,病期の進行は勤続年数に比例して増大することを指摘した。 (e) 追跡調査の結果について1年後に行われた追跡調査の結果は,石綿肺第1期については,病状に変化なき者9名(40%),増進した者6名(25%),軽快した者1名(4%),第2期については,変化なき者5名(30%),増進した者8名(50%),軽快した者1名(6%),石綿肺の疑いある者については,病状に変化なき者4名(36%),増進した者2名(20%),これらを総計すると,変化なき者18名(35%),増進した者16名(30%),軽快した者2名(5%)であった。また,当該調査時点においては,保険院調査において結核と診断んされた者のうち2名が死亡したことが確認されたものの,石綿肺による死亡者は存在しなかった。なお,第1回検査以降1年後の追跡調査の時期までに退職ないし離職した者も存在し,その数は合計16名(31%)であった。 この結果から,助川らは,保険院調査において見つかった結核性疾患の実数は少数ではあるが,軽快したと認められる者が18%存在し石綿肺の5%に比較して相当の離隔があることは興味深いとした。 (甲A12の64頁ないし77頁・85頁ないし92頁)(f) 助川らは,保険院調査の結果を総括して,①調査石綿紡績工場における石綿肺の罹患率と勤続年数との関係を見るに,勤続年数が増加するに従い罹患率が高くなっており,また,一定の勤続年 数に達すればいわゆる淘汰現 査の結果を総括して,①調査石綿紡績工場における石綿肺の罹患率と勤続年数との関係を見るに,勤続年数が増加するに従い罹患率が高くなっており,また,一定の勤続年 数に達すればいわゆる淘汰現象が存することが肯定されること,②体格又は体質とじん肺との関係は未解決の状態であること,③石綿肺罹患者の症状を見るに,自覚的症状としては,咳嗽及び喀痰が最多であり,喀痰は黄褐色あるいは淡黄色で粘潤であるが,肺痛,呼吸困難,肺内苦悶,疲労倦怠感を訴える者も相当数に達し,食欲不振等は比較的少数であり,また,石綿肺の診断を下された者のうち28%は自覚的症状がなかったこと,④胸部の理学的所見としては,打診上の所見は病期の進行状態に比例し,初期においては概ね軽度であり部位も不定であるが,第2期においては上,中野にわたって濁音又は短音を呈する者が多く,聴診上においては諸種の副雑音を聴取し,その頻度は病期の進行と共に増加するが,いずれの時期においてもけい肺の場合よりもはるかに頻度が高く,聴取部位は右側が大部分で左側のみに聴取することは僅かであり,病期の進行に従って聴取部位は拡大し全肺野あるいは中下野で聴取され,呼吸音の以上もその頻度が高く病期の進行と共に増大すること等が確認されること等,病期の進行と共に理学的所見も増加すること,⑤石綿肺における肺活量は正常に比して多少減少を呈し減少の程度は病期の進行と共に増強すること,⑥石綿肺におけるエックス線撮影成績はけい肺における像と異なるのみならず,結核性陰影とも異なり,全体の感覚はいわゆる薄雲のベールで覆ったように一般に淡くして繊細であること,⑦石綿肺の経過は慢性であるが,中には悪急性の経過をとるものがあること,⑧石綿肺と結核との間に因果関係があるか否か等については,さらに検討が必要であること等を指摘した 一般に淡くして繊細であること,⑦石綿肺の経過は慢性であるが,中には悪急性の経過をとるものがあること,⑧石綿肺と結核との間に因果関係があるか否か等については,さらに検討が必要であること等を指摘した。 そして,「結言」として,①石綿粉じんの吸入がミアウェザーの指摘したように肺に重大な変化を惹起するものであり,また肺活 量が減弱して労働力が阻害され,産業能率は減退し進行性経過を呈すること,②早期に転業し,あるいは安静を保って回復を図れば,必ずしも悲観的終焉を呈するものではなく,また,工場管理の合理化を行い,工場衛生を向上せしめ個人の衛生知識を涵養すれば病状はある一定の進行は認められるも,肺臓の萎縮を伴いながらも労働に支障なく相当長期にわたり職業生命を保持し得るものであること,③石綿紡績従業者における石綿肺の罹患率は勤続年数が進むに従って高くなりついには100%の罹患率にまで達するが,粉じん量と質の如何によっては悪急性の経過をとり著しく早期に重大なる病状を呈し,労働力を減殺し体力の消耗を来すこと,④助川らは,防じん装置として工場設備を観察したところ,適当なものは確認できなかったが,最も良い環境を有する工場においては強制的にガーゼマスクを使用しておりこのような注意深い管理方法は望ましいものであり,さらに加えて防じん装置を完全にすべきであること,⑤石綿肺罹患は業務に深い関係があると想定できるが,実際問題としてその取り扱いについては慎重な研究が必要であること,⑥石綿肺の診断においては,エックス線検査が絶対必要であり,長期勤続者に対しては,定期的健康診断を行い,罹患者の発見に資せねばならず,肺活量,赤沈速度測定,喀痰の検査は相当役立つものであること,⑦測定石綿作業者中に結核罹患者は一般に高率であったが,石綿肺罹患者には結核患者 は,定期的健康診断を行い,罹患者の発見に資せねばならず,肺活量,赤沈速度測定,喀痰の検査は相当役立つものであること,⑦測定石綿作業者中に結核罹患者は一般に高率であったが,石綿肺罹患者には結核患者が少なかったこと等を記述し,最後に,速やかにその予防と治療の適切なる対策を樹立することが緊要であることを指摘した。 加えて,助川らは,保険院調査によって,「石綿作業者に於ては結核罹患の高率なると共に石綿肺罹患の甚だ高率であり其病状は深刻にして久しきに亘りて労働力を減殺し又保険経済にも影響す べきことが明らかとなった」が,本研究調査は石綿肺の概観の報告にすぎないためさらに深く掘り下げる必要があり,「例へば尚一層経過を追求し治療を施し有効適切なる豫防法を考案し更らに剖検をなす等百尺桿頭一歩を進めねばならない」とも記述した。 (甲A12の92頁ないし94頁)l 労働科学研究所(医学博士)の久保田重孝は,昭和19年6月発行の「職業病対策産業健康管理全書第二巻」(甲A1005)において,粉じん作業場においてはまず作業方法の改善によってできる限り発じん量を少なくすることが必要であるとし,その方法として,発じん部位の隔絶,作業場撤水,清掃,作業器具の回線等を挙げた。また,恕限度について触れ,さらに,遊離けい酸でなくとも,石綿等によってもじん肺(石綿肺)が発生し,その有害度はけい酸塵ほどではないというが,適確な有害度の規定をなすに至っていないため,今日のところは,まずけい酸の場合に準ずるとみなすことが安全であると述べた。 (イ) 戦後の研究,調査等a 昭和22年9月労働省が発足し,昭和23年8月には有害環境条件の一つとしての空気中浮遊粉じんの恕限度が指示された(甲A14の36頁)。 b 労働省は,昭和23年,職業病防止対策要綱 ,調査等a 昭和22年9月労働省が発足し,昭和23年8月には有害環境条件の一つとしての空気中浮遊粉じんの恕限度が指示された(甲A14の36頁)。 b 労働省は,昭和23年,職業病防止対策要綱に基づいてけい肺対策協議会を設置し,けい肺の実態把握のため,昭和23年10月から昭和25年までの間に合計6回,金属鉱山,炭鉱等を対象としてけい肺巡回検診を実施した。その際,検査された労働者数は約4万6000名で,軽症者を含めて発見された患者は約6600名(12.3%。 うち,じん肺と診断するほかない者が600名,けい肺と診断された者は約6000名であった。)であり,そのうち療養を要するとされ た者は757名であった。(甲A13の89頁,14の35頁ないし40頁)c 昭和24年から,大阪労基局丸山博労働衛生課長の示唆と援助により,小川捨雄が宝来の指導の下各種粉じん作業者について検診を実施した(甲A15の126頁)。 d 保険院調査後,第2次世界大戦中及び戦後初期に中断されていた石綿肺に関する研究は,昭和27年頃から各研究者によって再開された(甲A15の127頁)。 昭和27年,奈良県Nアスベスト株式会社王子工場の労使双方の要望を基に葛城労基署より大阪大学医学部長梶原三郎教授に調査協力依頼があり,一次検診は大阪大学第三内科瀬良らが担当し,二次検診は奈良医大宝来ら,環境測定は同大学妻鹿友一らが担当した。当該調査により,現場従業者203名(男63名,女140名)のうち石綿肺を10名(5.0%),肺結核15名を見出し,この結果は昭和31年発行の「労働科学」第34巻第4号及び昭和32年12月に発行された「奈良医学雑誌」第8巻第3号に「石綿肺に関する研究Ⅰ」として掲載された。このときに石綿肺と診断された男性1名が昭和30年12年に気 発行の「労働科学」第34巻第4号及び昭和32年12月に発行された「奈良医学雑誌」第8巻第3号に「石綿肺に関する研究Ⅰ」として掲載された。このときに石綿肺と診断された男性1名が昭和30年12年に気管支援肺炎を起こして死亡し,我が国における石綿肺剖検例の第1例となり,佐野により病理組織像が明らかにされた。(甲A15の126頁・127頁,16の247頁ないし251頁)宝来は,昭和31年に,前記昭和27年の検診者に病期の進展した者及び新発生があるか確認するために検診を実施し,その結果をもとに昭和32年12月発行の「奈良医学雑誌」第8巻第3号に「石綿肺に関する研究Ⅱ」として発表した。昭和31年の検診においては,検診対象を5年以上勤続の男子従業員に限定し,エックス線撮影を行った。同検診の結果,①50人中29人(58%)に石綿肺確実所見 があり,10人(20%)に石綿肺疑所見が認められ,この検出率はミアウェザー等の出した検出率に匹敵していたこと,②勤務年数と石綿肺確実所見者数との関係をみると,5年以上の勤務者は,勤務年数が増加するに従い,エックス線有所見者が増加する傾向があること,③石綿小体の性質については未だ明確な結論は出されておらず,グロインの実験においても石綿小体の排出が必ずしも石綿肺の成立を意味するものではないとされていることに触れた上で,勤務年数が長くなるに従ってエックス線確実所見者が増加する傾向があり,かつ,エックス線確実所見者は喀痰中石綿小体の検出頻度が多く,したがって石綿肺診断はエックス線所見によって決定されるが喀痰中の石綿小体の検出は診断決定の補助的手段となり,他のじん肺と石綿肺との鑑別には役立つものと考えられることを指摘し,また,昭和27年の検診における石綿肺有所見者はいずれも病期の進展が認められたことを報 石綿小体の検出は診断決定の補助的手段となり,他のじん肺と石綿肺との鑑別には役立つものと考えられることを指摘し,また,昭和27年の検診における石綿肺有所見者はいずれも病期の進展が認められたことを報告した。(甲A16の253頁ないし257頁)e 大阪府泉南市に所在していた国立療養所大阪厚生園(院長瀬良)は,昭和29年以降,大阪泉南の石綿工場において検診を行った。後記宝来らの労働衛生試験研究の共同研究班が組織された後は,これに参加し,泉南地域及び大阪の工場に対する検診を担当した。(甲A13の90頁,15の127頁,17,19,乙アA23,24)f 東京労災病院院長であった吉見は,昭和29年から東京都内の石綿工場において石綿肺の調査を行い,昭和30年に,その結果を踏まえて検診成績,臨床所見,肺機能等について発表した。後記宝来らの労働衛生試験研究の共同研究班が組織された後は,これに参加し,東京都内の石綿工場に対する検診を担当した。(甲A15の127頁,19,55,乙アA23,24)g 労働省は,昭和31年,過去の試験研究及び実態調査の結果等を検 討した結果,石綿に係る作業を「けい肺を除くじん肺を起こし又はそのおそれのある粉じんを発散する場所における業務」として,特殊健康診断の自発的な実施を使用者に奨励すべき「有害又は有害のおそれのある主要な作業」とする昭和31年通達を発出した(前記第2章第3節第1,1(5))。 h 労働省労働衛生試験研究(a) 労働省は,昭和30年,昭和31年度から昭和34年度まで,労働衛生試験研究として,宝来を班長とし,瀬良,吉見らを班員とする共同研究班に対し,石綿肺等のじん肺に対する研究を委託した。同委託に基づき,共同研究班は,昭和31年度及び昭和32年度には「石綿肺の診断基準に関する研究 て,宝来を班長とし,瀬良,吉見らを班員とする共同研究班に対し,石綿肺等のじん肺に対する研究を委託した。同委託に基づき,共同研究班は,昭和31年度及び昭和32年度には「石綿肺の診断基準に関する研究」を,昭和33年度には「セメント焼成炉以降の作業工程におけるじん肺,市販カーボン,ブラック及び黒船によるじん肺並びに石綿肺に関する研究」を,昭和34年度には「石綿肺等のじん肺に関する研究」を,それぞれ行った。なお,当該研究班は,以後課題は変わるが一貫してじん肺について環境,疫学,臨床,病理,実験等の分担研究を14年にわたり継続して行った。殊に,大阪において検出された石綿肺を始めけい肺以外の各種じん肺に対する知見は昭和35年の旧じん肺法制定への有力な資料となった。(甲A13の90頁,15の127頁・128頁,19,乙アA23,24)(b) 労働省労働衛生試験研究における研究目的は,我が国における石綿肺に関する研究は非常に少なかったが,戦後に至り昭和27年奈良県下の宝来,瀬良の石綿加工場の石綿肺検診成績,昭和29年吉見らの東京県下の石綿工場の石綿肺調査成績が公表されて石綿肺の様相が僅かに明らかになり,昭和30年12月宝来,佐藤,佐野の我が国最初の石綿肺患者の剖検例によって病理組織像 の一部が明らかになり,また,昭和31年2月に福田による石綿肺の剖検例があって,石綿肺に関する関心が高まってきたところ,昭和30年9月からけい特法が施行されたが,けい肺と同系統の職業性疾患である石綿肺についてはその全体像が充分判明していないので,取扱いの基準についての資料の必要性が望まれる,などの認識の下に,研究の第一目標として,石綿肺疾患の実態を把握することであり,次いで石綿肺罹患者について各種臨床検査を行いその臨床像を詳細にすることであり,ま 準についての資料の必要性が望まれる,などの認識の下に,研究の第一目標として,石綿肺疾患の実態を把握することであり,次いで石綿肺罹患者について各種臨床検査を行いその臨床像を詳細にすることであり,また石綿肺診断の基準はいかにすべきかということであると述べ,そのため,石綿鉱山及び加工場において検診を実施してまず石綿肺罹患の頻度を調査し,罹患者に各種検査を行い,臨床所見を明らかにし,また,実験的研究から石綿肺の発生及びその組織像を追及し,併せて臨床との関係を検索し,さらに,根本問題として石綿粉じんの性状の研究から有害の程度及び石綿肺発生過程の要因をつかみ,石綿肺発生の一要因である粉じん濃度を調査するということが研究の条項になるとされた。さらに,研究の結果は,労働衛生見地から職業病としての石綿肺の予防,労働行政見地から石綿肺罹患者の補償の措置要綱制定の資料の確立を期待できるとされていた。(乙アA24)昭和31年度研究においては,石綿肺について各方面から研究を進め,①石綿鉱山及び工場の粉じんの性状について分析した結果,北海道の石綿鉱山の鉱物組成は不純物の少ないクリソタイル石綿であり,その繊維は比較的短く,有害の程度はどのようであるかについて疑義があるが,検診結果からエックス線有所見者を相当程度に検出しているのでかかる短い繊維も有害であることが判明したこと,②奈良大阪地方の工場の粉じんはカナダ産の石綿材料使用の関係や 分析の結果からもクリソタイル石綿繊維が主であるが,アモサイト石綿,クロシドライト石綿の混入もあり,また,木綿などの有機物質やベントナイト,水酸化マグネシウム,タルク等の不純物の混入もあるため,石綿肺発生の状況は複雑であるようであるが,検診結果から典型的な石綿肺エックス線所見を相当程度に検出したこと,③環境 有機物質やベントナイト,水酸化マグネシウム,タルク等の不純物の混入もあるため,石綿肺発生の状況は複雑であるようであるが,検診結果から典型的な石綿肺エックス線所見を相当程度に検出したこと,③環境調査により,石綿鉱山及び附属工場の粉じんは驚くべき程の高濃度で肺変化に及ぼす影響が大きく,また都市その他の石綿工場における粉じん濃度は恕限度を超えている作業場が多く,長時間の労働による石綿肺の発症は必至と考えられること,④ラット等を用いた石綿粉じんによるじん肺発生の状況を観察したところ,クリソタイル粉じんによって肺胞炎性の変化があり,線維増殖を起こすことが分かったこと,⑤石綿肺人体解剖について病理組織学的研究を行ったところ,石綿肺の肺変化は不整形の線維巣形成が主体であるなど,けい肺とは本質的に異なっており,このような石綿肺変化が完成するためには繰り返し粉じんを吸入することが必要であること,5μ以上の粉じんが有害であることに異論はないがそれ以下の線維であっても肺胞炎形成に参加することは疑いのない事実であること,また,石綿小体の形成は特異的であり,これは石綿粉じんの吸入の証左であること,⑥石綿鉱山及び附属工場においては161人中25人(15.5%),石綿工場奈良地方229人中45人(19. 6%),大阪地方330人中54人(16.4%),東京地方にも16人の確実有所見者があり,千葉地方にも若干名の有所見者を検出していることから,長期石綿粉じん吸入者には相当の発生頻度があることが解ったこと,⑦石綿肺のエックス線所見の判定は,けい肺のように結節像を目標とするのと大きく異なり,線維増殖によって線様像を補足することに目標をおくので早期にこれを見出すことは 比較的困難であるが,病気の進展にしたがって次第に線維様陰影が明確化するなどして典型 するのと大きく異なり,線維増殖によって線様像を補足することに目標をおくので早期にこれを見出すことは 比較的困難であるが,病気の進展にしたがって次第に線維様陰影が明確化するなどして典型的な所見を示すようになること,⑧心肺機能検査の結果では,早期の軽度の石綿肺有所見者においては機能障害を認めないが,病気が進展するにしたがい次第に一部の者に機能障害を思わす所見が出現すること,⑨エックス線所見が確実であって喀痰中に石綿小体を検出する場合は石綿肺の診断を確定することができ,また,針生検による病理学的検索は,石綿肺の確定診断を行う有効な手段となること等の研究成果を得た。そして,石綿肺の診断基準確立の中心をなすものは胸部エックス線所見であり,これについては適切なエックス線撮影条件を見つけることが第一であり,次いで撮影したフィルムの観察と判定について検討の必要があるとし,エックス線所見の判定についてはなお詳細な研究をして一定の基準を決定すると述べられた。 当該昭和31年度研究の研究成果については,昭和32年3月31日に,「昭和31年度労働省労働衛生試験研究石綿肺の診断基準に関する研究」(乙アA24)として報告された。 昭和32年度研究の研究目的は,昭和31年度研究において,北海道石綿鉱山及び附属工場並びに東京,大阪,奈良の石綿工場従業員の検診を実施し,全従業員中10ないし20%検出されたエックス線石綿肺有所見者について臨床各種検査を実施し,石綿肺の臨床所見をある程度明らかにすることができ,また,石綿肺の発生要因である石綿粉じんについて基礎的検索を行い,併せて石綿粉じん環境についても調査し,さらに,家兎,ラットを用いて実験的研究を行い石綿肺の発生過程を追及したことで,石綿肺に関して各方面から検索を進めるとともに石綿肺の診断基 て基礎的検索を行い,併せて石綿粉じん環境についても調査し,さらに,家兎,ラットを用いて実験的研究を行い石綿肺の発生過程を追及したことで,石綿肺に関して各方面から検索を進めるとともに石綿肺の診断基準の目標をいかにすべきかというところに到達したことから,昭和32年 度は,未検の鉱山,工場従業員の検診を実施し,併せて昨年実施の従業員は継続検診を行って経過を観察し,再び臨床各検査を行い,所見の確実性について検討するとともに,石綿粉じんの性状の検索,石綿粉じん環境の調査を更に詳細に行い,動物実験も加えて我が国の石綿肺の全貌を明らかにすることによって,石綿肺の診断基準に関しての根幹的事項を決定しようとするものであるとされた。 昭和32年度研究においては,昭和31年度研究の成果を踏まえ,①我が国の石綿工場の加工材料の石綿は,外国からの輸入が大部分を占め,クリソタイル石綿が主であるところ,このクリソタイル石綿は,比表面積が甚だ大であって,特殊な吸着能を持ち,生体に特異な反応を与えることが想像されること,②石綿粉じん環境は,いずれの工場においても恕限度を超えた悪条件であり,長期間の作業は石綿症発生必至の状態に置かれていること,③石綿工場使用のクリソタイル石綿を用いて動物実験を行った結果,人体における石綿肺類似の所見を認めたこと,④2年間で人体剖検例6例(石綿肺に肺結核,線維素性肺炎及び気管支炎が合併した症例を含む。)を経験し,不整形の線維増殖,石綿小体,大貪喰細胞,多核巨細胞等,石綿粉じんによって惹起される組織変化を観察したこと,⑤石綿鉱山,附属工場,都市の石綿工場従業員間には10ないし20%の石綿肺エックス線有所見者を検出しているところ,石綿肺有所見者は勤務年数と並行し,5年を過ぎるころから認め,20年以上になるとほとんどが 鉱山,附属工場,都市の石綿工場従業員間には10ないし20%の石綿肺エックス線有所見者を検出しているところ,石綿肺有所見者は勤務年数と並行し,5年を過ぎるころから認め,20年以上になるとほとんどがエックス線上所見を示すようになること,⑥石綿肺のエックス線所見は,微細線様陰影と微細点状陰影が主体であるが,多くの場合,微細線様陰影が優先して認められ,下肺野のみのものもあるが,全肺野にわたっ て認められるものもあり,また,陰影が比較的粗の場合もあるが密の場合もあり,密度が更に増し,びまん性陰影となり,肋膜変化を伴ってびまん性度を一層強くする場合もあるほか,肋膜癒着像の明らかなもの,肺気腫像を伴うものもあり,さらに,合併症により部分的に浸潤陰影を認めるものがあること,⑦石綿肺の心肺機能は,軽症者には障害を認めるものは少ないが,重症者には障害を認めるものがあり,肺機能障害の様相は,換気能障害と肺胞毛細管ブロックの拡散障害の混合型のようであること,⑧石綿肺の一般臨床検査所見は,慢性経過肺疾患と共通するものであるが,喀痰中石綿小体の検出は,他のじん肺との鑑別に役立ち,針生検による肺組織の検索は,確定診断の決定手段となること等の研究成果が得られた。 当該昭和32年度研究の研究成果は,昭和33年3月31日に,「昭和32年度労働省労働衛生試験研究石綿肺の診断基準に関する研究」(乙アA23)として報告された。同報告書の「総括」として,石綿肺は古くからけい肺と共に重要なじん肺として知られ,人類に与える有害の程度もけい肺に匹敵するものとされていたが,我が国においては石綿肺があまり知られていなかったところ,本研究班が発足し,2年間の調査研究によって石綿肺の概略を明らかにすることができ,診断基準の設定にまで到達したとの成果を示した。 ( たが,我が国においては石綿肺があまり知られていなかったところ,本研究班が発足し,2年間の調査研究によって石綿肺の概略を明らかにすることができ,診断基準の設定にまで到達したとの成果を示した。 (e) 宝来らは,労働衛生試験研究として,昭和33年度には,「セメント焼成炉以降の作業工程におけるじん肺,市販カーボン・ブラック及び黒鉛によるじん肺並びに石綿肺に関する研究」を行った(甲A19,乙アA1006)。 (f) 昭和34年度には,昭和35年3月31日をもって廃止となる けい特法に代わる法律が考えられていること,昭和30年9月のけい特法制定時から,けい肺以外のじん肺についてはいかに取り扱われるかが苦慮されていたところ,昭和31年度から昭和33年度にかけて行われた労働衛生試験研究によって,けい肺以外のじん肺に関して,その実態が次第に明らかになってきたが,石綿以外のけい酸塩粉じんによる滑石肺,ロー石肺等,金属粉じんによるアルミニウム肺,アルミナ肺,鉄肺などについて新しく開拓する必要に迫られたことから,労働省は,石綿等のじん肺に関する研究として広い範囲にじん肺の研究を行うように試験研究を提示したため,宝来ら共同研究班は,滑石肺,ロー石肺,珪藻土肺,黒鉛肺,アルミニウム肺,アルミナ肺,炭素肺,セメント肺,カーボンブラック肺等の各種じん肺についての研究を行い,新しい症例,その臨床所見等を次第に明らかにして,その結果を,「昭和34年度労働省労働衛生試験研究石綿肺等のじん肺に関する研究」と題する研究成果報告書において「Ⅲ.各種じん肺に関する資料」としてまとめ,昭和35年3月31日に報告した。なお,同項目において,石綿肺については,石綿肺に関する研究が昭和31年度から昭和33年度の労働衛生試験研究において既に概要各方面にわたり する資料」としてまとめ,昭和35年3月31日に報告した。なお,同項目において,石綿肺については,石綿肺に関する研究が昭和31年度から昭和33年度の労働衛生試験研究において既に概要各方面にわたり実施されていたため,これらの研究で明らかにされた内容を基に,石綿肺症のエックス線所見,石綿肺症と決定する根拠,石綿肺症の医療生活指導区分,石綿肺症の検査項目及び検査回数,石綿肺症の現状,石綿肺症の合併症及び続発症,石綿肺症の粉じん性状及び粉じん環境成績といった内容について記載された。 この他,前記報告書においては,①昭和34年度に大阪府下39の石綿工場(泉南地区29工場,その他10工場)を調査した 結果,3年以上の勤務歴のある286名につき調査が行われたこと,エックス線上の有所見者は102名(35.7%)であり,そのうち石綿肺であることが確実であると認められる者は67名(23.4%)であったこと,泉南地区の有所見者率(疑いを含む。以下同じ)は77名中69名(90.0%)であるのに対し,その他の地区では209名中33名(15.7%)であったこと,大阪府下の勤務年別の有所見者率は,3年から5年が94名中14名(14.9%),5年から10年が105名中42名(40%),10年から15年が68名中32名(48.5%),15年から20年が14名中10名(71.4%),20年以上が5名中3名(60%)であったこと,また,②石綿肺の剖検例(61歳男性,35年間混梳綿作業,左肺上葉の肺がん合併)の報告等がなされた。 (甲A19,乙アA1006)i 旧じん肺法の制定昭和30年にけい特法が制定され,石炭鉱山,金属鉱山その他遊離けい酸粉じんを発散する場所で働く労働者に対して定期的にけい肺健康診断を行い,その結果に基づき一定の者について i 旧じん肺法の制定昭和30年にけい特法が制定され,石炭鉱山,金属鉱山その他遊離けい酸粉じんを発散する場所で働く労働者に対して定期的にけい肺健康診断を行い,その結果に基づき一定の者について粉じん作業からの作業転換をはかる等,健康管理について特別の措置を実施するとともに,けい肺及び外傷性せき髄障害にかかった労働者に対して,労基法又は労災保険法による打切補償が行われた後さらに2年間引き続いて療養給付及び休業給付を支給することとされたが,昭和32年秋頃から,けい特法による給付の期限が切れる者が生じ,その大部分の者は依然として療養を必要とする状態にあったことから,けい特法の改正として「けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法」(昭和33年法律第143号)が成立したが,同法13条は,政 府に対し,けい特法の根本的検討義務を課し,昭和34年12月31日までにけい特法の改正を義務付けた。 そのため,労働大臣は,昭和33年6月30日には,けい特法の改正に関してけい肺審議会に諮問するとともに,同年7月1日には労働省労働基準局にけい特法改正準備本部を設置し,けい肺審議会の審議に並行して,英,米,西独,仏等のけい肺関係法制についての資料の収集,けい肺にかかった労働者のエックス線写真の再読影,じん肺予防のための技術的基準の検討等改正の準備作業を行った。 労働大臣からの諮問を受けたけい肺審議会は,まず医学的専門的事項について調査審議するため,医学部会を設け,宝来,勝木新次(労働科学研究所長),大西清治(労働保険審査会委員)らを委員に委嘱した。医学部会は,昭和34年9月8日には,「けい肺に関する医学上の問題点についての意見」を総会に報告した。当該報告においては,①最近,屍体解剖の結果,石綿肺,ろう石肺,アルミニウム肺,珪 に委嘱した。医学部会は,昭和34年9月8日には,「けい肺に関する医学上の問題点についての意見」を総会に報告した。当該報告においては,①最近,屍体解剖の結果,石綿肺,ろう石肺,アルミニウム肺,珪藻土肺,その他の各種のじん肺の存在が認められており,いずれのじん肺もそれが高度となってくれば,心肺機能障害を来すものであるので,あらゆる粉じんからの被害を予防し,健康管理を行っていく必要があること,②合併症については,肺結核は国際的に認められているが,その他のものは現在なお確認されていない,ただ,進展したじん肺については死因が肺炎である場合が少なくないことは注目を要する,③けい肺の診断区分については,現在症度区分とされているが,健康管理上の取扱いが本来の主眼であるから,医学上その者をどう処置すべきかを示す管理区分という名称に改め,その内容は研究の結果により,現行の症度区分の内容に修正を加える必要がある,しかして,管理区分の4は要医療であるが,要医療を休業医療と非休業医療とする,等の内容であった。そして,これを受けて,同審議会の公益委員 は,管理区分や規制対象について概ね前記医学部会の意見に沿った公益委員案を出し,さらに審議検討を進め,労使公益三者の意見を調整する努力がなされたが,これを図ることができず,答申を行うべき時間的制約もあったために,対象,予防及び衛生管理について医学部会の意見を尊重した公益委員案を示し,最終的にはこれに労働者側及び使用者側の各委員の意見を添えてそれを答申として,昭和34年11月14日に労働大臣に答申した。これを受けて,政府は,同審議会の公益委員の意見を妥当と認め,これに基づいて「じん肺法案要綱」を作成し,再度けい肺審議会の意見を聴いた後,「じん肺法案」を国会に提出し,昭和35年3月2日,衆議院社会労 を受けて,政府は,同審議会の公益委員の意見を妥当と認め,これに基づいて「じん肺法案要綱」を作成し,再度けい肺審議会の意見を聴いた後,「じん肺法案」を国会に提出し,昭和35年3月2日,衆議院社会労働委員会において,その提案理由の説明として,けい特法以降の経緯を説明した上で,けい特法の改正に関しては,予防及び健康管理については,最近の医学の進歩,粉じん管理に関する技術的研究の成果等を基礎として粉じん作業に従事する労働者について適切な保護措置を講ずることとし,その対象についても,医学的にその実態が明らかにされてきた石綿肺,アルミニウム肺等,鉱物性粉じんの吸入によって生ずる他のじん肺を含めて,新たに特別法を制定するべきであると考えた旨述べた。その後,参議院における審議等を経て,昭和35年3月31日に旧じん肺法が成立し,同日交付され,同年4月1日に施行された。 (甲A441の69頁ないし90頁,乙アB106の90頁ないし92頁・99頁ないし111頁・113頁ないし123頁・139頁ないし142頁・149頁)(2) 肺がん及び中皮腫についてア海外における研究報告等(ア) ドール報告以前の症例報告,研究等a イギリスのグロインは,昭和8年に石綿肺患者の剖検で胸膜の扁平 上皮がんを1例報告したが,現時点では石綿肺と肺がんの関係を示す証拠がないとした。その後,昭和10年,アメリカのリンチらは,石綿肺に肺がんが合併した剖検例の報告を行い,初めて石綿肺を背景とした肺がんの発生を問題とした。イギリスのグロインとウッドは,昭和9年,12例の石綿肺の解剖例において,胸膜がんに加えて肺がんに罹患していた2つのケースがあったことを述べ,グロインは,昭和10年に,石綿肺とともに「胸膜の扁平上肺がん」に罹患していた2つのケースについて 2例の石綿肺の解剖例において,胸膜がんに加えて肺がんに罹患していた2つのケースがあったことを述べ,グロインは,昭和10年に,石綿肺とともに「胸膜の扁平上肺がん」に罹患していた2つのケースについて詳細に報告した。石綿肺に肺がんが合併した事例の報告は,昭和11年にグロイン及びエール大学のエグバード,昭和13年にドイツのノルトマンやケルシュによりなされた。前記ノルトマンの報告においては,肺がんは石綿労働者における職業病であると初めて断言された。(甲A28の2の36頁ないし38頁,307の1の5頁・6頁・9頁,309ないし312,乙アA89)その後,昭和14年にドイツのバーダーが,肺がんが石綿労働者における職業病であることに疑う余地はないと述べた。昭和16年には,ヴェドラーらによってさらに石綿肺と肺がんが併発した2つの事例の報告がされ,同人らは,がんが石綿肺とともに頻繁に見つかるということは,これらのがんが職業由来のものであることを立証するものであるなどと述べた。(甲A28の2の39頁)b ドイツにおいては,昭和13年以降ノルトマン,ケルシュ,バーダー,ヴェドラーらによる石綿肺に合併した肺がんに関する報告等がなされたことにより,ドイツ政府は,昭和15年に石綿粉じんの許容基準と具体的な安全対策を規定したガイドラインを発表し,昭和18年には,臨床上,肺がんは,非常に進行した石綿肺だけでなく,軽い石綿肺の事例でも発症することが判明したため,肺がんと組み合わさった石綿肺について,職業病として労災補償の対象疾患となることを定 めた(甲A28の2の40頁,307の1の6頁)。 c 昭和17年,アメリカのヒューバーは,「職業性の腫瘍及び関連疾病」という詳細な学術論文を発表し,石綿肺と肺がんについて,発がんの危険性を「示唆する」証拠 28の2の40頁,307の1の6頁)。 c 昭和17年,アメリカのヒューバーは,「職業性の腫瘍及び関連疾病」という詳細な学術論文を発表し,石綿肺と肺がんについて,発がんの危険性を「示唆する」証拠があるとし,昭和18年には,石綿肺を伴う肺がんが職業由来のものであることについて指摘した(甲A28の2の40頁・41頁)。 d 昭和18年,ドイツのヴェドラーは,肺の腫瘍に加えて石綿肺を伴う胸膜の腫瘍を職業病であるとして,これに関する2つの報告書を出し,ドイツでは石綿肺に罹患した労働者について29例の解剖が行われ,このうち4件の肺がんと2件の胸膜がんが発見されたこと,また,世界中の文献を調査した結果,石綿疾病に罹った患者について,92例の解剖が報告されており,このうち14例(16%)に肺及び胸膜の悪性腫瘍が見つかっていることを報告した(甲A28の2の41頁)。 e 昭和22年に開催された米国呼吸器科医学会の年次総会において,リンチらは過去18年間に経験した石綿肺40例を検討したところ肺がんを合併した石綿肺は3例(7.5%)であったのに対し,過去10年間の一般剖検例中の肺がん合併症率は1%であったとし,また,文献検討結果から,石綿肺に肺がんを合併した症例が世界中で過去16例報告されているが,石綿肺の剖検例自体が比較的少数であることも考慮すれば,肺がんの合併は過度のように思えると指摘した。そして,当該年次総会の討論のまとめにおいては,今後も注目する必要はあるが,示された証拠は,石綿曝露労働者の肺がん罹患率は高いという現時点の結論を保証するものであるとされた。これらの報告等については,昭和23年発行の「CHEST」に掲載された。(甲A307の1の8頁,313) f イギリスのミアウェザーは,昭和24年に,当時,肺がんの合併率 るとされた。これらの報告等については,昭和23年発行の「CHEST」に掲載された。(甲A307の1の8頁,313) f イギリスのミアウェザーは,昭和24年に,当時,肺がんの合併率が他疾患の場合(0.2から2.4%)よりも高率と指摘されていたけい肺の場合で1.32%(6884例中91例)であったのに対し,石綿肺の場合は,大正13年から昭和21年までに認められた235例のうち31例(13.2%)に肺がんが合併しており,石綿肺の肺がん合併率は明らかに高率であると指摘した(甲A307の1の8頁・9頁,乙アA89)。 g 昭和26年,グロインは,個別調査により,肺がんの発生が,解剖した石綿肺の患者では14.1%(121例中17例)であるのに対し,けい肺患者では6.9%(796例中55例)であることを発見した(甲A77の2の1頁)。 h 昭和27年9月22日から同月26日まで,アメリカのニューヨーク州のサラナク研究所において,じん肺症に関する第7回サラナクシンポジウムが開催された。同会議において,ミアウェザーは,イギリスにおいて,大正13年から昭和22年までの間に石綿肺により306人が死亡し,そのうち肺がん(肺以外のがんを併発していた10例は除外)を併発していた患者は16.2%を占めていることを報告し,肺がんを石綿によるリスクに加えるべきかどうかという問題に決着をつけるために,詳細なデータを入手する必要があることを強調した。 (甲A140の1の136頁・137頁)i 昭和28年,イッセルバッハらは,それまでに報告された20例の肺がん合併石綿肺症例の剖検例を整理し,これらのうち16例(80%)までが下葉であり,これは石綿肺を合併しない肺がんの場合と異なった特徴であって,石綿線維が肺の下葉にとどまりやすく,石綿肺所見も多 肺がん合併石綿肺症例の剖検例を整理し,これらのうち16例(80%)までが下葉であり,これは石綿肺を合併しない肺がんの場合と異なった特徴であって,石綿線維が肺の下葉にとどまりやすく,石綿肺所見も多いことに対応するものであると指摘し,さらに,石綿肺罹患者中の肺がん合併症率が一般集団よりも高率であることから,「石 綿線維は,その慢性的,機械的な刺激によって,発がん作業を発揮するのであろう」とした(甲A307の1の17頁)。 j 大正13年にロバートソン(Robertson)が胸膜原発の悪性腫瘍の存在を否定し,これらを発生的に二次的なものであるとして以降,これを支持する考え方が出される一方で,胸膜原発の腫瘍が多くの研究者たちの論文で言及されるようになり,昭和17年のマレーら及び昭和25年のヴァイス(Weiss)らによる組織培養実験により,これらの腫瘍が中皮腫原発であることが確認された。また,ヴァイスは,昭和28年に胸膜腫瘍の事例を報告し,翌昭和29年にはライヒナー(Leichner)が中皮腫について石綿肺への合併例として報告した。 (甲A29の10頁・11頁,140の1の139頁,乙アA40の91頁・117頁)(イ) ドール報告(昭和30年)サラナクシンポジウムにおいてイギリスの肺がんの発生状況について聞かされたノックス医師(昭和24年からターナー&ニューウォール社の本拠地であるターナー・ブラザーズ社のロッヂデール工場の顧問医)は,ロンドン衛生熱帯医学大学院のドールに対し,以前に行った100例ほどの検死記録に関して死後解剖の処理方法に問題がないか等について照会し,これを受けて,ドールは,ターナー・ブラザーズ社の了解のもと,昭和10年から昭和27年までの間,同社の石綿紡績工場において勤務していた労働者の病理解剖記録105 方法に問題がないか等について照会し,これを受けて,ドールは,ターナー・ブラザーズ社の了解のもと,昭和10年から昭和27年までの間,同社の石綿紡績工場において勤務していた労働者の病理解剖記録105例を調査するとともに,石綿粉じん曝露の可能性がある場所での労働に20年以上従事していた113名の男性を対象とした死亡率調査を行った。 ドールは,昭和30年に,「アスベスト労働者における肺がんによる死亡」と題して,前記調査結果について報告した(ドール報告。甲A77の2)。同報告によれば,調査対象とした105例のうち,肺がんに よる死者は18人で,石綿肺合併肺がんが15人(男性14人,女性1人)で,石綿肺が病理報告書に認められない肺がんが3人であった。15人は,昭和10年から昭和26年にかけて死亡していた。石綿曝露の時期は遅い人でも大正11年から始まっており,石綿肺を併発していた患者の中には,粉じん規制が始まった昭和8年以降の曝露による者はいなかった。分析の結果,肺がんは石綿労働者に発生する職業病であって,20年以上雇用されている男性労働者の肺がんリスクは,一般の人の10倍になると結論付けた。 また,ドール報告の結論において,ドールは,アスベスト産業規則による規制前について,粉じん曝露期間が短いほど,石綿労働者の肺がんによる死亡リスクが減少しているとも述べた。 当該調査では,イギリスの石綿紡績工場で20年以上稼働した男性労働者113人を対象として,過去に遡って調査が行われ,その結果,肺がんによる死亡者が11人いたことや,それが一般男性の肺がん死亡率に基づく期待値に比べ13倍以上高いことが報告された。 ドール報告は,石綿と肺がんの関連性を示唆した世界で初めての疫学的な調査報告であるが,いわゆる「後ろ向きコホート研究」という過去 肺がん死亡率に基づく期待値に比べ13倍以上高いことが報告された。 ドール報告は,石綿と肺がんの関連性を示唆した世界で初めての疫学的な調査報告であるが,いわゆる「後ろ向きコホート研究」という過去の症例に遡ってデータを収集する研究手法が用いられていた。そのため,肺がんの原因の1つである喫煙の影響といった要因は,データが存在しないために考慮されなかった。 なお,ドール報告がなされた後,イギリス政府が石綿による肺がんを賠償対象の職業病として認めるまでにはさらに30年を要したが,これは,部分的には,喫煙に起因する肺がんが増加したことによって,その後の研究がますます複雑にならざるを得なかったためであった。 (甲A30の99頁,77の2,140の1の138頁・139頁,乙アA89) (ウ) ILOは,昭和32年,ILO第5回化学工業委員会に提出した「職業病と職業性中毒からの労働者の保護」と題するレポートの中の「化学物質の吸入による人体への影響」の項において,石綿の化学的性状を簡潔に説明した上で,「石綿肺という疾患は,その人体影響は珪肺に類似しているが,肺の繊維化の特徴や分布の点で珪肺と幾分異なっている。結核との関連は(珪肺と)同様ではないが,石綿肺は少なくとも肺がんの一因になるとされてきている。石綿肺患者の喀痰中には,通常「石綿小体」が認められるが,それは石綿繊維が肺内滞留で変化したものである。」と記載した。 なお,当該レポートについては,我が国の雑誌「労働衛生」の昭和37年11月号及び昭和38年1月号に「ILO資料」として,その一部が労働省労働衛生課の訳により掲載された。 (甲A307の1の18頁,317)(エ) ブラウン・トルアン報告(昭和33年)ブラウン・トルアン報告は,ドール報告後初めての疫学研究である。 部が労働省労働衛生課の訳により掲載された。 (甲A307の1の18頁,317)(エ) ブラウン・トルアン報告(昭和33年)ブラウン・トルアン報告は,ドール報告後初めての疫学研究である。 当該報告では,肺がんと石綿曝露の間の因果関係は,リンチらの昭和10年の報告以来,次第に多くの者に受け入れられていったが,これを肯定できないと考える研究者もおり,意見が一致しているとは到底いえない状況にあること,過去の研究のほとんどが,剖検症例や石綿肺に言及した死亡診断書などで確認された肺がんを扱うにとどまっており,疫学的統計的手法の要件を満たすものでないことから,本研究は,石綿症と肺がんとの間の因果関係の有無を決定するために疫学的統計的手法に合致するようにデザインされたものであるとした上で,カナダ・ケベック市の石綿鉱山の昭和25年時点の労働者名簿に登載されており,かつ5年以上曝露歴のある5958名の石綿鉱山労働者を,昭和25年から昭和30年まで5年にわたって追跡調査した結果,原発性肺がんの発症 例は確定例9例,疑い例3例と診断され,人口10万人当たりに換算したときの確定例の肺がん死亡率(25.3人)は同地域の肺がん死亡率(22.6人)よりわずかに高く,疑い例を含めた死亡率は有意に高くはなかったものの地域の死亡率より50%高率(33.8人対25.3人)であったことを報告した。また,この集団の肺がん死亡率が曝露期間や曝露程度と関連を示さなかったことについて,「石綿の発がん性に対して強い反証を提供する事実」であるとして,石綿に曝露しない他の集団と石綿鉱山労働者とで肺がんによる死亡率は同じ程度であり,石綿への曝露レベルが高い労働者や従事期間が長い労働者が必ずしも肺がん発生が多いわけではないと結論付けた。なお,この報告では,喫煙歴につ 集団と石綿鉱山労働者とで肺がんによる死亡率は同じ程度であり,石綿への曝露レベルが高い労働者や従事期間が長い労働者が必ずしも肺がん発生が多いわけではないと結論付けた。なお,この報告では,喫煙歴についても調べられており,原発性肺がんの確定例9例と疑い例3例の全てが喫煙歴を有していたことが示されている。 (甲A5の91頁,307の1の12頁,乙アA89,98)(オ) ワグナー報告(昭和35年)ワグナーらは,昭和34年,南アフリカのヨハネスブルグで開催された国際じん肺会議で,南アフリカ共和国のケープ州において,石綿鉱山労働者や石綿の運搬労働者,その付近住民で胸膜中皮腫と診断された33例(男性22例,女性11例。このうち28例はケープ・アスベスト地域と何らかの関係を持ち,4例は産業的石綿曝露を受けた者であるとされた。)について,病理診断の再検討,剖検肺中の石綿小体の有無,患者本人及び同居者の職歴,さらに居住歴等を調査した結果,1例を除く32例においてクロシドライトへの曝露の可能性があると報告した。 具体的には,8名に病理組織検査で肺内に石綿小体が証明され(うち6名は鉱山労働者,1名は断熱工,1名はクロシドライト鉱山地域に居住歴あり),残りの者には石綿小体は証明されなかったが,クロシドライト鉱山近隣で誕生成育した経歴や,同地域に幼児期あるいは成人期に転 居してきた経歴があったり,父親が鉱山労働者であるなどした。 また,ワグナーらは,存在が曖昧とされてきた胸膜中皮腫が独立した疾病単位であることを文献的に考察した上で,石綿繊維がワグナーらの胸膜中皮腫患者から証明されたことや,過去に石綿曝露労働者の胸膜中皮腫の症例報告があること等を指摘した。そして同人らの調査によれば,粉じん曝露を受けてから20年から40年以上が経過した後に中皮腫 の胸膜中皮腫患者から証明されたことや,過去に石綿曝露労働者の胸膜中皮腫の症例報告があること等を指摘した。そして同人らの調査によれば,粉じん曝露を受けてから20年から40年以上が経過した後に中皮腫が発症していることが示唆された。また,もし石綿粉じんが中皮腫の発症における1つの要因であれば,同様な症例がクロシドライトとアモサイトが採鉱されているピータースブルク地方やリンデンブルク地方のトランスバール石綿鉱山近辺からも出てくることが予想されるとした。 一方で,ワグナーらは,中皮腫と石綿曝露とを関連付ける病理学的証拠は決定的なものではなく,33例のうちわずか8例に明白な石綿の痕跡があるだけであり,残りの25例については石綿曝露について状況証拠を示せるにすぎないとした。 なお,ワグナー報告の末尾には,当該報告採択決定後(昭和35年6月末まで)に,胸膜中皮腫症例が47例に増え,そのうち45例にクロシドライトの曝露が疑われること,また,1例は腹膜中皮腫であったことが付言された。また,昭和36年末には,胸膜中皮腫が87例に,腹膜中皮腫が2例に増えたこと,石綿曝露が証明されなかったのはそのうちの2例であることが報告された。 (甲A29の1頁ないし28頁,307の1の9頁・10頁,308)(カ) マンクーソーによる報告(昭和38年)昭和38年,マンクーソーは,昭和15年から昭和35年半ばまでの間,石綿工場で労働していた従業員(調査時点における退職者を含む)男性1266名,女性229名について追跡調査した結果,石綿肺による死亡が男性22名,女性6名で,新生物による死亡は男性48名,女 性10名であり,新生物の内訳としては,肺がんが19名で最も多く,オハイオ州における特定された各死亡原因に対する性別,人種別及び年齢別死亡率を基に算 ,新生物による死亡は男性48名,女 性10名であり,新生物の内訳としては,肺がんが19名で最も多く,オハイオ州における特定された各死亡原因に対する性別,人種別及び年齢別死亡率を基に算出した期待死亡数と比較すると,観察死亡数は,男性で2.8倍,女性で21.2倍に上っていたこと,及び,腹膜中皮腫が男性2人,女性1人に認められたことを報告した(甲A307の1の13頁,314)。 (キ) WHOは,昭和38年11月19日から同月25日にかけて,ジュネーブで,がん予防の国際的知見の点検と実現化を目的として,がん予防に関する専門家委員会を開催し,石綿が十分な証拠がある職業性発がん物質として取り上げられた(甲A307の1の18頁,308)。 (ク) ニューヨーク国際会議(昭和39年)ニューヨークで昭和39年10月19日から21日に開かれたニューヨーク科学アカデミー主催によるニューヨーク国際会議は,石綿による健康への影響を主要テーマとして公式に取り上げた世界で初めての会合となった。 同会議では,①現代技術における材料としてのアスベスト,②肺組織と鉱物:病因論,③アスベストの人体曝露:職業環境,④アスベストの人体曝露:一般環境,⑤アスベストの人体曝露:粉じん抑制と基準,⑥石綿肺の臨床研究,⑦アスベストと新生物:実験的研究,⑧アスベストと新生物:疫学,⑨アスベストと新生物:びまん性の中皮腫,⑩課題と今後の展望,といった10のセッションが設けられていた。参加者は,アメリカ,カナダ,イギリス・アイルランド,ドイツ,フランス,イタリア,フィンランド,オーストラリア,南アフリカなどから集まり,研究者や政府関係者のみならず,ジョンズ・マンビル社,ケープ社,ターナー・ブラザーズ社といった石綿関連の主要企業の関係者も加わっていた。 ンド,オーストラリア,南アフリカなどから集まり,研究者や政府関係者のみならず,ジョンズ・マンビル社,ケープ社,ターナー・ブラザーズ社といった石綿関連の主要企業の関係者も加わっていた。 同会議においては,アメリカのヒューパーが,非職業曝露にあたる集団として,石綿処理施設や紡績工場周辺の住民,石綿が輸送される道路周辺の居住民や勤務者,石綿断熱材を使用した住宅の居住者をあげ,さらに,採掘や加工,セメント製品の製造と消費,紡織品の製造などの段階で起きる非職業性の曝露の可能性を指摘し,結論として,過去50年の間に進んできた石綿の産業利用がさまざまな形で曝露の機会を拡大させ,石綿製品の使用や関連工場の周辺での活動も含まれるようになったことを指摘した。また,セリコフやニューハウスらは後記(ケ)及び(コ)の発表を行った。 (甲A140の1の146頁ないし149頁)(ケ) セリコフの報告(昭和39年)セリコフらは,①過去数十年のアメリカの工場の条件下における,石綿に曝露した労働者集団の肺がんによる死亡率,②前記集団について,他の新生物についてもリスクの上昇が認められるのか否か,③過去のほとんどの報告は石綿製造業や石綿製品産業であったことから,これらの産業以外についても前記のようなリスクが認められるか否か,というファクターの研究のために調査を行った。 それまでの研究によれば,石綿肺に合併して起こる新生物は,最初に石綿に曝露してから20年以内に発症することはめったにないとされてきたことから,当該調査においては,ニューヨーク・メトロポリタン地区において20年以上石綿に曝露した石綿絶縁作業労働者(断熱工。男性)に限定して行われた。昭和18年1月1日時点における対象者は632名(そのうち225名が昭和38年1月1日までに死亡)であり ン地区において20年以上石綿に曝露した石綿絶縁作業労働者(断熱工。男性)に限定して行われた。昭和18年1月1日時点における対象者は632名(そのうち225名が昭和38年1月1日までに死亡)であり,そのうち339名が昭和18年1月1日時点において最初の曝露から20年が経過しており,残りの293名は同日以降昭和37年末までのどこかの時点で最初の曝露から20年を経過した者であった。 セリコフらは,前記632名について昭和37年末まで追跡調査(コホート研究の一種)を行った結果,断熱労働者の肺がんの発症率は予想される発症率のおよそ6,7倍と著しく高く,45名が肺ないし胸膜のがん(肺がん41名,胸膜中皮腫3名,腹膜中皮腫1名)で死亡していたことが判明したが,これらのデータは「石綿肺患者における肺がんの発症率」を示すものではなく,我々の調査における特定の条件に基づくものであるとして,これらのデータが石綿製品の製造工場,石綿紡織業等の他の産業における石綿曝露に当てはまるとは限らないとした。また,中皮腫に関しては,現時点までに石綿肺における中皮腫の発症率に関する情報は得られていないが,個々の症例報告が増加していることからすれば,中皮腫は石綿に比較的よく見られる合併症になってきているとした上で,セリコフらの調査によっても,20年以上断熱工の職歴を持つ255名の死亡男性のうち3名が胸膜中皮腫によって死亡しており,このうち組織学上の資料を検討することができた2名については石綿小体が存在したことから,胸膜中皮腫は一般に非常に稀な腫瘍であって,死亡率が1%以上というのは非常に高いと評価した。 なお,セリコフ報告の末尾においては,工業における石綿曝露はこの物質を利用する特定の技術に限定されるわけではなく,例えば,断熱工は他の同僚と曝露を共に 率が1%以上というのは非常に高いと評価した。 なお,セリコフ報告の末尾においては,工業における石綿曝露はこの物質を利用する特定の技術に限定されるわけではなく,例えば,断熱工は他の同僚と曝露を共にしており,電気技師,配管工,板金工,蒸気管取付作業員,大工,ボイラー製造工,現場監督といった人々は石綿と密接に接触する可能性があり,監督にあたる建築家ですら含まれるであろうことを指摘している。 当該調査結果(石綿製品の製造作業者ではなく,それまで低濃度で間欠的な曝露のため危険性は低いと考えられていた断熱作業者に,多くの被害者が発生していたこと)については,ニューヨーク国際会議で報告されたほか,アメリカの医学雑誌に掲載された。 (甲A30の100頁,140の1の148頁・149頁,204,307の1の13頁,315,乙アA89)(コ) ニューハウスの報告(昭和40年)ニューハウスは,昭和39年10月にニューヨーク国際会議において,イギリスのロンドン病院で大正6年から昭和39年まで(約50年間)のロンドン病院が収集した長期間の病理学的記録を利用して,検死解剖等で中皮腫と診断された83例のうち,職歴及び居住歴が入手できた76例を対象に,石綿曝露歴の割合を他疾患と比較した結果,中皮腫を発症した症例では,50%以上(52.6%)が職業又は家庭内での曝露によるもので,それ以外に約3分の1(11名)がケープ・アスベスト社工場から半マイル(約800m)以内に住んでいたこと(症例対照研究)を報告し,その内容は同会議直後の昭和40年に出版された。 調査対象患者中,最初の患者死亡例は大正6年で,昭和25年までに10名が死亡,昭和25年から昭和34年までの間に33名が死亡し,最年少の死亡例は33歳であったこと,半数近い患者が55歳以前に死 調査対象患者中,最初の患者死亡例は大正6年で,昭和25年までに10名が死亡,昭和25年から昭和34年までの間に33名が死亡し,最年少の死亡例は33歳であったこと,半数近い患者が55歳以前に死亡していることを報告した。また,治療方法としては,肺切除,肺皮質除去,深部エックス線療法,放射性金の点滴注入,細胞障害薬の投与などが単独または組み合わせて施行されたが,病気の進行を抑える効果が殆どなかったことや,中皮腫は病気の進行が早く,発症から2年以内に死亡する者がほとんどであったこと等の臨床的特徴についても述べられていた。 同報告では,職業的な石綿曝露あるいは家庭内における石綿曝露のどちらにも中皮腫を引き起こす危険性があることについては疑いがないとして,家庭内曝露のような低濃度曝露でも中皮腫を発症し得ることを指摘したが,石綿工場や石綿が大量に使用されている港湾などの近くの住民に対する危険性を喚起するためにはさらに検証が必要であるとまとめ られた。 なお,ニューハウスは,同報告において,中皮腫患者のグループと比較するためのグループ選択は理想的なものであったとはいえないと述べている。 (甲A29の29頁ないし49頁,30の101頁,307の1の13頁・14頁,乙アA89)(サ) UICC報告と勧告(昭和40年)a 昭和8年に結成されたUICCは,前記ニューヨーク国際会議終了の翌日の昭和39年10月22日と同月23日に,ニューヨークで石綿とがんに関するワーキンググループ(UICCワーキンググループ)をUICCの地理病理学委員会の後援で開催した。これには,8か国から40名の代表が参加し,疫学,病理学及び実験病理学,物理及び科学の各分野のパネリストが集まり,最終セッションでハロルド・スチュワート博士(アメリカ)を議長とし の後援で開催した。これには,8か国から40名の代表が参加し,疫学,病理学及び実験病理学,物理及び科学の各分野のパネリストが集まり,最終セッションでハロルド・スチュワート博士(アメリカ)を議長として,UICC報告と勧告が発表された。その内容の全文が,当時の環境医学と産業医学の代表的な雑誌に掲載された。(甲A307の1の18頁・19頁,乙アA90の2)bUICC報告と勧告においては,検討課題として,疫学については,①単一種類の石綿繊維に曝露した集団及び地域における胸膜及び腹膜の中皮腫の発生率を調査すること,②石綿粉じんに曝露したが,石綿肺の発生率の低いことが知られている,或いはそう信じられている母集団における気管支がんのリスクを検討すること,③他の腫瘍の発生率を検討することが,病理学及び実験病理学については,①中皮腫の診断基準を確立し,診断の標準化の助けとなる資料を集め,協議のためのパネルを設立すること,②石綿肺による肺線維症の程度を評価するための基準を開発すること,③喀痰,新鮮肺,及び固定組織中の石 綿繊維及び石綿小体の量を半定量的に評価する標準的な方法を開発すること,④様々な国における照合作業が挙げられていた(甲A307の1の18頁・19頁,乙アA90の2)。 cUICC報告と勧告では,「石綿粉じん曝露とがんとの関係」の表題のもと,次の内容の記載がされた。 商業的に重要かつ主要な石綿には,アモサイト,アンソフィライト,クリソタイル,クロシドライト及びトレモライトがある。石綿への曝露と悪性腫瘍の発生との間に関係があることを示す証拠がある。これは主として,ドイツ,イタリア,南アフリカ,イギリス及びアメリカからの研究報告に基づいて確立されたものである。石綿粉じんへの曝露との関連が示されている腫瘍には,①肺が あることを示す証拠がある。これは主として,ドイツ,イタリア,南アフリカ,イギリス及びアメリカからの研究報告に基づいて確立されたものである。石綿粉じんへの曝露との関連が示されている腫瘍には,①肺がん,②胸膜と腹膜のびまん性中皮腫がある。消化器系悪性腫瘍との関係も示唆されており,卵巣腫瘍との関連の可能性もある。 最初に粉じんに曝露されてから,それが関係する腫瘍に発生するまでの潜伏期間は非常に長く,通常20年或いはそれ以上である。最高60年に及ぶ症例が報告されている。この理由から,現在では石綿粉じんへの曝露は著しく減少しているものの,これらの石綿に関連した悪性腫瘍は今後も多年にわたって発生することが予想される。 関連する肺がんは,どれか単一の石綿繊維への曝露に限定されたものではないことを指摘する証拠が現在ある。しかしながら,さらなる調査を行って,吸入した繊維の種類がリスクの程度により関係しているかどうかを証明することが,緊急に必要である。 幾つかの国からの中皮腫の証拠は,クロシドライトへの曝露が特に重要かもしれないと示唆してはいるが,このタイプの繊維だけがこれらの腫瘍に係わっているとの結論を下すことはできないので,この問題をさらに調査することが必要である。 ある種の石綿は,天然のままの状態では,油,蠟,及びその他の有機物を含んでいることが分かっている。さらに採掘後の石綿繊維は,炭化水素を吸収しやすいものがある。少量或いはごく微量のニッケル,クロム等の様々な元素との結合が見られるタイプの繊維もある。石綿粉じんへの曝露後の腫瘍の形成において,このような結合物質がどのような役割を果たすかは,未だ明らかにされていない。 すべての国において,様々な用途への石綿の使用が激増していることに関連付けて考えると,石綿粉じんへの曝露か 形成において,このような結合物質がどのような役割を果たすかは,未だ明らかにされていない。 すべての国において,様々な用途への石綿の使用が激増していることに関連付けて考えると,石綿粉じんへの曝露からの,現在広く認識されている以上に深刻で広範囲に広がる危険が存在するであろうことが,これらの発見によって示唆されているのである。 (甲A207の2・4,307の1の18頁・19頁,乙アA90の2)d そして,UICC報告と勧告では,「疫学的研究を必要とする諸問題についての勧告」,「病理学及び実験病理学についての勧告」及び「物理学及び化学に関する勧告」として,今後検討されるべき課題が詳述された。 (甲A307の1の19頁,乙アA90の2)(シ) 昭和40年以降昭和47年開催のILOによる専門家会議以前における研究報告等a ハリスの報告ハリス(Harries)は,昭和43年,海軍の造船所における断熱作業労働者について調査し,昭和34年から昭和43年までの間において,石綿に曝露された群においては,がん死亡の超過危険(相対危険度)は認められなかったが,中皮腫の発生が曝露開始以後の経過時間(潜伏期間)とともに,急激に増加したことが認められたと報告した。 特に,昭和22年から昭和30年にかけて高濃度のクロシドライトを 用いた断熱塗装が実施されたことから,がん発生の影響は,1970年代以降においてみられるようになるであろうと述べた。(乙アA40の118頁・119頁)b クリソタイル及びアモサイトと肺がん及び中皮腫の関連性についての研究報告等(a) マクドナルドらは,昭和46年,カナダのケベック州にあるクリソタイル鉱山及び工場で雇用された労働者1万2000名を対象とした調査を行い,比較対照をケベック州の一般人口死亡率と の研究報告等(a) マクドナルドらは,昭和46年,カナダのケベック州にあるクリソタイル鉱山及び工場で雇用された労働者1万2000名を対象とした調査を行い,比較対照をケベック州の一般人口死亡率として,調査の結果,総体的な死亡率はケベック州全体よりも低く,肺がんのリスクは用量依存性で,過去に最も酷く粉じん曝露を受けていた労働者は最も軽度であった者に比べそのリスクが5倍にのぼったことから,極めて高い曝露を受けた場合には死亡の増加が示唆されるものの,死亡者2413名中,肺がんによる死亡は97名,中皮腫による死亡は3名しかおらず,肺がんや中皮腫による死亡の有意な増加はないと報告した(甲A5,乙アA40の113頁,89の18頁,97の2の11頁)。 (b) セリコフらは,昭和35年から昭和46年にかけて,断熱材製造工場においてアモサイトのみに曝露した230名の労働者について調査し,全死亡では期待死亡値が46.4であるのに比して観察値は105であり,肺,胸膜,気管支,気管のがんでは期待死亡値が2.4であるのに比して観察値が27と高かったこと及びがん死亡のうち,肺がん25例,胸膜中皮腫2例,腹膜中皮腫が3例認められたことを報告している。また,胃,大腸,直腸のがんについては期待死亡値は1.6であるのに比し観察値は5でありやや高く,全がんの死亡率は期待値8.5に対して観察値43と約5倍弱の高率であったと,昭和39年,昭和43年,昭和 48年,昭和49年に報告した。さらに,前記追跡調査を継続して行い,昭和51年に,昭和39年の報告と同じ傾向の結果が得られたことを報告した。(甲A5,乙ア40の110頁)(c) ワグナーは,昭和47年,過去における各国の疫学的報告とマクドナルドらの調査成績をから考えて,ケベックのクリソタイル鉱山地 の結果が得られたことを報告した。(甲A5,乙ア40の110頁)(c) ワグナーは,昭和47年,過去における各国の疫学的報告とマクドナルドらの調査成績をから考えて,ケベックのクリソタイル鉱山地域の中皮腫発生はワグナーらが調査観察したクロシドライト鉱山地域における場合とその様相を異にするが,ソ連におけるスベドロスクとウラルのクリソタイル鉱山地域の疫学的所見はケベックの石綿鉱山地域とほぼ同じ結果であるとした。そして,石綿繊維の種類については,過去労働者が曝露した石綿繊維の種類に関する情報は不完全であり,クロシドライトの使用量は少なかったが,クロシドライトはクリソタイルやアモサイトに比して中皮腫の発生により強く関与しているのではないかなどと述べ,この発がん性に関する疫学的情報の差については,クロシドライトとクリソタイルの鉱物学的,物理学的特性による差であるとした。 (甲A5,乙アA40の117頁)c 石綿曝露労働者における肺がん及び中皮腫と喫煙に関する研究報告等セリコフらは,昭和43年に,肺がん発生については,石綿断熱作業労働者のうち喫煙歴をもつ群では,石綿曝露も喫煙歴もない群に比して約92倍の相対危険度が認められ,石綿曝露者のみで考える場合は,喫煙者群では非喫煙者群に比して相対危険度が約12倍であったと報告した。なお,その後の追跡調査から,セリコフらは,昭和48年,前記昭和43年と同様の傾向を認めているが,非喫煙者群における肺がん発生の危険度の増加については,はっきりしないと述べた。 石綿曝露労働者でかつ喫煙習慣がある者について肺がんの危険度が増 加することについては,ドールも,昭和46年に,これを認める旨の報告を行った。(甲A5,乙アA40の119頁)一方,中皮腫と喫煙に関して,セリコフらは,昭和45年に,ニ の危険度が増 加することについては,ドールも,昭和46年に,これを認める旨の報告を行った。(甲A5,乙アA40の119頁)一方,中皮腫と喫煙に関して,セリコフらは,昭和45年に,ニューヨーク石綿断熱作業労働者の1092例の死亡のうち,胸膜の中皮腫による死亡は26例,腹膜の中皮腫による死亡は51例であったが,胸膜の中皮腫では例数が少なかったため喫煙との関連について結論を下すことができず,腹膜の中皮腫については喫煙がその発生率を高めるという事実は認められなかったとした。このセリコフらの報告については,ワグナーも,昭和47年に,喫煙が肺がん死亡の相対危険度を高めていると考えられるが,中皮腫については,喫煙との関連は認められないとした。(乙アA40の120頁)d 動物実験による研究報告等(a) 吸入実験昭和26年発表のVorwald の実験,昭和32年発表のリンチらの実験,昭和38年発表のワグナーの実験,昭和41年発表のHolt の実験では,いずれも肺がん又は中皮腫の発生は認められなかったが,すべて肺線維症の発生を認めるとともに,上皮の腺腫様増殖像を認めている点で共通した所見を得ていた(甲A5,乙アA40の23頁・24頁)。 昭和42年,Cross らは,ラットを用いた石綿の吸入実験において,初の肺がん陽性成績を得た。曝露群全体としては,72頭中25頭(31%)に肺悪性腫瘍の発生を認め,腫瘍は1から5㎜径,大部分は腺がんで若干の扁平上皮がん,線維肉腫を含んでおり,他に1例の中皮腫,数例の腺腫がみられるなどした。昭和49年に発表されたReeves の実験においては,クロシドライト,アモサイト,クリソタイルを使用し,数種類の実験動物を用いたと ころ,全ての種類の動物種に肺線維症の発生を認め,さらにマウ 9年に発表されたReeves の実験においては,クロシドライト,アモサイト,クリソタイルを使用し,数種類の実験動物を用いたと ころ,全ての種類の動物種に肺線維症の発生を認め,さらにマウスは自然発生性の乳頭状がん,ラットでは7から9%と定率ではあるが,全ての種類の石綿に肺がん及び中皮腫の発生を認めた。 ワグナーらは,昭和49年,SPF・ウイスターラットを用い,アモサイト,アンソフィライト,クロシドライト,クリソタイルを使用した結果,用いられた全ての種類の石綿に肺の腺がんと扁平上皮がん及び中皮腫の発生を認めた。曝露群総計887頭中247頭に腫瘍(肺腺腫及び腺腫症,肺がん,中皮腫)が観察された。(乙アA40の24頁・25頁)(b) 気管内注入実験気管内注入実験は,吸入実験に比べて大量の粉じんを一時に投与することが可能で,肺組織内でも局所的に比較的多量の粉じんが停滞し,強い局所反応を起こす特徴がある。しかし,昭和40年発表のスミスの実験及び昭和49年発表のShabad らの実験では,肺がんの発生は見られなかった。(乙アA40の26頁・29頁)(c) 漿膜内注入実験昭和37年に発表されたワグナーの実験では,クリソタイル(線維及び粉じん),クロシドライト,アモサイトを各50㎎,ラットの胸腔内に注入し,クリソタイル群50頭中に3例の中皮腫を見出した(乙アA40の29頁)。 スミスらは,昭和40年にハムスターを用いて25㎎の石綿の胸腔内注入実験を行った結果,中皮腫が発生し,転移の認められた症例や移植が成功した例があり,また,もろいクリソタイルでは催腫瘍性があったが,柔軟なクリソタイルには認められなかった(乙アA40の29頁)。 昭和42年に発表されたJagatic のマウス腹腔注入実験では,純 度50%の いクリソタイルでは催腫瘍性があったが,柔軟なクリソタイルには認められなかった(乙アA40の29頁)。 昭和42年に発表されたJagatic のマウス腹腔注入実験では,純 度50%の市販クリソタイル粉じんを用いたところ,増殖性かつ侵襲性の広汎な線維症の発生を認めた。しかし,その像は中皮腫に類似するが悪液質はみられず,かならずしも悪性腫瘍とはいいきれないとされた。(乙アA40の29頁)ワグナーらは,昭和43年,アモサイト,クリソタイル,クロシドライト(天然及び脱油試料)各20㎎をラット胸腔内に注入し,生涯にわたって観察したところ,いずれの石綿においてもそれぞれ中皮腫の発生を認め,その組織型はヒトのそれに類似しており,紡錘型細胞と上皮成分の混合型が大部分を占めていたと報告した。当時,天然の油や蠟,繊維の粉砕等が腫瘍の原因になるとの提言も為されていたが,当該実験においては,油を除去したクロシドライトの実験結果が未処理の繊維の結果に極めて近かったことから,石綿に含まれる油成分などの影響についても徐々に解明されるに至った。(乙アA40の29頁,97の2の9頁)スタントンらは,昭和44年,石綿その他の試料を懸濁液とし,この液で飽和させたガラス繊維製のガーゼでラットの肺の表面を覆う方法により,短期間かつ高率に中皮腫を発生させることに成功した。これに引き続き,石綿以外にも,ガラス繊維,酸化アルミニウムなど繊維状形態を持つものについて同様の方法で実験を行った結果,腫瘍を発生させることが分かったことから,径0. 5ないし5μ,長さ20μないし80μの大きさの繊維が最も影響が強く,これ以外の大きさであったり,非繊維性であると,がん原性は弱まると述べた。さらに,スタントンとレンチ(Wrench)は,昭和47年,各種の石綿ガラス繊維, いし80μの大きさの繊維が最も影響が強く,これ以外の大きさであったり,非繊維性であると,がん原性は弱まると述べた。さらに,スタントンとレンチ(Wrench)は,昭和47年,各種の石綿ガラス繊維,シリカ,金属粒子などを用い,前記と同様の方法で実験したところ,アモサイト,クリソタイル,UICC標準クロシドライト,南アメリカ 産クロシドライト,UICC-SRASクロシドライト,磨砕機で磨砕をしていないクロシドライト原鉱では58ないし75%の高率の中皮腫発生が見られ,発生率は10ないし40㎎の間では投与量に比例したのに対し,長時間磨砕機により微細粉末化したクリソタイルでは,発生率は20ないし30%に低下し,ニッケルの細粉等は通常の石綿の混在量以上の投与量でも中皮腫を発生せず,非結晶性シリカ等では,48例中1例の中皮腫を発生したにとどまり,一方,担体に使用されたガラス繊維を5ないし10μ径で短繊維化すると,91頭中4例の中皮腫が見られ,径0. 06ないし3μの細いガラス繊維を更に磨砕して石綿繊維の長さまで短繊維化すると中皮腫の発生率は12ないし18%に上昇したことから,石綿及びガラス繊維のがん原性は,その物理化学的性質よりもむしろその形状に関連しているという考え方を示した。 (乙アA40の30頁,97の2の10頁)ワグナーも各種石綿の胸腔内注入実験を行い,昭和48年に,石綿及びブルサイトにかなりの率で悪性腫瘍の発生を認め,摂取量と発生率に並行関係を認め,また,UICC標準試料の中では,クロシドライトの腫瘍発生率が最も高かったと報告した。さらに,同時にテストを行った合成けい酸アルミニウム,硫酸バリウム,ガラス粉末,酸化アルミニウムなどでも,ごく少数の腫瘍発生が認められた。(乙アA40の30頁・31頁)昭和48年に発表され た。さらに,同時にテストを行った合成けい酸アルミニウム,硫酸バリウム,ガラス粉末,酸化アルミニウムなどでも,ごく少数の腫瘍発生が認められた。(乙アA40の30頁・31頁)昭和48年に発表された,Engelbrecht とBurger の実験においても,ラット腹腔で,石綿を含む各種のけい酸塩について陽性成績を得ており,クロシドライトの腫瘍発生率は90%であって,クリソタイルの30%に比べて高い値であった(乙アA40の31頁)。 (ス) ILOによる専門家会議ILOは,昭和47年1月,ジュネーブにおいて,「職業がんについての専門家会議」を開催し,同専門家会議において,石綿は職業がん(肺,肋膜のがん)の危険性がある物質であることが報告され,①種々な形態の石綿は,人間の肺がんを発生させることが証明されていること,②クロシドライトは,肺に石綿による損傷の兆候がないのに発生する一種のがんである職業中皮腫(肋膜及び腹膜)の主要原因物質として考えられており,その他の形態の石綿(ことにクリソタイル,アモサイト)は,一種のじん肺,石綿肺を起こすことは多年知られているが,それが肺に発がん作用を及ぼすという疑問が流行病学的証拠によって確かめられたのはごく最近であったこと,③そのがんは太い気管に発生し,今日知られる限りでは,肺に既にじん肺の兆候がある労働者にだけ発生すること,④肺がんの流行疫学は,紙巻き煙草喫煙が肺に発がん効果を与えることが一般に認められたので複雑になっている,もっとも,石綿にさらされることと紙巻き煙草の喫煙との効果は,相乗的でないとしても合計したものであるという証拠があること等が報告された。(甲A307の1の20頁,乙アA6)(セ) IARC報告WHOの下部機関で「人のがんの原因と発がんの機序に関する研究を 的でないとしても合計したものであるという証拠があること等が報告された。(甲A307の1の20頁,乙アA6)(セ) IARC報告WHOの下部機関で「人のがんの原因と発がんの機序に関する研究を調整し実行するとともに,がんの予防と制御のための化学的な方略を開発することを使命」とするIARC(昭和40年設置)は,昭和47年10月2日から同月6日に,フランスのリヨンにおいて,IARCリヨン会議を開催した。そして,同会議の結果に基づき,IARC報告書を作成し,昭和48年に公表した。 IARC報告は,「全般的展望」として,UICC報告と勧告で示された課題について,以下のとおり,質問に対する回答の形式で答えてい る。 ①質問「市販されている主要なタイプ(種類)の石綿は全て肺がんを惹起しうるのか?」回答「そのとおりである。1964年以降,肺がんの発現率に関し曝露-反応の関連性を明らかにした疫学的研究により,因果関係を証明する証拠が増えてきている。」②質問「都会で一般の人々が遭遇するような低レベルの石綿曝露でも肺がんリスクが高まることを証明する証拠があるのか?」回答「一部には過去の粉じん測定器をもとにし,また一部は産業内の仕事の種類を基にしている曝露-反応の関連性についての証拠から,職業曝露レベルが低い場合には,過度の肺がんリスクは検出されないことが示唆されている。このような低レベルでの職業曝露であっても,一般の人々が一般的大気汚染のために曝露されるものに較べれば遙かに高いレベルであるといえる。」③質問「都会で一般の人が遭遇するような低レベルの石綿曝露でも,中皮がんのリスクが高まることを証明する証拠はあるのか?」回答「クロシドライトの鉱山や様々なタイプの石綿繊維の混合物を使用している工場の近隣では,中皮腫瘍と大 遇するような低レベルの石綿曝露でも,中皮がんのリスクが高まることを証明する証拠はあるのか?」回答「クロシドライトの鉱山や様々なタイプの石綿繊維の混合物を使用している工場の近隣では,中皮腫瘍と大気汚染との関連性を示す証拠が得られている。この証拠は,何年も前の状態に関してのものである。 クリソタイルやアモサイト鉱山の近隣に存在するような石綿大気汚染により中皮腫のリスクが特に高くなるということを証明する証拠はない。 都会と田舎では中皮腫の発現率に差があるといわれているが,その原因は立証されていない。現在のところ,一般の人々へのリスクを証明する証拠はない。」④質問「1964年以降に,石綿への過去の曝露と中皮腫との関連性についての証拠が変化したか?」 回答「多くの国の石綿に曝露された母集団における更なる予測的(前向きの)および回顧的(後向きの)死亡率研究により,証拠は更にかなり強力なものとなった。市販の全てのタイプの石綿とも,アンソフィライト以外は全て,この疾患を引き起こし得るという証拠が得られている。 このリスクは,職業ごとに,また,石綿の種類毎に,大きく異なることを示す証拠も増えている。クロシドライトがリスクが最も高く,アモサイトではリスクはそれより低く,クリソタイルではリスクは明らかに低い。」また,石綿曝露と喫煙習慣との関連については,「煙草の喫煙は,男性でも女性でも,石綿に曝露される労働者における肺がんのリスクを高める重要な要因である。石綿労働者は自らの健康を守るために喫煙をやめるべきということには特に強い根拠がある。煙草の喫煙と中皮腫との関連性は,証明されていない。」と報告された。 最後に,IARC報告においては,今後検討すべき課題として,「疫学」,「病理学・実験病理学」,「病理解剖学・組織学」の項目に分けて 草の喫煙と中皮腫との関連性は,証明されていない。」と報告された。 最後に,IARC報告においては,今後検討すべき課題として,「疫学」,「病理学・実験病理学」,「病理解剖学・組織学」の項目に分けて勧告された。 (甲A307の1の20頁・21頁,316)(ソ) IARCモノグラフ第2巻IARCは,昭和48年のIARC報告を踏まえ,同年,IARCモノグラフの第2巻(乙アA1,97)を公表した。このIARCモノグラフ第2巻は,「石綿の科学的・物理学的データ」,「用途及び発生」,とともに,「人間への発がんリスク評価に関連する生物学的データ」として,それまでに実施された動物における発がん性研究や人間における所見について詳細に紹介した上で,動物への発がん性について,実験で注射すると商業的に使用されるいずれの種類の石綿でも中皮腫を起こし得るとし,商業的に使われる4種類の石綿の吸入により,少ない割合なが らラットへ中皮腫及び肺がんが発生したとする研究結果に言及している。 また,人への発がん性の評価については,「クリソタイル鉱山及び工場の労働者においては小さく,アモサイトについてもおそらく同様であろうという,実質的証拠がある。一部のクロシドライト鉱山及び工場地域は,比較的高い中皮腫のリスクに関連づけられている。これらの鉱山の周辺地域は,時に相当な石綿粉じん曝露に見舞われてきた。これらの住民に中皮腫が見られる。」,「石綿への産業曝露は通常,混合型の繊維への曝露で,特に織物,絶縁材,石綿セメントなどの製造や塗布が行われる場所に多く,ごく近所でも発生している。石綿労働者の家族にも,中皮腫と診断される例が時々ある。」,「重大な肺がんの過剰リスクは通常,過去の激しい曝露に起因する。産業の様々な領域におけるリスクの差は,1つの要因に帰せられ も発生している。石綿労働者の家族にも,中皮腫と診断される例が時々ある。」,「重大な肺がんの過剰リスクは通常,過去の激しい曝露に起因する。産業の様々な領域におけるリスクの差は,1つの要因に帰せられるものではない。繊維の種類,過去の粉じん水準,工程から生じる粉じんの形態,曝露期間の長さといった要因が全て関係する。肺がんのリスクは石綿肺と関係があるようである。」,「製造・塗布産業においては,中皮腫はクロシドライトへの曝露が原因で生じており,アモサイトやクリソタイルが原因となることは比較的少ない。最初の曝露から腫瘍の発現に至る期間は,30年以上が普通である。腫瘍は,他の石綿関連疾患がなくても発生し得る。」,「現時点で,過去の水準における周辺大気あるいは飲料,飲用水,食品,製薬調剤に含まれる石綿粉じんに対する一般集団の曝露が,がんのリスクを増大させたという証拠はない。」,「喫煙は,非喫煙者に比べはるかに大きな度合いで,石綿労働者の肺がんリスクを増大させる。」と述べられている。 (甲A307,乙アA89)イ我が国における報告,調査等(ア) 昭和40年までの研究報告等a 国立公衆衛生院労働衛生学部の鈴木武夫は,昭和26年9月に発行 された,財団法人労災協会発行の「労災」誌に掲載された「労働衛生に於ける諸問題」と題する論文において,「現在見逃されているが将来問題となるものに,癌,有害放射線,皮膚炎,眼障害及び聴覚器官障害がある。現在までに,癌を作り得る化学物質は約二百程分かっている。そのうち現在工,鉱業で使われていると思われるものは第二表のようなものである。」とした上で,第二表の中に石綿を挙げ,発がん部位としては「肺?」と記載した(甲A163)。 b 東京都小石川保健所長であった岡西順二郎は,昭和29年6月に発行され のは第二表のようなものである。」とした上で,第二表の中に石綿を挙げ,発がん部位としては「肺?」と記載した(甲A163)。 b 東京都小石川保健所長であった岡西順二郎は,昭和29年6月に発行された「肺」誌に掲載された「アメリカにおける肺癌について」で,アメリカにおいて肺がんによる死亡者数が増加していること等,昭和20年代のアメリカにおける肺がんの発症,診断,原因等の実情を紹介するとともに,昭和26年にヒューパーが環境や職業とがんとの関係について,肺がんが発生するまでには長い期間(石綿では平均18年)が必要であると報告したことや,ニューヨーク州がん予防課の医師らが煙草と肺がんには何らかの因果関係があるとした調査結果等について触れた(甲A164)。 c 佐野辰雄は,昭和30年7月に発行された「労働の科学」10巻7号「特集珪肺と塵肺」において,「石綿肺と他の疾病の関係で注目されるのは,高率な肺癌合併である。同じく英国の232例中肺癌は31例13.2%,ドイツでは309例の解剖中44例14.2%に達した。これは他の職業者が(発癌物質作業者をのぞいて)発生率1%前後であるのに比べると,いちゞるしく高い。」と述べた(甲A165)。 d 滝一郎は,昭和31年7月発行の「癌研究の進歩」に掲載した「職業癌」において,石綿は近年になって肺がんの原因としてあげられるようになった物質であり,石綿による肺がんは,アメリカ,イギリス, ドイツ,フランス,カナダの諸国より報告されており,総数は数十例に達しているが,我が国では未だ報告がないようであるとし,また,石綿肺には肺がんが高率に伴っていることを指摘した(甲A167)。 そして,昭和35年に発行した同書第2版の「職業癌」においては,ドール報告を紹介する記述を追加した(甲A168)。 e し,また,石綿肺には肺がんが高率に伴っていることを指摘した(甲A167)。 そして,昭和35年に発行した同書第2版の「職業癌」においては,ドール報告を紹介する記述を追加した(甲A168)。 e 日本安全衛生協会は,昭和31年9月に発行した「安全衛生」に掲載した「肺臓がんの原因と環境」において,肺癌の原因物質の1つとして石綿を挙げ,石綿労働者には,呼吸器(肺,喉頭,鼻腔,鼻洞)の職業がんの危害の存在が実証されたとした上,「この職業群に対する肺臓がん発病率は同年齢,同性の一般人口のそれより遙かに上回るのである。職業呼吸器がん犠牲者の大多数は男性であるけれども(そういう危害の多い職業には大概男性が雇われるから)アスベスト産業などの職場で働く女子は男子と同様の発がん率を示すとしている。」とした(甲A166)。 f 神奈川労働衛生衛生課長の山本秀夫と東京大学医学部公衆衛生学教室の芦沢正見は,昭和34年5月発行の「労働衛生の諸問題」に掲載された「塵肺」において,石綿肺と肺がんの関係性を肯定するミアウェザー(昭和22年)とドール報告の見解を紹介し,一方で,否定的見解に立つ者もあり,動物実験では両者の関係を認め得ないとする報告がなされていることも紹介した。そして,我が国における戦前の研究報告は数少なく,最近になって宝来らにより石綿肺症の調査報告や石綿肺の剖検報告等がされてきたことを指摘した。(甲A18)g 労働省労働衛生研究所の坂部弘之は,昭和34年11月に発行された「科学と工業」12巻11号に掲載された「化学工業における職業癌」において,石綿の粉じんを長期にわたって吸入すると,肺の線維増殖性疾患である石綿肺がひきおこされ,グロインは石綿肺の解剖5 0例中6例の肺がんを発見し,イギリスの工場監督官年報でも石綿肺での高い肺がん合 じんを長期にわたって吸入すると,肺の線維増殖性疾患である石綿肺がひきおこされ,グロインは石綿肺の解剖5 0例中6例の肺がんを発見し,イギリスの工場監督官年報でも石綿肺での高い肺がん合併率が報告され,ドール報告においても,石綿肺に肺がんが合併した症例が報告されたこと,昭和28年に開催された肺がんの疫学に関する国際シンポジウムでは石綿肺と肺がんとの間には関係があるという意見に一致を見ていること等を紹介するとともに,我が国においては,なお石綿肺に合併した肺がんの報告はないが,石綿肺における肺の変化に前がん状態を思わすような変化があることは指摘されていると述べた(甲A78)。 h 瀬良らは,昭和35年,我が国で初めて石綿肺合併肺がんの剖検例の症例報告をした(甲A15の130頁,27の14頁)。 i 神奈川労働基準局労働衛生課長であった山本秀夫は,昭和36年7月に発行された「職業病管理」の「粉じん」の項において,「石綿肺には肺がんが合併する率が高いといわれる。」ことを指摘した(甲A20)。 j 東田敏夫は,昭和37年8月に発行された「職業病」において,職業上取り扱う可能性がある発がん性物質として石綿を挙げ,石綿により発症するがんの種類として肺がんを指摘した(甲A21)。 (イ) 「昭和40年度労災保険特別会計災害医学に関する研究委託結果報告書」(甲A145)a 労働省労働基準局は,昭和40年度の災害医学に関する研究委託の一つとして「じん肺と肺がんとの因果関係に関する研究」を取り上げ,これについて東京大学名誉教授であった岡治道(主任研究者)及び吉見ら(共同研究者)により研究された結果が「昭和40年度労災保険特別会計災害医学に関する研究委託結果報告書」にとりまとめられた。 「じん肺と肺がんとの因果関係に関する研究」におい 主任研究者)及び吉見ら(共同研究者)により研究された結果が「昭和40年度労災保険特別会計災害医学に関する研究委託結果報告書」にとりまとめられた。 「じん肺と肺がんとの因果関係に関する研究」においては,「研究の総括と展望」として,石綿肺肺がんの剖検例における著しい高率は, 諸外国の等しく認める点で,石綿肺剖検例の著しい気管支変化,これに伴う異常上皮増殖部の多発は,この両者の因果関係の十分な論拠となり得ると述べられた。そして,「全体の要約」の項においては,じん肺中,石綿肺は長大じんによる慢性の気管支炎症をおこし,拡張気管支部の上皮増殖は著しく,この部に原発性肺がんの合併の多いことはイギリス,ドイツ,アメリカ等の諸外国でも確認されているもので,両者に因果関係を認める論拠は十分と考えられること等が述べられている。(甲A145の30頁ないし32頁)b 慶応義塾大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の土屋健三郎は,同報告書の班員報告「塵埃暴露と肺がんとの関係-疫学的知見より-」において,石綿と肺がんとの関係についての疫学的研究,特に積極的な相関関係を支持する研究はその数も多いが,しかし,その因果関係について否定する研究者も少数ではあるが存在するとした上で,そのような状況下にあっても,石綿と肺がんとの関係は疫学的な証拠から充分に支持するに足ると考えるとし,ただし,その原因がある種の石綿に限られるのか,あるいは石綿に付随している他の物質であるのか,あるいは複数であるのか,という問題は飽くまでも残されており,石綿の場合は他のじん肺症とは別個に考慮されるべきであって,国際的な動向にも注目しながら今後研究が進められることが重要であると述べた(甲A145の50頁ないし52頁)。 c 吉見は,同報告書の班員報告「じん肺と肺がんの文献より」にお 慮されるべきであって,国際的な動向にも注目しながら今後研究が進められることが重要であると述べた(甲A145の50頁ないし52頁)。 c 吉見は,同報告書の班員報告「じん肺と肺がんの文献より」において,石綿肺と肺がんの合併例についてイギリス,カナダ,ドイツ,アメリカの多数の学者によって多数の症例が報告されているとして,海外における症例報告や動物実験例を多数紹介した上,これらの報告等からすれば,石綿肺と肺がんの関連については発生率が高いこと,発生部位が石綿肺病変の強い下肺葉に多いこと,多中心性発生が多く見 られる点等により,石綿肺と肺がんの関連について蓋然性を認めている学者が多いが,その関連性に疑問をもっている学者も少なくはないとし,ブラウン・トルアン報告を石綿肺と肺がんの関連性に対してかなり批判的であるものとして紹介した。また,我が国のじん肺と肺がんの合併例で最近10年間に学会及び雑誌に報告されたものは38例(うち石綿肺は2例)であり,いずれも症例報告であって,肺がん合併率に言及しているものは見当たらないとし,また,合併肺がんの組織像の大多数は扁平上皮がんであること,肋膜中皮腫が1例報告されているが,これはサンドブラスト工のけい肺に合併したものであり,肋膜中皮腫の発生は石綿肺に見られることは周知のことであるが,けい肺に見られた例は外国文献にもないこと等を述べた。そして,「総括並びに考按」として,石綿肺の肺がん発生率は多くの学者が挙げている数値を総合すると15%前後であり,一般の肺がん発生率の約10倍の高率であること,石綿肺肺がんの好発部位は石綿肺病変の高度である下肺葉であること,多中心性発症が多い点などより,石綿肺と肺がんの関連性を認めるものが多いことを指摘する一方で,日本におけるじん肺肺がんの報告例は極めて少なく がんの好発部位は石綿肺病変の高度である下肺葉であること,多中心性発症が多い点などより,石綿肺と肺がんの関連性を認めるものが多いことを指摘する一方で,日本におけるじん肺肺がんの報告例は極めて少なく,特に石綿肺肺がんは2例にすぎないので,統計的考察も不可能であり,今後症例の収集に努め,動物実験による究明と病理解剖学的組織学的検索並びに疫学的考察と相まって,この関連性を検討する必要があるとした。(甲A22,145の54頁ないし67頁)d 東京医科歯科大学医学部公衆衛生教室の竹本和夫らは,同報告書の班員報告「じん肺と肺癌に関する実験的研究」において,石綿その他のじん肺原因物質を,ラットの肺内に一回のみ注入し,肺内に発生する肺がんの率と組織学的検索を行った結果,①経気道性に粉じんと共に発がん物質が肺に作用すると腫瘍発生促進作用が現れること,②石 綿については,人体例での石綿の如く,ラットを用いた実験において単独では腫瘍はできなかったこと,③じん肺症に間接的な発がん物質が投与されても,促進作用は証明できないことを述べた(甲A145の75頁ないし79頁)。 (ウ) 第9回世界がん会議等(昭和41年,東京)a 昭和41年10月に東京において,第9回世界がん会議が開催された。当該会議は,吉田富三東京大学教授を組織委員長として,日本の学術会議との共催で開かれた。 アメリカのペンシルベニア州衛生局のジャン・リーベンらは,同地域の南東部に所在する162の病院を対象に昭和33年から昭和38年に中皮腫と診断された70の症例を調査した結果,石綿関連工場の作業者(患者の大多数が石綿労働者)のほかに,工場周辺に居住する住民の間にも発症が見られたこと,及び,75%以上の患者について,どのような形にせよ,何らかの石綿曝露が立証されたことを報告 連工場の作業者(患者の大多数が石綿労働者)のほかに,工場周辺に居住する住民の間にも発症が見られたこと,及び,75%以上の患者について,どのような形にせよ,何らかの石綿曝露が立証されたことを報告した。 (甲A140の1の160頁,147の11頁,171)b また,日本産業衛生学会内に昭和34年に発足した職業性腫瘍研究会は,同年10月25日に,第9回世界がん会議に参加した各国の第一線職業がん研究者を招き,「InformalgrouponOccupationalCancerintheWorld」を開催し,その概要の報告が,昭和42年2月に発行された「産業医学」第9巻第2号に掲載された。当該非公式の会合には,ヒューパー,ミッチェル(Mitchell)らがゲストとして参加し,職業性腫瘍研究会からは鯉沼茆吾,土屋健三郎,久保田重孝,坂部弘之,竹本和夫らが出席して,職業がんについての情報の交換等が行われた。その中で,石綿に関し,ヒューパーが南アフリカやアメリカのペンシルバニア州における中皮腫の研究事例を通じて,石綿の 特異な発がん性について紹介した.一方で,Poel は,石綿の発がん性を動物実験によって調べているが,今までのところ,石綿自体の発がん性を立証することはできなかったなどとして,石綿は他の発がん物質の作業を助長するのではないかとの意見を述べた。(甲A140の1の162頁・163頁,169)(エ) 第16回国際労働衛生会議(昭和44年,東京)昭和44年に第16回国際労働衛生会議が東京で開催された。同会議の中で,石綿関連の報告は,シンポジウムの一テーマである「じん肺」のセッションで主に扱われた。同会議の最初に,名古屋市立大学の奥谷博俊,労働科学研究所の佐野辰雄が,じん肺に関する我が国の状況を報告した で,石綿関連の報告は,シンポジウムの一テーマである「じん肺」のセッションで主に扱われた。同会議の最初に,名古屋市立大学の奥谷博俊,労働科学研究所の佐野辰雄が,じん肺に関する我が国の状況を報告した。 フィンランド国家衛生委員会委員長のノロは,「アスベスト関連疾患の疫学」と題する報告において,職業性の石綿肺のほかに,肺がんや中皮腫が石綿に起因する疾患であることを述べ,アメリカ,イギリス,南アフリカ,西ドイツなどの国々における疫学調査の結果を通じて,石綿曝露に関連した胸膜及び腹膜の中皮腫が極めて頻繁に発生していることを示した。 さらに,南アフリカのウェブスターは,「アスベスト曝露に続く発病とその複雑化に関する問題」と題する報告で,石綿の吸入と石綿肺の発生に関する問題として,石綿線維症の特性,胸膜肥厚斑の存在,悪性への変化の過程という3点から,南アフリカの事例をまとめ,そのなかで,特に3点目において中皮腫との関係について論じ,職業性のみならず環境曝露も含めた検討を行っていた。具体的には,胸膜中皮腫と診断された179例を対象に発症の原因特定を試み,石綿曝露の証拠が明確な148例のうち31例は,環境曝露の可能性が高いと推定した。 共同座長を務めた佐野辰雄は,このセッションのまとめとして,肺が ん,中でも中皮腫によるじん肺の複雑化は大気汚染問題の重要な課題となっており,わずかな量の石綿でさえも吸入を避けるべき時代に到達したことを示すものである,とした。 一方,慶応義塾大学の土屋健三郎は,これまでに国内で報告された職業がんの事例をまとめ,諸外国と比較して件数が非常に少ないこと,その理由として一般医師の関心の低さ,届出,登録上の不備を挙げた。 なお,同会議の参加者は1738名を超え,そのうち我が国の関係者は824名にのぼった。 ,諸外国と比較して件数が非常に少ないこと,その理由として一般医師の関心の低さ,届出,登録上の不備を挙げた。 なお,同会議の参加者は1738名を超え,そのうち我が国の関係者は824名にのぼった。 (甲A140の1の160頁ないし162頁,147の11頁)(オ) 昭和40年以降の研究報告等a 九州大学医学部衛生学教室助教授であった石西伸は,昭和42年8月発行の「福岡医学雑誌」第58巻第8号に掲載された「石綿と悪性新生物-疫学的及び病因論的考察の展望-」において,ドール報告やブラウン・トルアン報告,ワグナー報告及びUICC報告と勧告等,その当時までに海外で発表された石綿と肺がん及び中皮腫に関する疫学的研究と海外の動物実験の結果を整理して紹介した上で,結びとして,「石綿に発がん性があるという事実は,その発がん機構の解明にはいまだしの感は存在するが,疫学的に実験動物学的に疑う事の出来ない事実である。しかも全世界の消費量は逐年的に増加の一途をたどり,石綿肺症として我々が診断し得ない様な,低濃度,長期間の曝露において,肺がん及び中皮腫の発生の存在する事実が解明された現在,産業医学的な問題より,より広い公衆衛生学的問題として,石綿による環境汚染は考えられねばならない。日本においては,20年に及ぶ戦後よりの産業界の復興,特に造船業,化学工業の発達と建築の西洋化を考えるとき,石綿に関連した原材料の加工過程及び利用度は,急激に増加しているにもかかわらず,いまだ石綿の発がん性に関する病 理学的,疫学的,環境衛生的観察研究は,極めて少ない現状であり,予防医学的見地から,その対象と研究が単に石綿塵に関連のある産業のみならず,一般市民生活の上でも研究される事を望む次第である。」と述べた。(甲A23)b 板寄俊雄らは,昭和42年10月に あり,予防医学的見地から,その対象と研究が単に石綿塵に関連のある産業のみならず,一般市民生活の上でも研究される事を望む次第である。」と述べた。(甲A23)b 板寄俊雄らは,昭和42年10月に発行された「現代の労働災害と職業病」において,職業性発がん物質として「石綿」を挙げ,その侵入経路として「呼吸器」,侵襲臓器として「肺,肋膜,腹膜」との記載をした(甲A24の119頁・120頁)。 c 倉恒匡徳は,昭和43年12月に発行された「職業病とその対策」に掲載された「職業ガン」において,職業がん因子として石綿を挙げ,最近職業がんの中で最大の関心を払われているのは石綿による肺がんと胸膜・腹膜の中皮腫であるとした上で,石綿肺に合併する肺がんの剖検例が各国から報告されていることや石綿粉じんによる肺がんに関するヒューパーらの研究を紹介し,ブラウンらのケベックのクリソタイル鉱山の調査では,石綿曝露と呼吸器がんとの因果関係は認められなかったが,リンチ,ドール,セリコフ,マンクーソーらの研究を総括すれば,石綿曝露者に肺がんが好発することは間違いないと考えていると述べた。また,ワグナー報告をはじめ多くの研究者が胸膜,腹膜の中皮腫に石綿曝露者が多いことを報告しており,その因果関係が問題となっていることを指摘し,また,石綿の動物実験においては実験者によって結果が一致しておらず,石綿を汚染する油に発がん性があるという報告もあることを指摘し,発がん機構は全く分かっていないのが現状であるとしつつ,疫学的証拠や実験的証拠を総合すれば,石綿が職業がん因子であることは確かであると考えられるとした。 (甲A26)d 瀬良は,昭和46年9月に発行された「労働の科学」26巻9号に 掲載された「石綿作業と肺疾患」において,石綿と肺がんに因果関係があること かであると考えられるとした。 (甲A26)d 瀬良は,昭和46年9月に発行された「労働の科学」26巻9号に 掲載された「石綿作業と肺疾患」において,石綿と肺がんに因果関係があることについては,今や異論のないところであると述べ,近時世界的に石綿の使用が著しく増大していることから,職業性肺疾患としての石綿肺症の発生が今なお少なくなく,また,石綿肺罹患者中の肺がん死亡が増大してきているという報告やワグナー報告において石綿鉱山の付近住民に胸膜中皮腫が多発しているとされていること等から,直接石綿を扱う労働者に対する労働衛生上の問題はもちろんであるが,3000種類にものぼる石綿製品(建材や自動車ブレーキライニング等)に囲まれて生活している一般都市住民にとっても,石綿は環境衛生上の問題としてゆるがせにできないものと言っても過言ではないだろうとし,昭和45年11月に溝口氏が東京都内大気中から石綿線維を見出したことなどを指摘した上で,我が国でも石綿は大気汚染物質の一つとして考える必要があろうと述べた。 同論文においては,「石綿製品と原材料」の表の中で,「石綿建材」として吹付け石綿,石綿セメント板,石綿タイルを挙げている。 また,近年建築関係等で石綿吹付け作業が盛んに行われているが,作業者39名中6名(15.4%)に石綿肺を認め,1型2名(5年,7年3か月),2型2名(6年,7年),3型2名(3年11か月,5年6か月)であり,比較的短い作業期間で発病することは注目すべきであること,このうち1例は,7年で呼吸困難を訴え,エックス線像2型,以後入院治療したが進展し,5年後呼吸不全で死亡したもので,石綿吹付け作業による我が国最初の死亡例であること,他に6年で2型になった者で1年10か月後に死亡した例もあり,吹付け作業については強力な予防指 院治療したが進展し,5年後呼吸不全で死亡したもので,石綿吹付け作業による我が国最初の死亡例であること,他に6年で2型になった者で1年10か月後に死亡した例もあり,吹付け作業については強力な予防指導を要するものと思われることを述べている。 (甲A8の4頁ないし12頁)e 労働省労働衛生研究所の松下秀鶴及び河合清之は,前記「労働の科 学」26巻9号に掲載された「アスベストの発がん性」において,UICC報告と勧告において,石綿粉じん曝露と関係のある悪性腫瘍として肺がん,胸膜及び腹膜のびまん性中皮腫があり,さらに胃及び腸管のがん,卵巣がんにもその関連が示唆されるとされていることを指摘した上で,肺がんに関して,リンチやヒューパー,セリコフらの報告を,中皮腫に関してはワグナー報告を始めセリコフやニューハウスらの報告をそれぞれ紹介し,また,石綿による発がん実験や,石綿に付着する天然鉱油等の石綿発がんに関連する諸因子に関する各種の報告について指摘した。そして,結語として,石綿に発がん性があるということは,疫学的も実験腫瘍学的にみても,まず疑う余地はないように思われるが,一方で石綿の用途は年とともに広がり,その消費量は増加の一途をたどり,これに曝露される人々の数も増大しつつあるばかりでなく,今日では都市空気が石綿に(微少濃度ではあるが)汚染されるまでになっているため,石綿の問題は産業医学のみの問題としてではなく,広く公衆の衛生学上の問題としても取り扱うべきものと思われ,この問題解決のために,今後より広範な,より精細な疫学的,実験腫瘍学的研究が進められるとともに,これらの成果をふまえた有効適切な対策がさらに進められることが切に望まれると述べた。 (甲A8の14頁から21頁)f 林久人は,昭和49年11月発行の「汚染から身体がまもれ 究が進められるとともに,これらの成果をふまえた有効適切な対策がさらに進められることが切に望まれると述べた。 (甲A8の14頁から21頁)f 林久人は,昭和49年11月発行の「汚染から身体がまもれるか-身体のなかの鉱物学―」において,石綿について肺がんを引き起こす物質であるとし,ドール報告については,石綿と肺がんの因果関係をはっきりさせ,石綿の粉じんを吸い始めてから25年くらい後になって肺がんになるという事実を明らかにしたものであり,この結論に反対する人々もいたが,この結論を受け入れた人々でさえ,肺がんは非常に多くの石綿の粉じんを職場で吸い込んだ労働者の,特殊な職業病 であるとしか考えなかったと説明した。そして,石綿紡績工場などの作業環境が改善されて石綿肺症による死亡が減少し始めると,それに代わって肺がんの発生が増加したとし,その理由については,石綿肺症におかされることがなくなり,石綿肺症患者の平均寿命が延びたために,潜伏期間の長い肺がんがあらわれるようになったと考えるべきであろうとした。さらに,断熱工のように石綿粉じんにわずかしか曝露されない労働者からも24年から52年という長い潜伏期間の後に肺がんに罹ることがセリコフらによって明らかになり,また,紙巻き煙草も肺がん発症に大きな影響を及ぼすことも分かってきたとした。 中皮腫に関しても,石綿による悪性腫瘍として指摘された。(甲A59の11頁・12頁)g 昭和48年には,石綿肺合併腹膜中皮腫の解剖例が報告され,翌昭和49年には,我が国初の石綿肺合併胸膜中皮腫の解剖例が公表された(甲A15の133頁,140の1の166頁,乙アA1008,1009)。 (カ) 昭和47年,環境庁は,財団法人癌研究会癌研究所所長吉田富三を主任研究者として,昭和47年度環境庁公害調査研究委 た(甲A15の133頁,140の1の166頁,乙アA1008,1009)。 (カ) 昭和47年,環境庁は,財団法人癌研究会癌研究所所長吉田富三を主任研究者として,昭和47年度環境庁公害調査研究委託事業「人肺の病理組織学的研究」の委託を行った。 当該委託事業の研究目的は,①大気汚染の人肺に及ぼす影響を病理及び分析化学的に検索し,汚染又は環境因子と人肺傷害の関連を研究すること並びに,②我が国の人体の石綿汚染の実態を調査研究すること,とされた。そして,前記②については,石綿により惹起された疾患,石綿症ならびに石綿癌の症例の募集と検討,石綿による主として肺の組織障害ならびに発がん性などについて調査研究するとされた。 同委託事業においては,国立がんセンター研究所病理部長の渡部漸が,「人肺の病理組織学的研究昭和47年度報告アスベストの生物学的影 響についての研究の現況」と題してIARCリヨン会議の内容を報告した。また,瀬良らは,昭和31年度研究及び昭和32年度研究の後昭和47年までの間大阪の泉南地方の石綿作業労働者について追跡調査を行った結果(石綿肺発生状況,経過,肺がん合併等の一部の成績)を報告し,石綿が今日に至っても高率に発生していることや,他のじん肺に比して石綿肺の肺がん合併率が高率であることが推測された等と報告した。 (甲A80)(キ) 「昭和47年度環境庁公害研究委託費によるアスベストの生体影響に関する研究報告」労働省労働衛生研究所の坂部弘之は,「昭和47年度環境庁公害委託研究費によるアスベストの生体影響に関する研究報告」において,「アスベストは近代生活において,きわめて重要な原材料となっており,その使用される分野は益々拡大され,消費量も急速に増大してきた。しかしその反面,アスベストによる健康障害も単にアス 報告」において,「アスベストは近代生活において,きわめて重要な原材料となっており,その使用される分野は益々拡大され,消費量も急速に増大してきた。しかしその反面,アスベストによる健康障害も単にアスベスト肺だけでなく,肺癌,中皮腫,胃腸の癌等が問題となってきた。また,アスベストの広範囲にわたる使用は,健康障害の問題をアスベストを取扱う労働者だけでなく,広く環境問題として考慮しておくことも必要となった。」とした上で,主として,昭和47年までになされた世界における石綿の生物学的影響に関する研究についてのIARCリヨン会議における報告ないし論評に沿って,海外における石綿肺,石綿による肺癌及び中皮腫等に関する研究報告等を紹介した上,前記会議に基づき作成されたIARC報告の内容を記載した(甲A31)。 (ク) 「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和53年)a 労働省は,昭和51年,瀬良を座長とする「石綿による健康障害に関する専門家会議」に対し,石綿による健康障害に関する検討を委嘱 し,同会議は,昭和53年9月,昭和51年9月以降検討を行った結果について「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」にまとめ,これを同月18日に労働省労働基準局長に提出した。 同報告書においては,石綿の物性及び用途,石綿のがん原性に関する実験的研究,健康障害に関する臨床(石綿肺,石綿肺合併肺がん,中皮腫等),健康障害の病理,石綿による職業がんの疫学(肺癌,中皮腫),肺がん及び中皮腫の量反応関係,環境管理,健康管理等について,この当時までに海外及び国内において報告された調査及び研究等の情報(文献等)の概要及びこれに基づき検討した結果等が記載された。(甲A5,1136,乙アA40)b 同報告書においては,石綿曝露に関し の当時までに海外及び国内において報告された調査及び研究等の情報(文献等)の概要及びこれに基づき検討した結果等が記載された。(甲A5,1136,乙アA40)b 同報告書においては,石綿曝露に関し,石綿曝露作業で最も高濃度曝露を受けるのは石綿鉱山における採掘とそれに関連する搬出等の作業であるが,我が国においては今日殆ど採掘作業はみられないとし,石綿の消費量が約4分の3に及ぶ建設業が石綿への曝露労働者数が最も多く,建設業において使用される石綿の多くは石綿セメント,床タイル,屋根ぶき用フェルト及びスレート用などであり,一部は吹付け用の断熱材料,石綿粉末として使用されており,石綿セメントの混練,断熱材料の吹付け等の作業においては石綿繊維を空気中に発散させやすく,これらの作業に従事する労働者の曝露濃度が労働衛生上問題となるが,一般に一日の作業における石綿曝露作業の時間は短いとされた(甲A5,乙アA40の4頁・5頁)。 曝露濃度に関しては,アメリカ,イギリス及び我が国におけるこれまでの測定結果等として,以下の内容が記載された。そして,検討結果として,前記測定結果を概観したが,各作業,又は工程ごとの時間-加重平均濃度として測定値が得られたものは少なく,また,インピンジャー法による初期の時代の全粉じんをカウントしたデータと最 近の光顕法,エックス線回析法などによる測定データ(多くの場合繊維の長さ>5μ)とを単純比較することはできないが,これらの各データはごく最近においても国内外の各方面の産業分野で相当の石綿曝露がみられていることを示すものといってよいであろう,とした。 (甲A5,乙アA40の5頁ないし13頁)(a) アメリカにおける断熱材取扱作業における気中石綿濃度について,昭和43年から昭和46年までの間に調査した結果,3から といってよいであろう,とした。 (甲A5,乙アA40の5頁ないし13頁)(a) アメリカにおける断熱材取扱作業における気中石綿濃度について,昭和43年から昭和46年までの間に調査した結果,3から6繊維/㎤であると報告された。同種作業における石綿の時間-加重平均濃度は,昭和40年頃は約8本/㎤であった。 (b) イギリス労働省のデータによれば,建設業の事業者代表から提出された建築作業における推定石綿濃度は以下のとおりであった。 ⅰ 石綿吹付け推奨されている湿潤化の機器を使用 5から10(本/㎤)上記の機器を使用していない 100以上(本/㎤)また,工程から20から30フィート(6から9メートル)離れたところの濃度は,上記のおよそ10分の1である。 ⅱ 解体(保温材をはぐ)濡らしながら行う 1から5(本/㎤)水を散布して行う 5から40(本/㎤)乾燥状態で行う 20以上(本/㎤)なお,気中石綿粉じん濃度は,個々の保温材の材質により非常に変わる。クロシドライトについては厳重な注意が必要である。 ⅲ 石綿セメントのシートとパイプの使用機械による穿孔 2未満(繊維/㎤)用手鋸断 2から4(繊維/㎤)有効な局所排気を用いない場合の機械鋸断 クランク鋸 2から10(繊維/㎤)丸鋸 10から20(繊維/㎤)有効な局所排気を用いた場合の機械鋸断 2未満(繊維/㎤)ⅳ 石綿断熱板の使用垂直構造物の穿孔(例:被覆した柱) 2から5(繊維/㎤)頭上の穿孔(例:天井) 4から10(繊維/㎤)研磨と表面仕上げ 6から20 維/㎤)ⅳ 石綿断熱板の使用垂直構造物の穿孔(例:被覆した柱) 2から5(繊維/㎤)頭上の穿孔(例:天井) 4から10(繊維/㎤)研磨と表面仕上げ 6から20(繊維/㎤)整合と離断 1から5(繊維/㎤)用手鋸断 5から12(繊維/㎤)有効な局所排気を用いない場合の機械鋸断クランク鋸 5から20(繊維/㎤)丸鋸 20以上(繊維/㎤)なお,機械穿孔又は鋸断による粉じん濃度は,粉じんをコントロールする機器を使用すれば2から4本/㎤にまで減少し得る。 板受け渡しの荷おろし(短時間サンプリング)切断片 5から15(繊維/㎤)製品基準の大きさのもの 1から5(繊維/㎤)(c) 我が国では,石綿の環境測定に関する報告は主に昭和30年以降に見られるとし,北海道の鉱山附属工場(昭和31年),石綿紡織品製造工場(昭和32年,昭和33年),石綿スレート工場(昭和46年),建築工事における石綿吹付け作業(昭和51年)及び自転車修理作業場(昭和51年)の各石綿粉じん濃度の測定結果が記載されているところ,このうち,石綿スレート工場における石綿板切断作業と建築工事における石綿吹付け作業についての測定結果は次のとおりである。 ⅰ アスベストを取扱っている作業場のアスベスト粉塵濃度(木村菊二,昭和51年)製品作業条件濃度範囲(繊維/㎤)幾何平均(繊維/㎤)大型の石綿板・石綿含有率20~30%厚さ22㎜電動鋸・吸じん装置作動中2.89~25.086.63電動鋸・吸じん装置休止中147.03~391.50 ㎤)大型の石綿板・石綿含有率20~30%厚さ22㎜電動鋸・吸じん装置作動中2.89~25.086.63電動鋸・吸じん装置休止中147.03~391.50220.5 電動丸鋸1・吸じん装置作動中・切断速度が速い33.74~90.1 55.05電動丸鋸2・吸じん装置作動中・切断速度が速い13.30~391. 81.70小型の石綿板・石綿含有率約25%手動鋸1・吸じん装置なし0.31~2.551.01手動鋸2・吸じん装置なし0.11~0.380.18ⅱ 建築工事における石綿吹付け作業建築工事における石綿吹付け作業の測定結果については,昭和51年通達の添付資料である「石綿関連資料」に掲載された値が引用されており,乾式吹付け作業で37.6から41.7㎎/㎥,湿式吹付け作業で12.1から17.2㎎/㎥である。なお,これらはいずれも,材料における石綿含有量が50%のものについての測定結果である(甲A390の2の19頁)。 c 石綿のがん原性に関する実験的研究に関しては,昭和51年頃までに国内外で発表された実験的研究(吸入実験,気管内注入実験,漿膜腔内注入実験,経口投与実験,試験管内実験等)の紹介をした上で,まとめとして,「現在入手しうる情報の範囲では,動物実験を中心とする実験室の研究の結果は石綿の吸入によって一部の動物に肺がん及び中皮腫が発生することを示している。この事実は,石綿曝露を受けたヒトにおける肺がん及び中皮腫の発生と疫学的関連を動物実験の側から支持するものと考えられる。同時に,それらの資料及び漿膜腔内直接投与実験の安定した陽性結果を考え,さらにそれらの実験に用いられた試料と実験条件を検討すれば,自然起源の長繊維 的関連を動物実験の側から支持するものと考えられる。同時に,それらの資料及び漿膜腔内直接投与実験の安定した陽性結果を考え,さらにそれらの実験に用いられた試料と実験条件を検討すれば,自然起源の長繊維状珪酸塩鉱物として一括される石綿粉じんは,資料それ自身として発がん能を有するものと考えられる。この結論は粉じんは発がん性物質として取り扱われるべきであるという考え方を支持する理由のひとつとなろう。最近の動物実験の結果の一部は,曝露量と発がん率の間の平行関係を示唆しているが,ヒトにおける発がんでの量-反応関係の解明に資するような定量的実験は現在のところ見当たらない。また,疫学的観察の結果がかなり区々であるのに似て,動物実験における発がん率も必ずしも一定したものではない。石綿の中に併存する自然的あるいは人為的混入物が石綿の発がんに与える影響に関する動物実験はまだ充分とはいえない。石綿と2,3の既知の発がん性芳香族炭化水素との併用実験では,後者の発がん性が石綿によって促進されたと解釈される結果が得られているだけである。また,石綿曝露と重複して作用する可能性のある他の環境要因,中でも喫煙,大気汚染などの日常環境要因との発がんにおける共同作用についても実験的データは乏しい。石綿による発がんの過程及び機構に関しては,現在までの動物実験からはなんらの解答も得られていない。しかし,繊維状物質の物理的形状と 発がん性(あるいは発がん実現性)の密接な関連を示唆する最近の一連の研究は注目されるべきであり,経気道曝露実験を含めてさらに確認される必要がある。同時に,短繊維のがん原性を確かめるための実験的研究がさらになさるべきであろう。」とした。(乙アA40の23頁ないし40頁)d 同報告書においては,肺がん,中皮腫(胸膜及び腹膜)に関し,昭和5 同時に,短繊維のがん原性を確かめるための実験的研究がさらになさるべきであろう。」とした。(乙アA40の23頁ないし40頁)d 同報告書においては,肺がん,中皮腫(胸膜及び腹膜)に関し,昭和53年までに国内外で行われてきた症例報告や疫学的研究等(石綿による職業がんの疫学に関する代表的見解として,昭和48年に行われたGilson の「石綿がん-その過去と将来の危険」と題する講演における見解,昭和51年に発表されたEnterline の2つの総説,IARCリヨン会議における総括,最近(昭和52年)のIARCの見解)を紹介した上,臨床所見,病理,疫学,量反応関係等について,それぞれ検討結果を記載した。当該記載の一部として,以下の内容が述べられている。(甲A5,乙アA40の47頁ないし89頁・170頁ないし173頁)(a) 肺がん石綿肺への肺がん合併については研究報告が多く,石綿曝露と石綿肺合併肺がん発生との関連が明らかにされている。 ⅰ 石綿肺合併肺がんの臨床及び病理学的特徴臨床上特徴的な所見があるとする報告は少ないが,腫瘍の胸膜への広範な拡がりを示すものが多いとする見解がある。エックス線所見は石綿肺の陰影のため一般の肺がんで多く見られる特徴を欠く場合が多く,がんの診断が困難となることが多い。 病理学的には,肺下葉で比較的末梢型が多い。胸膜の硝子性肥厚や肺組織内に石綿小体が多く見られる。組織型を異にする肺内重複がんが発生したという報告もある。 ⅱ 石綿肺との関連石綿肺の進展度と肺がんの合併率の間には直線的な関連はなく,軽度所見や無所見の石綿曝露労働者にも肺がんの発生が認められている。他方,石綿曝露と肺がん発生の病因論的解明はこうした肺がん症例の真の原因を判別するにはなお不十分であり,今後の重要な研究課 なく,軽度所見や無所見の石綿曝露労働者にも肺がんの発生が認められている。他方,石綿曝露と肺がん発生の病因論的解明はこうした肺がん症例の真の原因を判別するにはなお不十分であり,今後の重要な研究課題といえる。 しかし,石綿肺の存在は石綿曝露の証拠となるので,これに合併した肺がんは石綿に起因した肺がんとして取り扱うべきものと考えられる。 石綿肺の所見が軽度なもの若しくは無所見の石綿曝露労働者に発生した肺がんについては,石綿曝露歴,臨床所見,病理学的所見等を調査の上個別に石綿曝露との関係の有無について検討がなされるべきである。 ⅲ 石綿曝露との関連最近の疫学調査から,石綿曝露量が大となるにつれて肺がん発生の超過危険が大きくなる傾向が見られ,症例としては石綿曝露期間が概ね10年を超える労働者に発生したものが多い。 しかし,高濃度で比較的短期間曝露を受けた作業者やもしくは一時的に高濃度の石綿曝露を受ける作業が間欠的に行われる業務に従事した労働者に肺がん発生が見られたこともあるので,これらの症例における肺がんと石綿曝露との関連については個別に詳細な検討が加えられるべきものと考える。 なお,石綿関連肺がんは,中皮腫よりはるかに多いものと推定されているが,肺がん発生因子は多様であり,個々の症例について石綿曝露との因果関係を簡単に結論できない場合が多い。 ⅳ 潜伏期間 石綿曝露開始から発がんまで通常平均20年以上を要する報告が多いが,10年以下(4年や6年)で肺癌が発生したという報告もある。我が国剖検例では,最短11年,最長46年,平均32.6年と報告されている。 ⅴ 曝露期間及び曝露量昭和41年のヒューパーの報告等では平均16年から20年,あるいはそれ以上を要するようであるが,1から5年(4か月の例もあり)の比 年,平均32.6年と報告されている。 ⅴ 曝露期間及び曝露量昭和41年のヒューパーの報告等では平均16年から20年,あるいはそれ以上を要するようであるが,1から5年(4か月の例もあり)の比較的短期間の曝露で長年月後に発生した例が各国で報告されている。 ⅵ 喫煙との関連石綿曝露労働者においては,喫煙によって肺がん発生の危険が著しく増加する。したがって,予防の観点からは喫煙をしないことが望ましい。 ⅶ 石綿の種類と形状現時点の知見では,全ての種類の石綿繊維に肺がん発生の危険性があると考えるのが妥当である。 石綿繊維の長さや形状とがん発生については実験的研究がいくつか見られる。ヒトに関して,特に繊維長さ5μ以上の石綿に対し予防対策がとられている。しかし,これががんの予防に対しても有効なものであるか否か及び高温によって非結晶化した状態のもののがん発生への影響等については今後の研究課題と思われる。 (b) 中皮腫中皮腫は従来極めて稀な腫瘍(成人全剖検例の0.1%以下といわれてきた。)であったが,石綿鉱山地域に多発していることが明らかにされた昭和35年以来石綿曝露との関係の疫学調査等が行われ始め,個々の中皮腫患者に石綿曝露の程度が大であった例 の多いことのほか,現在では動物実験によって石綿による中皮腫の発症が確認されており,疫学調査結果と併せて,石綿曝露と胸膜及び腹膜の中皮腫の発生とが関連づけられている。 ⅰ 病理学的所見石綿曝露者の中皮腫では,一般に肺内に石綿小体ないし石綿繊維の存在が認められ,胸膜中皮腫の場合は胸膜の斑状またはびまん性硝子性肥厚の存在が石綿曝露陽性の有力な根拠となる。 ⅱ 石綿肺との関連中皮腫は肺がんと異なり石綿肺がなくても発生し,むしろ石綿肺と合併した中皮腫の例は少ない。 合は胸膜の斑状またはびまん性硝子性肥厚の存在が石綿曝露陽性の有力な根拠となる。 ⅱ 石綿肺との関連中皮腫は肺がんと異なり石綿肺がなくても発生し,むしろ石綿肺と合併した中皮腫の例は少ない。 ⅲ 石綿曝露中皮腫については石綿肺合併肺がんの場合と異なり,例数が少ないため石綿曝露との量反応関係を考察することが難しい。中皮腫の症例報告からみた石綿曝露期間は10年以上の場合が比較的多いが,5年未満といった短い例もある。 また,石綿粉じん濃度が低くても中皮腫が発生した例もあり,肺がんを発生するに必要な曝露量よりも少量で発生する可能性がある。 ⅳ 潜伏期間石綿曝露開始から中皮腫発症までの期間は石綿肺合併肺がんの場合よりも長く,20年以上の場合が多い(20年以下での発生例も報告されている)。 なお,胸膜中皮腫は,従来の報告では,腹膜中皮腫より多く見出される。 ⅴ 喫煙との関連中皮腫と喫煙に関しては,両者の関連性を明白に示す報告はな い。 ⅵ 石綿の種類と形状クロシドライトはアモサイトやクリソタイルに比して中皮腫発生により強く関与していると考えられるが,一般に単一の繊維のみの曝露を受けている例は少ないので結論は難しい。また,アンソフィライトでは中皮腫は発生しないとする見解もあるが,現時点における知見では,特定の石綿繊維の中皮腫発生に関する影響を否定することは困難である。 なお,中皮腫の予後は不良で,殊に腹膜中皮腫は発症後の生存期間が短い。 (c) なお,石綿曝露とがんの関係についての病理解剖学的判定基準については,肺がんや中皮腫の症例で,その腫瘍が石綿曝露と関連して生じたものかどうかの断定は困難な現状にあり,国の内外で基準は確立していないが,石綿曝露の側からと腫瘍の側からのある程度の断定への歩み寄りは可 ,肺がんや中皮腫の症例で,その腫瘍が石綿曝露と関連して生じたものかどうかの断定は困難な現状にあり,国の内外で基準は確立していないが,石綿曝露の側からと腫瘍の側からのある程度の断定への歩み寄りは可能である,とされ,病理解剖による検索は病変との因果関係について,より豊富な情報を与える有力な手がかりとなるから,将来できる限り剖検が行われることが望ましい,とされた。(乙アA40の103頁・104頁)(d) また,石綿曝露労働者におけるがん発生に関しては,喫煙による影響以外に,石綿と其の他の物質との相互作用について示した知見は現時点においては得られていないとされた(乙アA40の120頁)。 2 判断(1) 医学的知見の集積の必要性等についてア本件においては,被告国による石綿関連疾患の発症を防止するための規制権限不行使の違法性が問題となっているところ,特定の疾病を予防する ための規制は,当該疾病の発症との間に因果関係が認められるものを対象として行うべきことは当然であるが,加えて,前記因果関係が合理的な根拠に基づいて認められている必要があると考えられる。よって,特定の疾病を防止するための規制権限を行使しなかったことが違法であるというためには,特定の要因と特定の疾病の発症との間の因果関係についての医学的知見が集積していることが必要であると解する。 イ特定の疾病に関する症例報告や調査研究等によって当該疾病の発症と特定の要因との間に有意な関連性が認められた場合であっても,その関連性が,偏り(バイアス),交絡要因及び偶然誤差によってもたらされている可能性が存在する。そのため,特定の要因と特定の疾病の発症との間の因果関係について医学的知見が集積したというためには,当該疾病と特定の要因に関する複数の研究報告等がなされ,それによ もたらされている可能性が存在する。そのため,特定の要因と特定の疾病の発症との間の因果関係について医学的知見が集積したというためには,当該疾病と特定の要因に関する複数の研究報告等がなされ,それによって前記のような関連性の存在が認められた上で,さらに,時間的な関係(曝露の時間的な先行),強固な関連(高い相対危険),量反応関係(曝露量の増加に伴って相対的危険が増加すること),もっともらしい関連(認められた関係が現在の生物学的常識に照らして矛盾しないことを指す),一致した関連(複数の疫学研究や観察で同様の関連が観察されること),整合性のある関連(疫学以外の科学的知見と矛盾しないこと),特異的な関連(1つの原因が1つの効果(疾病)だけをもたらすという関連),実験的な証拠の存在(人間集団の観察によって認められた関連が,動物実験によっても同じように認められること),類似の関連の存在(観察された関連がすでに因果関係として認められているような関連とよく似ている場合)というような視点により,前記関連性が因果関係であるか否かを総合的に判断する必要がある。なお,時間的な関係は因果関係を認めるための不可欠の条件であるが,その他については,因果関係であると判断するための基本的な視点(判断の際に考慮すべき点)と考えられる。 (2) 石綿粉じん曝露と石綿肺の発症との因果関係に関する医学的知見の集積状況についてア前記第2章第2節及び第3節の前提事実,前記1(1)の認定事実によれば,以下のとおり,石綿肺に関する医学的知見が集積されていったことが認められる。 (ア) 欧米先進国においては,19世紀末頃から石綿の商業的ないし工業的利用が拡がり始め,それに伴って石綿の有害性も認識されるようになり,19世紀末にはイギリスの工場監督官によって石綿作業に る。 (ア) 欧米先進国においては,19世紀末頃から石綿の商業的ないし工業的利用が拡がり始め,それに伴って石綿の有害性も認識されるようになり,19世紀末にはイギリスの工場監督官によって石綿作業による健康被害に関する報告がなされ,マレーやクックらの報告を経て,昭和5年にイギリスの工場医療監督官であったミアウェザーらによって広範囲の実態調査が行われた結果,石綿労働者の多くに肺線維症が発症することが明らかにされたことにより,翌昭和6年にイギリス政府はアスベスト産業規則を制定した。また,ILOが昭和5年に開催した第1回国際けい肺会議にはイギリスやアメリカ等8か国が参加し,同会議においては石綿粉じんの吸入によってじん肺が発生すること等の報告がされるなどした。 このように,欧米先進国においては,19世紀末頃から石綿粉じん曝露と石綿肺の発症を関連付ける報告,研究等がなされ,1930年代には石綿粉じんの曝露により石綿肺が発症することが認識され,その予防対策が問題となっていたことが認められる。 (イ) 一方,我が国においては,明治20年に石綿製品の輸入が始まり,明治時代後半には石綿の工業的な利用として保温材等が,大正時代に建材の生産が開始されていたところ,昭和6年に内務省社会局の大西清治がイギリスにおけるマレー及びクック以降の石綿に関する症例報告に触れ,昭和5年のミアウェザー&プライス報告の内容を報告し,また,昭和9年には石綿粉じんがじん肺を起こすことを指摘する文献や,第1回 国際けい肺会議において採択された事項の報告等を掲載した内務省社会労働部の資料が発行され,その後も石綿による健康被害に関する事項を記載した文献等が発行されていたが,昭和6年時点において我が国における症例報告は存在せず,また,昭和12年に保険院調査が開始される 労働部の資料が発行され,その後も石綿による健康被害に関する事項を記載した文献等が発行されていたが,昭和6年時点において我が国における症例報告は存在せず,また,昭和12年に保険院調査が開始されるまでの間,我が国における石綿肺に関する系統的調査が行われたことはなく,石綿肺がどのような要因によって発生するのかといったことや,当時の被害状況については何ら確認されていない状況にあった。そのような中,昭和12年から昭和15年にかけて,大阪府泉南郡等の石綿紡織工場の労働者を対象とした保険院調査が実施され,その結果,石綿粉じんの吸入によって石綿肺が発症することや石綿紡織作業従業者に現れている石綿肺の症状,石綿紡織従業者の石綿肺罹患率は勤続年数及び作業における粉じんの飛散量と関係性があること等が報告された。ただし,昭和15年保険院報告において,同調査を担当した助川らは,保険院調査により石綿肺罹患が業務に深い関連があると想定できるとしつつも,その取扱いについては慎重な研究が必要であり,また,本研究調査は石綿肺の概観の報告にすぎないためさらに深く掘り下げる必要があるとしていた。 しかし,その後第二次世界大戦のため石綿肺に関する研究は中断され,同時期においては海外からの石綿の輸入も途絶していた。 昭和27年頃から,宝来や瀬良らの各研究者によって石綿肺に関する調査が再開され,東京や大阪を中心に石綿被害の実態調査や我が国で初めての石綿肺の剖検例の報告等が行われた。そして,これらの調査研究結果を検討した労働省は,昭和31年に,石綿に係る作業をじん肺を起こすおそれのある粉じんを発散する場所における業務と認め,特殊健康診断の実施を奨励した。 労働省は,昭和27年以降の宝来らによる石綿肺に関する調査研究等 により石綿肺に関する関心が高まった一方で のある粉じんを発散する場所における業務と認め,特殊健康診断の実施を奨励した。 労働省は,昭和27年以降の宝来らによる石綿肺に関する調査研究等 により石綿肺に関する関心が高まった一方で,石綿肺についてはその全体像が充分明らかとなっていなかったことから,その取扱いの基準についての資料を必要とし,昭和31年度から昭和34年度まで,労働衛生試験研究として,宝来ら共同研究班に対して石綿肺等のじん肺に対する研究を各年度ごとに委託した。昭和31年度及び昭和32年度においては「石綿肺の診断基準に関する研究」として,各地の石綿鉱山(附属工場)及び石綿工場における労働者に対する検診の実施,粉じんの分析,濃度測定,動物実験,エックス線所見の研究,解剖による病理組織学的研究等が行われ,これらの調査研究の成果については,昭和32年3月31日(昭和31年度研究の研究成果報告)及び昭和33年3月31日(昭和32年度研究の研究成果報告)に報告された。昭和32年度研究の研究成果報告においては,2年間の調査研究によって石綿肺の概略を明らかにすることができ,診断基準の設定にまで到達したとの成果が示された。そして,けい特法の改正に関し,昭和34年9月には,前記労働衛生研究の成果等を踏まえ,けい肺審議会医学部会により,石綿肺を含めた粉じんに対する被害の予防と健康管理の必要性が表明され,政府もこれを妥当と認めて,昭和35年3月にじん肺法が制定されるに至った。 イ以上の事実によれば,我が国においては,1930年代には海外における石綿肺に関する医学的知見等が紹介されていたものの,我が国における石綿肺の症例報告等はなされず,保険院調査が我が国初の疫学的調査であり,その後昭和27年以降に石綿肺に関する調査研究が積み重ねられ,労働衛生試験研究を経ることによって,石 いたものの,我が国における石綿肺の症例報告等はなされず,保険院調査が我が国初の疫学的調査であり,その後昭和27年以降に石綿肺に関する調査研究が積み重ねられ,労働衛生試験研究を経ることによって,石綿肺の危険性が明らかにされていったということができる。そして,昭和31年度研究において石綿肺の臨床所見がある程度明らかにされ,石綿粉じん環境や動物実験による石綿肺の発生過程についても調査研究がなされ,さらに昭和32年度研究におい て石綿肺に関する臨床検査を継続,補充し,所見の確実性についても検討し,さらに石綿粉じん環境調査及び動物実験を行うことによって我が国における石綿肺の全貌を明らかにし,診断基準の設定を行ったと認められることからすれば,石綿粉じん曝露により石綿肺が発生することについての医学的知見は,遅くとも,労働衛生研究のうち,昭和31年度研究及び昭和32年度研究によって明らかにされたと認めるのが相当であり,したがって,前記医学的知見は昭和32年度研究の研究報告がなされた昭和33年3月31日頃には,集積していたと認められる。 ウこれに対し,原告らは,①ミアウェザー&プライス報告等の海外における石綿による健康被害に関する報告は我が国においても時間をおかず入手,報告された,又は,②昭和12年から昭和15年にかけて実施された保険院調査により石綿粉じんの吸引量と石綿労働者の勤続年数,作業部署と石綿肺罹患率との間に有意な関係があることが疫学的に立証されたとして,石綿肺の医学的情報は昭和5年,又は,どんなに遅くとも,昭和15年3月末時点において,集積していたと主張する。 しかし,第1回国際けい肺会議における石綿肺に関する報告内容からしても,欧米先進諸国においてさえ,昭和5年時点に石綿の吸入と石綿肺の発症との間の因果関係を示す具体的 いて,集積していたと主張する。 しかし,第1回国際けい肺会議における石綿肺に関する報告内容からしても,欧米先進諸国においてさえ,昭和5年時点に石綿の吸入と石綿肺の発症との間の因果関係を示す具体的な知見が明らかになっていたと認めるに足りる証拠はなく,さらに,昭和6年以降,我が国において,ミアウェザー&プライス報告の内容やILOの第1回国際けい肺会議における報告内容が紹介され,当該報告等において石綿粉じんと石綿肺の発症との関係性が指摘されているとする文献等が発行されたものの,我が国では,昭和6年時点において石綿肺の症例報告が一切なされていない状況にあり,昭和13年時点においても石綿肺に関する調査報告がなされていなかったことから,前記海外における知見について検討,評価できる段階になかったと考えられ,よって,昭和5年頃に石綿粉じん曝露による石綿肺の発症に 関する医学的知見が集積していたと認めることはできない。 また,昭和12年から昭和15年にかけて行われた保険院調査は,石綿肺に関する我が国における最初の疫学的調査であったことに加えて,調査対象が大阪府泉南郡等に所在する石綿紡織工場に限られており,これと異なった曝露条件下における調査結果等との比較検討はなされておらず,さらに,我が国において未だ剖検例の報告がなかったため病理学的観点からの検証が不十分であったこと,保険院調査におけるエックス線画像の撮影は,当時海外において適当とされていたレントゲン装置よりも撮影条件が悪く,かつ,用いられた携帯用のレントゲン装置の性能等から,エックス線画像が不鮮明なものにならざるを得ず(乙アA155の10頁ないし22頁),助川ら自身,当該エックス線画像が精査に適することは期待し得ないとし,その精査においては甚だ苦心したとしていること,加えて,労働 が不鮮明なものにならざるを得ず(乙アA155の10頁ないし22頁),助川ら自身,当該エックス線画像が精査に適することは期待し得ないとし,その精査においては甚だ苦心したとしていること,加えて,労働衛生試験研究の目的として昭和31年度研究の研究結果報告書には,我が国において石綿肺に関する研究は非常に少なく,過去においては保険院調査が僅かの資料を提供しているにすぎず,戦後に至って昭和27年以降になされた調査報告により石綿肺の様相や病理組織像の一部が明らかになってきたと述べられていること(甲A12)に照らしても,保険院調査は,我が国における石綿肺に関する先駆的な調査であり,高く評価されるべきものではあるが,同調査内容については,さらなる調査,検討等が必要とされていたのであって,同報告がなされたことによって直ちに石綿粉じん曝露によって石綿肺を発症することについての医学的知見が集積されたものと認めることはできず,よって,原告らの前記主張を採用することはできない。 (3) 石綿粉じん曝露と肺がんないし中皮腫の発症との間の因果関係に関する医学的知見の集積状況についてア前記第2章第2節及び第3節の前提事実,前記1(2)の認定事実によれ ば,以下のとおり,肺がんないし中皮腫に関する医学的知見が集積されていったことが認められる。 (ア) 昭和9年以降,アメリカ,イギリス,ドイツにおいて,石綿肺に合併した肺がんに関する症例報告や剖検例の報告等がなされ,ドイツにおいては,昭和11年頃から肺がんが石綿労働者における職業病であるとの指摘がなされるようになり,昭和18年にはドイツ政府も肺がんと合併した石綿肺については職業病と認め労災補償の対象とした。昭和22年,昭和24年には,リンチ及びミアウェザーが石綿肺の肺がん合併率が高いことを指摘し ようになり,昭和18年にはドイツ政府も肺がんと合併した石綿肺については職業病と認め労災補償の対象とした。昭和22年,昭和24年には,リンチ及びミアウェザーが石綿肺の肺がん合併率が高いことを指摘した。 中皮腫については,これを発生的に二次的なものであるとする見解が支持される一方で,胸膜原発の腫瘍が多くの研究者らの論文で言及されるようになり,昭和25年にはヴァイスらによって当該腫瘍が中皮腫原発であることが確認され,昭和29年にはLeichner によって石綿肺と合併した中皮腫の報告がされた。 昭和30年にはドールによって,石綿粉じん曝露と肺がんの関連性を示唆した世界で初めての疫学的な調査報告がなされた。その後,ILOやWTOも石綿粉じんと肺がんとの関連性を認める内容の報告を行ったが,一方で,ドール報告については,これを肯定できないという研究者(ブラウン・トルアン報告)も存在した。 また,昭和34年には,ワグナーらが南アフリカのクロシドライト石綿鉱山の労働者や石綿の運搬労働者,その付近住民らに中皮腫が発症した事例を報告した。ただし,同報告については,ワグナーら自身が,中皮腫と石綿曝露とを関連付ける病理学的証拠は決定的なものではないと述べ,今後の詳細な調査を要するものであることを指摘していた。 その後,マンクーソーやセリコフらによって,石綿粉じん曝露と肺がん,中皮腫の発症との関係を指摘する研究報告等がなされた。 昭和39年には,ニューヨーク国際会議において,セリコフ,ニューハウス,ドール,ワグナーなどにより,それまでの石綿と肺がん及び中皮腫についての研究に基づく報告がなされ,同会議に引き続いて行われたUICCワーキンググループにおける検討結果をとりまとめて昭和40年に公表されたUICC報告と勧告においては,石綿粉じんと ん及び中皮腫についての研究に基づく報告がなされ,同会議に引き続いて行われたUICCワーキンググループにおける検討結果をとりまとめて昭和40年に公表されたUICC報告と勧告においては,石綿粉じんと肺がん及び中皮腫(胸膜及び腹膜)との関連を示す証拠があるとされたが,同時に,肺がんのリスクの程度と吸入した石綿繊維の種類が関係しているか否かを証明することが緊急に必要であること,中皮腫の発症と関連性を有する石綿繊維がクロシドライトのみであるのかについてさらに調査をすることが必要であること,石綿に含有される結合物質(油,蠟等の有機物質)が石綿粉じんへの曝露後の腫瘍の形成においてどのような役割を果たすか未だ解明されていないこと,等の課題が残されている旨の指摘がなされ,疫学,病理学及び実験病理学,物理・化学の各領域における課題に関する勧告がなされた。なお,昭和41年頃までは,動物を用いた吸入実験において,石綿の吸入によりがんが発生するとの結果は得られていなかった。 その後,マクドナルド,セリコフ,ワグナーらによって,単一の種類の石綿繊維への曝露についての研究報告がなされ,クリソタイル,アモサイト,クロシドライトのいずれについても発がん性を有し,中でもクロシドライトは他の2種類の石綿と比較してより中皮腫との間に強い関連性があるのではないかということが示唆された。また,これらと平行して,動物実験や,海軍の造船所における断熱作業労働者を対象とした研究も進められ,さらに,肺がんの交絡要因である喫煙の影響に関する研究報告等も行われた。そして,こうした一連の研究結果を踏まえて,昭和47年にILOにより開催された専門家会議において,クロシドライト,アモサイト,クリソタイルのいずれも職業がん(肺がん及び中皮 腫)の危険性がある物質であることや紙 結果を踏まえて,昭和47年にILOにより開催された専門家会議において,クロシドライト,アモサイト,クリソタイルのいずれも職業がん(肺がん及び中皮 腫)の危険性がある物質であることや紙巻き煙草と石綿とは肺がんの発生に相乗的でないとしても合計したものであるという証拠があること等の報告がされ,同年に開催されたIARCリヨン会議に基づいて昭和48年に作成されたIARC報告には,主要な種類の石綿により肺がんを惹起し得るが,繊維の種類及び曝露の性質によりリスクに明らかな差があること,アンソフィライト以外は全て中皮腫を引き起こし得るが,リスクの程度はクロシドライトが最も高く,次いでアモサイト,クリソタイルといった順に低くなること,現時点において都会で一般の人が遭遇するような低レベルの石綿曝露により中皮腫のリスクが高まることを証明する証拠はないこと,煙草の喫煙が石綿に曝露される労働者における肺がんのリスクを高める重要な要因であるが,中皮腫と煙草の喫煙との関連性は証明されていないことが記載された。昭和48年に公表されたIARCモノグラフにおいては,産業の様々な領域におけるリスクの差は,繊維の種類,過去の粉じん水準,工程から生じる粉じんの形態,曝露期間の長さといった要因が全て関係すること,製造・塗布産業においては,中皮腫はクロシドライトへの曝露が原因で生じており,アモサイトやクリソタイルが原因となることは比較的少ないこと,喫煙は,非喫煙者に比べはるかに大きな度合いで,石綿労働者の肺がんリスクを増大させること等が記載された。 (イ) 一方,我が国においては,昭和29年以降,海外における石綿と肺がん及び中皮腫に関する研究報告等が紹介され,石綿肺と肺がんの関連性を指摘する文献も存在していたが,石綿曝露によって肺がんないし中皮腫が発症するこ 国においては,昭和29年以降,海外における石綿と肺がん及び中皮腫に関する研究報告等が紹介され,石綿肺と肺がんの関連性を指摘する文献も存在していたが,石綿曝露によって肺がんないし中皮腫が発症することに関する独自の研究はほとんど行われておらず,昭和40年の「じん肺と肺がんとの因果関係に関する研究」においては,イギリスやアメリカ等における研究結果等を踏まえ石綿肺と肺がんとの間には因果関係が認められること等が述べられ,同研究に参加した土屋 健三郎は,石綿と肺がんとの間に積極的な相関関係があるとする疫学的研究は支持するに足るものであるとしつつ,その原因がある種の石綿に限られるのか等については国際的な動向にも注目しながら今後研究が進められることが重要であるとし,同研究に参加した吉見は,石綿肺と肺がんの合併例についてイギリス,カナダ,ドイツ,アメリカの多数の学者によって多数の症例が報告されており,石綿肺と肺がんの関連性を認める学者が多いが,その関連性に疑問を持っている学者も少なくはないとしてブラウン・トルアン報告を紹介し,さらに,我が国における石綿肺肺がんの報告例は2例にすぎないため,統計的考察も不可能であり,今後症例の収集に努めるなどして,この関連性を検討する必要があるとした。昭和41年には東京において第9回世界がん会議が開催され,同会議の後に職業性腫瘍研究会の会員らと同会議に参加した各国の第一線職業がん研究者との間で非公開の会合がもたれ,そこでは,石綿の特異な発がん性についての紹介があった一方で,一部の海外の研究者から未だ石綿の発がん性を立証することはできていないとの発言もなされた。 昭和44年に東京で開催された第16回国際労働衛生会議においても,石綿と肺がん及び中皮腫との関連性を認める内容の報告がされた。昭和40年以降,海 性を立証することはできていないとの発言もなされた。 昭和44年に東京で開催された第16回国際労働衛生会議においても,石綿と肺がん及び中皮腫との関連性を認める内容の報告がされた。昭和40年以降,海外における研究報告等を紹介した上で,発生機序は不明であるとしながらも,石綿と肺がんないし中皮腫との関連性を指摘する文献が発行された。また,労働基準局長は,昭和46年基発第1号「石綿取扱い事業場の環境改善等について」を発出して,同通達において「最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺を起こすほか,肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫が発生するとの説も生まれてきた」とした上で,石綿粉じん対策についての指示を行った。その後,労働省が昭和45年9月に実施した石綿等有害物質の取扱い事業場の総点検の結果を受け,有害物 質の規制に関し検討するために設置された労働環境技術基準委員会の報告(昭和46年1月21日提出)では,石綿はがん原性のある物質に含められていなかったが(甲A67の1の8頁),昭和46年4月28日に公布,同年5月1日施行された旧特化則において石綿は対象物質とされた。そして,坂部弘之は,「昭和47年度環境庁公害委託研究費によるアスベストの生体影響に関する研究報告」において,IARCリヨン会議における報告ないし論評に添って,海外における石綿肺,石綿による肺がん及び中皮腫等に関する研究報告等を紹介した上で,前記会議に基づき作成されたIARC報告の内容を記載した。 イ以上の事実によれば,ドール報告やワグナー報告等石綿と肺がん及び中皮腫の関連性を示唆する内容の報告がなされる一方で,これに否定的な見解も存在していたところ,昭和39年のニューヨーク国際会議及びUICCワーキンググループの会 報告やワグナー報告等石綿と肺がん及び中皮腫の関連性を示唆する内容の報告がなされる一方で,これに否定的な見解も存在していたところ,昭和39年のニューヨーク国際会議及びUICCワーキンググループの会合において,それまでになされた研究の報告がなされ,同時に,石綿繊維ごとのリスクの差異等その後になされるべき研究についての勧告がされたことにより,その後各国の研究者らによって当該検討事項についての研究が進められ,その結果,昭和47年,ILO及びIARCによって,全ての種類の石綿は,いずれも肺がん及び中皮腫を惹起する危険性を有することが明らかにされ,これらの海外における知見に関しては,我が国において昭和41年及び昭和44年に国際会議が開催されたこともあり,同時期以降の欧米諸国における研究成果については我が国においても概ね共有されていたことが窺えることに加え,当時の我が国において肺がん及び中皮腫に関する研究が積極的なものではなく,欧米諸国に先行するような研究結果等が得られていたとは考え難いことからすれば,IARCが石綿により肺がん及び中皮腫が発症することを明示した昭和47年頃に,我が国においても同知見が確立したと認めるのが相当である。 ウ(ア) これに対して,原告らは,ドール報告は石綿と肺がんの関連性に関する一連の調査研究の到達点としての意義を有するものであって,これによって石綿の発がん性は決定的なものとなり,一方,我が国においては昭和20年代に発行された労働衛生関係の論文において石綿の発がん性に触れられており,ドール報告についても昭和33年に発表された論文等により公表後まもなくから国内に紹介されていたとして,石綿粉じん曝露と肺がんの関連性についての医学的情報は,ドール報告がなされた昭和30年までに充分集積されていたと主張する。 3年に発表された論文等により公表後まもなくから国内に紹介されていたとして,石綿粉じん曝露と肺がんの関連性についての医学的情報は,ドール報告がなされた昭和30年までに充分集積されていたと主張する。 しかし,ドール報告は,それ以前には石綿肺と肺がんの合併例に関する症例報告のみがなされていた中で,石綿作業に注目し,石綿粉じん曝露と肺がんの関連性を科学的研究によって指摘した世界で初めての疫学的な調査研究であったため,その評価については,他の研究者らによる追試,検証を待つ必要があったこと,また,ドール報告においては喫煙等の交絡要因について何ら考慮されておらず(喫煙について考慮した調査研究がなされ始めたのは昭和43年のセリコフの報告がなされた頃以降である。),肺がんが非特異性疾患であることからしても,この時点においては他の要因による肺がん発生の可能性が多分に残されていたこと,さらに,ドール報告がなされた当時はブラウン・トルアン報告のように石綿粉じんと肺がんの関連性に否定的な報告等がなされていたことや昭和41年頃までは動物実験において石綿吸入と肺がんとの関連性を示す実験結果が得られていなかったこと等からすれば,ドール報告がなされた昭和30年の段階で,日本国内においてはもちろん,海外においても,石綿と肺がんとの間の因果関係に関する医学的知見が集積していたとは認められない。 (イ) 原告らは,海外において1960年代には石綿の発がん性及び中皮腫との因果関係がより明確にされていたところ,我が国においては,昭 和41年にはニューヨーク国際会議の内容が記載された文献が存在し,また,同年,我が国において第9回世界がん会議等が開催されて石綿曝露と中皮腫についての報告がなされていたこと等を理由に,石綿粉じん曝露と中皮腫との関連性についての医 の内容が記載された文献が存在し,また,同年,我が国において第9回世界がん会議等が開催されて石綿曝露と中皮腫についての報告がなされていたこと等を理由に,石綿粉じん曝露と中皮腫との関連性についての医学的情報は昭和40年の時点において集積されていたと主張する。 この点,昭和40年頃には,「石綿粉じん曝露者には肺がん,中皮腫の発症例が多い」ということは,多くの研究により支持されるようになったが,喫煙を始めとする交絡要因の検討や動物実験による裏付けは,海外においてもあまりなされておらず,UICC報告と勧告においても石綿粉じんへの曝露と肺がん及び中皮腫の発症との間に何らかの関連が在ることまでは認めているものの,石綿繊維の種類による発症との関連性の有無やリスクの程度の差などについてさらに国際的に研究を行う必要があるなどとして,その詳細については研究すべき点が多いことが示されていたこと,UICC報告と勧告以降,昭和43年のセリコフの報告のように,喫煙の影響を考慮した研究報告が行われたほか,ラットやサル等の様々な動物を用いた動物実験が各国で数多く実施され,その結果,喫煙等の交絡要因をできる限り排除しても,なお石綿粉じん曝露が肺がんを発症させるリスクが高いことが示され,また,1970年代前半頃には,動物実験により,クロシドライト,アモサイト,クリソタイルのいずれの石綿であっても肺がん及び中皮腫を発生させる可能性があることが明らかにされるなど,交絡要因の解明やUICC標準繊維を用いた動物実験による検証が進み,石綿そのものと悪性腫瘍との関連や発がんのメカニズムが徐々に明らかとなり,関連の整合性がより確からしいものとなっていったこと,そして,昭和47年のILO,IARCの専門家会議における石綿の発がん性の指摘は,前記のような経過を経た上で,それまでの ムが徐々に明らかとなり,関連の整合性がより確からしいものとなっていったこと,そして,昭和47年のILO,IARCの専門家会議における石綿の発がん性の指摘は,前記のような経過を経た上で,それまでの調査研究の集積を踏まえてなされたものであること等 からすれば,昭和40年時点において,石綿粉じん曝露と肺がん及び中皮腫との関連性を示す医学的情報が集積していたと認めることはできない。 (ウ) また,原告らは,1970年代初めまでに,低濃度曝露による中皮腫の発症が次々と報告され,微量の石綿曝露によっても中皮腫の発症と関連することが確認され,昭和45年頃までには微量の石綿曝露による健康被害の危険性は決定的なものとなっていたことや,被告国が昭和46年には旧特化則において石綿を「第二類物質」に定めたことを理由に,どんなに遅くとも,昭和46年には,微量曝露による肺がん,中皮腫の危険性が明らかになっていたと主張する。 しかし,前記のとおり,我が国において石綿粉じん曝露と肺がん及び中皮腫の発症との関連性に関する医学的知見が集積したのは昭和47年頃であること,昭和47年に開催されたIARCリヨン会議の内容をまとめたIARC報告及びIARCモノグラフ第2巻においては,昭和47年頃の時点において,一般集団が大気中や製薬調剤等に含まれる程度の石綿粉じんに曝露することによって,がんのリスクを増大させたという証拠はないとされていること(甲A316の2,乙アA97の2),さらに,昭和53年までに海外及び国内において報告された調査研究結果等を検討した「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」においても,石綿の微量曝露により肺がんが発生するとの指摘はなされておらず,中皮腫に関しても,「肺がんを発生するに必要な曝露量よりも少量で発生する可能性が 健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」においても,石綿の微量曝露により肺がんが発生するとの指摘はなされておらず,中皮腫に関しても,「肺がんを発生するに必要な曝露量よりも少量で発生する可能性がある。」とされてはいるが,いかなる微量曝露によっても発生する旨の記載はされていないこと等からすれば,昭和46年頃までに,我が国において,石綿粉じんの微量曝露によって肺がん及び中皮腫が発症するとの医学的知見が集積していたと認めることはできない。 (4) 石綿粉じん曝露とびまん性胸膜肥厚との間の因果関係に関する医学的知見の集積状況について証拠(甲A4の216頁,67の1の53頁,乙アA10の190頁・191頁)によれば,石綿肺に胸膜肥厚を伴うことは早くから知られていたが,びまん性胸膜肥厚が独立した疾患概念として注目されるようになったのは,諸外国においても1970年代から1980年代にかけて石綿肺を伴わない症例が経験されるようになってからであり,その疫学的研究報告は1980年代前半以降になされていること,また,イギリスにおいては昭和57年にびまん性胸膜肥厚に対する最初の補償基準が設けられたが,我が国において労災認定の対象となったのは平成15年のことであり,その際には前記イギリスの補償基準(1996年改訂後のもの)が援用されたこと等からすれば,少なくとも,石綿粉じん曝露によって肺がん及び中皮腫が発症するとの医学的知見が集積した昭和47年頃より以前に,びまん性胸膜肥厚に関する医学的知見が集積したと認められることはないといえる。 第3 建築現場における石綿粉じん曝露による健康障害の危険性についての被告国の認識ないし予見可能性 1 認定事実前記第2章第2節及び第3節の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め 現場における石綿粉じん曝露による健康障害の危険性についての被告国の認識ないし予見可能性 1 認定事実前記第2章第2節及び第3節の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 我が国における石綿の使用状況等我が国においては,明治20年に石綿製品の輸入を開始して以降,石綿は当初軍需工業を中心に使用されていたが,昭和初期には石綿セメント製品等の生産が開始され,その優れた耐熱性,防音性等のため,重要な工業材料として広く使用され,石綿製品の種類は3000種類以上あったといわれている。 我が国の石綿の輸入量は,戦後(昭和25年以降)増加の一途を辿ったが, 昭和40年以降の増加が顕著であり,昭和45年には30万t近くに達し,昭和49年には35.2万tと最高を記録した。その後,平成2年以降は石綿条約等の影響によってその使用量が急速に減少していったものの,平成5年頃までは20万t以上の使用量があった。そして,その後も石綿に関する規制の強化と共に減少し続け,平成18年の安衛令改正によって石綿の使用が全面的に禁止されたことから,同年に輸入量はゼロとなった。昭和5年から平成17年までに,我が国には合計1000万t近い石綿が輸入されていたところ,前記輸入量の推移と,我が国の昭和46年から平成13年までにおける石綿含有建材の出荷量と推定石綿使用量(別紙9「将来の石綿含有建材料廃棄物の予測について」の「表15 既設建築物の石綿含有建築材料の推定量(予測量)」記載のとおり)からすれば,我が国に輸入された石綿のうち,約7割を超える量が建材に使用されていた。 (甲A4,1023,甲C2,16,乙アA19,107の4頁)(2) 石綿含有建材石綿含有建材としては,吹付け材(吹付け石綿,石綿含有吹付けロックウ 約7割を超える量が建材に使用されていた。 (甲A4,1023,甲C2,16,乙アA19,107の4頁)(2) 石綿含有建材石綿含有建材としては,吹付け材(吹付け石綿,石綿含有吹付けロックウール,石綿含有ひる石(バーミキュライト)吹付け,石綿含有パーライト吹付け),保温材等(保温材として,石綿保温材,けいそう土保温材,けい酸カルシウム保温材,パーライト保温材,バーミキュライト保温材等,断熱材として,屋根用折版石綿断熱材,煙突石綿断熱材,耐火被覆材として,石綿含有けい酸カルシウム板第2種),石綿スレート(スレート波板,住宅用屋根スレート,石綿スレート木毛セメント合成板等),ボード類(サイディング,フレキシブル板,平板,軟質板,パーライト板,パルプセメント板,スラグ石膏板,けい酸カルシウム板第1種,押出成形セメント板等),ビニル床タイル,石綿セメント円筒(パイプ),各種充てん材等がある。これらの石綿含有建材の主な種類,含有する石綿の種類,使用時期,石綿含有率等は,概ね以下のとおりである。(甲A36,1023の23頁ないし29頁,1 200,乙アA35の27頁ないし37頁)ア吹付け材我が国において石綿の吹付けは,イギリスから導入され,昭和30年頃から使用され始め,主に吸音,断熱用として使用されていたが,昭和38年頃から耐火被覆用としての使用が始まり,昭和39年に防音用として航空基地付近の建築物に用いられたのをきっかけとして一般に使用されるようになった。吹付け材は,石綿則において飛散性アスベスト(レベル1:著しく発じん量の多い製品)とされ,作業場所の隔離等の厳重な曝露防止対策が必要とされている。吹付け石綿としては,主にクロシドライトが多く用いられ,アモサイトとクリソタイルは下吹きや吹付けクロシドライトの表面に化粧 多い製品)とされ,作業場所の隔離等の厳重な曝露防止対策が必要とされている。吹付け石綿としては,主にクロシドライトが多く用いられ,アモサイトとクリソタイルは下吹きや吹付けクロシドライトの表面に化粧のためにクリソタイルを吹き付けた場合などがあった。学校や体育館など公共の建築物にはクロシドライトが吹き付けられる場合が特に多かった。 昭和42年頃より建築物の超高層ビル化,鉄骨構造化に伴い,鉄骨造建築物の軽量耐火被覆材として使用量が増加し,主に鉄骨,鉄筋建築物に使用された。 東京都が昭和62年に設置した将来の石綿飛散防止対策を検討する委員会が行った石綿排出の将来予測によれば,建物の耐用年数を考慮すれば,平成27年(2015年)から平成42年(2030年)頃が排出のピークであるとされ,吹付け石綿に曝露する危険性の高い建築作業は2050年まで続くと考えられている。 (甲A36,394,395,1023の33頁・34頁,乙アA35の34頁・35頁)(ア) 吹付け石綿石綿にセメント等の結合材と水を加えたものを噴射機で鉄骨・鉄筋造の建物の梁,柱,天井,壁などに吹き付けたものである。クロシドライ ト,アモサイト,クリソタイルの吹付け材があり,石綿含有率は60%から70%程度である。綿のように柔らかい見た目のものだけでなく,絨毯のような表面のもの(コテ押さえが行われたもの)もある。 吹付け石綿は,鉄骨の耐火被覆材として,また,ビルの機械室,ボイラー室等の熱や音を遮断する目的で使用されていたが,昭和50年改正特化則により,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける作業が原則として禁止されたため,その使用期間は,耐火被覆用のものが昭和38年頃から昭和50年まで,吸音・断熱用のものが昭和30年頃から昭和50年までである。ただし, える石綿含有製品等を吹き付ける作業が原則として禁止されたため,その使用期間は,耐火被覆用のものが昭和38年頃から昭和50年まで,吸音・断熱用のものが昭和30年頃から昭和50年までである。ただし,過渡期の昭和50年から昭和54年は技術的な問題からアモサイトを5%未満含有させていたとされる。 吹付け石綿は,年月とともにセメントや接合材が劣化し,石綿が飛散するようになる。飛散の程度は,吹付け石綿の劣化状況,使途等によって異なる。 昭和30年から昭和49年までの吹付け石綿の施工量は,以下のとおりである。(甲A396の4頁,乙アA1023の4頁)年施工量(t)年施工量(t)昭和30年 昭和40年3,675昭和31年 昭和41年4,429昭和32年 昭和42年6,453昭和33年 昭和43年7,923昭和34年 昭和44年10,143昭和35年1,514昭和45年11,707昭和36年2,488昭和46年19,196昭和37年2,488昭和47年20,987昭和38年3,081昭和48年17,131 昭和39年3,986昭和49年9,617 合計127,376以上のとおり,その施工量は,昭和30年以降概ね増加を続け,昭和47年にはピークの2万0987tに達し,その後昭和48,49年には減少したものの,昭和30年から昭和49年までに合計約12万7376tが施工された。 (甲A173の1の24頁ないし29頁,395,396,1023の33頁・34頁,乙アA35の34頁・35頁)(イ) 吹付けロックウール吹付けロックウールは,石綿含有率が 6tが施工された。 (甲A173の1の24頁ないし29頁,395,396,1023の33頁・34頁,乙アA35の34頁・35頁)(イ) 吹付けロックウール吹付けロックウールは,石綿含有率が5%を超える吹付け石綿が禁止された昭和50年以降,代替製品として広く利用された。ロックウール(岩綿)は.天然の鉱物を高炉で溶融して製造された人工の鉱物繊維である。用途は,吹付け石綿と同様,耐火被覆用と吸音・断熱用とがある。 吹付けロックウールに用いられていたのはクリソタイルであり,その含有率については,昭和43年から昭和50年までのものであれば多くて30%程度といわれており,昭和50年から平成元年頃までのものは3%から5%程度のものが多い。昭和55年には,建設省の指導でロックウール工業会の自主規制により乾式・半乾式のロックウール製品には石綿はほぼ使用されないこととなり,平成元年には湿式吹付けロックウール製品も業界団体の自主規制により石綿がほぼ使用されなくなったことから,吹付けロックウールに石綿が含有されていたのは平成元年までであるとされるが,業界団体に所属していなかった業者の存在や在庫品の使用等があったため,建築現場で重量比5%超の石綿を含むロックウールの吹付けが行われることがあったといわれている。 (甲A395,396,乙アA35の34頁・35頁)(ウ) 以上のほか,石綿含有吹付け材には,ひる石やパーライトなどに石 綿を混ぜて吹き付けたものがある。これらは石綿やロックウールに比べて硬度があり,結合性も高いのが特徴である。これらが使用されていた時期は,昭和40年から平成元年頃(業界団体の自主規制の時期)とされているが,このようなロックウールを含まない原材料での吹付け材(石綿含有率重量比5%以下)については,石綿使用中止時期 用されていた時期は,昭和40年から平成元年頃(業界団体の自主規制の時期)とされているが,このようなロックウールを含まない原材料での吹付け材(石綿含有率重量比5%以下)については,石綿使用中止時期が明確ではない(平成7年の法改正(石綿含有率重量比1%を超えるものの使用禁止)までは業界団体に加盟していなかった業者等により使用され,さらに平成9年頃まで使用が残っていたとされる。)。 ひる石吹付けは,バーミキュライト吹付けともいい,学校や保育園で耐火,吸音,断熱目的等で使用されてきた。石綿を使用している場合の含有率は約5から40%である。 パーライトそのものは,真珠岩,黒曜石を粉砕し,焼成膨張して得られた多孔質の鉱物である。パーライト吹付け材の石綿の含有率は1から10%であった。 (甲A394ないし396)イ石綿含有保温材等保温材等は,石綿則において,主に工場及び化学プラントにおいて使用されている飛散性アスベスト(レベル2:比重が小さく,発じんしやすい製品)とされ,レベル1に準じて高い曝露防止対策が必要とされている(甲A36,395)。 (ア) 保温材石綿が含有された保温材としては,石綿保温材,けいそう土保温材,パーライト保温材,けい酸カルシウム保温材,水練り保温材等がある。 ボイラーや各種の加熱炉,配管などの熱損失を防ぐために保温材が用いられる。この保温材の材料としては,一般的に無機質のものが使用される。天然鉱物繊維の中で石綿(アモサイト)は,熱伝導率が小さく,嵩 比重が小さく,強度が大きく,耐熱性が高いなどの特性を持つことから,保温,断熱材として古くから使用されてきた。 クリソタイルを使用した石綿保温材(JIS規格1号)とアモサイトを使用した石綿保温材(JIS規格2号)があったが,アモサイトを使用した製 持つことから,保温,断熱材として古くから使用されてきた。 クリソタイルを使用した石綿保温材(JIS規格1号)とアモサイトを使用した石綿保温材(JIS規格2号)があったが,アモサイトを使用した製品が圧倒的に多く製造され,使用時期は大正3年から昭和55年まで,石綿含有率は90%以上であった。 けいそう土保温材にはアモサイトが使用され,使用時期は明治23年から昭和49年まで,石綿含有率は1から10%であった。 パーライト保温材は,アモサイトを含有し,使用時期は昭和36年から昭和55年まで,石綿含有率は1から5%であった。 けい酸カルシウム保温材に使用された石綿はクリソタイルとアモサイトであり,使用時期は昭和26年から昭和55年まで,石綿含有率は1から25%であった。 水練り保温材に含有されていたのはクリソタイルとアモサイトであり,使用時期は昭和63年まで,含有率は1から25%であった。 (甲A247,396,1250の1ないし5・10,乙アA35の33頁・34頁,)(イ) 断熱材石綿含有断熱材には,屋根用折版裏断熱材と,煙突断熱材があり,前者についてはクリソタイルが含有されたものとクロシドライトが含有されたものがあった。屋根用折版裏断熱材のうち,クリソタイルが使用されていたものについては,その使用時期は昭和57年まで,含有率は90%以上であった。一方,クロシドライトが含有されていたものについては,使用時期は昭和45年までであったが,含有率は同様に90%以上であった。煙突用断熱材については,アモサイトが使用され,使用時期は昭和62年まで,含有率は90%以上であった。(甲A247,3 96,1250の10)(ウ) 耐火被覆板石綿を含有する耐火被覆板には,石綿含有耐火被覆板とけい酸カルシウム板第2種があった。 まで,含有率は90%以上であった。(甲A247,3 96,1250の10)(ウ) 耐火被覆板石綿を含有する耐火被覆板には,石綿含有耐火被覆板とけい酸カルシウム板第2種があった。前者に使用されていた石綿はクリソタイル,アモサイト及びクロシドライトであり,使用時期は昭和58年まで,石綿含有率は25から70%であった。後者については,クリソタイル及びアモサイトが使用され,石綿使用時期は平成3年までであり,その含有率は20から25%であった。(甲A396,乙アA1023)ウ石綿含有成形板(石綿スレート)等(ア) 石綿含有成形板は,防火性,耐水性,耐久性,昆虫類等による耐食性,遮音性に優れており,その種類には大別して波板とボードがある。 波板には,波の形状により,大波,中波,小波,リブ板,フレキシブル波板等があり,軽量強靱で塗装の必要もなく,腐食しない。施工に関しては,下地材の野地板も不要であり,弾力性に富んでいることから,工場や倉庫等の諸工業用建築物に使用される比率が圧倒的に多く,また,外壁よりも屋根に使用されることが多いが,この分野では,亜鉛鉄板等と競合関係にあった。また,外壁材としては,ALC板等と競合関係にある。ボード類にはスレートボード(平板,フレキシブル板,軟質板等),石綿パーライト板,けい酸カルシウム板等がある。また,二次加工品として,化粧板,吸音孔あき板等がある。ボード類については,昭和41年には住宅用の比率は約15%程度にすぎなかったが,フレキシブル板,けい酸カルシウム板,石綿セメント板等の開発により,昭和51年には諸工業用を上回る47%の比率を占めるようになった。屋根,外壁のみならず,内壁,天井等にも使用された。(甲A151,1293,甲C2の44頁ないし48頁,乙アA35の29頁)石綿含 1年には諸工業用を上回る47%の比率を占めるようになった。屋根,外壁のみならず,内壁,天井等にも使用された。(甲A151,1293,甲C2の44頁ないし48頁,乙アA35の29頁)石綿含有成形板では,平成5年までの間,けい酸カルシウム板第1種 にはクリソタイルとともにアモサイトが使用されたが,その他の建材はクリソタイルのみが使用されていた。石綿含有成形板等は,石綿則において,非飛散性アスベスト(レベル3:発じん性の比較的低い製品)とされ,粉砕,切断等の作業を行う場合は飛散レベルに応じた曝露防止対策が必要とされている。(甲A36,395,396)(イ)a スレート波板は,セメントと石綿を主原料とし,これを水で泥状にしたものをウエットマシンにより一定の厚さの生原板に抄造し,型付機により型付け後,プレス機にかけて加圧成形し,養生したものである。平成16年まで石綿を使用しており,その含有率は昭和46年から昭和55年までは15%,昭和56年から平成2年までは12%,平成3年から平成16年までは10%であった。多くが非住宅の外装材(外壁,軒天)及び屋根材として使用された。(甲A36,142,396,1133の8頁,1149の21頁,1150の49頁,1167の49頁,甲C1の232・239)b スレートボードは,前記aと同様の製造方法により製造されるが,平板の場合型付機による型付けは行われない。平成16年まで石綿を使用しており,その含有率は,昭和46年から昭和54年までは20%,昭和55年から昭和57年までは18%,昭和58年から昭和61年までは15%,昭和62年から平成2年までは12%,平成3年から平成16年までは10%であった。このうち,昭和27年に発売されたフレキシブル板は,ボードの代表的な製品であり,切断加 年から昭和61年までは15%,昭和62年から平成2年までは12%,平成3年から平成16年までは10%であった。このうち,昭和27年に発売されたフレキシブル板は,ボードの代表的な製品であり,切断加工も容易で,主に内装(壁,天井),外装(外壁,軒天)に不燃材料として使用された。大正13年から製造されている平板(大平板)は,その性能はフレキシブル板に準じるもので,軽量防火材として内装(壁,天井),外装(外壁,軒天)に広く使用された。軟質板については,釘の直打ちや筋折などフレキシブル板と同様に加工性のよい内 装材であるが,多少乾湿による伸縮があるので,外装材には適さなかった。パーライト板は,セメントのほかにパーライト(真珠岩)を原料として使用した.耐火,断熱に対して優れた性能をもっており,極めて軽量で釘打ち,切断などの加工が容易であって,主に内装,天井,間仕切りに使用された。 (甲A36,142,396,1133の8頁,1149の21頁,甲C1の232・239,2の45頁・47頁,乙アA35の30頁)c けい酸カルシウム板として総称されるものは,原料的には,石綿セメントけい酸カルシウム板とセメントを含有していない石綿けい酸カルシウム板とがある。 けい酸カルシウム板第1種は,内装(壁,天井)や耐火間仕切り,外装(主にピロティーや軒天に使用)に使用され,平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は昭和46年から昭和54年までは25%,昭和55年から昭和60年までは20%,昭和61年から平成元年までは15%,平成2年から平成4年までは10%,平成5年から平成16年までは5%であった。 (甲A36,396,1150の50頁・51頁,1167の50頁・51頁,1313,乙アA35の30頁)d 押出成形セメント板は,石 年までは10%,平成5年から平成16年までは5%であった。 (甲A36,396,1150の50頁・51頁,1167の50頁・51頁,1313,乙アA35の30頁)d 押出成形セメント板は,石綿,セメント無機質材を主原料として,押出成形したもので断面形状の特性を活かして内装,外装,床,間仕切りなどに使用されたが,非住宅の壁材に使用されている例が多いとされる。平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は,昭和46年以降平成16年まで12%であった。(甲A36,396,1150の54頁・55頁,1167の54頁・55頁,乙アA35の30頁) e パルプセメント板は,セメント,無機質繊維,パーライト,パルプなどを原料とした製品で,優れた不燃性,耐水性,吸音性,保温性があり,施工が容易であり,住宅用として内装(内壁,天井),軒天に使用されることが多かった。昭和60年から平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は5%であった。スレート波板,スレートボード,石こうボードと競合した。(甲A151の5頁,396,1150の56頁・57頁,乙アA35の30頁)f スラグせっこう板は,スラグ,石膏を主原料とし,無機質繊維を補強材とした製品で,軽量で加工が容易であり,内装,外装に使用された。昭和56年から平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は5%であった。(甲A396,乙アA35の30頁,1023)g サイディング材には,平板状とリブ波状の2種類があり,主に外装材(外壁,軒天)として使用された。サイディングについては,平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は昭和46年から昭和54年までは15%,昭和55年から昭和60年までは10%,昭和61年以降平成16年までは5%であった。ただし,サイディングに ,平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は昭和46年から昭和54年までは15%,昭和55年から昭和60年までは10%,昭和61年以降平成16年までは5%であった。ただし,サイディングについては,製造工場により石綿製品と無石綿製品がある。(甲A36,396)h 住宅屋根用スレート(屋根材)には,一般戸建住宅に使用された平形屋根スレートと波形屋根スレートがあった。住宅屋根用化粧スレートについては,平成16年まで石綿が使用されており,その含有率は,昭和46年から昭和55年まで15%,昭和56年から平成6年まで12%,平成7年から平成9年まで10%,平成10年から平成16年まで8%であった。(甲A36,396,乙アA35の29頁)i ロックウール吸音天井板は,内装材(ほとんどが天井に使用された。)として使用され,昭和62年まで石綿が使用されており,昭和 46年から昭和62年までの石綿含有率は4%であった。なお,昭和61年以前のものであっても,無石綿製品がある。高層ビル,地下街等大規模建築物に使用され,化粧石こうボードと競合した。(甲A36,151の5頁,396,1150の73頁)j 石こうボード(平ボード,化粧ボード,ラスボード,吸音ボード)には昭和61年まで石綿が使用されており,原紙部の石綿含有率は昭和46年から昭和61年まで1%,基材部については昭和52年から昭和62年まで4.5%であった。石こうボードは,建築用として多方面に使用され,特に木造住宅,店舗など小規模建築物に,内装材(壁,天井)や外壁下地として多く使用された。合板,繊維板,石綿スレート等と競合した。(甲A36,151の5頁,396,1149の76頁,1150の62頁ないし65頁)k 石綿セメント円筒は,大正初期に多田学が,石綿スレートの 使用された。合板,繊維板,石綿スレート等と競合した。(甲A36,151の5頁,396,1149の76頁,1150の62頁ないし65頁)k 石綿セメント円筒は,大正初期に多田学が,石綿スレートの生原板を芯管に巻いて円筒を製作し,これを煙突に使用することを考えたのが始まりであり,大正9年に製造が始まったものである。原料はセメントと石綿,硅酸質微砂その他の混合剤であり,これに水を加えて泥状にして圧縮成形する。石綿セメント円筒については,平成16年まで石綿が含有されており,その含有率は昭和46年から平成16年までの間15%であった。石綿セメント製のパイプ状製品には,煙突,排気管,電攪管と下水道用の高圧管があった。(甲A36,142,396,乙アA35の30頁・31頁)l フリーアクセスフロア(床材)については,昭和63年まで石綿が含有されており,その含有率は昭和46年から昭和63年まで15%から25%であった(甲A396,乙アA1023)。 m ビニル床タイル(通称「Pタイル」。床材。)については,昭和62年まで石綿が含有されており,その含有率は昭和46年から昭和62 年までの間4%から15%であった(甲A396,乙アA1023)。 (ウ) 石綿含有成形板の出荷量(昭和46年から平成13年まで)は,別紙10「表3-3 石綿含有建築材料(成形板)の出荷量(千㎡)」のとおりである(甲A396の5頁)。 エ混和材モルタル混和材は,蛇紋岩を粉砕したものであり,左官工事等において作業性の向上を図るために用いられることがあった。 被告41は,昭和46年から平成15年までの間,石綿を含有するモルタル混和材「テーリング」(石綿含有率45%。使用場所は外壁,内壁,天井)の製造販売を行った。 厚生労働省は,平成16年7月2日に「 被告41は,昭和46年から平成15年までの間,石綿を含有するモルタル混和材「テーリング」(石綿含有率45%。使用場所は外壁,内壁,天井)の製造販売を行った。 厚生労働省は,平成16年7月2日に「左官用モルタル混和材中の石綿の含有について」と題し,平成16年6月までに,「無石綿」又は「ノンアスベスト」と表示された左官用モルタル混和材のうち,「モルスター」(モルタル及び補修材用混和材),「ノンアスエース」(補修用混和材),「NSハイパダーⅡ」(非石綿系作業性改良材),「サンモール」(セメント混和材),「ハイワーク」(しごき,補修用混和材),「ニューコテエース」(左官用作業改良材),「ビルエース」(補修用混和材)について,クリソタイルの含有が明らかとなったと発表した。 (甲A1248の1)(3) 我が国における建築物と石綿含有建材ア住宅供給政策による住宅建築と石綿含有建材(ア) 戦後の住宅不足を解消するため,被告国は,昭和25年5月に制定された住宅金融公庫法により設立された住宅金融公庫による融資や,昭和26年に公営住宅法を制定し,公営住宅建設に法的根拠を与え,建設計画に基づいて建設することとして(第一期計画が昭和27年度を初年度として策定された。),住宅建設を積極的に推進する等の施策を行った。 しかし,大都市周辺の住宅不足は解消されなかったことから,昭和30年に,当時の住宅不足数を270万戸と推定した上,同年を初年度として10年の間にこれを解消するとともに,毎年の新規需要18万から25万戸を充足することを目標とする,住宅建設十箇年計画を策定し,大都市地域を中心に広域的な住宅供給(耐火構造の集合住宅の大量建設等)を行うことを目的として,日本公営住宅法(昭和30年法律第53号)に基づき昭和30年7月に日本住宅公団が 建設十箇年計画を策定し,大都市地域を中心に広域的な住宅供給(耐火構造の集合住宅の大量建設等)を行うことを目的として,日本公営住宅法(昭和30年法律第53号)に基づき昭和30年7月に日本住宅公団が設立された。これによって,①公営住宅,②住宅金融公庫の融資による住宅,③日本住宅公団の建設する住宅という,住宅行政の三本柱が確立した。 その後,被告国は,前記十箇年計画を短縮し,昭和32年から5年で住宅事情を安定させる方針のもとに,同年時点での233万戸の住宅不足数をほぼ5年で解消し,この間に民間自力建設を170万戸,政府施策分として110万戸の合計280万戸の建設を目標とする住宅建設五箇年計画を策定した。また,昭和35年の国民所得倍増計画の中で,昭和45年度までの10年間に1000万戸の住宅を建設することが盛り込まれたのを受け,被告国は,昭和36年度から昭和40年度に「1世帯1住宅」の実現と不良住宅居住,老朽住宅居住,狭小過密居住の解消に努め,併せて不燃堅ろう化,居住水準の向上,居住環境の整備を図ることとし,5年間の住宅建設戸数を400万戸,うち政府施策分として160万戸を建設することとした。 被告国は,昭和39年に,昭和45年度までの7年間に760万戸の住宅を建設し「一世帯一住宅」を実現することを目標とする住宅建設七箇年計画を策定したが,当時の世帯の細分化等による住宅需要の増加傾向が計画を上回っていることが判明したため,これを改定するとともに,抜本的な住宅対策を確立して深刻な住宅難に対処することとなり,昭和41年6月に住宅に関する総合的な計画立法としての住宅建設計画法が 制定され,同法の下に,5年ごとに計画を策定することとした。第一期住宅建設五箇年計画では,建設必要戸数は670万戸(持家335万戸,借家270万戸,給与 画立法としての住宅建設計画法が 制定され,同法の下に,5年ごとに計画を策定することとした。第一期住宅建設五箇年計画では,建設必要戸数は670万戸(持家335万戸,借家270万戸,給与住宅65万戸)と算出されていたところ,結果としては674万戸が建設され,総戸数の上では目標を達成したが,住宅難世帯はなお相当数存在し,特に大都市地域における勤労者の住宅難は依然として深刻なものであったことから,昭和46年に第二期住宅建設五箇年計画を策定し,同期中に概ね1人1室の規模を有する950万戸(持家525万戸,借家及び給与住宅425万戸)の住宅の建設を図るものとし,これによって,住宅の量的不足は一応解消された。国民の居住水準向上への強い要望を受け,被告国は,昭和51年,昭和60年度を目途にすべての国民が確保すべき水準として最低居住水準(国民が健全な住生活を享受するに足りる居住の最低水準。)を定め,昭和55年までに水準以下の居住の概ね2分の1の解消を図ることとし,また,全体の水準の向上を図るため,昭和60年を目途に,平均的な世帯が確保できるようにする水準として平均居住水準(「一人一室,世帯に一共同室」が原則)を定め,住宅の質の向上を図ることを目標とした,第三期住宅建設五箇年計画を策定し,計画期間中の建設戸数を860万戸と算出した。同五箇年計画期間中の総住宅建設戸数は769万8000戸となり,当初の計画を下回る結果となった。第三期終了年次(昭和55年)時点で,第一期から第三期までの間に戸数面での量的充足は進み,全体として居住水準の着実な改善が見られたが,大都市圏を中心として問題が残されていること,持家取得を通じての居住水準改善意欲が強まっていること等の指摘がされた。 (甲A141の59頁・479頁ないし483頁・508頁ないし51 られたが,大都市圏を中心として問題が残されていること,持家取得を通じての居住水準改善意欲が強まっていること等の指摘がされた。 (甲A141の59頁・479頁ないし483頁・508頁ないし515頁,143,221)(イ) 昭和22年以降公共不燃アパートが出現し,また,日本住宅公団発 足以前,既に昭和27年,昭和28年からは被告国の施策として官公庁施設を中心に都市の不燃化が急速に推進されていたが,住宅の不燃化は遅く,その大部分は木造であった。昭和30年に日本住宅公団が発足し,2万戸の不燃耐火造住宅の発注を契機として,これらの業者の施工技術の蓄積が本格的に開始された。(甲A143)(ウ)a 日本住宅公団は,住宅不足の著しい地域における勤労者のための住宅建設,耐火性能を有する集合住宅の建設,行政区画にとらわれない広域圏の住宅建設,大規模かつ計画的な住宅開発の達成を目的とした。短期間に一定水準以上の住宅を設計,積算,発注,工事監理を行い,住宅不足を解消するという目的から,設計計画では「標準設計システム」を導入し,工事に共通した仕様書を作成することで,技術水準の統一や監理用量の整理を図り,設計の省力化や施工技術の向上を目指した。日本住宅公団が作成した仕様書には,工事共通仕様書(工事に関する全般的な事項を規定したもの)と特別共通仕様書(工事共通仕様書に定めた事項についての詳細を定め,個別の製造企業を指定する等したもの)があった。 工事共通仕様書においては,昭和30年から昭和33年までの間,「木工事」の野縁の材料として「石綿大平板」が,昭和36年以降は「石綿セメント板」が挙げられ,同年以降「工法」として「石綿セメント板類」の使用が記載されていた。また,昭和38年以降「内装工事」に内装材として「石綿セメント板」が挙げられ,昭 が,昭和36年以降は「石綿セメント板」が挙げられ,同年以降「工法」として「石綿セメント板類」の使用が記載されていた。また,昭和38年以降「内装工事」に内装材として「石綿セメント板」が挙げられ,昭和50年以降は「石綿スレート」も内装材として記載された。一方昭和33年から昭和62年までの間は,「衛生設備工事」及び「上水道工事」において「水道用石綿セメント管」が挙げられていた。さらに,機械暖房設備工事の「保温工事」において「アスベストセメント」が保温材として示されていた。 特別共通仕様書における石綿含有建材の指定は昭和63年まで行われ,例えば,昭和35年から昭和38年においては「木工事」の材料として「石綿セメント板」が記載され,具体的な製造企業名として,A,B,C,D,E等が挙げられ,昭和38年の仕様書では,「内装工事」の内装材として「標準穴あき軟質石綿板」が,昭和46年には同様に内装材として「化粧石綿セメント板」が指定され,グラサルボード(F)等の商品名が記載された。また,昭和35年から昭和37年には,「木工事」の材料として,E,G,H,I,J等が挙げられている。昭和56年には「防水工事」の屋根材として「化粧石綿セメント板」が指定され,セキスイかわらU(K),クボタカラーベスト(L),ナショナルかわらフルベスト24(M),エタニットかわらベルリーナ・ベレ(N)が工法も登録された施工仕様登録として記載されていた。 (甲A426の1)b 住宅金融公庫による融資対象となる住宅については,建基法とは別に公庫住宅のための建設基準を満たすことが要求されており,具体的には,住宅金融公庫建設サービス部が監修する工事仕様書等を基準に設計することが求められていたところ,前記工事仕様書の中には,「石綿セメント板張り」「せっこうボー を満たすことが要求されており,具体的には,住宅金融公庫建設サービス部が監修する工事仕様書等を基準に設計することが求められていたところ,前記工事仕様書の中には,「石綿セメント板張り」「せっこうボード・その他のボード張り」という工法が示され,その材料としてJIS規格認定のある石綿セメント板,石綿セメントパーライト板,吸音用穴あき石綿セメント板,石綿けい酸カルシウム板等を用いることが挙げられるなどし,また,造作工事という項目で内装せっこうボード張り・その他のボード張りの材料として「石綿スレート板」「化粧石綿スレート板」「石綿セメントけい酸カルシウム板」「石綿セメントパーライト板」などが示されるとともに,それらの品質としてJIS規格に適合することなどが求め られていた。さらに,石綿スレートについては,「防火性,耐水性に優れているうえ,曲げ強度が高い特性もあり,屋根材,外壁材をはじめ,建築,木造建造物に多く用いられている」,「石綿セメントけい酸カルシウム板」については,「石綿セメント板に比較して軽量であること,寸法安定性に優れている等の特性があり,内装地下材として有用な材料といえる」等として,これらの石綿含有建材の有用性が示されていた。(甲A426の1)イプレハブ化の促進と石綿含有建材の使用従来の建築生産方式は,手作業による現場一品生産方式であったが,工事量が増加するにつれ,熟練労働者の不足が深刻な問題となったことから,建設省は,公共住宅をプレハブ化(建築用の部品を規格化し,前もって工場で生産して倉庫に保管し,必要な時期に必要な場所へ迅速に運搬して組み立てる方式)してこれを原動力として建築産業全体をプレハブ体制へ転換させる方針を立て,建設省住宅局,建築研究所,住宅金融公庫,日本住宅公団,東京都,神奈川県によって,公共 な場所へ迅速に運搬して組み立てる方式)してこれを原動力として建築産業全体をプレハブ体制へ転換させる方針を立て,建設省住宅局,建築研究所,住宅金融公庫,日本住宅公団,東京都,神奈川県によって,公共住宅用規格部品協議会が設立され,公団住宅で大量に使用されて価格が低下することで,住宅金融公庫の住宅や公営住宅でも使用可能となり,一層のコストダウンと品質の向上が見込める部材を選定して,公共住宅用規格部材として採用する方針が確認された。昭和35年4月には,社団法人日本住宅協会に「公共住宅建設合理化促進委員会」が設立され,その下部に「工場住宅用規格部品委員会」が置かれ,それまでの前記協議会の事業が引き継がれた。 昭和36年度からは,公営住宅の設計基準に「設計にあたっては,できるだけ規格化された部品を使用して,住宅の質の向上と,工事費の節減につとめること」という一項が付け加えられ,公共住宅用規格部品の使用の推進が図られた。そして,建設省や日本住宅公団は,昭和37年度からプレハブ住宅の試作建築や量産試験場における公共住宅用規格部品の研究等 を行い,また,住宅金融公庫は,同年から,鉄骨系プレハブ住宅(不燃組立構造住宅)の技術診査を行い,融資の適合性を承認する制度を発足させ,さらに昭和39年には,木質系,鉄骨系,コンクリート系構造のプレハブ住宅に関しても同様の制度を創設するなど優遇措置を採る等して,よりプレハブ化を促進した。また,新建材やプレハブ企業に対して日本開発銀行は融資を行った。 日本石綿協会が発行した昭和38年11月15日付け「石綿」によれば,第8回石綿スレート設計競技授賞式における建設大臣祝詞にみられるように,建設省が本格的に量産住宅の推進を図っていること等を受けて,通産省窯業建材課にはプレハブ課が新設された。また,昭和49年 れば,第8回石綿スレート設計競技授賞式における建設大臣祝詞にみられるように,建設省が本格的に量産住宅の推進を図っていること等を受けて,通産省窯業建材課にはプレハブ課が新設された。また,昭和49年に発行された日本建築センター編,建設省住宅局住宅生産課監修の「プレハブ住宅ガイドブック」においては,ほとんどのプレハブ住宅において石綿含有建材が使用されていたといえる旨記載された。 (甲A141の395頁・478頁,143の32頁,426,1052,甲C1の215)ウ被告国による木材資源の有効利用や建築物の不燃化の促進に伴う石綿含有建材の使用通産省は,国内資源保護の見地から木材資源の節約を意図して,昭和30年1月21日に「木材資源利用合理化方策」を閣議決定し,これを具体化するものとして,石綿スレートが,耐火性や耐水性に優れ,かつ軽量である等といった近代建築に適合する性質を有することから,同年10月17日付けで「木材代替に関連する石綿スレート新製品の照会について」の通牒を関係業界に対して発した。石綿スレートの需要の大半は諸工業用建築物の新設,補修用であったが,前記のような石綿スレートの性質が活用され始めたことから,昭和34年頃以降住宅用としての需要が増加した。 昭和34年6月に発行された通産省軽工業局窯業建材課編集の「日本の建 材工業」(甲A142)においては,「石綿スレートのもつ優秀性すなわち耐火,耐水,耐蝕,軽量,強靱が近代建築にマッチしたものであるため,建築の不燃化,木材利用合理化のうえに重要な資材となってきている。」と評価され,今後における問題点と発展の方向として「ここ数年来の石綿スレートは,建築界の要求に応えて意欲的に努力しており,用途の拡大に努めているが,そのために必要な製造技術の革新は漸次行われてきている。 価され,今後における問題点と発展の方向として「ここ数年来の石綿スレートは,建築界の要求に応えて意欲的に努力しており,用途の拡大に努めているが,そのために必要な製造技術の革新は漸次行われてきている。 しかしそれ以上に,製品の流通組織の改革と施行技術の簡易化に対する研究が必要であると考えられる。つまり石綿スレートが手近な建材店で求められ,工事現場で簡単な工具で取り扱えるように,一般化されなければならない。このためには今後,生産者のみでなく,建築にたずさわる人々の理解と協力も必要とされよう。」と述べられた。(甲A142,甲C1の118・121)エ建築関連法令と石綿含有建材の使用石綿含有建材については,地方自治体において,明治41年に大阪府の大阪府令第78号建物取締規則が「防鼠材料」として石綿盤を指定し,明治45年には兵庫県の兵庫県令第2号兵庫県建築取扱規則が石綿盤を「防火材料」に指定したのが始まりであり,その後,大正8年に制定された市街地建築物法施行規則の不燃材料の項目において,「煉瓦,石,人造石,コンクリート,石綿盤,瓦,金網,陶磁器,硝子,モルタル,漆喰の類」と定められ,乙種防火戸の三番目のなかで「モルタル,漆喰,石綿盤の被覆」とされた。 昭和25年制定の旧建基法において,同法2条9号の不燃材料の例示として石綿板が定められた。その後,昭和39年建設省告示第1675号(耐火構造の指定)により,はり,柱,壁等の耐火構造として,鉄骨を吹付け石綿で被覆した構造が指定された。また,昭和34年改正建基令108条において石綿スレートを用いたものが防火構造として定められ,後に 平成12年改正建基令108条に基づく平成12年建設省告示第1359号及び平成13年国土交通省告示第1684号により石綿スレート及び石綿パーライトを用い が防火構造として定められ,後に 平成12年改正建基令108条に基づく平成12年建設省告示第1359号及び平成13年国土交通省告示第1684号により石綿スレート及び石綿パーライトを用いたものが防火構造として指定された。 また,内閣又は建設大臣等は,建基法2条7号ないし9号に基づき,建基令,告示等により,石綿含有建材及びこれを用いた構造を,耐火構造,準耐火構造,防火構造及び防火材料(不燃材料,準不燃材料,難燃材料等)として指定,認定した(昭和44年以降は,耐火構造における石綿及び防火材料における石綿スレート等については通則的な認定が可能となり,同様の性能を有する複数の構造が一括して指定されるようになった。)。そして,建基法は,特殊建築物の主要構造部分を耐火構造とする旨や(同法27条),防火地域及び準防火地域内における一定の規模以上の建築物については主要構造部分を耐火構造又は防火構造(昭和34年改正建基法において耐火構造物又は簡易耐火構造物(準耐火構造物)と改正された。)にしなければならない旨(同法25条),及び昭和34年改正建基法により一定の用途に供する特殊建築物等(昭和45年改正建基法によりその対象範囲が拡大されたことにより,一般住宅の内装制限は強化された。)については原則として壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを,準不燃材料,難燃材料ないしこれらに準ずる材料の組み合わせでしなければならない旨(昭和34年改正建基法35条の2)等を規定した。 以上のような建築関係法令の制定及び改正により,耐火構造や防火材料等として指定,認定された石綿含有建材の使用が促される結果となり,特に昭和34年改正建基法により内装制限が設けられたこと等によって第一種不燃材料である石綿スレートの用途が増大したことから,石綿スレート協会では同年の年 れた石綿含有建材の使用が促される結果となり,特に昭和34年改正建基法により内装制限が設けられたこと等によって第一種不燃材料である石綿スレートの用途が増大したことから,石綿スレート協会では同年の年間需給計画を1300万枚(前年の実績よりも18%増)とし,結果として,昭和34年度の実績は,前年度に比べると石綿スレートは5割余の激増となった。なお,同年度の石綿製品についても,そ の生産,出荷とも約2割の増加があり,特にライニング,紡織品,石綿板が目立って好調であった。そして,昭和35年度についても,石綿スレートについては伊勢湾台風被害の整備及び新規需要増を見込んで生産計画は激増し(需要部門(建物用途)では居住用が3倍以上の躍進率を示していた。),同年度における石綿スレートの実績は,不燃材料として官公需,社会福祉施設用,住宅用が増加したこともあり,生産は前年比40%増,出荷は前年比35%増となった。さらに,昭和36年以降も,建基法に基づく不燃材料の周知徹底が図られることにより,石綿スレートの需要が高まることが期待され,昭和39年には建基令の改正により石綿スレートなどを用いた木造乾式防火構造が法制化されたこともあり,昭和39年度には4300万枚近い出荷量となり,昭和44年5月から旅館,ホテル等の内装制限が施行されると石綿スレートボード類の売れ行きはたちまち上昇し,その後も住宅用建材の比重が高まるなか昭和48年には出荷量が1億万枚に達した。その後,昭和48年の石油危機をきっかけとするインフレと総需要制限策による個人消費と需要の激減,民間設備投資の大幅な減退などから景気が悪化し,その影響により昭和49年以降石綿スレートの出荷量も大きく減少した。昭和51年頃には被告国の住宅政策の推進(第三期住宅建設五箇年計画案)と見合って,住宅用建 備投資の大幅な減退などから景気が悪化し,その影響により昭和49年以降石綿スレートの出荷量も大きく減少した。昭和51年頃には被告国の住宅政策の推進(第三期住宅建設五箇年計画案)と見合って,住宅用建材への進出を積極的に進めることにより石綿スレートの出荷量の回復を図ろうとしたが,設備投資を中心とする建築需要の低迷により昭和52年の出荷量は7500万枚程度に減少した。昭和54年には新製品の開発等の影響もあり出荷量の増加が見られたが,その後昭和58年にかけて減少し,昭和58年の出荷量は7000万枚を下回った。しかし,その後再び出荷量は増加し,平成5年までの間,増減はあるものの,約7500万枚から約8800万枚程度を維持していた。 また,昭和38年改正建基法において最高軒高31mという建築物の高 さ制限が解除されたことにより,我が国において高層ビル化が進み,これに伴い鉄骨造建築物が多くなった。一方で,鉄骨は高熱に弱いことから,建基法2条7号の耐火構造として昭和39年建設省告示第1675号により鉄骨を吹付け石綿で覆ったもの等が指定されたことから,耐火被覆材として吹付け石綿が促進された。その後,高層化が進むにつれて,より現場作業が少なく,施工が簡単でしかも粉じん飛散などを伴わない新たな被覆材が求められるようになったことから,石綿建材メーカーは成形板の開発に取り組み,耐火被覆板の開発,使用も促進された。 昭和47年に発行された星野昌一監修「建築家のための防火建築材料総覧」に基づき,全材料のうち,石綿含有建材が占める割合を求めると,準不燃材料では全302製品中107製品が石綿含有建材と考えられ,その割合は35.4%であり,不燃材料では全587製品中445製品が石綿含有製品と考えられ,その割合は75.8%であった。 (前記第2章第3節 では全302製品中107製品が石綿含有建材と考えられ,その割合は35.4%であり,不燃材料では全587製品中445製品が石綿含有製品と考えられ,その割合は75.8%であった。 (前記第2章第3節第2,2及び3,甲A151の35頁,173の1の7頁・17頁・22頁ないし26頁・35頁・36頁,426の1,1052,1245,1253,1297,甲C1の158・170・173・179・182・212・217・218・229・263・297・301・304・340・360・362・367・385・389・409,2,4の101頁ないし103頁・129頁)オ JISの性質及び石綿含有建材のJIS制定等(ア) 日本標準規格(JES)と日本工業規格(JIS)日本標準規格は,大正10年当時農商務省に設けられた工業品規格統一調査会(第二次世界大戦後は工業標準調査会)による審議を経て,主務大臣が制定する国家規格であるが,明確な根拠法規はなく,制定手続も明確なものがなかった。そのため,昭和24年以降は,JISに切り替えが行われていった。(甲A190の1頁・2頁) (イ) 日本標準規格(JIS)の制定改廃手順aJISは,工業標準法(昭和24年法律18号)に基づき,日本工業標準調査会の調査審議を経て,主務大臣が制定する国家規格である。 JISは,鉱工業品の種類,型式,形状,寸法,構造,装備,品質,等級,成分,性能,耐久度又は安全度等について全国的に統一し,または単純化したものであり,JISそのものには強制力はない。この目的は,「適切かつ合理的な工業標準の制定及び普及により工業標準化を促進することによって,鉱工業品の品質の改善,生産能率の増進その他生産の合理化,取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図り,あわせて公共の 切かつ合理的な工業標準の制定及び普及により工業標準化を促進することによって,鉱工業品の品質の改善,生産能率の増進その他生産の合理化,取引の単純公正化及び使用又は消費の合理化を図り,あわせて公共の福祉の増進に寄与すること」と述べられている。 (甲A125,190)bJISを制定改廃する場合には,①主務大臣がJISを制定しようとするとき,②利害関係人(生産者,使用者,販売者など)が原案を具して主務大臣に申出があったとき,がある。 建築材料,建設設備の品質に関するものや,試験方法検査に関するもの(後記(ウ)①及び②)については,通商産業大臣,設計・施行方法,安全条件に関するもののうち建築物及び構築物(後記(ウ)③)については建設大臣(住宅局建築指導課担当)が主務大臣となる。 主務大臣がJISの制定,改廃について必要があると認め,制定,改廃しようとするときには,日本工業標準調査会に付議し,議決を経なければならない。主務大臣が規格の原案(防火関係の場合は,日本建築学会,日本科学防火協会などが主務大臣の委託により作成した。 その他の場合もほとんどこれに準じ民間団体で作成される。)を調査会に付議すると,ただちに専門委員会が設置され,そこで原案につい て十分審議が行われた上で,調査会としての結論が出される。主務大臣は,この答申案が,すべての実質的な利害関係人の意見を反映し,かつ適用にあたって同様な条件のもとにある者に対して不当な差別をつけないことを確認したうえで,これをJISとして制定公示する。 このようにして制定された規格は,なお適正であるかどうかを,制定の日から少なくとも3年を経過する毎に前記の手続に準じて審議され,改正,廃止または確認される。したがって,JISは番号の次に年号が記載されている。 (甲A125)(ウ 正であるかどうかを,制定の日から少なくとも3年を経過する毎に前記の手続に準じて審議され,改正,廃止または確認される。したがって,JISは番号の次に年号が記載されている。 (甲A125)(ウ) 日本標準規格(JIS)と建基法についてJISは相当広範囲に適用されているが,その中で建築基準法と関係のあるものの要点は,①建築材料,建築設備の品質に関するもの,②試験方法検査に関するもの,③設計・施工方法安全条件に関するものである。 建基法の目的とするところは,「建築物の敷地,構造,設備および用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康および財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資すること」であり,多種多様の建材の中で,使用箇所によっては,少なくともJISに適合するものを使用しなければ,建築物の構造上,防火上の安全を期しがたいものがあることから,建基法37条等は,建築物の基礎,主要構造部,耐火構造又は防火構造の構造部分で主要構造部以外の構造部分等に使用する建築材料に要求すべき品質として,建築大臣の指定する日本工業規格(JIS)を挙げている。その結果として,前記指定されたJISに適合しない建築材料は,原則として建築物の主要構造部や耐火構造の構造部分で主要構造部以外の構造部分等に使用することが認められないことになる。 なお,一般的に建基法で定める最低基準を高める場合に,あらかじめ JISで数年間指導徹底したあとで法の改正の際取り上げるということもある。 (甲A125,173の1の7頁ないし13頁,190)(エ) 石綿含有建材の日本標準規格(JES)及びJIS制定石綿含有建材については,昭和13年に,日本標準規格(JES)第410号として,小平板,大平板,小波板の3種類の石綿スレートが認定され,昭和16年には 有建材の日本標準規格(JES)及びJIS制定石綿含有建材については,昭和13年に,日本標準規格(JES)第410号として,小平板,大平板,小波板の3種類の石綿スレートが認定され,昭和16年にはこれに加えて大波板もJES認定された。そして,第二次世界大戦後の昭和23年には,JES建築4202号として石綿スレートが再指定された。 工業標準化法が制定された後,昭和25年2月に石綿スレートがJIS制定され(JISA5403。ただし,昭和32年以降,石綿セメント板と波形スレートが区別され,波形スレートがJISA5403,石綿セメント板がJISA5410となった。),その後,昭和41年に石綿セメントパーライト板(JISA5413)及び吸音用穴あき石綿セメント板(JISA6302),昭和48に石綿セメントけい酸カルシウム板(JISA5418),昭和51年に化粧石綿セメント板(JISA5421),住宅外装用石綿セメント下見板・石綿セメント羽目板(JISA5422)及び住宅屋根ふき用石綿セメント板(JISA5423),昭和52年に化粧石綿セメントけい酸カルシウム板(JISA5424),合板補強石綿セメント板(JISA5425),石綿スレート・木毛セメント合板板(JISA5426)等の様々な石綿含有建材についてのJISが制定された。なお,このような石綿含有建材に関するJISは,石綿に係る規制の動向や石綿含有製品の市場での流通量等を勘案した上で,JIS自体の廃止又は材料としての石綿を除外する改正が行われ,平成17年8月時点において,法令等でその使用等が禁止されている石綿の利用を規定したJISは存在しなくなっていた。 (甲A125,149の9頁・12頁,173の1の7頁,190,191,193,1052,甲C2の90頁ないし119頁) 止されている石綿の利用を規定したJISは存在しなくなっていた。 (甲A125,149の9頁・12頁,173の1の7頁,190,191,193,1052,甲C2の90頁ないし119頁)(4) 建築工事の作業工程等我が国における建築物は,その構造を構成する材料によって,木造建築物,鉄骨造建築物,鉄筋コンクリート造建築物,鉄骨鉄筋コンクリート造建築物等に分類される。 昭和39年から昭和62年までの前記構造別の着工床面積の推移は,別紙11「建築物着工統計(着工建築物・構造別推移(床面積)(単位1000㎡))」のとおりである。(甲A219,220)ア木造建築物の新築工事の工程木造建築物の新築工事の工程は,大きく分けると,仮設工事,基礎工事,躯体工事,仕上げ工事,設備工事の5つである。 なお,木造建築にはいくつかの工法があるが,以下では伝統的な工法である在来軸組工法によるものとし,また,現場の事情や工期の関係により施工の順番が入れ替わることや複数の作業が同時並行で行われることがある。 (甲A113の4,甲D1の14)(ア) 仮設工事a 仮設工事とは,建築物本体を完成させるために必要な工事用の施設,設備,機械,資材等の仮設物を施工に先立って設置し,完了後にこれらを解体,撤去する工事である(甲A370の26頁ないし34頁,372の18頁・19頁)。 b 木造建築物の新築工事においては,まず,仮囲いや,建築物を建築する位置を決めるため,設計図面の平面図を見て,建築物の平面上の外周位置を特定してその四隅などに杭を打ち,その間に糸を張る「縄張り」を行う。その後,建築物を水平に建築するために水平線を定め, また,基礎工事や土台工事,外壁,内壁,間仕切りの位置を特定し(墨出し),水平面を定め(水盛り),建 の間に糸を張る「縄張り」を行う。その後,建築物を水平に建築するために水平線を定め, また,基礎工事や土台工事,外壁,内壁,間仕切りの位置を特定し(墨出し),水平面を定め(水盛り),建物内部の構造(玄関,廊下等)の位置を特定し,それを基に「水糸」を張るという作業(遣り方)を行う。 前記作業と同時に,建築工事に必要な電力及び水を供給するための仮設電気と仮設水道の引込み工事が行われる。 (甲A113の1の5頁・6頁,113の2の35頁,114の1の5頁,227の1の7頁)(イ) 基礎工事基礎は,建築物の荷重や外力(地震力・風圧力)を安全に地盤に伝達させるために設けるものであり,鉄筋コンクリート造を原則とする。 最初に,基礎の形状に合わせて地盤を掘削(根切り)し,基礎と地盤とを密着させて荷重を円滑にするために割栗石や砂利などを敷いて,鉄筋を配筋し,基礎の位置の墨出しと型枠の固定のために捨てコンクリートを打設する(地業)。捨てコンクリートが固まった後に,建築物の周囲と1階の構造(間仕切り)に合わせて12から15㎝幅に型枠を入れ,そこにコンクリートを打設し,コンクリートが固まったら型枠を外すという作業を行う。当該コンクリート打設の際には,後に土台を設置する箇所にアンカーボルトを設置する。 基礎コンクリートの打設と同時に,建物内に給排水管を引き込むための管(スリーブ)を基礎コンクリートの一部を通す形で入れる作業を行う。 (甲A113の1の6頁・7頁,113の2の35頁ないし37頁)(ウ) 躯体工事まず,基礎コンクリートに設けたアンカーボルトに土台となる角材を組み,ボルトで固定するという作業を行う。土台は,軸組の最下部で柱 脚を連結して上部荷重を基礎に伝達するものである。 次に,屋根や床などの上部荷重 設けたアンカーボルトに土台となる角材を組み,ボルトで固定するという作業を行う。土台は,軸組の最下部で柱 脚を連結して上部荷重を基礎に伝達するものである。 次に,屋根や床などの上部荷重を土台に伝達させるための柱を,土台の上辺の凹みに柱に刻まれた「ほぞ」を組み入れる方法によって建てる。 「通し柱」,「管柱」,「胴差」,「桁」,「妻梁」。「小屋束」,「母屋」,「棟木」といった柱や梁を組み立てた後,建物の補強のために金具の取付作業を行う。 棟木を載せた後に,「小屋筋交い」を入れ,その後,棟木から母屋を経て桁を結ぶ斜線に「垂木」を取り付ける。そして,垂木上に屋根の下地材を張る作業を行う。屋根下地工事を行っている間に,外壁工事を行うための足場が組まれ,その外側全体にネットを張る作業が行われる。 次に,建物の周囲に立てた柱と柱の間に,斜めに「筋交い」を入れ,建物の強度を上げるために柱(通し柱,管柱),本筋交い,胴差ないし土台とをつなぐ「筋交いプレート」と呼ばれる金具を,本筋交いを入れながら打ち付け,柱と柱の間の「間柱」や「胴貫」を入れる作業を行う。 その後,床工事(床組)が開始され,床工事の後に,垂木の先端に,垂木と直角に板を打ち付け,その板と建物の外壁側の柱の間に軒天を支えるはしご型に組んだ部材を組み入れ,その部材の下面に軒天板(ケイカル板)を張りつける工事(軒天井張り工事)を行う。 その後,後に行われる外壁工事に使用される外壁仕上げ材(モルタル,サイディング等)に合わせた外壁下地を張る作業が行われる。 (甲A113の1の7頁ないし12頁,113の2の38頁なし58頁,116の1)(エ) 仕上げ工事屋根下地工事が行われた後,外壁下地工事とほぼ同時に,屋根仕上げ工事(屋根葺き工事)が行われる。日本瓦を葺くときには,瓦の総重 頁,113の2の38頁なし58頁,116の1)(エ) 仕上げ工事屋根下地工事が行われた後,外壁下地工事とほぼ同時に,屋根仕上げ工事(屋根葺き工事)が行われる。日本瓦を葺くときには,瓦の総重量が数tになるため,最初に瓦を全部上に上げておく。スレート瓦は,必 要に応じて現場で専用の切断機を使用して切断をする。 外壁下地工事終了後,窓枠工事,サッシ入れ,化粧窓枠工事が順次行われる。 昭和50年前後からは,外装材と内装材の間に断熱材を入れることが多くなった。断熱工事は窓関係の工事が終了した後に行われた。断熱材の切断作業はあまり行われないが,窓の上下などについては断熱材を長さに応じてカッターで切断する必要がある。作業内容は,断熱材を外壁下地と内壁下地の間に隙間なく充填し,専用のU字型の釘で固定するというものである。また,断熱材を充填後に防湿気密シートを室内側の壁下地の裏に取り付け,壁の中に湿気が入り込むのを防ぐこともある。 断熱工事の後に,各部屋のドアの設置や押入れの枠の取り付けなど内部の造作作業を行う。 次に,内装下地工事が行われる。純日本家屋の和室の場合には,左官が土壁を塗って仕上げていたが,昭和30年代後半以降は,純日本家屋の和室でも下地材には「ラスボード」と呼ばれる石膏ボードを張ることが多くなり,その際には,仕上げは土壁ではなく石膏プラスターが塗られた。洋室の場合には,ラスボードではなく「耐火ボード」と呼ばれる下地材が用いられた。風呂場の天井や台所のガス台の背面付近など,特に防湿が要求される場所では,昭和50年頃までの間,大平板が張られていた。昭和50年代以降は,大平板に代わり「ケイカル板」を下地材として用いることが多くなった。 内壁下地工事の終了後,一部屋毎に天井を設置していく。最初に脚立を立てて,その の間,大平板が張られていた。昭和50年代以降は,大平板に代わり「ケイカル板」を下地材として用いることが多くなった。 内壁下地工事の終了後,一部屋毎に天井を設置していく。最初に脚立を立てて,その間に板を渡して足場を作ってから作業を開始する。洋室の天井板には「吸音板」や「ボード」と呼んでいる板を使用した。 天井工事又は内部造作工事と同時期に,外壁仕上げ工事が行われる。 昭和20年代頃は外壁は杉板のみという家も多く,その場合には下地と 仕上げの区別はなかったが,その後,モルタルやサイディング材が使用されるようになった。モルタル壁の場合には,セメントと川砂をスコップや機械でかき回してモルタルを作り,外壁下地材の上に防水シートとラス網を張った後,モルタルを塗って仕上げる。その後,塗料が近隣の家や道路に飛び散るのを防ぐため,足場の外周に張られていたネットを外してその代わりにシートを張ってから,吹付け塗装を行う。サイディング材を使用する場合は,防水シートを張った後にサイディング材を張っていく。玄関や窓の周りなどではその長さに合うように現場でサイディング材を切断する必要があることも多い。 建築工程の最後に内装仕上げ工事が行われる。前記のとおり,内装下地の上に,モルタルやサイディング材を用いて内装仕上げを行う。石膏ラスボードの上に下塗りや中塗りをした上に漆喰などで仕上げたり,石膏ボードに直接仕上げる薄塗りの場合は,石膏ボードに下塗りをしてその上に上塗りをして仕上げる。薄塗り仕上げの左官や塗装では,下地ボードの継目を平滑にしないと仕上げに影響するため,石膏ボードやラスボードの継目は寒冷紗テープなどで補強し,パテ処理をして,やすりをかけ,継目を平滑にし,目立たないようにする。 (甲A113の1の12頁ないし19頁・41頁ないし46頁,1 るため,石膏ボードやラスボードの継目は寒冷紗テープなどで補強し,パテ処理をして,やすりをかけ,継目を平滑にし,目立たないようにする。 (甲A113の1の12頁ないし19頁・41頁ないし46頁,113の2の58頁ないし67頁,113の3の138頁・152頁)(オ) 設備工事設備工事として,電気設備工事,給排水衛生設備工事,空調設備工事等が行われる。 木造戸建ての新築工事の場合も,作業手順は後述する鉄骨造建築物(後記エ(オ))と概ね同じである。ただし,木造建築物の場合には,鉄骨造建築物と異なり,耐火のための吹付け材が天井等に吹き付けられておらず,また,基礎工事の段階で建物の上下階をつなぐパイプシャフト を確保したり,スリーブ入れ作業を行うことはほとんどないこと,上棟が終わった段階で配線工事やボックスの取り付け工事を行うが,鉄骨造建築物のような配管作業は行わないこと,照明器具の取り付けに関しては,照明器具の放熱のために断熱材を切り込む必要がある場合に断熱材を切断する作業が必要となること等の点において異なる。 (甲A114の1の25頁ないし27頁)イ木造建築物の改修工事(在来軸組工法)の工程(ア) 改修工事には,既存建物の一部だけを改修する部分改修と,既存の建物の全体を全面的に改修する全面改修の場合がある。改修工事における解体後の具体的な作業内容は,新築工事と同様であるが,工程の管理がフロア毎でなされていないため,異なる職種の者が同時並行で作業をすることが多くなる。(甲A385)(イ) 単に部屋の内装を和室か洋室に変更するというような間取りの変更を伴わない改修工事の場合には,和室の壁の上から洋室用のボードを張ったりするため,壁の取壊し作業はないが,天井等の取り壊し作業が行われる(甲A385)。 (ウ) 変更するというような間取りの変更を伴わない改修工事の場合には,和室の壁の上から洋室用のボードを張ったりするため,壁の取壊し作業はないが,天井等の取り壊し作業が行われる(甲A385)。 (ウ) 改修工事(特に全面改修の場合)の際には,新築と同様仮設工事が行われ,仮設電源や足場,近隣対策(防音,防じん)としての養生シートが設置される。 多くの改修工事は,間取りの変更を伴うものである。改修工事の際には,主要構造部材(柱,梁等)は残すため,大工がバールや電動丸鋸を使用して,床,壁,天井等の既存のボードや壁紙,タイル等の取壊し作業を行う。ただし,柱や梁が傷んでいた場合には,補強や交換をすることがある。また,1階の床を解体した際に基礎が傷んでいた場合には,基礎工事を行う。 壁や床については,バールを用いて既存のボードを破砕する方法によ り,天井については,木の棒で下から突き上げて粉砕する方法で行う。 ただし,天井を丁寧に撤去する必要がある場合や,改築部分の壁のうち,改築しない部屋の壁と接する壁を撤去する場合などには,壁のボードや天井板をバール等で粉砕せずに,ボードや天井板に打たれている釘を抜いて,一つ一つ取り外していく方法で撤去する。 間取りの変更等に当たっては,電工が既存の電気配線の変更を行う必要があるため,天井や壁のボードが外されたところで,天井裏や壁の間の配線及びボックス設置作業を行い,大工によって壁や天井が張られた後に照明の取付けやボックス出し作業などを行う。 内部の壁にボードを張る作業と並行して,塗装工は壁の塗装を行う。 外壁については,外壁下地工事の後にモルタル又はサイディングを使用して外壁仕上げ工事が行われる。 屋根については,大工等が既存の屋根を手作業で剥がし,屋根下地を取り付けた上に防水紙を敷き,屋根材を 外壁については,外壁下地工事の後にモルタル又はサイディングを使用して外壁仕上げ工事が行われる。 屋根については,大工等が既存の屋根を手作業で剥がし,屋根下地を取り付けた上に防水紙を敷き,屋根材を取り付ける。 内部のボード張り作業が終わる頃に,大工が木製建具の取付作業を行うのと並行してクロス張り作業が行われる。そして,各種設備機器の取り付けがされる。 台所のリフォーム工事の工程途中では,床やキッチン周りの取壊し作業が終わった後に水道の配管工事が行われ,壁や天井の取壊し作業が終わった頃に電気の配線工事が行われる。 (甲A113の1の22頁ないし24頁,114の1の28頁,385)ウ木造建築物の解体工事の工程木造建築物については,昭和50年頃から,重機を使用して一気に破壊するようになったが,それ以前は重機を使用しない方法で解体を行っており,現在でも重機が入れないような狭い解体現場等では重機を使用しない 方法で解体作業をする。 重機を使用しない場合には,まず,解体作業の下準備として,建物の周囲に足場を組み,ビニールシート等の養生材を設置する。瓦屋根の場合には,瓦を外して下に降ろす作業を行う。また,建物内部の建具,畳,窓ガラス,蛍光灯など取り外しが可能なものを取り外して撤去する。 その後,建物の1階部分から天井,内壁,床等の内装材をバールやハンマーで叩いたり,チェーンソーや手鋸で切断して破砕する。 そして,屋根の建材を剥がし,むき出しになった小屋組部分や梁をチェーンソーで切断して下に落とす作業を行った後,桁や軸組材をチェーンソーで切断して解体し,最後に建物の外壁を引き倒した上で破砕する。そして,床を屋根と同様の方法で解体する。こうした作業を繰り返して上の階から壁や床を壊し,1階まで解体する。 重機を使用する場合 ンソーで切断して解体し,最後に建物の外壁を引き倒した上で破砕する。そして,床を屋根と同様の方法で解体する。こうした作業を繰り返して上の階から壁や床を壊し,1階まで解体する。 重機を使用する場合には,建物内部の撤去作業終了後,重機で外側から建物を屋根,梁,柱・外壁の順に叩いて,一気に破壊する。ただし,この方法による場合であっても,重機で建物を壊しやすくするために,事前にチェーンソー等を用いて壁などに切れ込みを入れておく場合がある。 (甲A118の1・2・11,385の1)エ鉄骨造建築物の新築工事の工程鉄骨造建築物の新築工事における工程は,仮設工事,基礎工事,躯体工事,仕上げ工事,設備工事に分類できる。 なお,現場の事情や工期の関係により施工の順番が入れ替わることや複数の作業が同時並行で行われることがある(甲A372の15頁)。 (ア) 仮設工事仮設工事においては,前記木造建築物の新築工事における作業と同様,仮囲い,縄張り,遣り方等が行われる(甲A113の1の6頁,114の1の6頁,370の26頁ないし32頁)。 (イ) 基礎工事a 土工事(根切り作業,山留め作業,排水作業,埋戻し作業等)及び地業の後,鉄筋コンクリート造の基礎を施工する。この基礎に,上部構造の鉄骨構造体を正しく設置するためのアンカーボルトを埋設する。 具体的には,鉄骨造の柱の脚がくる位置に,柱脚のベースプレートを基礎に接合するためのアンカーボルトを配置して固定した上で,全体に基礎配筋の作業を行い,型枠を施しコンクリートを打設し,コンクリートの硬化を待って型枠の取り外しを行い,基礎を造り上げる。埋戻し作業に支障のないコンクリート強度が得られたことを確認後,埋戻しを行い,土間コンクリート打ちがなされる。(甲A116の2,224の1の3頁, 化を待って型枠の取り外しを行い,基礎を造り上げる。埋戻し作業に支障のないコンクリート強度が得られたことを確認後,埋戻しを行い,土間コンクリート打ちがなされる。(甲A116の2,224の1の3頁,370の36頁・59頁ないし77頁,372の28頁ないし59頁)b 電工は,掘削が終了し整地がされた段階で,接地極(アース)の埋設工事を行い,捨てコンクリートが打設された段階で,アースから電気室,電気用幹線シャフト(EPS(エレクトリックパイプシャフトの略))などを設置する位置まで延長する作業を行う。配管工は,給水本管・ガス本管から分岐させ建物内に至る配管及び空調用ドレン配管など建物から外部の排水ますに至る配管ルートにより,基礎梁にスリーブを設置する。(甲A114の1の6頁・7頁,370の193頁ないし202頁)(ウ) 躯体工事(鉄骨工事)躯体工事(鉄骨工事)として,工事で切断・加工し一部組み立てた鉄骨を現場に搬入して,クレーンを使って柱や梁を組み立てていく建方が行われる。鉄骨の建方方法には,積上げ方式,建逃げ方式,軸建て方式及び輪切り建て方式の4種類がある。 まず,アンカーボルトの確認・調整を行った後,左官工が,基礎工事 が終わった段階で,鉄骨の柱脚を立てるため,ベースプレートの下部に当たる部分にモルタルを3㎝から5㎝の厚さでまんじゅう状に厚く塗り(「モルタルまんじゅう」と呼ばれる。),一旦柱脚が立てられるとベースプレートの下のモルタルもんじゅうの周囲をモルタルで充填して,ベースプレートの下面を固める作業(ベースモルタル作業)を行う。 その後,鉄骨を搬入し,鉄骨を所定の位置に据え付けて仮ボルトを締め,建て入れ直し(建て入れ直しワイヤー等を用いて柱の倒れを修正し,柱の垂直精度を確保する作業)が終われば,これを締め付 業)を行う。 その後,鉄骨を搬入し,鉄骨を所定の位置に据え付けて仮ボルトを締め,建て入れ直し(建て入れ直しワイヤー等を用いて柱の倒れを修正し,柱の垂直精度を確保する作業)が終われば,これを締め付け,さらに溶接などをして全体を固定する。 次いで,各階の床工事が行われる。鉄骨造建築物の床は,通常デッキプレートを用い,その上に配筋・コンクリート打設をして床の構造にする。屋上が平らになっている陸屋根の場合は,屋上部分にも同じようにデッキプレートを敷き,コンクリートを打設する。鉄骨造の建物に設置される階段は多くが鉄骨製であり,鉄骨本体の建方作業と並行して建方が行われる。 左官工は,基礎部分にコンクリートが打設され床スラブが出来上がった後に,床スラブに防水材を塗る作業を行う。 建方が終わると,足場が組まれ,その外側にシートがかけられる。 また,手順としては外壁工事(外壁となる建材と屋根下地となる建材の施工)が終了した後になるが,鉄骨は火災によって温度が上昇すると,強度や耐性が低下し,自立できなくなるため,鉄骨造建築物では,鉄骨の耐火被覆工事(石綿やロックウール等を用いた吹付け工法,けい酸カルシウム板等の成形板接着工法等などがある。)をしなければならない。 また,柱材同士で継手が生じる場合には,現場溶接を行う。 (甲A116の1の7頁・8頁,116の2,224の1の3頁ないし5頁,370の99頁・111頁・118頁・121頁ないし138頁, 119の1,372の8頁ないし11頁・60頁ないし81頁・92頁・93頁・98頁・99頁,380)(エ) 仕上げ工事仕上げ工事として,外壁工事,屋根工事,建具工事,内装の木工事,タイル・塗装工事などが行われる。工事の種類と流れは,基本的に木造建築物の場合と同じである。 鉄骨造の建 0)(エ) 仕上げ工事仕上げ工事として,外壁工事,屋根工事,建具工事,内装の木工事,タイル・塗装工事などが行われる。工事の種類と流れは,基本的に木造建築物の場合と同じである。 鉄骨造の建物の屋根は,通常,陸屋根か折版屋根,勾配のある金属屋根であり,陸屋根の場合はコンクリートがむき出しになるため,屋根工事としてシート防水やアスファルト防水を施す防水工事が行われる。 鉄骨造建築物の外壁は一般にカーテンウォール(帳壁ともいう。ALC板(セメント,けい石,生石灰を主原料として,高温圧力釜の中で養生された軽量気泡コンクリートを補強材で補強し形成したもの。甲A381),プレキャストカーテンウォール,押出し成形セメント等)によって構成されることが多い。鉄骨造建築物の外壁で,ALC板やセメント系押出し成形板を用いた場合は,吹付け仕上げを行うことが多い。 建具工事はアルミサッシが主流であり,大工が枠を取り付け,窓をはめ込む作業を行う。枠が取り付けられると,左官工が枠の周囲と外壁とのすきまにモルタルを詰め,雨仕舞いをする。 外壁ができ,サッシが取り付けられて雨風が入らない状態になると,間仕切りの設置,内壁・床・階段及び天井の下地張り並びに前記下地にボード,クロス,モルタル,Pタイルなどの仕上げ材を取り付ける工事(内装工事)等が行われる。また,こうした内装工事と並行して,外壁仕上げ工事が行われる。 鉄骨の骨組みができ,外壁と屋根及び各階を上の階と仕切るデッキプレートが張られた段階(天井板が張られていない段階)で,保温工は,脚立を使用し,デッキプレートの下に設置されたパイプに保温材を巻き 付ける保温作業を行う。 金属工事には,仕上げ材の下地となる軽量鉄骨下地工事(天井,壁)のほか,製作金物工事(手すり等),既製金物工事(ルーフド トの下に設置されたパイプに保温材を巻き 付ける保温作業を行う。 金属工事には,仕上げ材の下地となる軽量鉄骨下地工事(天井,壁)のほか,製作金物工事(手すり等),既製金物工事(ルーフドレン,カーテンレール等),雑金物工事(ラス,アンカーボルト)がある。 建物の外装や室内の台所・便所などの水がかり部などに美装や下地の保護を目的として,タイル張りがなされることがある。また,壁や天井等に塗装工事がなされる場合もある。 (甲A115の1の5頁・6頁,115の2の6頁,116の1の9頁・10頁・12頁,116の2,117,119の1,120の1,370の140頁ないし187頁,372の82頁ないし109頁・118頁ないし133頁)(オ) 設備工事設備工事としては,電気設備工事,給排水衛生設備工事,空気調和設備工事等が行われるが,高層になるとエレベーター設備工事(昇降機設備工事)が加わることもある。また,木造建築物と比較して,衛生設備や冷暖房設備が大型になり,集中制御式のものも増えて配管が複雑になる。なお,設備工事については,建物の構造種別や用途にかかわらず,基礎梁へのスリープ(貫通孔)用ボイドの取付けから建築工事との関わりが始まる。(甲A370の190頁・191頁)a 電気設備工事電気設備工事は,建物に不可欠な電気の供給を電力会社から受けるため,配管・配線,コンセント・スイッチの設備,照明器具の設置などを行う作業である。これらの作業は電工が行い,電工は,電気設備工事を請け負った電気工事会社から渡される配線図に基づく,これらの作業を行う。 電気設備工事の内容は,電気幹線引込み,電気配管敷設,電気配 線敷設,機器据付け,器具取付けの5つに大別される。 電気幹線は建物外部から内部へ引き込むものであるため, らの作業を行う。 電気設備工事の内容は,電気幹線引込み,電気配管敷設,電気配 線敷設,機器据付け,器具取付けの5つに大別される。 電気幹線は建物外部から内部へ引き込むものであるため,電工は,躯体工事と並行して,電気幹線引込み作業を行う。また,配線図に従って,電線ケーブルの通線と保護を目的とする電気配管(パイプ)をコンセントやスイッチの位置(柱や壁)まで延長し,コンセントやスイッチなどの配線器具を設置するための箱(ボックス)を取り付け,パイプとボックスを接続する作業を行い,天井の照明器具用に壁の上までパイプを設置し,天井側にパイプを出しておく。さらに,各階を貫いて電源ケーブルを通すために電気用幹線シャフトの設置位置にスリーブ(壁,床,梁を貫通する穴を確保するためにあらかじめ埋め込んでおく筒状の管)入れをし,保護管の埋込みや,支持固定のためのアンカーボルト(インサート)などの取り付けを行う。 一通り配管作業が終わると,配管したパイプへ電気ケーブルを通す通線作業を行う。その後,躯体の天井(床)に設けられたスリーブ(貫通穴)を通してEPS内に引き込んだ幹線を,配電盤から電灯分電盤や動力制御盤へ配線,敷設する幹線工事を行う。幹線を敷設する金属管やケーブルラックなどは,躯体から吊り下げられた吊りボルトに緊結した軽量形鋼などによって支持・固定する。幹線は防火区画を貫通することが多いため,貫通箇所から他の区画への延焼を防止する措置を講じる必要があり,耐火被覆作業が行われる。 電工は,間仕切り工事が行われる際,間仕切り部分(壁部分)に設置するコンセント,スイッチの位置にボックスを取り付け,天井から電線ケーブルを配線し,ボックス接続する作業を行う。 各階の作業が進んでいくと,各部屋や供用部分に蛍光灯等の照明器具の取り付けを行う。照 するコンセント,スイッチの位置にボックスを取り付け,天井から電線ケーブルを配線し,ボックス接続する作業を行う。 各階の作業が進んでいくと,各部屋や供用部分に蛍光灯等の照明器具の取り付けを行う。照明器具の取り付けには,本天井に埋め込む方法(埋込型)と,直付けの方法(直付型)があり,マンション等で は直付型が一般的であるが,オフィスビル等では主に埋込型による照明器具の取り付けが行われる。 さらに,壁や柱に張られたボードに,ボックスの大きさに合わせて穴を開け,そこにコンセントやスイッチを取り付ける作業が行われる。 なお,街灯など外回りの電気工事や仮設電気の撤去作業等も行われる。 (甲A114の1の5頁ないし13頁・18頁,114の2の2頁・8頁・10頁・11頁・20頁ないし24頁,231の1の5頁,370の191頁ないし195頁,371の152頁から155頁,372の110頁ないし115頁・136頁・137頁・140頁ないし143頁)b 給排水衛生設備工事給排水衛生設備工事の中心となるものは,配管を敷設する工事である。配管工事に対しても,電気設備工事と同様に躯体工事時に事前の工事が必要となる。 配管工事には,床下配管(便所などにおける衛生器具まわりの配管や床置きファンコイルユニットのための配管など),天井配管,パイプシャフト内配管などがある。配管の支持にはあらかじめ躯体に埋め込んだインサートを利用する。その他,給排水衛生設備工事には,受水槽,高架水槽,ボイラー,各種ポンプなどの機器の据付け工事,トイレ,洗面台,浴槽等の取付け工事がある。配管工事は仕上げ工事と並行して行われる。 (甲A120,370の195頁ないし202頁,371の156頁,372の114頁・115頁・134頁・135頁・142頁・143頁 の取付け工事がある。配管工事は仕上げ工事と並行して行われる。 (甲A120,370の195頁ないし202頁,371の156頁,372の114頁・115頁・134頁・135頁・142頁・143頁) c 空調換気設備工事空調換気設備工事では,,ダクトを敷設することが,主要な工事となる。ダクトには,空調機で調和された空気を送風機により各室に導くための空調用ダクト,機械室・駐車場・便所などの熱気や臭気を屋外に排出するための換気ダクト,火災時に室内の煙を屋外に排出するための排煙用ダクトなどがある。工場や現場で加工・製作したダクトやダンバーなどを,所定の位置に吊り込むことをダクト工事という。 ダクト内部の流体温度と周囲の温度との間に差がある場合には,放熱防止や結露防止のために保温工事が行われる。 ダクト工は,内装,仕上げ工事の直前の段階(吹付け作業終了前)で工事現場に入り,ダクトを接続した後,天井スラブ等からダクトを乗せるための支持アングルを吊り,これにダクトを乗せていく作業を行う。 (甲A225の1,370の200頁ないし202頁,371の160頁・161頁)オ鉄骨造建築物の改修工事の工程改修工事においては,新築工事と異なり,フロア毎や区画毎の工程管理がなされていないため,職種の異なる建築作業従事者が同時並行的に作業を行うことが多い。 改修工事の手順としては,まず,仮囲いを行い,既存の天井,壁,床を解体し,浴室,洗面台,玄関の床のタイルやコンクリートをすべてはつり,その上で木工事に着手して,床組,造作建具枠,建方(柱・間柱),壁・天井のボード張りを行い,その後,鋼製建具や内装工事,左官,給排水設備,電気設備工事等を行う。ダクトの取り外しや設置については,解体作業時や解体作業終了後に行う。解体作業においては, ・間柱),壁・天井のボード張りを行い,その後,鋼製建具や内装工事,左官,給排水設備,電気設備工事等を行う。ダクトの取り外しや設置については,解体作業時や解体作業終了後に行う。解体作業においては,大工が既存の床や天井,壁等をバールで破砕し,柱や間柱については電動丸鋸で切断する作業 を行う。浴室やトイレの床等のタイルやコンクリートについては,ピックではつる作業を行う。解体作業時の電気設備の撤去作業は,電工が行う。 解体作業と同時に,台所等の給排水管やガス管の床下配管作業が行われる。配管工は,配管の穴を合わせるために,自らピックでコンクリートやタイル床をはつる作業を行う。 解体作業の終了後,大工によって床組や柱を建てる作業を行う。その後,天井のコンクリートにドリルで穴を開けてグリップアンカーを打ち込むなどして,天井板を張る作業を行う。さらに,造作・建具枠工事,床仕上げが行われ,床が仕上がった後に壁の下地張り作業が行われる。 木工事の床,柱,壁を張る作業を行っている際に,電工は室内の配管・配線作業を行う。天井部分については,電工による配管・配線作業終了後に軽天作業や天井ボード張り作業が行われ,新しい本天井が設置されるため,電工は本天井に照明器具を取り付けるため天井ボードの切断作業を行い,照明器具を取り付ける。壁部分については,大工や内装工が新たにボードを設置した後に,電工によるボックス出し作業が行われる。また,このとき,配管工による内部配管の敷設作業が行われる。 間取りが変わることによってできた躯体の梁部分の凹凸については,左官がモルタルやテーリング材によって埋めていく。 さらに,鋼製建具工事や塗装工事が,ボードを張る作業と同時に行われる。 クロスを張る前には,ボードの継目にパテが塗られ,パテが乾いた後,表面を平滑にす モルタルやテーリング材によって埋めていく。 さらに,鋼製建具工事や塗装工事が,ボードを張る作業と同時に行われる。 クロスを張る前には,ボードの継目にパテが塗られ,パテが乾いた後,表面を平滑にするためにやすりがけが行われる。 壁にボードが全て張られた段階で,ドアなどの木製建具や,押入・クローゼット等の取り付けが行われる。 玄関床等のタイルは,モルタルやテーリング材を用いて,左官工が下地処理をし,タイル工がタイルを張る。 (甲A114の1の22頁ないし24頁,119の1・3,120,225の1の7頁,385)カ鉄骨造建築物の解体工事の工程鉄骨造建築物の解体においては,当該建築物に重機を乗せるに足る強度がない場合も多く,上からガスバーナーで鉄骨を切断して,クレーンで地上に吊り降ろす方法で解体することが多い。建物の強度や規模,周囲の空地の状況によっては,重機を用いて解体される(甲A118の1・2)。 (ア) ガス切断による場合まず,下準備として,電気,ガス,水道等の専門業者がこれらの設備を撤去する。これと並行して建物の外側に足場が組まれ,ビニールシート等の養生材が設置される。 その後解体作業に入り,屋根葺き材やコンクリート,デッキプレート等を引き剥がし,むき出しになった梁等の鉄骨の両端を,クレーンで支持した状態でガスバーナーによって切断し,吊り降ろす。切断の際に,鉄骨に吹き付けられた吹付け材について,切断予定部分の30㎝から50㎝ほどをバールで剥がす必要がある。 次に,屋根のすぐ下の階にある建物の柱,外壁を解体する。外壁は,そのままの位置で解体すると,建物周辺への騒音や粉じん等の飛散がひどくなる危険性があるため,内側に引き倒してから細かく砕く。その後,床を屋根と同様の方法で解体する。こうした作業を上階から 。外壁は,そのままの位置で解体すると,建物周辺への騒音や粉じん等の飛散がひどくなる危険性があるため,内側に引き倒してから細かく砕く。その後,床を屋根と同様の方法で解体する。こうした作業を上階から繰り返して建物全体を解体する。また,解体作業と並行して地上に落下したコンクリート片等の廃材をトラックに積み込んで適宜搬出する。 (甲A118の1・2)(イ) 重機を併用する場合ガスバーナーの代わりに鉄骨切断機を用いることがあるが,作業内容としては前記と同様である(甲A118の1・2)。 キ鉄筋コンクリート造建築物の新築工事の工程鉄筋コンクリート造建築物における新築工事の工程は,鉄骨造建築物と同様,仮設工事,基礎工事,躯体工事,仕上げ工事,設備工事に分類できる。 なお,現場の事情や工期の関係により施工の順番が入れ替わることや複数の作業が同時並行で行われることがある。 (甲A372の15頁)(ア) 仮設工事仮設工事については,鉄骨造建築物と同様である(甲A371の38頁)。 (イ) 基礎工事基礎工事では,まず,地盤を安定させるために数mの長さの鋼管杭などを地中に垂直に打ち込み,基礎となる地面の整地,山留め,根切り(掘削工事)等の土工事を行う。その後,基礎を支持するための杭や敷砂利,捨てコンクリートを打設し(地業),その上に基礎を造る。(甲A371の47頁ないし58頁)(ウ) 躯体工事躯体工事においては,まず建物の位置を定め(墨出し),鉄筋や型枠の組立に必要となる作業足場を組み立てた後,鉄筋工事(鉄筋の加工,組立て,継手,柱・壁・梁等の配筋作業),型枠工事(型枠の加工,組立て,建入れ直し,取外し等),コンクリート工事(コンクリートの製造と打設)が行われる。仕上げ工事において,躯体工事段階での準備工 ,組立て,継手,柱・壁・梁等の配筋作業),型枠工事(型枠の加工,組立て,建入れ直し,取外し等),コンクリート工事(コンクリートの製造と打設)が行われる。仕上げ工事において,躯体工事段階での準備工事(インサート取付け等)が必要な場合もある。 また,並行して行われる各種設備工事との調整も工程上重要となる。 躯体工事中の設備工事は,躯体仕上がり後の本格的な設備工事の前段階の工事である。躯体工事中の設備工事としては,①柱及び壁の鉄筋・型 枠組立て中に,電気工事(打込みボックス類の取付け,電線を通す電線管の取付け)及び衛生・空調換気設備(スリーブ(給排気,冷媒管用)の取付け)を行い,②スラブ上の鉄筋・型枠組立て中に,電気設備(打込みボックス類の取付け,電気配管の取付け,仮設照明の配線),及び衛生・空調設備(スラブ貫通スリーブの取付け,天吊り機器,配管類の為のインサート類の墨だし及び取付け,スラブ箱スリーブの取付け)を行い,③コンクリート打設中に,スリーブ,インサート類,ボックス類,電気の配線類の位置の狂いや不具合を点検し,手直しをすることとなる。 コンクリートはそれだけでは十分な防水性を持たないため,雨水や地下水が建物内部に侵入しないように,屋根,外壁,地下壁に防水処理をする必要がある。また,水を多量に使用する浴室,便所などの床,壁にも部位に応じた適切な防水処理を施さなければならない。防水工事においては,防水層の施工とともに,コンクリート面の処理も行われる。防水工法には,アスファルト防水,シート防水,塗膜防水,ステンレスシート防水,モルタル防水がある。屋根については面状の防水層を形成するが,外部に面するサッシ周り,ALC板のジョイント部,コンクリートの打継ぎ箇所などにはシーリング工事(外壁とサッシの隙間,外装パネルの目地等, ルタル防水がある。屋根については面状の防水層を形成するが,外部に面するサッシ周り,ALC板のジョイント部,コンクリートの打継ぎ箇所などにはシーリング工事(外壁とサッシの隙間,外装パネルの目地等,建物に存在する隙間を埋める工事)が行われる。 集合住宅などで間仕切りの柱が木造という場合には,各階毎に柱を建て,間に胴貫を入れる。その後床工事を行い,1階では,コンクリートを打設した上に大引きと根太を渡して床板を張り,2階ではデッキプレートを敷いた後に大引きと根太を渡して床板を張る。そして,鉄骨の柱に木製のはしごを組み,内装下地工事として耐火ボードを張る。 なお,鉄筋コンクリート造建築物の場合には,耐火被覆のための吹付けはなされないが,防音や結露防止のために,壁や天井に吹付け施工がなされることがある。 (甲A119の1・2,371の62頁ないし103頁・106頁ないし118頁・120頁)(エ) 仕上げ工事仕上げ工事は,低層(3階建て程度)であれば躯体工事が終わってから,高層であれば,ある程度の階数の躯体が終了してから,下の階から順に着手する。躯体工事と仕上げ工事の区切りとなる金属建具(サッシ)の取付工事が行われた後,内部,外部とも仕上げ作業が進められる。 仕上げ工事の内容は,基本的には木造建築物及び鉄骨造建築物と同様である。 仕上げ工事と同時期に設備工事(設備の配管)も進められ,内部はもちろん,外部仕上げにも設備関係の外壁貫通配管等関連する作業があるため,事前に十分な打合せをすることが必要とされる。 (甲A371の122頁から123頁)(オ) 設備工事設備工事は,水,空気,電気,ガスなどを搬送する経路を敷設し,エネルギー源や変換装置などの機器を設置する工事である。一般に,設備工事は,躯体工事が完了した時点から ら123頁)(オ) 設備工事設備工事は,水,空気,電気,ガスなどを搬送する経路を敷設し,エネルギー源や変換装置などの機器を設置する工事である。一般に,設備工事は,躯体工事が完了した時点から本格的に始まるが,前記(ウ)のとおり,躯体工事と並行して行われるものもある。また,仕上げ部分への機器取付け工事も設備工事の1つであり,仕上げ工事終了後に行われる。 このように,設備工事は躯体工事及び仕上げ工事と密接に関係する。鉄骨造建築物の場合と同様,設備工事には,電気設備工事(電力設備及び通信設備),給排水衛生設備工事(給水・給湯設備,排水通気設備,ガス設備等),空調換気設備工事(熱源機器設備,空調機設備,ダクト設備,換気設備等),昇降機設備工事(エレベーター等)などがあり,作業内容も鉄骨造建築物の場合と同様である。(甲A371の150頁)ク鉄筋コンクリート造建築物の改修工事の工程 基本的には鉄骨造建築物と同様であり,外壁等を取り壊す場合には,まず養生をする。次に,建物内部の天井材,壁材,床材等をバールや電動丸鋸で撤去し,再度の吹付け作業や電気配線,配管工事,ダクト工事,内装工事などが行われる。 (甲A226の1の3頁,227の1の7頁)ケ鉄筋コンクリート造建築物の解体工事の工程鉄筋コンクリート造建築物の解体においては,主に解体する建物の周囲にある空地の状況によって,以下のとおり,①解体用の重機をクレーンで建物の上階に上げて上階から解体していく工法(階上解体)と,②地上から解体用の重機を用いて建物を解体する工法(地上解体)がある。鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の場合も同様である。(甲A118の1・2・11,226の1の3頁・4頁)(ア) 階上解体下準備として行う作業は,鉄骨造建築物の解体の場合と同様である。 )がある。鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の場合も同様である。(甲A118の1・2・11,226の1の3頁・4頁)(ア) 階上解体下準備として行う作業は,鉄骨造建築物の解体の場合と同様である。 次に,バール等を用いて間仕切り板,天井板,床,内壁板等を破砕し又は剥がす作業が行われ,ハンドブレーカーを使用して,その後の解体作業の際に生じる廃材を下に落とすための穴(1.5mから3m四方)を各階の床に開ける。 下準備の終了後,クレーンで重機を屋上に上げて屋根のコンクリートを剥がした後,ガスバーナー等を用いて鉄筋を切断して下に落とす作業を行う。重機が乗っている部分以外の屋根を壊した後,クレーン等を用いて下の階に重機を降ろす。 屋根を壊した後,建物の外側に組まれた足場を利用して外部からハンドブレーカー等で外壁の柱の足元部分のコンクリートを叩いて鉄筋をむき出しにしてこれを切断し,重機を使用して外壁を内側に引き倒してから,重機やバール,ハンマーを用いて細かく砕き,これを穴から下に落 とす。 そして,その階の四方の壁を全て壊し終えたら,屋根の解体と同様の方法でその階の床を壊して,重機を下の階に降ろす。こうした作業を繰り返して,1階まで解体する。 解体作業と並行して,適宜,床に開けた穴から下に落とした廃材をトラックに積み込む作業を行う。 (イ) 地上解体階上解体と同様の下準備を行った後,建物周囲の空地に重機を搬入し,ブームをのばして,建物の片側から順次数区画毎に,屋根のコンクリートを重機で壊して下に落とし,その後,むき出しになった屋根の鉄筋をガスバーナーもしくは鉄筋カッターで切断して下に落として屋根を解体した後,その下の階の内部にある柱や壁等のコンクリートを重機で破砕して下に落とし,むき出しになった鉄筋をガスバーナー等で切 根の鉄筋をガスバーナーもしくは鉄筋カッターで切断して下に落として屋根を解体した後,その下の階の内部にある柱や壁等のコンクリートを重機で破砕して下に落とし,むき出しになった鉄筋をガスバーナー等で切断して解体する。外壁については,階上解体と同様,内側に倒してから破砕する。 床は屋根と同様の方法で解体する。こうした作業を上階から下階にかけて順番に行い,それと並行して地上に落下したコンクリート片等の廃材をトラックに積み込んで適宜搬出することにより,建物全体を解体する。 (5) 建築作業従事者の建築現場における石綿粉じん曝露我が国においては,前記(1)及び(2)のとおり,輸入量の約7割を超える石綿が,多種多様な建材に使用されることによって消費されており,一方で,前記(3)のとおり,昭和30年以降の住宅供給政策等に伴い,木造建築物,鉄骨造建築物,鉄筋コンクリート造建築物,鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の着工数ないし着工床面積が増加し,これと並行して吹付け石綿や石綿スレートの使用量も増加していったことからすれば,石綿含有建材の使用が法的に可能であった時期の建築工事においては石綿含有建材が用いられることが多く,そうした建築現場においては前記(4)の建築作業の工程における建材 の加工作業等に際して石綿粉じんが発生,飛散していたことが推認される。 そして,前記(4)のとおり,建築現場における建物の新築,改修,解体作業においては,各職種が並行して作業を行うこともあったため,建築作業従事者は,自らの作業によって発生した石綿粉じんに曝露(直接曝露)するのみならず,並行して作業を行っている他の建築作業従事者が発生させた石綿粉じんにも曝露(間接曝露)することがあった。 各職種ごとの建築現場における石綿粉じん曝露の可能性は,以下のとおりである。 みならず,並行して作業を行っている他の建築作業従事者が発生させた石綿粉じんにも曝露(間接曝露)することがあった。 各職種ごとの建築現場における石綿粉じん曝露の可能性は,以下のとおりである。 ア大工大工は,木造建築物の新築工事では工程全体に関与し,鉄骨造建築物及び鉄筋コンクリート造建築物の新築工事においては,主に内部造作の作業を行う。また,木造建築物,鉄骨造建築物及び鉄筋コンクリート造建築物の改修工事及び解体工事にも関与する。 大工は,軒天板,外壁下地材,内壁下地材,断熱材,天井板等として使用される石綿含有建材の切断,穿孔,やすりがけ,釘打ち等の作業や破砕作業を行うことによって,石綿粉じんに曝露する。また,鉄骨造建築物や鉄骨鉄筋コンクリート造建築物の場合には,大工が床工事,内装下地工事,天井工事をする前に鉄骨の柱や梁に石綿を含有する吹付け材が吹き付けられていることが多く,大工は,前記各工事の際に吹付け材をそぎ落とす作業等をするため,これによって発生した石綿粉じんに曝露した。 大工は,増改築工事,解体工事において,石綿含有建材を取り壊し,破砕する際に,石綿粉じんに曝露する。 また,大工は,内装工,左官工,板金工,電工,配管工等と同時並行で作業を行うことがあり,その際には,これらの各職種の建築作業従事者の作業により発生した石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,113) イ内装工内装工は,床,壁,天井などの下地工事や,下地にボードやクロスなどを取り付ける仕上げ工事を行う。このうち,軽天工は,天井の躯体から吊り下げられた吊りボルトにハンガーを取り付け,そのハンガーに架けた野縁受けに野縁を取り付ける天井下地工事や,天井仕上げ工事等を行う。 内装工は,これらの作業において,石綿含有建材を切断し,やすりをかけ,ビ れた吊りボルトにハンガーを取り付け,そのハンガーに架けた野縁受けに野縁を取り付ける天井下地工事や,天井仕上げ工事等を行う。 内装工は,これらの作業において,石綿含有建材を切断し,やすりをかけ,ビス止めや釘打ちをする等の作業を行い,その際に発生する石綿粉じんに曝露する。鉄骨造建築物の場合には,間仕切りや躯体内壁下地,天井下地の取付工事が耐火被覆工事を行った後に行われるため,間仕切り等を取り付けていく際,吹付け材を「ケレン棒」と呼ばれる金べらで削ぎ取る作業等が必要となり,その際にそぎ落とす等した石綿を含有する吹付け材に起因する石綿粉じんに曝露し,石綿を含有する耐火被覆板による耐火被覆がなされている場合には,間仕切りや躯体内壁下地を耐火被覆板にビス止めする際,耐火被覆板から発生した石綿粉じんに曝露する。なお,鉄筋コンクリート造建築物の場合であっても,防音や結露防止のため壁や天井に吹付け材が吹き付けられていることがあり,この場合にも,前記と同様に,間仕切り等の施工の際,石綿粉じんが発生し,これに曝露する。 内装工は,配管工,電気工,保温工と同じ階で同時並行的に作業を行うことがあるため,これらの作業によって発生した石綿粉じんに曝露することがあった。 (甲A35,119,370の172頁ないし182頁,371の139頁ないし141頁,甲D1の12)ウボード工ボード工は,内装,屋根及び外装について,ボードを張る作業を行う。 新築工事の場合,ボード工は,基礎工事が完了した段階で作業を開始する。 なお,鉄骨造建築物の場合に行われる耐火被覆工事は,ボード工が屋根下 地となるボードと外壁となるボードを張り終えた後に行われる。 ボード工は,新築工事でも改修工事でも,ボードの切断,やすりがけ,穿孔作業等の際にボードから発生する粉じんに曝 ド工が屋根下 地となるボードと外壁となるボードを張り終えた後に行われる。 ボード工は,新築工事でも改修工事でも,ボードの切断,やすりがけ,穿孔作業等の際にボードから発生する粉じんに曝露する。屋根や外壁を取り付ける際は屋外で作業が行われるが,内壁工事の場合は屋根や外壁が取り付けられた後に行われるため,切断,穿孔等の作業は室内で行われることとなる。 ボード工は,内装工,大工,電工,配管工等と同時に作業をすることがあり,その際にはこれらの作業によって発生した石綿粉じんに曝露する。 (甲A380,甲D1の12)エ板金工(ア) 板金工は,屋根,外壁等に金属板,スレートボート,サイディング材等を施工する作業を行う。 板金工は,屋根葺き工事や外壁工事において,屋根の上等屋外における石綿含有建材の切断や,建材の固定作業(ビス止め等のための穴あけ作業)等により発生する石綿粉じんに曝露する。 板金工が作業をしている際には,大工や内装工が,主に当該建物の屋内において同時に作業を行っていることがあった。 (甲A35,230)(イ) なお,屋根工は,主に建物の屋根の施工(スレートボード,石綿スレート瓦等を使用する。)を行うが,外壁のサイディング張りを行うこともあったため,板金工と同様,屋外における屋根や外壁に使用される石綿含有建材の加工作業によって,石綿粉じんに曝露する(甲A35)。 オ塗装工塗装工は,仕上げ工事の段階において,天井や壁のボード貼りがなされた後,建物の天井や内壁,外壁の仕上げに塗料を塗る作業を行う。塗装工は,塗装する前に,面取りをしたボードの継ぎ目にパテを塗り込み,これ が乾燥した後に,下地の凹凸をなくし平坦にするための下地調整作業としてモルタルやボードのやすりがけ(サンダーがけ)を行うが,そ する前に,面取りをしたボードの継ぎ目にパテを塗り込み,これ が乾燥した後に,下地の凹凸をなくし平坦にするための下地調整作業としてモルタルやボードのやすりがけ(サンダーがけ)を行うが,その際にモルタル等から粉じんが発生し,モルタルやボードに石綿が含有されている場合には,石綿粉じんに曝露した。また,鉄骨造建築物においては,吹付け石綿を剥がして塗装を行う場合があり,このときに発生する石綿粉じんに曝露した。また,塗装工は,設備工や配管工と同時に作業をすることがあり,その際には,これらの作業によって発生した石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,117,甲D1の12・13)カ左官工左官工事は,コンクリート打設中(基礎工事,躯体工事),及び仕上げ工事(下地,仕上げ)において行われる。 左官工は,石綿を含有したセメントと砂を主たる材料とするモルタルや,プレミックス材(セメント以外に珪砂が入っているもの,素材の鉱石を発泡化した軽量骨材が入っているものなどがある。),モルタル混和材を建築現場で練り上げ,床や壁等に塗る作業を行う。なお,昭和55年以降はモルタル塗りが廃れ,プレミックス材による薄塗りが中心となり,また,大型の建物のコンクリートの外壁や内壁については,セメントにパーライトと混和材(石綿テーリング。セメントの伸びをよくし,仕上がりを美しくする目的で混ぜられた。)を混ぜたものを薄く塗る作業が行われた。モルタル等の練り上げの際には,材料が水に馴染むまでの間,粉じんが舞い上がるため,左官工は混和材等に含有された石綿に起因する石綿粉じんに曝露する。大規模な現場では専門の捏ね屋がいることがあったが,左官工がプレミックス材の配合を行う場合もあった。また,左官工は,石膏ボードの普及に伴い,石膏ボードの切断,やすりがけを行うようになった。そ 露する。大規模な現場では専門の捏ね屋がいることがあったが,左官工がプレミックス材の配合を行う場合もあった。また,左官工は,石膏ボードの普及に伴い,石膏ボードの切断,やすりがけを行うようになった。そのため,切断,やすりがけによって発生した石綿粉じんに曝露する。 左官工は,鉄骨造建築物や鉄筋コンクリート造建築物におけるシーリン グ工事(外壁に張られたタイル等の継ぎ目や隙間,クラック等をシーリング(コーキング)材やモルタル等で埋める工事)の際に,シーリング材等を塗り込む部分に付着した吹付け材等を刷毛等で掃除し,また,必要に応じて,当該部分に付着している吹付け材をこそげ落としたり,石綿を含有するシーリング材等の一部をはつる作業を行うため,これによって発生する石綿粉じんに曝露する。 左官工は,電工,配管工,保温工と同時並行で作業を行うことがあり,その際には,これらの建築作業従事者が発生させた石綿粉じんに曝露することがある。また,大工がボード張り等をしている際に同時並行で作業をすることもあり,その際には,大工がボードを切断したりやすりがけをする際に発生した石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,116,372の125頁,1248,乙アA1048)キ電工電工は,建物の各所に電気を供給するための配管,配線作業を行い,コンセントやスイッチ,照明器具の取付作業を行う。 鉄骨造建築物の場合には,梁やデッキプレートへの吹付け作業がなされた後に配管,配線作業を行う際,吹付け材を削ぎ落とす作業等が必要となるため,これによって石綿を含有する吹付け材に起因する石綿粉じんに曝露する。 また,スリーブを入れた部分について,火災が発生した場合に火が貫通部分から他の階や他の部屋に通り抜けないように,貫通部分に耐火被覆作業を施す必要があるため,石綿を 起因する石綿粉じんに曝露する。 また,スリーブを入れた部分について,火災が発生した場合に火が貫通部分から他の階や他の部屋に通り抜けないように,貫通部分に耐火被覆作業を施す必要があるため,石綿を含有する耐火仕切板の切断や,石綿を含有する充鎮材を詰める際に発生する石綿粉じんに曝露する。 照明器具の取付けは,本天井にボードが張られた後の作業となるため,特に埋込型の照明器具の場合には,小型ののこぎり(引き回し)を使って,ボードに照明器具を取り付けるための開口作業を行う。この際,石綿を含 有する天井板等が使用されている場合には,切断作業によって発生した石綿粉じんに曝露する。さらに,壁や柱に設置されたボックスにコンセントやスイッチを取り付ける作業を行う際,壁や間仕切りを切断する(ボックス出し)必要があるため,壁材等が石綿含有建材であった場合には,これによって石綿粉じんに曝露する。 電工による配管,配線作業と同時に,配管工,保温工,大工,内装工等が作業をしていることがあり,その際には,これらの建築作業従事者の作業によって発生した石綿粉じんに曝露することもある。 (甲A35,114,甲D1の12)ク配管工配管工は,給排水配管及び空調配管工事を行う。このうち,ダクト工は,内装,仕上工事の直前の段階で作業に入り,建物内の空気調和を行うために天井裏にダクトを設置する作業を行う。 配管工事には①冷媒配管工事,②給水配管工事,③保温工事があり,いずれも躯体工事の終盤から作業を行う。配管工は,配管工事後,壁や床の所定位置に敷設した配管にトイレ,洗面台,浴槽,室外機等の機器や設備を取り付ける。配管ルートは壁,床等を貫通する場合が多く,その際には壁,床,間仕切り,天井等に必要に応じてドリルで穴を開ける作業を行うことから,壁,床等に使用 レ,洗面台,浴槽,室外機等の機器や設備を取り付ける。配管ルートは壁,床等を貫通する場合が多く,その際には壁,床,間仕切り,天井等に必要に応じてドリルで穴を開ける作業を行うことから,壁,床等に使用された石綿含有建材から発生した石綿粉じんに曝露する。また,鉄骨造建築物については,天井裏の配管を行うために,鉄骨(H鋼)に支持金具を取り付け,そこへ吊りボルトを設置するが,その際,鉄骨に吹き付けられた吹付け材を削り取る必要があったため,石綿を含有する吹付け材から発生した石綿粉じんに曝露する。また,天井スラブにアンカーボルトを打ち込む際には,天井スラブに吹き付けられた石綿を含有する吹付け材から発生した石綿粉じんに曝露する。 内装工事と並行して配管するが,冷却効率を良くしたり,管の結露を防 止するために,管に保温材をかぶせる作業をすることがあり,その際には石綿を含有する保温材の加工(切断)によって発生する石綿粉じんに曝露する。 配管工が天井裏の配管工事を行っている際に,同じ階で保温工が保温材を切断する作業を行っていることや,床面で内装工等が床材,石膏ボード,スレートボード等を切断する作業等を行っていることが多く,これによって発生した石綿粉じんは,天井板が張られていた場合であっても,天井板に開けられた点検孔等から天井裏に入り込み,配管工がこれに曝露することがある。 また,改修工事の際には,既設の管を取り外す際,管に巻かれた石綿を含有する保温材から石綿粉じんが発生し,これに曝露することがある。 なお,通常,木造建築物の場合,大がかりな空調設備はなく,簡単な換気機能は大工,電工や配管工が設置することが多く,ダクト工が携わることは少ない。 (甲A35,120,225,370の195頁ないし202頁,甲D1の12)ケ解体工解 備はなく,簡単な換気機能は大工,電工や配管工が設置することが多く,ダクト工が携わることは少ない。 (甲A35,120,225,370の195頁ないし202頁,甲D1の12)ケ解体工解体工は,解体及び改修工事において,重機又は手作業によって,床,壁,天井等に用いられた建材等を破壊する。 屋根や,間仕切り,天井板等の内装材等をバールやチェーンソーを用いて破壊し,また,外壁を引き倒して破砕する作業,又は,重機を用いて屋根,内装,外壁を破壊する作業においては,建物の各部分に使用された石綿含有建材(吹付け材,保温材,スレートボード等)から発生した石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,118)コ現場監督 現場監督は,新築工事,改修工事,解体工事のいずれにおいても,施工図通りに施工がなされているか等を確認し,また,当該建築現場における建材,職人及び工程の管理を行うため,着工から建物の完成,引渡しまでの全行程に係わる。 現場監督が石綿含有建材を直接取り扱うことは基本的にはないため,自身の作業によって石綿粉じんを発生させこれに曝露することはあまりないが,吹付け工による吹付け作業及び仕上がりの確認や,内装工,配管工,電工,板金工,塗装工等の作業の確認の際に,これらの建築作業従事者の作業等(切断等の加工作業や,吹付けの仕上がり確認のために天井に吹き付けられた石綿にピンを刺すとき等)によって生じた石綿粉じんに間接曝露し,また,清掃等によって再度飛散した石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,228,甲D1の12)サ清掃作業建築工事現場においては,新築工事でも改修工事でも,毎日,作業を終えるとその日の作業で汚れた所を箒で掃くなどして,清掃していた。建築現場によっては,清掃専門の掃き屋が入り,掃き屋によって一日中建築現 建築工事現場においては,新築工事でも改修工事でも,毎日,作業を終えるとその日の作業で汚れた所を箒で掃くなどして,清掃していた。建築現場によっては,清掃専門の掃き屋が入り,掃き屋によって一日中建築現場の掃除が行われている場合もあったが,掃き屋がいる建築現場であっても,粉じん等が発生する作業を行った建築作業従事者は,いずれの職種であっても,当該作業から発生した粉じん等の掃除を行っていた。 また,週に一度,その日建築現場で作業をした建築作業従事者全員により,建築現場全体の一斉清掃が行われることもあった。 清掃時には,作業によって堆積した石綿粉じんの再飛散等により,石綿粉じんに曝露する。 (甲A35,113,242,甲D1の12)シ築炉工新築の築炉作業は,金属製の外壁の内側に耐火煉瓦を積み上げる作業で あるが,外壁に,まずモルタルを接着剤として耐熱材,保温材,断熱材等を貼り付け,その内側に耐火煉瓦を積み上げる。また,耐火煉瓦が炉の使用過程で膨張することを見越して,すき間を空けておき,そのすき間にヤーンロープ(石綿の糸をロープ状に巻いたもの)を詰め込む。 築炉工は,石綿を含有する耐熱材,保温材等を切断する際や,ヤーンロープを金槌の後ろ側で切断する際にに発生する石綿粉じんに曝露する。 炉の補修や解体作業では,積み上げてある耐火煉瓦を電気ドリル,ハンマー,バール等で取り壊すところ,石綿を含有する保温材が高熱にさらされていたことによって傷んでいるため,耐火煉瓦の取り壊しの際に,傷んだ保温材から石綿粉じんが発生し,これに曝露する。 (甲A35,甲D15の16)(6) 我が国における電動工具の普及と発じん状況ア我が国においては,昭和30年頃から電動工具が普及し始めた。のこぎり,のみ,かんなに代表される手工具の機能は,切 (甲A35,甲D15の16)(6) 我が国における電動工具の普及と発じん状況ア我が国においては,昭和30年頃から電動工具が普及し始めた。のこぎり,のみ,かんなに代表される手工具の機能は,切断,穴あけ,切削などの各機能を持った機械としての電動工具に引き継がれた。 電動工具の主な種類としては,内装材や外装材といった建材の切断作業に用いられる電動丸鋸,建材への穴あけ作業等に用いられる電動ドリル,工具や建材の研削や研磨に用いられる電動グラインダーなどがある。 昭和35年の電動工具(電動グラインダー,電動鋸,電動ドリル,電気サンダー,電気かんな等)の生産高は34万4244台,出荷高は33万6099台であったところ,翌36年には生産高が59万7072台,出荷高が59万8577台となり,その後も生産高,出荷高とも増加を続け,昭和45年には生産高は252万6434台,出荷高は239万4546台に,昭和48年には生産高は352万3924台,出荷高は354万4299台となった。さらに,昭和59年には生産高1102万1079台,出荷高1091万1956台と,生産高及び出荷高とも1000万台を超 え,平成8年までの間は増減がありつつも概ねこの水準を維持していた。 平成9年以降は生産量,販売量とも減少し,平成13年にはいずれも650万台程度となった。 (甲A239,437)イ発じん状況(ア) 昭和60年3月に発行された「日本のじん肺対策(第4分冊)」においては,昭和54年に原田実らによってなされた電動工具等の建築作業における粉じんの影響評価が記載されており,これによれば,解体工事,舗装工事,砕石作業に用いられる溶接機,切断機の影響は大きく,ハンドブレーカーによる影響は中程度であり,グラインダーによる影響は小さいと評価されている 評価が記載されており,これによれば,解体工事,舗装工事,砕石作業に用いられる溶接機,切断機の影響は大きく,ハンドブレーカーによる影響は中程度であり,グラインダーによる影響は小さいと評価されている(乙アA225の106頁・107頁・118頁・119頁)。 (イ) 平成4年通達により石綿粉じんが発散しないような適切な措置の実施,安衛法による特別教育に準じた労働衛生教育の推進と併せて,建設業労働災害防止協会(労働災害防止団体法に基づき設立される労働大臣(現在は厚生労働大臣)の認可団体)により「石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル」(平成4年1月初版)が刊行された。同作業マニュアルの平成9年1月改訂版(平成9年作業マニュアル)においては,発じん状況に関し,石綿含有建材の現場加工における石綿粉じん濃度は,①石綿含有建材の種類と石綿含有量(石綿粉じん発散量の違い),②屋内作業と屋外作業(吸入性粉じんの滞留状態の違い),③切断方法(石綿粉じん発散量の違い),④除じん装置の有無(除じん装置がない場合は,二次発じんにも影響を及ぼす),⑤屋内作業場の密閉の度合(吸入性石綿粉じんの滞留状態の違い),といった要因によって異なると考えられるが,過搬式電動丸鋸等を使用し,かつ屋内作業の場合は,石綿の管理濃度(平成9年当時の2本/㎤)を超える状況にあり,特に 屋内作業であって,密閉状態にある場合には,管理濃度の数倍から数十倍になることがある,とされた。(甲A248の29頁)(7) 粉じん濃度の評価基準について粉じん濃度の測定結果を評価するための評価基準には,以下のものがある。 ア恕限度等(ア) 恕限度恕限度とは,石川知福が,昭和13年に発行された「塵埃衛生の理論と実際」において,アメリカ等における研究結果を参考にして提唱し めの評価基準には,以下のものがある。 ア恕限度等(ア) 恕限度恕限度とは,石川知福が,昭和13年に発行された「塵埃衛生の理論と実際」において,アメリカ等における研究結果を参考にして提唱した粉じん濃度の評価基準であり,これは,我が国において初めて,じん肺予防の観点から作業場の空気中の粉じん濃度の限界(曝露限界)として提示された数値である。石川知福は,労研式塵埃計によって測定し暗視野装置鏡検で100から200ワット光源,330倍拡大率のもとで計数することを前提として,空気1㏄当たりの粒子数が400を恕限濃度とし,100以下であれば清浄,100から200であれば軽度発塵,200から400であれば中等度発塵,400から800であれば高度発塵,800以上を危険度発塵とした。なお,同書においては,労働時間並びに作業強度別に,どの程度の濃度以下であれば,長期仕事に従事してもけい肺を惹起する心配がないかの指標となるものが恕限量であり,恕限量は従来の経験から想定され得べきであるが,これは甚だ難しい将来の研究問題として残されていること,及び,塵埃の害悪は量にも関係があるが,その質に関係するところが大きく,殊に中毒性のもの等はそうではないものと比べて恕限度が低いはずであり,さらに,被験者の体質,作業方法,作業激度,作業時間,防じん施設の如何等によって恕限濃度は変動させるべきであること等が指摘されている。 なお,昭和28年けい特法の制定に際し,けい肺対策審議会に粉じん恕限度専門部会が設けられて恕限度の検討がなされたが,その結果が法 的拘束力をもつ規制値として採用されることはなかった。 (甲A93の27頁ないし30頁・144頁・145頁,乙アA45の5頁ないし7頁,79の24頁,1032の24頁,1033)(イ) 昭和23年基発 力をもつ規制値として採用されることはなかった。 (甲A93の27頁ないし30頁・144頁・145頁,乙アA45の5頁ないし7頁,79の24頁,1032の24頁,1033)(イ) 昭和23年基発第1178号労働省は,昭和23年基発第1178号「労働基準法施行規則第18条,女子年少者労働基準規則第13条及び労働安全衛生規則第48条の衛生上有害な業務の取扱基準について」(甲A94)において,旧労基法規則等で規制対象とされていた「有害な職場」の一つとして,「土石,獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所」の具体的範囲として,「植物性(綿,糸ぼう,木炭等),動物性(毛,骨粉等),鉱物性(土石,金属等)の粉じんを,作業する場所の空気1立方センチメートル中に粒子数1000個以上又は1立方メートル中15ミリグラム以上を含む場所をいう。」,「特に遊離硅石50%以上を含有する粉じんについては,その作業する場所の空気1立方センチメートル中に粒子数700個又は1立方メートル中10ミリグラム以上を含む場所をいう。」とした。 前記通達における数値決定の経緯に関する記載は何も残っていないが,石川知福の提唱した恕限度が参照されたことが推認される。 (甲A64の205頁・206頁,65の169頁ないし171頁,94,乙アA45の7頁・8頁,1033)(ウ) 抑制目標限度けい特法に基づくけい肺健康診断の実施により,我が国における異常所見者の数が予想以上に多いことがはっきりしてきたため,労働省は,旧労基法42条に基づき,昭和33年5月26日基発第338号「労働環境における職業予防に関する技術指針」を提示した(乙アB13)。 当該通達においては,個々の発散源に対する改善をどの程度まで進めれ ばよいかという当面の目標値として,遊離珪酸50%以 働環境における職業予防に関する技術指針」を提示した(乙アB13)。 当該通達においては,個々の発散源に対する改善をどの程度まで進めれ ばよいかという当面の目標値として,遊離珪酸50%以上の粉じん700/㏄又は14㎎/㎥,遊離珪酸50%未満の粉じん1000/㏄又は20㎎/㎥という「抑制目標限度」が示された。当該濃度は,環境管理に関して初めて行政的に提示された作業場の粉じん濃度といえる。 当該数値は,前記(イ)の値と比較すると,粒子数濃度については同じ値であり,また,質量濃度については30から40%大きな値になっていること,及び,当時濃度測定の主流がまだ一般的には労研式塵埃計によっていたという事情を考慮すれば,抑制目標限度は基本的には前記(イ)の通達の数値をほぼ踏襲したものといえる。ただし,測定を行う位置については,昭和33年の前記通達は,「測定は,労働環境改善の種類及びその程度の決定並びに改善の効果判定に必要なものであるから,改善実施の前後においては,必ず有害物の発散源附近における作業位置で測定を行うようにさせること」としていた。 (乙アA45の12頁・13頁・35頁,1033)イ許容濃度(ア) 許容濃度許容濃度とは,労働者が有害物に連日曝露される場合に,空気中の有害濃度が,この数値以下であれは,健康に有害な影響がほとんどみられないという濃度であり,労働者を取り巻く外部環境の組成の指標となるものである。許容濃度の数値は日本産業衛生学会によって勧告される。 許容濃度は,職場での健康障害を予防するための手引として用いられるものであって,安全や危険等の限界を示すものでも,生活環境としての大気汚染の程度の判断及び対策に利用する目的のものでもなく,また,当該濃度は,労働衛生についての知識と経験を充分に持った人が利用す ものであって,安全や危険等の限界を示すものでも,生活環境としての大気汚染の程度の判断及び対策に利用する目的のものでもなく,また,当該濃度は,労働衛生についての知識と経験を充分に持った人が利用すべきであるとされる。 さらに,許容濃度の利用上の注意としては,①許容濃度は,産業にお ける経験,疫学的研究又は実験的研究等に基礎をおいており,許容濃度等を設定するに当たって考慮された曝露時間,労働強度を越えている場合には適用できないこと,②許容濃度を決定する場合に考慮された生体影響の種類は物質等によって異なり,ある種のものでは明瞭な健康障害に,また他のものでは,不快,刺激,中枢神経抑制などの生体影響に根拠が求められているため,許容濃度の数値を単純に毒性の強さの相対的比較の尺度として用いてはならないこと,③許容濃度は安全と危険の明らかな境界を示したものと考えてはならないため,労働者に何らかの健康異常がみられた場合に,許容濃度を越えたこと又は越えていないことのみを理由として,その物質等による健康障害であるか否かを判断してはならないこと,④許容濃度の数値は,当該物質が単独で空気中に存在する場合のものであるから,2種又はそれ以上の物質に曝露される場合には,個々の物質の許容濃度のみによって判断してはならず,特別の考慮が必要であること,等がこれまでに指摘されてきた。 昭和40年に示された許容濃度の勧告においては,一時曝露濃度の上昇は,しばしば予想外の影響を健康に及ぼすものであるから,これについては特別な考慮が必要であること,及び,本許容濃度を利用するにあたっては,以上のほかに,労働強度,温度条件,個人の感受性及びその他の条件を考慮する必要があることについても指摘がなされ,平成22年に示された許容濃度等の勧告においては,人の有害物質等への するにあたっては,以上のほかに,労働強度,温度条件,個人の感受性及びその他の条件を考慮する必要があることについても指摘がなされ,平成22年に示された許容濃度等の勧告においては,人の有害物質等への感受性は個人ごとに異なるので,許容濃度等以下の曝露であっても,不快,既存の健康異常の悪化,あるいは職業病の発生を防止できない場合があり得ることの指摘がなされた。 (甲A95ないし98,乙アA88の12頁,172,174)(イ) 許容濃度の勧告(昭和40年)日本産業衛生学会は,昭和37年から粉じんの許容濃度についての検 討を行った結果,昭和40年に,石綿粉じんについて,その吸入に基づく肺線維症及び肺機能障害が強いことから,じん肺性粉じんのうち第1種粉じんとして,許容濃度を定めた。その数値は,感受性が特に高くない労働者が,1日8時間以内,中等労働を行う場合を想定した上で,5μ以下の粒子について,労働者が位置する床上1から1.5mの高さにおいて,重量法又は相対濃度法を用い,現在使用できる測定器(電気集塵器,インピンジャー,沪過式捕集装置,沪紙塵埃計,ダスタロ,デジタル粉塵計,チンダロスコープ)を使用して測定する方法によった場合を前提として,2㎎/㎥(33繊維/㎤相当)(気体容積は25℃,1気圧)とされた。 許容濃度が労働者の曝露濃度に対応するものであるにもかかわらず,前記のような場の測定方法が用いられた理由は,曝露粉じん測定用の個人サンプラーが実用化されるに至ったのは昭和40年であり,個人曝露濃度の測定方法が未開発の状態にあったため,現実的に可能な方法として場の測定が示されることとなったものである。 また,許容濃度の数値決定に際しては,対策技術(測定技術)等の観点からの実施可能性は考慮されていない。 なお,前記許容濃度は ,現実的に可能な方法として場の測定が示されることとなったものである。 また,許容濃度の数値決定に際しては,対策技術(測定技術)等の観点からの実施可能性は考慮されていない。 なお,前記許容濃度は吸入性粉じんを濃度測定の対象としているところ,昭和40年当時の諸外国における許容濃度等はすべて総粉じんに対して設定されたものであった。総粉じんと吸入性粉じんとの比は質量濃度としておよそ3:1程度にもなるため,我が国における許容濃度は,諸外国における許容濃度等と比較して著しく緩和されたものであった。 (甲A67の1の21頁,95,99の138頁,100,乙アA45の15頁ないし17頁,79の26頁ないし29頁,175,1032の26頁ないし29頁,1033,1036)(ウ) 石綿粉じんの許容濃度の改訂の提案(昭和48年)と許容濃度等の 勧告(昭和49年)日本産業衛生学会許容濃度等委員会は,昭和40年以降,我が国においては,石綿粉じんへの曝露量と健康障害との関係についての研究は殆ど行われていないため,現時点において,我が国の資料に基づいて現行の許容濃度を改訂することは困難であるものの,各国における石綿の用途の拡大と使用量の増加は,石綿粉じん曝露労働者の健康障害に対する関心を高め,石綿肺のみでなく,肺及び消化器のがん及び中皮腫が注目されるようになり,石綿粉じんの許容濃度の検討が近年多くの国において行われ,許容濃度が新たに設定,改訂されており,これら外国の濃度と比較すると,我が国における許容濃度がきわめて高い数値であって,かつ,我が国において石綿肺及び肺がんの発生が増加しつつあり,中皮腫も発生しているとの現状認識の下に,昭和48年,諸外国の資料に基づいて石綿粉じんの許容濃度の改訂を提案した。 日本産業衛生学会許容濃度等委員会は おいて石綿肺及び肺がんの発生が増加しつつあり,中皮腫も発生しているとの現状認識の下に,昭和48年,諸外国の資料に基づいて石綿粉じんの許容濃度の改訂を提案した。 日本産業衛生学会許容濃度等委員会は,前記提案において,当時のイギリス,アメリカにおける資料を中心に,カナダ,西ドイツにおける状況等を考慮の上,我が国には石綿粉じん濃度とそれが労働者に与える有害作用との間の関連について利用し得る確かな情報がないため,イギリスの資料に頼らざるを得ないとして,イギリス(アメリカは昭和51年以降)が労働の場における石綿粉じんの気中濃度の基準を5μ以上の長さを持つ石綿繊維で2繊維/㎤としていることから,我が国においても,石綿粉じん(クリソタイル,アモサイト,トレモライト,アンソフィライト,アクチノライト)の気中許容濃度として,時間加重平均5μ以上の石綿繊維で2繊維/㎤(これに対応する石綿粉じんの重量濃度は0. 12㎎/㎥)と設定することとし,また,石綿粉じんに対する労働者の曝露は比較的恒常的な濃度に継続的に曝露されるものまで広範囲にわたるため,ceiling 値(いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を超え てはならない濃度。天井値)を勧告する必要があるとして,その値を5μ以上の石綿繊維で10繊維/㎤と提案した。また,日本産業衛生学会許容濃度等委員会は,「石綿が発ガン性をもつということからは,許容濃度がきめられないのではないかという考え方もあるが,バクロがきわめて低濃度のときは,過度(excess)の肺ガン発生は見いだしがたいとされている。中皮腫については,アンソフィライトをのぞく,すべての産業上使用される石綿は中皮腫をおこし得るが,危険はクロシドライトで最も大きく,アモサイトではそれより少なく,クリソタイルでは明らかに少ないとされてい については,アンソフィライトをのぞく,すべての産業上使用される石綿は中皮腫をおこし得るが,危険はクロシドライトで最も大きく,アモサイトではそれより少なく,クリソタイルでは明らかに少ないとされている。」として,クロシドライトの許容濃度については,これらの濃度をはるかに下回る必要があるとした。 日本産業衛生学会は,昭和49年の勧告において,同学会許容濃度委員会からの提案に基づいて,石綿粉じんに関する許容濃度を追加した。 なお,測定法はメンブランフィルター法又はエックス線回析法によるか,あるいは,これらの方法で得られる値と比較的関係を持つ値の得られる他の方法によるものとするとされた。 (甲A1026,1117,乙アA175,176,1034ないし1036)(エ) 許容濃度等の勧告(昭和56年)日本産業衛生学会は,昭和56年,石綿粉じんの許容濃度について,クリソタイル,アモサイト,トレモライト,アンソフィライト,アクチノライトについては,前記(ウ)の許容濃度の数値と同じ数値を勧告し,クロシドライトについては,ACGIHが昭和54年に提案し昭和56年に確定された値である0.2繊維/㎤を勧告した。なお,前提とされた測定法は前記(ウ)と同様である。(甲A96,97,乙アA1036)なお,1970年代後半頃から,日本産業衛生学会は,許容濃度の勧 告値と並列して,職業性発がん物質表を新設することを決定し,昭和56年には石綿を含む13種類の職業性発がん物質の暫定表が提案され,昭和57年にそれがそのまま承認,確定されたが,石綿の許容濃度の値自体に変更は加えられなかった(甲A1028,乙アA1036)。 (オ) 昭和61年以降の許容濃度等の検討状況昭和61年,許容濃度等委員会委員長に対し,イギリスで昭和59年からクリソタイルは 値自体に変更は加えられなかった(甲A1028,乙アA1036)。 (オ) 昭和61年以降の許容濃度等の検討状況昭和61年,許容濃度等委員会委員長に対し,イギリスで昭和59年からクリソタイルは0.5繊維/㎖,アモサイト,クロシドライトは0. 2繊維/㎖に改訂されたが,なお我が国でクロシドライトを除く石綿繊維の許容濃度を2繊維/㎖としている理由についての質問がなされたことから,同委員長は,「現在の数値が明らかに間違っているとは考えていない」が,「石綿に関する量反応関係の知見が若干補強され,各国でもexposurelimit の見直しが行われている」ことから,「許容濃度改訂への提案とうけ止め早急に対処したい」と回答し,昭和62年に石綿に関する小委員会を発足させ,発がん物質についての小委員会と並行して検討を進めたが,結局提案には至らなかった。 その後,平成8年には,「石綿粉じん濃度の許容濃度」のうちクリソタイルとクロシドライト以外は検討中と表示され,平成10年には全ての石綿繊維が「検討中」と表示されるに至った。 (甲A1027,1028,乙アA1036)(カ) 許容濃度等の勧告(平成13年)等a 20余年ぶりの改訂となった平成13年の許容濃度等の勧告においては,それまでの許容濃度勧告とは大きく異なり,リスクアセスメントの手法を導入し,石綿について,当該物質によるリスクをゼロとするような曝露量の境界(閾値)がないという仮説を採用し,過剰発がん性生涯リスクに対応する評価値を提示した。すなわち,肺がんについては相対リスクモデル,中皮腫については絶対リスクモデルを採用 して,石綿について,クリソタイルのみのときは評価値0.15繊維/㎖であれば過剰発がん生涯リスクレベル10の-3乗,評価値0. 015繊維/㎖であれば過剰発が ては絶対リスクモデルを採用 して,石綿について,クリソタイルのみのときは評価値0.15繊維/㎖であれば過剰発がん生涯リスクレベル10の-3乗,評価値0. 015繊維/㎖であれば過剰発がん生涯リスクレベル10の-4乗とし,クリソタイル以外の石綿繊維を含むときには,0.03繊維/㎖であれば生涯過剰発がんリスクレベル10の-3乗,0.003繊維/㎖であれば生涯過剰発がんリスクレベル10の-4乗との値を示した。なお,石綿については,許容濃度表上物質名としては残されているが,「表Ⅲ-2.過剰発がん生涯リスクレベルと対応する評価値」を参照することと記載されている。 また,日本産業衛生学会による平成13年の許容濃度等の勧告によれば,石綿粉じんのうち許容濃度が前提とする繊維は,メンブランフィルター法で捕集し,400倍(対物4㎜)の位相差顕微鏡で,長さ5μ以上,長さと幅の比3:1以上の繊維であるとされた。 日本産業衛生学会は,発がん物質について,IARCが発表している発がん物分類を基本的に妥当なものとして判断し,かつ,他の様々な情報を加えて検討して,産業化学物質及び関連物質を対象とした発がん物質表を定め,その中で,石綿については第1群(人間に対して発がん性のある物質)に分類した。その上で,日本産業衛生学会は,「第1群」に属する物質のうち,過剰発がん生涯リスクレベルに対応する濃度レベルの評価が可能な場合には,「表Ⅲ-2.過剰発がん生涯リスクレベルと対応する評価値」において過剰発がん生涯リスクレベル及び対応する濃度レベルの評価値を示した。ただし,当該過剰発がんリスクレベル及び評価値に関しては,労働者が受容すべきリスクとして日本産業衛生学会が勧告することを意味せず,労働衛生についての十分な知識と経験を持った人々が発がん物質の労働衛生管理 当該過剰発がんリスクレベル及び評価値に関しては,労働者が受容すべきリスクとして日本産業衛生学会が勧告することを意味せず,労働衛生についての十分な知識と経験を持った人々が発がん物質の労働衛生管理を行うための参考値として示しているとされた。 (乙アA178,1036)b なお,日本産業衛生学会による,平成13年度及び平成22年度の許容濃度等の勧告(乙アA174,178)においては,化学物質の許容濃度について,「許容濃度とは,労働者が1日8時間,週間40時間程度,肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に,当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であれば,ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度である。曝露時間が短い,あるいは労働強度が弱い場合でも,許容濃度を越える曝露は避けるべきである。なお,曝露濃度とは,呼吸保護具を装着していない状態で,労働者が作業中に吸入するであろう空気中の当該物質の濃度である。」とされた。また,濃度変動の評価として,「曝露濃度は,平均値の上下に変動するが,許容濃度は変動の幅があまり大きくない場合に利用されるべきものである。どの程度の幅の変動が許容されるかは物質によって異なる。特に注記のない限り,曝露濃度が最大になると予想される時間を含む15分間の平均曝露濃度が,許容濃度の1.5倍を越えないことが望ましい。」とされた。 ウ抑制濃度(ア) 労働環境技術基準委員会の報告旧労基法の時代には,対象となる有害物質を取り扱う作業をことごとく列挙し,その作業又は作業を行う場所を限定して規制をする方法(作業列挙方式)が採用されていたが,昭和40年代当初からの高度経済成長に伴い,使用される有害物質の種類及び量が増加し,また,公害問題に関連して有害物質による健康 を行う場所を限定して規制をする方法(作業列挙方式)が採用されていたが,昭和40年代当初からの高度経済成長に伴い,使用される有害物質の種類及び量が増加し,また,公害問題に関連して有害物質による健康障害に対する社会的関心が高まったこと等により,多数の物質に対する規制が必要とされることとなり,それまでの作業列挙方式による規制が困難となった。そのため,規制方法として,対象物質を特定し,作業方法や作業の形態には関係なく,作業場に おける規制対象物質の気中濃度による規制,即ち濃度規制方式を取り入れざるを得なくなった。 このような中で,昭和41年から昭和45年にかけて業務上疾病の大幅な増加が見られたこと等から昭和45年9月から全国で石綿を含む46種類の有害物質についての事業場の立入検査を行い,その結果を踏まえ,有害物質の規制について技術的,専門的な事項に関する検討を行うため,労働環境技術基準委員会が設置され,同委員会は,昭和45年12月7日から昭和46年1月21日にかけて有害物等による障害の防止に関して検討を行い,同日,労働省労働基準局長に対し,その検討結果をまとめた「有害物等による障害の防止に関する対策について」と題する報告をした。同報告書においては,「有害物等による障害を防止するには,作業環境内の有害物等の発散を抑制することが重要であ」り,「そのためには,作業環境内に有害物等が発散することを防止するための施設の整備を進めるべきであり,それに関連する抑制の濃度が必要とな」る,とし,抑制の濃度の値としては,当面,日本産業衛生学会が勧告する許容濃度の値を,これに定めていないものについては,ACGIH等で定める値を,それぞれ利用することが適当である,とした。そして,「有害物等による障害の防止のための規制について」として,施設の整備 る許容濃度の値を,これに定めていないものについては,ACGIH等で定める値を,それぞれ利用することが適当である,とした。そして,「有害物等による障害の防止のための規制について」として,施設の整備に関し,「有害物等のガス,蒸気又は粉じんの作業環境中での発散による障害を防止するため,局所排気装置の設置その他の施設面での措置を講ずること。」とし,抑制濃度の値については,当時,局所排気装置付近の濃度を測るための数値というものは存在しておらず,また,局所排気装置付近における測定値は当該作業場において最も高い値が出ると考えられたため,それが許容濃度以下であれば当該作業場における労働者の曝露濃度は全て許容濃度以下になるはずであると考えられたことから,当時の日本産業衛生学会が石綿について定めた許容濃度である 2㎎/㎥(33繊維/㎤相当)とした。 (甲A67の1の21頁,乙アA45の25頁・26頁,78の33頁・34頁,79の29頁・30頁,88の8頁・18頁,1027の58頁,1032の29頁・30頁,1033,乙アB15)(イ) 旧特化則等における法令上の定め前記(ア)の労働環境技術基準委員会の検討結果を踏まえ,中央労働基準審議会での審議,公聴会を経て,昭和46年4月28日に制定された旧特化則は,石綿を規制対象とし,使用者に対して局所排気装置の設置(同規則4条)及び石綿粉じん濃度の環境測定の実施(同規則29条)等を義務付けた。そして,局所排気装置の性能要件として「フードの外側における粉じん等の濃度」が物質の種類に応じて労働大臣が定める値(抑制濃度)を超えないものとする能力を有するものでなければならないと規定した(同規則6条2項)。そして,労働大臣は,昭和46年労働省告示第27号により,局所排気装置に係る石綿についての抑制濃度 値(抑制濃度)を超えないものとする能力を有するものでなければならないと規定した(同規則6条2項)。そして,労働大臣は,昭和46年労働省告示第27号により,局所排気装置に係る石綿についての抑制濃度を1㎥当たり2㎎(換算すると,1㎤当たり33繊維)を超えないものと定めた。当該抑制濃度は,日本産業衛生学会が当時示していた許容濃度の勧告値と同値であり,労働大臣告示によって法令上初めて石綿粉じんを抑制するための濃度の数値基準が示された。 その後,労働省は,昭和50年労働省告示第75号により,抑制濃度を前記2㎎/㎥から5本/㎤に改めた。 (甲A67の1の21頁,乙アB17,18,52)(ウ) 通達による抑制濃度の値の変更(規制の強化)a 労働省は,昭和48年基発第407号「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」において,昭和47年基発第430号「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質の作業環境気中濃度の規定について」 の別添に,石綿の測定方法としてメンブランフィルター法及びエックス線回析法を追加したことを指摘し,また,石綿が肺がん及び中皮腫等の悪性新生物を発生させることが明らかとなったこと等により,各国の規制においても気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあること等を理由として,抑制濃度を5μ以上の石綿繊維で5繊維/㎤(これに対応する重量濃度はおよそ0,03㎎/㎥)と規制を強化した(甲A67の1の21頁,乙アB51)。 b 労働省は,昭和51年基発第408号「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」(昭和51年通達)を発出し,最近,各国における広範囲な石綿関係労働者についての研究調査の結果,10年をこえて石綿粉じんに曝露した労働者から肺がん 「石綿粉じんによる健康障害予防対策の推進について」(昭和51年通達)を発出し,最近,各国における広範囲な石綿関係労働者についての研究調査の結果,10年をこえて石綿粉じんに曝露した労働者から肺がん又は中皮腫が多発することが明らかとされていること,及び,関係各国において環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつあること等から,当面,2繊維/㎤(クロシドライトについては,0.2繊維/㎤)以下の環気中粉じん濃度を目途とすることとした。なお,当該抑制濃度の値は,日本産業衛生学会が昭和49年に改訂した石綿に関する許容濃度の値と同じである。(乙アB32)エ管理濃度(ア) 管理濃度管理濃度は,医学博士である輿が,昭和51年に発行された「作業環境管理の方法-測定計画とサンプリング」において提唱した概念である。 許容濃度が,労働者個人の曝露限界という考え方に基づく生物学的な指標であるのに対し,管理濃度とは,有害物質を取り扱う作業場の空気環境の状態が良好かどうかを判断するための指標であり,環境管理における行動の基準であって,環境の状態が健康にとって許容できるかどうかを判定するためのものではない。すなわち,日常の作業環境管理業務 において所定の方法で得られた測定値が,作業環境の状態に関し,何らかの具体的な行動を開始すべきことを要求しているかどうかを判断するための水準を示すものであって,測定値が管理濃度を逸脱している場合には,その原因を調査し,それを取り除くための具体的な行動を開始することを要請するものである。そのため,管理濃度を超過した環境の状態があったとき,それが健康障害に直ちに結びつくことを意味するものではなく,管理濃度に従って管理されている作業環境の健康に対する安全性は管理濃度を決めるときの一要因として考慮されるべきもので 境の状態があったとき,それが健康障害に直ちに結びつくことを意味するものではなく,管理濃度に従って管理されている作業環境の健康に対する安全性は管理濃度を決めるときの一要因として考慮されるべきものであって,管理濃度が満足されている状態が,全ての人にとって完全な安全性を意味するものではない。 (乙アA78の33頁・35頁,79の30頁・31頁,88の12頁,137の30頁・31頁・45頁ないし47頁,1032の30頁・31頁)(イ) 「作業場における気中有害物質の規制のあり方についての検討結果第1次報告書」昭和52年4月30日から施行された作業環境測定法に基づき,作業環境測定士の作業環境の測定が開始されたことにより,その評価の基準が必要となった。そして,昭和52年の第63回ILO総会が採択した「空気汚染,騒音及び振動に起因する作業環境における職業性障害からの労働者の保護に関する条約(第148号)及び勧告(第156号)」第8条を受け,労働省は,昭和52年,「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」を設置し,同専門会議は,作業環境の測定結果から作業環境の状態を判断する方法及びその基準に関する検討を行い,昭和55年に「作業場における気中有害物質の規制のあり方についての検討結果第1次報告書」(乙アA138)がとりまとめられた。 同報告書においては,昭和51年の作業環境測定基準にいう測定(A測 定)に加えて,労働者の曝露が最大となると考えられる場所と時間における濃度の測定(B測定)を付加し,作業環境濃度測定の弱点と考えられる曝露濃度について情報を補足しつつ,それぞれの曝露レベルに応じた環境管理についての作業環境管理の区分と管理水準が提案された。そして,A,B両測定は労働者個人の曝露濃度を測定するものではなく えられる曝露濃度について情報を補足しつつ,それぞれの曝露レベルに応じた環境管理についての作業環境管理の区分と管理水準が提案された。そして,A,B両測定は労働者個人の曝露濃度を測定するものではなく,曝露限界をそのまま評価基準として使用することができないため,曝露限界とは別に行政的規制のための濃度を設定することとされ,これを管理濃度と呼ぶこととされた。 (甲A67の1の23頁,乙アA45の31頁及び32頁,78の36頁,88の10頁,1025の52頁,1027の59頁ないし62頁)(ウ) 「作業環境の評価に基づく作業環境管理要領」(昭和59年)その後,昭和56年6月30日から「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家委員会」が再開され,昭和58年7月19日まで11回にわたって前記「第1次報告書」で提言された管理濃度の意義,具体的な数値について検討が行われ,その結果を踏まえて,労働省は,昭和59年基発第69号「作業環境の評価に基づく作業環境管理の推進について」(乙アB54)を発出し,昭和52年に改正された安衛法65条に基づく作業環境測定結果についての評価方法及びこれに基づく自主的対策の進め方について,「作業環境の評価に基づく作業環境管理要領」を示し,その中で,管理濃度の考え方を導入し,石綿を含む42の物質についての管理濃度を示した。同要領が定めた石綿の管理濃度は,5μm以上の繊維につき2繊維/㎤であった。(甲A67の1の23頁,乙アA45の33頁,78の36頁,1025の53頁ないし55頁)(エ) 作業環境評価基準管理濃度設定に係る前記の経緯,昭和52年から昭和58年にかけて 行われた「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」の検討結果,及び同検討結果に基づき策定された「作業環境の評価に 度設定に係る前記の経緯,昭和52年から昭和58年にかけて 行われた「作業場の気中有害物質の濃度管理基準に関する専門家会議」の検討結果,及び同検討結果に基づき策定された「作業環境の評価に基づく作業環境管理要領」を踏まえ,昭和63年に安衛法が改正され,作業環境測定の結果の「評価を行うに当たっては,労働省令で定めるところにより,労働大臣の定める作業環境評価基準に従って行わなければならない」との条項が盛り込まれた。これに基づき,労働大臣は,昭和63年労働省告示第79号「作業環境評価基準」(乙アB57)を発出し,作業環境測定に基づく結果の評価基準として,石綿を含む72の物質の管理濃度を定めた。同評価基準においては,作業環境測定の結果を第1管理区分から第3管理区分のいずれかに区分して評価するための濃度基準として管理濃度が示され,クロシドライトを除く石綿についての管理濃度は5μm以上の繊維につき2本/㎤,クロシドライトについては,0.2本/㎤とされた。(甲A67の1の24頁,乙アA78の36頁)オばく露限界昭和57年,ILOは従来各国で使用されてきた最大許容濃度,閾値,許容濃度等の概念を包括してばく露限界(ExposureLimit)という呼び方に統一した(乙アA45の14頁,138の3頁,1033)。 (8) 粉じん濃度の測定技術についてア粉じん濃度測定機器は,①浮遊粉じんをろ過,慣性衝突等を利用して捕集し,その質量を天秤で秤量し,吸引空気量で除して算出された値である質量濃度を求める測定器である質量濃度測定器(インピンジャー,電気集じん機,ろ過捕集装置(サンプラー)等),②浮遊粉じんを凝結と衝突を利用するなどして捕集し,その粒子数と顕微鏡によって計測し,吸引空気量で除して算出された値である粒子数濃度を求める粒子数 ー,電気集じん機,ろ過捕集装置(サンプラー)等),②浮遊粉じんを凝結と衝突を利用するなどして捕集し,その粒子数と顕微鏡によって計測し,吸引空気量で除して算出された値である粒子数濃度を求める粒子数濃度測定器(労研式塵埃計等),③粉じんの絶対濃度と1対1の関係にある物理量である 相対濃度を求め,これに諸因子を考慮した変換係数を乗じて変換して算出される値として,質量濃度等を求める相対濃度測定器(デジタル粉じん計,チンダロメーター,光吸収方式の測定器としての労研式ろ紙塵埃計等)に大別される(乙アA45の41頁ないし43頁,78の7頁・8頁)。 (ア) インピンジャー法は,大正11年に海外で開発され,昭和13年に石川知福が我が国に紹介したものであるが,主としてガス状物質の捕集用として使用され,粒子数濃度を求めるにあたっては測定者や測り方による誤差が大きく,測定制度の確保が非常に困難であること等から,粉じん濃度の測定機器としては労働現場での実用に適したものではなく,我が国の一般の事業場に普及することはなかった。電気集じん器については,1930年代から存在していたが,1万ボルト以上の電圧を使用する必要があるため危険であり,一般の事業場において使用するのに適したものではなく,秤量が難しいという問題点もあった。昭和31年頃に高周波技術の発達によって携帯用の電気集じん機が考案され,実用化されたが,捕集に用いるセルロイド筒が湿度の影響を受け,重量が変化することや,セルロイド筒の重量が2gあるため非常に希薄な粉じん濃度の測定には適さないという欠点があった。 (甲A93の197頁ないし209頁,178,179の59頁ないし75頁,乙アA45の48頁ないし50頁・54頁ないし57頁,78の13頁ないし15頁,79の11頁ないし21頁,1032の あった。 (甲A93の197頁ないし209頁,178,179の59頁ないし75頁,乙アA45の48頁ないし50頁・54頁ないし57頁,78の13頁ないし15頁,79の11頁ないし21頁,1032の20頁ないし22頁・26頁)(イ) 労研式塵埃計は昭和10年に石川知福らにより開発されたものであり,保険院調査や昭和31年度研究,昭和32年度研究において石綿粉じん濃度を調査するために用いられたものであるが,戦前にあったものは戦争によってそのほとんどが失われ,戦後は昭和23年から生産販売が開始されたが,労研式塵埃計は個人差や測り方による誤差が 大きく,特に一般作業場における一般の技術者には扱いづらいものであり,また,粉じん濃度は時間によって不均一であるが,労研式塵埃計では瞬間値しか測定できなかったため,その数値をもとに実働時間や作業の条件等を考慮にいれて1日の平均濃度を算出した場合にはいくつかの仮定が入るので,得られた値にはかなり大きな誤差が含まれることが予測されるなど,測定対象場所の作業環境を把握するために必要な情報を得ることはできないものであった。労研式塵埃計の改良型である粉研式コニメーターは,日本窯業協会の粉塵研究委員会の指導によって作られたものであり,鉱山で主として用いられたが,検討すべき点を多く残していたとされる。(甲A93の179頁ないし186頁,178,179の3頁ないし23頁,乙アA45の45頁ないし48頁・53頁・54頁,78の9頁ないし12頁,79の11頁ないし21頁,1032の11頁ないし20頁・26頁)(ウ) チンダロメーターは,ドイツにおいて昭和11年に開発された測定器であるが,周囲が明るい一般の工場環境では測定が困難であるほか,比較的粒径の大きい粉じんしか特定できないという問題点があり,我 (ウ) チンダロメーターは,ドイツにおいて昭和11年に開発された測定器であるが,周囲が明るい一般の工場環境では測定が困難であるほか,比較的粒径の大きい粉じんしか特定できないという問題点があり,我が国では戦時中に数台から10台程度の輸入があったにすぎない。 労研式ろ紙塵埃計は,昭和29年に三浦豊彦が考案したものであり,ポンプでメーターの前に置いたクリップに挟んだろ紙に粉じんを採取市,粉じんがろ紙に捕集されるために光を透過しにくくなるのを利用して,付属のダストメーターで光の透過率を測定し,それから粉じん濃度を求めるもので,操作そのものは比較的単純であり,広く使用されたが,判断過程に困難を伴い,また,微量の粉じんの測定が極めて困難であること等から,一部の研究者等を除けば実用性に問題があり,研究者向けの測定器であった。 (甲A64の203頁,93の211頁ないし214頁,178,17 9の37頁ないし53頁,乙アA45の50頁ないし53頁・57頁ないし59頁,78の8頁・9頁・13頁,79の11頁ないし21頁)イ昭和37年に開発されたデジタル粉じん計は,感度が高い上に操作が簡単であるという長所を有し,昭和39年に生産が開始されたが,相対濃度測定器であるため,これのみを用いて直接質量濃度の測定はできないため,ろ過捕集法との併用が必要とされた。ろ過捕集法は,開発当初(昭和20年代半ば頃)はろ過材としてセルロースファイバーが用いられていたが,これは吸湿性が高く湿度が測定値に影響して大きな誤差を生じさせるものであったため,昭和41年にグラスファイバーのろ紙の国産品が市販されるようになってから,ろ過捕集法による測定が一般的に行われるようになった。 よって,有害物質の種類を特定しない粉じん一般については,昭和41年以降,デ 年にグラスファイバーのろ紙の国産品が市販されるようになってから,ろ過捕集法による測定が一般的に行われるようになった。 よって,有害物質の種類を特定しない粉じん一般については,昭和41年以降,デジタル粉じん計及びグラスファイバーのろ過材を使用したろ過捕集法を用いることで(併行測定),一般の作業場において粉じんの質量濃度を正確に測定することが可能になった。 しかし,デジタル粉じん計は,空気中に浮遊している粒子に光を照射し,粒子による散乱光の強さを機械的に測定することにより,空気中の粉じんの濃度を測定するものであり,粉じんの種類を特定しない総粉じん濃度を測定することはできても,粉じんの種類を特定することはできず,石綿という物質に着目した粉じん濃度の測定もできなかった。また,空気中に浮遊している粒子を計測するため粉じん以外の浮遊物(水滴等)も含めて計数してしまうなどの問題点もあった。さらに,石綿のような繊維状物質は,様々な長さの繊維が,様々な方向を向いていたり,絡まっていたりして空気中に存在するところ,デジタル粉じん計は,粒子に反射する散乱光の強さを測定しており,粒子の系が異なると測定値も異なってきてしまうため,石綿のような繊維状物質の測定には適していなかった。また,グラスファ イバーをろ過材として用いたろ過捕集法では,粒径が非常に小さい場合には質量濃度の測定が正確に行えなかった。 その後,石綿に着目した粉じん濃度を測定するための方法として,石綿の繊維数濃度を測る方法であるメンブランフィルター法と,物質を定性分析し石綿の質量濃度を測る方法であるエックス線回析法が考案された。 メンブランフィルター法は,セルロースエステルを原料とした薄い多孔性の膜で,微細な穴が立体的に複雑に重なり合ってフィルターを構成しているため,粒径の非 測る方法であるエックス線回析法が考案された。 メンブランフィルター法は,セルロースエステルを原料とした薄い多孔性の膜で,微細な穴が立体的に複雑に重なり合ってフィルターを構成しているため,粒径の非常に小さな粒子も捕捉でき,また,メンブランフィルターは屈折率が1.5前後の不揮発性の液に浸すと透明になるため,計数の際にこのような処理を施せば,粒子の計数が容易になるという特徴も有している。昭和43年にイギリスの英国労働衛生学会衛生基準委員会が,石綿粉じん濃度の測定法としてメンブランフィルター法を提唱し,その後この方法が国際的な標準法として認められるようになった。我が国においても,昭和48年に労働省が発出した「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(昭和48年基発第407号)において,エックス線回析法とともに石綿粉じんの測定方法として採用され,昭和49年の日本産業衛生学会による許容濃度の勧告の際にも,空気中の石綿粉じん濃度の測定方法としてメンブランフィルター法(なお,メンブランフィルターを屈折率1.5前後の不揮発性の油に浸すとクリソタイルの屈折率が1.55であるため,普通の顕微鏡ではっきり見えないことから,位相差顕微鏡を使用することとした。)が示された。そして,エックス線回析法は,エックス線回析装置が高価であることや,捕集する粉じん量によっては正確な濃度が測定できなかったこともあり,空気中の石綿粉じん濃度の測定方法としては,以後,一般的には,メンブランフィルター法が広く用いられるようになった。 (甲A1026,乙アA45の59ないし64頁・73頁ないし86頁, 77の6頁・7頁,78の17頁ないし19頁,79の18頁ないし23頁,1014の8頁・10頁ないし15頁, った。 (甲A1026,乙アA45の59ないし64頁・73頁ないし86頁, 77の6頁・7頁,78の17頁ないし19頁,79の18頁ないし23頁,1014の8頁・10頁ないし15頁,1032の18頁ないし23頁)ウ個人曝露濃度測定について(ア) 前記ア及びイの方法による測定結果は,作業者個人の曝露濃度を示すものではない。作業者が作業時間中に曝露される粉じんの平均濃度は個人サンプラー(作業者の呼吸位置近くに有害物の捕集器具を取り付け,勤務時間中の連続サンプリングにより曝露濃度の平均(時間加重平均)を求めるもの。)による測定により得られ,その測定値は,実際の粉じん作業場において曝露粉じん濃度と人体への影響などを検討していくのに有効な値と考えられている。 我が国においては,昭和40年,木村菊二が労研式粉じん用個人サンプラーを発表した。これは,乾電池で作動する小型の電動式吸引ポンプと,直径55㎜のガラス繊維フィルターを組み合わせたもので,作業者の呼吸面で,1日の作業時間中連続して,その曝露濃度を測定できるように製作された測定器であり,総重量は1㎏であった(昭和50年頃には,改良により700gとなった)。ガラス繊維フィルターは採じん前後に秤量され,その差から粉じんの重量を求め,採取量との関係から粉じん濃度(㎎/㎥)を算出する。当該サンプラーは,その後,総粉じん量から吸入性粉じん量を分離して採取することができるT・Rサンプラーに発展し,昭和55年に「労研TR個人サンプラーPS-4型(粉じん用)」が販売され,その後,この機種に改良が加えられていった。 (甲A64の204頁・205頁,99,100,184,乙アA77)(イ) しかし,前記個人サンプラーは,粉じんの総質量を測定できたが,エックス線回析法を用いなければ粉 良が加えられていった。 (甲A64の204頁・205頁,99,100,184,乙アA77)(イ) しかし,前記個人サンプラーは,粉じんの総質量を測定できたが,エックス線回析法を用いなければ粉じんの種類を特定することができな かったため,石綿のみの質量を測定することはできなかった。 石綿用の個人サンプラーは,「APS-1型」と呼ばれるものが唯一のものであり,昭和59年に販売が開始された。なお,これ以前にも,既存のフィルターホルダーとサンプリングポンプを組み合わせてサンプラーを作成し,労働者の個人曝露濃度を測定することがあったが,これらを使って測定をするには,これらの機器の特性等をよく理解する必要があったため,測定の専門家による場合は別として,一般の事業場において容易に扱えるものではなかった。 (乙アA77)エ 「環境中に浮遊するアスベスト粉塵の測定法に関する委託研究報告書」(昭和50年)環境庁は,昭和50年に,環境大気中に浮遊するアスベスト粉じんの現状を把握し,その有害性が確認されれば適切な対策を講じる必要があると考えたものの,産業現場における測定方法をそのまま適用できないことから,環境大気中における石綿粉じんの測定法に検討を加え,信頼できる資料が得られる測定法を確立し,これによって環境大気中のおおよそのレベルを求めることを目的とした研究(調査)を,財団法人労働科学研究所労働衛生学研究部木村菊二に対して委託した。これを受けた木村菊二は,昭和51年3月に「環境中に浮遊するアスベスト粉塵の測定法に関する委託研究報告書昭和50年度環境庁委託研究」を報告し,その中で,メンブランフィルター法及びエックス線回析による石綿粉じんの測定法の検討を行った。 同報告書のまとめとして,現在石綿粉じんの測定法としては,メンブラ 昭和50年度環境庁委託研究」を報告し,その中で,メンブランフィルター法及びエックス線回析による石綿粉じんの測定法の検討を行った。 同報告書のまとめとして,現在石綿粉じんの測定法としては,メンブランフィルター法,エックス線回析法等があり,このうち環境大気中に浮遊する石綿粉じんの測定にはメンブランフィルター法が利用できるものの,石綿粉じんを顕微鏡によって計数して信頼性の高い数値が得られるまでに は相当の熟練が必要であり,計数にはかなりの時間と労力を要するといった短所があるとされた。また,環境大気中の石綿粉じん濃度を測定した結果,0.1から10繊維/ℓ程度となり,これは産業現場の許容濃度の値の1000分の1程度であるが,濃度は発生源の状況あるいは気象条件などによってかなりの差が認められ,この程度の石綿粉じんの人体に対する有害性の評価は,環境大気中のレベルを適格に把握すると同時に実験的,疫学的な調査研究による総合的な検討によらなければならないものと考えられるとされた。 (甲A181)オ昭和57年,林久人は,「-総説-作業環境中のアスベストの計測について」において,メンブランフィルター法には石綿と石綿ではない繊維を識別できないことや,各国で採用しているメンブランフィルター法では計数基準により5μ以下の短繊維を計数しておらず,光学顕微鏡の解像力からも0.4μ以下の小さな繊維は検出できないが,実際にはそのような小さな繊維が多く存在していること,電子顕微鏡により観察する場合にもいくつか問題点があること等を指摘した。また,石綿の病原性は繊維の粒径,とくに長径と関連が深いと考えられており,繊維の長さの平均が5μ以下の石綿は肺線維症発生能や発がん性が弱く,長い繊維は肺線維症発生能や発がん性が強いとされているが,最近の研究では直径0 繊維の粒径,とくに長径と関連が深いと考えられており,繊維の長さの平均が5μ以下の石綿は肺線維症発生能や発がん性が弱く,長い繊維は肺線維症発生能や発がん性が強いとされているが,最近の研究では直径0.2μ以下の繊維が最も発がん性があること等の指摘がなされているとした。その上で,石綿による健康障害が石綿繊維のどのようなパラメーター(全繊維数濃度,繊維重量濃度,繊維の長さ,繊維の直径など)と関係しているかはまだ充分にわかっておらず,現在の段階では石綿肺予防のためには,メンブランフィルター法による計測が作業環境中の石綿の計測に最も便利で実用的であり,かつ石綿の曝露の指標になると評価した。(甲A1013)(9) 建築作業時に発生する石綿粉じん濃度の測定結果等 ア 「石綿関係資料」(昭和51年3月)昭和51年通達に添付された,労働省労働衛生課が同年3月に作成した「石綿関係資料」において,「我が国における石綿取扱い作業の実態」の中に,建築工事における石綿吹付け作業中の石綿粉じん濃度の測定結果が記載されていた。これによれば,昭和46年に68の事業所(測定箇所83)おいて,石綿含有量50%の吹付け材について,ローボリウムサンプラーによる並行測定(分粒装置なし)をした結果,乾式吹付け作業では37.66から41.76㎎/㎥(15か所平均),湿式吹付け作業では12.11から17.28㎎/㎥(15か所平均)であった。(甲A390)イ 「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和53年9月)石綿による健康障害に関する専門家会議が,労働省労働基準局長からの委嘱を受けて検討した結果である「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和53年9月)においては,前記第2,1(2)イ(ク)記載のとおり,石綿曝露に 議が,労働省労働基準局長からの委嘱を受けて検討した結果である「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」(昭和53年9月)においては,前記第2,1(2)イ(ク)記載のとおり,石綿曝露に関し,我が国においては石綿の消費量が約4分の3に及ぶ建設業が石綿への曝露労働者が最も多く,石綿セメントの混練,断熱材料の吹付け等の作業においては石綿繊維を空気中に発散させやすく,これらの作業に従事する労働者の曝露濃度が労働衛生上問題となるとされ,アメリカにおける断熱材取扱作業における気中石綿濃度の測定結果(昭和51年),建築作業における推定粉じん濃度に関するイギリス労働省のデータ(昭和50年),及び我が国における石綿を取扱っている作業場の石綿粉じん濃度(木村菊二,昭和51年)と建築工事における石綿吹付け作業時の石綿粉じん濃度(労働省,昭和47年。前記アと同内容)が,前記第2,1(2)イ(ク)bのとおり示された。そして,これらの各データ等を検討した結果として,留意すべき点はあるものの,ごく最近に おいても国内外の各方面の産業分野で相当の石綿曝露がみられていることを示すものといってよいであろう,と結論付けられた。(甲A5,乙アA40)なお,前記我が国における石綿を取り扱っている作業場の石綿粉じん濃度(木村菊二,昭和51年)の測定結果については,昭和51年に岡山で開催された第49回日本産業衛生学会,第20回日本産業医協議会において,木村菊二により「アスベスト粉塵の測定法についての検討」として発表されたものである(甲A1132)。 ウ 「石綿取扱い事業場等実態調査研究」報告書(昭和60年3月)高田勗(北里大学教授)や木村菊二らは,特化則適用外事業場(自動車整備業,設備工事業,船の解撤業)についても,メンブランフィルター及び個人 石綿取扱い事業場等実態調査研究」報告書(昭和60年3月)高田勗(北里大学教授)や木村菊二らは,特化則適用外事業場(自動車整備業,設備工事業,船の解撤業)についても,メンブランフィルター及び個人サンプラーを使用して作業環境測定,個人曝露濃度測定を行い,その結果を昭和60年3月,「石綿取扱い事業場等実態調査研究」報告書(甲A1097)として報告した。 同報告書においては,作業者4名による地上38階建て高層ビル建築現場の地上34階部分の密閉された室内における(窓にはガラスが取り付けられており,作業場の換気は極めて悪い。)けい酸カルシウム板(石綿(クリソタイル及びアモサイト)含有率10から20%)を使用した間仕切り工事(けい酸カルシウム板を取扱う時間は,1日に1から2時間程度である。)の際の粉じん濃度を測定した結果,環気中の石綿濃度は8.94本/㎤,個人曝露濃度結果は,午前が3.34から9.91本/㎤(平均7.6本/㎤),午後が13.33から27.30本/㎤(平均18. 98本/㎤)であった旨記載された。高田勗らは,まとめとして,設備工事業では,測定したすべての作業者が許容濃度をはるかに超えており,外気の状態が全く反映しない屋内作業場内の同様の設備工事について,十分な換気と防じんマスクの徹底等の早急な対策強化が必要であると考えられ るが,測定例を増やして継続した調査をすることが必要であると述べた。 エ木村菊二は,昭和62年に発行された「労働の科学」42巻12号に掲載された「アスベストと環境問題」(甲A455,1034)と題する論文において,前記イの我が国における石綿を取扱っている作業場の石綿粉じん濃度(木村菊二,昭和51年)の測定結果を再度引用する等した上で,この他,石綿の吹付け作業,あるいは建材に石綿を使用した建物の解体 において,前記イの我が国における石綿を取扱っている作業場の石綿粉じん濃度(木村菊二,昭和51年)の測定結果を再度引用する等した上で,この他,石綿の吹付け作業,あるいは建材に石綿を使用した建物の解体作業,または天井や壁面に塗布した石綿の撤去作業などでは著しく高濃度の発じんがある,とした。 オ平成62年東ら測定結果慶応義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の東らは,昭和62年10月18日に,一般個人用住宅建設時における株式会社L製防火サイディングの加工(切断,釘による固定)に伴う塵状況を,各種条件下で測定し,当該作業の労働衛生並びに環境衛生上の危険性を評価し,また,切断用工具及び発じん防止用マットの使用による発じん低減効果を検討し,より安全な方法の決定に資する基礎データとすることを目的として,一般家屋壁材施工時の発じん状況の調査を実施した(「一般家屋壁材施工時の発塵状況調査結果」,乙アA206)。 昭和62年東ら測定結果においては,測定する場所を屋外の2か所に設定しており,そのうち1か所において測定した結果は,①防火サイディングを幅30㎝の横方向に,10回(2から3分間)切断する作業を,(a)吸引型集じん機付き電動のこぎり及び発じん防止用マット(人工芝)を使用した場合,個人曝露濃度は0.08繊維/㏄,発じん点近傍においては0.04繊維/㏄,(b)集じん袋(袋式集じん器)付き電動のこぎり及び発じん防止用マットを用いた場合は,個人曝露の値はサンプル不良のため使用できず,発じん点近傍で0.04から0.08繊維/㏄,(c)集塵ボックス付き電動のこぎりを用いて発じん防止用マットを使用しない場合は, 個人曝露濃度2.05繊維/㏄,発じん点近傍で0.14から0.50繊維/㏄であり,②釘打ち時(3分30秒間で42回の釘打ち。外壁に防火 ぎりを用いて発じん防止用マットを使用しない場合は, 個人曝露濃度2.05繊維/㏄,発じん点近傍で0.14から0.50繊維/㏄であり,②釘打ち時(3分30秒間で42回の釘打ち。外壁に防火サイディングを固定する作業。)の測定は,いずれも検出限界(0.05繊維/㏄)以下であった。一方,もう1か所での測定結果は,前記①(a)の条件下における個人曝露濃度は0.17繊維/㏄,発じん点近傍では0. 04繊維/㏄,前記①(b)の条件下では,個人曝露濃度0.27繊維/㏄,発じん点近傍で0.21から0.76繊維/㏄,前記①(c)の条件下では個人曝露濃度0.27繊維/㏄,発じん点近傍では0.22から0.72繊維/㏄であり,②釘打ち時(25回の釘打ち。外壁に防火サイディングを固定する作業。)の測定は,個人曝露濃度0.05繊維/㏄,発じん点近傍で0.02繊維/㏄であった。 測定結果に関する考察として,「今回の測定結果から,壁材を釘打ちにて固定する作業により作業者が受ける曝露,及び周囲への発じんは極めて少ないと判断できる。切断作業においては,曝露濃度の相対的高さは,2つの現場とも同様な傾向を示すが,その濃度レベル,各条件下の測定値の比は,現場によって大きく異なっている。」,「風向,風速,作業者の姿勢などが,このような短時間の作業地には大きく影響するためと考えられる。」,「長い切断ではその間の振動などで切断面及び壁材上面の切断によって生じて付着(堆積)した粉塵を巻き上げやすいこと等が関連しているものと推測される。」とされ,今回の測定結果等からすれば,吸引型集じん機に発じん防止用マットを用いた場合には,石綿曝露濃度は極めて低い濃度に抑制することが可能であると判断でき,また,防じんマットについては,条件によって異なるが,石綿濃度から少なくとも発じん量を じん機に発じん防止用マットを用いた場合には,石綿曝露濃度は極めて低い濃度に抑制することが可能であると判断でき,また,防じんマットについては,条件によって異なるが,石綿濃度から少なくとも発じん量を低下させる(10%から70%程度)一定の効果を持つものと思われるが,袋型集じん器付き電動のこぎりについては,作業者の石綿曝露という点からは,効果に疑問があると考えられる,とされた。 なお,昭和62年東ら測定結果については,屋外の現場調査であることから各データの再現性に問題があると思われるため,サンプリングの時間,風向き,測定点の位置等標準化できる屋内での実験的調査の実施が望まれる,と付記されていた。 カ昭和63年久永ら測定結果久永らは,昭和63年に,「労働衛生」Vol.29 No.8において,「アスベストに挑む三管理環境管理と作業管理-建築業の現場を中心に-」と題する論文を発表した。その中で,石綿含有建材を取り扱う建築現場において,建築作業従事者の鼻先(建材使用後の無人の室内における測定値を除く)の気中石綿粉じん濃度を測定(集じん機なし。位相差顕微鏡を使用して測定。)した結果として,以下の内容を記載した(甲A430の28頁ないし30頁)。 作業測定数測定時間(分)気中石綿濃度(本/㎖)中央値(本/㎖)建材丸鋸切断 同上周辺(1.5~2m) 2.5~5 2.5~5125.1~787.0 103.0~630.0147.0 232.4ビス,釘打ちドリル穿孔などによる建材貼付けを主とした作業(丸鋸切断含む) 同上周辺(1~10m) 10~120 10~1191.3~131. ビス,釘打ちドリル穿孔などによる建材貼付けを主とした作業(丸鋸切断含む) 同上周辺(1~10m) 10~120 10~119 1.3~131.0 0.9~48. 12.3 3.0ビス,釘打ちドリル穿孔による建材貼付けを主とした作業(丸鋸切断含まず) 同上周辺(1~4m) 15~17 1 0.1~4.6 1.6建材使用後の室内での作業(清掃,建具加工など) 建材使用後の粉じんが床面に少量散乱した廊下での石綿を取り扱わない配管工事 建材使用後の無人の室内の中央 15~93 0.1~0.5 0.05 0.01 0.3 ― ―ナイフ切断とヤスリ掛け 12.1―一部で建材使用工事中の現場巡回(建材使用箇所より5~30m) 68~93 0.04~0. ―屋根葺き用石綿スレートによる屋根葺き 同上周辺(1~2m) 0.13 0.05― ―特に高い濃度が検出されたのは,建材(天井に張られた石綿セメント板)の電動丸鋸による切断作業時であり,短時間(2.5分ないし5分)ではあるが,100本/㎖を超える石綿粉じんの飛散が見られた。また,ビス,釘打ち,ドリル穿孔などによる建材の張付けを主とした作業でも,間に丸鋸切断を含む場合には,その影響を受けて 分)ではあるが,100本/㎖を超える石綿粉じんの飛散が見られた。また,ビス,釘打ち,ドリル穿孔などによる建材の張付けを主とした作業でも, 間に丸鋸切断を含む場合には,その影響を受けて高い濃度が検出されることがあり,この場合の最高の濃度は131.0本/㎖であるが,これは廊下に防火扉を取り付ける作業中の24分間の測定値で,この間に4回石綿含有厚板(厚さ2.5㎝)の丸鋸切断が行われ,換気不良の幅2mの狭い廊下での作業であったため,10m離れたところでも61分の測定で34. 6本/㎖と高濃度であった。他方で,丸鋸切断を含まないビス,釘打ち,ドリル穿孔などによる建材張付けの作業では,0.3~14.1本/㎖,その周辺の作業者では0.1~4.6本/㎖の濃度で,電動スクリュードライバーはビスをねじ込むたびにモーター回転により空気を噴射し,これが粉じんを飛散させていた。また,石綿含有建材の取扱い後にはしばしば建材片や切り屑,粉じんが床に散乱したままで放置されており,石綿含有建材の取扱い後に同じ場所で別の作業をするものについての曝露濃度測定結果は,0.05~0.5本/㎖であり,二次発じんへの注意の必要性が明らかであった。ナイフ切断とヤスリ掛けの作業では,切断する板に定規用に別の板を勢いよく重ねたときと,ヤスリ掛けのときの発じんのために比較的高濃度となった。屋根葺き石綿スレート板による屋根葺き作業は,遮るもののない2階建て民家の屋根上での作業であり,作業者鼻先で0. 13本/㎖であった。 キ平成9年作業マニュアル建設業労働災害防止協会は,平成4年1月に,石綿粉じんの発散防止の措置等について解説するため,「石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル」を発行した。同マニュアルの平成9年改訂版である平成9年作業マニュアルには,以下の測定結 年1月に,石綿粉じんの発散防止の措置等について解説するため,「石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル」を発行した。同マニュアルの平成9年改訂版である平成9年作業マニュアルには,以下の測定結果が記載されていた。(甲A248の30頁・31頁)(ア) 屋内における石綿粉じんの個人曝露測定データ昭和59年にA社が実施した屋内における石綿粉じんの個人曝露(吸 入性石綿繊維)測定(吸引流量は1ℓ/分で試料を採取,400倍の位相差顕微鏡にて計数。)データは以下のとおりである。 作業者番号作業概要採取時間個人曝露濃度(本/㎤)A-1石膏ボード,石綿けい酸カルシウム板貼り 85分3.09A-2石綿けい酸カルシウム板貼り35分5.96A-3石綿けい酸カルシウム板貼り30分6.09B-1石膏ボード貼り93分1.19B-2石綿けい酸カルシウム板貼り45分3.55ここでの作業は,5名の作業者(A-1ないしB-2)による密閉された屋内での耐火間仕切り工事で,石膏ボードを所定の寸法に裁断した後,壁に貼り,次いで石綿けい酸カルシウム板を電動丸鋸(除じん装置なし)で所定の寸法に裁断し,それを既に取り付けられた石膏ボードの上に貼る作業であり,作業者B-1を除き,全て石綿けい酸カルシウム板の裁断時間は試料採取時間の10%程度であった。なお,作業者B-1は,石膏ボード貼りの作業に伴い,床上に堆積した石綿が再飛散して上表の結果になったものと推測されている。 (イ) 屋内実験における石綿粉じんの測定データ昭和63年にB社が,作業者Aに屋内において実験的にフレキシブルボード5㎜品を電動丸鋸を用いて25分間切断(除じん装置なし)させ,当該切断作業と並行して作業者Bに 験における石綿粉じんの測定データ昭和63年にB社が,作業者Aに屋内において実験的にフレキシブルボード5㎜品を電動丸鋸を用いて25分間切断(除じん装置なし)させ,当該切断作業と並行して作業者Bに小運搬を40分間行わせ,作業者Cに施工作業を行わせて,それぞれの石綿粉じんの個人曝露濃度を測定(吸引流量1ℓ/分でフレキシブルボード切断開始後10分が経過してから試料を採取し,400倍の位相差顕微鏡にて吸入性石綿繊維を計数)した結果は,以下のとおりである。 作業者番号作業概要採取時間個人曝露濃度(本/㎤) A切断作業15分4.46B切断作業室内の小運搬作業30分4.09C切断作業室内の施工作業30分3.75(ウ) 屋外における石綿粉じんの個人曝露測定データ昭和62年から昭和63年に日本石綿協会が,除じん装置を使用していない屋外の施工現場において石綿粉じんの個人曝露濃度を測定(吸引流量1ℓ/分で試料を採取,400倍の位相差顕微鏡にて吸入性石綿繊維を計数)した結果は,以下のとおりである。 工事名使用石綿含有建材作業者番号作業概要採取時間個人曝露濃度(本/㎤)工場屋根葺替大波スレートA電動丸鋸による切断32分0.02A葺上げ180分0.01Bバンドソーによる切断32分0.04B葺上げ180分0.01工場屋根・外壁大波スレート(屋根)小波スレート(外壁)けいカル板(屋根下地)C電動丸鋸による切断91分0.25C葺上げ78分0.11C電動丸鋸による切断56分0.04Dバンドソーによる切断84分0.21 根下地)C電動丸鋸による切断91分0.25C葺上げ78分0.11C電動丸鋸による切断56分0.04Dバンドソーによる切断84分0.21D小運搬・葺上げ50分0.18Dバンドソーによる切断60分0.02ビル外装フレキシブルボードE電動丸鋸による切断(午前)53分0.20E電動丸鋸による切断82分0.31 (午後)F張付け(午前)53分0.09F張付け(午後)97分0.08ク海老原「建設作業者の石綿関連疾患-その爆発的なひろがり-」(昭和63年海老原測定結果)海老原は,昭和63年,建築現場において作業環境濃度と作業者の個人曝露濃度を測定し,その結果を,平成19年6月発行の「建設作業者の石綿関連疾患-その爆発的なひろがり-」に掲載した。前記昭和63年海老原測定結果の報告内容は,以下のとおりである。(甲A108の4頁ないし11頁)(ア) 現場調査の内容,方法等昭和62年10月及び11月に,東京都内のA,B2箇所の木造住宅建築現場を対象に,それぞれ,石綿(クリソタイル)を含有する住宅建築用外壁材の切断,運搬,木材の骨組み等への釘による打ち付けを行う作業者各1名に個人サンプラーを装着して,129分から203分を測定時間として,実施した。また,併せて,個人サンプラーによって,作業の中でも顕著な発じん作業である切断作業を中心とした15分程度の短時間の曝露濃度の測定も行った。さらに,風向等の諸条件によって発じん源近くの高濃度の粉じんに曝露することも考えられることから,発じん源近くの濃度を知る目的で電動丸鋸の手元や釘打ち作業の手元などの近くでの石綿粉じん濃度を測定 た。さらに,風向等の諸条件によって発じん源近くの高濃度の粉じんに曝露することも考えられることから,発じん源近くの濃度を知る目的で電動丸鋸の手元や釘打ち作業の手元などの近くでの石綿粉じん濃度を測定した。石綿粉じん濃度の測定は,メンブランフィルターを用いて吸引流量1ℓ/㎜で石綿粉じんをろ過吸引し,フィルター上に捕集された5μ以上で長さと幅の比が3:1以上の繊維状粒子を干渉位相差顕微鏡で計数する方法で行われた。 使用工具は,両現場とも,集じん装置のついた防じん丸鋸といわれる電動丸鋸を最も多く使用し,一部,手動の鋸を使用しており,外壁材を 切断する際には,作業者は,正確に切断するために電動丸鋸などの手元に顔を接近させていた。現場Bでは,防じん丸鋸とともに,集じん装置が電動丸鋸本体には付いておらず,本体にホースなどを付けて集じんを行う方式のものも使用していたが,作業者が集じんを行う方法を知らず,電動丸鋸本体のみで使用していた。また,両現場とも,切断,運搬,釘打ち時,また,電動丸鋸の集じん箱にたまった切り粉を捨てる際に,肉眼でも確認できる発じんが起こっていた。 (イ) 調査結果等作業者の石綿粉じん平均曝露濃度は,0.94~1.58本/㎤(平均1.19本/㎖,標準偏差0.27)であった。単位時間あたりの切断量と石綿粉じん平均曝露濃度との間には,現場Aでは相関関係は認められなかったが,その理由は,発じん源と風向,風速並びに作業者との位置関係などと関係しているものと推定された。一方,現場Bでは平均曝露濃度と切断量が正の相関関係になっており,これは現場Bではほとんど風がなかったためであると考えられた。 併せて,切断作業を中心とした15分間程度の短時間の曝露濃度の測定結果は,2.3~6.7本/㎤であり,作業者は切断作業などでは比較 ,これは現場Bではほとんど風がなかったためであると考えられた。 併せて,切断作業を中心とした15分間程度の短時間の曝露濃度の測定結果は,2.3~6.7本/㎤であり,作業者は切断作業などでは比較的短時間に平均曝露濃度の2倍から7倍の曝露を受けていることがわかった。 また,発じん源(電動丸鋸の手元や釘打ち作業の手元など)の近くで,最も高い濃度であると思われる位置で石綿粉じん濃度(環境濃度)を測定したところ,その結果は,11.2本/㎖,18.5本/㎖であった。 この粉じんに曝露するか否かは発じん源と風や作業姿勢との関係などの影響が大きいが,潜在的な最大曝露を考慮するために必要な測定と考えられた。 発じん及び作業者の粉じん曝露は,外壁材の切断作業,釘打ち作業, 防じん丸鋸の集じん箱にたまった切り粉を捨てる作業などにおいて著しいピークを示した。また,発じんの程度は切断量の増加と関連して増加する様子がうかがえた。 ケ平成元年久永ら測定結果久永らにより建設業における石綿粉じん曝露実態把握とその健康影響の解明を目的として行われた調査に関する「建築業における石綿粉塵曝露とその健康影響に関する研究」と題する平成元年度研究実績報告書(甲A429)によれば,建築現場19箇所で85名の作業者の鼻先の気中石綿粉じん濃度を光顕法(×400)により測定した結果,屋内での建材の電動丸鋸切断が主の作業では6.3から787f/㎖,その4m以内の作業では3.6から630f/㎖,建築のビス打ち付けが主の作業では0.6から28.8f/㎖,その4m以内の作業では,0.1から19.2f/㎖,屋外での作業では0.01から1.2f/㎖の石綿粉じんが検出され,前記のうち9箇所,27名の作業者の鼻先の気中石綿粉じん濃度を分析電顕法(×10000)で測定した結果, ,0.1から19.2f/㎖,屋外での作業では0.01から1.2f/㎖の石綿粉じんが検出され,前記のうち9箇所,27名の作業者の鼻先の気中石綿粉じん濃度を分析電顕法(×10000)で測定した結果,電顕で観察された繊維状物質中に石綿の占める比率は,平均45%で,残りは石膏,ロックウール等であり,石綿粉じん濃度は屋内作業者21名では0.38から260f/㎖,幾何平均14.6f/㎖,屋外作業者6名では0.06から2.25f/㎖,幾何平均0.39f/㎖であったとされた。石綿の種類は,クリソタイルとアモサイトで,アモサイトの割合は平均53%,電顕法による石綿粉じん濃度は,光顕法より平均9.0倍高値であり,光顕法と電顕法との間の測定濃度の相関係数は0.87(p<0.01)であった。 胸部エックス線撮影を4796名につき実施した結果,うち34名(0. 71%)に石綿曝露起因と思われる胸膜肥厚陰影があり,胸膜肥厚有所見率は高年齢で高く,60歳から69歳では4.4%を占めた。 コ平成4年通達 平成4年通達(乙アB44)においては,石綿含有建材の施工に当たっての電動工具を用いた切断等の作業において石綿粉じんを発散し,これらの作業に従事する労働者の健康障害を引き起こすおそれがあること,また,同通達の別紙である「石綿含有建築材料の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領」には,通風の不十分な屋内作業場において電動丸鋸を使用して切断作業を行う場合には,石綿の管理濃度(当時の2本/㎤)をを超える状況もあること等が指摘され,屋内実験における電動丸鋸(除じん装置なし)を使用した場合に,①切断作業の作業者においては4.46本/㎤(採取時間15分),②切断作業室内の小運搬作業の作業者においては4.09本/㎤(採取時間30分),③切断作業室内の施工作 じん装置なし)を使用した場合に,①切断作業の作業者においては4.46本/㎤(採取時間15分),②切断作業室内の小運搬作業の作業者においては4.09本/㎤(採取時間30分),③切断作業室内の施工作業の作業者においては3.35本/㎤(採取時間30分)の個人曝露濃度の測定結果が得られた旨記載されていた。 サ 「石綿ばく露歴把握のための手引」(平成18年手引)厚生労働省が設置した「石綿に関する健康管理等専門家会議」マニュアル作成部会は,相談の場で働く保健師等やエックス線検査等を行う健診機関の職員等を対象に,平成18年手引(「石綿ばく露歴把握のための手引」。甲A35)を平成18年10月に発行した。 (ア) 平成18年手引には,建築現場における石綿粉じんの浮遊量等について,吹きつけ石綿除去工事後の再飛散に関する実験結果として,高さ2m強にあった2.5㎡の吹付け石綿を除去した翌日に床を箒で15分掃除した際,掃除直後の室内における石綿濃度は,20本/㎖という高濃度であったことが紹介された。また,石綿は,空中に留まって浮遊する時間が長いため,床掃除作業4時間後の高さ1.5m地点での石綿濃度は7本/㎖であり,8時間後でも3本/㎖,12時間後には1本/㎖を示し,飛散開始14時間後に床に落下していったこと,床に落下後であっても,実験室内を歩くと,床に落ちていた石綿が再飛散し,3本/ ㎖という石綿濃度を示したことが記載された。(甲A35の5頁)(イ) さらに,平成18年手引では,建築現場等での石綿濃度と曝露量の判断について,以下の内容の記載がされた。 a 空間の換気量等船舶内や建物内等で空間が狭く換気量の少ない場合は石綿濃度が高くなり,外気中等空間が広く,窓や局所排気装置が設置され換気量の高い空間では石綿濃度は低くなる。換気量の高 れた。 a 空間の換気量等船舶内や建物内等で空間が狭く換気量の少ない場合は石綿濃度が高くなり,外気中等空間が広く,窓や局所排気装置が設置され換気量の高い空間では石綿濃度は低くなる。換気量の高い空間で十分な対策がないと,大気に石綿が飛散することにもなる。(甲A35の90頁)b 建築現場等での石綿濃度船舶内の石綿繊維濃度は,密閉閉所における掃除やこすり作業,石綿吹付け関係等で高濃度となるが,多くは数十本/ℓから数百本/ℓで,建築現場では,石綿吹付けや電動工具による石綿製品切断時に高濃度となるが,多くは数本/ℓ~数百本/ℓで,これらの作業は中濃度曝露作業に相当する(平成9年のヘルシンキ・クライテリアにおいては,大きな産業分類で高濃度曝露(1年間さらされると肺がん発症リスクが倍以上になる曝露)として石綿製品製造,吹付け作業,断熱業,解体業が例示され,中濃度曝露(5から10年さらされると肺がん発症リスクが倍以上になる曝露)として建設業,造船業が例示された。)。具体的には,以下のとおりである。(甲A35の90頁ないし93頁)我が国の大気(平成16年)0.0001~0.0003本/㎖天井を箒で掃く 2.1本/㎖Pタイル除去(バールで粉砕) 0.06~0.30本/㎖スレートのばらし解体 0.08~0.19本/㎖フレキシブル板除去(バールで粉砕) 1~7本/㎖ フレキシブル板にドリルで穴空け 0.2~2本/㎖吹付け石綿除去中 80~124本/㎖建材の電気丸鋸による切断 2~20本/㎖(10) 建築作業従事者の石綿粉じん曝露による健康障害等ア瀬良は,昭和46年,「労働と科学」26巻9号に掲載された「石綿作業と肺疾患」において,昭和31年から実施された労働省労働衛生試験研究において大阪地方の石綿検 の石綿粉じん曝露による健康障害等ア瀬良は,昭和46年,「労働と科学」26巻9号に掲載された「石綿作業と肺疾患」において,昭和31年から実施された労働省労働衛生試験研究において大阪地方の石綿検診を受け持ち,昭和35年以降も年々検診を行ってきた結果,「近年建築関係等で石綿吹付け作業が盛んに行われているが,作業者39名中6名(15.4%)に石綿肺を認め,1型2名(5年,7年3カ月),2型2名(6年,7年),3型2名(3年11カ月,5年6カ月)であり,比較的短い作業期間で発病しているのは注目すべきことである。」として,石綿吹付け7年目の昭和39年10月に石綿肺(2型)と診断され,その後昭和42年7月には石綿肺(3型)に進展し,昭和44年に死亡した例が石綿吹付け作業による我が国最初の死亡例であること等を紹介した上で,吹付け作業における予防対策の必要性を述べた。 なお,瀬良は,昭和58年3月に発行された「大阪の労働衛生史」に掲載した「大阪の石綿肺」と題する論文においても,昭和39年に,石綿吹付け作業者(建築関係)について39名中6名(15.4%)に石綿肺を認めたこと等を記載している。 また,前記「石綿作業と肺疾患」においては,昭和31年から昭和46年3月までの間に,大阪において,石綿肺管理4(労災認定)とされた人数は,45名(昭和31年から昭和34年に9名,昭和35年から昭和39年に12名,昭和40年から昭和44年に16名,昭和45年から昭和46年3月に8名という内訳)であると述べた。 (甲A8の5頁ないし10頁)イ海老原及び藤井らは,建築作業従事者の胸膜肥厚斑や石綿関連疾患への 罹患状況等を調査,検討し,当該調査等の結果については,平成11年に発行された「労働科学」75巻3号,及び,平成19年6月に発行された「建設作 作業従事者の胸膜肥厚斑や石綿関連疾患への 罹患状況等を調査,検討し,当該調査等の結果については,平成11年に発行された「労働科学」75巻3号,及び,平成19年6月に発行された「建設作業者の石綿関連疾患-その爆発的なひろがり-」に掲載された。 その内容は以下のとおりである。(甲A108の12頁ないし114頁,109)(ア) 建築作業従事者の胸部レントゲン写真による胸膜肥厚斑海老原らが,①東京,神奈川,千葉,埼玉の大工,左官工等の建築作業従事者が加盟する組合が昭和58年から昭和62年までに実施した一般検診の胸部レントゲン写真(5712名)及び事務系作業者の一般検診で撮影した胸部レントゲン写真(1979名)を,職業,職種,年齢などを全てブラインドとして読影し,その後個人別に分類して年齢別,職種別などに検討を加え(第1期調査),②東京,神奈川の建築作業従事者が加盟する組合が平成9年に実施した一般検診の胸部レントゲン写真(5688名)について年齢,職業をブラインドで読影し,その後前記①と同様の検討をし(第2期調査),③東京の建築作業従事者が加盟する組合が平成17年から平成18年に実施した一般検診の胸部レントゲン写真(6268名)について,前記①及び②と同様に読影,検討を実施(第3期調査)することによって,建築作業従事者の胸膜肥厚斑の発生状況を調査した結果は以下のとおりである。 a 第1期調査同調査においては,胸膜肥厚斑が,建築作業従事者には0.82%認められたが,対象群には1名も認められなかった。職種別では,空調工,保温工が5.06%と最も高率で,石綿スレート瓦や石綿セメント板を高頻度に扱う瓦工や軽天工が4.76%と高率であった。 また,建物の解体作業等で石綿曝露機会のあるとび,解体工が1.82%で,配管工(水道),電 .06%と最も高率で,石綿スレート瓦や石綿セメント板を高頻度に扱う瓦工や軽天工が4.76%と高率であった。 また,建物の解体作業等で石綿曝露機会のあるとび,解体工が1.82%で,配管工(水道),電工,ブロック工,タイル工が1%程度, 大工では0.99%に,鉄工,溶接工,板金工,左官工,塗装工などで1%以下ながら胸膜肥厚斑が認められた。 年齢別では,35歳以上で認められ,加齢とともに高率化し,40歳以上で1.27%,65歳以上では4.44%に認められた。これに関しては,昭和40年のセリコフの研究において,石綿による胸膜の変化やそれがレントゲンによって診断可能になるまでには,曝露を開始してから15年以上の期間が必要であることが示唆されていたことから,第1期調査で検討した胸膜肥厚斑の発症要因となった石綿の曝露開始時期は調査時期より15年以上遡った昭和47年以前の曝露状況が反映されたものと考えられ,よって,第1期調査では我が国の石綿輸入量がピークを迎える以前の曝露状況を反映したものであるとされた。そして,特に65歳以上の建築作業従事者が建築作業を開始したと思われる1950年代の我が国における石綿輸入量は極めて少なく,よって建材に使用された量も極めて少なかったと考えられるにもかかわらず,65歳以上の群に4.44%もの割合で胸部レントゲンにより胸膜肥厚斑を認めたことは,それ自体重大な所見であったとされた。 b 第2期調査第2期調査においては,胸膜肥厚斑の有所見者数は,1.62%と,第1期調査の約2倍に増加した。同調査においては,第1期調査と第2期調査で見られる胸膜肥厚斑の有所見者率の差は,石綿曝露機会の増加によるものと考えて問題ないと判断された。 職種別の胸膜肥厚斑の有所見者率の推移を見ると,石綿曝露機会の少ないと見られ 期調査と第2期調査で見られる胸膜肥厚斑の有所見者率の差は,石綿曝露機会の増加によるものと考えて問題ないと判断された。 職種別の胸膜肥厚斑の有所見者率の推移を見ると,石綿曝露機会の少ないと見られる設計,事務では第1期調査同様胸膜肥厚斑を認めず,瓦工,軽天工では5.00%と第1期調査と差は認められなかったのに対し,他の職種はいずれも有所見者率の増加が認められ,空調 工,保温工では7.41%,とび,解体工では3.11%,電工では2.01%,大工では2.46%,木工,建具工では0.25%となった。 c 第3期調査第3期調査を実施した平成18年に45歳以上の建築作業従事者が建築作業に従事し始めた時期は,我が国の石綿輸入量がピークを迎え,その石綿の大部分が建材として消費される時期と一致することから,第3期調査の対象となった建築作業従事者は石綿含有建材を最も頻繁に扱った集団であると考えられる。 第3期調査においては,全体で6.75%,40歳以上で9.59%,65歳以上で18.17%に胸膜肥厚斑が認められた。 職種別では,瓦工,軽天工についてのみ3.76%と減少したが,他の職種についてはいずれも胸膜肥厚斑が認められる割合が大幅に増加した。 なお,海老原らは,米国における調査結果についても触れ,建築作業従事者の石綿曝露の機会は,石綿入りの建材を切断,張り付ける作業等に従事することにより直接的な曝露を受けるとともに,建築現場で他の作業者が石綿粉じんを発じんしているときに作業することによる間接曝露や作業場に存在する石綿含有建材に手を加えることなどにより石綿曝露を受けざるを得ず,したがって,建築作業従事者のあらゆる職種で石綿曝露機会が認められ,実際に多くの職種で胸膜肥厚斑の所見を認めていると述べた。 (イ) 剖検による建築作業 ることなどにより石綿曝露を受けざるを得ず,したがって,建築作業従事者のあらゆる職種で石綿曝露機会が認められ,実際に多くの職種で胸膜肥厚斑の所見を認めていると述べた。 (イ) 剖検による建築作業従事者の胸膜肥厚斑昭和62年以降平成18年12月末までに海老原らが実施した連続剖検例の中から建築作業従事者のみ(合計55例)を抽出して検討した。 びまん性胸膜肥厚と胸膜肥厚斑をあわせた石綿による胸膜病変は,胸 部レントゲン写真PA像では55例中6例(10.9%)に認められたが剖検所見では48例(87.3%)に認められた。職種別では,剖検により,大工には13例に胸膜肥厚斑が認められ,また,胸部レントゲン写真で胸膜肥厚斑が認められなかった水道配管工7例,左官工6例,電工4例,鉄工・溶接工4例,はつり工3例,タイル・瓦工2例に,剖検では典型的な胸膜肥厚斑を認めた。 当該調査により,建築作業従事者で,胸部レントゲン写真で胸膜肥厚斑を認めなかった者でも,49例中42例と,極めて高率に胸膜肥厚斑が認められ,建築作業従事者には,広範な職種で直接的,間接的な石綿の曝露を受けており,高率に胸膜肥厚斑を発症していることが認められた。建築作業従事者55名の剖検例中,87.3%に胸膜肥厚斑を認めたことは,我が国の建築作業従事者が,かなりの石綿曝露を受けたことを示している。 (ウ) 建築作業従事者のびまん性胸膜肥厚同調査期間において,26例の建築作業従事者のびまん性胸膜肥厚が認められ,その内訳は,吹付け工2例,電工4例,大工3例,板金工3例,配管工,左官工,塗装工,築炉工が各2例,鉄工,はつり工,タイル工,設備工,耐火ボード,エレベーター設置が各1例であり,多くの職種から発症していることが確認された。 (エ) 建築作業従事者の石綿肺第3期 官工,塗装工,築炉工が各2例,鉄工,はつり工,タイル工,設備工,耐火ボード,エレベーター設置が各1例であり,多くの職種から発症していることが確認された。 (エ) 建築作業従事者の石綿肺第3期調査の対象となった胸部レントゲン写真(6268名)について,石綿肺の有無を判断した結果,石綿肺1型以上の者は全体で184名(2.94%)であった。職種別では,左官工7.73%,板金工6. 15%,空調・保温工,塗装工,タイル工,木工・建具工の各職種で4%を超え,大工は3.10%であり,吹付けや解体,はつり工,保温工などの高濃度の石綿粉じんに曝露する職種に限らず,大工,左官工, 電工,水道配管工,塗装工など,ごく一般的な建築作業従事者にも広まっていることが認められた。 こうした所見から,建築作業従事者においては,比較的微量の曝露で発症する胸膜肥厚斑のみならず,より高濃度の曝露で発症するとされている石綿肺も高率かつ広範囲に広まっていることが明確となった。なお,胸膜肥厚斑の有所見者率と石綿肺の有所見者率は,ほぼ併行した関係にあった。 (オ) 建築作業従事者の肺がん検討対象となった建築作業従事者の肺がん例336例(平均年齢64歳)のうち,石綿肺1型以上の所見を有していた人数は126名(38%)であり,職種別では,石綿曝露機会の多い空調・保温工やとび・はつりで石綿肺所見を有する例が7割を超え,大工,左官・タイル工,配管工でも3割から4割に認めた。また,胸部CT写真により胸膜肥厚斑を認めた例は233名(69%)であり,職種別に見ても,その有所見者率は50%から70%ほどと高率であった。 石綿肺所見や,石綿曝露作業が10年以上で,胸部レントゲンないし胸部CTでの胸膜肥厚斑が認められれば,業務に起因する石綿関連肺がんと判断されるところ, 見者率は50%から70%ほどと高率であった。 石綿肺所見や,石綿曝露作業が10年以上で,胸部レントゲンないし胸部CTでの胸膜肥厚斑が認められれば,業務に起因する石綿関連肺がんと判断されるところ,前記336例中253例(75%)が臨床所見のみで石綿関連肺がんと判断されており,この点のみでも建築作業従事者の肺がんが石綿曝露と密接な関連性が存在することを示しているといえる。また,石綿関連肺がんは,ごく一般的な大工,左官工,配管工,電工などを含めて建築作業従事者の75%にも達していることからすれば,建築作業従事者への石綿汚染は広範に浸透し,肺がん発症の主要な要因となっていることを明確に示している。 (カ) 建築作業従事者の中皮腫昭和61年以来,海老原らが相談を受け,業務上疾患と認定された建 築作業従事者の中皮腫の症例は47例であった。職種別に見ると,大工17例,塗装工6例,電工4例,解体工3例,保温工,溶接工,内装工,タイル工・ブロック工,瓦工,板金工が各2例,左官工,石工,設備工,ガラス工が各1例であり,建築作業従事者の全ての職種に中皮腫の危険性が認められる。47例のうち,42例が胸膜原発,5例が腹膜原発であった。年齢は33歳から82歳(平均62歳),作業年数は最短で10年,最長45年(平均年数34.6年)であった。 ウ平成18年手引石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会は,①平成17年7月29日厚労省発表「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場一覧表の公表について」,②平成17年8月26日厚労省発表「石綿ばく露作業に係る労災認定事業場一覧表の第2回公表について」,③平成18年3月10日の読売新聞,毎日新聞,産経新聞,東京新聞,神奈川新聞の朝刊各紙,平成18年4月12日の毎日新聞に掲載された420例から7 業に係る労災認定事業場一覧表の第2回公表について」,③平成18年3月10日の読売新聞,毎日新聞,産経新聞,東京新聞,神奈川新聞の朝刊各紙,平成18年4月12日の毎日新聞に掲載された420例から70例を選択して表にまとめ,これを平成18年手引に記載した。この表によれば,石綿セメント板加工周辺で管理業務をしていた現場監督(直接曝露なし)や,石綿を含有するテーリング材を使用し,併せて,鉄骨造建築物における吹付け後の石綿材の清掃等に従事していた左官工,断熱材の板金による化粧作業の際に他の作業による石綿粉じんに曝露した板金・金物工事業者についても,これによって肺がん又は中皮腫に罹患したとして,労災認定がなされている。(甲A35の110頁)エ厚労省による「アスベスト問題に関する厚生労働省の過去の対応の検証」(平成17年)平成17年7月29日に「アスベスト問題に関する関係閣僚による会合」が公表した「アスベスト問題への当面の対応」において,「政府の過去の対応について,アスベストに関連するこれまでの通知・通達,行政文 書,研究結果等についての関係各庁での調査を踏まえ,8月までに検証する」とされたことを受け,厚労省は,過去の取組について調査を行い,その結果を同年8月26日に報告した。同報告書においては,以下の内容が記載されていた。(甲A67)(ア) 石綿肺に係る労災補償について記録上確認できた最初の事案は,昭和29年に東京労働基準局長から本省労働基準局長へ石綿肺に係る労災補償についてりん伺が行われ,昭和30年に業務上との判断が示されたものであり,その後,昭和31年には石綿肺に合併した肺結核についても業務上との判断がされた(甲A67の1の48頁)。 (イ) 肺がん及び中皮腫にかかる労災認定についてa 職業がんに係る労災 れたものであり,その後,昭和31年には石綿肺に合併した肺結核についても業務上との判断がされた(甲A67の1の48頁)。 (イ) 肺がん及び中皮腫にかかる労災認定についてa 職業がんに係る労災請求の増加昭和40年代後半になって石綿肺がんをはじめ,じん肺肺がん等の職業がんに係る労災請求事案が厚生省にりん伺され,厚生省において個別に業務上外の判断を行った(甲A67の1の49頁・50頁)。 b 石綿肺がん及び中皮腫に係る労災認定事例(a) 石綿肺がん記録上確認できる石綿による肺がんに係る最初の労災認定事例は,大阪労働基準局長よりりん伺された労災請求事案に対し,昭和48年に,「石綿肺結核兼肺がんによる死亡労働者の業務上外について」(昭和48年5月11日付け基収第2278号)により,労働基準法施行規則第35条第38号の包括的救済規程により石綿配合作業に従事した労働者に発症した石綿肺がんについて業務上との判断を示したものであった。そして,この後,大阪労働基準局長から2件の労災請求事案がりん伺されたのに対し,「石綿肺がんによる死亡労働者の業務上外について(回答)」 (昭和50年7月5日付け基収第2302号)により,1件は業務上,1件は業務外との判断が示された。 また,昭和53年「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(昭和53年基発第548号)の策定の前後に全国の労働基準監督署において労災認定された石綿肺がん事例を収集した結果,昭和54年までに18件の石綿肺がんが労災認定されていたことが確認された。 (甲A67の1の48頁・49頁)(b) 中皮腫我が国における最初の石綿による腹膜の中皮腫症例は,昭和48年,小泉岳夫らが紹介した大阪の石綿加工業従事者のものであり,当該症例については, (甲A67の1の48頁・49頁)(b) 中皮腫我が国における最初の石綿による腹膜の中皮腫症例は,昭和48年,小泉岳夫らが紹介した大阪の石綿加工業従事者のものであり,当該症例については,昭和53年に中皮腫症例として最初の労災認定がなされた。また,最初の石綿による胸膜の中皮腫症例は,昭和49年,姜建栄らが紹介した大阪府堺市の断熱材加工の経営者のものであった。(甲A67の1の49頁)c 「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(昭和53年基発第584号)の発出等(a) 労基法施行規則35条の改正労働省は,昭和51年4月,「業務上疾病の範囲等に関する検討委員会」を設置し,同年5月から約1年6か月にわたる検討を行うとともに,各専門分野における多数の医学専門家の意見も聴取し,この検討結果に基づいて,労働基準法施行規則第35条の改正案を作成し,中央労働基準審議会及び労働者災害補償保険審議会の審議,公聴会における意見聴取等の手続を経て,労働基準法施行規則の一部を改正する省令(昭和53年労働省令第11号)により,業務上疾病の範囲を定める別表第1の2を定め,昭 和53年4月1日から施行した。 改正の要点の1つである職業がんについては,昭和49年に設置された「有害物等に関する検討専門家会議」の検討結果をベースに,国内外における症例報告,動物実験結果,疫学調査等の各種の論文を収集し,これに基づいて検討を行い,業務との因果関係が確立していると評価された疾病を具体的に例示した。石綿による職業がんについては,別表第1の2の第7号の7で「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」として例示した。 (甲A67の1の51頁)(b) 認定基準の策定「業務上疾病の範囲等に関する検討委員会」の検討と並 ,別表第1の2の第7号の7で「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」として例示した。 (甲A67の1の51頁)(b) 認定基準の策定「業務上疾病の範囲等に関する検討委員会」の検討と並行して,石綿による肺がん,中皮腫の業務上外の判断の基準を検討するため,昭和51年9月,「石綿による健康障害に関する専門家会議」を設置し,昭和53年9月,同会議により「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」が提出された(前記第2,1(2)イ(ク))。 報告書においては,産業現場における石綿曝露実態,石綿の化学組成及び物性,動物実験結果,臨床,病理,疫学,肺がん・中皮腫の量反応関係,環境管理,健康管理が網羅的に検討され,概要,①肺がんについては,最近の疫学調査の結果から,石綿曝露量が大となるにつれて肺がん発生のリスクが大きくなる傾向が見られ,症例としては石綿曝露期間が概ね10年を超える労働者に発生したものが多い,②中皮腫については,個々の中皮腫患者に石綿曝露の程度が大であった例が多いことのほか,現在では動物実験によって石綿による中皮腫の発生と関連づけられている。石綿曝露との関係については,中皮腫の症例報告からみた石綿曝露 期間は10年以上の場合が比較的多いが,5年未満といった短い例もある,との結論が示された。 前記報告書を踏まえて認定基準の策定を行い,労働省は「石綿ばく露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定について」(昭和53年基発第584号)を発出した。 認定基準の主な内容は,①石綿曝露作業として,(ⅰ)石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘,搬出又は粉砕その他石綿の精製に関する作業,(ⅱ)石綿製品の製造工程において石綿粉じんの曝露を受ける作業,(ⅲ)石綿若しくは石綿製品の取り扱い又は石綿製品を被覆材若 を含有する鉱石又は岩石の採掘,搬出又は粉砕その他石綿の精製に関する作業,(ⅱ)石綿製品の製造工程において石綿粉じんの曝露を受ける作業,(ⅲ)石綿若しくは石綿製品の取り扱い又は石綿製品を被覆材若しくは建材として用いた建造物の補修,解体等の作業工程において石綿粉じん曝露を受ける作業,②対象疾病として,肺がん,胸膜及び腹膜の中皮腫を明らかにしたこと,③石綿曝露作業従事労働者に発生した疾病の業務上外の認定要件の一つとして,石綿曝露作業従事期間を,肺がんについては10年以上,中皮腫については5年以上としたこと,④石綿による肺がん又は中皮腫と診断される根拠として,次の医学的知見が認められること(肺がんについては,胸部エックス線写真による胸膜の肥厚斑影又はその石灰像,かくたん中の石綿小体等の臨床所見,又は生検,剖検等に基づく肺のびまん性線維増殖,胸膜の硝子性肥厚又は石灰沈着,肺組織内の石綿繊維又は石綿小体等の病理学所見,中皮腫については,じん肺法に定めるエックス線写真の像の第1型以上である石綿肺の所見,又は剖検等に基づく肺のびまん性繊維増殖,胸膜の硝子性肥厚又は石灰沈着,肺組織内の石綿繊維又は石綿小体等の病理学所見)。なお,石綿曝露作業従事期間が前記③の期間に満たない場合であっても一定の医学的所見が認められる場合には,本省りん伺により個別に業務上外の判断を行 うこととした。 その後,平成15年に前記認定基準(石綿認定基準)が改正され,①石綿との関連性が明らかな疾病として「良性石綿胸水」及び「びまん性胸膜肥厚」が新たに追加され,②石綿曝露作業について,過去の労災認定事例等を踏まえて,石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において間接的な曝露を受ける可能性のある作業等が追加され,③中皮腫に係る認定要件のうち,石綿曝露作業へ 曝露作業について,過去の労災認定事例等を踏まえて,石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において間接的な曝露を受ける可能性のある作業等が追加され,③中皮腫に係る認定要件のうち,石綿曝露作業への従事期間が「5年以上」から「1年以上」に短縮されるなどした。 (甲A67の1の51頁・52頁・54頁)オ石綿認定基準について(ア) 平成18年改正前記エの石綿認定基準について,平成18年,「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会」の検討結果を踏まえて改正がなされた(「石綿による疾病の認定基準について」(平成18年基発第0209001号),乙アA8)。 平成18年改正後の石綿認定基準においては,石綿曝露作業として,石綿鉱山や石綿製品製造工程における作業以外に,①石綿の吹付け作業,②耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業,③石綿製品の切断等の加工作業,④石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物,その附属施設等の補修又は解体作業,⑤石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業,⑥石綿曝露作業として具体的に列挙された9つの作業と同程度以上に石綿粉じんの曝露を受ける作業,⑦石綿曝露作業(直接曝露作業として列挙されたもの)の周辺等において,間接的な曝露を受ける作業とされた。 (イ) 平成24年改正 厚労省は,平成24年,ヘルシンキ・クライテリアの内容に批判的なものも含めた新たな医学文献等により肺がんに関し様々な観点から検討した「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」の検討結果(乙アA1012)を踏まえ,「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年基発0329第2号。乙アA1011)を発出し,前記石綿認定基準を改正した。同改正においては,石綿曝露作業の範 の検討結果(乙アA1012)を踏まえ,「石綿による疾病の認定基準について」(平成24年基発0329第2号。乙アA1011)を発出し,前記石綿認定基準を改正した。同改正においては,石綿曝露作業の範囲については平成18年改正後の石綿認定基準と同じであった。 カ建築作業従事者の労災認定等について(ア) 厚労省による,「石綿による健康被害に係る給付の請求・決定状況について(平成18年度)」(甲A388の1)によれば,労災保険法に基づき平成18年度中に新規に支給決定を行った者のうち建設業が占める人数は,肺がんが790名中361名,中皮腫が1006名中486名であり,石綿健康被害救済法に基づく支給決定について建設業が占める人数は,肺がんが272名中72名,中皮腫が569名中205名であった。 (イ) 厚労省による,平成19年度の「石綿曝露作業による労災認定等事業場一覧表」(甲A156の1)によれば,同年度の労災保険法に基づく保険給付の支給決定において建設業が占める人数は,肺がん502名中248名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)190名,既設建築物設備工事業41名,機械設備の組立て又は備付けの事業6名,その他の建設事業11名),中皮腫500名中241名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)185名,既設建築物設備工事業29名,機械設備の組立て又は備付けの事業9名,その他の建設事業18名)であった。 さらに,同年度の公表事業場数883事業場のうち451事業場が建設業の事業場であり,また,業種別に労災認定等された事業場数(公表 されたもの以外を含む全認定件数(951事業場)。)を見ると,建設業が512事業場(53.8%。建築事業(既設建築物設備工事業を除く)392事業場,既設建築物設備工事業76事業場,機械設備の組 されたもの以外を含む全認定件数(951事業場)。)を見ると,建設業が512事業場(53.8%。建築事業(既設建築物設備工事業を除く)392事業場,既設建築物設備工事業76事業場,機械設備の組立て又は据付けの事業16事業場,その他の建設事業28事業場。)と最も多く,次いで製造業334事業場(35.1%)といった割合であった。 (ウ) 厚労省による,平成20年度の「石綿曝露作業による労災認定等事業場一覧表」(甲A156の2)によれば,同年度の労災保険法に基づく保険給付の支給決定において建設業が占める人数は,肺がん503名中243名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)164名,既設建築物設備工事業57名,機械設備の組立て又は備付けの事業10名,その他の建設事業12名),中皮腫559名中251名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)169名,既設建築物設備工事業62名,機械設備の組立て又は備付けの事業4名,その他の建設事業16名)であった。 さらに,同年度の公表事業場数977事業場のうち493事業場が建設業の事業場であり,また,業種別に労災認定等がされた事業場数(公表されたもの以外を含む全認定件数(1043事業場)。)を見ると,建設業が553事業場(53.0%。建築事業(既設建築物設備工事業を除く)380事業場,既設建築物設備工事業127事業場,機械設備の組立て又は据付けの事業17事業場,その他の建設事業29事業場。)と最も多かった。 (エ) 厚労省による,「平成21年度石綿による健康被害に関する給付の請求・決定状況(確定値)」(甲A388の2)によれば,同年度の労災保険法に基づく保険給付の支給決定において建設業が占める人数は,肺がん480名中249名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く) 192名,既設 (甲A388の2)によれば,同年度の労災保険法に基づく保険給付の支給決定において建設業が占める人数は,肺がん480名中249名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く) 192名,既設建築物設備工事業42名,機械設備の組立て又は備付けの事業7名,その他の建設事業8名),中皮腫536名中261名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)193名,既設建築物設備工事業49名,機械設備の組立て又は備付けの事業5名,その他の建設事業14名)であった。 (オ) 厚労省による平成22年度石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況のまとめ(確定値)」(甲A388の3)によれば,同年度の労災保険法に基づく保険給付の支給決定において建設業が占める人数は,肺がん424名中241名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)184名,既設建築物設備工事業43名,機械設備の組立て又は備付けの事業9名,その他の建設事業5名),中皮腫498名中229名(建築事業(既設建築物設備工事業を除く)172名,既設建築物設備工事業42名,機械設備の組立て又は備付けの事業5名,水力発電施設・ずい道等新設事業1名,その他の建設事業9名)であった。 (11) 石綿をめぐる報道等ア我が国においては,石綿粉じんによる新しい公害として,以下ように,昭和45年頃に石綿の有害性が報道され始めたが,その数は極めて少なかった(甲A67の1の8頁,68,69,140の1の164頁ないし166頁)。 (ア) 昭和45年11月17日の朝日新聞において,「石綿作業で肺がん国立療養所病院長確認日本にも6人の死」と題し,堺市の国立療養所近畿中央病院の瀬良(院長)が,石綿工場で従業員らに肺がんが多発していることを突き止めたこと,我が国で石綿によるとみられる肺がん患者の発 療養所病院長確認日本にも6人の死」と題し,堺市の国立療養所近畿中央病院の瀬良(院長)が,石綿工場で従業員らに肺がんが多発していることを突き止めたこと,我が国で石綿によるとみられる肺がん患者の発生が明らかにされたのはこれが初めてであること等を記載した記事が掲載された。同記事においては,瀬良が,石綿工場以外に,大阪府の吹付け工(48歳から7年間石綿吹付け作業に従事し,昭和39年5 月に石綿肺と診断された。)や石綿工場の敷地内の社宅に住んでいた女性に石綿肺が発生していることも明らかにした上,石綿工場で働く人以外でも石綿肺が発生することが分かってきたこと,最近ではビルの断熱材等として石綿が用いられ,石綿を直に吹き付ける工法が採用されていることから,石綿肺の患者は他にもいるのではないかと考えていること,石綿とがんとのメカニズムはよく分からないが,石綿肺ががんの発生母地であるとはいえること等を指摘したことが報道された。(甲A79の2)(イ) 昭和45年11月22日の朝日新聞において,「東京の都心で石綿発ガン物質大気から微量検出」と題し,東大医学部公衆衛生学教室の研究生であった溝口勲が,同月21日に開催された第86回関東産業医学会特別例会において,東京都文京区本郷三丁目の大気中から石綿を検出したことを報告したとの記事が掲載された。同記事においては,溝口勲が,都市の大気中に石綿があった理由として①車のブレーキ・ライニングに石綿を使用していること,②石綿スレートやフレキシブル・ボードといった新建材に広範囲に使用されていること,などが考えられるとし,また,今のところ極めてわずかな量であるから,地元の人たちは不必要な心配を抱かないで欲しいこと等を述べた旨が記載された。(甲A79の2)(ウ) 昭和45年11月28日の朝日新聞に えられるとし,また,今のところ極めてわずかな量であるから,地元の人たちは不必要な心配を抱かないで欲しいこと等を述べた旨が記載された。(甲A79の2)(ウ) 昭和45年11月28日の朝日新聞において,「石綿じん肺から肺がん移行患者さらに二人」と題する記事が掲載され,同記事においては,瀬良によって,新たに石綿加工場で働いたことのある2人の石綿じん肺から肺がんを引き起こした患者が発見されたこと,大阪の労働基準局が,石綿じん肺と肺がんに密接なつながりがあるとみて石綿加工場で働いている作業員や退職者についての総点検に乗り出すこと,大阪労働基準局管内で昭和30年から昭和45年までの間に42人が石綿じん肺 で労災認定を受け,そのうち5人が肺がんに移行して死亡したことが同局長の調べで分かったこと等が報じられた(甲A1019)。 (エ) 昭和45年12月11日の朝日新聞において,「石綿の恐怖わが国にも対策,野放し状態大阪の工場ですでに死者6人粉じんを吸って肺がん」と題する記事が掲載された。同記事においては,瀬良,溝口勲両氏の発表内容に加え「ニューヨーク市環境保護局が,きびしい「大気汚染規制条例案」を議会に提出,この条例で石綿の吹き付けを禁止することが伝えられた」こと,「1950年代には,疫学的にも石綿が肺がんを起こすことがはっきりしてきた」こと,「1962~67年にかけて各国で,ネズミやニワトリを使って,石綿でがんを起こすことに成功,発がん物質であることが確定した」こと,また各国で,「問題は一般の住民にまで広がってきた」状況についても記載された(甲A79の3)。 (オ) 昭和46年3月25日の読売新聞に掲載された「公害病の周辺石綿肺ガン併発のおそれ大気中に充満,規制なし」と題する記事においては,「セメントにまぜ いても記載された(甲A79の3)。 (オ) 昭和46年3月25日の読売新聞に掲載された「公害病の周辺石綿肺ガン併発のおそれ大気中に充満,規制なし」と題する記事においては,「セメントにまぜて石綿スレートや石膏ボードにしたり,エントツ,壁や天井などの新建材,天井や壁への吹きつけなど,成長産業として使用量はふえる一方。こうした産業に従事する人だけでなく,一般人にも汚染の機会が高まっている。」といった記載がされた(甲A79の4)。 イ昭和49年11月に発行された「東洋経済」において,「発ガン性材料石綿の恐怖職業病から公害へ拡がる」と題する記事が掲載された。同記事においては,石綿のおもな使用用途として,石綿スレートが工場や家屋等において防火壁として使用され,石綿円筒が工場や家屋の煙突として使用されていることや,一般の人には石綿というとスレートとして知られていること,耐火建材として一般家屋にも相当使用されていること等が指摘 され,さらに,昭和46年1月から3月に労働省が鉱業,建設業,製造業の各業種188事業場において「石綿取扱い作業者のじん肺罹患状況」を調査した結果,全体の有所見者率は6.3%,業種別では製造業が6. 6%,建設業が3.5%,鉱業が0%であり,この結果からすれば,石綿産出現場よりも建築現場や石綿製品工場での発病の方が問題となるが,我が国の石綿鉱山は現在1社のみであり,その常時作業員は数人しかいないことが述べられた。 また,同記事においては,石綿の発がん性に疑いがなく,労働科学研究所によると石綿肺症患者の肺がん合併率は約20%程度とされていることや,昭和49年時点において,労働省が石綿肺の患者実態について把握できておらず,労働省による死亡者数の統計によれば,昭和43年以降石綿肺について項目が区別して設 合併率は約20%程度とされていることや,昭和49年時点において,労働省が石綿肺の患者実態について把握できておらず,労働省による死亡者数の統計によれば,昭和43年以降石綿肺について項目が区別して設けられたが,その統計上の死亡者数は,昭和43年は5人,昭和44年は6人,昭和45年は4人,昭和46年は5人,昭和47年は7人,昭和48年は4人といずれも一桁台であるが,これは石綿の実態が解明されていないことの証であるともみれるが,逆に,石綿肺そのものではなく,肺がんなどで死亡するケースが多いからではないかという推測も成り立つ,とされた。 (甲A472)ウ昭和55年8月29日付けで,環境庁の次年度予算の目玉について記載した「石綿の使用規制へ」という記事が一斉に出された。当該記事には,当時,工場内での作業基準は労働省が定めていたが,大気の基準はなかったため,環境庁は,道路や工場周辺で濃度を測定した上で,3年後に基準を作り大気への排出規制を考えることとした旨が記載されていた。(甲A1048の174頁)エ我が国においては,昭和61年から昭和63年にかけて,以下のように,多くの石綿関係の報道がされた。そのきっかけの一つは,沖縄など米軍基 地や造船所での石綿の使用問題であった。(甲A1048の175頁ないし177頁)(ア) 昭和61年2月27日の朝日新聞夕刊「科学面」において,「どうなる石綿規制日本は「禁止は不要」 ILOの基準待つ」と題し,「アスベストについて米環境保護局(EPA)は先月末,5分野での即時使用禁止,10年後の全面禁止を打ち出し,世界中に大きな波紋を呼んでいる。日本は今,米国と同程度の年間消費量だが,労働省や環境省は,米国の動きに大きな関心を示しながらも「今,全面禁止を打ち出す必要はない」として安全な使用 禁止を打ち出し,世界中に大きな波紋を呼んでいる。日本は今,米国と同程度の年間消費量だが,労働省や環境省は,米国の動きに大きな関心を示しながらも「今,全面禁止を打ち出す必要はない」として安全な使用基準作りを始めている国際労働機関(ILO)の動きに歩調を合わせようとしている」こと,また,労働省が当時「代替品がない今の日本では全面禁止をいうべき状況ではない」と回答したことを記載した記事が掲載された。 (イ) 昭和62年には,石綿のベビーパウダーへの混入がわかり,また,吸音,耐火等を目的として建築物に施された吹付け石綿が劣化し,石綿繊維が空気中に飛散する事例が学校等において報告され(いわゆる「学校パニック」),社会的な問題意識が高まっていった。 (ウ) 昭和63年になると,水道管への使用等,石綿がさまざまな場所に使用されていることや,不適切な廃棄処分などもニュースになった。 オ平成17年,1970年代までクロシドライトを大量使用していた大手機械メーカー「クボタ」旧神崎工場(兵庫県尼崎市)の周辺で,複数の住民に中皮腫が発症していることが分かり,「クボタ」は因果関係は不明としながらも,1人あたり200万円の見舞金を支払うことを決め,同時に元社員らの石綿健康被害の詳細な実態を支援団体などに情報開示した。これによって,平成17年6月以降,石綿関連の報道が多くなされた。 新聞での第一報となった平成17年6月29日付け毎日新聞大阪本社版の夕刊記事の見出しは「10年で51人死亡アスベスト関連病で」とあ り,翌30日の朝日新聞朝刊は「石綿疾患 78人死亡クボタ公表尼崎旧工場被害」であった。また,「クボタ・ショック」を受けた各企業や省庁が連日のように石綿関連疾患による労働者の死者を集計して発表した。 このとき,毒性の強いクロシドライ 78人死亡クボタ公表尼崎旧工場被害」であった。また,「クボタ・ショック」を受けた各企業や省庁が連日のように石綿関連疾患による労働者の死者を集計して発表した。 このとき,毒性の強いクロシドライトが1950年代から1970年代に大量使用され,被害が顕在化するまでの潜伏期間が20から50年であること,また,労働者(職業曝露)と周辺住民(環境曝露)の曝露レベルの違いや,クロシドライト,アモサイトとクリソタイルの毒性の違い,時期や場所による曝露量の違いといったリスクの内訳についても,報道された。 東京新聞は,平成17年8月18日,同月19日付け朝刊で「正しく知ろうアスベスト」と題する連載記事を掲載し,「一戸建て建材は危険性が少ないが,吹付けの壁は劣化で飛散のおそれがある」,「普通の生活なら大丈夫。たばこのほうがより危険。高濃度吸入には要注意」といった記事を掲載した。日経新聞平成17年8月15日付け朝刊の特集「検証アスベスト禍」の「石綿賠償7.6兆円VSゼロ円日米格差を生んだもの」では,石綿被害の賠償金によってアメリカでは何十件もの企業倒産がおきた事実を紹介し,日本には業界や行政に対策をうながす訴訟制度などのしくみ自体が欠落していることを指摘した。 (甲A67の1の3頁,1048の177頁ないし180頁)(12) 国会答弁における被告国の対応等ア前記(11)ア(ア)の新聞報道から約1か月後の昭和45年12月15日に開かれた第64回参議院地方行政委員会,交通安全対策特別委員会連合審査会において,O参議院議員は,前記(11)ア(ア)及び(イ)の瀬良や溝口勲の発表に触れた上で,自動車のブレーキライニングからの石綿飛散による大気汚染,自動車公害を政府としてどのように対応するのかという質問を行った。また,昭和46年2月1日の第65回衆議院 の瀬良や溝口勲の発表に触れた上で,自動車のブレーキライニングからの石綿飛散による大気汚染,自動車公害を政府としてどのように対応するのかという質問を行った。また,昭和46年2月1日の第65回衆議院予算委員会では,石綿を含む様々な発がん性その他毒性を持つ科学物質を取り扱う労働現場の安全 衛生問題について議論され,当時労働大臣であったPは「衛生関係の規則だけは至急に改定をいたしたい」,「発がん性物質にかかわりある工場等につきましては特別の対策を講じてまいりたい」と発言した。(甲A140の1の165頁)イ労働省は,昭和46年1月5日に初めて石綿の発がん性に言及した通達「石綿取扱い事業場の環境改善等について」(昭和46年基発第1号)を発出し,当該通達の中で,石綿の発がん性について,「最近,石綿粉じんを多量に吸入するときは,石綿肺をおこすほか肺がんを発生することもあることが判明し,また,特殊な石綿によって胸膜などに中皮腫という悪性腫瘍が発生するとの説も生まれてきた」,「よってこの際,石綿によるこの種の疾病を予防するため,・・・監督指導を行われたい」とした(前記第2,2(3)ア(イ))。同年1月,石綿協会の機関紙「石綿」に掲載された泉州石綿事業協同組合理事長の年頭の辞では,「昨年末某大新聞が石綿の公害に就いて報道したのが導火線となり,我が石綿紡績業界にも監督官庁の指導が始まっております」との記載がされた。(甲A140の1の166頁)ウ労働省は,昭和47年基発第799号「特定化学物質等障害予防規則の疑義に関する質疑事項の回答について」において,各都道府県労働基準局長に対して,特化則施行に伴う質疑に対する回答を示し,特化則第5条関係(局所排気装置の設置等)の「スレートの粉じんの発散源に対しては,局所排気装置の設置が必要と考え 」において,各都道府県労働基準局長に対して,特化則施行に伴う質疑に対する回答を示し,特化則第5条関係(局所排気装置の設置等)の「スレートの粉じんの発散源に対しては,局所排気装置の設置が必要と考えるが如何。」との質問に対し,「スレートは,石綿とセメントを圧さくして板状にしたもので,これを製造し,または加工する工程においては石綿の粉じんが発散することから,屋内作業場におけるスレート粉じんの発散源に対しては,見解のとおり。」と回答した(甲A1131)。 エ昭和52年4月19日の第80回国会衆議院社会労働委員会において,当時労働省労働基準局長であったQは,社会労働委員から,石綿を多く使 用している業種及び当該業種の労働者におけるじん肺あるいは肺がんの罹患率の実態,並びに石綿に対する労働省としての考え等について質問されたことに対し,「アスベストを使っております主な産業を申し上げますと,石綿が耐熱性,耐圧性,耐酸性などがございますので,石綿管とか石綿板あるいは石綿織布,石綿セメント,こういったものをつくっているところ。 それから自動車のクラッチ板あるいはブレーキライニング等を用いることになりますので,自動車産業等に多く見られるわけでございます。また建設業,造船業,化学工業その他断熱工事等をやっております産業に多く見られるわけでございます。それから,石綿に曝露いたしまして職業性疾病として私どもが確認いたしております件数といたしましては,必ずしも分類ごとにございませんけれども,肺がん,中皮腫,じん肺等によって発症例が11名ございます。そこで基本的には,やはり石綿の製造取り扱いについて,特に問題のある吹きつけ作業については,労働者をこれに就労させない,そういう就労禁止をまず立てることだと思います。それから作業環境中の粉じんの濃度を規 基本的には,やはり石綿の製造取り扱いについて,特に問題のある吹きつけ作業については,労働者をこれに就労させない,そういう就労禁止をまず立てることだと思います。それから作業環境中の粉じんの濃度を規制いたしまして,それ以下になるように局所排気装置を設置させる。三番目に健康診断の実施等をやりまして,そういった予防に努める,こういうことだろうと思いますが,今後ともそういった石綿による被災が防止できますように,さらに研究,努力をしてまいりたいと思います。」と回答した(甲A174の1)。 オ昭和61年4月2日に開催された第104回国会参議院建設委員会において,建設委員から,石綿が,内装部やスレート,過去には石綿吹付け等,建築資材に多く使用されていることから,建築物を解体する時に石綿公害が生じ,また,石綿の製造においても障害が発生すること,石綿が肺がんの原因になっている疑いがあること等についての指摘がなされており,また,労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課長であったRによって,昭和53年から昭和61年4月までの間に労働省が把握している石綿によ る肺がん及び中皮腫による労災認定者数は,累計約30名であり,認定者数はここ2,3年,1年間に4ないし7名程度で推移していることが述べられた。また,建設委員から「建設資材は全体の占める量が最も大きい,その点でここで働く労働者への健康障害が心配だと思うんですね。しかし,まだほとんどみんな知らないわけです。そこでまず,対策というよりも,少しこのアスベスト公害の問題の宣伝,啓蒙ですね,これに力を入れるべきではないかと思っているんですけれども」と述べられ,これに対し,建設省建設経済局長のSが「私ども実は,新しい問題で,十分勉強はいたしておらなかったわけでございますけれども,建設業で使う場合には石 きではないかと思っているんですけれども」と述べられ,これに対し,建設省建設経済局長のSが「私ども実は,新しい問題で,十分勉強はいたしておらなかったわけでございますけれども,建設業で使う場合には石綿スレートというふうな加工された形で使いますので,取りつけや何かするときにはそういう余り大きな問題はないのじゃないか。ただ,取り壊しなんかをするときにどうも問題がありそうでございますので,業界に対しましても,注意を喚起して,いろいろ今後勉強をしてもらうように努力したいと思います。」と述べた。(甲A174の3)カ昭和62年7月30日に開催された第109回国会参議院社会労働委員会において,社会労働委員から,建築現場における石綿製品の切断作業において大量の石綿粉じんが飛散し,作業に従事している建築労働者がこれに曝露していること,建築作業従事者に労災認定者が存在し(配管工,解体工),申請中の者も多いこと,海老原が石綿について閾値がなく微量曝露でも危険性があると指摘していること等が指摘され,労働省による今後の石綿問題に関する答弁が求められた。これに対し,当時労働大臣であったTは,「いろいろ大変重要な御示唆もいただいておりますが,このアスベストの有害性につきましてはもう十分に認識をいたしておりまして,昭和50年からがんに関した規制を行ってきたところでございます。今後ともまさしくこの労働行政の重点として積極的に取り組んでまいる考えであります。」と回答した。(甲A174の5) キ昭和63年5月10日に開催された第112回国会衆議院社会労働委員会において,社会労働委員から,石綿に関して,屋外作業に関する規制等の点についての指摘がなされたことに対し,労働省労働基準局安全衛生部長であったUは,「石綿の扱いにつきましては,石綿肺を含むじん肺 会において,社会労働委員から,石綿に関して,屋外作業に関する規制等の点についての指摘がなされたことに対し,労働省労働基準局安全衛生部長であったUは,「石綿の扱いにつきましては,石綿肺を含むじん肺の予防という観点から昭和35年にじん肺法を制定して徹底を図ってまいりました。40年代になりまして,石綿と肺がんとの因果関係ということが明らかになりましたので,特化則で石綿を発がん性の物質として規制するということで,諸種の規制をかぶせているわけでございます。」,「屋外労働者の取り扱いの問題でございますが,ご指摘のように,確かに屋外の問題につきましては,屋内と違いまして,例えば局排をつけるとかいったことが実際上不可能でございます。したがって,どうしても個人の曝露を防止するという観点での保護具の着用といったものが中心とならざるを得ないというふうなことで考えておりますが,労働者の保護については,屋内,屋外とも保護の遺漏がないように十分な配慮をいたしたいというふうに考えております。」と回答した(甲A174の5)。 (13) 各国の規制等の状況アイギリス(ア) イギリスにおける曝露限界に係るリストの基本は,アメリカのACGIHのリストであり,労働安全衛生事務局から技術資料として公表される。ただし,一部の数値をBOHSや労働安全衛生法による数値に変えており,ACGIHの値を使用するときはTVLと明記される。これらはいずれも法的規制ではなく,労働安全衛生委員会事務局の監督官によって指針として用いられるものであった。(乙アA138)イギリスのBOHSは,昭和43年,石綿肺の最も早く現れる影響を曝露労働者の1%以下に減少させるには,1㎤当たりの石綿繊維の濃度と曝露年数との積を100にする必要があるとし,曝露年数を50年と して気中 は,昭和43年,石綿肺の最も早く現れる影響を曝露労働者の1%以下に減少させるには,1㎤当たりの石綿繊維の濃度と曝露年数との積を100にする必要があるとし,曝露年数を50年と して気中濃度の時間加重平均を2繊維/㎤(したがって,25年では4繊維/㎤,10年では10繊維/㎤となる。)とした。BOHSはこの数値に対応させる濃度の測定はメンブランフィルター法により長さが5μm以上の繊維を計数して得られたものであるとした。さらに,BOHSはこの勧告の中で2繊維/㎤という数値はクリソタイルに対するものであって他の石綿に対して適用してよいかどうかには問題があるとしながらも,他の石綿についての情報が不足していることからこの値を使用せざるを得ないとし,さらに石綿による肺がんや中皮腫に対して危険のない濃度を確定できないとしている。また,粉じんへの曝露の程度について粉じん曝露等級を定め,3か月の平均濃度が0から0.4繊維/㎤であれば「無視してよい」,0.5から1.9繊維/㎤であれば低度,2.0から10.0繊維/㎤であれば「中程度」,10以上は「高度」と定め,高度の曝露等級の場所で間欠的に労働する必要がある時は,検定済みのマスクを使用しなければならないとし,ただし,その条件としては,50繊維/㎤以下の濃度であり,かつ,マスクはそこに入るに先立って,よく適合していることがテストにより示される必要があるとされ,また,濃度が50繊維/㎤を越えるようなときは,高級な呼吸保護具,たとえば送風マスクのようなものが使用されるべきであるとされた。 また,法的規制としては,前記勧告の翌年である昭和44年の石綿規則(AsbestosRegulation)において,クロシドライト以外の石綿粉じんの規制値を2繊維/㎤又は0.1㎎/㎥(4時間のサンプリング時間に しては,前記勧告の翌年である昭和44年の石綿規則(AsbestosRegulation)において,クロシドライト以外の石綿粉じんの規制値を2繊維/㎤又は0.1㎎/㎥(4時間のサンプリング時間においての平均濃度であり,前記値以上の場合には,工場監督官は管理基準を改善するよう要請する。),クロシドライトについては,呼吸域での濃度が10分間のサンプリング時間において,0.2繊維/㎤又は0.01㎎/㎥を下回るように保たれていない限りは認可された呼吸用保護具の装着が求められるとした。 (甲A176,1026,1109,乙アA45の36頁・37頁,1029の1の29頁)(イ) イギリスでは,中皮腫による死亡が昭和43年に153人,1970年代に年間200人を超えるなど,石綿による健康障害が多発した。 石綿による健康障害防止対策の充実を図るため,昭和51年に労働安全衛生庁の上部機関である安全衛生コミッションに特別の委員会(シンプソン委員会)を設け,同委員会は昭和54年に,①クロシドライトの使用禁止,②吹付け断熱材の使用禁止,③石綿除去業者に対する認可制度の適用,④曝露限界値として,クリソタイルは昭和55年までに1本/㎤,アモサイトは0.5本/㎤,クロシドライトは0.2本/㎤とする旨の勧告を出した。(甲A67の2の3頁,乙アA1029の1の30頁)昭和59年,曝露限界値につき,クリソタイルについては0.5本/㎤,アモサイト0.2本/㎤,クロシドライト0.2本/㎤と規制強化された(甲A1109,乙アA1029の1の30頁)。 昭和62年に作業場の石綿粉じんの許容濃度について,クロシドライト及びアモサイト以外の石綿の許容濃度を0.5本/㎤(連続する4時間における平均)又は1.5本/㎤(連続する10分における平均),クロシドラ 2年に作業場の石綿粉じんの許容濃度について,クロシドライト及びアモサイト以外の石綿の許容濃度を0.5本/㎤(連続する4時間における平均)又は1.5本/㎤(連続する10分における平均),クロシドライト及びアモサイトの許容濃度を0.2本/㎤(連続する4時間における平均)又は0.6本/㎤(連続する10分における平均)とし,これに違反する場合には罰金が科されることとなった。また,アクションレベル(許容濃度とは別に,当該濃度に達した場合には一定の予防措置が義務付けられる数値)が定められ,クリソタイルについては0.25本/㎤,アモサイト及びクロシドライトについては0.1本/㎤とされた。(甲A1109)平成4年には,許容濃度が,クリソタイルについては0.5本/㎤ (連続する4時間における平均)又は1.5本/㎤(連続する10分における平均),他の種類のみの石綿粉じん又はクリソタイルと他の石綿の混合物を含む粉じんについては,0.2本/㎤(連続する4時間における平均)又は0.6本/㎤(連続する10分における平均)とされ,アクションレベルについてはクリソタイルのみ変更され,0.2本/㎤とされた。平成10年には,クリソタイル粉じんについて,0.3本/㎤(連続する4時間における平均)又は0.9本/㎤(連続する10分における平均),他の種類のみの石綿粉じん又はクリソタイルと他の石綿の混合物を含む粉じんについては0.2本/㎤(連続する4時間における平均)又は0.6本/㎤(連続する10分における平均)とされ,クリソタイルのアクションレベルは0.15本/㎤とされた。平成18年,全ての種類の石綿粉じんについて,0.1本/㎤(連続する4時間における平均)とし,測定方法については,1997年WHO推奨法(位相差光学顕微鏡による推奨方法(メンブランフィル とされた。平成18年,全ての種類の石綿粉じんについて,0.1本/㎤(連続する4時間における平均)とし,測定方法については,1997年WHO推奨法(位相差光学顕微鏡による推奨方法(メンブランフィルター法))に従うか,又は英国安全衛生委員会が承認した方法と同等の結果をもたらす方法により測定されなければならないとされた。(甲A1109,乙アA1029の1の29頁ないし39頁)(ウ) 昭和61年には,クロシドライト及びアモサイト並びにこれらの含有製品の供給及び使用とクロシドライト及びアモサイトの輸入を全面的に禁止した。また,同年1月から石綿の吹付けを禁止した。 平成11年,全石綿の使用を禁止した。ただし,当初は多くの適用除外品が定められていた。 (甲A67の2の3頁,1109)(エ) 「作業における石綿の管理規則」により,昭和63年3月から気中濃度の測定,原石綿,廃石綿に係る表示,2年に一度の健康診断,保護具の提供を定めた。また,同規則には,できる限り曝露を減らすための 方策を講じなければならない旨の規定があり,同規定に係る行動準則において石綿作業時の湿潤化が規定されるようになった。また,平成14年の同規則の改正により,平成16年5月から損傷,劣化のある場合の石綿の除去・封じ込め等の措置が義務付けられるようになった。(甲A67の1の40頁・41頁,67の2の3頁)イアメリカ(ア) アメリカでは,昭和47年に連邦職業安全衛生法(OccupationalSafetyandHealthAct)が制定されるまでは,政府機関ではない組織が作業環境における有害物質の許容レベルについて大きな役割を果たしてきた。これらのうちで有名なものは,ANSI(AmericanNationalStandardInstitu 機関ではない組織が作業環境における有害物質の許容レベルについて大きな役割を果たしてきた。これらのうちで有名なものは,ANSI(AmericanNationalStandardInstitute)のZ-37委員会と,ACGIHである。(乙アA138)(イ) ACGIHは,1950年代初めに,初めて最大許容濃度と呼ばれる曝露限界のリストを発表した。 昭和45年までは,アメリカにおける労働衛生問題はそれぞれの州で処理され,許容曝露濃度はANSIとACGIHの勧告から採用されていたが,昭和45年の連邦職業安全衛生法の議会通過とともに,連邦政府がANSIやACGIHの勧告に基づき設定した基準値がアメリカ全ての作業場に適用されることとなった。 ACGIHは,昭和47年,石綿に対するTLV(ThresholdLimitValues(閾値)。諸物質の気中濃度に関するものであり,毎日反復して曝露してもほとんどすべての労働者に有害な影響が認められないと考えられるような濃度(1日7時間から8時間,又は週40時間労働に対する時間加重平均濃度(TWA))である(乙アA137の36頁・37頁,138の5頁)。)として,全ての型の石綿に対し5f/㏄という値(メンブランフィルター法を用い,位相差照明で400から450 倍で測定)を定めた。その後,2,3回の改訂が行われ,昭和58年から昭和59年のTLVはクリソタイル2f/㏄,アモサイト0.5f/㏄,クロシドライト0.2f/㏄及びその他の石綿に対する値はクリソタイルと同じ2f/㏄とした。なお,ACGIHは,アメリカでは,石綿に対する曝露が30年間を超えることは極めて稀で,曝露期間は30年であると考えている。 なお,石綿のがん原性についてACGIHは,既に昭和48年の勧告以来,人に対し CGIHは,アメリカでは,石綿に対する曝露が30年間を超えることは極めて稀で,曝露期間は30年であると考えている。 なお,石綿のがん原性についてACGIHは,既に昭和48年の勧告以来,人に対して発がん性あり,とする立場をとっている。 連邦政府は,昭和47年7月より,許容濃度を5f/㏄(8時間の時間加重平均),天井値(短時間曝露によって有害な作用を及ぼすような物質に対して導入された概念。このような物質の環境中濃度は天井値で与えられたTLVを超えてはならないとされた。(乙アA137の37頁))10f/㏄とし,昭和51年より,許容濃度2f/㏄(8時間の時間加重平均),天井値10f/㏄とした。昭和61年には,許容濃度は0.2本/㎤(8時間の時間加重平均)とした上で,天井値10本/㎤を削除し,さらに平成3年には0.1本/㎤とした。 (甲A176,1026,1079,乙アA45の37頁,1029の1の40頁ないし42頁)(ウ) ニューヨーク市において,昭和45年に石綿吹付けの禁止を含む大気汚染規制条例案が議会に提出された。その後,同様の動きが,同年5月にシカゴとボストン,昭和47年にミネソタ州に拡がり,昭和48年にはアメリカ全州で吹付け石綿の禁止措置が執られるに至った。(甲A140の2の100頁,177の38頁,1048)(エ) 昭和55年から平成元年に建築物に使用されている石綿によって引き起こされた社会的パニックをきっかけにして,米国環境保護庁(EPA)は,平成元年7月の連邦官報で,「米国において平成9年までに3 段階にわたり,ほとんどの石綿含有製品の製造,輸入,加工及び商業的流通を禁止していく」との規制を公布した。 これに対し,連邦控訴審は,平成3年10月18日,平成元年のEPA規制は無効であるとの判決を下した。当 ,ほとんどの石綿含有製品の製造,輸入,加工及び商業的流通を禁止していく」との規制を公布した。 これに対し,連邦控訴審は,平成3年10月18日,平成元年のEPA規制は無効であるとの判決を下した。当該判決は,①管理状況下で,製品が製造,使用されれば,石綿繊維による人体曝露は生じないこと,②石綿含有製品の代替品には,石綿よりも大きい健康上の危険性を人間に与える可能性があること,といった理由等に基づくものであった。当該判決には,「EPA規制が公布された平成元年7月時点でアメリカ国内で製造,輸入,販売等が行われていない石綿含有製品と新しい石綿及び石綿含有製品の使用については禁止することができる」という項目が含まれていたため,EPAは,平成4年4月の連邦官報で,平成元年7月時点で製造,輸入,販売等が行われていないものとしてビニル石綿床タイル等14品目を禁止する旨発表した。これに対し,抗議が寄せられ,EPAは,平成5年11月,連邦官報において,平成4年の禁止品目14品目のうち8品目とそのほかの10品目併せて18品目(石綿スレート波板,石綿スレート,ビニル石綿床タイル,石綿セメント管等)の使用を正式に認めた。 なお,昭和61年にいったん追加された石綿含有製品の吹付け禁止条項については,昭和63年の連邦控訴審の決定に基づき,平成元年に削除された。 (甲A67の1の42頁・43頁,67の2の5頁,乙アA115の6頁ないし8頁)(オ) 労働者の曝露防止対策については,昭和45年の労働安全衛生法に基づく3つの連邦政府規制(「産業全般に係る労働安全衛生基準」「造船業に係る労働安全衛生基準」「建設業に係る労働安全衛生基準」)に規定された。これらにおいては,作業環境の測定,排気装置及び除じん 装置の設置,湿潤化,保護具の提供,健康診断等が 」「造船業に係る労働安全衛生基準」「建設業に係る労働安全衛生基準」)に規定された。これらにおいては,作業環境の測定,排気装置及び除じん 装置の設置,湿潤化,保護具の提供,健康診断等が義務付けられている。 (甲A67の1の43頁,67の2の5頁,1079,1080)ウドイツ(西ドイツ)(ア) 政府機関ではないドイツ研究協議会の工業有害物質検討委員会が作成したMAK(MaximaleArbeitsplatzkonzentration)値(現在の知見レベルで1日45時間で全労働生活にわたって曝露しても健康に影響を及ぼさないか,ひどい不快感を与えない数値。通常時間加重平均。)のリストを,労働省が公式の雑誌に掲載することによって勧告値となっていた。 (イ) 昭和48年,「健康に危害を及ぼす鉱物性粉じんからの保護に関する災害防止規定(VBG119)」により,クリソタイルを含む粉じんについては4.0㎎/㎥,クリソタイルのみの粉じんは0.15㎎/㎥とする技術的基準濃度が定められた。昭和51年には,クリソタイルを含む粉じんについては4.0㎎/㎥,クリソタイルのみの粉じんは0.1㎎/㎥(2本/㎤),アモサイトを含む粉じんについては4.0㎎/㎥,アモサイトのみの粉じんについては0.1㎎/㎥とされ(2本/㎤),昭和54年には,全ての石綿(クリソタイル,アモサイト,クロシドライト,アンソフィライト,トレモライト,アクチノライト)を含む粉じんについて2.0㎎/㎥,全ての石綿のみの粉じんについて0.05㎎/㎥(1本/㎤),とされ,3年間の経過措置として,既存施設に関しては,昭和57年までの間,全ての石綿を含む粉じん4.0㎎/㎥,全ての石綿のみの粉じん0.1㎎/㎥(2本/㎤)と定められた。昭和60年には,数値としてはクロシドライトについ 置として,既存施設に関しては,昭和57年までの間,全ての石綿を含む粉じん4.0㎎/㎥,全ての石綿のみの粉じん0.1㎎/㎥(2本/㎤)と定められた。昭和60年には,数値としてはクロシドライトについてのみ変更があり,クロシドライトを含む粉じんは2.0㎎/㎥,クロシドライトのみの粉じんについては0.025㎎/㎥(0. 5本/㎤)とされたが,同年以降,従前の年間平均値から時間加重平 均値(就業時間平均値)へ変更して適用されることとなった。昭和63年には,クロシドライト0.025㎎/㎥(0.5本/㎤),クリソタイル及びアモサイトは0.05㎎/㎥(81本/㎤)とされ,平成2年には,アモサイト及びクロシドライトについては使用されなくなったために濃度規制値を廃止し,クリソタイルについては,0.25本/㎤とした。(甲A176,442,1109,1306の2,乙アA102,1029の1の26頁ないし28頁)(ウ) 昭和54年に,労災保険組合の「健康に危害を及ぼす鉱物性粉じんからの保護に関する災害防止規定(VBG119)」の第1次改正により,石綿吹付けを禁止した。次に,同規定の第2次改正により,昭和59年1月1日から比重が1.0g/㎤未満の石綿セメント軽量建築用板材,吹付材等8種類の石綿含有製品の使用が禁止された。そして,同規定の改定及び連邦政府の「危険物質からの保護に関する省令」の制定(昭和61年8月)により,昭和61年10月から,石綿セメント管,耐酸・耐熱性填隙材及びトルク変換器を除いて,クロシドライトやクロシドライトを含有する調合品・製品の生産・流通・使用が原則禁止され,他の石綿を含有する調合品・製品についても,対象製品や用途,作業の内容を列挙して生産・使用が禁止され,さらに石綿含有製品への警告ラベルの標示が義務付けられた。ただし 生産・流通・使用が原則禁止され,他の石綿を含有する調合品・製品についても,対象製品や用途,作業の内容を列挙して生産・使用が禁止され,さらに石綿含有製品への警告ラベルの標示が義務付けられた。ただし,昭和61年10月以前の既生産品の流通禁止については,平成元年7月から適用,昭和61年10月以前の既生産・流通・使用品の使用禁止については平成3年1月から適用となる猶予措置が設けられた。また,「危険物質からの保護に関する省令」の第2次改正により,平成2年5月から,列挙されていたアスベスト含有製品等の流通が禁止され,猶予されていた石綿セメント管,耐酸・耐熱性填隙材(パッキン・ガスケット類),トルク変換器の生産・流通・使用が禁止された。そし て,「危険物質からの保護に関する省令」第4次改正,並びに「化学物質の禁止に関する省令」の制定により,平成5年10月から,全6種類の石綿及び含有率0.1%超の石綿含有製品の流通が禁止され,平成5年11月からそれらの生産・使用が全面的に禁止された。ただし,平成5年10月以前の既生産品の流通禁止については平成6年4月から適用された。(甲A67の1の41頁,67の2の4頁,176,442,1109,1306の2,乙アA102)(エ) 労働者の曝露防止対策としては,昭和48年に「健康に危害を及ぼす鉱物性粉塵からの保護に関する災害防止規定」により,粉じん濃度の測定・評価・改善,局所排気装置の設置等,呼吸保護具,就業前及び定期健康診断等が義務付けられた。続いて昭和54年には,同規定により石綿の吹付けが禁止された。石綿の取扱い上の措置については,平成5年に改正された「危険物質からの保護に関する省令」に規程されているが,排気措置及び除じん,一定有資格者の配置,気中濃度の測定,石綿作業時の湿潤化,保護具の使 。石綿の取扱い上の措置については,平成5年に改正された「危険物質からの保護に関する省令」に規程されているが,排気措置及び除じん,一定有資格者の配置,気中濃度の測定,石綿作業時の湿潤化,保護具の使用などの具体的方策については「危険物質に対する技術規程第519号」において規定された。(甲A67の1の41頁,67の2の4頁,1109)エフランス(ア) フランスにおいては,特に石綿又は石綿繊維の排出を引き起こす可能性のあるあらゆる製品若しくは物体の輸送,処理,形質転換,塗布,除去による曝露を受ける建築物に適用される石綿粉じん曝露の限度値を規定した「従業員が石綿の粉じんの影響にさらされる施設に適用される衛生上の特別措置に関する1977年8月17日付けのデクレ第77-949号」により,昭和52年,作業中における空気中の石綿粉じんの限度値(許容濃度)が1日の就労時間において2本/㎤以下(メンブランフィルターを用いて測定し,長さ5μ以上かつ幅3μ未満の繊維で, 長さ/幅の比が3を超える繊維のみを対象とする。)と定められ,保護具なしで,いかなる状況においても前記限度値を超えることがない場合を除き,石綿繊維の排出を引き起こす可能性のある作業は,湿潤化によるか,又はカバー付きの減圧機器の中で実施しなければならないとされた。ただし,臨時かつ短期の労働の場合や前記湿潤化等が技術的に不可能な場合には,従業員に対して個々の保護具,特に呼吸用保護具を提供しなければならない,と定められた。昭和61年,前記デクレが改正され,これによって,クロシドライト以外の石綿についての許容濃度が1本/㎤以下(8時間労働),クロシドライトについては0.5本/㎤以下(8時間労働),一部クロシドライトを含む石綿粉じんについては0. 8本/㎤以下(8時間労働)とされ 以外の石綿についての許容濃度が1本/㎤以下(8時間労働),クロシドライトについては0.5本/㎤以下(8時間労働),一部クロシドライトを含む石綿粉じんについては0. 8本/㎤以下(8時間労働)とされた。さらに,平成4年の改正により,クリソタイルについては0.6本/㎤以下(8時間労働),その他の種の石綿又はクリソタイルが混合されたその他の種の石綿については0. 3本/㎤以下(8時間労働)と定められた。その後,平成8年には,クリソタイルについては0.3本/㎤(平成10年1月1日以降0.1本/㎤)(8時間労働),その他の種の石綿又はクリソタイルが混合されたその他の種の石綿については,0.1本/㎤以下(8時間労働)とされ,使用者に対し,当該限度値を超える危険性がある場合には,個々の従業員が自由に使用できる適切な保護具を提供し,かつ,それらの保護具が実際に使用されるよう監視する義務を定めた。そして,平成18年には,すべての石綿粉じんを対象として,1時間の労働について0.1本/㎤以下とする限度値が定められた。(甲A176,208,1110,乙アA102,1029の1の20頁ないし24頁)(イ) フランスでは,昭和53年に,石綿繊維の吹付けへの使用を禁止した。 昭和63年に石綿セメント管,耐酸・耐熱パッキン等及びトルクコン バーターを除きクロシドライトの使用等を原則禁止とし,併せて,他の種類の石綿を含有する製品の使用等についても,規制の対象となる製品を列挙して禁止した。 その後,平成6年に,クリソタイル以外の石綿の輸入,販売,使用等を全面禁止とした。 平成9年1月から全ての石綿の製造,加工,販売,輸入,輸出等を禁止したが,代替品がない場合や中古車等の既に出回っている物の取引など(6種類の適用除外品)について多くの例外を含んでいた 禁止とした。 平成9年1月から全ての石綿の製造,加工,販売,輸入,輸出等を禁止したが,代替品がない場合や中古車等の既に出回っている物の取引など(6種類の適用除外品)について多くの例外を含んでいたことから,その後も規制が継続して強化され,平成14年1月に全面禁止に至った。 (甲A67の1の42頁,67の2の4頁・5頁,176,177,208,1110,乙アA102)オ EU(EC)(ア) 昭和58年,昭和61年までに,クロシドライトの販売・使用を原則として禁止することとし,ただし,石綿セメント管等の一定の除外品を設けた。また,昭和58年のEC指令により,昭和62年までの間に実施することとして,石綿吹付け作業の禁止,石綿の気中濃度の測定,健康診断,危険の表示,権限のある機関への通知等包括的な対策が初めて規定された。(甲A67の1の42頁,176,乙アA115の16頁)(イ) EUは,平成3年(1991年)のEC指令(91/656/EEC)により,平成5年(1993年)7月までに,クリソタイルを除く石綿の販売・使用を禁止することとした。 そして,平成11年(1999年)のEC指令(1999/77/EC)により,将来,クリソタイルの販売,使用も禁止することとし,その実施は,平成17年(2005年)1月までに行うとされた。なお,同年時点でも,一定の電気分解用の隔膜や禁止以前に設置されている製 品及び禁止以前の在庫品については例外とされている。 (甲A67の1の42頁)カカナダ主要なクリソタイル生産国であるカナダでは,クリソタイルについては,昭和58年に連邦政府が「カナダにおける石綿の規制に対する最新アプローチ」として管理使用のアプローチを承認する等,管理して使用すれば安全であるという立場を一貫してとって は,クリソタイルについては,昭和58年に連邦政府が「カナダにおける石綿の規制に対する最新アプローチ」として管理使用のアプローチを承認する等,管理して使用すれば安全であるという立場を一貫してとっている。 このため,昭和61年に採択された石綿条約については,クロシドライトの使用を原則禁止する一方で,クリソタイルについては管理使用を認めたものであるとして,昭和63年に批准した。また,平成元年に「有害製品取締法」及びこれに基づく規制を制定し,クロシドライトを含む製品の広告,販売,輸入を原則として禁止したが,一定の条件を満たす場合には,石綿セメント管,トルクコンバーター,一定の隔膜,耐酸・耐熱のパッキン等の販売,輸入を認めることとし,また,建物内部の吹付け石綿など低密度で脆弱な製品の使用を原則禁止した。アモサイトを含有する製品の広告,販売,輸入については,一般消費用品等特定の製品について禁止した。 一方,労働者の曝露防止対策としては,「労働安全衛生規則」により,排気装置,一定有資格者の配置,気中濃度の測定,健康診断,保護具の使用等が義務付けられている。 (甲A67の1の43頁・44頁,67の2の5頁・6頁) 2 判断(1) 建築現場における石綿粉じん曝露の実態前記1の認定事実によれば,以下の事実が認められる。 ア建築現場における石綿含有建材の使用実態(ア) 我が国において,石綿は,耐火性及び耐熱性等の特性を生かし,重要な工業材料として広く利用され,その輸入量は昭和25年以降増加し 続けた。特に昭和40年以降は増加が著しく,昭和49年には35.2万tと最高値を記録した。その後,世界的に石綿の有害性が明らかになるにつれ,我が国においても石綿条約等の影響によりその輸入量及び使用量は急速に減少していったが,平成5年頃まで 昭和49年には35.2万tと最高値を記録した。その後,世界的に石綿の有害性が明らかになるにつれ,我が国においても石綿条約等の影響によりその輸入量及び使用量は急速に減少していったが,平成5年頃までは20万t以上の使用量があった。我が国においては,平成18年まで石綿の輸入が継続されていたところ,輸入量の約7割以上が建材に使用されていた。 我が国において,戦後に製造販売等された石綿含有建材の種類は多く,そのため,建築物の屋根,外壁,天井及び内壁等様々な箇所において石綿含有建材を用いることが可能であった。 (イ) 我が国においては,戦後,住宅不足を解消するための政策が実施され,昭和30年には住宅行政の三本柱(公営住宅,住宅金融公庫の融資による住宅,日本住宅公団の建設する住宅)が確立し,同年以降,被告国が住宅建設十箇年計画や住宅建設五箇年計画等の実施や昭和41年6月の住宅建設計画法の制定等によって,住宅の量的充足と居住水準の改善を進めた結果,特に昭和41年以降は年平均100万戸以上の住宅が建築され,昭和55年には住宅の戸数面での量的充足は達成された。 このように建築着工数が増加するに従い,従来の手作業による現場一本生産方式では,熟練労働者の不足等により対応できなくなってきたことから,建設省は公共住宅のプレハブ化を契機に建築産業全体をプレハブ態勢へ転換させる方針を立て,昭和36年以降公共住宅用規格部品の使用の推進を図った。プレハブ化が推進される中で,石綿含有建材は,特に超高層ビル構造体(鉄骨造,鉄筋コンクリート造)において多く使用されるようになった。 また,我が国においては,都市の不燃化が従来からの課題とされていたことから,前記住宅供給政策においても住宅の不燃化が意図され,日本住宅公団や住宅金融公庫が用いていた工事仕様書等において,昭和 た。 また,我が国においては,都市の不燃化が従来からの課題とされていたことから,前記住宅供給政策においても住宅の不燃化が意図され,日本住宅公団や住宅金融公庫が用いていた工事仕様書等において,昭和3 0年代以降昭和63年頃まで,その耐火性能等を考慮して石綿スレート等の石綿含有建材が指定された。これによって,公営住宅及び民間住宅のいずれにおいても石綿含有建材を使用して建築される住宅が増加し,また,昭和30年に通産省が国内資源保護の見地から木材資源の節約を意図して「木材資源利用合理化方策」を閣議決定したことをきっかけに,石綿スレートが,その有する耐火性等の性質が近代建築に適合するとして活用されはじめ,昭和34年以降住宅用として多く用いられることとなった。不燃耐火住宅の建築技術については,昭和30年に日本住宅公団により2万戸の不燃耐火住宅の発注等がなされたことを契機に建築業者において蓄積,進歩していった。 さらに,昭和25年に旧建基法が制定されて以降,同法に基づいて,鉄骨造建築物等において耐火構造等を採用することが義務付けられており,制定当初から不燃材料の例示として石綿含有板(石綿スレート)が定められていた。その後も,昭和34年には石綿スレートを用いた構造が防火構造として定められ,昭和39年には耐火構造として吹付け石綿を用いた構造が指定されるなど,建基令や告示,個別の指定,認定(昭和44年以降は通則的な認定も可能となった。)等によって,多くの種類の石綿含有建材及びこれを用いた構造が,耐火構造等として指定,認定された。また,昭和34年改正建基法において内装制限が設けられ,昭和45年にその対象範囲が拡大されたことにより,準不燃材料や難燃材料(ないしこれらに準ずる材料)の需要は増大し,第一種不燃材料である石綿スレートの製造及び 年改正建基法において内装制限が設けられ,昭和45年にその対象範囲が拡大されたことにより,準不燃材料や難燃材料(ないしこれらに準ずる材料)の需要は増大し,第一種不燃材料である石綿スレートの製造及び出荷量は飛躍的に増加した。昭和40年代後半には,準不燃材料中石綿含有建材が占める割合は35%程度であり,不燃材料中石綿含有建材が占める割合は75%程度であった。 (ウ) このように,戦後,被告国が取り組んだ住宅供給政策や建築物の不燃化の促進等により,特に昭和40年代以降,建築産業において,石綿 含有建材の需要が高まり,その使用量が増加したことが認められる。 イ建築作業従事者の石綿粉じん曝露状況(ア) 前記1(4)及び(5)のとおり,建築工事においては,大工,内装工,板金工,左官工,電工,配管工等がそれぞれ建築作業を分担して担当し,予め定められた工期の中で作業を行う。異なる職種の者同士が同一の作業を協力して行うことは原則としてないが,仕上げ工事と設備工事のように同時期に行われる作業が存在し,また,工期等の関係で各職種の作業が同じフロア内等の近接した場所において同時に行われることがある。 また,解体作業においては,新築の場合に比べて他職種との同時並行作業が行われることが多くなる。 建築現場においては,新築又は改修工事の場合,屋根,天井,床,内壁及び外壁等に用いられる各種の石綿含有建材の切断等の加工作業や,モルタル練り等の石綿含有建材の混合作業,さらに,鉄骨造建築物等においては,耐火被覆工事として石綿の吹付け作業等が行われ,また,改修工事や解体工事においては,石綿含有建材が使用されている場合にこれを切断,破砕,剥離する作業等が行われるため,これらの作業によって石綿粉じんが発生した。前記のような石綿粉じんが発生する作業に従事する 事や解体工事においては,石綿含有建材が使用されている場合にこれを切断,破砕,剥離する作業等が行われるため,これらの作業によって石綿粉じんが発生した。前記のような石綿粉じんが発生する作業に従事する建築作業従事者(大工,内装工,ボード工,板金工,左官工,電工,配管工,築炉工,解体工)は,当該作業によって発生した石綿粉じんに直接曝露し,また,同時並行で他の職種が石綿粉じんを飛散させる作業を行っている場合や作業終了後等に実施される清掃作業を行う場合には,他の職種の建築作業従事者が発生させた石綿粉じんに間接曝露するといった状況にあった。また,石綿含有建材を直接取り扱うことのない現場監督等は,各職種の作業の確認の際や,清掃作業の際に,他の職種の作業によって発生した石綿粉じんに間接曝露する状況にあった。 (イ) 我が国においては,昭和30年頃から電動工具が普及し始め,昭和 40年代以降その生産量及び出荷量が急激に増加し,昭和60年頃には年間出荷量が1000万台を超えていた。電動工具の普及は,作業の迅速化とともに,建材の加工等の際に発生する粉じん量の増加をもたらしており(前記1(6)),よって,電動工具の普及が急速に進んだ昭和40年代以降,建築現場において石綿含有建材の加工等に伴い発生する石綿粉じん量が増加したものと推認できる。 ウ建築現場における石綿粉じんの発生状況等(ア)a 日本産業衛生学会は,昭和40年から石綿粉じんについての許容濃度の勧告を行い,同年においては,2㎎/㎥(33繊維/㎤相当)とした。その後,昭和49年にクロシドライト以外の石綿粉じんについては,許容濃度を2繊維/㎤,いかなるときも15分間の平均濃度が超えてはならない濃度として10繊維/㎤と定め,クロシドライトの許容濃度については,前記値をはるかに下回る必要 ト以外の石綿粉じんについては,許容濃度を2繊維/㎤,いかなるときも15分間の平均濃度が超えてはならない濃度として10繊維/㎤と定め,クロシドライトの許容濃度については,前記値をはるかに下回る必要があるとした。 その後,昭和56年には,クロシドライト以外の石綿粉じんについては変更がなかったが,クロシドライトについては,0.2繊維/㎤と勧告した。前記許容濃度の変更(厳格化)は,その当時の海外における資料や動向を踏まえてなされたものであった。 なお,被告国によって定められた粉じん濃度の評価基準としては,昭和46年に労働環境技術基準委員会が抑制濃度の値として2繊維/㎥(33繊維/㎤相当)が適切であると報告し,これを受けて同年,旧特化則において局所排気装置に係る石綿についての抑制濃度を2繊維/㎥と定め,その後,昭和48年に通達により抑制濃度を5繊維/㎤とし,さらに,昭和51年にはクロシドライト以外の石綿粉じんについては2繊維/㎤,クロシドライトについては0.2繊維/㎤と定めた。そして,昭和59年には,抑制濃度ではなく,管理濃度(個人の曝露濃度についての基準ではなく,曝露限界とは別の行政的規制の ための濃度)として,2繊維/㎤とし,昭和63年には通達により,クロシドライトを除く石綿粉じんについては2繊維/㎥,クロシドライトについては0.2繊維/㎤と定めた。 b 建築作業時に発生する石綿粉じん濃度の測定結果としては,①労働省が昭和46年に測定した石綿吹付け作業時の石綿粉じん濃度(前記1(9)ア及びイ),②昭和53年9月の「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」記載の,イギリス及びアメリカにおける建築作業時の石綿粉じん濃度,及び昭和51年に測定された我が国における電動鋸による石綿スレートの切断時に発生する石綿粉じん濃 害に関する専門家会議検討結果報告書」記載の,イギリス及びアメリカにおける建築作業時の石綿粉じん濃度,及び昭和51年に測定された我が国における電動鋸による石綿スレートの切断時に発生する石綿粉じん濃度(前記1(9)イ),③昭和60年3月の「石綿取扱い事業場等実態調査研究」報告書における,高層ビル建築現場の密閉された室内での石綿含有建材の施工作業時の石綿粉じんの環気中濃度及び個人曝露濃度(前記1(9)ウ),④昭和63年久永ら測定結果における建材の電動丸鋸による切断作業ややすり掛け作業時に発生する気中石綿粉じん曝露濃度等(前記1(9)カ),⑤平成9年作業マニュアルに記載された,昭和59年及び昭和63年に測定された室内での石綿含有建材の切断等の加工作業時に発生する石綿粉じんの個人曝露濃度(前記1(9)キ),⑥平成元年久永ら測定結果における屋内での電動丸鋸を使用した石綿含有建材の切断作業時における気中石綿粉じん濃度(前記1(9)ケ),⑦平成4年通達に掲載された石綿含有建材の切断作業時並びに切断作業室内の小運搬作業時及び施工作業時の個人曝露濃度(前記1(9)コ),⑧平成18年手引に記載された,吹付け石綿を除去した翌日に除去によって発生した石綿粉じんが堆積した床を箒で掃除した場合,吹付け石綿が吹き付けられた天井を箒で掃いた場合,吹付け石綿除去中,Pタイル除去,フレキシブル板除去,石綿含有建材の電動丸鋸による切断時における石綿粉じん濃度(前記1(9)サ)は, いずれも概ね2繊維/㎤を上回っている。また,①労働省が昭和46年に測定した石綿吹付け作業時の石綿粉じん濃度(前記1(9)ア及びイ),②昭和53年9月の「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」記載の,イギリス及びアメリカにおける建築作業時の石綿粉じん濃度,並びに昭 け作業時の石綿粉じん濃度(前記1(9)ア及びイ),②昭和53年9月の「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」記載の,イギリス及びアメリカにおける建築作業時の石綿粉じん濃度,並びに昭和51年に測定された我が国における電動鋸による石綿スレートの切断時に発生する石綿粉じん濃度(前記1(9)イ),③昭和60年3月の「石綿取扱い事業場等実態調査研究」報告書における,高層ビル建築現場の密閉された室内での石綿含有建材の施工作業時の石綿粉じん濃度(前記1(9)ウ),④昭和63年久永ら測定結果における建材の電動丸鋸による切断作業ややすり掛け作業時に発生する気中石綿粉じん曝露濃度等(前記1(9)カ),⑤平成元年久永ら測定結果における屋内での電動丸鋸を使用した石綿含有建材の切断作業時における気中石綿粉じん濃度(前記1(9)ケ)については,日本産業衛生学会が昭和49年に勧告した天井値(いかなるときも15分間の平均濃度がこの値を超えてはならないとする濃度)を超える値が計測された。 これらの石綿粉じんの気中濃度及び個人曝露濃度の測定結果,並びに,被告国自身が発出した平成4年通達の別紙において,通気の不十分な屋内作業場において電動丸鋸を使用して切断作業を行う場合には,石綿の管理濃度(当時の2繊維/㎤)を超える状況があると評価していることからすれば,建築現場において,建築作業従事者は,少なくとも屋内における石綿の吹付け作業や電動工具を用いた石綿含有建材の切断等の加工作業,解体作業等によって,日本産業衛生学会が昭和49年に勧告した許容濃度及び天井値を上回る濃度の石綿粉じんに,直接曝露又は間接曝露する危険性があったことが認められる。 c 平成18年手引においては,建設業に関し,石綿吹付けや電動工具 による石綿製品切断時には石綿粉じん濃 る濃度の石綿粉じんに,直接曝露又は間接曝露する危険性があったことが認められる。 c 平成18年手引においては,建設業に関し,石綿吹付けや電動工具 による石綿製品切断時には石綿粉じん濃度が高濃度となるが,多くは中濃度曝露作業であるとし,また,平成9年のヘルシンキ・クライテリアにおいても,石綿の吹付け作業,解体業については高濃度曝露とされ,建設業としては中濃度曝露に分類されていることからしても,建築現場において行われる作業は,石綿粉じん曝露量の多い作業であるといえる。 (イ) 一方,昭和63年久永ら測定結果のうちの石綿含有建材を用いた屋根葺き作業時の気中石綿濃度については,同測定結果中の屋内作業による気中石綿濃度よりも非常に低い濃度となっており,前記昭和49年に日本産業衛生学会が勧告した許容濃度を下回る値となっている(前記1(9)カ)。加えて,昭和62年から昭和63年に社団法人石綿協会が測定した屋外における石綿含有建材の電動工具を用いた加工作業等の際の石綿粉じんの個人曝露濃度(平成9年作業マニュアル記載)は,電動工具を用いているにもかかわらず,最も高い濃度で0.31繊維/㎤であり,ほとんどが0.2繊維/㎤を下回っていた(前記1(9)キ)。また,昭和62年東ら測定結果においては,ほとんどの測定結果において前記許容濃度(2繊維/㎤)以下であった(前記1(9)オ)。以上の測定結果に加え,屋外における濃度測定においては風向,風速等が影響することや,空間が狭く換気量の少ない場所は石綿粉じん濃度が高くなり,外気中等は空間が広く,窓や局所排気装置が設置され換気量の高い空間では石綿濃度は低くなることが指摘されている(前記1(9)オ及びサ)。 建築現場においては,新築の場合,仮設工事や基礎工事は完全に開放された空間において行われるが, 気装置が設置され換気量の高い空間では石綿濃度は低くなることが指摘されている(前記1(9)オ及びサ)。 建築現場においては,新築の場合,仮設工事や基礎工事は完全に開放された空間において行われるが,躯体工事中に足場が組まれてその外側全体にシートが張られ(シート養生),さらにその後,屋根や外壁が施工され,窓ガラスやドア扉が設置されるというように,作業の進行とともに,建築物内部の密閉度は高まるものであり,また,改修工事におい ては建築物の主要構造部分を残したまま内装や間取りを改造するものであることから,建築物内部で行われる内装工事や設備工事等については,完成した建築物と同程度密閉された状態での作業となると考えられる。 前記各測定結果や指摘等を踏まえれば,建築工事においては,作業を行う場所や関与する時期によって,建築作業従事者が石綿粉じんに曝露する量が異なるといえ,特に,屋外における石綿含有建材を用いた建築作業によって発生する石綿粉じんについては,風速,風向等によって差が生じるものの,原則として,屋内における石綿含有建材の加工作業等により建築作業従事者が曝露する石綿粉じん濃度よりも相当程度希釈され,昭和49年の日本産業衛生学会が勧告した許容濃度(2繊維/㎤)よりも低い値となるものと推認される。 (2) 建築現場における建築作業従事者の石綿関連疾患の危険性前記(1)のとおり,建築現場においては,特に,石綿吹付け作業や電動工具の使用による石綿含有建材の加工作業が多く行われるようになった昭和40年代以降,多量の石綿粉じんが発生し,これによって建築作業従事者が石綿粉じんに曝露する状況にあったことが認められる。 昭和46年には,瀬良が,建築作業従事者のうち石綿吹付け作業を行う者39名中6名(15.4%)が石綿肺に罹患していたこと,及び て建築作業従事者が石綿粉じんに曝露する状況にあったことが認められる。 昭和46年には,瀬良が,建築作業従事者のうち石綿吹付け作業を行う者39名中6名(15.4%)が石綿肺に罹患していたこと,及び石綿吹付け作業による我が国最初の死亡例を報告し,また,昭和49年には労働省が鉱業や石綿製造業に加えて建設業に対しても「石綿取扱い作業者のじん肺罹患状況」調査を行い,石綿製造業の罹患率は6.6%,建設業の罹患率は3. 5%,鉱業では0%との結果が得られていた。また,海老原らが昭和58年から平成18年までに3期に分けて実施した関東地区(主に東京)における建築作業従事者の石綿関連疾患罹患状況等の調査によれば,吹付け工,大工,鉄工,軽天工,板金工,左官工,塗装工,保温工,電工,空調工,配管工,築炉工,解体工等多くの職種についてびまん性胸膜肥厚や石綿肺,肺がん及 び中皮腫への罹患が認められており,平成18年手引においては石綿粉じんへの直接曝露が認められない現場監督に関する労災認定事例が紹介されている。さらに,被告国が定めた労災認定に関する基準においては,昭和53年時点で「石綿若しくは石綿製品の取り扱い又は石綿製品を被覆材若しくは建材として用いた建築物の補修,解体等の作業工程において石綿粉じん曝露を受ける作業」が石綿曝露作業とされ,平成15年には,石綿又は石綿製品を直接取扱う作業の周辺等において間接的な曝露を受ける可能性のある作業が追加され,さらに平成18年には石綿曝露作業として「石綿の吹付け作業」や「石綿製品の切断等の加工作業」等も明確に定められており,加えて,厚労省による平成18年度から平成22年度までの各年度の労災保険給付等の請求・決定状況についての報告において,肺がん及び中皮腫とも建設業の割合が高く,中皮腫については支給決定がなされ おり,加えて,厚労省による平成18年度から平成22年度までの各年度の労災保険給付等の請求・決定状況についての報告において,肺がん及び中皮腫とも建設業の割合が高く,中皮腫については支給決定がなされた件数の約4割から約5割が建設業であったこと,厚労省による平成19年度及び平成20年度の「石綿曝露作業による労災認定等事業場一覧表」によれば,石綿曝露作業による労災認定がなされた事業場の半数以上が建設業であることが認められる。(前記1(10))以上のような建設業における石綿関連疾患の発生状況に加え,石綿関連疾患の潜伏期間が,石綿肺及び肺がんについては最初の石綿曝露から10年以上(ただし,肺がんについては30年から40年程度経過して発症することが多い。),中皮腫については20年から40年程度であることを考慮すれば,前記海老原らの調査や平成18年以降の厚労省の労災認定に関する報告において発症が確認された建築作業従事者の石綿関連疾患に係る石綿粉じんの曝露時期は,昭和40年代以降であったと考えられ,建築作業従事者には,特に昭和40年代以降石綿粉じん曝露による石綿関連疾患罹患の危険性が高くなっていたことを示すものといえる。 (3) 建築現場における石綿粉じん曝露による健康障害の危険性についての被 告国の認識ア(ア) 前記第2,1及び2(2)イ並びに前記第3,1の各認定事実によれば,石綿粉じんに曝露することによって石綿肺に罹患することについての医学的知見は昭和31年度研究及び昭和32年度研究によって確立し,同調査研究においては石綿工場における石綿粉じん曝露による石綿肺の被害が深刻な状況にあったことが明らかにされていたところ,我が国においては,まず,鉱山におけるじん肺が問題視され,その後,石綿粉じんによる石綿関連疾患に関して主に石綿 る石綿粉じん曝露による石綿肺の被害が深刻な状況にあったことが明らかにされていたところ,我が国においては,まず,鉱山におけるじん肺が問題視され,その後,石綿粉じんによる石綿関連疾患に関して主に石綿工場を対象とした調査研究が進められ,保険院調査や昭和31年度研究及び昭和32年度研究においてもその調査研究の対象は鉱山及び石綿工場であったため,この時点において実際に労働者に石綿関連疾患の発症やその深刻さが確認されていたのは鉱山や石綿工場の労働者についてであり,昭和30年代においては,建築現場における石綿粉じんの発生状況や建築作業従事者の石綿粉じん曝露が問題視され,調査研究の対象となることはほとんどなかったといえる。そして,前記第2,1の海外における医学的知見の集積に関する調査研究等によれば,諸外国においても,石綿粉じん曝露による健康障害はまず鉱山や石綿工場において問題視され,昭和30年代にはこれらの場所における作業が主な調査研究対象となっていたことが窺える。昭和39年4月に発行されたアメリカの雑誌「JAMA」(甲A204の2)においては,石綿関連疾患について「過去のほとんどの報告は石綿製造業や石綿製品産業に関するものであったが,現時点では,こういった産業が石綿曝露の最も重要な場面であるとは限らない。」として,石綿製造業や石綿製品産業以外の産業においても石綿粉じん曝露による危険性についての調査の必要性が指摘されている。 なお,瀬良は,労働省労働衛生試験研究以降も継続して大阪地方における石綿検診を行っていた結果,昭和39年に石綿吹付け作業者39名 中6名に石綿肺を認めたとしているが,本件各証拠によれば,昭和45年11月17日の朝日新聞において,瀬良が吹付け工に石綿肺の発生が認められた旨明らかにしたことが記載されていること(甲A 中6名に石綿肺を認めたとしているが,本件各証拠によれば,昭和45年11月17日の朝日新聞において,瀬良が吹付け工に石綿肺の発生が認められた旨明らかにしたことが記載されていること(甲A79の2),前記吹付け工の石綿肺発生についてのより具体的な結果が報告されている文献は,昭和46年の「労働と科学」26巻9号に掲載された「石綿作業と肺疾患」と題する瀬良の論文(甲A8)及び昭和58年に発行された「大阪の労働衛生史」に掲載された「大阪の石綿肺」と題する瀬良の論文(甲A13)であると認められることから,前記石綿吹付け作業者における石綿肺の発症についての瀬良の調査結果が昭和45年以前に明らかにされていたとは認められない。 (イ) 前記(2)のとおり,建設業に関して,昭和40年代以降,被告国が取り組んだ住宅供給政策や建築物の不燃化の促進等による石綿含有建材の使用量の増加や電動工具が普及したことに伴い,石綿吹付け作業や石綿含有建材の切断等の加工作業等により,建築現場において発生する石綿粉じん量が増加し,同所において作業をする建築作業従事者の石綿関連疾患罹患の危険性が増大したことが認められる。 昭和45年頃には,数は少ないものの,石綿吹付け作業や石綿スレートの使用増加による石綿肺や肺がんの危険性を示唆する内容が報道されており(前記1(11)ア),国会においても瀬良による吹付け工の石綿肺罹患の報告等が指摘されていたこと(前記1(12)ア),また,昭和47年に労働省が屋内作業場における石綿スレートの切断に際しては,特化則5条の定めにより局所排気装置の設置が必要であるとの見解を示していること(前記1(12)ウ),昭和47年10月に制定された安衛法においては,建設業においても新たに職長等に就くこととなった職長等に対して,石綿粉じん作業にかか 置の設置が必要であるとの見解を示していること(前記1(12)ウ),昭和47年10月に制定された安衛法においては,建設業においても新たに職長等に就くこととなった職長等に対して,石綿粉じん作業にかかる作業方法の決定及び環境の改善の方法等安全衛生教育を行わなければならないとしていたこと(甲A67の1の 9頁),昭和47年に労働省労働衛生研究所の坂部弘之が行った研究報告において,世界における石綿の主要な用途として床タイルや屋根等の石綿含有建材が記載されていたこと(甲A31の10頁ないし13頁)等からすれば,被告国は,昭和47年頃において,建築現場における石綿吹付け作業や石綿含有建材の加工作業により石綿粉じんが発生していること,及び,少なくとも屋内作業場における石綿吹付け作業及び石綿含有建材の加工作業時においては,周囲の濃度が5繊維/㎤となる能力を有する局所排気装置の設置が必要である,すなわち,石綿粉じんの発散源においてはそれ以上の濃度の粉じんが発生する作業が行われていることを認識していたといえる。 (ウ) そして,被告国は,昭和47年にILO,WHOの専門家会議において石綿のがん原性が指摘されたこと,昭和48年6月に開催されたILO総会において「職業がんの管理と予防」が議題として取り上げられ,昭和49年6月にILOが職業がん条約を採択したこと等を受けて,昭和49年5月に専門家の参集を求めて「有害物等に関する検討専門家会議」を設け,石綿等の安衛法上の有害物に関する規制の対象として追加する物質等に係る技術的問題について検討を行い,その検討結果を踏まえて特化則等の関係政省令の改正の検討をし,昭和49年9月に中央労働基準審議会へ諮問してその承認を得,昭和50年に特化則を改正したところ,昭和50年改正特化則においては,石綿粉じん曝露 討結果を踏まえて特化則等の関係政省令の改正の検討をし,昭和49年9月に中央労働基準審議会へ諮問してその承認を得,昭和50年に特化則を改正したところ,昭和50年改正特化則においては,石綿粉じん曝露可能性が高いとして石綿吹付け作業を原則禁止し,また,石綿含有製品等の切断,穿孔,研ま,破砕,解体,混合作業やこれを容器から出し入れする作業については石綿粉じんを発散しやすい作業として,原則として湿潤化を義務付けるなど,それまでに石綿粉じん曝露による労働者の健康障害が明らかになっていた石綿工場以外の場所をも対象とする規定を設けており(前記第2章第3節第1,6,甲A67の1),前記のとおり昭和4 7年頃の時点で,被告国が建築現場の屋内作業場における石綿吹付け作業及び石綿含有建材の切断等の加工作業によって相当量の石綿粉じんが発生していることを認識していたことからすれば,前記各規定は建築現場における作業についても前提として規定されたものと解される。よって,被告国は,遅くとも,石綿に関する規制を制定することを前提として特化則等の関係省令等の改正を検討した昭和49年時点において,建築現場における前記各作業(石綿含有建材の切断,穿孔,研ま,破砕,解体,混合等)により発生する石綿粉じんにより,建築作業従事者に石綿関連疾患が発生する危険性を認識していたといえる。 イ昭和51年通達において,建設業における石綿の使用実態が十分把握されていないので,元方事業者又は関係業界を通じて関係事業を把握すること(前記第2章第3節第1,7(2)),とされ,また,昭和49年11月に発行された「東洋経済」に掲載された記事においては,昭和49年時点において労働省が石綿肺の患者実態について把握できていないことが指摘されている(前記1(11)イ)。 しかし,労働省は 9年11月に発行された「東洋経済」に掲載された記事においては,昭和49年時点において労働省が石綿肺の患者実態について把握できていないことが指摘されている(前記1(11)イ)。 しかし,労働省は,昭和46年に石綿吹付け作業時の石綿粉じん濃度の測定を実施し(結果の発表は昭和47年),その結果,石綿含有量が50パーセントの石綿吹付け材であっても,乾式,湿式のいずれにおいても当時日本産業衛生学会が勧告していた許容濃度(2㎎/㎥)さえ大幅に上回る濃度の石綿粉じんが発生するとの結果を得ており(前記1(9)ア及びイ),かつ,昭和40年代後半には石綿吹付けが建基法の定める耐火構造として広く用いられていることを認識していたことが認められる。 また,昭和50年時点においては,建築現場における石綿含有建材に関する作業によってどの程度の濃度の石綿粉じんが発生しているかについての具体的な測定結果は得られていなかったとしても(前記1(9)の測定結果は,昭和47年に発表された労働省による建築現場における前記石綿粉 じん濃度測定以外は,いずれも昭和51年以降に測定されている。),同時期においては石綿肺のみならず肺がん及び中皮腫と石綿との因果関係に関する医学的知見が確立しており,さらに,前記のとおり,被告国は,遅くとも昭和47年頃には石綿含有建材の切断等の加工作業により相当量の石綿粉じんが発生することを認識していたのであるから,被告国にとって,建築現場における石綿粉じん濃度を測定し,同所における石綿粉じんに関する曝露実態の把握を行うための契機となる事情はすでに存在していたといえ,また,メンブランフィルター法及びエックス線回析法が考案されたことにより石綿に着目した粉じん濃度の測定が可能となったところ,我が国においては,「特定化学物質等障害予防規則に係 に存在していたといえ,また,メンブランフィルター法及びエックス線回析法が考案されたことにより石綿に着目した粉じん濃度の測定が可能となったところ,我が国においては,「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(昭和48年基発第407号)において作業環境気中濃度の測定方法としてメンブランフィルター法及びエックス線回析法が採用され,また,昭和49年の日本産業衛生学会による許容濃度の勧告の際にはメンブランフィルター法を用いた測定方法が示されていたことからすれば,我が国においては,遅くとも昭和48年頃には,メンブランフィルター法を用いた石綿粉じん濃度測定方法が確立していたと考えられ,遅くとも昭和49年時点においては,被告国は建築現場における建築作業に伴う石綿粉じん濃度の測定を行うことが可能な状況にあり,昭和40年以降建築現場における石綿粉じんの発生量が増加していたことに加え,昭和50年以降に建築作業工程等に大きな変化があったとは認められないことからすれば,昭和49年時点で建築現場における建築作業従事者の石綿粉じん曝露量等を測定した結果は,前記1(9)の測定結果と大きく異なるものではないと推認される。 昭和50年頃の諸外国における石綿粉じん濃度規制等の状況からすれば,石綿についてその規制が次第に強化される傾向にあり,先進諸国における規制濃度(許容濃度等)は概ね2繊維/㎤から5繊維/㎤とされていたこ とが認められる。昭和47年のIARCリヨン会議においてなされた報告内容について同年中にその内容を記載した研究報告等がされたこと(前記第2,1(2)イ(カ),甲A31),昭和45年にニューヨーク市が石綿吹付けの禁止を含む大気汚染規制条例案を議会に提出したことについて,同年内に我 中にその内容を記載した研究報告等がされたこと(前記第2,1(2)イ(カ),甲A31),昭和45年にニューヨーク市が石綿吹付けの禁止を含む大気汚染規制条例案を議会に提出したことについて,同年内に我が国において新聞報道がされていること,「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(昭和48年基発第407号)において,当時諸外国において気中石綿粉じん濃度を抑制する措置が強化されつつあることから抑制濃度を5繊維/㎤として指導するよう指示していること(前記第2章第3節第1,5(2)),日本産業衛生学会が昭和49年の許容濃度の勧告に際して諸外国における規制濃度の厳格化を踏まえて検討していること等からすれば,石綿に関する諸外国の対応や規制の状況等についての情報は,時間をおかずに我が国に伝わっていたと考えられ,前記のような諸外国における規制濃度等について,被告国は当時から十分に把握していたといえる。 よって,被告国は,昭和50年頃には,日本産業衛生学会により勧告された許容濃度に加え,諸外国における規制濃度の値からも,石綿粉じん濃度が2繊維ないし5繊維/㎤を超える濃度になる作業場においては石綿関連疾患罹患の危険性が高いことについて,十分に認識していたと認められる。 以上の点からすれば,遅くとも昭和50年時点において,被告国は,建築現場において石綿粉じん濃度測定を行うことにより,建築現場における石綿関連疾患罹患の危険性について容易に認識することができたといえる。 ウ以上のことから,被告国は,遅くとも昭和50年時点において,少なくとも,建築現場における屋内作業場での石綿含有建材の切断,穿孔,研磨,破砕,解体,混合,又は粉状の石綿等を容器から出し入れする作業及び屋内外における石綿吹付け作業(以下 和50年時点において,少なくとも,建築現場における屋内作業場での石綿含有建材の切断,穿孔,研磨,破砕,解体,混合,又は粉状の石綿等を容器から出し入れする作業及び屋内外における石綿吹付け作業(以下「石綿粉じん曝露作業」という。)に従事することにより,建築作業従事者が石綿粉じんに曝露し,石綿関連疾 患に罹患する危険性を具体的に認識することができたものであって,よって,昭和50年時点において,被告国には前記危険性についての予見可能性があったことが認められる。 (4) 被告国の主張について被告国は,建築現場における石綿粉じん曝露作業は一時的かつ間欠的なものであるのが通常であり,短時間における石綿粉じんへの曝露が比較的高濃度に至ることがあっても,平均曝露濃度として換算すれば,相当に低く,許容濃度以下に抑制されることが多い旨主張するが,前記1(4)及び(5)によれば,建築作業従事者の石綿曝露作業が必ずしも一時的かつ間欠的なものであるとまではいえず,また,間接曝露を考慮すれば,建築現場における建築作業従事者の石綿粉じん曝露が一時的なものにとどまるとは認められない。さらに,実際に多数の建築作業従事者が建築現場における石綿粉じん曝露により石綿関連疾患を発症していること(前記1(10))からしても,建築現場における石綿粉じん量が許容濃度以下であったとは認められない。加えて,前記1(7)イのとおり,日本産業衛生学会は,許容濃度について,「許容濃度は安全と危険の明らかな境界を示したものと考えてはならないため,労働者に何らかの健康異常がみられた場合に,許容濃度を越えたこと又は越えていないことのみを理由として,その物質等による健康障害であるか否かを判断してはならない」とし,また,昭和40年に示された許容濃度の勧告においては,一時曝露濃度の上 に,許容濃度を越えたこと又は越えていないことのみを理由として,その物質等による健康障害であるか否かを判断してはならない」とし,また,昭和40年に示された許容濃度の勧告においては,一時曝露濃度の上昇は,しばしば予想外の影響を健康に及ぼすものであるから,これについては特別な考慮が必要であると指摘されていたこと,また,昭和49年の許容濃度の勧告においては,石綿粉じんに対する労働者の曝露は比較的恒常的な濃度に継続的に曝露されるものまで広範囲にわたるため,いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を超えてはならない濃度(ceiling 値・天井値)を定めていることからすれば,一時的かつ間欠的な曝露(短時間であっても高濃度の石綿粉じんへの曝露)が石綿関連疾患を発 生させる危険性がないと認識されていたとは認められない。 よって,被告国の前記主張は採用できない。 (5) 原告らの主張についてア原告らは,遅くとも昭和46年時点において,被告国が,石綿が微量の曝露でも労働者にがんの発生という重大な健康障害をもたらすおそれのある有害な物質であり,建築現場における曝露をも含む石綿粉じん曝露対策の必要性を認識していたことは明らかであると主張する。 しかし,原告らの提出証拠(甲A1200ないし1227)によっても,昭和40年代に至って,石綿曝露の発がん性等の危険が指摘され,その危険性等に関する報道により社会的関心が広まっていたことは認められるものの,前記(3)の認定事実に加えて,被告国が,昭和46年時点において,建築作業従事者について,石綿曝露による危険性を認識し得たとは認められない。 イ原告らは,昭和50年時点において,被告国が屋外作業従事者の石綿関連疾患罹患の危険性についても具体的に認識し得たと主張する。 (ア) 坂部弘之の昭和47 危険性を認識し得たとは認められない。 イ原告らは,昭和50年時点において,被告国が屋外作業従事者の石綿関連疾患罹患の危険性についても具体的に認識し得たと主張する。 (ア) 坂部弘之の昭和47年度環境庁公害研究委託費によるアスベストの生体影響に関する研究報告において紹介された,昭和47年のニューハウスの報告においては,石綿の低濃度曝露であっても長期間曝露した場合や高濃度の石綿粉じんに短期間曝露した場合に肺がん等の発症が見られたとされており(甲A31の58頁・59頁),この報告内容を前提とすれば,低濃度の石綿粉じんであっても,職業的曝露のように長期間曝露すると考えられる場合には,石綿関連疾患を発生する危険性の存在を認識することができると考えられる。 (イ) しかし,前記報告がなされた同時期においては,以下のような見解がとられていたこと,及び,これらの見解は前記坂部弘之の報告に記載され,被告国が十分に認識していたことが認められる(甲A31)。 a 昭和47年のIARC報告においては,「職業的曝露のレベルが低い場合には,過度の肺がんリスクは検出されないことが示唆されている。」とされ,中皮腫に関してはクリソタイルによるリスクが明らかに低いこと及び採掘業や粉砕業よりも製造業のリスクが高いと思われるとされていた(甲A31の103頁,316)。 b 昭和43年のBOSHの勧告においては,クリソタイル粉じんについての衛生基準について,作業環境中にクリソタイル粉じんが存在する限り健康に対し些少な障害は起こり得るが,ある程度までの曝露であれば過度の危険を招くことなく生涯を過ごし得るとされ,委員会としては,適切で合理的な目標は石綿肺(石綿による肺の最も早く見出される影響をいう。)に罹患する危険を,石綿粉じんに生涯曝露する人々の1% れば過度の危険を招くことなく生涯を過ごし得るとされ,委員会としては,適切で合理的な目標は石綿肺(石綿による肺の最も早く見出される影響をいう。)に罹患する危険を,石綿粉じんに生涯曝露する人々の1%に減少させることにあるとし,50年間石綿粉じんに曝露する場合には2繊維/㎤となるとした。そして,前記のような衛生基準を定めた理由として,量反応関係については,いかなる量でも対応する危険を持つとする考えがあるが,物質の使用を禁止するかあるいは影響のあるレベルものを容認するかといった選択は,閾値がないということが明らかになった上で行うべきであり,また,閾値概念については,生物学的には議論の余地のない明白なことがらであると考えられたとしても,その適用にあたっては,閾値は疫学的データからは決定し得ない等の現実的反論が存在するということを前提とした上で,石綿が有効な代替品のない必須の材料であると考える場合には,危険の認容し得るレベルを決定することが必要となるが,その決定に際しては,健康に対するリスクと材料から受ける利益及び過度の粉じん抑制の影響との間のバランスの問題を必然的に内包するため極めて困難であるところ,前記衛生基準は,こうした諸条件を検討した上で定めたものであるとした。(甲A31の107頁ないし111頁,102 0)c アメリカのNIOSH(NationalInstituteofOccupationalSafetyandHealth)は,昭和47年,環境並びに多数の曝露労働者についての医学的データを集めた多くの研究も,確固たる科学的データに基づく意味深い基準を設定するには不十分であること等からすれば,現状では,石綿曝露は石綿肺という疾患との関連において現在提示されているレベルを十分下廻るまでに減少させるべきであり たる科学的データに基づく意味深い基準を設定するには不十分であること等からすれば,現状では,石綿曝露は石綿肺という疾患との関連において現在提示されているレベルを十分下廻るまでに減少させるべきであり,このような行動方針は,「発がん物質に対しては,人間にとって安全なレベルをわれわれの現在の知識の応用によりきめることは出来ない」というアメリカ公衆衛生局長官の低レベル化学的環境発がん物質の評価に関する特別委員会の声明と一致するとした上で,石綿粉じんの基準について,労働者が2繊維/㎤を超える濃度の石綿粉じんに曝露することがないように気中粉じん濃度をコントロールする必要があり,また,15分間において石綿最高濃度が10繊維/㎤(5μ以上の石綿繊維)を超えてはならないと定め,この範囲に労働者の曝露をコントロールすることは,石綿肺を予防し,石綿による新生物をより適切に防ぐであろうとした(甲A31の111頁ないし118頁,1020)。 さらに,①アメリカの連邦官報(昭和47年)の提案基準において,石綿粉じんの許容濃度に関しては科学的に立証されていないとしても現在利用できる最良の証拠に基づいて規制する必要があること等から,種類の如何を問わずすべての作業に適用できる最低の石綿吸入基準を設けるべきであるとの見解が示された上で,許容濃度を昭和47年から昭和51年6月までは5繊維/㎤,昭和51年7月以降は2繊維/㎤と定め,②ACGIHは,昭和49年に,石綿を人間に職業がんを発生することが認められた物質で許容濃度を決定し得るものの 一つとして列記し(甲A1020),③アメリカの労働省は,昭和50年11月に石綿の許容基準を時間加重平均0.5繊維/㎤,天井値を5繊維/㎤(ただし,いずれも5μ以上の繊維の数)とすることを提案したが,その際に,建設業に 1020),③アメリカの労働省は,昭和50年11月に石綿の許容基準を時間加重平均0.5繊維/㎤,天井値を5繊維/㎤(ただし,いずれも5μ以上の繊維の数)とすることを提案したが,その際に,建設業については別途修正されるまでは現行(昭和50年時点では5繊維/㎤,天井値10繊維/㎤)のままとした(甲A1020)。 d 我が国においては,日本産業衛生学会が,昭和49年の許容濃度の勧告に際し,石綿肺が発がん性を持つことから許容濃度を決められないのではないかという考え方もあるが,曝露が極めて低濃度のときは,過度の肺がん発生は見出しがたいとされ,また,中皮腫発生の危険性はクロシドライトで最も大きく,アモサイトではそれより少なく,クリソタイルでは明らかに少ないとされている旨指摘していた(甲A31の119頁)。 (ウ) 以上のことからすれば,昭和50年当時,日本産業衛生学会の勧告した許容許容濃度である2繊維/㎤以下の石綿粉じんへの曝露について,石綿関連疾患の発生の具体的危険性を認識することは困難であったと考えられる。 そして,屋外作業においては,屋内作業と比較して,密閉された空間ではないため通気性が良く,風等の影響によって石綿粉じん濃度が相当希釈されることが期待でき,実際に,前記(1)ウ(イ)のとおり,屋外における石綿含有建材の切断作業等における石綿粉じん濃度測定の結果によれば,一時的な粉じん曝露濃度でも2繊維/㎤を超えるものは見当たらない(なお,クロシドライトについては,昭和56年に許容濃度が0. 2繊維/㎤と定められたが,屋外作業における石綿粉じん濃度の測定結果は,当該値についても概ね下回っている。)ことからすれば,被告国が,昭和50年時点において,吹付け作業を除く石綿粉じん曝露作業に ついて,屋外作業時の石綿粉じん曝露による 濃度の測定結果は,当該値についても概ね下回っている。)ことからすれば,被告国が,昭和50年時点において,吹付け作業を除く石綿粉じん曝露作業に ついて,屋外作業時の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発生の具体的危険性を認識することは困難であり,その危険性を予見できなかったとしてもやむを得ないというべきである。 よって,前記原告らの主張は採用できない。 第4 「管理使用」を前提とする被告国の規制権限不行使の違法性前記第3のとおり,被告国は,遅くとも昭和50年時点において,建築現場における石綿粉じん曝露作業により,これに従事する建築作業従事者に石綿関連疾患が発生する危険性があることを具体的に認識することができたと認められるところ,このことからすれば,原告らの主張のうち,被告国が,昭和50年よりも前に規制権限を行使しなかったことに関する違法主張は理由がないから,以下においては,昭和50年以降に,被告国が,建築現場における石綿粉じん曝露作業に関して,原告らの主張する規制権限を行使しなかったことが,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くか否かについて判断することとする。 なお,原告らの主張によっても,本件被災者らは,いずれも建築現場において屋内作業に従事しており,屋外作業のみに従事した者は存在しないため,本件においては,昭和50年10月1日以降の屋外作業に関する被告国の規制権限不行使の違法性については判断を要しない。 1 認定事実前記第2章第2節及び第3節の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 石綿粉じん曝露防止のための対策の在り方についてア労働者が作業を行う作業環境中には,ガス,蒸気,粉じん等の有害物質等が存在し,労働者の健康に種々の影響を及ぼし,これらに起因する職 る。 (1) 石綿粉じん曝露防止のための対策の在り方についてア労働者が作業を行う作業環境中には,ガス,蒸気,粉じん等の有害物質等が存在し,労働者の健康に種々の影響を及ぼし,これらに起因する職業性疾病を引き起こすことから,これらを防止するため,①作業環境管理,②作業管理,③健康管理を基本とした労働衛生管理が重要となる。 ①作業環境管理とは,有害要因を工学的な対策によって作業場の作業環境から除去し,良好な作業環境を維持するための対策であり,労働衛生管理の基礎に位置づけられる。作業環境測定の実施,評価及び改善(局所排気装置の設置等)が該当する。 作業環境管理においては,作業環境に有害な因子がどの程度存在し,その作業環境で作業に従事する者がこれらの有害な因子にどの程度曝露しているのかを把握するとともに,その有害な因子を除去し,若しくは一定の程度まで低減させ,又はこれができない場合には,保護具や保護衣等の個人的な曝露防止のための手段を利用することによって,その有害な因子による労働者の健康障害を未然に防止する必要がある。 ②作業管理とは,作業のやり方を適切に管理し,作業環境の悪化と作業者への影響を少なくするための対策である。作業環境管理が進められ,平均的な意味で作業環境が良く管理されていたとしても,作業時の有害物質の発散源からの距離等によって,特定の作業者の曝露濃度が異常に高くなるなど,曝露量が個人によって異なることがあるため,その場合に,作業条件,作業方法,使用材料,使用設備及びその他の注意事項などに関する基準(作業基準)を整備して,これに沿った作業を行わせる等,個別に曝露を制御する管理方法を作業管理という。作業方法の改善,保護具の使用等がこれに該当する。 ③健康管理とは,健康診断及びその結果に基づく措置であり,具体 備して,これに沿った作業を行わせる等,個別に曝露を制御する管理方法を作業管理という。作業方法の改善,保護具の使用等がこれに該当する。 ③健康管理とは,健康診断及びその結果に基づく措置であり,具体的には,一般健康診断,特殊健康診断及び保健指導等が該当する。 (甲A77の2,78)イ石綿粉じん等の有害物質に起因する健康障害の防止には,まず,①作業環境管理を行って環境中の有害物質のレベルを抑え,次に,②作業管理によって特定の作業者の高濃度曝露とインテークを抑え,最後に,③健康管理で歯止めをかけることが有効であり,特に,作業環境管理と作業管理に 重点を置くべきである。 作業環境改善対策の優先順位としては,①原材料の転換等により健康阻害因子をなくすこと,②生産技術的な対応や工程の改善等により健康阻害因子の量を減らすこと,③健康阻害因子と労働者を隔離すること(物理的,時間的な隔離,又は自動化や遠隔操作等),④発散源の密閉や湿潤化,清掃による二次発じんの防止等,健康阻害因子の発散を抑えること,⑤局所排気,プッシュプル換気等,健康阻害因子の拡散を抑えること,⑥全体換気により希釈して健康阻害因子の環境レベルを下げること,となる。 そして,以上のような作業環境管理によっても特定の作業者の曝露濃度が高くなってしまう等,作業環境管理のみでは有害物質による作業者の健康障害を十分に防止できない場合や,作業環境管理が有効に作用しない場合等においては,各作業者の作業位置,作業方法及び作業姿勢の管理や作業時間の制限,又は適切な個人保護具の使用等,作業者個人に着目した対策(環境管理)が重要となる。 また,保護具は,有効な対策を講ずるまでの応急の措置としても利用され得る。 (甲A235,322,327)(2) 昭和50年時点において被告国が 個人に着目した対策(環境管理)が重要となる。 また,保護具は,有効な対策を講ずるまでの応急の措置としても利用され得る。 (甲A235,322,327)(2) 昭和50年時点において被告国が講じていた石綿粉じん曝露防止のための規制についてア石綿含有建材の代替化について(ア) 規制の内容昭和50年改正特化則において,事業者は,化学物質等による労働者のがん,皮膚炎,神経障害その他の健康障害を予防するため,使用する物質の毒性の確認,代替物の使用,作業方法の確立,関係施設の改善,作業環境の整備,健康管理の徹底その他必要な措置を講じ,もって,労働者の危険の防止の趣旨に反しない限りで,化学物質等に曝露される労 働者の人数並びに労働者が曝露される期間及び程度を最小限度にするよう努めなければならないとされ(同規則1条),事業者に対して石綿の代替化の努力義務が課された。 昭和51年通達において,石綿を,可能な限り,有害性の少ない他の物質に代替させるとともに,現在までに石綿を使用していない部門での石綿又は石綿製品(発じん防止処理したものであっても,使用中又はその後において発じんすることの明らかなものを含む。)の導入は,避けるように指導すること,特に,青石綿(クロシドライト)については,他の石綿に比較して有害性が著しく高いことからその製品を含め優先的に代替措置をとるよう指導することとした。 建設省は,昭和62年9月16日付け「石綿及び石綿を含む材料・機材の取扱いに関する当面の方針について(通知)」において,建築物の新築等における方針として,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等については使用しないこと,及び,そのようなおそれがない石綿等については,安全利用を図るほか,工事現場での石綿等の切断,穿 方針として,通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等については使用しないこと,及び,そのようなおそれがない石綿等については,安全利用を図るほか,工事現場での石綿等の切断,穿孔等の加工時並びに将来の解体等時における石綿の飛散防止を考慮して,同等以上の代替品がないなどやむを得ない場合を除き,できる限り使用しないことを,地方局等の建設設計主務課長等に通知した。 (イ) クロシドライトの使用状況についてクロシドライトの主要な用途は吹付け石綿及び石綿管であったところ,大手の石綿製品製造事業者等のクロシドライトの使用量は旧特化則が制定された昭和46年には減少し始め,昭和50年改正特化則により石綿吹付けの原則禁止及び石綿(特にクロシドライトについて)の代替措置の促進(努力義務)が行われるまでの間に,業界全体として吹付け石綿の使用を中止することとしており,さらに,同時点においては,石綿管 等の製造についてもクロシドライトはほとんど使用されなくなっていた。 そして,昭和50年改正特化則が施行され,その後,昭和51年通達により石綿の代替措置を促進(特にクロシドライトについて)する指導が行われた結果,昭和58年度,昭和59年度には,全国427の石綿取扱い事業場のうちクロシドライトを使用する事業場は11まで減少し,さらに,昭和62年,各企業は自主的にクロシドライトの使用を中止した。平成元年に被告国が実施した全国359の石綿製品製造事業場を対象とする調査的監督においては,クロシドライトを使用する事業場が存在しないことが確認された。 (甲A67の1の14頁・33頁,1241の8頁,乙アB33,34)(ウ) アモサイトの使用状況被告国は,昭和51年通達等に基づき,アモサイトについても代替措置の促進についての指導 れた。 (甲A67の1の14頁・33頁,1241の8頁,乙アB33,34)(ウ) アモサイトの使用状況被告国は,昭和51年通達等に基づき,アモサイトについても代替措置の促進についての指導を行い,昭和58年度,昭和59年度には,全国427の石綿取扱い事業場のうちアモサイトを使用する事業場は52事業場となり,また,平成元年にはアモサイトを使用する事業場は19事業場(合計で約1万3000tのアモサイトを使用)と減少した。また,昭和62年時点における石綿含有建材に使用された石綿のうち,アモサイトが占める割合は3%程度であった。その後,平成元年にWHOがクロシドライト及びアモサイトの使用を禁止する勧告をしたことから,代替化の促進について更なる指導が行われたところ,平成5年には日本石綿協会は業界として自主的にアモサイトの使用を中止した。 (甲A67の1の33頁,1241の8頁,乙アB33,34)(エ) 石綿含有建材の代替化ないし低減化の実態についてa 前記第3,1(2)のとおり,保温材のうち,けいそう土保温材については昭和49年,石綿保温材,パーライト保温材及びけい酸カルシ ウム保温材については昭和55年,水練り保温材については昭和62年に,それぞれ使用が中止された。断熱材については,屋根折版裏断熱材のうち,クロシドライトが使用されていたものは昭和45年に,クリソタイルが含有されていたものについては昭和57年に使用が中止され,煙突用断熱材については昭和62年に使用が中止された。耐火被覆板については,石綿含有耐火被覆板は昭和58年まで(石綿含有率は25から70%),けい酸カルシウム板第2種については平成3年(石綿含有率は20から25%)に使用が中止された。 石綿含有成形板(石綿スレート)については,多くが平成16年 8年まで(石綿含有率は25から70%),けい酸カルシウム板第2種については平成3年(石綿含有率は20から25%)に使用が中止された。 石綿含有成形板(石綿スレート)については,多くが平成16年頃まで使用されていたが,石綿含有率についてはいずれの建材についても暫時減少(又は維持)していた。 b 石綿含有建材の出荷量については,別紙10「表3-3 石綿含有建築材料(成形板)の出荷量(千㎡)」のとおり,スレート波板等一部の建材については減少しているものの,全体としては,昭和50年以降も出荷量は増加しており,平成2,3年頃以降に大きく減少していった(甲A396の5頁)。 c 建設省が発行した,「建築物のノンアスベスト化技術の開発平成元年度概要報告書」(平成2年3月発行)(乙アA108)及び「建築物のノンアスベスト化技術の開発報告書」(平成4年10月発行)(乙アA122)によれば,①吹付け石綿については昭和30年頃から使用が開始され,また,石綿を30%程度含有するロックウールが昭和45年頃より施工されたが,これらはいずれも昭和50年で中止され,その後石綿を5%以下含むロックウールが昭和55年まで施工されたが,それ以降は石綿を全く含まないロックウール等に代替されたこと,②ゴム・樹脂成形品(ビニルタイル等)については,石綿含有ビニルタイルの生産が昭和60年に中止されたこと,③ゴム・樹脂 成形品や接着剤,コーキング材,塗料等の副資材における石綿の利用は補助的なものであるため,製品の性能を低下させない範囲での代替が比較的容易であったことから,石綿の代替が比較的早期に行われ,平成元年には石綿が含有されなくなっていたこと,④問題は,生産量の多い石綿セメント成形品(石綿スレート,けい酸カルシウム板,パルプセメント板等)であり,これら から,石綿の代替が比較的早期に行われ,平成元年には石綿が含有されなくなっていたこと,④問題は,生産量の多い石綿セメント成形品(石綿スレート,けい酸カルシウム板,パルプセメント板等)であり,これらの石綿含有建材については,石綿含有率が重量の5%を超えるものについても,平成元年時点において使用されていること,⑤一方で,石綿セメント製品メーカーの団体であるスレート協会が,主たる内装材であるけい酸カルシウム板については平成3年までに無石綿化し,主たる外装材であるフレキシブルボード,サイディング材については平成3年までに石綿含有率を5%以下とし,波形スレート及び住宅用屋根材については平成5年末までに石綿含有率を5%以下とする,との目標を設定していること,が記載された。 d 労働省,建設省及び厚生省等も関与する「建築物の解体に係るアスベスト対策検討ワーキンググループ」が平成8年2月に発行した「建築物の解体・撤去等に係わるアスベスト飛散防止対策について」(乙アA121)においては,けい酸カルシウム保温材については昭和55年に,パーライト保温材は昭和60年以前に,ガラス繊維やパルプ等に,ビニル床タイルについては昭和61年に無機質繊維に,けい酸カルシウム板は平成5年までにワラスナイト等に置き換えられて代替化(無石綿化)されたこと,その時点において石綿含有製品として残っているものは,代替化が技術的あるいは価格的に困難な製品や組立部品で本体の設計変更が必要な製品等であり,代替化未了の石綿含有建材のうち,石綿スレートは,昭和59年には15%の石綿含有率を有していたが,平成5年末には8ないし10%に低減化され,化粧石 綿セメント板は,昭和59年には15ないし35%の石綿含有率を有していたが,平成5年末には10ないし15%に低減化されたこと していたが,平成5年末には8ないし10%に低減化され,化粧石 綿セメント板は,昭和59年には15ないし35%の石綿含有率を有していたが,平成5年末には10ないし15%に低減化されたこと,石綿含有率が比較的高いものもあるが,ほとんどの建材に用いられている石綿含有製品の石綿含有率は10%以下であることが多いこと,などが記述されている。また,石綿含有製品の今後の代替化の動向として,代替化には無石綿化(全面的な代替化)と低減化(部分的な代替化)があるが,今後は低減化という形で代替化が進行する製品が多いと思われること,及び,将来にわたって石綿含有製品として残ると思われる一部の製品については,多くが石綿繊維をゴムやセメントなどの結合材で封じ込めた石綿粉じんの出にくい製品であり,加工から廃棄処分に至るまでの過程における石綿粉じんの飛散も非常に少なく,有効な管理ができる製品である,とされた。 (オ) 石綿含有建材の需要についてa 前記第3,1(3)記載のとおり,被告国による住宅供給政策等の実施により,昭和50年以降も住宅着工数は増加し,建築材料の需要が増大していた中で,被告国が建築資材として木材資源以外のものについても活用するという方策を採っていたことも相俟って,石綿スレート等の使用量が増えていった。さらに,建基法その他の建築関係法令において,建築物の構造上又は防火上の安全の観点から,JISに適合するものの使用が定められたことにより,結果として,JISに適合しない建築材料を,原則として建築物の主要構造部や耐火構造の構造部分で主要構造部以外の構造部分等に使用することができなくなっていたところ,被告国は,昭和50年以降も石綿含有建材について,化粧石綿セメント板等新たなJIS規格を制定しており,このような石綿含有建材に関するJIS規 外の構造部分等に使用することができなくなっていたところ,被告国は,昭和50年以降も石綿含有建材について,化粧石綿セメント板等新たなJIS規格を制定しており,このような石綿含有建材に関するJIS規格の廃止又は材料としての石綿を除外する改正が実施されたのは昭和60年代以降であり,平成17年にな ってようやく法令等で使用等が禁止されている石綿を利用したJISが存在しなくなった。加えて,昭和50年以降も,建基令107条1号等に基づき,石綿含有建材を用いた構造を耐火構造等に指定しており,こうした指定の多くは平成16年に削除されるに至った。 b 昭和52年度に通産省が株式会社経営システムに委託した「建材産業の長期ビジョンの研究」の結果を記載した,通産省生活産業局編「建材産業の長期ビジョン」(甲A151)によれば,昭和51年から昭和60年にかけて,石綿スレート波板では年平均3.9%の伸び率,石綿スレートボードでは年平均5.5%と建築着工並みの伸び率を示すと予測されていた。 イ石綿吹付け作業の禁止について(ア) 規制の内容昭和50年改正特化則38条の7により,使用者に対し,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける作業に労働者を従事させることが原則として禁止され,ただし,例外的に,十分な管理の下に石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を吹き付ける作業に労働者を従事させることができるとした。 その後,平成7年改正特化則により,吹付け作業が原則として禁止される対象物が,石綿含有率1%を超える石綿製品等に拡大された。 なお,昭和50年特化則改正通達においては,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付け業務が石綿の粉じんを特に著しく飛散させるため,前記規制が定められたのであり,一方で,建設物の建設,修理等の際に柱,はり等 0年特化則改正通達においては,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付け業務が石綿の粉じんを特に著しく飛散させるため,前記規制が定められたのであり,一方で,建設物の建設,修理等の際に柱,はり等として使用されている鉄骨等について例外を認めたのは,建築基準法に基づく鉄骨等の耐熱性能の確保のためであると説明されていたところ,昭和62年建設省告示第1929号「耐火構造の指定」により,吹付け石綿を用いた構造が耐火構造から削除された。 平成17年2月24日に制定された石綿則においては,事業者は,特定石綿(クロシドライト及びアモサイトを除く石綿)及びこれを含有する製剤その他の物(平成15年改正安衛令で使用が原則として禁止された10種類の石綿含有製品及び特定石綿の含有量が重量の1%以下のものを除く。)を吹き付ける作業に労働者を従事させてはならない旨規定された(同規則11条)。 (イ) 石綿吹付け作業の禁止に伴う石綿の使用状況等の変化についてa 前記ア(イ)のとおり,クロシドライトの主要な用途は吹付け石綿及び石綿管であったところ,昭和50年改正特化則により石綿吹付けの原則禁止措置が執られた前年の昭和49年に,業界は自主的に吹付け石綿の施工を中止するとともに,石綿工業製品においてクロシドライトを使用することを中止した。そして,昭和61年にILOがクロシドライトの使用を原則的に禁止したこともあり,昭和62年,各企業は自主的にクロシドライトの使用を中止した。(甲67の1の33頁,乙アB34)b 前記第3,1(2)ア(ア)及び(イ)記載のとおり,吹付け石綿については石綿含有率が70%程度であったところ,昭和47年に使用量はピークを迎えたがその後減少し,昭和50年改正特化則により石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けが原則とし おり,吹付け石綿については石綿含有率が70%程度であったところ,昭和47年に使用量はピークを迎えたがその後減少し,昭和50年改正特化則により石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けが原則として禁止されたため,昭和50年には使用が中止された。ただし,昭和54年頃まではアモサイトを5%未満含有するものが使用されていた。前記のとおり石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付けが禁止されて以降,代替品として,ロックウールが広く利用されるようになり,昭和43年頃から昭和50年頃までの吹付けロックウールにはクリソタイルが多い場合には30%程度含有されていた。昭和50年以降は多くが3%から5%程度の含有率となり,昭和55年以降,ロックウール工業会の 自主規制により乾式・半乾式の吹付けロックウール製品には石綿がほぼ含有されなくなった。 c 東は,「日出ずる国の産業保健」平成18年4月号「石綿からみた世界(4):加工現場調査1985-1986」において,「後になってわかったことですが,建築現場では石綿吹きつけが禁止されてからも,1%未満であればよいのではと吹付けの主材となるロックウールに石綿を混ぜることが行われていたこと,モルタルに混ぜていたケースもあったこと,漆喰にも混ぜられた経緯があることが知られています。少しでも混ぜると,なじみがいい,施工性がよい,ガラス繊維に比べて扱い易いなどの事情が本音として伺われます。」と述べた(甲A319)。 ウ石綿取扱作業場への立入禁止について(ア) 規制の内容昭和47年,安衛則585条1項5号により,事業者に対し,粉じんを発散する有害場所に関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務が規定され,また,昭和46年,特化則24条1号により,使用者は,石 号により,事業者に対し,粉じんを発散する有害場所に関係者以外の者が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務が規定され,また,昭和46年,特化則24条1号により,使用者は,石綿を製造し又は取り扱う作業場に関係者以外が立ち入ることを禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示する義務を負うことが定められた。これらの規定内容は,その後の特化則及び安衛則の改正によっても維持され,石綿則にも同様の定め(同規則15条)が置かれた。 なお,石綿則においては,事業者に対し,壁等に石綿等が吹き付けられた建築物の解体等の作業を行う場合には,当該除去を行う作業場所をそれ以外の場所から隔離する義務が定められ(同規則6条),また,壁等に石綿等が使用されている保温材,耐火被覆材等が張り付けられた建築物又は工作物の解体等の作業(石綿粉じんを著しく発散するおそれが あるものに限る。)を行う場合には,当該作業場所に,当該保温材,耐火被覆材の除去作業に従事する労働者以外の者が立ち入ることを原則として禁止し,かつ,その旨を見やすい箇所に表示しなければならない旨定めた(同規則7条1項)。 (イ) 建築現場における作業状況について建築現場においては,同一職種のみならず,他の職種の建築作業従事者とも,同一の作業場において同時に作業に従事することがあり,石綿含有建材を取り扱う作業が行われている場合であっても同様であった(前記第3,1(5))。 エ湿潤化について(ア) 規制の内容昭和50年改正特化則38条の8は,事業者に対し,屋内外を問わず,作業について,労働者を従事させるときは,原則として,当該製品等を湿潤な状態のものとする義務を定め,例外的に,湿潤な状態のものとすることが著しく困難な場合には前記義務を負わないものとした。 昭 ,作業について,労働者を従事させるときは,原則として,当該製品等を湿潤な状態のものとする義務を定め,例外的に,湿潤な状態のものとすることが著しく困難な場合には前記義務を負わないものとした。 昭和50年特化則改正通達においては,前記「著しく困難なとき」には,湿潤な状態にすることによって石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の有用性が著しく損なわれるときが含まれるとされ,また,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等が塗布され,注入され,又は貼り付けられた建築物等を解体する等の作業は湿潤化が義務付けられる作業に該当するとされた。 その後,昭和61年通達では,昭和50年改正特化則における湿潤化の定めを含む関係規定の周知や,湿潤化のための設備の設置や十分な措置の徹底が求められた。 平成17年2月24日に制定された石綿則13条1項は,事業者に対 し,石綿粉じん曝露作業及び当該作業によって発散した石綿等の粉じんの掃除の作業に労働者を従事させるときは,石綿等を湿潤な状態のものとする義務を課し,ただし,石綿等を湿潤な状態とすることが著しく困難なときはこの限りではないとした。 (イ) 湿潤化による石綿粉じん濃度の変化についてa 平成8年度環境庁委託業務による「建築物解体に伴うアスベスト飛散防止対策に係る調査報告書」(平成9年3月)によれば,石綿含有建材の破砕により発生する石綿粉じん量に関する各種の実験を行い,以下のような結果が得られた(乙アA143)。 (a) 石綿成形板の飛散性に係る実験30㎝四方の大きさに切断した,石綿スレート板小波,石綿セメントけい酸カルシウム板,石綿スレートフレキシブル板を型枠の上に置き,鋼球(7.26㎏)を高さ50㎝から落下させ,試験体を破壊する,という操作を約5分間で同種の試験体5枚について順次行い 石綿セメントけい酸カルシウム板,石綿スレートフレキシブル板を型枠の上に置き,鋼球(7.26㎏)を高さ50㎝から落下させ,試験体を破壊する,という操作を約5分間で同種の試験体5枚について順次行い,5枚の試験体を粉砕した後2分間経過した時点から,石綿粉じん,総粉じん,吸入性粉じんのサンプリングを開始した結果は以下のとおりとなり,「散水の効果もある程度認められた。」と評価された。 成形板の種類新品/風化石綿含有率(%)散水石綿粉じん濃度(f/ℓ)石綿スレート板小波新品9.5無 有 風化18.5無 有 石綿セメントけい酸カルシウム新品8.5無 有 板風化18.9無 有 石綿スレートフレキシブル板新品14.3無 有 (b) 石綿含有建材の飛散性に係る実験石綿含有建材の破壊に伴う石綿飛散性を把握するため,一定サイズに切り出した,①石綿けい酸カルシウム板第1種(工場の外壁材として使用されていたものを取り外したもの。使用石綿はクリソタイルとアモサイトである。石綿含有率は約15%,密度は約0.8g/㎤と推定される。),②石綿けい酸カルシウム板第2種(建屋の柱,梁に耐火被覆材として使用されていたもの。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は約25%,密度は0. 4から0.6g/㎤と推定される。),③石綿含有耐火被覆板A(A建屋の柱,梁に耐火被覆材として使用されていたもの。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は60%と推定される。),④石綿含有耐火被覆板B(B建屋の柱,梁に耐火被覆板として使用されていたもの。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は約60%と 。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は60%と推定される。),④石綿含有耐火被覆板B(B建屋の柱,梁に耐火被覆板として使用されていたもの。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は約60%と推定される。),⑤石綿含有けい酸カルシウム保温材(タービンの保温を目的に使用されていたもの。使用石綿はアモサイトである。石綿含有率は約60%で,密度は0.1から0. 2g/㎤と推定される。)を,8㎥のチャンバー内において,鋼球(6.3㎏)を高さ70㎝から落下させて破砕する実験を行った結果は以下のとおりであった。前記報告書においては,いずれの石綿含有建材についても,「散水した場合が最も低値を示した。」とされた。 試験材料名散水の有無幾何平均(f/㎤)濃度範囲(f/㎤) 石綿けい酸カルシウム板第1種無 3.942.87~7.135.86有0.680.58~0.82石綿含有耐火被覆板A無 22.8522.37~33.2031.67有18.5417.35~21.15石綿けい酸カルシウム板第2種無 4.123.45~7.716.76有1.420.77~1.95石綿含有耐火被覆板B無27.2525.16~29.50有8.658.40~8.97石綿含有けい酸カルシウム保温材無 5.103.93~7.905.32有2.912.53~3.51b 「平成19年版(2007)神奈川県環境化学センター研究報告第30号」(平成19年10月)に掲載された,解体作業時における湿潤化の効果について検討した斎藤邦彦らによる「アスベスト含有建材の解体等に伴うアスベストの飛散並びにその防止技術の検 センター研究報告第30号」(平成19年10月)に掲載された,解体作業時における湿潤化の効果について検討した斎藤邦彦らによる「アスベスト含有建材の解体等に伴うアスベストの飛散並びにその防止技術の検討」と題する報告においては,①屋根用スレート(昭和55年製造,石綿含有率13.3%),②屋根用スレート(昭和62年製造,石綿含有率7. 0%),③スレート(石綿含有率7.8%),④サイディング(石綿含有率1.7%)から切り出した試験片(15㎝四方)を用い,40㎝の高さから錘(2㎏)を落下させて破砕し,その時の石綿飛散量を測定した結果は以下のとおりであるとされた。(乙アA144)(a) ①屋根用スレート(昭和55年製造,厚さ4㎜) 含水状態断面積当たり飛散本数(本/㎠)飛散本数の比率乾燥1380 散水後湿潤 0.34散水中 0.11散水後湿潤状態と乾燥状態での破砕を比較した結果,湿潤化により石綿繊維の飛散量を3分の2程度抑制することができた。散水中と乾燥状態での破砕を比較した結果,散水により石綿繊維の飛散量を9割程度抑制することができた。 (b) ②屋根用スレート(昭和62年製造,厚さ4㎜)含水状態断面積当たり飛散本数(本/㎠)飛散本数の比率乾燥1140 散水後湿潤 0.32散水中 0.11昭和55年製造の屋根用スレートと比較すると,同じ種類の含有建材であるが,石綿の含有率は5割程度に抑えられている。しかし,乾燥時の断面積当たりの飛散本数は8割程度と,含有率が減少したほどには減少しなかった。 乾燥時を基準とした散水による飛散抑制効果は,昭和55年度製造のものと同程度だった。 (c) ③スレート(厚さ5㎜)含水状態 の飛散本数は8割程度と,含有率が減少したほどには減少しなかった。 乾燥時を基準とした散水による飛散抑制効果は,昭和55年度製造のものと同程度だった。 (c) ③スレート(厚さ5㎜)含水状態断面積当たり飛散本数(本/㎠)飛散本数の比率乾燥1280 散水後湿潤 0.21散水中 0.12散水後湿潤による飛散抑制効果が8割程度と,屋根用スレートの場合と比較して大きかった。 屋根用スレートと異なり,高圧プレス及び防水加工されていない建材であることが理由として考えられた。 (d) ④サイディング(厚さ1㎜)含水状態断面積当たり飛散本数(本/㎠)飛散本数の比率乾燥 散水後湿潤 0.32散水中 0.18昭和55年度製造の屋根用スレートと比較すると,石綿の含有率は8分の1程度だが,乾燥時の断面積当たりの飛散本数は,5割程度と,含有率当たりの飛散量が多かった。 屋根用スレートと比較してもろく,粉砕されやすいためと考えられた。 c 昭和53年の「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」に引用されたイギリス労働省のデータでは,解体作業中保温材を剥ぐ作業について,発生する石綿粉じんの濃度を測定した結果,ぬらしながら行った場合には1から5本/㎤,水を散布して行った場合には5から40本/㎤,乾燥状態で行った場合には20本/㎤以上であった(前記第2,1(2)イ(ク))。 (ウ) 建築現場における湿潤化作業a 平成18年ハンドブックにおいては,「加工対象材料の湿潤化は,有効な粉じん発生防止対策となり得ることから,加工部分周辺に事前に濡れた布等を添付し,ボードそのものの湿度を上げるとともに,必要に応じ,霧吹き等に ハンドブックにおいては,「加工対象材料の湿潤化は,有効な粉じん発生防止対策となり得ることから,加工部分周辺に事前に濡れた布等を添付し,ボードそのものの湿度を上げるとともに,必要に応じ,霧吹き等により加工部分の湿潤化を図ることが考えられます。なお,この際には,必ず工具そのものの感電防止,防水等も考慮しなければなりません。さらに天井材の加工の場合,その多くは電気配線等,水分を嫌う環境下であることが予想されます。また,電気の 存在下では感電等電気による危険も存在しているのが現状です。このため,電気配線等が混在している場所での作業に際しては,事前に電気関係を管理している担当者と検討を行い,電気関係設備の養生を行うとともに,作業中は該当部分の電気を遮断する必要があります。」と記載されている(乙アA158の46頁)。 b 作業環境測定士及び労働衛生コンサルタントの資格を持ち,石綿作業主任者の技能講習等も担当している東京労働安全衛生センターに所属するVは,解体工事において,吹付け材に関する工事は専門業者が行うが,石綿含有成形板等の解体については,誰も監視していない中で,重機で破砕したり,散水をしていない等の状況が見受けられると供述している(乙アA1069の37頁・38頁)。 c 千田忠男らによる「町場建築のアスベスト作業」(平成元年刊「月刊いのち」No.267所収)においては,昭和62年5月に,全建総連東京都連に加盟する非専従の単組役員のうちから,町場建築の概要をみわたせる職種として大工職に従事する者をあらかじめ選定して聴き取り調査を行い,その中には「建材などに水をまけば「ほこり」の量はグンと少なくなるものの,建材が水を吸って重くなります。アスベスト建材はもともと重く,そのために持ち運びや張りつけに苦労しているくらいであり,水 い,その中には「建材などに水をまけば「ほこり」の量はグンと少なくなるものの,建材が水を吸って重くなります。アスベスト建材はもともと重く,そのために持ち運びや張りつけに苦労しているくらいであり,水まきの方法は実際の作業では現実的ではありません。」との回答もあった(乙アA248)。 オ局所排気装置の設置について(ア) 規制の内容a 昭和47年,特化則5条において,事業者は,石綿粉じんが発散する屋内作業場については,当該発散源に局所排気装置を設ける義務を負うが,局所排気装置の設置が著しく困難なとき又は臨時の作業を行うときは,この義務を負わない旨定められ,前記義務を負わず局所排 気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は石綿を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならないと定められた。また,同規則8条1項は,事業者に対し,石綿に係る作業が行われている間,局所排気装置を稼働させる義務を課した。なお,その後,平成12年に特化則の改正が行われたことにより(平成12年労働省令第41号),石綿粉じんが発散する屋内作業場については,石綿粉じんの発散源を密閉する設備又は局所排気装置を設けなければならないとされ,平成15年改正特化則により,前記のような設備又はプッシュプル型換気装置を設けなければならないとされたが,これらの装置の設置が著しく困難である場合又は臨時の作業を行うときは,例外とされていること等に変更はなかった。 また,石綿粉じんを含有する気体を排出する局所排気装置その他の設備には,粉じんを除去する除じん装置を設置すべき義務が定められた(同規則9条)。 b 昭和63年通達により,建築物の建設,改修等の工事について,建築工事現場等の監督指導等の際に石綿スレート,石綿セメント板その を除去する除じん装置を設置すべき義務が定められた(同規則9条)。 b 昭和63年通達により,建築物の建設,改修等の工事について,建築工事現場等の監督指導等の際に石綿スレート,石綿セメント板その他の石綿含有建材の使用が確認された場合には,その加工等の作業の際に,防じんマスク及び移動式局所排気装置の使用の徹底を図り,又は局所排気装置が設置されている作業現場における石綿を含有する資材の事前の加工を励行することとされた。 c 平成17年7月1日から施工された石綿則において,特定石綿(クロシドライト及びアモサイトを除く石綿)及びこれを含有する製剤その他の物(平成15年改正安衛令で使用が原則として禁止された10種類の石綿含有製品及び特定石綿の含有量が重量の1%以下のものを除く。)の粉じんが発散する屋内作業場については,当該粉じんの発散源を密閉する設備,局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設 置する義務を課し,ただし,当該各装置の設置が著しく困難なとき,又は臨時の作業を行うときは,この限りではないと定め,その場合には全体換気装置を設け,又は湿潤化等の措置を講じる等労働者の健康障害を予防するために必要な措置を講じなければならないとした(同規則12条。性能要件については同規則16条,除じんについては同規則18条に規定。)。 (イ) 局所排気装置についてa 旧特化則が施行された昭和46年の時点において,局所排気装置の設置を使用者に義務付けることが可能となるだけの技術的,社会的基盤が整っていたことについては,原告らと被告国との間に争いはない。 b 局所排気とは,発散源の近くにフードと呼ばれる空気の吸い込み口を設けて局部的な気流を作り,発散した汚染物質が周囲に拡散する前に吸引除去する方法である(乙アA139)。 c 局所排気装 ない。 b 局所排気とは,発散源の近くにフードと呼ばれる空気の吸い込み口を設けて局部的な気流を作り,発散した汚染物質が周囲に拡散する前に吸引除去する方法である(乙アA139)。 c 局所排気装置の主要構造部分は,フード,吸引ダクト(主ダクトと枝ダクト),排気ダクト,空気清浄装置(除じん装置又は除ガス装置),ファンなどであり,その他に,枝ダクトの通気抵抗(圧力損失)をバランスさせるためにダンパーを設けることがある(甲A104,乙アA61,139)。 d 局所排気装置のフード,ダクト等の各部分が備えるべき最低条件を抽象的に定めたものである構造要件は,対象となる有害物が変わっても本質的に変わることはない。一方,性能要件については,制御風速方式でも抑制濃度方式でも制御風速の設定が必要となるところ,制御風速は,対象となる有害物の性質(大きさ,比重)や飛散状況(捕捉点の位置,飛散方向,飛散速度,周囲の乱れ気流の大きさと方向)等にを考慮して設定する必要がある。 具体的な作業場に応じた適切な制御風速が設定されなければ,二 次発じんを引き起こしたり,材料がフードに吸い込まれたり,作業が行いにくくなるといった弊害が生じる危険性がある。また,乱れ気流の向きや大きさがまったく不規則に発生するような場所では,制御風速の設定は極めて困難であるため,窓や扉等を開け放しているような場所では,局所排気装置を設計することは困難であり,設置しても効果は期待できない。 また,局所排気装置のフードが適切な位置に設けられていない場合には,その効果がしばしば減殺されることがあるところ,局所排気装置の吸引効果はフード開口面と発散源との間の距離の2乗に比例して低下することから,フードが十分に機能するためにはフード開口面を発散源にできるだけ近い位置に設ける必要 れることがあるところ,局所排気装置の吸引効果はフード開口面と発散源との間の距離の2乗に比例して低下することから,フードが十分に機能するためにはフード開口面を発散源にできるだけ近い位置に設ける必要がある。よいフードとはできるだけ少ない排風量(吸引気流を起こすために必要な空気の量で,局所排気装置で吸い込む空気の量)で有害物質を全て吸引できるフードのことであり,そのためには可能な限り発散源を囲い,全く囲えない場合にはできるだけ小さなフードを,できるだけ開口面を発散源に近づけて設けるべきであるとされる。 (甲A83,104,1089,乙アA50,59,64ないし66,152,1019,乙アB85)e 設置が義務付けられる局所排気装置は,①フードは石綿粉じんの発散源ごとに設けられ,かつ,外付け式又はレバー式のフードにあっては当該発散源にできるだけ近い位置に設けられていること,②排出口は屋外に設けられていること等の要件を満たすものでなければならず(特化則7条1項),フードの外側における石綿粉じんの濃度が抑制濃度(昭和47年時点では,法の定めは2㎎/㎥(33本/㎤相当)であったが,「特定化学物質等障害予防規則に係る有害物質(石綿およびコールタール)の作業環境気中濃度の測定について」(昭和48 年基発第407号)により,5本/㎤(約0.3㎎/㎥)とされた。 その後,昭和50年労働省告示第75号により,5本/㎤が法令による規制値となった。そして,昭和51年通達により2本/㎤(クロシドライトについては0.2繊維/㎤)と厳格化された。)を超えないものとする能力を有するものでなければならないとされた(同条2項)。 f さらに,局所排気装置を設置する場合には,設置する環境を整備しなければ,その装置の設計者が求める性能を発揮しなくなる場合 いものとする能力を有するものでなければならないとされた(同条2項)。 f さらに,局所排気装置を設置する場合には,設置する環境を整備しなければ,その装置の設計者が求める性能を発揮しなくなる場合がある。送風や採光が悪く,掃除も行き届かないといったような環境においては,局所排気装置の吸引気流によって堆積粉じんが作業場内に再飛散してしまうということもある(乙アA60)。 g フードの次に重要になるのがダクトであるが,粉じんを吸引する局所排気装置の場合にはダクト内に粗い粒子が堆積してしまうことがあり,局所排気装置の性能を維持するためにはこれを掃除する必要がある。また,断面積が大きいほど搬送速度(ダクト内に粉じんを堆積させないために必要な風速)が小さくなるため,堆積が起こりやすくなる。しかし,反対に断面積が小さすぎれば圧力損失(空気が通るときの抵抗)が大きくなり吸引能力が低くなる。よって,ダクトの設計が不適切であれば,局所排気に必要な気流の確保ができなくなり,有害物がフードに捕捉されないという結果になる。また,適切な排風量(フードから単位時間当たりに吸引する空気の体積)が計算されていなければ,二次発じんを発生させる危険性もある。(乙アA60)(ウ) 建築現場における局所排気装置の設置について建築現場においては,屋外作業については乱れ気流の影響が大きく,屋内作業場においても窓や扉等が取り付けられるまでは隙間風が入り,また,作業場所の移動や建材の運搬等により人や大きな物の移動が多い ため,一般の工場と比べるとはるかに大きい乱れ気流が発生することから,このような乱れ気流に打ち勝って石綿粉じんを吸引するためには,制御風速を工場の場合に比べて大きくしなければならず,そのためには排風量も大きくする必要があり,ダクトを太くし,ファ が発生することから,このような乱れ気流に打ち勝って石綿粉じんを吸引するためには,制御風速を工場の場合に比べて大きくしなければならず,そのためには排風量も大きくする必要があり,ダクトを太くし,ファン,除じん装置及び運転に必要な電力を得るための受電設備のいずれも大きなものが必要となるため,設備が大がかりなものとなる。 また,乱れ気流の大きい建築現場において,これに対処するために,制御風速及び排風量を大きく(速く)した場合には,局所排気装置を稼働させることにより,作業場の床等に堆積した石綿粉じんを再飛散(二次発じん)させ,作業環境を悪化させる結果となる。 建築現場において,多くの石綿粉じんを発散させる電動工具(電動丸鋸や手持式電動研磨機)による石綿含有建材の切断,研磨等の加工作業について局所排気装置の設置を検討すると,前記電動工具は回転体を回転させながら建材に当ててその回転エネルギーで建材を加工するものであるところ,回転体が石綿含有建材に当たると石綿粉じんが発生し,回転体の周速度に等しい速度で接線方向に飛散する。このような場合には,飛散の向きに合わせて吸引するレシーバー式フードを用いる必要があるが,これを有効に活用するためには,フードの開口面の大きさが粉じんの飛散方向を全てカバーし,かつ,粉じんが全てフードの開口面に飛び込むように工具を使用しなければならない。粉じんの飛散方向を全てカバーしていない場合には,電動工具を使用して発生した石綿粉じんを発散源で捕捉するために必要な制御風速が非常に大きくなる。また,それだけの排風量を確保するとなると,容量の大きなファンやダクト等が必要なことはもちろん,仮設電源では容量が足りず受電設備が必要となる可能性がある。 作業台にフードを取り付けて局所排気装置付作業台とすることも可能 であ 容量の大きなファンやダクト等が必要なことはもちろん,仮設電源では容量が足りず受電設備が必要となる可能性がある。 作業台にフードを取り付けて局所排気装置付作業台とすることも可能 であるが,手持式電動工具を使用する作業では粉じんの飛散方向が限定できないため,粉じんを完全に捕捉するためには囲い式フードが望ましいところ,通常建築現場で取り扱われる建築資材の大きさをカバーするためには,フードも大きいものが必要となり,また,粉じんの飛散方向が吸引口に向かわない場合に囲い式フードの中から粉じんが飛散しないようにするためには,吸引口へ粉じんを引き戻すために飛散速度に応じた大きさの制御風速が必要となる。また,囲い式であってもフードの開口面が大きい場合には,その分必要な制御風速は大きくなる。 (乙アA64,65,1019)(エ) 移動式の局所排気装置について局所排気装置に車輪(キャスター等)を取り付けて移動可能としたものが,移動式局所排気装置である。建築現場のように作業場所が短期間で移動する場合には,据置式の局所排気装置での対応は困難であることから,局所排気装置を移動式のものとして設計することは有効な手段といえる。しかし,前記のように,建築現場における乱れ気流の大きさや電動工具使用時における石綿粉じんの飛散方向等に加え,建築現場に持ち込まれる建材(石綿含有成形板等)は,概ね短辺が1m程度,長辺が2m程度の大きさかそれ以上あるものが多いと考えられることからすれば,その加工時に発生する石綿粉じんを発散源付近において,周囲に拡散する前に捕捉するためには,フード,ダクト,除じん装置等のいずれも相当大きなものが必要となり,これらを用いた局所排気装置は相当な大きさの設備となる。(甲A236,1241,乙アA64,1019の22頁ないし26 るためには,フード,ダクト,除じん装置等のいずれも相当大きなものが必要となり,これらを用いた局所排気装置は相当な大きさの設備となる。(甲A236,1241,乙アA64,1019の22頁ないし26頁・45頁ないし48頁)カ作業環境測定(粉じん濃度測定)について(ア) 規制の内容a 昭和47年,安衛法65条により,事業者に対し,有害な業務を行 う屋内作業場その他の作業場で,政令で定めるものについて,労働省令で定めるところにより,空気環境その他の作業環境について必要な測定をし,及びその結果を記録しておく義務が定められた。そして,安衛令21条において,前記「有害な業務を行う屋内作業場」として,土石,岩石又は鉱物の粉じんを著しく発散する屋内作業場(同条1号),石綿を製造し,又は取り扱う屋内作業場(同条7号,別表第3第3号2)が規定された。 また,昭和47年,特化則36条において,事業者に対し,石綿を含む特定化学物質等を製造し又は取り扱う屋内作業場について,6月以内ごとに1回,定期に,石綿等の空気中における濃度を測定し,その都度,測定日時及び測定結果等を記録し,これを3年間保存しなければならない旨定められた。これにより,建築現場についても,前記「屋内作業場」に該当すれば,事業者は,粉じん濃度を測定する義務を負うこととなった。 b 昭和50年,安衛法の改正によって,作業環境測定は労働大臣の定める作業環境測定基準によることとされ,作業環境測定基準は,昭和51年に労働省の告示として制定され,石綿を含め各物質ごとに,測定点,捕集方法,分析方法など測定の方法が定められた(甲A77の2)。 昭和63年法律第37号により,安衛法の改正が行われ,同法65条の2により,事業者は,労働大臣の定める作業環境評価基準に従って作業環境測 法,分析方法など測定の方法が定められた(甲A77の2)。 昭和63年法律第37号により,安衛法の改正が行われ,同法65条の2により,事業者は,労働大臣の定める作業環境評価基準に従って作業環境測定の結果の評価を行わなければならず,当該評価に基づいて,労働者の健康を保持するために必要があると認められるときは,労働省令で定めるところにより,施設又は設備の設置又は整備,健康診断の実施等の適切な措置を講じなければならないこととされた。 この改正に基づき,「作業環境評価基準」(昭和63年労働省告示第 79号)が定められ,これによって昭和59年に導入された管理濃度に基づく作業環境管理が法制度として組み入れられた。同基準は一部の規定を除き昭和63年10月1日から施行され,同基準の定める石綿の管理濃度は,5μ以上の繊維として2本/㎤(クロシドライトにあっては,0.2本/㎤)とされた(同基準2条,別表の5)。 c 平成16年,厚労省は,「管理濃度等検討会」の報告書(平成16年3月付け)を踏まえて,平成16年10月1日付け平成16年厚生労働省告示第369号により,作業環境評価基準の一部を改正し,石綿の管理濃度を2本/㎤から0.15本/㎤に引き下げ,当該管理濃度は平成17年4月1日から適用された。 d 厚労省は,屋外作業場等については,屋内作業場等と同様に有害物質等への曝露による健康障害の発生が認められていることを前提に,屋外作業場における作業環境管理の必要性があるとして,「屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインについて」(平成17年基発第0331017号)を発出した。 屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインにおいては,測定対象となる屋外作業場等(安衛法等で作業環境測定の対象となっている屋内作業場等以外の作業 年基発第0331017号)を発出した。 屋外作業場等における作業環境管理に関するガイドラインにおいては,測定対象となる屋外作業場等(安衛法等で作業環境測定の対象となっている屋内作業場等以外の作業場。具体的には,屋外作業場(建家の側面の半分以上にわたって壁等の遮へい物が設けられておらず,かつ,ガス・粉じん等が内部に滞留するおそれがない作業場を含む)のほか,船舶の内部,車両の内部,タンクの内部等をいう。)に,石綿を製造し若しくは取り扱う屋外作業場等であって,当該屋外作業場等における作業又は業務が一定期間以上継続して行われるものが該当する旨定め,屋外作業場等における作業環境の測定方法について,屋外作業場等において取り扱う有害物質の濃度が最も高くなる作業時間帯において,高濃度と考えられる作業環境下で作業に従事する労働 者(測定の対象となる物質を取り扱う労働者)全員の呼吸域を測定点として同領域に個人サンプラーを装着し,10分間以上継続して測定すること等とし,測定点ごとに測定結果と管理濃度等とを比較することで作業環境測定の結果を評価し,その結果測定値が管理濃度等を1以上の測定点で超えた場合に講ずべき措置を定め,さらに,作業環境測定の結果及びその評価に基づく必要な措置については,衛生委員会等において調査審議するとともに,関係者に周知することとした。なお,同ガイドラインにおける石綿の管理濃度は,前記平成16年厚労省告示369号と同様,5μm以上の繊維として0.15本/㎤とされた。 (イ) 作業環境測定の位置づけ等作業環境測定は,飽くまで作業環境を改善するための対策を講ずる前提として,作業環境中に有害要因がどの程度存在し,そこで働く労働者がこれらの有害要因にどの程度曝露しているのかといった情報を収集するために実施されるもので, で作業環境を改善するための対策を講ずる前提として,作業環境中に有害要因がどの程度存在し,そこで働く労働者がこれらの有害要因にどの程度曝露しているのかといった情報を収集するために実施されるもので,単に測定をすること自体が目的となるものではない。測定を行った結果を労働者の健康障害の防止に役立てるためには,①測定機器ないし測定技術が,正確な測定が可能であり,かつ,一般の事業場でも使用できるような簡単な操作方法,性能を持ったものでなければならず,②その測定場所の空気環境の状態を客観的に表す測定方法が決められなければならず,③測定の結果を評価できる濃度指標,すなわち評価基準が定められていなければならない,そして,④このような評価の結果,改善を要するような状態であれば,即時に改善措置を執り得る状況にあることも必要とされる(乙アA78)。 (ウ) 環境濃度(作業環境測定)と個人曝露濃度(個人曝露濃度測定)についてa 環境濃度は,作業者の近傍の粉じん濃度の分布を測定して,作業場 の平均濃度を求めたものであり,個人曝露濃度は,1日の作業時間中に労働者が曝露する平均濃度である。個人曝露濃度測定については,作業者個人が実際に吸い込んだ量を測るものではない。環境濃度と個人曝露濃度との間には正の相関関係があるが,粉じんの種類,発生状況,発生源と作業者との位置関係あるいは粉じんの拡散の状況などの相違により,環境濃度は同じであっても個人曝露濃度が作業者によって大きく異なることがある。(乙アA48,77)b 作業環境測定によって得られた測定結果は,作業環境における全体的な状態を把握するものであり,作業者の曝露濃度を反映するとは限らないが,その作業場の空気中に含まれる有害物質の状態や,設置された局所排気装置等の効果の判定などにも用いることが可 業環境における全体的な状態を把握するものであり,作業者の曝露濃度を反映するとは限らないが,その作業場の空気中に含まれる有害物質の状態や,設置された局所排気装置等の効果の判定などにも用いることが可能となる。 一方,個人濃度測定によって得られた結果は,ある一部の作業者についての測定結果であるから,実際に吸入する有害物質の量は,作業ごと,労働者ごとに大きく異なるため,その測定結果をもって測定対象外の労働者も含めた当該作業場の全ての作業者に対する具体的な対策として反映させることは困難である。(乙アA77)c アメリカやイギリスでは,作業環境測定ではなく個人曝露濃度測定を採用し,それに基づく労働衛生管理が行われている。アメリカのNIOSHの提唱する曝露管理の方法は,まず作業環境中に化学物質が放出されている可能性があるか否かを調査し,放出がないと判断されれば曝露濃度は測定せず,放出されていると判断された場合でも,インダストリアルハイジニスト(労働衛生管理の専門家)によって,従業員全員の曝露がアクションレベル(許容曝露限界値の約2分の1)以下であると判断される場合には,曝露濃度を判定する必要は原則としてないとされている。 なお,我が国において採用されている作業環境測定方法は,作業 場内の複数の定点で行う方法をとっており,これはNIOSHのマニュアルに従った測定方法と比較して,優とも劣らない方法であると考えられる。 (甲A270,乙アA77)(エ) 建築現場における作業濃度測定について建築現場においては,労働者が行う作業が短時間で変わっていく場合や作業場所が移動する場合が多いことから,個人サンプラーにより有害物質の濃度を測定しても,複数の作業場所での濃度の平均となってしまい,呼吸域で測定したとしても,その測定結果が何を で変わっていく場合や作業場所が移動する場合が多いことから,個人サンプラーにより有害物質の濃度を測定しても,複数の作業場所での濃度の平均となってしまい,呼吸域で測定したとしても,その測定結果が何を意味しているのか,測定結果から何が評価できるのかを判断することは容易ではない。また,建築現場においては,多種多様の職種の建築作業従事者が存在し,作業者ごとに作業場所や作業内容が異なり,それぞれ短時間で変化していくことが多いことから,作業者の一部の数人に対して1日から数日の個人曝露濃度測定を実施したとしても,その得られた測定結果が必ずしもその建築現場の代表性を持っているとはいえず,一方で,毎日測定することも現実的ではないといえる。(乙アA77)キ防じんマスクの着用について(ア) 規制の内容a 昭和22年,旧安衛則においては,事業者に対し,粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務において,その作業に従事する労働者に使用させるために,防護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適当な保護具を備えるべき義務(同規則181条)及び前記保護具について,同時に就業する人数と同数以上を備え,常時有効且つ清潔に保持すべき義務(同規則184条)が定められ,一方で,労働者に対し,粉じんを発散し,衛生上有害な場所における業務に従事する際,その就業中保護具を使用すべき義務(同規則185条)が課されていた。そして, 事業者が前記義務に違反した場合(旧労基法42条,119条1号)のみならず,労働者が前記義務に違反した場合にも罰則が定められていた(旧労基法44条,120条1号)。昭和46年に制定された旧特化則においては,石綿を製造し,又は取り扱う作業場には,石綿粉じんを吸入することによる障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同時に就業する労働者の人数 ,120条1号)。昭和46年に制定された旧特化則においては,石綿を製造し,又は取り扱う作業場には,石綿粉じんを吸入することによる障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同時に就業する労働者の人数と同数以上備え付け,常時有効かつ清潔に保持すべき義務を負う旨定められた(同規則32条,34条)。昭和46年通達においては,「呼吸用保護具」とは,ホースマスク,防毒マスクおよび防じんマスクをいう,とされた。 その後,昭和47年に安衛法,安衛令及び特化則が制定され,安衛則において,事業者に対しては前記旧安衛則と同様に,粉じんを発散する有害な場所における業務においては,当該業務に従事する労働者に使用させるために,保護衣,保護眼鏡,呼吸用保護具等適切な保護具を備える義務(同規則593条),同時に就業する労働者の人数と同数以上の保護具を備え,常時有効かつ清潔に保持する義務(同規則596条)が定められ,これに違反した場合の罰則も定められていたが(安衛法22条,119条1号),当該保護具を労働者に対して使用させる義務の定めはなかったところ,粉じんを発散する有害な場所における業務に従事する労働者に対しては,旧安衛則と異なり,事業者から当該業務に必要な保護具の使用を命じられたときには,当該保護具を使用しなければならないとされた(同規則597条)。なお,労働者が前記義務に違反した場合の罰則については,安衛法26条及び120条1号により定められていた。また,特化則においても,43条及び45条により,事業者に対し,石綿を製造し,又は取り扱う作業場に,石綿粉じんを吸入することによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を同作業場において同時に就業する労働 者の人数と同数以上備え,常時有効かつ清潔に保持する義務を負う旨定められていたものの, ることによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を同作業場において同時に就業する労働 者の人数と同数以上備え,常時有効かつ清潔に保持する義務を負う旨定められていたものの,これを労働者に使用させることを義務付ける定めは置かれていなかった。そして,これらの規制内容は,昭和50年の安衛則及び特化則改正後においても変更されることはなかった。 ただし,昭和50年の安衛令及び特化則の改正により特定化学物質等作業主任者を選任すべき対象作業が広がり,事業者に対し,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を製造し又は取り扱う作業について,特定化学物質等作業主任者を選任し,保護具の使用状況を監視させる義務が定められた(昭和50年改正特化則2条2項,別表第1第4号)。これに関し,昭和50年基発第110号では,石綿を建築物内外装工事に使用する場合であって,石綿成形品の貼付け等発じんのおそれのない作業等のような,特定化学物質等のガス,蒸気,粉じん等に労働者の身体が曝露されるおそれがない作業については,昭和50年改正安衛令6条18号の特定化学物質等を「取り扱う作業」には当たらないとされた。 そして,平成7年,特化則の改正により,事業者に対し,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等の切断等の加工作業等(平成7年改正特化則38条の8第1項各号に規定する作業)に労働者を従事させる場合には,当該労働者に呼吸用保護具等を使用させるべき義務が定められ(平成7年改正特化則38条の9第1項,2項),労働者に対しては,前記義務に従って事業者から保護具等の使用を命じられたときはこれを着用すべき義務が定められた(同条3項)。 なお,平成17年,石綿則は,44条及び45条において,事業者に対し,石綿を製造し,又は取り扱う作業場において,当該石綿粉じん等を吸入 られたときはこれを着用すべき義務が定められた(同条3項)。 なお,平成17年,石綿則は,44条及び45条において,事業者に対し,石綿を製造し,又は取り扱う作業場において,当該石綿粉じん等を吸入することによる労働者の健康障害を予防するため必要な呼吸用保護具を,同時に就業する労働者の人数と同数以上備え,常時 有効かつ清潔に保持しなければならない義務を定め,14条により,事業者に対し,労働者を石綿等(石綿含有率1%を超える石綿含有製品等)の切断等の作業に従事させるときは,当該労働者に呼吸用保護具を使用させなければならないとし,労働者は,事業者から呼吸用保護具の使用を命じられたときには,これを着用しなければならない旨定めた。 b 昭和51年通達においては,環気中石綿濃度が2繊維/㎤(クロシドライトにあっては0.2繊維/㎤)を超える作業場所で石綿作業に労働者を従事させるときには特級防じんマスクを併用させ常時これらを清潔に保持するよう指導させること,とされた。 昭和61年通達においては,石綿及び石綿を含有する建材の取扱い作業者には,防じんマスク(国家検定品)を使用させ,当該防じんマスクの選定に当たっては,顔面への密着性が良好なものを選ぶこととされ,さらに,粉じんの発散が著しい場合には,送気マスク(エアライン・マスク)を使用させることが望ましいとされた。 (イ) 防じんマスクの性能被告国は,各労働省告示において,防じんマスクの規格を定めていたところ,その粉じん捕集効率(粒子捕集効率。防じんマスクの外側から,粉じん(粒子状物質)を含んだ空気がろ過材(フィルター)を通過した時に,ろ過材で捕集できた粉じんの割合)につき,①昭和25年には,ろじん効率が90%以上のものを第一種マスク,60%以上のものを第二種マスクと定め,②昭和3 んだ空気がろ過材(フィルター)を通過した時に,ろ過材で捕集できた粉じんの割合)につき,①昭和25年には,ろじん効率が90%以上のものを第一種マスク,60%以上のものを第二種マスクと定め,②昭和30年には,吸気抵抗及びろじん効率の適合基準に応じて1種から4種までの種別を設けた上で,ろじん効率につき,95%以上のものを第1種,90%以上のものを第2種,75%以上のものを第3種,60%以上のものを第4種と定め,③昭和37年には,重量及び性能(圧力差,粉じん捕集効率等)に応じて等級を分けた上で, 粉じん捕集効率につき,99%以上であれば特級,95%以上であれば1級,80%以上であれば2級と定め,④昭和47年には,粉じん捕集効率につき,99.5%以上であれば特級,95%以上であれば1級,85%以上であれば2級と改訂し,④昭和58年には,一律に粉じん捕集効率を95%以上と定め,⑤昭和63年の規格改正においては,粉じん捕集効率(粒子捕集効率)について変更はなく,⑥平成12年には,粒子捕集効率につき,99.9%以上がR3,95%以上がR2,80%以上がR1と定められた。 また,昭和59年に発行された「労働科学」60巻12号に掲載された「防じんマスクの顔面への密着性に関する研究」においては,昭和59年1月30日基発第48号「防じんマスクの選択・使用について」では,防じんマスクの顔面への密着性の検査は,定性的な陰圧法によって行うよう規定され,この方法によって密着性が良好と判定された場合,粉じんの面体内への侵入率は1%以下と推定されるとされた(乙アA207の567頁)。 (ウ) 防じんマスク着用上の問題点防じんマスクには,以下の文献等によって示唆,指摘されているとおり,通気抵抗による息苦しさや,重量による不快感,視野障害等により, アA207の567頁)。 (ウ) 防じんマスク着用上の問題点防じんマスクには,以下の文献等によって示唆,指摘されているとおり,通気抵抗による息苦しさや,重量による不快感,視野障害等により,作業者がこれを着用して作業に従事することを阻害する要因が存在する。 a 労働科学研究所の主任研究員であった医学博士三浦豊彦編「労働衛生保護具-選び方・用い方の理論と実際-」(昭和30年9月発行)においては,三浦豊彦らの研究室で鉱山の坑内夫について調査したところ,通気抵抗(毎分空気を30ℓの速度で通した時の抵抗)10㎜(水柱)以上を示すマスクを着用した場合には50%以上の人が呼吸困難を訴えていること,マスクの重量が120g以上になると50%の人が使用中に重いと感じること,マスクを着けたときの視野障害が 作業中にマスクを脱がせたりする原因になること,及び,労働が激しいと呼吸も激しくなるため,マスクの抵抗が相当身体にこたえてくることや,大きな呼気量となるような労働の場合にはマスクの抵抗の比較的小さなものを選ばないと結局使用できない結果となることが指摘された。また,濾層を一々捨てる形式のマスクを除いて濾層の手入れは防じんマスクにとって極めて重要であり,手入れの良否がマスクの性能に大きな影響を及ぼすこと,及び,マスクの手入れは呼吸の苦しさに大きく影響し,ひいてはマスクを使用したがらない原因ともなるから,こうした教育を忘れてはならないとされた。(甲A330の46頁・47頁・56頁ないし60頁)b 労働省労働基準局労働衛生課監修日本保安用品協会発行の「労働環境の改善とその技術-局所排出装置による-」(昭和32年9月発行)においては,防じんマスクは作業をする際に身につけるものであるため,作業者にとってはどうしてもある程度邪魔になること,ど 行の「労働環境の改善とその技術-局所排出装置による-」(昭和32年9月発行)においては,防じんマスクは作業をする際に身につけるものであるため,作業者にとってはどうしてもある程度邪魔になること,どんなによいマスクでも呼吸抵抗や視野障害があり,重みも感じること,また,その性能を確実に維持することは容易ではないことが指摘されている(甲A104の0-4)。 c 倉田正一らによる「職業病管理」(昭和36年7月発行)においては,「保護具と恕限度:上記の施設や工程等の改善が講ぜられない場合(例えば坑内,船艙内)とか,粉じんを減少せしめる方途が失敗したような場合には防じんマスクなどの保護具を用いなければならない。 しかし経験者はご存じであろうが,労働者はわかってはいてもなかなかマスクをつけたがらないものである。このことは,それが負担であり,能率をおとす可能性があるからである。またたとえ使っていても弁などの故障を知らずにいると,大量の粉じんを吸入する危険がある。 従って保護具はやむを得ない時に使用せしめるもので,むしろ環境改 善に力を入れるべきである。」とし,やむを得ない状況とは,恕限度により判断するのが妥当であると考えるとされた(甲A20の54頁・55頁)。 d 昭和59年4月に日本石綿協会が発行した「せきめん」No.460に掲載された「AIA保健・安全出版物推奨する管理手順第9号(RCP9) 石綿製品の製造・使用に際して用いる防護装置」においては,「装置のつけ心地は特に,かなりの時間着用しなければならない場合に重要な評価基準である。フェース・ピースは,着用する人の顔形によって,同じものでもつけ心地が変わるであろう。長期防護をせざるを得ない場合,たとえ予測濃度がこの程度の防護まで必要としなくても,より快適にするには正圧措置を用い ース・ピースは,着用する人の顔形によって,同じものでもつけ心地が変わるであろう。長期防護をせざるを得ない場合,たとえ予測濃度がこの程度の防護まで必要としなくても,より快適にするには正圧措置を用いることが望ましい。」とされた。なお,正圧防じんマスクとは,空気がフィルターを通し加圧供給(通常バッテリー駆除ポンプ)されるものをいい,交換可能なフィルターが付いた負圧(口鼻)マスクとは区別されている。 (甲C1の460)e 労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課監修「建設業における粉じんによる疾病の防止粉じん作業特別教育用」(昭和61年7月初版発行,昭和63年10月第4版発行)においては,防じんマスクの適正な使用方法として,「作業内容や作業強度などを考慮し,吸排気抵抗,重量,視野などその作業に適したものを選びます。吸排気抵抗については,その他の条件が許せばできるだけ少ないものを,重量については着用者の負担という観点からすると,軽ければ軽いほどよいでしょう。」とされた(甲A328の36頁)。 f 日本石綿協会安全衛生委員会石綿含有建材料小委員会が石綿含有建材料の建築工事の施工マニュアル作成の前段階としてまとめた「石綿含有建材料調査報告書(施工現場等における実態調査)」(昭和63 年5月発行)においては,「これまでの切断作業時の防じんマスク着用は,その必要性が言われながら実際の施工現場において励行されない場合があった。その理由は入手についての問題もさることながら,防じんマスクを着用した場合に伴う息苦しさから着用したがらない施工員がいることもその一因である。」,「当該材料の切断作業を行う場合は,石綿が含まれていない場合であっても,それ以外の一般鉱物性粉じん吸入防止のために,防じんマスク着用の励行が必要であり,施工員に対する一層 こともその一因である。」,「当該材料の切断作業を行う場合は,石綿が含まれていない場合であっても,それ以外の一般鉱物性粉じん吸入防止のために,防じんマスク着用の励行が必要であり,施工員に対する一層の教育指導が望まれる。」とされた(甲A1241の68頁,乙ケ4)。 (エ) 建築現場における防じんマスクの備付け及び着用状況a 備付状況昭和46年9月発行の「労働の科学」26巻9号に掲載された内藤栄治郎の「石綿障害予防対策の現状と関係法規」と題する論文によれば,昭和46年1月から同年3月までの石綿取扱い事業場産業別監督指導結果によれば,建設業の監督事業場数12事業場において,石綿取扱い労働者数134,呼吸用保護具の必要備付数は100であったのに対して既備付数は54であり,設置率は54%とされた(甲A82)。 b 着用状況(a) 東は,「日出ずる国の産業保健」平成18年4月号「石綿からみた世界(4):加工現場調査1985-1986」において,昭和60年から昭和61年の建築作業等に関し,「日本石綿協会の会員企業には,一部の断熱施工などを除けば,ゼネコンや建設施工関係企業は含まれていませんでした。当時から,石綿に関して最もリスクの高い作業者集団を抱えているのは,紡織を除けば建設と造船であると考えられていました。石綿の危険性についての十 分な知識はなく,また,より早く作業するために電気ノコギリなどでマスクを装着せずに石綿含有製品を切断することが一般的に行われていました。また船内や屋内の作業では,配管工や電気工を含め高い曝露をうけやすい作業環境でした。日本の学会発表などで報告された事例もこうした作業者が多いと考えます。現場では,本来は禁止されている作業であっても実際には行われているケースを耳にしました。また,船内や屋内の やすい作業環境でした。日本の学会発表などで報告された事例もこうした作業者が多いと考えます。現場では,本来は禁止されている作業であっても実際には行われているケースを耳にしました。また,船内や屋内の作業では,配管工や電気工を含め高い曝露をうけやすい作業環境でした。」,「現場の加工で大きな問題がある建材に壁材があります。日本の家屋はハウスメーカーによって基本規格が異なり,どうしても寸合わせが必要となります。例えば,1メートルは102㎝から98㎝まで各社によって規格が異なり,畳のサイズは100種類を超えています。壁材は厚みがあり,ボードとしての密度も異なり,長い面を切断することもあり,きれいな断面とすることが必要で,切断加工では屋根材のように割断することは出来ません。このため,電気ノコギリによる切断が最も作業効率がよく,一方,ノコギリに吸引装置や粉じん発生抑制装置を装着すると効率が落ちることから,歩合制で働く大工など現場作業者はこうした発じん防止対策を採用しませんでした。また,個人曝露保護具の着用についても,息苦しい,短時間作業では励行しにくい,面倒であるなどから実施率は低いものでした。建屋内の作業では曝露が高くなることの他,屋外でも周辺を汚染する発じんが起こり得ることから問題が大きいと考えられました。」と述べた(甲A319)。 (b) 昭和63年に発行された「労働衛生」29巻8号に掲載された久永らによる「アスベストに挑む三管理環境管理と作業管理-建築業の現場を中心に-」によれば,全京都建築労働組合と三重 県建設労働組合によるアンケート調査では,石綿粉じんの吸入が「よくある」と回答したのは,京都では6500人(アンケート回答率60%)中8.9%,三重では7411人(アンケート回答率79.3%)中13.7%であり,「時 アンケート調査では,石綿粉じんの吸入が「よくある」と回答したのは,京都では6500人(アンケート回答率60%)中8.9%,三重では7411人(アンケート回答率79.3%)中13.7%であり,「時々ある」と回答したのは京都が29.1%であり,三重では26.4%であった。そして,石綿粉じんの吸入が「よくある」と「時々ある」と回答した者のうち,粉じん曝露時に防じんマスクを使用する者は,「毎回」が京都で0.8%,三重で2.4%,「時々」が京都で6. 8%,三重で7.5%であり,ガーゼマスクの着用については,「毎回」が京都で0.7%,三重で7.2%,「時々」が京都で30.1%,三重で24.8%であり,何もしない者が半数以上であった。同調査結果に関しては,「呼吸用保護具の使用は根本的な解決ではないが現状では重要である。」とされた。(甲A430)(c) 千田忠男らによる「町場建築のアスベスト作業」(平成元年発行。「月刊いのち」No.267所収)において,昭和63年に,全建総連東京都連に加盟する組合員のうち同年7月度と8月度のいずれかに組合の機関会議等に参加する者を調査対象として実施したアンケート(回答者数424名,うち361名分を集計)の結果として,①木造建築で「粉じんの出る所で作業する時にマスクをつけている」と回答した者は157名(47.6%)であったが,着用しているマスクが「防じんマスク」であると回答した者は86名(28.4%)であり,木造建築に従事する者(330名)の約4分の1のみが効果のあるマスクをつけていることになること,②鉄骨建築に従事する者のうち,粉じんの出る所で作業する時にマスクを「いつもつけている」者はわずかに2名(1. 9%)であり,「ひどいときだけつける」とする者(33名)とあわせてマスクを着用する者 従事する者のうち,粉じんの出る所で作業する時にマスクを「いつもつけている」者はわずかに2名(1. 9%)であり,「ひどいときだけつける」とする者(33名)とあわせてマスクを着用する者は3割程度であり,しかも効果のあるマスクをつける者だけをみるとわずか21名(20.0%)にしかすぎなかったことが述べられた上,調査結果の特徴として,石綿粉じんを吸入しないようにするための対策をみると,効果のあるマスクを着用する例はわずか2割前後と少なく,大部分は無防備のままで粉じん作業に従事していることが判明した,とされた。なお,当該アンケートの回答者は全て男性であり,50歳以上が6割前後と高齢層にかたよっており,また,職種は,「大工」が239名(66.2%)と大半を占め,「鳶」が26名(7.2%),「左官」,「塗装」,「板金」の順であったとされ,働き方では,親方が274名(75.9%)と多く,次いで一人親方が115名(31.9%)であり,職人は65名(18. 0%)であった。(乙アA248)(d) 外山尚紀らによる「住宅建築現場における建設労働者の粉じん曝露に関する検討」(平成13年7月10日発行。「勞働科學」第77巻第7号所収)には,神奈川県横浜市に平成11年7月から平成12年2月にかけて施工された鉄骨造地上2階地下1階総床面積150㎥の住宅の建築現場において,建築期間中の12日間,塗装工,造作大工,鉄工,サッシ工,左官工の5職種について,溶接,石膏ボード加工,ラムダ(外壁材)加工,木毛セメント加工,粉体投入,清掃,釘打ちの作業と一部その混在作業の際に,労研TR個人サンプラー(個人濃度測定時),労研TRサンプラー(定点濃度測定時),レーザー粉じん計(定点濃度測定時),データロガー(定点濃度測定時)を使用して測定した結果及びその 混在作業の際に,労研TR個人サンプラー(個人濃度測定時),労研TRサンプラー(定点濃度測定時),レーザー粉じん計(定点濃度測定時),データロガー(定点濃度測定時)を使用して測定した結果及びその検討が記載された。 同調査を行った建築現場において,外山尚紀らは,「粉じん作業は作業者の任意の場所で随時行われており,管理されていなかった。また,排気装置などの対策は行われておらず,国家検定合格の標章の付いた防じんマスクを使用している作業者は確認されなかった。」,「ガーゼマスクを使用している作業者は多く見られ」た,とした。 (甲A242)(オ) 防じんマスク着用の必要性に関する建築作業従事者の認識千田忠男らによる「町場建築のアスベスト作業」(平成元年刊。「月刊いのち」No.267所収)における聴き取り調査の結果によれば,安全衛生対策については,「アスベスト粉じん曝露に対する安全衛生対策を考えると,現場の7~8割の人が,アスベストの「こわさ」を知らないと思われます。ですから,マスクをしていると,「お前,何しているんだ?」ということになり,笑われてしまうという状態です。具体的な対策としては作業後の作業者の着替えや作業着の洗濯,帰宅後の入浴などが行われていますが,防じんマスクはあまり普及していません。さらにタオルやガーゼマスクで十分であると考える者も多いようです。マスクをしている場合にどれ位の期間で新しいものに交換するかも大切であり,毎日毎日同じマスクをつけている例もみられます。」との回答があった。 一方で,全建総連東京都連に加盟する組合員のうち同年7月度と8月度のいずれかに組合の機関会議等に参加する者を調査対象として実施したアンケートの結果では,石綿粉じんが有害であるとする認識を「アスベストが肺がんをおこすことを知 加盟する組合員のうち同年7月度と8月度のいずれかに組合の機関会議等に参加する者を調査対象として実施したアンケートの結果では,石綿粉じんが有害であるとする認識を「アスベストが肺がんをおこすことを知っているか」という質問で代表させた結果,「よく知っている」と回答した者が151名(41.8%)で,「少し知っている」とする者も併せて9割の者が石綿粉じんの有害性を 認識していることが窺われたとされた。 (乙アA248)ク建材メーカー等による警告表示について(ア) 規制の内容a 安衛法57条本文により,健康障害を生じるおそれのある物に対する警告表示が定められていたところ,昭和50年改正安衛令18条2号の2及び同施行令18条39号及び同条2号の2,昭和50年改正安衛則30条,同規則別表第2第2号の2及び同規則32条2号の2により,石綿含有率5%を超える石綿含有建材等がその対象に含められた。警告表示の具体的内容については,昭和50年表示方法通達において,名称,成分,含有量,表示者の氏名又は名称及び住所のほか,局所排気装置の設置や防じんマスクの着用等を「注意事項」として以下のとおり記載すべきこととされた。 「多量に粉じんを吸入すると健康を損なうおそれがありますから,下記の注意事項を守ってください。 1 粉じんが発散する屋内の取扱い作業場所には,局所排気装置を設けて下さい。 2 取扱い中は,必要に応じ防じんマスクを着用して下さい。 3 取扱い後は,うがい及び手洗いを励行して下さい。 4 作業衣等に付着した場合は,よく落として下さい。 5 一定の場所を定めて貯蔵して下さい。」また,昭和52年の改正により,安衛法57条2項が設けられ,石綿等を容器に入れ又は包装する方法以外の方法により譲渡し,又は提供する場合には,労働省 い。 5 一定の場所を定めて貯蔵して下さい。」また,昭和52年の改正により,安衛法57条2項が設けられ,石綿等を容器に入れ又は包装する方法以外の方法により譲渡し,又は提供する場合には,労働省令の定めるところにより,名称,成分,含有量,表示者の氏名又は名称及び住所等を記載した文書を,譲渡又は提供する相手方に交付しなければならないと定められた。 平成17年に制定,施行された石綿則においては,32条2項において,事業者は,石綿等を運搬し,又は貯蔵するときには,石綿等の容器又は包装の見やすい箇所に石綿等が入っていること及びその取り扱い上の注意事項を表示しなければならないとされた。 b 昭和63年通達においては,石綿を含有する建設用資材の製造者の団体に対して安衛法57条の表示等の徹底につき指導を行っており,管内の製造業者に対して同様の指導を行うこと,とされた。 平成4年通達においては,安衛法57条による石綿製品の包装等への表示のほか,個々の石綿製品ごとに押印又は刻印されている石綿業界による自主表示「a」マークにより,石綿含有建材料であることを識別できることを周知徹底すること,とされていた。 (イ) 業界の認識等a 日本石綿協会が昭和54年1月に発行した「せきめん」第396号においては,「労働安全衛生法に基づく「石綿ラベル」は必ず貼布」との見出しで,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等には,昭和50年改正安衛法及び昭和50年改正安衛則の規定により,その容器等に,また,昭和50年改正特化則の規定により,石綿及び石綿製品を運搬等するときは容器又は包装の見やすい箇所に,ラベル又は印刷による表示をしなければならないこと等を記載した記事が掲載された(乙アA141)。 b また,昭和54年9月の「せきめん」第405号においても するときは容器又は包装の見やすい箇所に,ラベル又は印刷による表示をしなければならないこと等を記載した記事が掲載された(乙アA141)。 b また,昭和54年9月の「せきめん」第405号においても,「労働安全衛生法に基づく「石綿ラベル」は必ず貼布工場長特に注意が肝要」との見出しで,前記aと同様の内容に加え,「本件従来ややもすると表示が忘れられ勝ちで,基準監督署係官の臨検にあい,処分の対称となる事例も発生しているので荷受側工場長においては本件特に注意が必要である。」との記事が掲載された(乙アA142)。 (ウ) 警告表示の具体的な実施方法労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課編「改訂石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル-石綿粉じん曝露防止のために-」(平成4年発行。平成8年11月改訂)においては,製品の種類により実施している名称表示方法として,以下のとおり記載されていた(甲A248)。 製品名表示方法表示なし(石綿含有率5%以下)包装に記載パレット積みで出荷の際文書をはさみ込む文書を相手方に交付請求納品書に注意事項を記載石綿スレート ○○○ 住宅屋根用石綿スレート○○ 石綿セメントサイディング○○ ○石綿セメント板(内外装材) ○○ 石綿セメントけい酸カルシウム板 ○ パルプセメント板○ ○押出成形セメント板 ○○ ○(エ) 「a」マーク表示についてa 日本石綿協会は,平成元年6月16日に開催された第47回安全衛生委員会において,昭和63年から労働省の行政指導があった石綿含 有建材の表示について,当協会 「a」マーク表示についてa 日本石綿協会は,平成元年6月16日に開催された第47回安全衛生委員会において,昭和63年から労働省の行政指導があった石綿含 有建材の表示について,当協会加盟の建築材料を製造している各業界団体が自主的に,同年7月1日以降製造する石綿含有率5%を超える石綿含有建材1枚ごとに,施工時や解体時に作業者の健康管理をより促進することを目的として,欧州諸国で表示に使用されているものと同じ「a」マークを押印等表示することを決めた(甲C1の523)。 b 平成元年6月14日に発行された日本経済新聞において,「アスベスト入りの建材標示義務付け業界がマーク」と題する記事が掲載された。同記事においては「建材業界が自主的に決めたアスベスト入り建材に表示されるマークはアスベストの頭文字を示す「a」。欧州諸国ではすでに定着している表示だ。」として,具体的な「a」マークの表示,対象となる建材,押印・刻印の開始時期等が記載された。 また「労働省側がアスベスト含有率一%以上の建材にすべて表示を要請したのに対し,実際は五%以上のものが対象となり,行政側には不満の残る内容。」とも記載された。(甲A377)c 平成元年6月1日発行の「建築ニュース(京建労機関紙)」では,aマークについて,「一般向けにその意味や取扱上の注意があわせて周知徹底されるとは約束されておらず,もともと英国標示の頭文字だけで業界内部の申しあわせに終わるおそれもあり,私たちがさらにがんばる必要があります。」として,日本石綿協会では,国民向けの広報に消極的であることが指摘された(甲A1319)。 d 日本石綿協会は,平成6年12月5日に,“aマーク”表示基準を「石綿含有率1重量%を超える建材」に拡大する旨をマスコミを含め広く一般に向けて表明した。日本石綿 とが指摘された(甲A1319)。 d 日本石綿協会は,平成6年12月5日に,“aマーク”表示基準を「石綿含有率1重量%を超える建材」に拡大する旨をマスコミを含め広く一般に向けて表明した。日本石綿協会は,以前には石綿含有率5重量%以下の製品がなかったため,“aマーク”表示の範囲については特に規定を設けていなかったものの,これに該当する製品が製造されるようになったことから,石綿使用の安全性を確保するため,自主 基準を1%まで拡大し,平成7年1月1日より逐次実施すると説明した。(甲C1の588)ケ建築現場における警告表示(作業現場掲示)について(ア) 昭和50年改正特化則38条の3は,事業者は,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を製造し,又は取り扱う作業場には,①特別管理物質(石綿等)の名称,②特別管理物質の人体に及ぼす作用,③特別管理物質の取扱い上の注意事項,④使用すべき保護具を,作業に従事する労働者が見やすい箇所に掲示する義務を負う旨定めた。その後,平成7年には,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等が規制の対象となった。 なお,労働省労働衛生課編「特定化学物質等障害予防規則の解説」においては,前記④以外についての掲示事項については,昭和50年表示方法通達の当該部分と同一内容として差し支えないとし,前記④については,特別管理物質の取扱いの実態に応じ,保護具の名称を具体的に掲示するよう指導すること,と記載された(甲A34の111頁)。 (イ) 平成4年1月20日に発行され,その後平成9年に改訂された労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課編「改訂石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル-石綿粉じん曝露防止のために-」においては,石綿含有建材の取扱い上の注意事項を記載した掲示板の記載例として,名称,成分, 衛生部化学物質調査課編「改訂石綿含有建築材料の施工における作業マニュアル-石綿粉じん曝露防止のために-」においては,石綿含有建材の取扱い上の注意事項を記載した掲示板の記載例として,名称,成分,含有量の他,以下の記載が示され,さらに,石綿含有建材の施工場所では作業が2,3日の短期日で終わる場合が多いので,これらの内容を記載した携帯用掲示板を予め作成しておくと便利である旨指摘された(甲A248の50頁・51頁)。 「切断加工等の作業の際,長時間多量に粉じんを吸入すると健康を損なうおそれがありますから下記の注意事項を守って下さい。 1.切断,加工の作業では移動式除じん装置を使用して下さい。 2.取扱い中は,必要に応じて防じんマスクを着用して下さい。 3.取扱い後は,うがいおよび手洗いを励行して下さい。 4.作業衣等に付着した場合はよく落として下さい。 5.切断屑等は,一定の場所を定めて貯蔵して下さい。」(ウ) なお,平成17年に制定,施行された石綿則においては,34条で,事業者に対し,石綿等を製造し,又は取り扱う作業場には,①石綿等を製造し,又は取り扱う作業場である旨,②石綿等の人体に及ぼす作用,③石綿等の取扱い上の注意事項,④使用すべき保護具を,作業に従事する労働者が見やすい場所に掲示する義務が定められた。 コ安全衛生教育について昭和47年,安衛法において,事業者に対し,労働者を雇い入れたとき及び労働者の作業内容を変更したときに,当該労働者に対し,労働省令で定めるところにより,その従事する職務に関する安全又は衛生のための教育を行う義務(同法59条1項,2項),危険又は有害な業務で,労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは,労働省令で定めるところにより,当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行う めの教育を行う義務(同法59条1項,2項),危険又は有害な業務で,労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは,労働省令で定めるところにより,当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行う義務(同条3項)と,違反に対する罰則が定められた(同法119条1号,120条1号)。また,建設業については,新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く)に対し,①作業方法の決定及び労働者の配置に関すること,②労働者に対する指導又は監督の方法に関すること,③前記①及び②のほか,労働災害を防止するため必要な事項で,労働省令で定めるものについて,労働省令で定めるところにより,安全又は衛生のための教育を行う義務も定められた(同法60条)。 そして,前記安衛法59条1項に基づき,安衛則において,雇入れ時及び作業内容の変更時においては,①機械等,材料等の危険性又は有害性及 びこれらの取扱い方法に関すること(同規則35条1項1号),②安全装置,有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること(同項2号),③作業手順に関すること(同条3号),④作業開始時の点検に関すること(同項4号),⑤当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること(同項5号),⑥前各号に掲げるもののほか,当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項(同項8号)等のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生に必要な事項についての教育を行わなければならないとされた。一方,安衛則36条においては,安衛法59条3項による特別教育の対象となる事業に石綿の取扱い作業が含まれていなかった。 平成4年通達において,石綿含有建材の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領を,事業者をはじめ安 いては,安衛法59条3項による特別教育の対象となる事業に石綿の取扱い作業が含まれていなかった。 平成4年通達において,石綿含有建材の施工業務従事者に対する労働衛生教育実施要領を,事業者をはじめ安全衛生団体等に周知するとともに,当該教育の推進について指導・援助することが求められた。 なお,平成17年に制定,施行された石綿則においては,27条により,事業者に対し,石綿が使用されている建築物又は工作物の解体等の作業に係る業務に労働者を就かせるときは,当該労働者に対して,①石綿等の有害性,②石綿等の使用状況,③石綿等の粉じんの発散を抑制するための措置,④保護具の使用方法,⑤前記①ないし④のほか,石綿等の曝露の防止に関し必要な事項について,当該業務に関する衛生のための特別の教育を行わなければならないと定めた。 (3) 建設業一般についての特質についてア建築作業の特徴(ア) 労働省職業安定局参事官室が,昭和44年8月,建設労働の諸問題を解明し,総合的・基本的対策を検討するために,中央職業安定審議会・専門調査委員会建設労働部会の資料としてとりまとめた「建設労働の現状(未定稿)」(甲A1135)によれば,建設業の本来的な性格と して,①受注生産,個別生産であること(その生産物は,1つ1つがそれぞれ発注目的が違うように全く異なるものである。),②総合生産であること(多種類の資材を用い,それを多様の技術と生産工程によって組立て,総合して,1つの生産物として,かたち作るものである。),③移動生産であること(建設業における生産場所は,作ろうとする建設物の所在場所である。したがって,資材,器材,労働力等を,生産場所が変わるごとに,移動させて生産するものである。),④屋外生産であることが指摘されていた。 同様に,菊岡倶也「建設業 とする建設物の所在場所である。したがって,資材,器材,労働力等を,生産場所が変わるごとに,移動させて生産するものである。),④屋外生産であることが指摘されていた。 同様に,菊岡倶也「建設業」(昭和55年刊)(甲A1119)においても,建設産業の産業的特性として,建設業が本質的に受注産業であること,完成物が多種多様でかつ単品生産であること,土地(立地条件)への依存性が強いこと,前記各リスクを下請生産によって分散する性格,総合組立型の生産であること,労働集約型の屋外・移動産業であることを挙げている。 (イ) 前記のような建設業の特性を踏まえて,立命館大学政策科学部のWは,建設物が,他産業に比べて規模,構造,生産条件,需要の規模などの面で多種多様であり,品質管理の導入が困難であったことや,建設業の移動性によって,建築作業従事者の労働実態の把握を追跡することが困難となること,「屋外」でも作業が行われるため,他の産業に比べて自然的・人為的影響を受けやすく,屋内での産業活動に比べて,労働災害が発生する可能性も高いこと,建築物は一戸建てから高層ビルまで多種多様であり,また,職種によっては天井裏等の狭い場所において作業をすることもあるため,作業に従事する場所の広さも広狭様々であること,労働衛生設備などの設置が他の産業よりも一層費用がかかること等を述べ,建設業においては労働衛生設備等の装備に対してのインセンティブを与える必要があること等を指摘する。 (甲A1108の1の2頁・3頁,証人W)イ重層下請構造(ア) 建設業における下請制はその依存率が非常に高く,工程ごとの職業的分業の明確な建築工事では特に下請経営が多く,一工事の下請の数は少なくとも10,多いときには数百に及ぶ。建築工事では,各部分工程の分業が,技術的にも 下請制はその依存率が非常に高く,工程ごとの職業的分業の明確な建築工事では特に下請経営が多く,一工事の下請の数は少なくとも10,多いときには数百に及ぶ。建築工事では,各部分工程の分業が,技術的にも職業的にもかなり明確であり,大工,左官,とびなど各部分工事のほぼ全部に,職別工事業による下請がおこなわれ,そのほか,電気,機械,管工事など設備工事も,各専門工事業に依存する。 (甲A1108の1の3頁,1118の278頁,1119の20頁・27頁ないし29頁,1130,1135,1308)(イ) 建設業の中核にあたる総合建設業者(総合元請業者)は建設業数全体の約1割にすぎず,残りの9割は下請企業群であり,そのために中小企業の割合が高く,また,小規模事業主又は個人事業主(一人親方)の占める割合が他産業に比して高くなっている。このような建設業の強い下請依存は,①受注生産・移動生産という建設生産の性格から,労働力その他の生産要素を元請が常時保有することがむずかしいこと,②受注生産にともなう危険分散・生産性の確保を行うこと,③建築工事がもつ多種多様性から,一企業レベルですべての必要生産能力を保有することが難しいことなどの諸特徴から発生している。注文生産や需要の変動性,不安定性等のリスクを分散させるために,建設業は自前の機材や労働力を常時保有することを避け,それらを下請に依存するという性格を強くもち,各下請も同様にそれをさらに次層の下請へと転嫁していくという構造をもつことが,建設業特有の重層下請構造をつくりだしてきたとされる。その末端には小規模事業者や個人事業主(一人親方)などの労働保護が及びにくい建設労働作業者が広範な層をなしている。(甲A212,242,1108の1の3頁,1118の264頁・265頁・2 78頁,1119の19頁 事業主(一人親方)などの労働保護が及びにくい建設労働作業者が広範な層をなしている。(甲A212,242,1108の1の3頁,1118の264頁・265頁・2 78頁,1119の19頁・20頁・27頁ないし29頁,1130,1135,1308)(ウ) 建築工事現場においては,事故が多いが,その理由の一つは,直接労働の下請依存によって元請の労働管理が不徹底なことが挙げられている。労働者は多くの元請の経営内労働者ではない。元請は安全管理に無関心ではないが,直接生産工程の分担者である下請経営との間の責任の配分はあいまいであり,多種多様な業種が関わる重層下請構造によって,建設業における労務管理は著しく困難なものとなる。また,重層下請構造によって,そのピラミッドの末端におかれる小規模事業主や個人事業主(一人親方)ほど建築コスト削減の圧力を受けやすく,そのしわ寄せが労働安全衛生面に影響するとの指摘がある。(甲A213,1108の1の4頁・5頁,1130,1135)(エ) 建設業特有の労働災害(材料の取扱運搬の事故,物の飛来・倒壊,墜落,動力・移動機械の事故等)が多いこと,その理由について,下請依存による元請の労働管理が不徹底であること(元請と下請との間の責任配分のあいまいさ)が大きいことは,昭和38年の時点から指摘されている。 そして,建設生産が有期の注文生産であること,野外作業が中心となること等に加え,実際の建築工事が複雑な下請関係の下で中小零細企業によって行われる場合が多いという前記のような建設業特有の事情から,雇用関係の不明確,雇用形態の不安定,賃金不払い及び労働災害の多発,技能労働者の不足,福祉の立ち後れ等の問題が多く見られるという建設労働の実情に鑑み,その基本的な課題である雇用関係の明確化と雇用管理体制の整備を 確,雇用形態の不安定,賃金不払い及び労働災害の多発,技能労働者の不足,福祉の立ち後れ等の問題が多く見られるという建設労働の実情に鑑み,その基本的な課題である雇用関係の明確化と雇用管理体制の整備を推進し,併せて建設労働者の技能の向上及び福祉の増進のための措置を積極的に促進し,その改善を図るという趣旨で,建設雇用改善法が昭和51年10月1日から施行された。 もっとも,その成果を,雇用促進事業団が実施した「建設業における雇用管理現状把握実態調査(5か年(昭和58年から昭和62年まで)のまとめ)」によってみると,元請から下請に対して行う安全衛生に関する雇用改善指導は,82%の割合で行われたものの,雇用改善の指導は,一次下請だけに限られ,二次下請以下に対する指導はほとんど行われておらず,その結果,雇用の改善は,一次下請企業のレベルだけにとどまると同時に,雇用管理責任を負わされた一次下請企業は,それを回避するために自社の直用化・常用化を抑制し,雇用改善の遅れている二次以下に雇用を回す傾向が生じつつあるとの指摘もされている。 (甲A130の84頁,134,213の1の139頁ないし141頁) 2 判断(1) 規制措置の位置付け等前記1(1)イのとおり,石綿粉じん曝露による健康障害を防止するためには,作業環境管理と作業管理に重点を置いた対策を執る必要があるところ,被告国は,昭和50年時点において,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止のために,作業環境管理として,石綿含有建材の代替化,石綿吹付け作業の禁止,石綿取扱作業場への立入禁止,湿潤化,局所排気装置の設置の義務付けを行っており,加えて,作業管理として,防じんマスクに関する規制を行っていたことが認められる。また,警告表示や作業現場掲示,安全衛生教育及び作業環境測 立入禁止,湿潤化,局所排気装置の設置の義務付けを行っており,加えて,作業管理として,防じんマスクに関する規制を行っていたことが認められる。また,警告表示や作業現場掲示,安全衛生教育及び作業環境測定に関する規制も行っているが,これらは作業環境管理ないし作業管理を適切に行いその実効性を高めるための役割を担うものであると解される。(前記1(2))そこで,被告国の前記規制が建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止措置として有効なものであったか否か等について,以下検討する。 (2) 作業環境管理に関する規制について ア石綿含有建材の代替化について前記1(2)ア(ア)からすれば,昭和50年改正特化則以降,被告国が,代替化努力義務を定める等して石綿含有建材について代替化を促進してきたことは認められる。 しかし,石綿の中でも危険性が高いことから特に代替化を進めることとされたクロシドライトについてさえ昭和62年に業界が自主的に使用を中止するまではその使用が継続され,アモサイトについては,昭和50年以降に使用する事業場は減少していったものの,平成5年に業界が自主規制を行って使用を中止するまでの間はその使用が継続されており,クリソタイルを含有する石綿含有建材については,増加する住宅建築等において耐火構造等に用いることが可能であったことや技術面での困難性及び代替品が石綿含有建材に比して価格が高かったこと等もあり,一部の種類のものを除き,代替化が進まず,被告国が平成15年に石綿含有建材の原則禁止措置を執り,また,平成18年に石綿含有率0.1%を超える石綿含有製品等の製造等を原則禁止するまでは,その製造販売等が継続され,建築現場において使用されていた。加えて,石綿含有成形板については,建材の石綿含有率が年々減少していったことは認 .1%を超える石綿含有製品等の製造等を原則禁止するまでは,その製造販売等が継続され,建築現場において使用されていた。加えて,石綿含有成形板については,建材の石綿含有率が年々減少していったことは認められるものの,その含有率は平成元年時点においても10%以上のものが多く,平成15年に石綿含有建材の使用が原則禁止(ただし平成15年改正安衛令の施行日以前に製造又は輸入された物については適用除外)となった時点においても,石綿スレート等については石綿含有率が10%以上のものが存在していた。さらに,昭和50年以降平成3年頃まで石綿含有建材の出荷量はむしろ増加しており,このような出荷量の増減は被告国の住宅供給政策等による建築物の着工数の増減に大きく影響されているといえる。(前記第3,1(2),第4,1(2)ア)以上のことからすれば,昭和50年改正特化則によって石綿含有建材の 代替化努力義務が定められ,その後被告国がこれを促進する通達の発出等を行ってきたことが,建築現場における建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発生を防止する措置としての実効性を有していたということはできない。 イ石綿吹付け作業の禁止について前記1(2)イ(イ)のとおり,業界団体は,昭和50年改正特化則において石綿吹付けが原則として禁止される前である昭和49年において,すでに自主的に吹付け石綿の施工を中止しており,遅くとも昭和54年頃には,吹付け石綿については,ロックウール等に代替されることにより,製造が中止されたものと認められる。 しかし,石綿を含有するロックウール吹付け材や,ひる石やパーライトなどに石綿を混ぜた吹付け材については,昭和50年改正特化則により石綿含有率5%以上の石綿含有製品等の吹付けが禁止された以降も,その石綿含有 石綿を含有するロックウール吹付け材や,ひる石やパーライトなどに石綿を混ぜた吹付け材については,昭和50年改正特化則により石綿含有率5%以上の石綿含有製品等の吹付けが禁止された以降も,その石綿含有率を5%以下に低下させた製品が開発されて製造販売された結果,業界団体の自主規制により石綿が使用されなくなった平成元年頃まで使用が継続され,また,業界団体に加盟していない企業等の存在を考慮すれば,石綿を含有する吹付け材の使用が中止された時期は平成9年頃であるとされる(前記第3,1(2),第4,1(2)ア)。 以上のことからすれば,昭和50年改正特化則による石綿吹付けの原則禁止は,すでに業界団体が吹付け石綿の施工の中止及び吹付け石綿に主に使用されていたクロシドライトの使用中止を決定した後に行われていることから,クロシドライトの使用中止についての有効性も限定的なものであったといわざるを得ず,また,同禁止措置が執られた後も石綿を5%以下含有する吹付け材の使用は長期間継続されていたことが認められるところ,吹付けによる石綿粉じん飛散量は非常に高いことからすれば,たとえ石綿含有率が5%以下に低下されたとはいえ,建築作業に従事する労働者がこ れらの吹付け材の施工に伴い石綿粉じんに直接又は間接的に曝露することによって石綿関連疾患を発生する危険性があったことは否定できない。 よって,石綿のうち危険性の高いクロシドライトの主要な用途であり,かつ,施工に際し大量の石綿粉じんを飛散させる石綿吹付け作業を原則として禁止することは,石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発症を防止する措置として全く意味がないとは言い難いが,例外として石綿含有率5%以下(平成7年改正特化則により1%以下)の石綿含有製品の吹付けを許容していたことにより,同程度以下の石綿を含有する石 発症を防止する措置として全く意味がないとは言い難いが,例外として石綿含有率5%以下(平成7年改正特化則により1%以下)の石綿含有製品の吹付けを許容していたことにより,同程度以下の石綿を含有する石綿含有製品等の吹付けがその後も継続されていたこと,当該規制がされた当時の業界団体の石綿に対する対応状況,及び,クロシドライトの使用が実際に中止されたのは,ILOがクロシドライトの使用を禁止した翌年の昭和62年であったこと等を踏まえれば,被告国が行った石綿吹付けの禁止に関する規制については,建築現場において建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露を防止し,石綿関連疾患の発生を防ぐ措置としての有効性が認められるとしても,その程度は低いものであったといわざるを得ない。 ウ石綿取扱作業場への立入禁止について前記第3,1(5)のとおり,建築現場においては,各職種による建築作業が同時並行的に行われる場合があることから,ある職種の建築作業従事者が石綿粉じんを発生させる作業を行っている周辺で,異なる職種の者が石綿含有建材を用いない建築作業に従事することがあり得るところ,旧特化則及び安衛則等における立入禁止を定めた規定が,このような場合に,当該石綿含有建材を扱っていない建築作業従事者を「関係者以外の者」に該当するとして当該作業場への立ち入りを禁止するものであるかは定かではなく,また,本件において,実際の建築現場で,ある建築作業従事者が石綿含有建材を取り扱う建築作業を行っている際に,当該建築作業を行っている者以外の建築作業従事者についてその立入りを禁止していたことを 窺わせる証拠はないことからすれば,建築作業に従事する労働者との関係で,前記規制が石綿粉じん曝露による健康被害を防止するための措置として有効なものであったとは認められない。 エ とを 窺わせる証拠はないことからすれば,建築作業に従事する労働者との関係で,前記規制が石綿粉じん曝露による健康被害を防止するための措置として有効なものであったとは認められない。 エ湿潤化について前記1(2)エ(イ)の各測定結果によれば,湿潤化により,石綿含有建材の切断,破砕等によって発生する石綿粉じん量を一定程度減少させることができることが認められるが,湿潤化をしても昭和50年当時の許容濃度である2本/㎤(なお,昭和59年に導入された管理濃度も同値)を下回る濃度まで抑制することができるとは限らず,湿潤化により,具体的にどの程度石綿粉じんの飛散量を抑えることができるかについては,湿潤化の方法や,建材の種類等によってかなりの幅があるといえる。そして,最も石綿粉じん濃度を抑える効果があるのは,切断等の際に継続して散水を行うことであると解されるところ,建築現場において,電動工具等を用いて石綿含有建材を切断等する際に散水を続けることは,電動工具の防水措置の必要性及び感電や建材等の劣化のおそれがあることから困難であると考えられ,散水後に作業を行う場合であっても,感電や建材等の汚損についての配慮が必要となり,容易に実施することができるとは限らないといえる。 また,特に一部の解体作業や内装工事等の屋内作業時においては,散水等により建材等の汚損や劣化が促進されるおそれがあることに加え,散水した場所が滑りやすくなること等により作業の安全性も低下すると考えられる。 昭和50年改正特化則38条の8第1項においては,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等について石綿粉じん曝露作業を行う際,「石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なとき」については湿潤化義務を課さないと定められていたところ,昭和50年特化則改正通達においては,前記 有製品等について石綿粉じん曝露作業を行う際,「石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なとき」については湿潤化義務を課さないと定められていたところ,昭和50年特化則改正通達においては,前記「著しく困難なとき」とは,湿潤な状態とすることによって石綿 含有率5%を超える石綿含有製品等の有用性が著しく損なわれるときが含まれるとされており,前記のような建築現場における作業実態からすれば,湿潤化義務の対象外と判断される可能性が十分にある。 建築作業従事者らの述べるところによっても,清掃時や解体作業等に際し,一部散水等がなされていたことが認められるものの(甲A113の1,114の1,118の1,甲D18の15,19の21,原告1本人),散水により足下が滑りやすくなることや建材が汚損すること等の理由から,ほとんどの建築作業について散水等の湿潤化が実施されていたとは認められず,この他,本件において,湿潤化が,実際の建築現場において,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露を防止するための手段として広く用いられていたと認めるに足りる証拠は見当たらない。 以上のことからすれば,湿潤化が,建築現場における石綿粉じん曝露による石綿関連疾患発生防止対策として有効なものであったと認めることはできない。 オ局所排気装置の設置について(ア) 前記1(2)オ(イ)からすれば,局所排気装置とは,設置する具体的な作業環境等を確認した上で,当該作業場に適した制御風速等を決定し,設計を行うものであるため,発注から設置までには相応の時間が必要であり,また,適切な制御風速及び排風量が設定されず,これらが過大であったときには,粉じんを対象とする場合,二次発じんを引き起こし,作業環境を悪化させる危険性もあることが認められる。 しかし,建築現場においては 適切な制御風速及び排風量が設定されず,これらが過大であったときには,粉じんを対象とする場合,二次発じんを引き起こし,作業環境を悪化させる危険性もあることが認められる。 しかし,建築現場においては,作業場所が次々と移動し,設備は仮設であり,局所排気装置を使用する際の周囲の環境も短期間で変化することから,据置式の局所排気装置はもちろん,移動式の局所排気装置であっても,当該作業現場に適した局所排気装置を設計し設置することは困難であるといえる(甲A464の5頁参照)。 さらに,建築作業のうち,屋外作業については,乱れ気流が大きいため局所排気装置の設置は実際上困難であり,そもそも風等によって自然に希釈されること等も考慮すれば局所排気装置を設置する必要性にも疑問がある。屋内作業についても,人の動きや大きな物の移動が多いことから通常の工場より乱れ気流が大きいと考えられ,かつ,建築現場において石綿粉じんの発散量が著しい電動工具等を使用した加工作業については,建材の大きさや手動式の電動工具による加工時の石綿粉じんの飛散態様等を考慮すると,発散源において石綿粉じんを捕捉し,周囲への飛散を抑制濃度以下に低下させるためには,局所排気装置の設備が大がかりになり,場所を取る上に,施工費用が高くなることが推認される。 局所排気装置については,小規模なものでも数十万円,少し規模が大きくなると数百万円,数千万円を超えることも珍しくないとされていること(乙アA65の214頁),さらに,維持費はもちろんのこと,石綿粉じんが飛散する作業全てについて局所排気装置を稼働させるとすれば,その費用も高額なものになると考えられること等からすれば,工場等とは異なり一時的な作業場である建築現場の設備として,大がかりな局所排気装置を設けることは現実的とはいい難い。 ( 働させるとすれば,その費用も高額なものになると考えられること等からすれば,工場等とは異なり一時的な作業場である建築現場の設備として,大がかりな局所排気装置を設けることは現実的とはいい難い。 (イ) 局所排気装置の大きさを抑えるために,乱れ気流が大きいときには,排風量を大きくすること以外に,つい立てやカーテン等を利用して,発散源に強い気流が直接当たらないようにするという方法も考えられるが,建築現場においては,作業場所が短期間で移動する等人や物の移動が多いこと,戸建て住宅等の場合には建築作業を行う場所の広さも限られていること等からすれば,つい立てが作業を阻害することになる可能性も高く,常につい立て等を有効に設置できる状況にあるとは限らない。 (ウ) 局所排気装置を作業台に設置する方法も考えられるが,その場合囲い式(グローブボックス型。乙アA65の37頁ないし39頁)が適切 であるところ,建築現場において通常用いられる大きさの建材を前提として設計されることとなれば,その大きさは数m規模のものとなり,建築現場の規模によっては作業を阻害する可能性も否定できず,また,手持式電動工具を使用した場合は発生する粉じんの飛散方向を限定できないため,粉じんが常にフードの奧に向かって飛散するように使用することは困難であるといえる。 (エ) 移動式局所排気装置については,移動式としたことによって,石綿含有建材の加工作業により発生する石綿粉じんの飛散方向にフードを設置することが可能となるとしても,電動工具による石綿含有建材の加工等建築現場における石綿粉じんを発散させる作業においては,発散源付近における石綿粉じんの飛散方向が限定されていないことが多いことから,飛散方向が変化する度にこれに応じてフードの位置を変えることは作業効率の悪化等を招くも 粉じんを発散させる作業においては,発散源付近における石綿粉じんの飛散方向が限定されていないことが多いことから,飛散方向が変化する度にこれに応じてフードの位置を変えることは作業効率の悪化等を招くものであって,実際の建築現場における作業時の状況等からして困難であると考えられる。 (オ) 昭和46年9月発行の「労働の科学」26巻9号に掲載された内藤栄治郎の「石綿障害予防対策の現状と関係法規」と題する論文によれば,昭和46年1月から同年3月までの石綿取扱い事業場産業別監督指導結果によれば,建設業の監督事業場数12事業場において,局所排気装置の必要設置個所数は6であったのに対して既設置個所数は3であり,設置率は50%とされていたこと(なお,製造業では局所排気装置の必要箇所数1675に対し,既設置箇所数1450であり,設置率は87%であった。),労働衛生工学の専門家であり,自身も昭和49年以降多数の局所排気装置の設計に携わり,また,有機溶剤と粉じんに関する特別教育について多く担当し,建築現場にも何度か赴いた経験のある沼野は,建築現場における局所排気装置を設計したことも,実際に建築現場で局所排気装置が設置されているのを見たこともなく,建築現場に適応 した局所排気装置の開発は困難である旨述べていること,さらに,本件被災者らには自己が建築作業に従事した建築現場において局所排気装置が設置されていたと供述する者は見当たらず,また,その他の建築作業に従事していた者らにおいても,建築現場において局所排気装置が設置されていたことはない等と述べていることからすれば,建築現場において局所排気装置の設置が一般的に行われていたと認めることはできない(甲A82,115の1,116の1,119の1,120の1,122の1,乙アA64,1019の18頁ない からすれば,建築現場において局所排気装置の設置が一般的に行われていたと認めることはできない(甲A82,115の1,116の1,119の1,120の1,122の1,乙アA64,1019の18頁ないし26頁)。 (カ) 以上のことからすれば,局所排気装置は,工場等の屋内で,決められた場所において,一定の作業内容を継続的に行う作業現場においては,効果的な粉じん曝露防止対策であるものの,建築現場においては,作業内容の変更や作業場所の移動等が常態化しており,局所排気装置を用いることは,それが移動式のものであっても現実的ではなく,また,実際に建築現場において局所排気装置が一般的に用いられていたとも認められないのであるから,(移動式)局所排気装置を用いることが建築現場における建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策として有効なものであったと認めることはできない。 また,昭和47年に制定された特化則5条1項においては,石綿粉じんを発散する屋内作業場において局所排気装置等の設置義務を定めていたが,局所排気装置の「設置が著しく困難な場合」又は「臨時の作業を行う場合」には局所排気装置の設置義務を免れる旨規定されていたところ,労働省労働衛生課編「特定化学物質等障害予防規則の解説」(昭和48年2月初版発行,平成3年1月第2版発行)によれば,前記「設置が著しく困難な場合」には,種々の場所に短期間ずつ出張して行う作業の場合又は発散源が一定していないために技術的に設置が困難な場合があるとされ,前記「臨時の作業を行う場合」とは,その事業において通 常行っている作業のほかに一時的必要に応じて行う特定第二類物質又は管理第二類物質に係る作業を行う場合をいうため,一般的には,作業時間が短時間の場合が少なくないが,必ずしもそのような場合のみに限られ 常行っている作業のほかに一時的必要に応じて行う特定第二類物質又は管理第二類物質に係る作業を行う場合をいうため,一般的には,作業時間が短時間の場合が少なくないが,必ずしもそのような場合のみに限られる趣旨ではない,とされている(甲A34の35頁ないし37頁,乙アA238)。建築現場における局所排気装置の設置について,前記(ア)ないし(エ)のような事情が認められることからすれば,これらの除外事由に該当する可能性は否定できず,この点においても,局所排気装置の設置について建築現場における石綿粉じん曝露防止対策としての有効性を認めることはできない。 なお,昭和63年通達においては,建築物の建設,改修等の工事における石綿を含有する石綿スレート,石綿セメント板その他の建設用資材の加工等の作業について,防じんマスク及び移動式局所排気装置又は局所排気装置が設置されている作業場における石綿を含有する資材の事前の加工の励行をするようにとされており,これによれば,被告国が,建築現場において(移動式)局所排気装置が石綿粉じん曝露を防止するための手段として一定の効果があると考えていたことは否定できない。しかし,局所排気装置が設置されている場合でも,石綿含有建材の事前加工を励行すること,また,防じんマスクとの併用を求めていることからすれば,昭和63年通達が発出されたことをもって,(移動式)局所排気装置について建築現場における建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策としての有効性を認める根拠とすることはできず,その有効性に関する前記認定を覆すものとはなり得ない。 カ小括以上のことからすれば,被告国の定めた作業環境管理に係る措置は,いずれも建築現場において,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発生を防止する措置として,それの カ小括以上のことからすれば,被告国の定めた作業環境管理に係る措置は,いずれも建築現場において,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発生を防止する措置として,それのみでは万全の方策 ではなかったと解される(石綿吹付けの禁止については,有効性が全くないとまではいえないとしても,その効果は限定的なものであったといえる。)。 そして,この他に,被告国が何らかの有効な作業環境管理に係る措置を講じていたと認めるに足りる証拠もないことから,被告国による建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策としての作業環境管理に係る規制は不十分であったといわざるを得ない。 なお,作業環境測定(粉じん濃度測定)に関しては,これが作業環境を改善するための対策を講ずる前提としての情報収集手段に該当し,測定自体を目的とするものではないことから,それ自体を石綿粉じん曝露防止対策としての有効性判断の対象とすることは適切ではなく,また,前記1(2)カ(イ)ないし(エ)によれば,我が国において採用された粉じん濃度測定方法が作業環境の状況を把握するための方法としての有効性を欠くものであったとは認められないのであるから,原告らの主張のうち作業環境測定(粉じん濃度測定)に関する主張を採用することはできない。 (3) 作業管理に関する規制について以上のとおり,被告国が昭和50年時点において講じていた作業環境管理に関する規制は,それのみでは石綿取扱作業に従事する建設労働者に対し,石綿粉じんの曝露を防止するには実効性を欠く点があり,不十分と解されるものであった。そして,前記検討結果や建設業における特質等からすれば,①建築現場において湿潤化や局所排気装置を設置することがそもそも困難であること,②石綿取扱作業時に他の建築作業従事者の と解されるものであった。そして,前記検討結果や建設業における特質等からすれば,①建築現場において湿潤化や局所排気装置を設置することがそもそも困難であること,②石綿取扱作業時に他の建築作業従事者の立入りを禁止すること(石綿含有建材を取り扱っている建築作業従事者を隔離すること)は建築作業の実態からすれば現実的ではないこと,③石綿が備える特性から,広く建築資材として用いられており,仮に代替化を義務付けたとしてもすぐに全ての石綿含有建材の代替化が完了したとは考え難いこと,④石綿吹付けが禁止 されたものの,昭和50年当時に全ての石綿の使用等を禁止すべきであったとは認められないことから,他の石綿含有建材の加工等によって発生する石綿粉じんにより,建築作業に従事する労働者が石綿関連疾患に罹患する可能性が存在すること等が認められ,これらのことからすれば,建築現場においては,作業環境管理の一層の改善を図ることによって石綿粉じんによる健康障害を十分に防止することは困難であるといえる。 よって,建築現場において石綿粉じん曝露による健康障害を防止するためには,適切な保護具の使用等の作業者個人に着目した対策(作業管理)が重要となる。 ア防じんマスクの着用について(ア) 防じんマスクの石綿粉じん曝露防止としての効果及び位置付け等a 被告国が定めた昭和47年時点における防じんマスクの規格によれば,特級マスクの場合には99.5%以上の粉じん捕集効率を有するものであり,昭和47年7月1日時点において,防じんマスク検定に合格した特級マスクがいくつも製造されており(乙アA180),その後も防じんマスク検定に合格した特級マスクの数は増加し,昭和54年4月1日には多くの種類の特級マスクが製造され,99.9%の粉じん捕集効率を有するものも数多く存在する れており(乙アA180),その後も防じんマスク検定に合格した特級マスクの数は増加し,昭和54年4月1日には多くの種類の特級マスクが製造され,99.9%の粉じん捕集効率を有するものも数多く存在するようになっていたこと,昭和54年頃には,樹脂加工して帯電しやすくし,気流との摩擦による静電気の吸引力で集じんするろ過材を用いたマスクは,粒径0.2μ以下の石英の試験粉じんを99.9%以上捕集することができ,吸気抵抗2.3㎜水柱程度,吸気抵抗上昇率17%程度という優れた性能を有する防じんマスクも開発されていたこと(乙アA159,181)からすれば,防じんマスクの着用により,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露を相当程度防止することができたと認められる。 よって,防じんマスクの着用は,建築作業に従事する労働者の石 綿粉じん曝露による石綿関連疾患の発生を防止する手段となり得るものであるといえる。 b 建築現場においては,作業場所が短期間で移動し,石綿粉じんが発生する作業を行う現場も固定されるものではなく,発散源は一定ではない。また,新築,解体のいずれの工事においても作業現場の密閉化の度合いが工事の進行とともに変化し,さらに,建築現場において一度に作業をする職種及び人数にも増減がみられるなど,作業環境の変化が著しい。そして,作業現場の広狭も様々である。こうした建築現場ないし建築作業の特徴を踏まえれば,建築作業に従事する労働者が常に携帯することが可能であり,その調達方法としては市場からの入手も容易であって,作業内容や作業場所の短期間での変化にも対応して防じん効果を発揮することができる防じんマスクは,建築現場における石綿粉じん対策としては,第一次的な方策であるといえる。 (イ) 防じんマスクの着用阻害要因の存在防じんマスクにつ 化にも対応して防じん効果を発揮することができる防じんマスクは,建築現場における石綿粉じん対策としては,第一次的な方策であるといえる。 (イ) 防じんマスクの着用阻害要因の存在防じんマスクについては,前記1(2)キ(ウ)のとおり,着用時の息苦しさや重量による不快感,視野障害等,作業者が作業時にこれを着用することに抵抗感を抱く要因が存在するものであり,実際に,本件被災者ら等の供述によっても,防じんマスクが支給されても息苦しさから途中で外してしまう者がいたことや(甲D19の6,19の7,19の20,乙アA1019,1050),タオルを巻くことやガーゼマスクの着用でも,息苦しさを覚えたり,暑さから体力がなくなってしまうこともあったために,外して作業をしていたこと(甲A114,120,122,甲D2の19,7の4,18の15)が述べられており,さらに,労働衛生工学の専門家であり,自身も昭和49年以降多数の局所排気装置の設計に携わり,また,有機溶剤と粉じんに関する特別教育について多く担当し,建築現場にも何度か赴いた経験のある沼野も,建築現場におい てマスクを適切に着用している人はなく,着用すると暑いこと等を理由に胸にかけている人が多かったと供述していること(乙アA1019の73頁・74頁)や,昭和57年9月1日時点で製造されていた特級マスクはほとんどが150g以上の重量であって,1級マスクでも120gを超えていること(乙アA181)からすれば,防じんマスクを建築現場で着用することに関しては,防じんマスクについて年々改良が加えられていたことを考慮しても,建築作業従事者に,息苦しさ,重量や暑さによる不快感,視野障害等を生じさせ,これによる作業効率の低下を招く可能性も高いものであったと認められる。 (ウ) 建築現場における防じん たことを考慮しても,建築作業従事者に,息苦しさ,重量や暑さによる不快感,視野障害等を生じさせ,これによる作業効率の低下を招く可能性も高いものであったと認められる。 (ウ) 建築現場における防じんマスクの着用実態等前記1(2)キ(エ)bによれば,建築現場における防じんマスクの着用率は相当低かったことが推認される。そして,本件被災者らにおいては,粉じん発生量が多いとき等にガーゼマスクやタオル等で口や鼻を覆うことがあり,そのような建築作業従事者は多かった旨述べるものの,防じんマスクを着用したことはなく,他の建築作業従事者が防じんマスクを着用しているところを見たこともないと述べる者がほとんどである。また,本件被災者以外で実際に建築現場において作業に従事した者の供述を見ても,ガーゼマスクの着用やタオル等で鼻や口を覆って作業を行っていたと述べる者が多く,防じんマスクを着用していた旨述べる者や吹付け作業を行う作業者がマスク等を着用していたことを見たことがあると述べる者も一部存在するが,それらの者においても,着用を開始した時期は平成7年頃以降であること(甲A115,117,甲D18の15,乙アA1051,1052),電気サンダーがけのときのみ着用していたこと(甲A116,乙アA1055),当時防じんマスクを着けていた者はめずらしいこと(乙アA1050,1051)等を述べていること,さらに,石綿作業主任者の技能講習等も担当している東京労働 安全衛生センターに所属するVが,平成11年から平成12年頃でも現場監督の安全衛生的な認識があまりないために建築現場でマスクをしていないという状況が見られた旨述べていること(乙アA1069の34頁)等からすれば,昭和50年頃から,少なくとも平成7年頃までの間は,建築現場において,防じんマスクの着用 めに建築現場でマスクをしていないという状況が見られた旨述べていること(乙アA1069の34頁)等からすれば,昭和50年頃から,少なくとも平成7年頃までの間は,建築現場において,防じんマスクの着用率は低いものであったと認められる。 なお,高田勗による「石綿取扱い事業場等実態調査研究報告書」(昭和60年3月。乙アA1067)においては,作業中に「マスクを着用する」及び「ときどきする」と回答した者は,昭和58年度の調査で男性76.4%(石綿製品製造業のみに従事するものだけでみると81. 6%),昭和59年度では男性92.2%,女性90.5%であったとされ,着用するマスクの種類は,防じんマスクが昭和58年度の男性で66.1%,昭和59年度の男性で44.0%であるが,昭和59年度の女性では9.4%と低く,うちガーゼマスクを着用する割合が79. 9%と高かったとされたが(乙アA1067の153頁・176頁),調査の対象事業場は,昭和58年度は石綿製品製造業が28事業場,断熱・保温作業が8事業場,石綿製品加工・取扱業が21事業場であり,昭和59年度は石綿製品製造業29事業場のみが対象となっていたこと(乙アA1067の167頁)からすれば,この調査結果をもって建築現場におけるマスクの着用状況と同一視するのは相当ではない。 (エ) 建築作業従事者の防じんマスクの必要性に関する認識等前記1(2)キ(エ)b(b)及び(c)並びに同(オ)によれば,建築現場においては7から8割の建築作業従事者が石綿の有害性について認識しておらず,親方であっても,石綿の発がん性については認識しているものの,石綿による健康障害(肺がん罹患)を防止するために防じんマスクの着用が必要的であることまでは認識していなかったことが窺える。そして,前 記のとおり,建築作業 ついては認識しているものの,石綿による健康障害(肺がん罹患)を防止するために防じんマスクの着用が必要的であることまでは認識していなかったことが窺える。そして,前 記のとおり,建築作業従事者の防じんマスクの着用率が低いことからすれば,建築作業に従事する労働者が建築現場における石綿粉じん曝露により肺がん等の石綿関連疾患罹患の危険性を認識していたとは考え難いことや,本件被災者らやその他の建築作業従事者の供述内容を見ても,建築現場において石綿含有建材を取り扱うことによって発生する石綿粉じんに曝露することで肺がん等石綿関連疾患を発症する危険性があり,これを防止するためには防じんマスクの着用が必要であるとの具体的な認識を有していたとまでは認められない。 (オ) 建築現場における防じんマスクの着用に関する指示について前記のような着用状況に加え,すでに旧安衛則により事業者に対して防じんマスク等の適切な保護具の備え付け義務が課されていた昭和46年1月から3月の時点においても,防じんマスクの備付率は50%程度であり(前記1(2)キ(エ)a),また,本件被災者らを含む建築作業従事者においては,防じんマスクがゼネコンや雇用主等から支給されていた旨述べるものはほとんどおらず,防じんマスクを自費購入していた旨述べる者も存在し(甲A116,117),ガーゼマスク等を使用していた者についても自費で購入していた旨供述している(甲A118,119,122)ことからすれば,事業者が防じんマスクの使用を励行していたとは考え難く,その他に事業者(使用者)が防じんマスクの着用を指示していたと認めるに足りる証拠はない。 (カ) 小括以上のことからすれば,昭和50年時点において,被告国は,事業者(使用者)に対し防じんマスクの備え付け義務を課し,労働者には, スクの着用を指示していたと認めるに足りる証拠はない。 (カ) 小括以上のことからすれば,昭和50年時点において,被告国は,事業者(使用者)に対し防じんマスクの備え付け義務を課し,労働者には,事業者から指示された場合にこれを着用する義務を課していたところ,前記のとおり,建築作業従事者は,自己の健康障害を防止するために建築現場において防じんマスクを着用する必要があるとの認識を十分に有し ていなかった上,防じんマスクを着用して建築作業に従事することは建築作業従事者にとって負担となる要因が存在していたことから,建築作業従事者自身が建築作業に従事する際自発的に防じんマスクを着用することは期待し難い状況において,事業者による建築作業に従事する労働者への防じんマスクの着用に関する具体的な指示が十分になされていなかったと認められる。よって,前記のような法規制では,防じんマスクの着用がなされていないにもかかわらず,事業者及び建築作業に従事する労働者のいずれも法律に違反していないために,それ以上防じんマスクの着用が促進されないこととなるため,建築作業に従事する労働者による防じんマスクの使用が確保されない状況が許容されることになる。 また,昭和50年の安衛令及び特化則の改正により,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を取り扱う作業についても特定化学物質等作業主任者の選任義務が課され,同人による保護具の使用状況を監視させる義務が定められたが,実際の建築現場において防じんマスクの着用率が低かったこと等からすれば,特定化学物質等作業主任者が建築作業に従事する労働者に対して防じんマスクを着用するよう指導していたとは認められず,よって,特定化学物質等作業主任者制度が建築作業に従事する労働者による防じんマスクの使用確保に資するものであったという に従事する労働者に対して防じんマスクを着用するよう指導していたとは認められず,よって,特定化学物質等作業主任者制度が建築作業に従事する労働者による防じんマスクの使用確保に資するものであったということはできない。 よって,建築現場における石綿粉じん対策として,防じんマスクの着用が一次的な方策であり,また,建築現場においては,建設業の特徴である重層下請構造等により,労働安全衛生面の措置が適切に実効されることが期待しにくい状況にあったことも踏まえれば,前記のような規制内容では不十分であり,被告国としては,事業者(使用者)に対して労働者に防じんマスク(呼吸用保護具)を使用させるべき義務を明示的に定めるべきであったといえる。 イ防じんマスクに関する被告国の主張について(ア) 防じんマスクの着用に関する主張についてa 被告国は,日本石綿協会安全衛生委員会石綿含有建材料小委員会が石綿含有建材料の建築工事の施工マニュアル作成の前段階としてまとめた「石綿含有建材料調査報告書(施工現場等における実態調査)」(昭和63年5月発行。甲A1241,乙ケ4)において,石綿含有建材ごとに,一部の例外を除き防じんマスクが高い割合で着用されていたことが認められる,として,波形石綿スレートに係る作業については約90%,サイディングに係る作業については30%,ボードに係る作業については90%,耐火被覆板に係る作業については70ないし80%,押出成形セメント品に係る作業については約90%とされていることを指摘する。しかし,前記着用割合については,その調査対象について具体的なことが明らかになっておらず,同調査の対象となった石綿含有建材のうちマスク着用率が示されていない建材が存在し,そのうち①屋根用スレートでは,切断の際に現状では防じんマスクの 査対象について具体的なことが明らかになっておらず,同調査の対象となった石綿含有建材のうちマスク着用率が示されていない建材が存在し,そのうち①屋根用スレートでは,切断の際に現状では防じんマスクの着用がないこと,②石綿セメントけい酸カルシウム板(内装材)では,切断後の木口面のやすりがけ時に発じんするために,防じんマスクの着用が望まれるとされていること,等からすれば,前記のとおり建築現場において防じんマスクが一般的には着用されていなかったことを示す証拠が複数存在する中で,当該調査報告書記載の結果によって,調査当時に建築作業従事者一般について防じんマスクが高い割合で着用されていたと認めることはできない。 b 被告国は,建設じん肺研究会が平成15年5月に発行した「はつり労働者の健康調査-52の事例の解析-」(乙アA247)において,防じんマスクの着用率につき,「1980年代では着用率は80%と高くなり,1990年代ではほぼ全職場で着用されるに至っているこ とが分かる。」との記載があることから,昭和55年以降は,多くのはつり工が防じんマスクを着用していたことが認められると主張するが,当該調査の対象となった者は,平成14年1月時点で松浦診療所に呼吸器症状のために通院している者で,はつり工の職歴を持つ56人のうち52人であり,調査対象者が限られており,前記のとおり他の職種の建築作業従事者について防じんマスクの着用率が低かったことを示す調査が存在することからすれば,当該調査結果によって,他のあらゆる職種の建築作業従事者が建築現場において防じんマスクを使用していたと認めることはできない。 (イ) 防じんマスクの着用の義務付けに関する主張についてa 被告国は,安衛法593条では,条文上,「労働者に使用させるため」に呼吸用保護具の備 んマスクを使用していたと認めることはできない。 (イ) 防じんマスクの着用の義務付けに関する主張についてa 被告国は,安衛法593条では,条文上,「労働者に使用させるため」に呼吸用保護具の備え付けを事業者に罰則をもって義務付けており,特化則43条における使用者に対する呼吸用保護具の備え付け義務も,前記安衛法と同趣旨に基づくことは明らかであるから,当然,その使用(着用)を前提としているものであって,加えて,労働者には事業者から防じんマスク等の使用を命じられたときの着用義務が課されていること等からすれば,これらの規制により,粉じん作業に従事する労働者に対し,事業者が防じんマスクの着用を命じることが法令上,当然に予定されていると主張する。 しかし,安衛則等には,使用者又は事業者に対して労働者が呼吸用保護具を適切に使用するよう指導することを義務付ける旨の明示の規定はなく,当該義務と安衛則等に規定のある使用者又は事業者の呼吸用保護具を備え付ける義務及び労働者が呼吸用保護具を使用する義務とは,義務の内容及び態様を異にするものである。そうすると,後者の各義務の存在をもって前者の義務が法令上定められていると解することはできないというべきであり,事業者が防じんマスクの着用を 命じることが法令上当然に予定されているということもできない。 b 被告国は,昭和47年に制定された特化則5条2項において,「事業者は,前項ただし書の規定により局所排気装置を設けない場合には,全体換気装置を設け,又は第二類物質を湿潤な状態にする等労働者の健康障害を予防するため必要な措置を講じなければならない。」と定めているところ,同項にいう「等」に防じんマスクを使用させることも含まれていたことは明らかであり,よって,建築作業の中で局所排気装置が設置できない場 するため必要な措置を講じなければならない。」と定めているところ,同項にいう「等」に防じんマスクを使用させることも含まれていたことは明らかであり,よって,建築作業の中で局所排気装置が設置できない場合においては,防じんマスクを労働者に使用させることを含む「労働者の健康障害を予防するために必要な措置」を講ずることが罰則をもって事業者に義務付けられていた旨主張する。 しかし,特化則5条2項の「湿潤な状態にする等」の「等」には,短期間出張して行う作業又は臨時の作業を行う場合における適切な労働衛生保護具の使用が含まれるとされている(乙アA238)ものの,防じんマスクの使用は飽くまで局所排気装置の代替措置の一つとして捉えられているにすぎず,同項の定めによって屋内作業場における石綿粉じん作業について,事業者に対して,建築作業に従事する労働者に対し労働衛生保護具(防じんマスク)を使用させる義務が罰則をもって明確に定められたということはできない。 c 被告国は,昭和54年に制定された粉じん則は「石綿」をその規制の対象外としていたが,建築現場で使用されていた石綿含有建材の中で,石綿のみで製造されていたものは存在せず,セメントなど粉じん則による規制の対象となる「鉱物」を含んだものであったから,建築現場において用いられていた石綿含有建材の加工作業は,明らかに粉じん則による規制対象であったとして,粉じん則27条により,事業者に対して,防じんマスクを使用させる義務付けがなされていたと主張する。 しかし,粉じん則が「石綿に係る作業」を対象外としていることは明らかであり(甲A245),粉じん則27条による規制が石綿に係る作業に及ばないことは明白であるところ,建築現場において建築作業に従事する労働者が取り扱う石綿含有建材の加工作業により石綿粉じ とは明らかであり(甲A245),粉じん則27条による規制が石綿に係る作業に及ばないことは明白であるところ,建築現場において建築作業に従事する労働者が取り扱う石綿含有建材の加工作業により石綿粉じん以外に粉じん則の規制対象となる粉じんが発生し,粉じん則27条が適用されることとなるかについては明らかではなく,また,粉じん則が石綿粉じんの規制を行うものでない以上,結果として呼吸用保護具の着用が義務付けられたとしても,これをもって被告国が石綿粉じん曝露防止対策として適切な規制を行っていたと認めることはできないというべきである。 d 被告国は,①労働者への防じんマスクの着用を実現するための体制を含めた安全衛生管理体制の確保のための措置として,呼吸用保護具の着用等の安全衛生に関する業務を統括管理する統括安全衛生管理者の選任(安衛法10条),統括安全衛生管理者の指揮を受け,呼吸用保護具の点検や整備,労働者への教育等,衛生管理面の技術的事項について実際に対処する衛生管理者の選任(同法12条),保護具の適正使用等の作業の管理に関することや衛生教育に関する事項等をその職務内容とする産業医の選任(同法13条,13条の2),労働者に近い立場で,労働者を指揮し,実際の保護具の使用状況を監視する作業主任者の選任(同法14条,昭和50年改正特化則28条),事業場ごとに,衛生管理体制について全体の定めをおき,衛生教育の実施計画を定める安全衛生委員会の設置(安衛法17条,18条)等を定め,呼吸用保護具の使用やその管理等,当該事業場で従事する労働者の衛生面について,また,労働者への教育面においても,適切に管理されるような体制を整えていたこと,②元方事業者による統括安全衛生責任者の選任(同法15条),元方安全衛生管理者の選任(同法1 5条の2),安全 ,労働者への教育面においても,適切に管理されるような体制を整えていたこと,②元方事業者による統括安全衛生責任者の選任(同法15条),元方安全衛生管理者の選任(同法1 5条の2),安全衛生責任者の選任(同法16条)等の規定を置き,重層下請構造がみられる建築現場においても,呼吸用保護具等の衛生分野等に関し一般的な事業場と変わらず,重層下請構造がみられる建築現場で作業に従事する労働者全体がもれなく保護されるような制度が構築されていたこと,③防じんマスクの備付けを義務付けた特化則43条を実効あらしめるために,事業者に対して,行政指導等により着用を指導していたことを主張する。 しかし,これらの規制が防じんマスク等呼吸用保護具の着用に関してどのように有効に機能していたかを示す証拠はなく,また,被告国によって,防じんマスクに関する何らかの指導が行われていたことを窺わせるような証拠はあるものの(乙アA1066),行政指導による具体的な効果を裏付ける証拠は見当たらないことからすれば,前記各規制が定められ,行政指導が行われていたとしても,それによって防じんマスクの着用等を実現するための規制が講じられていたと認めることはできない。 (4) 作業環境管理及び作業管理に係る規制についての実効性を図るための規制について前記1(1)のとおり,石綿粉じん曝露防止対策としては,作業環境管理及び作業管理が基本かつ重要となるところ,建材メーカー等に対する石綿含有建材への警告表示の義務付け,建築現場における警告表示(作業現場掲示)の義務付け,安全衛生教育の義務付けについては,前記作業環境管理及び作業管理に係る規制の実効性を図るためのものであり,石綿粉じん曝露防止対策としては間接的に働くもの(補助的な措置)であるといえる。 そこで,これを前提に,以下 務付けについては,前記作業環境管理及び作業管理に係る規制の実効性を図るためのものであり,石綿粉じん曝露防止対策としては間接的に働くもの(補助的な措置)であるといえる。 そこで,これを前提に,以下,被告国が講じた前記措置についての有効性を判断する。 ア建材メーカー等に対する石綿含有建材への警告表示の義務付けについて (ア) 安衛法57条の定める表示制度は,労働者が取り扱う物質の成分,その有害性,取扱い上注意すべき点等を事前に承知していなかったために生ずる職業性中毒を防止すること,有害物による曝露に対する手当てが,当該物の人体に及ぼす影響や初期の症状が不明のため手遅れになることを防ぐこと等を目的とするものである(甲A32の2,243の279頁ないし295頁,1037,乙アA210)。 前記安衛法57条の趣旨に加え,同条に基づき表示物質として定められている物は,微量でも重篤な急性中毒を起こすもの,又は時に重篤な慢性中毒を起こすものであり(甲A32の2,1037),石綿もその例外ではなく,石綿粉じん曝露によって肺がん,中皮腫等の重篤な健康障害を引き起こすものであることからすれば,「人体に及ぼす作用」(同条3号)としては,石綿が引き起こす健康障害が重篤なものであることを理解するのに十分な記載がなされる必要があり,また,「取扱い上の注意」(同条4号)については,労働者が石綿を取り扱う作業をすることにより石綿関連疾患に罹患することを防止する対策として有効かつ適切な措置を表示する必要があると解するべきである。 (イ) 建設業においては,前記1(3)のとおり,重層下請構造となっており,職種ごとに下請が行われるなど下請構造が複雑となっていることから,元請による労働管理が不徹底となり,特に労働安全衛生面の対応が不十分になる傾向があ ,前記1(3)のとおり,重層下請構造となっており,職種ごとに下請が行われるなど下請構造が複雑となっていることから,元請による労働管理が不徹底となり,特に労働安全衛生面の対応が不十分になる傾向がある。建設業に労働災害が多いこと,及び,その理由が下請依存にあることは,昭和38年頃から指摘されており,労働省職業安定局参事官室が,建築労働の諸問題を解明し,その総合的,基本的な対策を検討するためにとりまとめたもので,中央職業安定審議会の審議の資料となった「建設労働の現状(未定稿)(昭和44年8月)」(甲A1135)においても,建設業の特徴等が記載され,重層下請構造等により労働災害の防止の不十分さ等労務管理の不徹底を招いていること や,労働衛生面に関し,建設業における職業性疾病の発生状況の把握は,労働者の就業の場所が有期の事業所であること,労働者の移動がはげしいこと等により相当困難であること等が指摘されていたことから,被告国においても,遅くとも昭和44年頃にはこれらの建設業における問題点等を把握していたといえる。 (ウ) 我が国においては石綿の多くが石綿含有建材に使用されており,昭和50年頃には多くの建築現場においてこれらが使用されていたことからすれば,石綿及び石綿製品等に関する表示内容としては,建築現場において建築作業に従事する労働者の石綿関連疾患を防止する措置が積極的かつ効果的になされるために必要な情報が記載されるべきであったと解される。昭和50年時点において,すでに石綿によって石綿肺のみならず肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が発生することが明らかとなっていたにもかかわらず,昭和50年表示方法通達によって示された具体的記載方法では,これらについての具体的な記載がなく,単に「健康をそこなうおそれ」と抽象的な記載のみがされ,また, ことが明らかとなっていたにもかかわらず,昭和50年表示方法通達によって示された具体的記載方法では,これらについての具体的な記載がなく,単に「健康をそこなうおそれ」と抽象的な記載のみがされ,また,「取扱い上の注意」に関しては,「粉じんが発散する屋内の取扱い作業所には,局所排気装置を設けて下さい。」との記載の後に,防じんマスクについて「取扱中は,必要に応じて」着用するようにと記載されていたことからすれば,建築作業に従事する労働者はもちろん一般の労働者であっても,石綿が重篤な健康障害を引き起こすものであり,その対策として防じんマスクの着用が重要であることを適切に理解できたとは考え難い。 (エ) そして,前記1(2)ク(イ)及び(ウ)からすれば,建材メーカーにより,石綿含有建材について一定の警告表示(少なくとも昭和50年表示方法通達の記載方法に従った表示)がなされていたことは推認されるものの,実際に,前記1(2)キ(エ)及び(オ)によれば,建築現場において,建築作業従事者の多くが石綿の有害性について十分な知識を有しておらず,防じ んマスクの着用の必要性を認識していなかったことが認められるのであり,さらに,建設業において前記(イ)のとおり労働安全衛生面における対応が不十分になりがちである等の特徴があることも考慮すれば,被告国による建材メーカーに対する警告表示の義務付けに関する措置は,建築作業に従事する労働者が石綿粉じんに曝露することによって石綿関連疾患を発生させることを防止する対策の実効性を確保するために有効であったと認めることはできない。 イ建築現場における警告表示(作業現場掲示)の義務付けについて(ア) 建築現場における警告表示(作業現場掲示)については,前記1(2)ケ記載の措置が講じられていたところ,前記アのとおり ない。 イ建築現場における警告表示(作業現場掲示)の義務付けについて(ア) 建築現場における警告表示(作業現場掲示)については,前記1(2)ケ記載の措置が講じられていたところ,前記アのとおり,昭和50年表示方法通達によって示された警告表示の内容は,建築現場において建築作業に従事する労働者が石綿粉じんの危険性や防じんマスクの着用の危険性を理解するのに十分なものではなかったと認められ,実際に建築作業従事者の多くは石綿による危険性を十分に認識しておらず,防じんマスクの着用の必要性も認識できていなかったのであるから,被告国による,建築現場における警告表示の義務付けに係る措置について,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策の実効性を図るものとしての有効性を認めることはできない。 (イ) なお,平成17年に石綿則が制定されて以降,X株式会社が,建築現場向けの石綿の掲示板を製造販売したこと,当該掲示板には,石綿の「人体に及ぼす作用」として,永年にわたり石綿粉じんを吸入することにより石綿肺を引き起こし,肺がんや胸膜の中皮腫を合併することがある等具体的な記載がされていること(甲A398,乙アA148)が認められる。しかし,それ以前にこのような建築現場向けの掲示板が市販され,使用されていたことを示す証拠はなく,平成17年までにこのような具体的な記載がされた掲示板が建築現場において一般に使用されて いたと認めることはできない。 ウ安全衛生教育について安全衛生教育に関しては,前記1(2)コ記載の措置が講じられていたところ,建築作業に従事する労働者の多くが石綿の危険性について十分に認識できておらず,防じんマスクの着用の必要性についても認識していなかったこと(前記1(2)キ(エ)及び(オ))からすれば,被告国による安全衛生 作業に従事する労働者の多くが石綿の危険性について十分に認識できておらず,防じんマスクの着用の必要性についても認識していなかったこと(前記1(2)キ(エ)及び(オ))からすれば,被告国による安全衛生教育に関する規制が,結果的に,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策の実効性を図るために有効に機能していたと認めることはできない。 (5) 管理使用を前提とした規制権限不行使の違法性ア被告国の規制権限不行使の違法性について安衛法(乙アB24)は,旧労基法に定められていた「安全及び衛生」に関する規制に代わり,労働災害防止のための最低基準を定め,責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することによって職場における労働者の安全と健康を確保し,快適な作業環境の形成を促進することを目的としたものであり,安衛法3条が,事業者において,単に労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく,快適な作業環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保し,また,被告国が実施しようとする労働災害の防止に関する施策に協力する責務を負うことを定め,同法4条において,労働者の一般的債務として,労働災害を防止するため必要な事項を守るほか,事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する措置に協力するよう努めなければならないとしていることからすれば,労働者の安全と健康の確保は,基本的には事業者の責任において行われるものであり,事業者において,被告国が定めた最低基準が遵守され,その上で建築現場において労働者が石綿粉じんに曝露することを防止するための適 切かつ有効な措置が講じられ,これについて労働者による協力が行われている状況にあれば,被告国が規制権限を行使する必要 建築現場において労働者が石綿粉じんに曝露することを防止するための適 切かつ有効な措置が講じられ,これについて労働者による協力が行われている状況にあれば,被告国が規制権限を行使する必要性はないと解され,よって,被告国の規制権限の不行使が違法となる余地はなく,その意味において,被告国の責任は二次的なものであるといえる。 この点を踏まえて,以下,原告らが違法である旨主張する被告国の規制権限不行使について,その違法性を判断する。 イ防じんマスクに関する規制権限不行使の違法性について前記(3)アのとおり,建築現場における石綿粉じん防止対策としては,防じんマスクの使用が一次的かつ有効な方策であるといえるところ,建築現場における防じんマスクの着用率は低く,建築作業に従事する労働者の多くが石綿の有害性を十分に理解しておらず,石綿粉じんに曝露することにより石綿関連疾に罹患することを防止するために防じんマスクの着用が必要であることを認識していないことから,着用によって息苦しさ等を感じ,作業効率が低下する可能性もあることが原因となって,建築作業に従事する労働者が防じんマスクを自主的に着用することは期待し難い状況にあった。そして,事業者が,法令により義務付けられた防じんマスクの備付義務を果たした上で,建築現場で作業に従事する労働者に対し防じんマスクの着用を指示していたとは認められず,また,建築現場においては,建設業の特徴である重層下請構造等により,労働安全衛生面の措置が適切に実効されにくい状況にあったことに照らせば,被告国は,建築現場において石綿粉じん曝露作業に従事することにより,建築作業に従事する労働者を含む建築作業従事者が石綿粉じんに曝露し,石綿関連疾患に罹患する危険性を具体的に認識し得た昭和50年時点において,事業者に対して労 石綿粉じん曝露作業に従事することにより,建築作業に従事する労働者を含む建築作業従事者が石綿粉じんに曝露し,石綿関連疾患に罹患する危険性を具体的に認識し得た昭和50年時点において,事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させるべき義務を明示的に規定すべきであったと認められる。 そして,旧安衛則においては,労働者に対して粉じん作業を行う場合に 呼吸用保護具等を使用すべき義務が定められていたこと(同規則185条),昭和36年1月1日に施行された有機溶剤中毒予防規則26条(甲A1105),昭和47年9月30日に制定された鉛中毒予防規則58条(甲A449),同日に制定された有機溶剤有毒予防規則32条及び33条(甲A450),昭和54年に改正された金属鉱山等保安規則(昭和54年通商産業省令第104号)220条の2(甲A451,1239),昭和61年に改正された石炭鉱山保安規則(昭和61年通商産業省令第74号)283条の2(甲A452)においては,各法令が規制の対象とする有害物質による健康被害が発生する危険性が高いと考えられる業務をそれぞれ特定し,使用者に対し,当該業務に従事する労働者に防じんマスク等の呼吸用保護具を着用させることを義務付ける規定を置いていたこと,及び,石綿に関し,使用者に対して,労働者に防じんマスク等を使用させることを義務付ける旨の規定を設けることに特段の支障があったとは認められないことからすれば,事業者(使用者)に対して労働者に防じんマスクを使用させるべき義務を明示的に規定することは容易であったといえる。 以上のことからすれば,被告国(労働大臣等)は,粉じん作業等に従事する労働者の生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保するために,できる限り速やかに,かつ適切に安衛法に基づく省令制定権限を行使すべきであ らすれば,被告国(労働大臣等)は,粉じん作業等に従事する労働者の生命,身体に対する危害を防止し,その健康を確保するために,できる限り速やかに,かつ適切に安衛法に基づく省令制定権限を行使すべきであるから,遅くとも昭和50年10月1日に特化則が改正された時点において,事業者に対し,労働者に防じんマスクを使用させることを,罰則をもって義務付けるべきであったのであり,これを怠ったことは,安衛法の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものである。 ウ建材メーカーの警告義務に関する規制権限不行使の違法性について(ア) 前記(4)アのとおり,被告国が講じていた建材メーカー等に対する石綿含有建材への警告表示の義務付けに関する措置は,建築作業に従事す る労働者が石綿粉じんに曝露することによって石綿関連疾患を発生させることを防止する対策の実効性を確保するために有効であったと認めることができないものであり,被告国としては,労働者による防じんマスクの着用についての実効性を図るべく,安衛法57条による警告表示の内容のうち,「人体に及ぼす作用」(同条3号)として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」(同条4号)として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けるべきであったといえる。 また,前記1(2)ク(ア)のとおり,昭和50年時点においては,安衛法57条による警告表示の義務付けの対象は石綿含有率5%を超える石綿含有製品等であったところ,石綿含有率5%以下の石綿含有製品によっては石綿関連疾患発生の危険性がないとの医学的な裏付けはなく,また,前記1( よる警告表示の義務付けの対象は石綿含有率5%を超える石綿含有製品等であったところ,石綿含有率5%以下の石綿含有製品によっては石綿関連疾患発生の危険性がないとの医学的な裏付けはなく,また,前記1(2)ア(エ)のとおり,昭和50年時点においては石綿含有率5%以下の石綿含有建材の量は少ないとはいえ存在しており,昭和50年改正特化則において石綿含有率5%を超える石綿吹付け作業の原則禁止や,石綿含有製品の代替化努力義務が定められたこと等により,その後,石綿含有率5%以下の石綿含有建材の製造販売量は年々増加していったことが認められることからすれば,昭和50年改正安衛則において,石綿含有率5%以下の石綿含有製品についても警告表示の対象とすべきであったと解される。 そして,本件においては,被告国にとって,前記のような各義務付けを行うことが困難であったといえるような事情は見当たらず,特に,昭和50年表示方法通達において,「人体に及ぼす作用」として,石綿以外の対象物質に関しては,「皮膚に付着したり,吸入したり,又は飲み 込んだりすると,吸収されて神経障害又は皮膚障害を起こすことがありますから,取扱いには下記の注意事項を守って下さい。」(アクリルアミド),「急激に高濃度の蒸気を吸入すると麻酔症状が現れ,また,長期にわたって吸入すると重度の健康障害をおこすおそれがありますから,取扱いには下記の注意事項を守って下さい。」(塩化ビニル)等と具体的な記載がされているものも多く見受けられるのであるから(乙アB172),石綿について,すでに石綿粉じん曝露との因果関係が明らかになっている肺がん等の石綿関連疾患に関し具体的に表示するよう義務付けることは容易であったといえる。 以上によれば,被告国(労働大臣等)は,安衛法57条に基づき,昭和50年10月 因果関係が明らかになっている肺がん等の石綿関連疾患に関し具体的に表示するよう義務付けることは容易であったといえる。 以上によれば,被告国(労働大臣等)は,安衛法57条に基づき,昭和50年10月1日以降,石綿含有率にかかわらずすべての石綿含有製品について警告表示の対象とし,また,警告表示の内容のうち,「人体に及ぼす作用」(同条3号)として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」(同条4号)として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは,著しく合理性を欠くといわざるを得ない。 (イ) なお,被告国は,平成4年通達によって,安衛法57条による石綿製品の包装等への表示のほか,個々の石綿製品ごとに押印,刻印されている「a」マークにより,石綿含有建材であることを識別できることを周知徹底するよう指示しているが(前記1(2)ク(ア)b),「a」マークの表示の対象となる石綿含有建材は,被告国が安衛法57条による警告表示の対象としているものと同様,石綿含有率5%を超える石綿含有建材(平成7年以降は石綿含有率1%を超える石綿含有建材)であり,か つ,「a」マークの表示の意味については業界団体による広報活動がなされておらず,建築作業に従事する労働者に広く周知徹底されたとは認め難い(前記1(2)ク(エ))。さらに,「a」マークは飽くまで石綿含有製品であることを示すものであって,これによって建築作業に従事する労働者が石綿の有害性や防じんマスクの着用の必要性を具体的に認識できるものではないのであるから,「a」マークの存在は前 くまで石綿含有製品であることを示すものであって,これによって建築作業に従事する労働者が石綿の有害性や防じんマスクの着用の必要性を具体的に認識できるものではないのであるから,「a」マークの存在は前記判断に何らの影響も及ぼさない。 (ウ) 被告国の主張について被告国は,石綿含有率5%以下の石綿含有製品について警告表示の対象から除外した理由として,一般の事業者は数%の精度によってしか石綿含有率を分析することができなかったことを主張する。しかし,そもそも医学的な裏付けもなく石綿含有率5%以下の石綿含有製品を除外することは適切ではなく,また,平成7年通達においては,規制対象を,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等から1%を超える石綿含有製品等に拡大したことについて,「近年,石綿の含有率が5%以下の製品が生産されてきており,含有率の低いものであっても,取扱いの方法によっては労働者が高濃度の石綿粉じんに曝露するおそれがあること」を理由として示していることからすれば,被告国の主張する分析精度の技術的理由をもって,石綿含有率5%以下の石綿含有製品を安衛法57条の警告表示の対象外とすることの合理性を基礎付けるものとは認められない。 なお,被告国は,安衛法57条本文において,警告表示の対象である「人体に及ぼす作用」及び「取扱い上の注意」については,委任事項に含まれていないと主張するが,同条は,前記各事項について,「労働省令で定めるところにより」表示しなければならないと定めているのであり,同主張には理由がない。 (エ) 原告らの主張について原告らは,昭和52年の安衛法改正により,「容器に入れ,又は包装」する方法以外の方法で譲渡する場合には警告内容を記載した文書の交付によることとされた(同法57条2項)が,「容器又は包装」自体 て原告らは,昭和52年の安衛法改正により,「容器に入れ,又は包装」する方法以外の方法で譲渡する場合には警告内容を記載した文書の交付によることとされた(同法57条2項)が,「容器又は包装」自体に個別に警告表示をなすべきことが原則であり,「容器又は包装」によって譲渡する場合に警告表示を記載した文書を交付することによってこれに代えることは許されないとして,石綿スレート協会が,警告表示について,全ての石綿含有建材について文書を交付する方式で足りるとの指導をし,業界全体として「容器又は包装」への警告表示を行ってこなかったのであり,これは安衛法57条1項の定めを空文化させるものであるから,被告国がこれを放置し,安衛法57条に基づく規制,監督権限を行使しなかったことは違法である旨主張する。 しかし,前記1(2)ク(ウ)によれば,全ての石綿含有建材について文書を相手方に交付する方法によって警告表示が行われていたとは認められず,むしろパレット積みで出荷の際に文書をはさむといった方法が多くとられていたことが窺える。そして,安衛則31条1項(ただし,平成18年10月20日厚生労働省令第185号による改正後の安衛則においては,32条)においては,安衛法57条の規定による表示について,当該容器に同条各号に掲げる表示事項を印刷し,又は表示事項を印刷した票せんをはりつけて行わなければならないとし,但し,当該容器に表示事項の全てを印刷し,又は表示事項の全てを印刷した票せんをはりつけることが困難なときは,表示事項のうち同条3号から5号までに掲げる事項については,当該事項を印刷した票せんを容器に結びつけることにより表示することができる,と規定していること(乙アB26),また,石綿含有建材については,その大きさや運びやすさ等から,容器に入れ又は包装して出荷する 事項を印刷した票せんを容器に結びつけることにより表示することができる,と規定していること(乙アB26),また,石綿含有建材については,その大きさや運びやすさ等から,容器に入れ又は包装して出荷する以外の方法が採られる可能性が認められるこ と等からすれば,建材メーカーが実施した石綿含有建材への警告表示の方法が安衛法57条に違反していたことを明確に示す証拠はなく,よって,原告らの主張を採用することはできない。 エ建築現場における石綿含有建材についての警告表示(作業現場掲示)に関する規制権限不行使の違法性について(ア) 前記(4)イのとおり,被告国の建築現場における警告表示(作業現場掲示)に関する措置が,建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策の実効性を図るものとして有効なものであったということはできず,また,前記ウと同様,被告国(労働大臣)は,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,石綿含有率5%以下の石綿含有建材を取り扱う建築現場についても警告表示(作業現場掲示)の対象とすべきであったといえる。そして,前記のとおり石綿含有率5%以下の石綿含有建材を取り扱う建築現場を警告表示(作業現場掲示)に関する規制の対象として,かつ,建築現場における警告表示(作業現場掲示)の内容として,前記ウと同様に,「人体に及ぼす作用」(安衛法57条3号)として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」(同条4号)として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けることが,被告国にとって困難であったと認めるに足りる証拠はない。 よって,被告国(労働大臣)は,安衛法 ん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けることが,被告国にとって困難であったと認めるに足りる証拠はない。 よって,被告国(労働大臣)は,安衛法22条,23条及び27条1項に基づき,昭和50年10月1日時点において,石綿含有率に関係なく全ての石綿含有建材を特化則38条の3の規制の対象とし,その表示内容として,「人体に及ぼす作用」(安衛法57条3号)として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き 起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」(同条4号)として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けるべきであったのに,これを怠ったことは,著しく合理性を欠くといわざるを得ない。 (イ) 被告国の主張について被告国は,特化則38条の3に基づく警告表示(作業現場掲示)について,通達等により,労働基準監督機関が適切に監督指導を行っていた旨主張するが,被告国は,昭和50年表示方法通達における記載内容を基本的な警告表示の方法として示していたと解されることからすれば,警告表示の義務付けについても適切な措置が講じられていたと認めることはできない。 オ特別教育に関する規制権限不行使の違法性について原告らは,労働安全衛生を実効的に推進するためには,労働者の理解と協力が重要であるため,特別教育によって建築作業従事者に石綿粉じん曝露の危険性を認識させることが,直接的な石綿粉じん曝露防止対策としての作業環境管理や作業管理に係る対策の実効性を確保するために必要であるとして,雇入れ時教育とは別に,石綿粉じん一般の危険性及び石綿粉じん固有の危険性(発がん性)に関す な石綿粉じん曝露防止対策としての作業環境管理や作業管理に係る対策の実効性を確保するために必要であるとして,雇入れ時教育とは別に,石綿粉じん一般の危険性及び石綿粉じん固有の危険性(発がん性)に関する特別教育を実施することを事業者に義務付けるべきであったと主張する。 昭和47年に制定された安衛法により義務付けられていた労働者の雇入れ時教育において,①材料等の危険性等,②保護具等の性能及び取扱方法等,③当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること,④その他当該業務に関する安全又は衛生に必要な事項等の教育を行うこととされていたものの,建築作業に従事する労働者の多くが石綿の危険性について十分に認識できておらず,防じんマスクの着用の必要性に ついても認識しておらず,被告国による安全衛生教育に関する規制が,必ずしも有効に機能していたと認められないことは,前記(4)ウのとおりである。 しかし,前記ウ及びエの警告表示がなされることによって,建築現場において建築作業に従事する労働者に石綿の有害性及び防じんマスク着用の必要性について認識させることができること,防じんマスクの着用がなされるようになれば,その適切な使用については,特定化学物質等作業主任者による防じんマスクの使用に関する監督・指導が期待できることから,雇入れ時教育に加えて,特別教育が実施されなくとも,防じんマスクの適切な使用は相当程度確保されるといえる。したがって,安全衛生教育については建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策としては間接的なものであり,直接的な対策の実効性を図る役割を担うものであることも考慮すれば,特別教育の実施を事業者に義務付けなかったことが著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。 カ小括(ア) 以上のとおり,被 直接的な対策の実効性を図る役割を担うものであることも考慮すれば,特別教育の実施を事業者に義務付けなかったことが著しく合理性を欠くとまで認めることはできない。 カ小括(ア) 以上のとおり,被告国(労働大臣等)は,昭和50年10月1日の特化則改正時(施行時)以降,規制権限を行使して,事業者(使用者)に対し,石綿及び石綿含有製品を製造し又は取り扱う作業場において,労働者に防じんマスクを使用させることを罰則をもって義務付けるとともに,石綿含有率による限定をすることなく,石綿含有建材への警告表示や建築現場における警告表示(作業現場掲示)の内容に関し,「人体に及ぼす作用」(安衛法57条3号)として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」(同条4号)として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付けるべき であったのであり,このような規制権限が適切に行使されていれば,それ以降,建築作業に従事する労働者が,建築現場において石綿粉じんに曝露することにより石綿関連疾患を発生することを相当程度防止することができたといえる。 よって,被告国(労働大臣等)が,昭和50年10月1日以降,事業者に対し,前記規制権限を行使しなかったことは,安衛法の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法であるといわざるを得ない。 (イ) なお,被告国(労働大臣)は,平成7年改正特化則により,事業者に対し,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等の切断,穿孔,研磨等の作業や,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を塗布,注入,貼り付けた物の破砕,解体等 働大臣)は,平成7年改正特化則により,事業者に対し,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等の切断,穿孔,研磨等の作業や,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を塗布,注入,貼り付けた物の破砕,解体等,粉状の石綿含有率1%を超える石綿含有製品等を容器に入れ,又は容器から取り出す作業及び混合する作業に従事する労働者に防じんマスク等の呼吸用保護具を使用させる義務を定めており,このような規定を定めた理由として,平成7年通達において,前記各作業がいずれも石綿粉じんの発散量が多いものであることから,労働者の曝露防止の徹底を図るため,昭和50年改正特化則38条の8の措置(湿潤化)に加えて,呼吸用保護具及び作業衣等の使用を義務付けることとした旨説明しているが,被告国も自認するとおり,昭和50年改正特化則において石綿含有率5%を超える石綿含有製品等を規制対象とした結果,その後当該含有率を下回る石綿含有製品が多く開発されており,また,当該規制がなされたことによって石綿含有建材の製造,出荷量が大きく減少したとも認められないこと等からすれば,平成7年当時においては,石綿含有率による限定がなされた規制では建築現場における石綿含有建材の取扱量の減少にはつながらないことが十分に予想できたと考えられる。さらに,当該例外を設けることについて医学的な裏付 けがなされておらず,かつ,建築現場における石綿粉じん曝露防止対策については,局所排気装置の設置や湿潤化により石綿粉じん濃度を低下させることが期待できず,防じんマスクによることが第一次的手段であること等からすれば,平成7年時点において,石綿含有率による例外を設けた上で防じんマスクの着用を義務付けることは,建築現場における石綿粉じん曝露防止対策として有効なものであったとは認め難い。よって,平成7年改正特化則 平成7年時点において,石綿含有率による例外を設けた上で防じんマスクの着用を義務付けることは,建築現場における石綿粉じん曝露防止対策として有効なものであったとは認め難い。よって,平成7年改正特化則によりなされた防じんマスクに関する規制内容は,依然として著しく合理性を欠くものであったといわざるを得ない。 また,被告国は,平成17年に制定された石綿則においても,事業者に対し,前記平成7年改正特化則と同様の作業(なお,同規則に加え,これらの作業によって発生した石綿粉じんの清掃作業が追加された。)について呼吸用保護具を使用させることが義務付けられているが,これについても,平成7年改正特化則の場合と同様,著しく合理性を欠くものといわざるを得ず,平成18年に石綿等の製造が原則として禁止されるまで(当該規制により,石綿含有建材は製造及び販売されなくなり,そのため使用もなくなったと認められる。)の間,被告国には,防じんマスクの使用義務付けに関し,規制権限不行使の違法が認められる。 キ原告らの主張するその他の違法事由について(ア) 濃度規制に関する規制権限不行使の違法性について原告らは,建築現場における作業環境測定としては,単位作業場所に複数の測定点を定め(定点測定),いわゆる「場」の平均的粉じん濃度を測定することにより,作業環境を的確に把握するだけではなく,個人サンプラーによる粉じん測定が不可欠であるところ,被告国は,安衛法65条に基づく作業環境測定に関する政令制定権限を有していたにもかかわらず,このような個人サンプラーを使用した粉じんの個人濃度測定を事業者に義務付けなかったとして,当該規制権限の不行使は,著しく 不合理であり,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,前記1(1)ア,(2)カ及び2(2)カ記載のと 定を事業者に義務付けなかったとして,当該規制権限の不行使は,著しく 不合理であり,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,前記1(1)ア,(2)カ及び2(2)カ記載のとおり,作業環境測定は,作業環境管理において,飽くまで作業環境を改善するための対策を講ずる前提として,作業環境に有害な因子がどの程度存在し,その作業環境で作業に従事する者がこれらの有害な因子にどの程度曝露しているのかを把握するために実施されるもので,作業環境測定をすること自体が目的となるものではなく,これによって直接労働者の石綿粉じん曝露を抑制,防止できるものでもない。 また,前記1(2)カ(イ)ないし(エ)によれば,個人曝露濃度測定結果については,作業環境の改善のための情報として用いるためには,作業環境における全体的な状態を把握する「場」の測定とは異なり,当該作業場において作業に従事する者からどのように測定対象者を定めるかという点や,選定した一定の作業者についての曝露濃度を作業環境に反映させること等に関するシステムを構築する必要があり,作業環境測定方法として個人曝露濃度を用いることには,「場」の測定による方法に比して困難な面がある。また,被告国が採用した作業環境測定方法(作業場内の複数の定点で測定を行う方法)が,アメリカ等で採用されている個人曝露濃度による測定方法と比較して劣っていると認めるに足りる証拠はなく,さらに,個人曝露濃度測定については,測定時に装着する個人サンプラーによる作業者への負担等も考慮しなければならないこと等からすれば,被告国が原告らの主張する前記義務付けをしなかったことが著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であると認めることはできない。 (イ) 集じん機付き電動工具の使用に関する規制権限不行使 が原告らの主張する前記義務付けをしなかったことが著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であると認めることはできない。 (イ) 集じん機付き電動工具の使用に関する規制権限不行使の違法性について原告らは,昭和40年以降,電動工具の販売台数及び石綿含有建材の 流通量が増加し,建築現場では多くの石綿含有建材が電動工具によって加工されるようになったため,建築作業従事者が大量の石綿粉じんに曝露し石綿関連疾患に罹患する危険性が高い状態となっていたのであるから,被告国は,石綿粉じん対策として,安衛法22条,23条,27条1項に基づき当該電動工具に集じん機を装着(接続)したものの使用を義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは著しく不合理であって国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 確かに,電動工具による石綿含有建材の切断等の加工作業等が発生させる石綿粉じん量は,手作業による場合よりも多く,昭和40年以降は電動工具と石綿含有建材の製造,販売量の増加により,建築現場において発生する石綿粉じん量は増加していたと考えられ,また,平成4年通達においては,石綿粉じん曝露防止対策として,電動工具に除じん装置を取り付けて使用することが有効であるので,作業が極めて短時間である場合等にはダストボックス付きの電動工具を使用し,そうでないときは,除じん装置付きの電動丸鋸を使用し,併せて,防じんマットを使用すること,として,事業者に対する指導をしており(前記第2章第3節第1,7(10)),被告国においても,同通達当時の技術を前提とすれば,電動丸鋸に除じん装置を取り付けて使用することで石綿粉じんの飛散量が抑えられるとの認識を有していたと認められる。さらに,電動丸鋸等に除じん装置を取り付けて使用することによって,加 術を前提とすれば,電動丸鋸に除じん装置を取り付けて使用することで石綿粉じんの飛散量が抑えられるとの認識を有していたと認められる。さらに,電動丸鋸等に除じん装置を取り付けて使用することによって,加工時に発生する石綿粉じん量を低下させることができることを裏付ける粉じん濃度測定結果(甲A241,248,乙アB44)も存在する。 原告らは,集じん機付き電動工具の構造について,電動工具と集じん機(除じん装置)をホース等で接続する単純な構造であるから,遅くとも昭和47年当時には,十分実現可能な技術的基盤が存在していたと主張し,これに沿う大阪市立大学大学院専任教授Y作成の意見書(甲A4 64)を提出する。しかし,建築現場における作業内容,作業場所は多様であって,用いられる電動工具の種類も多種多様なものであるところ,石綿のような微少な粉じんを吸入し,除去可能なフィルターに関する技術が確立していたとは直ちに認められない(乙アA64,1019,1020)。また,除じん装置の購入には,平成4年当時でも,1台につき10万円から20万円程度を要し,その後の保守管理においても細かい点検等が求められ,年に1回はメーカーに点検を依頼することが望ましいとされるなど,相応の費用と手間がかかり,さらに,適切な使用がなされなければ,除じん装置等からの二次発じんの可能性もあること(甲A248の36頁ないし41頁)等,使用上の負担も軽視できない。 さらに,建築現場においては石綿を含有する混和材を用いたモルタル等の練り上げ作業や石綿含有建材の重機による破砕作業等集じん機付きの電動工具の使用が想定し難い石綿粉じん曝露作業があり,また,建築現場や具体的な作業を行う場所の環境(作業場所の広さや騒音等を抑制する必要性等)によっては電動工具の使用が困難な場合もあることから きの電動工具の使用が想定し難い石綿粉じん曝露作業があり,また,建築現場や具体的な作業を行う場所の環境(作業場所の広さや騒音等を抑制する必要性等)によっては電動工具の使用が困難な場合もあることから,集じん機付き電動工具の使用が防じんマスクのように石綿粉じん曝露防止対策として広い範囲で効力を有するものとは認め難く,前記のとおり,多様な建築作業に対応した工具が必要となることから,法令によって一定の要件を定め,一律に使用を義務付けることも困難であることも考慮すれば,被告国が,集じん機付き電動工具について,平成4年通達によりその使用を事業者に指導するにとどめ,それ以上に,事業者に対し,法令により,罰則をもって,一律にその使用を義務付けなかったことが,著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であるということはできない。 (ウ) エアライン・マスク,電動ファン付きマスクに関する規制権限不行使の違法性について a エアライン・マスクについて原告らは,被告国が,昭和50年改正特化則において,石綿含有率5%を超える石綿含有製品等の吹付け作業に従事する労働者に送気マスク(エアライン・マスク)又は空気呼吸器を使用させることを事業者に義務付けているところ,石綿含有率5%以下の石綿含有製品等であれば安全であるとの医学的根拠は全くなく,また,石綿吹付け作業において発生する石綿粉じん量は大量であるから,エアライン・マスクの使用が不可欠であるとして,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,昭和50年改正特化則が制定された以降,前記のような除外をすることなく,全ての石綿吹付け作業について,これに従事する作業者に対し,エアライン・マスクを支給,使用することを義務付けるべきであり,これを怠ったことは著しく合理性を欠き 以降,前記のような除外をすることなく,全ての石綿吹付け作業について,これに従事する作業者に対し,エアライン・マスクを支給,使用することを義務付けるべきであり,これを怠ったことは著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法であると主張する。 しかし,本件被災者らには石綿吹付け作業に従事していた者はいないことから,この点について判断の必要はない。 b 電動ファン付きマスクについて原告らは,石綿が低濃度曝露によっても肺がん等を発生させること等から,わずかな石綿粉じんも吸入しないようにする必要があるとして,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,事業者に対し,建築作業従事者に電動ファン付きマスクの支給,使用を義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったのであり,当該規制権限の不行使は,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 電動ファン付きマスクは,防じんマスクと同じろ過式の呼吸用保護具であるが,携帯している電動ファンによって,環境の空気を吸引し,付属のフィルターによって空気中の粉じん等の有害物質を除去し た後,清浄化した空気を着用者に送るというものである。防じんマスク一般よりも高い防護性が得られるもので,石綿取扱作業場で,粉じん濃度が高い場合などに適するとされる。エアライン・マスクと異なりホースがないため行動範囲の制限はないが,電池を電源とするため,連続の使用時間は限られる。電動ファン付きマスクは,酸素濃度が18%未満の環境や有毒ガスが発生する環境では使用できず,また,電池の消耗により送風量が低下した場合には作業を中止して,電池の充電又は電池の交換をする必要がある。全面形,半面形は,故障等により電動ファンが停止しても,ろ過式マスクとして使用できるが,その状態で通常の作 耗により送風量が低下した場合には作業を中止して,電池の充電又は電池の交換をする必要がある。全面形,半面形は,故障等により電動ファンが停止しても,ろ過式マスクとして使用できるが,その状態で通常の作業をしてはならないとされる。また,フード形の場合には,電動ファンの停止や送風量の低下により,フードと顔の隙間から石綿粉じんを吸入してしまうおそれがあるため,送風量低下警報装置の付いたものを使用することとされている。(甲A247の149頁ないし158頁,248の48頁・49頁)発がん物質については,閾値がないとの前提(仮定)のもとで,少しでも曝露を受ければそれだけリスクが高まると考えられることが多い(甲A9の475頁,319の2枚目,323の911頁)が,すでに述べたとおり,被告国が定めた規格に適合する防じんマスク(国家検定に合格した防じんマスク)の着用により相当程度石綿粉じん曝露を防止することができ,このような防じんマスクを適切に使用してもなお石綿関連疾患を発生することを示す証拠も見当たらないことからすれば,被告国が,全ての建築作業に従事する労働者に対し,前記のとおり防じんマスクよりも着用についての負担が重い電動ファン付きマスクの備付け及び着用を,事業者に対して法令によって義務付けなかったことが,著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であるということはできない。 (エ) 局所排気装置の使用義務付けに関する規制権限不行使の違法性について原告らは,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,石綿含有建材を取り扱う建築現場において,建築現場に適合した局所排気装置(移動式局所排気装置)の使用を事業者に義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったのであり,当該規制権限の不行使は,著しく合理性 材を取り扱う建築現場において,建築現場に適合した局所排気装置(移動式局所排気装置)の使用を事業者に義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったのであり,当該規制権限の不行使は,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,前記(2)オのとおり,建築現場においては,移動式局所排気装置を含む局所排気装置の設置が,同所における建築作業に従事する労働者の石綿粉じん曝露防止対策として有効な措置であると認めることはできないのであるから,被告国が,局所排気装置に関し,前記原告らが主張するような規制権限の行使をしなかったことが,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法であるとは認められない。 (オ) 作業現場の隔離,密閉化及び移動式集じん機使用の義務付けに関する規制権限不行使の違法性について原告らは,建築現場においては,石綿粉じんへの間接的・複合的曝露があることから,建築作業従事者が石綿関連疾患に罹患することを防ぐためには,建築現場において石綿粉じんに直接又は間接的に曝露することを防ぐことが必要であり,被告国において,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,そのための規制の一つとして,建築作業従事者自身はエアライン・マスクや電動ファン付きマスクなど適切な保護具を着用して完全防備した上で,作業場所を周囲から隔離してその空間内を密閉化し,建築作業従事者自身の作業により空間内に発生した粉じんを作業場外に排出するため,移動式集じん機を用いることを義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,建築現場においては,その作業場は広狭様々であり,そのような密閉化及び移動式集じん機の使用が常に可能であるとは限らず,ま あって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,建築現場においては,その作業場は広狭様々であり,そのような密閉化及び移動式集じん機の使用が常に可能であるとは限らず,また,建築作業については,作業場所が短時間で移動するという特徴があることからすれば,一定の場所のみを密閉化するのでは足りず,その都度密閉化する場所を移動させる必要があると考えられる。このような措置を採ることは,重層下請構造のため多くの下請業者が関与することが多く,また,定められた期間内でそれぞれの作業を完了することが求められる建築現場では,建築作業に従事する労働者に対し作業量の増加等により負担をかける可能性が高いと考えられる。加えて,防じんマスクによって相当程度石綿粉じん曝露が防止できることを考慮すれば,原告らが主張する前記措置が,建築現場における石綿粉じん曝露対策として,法令によって一律に義務付けるべき有効な措置であるということはできない。 よって,原告らが主張する前記措置を被告国が義務付けなかったことが,著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であるとは認められない。 (カ) プレカット工法の義務付けに関する規制権限不行使の違法性について原告らは,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,石綿含有建材について,あらかじめ工場等の建築現場外において機械により切断等の加工作業を行い,加工後に当該建材を建築現場に搬入し,現場では組み立て作業を中心に行う工法(本来的なプレカット工法)を事業者に義務付けるべきであったにもかかわらず,当該規制権限を行使しなかったことは,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,建設業は,プレハブ化された部分があるとはいえ,基本的に もかかわらず,当該規制権限を行使しなかったことは,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,建設業は,プレハブ化された部分があるとはいえ,基本的に は受注生産であって,新築作業や増改築作業においては,設計図等が予め作成されていたとしても,実際に建築作業を進める中で建材の大きさ等の調整や変更を必要とすることがあると考えられる。実際に,本来的なプレカット工法が採用された建築現場での作業を経験したという原告9は,建売住宅以外では本来的なプレカット工法が採用されることはなく,プレカットの建材も現場に応じて細かな切断が必要で,現場で建材を切る作業がなくなることはなかったと述べている(甲D9の9)。また,解体作業については,建築現場における石綿粉じんの発生は避けられない。こうしたことからすれば,本来的なプレカット工法によって建築現場における石綿粉じん飛散量をどの程度抑えることができ,それによって建築作業に従事する労働者の石綿関連疾患の発生の防止にどの程度の効果があるのかは不明である。さらに,建築作業において,本来的なプレカット工法が実施可能な範囲がどの程度であるかも明確ではないから,事業者に対し,法令によって一律にプレカット工法を義務付けることが可能ないし適切であるとは言い難い。よって,被告国が,本来的なプレカット工法につき,平成4年通達において実施が望ましいものとして指導するにとどめ,これを法令によって事業者らに対し一律に義務付けなかったことが,著しく合理性を欠くものであって,国賠法1条1項の適用上違法であるとは認められない。 (キ) 石綿吹付け禁止に関する規制権限不行使の違法性についてa 原告らは,石綿吹付け作業による石綿粉じんの飛散量が多く,吹付け作業を行っている作業者のみならず周囲 違法であるとは認められない。 (キ) 石綿吹付け禁止に関する規制権限不行使の違法性についてa 原告らは,石綿吹付け作業による石綿粉じんの飛散量が多く,吹付け作業を行っている作業者のみならず周囲の作業者もこれによって石綿粉じんに曝露するものであって,また,石綿粉じんが発がん性物質であり,閾値がないことからすれば,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項に基づき,石綿吹付け作業を全面的に禁止すべきであったとして,このような規制権限を行使しなかったことは著しく不合 理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 b 本件被災者らはいずれも石綿吹付け作業に従事していた者ではないため当該作業によって発生した石綿粉じんに直接曝露することはないから,この点に関する違法性については判断しない。 c 前記第3,2(1)イ(ア)認定の建築作業従事者の石綿粉じん曝露状況によれば,本件被災者らについても,石綿吹付け作業によって発生した石綿粉じんに間接曝露する可能性は否定できないものの,昭和50年時点では,建築現場において,石綿含有建材に関する作業によって,どの程度の濃度の石綿粉じんが発生しているかについての具体的な測定結果までは得られておらず(前記第3,2(3)イ),昭和50年改正特化則により,石綿含有率5%を超える石綿含有製品の吹付け作業を原則禁止したことに加えて,防じんマスクの使用を義務付けるなどの作業管理に係る規制を行うことによって,前記間接曝露による石綿関連疾患の発生を防止するには不十分であると,被告国が認識すべきであったとは認められない。したがって,石綿吹付け作業による間接曝露との関係において,被告国が,石綿吹付け作業を全面的に禁止しなかったことが著しく合理性を欠くものであるとまでいうことはできず,国賠法1条1項 は認められない。したがって,石綿吹付け作業による間接曝露との関係において,被告国が,石綿吹付け作業を全面的に禁止しなかったことが著しく合理性を欠くものであるとまでいうことはできず,国賠法1条1項の適用上違法であると認めることはできない。 d なお,被告国(建設省)は,昭和46年に特化則が制定され,石綿の製造,取扱作業における規制が定められたこと,その後,ILO,WHOの石綿の発がん性に係る議論や,吹付け石綿に対する規制の議論を踏まえ,昭和48年3月,「庁舎仕上げ標準(暫定修正版)」の「内部仕上表」において,石綿吹付けを取りやめるとの判断をしたが,前記「庁舎仕上げ標準(暫定修正版)」は,官公庁施設の建設にあたっての内部指針にすぎないものであり,かつ,前記取りやめは,発注者としての立場から,内部仕上げについてのみ石綿吹付け材の使用を 取りやめたというものであるから,官公庁施設においても鉄骨等に対する石綿吹付け作業等が全て行われなくなったものではない。よって,当該事実をもって,被告国が,全ての建築物について全面的に石綿吹付け作業を禁止すべきであったと判断することはできない。 (ク) 吹付けの剥離,除去に関する規制権限不行使の違法性について原告らは,被告国は,安衛法22条,23条,27条1項基づき,①吹付け石綿剥離作業について,昭和50年改正特化則で定めた石綿吹付け作業と同様に,送気マスク(エアライン・マスク)又は空気呼吸器等の使用,②石綿を使用した建築物の改修・解体工事,及び吹付け石綿が損傷・劣化による石綿粉じんの飛散を防止する措置(平成17年の石綿則による規制と同様の措置)を事業者に義務付けるべきであり,さらに,安衛法57条に基づき,将来の吹付け石綿の剥離作業,建築物の改修・解体作業,吹付け石綿の損傷,劣化に基づく飛 措置(平成17年の石綿則による規制と同様の措置)を事業者に義務付けるべきであり,さらに,安衛法57条に基づき,将来の吹付け石綿の剥離作業,建築物の改修・解体作業,吹付け石綿の損傷,劣化に基づく飛散を防止するために,吹付け石綿建材メーカーに対して,吹付け石綿を行った建築物について,石綿吹付けの年月日,石綿吹付けの面積,厚さ,含有石綿の種類,含有率等を調査し,記録することを義務付けると共に,吹付け石綿建材メーカー及び関連会社が石綿吹付けを施工した建築物の所有者に対して,直接訪問するかあるいは郵送により,前記調査記録及び剥離,修理,解体にあたっての注意事項等を通知することを義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったのであり,当該規制権限の不行使は,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 しかし,原告らは,吹付け石綿の剥離作業や石綿を使用する建築物の解体,改修工事における石綿粉じん曝露の危険性に関して主張する一方で,本件被災者らの石綿関連疾患の発生を防止することとの関係において,前記各措置を原告らが主張する時期において講じる必要性等に関し,何ら具体的な根拠を示した主張をしていない。 さらに,これまでの認定・説示によれば,原告らによって義務付けが必要と主張されている前記各措置については,局所排気装置の設置等のように建築現場において有効な石綿粉じん曝露防止対策とは認められない措置が含まれており,よって,原告らが主張するとおりに全ての措置を講じる必要性があったとは認め難い。 以上のことから,被告国が,原告らが主張する前記各措置を義務付けなかったという規制権限の不行使が,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法であると認めることはできない。 (ケ) 小括以上のとおり,原告らが被告国 ,原告らが主張する前記各措置を義務付けなかったという規制権限の不行使が,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法であると認めることはできない。 (ケ) 小括以上のとおり,原告らが被告国との関係で主張する,石綿の管理使用を前提とした違法事由のうち,前記カ(ア)以外の事由については,いずれもその規制権限の不行使が,著しく合理性を欠くものと認めることはできない。 第5 石綿含有建材の製造及び使用の禁止等の規制権限不行使の違法性 1 認定事実前記第2章第2節及び第3節の前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 石綿の使用禁止に関する規制等被告国は,昭和50年改正特化則1条において,事業者に対し,化学物質等による労働者のがんその他の健康障害を予防するため,使用する物質の毒性の確認,代替物の使用,健康管理の徹底その他必要な措置を講じ,もって,労働者の危険の防止の趣旨に反しない限度で,化学物質等に曝露される労働者の人数並びに労働者が曝露される期間及び程度を最小限度にするよう努めなければならないとして,石綿の代替化努力義務を課し,昭和51年通達により,石綿を可能な限り有害性の少ない他の物質に代替させるとともに,現在までに石綿を使用していない部門での石綿又は石綿製品(発じん防止処理 したものであっても,使用中又はその後において発じんすることの明らかなものを含む。)の導入は,避けるように指導すること,特に,青石綿(クロシドライト)については,他の石綿に比較して有害性が著しく高いことからその製品を含め優先的に代替措置をとるよう指導することを求めた。 昭和58年度,昭和59年度には,全国427の石綿取扱い事業場のうちクロシドライトを使用する事業場は11まで減少し,アモサイトを使用する 製品を含め優先的に代替措置をとるよう指導することを求めた。 昭和58年度,昭和59年度には,全国427の石綿取扱い事業場のうちクロシドライトを使用する事業場は11まで減少し,アモサイトを使用する事業場は52事業場となった。さらに,昭和62年には各企業は自主的にクロシドライトの使用を中止した。(前記第4,1(2)ア(イ)及び(ウ))建設省大臣官房官庁営繕部は,昭和62年9月16日付け「石綿及び石綿を含む材料・機材の取扱いに関する当面の方針について(通知)」と題する事務連絡において,建築物の新築等における方針として,「通常の使用状態において空気中に石綿が飛散するおそれのある石綿等については,使用しない。通常の使用状態において,空気中に石綿が飛散するおそれのない石綿等については安全利用を図る他,工事現場での石綿等の切断,穿孔等の加工時並びに将来の解体等時における石綿の飛散防止を考慮して,同等以上の代替品がないなどやむを得ない場合を除き,できる限り使用しない。」と通知した。 平成元年に被告国が実施した全国359の石綿製品製造事業所を対象とする調査的監督においては,クロシドライトを使用する事業場が存在しないことが確認された(前記第4,1(2)ア(イ))。また,同年には,アモサイトを使用する事業場は19事業場に減少し,さらに,平成5年には日本石綿協会は業界として自主的にアモサイトの使用を中止した(前記第4,1(2)ア(ウ))。 平成7年改正安衛令により,クロシドライト,アモサイト,及びこれらをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物の製造,輸入,譲渡,提供又は使用が禁止された(同施行令16条1項4号,5号,10号)。 平成15年改正安衛令(平成16年10月1日施行)により,石綿セメン ト円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用 ,譲渡,提供又は使用が禁止された(同施行令16条1項4号,5号,10号)。 平成15年改正安衛令(平成16年10月1日施行)により,石綿セメン ト円筒,押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング,クラッチフェーシング,クラッチライニング,ブレーキパッド,ブレーキライニング,接着剤で,その石綿含有率が当該製品の重量の1%を超えるものの製造,輸入,譲渡,提供又は使用が禁止された(同施行令16条1項9号,別表第8の2)。 平成18改正安衛令(平成18年9月1日施行)により,石綿をその重量の0.1%を超えて含有する石綿含有製品等について,製造,輸入,譲渡,提供又は使用が禁止された(同施行令16条1項9号)。 (2) 石綿関連疾患及びその発生の危険性等についてア我が国における石綿関連疾患に関する知見等について(ア) 昭和47年,IARC報告において,前記第2,1(2)ア(セ)のとおりの報告がなされ,この内容は同年,我が国において,坂部弘之の「昭和47年度環境庁公害研究委託費によるアスベストの生体影響に関する研究報告書」において前記第2,1(2)イ(キ)のとおり報告された。 (イ) 昭和53年,「石綿による健康障害に関する専門家会議検討結果報告書」において,肺がん及び中皮腫については,前記第2,1(2)イ(ク)c及びdのとおりの報告がされ,石綿肺に関しては,以下のとおり報告された(甲A5,乙アA40の169頁)。 a 石綿肺は,石綿による健康障害のうちで最も症例が多く,古くから知られているじん肺の一種であり,じん肺法が適用される。 b 石綿肺の臨床および病理学的特徴臨床的には,呼吸時肺底部の持続的捻髪音の存在,X線所見として肺野下半にびまん性間質性線維症の所見ないし肺膜肥厚斑石 じん肺の一種であり,じん肺法が適用される。 b 石綿肺の臨床および病理学的特徴臨床的には,呼吸時肺底部の持続的捻髪音の存在,X線所見として肺野下半にびまん性間質性線維症の所見ないし肺膜肥厚斑石灰化がみられること及び喀痰中に石綿小体を検出することもある。労作時の呼吸困難(息切れ),空咳,拘束型換気機能障害及び拡散障害が初期の頃からみられる。 病理学的所見としては,じん肺の中では肺胞隔壁のびまん性間質性線維症,石綿小体の存在が特徴的である。これに随伴する病変には細気管支炎,肺胞炎があり,時に増殖性病変をみることがある。以上の病変は肺下野に強い。一方,胸膜はしばしば肥厚硝子化し,一部は石灰化を示す。この変化は臓側胸膜のみならず,しばしば壁側胸膜も生ずる。 c 石綿曝露との関係肺の線維化や拘束型の換気機能障害の程度や頻度,自他覚症状の頻度と石綿曝露量や経過期間との間に量反応関係の存在することがうかがわれる。これらの所見が石綿曝露の程度あるいは経過期間のいずれにより強く関連しているかは明らかでない。石綿曝露開始から石綿肺の自他覚症状が発現するまでの期間は曝露の型や程度によって異なるが,概ね5年以上と考えられる。 d 石綿肺と合併症石綿肺に合併するがん以外の疾病については,胸膜炎の合併率が高いようであるが,肺結核の合併率は珪肺に比し高くない。気管支炎,気管支拡張症および気胸の合併症例の報告もある。また,気管支肺炎が合併しやすく予後が悪い。 ほかに皮膚の石綿胼胝(ウオノメ状)が見られることもある。 (ウ) 昭和57年3月に発行された,坂部弘之監訳,小野昭雄,梶川清訳による米国保健教育福祉省,国立職業安全衛生研究所(NIOSH)刊「職業病-その認識への手引―」においては,化学物質の発がん性について閾値が存在するか に発行された,坂部弘之監訳,小野昭雄,梶川清訳による米国保健教育福祉省,国立職業安全衛生研究所(NIOSH)刊「職業病-その認識への手引―」においては,化学物質の発がん性について閾値が存在するか否かについては化学者の間でかなり議論があるところであり,仮に閾値が存在するとしても,我々は現時点においてはがん原性物質の閾値を決定するための科学的方法を確立していないのであって,さらに,ある特定のがん原性物質に閾値が存在するとしても,産 業の場において労働者は同じ部位を標的とする多数のがん原性因子に曝露されることがあるので,この閾値は必ずしも安全な曝露レベルとなることはないであろう,とされた。そして,NIOSHは,現時点においてはすべてのがん原性物質に対して安全な曝露レベルを示すことはできないという立場をとっている,とした。(甲A291)(エ) 昭和62年2月に発行された,環境庁大気保全局企画課監修「石綿・ゼオライトのすべて」においては,①量反応関係に関し,疫学的調査の数は少ないが,多くの専門家が中皮腫の発生は石綿の曝露量に直線的に比例して高くなる関係があるとする見解にたっていること,肺がんの発生と石綿曝露量との量反応関係については,石綿の曝露期間及び平均曝露濃度の両者に比例して,肺がんの相対的危険度も高くなるとする見解が多くの専門家によって支持されていること,そのため,理論的には,肺がん及び中皮腫の発現に対する石綿曝露量の安全閾値は存在しないという見解が首肯されるものであること,また,石綿はそれ自体がん原性物質であるから,いかなる低濃度でも安全とする最少の閾値はないこと,②石綿との因果関係が確立している疾患としては,石綿肺,胸膜病変(胸膜肥厚斑,良性胸膜炎,びまん性胸膜肥厚,無気肺性偽腫瘍),肺がん,胸膜・腹膜中皮腫があ 低濃度でも安全とする最少の閾値はないこと,②石綿との因果関係が確立している疾患としては,石綿肺,胸膜病変(胸膜肥厚斑,良性胸膜炎,びまん性胸膜肥厚,無気肺性偽腫瘍),肺がん,胸膜・腹膜中皮腫があり,いずれも石綿曝露による急性影響の結果ではなく,遅発性影響の結果として出現するものであること,③特に肺がんと中皮腫は一旦発病が成立すると致命的であり,現在の医療レベルでは早期発見,早期治療は非常に困難であること,④石綿関連疾患の一つである胸膜プラークやびまん性胸膜肥厚,良性胸膜炎などの胸膜病変はそれ自体致命的なものではなく,特に胸膜プラークはむしろ過去の石綿曝露のマーカーとしての意義が強いこと,⑤クロシドライト,アモサイト,クリソタイルのいずれも肺がん及び中皮腫の発生をもたらすところ,クロシドライトが最も発がん性が強いようであるが,石綿の種 類別による発がん性の比較実験では,クリソタイルがクロシドライトやアモサイトよりも発がん性が高いとする報告や,逆に低いとする報告などさまざまであり,動物実験の成績からは整合性のある結論は得られていないこと,が述べられた。(甲A9の437頁・442頁・471頁ないし476頁)(オ) 昭和63年12月に発行された「現代労働衛生ハンドブック」においては,「発癌物質の許容濃度は0であり,いかなる経路からも体内に入れてはいけない,というのがこれまでの考え方であった。しかし,近年は発癌物質についても,量-反応関係が認められることが,動物実験でも疫学調査でも明らかになってきた。また,発癌性,変異原性の陽性物質において,その強さには6桁または7桁の大差があることも示されている。このようなことから,発癌物質についても無作用量が存在し,許容濃度を決め得るとの意見も主張され,活発な議論が続いている。しかし 質において,その強さには6桁または7桁の大差があることも示されている。このようなことから,発癌物質についても無作用量が存在し,許容濃度を決め得るとの意見も主張され,活発な議論が続いている。しかし,すべての労働者に絶対に癌が生じないような数値を見出すことは,統計学的にもきわめて難しい。」とし,「個々の発癌因子についての無作用量を理論上は算出することができても,実用的な意味は小さく,やはり許容濃度は0または,これに近いものとして衛生管理を行うことが必要であろう。」とされた。(甲A323の911頁)(カ) 東は,「日出ずる国の産業保健」平成18年4月号「石綿からみた世界(4):加工現場調査1985-1986」において,「発ガン物質には閾値がなく,少しでも曝露を受ければ,それだけリスクが増加するというのが仮説です。しかしながら,一本の繊維でも危険というのは現実的ではなく,実際には一定以上の曝露があって初めて発現するというのが,妥当と考えます。なお,悪性中皮腫については繊維の種類が大きく関連し,青石綿(クロシドライト)や茶石綿(アモサイト)では,白石綿(クリソタイル)に較べて,強い発生原因と考えられています。」 と述べた(甲A319の2枚目)。 (キ) 平成19年5月10日に社団法人日本作業環境測定協会が発行した「化学物質等のリスクアセスメント・リスクマネジメントハンドブック」中の,「4.1 労働環境におけるリスク評価」では,量反応関係評価とは,投与された,または曝露された物質の量と,健康への有害影響の発生の関係を判定するプロセスであるとされた。また,閾値に関しては,ほとんどの種類の毒性作用(すなわち臓器特異的作業,神経学的・行動学的毒性,免疫学的毒性,非遺伝子毒性の発がん性,生殖毒性又は発生毒性)では,それ以下では有害作 あるとされた。また,閾値に関しては,ほとんどの種類の毒性作用(すなわち臓器特異的作業,神経学的・行動学的毒性,免疫学的毒性,非遺伝子毒性の発がん性,生殖毒性又は発生毒性)では,それ以下では有害作用が生じない用量又は濃度(すなわち閾値)が存在すると,一般的には考えられており,その他の種類の毒性作用では,どのような曝露レベルでもある程度の確率で有害性があると想定されている(すなわち閾値は存在しない)ところ,現時点では後者の仮定は一般的に主として変異原性および遺伝子毒性発がんに適用されているとされた。そして,閾値が存在する場合,(非発がん性作用および非遺伝子毒性発がん物質等)には,従来,無毒性量(NOAEL)(閾値の近似値である)と不確実性係数を用いて,それより低い濃度では人に有害作用は認められないとする曝露量レベルが求められ,又は,各種の不確性の原因を考慮した上で,無毒性量が推定曝露量を超過する程度(すなわち安全余地)を検討するということが行われており,これまではこのアプローチが「安全性評価」とされることが多かった旨述べられた。(乙アA167)イ WHO,ILOによる報告,条約等において示された石綿関連疾患に関する医学的知見及び石綿に関する対策等について(ア) 石綿使用における安全についての実施要綱(ILO)ILOの第219回理事会(昭和57年2月から同年3月)でなされた決議に従って,石綿使用における安全についての実施要綱を作成する ための専門家会議が,昭和58年10月11日から同月20日にわたってジュネーブで開かれた。 同実施要綱は,気中浮遊石綿粉じんの職業曝露の危険のあるいかなる場所あるいは作業に対しても適用されるものであるとされた(石綿含有製品の使用又は利用,石綿含有製品の引き剥がし,修理又は保守,石綿 同実施要綱は,気中浮遊石綿粉じんの職業曝露の危険のあるいかなる場所あるいは作業に対しても適用されるものであるとされた(石綿含有製品の使用又は利用,石綿含有製品の引き剥がし,修理又は保守,石綿材料を含むプラント又は構造物の取り壊し等も対象)。 同実施要綱においては,権限ある機関の一般的義務として,①石綿粉じんへの職業曝露に起因する危険から労働者の健康を保護するための規制又は他の適切な規定を公布し,或いは認可し,かつ定期的に更新すること,②事業者による届出を必要と考える諸手続を制定し,この届出には,作業の種類と場所,曝露される労働者の総数等を含むこと,③危険な作業や技術を決め,これらの作業や技術を禁止するか,又は特別な認可を要するようにし,かつ予防と保護の特別な対策に従うことを要求すること,④作業環境中の気中浮遊石綿曝露限界の設定,作業環境中の気中浮遊石綿のモニタリング方法の標準化,個人用保護具の認可に係る手続を制定すること等の義務が定められた。また,事業者の一般的義務として,①建物,設備,機械および作業場を整え,保守し,労働者の曝露をできるだけ無理なく実行可能な抑制を行い,かつ少なくとも石綿曝露限界内になるような方法をとること,②危険防止の適切な措置を選定するために全ての生産又は使用に先立ち石綿による健康への危険を調査すること,③労働者の石綿粉じん曝露を減らすための全般的な制御プログラムを作成し,履行すること,④気中浮遊石綿の危険が他の方法では予防又は抑制できないときには,必要と思われる個人用保護具及び保護衣を労働者の費用負担無しに提供し,その維持管理を行うこと,⑤事業者の直接管理下にない作業場にいる労働者が規制を守り必要な安全防止対策をとるように,できる限り,合理的に下請業者に通知し,守らせるこ と等の義務が定 供し,その維持管理を行うこと,⑤事業者の直接管理下にない作業場にいる労働者が規制を守り必要な安全防止対策をとるように,できる限り,合理的に下請業者に通知し,守らせるこ と等の義務が定められた。 (乙アA170)(イ) 石綿条約(ILO)昭和61年6月24日にILOが採択した石綿条約(我が国は平成17年8月11日に批准)においては,一般原則として,①業務上の石綿への曝露による健康に対する危険を防止し,及び管理し,並びにこの危険から労働者を保護するためにとるべき措置については,国内法令において定め(同条約3条1項),当該国内法令は,技術の進歩及び科学的知識の発展に照らして定期的に検討すること(同条約3条2項)とされ,また,保護措置及び防止措置として,②労働者の健康を保護するために必要であり,かつ,技術的に実行可能な場合には,石綿以外の物質若しくは製品又は他の技術の利用により代替させることや,一定の作業工程において石綿の使用を全面的に又は部分的に禁止することについて,国内法令で定めること(同条約10条),③クロシドライト及びその繊維を含有する製品の使用を禁止すること(同条約11条1項),④あらゆる形態の石綿吹付け作業を禁止すること(同条約12条1項)(ただし,前記③及び④については,これらが実行可能でない場合は,労働者の健康が危険にさらされないことが確保される手段がとられることを条件として,関係団体等と協議した上で,禁止の緩和をすることが認められる。 同条約11条2項,12条2項),⑤労働者の石綿への曝露限界又は作業環境を評価するための曝露の基準を定め,これを技術の進歩並びに技術的及び科学的知識の発展に照らして設定し,定期的に検討し,及び更新すること(同条約15条1項,2項)等が規定された。(乙アA55)(ウ) 価するための曝露の基準を定め,これを技術の進歩並びに技術的及び科学的知識の発展に照らして設定し,定期的に検討し,及び更新すること(同条約15条1項,2項)等が規定された。(乙アA55)(ウ) 「石綿の職業曝露限界」の報告(WHO)前記(イ)の石綿条約において,規制当局は「労働者の石綿への曝露限 界又は作業環境を評価するための曝露の基準を定める」こととされたが,多くの国で適用されている石綿の職業曝露限界が異なっていることから,国際繊維安全グループの提言により,WHOは平成元年4月10日及び11日に協議会合を開催し,以下の報告書がまとめられた(乙アA3の2)。 a 緒言検討の過程で,石綿曝露の健康影響に関する科学的根拠のサマリーが用意された。現時点での科学的根拠,方法論に問題と限界があるという認識に立って,会合では,30年以上の研究にもかかわらず科学的根拠は未だ不十分であり,それ以下ではリスクがないという石綿曝露レベルがあるとは明言できないという結論に達した。 一方,起こり得る石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することは,特にクリソタイルに関しては可能であるという意見を会合は表明した。この意見は現時点での最良の判断を反映する,科学的根拠の重みと方向性に基づくものである。勧告は主にこの意見に沿ってなされた。 b 石綿曝露の有害健康影響に関する科学的根拠の総括(a) 一般吸入による職業曝露は肺線維症(石綿肺),肺がん,胸膜及び腹膜の中皮腫,そして,胸膜変化(肥厚,プラーク,胸水)を起こし得る。 (b) 動物実験による科学的根拠すべての石綿のタイプは肺腫瘍及び中皮腫を起こし得る。動物吸入実験における肺腫瘍の発生率は,曝露期間の増加及び曝露する繊維濃度の増加とともに増大することが見出され (b) 動物実験による科学的根拠すべての石綿のタイプは肺腫瘍及び中皮腫を起こし得る。動物吸入実験における肺腫瘍の発生率は,曝露期間の増加及び曝露する繊維濃度の増加とともに増大することが見出されている。一定の濃度下では,発生率は曝露期間にほぼ比例した。閾値の存在を 支持あるいは否定する明確な証拠は存在しなかった。 発がん性が石綿繊維の耐久性,表面の特徴によっても影響を受けるという一群の意見が出された。クリソタイルは,角閃石系の石綿よりも肺組織内での耐久性が低い。 (c) 疫学的な証拠-一般肺がんは,職域でみられるように,すべての型の石綿繊維によって発生している。一般には,人では,クリソタイルへの曝露によるリスクはクロシドライト,アモサイトへの曝露と比べて低いことが示唆されている。ただし,曝露レベル,産業のタイプ,雇用期間を厳密に標準化した上で,リスクの差を明確にすることは困難である。 胸膜中皮腫は,職域でみられるように,すべての型の石綿繊維によって発生している。一般的には,人では,クリソタイルへの曝露によるリスクはクロシドライト,アモサイトへの曝露と比べて極めて低いことが示唆されている。腹膜中皮腫はクロシドライトあるいはアモサイトによって発生し得る。この腫瘍はおそらくクリソタイルでは発生していない。 石綿関連疾患(肺線維症,肺がん,中皮腫)は二次製造産業,石綿断熱材の使用,脆い石綿を含有する材料を使った建設業において発生してきた。 (d) 量反応関係に関する疫学的証拠疫学調査で用いられてきた曝露評価の方法は主として定量的なものである。30年,40年前に雇用されていた作業者の曝露はまれにしか実測されておらず,報告された繊維レベルの推定値はかなり不確実である。 肺がん,中皮腫についての量反応関係の測定は して定量的なものである。30年,40年前に雇用されていた作業者の曝露はまれにしか実測されておらず,報告された繊維レベルの推定値はかなり不確実である。 肺がん,中皮腫についての量反応関係の測定は問題がより少な い。肺がんについては,累積曝露量との関係はほぼ線形であることが見出されているが,線形方程式の傾きは大きな幅がある。傾きは繊維の種類と産業に関連しているようであり,クリソタイル採掘,クリソタイルのみを含む摩擦材の製造で最も小さく,(繊維の種類と無関係に)織物製造で角閃石系石綿が使われる場合が最も大きい。 中皮腫死亡率は,石綿への初回曝露からの期間の約3乗に比例して増加することが見出されており,曝露濃度,産業,繊維のタイプとサイズに関連した増加率を示す。中皮腫の死亡率は,クリソタイル曝露がともにある場合でもない場合でも,角閃石系石綿曝露よりも,クリソタイルのみの曝露の方がより低い。これらの関係,相違については,曝露データが本来持つ限界のみならず疫学的な手法の限界のために,確固たるものとするのは可能ではない。 (e) 職業曝露限界に対する意味人では,肺がん,中皮腫については,それ以下では石綿曝露が健康に影響を与えないという閾値曝露レベルが存在することを示していない。 入手可能なデータは,リスクが曝露に比例するという仮定を含む,使われた簡単な統計モデルと整合性を示すが,モデルは,繊維が肺がん,中皮腫を引き起こすメカニズムの理解に基づくものではない。可能性あるモデルとして提案されたいくつかのモデルでは,それ以下ではがんが起きないという曝露の閾値レベルが存在するかもしれない。 いくつかの国では現在までに達成されているクリソタイルへの低レベルの職業曝露から予想される肺がん,中皮腫の生涯リスク は非 んが起きないという曝露の閾値レベルが存在するかもしれない。 いくつかの国では現在までに達成されているクリソタイルへの低レベルの職業曝露から予想される肺がん,中皮腫の生涯リスク は非常に低いものであり,リスクの存否を検出する研究デザインには,何千人もの作業者にコホートに参加してもらう必要がある。 (f) 職業曝露限界に関する結論それ以下ではがんが起こらないという石綿曝露の閾値が存在するという実質的な証拠はない。しかし,閾値が存在すること,クリソタイル石綿作業者の最近報告された多くの研究では石綿関連疾患の増加が示されていないことを主張する一群の意見もある。 現在の疫学モデル上は,曝露レベルと曝露期間の様々な組み合わせに対して,肺がん及び中皮腫の生涯リスクを算出することができる。 (g) 勧告本報告書に含まれる健康情報は,石綿の職業曝露限界を設定し,改訂する際に,技術上そして経済上の考慮とともに妥当な国家当局によって考慮されるべきものである。肺がんと中皮腫については,人での証拠は,それ以下では健康影響がおこらないという閾値の存在を示していないことを述べたことが特に注目に値する。 クリソタイルについては,健康上の理由のみに基づいて,現在高いレベルの限界値を有している国は作業者個人の職業曝露限界を(8時間加重平均値として)2本/㎖にまで下げるステップを早急にとるべきである。さらに,未だ実施していない国々は,(8時間加重平均値として)1本/㎖あるいはそれ未満に下げる方向に進むことが推奨される。 クロシドライト,アモサイトについては,健康という観点から,可能な限り早急に使用を禁止することが推奨される。当面,限定された使用をするのであれば,曝露がクリソタイルで許容されるレベルよりも低いことを確実にするため,注意深く実 ついては,健康という観点から,可能な限り早急に使用を禁止することが推奨される。当面,限定された使用をするのであれば,曝露がクリソタイルで許容されるレベルよりも低いことを確実にするため,注意深く実施すること が求められる。 (エ) クリソタイルの評価に関するプレスリリースの発行(WHO)a 数か国の政府からの特別要請を受けて,国際的な専門家グループがクリソタイルの工業生産及び利用に伴う健康リスクについて評価を行った結果について,平成8年9月9日にWHOより専門家グループによるクリソタイルの評価に関するプレスリリースが発行され,以下のような内容が記載された(乙アA115の3頁・4頁)。 b 適切な管理対策がとられた職場では,クリソタイル曝露量はかなり減少してきており,一般にクリソタイルの採掘や摩擦剤及び石綿セメント製品の製造においては,その生産及び加工に携わる労働者に及ぶリスクは少ない。しかしながら,クリソタイル含有製品のその他の用途では,健康リスクをもたらすおそれもある。特に懸念されるのは,改築及び保守作業中の建築物内でのクリソタイル曝露である。したがって,可能な限り,クリソタイルよりも安全であると考えられる代替材料を検討すべきである。 主に職業集団を対象とした疫学調査により,気中に浮遊する石綿繊維に曝露すると,そのタイプがどうであれ,肺線維症(石綿肺),肺がん(気管支がん),及び胸膜や腹膜の原発性悪性腫瘍(中皮腫)などの疾患を伴うおそれがあるということが確認されている。 国際的な専門家グループは,適切な管理対策によって石綿肺,肺がん及び中皮腫の発生するリスクをかなり低減できるはずであると強調し,このような適切な管理対策が導入された工場のデータは,曝露量を一般に0.5本/㎤以下のレベルに保つことが可能であること 石綿肺,肺がん及び中皮腫の発生するリスクをかなり低減できるはずであると強調し,このような適切な管理対策が導入された工場のデータは,曝露量を一般に0.5本/㎤以下のレベルに保つことが可能であることを証明しており,こうした曝露条件下において石綿肺の臨床症状が発生するとは考えられないと結論付けた。 中皮腫のうち,クリソタイル又はクリソタイルの汚染物質として 存在する他の石綿繊維に帰することのできるものの割合がどの程度かという問題は,解決されなかった。 建築材料は,これを扱う労働者が多数である点,および管理対策が講じにくいという点で特に懸念が持たれている。既に取り付けられている建築材料が改築及び保守工事を実施する作業員にリスクを及ぼすおそれがある。管理対策が講じられている建物内では,保守作業員のクリソタイル曝露量は低いが,これが導入されていない場合には,保守作業員は高いレベルのクリソタイル及び他の石綿繊維に曝露されるおそれがある。 (オ) 第95回ILO総会決議平成18年5月31日から同年6月16日にかけて開催された第95回ILO総会において,石綿に関する決議がされた。当該決議では,石綿への曝露から労働者を保護し,石綿関連の死亡や疾病の将来的な発生を予防するための最も効果的な措置は,石綿の将来的な利用を無くし,現在使われている石綿の把握と適正な管理であると宣言され,さらに,昭和61年に採択された石綿条約を,石綿の継続的な利用を正当化または承認するものとして用いてはならないとされた。(甲A324)(3) 代替化についてア石綿の代替繊維(ア) 石綿については,①紡織性,②耐熱性,③耐久性,耐摩耗性,④耐薬品性,耐腐食性,⑤絶縁性,⑥断熱性,防音性,⑦親和性,⑧経済性(安価)という性質を単一の繊維として有すると 石綿の代替繊維(ア) 石綿については,①紡織性,②耐熱性,③耐久性,耐摩耗性,④耐薬品性,耐腐食性,⑤絶縁性,⑥断熱性,防音性,⑦親和性,⑧経済性(安価)という性質を単一の繊維として有するところ,このような性能を全て有する物質は稀であるため,一般に石綿の代替としては,材料に要求される性能を考慮し,複数の繊維を組み合わせるのが一般的な方法とされる(乙アA108の11頁)。 (イ) 石綿代替物質としては,天然鉱物として,ゼオライト,ウォラスト ナイト,アタパルジャイト,セピオライト,タルク,バーミキュライト,及び,人造鉱物繊維と総称される,ロックウール,ガラスウール,長ガラス繊維,セラミック繊維や,アラミド繊維,炭素及びグラファイト繊維,ポリオレフィン繊維などの合成有機繊維などがあるとされる(乙アA123の5頁)。 (ウ) 代替繊維とその特性については,以下のとおりである(乙アA108の11頁・12頁,110の459頁ないし462頁,122の9頁)。 a 天然無機繊維(ワラストナイト,セピオライト,アタパルジャイト,繊維状ゼオライト等)天然の鉱物繊維であり,経済性に関しては有利である。これらは一応繊維状であるが,繊維長やアスペクト比(長さと幅の比)が石綿より劣っているため,十分な補強効果が得られない。しかし,ひび割れ防止や寸法安定性には効果があり,セメントとの相性も比較的よい,防耐火性能も良好である。 b 石綿変性繊維(クリソフォスフェート等)クリソフォスフェートは石綿の一種であるクリソタイルを無害化のために薬品処理し,利用しようとするものである。無害化の程度あるいは人体への影響度を評価することは非常に難しい。その他,ある種の物質により表面処理を行う方法等も検討されている。 c ガラス繊維耐アルカリ 処理し,利用しようとするものである。無害化の程度あるいは人体への影響度を評価することは非常に難しい。その他,ある種の物質により表面処理を行う方法等も検討されている。 c ガラス繊維耐アルカリ性が課題である。GRC製造技術を応用して,石綿含有ボードの代替が検討され,実際に利用されている。繊維の耐アルカリ性,低アルカリセメントの使用,石膏との組合せ等が検討されている。特に,ガラス繊維の経年劣化等による性能低下が問題となる。 d 炭素繊維 CFRC等の実績を踏まえ,石綿代替繊維としての検討がなされている。PAN系,ピッチ系のいずれも検討されているが,コストが問題である。生産量が増加すれば利用可能性があると考えられる。機械的性質や耐熱性は優れているが,セメントとの相性,分散性の改善等が技術課題である。 e アラミド繊維炭素繊維と同様なことが指摘される。機械的特性や耐熱性に優れているため,自動車のブレーキパッド等には石綿代替繊維として利用されているが,建築材料への大量使用に関してはコストが課題となる。 f セルロース繊維,レーヨン繊維セルロース繊維(あるいはパルプ),及びセルロースを化学加工した人造繊維であるレーヨン繊維はセメントとの相性がよい。石綿スレート板は抄造法により製造されるが,この方法はセルロース繊維で紙を作る方法そのものである。コスト的にも有利であるが,耐熱性や耐久性に限界がある。 g 合成繊維(ビニロン,アクリル,ポリプロピレン,ポリエチレン等)ビニロン繊維は水酸基を有するポリビニルアルコールを加工した繊維であり,セメントとの親和性が比較的よい。我が国で開発した繊維であり,石綿代替繊維として海外での実績も高い。その他の合成繊維はセメントとの親和性を向上させる必要がある。機械的性質に関しては た繊維であり,セメントとの親和性が比較的よい。我が国で開発した繊維であり,石綿代替繊維として海外での実績も高い。その他の合成繊維はセメントとの親和性を向上させる必要がある。機械的性質に関しては改善の可能性を期待できるが,本質的に耐熱性の限界があろうとされる。 h その他セラミック繊維,金属繊維,各種ウィスカー等の応用も検討されている。 (エ) 石綿代替繊維の用途主な石綿代替繊維の用途については,以下のとおりである(乙アA132)。 主な代替繊維用途ガラス長繊維建材,シール材,摩擦材,絶縁材グラスウール保温材,断熱材,吸音材ロックウール吹付け材,保温材,吸音材,断熱材スラグウール吹付け材,保温材,吸音材,断熱材セピオライト建材,塗料,接着剤ワラストナイト建材,塗料アラミド繊維摩擦材,シール材ビニロン繊維建材パルプ建材セラミック繊維耐火材,摩擦材炭素繊維建材,摩擦材,シール材,耐火材イ我が国における石綿の代替化に関連する知見の集積及び代替化の進行等(ア)a 環境庁大気保全局企画課監修の「アスベスト代替品のすべて」(平成元年6月発行)における「石綿代替品の産業利用状況」では,国内外の代替品の開発,普及状況に関する調査結果について,次のとおりまとめられていた(甲A152)。 (a) 代替がもっとも進んでいるとみられるのは紡繊品で,米国を始めとして,我が国や欧州でも,ほとんどすべての用途に対し,ガラス繊維,アラミド繊維,セラミック繊維などをベースとする代替品が使える状態にある。 石綿セメントシートでは,西欧において代替品の開発が精力的に進められ,セルロース,フイラー等の助剤を使用し,PVA繊 維などを補強剤と 維などをベースとする代替品が使える状態にある。 石綿セメントシートでは,西欧において代替品の開発が精力的に進められ,セルロース,フイラー等の助剤を使用し,PVA繊 維などを補強剤とすることで代替は技術的には完成したとみられる。 (b) 我が国では内装用のけいカル板での,セルロース繊維や耐アルカリガラス繊維を使った代替はかなり進んでいると思われるが,外装材及び屋根葺き材については,代替が進行するのはこれからであると思われる。 数多い代替分野では,一応代替品が実用されているものの,製造技術面また性能面で問題を抱えている分野が多い。 (c) 代替原料繊維は一般に石綿より高価であるためそれを使用した代替製品は石綿系より高価となる問題がある。 b なお,前記「アスベスト代替品のすべて」に添付された資料である「アスベスト(石綿)代替品の開発及び普及状況に関する調査中間報告」(昭和63年3月)においては,①石綿スレートに含有された石綿を他の材料に置き換えて石綿含有率を低下した製品の製造・販売は昭和50年代後半に開始され,耐久性,耐候性等の観点から建築材料に含有される石綿の代替は外装材よりも内装材の方が先行していること,②石綿けい酸カルシウム板について,パルプ繊維,耐アルカリガラス繊維等に置き換え,全く石綿を含有しない製品が被告2,A株式会社,株式会社Z,被告41,a株式会社,被告31等により開発,製造され,昭和61年より販売されており,石綿スレート協会加盟の製造者の昭和61年度における石綿を含まないけい酸カルシウム板の製造割合は石綿けい酸カルシウム板の1%に満たないが,今後需要の増大に伴い上昇することが予想されること,代替材料の価格は一般に石綿より高く,また代替材料は石綿と比較してセメントとの親和性が低い,分散性が劣る 石綿けい酸カルシウム板の1%に満たないが,今後需要の増大に伴い上昇することが予想されること,代替材料の価格は一般に石綿より高く,また代替材料は石綿と比較してセメントとの親和性が低い,分散性が劣る等の理由により製造効率が低下することから,代替材料使用製品の価格は石綿含有製品と比較して概ね20%から5 0%高くなっていること,代替材料使用製品の強度,寸法安定性等については石綿含有製品より若干劣るとしながらも,不燃性については既に不燃材料としての建設大臣の個別認定を受けているものも多いこと,③建築物の外壁材については,被告2がパルプ繊維及び耐アルカリ性ガラス繊維の使用により石綿含有率を6%から3.5%に低下させた製品を昭和58年より販売しており,更に昭和63年秋までには全製品を石綿を含有しないものに転換するとしていること,A株式会社においても大波板,フレキシブルボード等を無石綿化したものについてそれぞれ昭和59年度,昭和61年度より試験生産を行っている(パルプ繊維,耐アルカリ性ガラス繊維の他ビニロン繊維を用いている)こと,④住宅用屋根ふき材については,L株式会社により製品の低石綿化,無石綿化の研究が行われているとされているが,販売には至っていないこと,⑤建築物内に用いる耐火排水管として被告16では塩ビ管にビニロンネット,繊維補強モルタルを被覆した製品を開発し販売しており,株式会社bは耐火被覆材,断熱材としてロックウールを原料として成形したマットを昭和61年より販売していること,⑥株式会社cが各種繊維を組み合わせて無石綿配合によるセメント建材製造の押し出し成形技術を開発し,現在数社で新規工業化を検討していること等の報告がまとめられた。(乙アA110)(イ) 建設省が平成2年3月に発行した「建築物のノンアスベスト化技術の メント建材製造の押し出し成形技術を開発し,現在数社で新規工業化を検討していること等の報告がまとめられた。(乙アA110)(イ) 建設省が平成2年3月に発行した「建築物のノンアスベスト化技術の開発平成元年度概要報告書」によれば,技術開発の現状として,①ノンアスベスト化技術は代替繊維の開発,改良を含めて現在進行中の技術であり,完成された技術ではないこと,②個々の石綿含有製品のノンアスベスト化に関しては,材料の用途や要求性能による個別的技術課題が多く存在すること,及び③代替すべき石綿含有建材及び代替繊維の種類が多岐にわたること,から,ノンアスベスト製品の組成や諸性能に関 する情報は詳細に公開されていないのが現状である,とされた。 そして,平成元年の時点で,石綿含有製品のうち,吹付け石綿や,ゴム・樹脂成形品(ビニルタイル等),塗料等の副資材などは,既に石綿の代替が行われているが,生産量の多い石綿セメント成形品(石綿スレート,ケイ酸カルシウム板等)については,石綿の長所を十分に活用しており,性能を低下させずにノンアスベスト化することは,他の石綿含有建材よりも困難であることが示された。 (乙アA108)(ウ) 社団法人日本石綿協会は,平成3年11月当時における「石綿の今後の利用について」の見通しの中で,主な石綿製品の代替化の動向を,次のとおりとりまとめた(甲C1の552)。 a フレキシブルボード,波形石綿スレート製造技術面,性能面(経年劣化の問題等)及び経済性の面で無石綿化は困難であるが,低減化については,ある程度目途がついており,フレキシブルボードは平成5年から,波形石綿スレートは平成6年から低減化品(石綿含有量5%以下)に切り替えることを目標としている。 b 住宅用屋根材(平形屋根スレート)現在,既に ついており,フレキシブルボードは平成5年から,波形石綿スレートは平成6年から低減化品(石綿含有量5%以下)に切り替えることを目標としている。 b 住宅用屋根材(平形屋根スレート)現在,既に無石綿化した製品もあるが,技術面,経済性の面などにより,全ての製品を無石綿化することは困難である。しかし,低減化については,ある程度目途がついており,平成6年から低減化製品とすることを目標とし,無石綿化製品の比率を増加するように努める。 c ケイ酸カルシウム板(耐火被覆及び内装材)価格面ではやや高くなるものの,使用上ほぼ問題がないため無石綿化を進めている。厚物(成形品)については平成元年から全面的に無石綿化されており,薄物(抄造品)については平成5年から全面的 に無石綿化に切り替えることを目標としている。 d サイディング(外装材)現在でも,既にほとんどの製品が無石綿化されているが,当分の間,低減化品も並行生産する。 e 押出成形セメント製品薄物については既に無石綿化されている。厚物については,低減化の技術が完了し,引き続き無石綿化を進める。 (エ) 主任研究者を森永謙二として実施された平成2年度委託研究について,平成3年3月にまとめられた「石綿代替物質の生体影響に関する研究」と題する報告の概要は以下のとおりであった(乙アA123)。 a 石綿代替原料の種類天然鉱物のうち,石綿以外にも石綿とよく似た繊維状を呈するものがあり,その代表的なものがゼオライトの一種であるエリオナイトとセピオライト,アタパルジャイト,ウォラストナイトである。鉱物繊維ではないが,タルク,バーミキュライト(蛭石),雲母などが代替繊維として使われているが,不純物として石綿繊維を含むことがある。 我が国で,昭和46年7月1日から平成元年12月 イトである。鉱物繊維ではないが,タルク,バーミキュライト(蛭石),雲母などが代替繊維として使われているが,不純物として石綿繊維を含むことがある。 我が国で,昭和46年7月1日から平成元年12月末日までに石綿代替品として特許出願又は実用新案登録出願された各物質の件数は,天然鉱物では,ゼオライト17件,セピオライト22件,アタパルジャイト2件,雲母120件,タルク52件,石膏205件,無機繊維では,ロックウール23件,ガラス繊維765件,けい酸カルシウム167件,セラミック173件,チタン酸カルシウム2件,フオスフェート繊維2件,炭素繊維209件,合成有機繊維では,アラミド13件,ビニロン35件,フェノール184件,ポリエチレン100件,ポリプロピレン47件,アクリル139件,天然有機繊維として,セ ルロース93件であった(未来光学研究所「石綿代替品開発動向調査報告書」平成2年より。)。 天然鉱物のうち,世界的に使用量が多いのは,パーライト,珪藻土,タルク,アタパルジャイト,バーミキュライトであり,我が国ではウォラストナイトの使用量が急増している。人造鉱物繊維ではガラス繊維(ガラスウール,ガラス長繊維),ミネラルウール(ロックウール及びスラグウールと同義)がほとんどである。 b 石綿代替物質の健康影響に関する評価のまとめ人造鉱物繊維及び天然鉱物繊維の発がん性についてのIARC,アメリカ環境保護庁(EPA)の総合評価(昭和63年最終案)から判断すると,どの物質も完全に発がん性を否定できるものではないが,比較的その可能性があるとは考えにくいものとしては,ガラス長繊維とウォラストナイトのみであると思われる。鉱物繊維以外については,タルクについては繊維状アスベスト,あるいは繊維状のものを含まない場合でもたくさん吸えばじ るとは考えにくいものとしては,ガラス長繊維とウォラストナイトのみであると思われる。鉱物繊維以外については,タルクについては繊維状アスベスト,あるいは繊維状のものを含まない場合でもたくさん吸えばじん肺を起こすとの報告がある。バーミキュライトもたくさん吸えばじん肺を起こし,疫学調査では肺がん,中皮腫が発生しているという報告がある。 代替物質の発がん性は,当然石綿との発がん力の比較という検討も必要である。 (オ) 平成4年10月に報告された建設省の「建築物のノンアスベスト化技術の開発報告書」によれば,前記(イ)の平成元年度概要報告書における石綿スレート協会の目標のうち,①主たる内装材であるけい酸カルシウム板については平成3年までに無石綿化すること,及び②主たる外装材であるフレキシブルボード,サイディング材については平成3年末までに石綿含有量を5%以下とすることはほぼ達成された(乙アA122)。 (カ) 労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課監修の「石綿代替繊維とその生体影響」(平成8年発行)に掲載された「石綿代替品の製造に係る労働衛生に関する調査研究」では,平成元年度及び平成2年度にガラス長繊維,グラスウール,ロックウールに関する調査研究が,平成3年度及び平成4年度にセラミック繊維,炭素繊維,アラミド繊維,ビニロン繊維に関する調査研究が,平成5年度にウィスカ,けい酸カルシウム繊維に関する調査研究が実施され,その調査研究のまとめとして,以下の内容が記載された(乙アA127)。 a 人造の石綿代替繊維による健康障害として最も懸念されているのは,肺がん及び中皮腫である。それ以外にはじん肺と胸膜プラークがある。 b(a) これまでの世界各国からの疫学調査では,ロックウールやガラス繊維で中皮腫の過剰死亡は観察されていない。 念されているのは,肺がん及び中皮腫である。それ以外にはじん肺と胸膜プラークがある。 b(a) これまでの世界各国からの疫学調査では,ロックウールやガラス繊維で中皮腫の過剰死亡は観察されていない。肺がんについては,大規模なコホート調査(ヨーロッパ及びアメリカ)の肺がん患者の症例対照研究から,ロックウール及びガラス繊維ともに,肺がんとの関連については認められないとする報告が最近発表されている。これまでの疫学調査からは,ロックウールと肺がんの関連は立証されてはいない。じん肺との関連については,胸部レントゲンで軽度のじん肺所見が見られたとする断面調査の報告が散見されるが,因果関係が立証されたとはいえない。胸膜プラークについては,その関連を示す報告はない。 (b) セラミック繊維については,長期間観察したコホート調査はなく,肺がんや中皮腫のリスクについては現時点では疫学調査からは評価できない。これらによるがんや,じん肺の症例報告もなく,じん肺との関連を示す調査報告はこれまでのところない。胸膜プラークを引き起こすかどうかについては,アメリカとイギリスで相反する断面調査の報告がある。関連ありとするアメリカからの 報告では,更に詳細な調査が進行中であり,その結果の公表が待たれる。各メーカーが製造するセラミック繊維が同一のものではないため,疫学調査が行われた工場で製造されていた繊維そのものに関する種々の情報も併せて評価しなければならない。 (c) 炭素繊維,アラミド繊維についても,セラミック繊維同様,長期間観察したコホート調査や,じん肺,肺がん,中皮腫の症例報告はない。炭素繊維については,じん肺に関する断面調査が一つあるが,それによると,関連性はなかった,としている。 (d) ウィスカ繊維については,その製造の歴史は他の人造繊維 肺がん,中皮腫の症例報告はない。炭素繊維については,じん肺に関する断面調査が一つあるが,それによると,関連性はなかった,としている。 (d) ウィスカ繊維については,その製造の歴史は他の人造繊維に比べて最も短く,疫学調査はなく,症例報告もシリコンカーバイドを除いてない。 (e) シリコンカーバイドの製造や取扱いに長年従事していた労働者にじん肺が発生したとする症例報告が散見されており,断面調査でも平均14年従事した調査集団で14%にじん肺有所見者が見られたとする報告が一つある。 (キ) 平成12年度に経産省から委託を受け,石綿含有率低減化製品等調査研究委員会が行った調査研究の成果をまとめた「平成12年度無機新素材産業対策調査(石綿含有率低減化製品等調査研究)報告書」(乙アA105。平成13年3月に報告)は,欧州において石綿の全面的な使用禁止に移行する平成18年までの間の石綿含有製品から無石綿製品への移行に伴う対応並びに平成18年以後,すでに建築材料として使用されている製品のメンテナンス,解体等に伴う処理,処分に対する対応に係わる方策を構築する際の基本的な資料を収集することを目的とする研究であった。 a 石綿含有製品及び無石綿製品の将来動向に関わる国内調査のまとめ① 昭和55年以降の建材への石綿使用量の推移 建材の石綿低減化は平成2年前後から進展し,その技術は石綿含有率の低減化の推進と,無石綿製品への代替えとして進展してきた結果,最大使用量が18万1000t/年あった昭和63年をピークに平成11年の使用量は2分の1近い9万1000t/年まで減少している。 ② 生産品種ごとの無石綿化の状況波スレートを除く,平スレート,パルプセメント板,押出板,住宅用屋根材及びサイディング材は,その比率に品種ごとの差はある 9万1000t/年まで減少している。 ② 生産品種ごとの無石綿化の状況波スレートを除く,平スレート,パルプセメント板,押出板,住宅用屋根材及びサイディング材は,その比率に品種ごとの差はあるものの,無石綿製品との併産もしくは無石綿製品のみの生産となっているが,波スレートは,回答9社の全てが無石綿製品を生産していない状況にある。 ③ 無石綿生産技術の保有状況保有技術の有無を回答した19社の内,持っている,一部持っている会社は13社に対し,全く保有していない会社が6社あり,波スレート生産会社の無石綿化の状況と一致しており,波スレートの無石綿化の技術開発はこれから促進される段階にあることがわかる。 b 全体のまとめ① 我が国の国土の狭小さ,気象状況,地震,火災等の災害状況等から,建築物やそれに使用される材料は,他国に比べて多様かつ高品質・性能が求められるところ,石綿を含有する建築材料は,主として耐久性,耐火性,コストパフォーマンス,ライフサイクルアセスメントの各観点から有用な材料として採用されていた。 ② 我が国における建材の石綿低減化は比較的早くから推進されており,現在は無石綿化への技術移行の段階であって,建材に限定すれば,代替繊維による無石綿化への技術移行はここ数年内に相当程度 進むと考えられるが,代替繊維による建材が我が国の特殊性に起因する要求性能への適合の可否は,現在のところ不明である。 ③ 欧州においては,無石綿化への対応は平成18年を待たずに完了あるいは完了寸前にあるが,この場合でも石綿以外の代替繊維では要求性能が確保できないものについては,規制外として製造・使用が認められているものもあり,また,自国で禁止している場合でも,石綿含有製品を輸入して使用している例もある。 ④ 代替繊維を使用したボ 要求性能が確保できないものについては,規制外として製造・使用が認められているものもあり,また,自国で禁止している場合でも,石綿含有製品を輸入して使用している例もある。 ④ 代替繊維を使用したボード,シートは,石綿含有製品に比べて20%前後のコストアップとなることが確認できた。 ⑤ 市内の建物の屋根は,かわら葺き,シングル葺き(スレート類,アスファルト類と思われるものもある。),金属葺きが多く,波板はほとんど使用されていないか,ごく小規模の建物に使用されているに過ぎない。外装材については,れんが,石が圧倒的であり,シングル(スレート類)が使用されている例も散見できたが,内装材としての使用例はほとんど確認できなかった。 ⑥ 郊外の建物のうち,新しい建物や3,4階以上の建物については市内と同様な材料の使われ方をしていた。 c 石綿低減化製品の今後の在り方について① EU指令における特殊用途を除く石綿の使用禁止は世界的な傾向と受け止め,低減化,代替化を促進する方策を早急かつ適切に立案する必要がある。 ② 代替繊維使用によるコストアップと性能確保については,上記①を関係方面に周知及び理解を得た上で,技術開発とコスト低減を積極的に図る必要がある。 ③ 代替繊維等の健康影響問題は未知の部分があり,これらの線維等に関する健康影響性評価等について調査研究を実施し技術指針等を 整備する必要がある。 (ク) 厚労省は,クロシドライト及びアモサイトを除く石綿についても代替品の開発が進んできていることを踏まえ,国民の安全等にとって石綿製品の使用がやむを得ないものを除き,原則として使用等を禁止する方向で検討を進めることとし,平成14年8月,石綿製品のメーカー,ユーザー団体等を対象に「石綿及び同含有製品の代替化等の調査」を行い,その の使用がやむを得ないものを除き,原則として使用等を禁止する方向で検討を進めることとし,平成14年8月,石綿製品のメーカー,ユーザー団体等を対象に「石綿及び同含有製品の代替化等の調査」を行い,その調査結果をも踏まえ,専門技術的観点から代替化の困難な石綿製品の範囲を絞り込むため,同年12月,学識経験者による「石綿の代替化等検討委員会」を設置し,平成15年3月に「石綿の代替化等検討委員会報告書」として,石綿製品の代替可能性等についての検討結果を,以下のとおりとりまとめた(乙アA132)。 a 平成14年の我が国の石綿輸入量は4万3000t(ピーク時の88%減)であり,その9割以上が建材製品(押出成形セメント板,住宅屋根用化粧スレート,繊維強化セメント板,窯業系サイディング,石綿セメント円筒)に使用され,建築物の壁材,屋根材,外装材,内装材等に使用されている。 b 平成14年8月に厚生労働省化学物質調査課において,石綿の代替化等の状況を把握するためアンケート方式の調査を実施した(石綿製品の製造企業26社,石綿製品の製造企業の団体10団体,石綿・石綿製品の輸入事業者8社,石綿製品のユーザーの団体19団体)ところ,石綿の代替化についての全般的な意見の概要としては,石綿の代替化について,①建材の石綿製品の代替化は可能である,②石綿製品は,耐久性,耐熱性等の性能,価格,維持管理のコスト面で総合的に非石綿製品より優れており,代替化は困難である,③化学プラント,発電所等で使用するシール材で,特に,高温,高圧,危険な化学物質の接触下等で使用するものを非石綿製品に代替化し た場合のリスクが不明であり代替化は困難である等の意見があったことが述べられた。 c 石綿の代替繊維の種類と有害性(IARCの発がん性リスク評価),石綿の使用等に関す 製品に代替化し た場合のリスクが不明であり代替化は困難である等の意見があったことが述べられた。 c 石綿の代替繊維の種類と有害性(IARCの発がん性リスク評価),石綿の使用等に関する国際動向を踏まえ,さらに,各建材について,石綿製品メーカーから代替見込み時期を調査し,既に商品化されている石綿非含有建材の存在等も考慮した上で,石綿含有建材についての代替可能性を判断した結果,①石綿を含有する建材製品については,代替繊維を用いた製品で,JIS等の規格に適合又は国交省により不燃材としての認定を受けたものが一部製造され,既に商品化されていること等から,当該製品に必要な性能を有する非石綿製品の製造は概ね技術的に可能と考えられる,②平成12年6月に施行された改正建基法において不燃材料の基準が性能規定化されたことや,関連するJIS規格においても性能規定化されていることから,非石綿製品への代替化が促進されやすくなっていると考えられる,③非石綿繊維製品への代替化は困難と考えられるものが一部あるものの,それらについては金属等の非繊維製品への代替化が可能と考えられる,④代替品の使用により防火,耐火,耐腐食,耐久性等の観点からの安全の確保が困難となるおそれがあるとは考えられない,⑤建材製品のユーザーは,安全確保上石綿含有製品の使用が不可欠とは認識していないと考えられる,といったことから,石綿を含有する建材製品の使用は安全確保等の観点から不可欠なものではなく,かつ,技術的に非石綿製品への代替化が可能であると考えられる,と結論づけた。 (ケ) 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センターが平成16年3月31日に報告した「平成15年度石綿代替品の有害性に係る文献調査報告書」は,部会長を森永謙二とする石綿代替品の有害性に係る文献調査 労働災害防止協会労働衛生調査分析センターが平成16年3月31日に報告した「平成15年度石綿代替品の有害性に係る文献調査報告書」は,部会長を森永謙二とする石綿代替品の有害性に係る文献調査 ワーキンググループが,各国において行われている石綿代替品の有害性に係る文献をまとめたものであり,その結果は以下のとおりであった(乙アA128)。 a ガラス長繊維ガラス長繊維の疫学的研究では,明らかにがんのリスク上昇を示した報告は認められなかった。さらに,動物試験で,体内滞留性の高い腹腔内注入試験でもガラス長繊維では,発がん性を増加させる証拠が認められなかったことより,現在のところ,ガラス長繊維の発がん性を示唆する充分な証拠はないと思われる。しかし,動物試験,試験管内試験など研究報告が少ないため,今後は,これらの結果を踏まえて評価しなければならない。 b グラスウールグラスウールは,疫学的研究で発がんリスクを示す十分な証拠は認められず,動物試験である吸入曝露試験でもがん化や線維化を認めなかったこと,滞留性が低かったこと,試験管内試験での溶解性が高いことより,グラスウールの発がん性に関する十分な証拠は認められなかったと思われる。しかし,非生理的かつ大量投与ではあるが,腹腔内注入試験にて腫瘍を誘発したことは,がんに対する潜在的能力は存在すると考えられる。 c ロックウール・スラグウールロック・スラグウールは,疫学的研究に関して,以前は,がんのリスクの上昇を認めた報告もなされていたが,その後の調査では認められなくなっており,発がん性を示す十分な証拠はない。動物実験では長期の吸入試験では有意な発がん性は認められなかったが,腹腔内試験では発がん性を認めている。また,滞留性や溶解性に関しては,両繊維ともクロシドライトやアモサイトほ 示す十分な証拠はない。動物実験では長期の吸入試験では有意な発がん性は認められなかったが,腹腔内試験では発がん性を認めている。また,滞留性や溶解性に関しては,両繊維ともクロシドライトやアモサイトほど肺内蓄積性はないが,人 造鉱物繊維の中ではロックウールは肺内に蓄積しやすい傾向であり,スラグウールでは排泄されやすいと考えられる。以上をまとめると,ロック・スラグウールの発がん性を示す十分な証拠はないが,動物実験や試験管内試験より,クロシドライト,クリソタイルほどではないが,発がん性の潜在的能力は存在すると考えられる。 d ビニロン繊維(ポリビニルアルコール(PVA)繊維)ビニロン繊維のヒトに対する疫学研究は,わずかに森永らの報告のみであるが,後ろ向きコホート研究では,全ての死亡原因と肺がんの死亡率について2つのグループで差を認めなかった。その他には見るべき報告はない。動物実験などの知見はほとんどない。また,染色体異常を示すという報告もない。生持続性や曝露限界濃度に関しても,利用可能なデータはなかった。 e セルロース繊維紙材,パルプ,紙,製紙及びセルロース製造従事作業者の一部で,過剰ながん死亡例が報告されたが一定の部位では認められず,合成繊維製造作業者の死亡率調査からも,注目すべきものはなかった。動物実験に関しても,セルロース繊維の発がん実験では見るべき報告はない。しかし,極めて大量のセルロース繊維をマウス腹腔内に投与すると肉腫が認められた。その他,セルロース繊維に関する変異原性試験などでは,見るべき報告はない。 セルロース繊維は,肺内の体液成分で反応しにくく,消化されにくいため,p-アラミド繊維に比べて生持続性は長い(約1000日と推定)と考えられている。しかし,一般的に現在断熱材として使用されているIsaf ース繊維は,肺内の体液成分で反応しにくく,消化されにくいため,p-アラミド繊維に比べて生持続性は長い(約1000日と推定)と考えられている。しかし,一般的に現在断熱材として使用されているIsafloc-F(新聞古紙由来)では,繊維が裂けて小繊維になり,繊維数としての半減期は計算できなかった。しかし,flbresmass としては72日と報告されている。曝露限界濃度では参考とな る報告はない。 ウ人体の発がん性リスク評価に関するIARC研究小論文(モノグラフ)集(ア) IARCにおける発がん性の評価方法a ヒトに対する発がん性の評価は,3項目のカテゴリー(ヒトの発がんに関する研究,動物における発がん性に関する研究,関連データ(毒物動態学的データや発がん機構に関するデータ等)やメカニズムに関する研究)の評価に基づいて行われ,まずは,この3項目のデータを集積,吟味し,発がん性の有無の証拠を4つに分類(発がん性の十分な証拠(sufficient),発がん性の限定的な証拠(limited),発がん性の不十分な証拠(inadequate),発がん性がないことを示唆する証拠(lack))した上で,下記b記載のIARCの分類カテゴリーに従い,ヒト発がん性を最終評価する(乙アA25の2,113,129の2)。 bIARCの分類カテゴリー(乙アA25の2,113,129の2)(a) グループ1(ヒトに対するがん原性である)ヒトにおける発がん性の十分な証拠がある場合にこのカテゴリーを用いる。例外的に,ヒトでの発がん性の証拠が決して十分ではないが,実験動物での発がん性の十分な証拠と,作用因子に曝露されたヒトにおいて,発がんの関連のあるメカニズムにその作用因子が影響を及ぼしているという強力な証拠がある場合,作用因子はこ して十分ではないが,実験動物での発がん性の十分な証拠と,作用因子に曝露されたヒトにおいて,発がんの関連のあるメカニズムにその作用因子が影響を及ぼしているという強力な証拠がある場合,作用因子はこのカテゴリーに分類される。 (b) グループ2A(ヒトに対するがん原性であり得る)ヒトにおける発がん性の限定的な証拠,及び実験動物における発がん性の十分な証拠がある場合に,このカテゴリーを用いる。 場合によっては,ヒトでの発がん性の証拠は不十分だが実験動物での発がん性の証拠が十分であり,ヒトでも機能しているメカニズムによって発がんが調節されているという強力な証拠がある場合に,作用因子はこのカテゴリーに分類される。例外的に,ヒトにおける発がん性の限定的な証拠のみに基づいて作用因子はこのカテゴリーに分類される。メカニズムの考察に基づいて,1つ以上の成分がグループ1又はグループ2Aに分類されている作用因子クラスに明白に属しているときは,作用因子をこのカテゴリーに分類する場合もある。 (c) グループ2B(ヒトに対するがん原性となる可能性がある)ヒトでの発がん性の証拠が限定的であり,実験動物での発がん性の証拠が決して十分ではない作用因子に対してこの分類を用いる。また,ヒトにおける発がん性の証拠は不十分であるが実験動物における発がん性の十分な証拠がある場合にも用いられる。場合によっては,ヒトにおける発がん性の証拠が不十分であり,実験動物において発がん性の限定的な証拠が決してあるわけではないが,その他の関連データにより得られる補強証拠がある作用因子もこのグループに分類される。機構的データ及びその他の関連データにより得られる補強証拠のみに基づいて,作用因子をこのカテゴリーに分類する場合もある。 (d) グループ3(ヒトに対するが る作用因子もこのグループに分類される。機構的データ及びその他の関連データにより得られる補強証拠のみに基づいて,作用因子をこのカテゴリーに分類する場合もある。 (d) グループ3(ヒトに対するがん原性に対して分類され得ない)ヒトでの発がん性の証拠が不十分であり,実験動物において不十分あるいは限定的である作用因子に対しては,このカテゴリーが最も一般的に用いられる。例外的に,実験動物での発がん性のメカニズムはヒトでは機能しないという強力な証拠がある場合,ヒトにおける発がん性の証拠は不十分であるが,実験動物におい ては十分である作用因子はこのカテゴリーに分類される場合もある。その他のグループに分類できない作用因子もこのカテゴリーに分類される。グループ3での評価は,発がん性がないことや一般的な安全性を決定するものではない。特に,曝露が広範囲に及んだり,がんデータが異なる解釈と合致する場合には,さらなる調査が必要であることが多い。 (e) グループ4(ヒトに対しておそらくがん原性でない)このカテゴリーは,実験動物及び人における発がん性がないことを示す証拠がある作用因子に対して用いられる。場合によっては,ヒトにおける発がん性の証拠が不十分であるが,広範囲の機構的データおよびその他の関連データによって常に強く支持される実験動物における発がん性がないことを示す証拠がある作用因子はこのグループに分類される。 (イ) IARCモノグラフ第2巻(昭和48年。乙アA1)a 動物のデータ胸腔内への石綿の注入によって全ての商業的に用いられる全種類の石綿が中皮腫を作りうることが示されている。 b 人のデータクリソタイルの採掘と粉砕の作業者での肺がん,中皮腫のリスクは小さいという実質的な証拠があり,おそらく,同じことはアモサイ る全種類の石綿が中皮腫を作りうることが示されている。 b 人のデータクリソタイルの採掘と粉砕の作業者での肺がん,中皮腫のリスクは小さいという実質的な証拠があり,おそらく,同じことはアモサイトにも当てはまる。いくつかのクロシドライト採掘地域,粉砕地域では中皮腫の高リスクと相関があることが示されている。 石綿への産業曝露は,特に織物,断熱材,石綿セメントのように,製造や利用がなされる場で繊維の混合物に曝露される場合が通常であり,加えて直近の周辺でも曝露が起こっている。中皮腫は時に,石綿作業者の家族間で診断されている。 石綿を製造,利用する産業では中皮腫はクロシドライトへの曝露で引き起こされており,アモサイト,クリソタイルで引き起こされる頻度はより少ない。 石綿作業者では,他の集団よりもかなり大きな程度に喫煙が肺がんのリスクを増大させる。 (ウ) IARCの昭和62年における発がん性リスク評価IARCは,昭和62年,アタパルジャイト,セピオライト(海ほう石),ボラストナイト(ウォラストナイト,珪灰石),エリオナイト(エリオン沸石),タルク(滑石)について発がん性評価を行い,結果として,エリオナイトについては,ヒトにおける発がん性及び実験動物での発がん性のいずれも十分な証拠が存在するとして,グループ1に分類し,タルクについては,ヒトにおける発がん性の十分な証拠と実験動物での発がん性の不十分な証拠があることからグループ1に分類し,アタパルジャイトについては,ヒトにおける発がん性の不十分な証拠,実験動物での発がん性の限定的な証拠,関連データ(短期試験)として不十分な証拠があるとして,グループ3に分類し,ボラストナイトについては,関連データ(短期試験)の証拠はないが,ヒトにおける発がん性の不十分な証拠及び実験動物で な証拠,関連データ(短期試験)として不十分な証拠があるとして,グループ3に分類し,ボラストナイトについては,関連データ(短期試験)の証拠はないが,ヒトにおける発がん性の不十分な証拠及び実験動物での発がん性の限定的な証拠があるとして,グループ3に分類し,セピオライトについては,実験動物での発がん性の不十分な証拠及び関連データ(短期試験)として不十分な証拠があるが,ヒトにおける発がん性に関する証拠はないとして,ヒトに対するがん原性については分類できないとした。 なお,平成元年6月に発行された,環境庁大気保全企画課監修の「アスベスト代替品の全て」によれば,前記アタパルジャイト及びボラストナイトをグループ3に分類した主たる原因は,動物実験や疫学調査が乏しいことによるものであるから,今後の調査研究結果から,IARCの 発がん性に関する総合評価がグループ2,さらにグループ1になる可能性が十分あるものと思われる,とされた。 (甲A67の1の47頁,乙アA110の392頁,114,123)(エ) IARCの昭和63年における発がん性リスク評価 発がん性評価グループグラスウール実験動物に対する発がん性は十分な証拠があり,ヒトに対する発がん性は限定的な証拠がある2Bセラミックファイバー実験動物に対する発がん性は十分な証拠があり,ヒトに対する発がん性は利用しうるデータがない2Bロックウール実験動物に対する発がん性についてもヒトに対する発がん性についても限定的な証拠がある2Bガラスフィラメント実験動物に対する発がん性もヒトに対する発がん性もいずれも不十分な証拠しかない スラグウール実験動物に対する発がん性は不十分な証拠しかなく,ヒトに対する発がん性は限定的な証拠 ント実験動物に対する発がん性もヒトに対する発がん性もいずれも不十分な証拠しかない スラグウール実験動物に対する発がん性は不十分な証拠しかなく,ヒトに対する発がん性は限定的な証拠がある2Bなお,ヒトの発がん性データとして,「合成無機繊維製造従業員の間に,中皮腫発生の増加は観察されてはいない」ことが指摘された。 (甲A67の1の47頁,乙アA4の2,113,123)(オ) IARCの平成9年における発がん性リスク評価 発がん性評価グループセピオライトヒトに対する発がん性は不十分な証拠しかなく,実験動物に対する発がん性は,繊維 (>5μm)については限定的な証拠があるが,短繊維(<5μm)については不十分な証拠しかないアパタルジャイトヒトに対する発がん性は不十分な証拠しかなく,実験動物に対する発がん性は,長繊維(>5μm)については十分な証拠があるが,短繊維(<5μm)については不十分な証拠しかない2B(長繊維)3(短繊維)ワラストナイトヒトに対する発がん性も実験動物に対する発がん性もいずれも不十分な証拠しかない パラアラミド短繊維ヒトに対する発がん性も実験動物に対する発がん性もいずれも不十分な証拠しかない (カ) IARCの平成13年における発がん性リスク評価 発がん性評価グループ断熱材グラスウール実験動物での発がん性の限定的な証拠があるが,ヒトに対する発がん性については不十分な証拠しかない グラスフィラメントヒトに対する発がん性も実験動物での発がん性もいずれも不十分な証拠しかない マイクログラスウールヒトに対する発がん性の不十分な証拠があり,実験動物での発がん性の十 フィラメントヒトに対する発がん性も実験動物での発がん性もいずれも不十分な証拠しかない マイクログラスウールヒトに対する発がん性の不十分な証拠があり,実験動物での発がん性の十分な証拠がある2Bロック/スラグウールヒトに対する発がん性の不十分な証拠しかなく,実験動物での発がん性の限定的な証拠がある セラミックファイバーヒトに対する発がん性の不十分な証拠があり,実験動物での発がん性の十分な証拠がある2Bニューファイバーヒトに対する発がん性について分類できない なお,セラミックファイバーとニューファイバーに関しては,最終評価について議論となった。セラミックファイバーは,疫学研究と動物実験の結果からではグループ2Bであるが,関連データとして証拠を採用するのであればグループ2Aとなることから,動物の線維化がどの程度ヒトの病変に外挿できるかが焦点になり議論がされたが,合意に至らず,最終的には多数決によりグループ2Bとされた。また,ニューファイバーについては,溶解性繊維では,吸入・腹膜内注入試験で線維化もがんも認めないことより,グループ4との提案があったが,新規の線維で,データも十分とはいえないこと,溶解性と難溶性の分類も明確ではなかったことより,分類不能とされた。 (甲A67の1の47頁,乙アA129の2)エ WHOによる環境保健クライテリアの見解WHOの環境保健クライテリア(昭和61年)では,繊維状ゼオライト(エリオナイト)を除く他の天然鉱物繊維(アタパルジャイト,セピオライト,ウォラストナイト)の曝露に伴うリスクについては,これまでに得られたデータで評価することは不可能であり,唯一の例外としてある種のゼオライト(エリオナイト)は特に有害であるとされた ト,セピオライト,ウォラストナイト)の曝露に伴うリスクについては,これまでに得られたデータで評価することは不可能であり,唯一の例外としてある種のゼオライト(エリオナイト)は特に有害であるとされた。 前記環境保健クライテリアでは,①ウォラストナイトは大量に吸い込むとじん肺などの呼吸器障害を起こす報告があり,両側性の胸膜変化が観察されていること,肺がんについては一つの疫学調査しかないが,曝露を受けた集団に一般の住民より高い発生率が認められていないこと,また,中 皮腫についても報告例はなく,胸腔内注入実験では中皮腫の発生率はクリソタイルに比べて低いとする報告があること,②セピオライトについては,加工作業に従事した人に呼吸器障害があるのではないかと疑わしい例が一つ報告されているのみで,肺がん,中皮腫について検討した疫学調査は世界的に皆無であり,胸腔内注入実験では中皮腫の症例は認められていないとする成績が一つあり,肺線維症については吸入実験でクロシドライトと同じ程度の結果を示す報告が一つあったこと,③アタパルジャイトは大量に吸えばじん肺を起こす可能性があるとする報告例が一つあるが,肺がん,中皮腫についての疫学調査はまだ報告されておらず,また,動物の胸腔内注入実験ではスペイン産のものでは中皮腫の発生率はUICCのクリソタイルに比べて低かったものの,繊維の30%が長さ5μ以上のアタパルジャイト腹腔内注入実験ではクリソタイルよりも強力であるとする別の報告もあり,さらに,肺線維症については,吸入実験でクロシドライトと同じ程度の結果を示す報告が一つあったこと,が述べられた。 (乙アA123の25頁)(4) 海外における石綿の禁止に関する規制についてア石綿に対する規制は,いずれの国においても,まずは職業曝露による労働者の健康被害 一つあったこと,が述べられた。 (乙アA123の25頁)(4) 海外における石綿の禁止に関する規制についてア石綿に対する規制は,いずれの国においても,まずは職業曝露による労働者の健康被害の防止という観点から,最初にじん肺の予防,粉じん対策,次いで発がん物質としての性質に着目した対策へと進み,並行して労働者だけでなく地域住民や環境保護の観点からの対策や規制も導入されるようになる。これらは管理して安全に使用しようという立場からのものであるが,世界中のどこにおいても石綿の「管理使用」は成り立たないという事実を直視することにより,より抜本的な対策である「使用禁止」に進むこととなる。 そして,多くの国において,「使用禁止」は,より有害性の高いクロシドライトや吹付けの禁止から始まり,全石綿の部分的禁止や段階的禁止, そして全面禁止へと進んでいる。 イ各国の使用禁止による規制等について昭和47年に,デンマークが石綿の吹付け及び断熱材への使用を禁止したことが,この種の動きとしては世界の先駆けと言われている。同年,イギリスが最も有害性の高いクロシドライトの輸入を中止した。その後,昭和50年にスウェーデンがクロシドライトの流通,使用を禁止するなど,他の欧州諸国が同様の禁止措置をとり,1980年代始めまでには欧州レベルで立法措置の必要性が認識されるようになった。 昭和45年から昭和47年にミネソタ州,ニューヨーク市などが吹付け石綿を禁止したのを受け,昭和48年にアメリカ全州として吹付け石綿が禁止された。 昭和50年,我が国において,吹付け石綿が原則禁止された(ただし,昭和63年まで含有率5%以下の石綿吹付け施工が行われていた事例があることが確認されている。)。 昭和58年,欧州共同体(EC)として,クロシドライトの流通, ,吹付け石綿が原則禁止された(ただし,昭和63年まで含有率5%以下の石綿吹付け施工が行われていた事例があることが確認されている。)。 昭和58年,欧州共同体(EC)として,クロシドライトの流通,使用を原則禁止する指令を採択した(昭和61年3月までに実施。石綿セメント管,耐酸,耐熱パッキン,トルクコンバーター等は適用除外。甲A67の1の42頁)。同年,アイスランドが全石綿の原則禁止を導入した世界初の国となった。昭和59年には,ノルウェーもこれに続いた。 昭和61年,クロシドライトの使用や吹付けを禁止する石綿条約が採択された。同年,デンマーク,スウェーデンがクリソタイルを原則禁止とした。石綿条約を討議したILO総会で,北欧諸国や労働者代表は,段階的使用禁止の原則を主張し,日本政府は使用禁止に反対して,使用者代表や開発途上国のグループに属した。 昭和61年,イギリスは,昭和60年の「石綿(禁止)規則」により,クロシドライト及びアモサイト並びにこれらの含有製品の供給及び使用と クロシドライト及びアモサイトの輸入を全面的に禁止した(なお,業界においては,全面禁止以前の昭和47年にクロシドライトの輸入を中止し,昭和50年代後半にアモサイトの輸入を中止していた。)。また,より危険性の高い一部のクリソタイル含有製品の使用も禁止された。 ドイツ(西ドイツ)では,昭和61年10月に「危険物質からの保護に関する省令」が施行され,その中で石綿について,①石綿を含有する物質,調合物,製品の製造,使用,流通について,規制の対象となる製品や用途,作業の種類等を列挙しつつ禁止又は制限し,②このうち,クロシドライトやクロシドライトを含有する調合物及び製品については,石綿セメント管,耐酸,耐熱パッキン等,トルクコンバーターの製造を除き原則禁止する旨 種類等を列挙しつつ禁止又は制限し,②このうち,クロシドライトやクロシドライトを含有する調合物及び製品については,石綿セメント管,耐酸,耐熱パッキン等,トルクコンバーターの製造を除き原則禁止する旨の規定が設けられた。ただし,この省令の中では,施行日前に製造されていたものについては,一定期間の流通を認めると共に,昭和61年6月30日までに製造,流通又は使用されていたものについては,引き続き使用を認める規定が設けられた。 昭和63年,フランスは,当時の国内の石綿の使用量が最も多かった石綿セメントにクロシドライトが使用されていなかったことから,禁止しても問題がないと判断し,政令No.88-466により,石綿セメント管,耐酸,耐熱パッキン等及びトルクコンバーターを除き,クロシドライトの使用等を原則禁止とした。併せて,他の種類の石綿を含有する製品の使用等についても,規制の対象となる製品を列挙して禁止した。 平成元年,アメリカ環境保護庁(EPA)が,全石綿を段階的に禁止する規則を制定したが,石綿業界などが提訴。平成3年に連邦高等裁判所が手続不備を理由として無効判決を下した。 同年,カナダは,クロシドライトを含む製品の広告,販売,輸入を原則禁止したが,一定の例外は認めた。 平成3年,ECがクリソタイル以外の全面禁止を導入し,クリソタイル の禁止品目も14品目に拡大した(平成5年7月までに実施。甲A67の1の42頁)。この時点ですでに欧州委員会はクリソタイル(すなわち,全石綿)の原則全面禁止の意向を発表していた。全石綿の原則禁止を導入する国が,平成2年オーストリア,平成3年オランダ,平成4年イタリア及びフィンランド,平成5年ドイツと続き,平成5年にはすでに禁止を導入しているオーストリア,スウェーデン,フィンランドが欧州連合(EU) が,平成2年オーストリア,平成3年オランダ,平成4年イタリア及びフィンランド,平成5年ドイツと続き,平成5年にはすでに禁止を導入しているオーストリア,スウェーデン,フィンランドが欧州連合(EU)に加わり,この時点でEU加盟15か国中7か国がすでに禁止を導入しているという状況であった。ただし,ドイツについては,クロシドライト及びアモサイトについては全面禁止であったが,その他については,一定の製品や一定の作業に係るものについては,適用除外や適用猶予の措置が定められていたため,その後平成11年及び平成16年にクリソタイル含有物質の製造及び使用の禁止に関する経過措置が大幅に削除されるなど,適用除外や適用猶予に係る対象物等を削減する改正がされた。 平成6年,フランスは,政令No.94-645により,クロシドライト及びアモサイトを含む5種類の角閃石系石綿の輸入,販売,使用等を全面禁止した。 フランスでは,平成8年の政令No.96-1133により,平成9年1月からクリソタイルを含む全ての石綿の製造,加工,販売,輸入,輸出等を禁止した。当初は6種類の適用除外品があったが,段階的に禁止され,平成14年1月に全面禁止に至った。カナダがこれを「非関税貿易障壁」にあたるとして,フランスを世界貿易機関(WTO)に提訴した。 平成11年,これに対してEUは,WTOの裁定を待たずに,全石綿禁止を決定した(ただし,一定の電気分解用の隔膜や禁止以前に設置されている製品及び禁止以前の在庫品については例外とされている。甲A67の1の42頁)。イギリスもこれを受けて全石綿禁止とした(ただし,当初は多くの適用除外品があり,その後,段階的に禁止が進められた。甲A6 7の1の40頁。)。なお,ベルギーは平成10年に全石綿を禁止した。 平成12年,WTO紛争解決 とした(ただし,当初は多くの適用除外品があり,その後,段階的に禁止が進められた。甲A6 7の1の40頁。)。なお,ベルギーは平成10年に全石綿を禁止した。 平成12年,WTO紛争解決パネルは,フランス,EUを支持し,これに対してカナダは上訴をした。 平成13年,WTO上訴機関は,フランス,EUを支持し,これによって「国際貿易紛争」に決着がついた。当該裁定は,WTOができて以来,何らかの貿易制限措置が容認された初めての事件であった。自国民の健康や環境を守るために石綿を禁止することが,いわば国の主権として認められたのである。同年,南米でチリ,アルゼンチンが全石綿の原則禁止に踏み切った。 平成15年,オーストラリアが全石綿について原則禁止とした。 平成17年,EU(拡大25か国)が全石綿の禁止を施行した。同年,我が国は,吹付け石綿を全面的に禁止し,石綿条約を批准した。 (甲A67の1の40頁ないし42頁,67の2の3頁ないし5頁・11頁,177,321,1048,1243)ウ 「平成10年度環境庁委託業務平成10年度石綿飛散防止対策推進基礎調査報告書」(平成11年3月報告)によれば,平成10年時点において,アメリカでは石綿の種類による使用禁止措置は講じておらず,平成5年に製造等が可能な製品18種類(石綿スレート波板,石綿スレート,ビニル石綿床タイル,石綿セメント屋根板,石綿セメント管等)が指定されるとともに,新たな用途への使用は禁止されたこと,及び,EUにおいては,平成3年頃には,「石綿は管理すれば使用できる」との基本方針に基としてイギリス,フランス,ベルギー,スペイン,ギリシャ,ポルトガル,アイルランド,ルクセンブルグがあり,ドイツ,オランダ,イタリア,デ Uも「石綿は管理すれば使用できる」という基本 基としてイギリス,フランス,ベルギー,スペイン,ギリシャ,ポルトガル,アイルランド,ルクセンブルグがあり,ドイツ,オランダ,イタリア,デ Uも「石綿は管理すれば使用できる」という基本方針を見直し,石綿の禁止(適用除外あり)の方向で検討を進めていること,等が報告された。また,平成10年時点において,日本,アメリカ,EU等を含む,欧州,北米,中南米及びアジア等の33か国中,15か国が角閃石系石綿(ただし,市場で主に使用されているのはクロシドライトとアモサイト)を禁止し,9か国が全石綿の使用を禁止し(ただし,うち8か国において,例外の製品又は認可が得られた場合には使用可能な製品を定めていた。),クロシドライトのみ禁止している国が1か国(インドネシア),石綿の禁止措置をとっていない国は8か国(アメリカ,カナダ等)であった。(乙アA115) 2 判断(1) 石綿含有建材の製造及び使用の禁止等に係る規制権限不行使の違法性の判断について原告らは,被告国が,安衛法55条に基づき,安衛法が制定された昭和47年の時点,特化則が改正された昭和50年の時点,中皮腫についての最初の労災認定等がなされた昭和53年の時点,石綿条約が採択され,被告国自身石綿の発がん性について閾値がないとの見解を示すなどした昭和62年の時点において,石綿の製造及び使用の禁止措置を講じるべきであったのに,これを怠ったこと,及び,クロシドライトとアモサイトの製造等を禁止した平成7年の時点においてクリソタイルについても製造等を禁止すべきであったのに,平成15年改正安衛令(平成16年10月1日施行)まで製造等について何らの措置も講じなかったことは,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 安衛法55条は,労働者に重大な健康障害を及ぼす危険性 平成16年10月1日施行)まで製造等について何らの措置も講じなかったことは,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 安衛法55条は,労働者に重大な健康障害を及ぼす危険性がある特定の有害物についてその製造,輸入,譲渡,提供又は使用を禁止し,事業者に負わされている労働災害防止の義務をより実効あらしめるものとするために,労 働者と使用者の間のみならず何人に対しても当該規定の遵守を求めるものであるから,同条に基づく製造禁止等がなされた場合の影響は大きい。 同条は,有害物の製造等の禁止について労働者の生命身体に対する保護の見地から規定した旧労基法48条を引き継ぐとともに,新たな化学物質による職業性疾病への対応を図るために規制の充実が図られたものであり,同条においては,製造又は取扱いの過程において労働者に重大な健康障害を生ずる物質で,かつ,現在の技術をもってしては,それによる健康障害を防止する十分な防護方法がない有害物について製造等の禁止の対象とすることが意図されている。 同条は,製造等を禁止する対象物について,法律において一義的に明確に規定するのではなく,その指定を政令に委任しているところ,その趣旨は,当該有害物について製造等を禁止すべきか否かの判断は,専門的,科学的知見に基づいて行われる必要があり,そのような知見は常に変化する可能性があること,また,政令による指定によれば,産業の発展等に伴い新たに製造等がされるようになった化学物質等についても迅速に対応することが可能であることにあると解されることから,同条に基づく対象物質の指定に関しては,内閣に裁量が認められるというべきである。 以上のような安衛法55条の趣旨に鑑みれば,特定の有害物質について安衛法55条1項に基づきその製造等を禁止しなかったことが 基づく対象物質の指定に関しては,内閣に裁量が認められるというべきである。 以上のような安衛法55条の趣旨に鑑みれば,特定の有害物質について安衛法55条1項に基づきその製造等を禁止しなかったことが国賠法1条1項の適用上違法であるか否かを判断するに当たっては,当該有害物質が労働者に与える健康障害の重大性及び健康障害が発生する危険性の程度,当該有害物質の使用による労働者の健康障害を防止する有効かつ適切な手段の有無並びに当該有害物質の社会的有用性の有無等の具体的事情を考慮する必要があるものと解する。 この点について,被告国は,国の政策として,ある物質についての使用禁止措置を考える場合には,リスク・ベネフィットの考え方に基づく政策判断 について社会的な合意を得る必要があり,医学的,科学的知見のみならず,技術面,経済面,国情に応じた社会的側面からの諸事情を総合的に考慮して決する必要があると主張する。製造等禁止措置の要否について,被告国(内閣)に裁量が認められる趣旨に鑑みれば,社会的側面からの諸事情を考慮に入れる必要があることは否定できず,社会的有用性が高い物質について人体への有害性が認められた場合には,一定の安全性が確保された代替品の存在や,当該物質の製造等に起因する労働者の健康障害の発生を防止する有効かつ適切な手段の存在を検討すべきであると考えられるものの,これらの社会的側面を殊更に重視し,適時適切に製造等の禁止を含む規制権限の行使を躊躇することは,労働者の安全と健康の確保を目的とする安衛法による委任の趣旨に反して許されないものというべきである。 (2) 本件における石綿含有建材の製造及び使用の禁止等の規制権限不行使の違法性についてア前記第3,2(1)ないし(3)及び第5,1(2)によれば昭和50年には,石綿が,建築作 べきである。 (2) 本件における石綿含有建材の製造及び使用の禁止等の規制権限不行使の違法性についてア前記第3,2(1)ないし(3)及び第5,1(2)によれば昭和50年には,石綿が,建築作業に従事する労働者を含む建築作業従事者に,石綿肺,肺がん及び中皮腫といった重大な健康障害を生じさせるおそれのある有害物であることが明らかになっていたことが認められる。 また,昭和50年代後半頃までは,がん原性物質については閾値がないという考え方が強かったが,昭和63年頃にはがん原性物質についても量反応関係が認められることが明らかとなりはじめ,がん原性物質についても無作用量が存在するとの見解が主張されるようになり,遅くとも平成10年代後半には,変異原性及び遺伝子毒性発がん以外の毒性作用については,閾値が存在すると考えるのが一般的になっていたといえる。そして,石綿については,がん原性物質であることが明らかになったことから,いかなる低濃度曝露でも安全とする最少の閾値は存在しないという見解が存在し,昭和62年に環境庁が監修をした文献(甲A9)においても,理論 的には肺がん及び中皮腫の発現に対する石綿曝露量の安全閾値は存在しないという見解が首肯されるものであり,また,石綿はそれ自体がん原性物質であるから,いかなる低濃度でも安全とする最少の閾値はない,との見解が採用されていた。 昭和61年の石綿条約において,保護措置及び防止措置として,石綿の代替化を進めることが規定され,クロシドライトの使用及びあらゆる形態の石綿吹付け作業が禁止とされたが,その一方で,石綿の管理使用を前提とした規定が置かれ,前記禁止措置の実行が不可能な場合には,労働者の健康が危険にさらされないことが確保される手段がとられることを条件として禁止の緩和をすることが認められた 方で,石綿の管理使用を前提とした規定が置かれ,前記禁止措置の実行が不可能な場合には,労働者の健康が危険にさらされないことが確保される手段がとられることを条件として禁止の緩和をすることが認められたこと,平成元年のWHOによる「石綿の職業曝露限界」の報告においては,石綿について閾値があることを明言することはできないが,起こり得る石綿関連疾患のリスクが非常に小さい管理レベルを達成することは,特にクリソタイルでは可能であるとの意見が表明され,クリソタイルについては作業者個人の曝露限界を2本/㎤(8時間加重平均値)ないし1本/㎤(8時間加重平均値)に下げ,クロシドライト及びアモサイトについては可能な限り早急に使用を禁止することが推奨されるが,当面,限定された使用をするのであれば,曝露がクリソタイルで許容されるレベルよりも確実に低くするように勧告されたこと,さらに,平成8年に出されたWHOによるクリソタイルの評価に関するプレスリリースにおいては,適切な管理使用がなされれば,クリソタイル採掘や石綿セメント製品の製造においては,石綿により石綿関連疾患が発生するリスクをかなり低減できるとされていたものの,改築及び保守作業中の建物内での曝露や建築材料として使用されていることによる曝露に対する懸念が示されていたことからすれば,少なくとも平成元年頃まではクロシドライト,アモサイト及びクリソタイルについて,平成8年頃までは,クリソタイルについて,その管理使用が可能であるとの見解があっ たものの,肺がんや中皮腫との関係では,健康に対する影響が生じないと考えられる閾値を示すことは困難とされ,管理使用のあり方については,厳しい基準を設定し,厳格な規制が求められていたと認められる。 イ他方,前記第4,2(3)のとおり,建築現場における粉じん曝 考えられる閾値を示すことは困難とされ,管理使用のあり方については,厳しい基準を設定し,厳格な規制が求められていたと認められる。 イ他方,前記第4,2(3)のとおり,建築現場における粉じん曝露防止対策については,局所排気装置の設置や湿潤化等の作業環境管理により石綿粉じん濃度を低下させる効果を期待できず,防じんマスクによることが重要と認められるところ,遅くとも昭和50年10月1日に特化則が改正された時点において,被告国は,事業者に対し,労働者に防じんマスクを使用させることを罰則をもって義務付けるべきであったにもかかわらず,適時適切な規制権限の行使がなされていなかった。これに加えて,平成7年時点においても,石綿含有率による限定がなされた規制では建築現場における石綿含有建材の取扱量の減少にはつながらないことが十分に予想できたにもかかわらず,石綿含有率1%を超える石綿含有製品等に係る作業に従事する労働者に対して防じんマスク等の呼吸用保護具を使用させる義務が定められたにとどまり,また,建築現場においては,作業環境測定を行うに当たっても,多種多様の職種の建築作業従事者が存在し,作業者ごとに作業場所や作業内容が異なり,それぞれ短時間で変化していくことも多く,測定方法に限界があったこと等を踏まえれば,クリソタイルの管理使用の前提となる厳格な使用規制が期待できない状況にあったというべきである。 そして,アメリカにおいては,平成元年に,全石綿を段階的に禁止する規則を制定したところ,連邦高等裁判所によって無効判決が下され,それ以後,全面的な禁止はなされていないものの,平成7年までに,デンマークやスウェーデン,フランス,オーストリア,オランダ,ドイツ等の先進国がクリソタイルを含めた石綿の使用を禁止し,その他の欧州諸国においても,使用規制の強化を ていないものの,平成7年までに,デンマークやスウェーデン,フランス,オーストリア,オランダ,ドイツ等の先進国がクリソタイルを含めた石綿の使用を禁止し,その他の欧州諸国においても,使用規制の強化を進めていたことからすれば,我が国において,ク ロシドライト及びアモサイトの製造等を禁止した平成7年時点において,クリソタイルについても製造等を禁止する規制権限を行使しなかったことは,著しく合理性を欠くといわざるを得ない。 ウ確かに,我が国においては,戦前から建築物の不燃化が課題とされていたところ,石綿は,その有する特性がそのような建築物に求められる性能を実現するのに適しているとされ,昭和40年頃から建材として広く用いられてきた。しかも,石綿は耐火性のみならず,耐腐食性や絶縁性,断熱性,防音性,耐久性等建築物に求められる要素にも優れ,さらに安価でもあったことから,特に我が国の建築産業においては重要な位置を占めるものとなっていたといえる。このような石綿の使用状況からすれば,代替品なしにその使用を完全に禁止することは,建築産業に多大な影響を及ぼすおそれがあり,ひいては国民の生活にも大きな影響が及ぶ可能性があったことは否定できない。石綿条約や諸外国における石綿禁止規制等において,石綿の代替品の存在が考慮され,一定の場合には禁止対象から除外していること等からしても(前記1(2)イ(ア)及び(イ),(4),乙アA115),代替品の存在は,石綿の禁止措置を講じる上で考慮要素の一つと解される。 前記1(3)によれば,石綿含有製品の代替化については,平成元年頃,一部の製品で代替品の実用化が図られているものの,製造技術や性能面で問題を抱えている分野が多い状況にあり,コスト面での問題も指摘されていたが,我が国においては,昭和50年頃から代替化が促 成元年頃,一部の製品で代替品の実用化が図られているものの,製造技術や性能面で問題を抱えている分野が多い状況にあり,コスト面での問題も指摘されていたが,我が国においては,昭和50年頃から代替化が促進され,これに関する調査研究が進められた結果,次第に石綿含有建材の石綿含有量の低減化,無石綿化が進み,吹付け石綿や,ゴム・樹脂成形品,塗料等の副資材などは,既に石綿の代替が行われているが,生産量の多い石綿セメント成形品についても,けい酸カルシウム板やサイディング等は概ね無石綿化が完了し,フレキシブルボードや住宅用屋根材については,技術面や性能面,経済性において,無石綿化が困難とされていたこと,無石綿化に当た っては,石綿の多様な特性をすべて代替できる物質はなく,要求される性能を確保するためにいくつかの繊維を併せて用いる方法が採られているところ,代替繊維としてはガラス長繊維,グラスウール,ロックウール,スラグウール,セピオライト,ワラストナイト,アラミド繊維,ビニロン繊維,パルプ,セラミック繊維,炭素繊維等が存在し,これらについては,石綿と形状が類似していること等から発がん性が懸念され,WHO,IARCをはじめ諸外国において研究が進められ,我が国においても調査がなされてきたことが認められる。そして,石綿の代替繊維について,発がんリスクが石綿に比して低いと推認させるような研究結果が存在し,明確に発がん性が認められないとされたものがないことに加えて,IARCがある物質についてその当時存在する発がん性に関する証拠を再評価した結果,セピオライト及びワラストナイトについては平成9年に,グラスウール,ロックウール,スラグウールについては平成13年に,それぞれグループ3「ヒトに対する発がん性については分類され得ない」と評価されるに至り,平成 及びワラストナイトについては平成9年に,グラスウール,ロックウール,スラグウールについては平成13年に,それぞれグループ3「ヒトに対する発がん性については分類され得ない」と評価されるに至り,平成15年3月までに,ガラス長繊維,グラスウール,ロックウール,スラグウール,セピオライト,ワラストナイト,アラミド繊維,ビニロン繊維といった主要な代替繊維がグループ3と評価されるに至ったこと(乙アA132の24頁),前記IARCの評価は,入手データから得られた発がん性あるいは抗がん性についての証拠に関する科学的で定性的な判断を下すものであり,公衆衛生決定が根拠としていると思われる大量の情報のごく一部を表しているにすぎないため,公衆衛生上の選択肢は状況によって,また国によって変わること等から,個別の政府の責任である規制や法律に関しての推薦などはできないとされていること(乙アA25の2の4頁・5頁)を考え合わせれば,平成7年当時,これらの代替繊維の研究結果をもって,石綿の使用を禁止することが,社会的に大きな混乱や新たな産業被害を引き起こすことを示すものとは認められず,石綿について安 衛法55条に基づく禁止措置を執らないことを正当化するものではない。 我が国においては,平成3年以降代替化に関して継続的に調査研究が行われ,平成11年に,EUが石綿の全面禁止規制をとることを明らかにしたことに大きな影響を受け,石綿の製造,使用等を原則禁止する方向での検討が進められるに至っているところ,我が国における石綿輸入量のうち建材に使用される割合は平成14年時点で9割に上っていたものの(前記1(3)イ(ク)),これは石綿の有害性が明らかになるにつれて我が国における石綿の用途及び使用量が減少したこと等から石綿輸入量自体が減少したために,石綿輸入量のうち建材 9割に上っていたものの(前記1(3)イ(ク)),これは石綿の有害性が明らかになるにつれて我が国における石綿の用途及び使用量が減少したこと等から石綿輸入量自体が減少したために,石綿輸入量のうち建材に使用される割合が増大したものであって,平成14年の石綿輸入量は輸入量自体ピーク時の1割程度に減少していたこと(前記1(3)イ(ク))からすれば,同時点における建材への実質的な石綿使用量はかなり減少していたといえる。よって,平成15年時点において,石綿含有建材についてほぼ全面的な禁止措置が講じられたが,その効果は限定的なものにとどまるといえる状況になっていたと考えられ,石綿の製造等の禁止措置として遅きに失したものといわざるを得ない。 なお,クロシドライトに関して,我が国において法令上の禁止措置がとられた時期は平成7年であって,その危険性の認識の程度や世界的な規制の動向からすれば,規制時期としては遅かったと考えられるが,我が国内では,業界団体(産業界)の自主規制により,クロシドライトについては昭和62年にその使用の中止措置が講じられ,これにともなってその使用実態が無くなっていたことを考慮すれば,クロシドライトについて,その禁止がなされた時期が著しく遅れていたとはいえない。また,アモサイトに関しては,平成元年にWHOの「石綿の職業曝露限界」の報告においてアモサイトについても可能な限り早急に使用を禁止することが推奨されるとされ,また,諸外国においても,ECが平成5年に禁止措置を実施するなど,アモサイトの規制は多くが平成元年以降に開始されていること,加 えて,我が国においては,すでに業界団体が平成5年時点においてアモサイトの使用を自主的に中止していたことからすれば,我が国におけるアモサイトの禁止措置が著しく遅れていたということはできな えて,我が国においては,すでに業界団体が平成5年時点においてアモサイトの使用を自主的に中止していたことからすれば,我が国におけるアモサイトの禁止措置が著しく遅れていたということはできない。 (3) 小括以上のことから,被告国(内閣)が,クロシドライト及びアモサイトの製造等を禁止した平成7年時点において,クリソタイルについても製造等を禁止する規制権限を行使しなかったことは,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法というべきであるが,それ以前に石綿等の製造等に関する規制権限の行使につき違法があると認めることはできない。 第6 労働関係法令(旧労基法,安衛法)の保護対象に一人親方等が含まれるか否かについて 1 検討すべき事項について原告らは,旧労基法及び安衛法の主たる目的が「労働者」保護にあることは認めつつ,それゆえに国賠訴訟である本件訴訟の規制権限の根拠となる旧労基法,安衛法の各規定の国内法上の保護範囲(保護対象)が必然的に事業主に雇用される「労働者」に限定されるわけではないとして,使用者の「労働者」に対する旧労基法ないし安衛法上の義務が問題となるのではなく,被告国の規制権限不行使が問題となる場合には,その保護対象性については,業務の実態,災害状況などから別途に検討することが求められるのであって,一人親方等の具体的な業務実態,災害状況等からすれば,旧労基法42条,43条,48条,安衛法22条,23条,30条,31条,55条,57条の保護対象に一人親方等も含まれるなどとして,原告らの主張する旧労基法及び安衛法に基づく規制権限不行使の違法は,労基法の保護対象として明確に規定されている労基法9条の「労働者」との関係においてのみならず,一人親方等との関係においても,国賠法1条1項の適用上違法となる旨主張する。 制権限不行使の違法は,労基法の保護対象として明確に規定されている労基法9条の「労働者」との関係においてのみならず,一人親方等との関係においても,国賠法1条1項の適用上違法となる旨主張する。 前記第4及び第5のとおり,原告らが被告国との関係で主張する違法事由(規制権限の不行使)のうち,労基法9条の「労働者」との関係で国賠法1条1項の適用上違法であると認められるものは,Ⓐ昭和50年10月1日時点以降の,①安衛法22条,23条,27条1項に基づく防じんマスクの使用義務付けに関する規制権限の不行使,②安衛法57条に基づく建材メーカーに対する警告表示の義務付けに関する規制権限の不行使,③安衛法22条,23条,27条1項に基づく建築現場における石綿含有建材についての警告表示(作業現場掲示)の義務付けに関する規制権限の不行使,Ⓑ平成7年時点において,安衛法55条に基づくクリソタイルを含めた製造等禁止に関する規制権限の不行使であり,よって,一人親方等との関係においても前記Ⓐ①ないし③,Ⓑ以外の原告ら主張の違法事由が認められることはないのであるから,以下では,前記Ⓐ①ないし③,Ⓑの違法事由を前提に,一人親方等が安衛法の保護対象に含まれ,前記Ⓐ①ないし③,Ⓑについて一人親方等との関係においても国賠法1条1項の適用上違法となるかについて検討する。 2(1) 安衛法22条,23条,27条1項,55条及び57条の保護対象等について国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁 国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小法廷判決・民集43巻10号1169頁等参照)。 そして,前記第1,1で述べたとおり,安衛法は,職場における労働者の安全と健康の確保等を目的として,事業者に対し,粉じん等による危害を防止するために必要な措置を講じる義務(同法22条),労働者を就労させる建設物その他の作業場について,換気その他労働者の健康及び生命の保持の ための必要な措置を講じる義務(同法23条)を定め,これらの規定によって事業者が講ずべき具体的措置,基準等を労働省令に委任し(同法27条1項),また,労働者に重度の健康障害を生じるおそれのある物等についての製造,輸入,譲渡,提供又は使用を禁止し,容器等への警告表示義務を定め,各規制対象物の指定を政令に委任している(同法55条,57条)。そして,ここにいう事業者とは,事業を行う者で,労働者を使用するものをいい(同法2条3号),労働者とは,職種の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者を意味する(同法2条2号,労基法9条)から,労働大臣等が有する省令制定権限は,前記の意味の労働者のために行使されるものと解される。 よって,前記の意味の「労働者」以外の建築作業従事者との関係において,被告国(内閣,労働大臣等)による,①安衛法22条,23条,27条1項に基づく防じんマスクの使用義務付けに関する規制権限の不行使,②前記各条項に基づく建築現場における石綿含有建材についての警告表示(作業現場掲示)の義務付けに関する規制権限の不行使,③安衛法57条に基づ 基づく防じんマスクの使用義務付けに関する規制権限の不行使,②前記各条項に基づく建築現場における石綿含有建材についての警告表示(作業現場掲示)の義務付けに関する規制権限の不行使,③安衛法57条に基づく建材メーカーに対する警告表示の義務付けに関する規制権限の不行使,④安衛法55条に基づく石綿の製造等の禁止に関する規制権限の不行使が,国賠法1条1項の適用上違法となることはない。 (2) 安衛法における「労働者」の判断基準等についてア安衛法の制定経緯等(ア) 旧労基法においては,使用者と労働者の間には使用従属関係が生じること等から,労働条件は労働者に不利なものとなるおそれがあり,これによって労働者の生活が害される危険性があることから,法によって最低限の労働条件を定めることで,使用者と労働者の間における労働条件を決定する自由に一定の制限をし,これによって労働者を保護することを意図していた。 (イ) 安衛法は,旧労基法第5章(安全及び衛生)並びに労働災害防止団体等に関する法律第2章(労働災害防止計画)及び第4章(特別規制)を統合し,さらに新たな規制をつけ加えて単独立法として制定されたものである(甲A243の47頁,乙アA204の10頁)。 (ウ) 安衛法の制定過程において,労働省は,労働基準法研究会の報告やその他の事情をも含めて慎重に検討した結果,①旧労基法の建前に基づいて規制の対象を直接の使用従属関係のみに限定していては,災害を効果的に防止できないこと,②労働災害の防止のためには,最低基準の確保にとどまらず,より厚みのある行政の展開を必要とすること,③特に中小企業については取締りだけではなく,労働災害を防止しやすい条件を整える必要があること,④法制化に当たっては,規定条文数がかなりの数にのぼることから,旧労基法の改 政の展開を必要とすること,③特に中小企業については取締りだけではなく,労働災害を防止しやすい条件を整える必要があること,④法制化に当たっては,規定条文数がかなりの数にのぼることから,旧労基法の改正ではなく,単独法として制定する方向で検討を進めた(乙アA140の58頁・59頁)。 (エ) 労働省は,労働基準法研究会からの報告を受けて検討した結果,昭和46年8月10日に「労働安全衛生法(仮称)の制定」と題して新聞発表を行い,その中で,建設業等特殊な労働関係下にある労働災害の防止の徹底を図るための元方事業主の責任を明確にすることについても,その具体的内容の一つとして明文の規制を置くことを明らかにした(乙アA140の57頁・58頁)。 (オ) 昭和47年に安衛法が制定される際になされた国会における各委員と政府委員との質疑においては,旧労基法から労働安全衛生に関する規制を分離独立させて安衛法として成立させることについて,旧労基法の総合性を損なうのではないかという観点からの質問が集中したことに対し,政府委員は,旧労基法の一部改正という形をとらず,単独法とした理由について,第一には,当時の労働災害の傾向によれば,旧労基法のように直接の雇用関係のみを前提とする規制の仕方によって災害を的確 に防止することができない状況が出てきていること,具体的には,機械や材料等について製造,流通の段階における規制が必要になっており,また,直接の雇用関係だけではなく,重層下請関係や建設のジョイントベンチャー等,特殊な雇用関係下における規制も強めなければ災害が防止できない状況になっていること,あるいは特定の有害業務に従事した者については,雇用関係にある者だけの健康管理ではなく,離職後にわたってまで健康管理を確保する必要があるということ,また,公害の防 止できない状況になっていること,あるいは特定の有害業務に従事した者については,雇用関係にある者だけの健康管理ではなく,離職後にわたってまで健康管理を確保する必要があるということ,また,公害の防止に対する配慮を労働衛生にあわせて行う必要があるということ等があることを答弁した。ただし,安衛法が旧労基法とは別個独立の法律であっても,安衛法は総合的な労働保護法規(労基法体系)の一翼を担うものであって,労基法の法理念は当然に安衛法に及ぶものであり,そのため,安衛法1条では「基準法と相まって」として両法の関係性(一体性)を明確にしたとされている。また,安衛法制定後も労基法において「第五章安全及び衛生」の章を残し,同法42条として「労働者の安全及び衛生に関しては,労働安全衛生法の定めるところによる。」と規定することによって,労基法上の労働条件である「安全衛生」を安衛法に規定することが明確にされており,よって,労基法の労働憲章的部分(第1章から第3章)については安衛法にも当然適用されることとされた。(甲A243の47頁,252の73頁ないし75頁,乙アA140の73頁ないし75頁)(カ) 労基法においては,同居の親族のみを使用する事業又は事務所で働く者を同法9条に規定する労働者の範囲から除いており,そのため,同居の親族のみを使用する事業又は事業所について事業者義務規定の適用から除外されているが,その理由は,そこには愛情が支配し,搾取のおそれのある使用関係がないと考えられたからである(甲A243の50頁)。 イ 「労働者」性の判断について(ア) 以上のことからすれば,労基法体系においては使用従属関係にある労働者の保護を共通の目的とするものであると解されるところ,安衛法はその一翼を担うものとして制定されたものであるが,安衛 ついて(ア) 以上のことからすれば,労基法体系においては使用従属関係にある労働者の保護を共通の目的とするものであると解されるところ,安衛法はその一翼を担うものとして制定されたものであるが,安衛法の制定が検討されていた頃には,旧労基法のように直接の雇用関係のみを前提とする規制方法により災害を適切に防止することができない状況となっており,同法の制定過程においては,労働災害の防止のためには建設業における重層下請構造等の特殊な雇用関係における規制の強化も必要であると考えられたこと等から,あえて旧労基法の改正によるのではなく,旧労基法から労働安全衛生に関する規制を分離独立させ,職場における労働者の安全と健康の確保等を目的とする安衛法を成立させたことが認められる。このように,安衛法は,直接の雇用関係のみを前提とするのではなく,重層下請構造のような特殊な雇用関係下における労働者についても,その職場における安全と健康の確保等を図ることを意図して制定されたものであるといえる。 (イ) 建設業は,多種類の作業を時間的に配列して構造物を生産する一品生産であるため,建築工程の進行に応じて必要となる職種別労働投入量が短期間に変動し,工程の種別に作業が断続的に進行するという特徴を有することに加え,建築現場の移動,天候・季節による季節変動,公共工事でみられる発注の年度末への集中など,短期的・季節的変動の影響が強く働くために,必要となるであろう建築作業従事者を常時直接雇用することが給与や社会保険料等のコスト面での負担が重く,これを解決するために,実際には常用する建築作業従事者であっても外注(下請)扱いとしてきた経緯があり,こうした事情により重層下請構造が構築されていったことが認められるところ,このような重層下請構造のために,建設業においては労働関係が雇用 築作業従事者であっても外注(下請)扱いとしてきた経緯があり,こうした事情により重層下請構造が構築されていったことが認められるところ,このような重層下請構造のために,建設業においては労働関係が雇用であるか請負であるかが不明確であり, 指揮監督関係及び報酬の労務に対する対償性が認められる場合にも契約としては下請契約とされている場合があると推認される(前記第4,1(3),甲A128,129,130,135の47頁)。 (ウ) 以上のことから,労基法9条によれば,「労働者」であるか否かについて,「使用される」すなわち指揮監督下の労働という労務提供の形態,及び「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性,すなわち報酬が提供された労務に対するものであるか否か,ということによって判断されることになるところ,特に安衛法においては,その保護対象である「労働者」性について,その契約形式が雇用契約であるか請負契約であるかということではなく,実質的な支配従属関係の有無によって判断すべきである。 そして,実際には,指揮監督の程度及び態様は多様であり,報酬の性格が不明確なこともあると考えられるため,指揮監督下の労働であるか,また,報酬が提供された労務に対するものであるかを判断する際には,機械等の負担関係,報酬の額,専属性の程度等の諸要素をも考慮して総合的に判断する必要があると考えられる。 (エ) したがって,一人親方及び個人事業主であっても,実質的に「労働者」に該当すると認められる場合には,安衛法の保護対象に含まれるのであるから,前記1のⒶ①ないし③,Ⓑの各違法事由はその者との関係においても国賠法1条1項の適用上違法となる。 (3) 原告らの主張についてア原告らは,建設業の就業人口に占める非労働者扱いされる建築作業従事者の割合の増加は, Ⓑの各違法事由はその者との関係においても国賠法1条1項の適用上違法となる。 (3) 原告らの主張についてア原告らは,建設業の就業人口に占める非労働者扱いされる建築作業従事者の割合の増加は,建設業の特殊性からくる労務管理の変化や,被告国の政策の結果にほかならないのであるから,一人親方等こそ,労働者と同様又はそれ以上に危険な建築作業から保護する必要が高いなどとして,一人親方等も当然に安衛法の保護対象となる旨主張するところ,安衛法の制定 に当たり,労働災害の防止のためには,建設業における重層下請構造等の特殊な雇用関係に対する規制を強化する必要性があると考えられていたことは,前記(2)イ(ア)のとおりである。しかし,安衛法上法的保護に値するか否かは,安衛法の趣旨,目的によって判断されるべきところ,安衛法においても,旧労基法と同様,使用者と労働者の間には使用従属関係が生じること等から,労働条件は労働者に不利なものとなるおそれがあり,これによって労働者の生活が害される危険性があることに鑑みて,使用者と労働者の間における労働条件を決定する自由に一定の制限をし,これによって労働者を保護することを目的とするものであり,これによれば,同法の保護対象は使用者との間に使用従属関係が存在する実質的な「労働者」であると解される。これに対し,原告らの主張によれば,使用従属関係の有無等にかかわらず,建築現場において,労働者と同一の作業に従事する一人親方等を保護の対象とすることを求めるのであるが,使用従属関係が認められない場合には,作業環境を含む就労条件の拘束性において,労働者とは異なると解されるのであるから,労働者性のない一人親方等を労働者と同様に保護の対象と解することはできず,前記原告らの主張は採用できない。 イ原告らは,安衛法22条, の拘束性において,労働者とは異なると解されるのであるから,労働者性のない一人親方等を労働者と同様に保護の対象と解することはできず,前記原告らの主張は採用できない。 イ原告らは,安衛法22条,23条,27条1項について,これらの趣旨,目的は労働者保護に限定されるものではなく,労働者と同一環境で同一作業に従事している一人親方等も保護対象となることが明らかである旨主張する。 しかし,これらの規定は,使用従属関係(労働が使用者の指揮監督下で行われ,報酬が提供された労務に対して支払われる関係)を前提として,事業者に対し,労働者の健康障害の防止のための措置等を講じることを義務付け,その具体的内容については労働省令に委任する旨定めたものであると解されることから,これらの規定が前記(2)イ(ウ)のように解した「労 働者」以外の者についてまで保護の対象としているとは認められない。よって,前記原告らの主張を採用することはできない。 ウ原告らは,安衛法55条,57条は,製品の使用過程において健康障害等の発生を回避することを可能にする趣旨であり,その規制対象として,雇用関係の存在を前提とするものではなく,当該製品を使用する作業者全体を健康障害から保護することを当然に予定しており,被規制者は,建材メーカーであって明確であることから,建築現場において労働者と同様に自ら建築作業に従事し,石綿粉じんに曝露する一人親方等をその保護対象から除外する趣旨であるとはいえない旨主張する。 しかし,安衛法55条,57条は,主として労働関係の場で用いられる一定の機械又は有害物そのものの危険,有害性に着目して,何人たるとを問わず,当該機械又は有害物の製造,譲渡等の行為を行う者を名宛人としている規定の一つであるが,このような規定は,使用従属関係に着目して事 機械又は有害物そのものの危険,有害性に着目して,何人たるとを問わず,当該機械又は有害物の製造,譲渡等の行為を行う者を名宛人としている規定の一つであるが,このような規定は,使用従属関係に着目して事業者に負わされている労働災害防止の義務をより実効あらしめるものとするために,何人に対してもそれらの規定の遵守を要求するものであるから,飽くまで労働者の保護を目的とするものと解され,規制の対象が労働者を使用する事業者に限定されないことをもって,保護の対象が拡大されるものではない。よって,前記原告らの主張を採用することはできない。 エ(ア) 原告らは,昭和40年改正労災保険法において特別加入制度が設けられたこと及びそれ以前は一人親方に対して擬制適用がなされていたこと等を指摘し,安衛法と昭和40年改正労災保険法がいずれも労基法体系の法令であり,かつ,安衛法と同様に労働者の安全及び衛生を目的として掲げていることから,少なくとも昭和40年の労災保険法改正時点において,安衛法の各規定の趣旨及び目的は,「労働者」の生命及び健康を保護することを主目的としつつ,さらに建築現場において労働者と等しく就労し労働災害が多発している一人親方等の生命及び健康につい ても,その保護対象とする旨拡張されたと主張する。 (イ)a しかし,旧労災保険法は,我が国における近代的労働関係の確立を目指す労働保護の総合法典として旧労基法が制定され,鉱業法,工場法及び勞働者災害扶助法以来の災害扶助について「第8章災害補償」に統合し,これによって労働者の業務災害に対する使用者の災害補償の義務が小規模事業に対しても課されるようになり,かつ,その災害補償の額も従来の労働保護法規に比して相当高度なものとなったため,使用者の中には大きな業務災害が発生した場合等に災害補償を完全に 補償の義務が小規模事業に対しても課されるようになり,かつ,その災害補償の額も従来の労働保護法規に比して相当高度なものとなったため,使用者の中には大きな業務災害が発生した場合等に災害補償を完全に履行できない者や,仮に履行できたとしても,資金融通等のために履行が遅れることもあると考えられること等から,業務災害が発生した場合に労働者に対して迅速かつ公正な保護を図るために,日本国内の全産業が一体となって相互扶助の精神によって災害に対する労働者の保護を図り,併せて使用者の負担を軽減する趣旨で,昭和22年当時の健康保険,厚生年金保険における業務上の保険給付及び労働者災害扶助責任保険をすべてこれに吸収するものとして制定されたものである。そして,旧労災保険法1条は,同法の目的について,「労働者災害補償保険は,業務上の事由による労働者の負傷,疾病,廃疾又は死亡に対して迅速且つ公正な保護をするため,労災補償を行い,併せて,労働者の福祉に必要な施設をなすことを目的とする。」と規定していた。このように,労災保険制度は,労基法の災害補償に対応した保険制度として設けられたものであり,労基法適用労働者の労働災害に対する保護を目的とした制度であるといえる。(甲A256,乙アA1068)よって,旧労災保険法にいう「労働者」は,旧労基法9条の定める「労働者」と同義であったといえる。 b その後,昭和48年に,労基法第8章において使用者に災害補償責 任が課されていなかった通勤災害について,これを保護する制度が労災保険制度中に設けられたことに伴い,その旨が同年に改正された労災保険法1条において明らかにされるとともに「災害補償」が「保険給付」に改められ,さらに,昭和51年には未払賃金の立替払事業が労災保険の事業として行われることになり,従来の保険施設 年に改正された労災保険法1条において明らかにされるとともに「災害補償」が「保険給付」に改められ,さらに,昭和51年には未払賃金の立替払事業が労災保険の事業として行われることになり,従来の保険施設に代えて,労働福祉事業を行うことになったこと,平成12年には二次健康診断等給付が設けられたこと,加えて,平成19年の改正において労働福祉事業の見直しが行われたこと(これに伴い,同改正前の労災保険法1条の「適正な労働条件」という文言が「労働者の安全及び衛生」に改められた。乙アB1027の28頁)等によって,労災保険法は労働災害の補償を中核にしつつ,労働条件をめぐる使用者責任の分野に関する総合的な保険制度ともいうべき実質を備えたものとなり,同法1条の定める同法の目的は,「労働者災害補償保険は,業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため,必要な保険給付を行い,あわせて,業務上の事由又は通勤により負傷し,又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図り,もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。」となった。 そして,このような改正後の労災保険法においても同法にいう「労働者」の意義についての明文の規定はないが,同法12条の8第2項に傷病補償年金及び介護補償給付を除く同法の業務災害に関する保険給付は労基法に規定する災害補償の事由が生じた場合にこれを行う旨規定されていること,に加え,前記のように,旧労災保険法が旧労基法と同時に,旧労基法に規定する災害補償の裏付けをする制度として発足した経緯等を考慮すれば,労災保険の適用を受ける労働者は 労基法9条の労働者と同義であると解される。 (甲A4の213頁,乙アA35,106 規定する災害補償の裏付けをする制度として発足した経緯等を考慮すれば,労災保険の適用を受ける労働者は 労基法9条の労働者と同義であると解される。 (甲A4の213頁,乙アA35,1068,乙アB103)。 c 確かに,労災保険法においては,昭和40年の改正により,特別加入制度が創設され,中小企業主,特定作業に従事する一人親方等を労働者として擬制し,労災保険の適用を図ったことから,労基法上の労働者以外の者にも一部適用範囲が拡大されている。 しかし,昭和40年改正労災保険法において設けられた特別加入制度は,本来的には労災保険による保護の対象とはならない労基法適用労働者(労基法9条の「労働者」)以外の者であっても,業務の実態や災害の発生状況等からみて,実質的に労基法適用労働者に準じて保護するに値するといえる者が一部存在すること等から,これらの者について,労災保険の建前を損なわない範囲内で,また,災害が起こった場合の業務上外の認定等保険技術的に可能な範囲内で,特に労災保険の加入を認め,労災保険による保護を図るものとしたものである(甲A256)。 また,特別加入制度の創設についての国会審議においては,「一人親方の特別加入を認めた制度,これは労災保険の本来のあり方といいますか,本来の使命からいいますと,ことばはよくありませんかもしれませんが,いわばサービスであります。本来からいえば,雇用関係にある者に限定せられるべきものであります。」や,特別加入制度は「むしろ全くの任意加入でございまして,強制的に加入させるものではございませんので,労災保険も一種の契約保険を営むものであるというふうな考え方でございます。」等と考えられていた(甲A256の26頁・27頁)こと,さらに,労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託する中小事業主及び 災保険も一種の契約保険を営むものであるというふうな考え方でございます。」等と考えられていた(甲A256の26頁・27頁)こと,さらに,労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託する中小事業主及びその事業主が行う事業に従事する労働者以外の者(家族従事者など)について特別加入を認めた理由に ついて,中小事業の場合,これらの者は労働者とともに,労働者が従事する作業と同様の作業に従事する場合が多く,労働者に準じて保護するにふさわしいばかりでなく,労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託することを特別加入の要件とすることにより,中小事業主が特別加入するためにはあらかじめその労働者を労災保険に加入させておく必要が生じ,また,労働保険事務組合の普及にも役立つことになるため,中小事業の労災保険への加入促進が得られることになるからである,とされていること(乙アB103の556頁・557頁)等からすれば,特別加入制度については,労働災害が発生した場合に同法によって保護することが適切かつ可能か否かという観点(さらに,中小事業主の特別加入に関しては,中小事業主の雇用する労働者らの労災保険への加入を促進することになるという点も考慮された。)から検討が進められた結果,一人親方等について,本来的には労災保険法による保護対象ではないことを前提とした上で,一定の条件の下で特別にその適用の対象とすることとしたものであるといえる。 そして,安衛法に基づく定期健康診断等において異常所見が認められた場合に実施される二次健康診断等に関して当該労働者の請求によりなされる二次健康診断等給付(労災保険法26条)については,特別加入者には安衛法の適用がなく定期健康診断等の適用対象となっていないことを前提に,特別加入者はその対象とされていないこと(労災保険法34条 れる二次健康診断等給付(労災保険法26条)については,特別加入者には安衛法の適用がなく定期健康診断等の適用対象となっていないことを前提に,特別加入者はその対象とされていないこと(労災保険法34条1項,35条1項,乙アB103の558頁)からすれば,特別加入制度の創設によって,特別加入者を労災保険法にいう「労働者」(すなわち労基法9条にいう労働者)として一律に保護するようになったとは認めることができない。加えて,労災保険制度は労働災害に対する事後的な救済を本来の目的としたものであるのに対し,安衛法は,労働災害の事前の防止を目的として,事業者らに 対して労働災害防止の義務を課するものであって,その目的を異にすることも考慮すれば,労災保険法において特別加入者に対して労基法9条にいう労働者と同様の保護が一定の範囲で認められるようになったことによって,安衛法の趣旨及び目的が労基法9条にいう労働者の生命及び健康を保護することを主目的としつつ,さらに,一人親方等の生命及び健康についても,その保護対象とする旨拡張されたと解することはできない。よって,原告らの前記主張は採用できない。 第2節労災保険法に基づく規制権限不行使の違法性(争点2)第1 昭和40年改正労災保険法34条の14に基づく被告国の責任について 1 原告らは,昭和40年改正労災保険法において特別加入制度が設けられたことから,労災保険法の保護対象に一人親方等が含まれることが明確になり,また,同法1条において「労働者の安全及び衛生の確保」が同法の目的とされ,同法34条の14において「この章に定めるもののほか,第34条の11各号に掲げる者の業務災害に関し必要な事項は,労働省令で定める」旨規定されたことからすれば,同条は,保険給付等の細則規定のみならず,労災保険の特別加入 いて「この章に定めるもののほか,第34条の11各号に掲げる者の業務災害に関し必要な事項は,労働省令で定める」旨規定されたことからすれば,同条は,保険給付等の細則規定のみならず,労災保険の特別加入者である一人親方等の建築現場における業務遂行に際し,安全衛生を確保して業務災害を防止するための規定の制定をも省令に委任したものであるとして,被告国は,昭和40年改正労災保険法34条の14を柔軟に解釈した上で,同条に基づき,建築現場において建築作業に従事する労災保険の特別加入者である一人親方等に対し,罰則付きで,①呼吸用保護具の着用を義務付け,②集じん機付き電動工具の使用を義務付け,③石綿固有の危険性と石綿粉じんの発生抑制,曝露防止のための措置を自ら学習することを義務付け,さらに,建築現場の元方責任者に対して,④前記①ないし③の義務を履行しない前記一人親方等を建築現場で就労させてはならないことを義務付けるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは,著しく合理性を欠き,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 2 しかし,労災保険法は,前記第1節第6,2(3)エのとおり,労基法の災害補償に対応した保険制度として設けられたものであり,労働災害が発生した場合に労基法9条にいう労働者(労基法適用労働者)に対する事後的な保護(補償)を本来の目的とした制度であるといえる。また,昭和51年の労災保険法の改正(昭和51年法律第32号による改正)によって同法2条の2が設けられたところ,同条においては,労働者災害補償保険は,同法1条の目的を達成するために業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に関して保険給付を行うほか,労働福祉事業を行うことができるとされ,同法1条の定める目的のうち,「又は負傷・疾病にかかった労働者の社 ために業務上の事由又は通勤による労働者の負傷,疾病,障害,死亡等に関して保険給付を行うほか,労働福祉事業を行うことができるとされ,同法1条の定める目的のうち,「又は負傷・疾病にかかった労働者の社会復帰の促進,当該労働者及びその遺族の援護,適正な労働条件の確保などをはかる」という目的を遂行するものとして「労働福祉事業」が規定された。その後,平成19年に労災保険法が一部改正され,それまで「労働福祉事業」と定められていたものが「社会復帰促進等事業」とされ,同法29条1項3号が「業務災害の防止に関する活動に対する援助,健康診断に関する施設の設置及び運営その他労働者の安全及び衛生の確保,保険給付の適切な実施の確保並びに賃金の支払の確保を図るために必要な事業」と改められ,「労働条件に係る事項の管理に関する事業主に対する指導及び援助その他適正な労働条件の確保を図るために必要な事業」を当該事業の対象から除くこととしたことに伴い,同法1条の「適正な労働条件」が「労働者の安全及び衛生」に改められた(乙アB1027の28頁)。以上の規定からすれば,労災保険法の主たる目的は,業務災害又は通勤災害を被った労働者やその遺族等に対して必要な保険給付を行うことにより迅速かつ公平な保護を図ることであり,これに附帯して,被災労働者の社会復帰の促進,被災労働者及びその遺族の援護,労働者の安全及び衛生の確保等を図ることにより,必要な保険給付の実施と相俟って,労働者の福祉の増進に寄与することとし,前記目的を達成するため,保険給付の事業を主たる事業とし,これに附帯しつつ, これに並列する事業として社会復帰促進等事業を行うものである(乙アA1068)。よって,労災保険法においては,労働災害の防止と災害補償が表裏の関係にあることから,業務災害の防止に関する活動に対す これに並列する事業として社会復帰促進等事業を行うものである(乙アA1068)。よって,労災保険法においては,労働災害の防止と災害補償が表裏の関係にあることから,業務災害の防止に関する活動に対する援助や健康診断に関する施設の設置及び運営その他労働者の安全及び衛生の確保を図るために必要な事業を実施し,当該事業を通じて労働者の安全及び衛生を確保することが意図されているのであって,旧労基法第5章(安全及び衛生)に関する部分を独立法とした安衛法によって定められる労働者の健康障害防止措置と同様の規定を,旧労基法第8章(災害補償)に対応するものとして制定された労災保険法に基づいて定めることは,その制定過程からしても,予定されていないと解される。 3 また,昭和40年改正労基法は,第4章の4において特別加入に関する定めを置き,中小事業主及び一人親方などの一定の自営業者等で,かつ労働者ではない者の業務災害に関しては,この章(第4章の4)に定めるところによるとし(同法34条の11),同法34条の14で「この章の定めるもののほか,第34条の11各号に掲げる者の業務災害に関し必要な事項は,労働省令で定める。」旨規定しているところ(甲B1001),同法第4章の4の各規定は,特別加入及び脱退の手続,特別加入後の法的効果,特別加入に係る支給制限,政府の職権による特別加入承認の取消し保険関係の消滅及び保険給付を受ける権利の不変更等,特別加入に関する事項を定めたものであることからすれば,「第34条の11各号に掲げる者の業務災害に関し必要な事項」とは,特別加入に関する事項(特別加入の手続や,特別加入者に係る業務災害の認定等に関する事項等)を意味するものと解すべきであり,加えて,前記のとおり,労災保険制度が被災労働者等に必要な保険給付を行うことによって事後的な救 項(特別加入の手続や,特別加入者に係る業務災害の認定等に関する事項等)を意味するものと解すべきであり,加えて,前記のとおり,労災保険制度が被災労働者等に必要な保険給付を行うことによって事後的な救済を図る制度であることも踏まえれば,同法34条の14が労働省令に委任した事項は,特別加入制度に関する手続的な事項であって,特別加入者の健康障害の予防に関する事項については委任の範囲を 超えるものと解される。 4 したがって,建築現場において建築作業に従事する労災保険の特別加入者である一人親方等に対する①呼吸用保護具の着用,②集じん機付き電動工具の使用及び③石綿固有の危険性と石綿粉じんの発生抑制,曝露防止のための措置の学習の義務並びに建築現場の元方責任者に対する前記①ないし③の義務を履行しない前記一人親方等の建築現場における就労を禁止する義務を,罰則をもって定めることは,昭和40年改正労災保険法34条の14の委任の範囲を超えるものであって,被告国(労働大臣等)は同条に基づいてそのような規制権限を行使する義務を負うものではなく,よって,原告らが主張するような規制権限不行使の違法は認められない。 第2 業務災害防止規程に係る被告国の責任について 1 原告らは,「建設事業の一人親方等の団体が定めるべき業務災害の防止に関する措置について」(昭和40年基発第20号。甲B1004)において,昭和40年改正労災保険施行規則によって建設業の一人親方等の特別加入団体が定めなければならないとされた業務災害防止規程に関し,「建設事業の一人親方等の団体が講ずべき業務災害の防止に関する措置については,危害防止に関する法令の規定により,使用者及び労働者が守るべき措置として定められている事項に準じ安全衛生管理,安全衛生教育,健康診断,危害防止規程等に関する き業務災害の防止に関する措置については,危害防止に関する法令の規定により,使用者及び労働者が守るべき措置として定められている事項に準じ安全衛生管理,安全衛生教育,健康診断,危害防止規程等に関する定めをすることが必要であるが,建設事業の一人親方等の団体の現状に鑑み,当分の間,次に掲げる法令の規定に準じた措置を,当該団体がその構成員に守らせる旨の誓約書を提出した場合には,則第46条の23第2項及び第3項の規程に基づき,当該団体が業務災害の防止に関し講ずべき措置及びその構成員が守るべき事項を定めたものとみなし,所定の書類が提出されたものとして取り扱うこと」とした上で,「次に掲げる法令の規定」として,旧安衛則等の規程を列挙していたのであるから,建設業における一人親方や個人事業主の業務災害を防止するためには,使用者及び労働者 が守るべき措置として法令で定められている事項に準じ,安全衛生管理,安全衛生教育,健康診断,危害防止規定等に関する規制をする必要があることを自認していたとして,これを被告国における前記規制権限の不行使が違法である理由の一つとして主張する。 2 しかし,特別加入については,前記第1節第6,2(3)エ(イ)cのとおり,本来的には労災保険が保護すべき対象ではない労働者以外の者について,労災保険本来の建前を損なわない範囲で労災保険の適用を認めることとしたものであり(甲A4,256,257,乙アA35の234頁),本来保護すべき労働者に対する保護よりも手厚い保護を与えるべきではないと解される。労働者に関しては,安衛法,安衛則等により,事業者に対して業務災害防止措置を講じる義務が課されるなど災害防止についての規制がなされていることから,これが遵守されている状況下で発生した業務災害等について補償を行うこととなる。 これに対 により,事業者に対して業務災害防止措置を講じる義務が課されるなど災害防止についての規制がなされていることから,これが遵守されている状況下で発生した業務災害等について補償を行うこととなる。 これに対し,特別加入制度の対象者となる一人親方等についてはその災害防止に関する規制措置がなされていないため,そのままの状態で特別加入を認めて補償を行うことは,労働者と比較して一人親方等をより保護することになりかねないことから,労働者との均衡を図るために,一人親方その他の自営業者団体に対しては,予め業務災害の防止に関し当該団体が講ずべき措置及び一人親方等が守るべき事項を定めなければならないこととされたものである(甲A256,1232の507頁,甲B1003の64頁,乙アA1068の607頁・608頁)。したがって,昭和40年改正労災保険規則46条の23は,一人親方その他の自営業者の安全衛生管理や危害防止を意図して定められたものではないから,当該規定の存在によって,被告国が,一人親方等の業務災害を防止するために,安全衛生管理,安全衛生教育,健康診断,危害防止規定等に関し,使用者(事業者)及び労働者が守るべき措置として法令で定められている事項に準じた規制を講じる必要があると認識していたということはできず,前記原告らの主張は採用できない。 第3節建基法に基づく規制権限不行使の違法性(争点3)第1 建基法2条7号ないし9号に基づく被告国の責任について 1 原告らは,建基法2条7号ないし9号が内閣及び建設大臣等に,建材の指定,認定の政省令制定権限を委任した趣旨は,火災から所有者,居住者,利用者の生命及び財産を保護することだけではなく,健康に著しく有害な建材を排除して国民の生命,健康の安全を確保する趣旨を含むものであり,したがって,いかに耐防 任した趣旨は,火災から所有者,居住者,利用者の生命及び財産を保護することだけではなく,健康に著しく有害な建材を排除して国民の生命,健康の安全を確保する趣旨を含むものであり,したがって,いかに耐防火性能が高くとも,石綿含有建材が居住者や利用者の生命,健康にとって著しく有害であることが明らかになった場合には,被告国(内閣,建設大臣等)は,同法2条7号ないし9号による指定,認定制度に基づく規制権限を行使して,石綿含有建材につき,同法2条7号ないし9号による指定,認定から削除する措置を講じるべきであったにもかかわらず,これを怠ったことは,著しく不合理であって,国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。さらに,石綿含有建材の著しい有害性が明らかとなったことによって,これを前記指定,認定から削除しなかったことが違法となる時期以降に,さらに石綿含有建材について建基法2条7号ないし9号による指定,認定を行ったことの違法性,及び,内閣,建設大臣等が同条2条7号ないし9号の指定,認定を行う際に,警告表示等の条件を付さなかったことの違法性等についても主張する。 2(1) 前記第1節第6,2(1)で述べたとおり,国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。よって,公務員による公権力の行使が国賠法1条1項の適用上違法であると認められるためには,当該公務員が個別の国民に対して職務上の法的義務を負い,かつ,これに違反したと認められることが必要である。 よって,被告国による建基法2条7号ないし9号に基づく公権力の行使が 原告らとの関係において国賠法1条1項の適用上違法と認められるため つ,これに違反したと認められることが必要である。 よって,被告国による建基法2条7号ないし9号に基づく公権力の行使が 原告らとの関係において国賠法1条1項の適用上違法と認められるためには,内閣,建築大臣等が,建築作業従事者に対して,建基法2条7号ないし9号に基づく職務上の法的義務を負い,かつ,これに違反したことを要すると解される。 (2) 前記第2章第3節第2,1記載のとおり,建基法は,都市計画の一環である都市計画制限を目的として定められ,かつ,従来一部の府県で行われていた警察命令による建築取締規則をも承継した市街地建築物法を引き継いだものであり,同法と同様に,「建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的」(建基法1条)として,建築物の構造設備等に関する安全・衛生上等の最低基準と,これを守らせるための行政手段を定めた法律である。市街地建築物法は,地域地区制,建築線制等のような都市計画に即応して建築物の配置,配列を規制する「集団規定」及び従来の建築取締規則のような個々の建築物の保安衛生上の構造基準を定めた「単体規定」を有し,建基法においてもこれが承継され,単体規定について同法第2章に,集団規定について同法第3章に規定が置かれている。 単体規定は,ある1個の建築物に着目して,その構造等に制限を加え,建築物を地震,火災等から守り,その建築物を利用している人々の生命,健康及び財産を守るという観点から定められているものである。これに対し,集団規定は,建築物の形態,用途,接道等について制限を加え,建築物が集団で存している都市の技能確保や市街地環境の確保を図ろうとするものである。 このような建基法における単体規定及び集団規定は,計画 集団規定は,建築物の形態,用途,接道等について制限を加え,建築物が集団で存している都市の技能確保や市街地環境の確保を図ろうとするものである。 このような建基法における単体規定及び集団規定は,計画段階から完成後までの段階にわたって,建築物又はその敷地自体のあり方を規制するものであり,また同法9条による違反是正も,工事中又は完成後の建築物又はその敷地それ自体を対象とするものであるから,これらの規定による規制は,建 築等の工事の施工法にまで及ぶものではない。(甲A351,1050の161頁,乙アB78の3頁・10頁ないし19頁,86,87)また,旧建基法が制定された当時我が国においては建築物のほとんどが木造であったため,頻発する火災によって莫大な富を損失していたことから,旧建基法は,これを防止するために,建築物の不燃化を図る手段の一つとして制定されたものであり,そのため,同法制定当時は,単体規定の目的の最重点は木造建築物の防火対策であったところ,その後の建築物の不燃化,高層化によって,不燃建築物の内部火災に対する規制が求められたことから,不燃建築物の内部の防火・防煙対策をはじめとする防火・避難規定の追加整備が行われた。さらに,木造市街地の大火の防止は市街地建築物法が制定されたときから我が国における問題となっていたため,集団規定として「防火地区制」が設けられ,これは旧建基法にも承継された。(乙アB78の13頁ないし19頁,79)以上のような建基法の制定経緯,目的及び規制の内容等からすれば,建基法は,建築物の不燃化を促進することによって火災を防止し,国民の生命,健康及び財産を保護するため,単体規定及び集団規定の中で,一定の建築物について,耐火構造(同法2条7号),準耐火構造(同法2条7号の2),防火構造(同法2条8号), よって火災を防止し,国民の生命,健康及び財産を保護するため,単体規定及び集団規定の中で,一定の建築物について,耐火構造(同法2条7号),準耐火構造(同法2条7号の2),防火構造(同法2条8号),不燃材料(同法2条9号)を用いることを義務付けたものであって,これらの構造等を用いることによる保護の対象は完成した建築物(及び敷地)の所有者(使用者)及びその周辺住民等であるといえる。また,同法2条7号ないし9号は定義規定であり,その文言上,火災時を前提とした火力に対する性能を要求しているにとどまることからしても,これらの規定が建築工事に際して当該工事に従事する建築作業従事者の生命,健康及び財産をもその直接的な保護対象とするものと解することはできない。 よって,被告国(内閣,建設大臣等)は,建築現場において建築作業に従事する建築作業従事者との関係において,同人らの生命,健康を保護するた め,建基法2条7号ないし9号に基づき,既に行った指定,認定の削除をし,また,新たな指定,認定を行わず,また,これらの規定に基づいて指定,認定を行う際に,建築作業に従事する建築作業従事者の生命,健康を保護するために石綿粉じん曝露防止が可能となるような条件を付す等の措置を講すべき職務上の法的義務を負うものではなく,したがって,被告国(内閣,建設大臣等)が前記各行為を行わなかったことが,被災者ら建築作業従事者との関係において国賠法1条1項の適用上違法となると認めることはできない。 3 原告らは,不燃材料(建基法2条9号)について,昭和45年改正建基令108条の2の創設の際に,「防火上,有害な煙又はガスを発生しないこと」(同条1項2号)という基準が定められたこと,及び,昭和45年改正建基法37条が条文の文言上明らかに「建築材料の品質」に着目し,その建築材 2の創設の際に,「防火上,有害な煙又はガスを発生しないこと」(同条1項2号)という基準が定められたこと,及び,昭和45年改正建基法37条が条文の文言上明らかに「建築材料の品質」に着目し,その建築材料ごとに,「安全上」も技術的基準に適合することを要求していることからすれば,建基法の趣旨目的に建材の安全性確保が含まれることは明らかであるとし,さらに,昭和45年改正建基法37条が,建築物の基礎,主要構造部その他安全上,防火上又は衛生上重要である政令で定める部分に使用する木材,鋼材,コンクリートその他の建築材料として建設大臣等が定める指定建築材料は,その品質が,指定建築材料ごとに建設大臣等の指定する日本工業規格又は日本農林規格に適合するもの,又は,指定建築材料ごとに建設大臣等が定める安全上,防火上又は衛生上必要な品質に関する技術的基準に適合するものであることについて建設大臣等の認定を受けたものでなければならない,と定めていることから,建基法2条7号ないし9号が内閣又は建設大臣等に建材の指定,認定の省令制定権限を委任した趣旨には,健康に著しく有害な建材を排除して国民の生命,健康の安全性を確保する趣旨をも含むと解することができる旨主張する。 しかし,昭和45年改正建基令108条の2は,不燃材料(建基法2条9号)が有すべき性能について,「通常の火災時」の加熱に対して「防火上」 有害な煙又はガスを発生しないことを定めたものであり,また,昭和45年改正建基令108条の2においては屋内及び屋外という2つの使用条件に分けて規定されており,専ら外部仕上げにのみ用いられるものについては発煙等が避難に支障を与えるとは考えられないため,建築物の外部の仕上げに用いるものについては「防火上有害な煙又はガスを発生しない」という性能を不要としていることか 上げにのみ用いられるものについては発煙等が避難に支障を与えるとは考えられないため,建築物の外部の仕上げに用いるものについては「防火上有害な煙又はガスを発生しない」という性能を不要としていることからすれば,同条は火災に対する建築物自体の性能を定めるものであって,これにより火災時における国民の生命,健康の保護を目的とするものと解されるのであるから,同条が定められたことは,建基法の趣旨目的に建材自体の安全性確保が含まれると解する理由とはならない。 また,昭和45年改正建基法37条は,建材の品質に関する規定ではあるが,同条は単体規定であり,1個の建築物に着目して,その構造等に制限を加え,建築物を地震,火災等から守り,その建築物を利用している人々の生命,健康及び財産を守るという観点から定められたものであって,建材自体の安全性確保を意図した規定ではないから,当該規定を理由に,建基法2条7号ないし9号が内閣又は建設大臣等に建材の指定,認定の省令制定権限を委任した趣旨には,健康に著しく有害な建材を排除して国民の生命,健康の安全性を確保する趣旨をも含むと解することはできないし,さらに,建基法の趣旨目的に建材自体の安全性確保が含まれると解することもできない。 よって,原告らの主張は採用することができない。 第2 建基法90条に基づく被告国の責任について 1 原告らは,建基法90条は,「工事の施工」による影響が当該工事の現場に限られず,当該工事現場の周辺に及ぶことから,工事関係者や周辺の住民を含め,およそ人の生命,身体に対し「工事の施工」による「危害」が加えられないような措置を執ることを義務付けた規定であり,労働関係法令による労働者保護の規制と重畳的に適用されるものであるとして,被告国(内閣)は建基法90条2項に基づき建築作業従事者を含む工事関係人の れないような措置を執ることを義務付けた規定であり,労働関係法令による労働者保護の規制と重畳的に適用されるものであるとして,被告国(内閣)は建基法90条2項に基づき建築作業従事者を含む工事関係人の生命,身体 の保護のために,石綿粉じんによる健康被害を防止すべく石綿粉じん曝露防止のための技術的基準を定めることによって,建築作業従事者に対する石綿粉じん曝露防止策を講ずる権限を有しており,かつ,被告国(内閣)は,建築作業従事者の中には労働関係法令における規制の保護対象とならない一人親方等の存在を認識していたこと等からすれば,被告国(内閣)は,建基法90条2項に基づいて,労働関係法令の保護対象とならない建築作業従事者の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患罹患を防止するため,原告らが労働関係法令に関して主張する前記第3章第2節第1,1(5)及び(6)の規制と同様の規制をすべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったことは,著しく不合理であって国賠法1条1項の適用上違法である旨主張する。 2(1) 第二次世界大戦後,我が国においては,建築物の質の低下及び老朽化により全国的に地震,風水害,火災等による建築災害が相次いで発生したことから,被告国(建設院)は市街地建築物法の臨時特例の廃止等の措置を講じる等により対処していたが,昭和24年頃,経済事情が好転し始めたこともあり,被告国(建設省)は,市街地建築物法を全面的に見直してこれに代わる新たな法律を定めることとし,昭和25年に,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低基準とこれを守らせるための行政手段について定めた建基法を制定したものである(乙アB78)。そして,前記第1,2(2)で述べたとおり,我が国においては,木造建築物が多いことから火災が相次ぎ,これによる富の喪失が深刻な問題と 行政手段について定めた建基法を制定したものである(乙アB78)。そして,前記第1,2(2)で述べたとおり,我が国においては,木造建築物が多いことから火災が相次ぎ,これによる富の喪失が深刻な問題となっていたため,近代的不燃都市の建設が企画され,建基法はその手段の一つとして制定されたものであって,同法においては個々の建築物の防火や火災発生時の延焼防止を意図した規定が置かれていることから,建基法においては,火災による国民の生命,健康及び財産の保護を図ることが主要な目的の一つであったと解される。 以上に加え,建基法が建築物の敷地,構造等に関する最低基準として第2 章及び第3章において定める単体規定及び集団規定,並びに前記最低基準の実効性を確保するための同法9条による違反建築物に対する措置に関する規制は,工事中又は完成後の建築物又はその敷地それ自体に関する規制であり,建築工事における施工方法にまでは及ばないことも考慮すれば,建基法の趣旨及び目的に,建築作業中に発生する労働災害から建築作業従事者の生命,健康を保護することが含まれると解することはできない。 さらに,昭和22年に労働者の安全と衛生を確立する基礎となる法律として旧労基法が制定され,その後,生産活動の活発化,技術革新の進展及び雇用情勢の変化等により,一般に労働災害が増加するとともに重篤な災害も続発するようになったことから,社会の実態を踏まえた危害予防対策等を規定し,労働者の生命と身体を災害や疾病から保護するための法律として,昭和47年に安衛法が制定されたことをも考慮すれば,建築作業に従事する労働者の生命,健康の保護については,前記のような制定経緯及び目的を有する建基法ではなく,旧労基法及び安衛法が担うべきものと解される。 (2) さらに,建基法90条1項は「建築物の建 作業に従事する労働者の生命,健康の保護については,前記のような制定経緯及び目的を有する建基法ではなく,旧労基法及び安衛法が担うべきものと解される。 (2) さらに,建基法90条1項は「建築物の建築,修繕,模様替又は除去のための工事の施工者は,当該工事の施工に伴う地盤の崩落,建築物又は工事用の工作物の倒壊等による危害を防止するために必要な措置を講じなければならない。」とし,工事現場の危害の防止について定めているが,①同条は建基法の「雑則」に定められていること,②同条は,建築物が次第に密集し,高層化が進むにつれて,建築物の工事に伴って落下物が付近通行人を死傷させたり,基礎工事の際に地下に埋設されたガス管や水道管を損壊し,あるいは根切り工事のために地盤が崩壊したり隣家が倒壊する等の事故が起こるなど,周囲の第三者に対して被害を与えることが多くなってきたことから,建築物の建築等の工事自体による危害の防止に関する規定を設け,さらにこれら工事の施工について同規定の違反があった場合に特定行政庁が是正措置を命じ,さらに代替執行による強制措置がとれるよ うに定めたものと解されること(甲A1050,乙アB92),③同条が「危害」の例示として挙げる「地盤の崩落,建築物又は工事用の工作物の倒壊等による危害」は,いずれも建築現場において建築作業に従事する労働者に固有の労働災害ではなく,建築現場周辺の住民等に生じ得る危害であること,④同条2項の委任に基づき建基令に定められた建基法90条1項の措置の技術的基準については,(i)一定の高さ以上の建築物の建築工事等において工事期間中工事現場の周囲に仮囲いをする義務(建基令136条の2),(ⅱ)根切り工事,山留め工事等の基礎工事を行う場合に,地下に埋設されたガス管,ケーブル,水道管及び下水道管の損壊や,近 事等において工事期間中工事現場の周囲に仮囲いをする義務(建基令136条の2),(ⅱ)根切り工事,山留め工事等の基礎工事を行う場合に,地下に埋設されたガス管,ケーブル,水道管及び下水道管の損壊や,近接する建築物等の傾斜又は倒壊等よる危害の発生を防止するための措置を講じる義務(同条の3),(ⅲ)基礎工事用機械等の転倒による危害を防止する義務(同条の4),(ⅳ)建築工事等の工事現場の境界線から一定の範囲内において落下物に対する防護措置を講じる義務(同条の5)等,いずれも建築工事により周囲の第三者に対して発生する危害を防止するための規定であること(乙アB92),⑤昭和33年10月4日政令第283号による改正により建基令に「第7章の2 工事現場の危害の防止」(同施行令136条の2ないし7)が設けられた際に,この改正に関して発出された「建築基準法施行令の一部改正について」(昭和33年10月17日住発第257号)においては,「他法令との関係」として,安衛則との関係に関し,「積載能力2トン以上の人荷供用又は荷物用エレベーター及び工事現場の労働者の危害防止の措置については労働安全衛生規則が適用されるが,政令の運用に当たっては,特に工事現場の危害防止の措置について一般人,隣接建築物等に対する予防措置に重点を置くものとする。」とされていたこと(乙アB89),⑥平成4年改正建基法の施行(平成5年6月25日施行)に伴い発出された「都市計画法及び建築基準法の一部を改正する法律等の施行について」(平成5年建設省住指発第225号, 建設省住街発第94号)において,建基令136条の4の規定(基礎工事用機械等の転倒による危害の防止)における「「危害」には労働災害が含まれないこと。」とされ,「「地盤の状況等により危害防止上支障がない場合」とは,地盤が十分 いて,建基令136条の4の規定(基礎工事用機械等の転倒による危害の防止)における「「危害」には労働災害が含まれないこと。」とされ,「「地盤の状況等により危害防止上支障がない場合」とは,地盤が十分な強度を有する場合又は基礎工事用機械若しくは移動式クレーンの転倒によって危害を受けるものが工事現場の周辺にない場合であること。」とされていること(乙アB90)等からすれば,建基法90条にいう「危害」は,建築工事の施工に際して,一般通行人,隣接建築物及び隣接地盤等に一般的に生じ得る危害を意味するものであって,建築現場において建築作業に従事する労働者固有の安全及び衛生上の危害については当該「危害」には含まれないと解される。 (3) 以上のことから,建築作業中に発生する労働災害から建築作業従事者の生命,健康を保護することは建基法の趣旨及び目的に含まれるものではなく,かつ,建基法90条は,建築工事等の工事施工者に対し,建築工事の施工に際して,一般通行人,隣接建築物及び隣接地盤等に一般的に生じ得る危害を防止する措置を講じることを義務付ける規定であって,同条2項の委任の範囲も前記措置の技術的基準に限られる。建築工事において石綿含有建材を取り扱うことにより石綿粉じんに曝露し石綿関連疾患に罹患することは,建築作業に従事する建築作業従事者に固有の危害であるといえるため,建基法90条の「危害」には含まれないと解されることから,当該危害を防止する措置の技術的基準を定めることは同法2項の委任の範囲を超えるものであって,被告国(内閣)が同項に基づき前記のような技術的基準を定める義務を負うとは認められない。したがって,被告国(内閣)が原告らに対する関係において前記義務を負わない以上,被告国(内閣)が同項に基づき原告らの主張する内容の規制を行わなかったことが国賠法1 定める義務を負うとは認められない。したがって,被告国(内閣)が原告らに対する関係において前記義務を負わない以上,被告国(内閣)が同項に基づき原告らの主張する内容の規制を行わなかったことが国賠法1条1項の適用上違法であるということはできない。 なお,原告らは,建基法90条2項に基づき定めるべき技術的基準の内容として,前記第3章第2節第1,1(5)及び(6)で主張する各規制と同様の定めをすべきであったと主張するが,原告ら建築作業従事者との関係で被告国(内閣)の規制権限の不行使が違法となる可能性があるのは,前記第1節第4,2(5)記載のとおり,昭和50年10月1日以降,工事施工者に対し,石綿含有建材を取り扱う工事現場において建築作業従事者に防じんマスクを使用させることを義務付けるとともに,石綿含有率による限定をすることなく石綿含有建材への警告表示や建築現場における警告表示(作業現場掲示)を義務付け,その内容として,「人体に影響を及ぼす作用」として,石綿により肺がんや中皮腫等の重篤な疾患が生じること等,石綿により引き起こされる石綿関連疾患の具体的な内容及びその症状等を記載し,また,「取扱い上の注意」として,石綿粉じん曝露作業に従事する際には必ず防じんマスクを着用する必要がある旨の記載をするように義務付ける内容の規制を行わなかったことであるところ,これらは建築工事の施工に際して,一般通行人,隣接建築物及び隣接地盤等に一般的に生じ得る危害を防止するための措置であるとはいうことはできず,よって,この点においても,被告国(内閣)が,同項に基づき,前記第3章第2節第1,1(5)及び(6)の規制と同様の規制を行わなかったことが国賠法1条1項の適用上違法となることはない。 第5章当裁判所の判断(被告企業らに対する請求)第1節民法7 づき,前記第3章第2節第1,1(5)及び(6)の規制と同様の規制を行わなかったことが国賠法1条1項の適用上違法となることはない。 第5章当裁判所の判断(被告企業らに対する請求)第1節民法719条1項に基づく共同不法行為責任(争点4)第1 共同不法行為に関する主位的請求について原告らは,民法719条においては,行為と結果の個別的因果関係(到達可能性)の主張,立証を不要とする代わりに関連共同性が必要とされるが,これは客観的関連共同性で足りると主張する。そして,同条前段が認められるための要件として,減免責を許さない「因果関係を擬制」する規定であるから,「強い関連共同性」が必要であるものの,これは「複数の行為者の行為 が,結果の発生に対して社会通念上,全体として一体の行為と認められる程度の一体性を有していること」で足りると主張し,また,同条後段については,「因果関係を推定」する規定であって,減免責の主張,立証を許すものであるとして,要件としては「弱い関連共同性」,すなわち「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」で足りる旨主張する。 また,民法719条1項後段は,複数の行為者が同質の危険な行為を行い,その共同行為によって被害が発生したことは明らかであるが,加害者等を特定できない場合に,損害の公平な分担という観点から,一定の要件の下に因果関係を推定する規定であると解するべきであるとして,独立的競合,必要的競合,累積的競合及び寄与度不明の場合にも適用あるいは類推適用され,この場合の成立要件としては関連共同性が不要である旨主張する。 その上で,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(2)イのとおりの方法によって被災者ごとに「病気発症の危険性が相当程度ある建材」を選定し 場合の成立要件としては関連共同性が不要である旨主張する。 その上で,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(2)イのとおりの方法によって被災者ごとに「病気発症の危険性が相当程度ある建材」を選定し,前記建材を製造販売した建材メーカーを被災者ごとに特定して被告企業とし,当該製造販売行為を各被災者に対する加害行為であるとして,前記被告企業らの病気発症の危険性が相当程度ある建材を製造販売する行為には社会通念上全体として一個の加害行為と見ることができ,さらに当該企業間には強い関連共同性が認められること等を理由に,前記被告企業らは各原告に対して民法719条1項前段及び後段に基づき連帯して損害賠償責任を負い,また,加害者不明型(民法719条1項後段)の共同不法行為の成立要件は①因果関係を推定しうる者の範囲が特定されていること,②個別的因果関係の立証が著しく困難であること,③各被告企業の行為が被害発生の相当程度の危険性を有すること,であって,本件においては,これらの要件を全て充足しているとして,前記被告企業らは原告らに対する民法719条1項後段に基づく責任を負う旨主張する。 1 民法719条1項前段に基づく共同不法行為の成否について (1) 民法719条1項前段は,数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは,各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う旨規定している。 同項前段は,複数の者が関与して加害行為がなされる場合には,一般的には加害者側には何らかの関係性があるのに対し,被害者側において,加害者間の関係,各行為者それぞれの行為内容と結果との関係等を把握することは容易ではないことから,被害者保護の観点により,各行為者の行為内容(加害行為),各行為の関連性及び関連共同した行為と結果との因果関係を主張,立証することに の行為内容と結果との関係等を把握することは容易ではないことから,被害者保護の観点により,各行為者の行為内容(加害行為),各行為の関連性及び関連共同した行為と結果との因果関係を主張,立証することによって,個々の行為者の行為と結果との間の個別的因果関係や各行為の寄与度について主張,立証しなくとも,共同行為者各自に対し,共同不法行為と相当因果関係のある全損害について賠償を求めることができることとしたものと解される。 そして,同項前段の不法行為が成立するための要件である行為の関連共同性については,各自の行為の間に客観的関連共同性,すなわち,損害の発生に対して社会通念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性が必要であり,これで足りるというべきである。ただし,民法719条1項前段の共同不法行為が成立した場合には,共同行為者各自が共同不法行為と相当因果関係のある全損害について賠償責任を負い,かつ,共同行為者各自が個別的因果関係の一部又は全部の不存在を主張,立証することによる減免責を許さないのであるから,共同行為者各自にそのような責任を負わせるのが妥当であると認められる程度に,共同行為者間により緊密な一体性(いわゆる「強い関連共同性」)が必要である。 (2)ア原告らは,国交省データベースをもとに,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(2)イ記載の方法によって被災者ごとに「病気発症の危険性が相当程度ある建材」を選定し,その建材を製造販売した被告企業を各被災者に対する加害企業であるとして,別紙3「主位的請求及び予 備的請求対象被告一覧表」のとおり,各原告について主位的請求の被告企業を特定した上で,病気発症の危険性が相当程度ある建材の製造販売企業が当該建材を製造販売し,市場に流通させる行為は,社会通念上全体として一個の加害行 覧表」のとおり,各原告について主位的請求の被告企業を特定した上で,病気発症の危険性が相当程度ある建材の製造販売企業が当該建材を製造販売し,市場に流通させる行為は,社会通念上全体として一個の加害行為といえ,関連共同性が認められる旨主張する。 しかし,原告らが主張する病気発症の危険性が相当程度ある建材とは,前記原告らが行った特定手法から明らかなように,飽くまで国交省データベースに掲載された建材から,各被災者の職種に着目し,当該職種の者が一般的に取り扱う可能性が高い建材を特定したものであり,一部の被災者については当該被災者が現に取り扱った可能性がない建材を省く等修正を加えているとはいえ,各被災者が現実に取り扱った石綿含有建材を具体的に特定するものではない。よって,各被災者の「就労期間」による時期の制限によって一定の限定が加えられているとしても,各被災者が特定された病気発症の危険性が相当程度ある建材すべてを実際に使用したことを主張するものではない。 そして,本件被災者らは,多数の建築現場において作業に従事したものであるところ,病気発症の危険性が相当程度ある建材として特定された各種建材が製造販売された時期,場所,販売先等は多種多様であって,これらが使用される建築現場やその時期についても様々であるところ(弁論の全趣旨),前記のような原告らの特定方法は,被告とされた企業により製造販売された建材の販売時期や内容を特定するものではなく,そのため,原告らが加害行為であると主張する各被告企業らの製造販売行為の一体性を判断する基礎を欠くといわざるを得ない。 イ石綿含有建材を製造販売していた被告企業らは,いずれも営利を目的とする企業であって,それぞれ自己の利益を図るために石綿含有建材の製造販売を行っていたと考えられる。さらに,石綿含有建材は,吹付け材 イ石綿含有建材を製造販売していた被告企業らは,いずれも営利を目的とする企業であって,それぞれ自己の利益を図るために石綿含有建材の製造販売を行っていたと考えられる。さらに,石綿含有建材は,吹付け材,保温材,スレート波板,スレート平板,石膏ボード等,建材の種類ごとにそ の主な用途がある程度決まっており,さらに,他の種類の建材との間でも同じ用途に使用されることが予定されているものが存在していたのであるから,同一種類の石綿含有建材の製造販売企業との間のみならず,他の種類であってもその用途が同じ石綿含有建材を製造販売する企業との間で,それぞれ競合関係にあり(前記第4章第1節第3,1(2),甲A1172,1173,1174の73頁ないし76頁,1176,1179の94頁ないし99頁,1180,1295),そのため,前記のような被告企業間においては,利害が対立する関係が存在していたといえる。 本件において被告とされている建材メーカーの中には,一部の石綿含有建材の研究開発に関して協力関係が存在した企業や,過去に石綿含有建材を共同して販売し,又は施工に関して提携していた企業等が存在することが窺われ(甲A1108,1262の2,1297,1303,甲C13の2,101,103,108,証人W,弁論の全趣旨),よって,一部企業間に限れば,ある時期においては石綿含有建材の製造販売に関して利益が共通していたことを否定することはできないものの,建材市場における競合関係等を踏まえれば,石綿含有建材の製造(ないし加工)は,多くの場合それぞれの企業が独自で行っていたものと推認され,また,被災者ごとに特定された病気発症の危険性が相当程度ある建材につき,製造販売企業全体として共通する利益が存在すると認めるに足りる証拠はない。 さらに,販売に関しては,当 っていたものと推認され,また,被災者ごとに特定された病気発症の危険性が相当程度ある建材につき,製造販売企業全体として共通する利益が存在すると認めるに足りる証拠はない。 さらに,販売に関しては,当該建材メーカーが製造する石綿含有建材の種類によって流通経路の大枠が共通することがあるが,具体的に,流通経路として特約店,代理店,問屋,建材店,ゼネコン,プレハブメーカー,販売施工店等のいずれを採用し,具体的にどのような販売ルートを構築して,どこでどのようにどの程度の量の石綿含有建材を販売するか等については,それぞれの企業が販売する建材の大きさや販売コスト等を考慮した上で,独自の判断に基づいて決定していたものと考えられる(甲A489 の96頁・97頁,1180,1241,1294,1295,1297,弁論の全趣旨)。 被告企業ら建材メーカーは,自社でその施工まで受け持つ場合を除き(日本石綿協会安全衛生委員会石綿含有建築材料小委員会が昭和63年5月に報告した「石綿含有建材料調査報告書(施工現場等における実態調査)」(甲A1241の8頁)によれば,防耐火構造及び遮音構造の施工はメーカーの責任施工が建基法により義務付けられており,その他の施工においても石綿スレート業界は約30%程度が自社責任施工であったとされる。),自社の製造販売した石綿含有建材が建築現場において使用される可能性については認識していても,具体的にどのような建築現場でどのような建築物に使用されるかについてまで十分に認識していたとはいえず,また,自社で施工まで受け持つ場合であっても,施工を行う建築現場において使用される他の建材を具体的に把握できるとは考え難い。よって,建築現場において自社の製造販売した石綿含有建材が他社の石綿含有建材と必然的に集積,結合されることを当然の も,施工を行う建築現場において使用される他の建材を具体的に把握できるとは考え難い。よって,建築現場において自社の製造販売した石綿含有建材が他社の石綿含有建材と必然的に集積,結合されることを当然の前提として行動し,石綿含有建材の危険の同質性,危険の集積の必然性について被告企業ら(病気発症の危険性が相当程度ある建材の製造販売企業ら)が互いにその認識を共有していたとまで認めるに足りる証拠はない。 石綿含有建材に関しては日本石綿協会等いくつかの団体が存在していたところ,被告企業らの中には,所属する業界団体やその所属していた時期が異なっている企業があり,また,業界団体自体に所属していなかった企業も存在しているのであるから(弁論の全趣旨),原告らが主張するような業界団体を通じた一体性については,これを認めることはできない。 ウ原告らは,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(2)ウ(ウ)のとおり,被告企業らは早い時期から石綿含有建材の危険性を認識し,警告義務並びに石綿含有建材の製造販売中止義務及び一時製造販売停止義務を負っ ていたにもかかわらず,いずれも共同してこの義務を怠った旨主張するが,各被告企業の石綿含有建材に対する危険性の認識の程度及び認識の時期が共通していると認めるに足りる証拠はなく,また,安衛法によって定められた警告義務については,それぞれ独立して石綿含有建材の製造販売を行っている各被告企業が,石綿含有建材の製造販売業者としての地位に基づいて各自独立して負うべき注意義務であり,本件において,被告企業ら同士が共同して,警告義務,製造販売中止義務等を課されていたと認めるに足りる証拠はない。 エ以上によれば,被災者ごとに特定された,病気発症の危険性が相当程度ある建材の製造販売企業間には,加害行為の一体性を認めること 義務,製造販売中止義務等を課されていたと認めるに足りる証拠はない。 エ以上によれば,被災者ごとに特定された,病気発症の危険性が相当程度ある建材の製造販売企業間には,加害行為の一体性を認めることはできず,他に強い関連共同性を認めるに足りる事情も認められないことから,原告らの民法719条1項前段に基づく共同不法行為に関する主位的主張は採用することができない。 2 民法719条1項後段に基づく共同不法行為の成否について(1) 民法719条1項後段は,特定された共同行為者各自について因果関係以外の独立の不法行為の要件が満たされる場合に,当該共同行為者の行為それぞれが,それのみで結果を発生させる危険性を有し,被害者側に生じた損害が当該共同行為者のいずれかの行為によって発生したことは明らかであるが,その損害の一部又は全部がどの共同行為者の行為によって惹起されたのかを特定することができない場合(択一的競合の場合)に,同項前段と同様,加害者側に共同行為への加功の事実があることと,被害者側において複数者の関与により立証が困難となったことを考慮して,被害者保護の観点から,結果を惹起した行為者を特定することなく,発生した損害と複数の共同行為者の各行為との因果関係を推定し,損害賠償を請求することができることとしたものと解される。なぜなら,この規定は,特定の複数の行為者につき,それぞれ因果関係以外の点では独立の不法行為の 要件が具備されている場合において,被害者に生じた損害がいずれかの共同行為者の加害行為によって発生したことが明らかとなったにもかかわらず,他の同様の加害行為が存在するとされた途端に,一方の加害行為と損害との間に因果関係の存在することを立証することが困難となり,そのために被害の回復が図られないとした場合には,明らかに被害者 かわらず,他の同様の加害行為が存在するとされた途端に,一方の加害行為と損害との間に因果関係の存在することを立証することが困難となり,そのために被害の回復が図られないとした場合には,明らかに被害者の保護に欠けることとなることから,被害者を救済するため,いずれかの加害行為について前示の要件が充足されている限り,各複数の行為者による加害行為と損害との間に因果関係が存在することを法律上推定するとしたのが同規定の趣旨というべきだからである。このように,民法719条1項後段の共同不法行為は,被告とされている共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されていることを,原告において主張立証することを要するものであり,結果を惹起していない行為者に対しても連帯責任を課すのは被害者側の証明の困難に由来するものであるから,共同行為者は,自己の行為と被害者側に発生した損害との間に因果関係が存在しないこと,又は,自己の行為の損害発生に対する寄与の程度を主張,立証することによって,責任の免除又は減責が認められると解するのが相当である。 これに対し,原告らは,民法719条1項後段は「因果関係を推定」する規定であるので,「弱い関連共同性(基礎的な関連共同性)」,が存すること,すなわち「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」で足り,それで十分であると主張する。しかし,原告ら主張のように要件を緩やかに解した場合には,当該被害者が被った損害との間には因果関係がなく,本来損害賠償責任を負担しない行為者についても責任を負わせる可能性が生じることとなる。 因果関係の立証が不十分な状態で損害賠償責任を負わせることを認める以上,行為者の側にも防御の手がかりが与えられるべきであり,また,共同 い行為者についても責任を負わせる可能性が生じることとなる。 因果関係の立証が不十分な状態で損害賠償責任を負わせることを認める以上,行為者の側にも防御の手がかりが与えられるべきであり,また,共同 行為者の範囲が無限定に拡がることを防止する必要があることから,「被告とされている共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されていること」が主張立証されなければならず,これができない場合には,少なくとも「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」に加えて,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」について主張立証することを要すると解される。 (2) 本件における被告企業らに対する請求については,後記アないしウのような国交省データベースの性質及び問題点からすれば,国交省データベースが,石綿含有建材を製造販売したことがある企業を網羅しており,現在までに製造販売された石綿含有建材の種類,用途等を正確に把握しているとは認められず,よって,同データベースの掲載情報を基礎とした「病気発症の危険性が相当程度ある建材」の製造販売企業の特定によって,被告とされている共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されていること,又は,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」が主張立証されているとは認め難い。 ア国交省データベースは,建設事業者,解体事業者及び住宅・建築物所有者等が,解体工事等に際し,使用されている建材の石綿含有状況に関する情報を簡便に把握できるようにすることを目的として,建材メーカーが過去に製造した石綿含有建材に関す ,解体事業者及び住宅・建築物所有者等が,解体工事等に際し,使用されている建材の石綿含有状況に関する情報を簡便に把握できるようにすることを目的として,建材メーカーが過去に製造した石綿含有建材に関する情報を提供するものである。国交省データベースに登録されている建材情報は,石綿を含有する吹付け材,保温材,耐火被覆材,断熱材,石綿含有成形板等について関係業界団体,建材メーカー等の公表データ,既に公表されているデータ以外で国交省データベースの構築に際して協力が得られた関係業界団体及び建材メーカーが所 有するデータ,建築基準法に基づき認定された防火材料等を編集した,「耐火防火構造・材料等便覧(平成12年)」に掲載されているデータ等を対象として収集・整理し,これをもとに,建材メーカー等に,石綿含有建材として把握し,情報を有している建材の確認を依頼するという手続を経て整備したものである。 そして,国交省データベースに登録されている建材情報の正確性については,前記方法によって整備したものであるから,国交省及び経産省が保証するものではないとされている。 また,「データベースの留意点」として,「本データベースは,以下に掲げる限界等が想定され,石綿(アスベスト)含有状況について十分な情報を提供できない可能性がありますのでご留意ください。」とされ,①既に廃業しているメーカーの製品及び「耐火防火構造・材料等便覧(平成12年)」に掲載されているものの建材メーカーの確認がとれていないもの等について,完全な情報整備には至っていないため,実際に存在する石綿含有建材を検索できない場合があること,②建築物の竣工年,使用部位等から建材の検索を行うことができるものの,検索結果の十分な絞込みが困難な場合が想定されること,③製造期間について,建材メーカーによって 有建材を検索できない場合があること,②建築物の竣工年,使用部位等から建材の検索を行うことができるものの,検索結果の十分な絞込みが困難な場合が想定されること,③製造期間について,建材メーカーによっては,製造していた当時の記録が現在は存在しない等の理由から安全側に判断し,当時製造していたと推定される期間より長めの製造期間を申告している場合があること,④建材メーカーにおいて石綿が含有されていることは確認されているものの,含有率及び石綿の種類が確認出来ない建材については,石綿含有率及び石綿の種類が「情報なし」と表示されていること,が記載されている。 さらに,国交省データベースにおける石綿含有建材の施工部位・使われ方に関する情報は,個別商品ごとに建材メーカーが想定した施工部位・使われ方を当該建材メーカーから情報収集するとともに,住宅の建設事業者 等の建材の使用(施工)者の観点から,実際に建材が用いられている施工部位・使われ方を調査,整理し,両者のいずれかに該当する施工部位・使われ方を形成板等の建材について一般名単位で選定しているとされるが,検索に用いる施工部位・使われ方の情報が,個別商品ごとに建材メーカーが想定した施工部位・使われ方と必ずしも一致しない場合があるため,検索できない可能性がある。 (乙メ6の1・2)イ東京都が発行した,「民間建築物等のための建築物アスベスト点検の手引」(平成17年9月発行,平成18年9月改訂)中の「石綿含有材料の一覧」における記載(乙ト9)と国交省データベースにおいて把握されている建材メーカー及び石綿含有建材(乙ト14)との比較によっても,吹付け石綿についてd(現在のメーカー名不明),石綿含有吹付けロックウールについてe(現在のメーカー名不明),f株式会社(現在のメーカー名はg株式会社), 綿含有建材(乙ト14)との比較によっても,吹付け石綿についてd(現在のメーカー名不明),石綿含有吹付けロックウールについてe(現在のメーカー名不明),f株式会社(現在のメーカー名はg株式会社),石綿含有吹付けパーライト及び石綿含有吹付けバーミキュライトについてh(現在のメーカー名同じ)等,国交省データベースが把握できていない建材メーカーないし石綿含有建材があることが窺える。 ウ原告らが本件において被告としていない石綿含有建材の製造販売企業は,国交省データベースに登録されているだけでも40社以上ある(乙ト10,14)。また,国交省データベースは,廃業した建材メーカーについては把握できていないとしているのであるから,これを踏まえると,被告企業ら以外にも,本件被災者らの石綿関連疾患罹患の原因となった石綿含有建材を製造販売等した可能性がある企業が存在すると考えられる。 (3) 加えて,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(2)イの方法による特定は,各被災者の個別事情を一定程度考慮して修正を加えているとはいえ,飽くまで各被災者の職種に着目して,当該職種が取り扱う可能性が高い建材を特定した上で,その種類の建材を製造販売していた建材メーカー を国交省データベースの情報を基に特定し,被告企業としているものであり,そのため,各被災者が就労していた期間内にどこかの建築現場で「病気発症の危険性が相当程度ある建材」が使用されており,各被災者と同一職種の者が当該建材のいずれかの使用等によって当該建材に起因する石綿粉じんに曝露した可能性があることは推認されるものの,各被災者個人と特定された全ての被告企業らの製造販売行為との結びつきを主張立証するものとは解されず,また,国交省データベース上の情報の欠損等によって除外された建材もあること等から 推認されるものの,各被災者個人と特定された全ての被告企業らの製造販売行為との結びつきを主張立証するものとは解されず,また,国交省データベース上の情報の欠損等によって除外された建材もあること等からすれば,原告らが主張する病気発症の危険性が相当程度ある建材及びその製造販売企業についての絞り込みによって,被告とされている共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されているという要件や,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」との要件が充足されたと認めることはできない。 これに対し,原告らは,病気発症の危険性が相当程度ある建材・企業についての絞り込みによって,被災者らの石綿関連疾患発症に影響を与えた石綿含有建材及び企業をほぼ100%特定していることから,「因果関係を推定しうる者,すなわち加害者として責任を負う者の範囲を限定すること(被告企業以外に疑いをかけるべき者が存在しないこと)」という要件は十分に充足・強化されたと主張する。しかし,原告らが行った絞り込みの基本資料である国交省データベースが,石綿含有建材の製造販売企業を網羅するものと認められないことは前記(2)のとおりであり,このような不十分な資料を前提として,さらに,曝露した可能性が極めて低い建材を除外する作業をしたとしても,被災者らの石綿関連疾患発症に影響を与えたと考えられる企業を網羅的に把握していると認めることはできないというべきである。また,原告らの病気発症の危険性が相当程度ある建材に係る主張は,前記のとおり,各被災者が現実に取り扱った石綿含有建材を具体的に 特定するものではないのであるから,被告とされた企業の製造販売行為によって全部の結果が惹起された蓋然性を主張するものでは ,前記のとおり,各被災者が現実に取り扱った石綿含有建材を具体的に 特定するものではないのであるから,被告とされた企業の製造販売行為によって全部の結果が惹起された蓋然性を主張するものではなく,原告らの主張は採用できない。 したがって,原告らの民法719条1項後段の適用に基づく共同不法行為に関する主位的主張は採用することができない。 (4) また,原告らは,民法719条1項後段が,択一的競合の場合のみならず,独立的競合,必要的競合,累積的競合及び寄与度不明の場合にも適用あるいは類推適用される旨主張する。しかし,仮に前記各場合にも同条後段の適用ないし類推適用がなされると解したとしても,独立的競合の場合には,そもそも各共同行為者との関係においてそれぞれ不法行為の成立要件が全て充足されていなければならないため,各行為者の行為と各被害者に生じた損害との間に因果関係が認められなければならず,その他の場合には,前記同条後段の趣旨及び効果に照らし,共同行為者の行為が累積ないし寄与することによって損害が発生したことの主張立証が必要であると解すべきであるから,本件の場合には,原告側において,少なくとも,各被災者が建築作業に従事した建築現場において実際に使用され,かつ,当該被災者が当該建材に起因する石綿粉じんに曝露する可能性があった石綿含有建材を製造販売した企業を共同行為者として特定する必要があるというべきである。しかし,原告らは,以上の点に関して具体的な主張立証を行っていないため,前記民法719条1項後段の適用ないし類推適用による共同不法行為の成立を認めることはできない。よって,前記原告らの主張を採用することはできない。 第2 共同不法行為に関する予備的請求について原告らは,前記第1と同様の民法719条1項前段及び後段の解釈を示し 成立を認めることはできない。よって,前記原告らの主張を採用することはできない。 第2 共同不法行為に関する予備的請求について原告らは,前記第1と同様の民法719条1項前段及び後段の解釈を示した上で,前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(3)イのとおりの方法により被災者ごとに特定した主要原因企業による主要原因建材の製造販売行為 を加害行為とし,主要原因建材は,前記病気発症の危険性が相当程度ある建材よりも被災者らの就労現場への到達可能性がより高い建材を特定したものであるなどとして,当該加害行為はより一層社会通念上全体として一個の行為と見ることができ,さらに,主要原因企業らには自らが製造販売した石綿含有建材と他社の石綿含有建材が被災者らに同時あるいは異時的に集積,累積されることによって,被災者らに石綿関連疾患の発生の強い危険性を生じさせることを認識しあるいは容易に認識できたのであるから,主観的関連共同性が存在し,さらに,主要原因企業間には利益共同体としての一体性,業界団体を通じての一体性,石綿スレート業界ないし吹付け石綿業界における一体性等が存在することから強い関連共同性が認められるとして,被告企業(主要原因企業)らは各原告に対し民法719条1項前段及び後段に基づき連帯して損害賠償責任を負い,さらに,被災者らの石綿関連疾患の発生について影響度の高い主要原因建材及び主要原因企業を特定し,これによって被災者らの石綿関連疾患の発生に対する主要原因建材及び主要原因企業の影響度が80%以上であることを明確にしたのであるから,「因果関係を推定し得る者の範囲の特定」を高度の蓋然性をもって立証した等と主張して,被告企業(主要原因企業)らは各原告に対し,民法719条1項後段に基づく責任を負う旨主張する。 1 民法719条1項前段に基 推定し得る者の範囲の特定」を高度の蓋然性をもって立証した等と主張して,被告企業(主要原因企業)らは各原告に対し,民法719条1項後段に基づく責任を負う旨主張する。 1 民法719条1項前段に基づく共同不法行為の成否について (1) 民法719条1項前段について,前記第1,1(1)のとおり解釈した場合,同項前段に基づく共同不法行為が成立するためには,その要件の一つとして,被告企業(主要原因企業)らの間に強い関連共同性が存在することが必要である。 (2)ア原告らの予備的主張における被告企業の特定方法は前記第3章第2節第2,1【原告らの主張】(3)イのとおりであるところ,原告らは,当該特定方法は,各被災者の就労期間及び就労実態を考慮し,取り扱ったこ とがないと判断される石綿含有建材等については除外するなどした上で,各被災者の主要原因建材を特定した後,主要原因企業の特定においては,吹付け材,耐火被覆材及び保温材については国交省データベース上に掲載された製造企業全てを(シェアを考慮しない),国交省データベースにおいて同種建材の製品数又は製造企業数が非常に多い建材(スレート,けい酸カルシウム板第1種,けい酸カルシウム板第2種,押出成形セメント板,窯業形サイディング),又は,製造企業間のシェア格差が非常に大きい建材(天井板,住宅用屋根材)については,被災者らの供述等から製造企業が特定できない場合には,建材の種類ごとにシェアの合計が80%以上になるようにシェア上位企業を選定し,ある種類の石綿含有建材を主要原因企業として特定した場合には原則としてこれらの企業を主要原因企業とするという方法により,各被災者について被告企業を特定したと主張している。 このような特定方法は,各被災者の個別の就労態様等を考慮しているとはいえ,これが は原則としてこれらの企業を主要原因企業とするという方法により,各被災者について被告企業を特定したと主張している。 このような特定方法は,各被災者の個別の就労態様等を考慮しているとはいえ,これが具体的に反映されているのは,原則として,当該被災者が主にどのような種類の石綿含有建材に起因する石綿粉じんに曝露したと考えられるかという点についてであって,一部例外的な場合を除き,当該被災者が曝露した石綿粉じん量が多いと考えられる石綿含有建材の種類(「病気発症への影響度が特に高いと考えられる建材」)が特定されれば,それ以降は国交省データベースの情報や市場におけるシェアを根拠として被告とすべき建材メーカーを特定したものと解される。 一部の石綿含有建材については,その開発等に関して企業間で何らかの提携がなされていたことが窺われるものがあるが,原則として,被災者ごとに主要原因企業として特定された被告企業らが主要原因建材を製造,販売した時期,場所はそれぞれ異なっており(弁論の全趣旨),これらの建材が使用された建築現場や使用時期についても様々であって,さらに,本 件各被災者が建築作業に従事した建築現場が複数あること,加えて,国交省データベースの掲載情報には前記第1,2(2)記載の限界及び問題点が存在することに照らせば,前記のような特定方法では,各被災者の就労期間において製造販売され,各被災者が建築作業に従事した建築現場のうちのどこかで使用された可能性がある石綿含有建材及びそのような建材を製造販売した建材メーカーを特定したにすぎないといわざるを得ず,製造販売行為の一体性を判断するに足りるだけの特定がなされているとはいえない。よって,各被災者との関係において,被告とされた建材メーカー(主要原因企業)らによる石綿含有建材の製造販売行為が社会通念 製造販売行為の一体性を判断するに足りるだけの特定がなされているとはいえない。よって,各被災者との関係において,被告とされた建材メーカー(主要原因企業)らによる石綿含有建材の製造販売行為が社会通念上全体として一個の行為と認められる程度の一体性を有すると認めることはできない。 イ各被災者ないしその遺族等の記憶や同人が実際に建築作業に従事した建築現場のうちの一部の現場における特記仕様書等により,同人が実際に使用したか又は使用した可能性がある石綿含有建材の製品名ないし石綿含有建材の製造販売企業名を具体的に指摘している被災者も存在するが(甲A1186の1・5・8・13・15・19),そのうち,原告1,被災者5,被災者15及び原告19は,その他の企業の製品を使用していないわけではなく,各企業の使用割合も不明であるとして,これらの指摘は国交省データベースに基づいて特定した製造企業の一部の裏付けとして位置づけ,記憶していない企業を除外するということはしていない(甲A1186の1・5・15・19)。なお,特記仕様書においては,使用する建材及び使用メーカー名等がある程度具体的に記載されているが,当該記載がされている建材ないしメーカーの製品が必ず使用されるというものではなく,記載されている建材ないしメーカーと同等の品質を有するもの又は同等の技術経歴を有するものを使用することが指示されているものであるから,実際の建築作業においては,別の建材ないしメーカーの製品が使用されている可能性がある(甲A1186の1,1290の3・4・9,12 91の2・4)。 被災者7に関しては,内装工に従事していたことから,主要原因建材を住宅屋根用化粧スレート及び吹付け材とし(保温材及びスレート波板についてはこれらに起因する粉じんにも曝露しているが,保温材は石 )。 被災者7に関しては,内装工に従事していたことから,主要原因建材を住宅屋根用化粧スレート及び吹付け材とし(保温材及びスレート波板についてはこれらに起因する粉じんにも曝露しているが,保温材は石綿含有建材であったか不明であり,スレート波板は取扱頻度が少ないことから主要原因建材から除外するとされた。),住宅屋根用化粧スレートについては,同人の遺族の記憶により特定(被告9及びi株式会社)しているが,吹付け材については国交省データベース掲載された8社全てを主要原因企業として選定している(甲A1186の8)。 原告13については,同人の記憶している具体的な建材名に基づいて一定の範囲で選定しているものの,吹付け材については具体的な建材名等の特定はできないとして国交省データベースに掲載されている吹付け材の製造販売企業全てを主要原因企業として特定している(甲A1186の13)。 以上のことからすれば,前記のような一定の具体的な製品名及び企業名が指摘されている被災者についても,それぞれ被告として特定した企業について,当該被告企業らがいつ,どこで製造販売した石綿含有建材が,どの時期にどの建築現場において使用された可能性があるのかが不明であるから,各被災者との関係において,被告企業らによる石綿含有建材の製造販売行為が社会通念上全体として1個の行為と認められる程度の一体性を有すると判断することはできない。 ウ被災者2については,船内大工として就労していた時期があるところ,原告らは,船舶材については,船舶の安全のための国際条約である海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS)に基づき,法令等で基準が定められており,こうした基準の策定及び審査を国際的な審査機関である船級協会が行っているところ,日本海事協会(NK)は,世界有数の のための国際条約(SOLAS)に基づき,法令等で基準が定められており,こうした基準の策定及び審査を国際的な審査機関である船級協会が行っているところ,日本海事協会(NK)は,世界有数の 船級協会であり,我が国で製造される大型船の多くは,同協会が認定又は承認した「防火構造関係材料」を用いているため,同協会が策定して公表している「認定材料及び機器並びに承認材料一覧」は,主要な石綿含有船舶材を網羅していると考えられるとして,被災者2が就労していた時期に発行された同資料(昭和43年から昭和57年版)から船室の天井及び隔壁に用いられる船舶材のうち,あらかじめ国交省データベースに基づき選定していた被告企業(本件における訴え変更前の被告企業ら)の製品で,石綿含有製品である可能性がある者を抽出し,さらに,被告企業らのホームページ,国交省データベース等を参照し,被災者2の就労期間(昭和42年から昭和58年)に製造された同一名称又はほぼ同一名称の製品が石綿含有製品であると確認できたものを基に,被災者2の作業実態等を考慮して,不燃ボード(硬質石綿板,フレキシブルボード,スレートボード,けい酸カルシウム板第1種)と防音ボード(フレキシブルボード,パーライトボード,ロックウール吸音板)を主要原因建材として特定した上で,主要原因企業を特定しているところ(甲A1186の2),このような特定方法では,被災者2が,船内大工として就労していた期間において,主要原因企業が製造していた前記不燃ボードないし防音ボードと同種の石綿含有建材から発生した石綿粉じんに曝露した可能性は推認されるものの,当該主要原因企業が製造販売した石綿含有建材に起因する石綿粉じんに曝露したことを推認することはできず,よって,そもそも加害行為の一体性を判断する基礎を欠く。 エまた,本 能性は推認されるものの,当該主要原因企業が製造販売した石綿含有建材に起因する石綿粉じんに曝露したことを推認することはできず,よって,そもそも加害行為の一体性を判断する基礎を欠く。 エまた,本件被災者ら19名のうち12名(原告1,被災者2,原告3,被災者4,被災者5,被災者6,被災者7,原告9,被災者14,原告16,原告18,原告19)については,シェアによる主要原因建材の特定がなされているところ(甲A1184,1185),特定の種類の建材に占めるシェアが大きいことから,市場における流通量が多いことは推認さ れるものの,建築現場において実際にどの建材が使用されるかは流通量のみによって決まるものではなく,建築を請け負ったゼネコンや下請業者らの取引関係,当該建築物の性質及び用途,建築費用(建材の価格),具体的な建築現場と建材の製造工場ないし保管場所との距離(運搬の容易さ)等様々な要因が影響すると考えられることからすれば,単純にシェアが大きいということをもって,被災者らが主要原因企業の製造販売した石綿含有建材によって石綿粉じんに曝露したと推認することはできない。 (3) 原告らは,主要原因企業間には,危険共同体としての一体性,利益共同体としての一体性,業界団体を通じての一体性,企業間の提携関係の存在等があることを理由に,強い関連共同性が存在すると主張する。 しかし,前記(2)からすれば,主要原因企業の特定によっては,当該企業らによる抽象的な侵害行為の可能性が示されているにすぎず,これらの企業間に危険共同体としての一体性を認めることはできない。また,前記第1,1(2)イ記載のとおり,建材メーカーは営利企業であって,それぞれ自己の利益を図るために独自に建材の製造販売等を行うものであるところ,特定の企業間において相互の利害が一 はできない。また,前記第1,1(2)イ記載のとおり,建材メーカーは営利企業であって,それぞれ自己の利益を図るために独自に建材の製造販売等を行うものであるところ,特定の企業間において相互の利害が一致する部分に関し提携等をすることがあるとしても,基本的には,同種の石綿含有建材の製造販売企業間においてはもちろん,同一の用途に使用される建材については競合関係が存在し,利害が対立する関係にあるといえる。そして,本件においては,石綿含有建材の製造販売に関し,各被災者との関係においてそれぞれ特定された被告企業ら(主要原因企業ら)について,当該企業ら全体に共通する利益が存在することを認めるに足りる証拠はないことから,利益共同体としての一体性を認めることはできない。また,業界団体として石綿含有建材の製造販売に関する活動をしていたとしても,具体的な製造販売活動についてはそれぞれの建材メーカーが独自に行っていたものであり,また,原告らが主張する警告義務等は石綿含有建材の製造販売企業がそれぞれの地位に基づいて各自独立して負う べき注意義務であって,業界全体が共同して負う義務であるということはできず,本件各証拠によっても,他の企業らと共同してこれに違反したと認めることはできないことから,業界団体としての一体性についても認めることはできない。 (4) 以上のことから,被災者ごとに特定された主要原因企業間には,加害行為の一体性を認めることはできず,強い関連共同性を認めるに足りる事情も認められないことから,原告らの民法719条1項前段に基づく共同不法行為に関する予備的主張は採用することができない。 2 民法719条1項後段に基づく共同不法行為の成否について(1) 前記第1,2(1)で述べたとおり,民法719条1項後段に基づく共同不法行為が成立す 関する予備的主張は採用することができない。 2 民法719条1項後段に基づく共同不法行為の成否について(1) 前記第1,2(1)で述べたとおり,民法719条1項後段に基づく共同不法行為が成立するためには,原告側において「被告とされている共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されている」という要件の主張立証が必要であり,これができない場合には,少なくとも,「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」に加えて,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」が主張立証されなければならない。 原告らは,国交省データベースに掲載されている建材の中から,被災者が曝露した可能性が高い石綿含有建材のうち,被災者ごとの具体的な作業形態を前提として,取扱頻度,飛散性及び石綿含有率等の視点から,各被災者の石綿関連疾患の発症への影響度が特に高いと考えられる建材を選定し,これをもとに主要原因建材及び主要原因企業を特定した旨主張しているところ,その過程においては,取扱頻度は高いが無石綿製品が存在しかつ石綿含有率が低いとの理由から石膏ボードは一律に除外され,また,床材については取扱頻度が低いとして選定対象から一律に除外されていることや,スラグ石膏板,パーライト板,パルプセメント板については,建材名を知っている被災 者がほとんどいないこと,生産量が少ないこと,シェアに関する資料が乏しいこと,及び国交省データベースによればスラグ石膏板及びパルプセメント板の製造販売企業は石綿スレート等の主要原因企業に含まれていることを理由に選定対象から一律に除外していること(甲A1184,1185),さらに,前記第1,2(2)で述べた グ石膏板及びパルプセメント板の製造販売企業は石綿スレート等の主要原因企業に含まれていることを理由に選定対象から一律に除外していること(甲A1184,1185),さらに,前記第1,2(2)で述べた国交省データベースの限界及び問題点等に加え,石綿関連疾患のうち肺がん及び中皮腫については,一般環境曝露程度では発症リスクがないとされているが,閾値が存在するという実質的な証拠は現在に至るまで得られておらず,そのため,業務上曝露としては低濃度の曝露であったとしても継続的に曝露した場合には石綿関連疾患を発生させる可能性が否定できないこと等石綿関連疾患に関する現時点における医学的知見を踏まえれば(前記第2章第2節第4),原告らが主張する主要原因企業の特定方法によって,原告ごとに特定された被告企業らについて,「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」に係る主張が深められていると解する余地はあるものの,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」との要件が充足されていると認めることはできない。 また,原告らは,主要原因企業の選定においては,国交省データベースにおいて,同種建材の製品数又は製造企業数が非常に多い建材(スレート,けい酸カルシウム板第1種,けい酸カルシウム板第2種,押出成形セメント板,窯業形サイディング),ないし,製造企業間のシェア格差が非常に大きい建材(天井板,住宅用屋根材)については,被災者らの供述等から製造企業が特定できない場合には,建材の種類ごとにシェアの合計が80%以上になるようにシェア上位企業を選定しており,本件被災者19名のうち12名(原告1,被災者2,原告3,被災者4,被災者5,被災者6,被災者7,原告9,被災者1 建材の種類ごとにシェアの合計が80%以上になるようにシェア上位企業を選定しており,本件被災者19名のうち12名(原告1,被災者2,原告3,被災者4,被災者5,被災者6,被災者7,原告9,被災者14,原告16,原告18,原告19)についてはこのようなシ ェアによる選定が用いられているところ(甲A1184,1185),国交省データベースがこれまで製造販売された石綿含有建材を網羅するものではなく,石綿含有建材の製造販売企業についても全て把握するものではないという点を措くとしても,当該絞り込みは各被災者と被告企業らの製造販売行為との具体的な結びつきを前提としたものではなく,よって,シェアにより選定された主要原因企業の製造販売した石綿含有建材以外に各被災者の石綿関連疾患の発生に寄与した石綿含有建材は存在しないとは認め難く,そのため,そのような選定方法では,「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」を根拠づけることはできないといわざるを得ない。 したがって,原告らの民法719条1項後段の適用に基づく共同不法行為に関する予備的主張は採用することができない。 (2) なお,原告らが,独立的競合,必要的競合,累積的競合及び寄与度不明の場合にも民法719条1項後段が適用又は類推適用されると主張することに関しては,仮にそのような適用ないし類推適用が認められるとしても,前記第1,2で述べたとおり,本件においては民法719条1項後段に基づく共同不法行為の成立は認められないため,予備的請求との関係においても,当該原告らの主張は採用できない。 第2節製造物責任法3条に基づく責任(争点5)第1 原告らは,前記第3章第2節第2,2【原告らの主張】(1)記載の被告企業27社について,これら においても,当該原告らの主張は採用できない。 第2節製造物責任法3条に基づく責任(争点5)第1 原告らは,前記第3章第2節第2,2【原告らの主張】(1)記載の被告企業27社について,これらの被告企業が製造した石綿含有建材には,①石綿を含有するという設計上の欠陥,及び②石綿の危険性に関する警告表示が欠けているという警告上の欠陥が存在し,これらの欠陥を有する石綿含有建材を使用した結果,各被災者は石綿粉じんに曝露して石綿関連疾患に罹患したのであり,また,製造物責任法6条によって民法719条1項前段及び後段が適用される結果,前記製造物の欠陥と各被災者らの損害との間に因果関係が 認められるとして,前記被告企業27社は,連帯して,製造物責任法3条に基づく損害賠償責任を負う旨主張する。 第2 本件において原告らは,前記被告企業27社が製造販売した石綿含有建材が各被災者に到達したことについて何ら主張立証しておらず(弁論の全趣旨),原告らが主張する製造物の欠陥と各被災者の権利侵害との間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。前記因果関係については,原告らは,民法719条1項前段又は後段の適用を前提とした主張をするが,前記被告企業27社の間においても,前記第1節で述べたことと同様の理由から,加害行為の一体性及び強い関連共同性を認めることはできず,また,「共同行為者のうちの誰か(単独又は複数)の行為によって全部の結果が惹起されていること」についても,「複数の行為者の行為それぞれが,結果発生を惹起するおそれのある権利侵害行為に参加していること」に加えて「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」についても,主張立証されたとは認められないことから,本件においては,民法719条1項前段 加えて「因果関係を推定し得る加害行為者の範囲が特定され,それ以外に加害行為者となり得る者は存在しないこと」についても,主張立証されたとは認められないことから,本件においては,民法719条1項前段及び後段の適用ないし類推適用を認めることはできない。 よって,その余について判断するまでもなく,前記原告らの主張は採用することができない。 第3節小括以上のとおり,本件における原告らの被告企業らに対する民法719条及び製造物責任法3条に基づく各請求は,民法719条1項前段の要件である被告企業間の関連共同性を認めることができず,また,同条後段を適用又は類推適用する上で要求される共同行為者の特定がなされているということができないために,いずれも理由がないといわざるを得ない。 よって,本件において,被告企業らの原告らに対する責任を認めることはできない。 第6章当裁判所の判断(被告国が原告らに対して負う責任及び損害争点6)第1 被告国が原告らに対して負う責任について 1 被告国が負う責任について以上のことから,本件においては,被告国が昭和50年10月1日の昭和50年特化則施行時以降(以下「被告国の責任期間」という。),前記第4章第1節第4,2(5)カ(ア)記載の規制権限を行使しなかったこと,平成7年にクリソタイルを含む石綿の製造等を禁止すべき規制権限を行使しなかったことについて,国賠法1条1項の適用上違法であると認められる。よって,被告国は,本件各被災者のうち,昭和50年10月1日以降に建築現場において石綿粉じん曝露作業に従事し,石綿粉じんに直接又は間接的に曝露した労働者,及び,同日以降に建築現場において建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業により発生した石綿粉じんに間接的に曝露した労働者に対して,国賠法1条1項に 従事し,石綿粉じんに直接又は間接的に曝露した労働者,及び,同日以降に建築現場において建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業により発生した石綿粉じんに間接的に曝露した労働者に対して,国賠法1条1項に基づく責任を負う。 なお,前記第4章第1節第2,2(4)記載の事実によれば,びまん性胸膜肥厚に関しては,昭和50年10月1日時点において石綿粉じん曝露との関連性に関する医学的知見は確立していなかったと考えられるが,石綿関連疾患はいずれも石綿粉じんに曝露することによって発生するものであって,疾病ごとに発症に関し特別な要因が存在するものではなく,これらの疾病への罹患を防ぐためには石綿粉じんに曝露することを防止する必要があることから,結果回避措置は石綿関連疾患全体に共通するものであること,加えて,石綿肺に胸膜肥厚を伴うことは昭和50年より前から知られていたことも考慮すれば,損害賠償義務が認められる前提として,石綿関連疾患とされる各疾病について個別に予見可能性が存在することまで要求されるものではないというべきである。よって,建築現場において石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したことによりびまん性胸膜肥厚に罹患した労働者との関係においても,被告国は,昭和50年10月1日以降の前記規制権限不 行使の違法による責任を負うというべきである。 2 被災者らのうち被告国の責任期間外の石綿粉じん曝露期間が一定期間以上ある者に関する被告国の規制権限不行使と当該被災者の石綿関連疾患の発生との因果関係の有無について被告国は,①石綿肺又は肺がんに罹患した被災者らのうち,被告国の責任期間外において10年以上石綿粉じんに曝露している者,②中皮腫に罹患した被災者らのうち,被告国の責任期間外に1年以上石綿粉じんに曝露している者,及び,③びまん性 罹患した被災者らのうち,被告国の責任期間外において10年以上石綿粉じんに曝露している者,②中皮腫に罹患した被災者らのうち,被告国の責任期間外に1年以上石綿粉じんに曝露している者,及び,③びまん性胸肥厚に罹患した被災者らのうち,被告国の責任期間外に3年以上石綿粉じんに曝露している者については,被告国の規制権限不行使と当該被災者の石綿関連疾患の罹患との間に因果関係は認められないというべきであり,さらに,④被告国の責任期間外の石綿粉じん曝露期間が,前記①ないし③の各期間に満たない場合であっても,被災者らのうち,責任期間外の石綿粉じん曝露期間に比して,責任期間内の労働者としての石綿粉じん曝露期間が短期間の者については,労働関係法令に基づく規制権限の行使により,果たして石綿関連疾患に罹患することが回避できたか否か不明であるから,被告国の規制権限不行使と当該被災者の石綿関連疾患の発生との間には因果関係が認められないというべきである旨主張する。 しかし,石綿肺,肺がん,中皮腫については,量反応関係が存在すると考えられており,石綿粉じんに曝露する期間が長くなるほど発生リスクが高まるといえる。さらに,肺がんに関しては,石綿による疾病の認定基準に関する検討会が平成24年2月に報告した「石綿による疾病の認定基準に関する検討会報告書」によれば,石綿曝露作業従事期間については概ね10年以上の曝露期間があったとしても,石綿作業の内容,頻度,程度によっては必ずしも肺がんの発症リスク2倍を満たすとは限らないことから,概ね10年以上の石綿曝露期間のみをもって判断指標とするのではなく,肺がんの発生リスク2倍を満たす要件としては,胸膜プラーク等の医学的所見と併せて評価 することが必要とされているのであるから(乙アA1012の15枚目),石綿粉じん曝露期間 のではなく,肺がんの発生リスク2倍を満たす要件としては,胸膜プラーク等の医学的所見と併せて評価 することが必要とされているのであるから(乙アA1012の15枚目),石綿粉じん曝露期間が10年以上であれば肺がんを発生させるのに十分な量の石綿粉じんに曝露し,その後の曝露との因果関係がないと判断することは妥当ではない。 また,びまん性胸膜肥厚については,石綿曝露との関係では,一般に,石綿に長期間曝露した者や最初の曝露から長年経た者の有所見率が高くなると考えられており,また,石綿曝露量が多い者ほど発生率が高くなるとの報告も存在する(甲A106の21頁,乙アA35の130頁,156の21頁・23頁)。さらに,石綿による疾病の認定基準に関する検討会が平成24年2月に報告した「石綿による疾病の認定基準に関する検討会報告書」によれば,びまん性胸膜肥厚の有所見者の累積曝露量は胸膜プラークと石綿肺との中間であろうと考えられること,文献上,有所見者率は累積曝露量と相関関係にあるとするものも見られたが未だ定見は得られていないものと考えられること,石綿による疾病の認定基準として業務上曝露によるものとみなすために必要な曝露期間とされている「概ね3年以上」の3年については,推定累積曝露量がある一定のレベルに達することを意味するものではなく,飽くまでも把握した過去の症例のうち曝露期間が最も短かった者を目安として引用したものであること等が述べられていること(乙アA1012の34枚目)を踏まえれば,3年間石綿粉じんに曝露していれば必ずびまん性胸膜肥厚を発生させるだけの石綿粉じんに曝露していると認めることはできず,びまん性胸膜肥厚についても石綿粉じんに曝露する期間が長くなるほど発生リスクが高まると解するのが相当であると考えられる。 よって,被告国の責任 るだけの石綿粉じんに曝露していると認めることはできず,びまん性胸膜肥厚についても石綿粉じんに曝露する期間が長くなるほど発生リスクが高まると解するのが相当であると考えられる。 よって,被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露している被災者については,その曝露により当該被災者の石綿関連疾患の発生リスクは高まっていると認められ,被告国の責任期間外の石綿粉じん曝露と被告国の責任期間内の石綿粉じん曝露の両者が不可分一体となって 当該被災者が石綿関連疾患に罹患したものと推認することができ,被告国の責任期間外のみの石綿粉じん曝露によって石綿関連疾患に罹患したとは認めるに足りないから,被告国の前記主張を採用することはできない。 3 被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露していない被災者について被告国は,被告国の責任期間内において労働者として建築現場における建築作業に従事することにより石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められない被災者については,石綿関連疾患を発症していたとしても,責任を負わない。 第2 本件被災者らが労働者として建築作業に従事した期間及び各原告に対する被告国の責任等について 1 原告1(原告番号1)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等原告1(昭和24年2月23日生まれ)は,昭和42年4月から平成10年4月までの間,株式会社jに雇用されている労働者として,同社が建築工事を請け負った建築現場において現場監督(現場係員,現場所長)として施工管理業務等に従事した(甲D1の3・6・12,原告1本人,弁論の全趣旨)。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告1は,前記建築作業従事期間中,株式会社jが建築工事を請け負ったビルやマンション等の建築現 等に従事した(甲D1の3・6・12,原告1本人,弁論の全趣旨)。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告1は,前記建築作業従事期間中,株式会社jが建築工事を請け負ったビルやマンション等の建築現場において,現場監督の施工管理業務として,鉄骨等への石綿吹付け作業時における吹付け材の厚み検査によって厚み不足であった場合に行われる石綿吹付け作業や,石綿粉じん曝露作業が行われている現場の巡回及び建築現場の一斉清掃等の作業に従事し,これらの作業の際に石綿粉じんに曝露した(甲D1の1・3・6・12・17,原告1本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発症及び労災認定等原告1は,平成22年頃に咳,痰,息切れ等を感じるようになり,同年10月23日にk内科クリニックを受診した後,異常陰影の精査のために同年11月10日にl病院で診察を受け,同年12月13日に同病院において肺がんと診断された。そして,同原告は,平成23年3月25日に労災認定を受け,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受給した。(甲D1の1・2・4・8ないし12・16,原告1本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上によれば,原告1は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において現場監督(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(肺がん)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告1に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 2 被災者2(原告2-1(原告番号2の1),原告2-2(原告番号2の2))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等被災者2(昭和11年2月25日生まれ)は,昭和42年頃m株式会社大阪造船所内のm木工において,昭和42年頃から昭和45年1月頃ま 2-2(原告番号2の2))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等被災者2(昭和11年2月25日生まれ)は,昭和42年頃m株式会社大阪造船所内のm木工において,昭和42年頃から昭和45年1月頃までn等において,造船作業に従事した。その後,昭和45年6月から昭和58年頃までn等及び株式会社oにおいて船内大工として造船工場で間仕切り用の石綿ボードを切断,加工する作業に従事した。昭和60年11月から昭和62年頃までp株式会社の建築現場において軽天下地作業並びに天井及び壁のボード貼り作業に従事した。昭和63年1月から平成14年12月まで,株式会社qに雇用されている労働者として,同社が建築工事を請け負った建築現場において軽天下地作業並びに天井及び壁のボード貼り作業に従事した。平成15年1月から平成19年2月まで,有限会社rから軽天下地作業を請け負い,一人親方として同作業に従事した。(甲D2の4・7・9・11・1 2・19・25,原告2-1本人,弁論の全趣旨)なお,前記石綿粉じん曝露作業従事期間のうち,被災者2が昭和63年1月から平成14年12月まで株式会社qに雇用された労働者として建築作業に従事していたことは,被告国及び原告2-1らの間に争いはない。前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(肺がん)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,被告国の責任期間内における曝露期間が10年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,本件において労働者性に争いのある昭和62年以前の期間について被災者2の労働者 被告国の責任期間内における曝露期間が10年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,本件において労働者性に争いのある昭和62年以前の期間について被災者2の労働者性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者2は,昭和63年1月から平成14年12月までの間,株式会社qが建築工事を請け負った建築現場において,内装工として軽天下地作業及び天井及び壁のボード貼り作業に従事し,鉄骨造建築物の新築工事における,アンカーボルトや間仕切り下地(壁下地材)等を取り付けるため鉄骨に吹き付けられた石綿を含有する耐火被覆材を削り落とす際,及び,石綿を含有する内装材(ボード類)を電動丸鋸を使用して切断,加工する際に,石綿粉じんに曝露した。また,清掃作業においても再飛散した石綿粉じんに曝露した(甲D2の9・15・19・20・25,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発症及び労災認定等被災者2は,株式会社qに雇用されていた際に毎年6月に実施されていた定期健康診断においては異常所見を指摘されたことはなかったが,平成21年8月頃,呼吸困難を訴えてs病院に緊急搬送され腹水等を指摘されたが腫 瘍マーカーが陰性であったことから(ただし,胸膜プラーク,石綿肺所見は認められた。),同年10月21日に精査のためt医療センターを受診し,同年11月10日に胸膜中皮腫と診断された(甲D2の1・7・10・16・24)。 被災者2は,平成22年6月7日付けで石綿健康被害救済法4条1項の認定に係る申請をし,平成23年2月4日付けで同条2項に基づき認定を受けた(認定疾病名:中皮腫)。その後,被災者2が平成23年3月6日に死亡したことから,原告2-1は,平 綿健康被害救済法4条1項の認定に係る申請をし,平成23年2月4日付けで同条2項に基づき認定を受けた(認定疾病名:中皮腫)。その後,被災者2が平成23年3月6日に死亡したことから,原告2-1は,平成26年3月28日に労災保険法に基づく遺族補償年金(年金年額170万8140円)の支給決定を受けた。また,原告2-1は,平成23年4月に遺族厚生年金の申請をし,平成25年10月頃から,遺族厚生年金(基本額10万1600円,年金額10万1600円)を受給した。(甲D2の1ないし3・7・16)(4) 被告国の責任以上によれば,被災者2は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において内装工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(胸膜中皮腫)に罹患し,死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者2に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 3 原告3(原告番号3)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等ア原告3(昭和6年4月3日生まれ)は,昭和34年4月から昭和40年10月までuに雇用されている労働者として基礎工事,型枠工事及び清掃作業等に従事し,昭和62年4月から平成4年4月まで有限会社vに雇用されている労働者として,同社が建築工事を請け負った建築現場において,新築工事の屋根工事,内装工事及び解体工事等に従事した(甲D3の2・8・11・12,弁論の全趣旨)。 イなお,原告3は,昭和40年11月から昭和62年3月までの間,wにおいて建設作業にも従事した旨主張する。 しかし,原告3は,労災手続において,wでの職歴を申し立てておらず(甲D3の12),「昭和40年ごろuを辞めてからは新聞配達をして生計を立てていました。その後有限会社v 業にも従事した旨主張する。 しかし,原告3は,労災手続において,wでの職歴を申し立てておらず(甲D3の12),「昭和40年ごろuを辞めてからは新聞配達をして生計を立てていました。その後有限会社vでお世話になり」と述べていた(甲D3の15)。同原告の主張によれば,wでの職歴が20年以上に及ぶにもかかわらず,労災手続の際に申し立てなかった理由について,「つい頭から抜けてました。」,「働いていたことがすっかり忘れてました。」等として何ら合理的な説明をしない(原告3本人)。加えて,本件において原告3がwの労働者であったこと(労働者性)を示す客観的な証拠が存在しないことからすれば,昭和40年11月から昭和62年3月までの間,原告3がwに雇用された労働者であったと認めることはできない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告3は,昭和62年4月から平成4年4月の間,有限会社vが建築工事を請け負った建築現場において,石綿スレートを電動サンダーで切断し,また,電動ドリルを用いて穴を開ける作業,断熱材をカッターナイフで切断する作業,及び,解体・改修作業における石綿スレート等の除去作業等に従事し,その際,これらの石綿含有建材から発生した石綿粉じん曝露した(甲D3の9・10・12,原告3本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発症及び労災認定等原告3は,平成17年8月頃から息切れ等を感じるようになり,平成18年4月頃には石綿肺との診断を受けていた。平成18年5月10日及び平成19年12月11日にじん肺管理区分管理1との決定を受け,その後,平成20年1月8日にxセンターにおいてじん肺健康診断を受け,翌9日に「石綿肺,管理2程度,続発性気管支炎」との診断結果を得たことから,当該検査結果をもとに平成20年1月30日にじん肺管理区分決定申請を行い, 1月8日にxセンターにおいてじん肺健康診断を受け,翌9日に「石綿肺,管理2程度,続発性気管支炎」との診断結果を得たことから,当該検査結果をもとに平成20年1月30日にじん肺管理区分決定申請を行い,平 成20年4月7日付けでじん肺管理区分管理2(続発性気管支炎を合併。当該合併症の症状確認日は平成19年10月16日)との決定を受けた。 原告3は,平成20年8月7日に労災認定を受け,労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受給した。 (甲D3の1・2・4ないし7・11・18,原告3本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上によれば,原告3は,被告国の責任期間中5年1か月間,建築現場において,労働者として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(石綿肺,続発性気管支炎,じん肺管理区分管理2)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告3に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 4 被災者4(原告4(原告番号4))原告4は,被災者4(昭和6年9月4日生まれ)がy(昭和49年以降の商号はy株式会社)に雇用され,掃き屋として作業する中で,昭和40年頃から昭和50年10月頃まで石綿粉じんに曝露した旨主張する。 しかし,原告4は,労災手続において,請求時には昭和40年から昭和47年にかけてマンションその他の建築,解体の仕事に従事していたと述べ(甲D4の1。なお,石綿健康被害救済法に基づく特別遺族一時金支給請求書においても同様の記載をしている(甲D4の2)。),その後,石綿取扱作業従事歴申立書においては昭和44年から昭和45年の1年間であると記載し(甲D4の5),西宮労働基準監督署における厚生労働事務官による聴取時には,「母が,主に仕事をしていた会社で, の後,石綿取扱作業従事歴申立書においては昭和44年から昭和45年の1年間であると記載し(甲D4の5),西宮労働基準監督署における厚生労働事務官による聴取時には,「母が,主に仕事をしていた会社で,覚えているのは昭和38年頃にzに昭和43年頃からyに勤めていました。」,「昭和46年に私が結婚して翌年に子供ができたので家で子守り等をしていました。」,「yを辞めたのは,魚崎ハウスが竣工する前ぐらいで昭和45年の春くらいだと思います。」と述べていた。そして,証拠(甲D4の7・18)によれば,昭和41年8月22日か ら昭和43年6月16日までz株式会社を事業所として厚生年金に加入していたこと,y会社の工事経歴によれば前記マンション新築工事は昭和44年に施工されていることが認められ,これらの認定事実は前記労災手続時の供述内容と矛盾しない。 一方,本件において被災者4が昭和40年頃から昭和50年10月頃までy株式会社に雇用されていたことを示す客観的な証拠は存在せず,さらに,本件訴訟における原告4の尋問においては,被災者4がy株式会社に雇用されていた期間について「昭和44年から昭和49年頃という理解でよろしいですか。」との質問に対し「49年か50年ぐらいですね。」と回答をしており(原告4本人),本件訴訟提起後に作成された原告4の陳述書(甲D4の20)においても,y株式会社に雇用されていた期間については昭和49年頃までと述べていることからすれば,被災者4がy株式会社を退職した時期が,昭和50年以降であると認めることはできない。なお,被災者4の甲病院看護記録(甲D4の15)には「本人へお話をきいたところ,建築現場でかたずけにいっていた。石綿を吸いこんでいたこともあり,約10年くらい仕事をしていた」との記載があるが,前記認定を左右するもので 院看護記録(甲D4の15)には「本人へお話をきいたところ,建築現場でかたずけにいっていた。石綿を吸いこんでいたこともあり,約10年くらい仕事をしていた」との記載があるが,前記認定を左右するものではない。 よって,被災者4がy株式会社に雇用され労働者として建築現場において掃き屋として作業に従事していた期間は昭和49年以前であると認めるのが相当であるから,同人は被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者4及びその相続人である原告4(甲D4の2)に対して,損害賠償責任を負わない。 5 被災者5(原告5-1(原告番号5の1),原告5-2(原告番号5の2))(1) 証拠(甲D5の14・15)及び弁論の全趣旨によれば,被災者5(昭和21年10月23日生まれ)は,昭和37年10月から昭和43年までの間乙株式会社に雇用されている労働者として,昭和43年から昭和49 年までの間丙に雇用されている労働者として,昭和49年頃から平成18年7月までの間丁又は株式会社丁(昭和58年6月29日以降法人化)の個人事業主として,建築現場(ビルや病院等の新築工事及び改修工事)における電気工事に従事したことが認められる。 (2) 本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であるところ,同日以降の被災者5の労働者性に関し,証拠(甲D5の4・8ないし10・15・16・24・25,原告5-2本人)によれば,以下の事実が認められる。 ア被災者5が乙株式会社から独立後,請け負っていた電気設備工事はそのほとんどが同会社からであったが,戊株式会社等といった乙株式会社以外の会社からも仕事を請け負っていた。 イ独立後に請け負った仕事について,人 乙株式会社から独立後,請け負っていた電気設備工事はそのほとんどが同会社からであったが,戊株式会社等といった乙株式会社以外の会社からも仕事を請け負っていた。 イ独立後に請け負った仕事について,人手が足りないときは被災者5の判断で他の親方に応援を頼むことが可能であり,また,乙株式会社から請け負った電気設備工事について,被災者5自身が必ず当該作業に従事しなければならないわけではなかった。 ウ報酬に関しては,被災者5(丁又は株式会社丁)側で見積書や請求書を作成し,その支払を受けていた。 エ乙株式会社から請け負った建築現場において,電気設備工事に必要な高所作業車やトラック等の大型機械等は,丁又は株式会社丁(被災者5)が所有するものを使用していた。 オ被災者5は,平成18年8月22日に,昭和37年4月から昭和49年まで電工として電気配管工事を行った際に石綿曝露したことにより胸膜中皮腫を発生したとして休業補償給付請求を行った。 カ被災者5は,乙株式会社を事業所として,昭和37年10月17日から昭和54年9月9日まで,厚生年金に加入していたが(内昭和45年4月1日から昭和54年9月9日まで厚生年金基金に加入),労災保険請求の 手続では,「乙(株)には,従業員として雇っていた記録はなく,また,昭和43年に,丙を離職し,自営となったということについて,事業主,被災者とも申述していることから,石綿ばく露最終所属事業場については丙とするが妥当」と判断された。 (3) 前記認定事実によれば,被災者5は,昭和49年に独立して以降,乙株式会社の専属下請ないしそれに類似する立場で同社から多くの電気設備工事を請け負っていたこと,及び請け負った電気設備工事作業に自らも従事していたことは推認されるが,報酬については,電気設備の完成という仕事 社の専属下請ないしそれに類似する立場で同社から多くの電気設備工事を請け負っていたこと,及び請け負った電気設備工事作業に自らも従事していたことは推認されるが,報酬については,電気設備の完成という仕事の結果に対して報酬が支払われていたと考えられ,労務対償性は認められず,労務の代替性についても,作業に従事させる者の人数の増減等は被災者5の判断で決定できたことが窺えるなど,労働者性を否定する方向に働く事情が存在し,その他労働者性を認めるに足りる証拠は見当たらない。よって,本件において提出された各証拠によっては,被災者5について,昭和49年の独立時以降労働者性を認めることはできないため,同人は被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。 なお,原告5-1及び原告5-2が乙株式会社を相手方として提起した損害賠償請求訴式会社が被災者5に対し,平成に入るまで安全配慮義務を負っていた旨認定判示されている(甲A1104)ものの,これをもって被告国との関係においても,同被災者が労働者として保護される地位にあったと直ちに認められるものではない。 したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者5及びその相続人である原告5-1及び原告5-2(甲D5の2・3・20)に対して,損害賠償責任を負わない。 6 被災者6(原告6-1(原告番号6の1),原告6-2(原告番号6の2))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等 被災者6(昭和16年3月15日生まれ)は,昭和61年2月から平成10年1月までの間己に雇用されている労働者として,己の事業主が建築工事を請け負った建築現場において,内装工として天井を張る作業に従事した(甲D6の4・12ないし15・19・23,原告6-1本人,弁論の全趣旨)。 に雇用されている労働者として,己の事業主が建築工事を請け負った建築現場において,内装工として天井を張る作業に従事した(甲D6の4・12ないし15・19・23,原告6-1本人,弁論の全趣旨)。 なお,被告国は,被災者6が,昭和55年以前に石綿粉じんに曝露していたことを争っているが,前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(中皮腫)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,被告国の責任期間内における曝露期間が1年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,本件において前記以外の期間について被災者6の労働者性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者6は,己が建築工事を請け負った建築現場において,石膏ボードやロックウール板といった石綿を含有する天井材等を電動丸鋸等で切断し,やすりがけを行う作業,及び,前記切断した建材をドリルを用いて張り付ける作業に際し,石綿粉じんに曝露した(甲D6の4・12・13・19・23,原告6-1本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等被災者6は,平成16年12月頃から咳や痰の症状や息苦しさ等を感じて病院を受診し,平成17年1月26日に庚病院において胸膜中皮腫と診断され,平成17年6月12日に死亡した。 原告6-1は,平成17年6月21日に労災保険法に基づく遺族補償年金 等を請求し,平成17年12月21日に支給決定がなされた。また,被災者6については,その死亡後に 12日に死亡した。 原告6-1は,平成17年6月21日に労災保険法に基づく遺族補償年金 等を請求し,平成17年12月21日に支給決定がなされた。また,被災者6については,その死亡後に,平成16年12月29日から平成17年3月3日までの労災保険法に基づく休業補償給付が支給された。 (甲D6の2ないし12・19ないし21・23,原告6-1本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上のことから,被災者6は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において内装工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(胸膜中皮腫)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者6に対し国賠法1条1項に基づく責任を負う。 7 被災者7(原告7-1(原告番号7))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等被災者7(昭和17年5月19日生まれ)が被告国の責任期間内に従事した建築作業については,以下アないしウのとおり,昭和61年頃に約1年間,株式会社辛から内装工事を請け負い,内装工として当該建築作業に従事していた期間についてのみ,労働者性が認められる。 ア壬株式会社(昭和46年12月頃から昭和61年10月頃まで)被災者7は,壬株式会社から建築作業を請け負っていた期間(癸の代表者として請け負っていた期間を含む。)については,3,4人の建築作業従事者を連れて行っており,当該人数分の給料をまとめて受け取り,前記建築作業従事者に渡していたとされ,その額については,壬株式会社が決定していたことが推認される(甲D7の14・21,乙アD7の2)ものの,同期間において,被災者7に支払われる報酬額がどのように算出されていたのか,どの程度の作業指示がどのようになされ 壬株式会社が決定していたことが推認される(甲D7の14・21,乙アD7の2)ものの,同期間において,被災者7に支払われる報酬額がどのように算出されていたのか,どの程度の作業指示がどのようになされていたのか,さらに,癸の代表者になった後も被災者7自身が作業に従事することが必要的な契 約となっていたのか等具体的な事情が一切不明であって,同人の労働者性を認めるに足りる証拠が存在しない。 イ株式会社辛(昭和61年頃)証拠(甲D7の19ないし21)によれば,①被災者7は,昭和61年頃,1年間程度,一人親方として,株式会社辛から内装工事を請け負っており,この期間における報酬は株式会社辛が額を決定して支払っていたこと,②当該期間においては,被災者7は,株式会社辛から請け負った建築作業にのみ従事しており,同社と常に連絡をとり細かい指示を受けて作業を行っていたこと,③作業現場においては,株式会社辛の元請企業等から株式会社辛の正社員と共に指示を受け,株式会社辛の正社員(直接雇用された労働者)と同じ勤務時間で同様の作業を行っていたこと,④工具については,電動丸鋸のような小型のものは自己所有のものを使用していたが,ボードやビス等の建材は株式会社辛が調達していたこと,⑤作業時には株式会社辛の社名が入ったヘルメットをかぶっていたことが認められる。これらの事情を総合的に考慮すれば,報酬額が労務の対価として支払われていたことを明確に裏付ける証拠は存在しないものの,株式会社辛が直接雇用した労働者と同様の扱いを受けていたと推認されることから,同期間については,被災者7の労働者性を認めるのが相当である。 ウ ⅰ株式会社(昭和61年10月から平成21年3月31日まで)(ア) 昭和61年10月から平成21年3月31日までの期間について,ⅰ株式会社の ては,被災者7の労働者性を認めるのが相当である。 ウ ⅰ株式会社(昭和61年10月から平成21年3月31日まで)(ア) 昭和61年10月から平成21年3月31日までの期間について,ⅰ株式会社の認識としては,被災者7については直接雇用している労働者ではなく請負人であるとされており(甲D7の15・17,乙アD7の3・4),また,被災者7は,平成7年4月から平成8年3月までの間一人親方として労災保険に特別加入していたことが認められ(甲D7の11,乙アD7の1・5),原告7-1も労災手続時に「ⅰ(株)では請負で入っていましたので」等と供述していること(甲D7の14) 等を考慮すれば,同期間において被災者7はⅰ株式会社に直接雇用されている労働者としてではなく,一人親方として建築作業に従事していたことが認められる。 (イ) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被災者7がⅰ株式会社が建築工事を請け負った建築現場において一人親方として建築作業に従事していた期間については,以下の事実が認められる。 a ⅰ株式会社においては,会社の方針として直接雇用されていない一人親方については,報酬に関し,「常用」と呼ばれる日当で計算して支払われる方法と,「請負」と呼ばれる平米数を基に計算して支払われる方法とがあり,いずれを選ぶかは一人親方が自ら選択することが可能であった。被災者7は,報酬について,自己の息子と共に作業に従事していたときには平米数を基に計算して請求し,一人のときは日当で計算して1か月分をまとめて請求していた。ⅰ株式会社においては,通常は残業がないため残業代の計算方法は定まったものがないが,元請の都合で残業が必要となった場合には,残業代として後日まとめて請求することになっていた。ただし,報酬については,いずれの算定方法によっても, 業がないため残業代の計算方法は定まったものがないが,元請の都合で残業が必要となった場合には,残業代として後日まとめて請求することになっていた。ただし,報酬については,いずれの算定方法によっても,請求した金額がそのまま払われるとは限らず,ⅰ株式会社が請求された額について相場よりも高いと思えば減額して支払っていた。なお,1日の単価にはガソリン代等の諸経費が含まれていた。(甲D7の3・14・16ないし18)b ⅰ株式会社においては,一人親方は同社以外の仕事をする自由があり(甲D7の18),被災者7は,同社から依頼された仕事を断ることも可能で(甲D7の18,乙アD7の4),ⅰ株式会社から内装工事を請け負っていた時期でも,自己の息子の会社における鉄工関係仕事に1月に4日から5日間程度従事していたことがあった(甲D7の14・16)。 c ⅰ株式会社は,一人親方に対して,建築現場において細かい指示までは行わず,作業工程等の打合せ程度を行い,進行具合についても毎日確認するのではなく作業完了時に報告を受けていた。勤務時間は特に定められておらず,概ね午前8時くらいに出社するが,それぞれの仕事の都合で帰宅時間は異なっていた。(甲D7の17・18)d 電動のこ,電気ドリル,ドライバー等の小型の工具については被災者7が自分で用意したものを使用していたが,大型の工具についてはⅰ株式会社のものを使用していた(甲D7の16・17)。 (ウ) 前記(イ)の各事実を総合的に考慮すれば,報酬については被災者7が算定方法を選択できていたことやⅰ株式会社が「常用」の場合であっても額を修正していたこと等から労務対償性があるとは言い難く,また,前記期間において被災者7が専属に近い形でⅰ株式会社から建築作業を請け負っていたことは推認されるものの,請負契約 常用」の場合であっても額を修正していたこと等から労務対償性があるとは言い難く,また,前記期間において被災者7が専属に近い形でⅰ株式会社から建築作業を請け負っていたことは推認されるものの,請負契約の締結に関し諾否の自由が存在し,作業に関しては詳細な指示までは受けておらず,勤務時間等の拘束もなかったことが推認されることから,一人親方であった被災者7とⅰ株式会社の間に使用従属関係が存在したとまではいえない。 よって,前記期間については,被災者7に労働者性を認めることはできない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者7は,昭和61年頃に株式会社辛から建築作業を請け負っていた際,主として石綿含有建材であるフレキシブル板,けい酸カルシウム板,石膏ボードの切断作業等及びこれを天井等に張り付ける作業に従事し,その際に石綿粉じんに曝露した(甲D7の20)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等被災者7は,平成21年3月30日頃に息苦しさを訴えてⅱ医院を受診し,その後平成21年6月19日にⅲ病院において石綿肺と診断されたところ, 同月21日以降行方不明となり,同月25日に箕面の山中で自殺しているところを発見された。 原告7-1は,労災保険法に基づき療養補償給付の申請を行ったが,平成22年4月30日付けで不支給決定がなされ,その後,審査請求及び再審査請求を行ったが,いずれも棄却された。休業補償給付の請求についても不支給決定がなされ,審査請求を行ったが平成24年6月12日に棄却された。 被災者7については,前記労災手続において,ⅲ病院における平成21年6月3日の胸腔鏡下生検等による結果が記載された同年10月6日付けのじん肺健康診断結果報告書に基づき,じん肺管理区分管理4に相当するとの医師の意見が示された。平成22年11月19日 おける平成21年6月3日の胸腔鏡下生検等による結果が記載された同年10月6日付けのじん肺健康診断結果報告書に基づき,じん肺管理区分管理4に相当するとの医師の意見が示された。平成22年11月19日に石綿健康被害救済法に基づき特別遺族弔慰金及び特別葬祭費の支給決定がなされ,原告7-1はこれを受給した。 (甲D7の4・5・11,原告7-1本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の規制権限不行使と被災者7の死亡との間の因果関係について被告国は,被災者7は山中で縊死しているところを発見されたものであり,石綿関連疾患により死亡したとは認められないから,その死亡と被告国の規制権限不行使との間には相当因果関係は認められない旨主張する。 しかし,被災者7は,石綿肺管理区分管理4に相当する石綿肺に罹患していたことからすれば,その症状も重いものであったと推認されること,また,医師から不治の病であることを告知され,告知の翌日に行方不明となって自殺を図っていること,及び,本件各証拠によれば石綿肺に罹患したこと以外に被災者7が自殺する理由を見出しがたいことからすれば,石綿肺の罹患と死亡との因果関係を否定することは困難である。 よって,被告国の規制権限の不行使と被災者7の死亡との間の因果関係を否定することはできず,被告国の前記主張は採用することができない。 (5) 被告国の責任 以上のことから,被災者7は,被告国の責任期間中約1年間,建築現場において内装工(労働者性が認められる一人親方)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(石綿肺,じん肺管理区分管理4)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者7に対し国賠法1条1項に基づく責任を負う。 8 被災者8(原告 接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(石綿肺,じん肺管理区分管理4)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者7に対し国賠法1条1項に基づく責任を負う。 8 被災者8(原告8-1(原告番号8の1),原告8-2(原告番号8の2),原告8-3(原告番号8の3),原告8-4(原告番号8の4),原告8-5(原告番号8の5))(1) 被災者8(昭和20年1月28日生まれ)の被告国の責任期間内における労働者性に関して,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア被災者8は,昭和44年4月に父親が定年退職したことから,父親と2人で尼崎に被災者8板金工作所を設立し,同年7月頃から昭和50年頃まで一緒に建築現場においてダクト配管等の作業をしていた(父親は昭和51年に亡くなったが,同人は死亡する1年位前から体調を崩しており建築作業等に従事していなかった。)が,昭和50年以降は被災者8板金工作所の事業主として,ダクト工事(保温材を切断しダクトに取り付ける作業も担当)や屋根工事を請け負い,被災者8板金が雇用していた労働者と共に,被災者8自身も建築現場において前記建築作業に従事していた(甲D8の6・7・12・26・27,証人8-6)。 イ被災者8板金工作所においては,昭和60年頃までは5,6人の人を雇っていたが,その後雇用人数は減り,平成22年には2人となっていた。 被災者8は,前記雇用した労働者らと共に,平成22年2月頃まで自らも建築現場に赴き,ダクト工事等に従事した。(甲D8の12)ウ被災者8は,昭和44年7月以降に父親と仕事を始めた頃から,尼崎板 金工業協同組合に加入し,昭和50年頃には労災保険にも特別加入していた。平成17年3月で尼崎板金工業協同組合がなくなったため,阪神土建事務組 7月以降に父親と仕事を始めた頃から,尼崎板 金工業協同組合に加入し,昭和50年頃には労災保険にも特別加入していた。平成17年3月で尼崎板金工業協同組合がなくなったため,阪神土建事務組合において特別加入をした。(甲D8の2・12・19ないし21・24・25,乙アD8の1・2)エ被災者8に関しては,労災手続時の調査において,昭和50年頃から被災者8板金工作所の事業主として尼崎板金工業共同組合より労災保険に特別加入していたことが推察されたが,労災手続時に現存していた「保険料申告所内訳」からは,平成7年から平成16年度は尼崎板金工業協同組合により,平成17年4月4日以降平成22年までは阪神土建事務組合において,特別加入していたことが確認されたため,資料により明確に確認出来た平成7年から平成22年までの15年間について石綿曝露が検討され,労災認定がされた。(甲D8の2)オ以上のことからすれば,被災者8は,少なくとも昭和50年以降被災者8板金工作所の事業主であったと認められ,一方で,被災者8板金工作所が請け負った建築作業に関し同人の労働者性を認めるに足りる証拠は見当たらないことから,同人については,少なくとも昭和50年以降,労働者性を認めることはできない。 (2) 原告らは,被災者8が昭和52年5月頃から平成22年2月頃までの間,しばしば同業者の建築現場で同業者の指揮監督の下で建築作業に従事しており,そのときの報酬は日当(1日約2万円)で計算され,残業代も支払われていたなどと主張し,この期間については労働者性が認められる旨主張する。 しかし,本件においては応援時の報酬や指揮監督関係等の具体的状況を裏付ける客観的証拠は見当たらず,本件における原告8-1の供述(甲D8の27,原告8-1本人)及び被災者8と共に同業者の「応 する。 しかし,本件においては応援時の報酬や指揮監督関係等の具体的状況を裏付ける客観的証拠は見当たらず,本件における原告8-1の供述(甲D8の27,原告8-1本人)及び被災者8と共に同業者の「応援」作業に従事したとされる8-6の陳述記載や証言(甲D8の28,証人8-6)によって も,被災者8の弟である8-6のもとへ応援に行っていたという以外は具体的に応援に行っていた先は不明であり,また,本件訴訟において8-6は前記原告らの主張及び原告8-1の供述内容に沿った証言等をしているものの(甲D8の28,証人8-6),被災者8が行っていた作業について,専属性や拘束性も弱く使用従属関係を認めるには足りないと解され,一方で,労災手続において被災者8自身は応援作業に関して何ら触れておらず,さらに,被災者8が事業主であったこと等も考慮すれば,報酬について日当で計算されていたことや残業代が支払われていたこと等前記8-6の述べる「応援」時の事情のみをもって労働者に該当すると認めることはできない。加えて,被災者8は,労災手続において尼崎労働基準監督署の職員から聴取を受けた際,近畿ナショナルと瓦Uの仕事を併行して行っていた頃(昭和60年頃)までは5,6人雇用していた旨述べているが(甲D8の12),昭和49年に被災者8と結婚した後被災者8板金工作所の経理を担当していたという原告8-1は,昭和52年5月頃から昭和58年頃までは被災者8板金工作所で雇用していたのは前記8-6のみであり,昭和58年頃から平成元年頃までは誰も雇用していなかったとして,被災者8の前記供述と矛盾する内容の供述をしているところ(甲D8の27),本件においては被災者8板金工作所の雇用関係や請負に関する客観的な証拠が見当たらないため,原告8-1の本人尋問の結果を踏まえても原告8- 記供述と矛盾する内容の供述をしているところ(甲D8の27),本件においては被災者8板金工作所の雇用関係や請負に関する客観的な証拠が見当たらないため,原告8-1の本人尋問の結果を踏まえても原告8-1がどの程度被災者8板金工作所の雇用関係や業務内容を把握していたのか不明であり,この点に関しては同原告の供述は信用性に乏しいといわざるを得ない。 以上によれば,仮に被災者8が,同業者に依頼されて「応援」に赴き,建築作業に従事することがあったとしても,その際の具体的状況は明らかでなく,労働者性を認めるに足りる事情が存在したとはいえないことから,前記原告らの主張は採用することができない。 (3) 前記(1)及び(2)のとおり,被災者8は,被告国の責任期間内において労働 者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者8及びその相続人である原告8-1,原告8-2,原告8-3,原告8-4及び原告8-5(弁論の全趣旨)に対して,損害賠償責任を負わない。 9 原告9(原告番号9)本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であるから,当該期間外の労働者性の有無は被告国が原告9に対し責任を負うか否かに関係しないため,以下では,同期間内の労働者性についてのみ判断する。 (1) 大手ゼネコンが手掛ける現場の内装工として働いていた時期(昭和36年から昭和54年まで)原告9(昭和13年1月3日生まれ)の供述によれば(甲D9の9,原告9本人),①昭和36年以降,友人と5,6人で組んで大手ゼネコンの孫請け,ひ孫請けとして建築工事を大手のゼネコンから請け負い,報酬は働いた日数や出来高に応じて毎月決まった日に支払われていたこと,②前記5,6人の間で報酬を分けるときには, 人で組んで大手ゼネコンの孫請け,ひ孫請けとして建築工事を大手のゼネコンから請け負い,報酬は働いた日数や出来高に応じて毎月決まった日に支払われていたこと,②前記5,6人の間で報酬を分けるときには,日当で配分するとき,仕事量に応じて配分するとき,及び,頭数で割るときがあったこと,③勤務時間は請負契約の相手である工務店から指示を受けており,その日の大まかな作業内容や作業工程等については元請である大手ゼネコンの現場監督から指示を受けていたこと,④大手ゼネコンからヘルメットが支給されることもあったこと,⑤大手ゼネコンの仕事が入らないときは,他から建築工事を請け負っていたことが認められる。 以上のことからすれば,報酬に労務対償性があったとまでは認め難く,専属性や拘束性も弱く使用従属関係を認めるには足りないと解され,この他に何ら同人の労働者性を肯定する証拠が存在しないことから,前記期間について同人には労働者性が認められないといわざるを得ない。 (2) 被災者9工務店(昭和54年から平成11年まで) 原告9の供述(甲D9の9,原告9本人)によれば,①昭和54年に被災者9工務店(自営業者)として,作業員を雇用し,仕事を請け負うようになってからは,施主から直接建築工事を請け負うこともあり,その際には全て原告9の判断で建築作業を進めたこと,②施主から大きな工務店が請け負った建築現場において,当該工務店の下請として建築作業に従事した場合には,報酬については出来高に応じて月ごとに支払われていたこと,③工務店によっては勤務時間の指定を受けることがあったこと,④建材の発注等を被災者9工務店が行うこともあったことが認められる。 これらの事情からすれば,被災者9工務店として建築作業を請け負っていた期間については,原告9は事業主として他人を雇用する たこと,④建材の発注等を被災者9工務店が行うこともあったことが認められる。 これらの事情からすれば,被災者9工務店として建築作業を請け負っていた期間については,原告9は事業主として他人を雇用する立場にあり,元請等との使用従属関係等が存在したとは言えず,その他本件において労働者性を認めるに足りる客観的な証拠は見当たらないことから,同人に労働者性を認めることはできない。 (3) 手間請けをしていた時期(平成11年から平成22年まで)原告9の供述(甲D9の9,原告9本人)によれば,平成11年から平成22年までの手間請け(材料等の手配は全て元請等が行い,原告9は労働力のみを提供していた。)においては,①報酬は坪単価で決まることがほとんどであったこと,②勤務時間は原告9が自由に決めることができ,仕事が終わり次第帰宅できていたこと,③作業工程に関しては現場監督の指示に従っていたこと,④どこかの工務店の専属というわけではなく,様々な工務店から仕事を請け負っていたことが認められる。 以上のことからすれば,報酬には労務対償性がなく,元請等との間に使用従属関係があったとも認められないことから,前記期間について同人に労働者性を認めることはできない。 (4) 前記(1)ないし(3)によれば,原告9は,被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって, 前記第1,3のとおり,本件において被告国は,原告9に対して,損害賠償責任を負わない。 被災者10(原告10-1(原告番号10の1),原告10-2(原告番号10の2),原告10-3(原告番号10の3),原告10-4(原告番号10の4),原告10-5(原告番号10の5))本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であるから, 2(原告番号10の2),原告10-3(原告番号10の3),原告10-4(原告番号10の4),原告10-5(原告番号10の5))本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であるから,当該期間外の労働者性の有無は被告国が被災者10及びその相続人らに対し責任を負うか否かに関係しないため,以下では,同期間内の労働者性についてのみ判断する。 (1) ⅳ(昭和48年1月頃から昭和51年頃まで)ア証拠(甲D10の22,乙アD10の3・4,証人10-7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被災者10(昭和23年8月20日生まれ)は,昭和48年1月頃から,弟の10-6と共に「ⅳ」の屋号で独立(共同経営)して,株式会社ⅴの専属下請として,同社に指定された工事現場で建築作業に従事した。当該期間は2人のみで仕事を請け負っており,前記工事現場には,被災者10と10-6が2人一緒に行くこともあれば,被災者10が1人で行くことも,10-6が1人で行くこともあった。 (イ) 報酬は,出来高で算定されていた。建築現場への交通費は原則として「ⅳ」側が負担しており,作業に必要な道具類も「ⅳ」側で用意していた。また,現場においては,株式会社ⅴの現場監督等から,いつまでにどこまで完成させるように,といった大まかな指示を受けていたが,作業方法についての具体的な指示は行われなかった。建材については,株式会社ⅴが用意したものを使用していた。就労時間は,株式会社ⅴから,朝8時の朝礼に間に合うようにと指示されていたが,退社については自由であった。 イ以上のことからすれば,被災者10は,「ⅳ」として株式会社ⅴと専属下請の関係にあったことは認められるが,報酬に労務対償性は認められず,また,株式会社ⅴによる勤務時間の拘束や た。 イ以上のことからすれば,被災者10は,「ⅳ」として株式会社ⅴと専属下請の関係にあったことは認められるが,報酬に労務対償性は認められず,また,株式会社ⅴによる勤務時間の拘束や詳細な指示等もなされていなかったことから,同社との間に使用従属関係があったともいえない。よって,前記時期において,被災者10に労働者性を認めることはできない。 (2) ⅳ(平成3年以降商号を株式会社ⅳとして法人化)(昭和51年頃から平成15年頃まで)ア証拠(甲D10の8・22・23,乙アD10の3・4,証人10-7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (ア) 被災者10は,昭和51年頃から作業員を雇用しはじめ,同時期以降,株式会社ⅴが請け負った建築現場において,作業員数人と共に作業に従事した。平成3年に,商号を「株式会社ⅳ」として法人化し,被災者10が代表取締役となった。 (イ) 株式会社ⅴから請け負った建築現場における具体的な作業態様等は,前記昭和51年頃までの「ⅳ」の時期と同じである。なお,被災者10らが雇っていた作業員は,被災者10らからの指示のもと,同人らから工具類の支給を受けて,建築作業に従事した。 イ以上のことからすれば,前記昭和51年までの時期と同様,被災者10と株式会社ⅴとの間には専属下請関係があるとしても,報酬の労務対償性及び使用従属関係が認められないことから,被災者10に労働者性は認められない。 (3) 前記(1)及び(2)によれば,被災者10は,被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者10及びその相続人である原告10-1,原告10-2,原告10-3,原告10-4及び原告10-5(甲D じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者10及びその相続人である原告10-1,原告10-2,原告10-3,原告10-4及び原告10-5(甲D10の1ないし7)に対して,損害賠償責任を負 わない。 11 原告11(原告番号11)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等ア原告11(昭和17年7月15日生まれ)は,被告国の責任期間内において,昭和53年頃から昭和57年頃までの間,ⅵに雇用された労働者として,ⅵの事業主が解体工事を請け負った建築現場において,解体作業に従事したことが認められる(甲D11の9,原告11本人,弁論の全趣旨)。 イ原告11は,昭和43年頃から昭和50年代後半頃までの間ⅶ,昭和46年から昭和57年頃までの間ⅵ,昭和50年代から平成の初め頃までの間ⅷ等に,それぞれ日雇いとして雇用されている労働者として,建物の解体作業に従事した旨主張する。 原告11の供述(甲D11の9・18,原告11本人)によれば,解体作業の仕事があるときに日雇いで雇われ,勤務時間についても指示された上で,指示された現場で,指示された方法によって作業に従事し,報酬は日当で支払われていたとのことであるが,ⅶ及びⅵ以外については原告11自身下請作業に従事した具体的な時期を記憶しておらず,本件においては,その他これらの下請として解体作業に従事したことを裏付ける客観的証拠も存在しない。このことを措くとしても,同一の時期に異なる会社の下請作業に従事していることからすれば請負契約の相手方との間に専属性はなく,さらに,本件においては原告11が受けたという前記指示の程度や報酬の具体的な算定方法等も不明であるから,本件訴訟において提出された証拠のみによって,原告11が主張する前記勤務先との関 専属性はなく,さらに,本件においては原告11が受けたという前記指示の程度や報酬の具体的な算定方法等も不明であるから,本件訴訟において提出された証拠のみによって,原告11が主張する前記勤務先との関係において,労働者性を認めることはできない。したがって,本件においては,原告11と被告国との間で争いのないⅵにおける昭和53年頃から昭和57年頃までの期間以外については,原告11の労働者性を認めることはできない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告11は,昭和53年頃から昭和57年頃,ⅵの事業主が請け負ったボウリング場の解体作業において,屋根材等を割り,ガス溶断機で切断して屋根を下へ落とし,壁にワイヤーを取り付けてユンボを用いて引き倒した後壁材を破砕し,内側の鉄骨等をガス溶断機で切断し,切り落とした柱や壁等をさらに運送しやすい大きさに切断等する際,当該建築物に使用されていた石綿含有建材(鉄骨に吹き付けられていた石綿吹付け材や,屋根や壁等に使用されていた石綿含有成形板等)から発生した石綿粉じんに曝露した(甲D11の9・14・18,原告11本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等原告11は,平成22年4月27日に呼吸困難及び腹部膨満を訴えてⅸ病院を受診し,中皮腫(胸膜を中心に腫瘍増殖)と診断され,同年8月に労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求をし,平成23年2月24日に労災認定を受け,前記給付の支給を受けた(甲D11の1・2・4・5)。 (4) 被告国の責任以上のことより,原告11は,被告国の責任期間中約5年間,建築現場において解体工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(胸膜中皮腫)に罹患したことが 被告国の責任期間中約5年間,建築現場において解体工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(胸膜中皮腫)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告11に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 12 被災者12(原告12-1(原告番号12))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等被災者12(昭和25年12月2日生まれ)は,昭和50年2月26日から平成8年7月21日までの間,ⅹ株式会社に雇用されている労働者として,同社が建築工事を請け負った建築現場において,医療ガス設備の配管作業に 従事した(甲D12の4・13ないし16・19・20・23・27,弁論の全趣旨)。 なお,被災者12が前記期間ⅹ株式会社に雇用された労働者として建築作業に従事していたことについては,被告国及び原告12-1との間に争いがないところ,前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(肺がん)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,被告国の責任期間内における曝露期間が10年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,本件において労働者性に争いのある平成8年8月以降の期間について被災者12の労働者性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者12は,昭和50年2月26日から平成8年7月21日までの間,病院等の新築及び増改築工事において,医療ガス設備の配管作業に従事し, の点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者12は,昭和50年2月26日から平成8年7月21日までの間,病院等の新築及び増改築工事において,医療ガス設備の配管作業に従事し,配管のためのインサート設置作業等において鉄骨に吹き付けられた石綿吹付け材を削る際や電動ドリル等を用いて壁材として使用された石綿含有成形板に穴を開ける作業を行う際に,石綿粉じんに曝露した(甲D12の13・19・23,原告12-1本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等被災者12は,平成18年1月に身体のだるさを訴えてl病院を受診し,検査の結果胸膜プラークが見つかった。平成23年6月頃に病状が悪化し始め,息苦しさ,吐き気及びだるさを訴えて自宅療養をしていたところ,同月阪神土建労働組合主催の健康診断を受診した結果,肺腫瘍,肺線維症,アスベスト症疑いと診断され,l病院で精密検査を受けた結果,平成23年9月 1日に原発性肺がん(小細胞がん)と診断され,平成23年10月29日に肺がんにより死亡した。 原告12-1は,被災者12の死亡につき,平成24年1月23日に労災保険法に基づく遺族補償年金等の請求をし,これを受給した。 被災者12は,平成23年9月9日,労災保険法に基づく休業補償給付を請求していたところ,同人が平成23年10月29日に死亡したことから,休業補償給付として被災者12に支給すべきであった未支給の保険給付を受けるべき第1順位となる原告12-1に対し,平成24年1月27日に労災保険法に基づく療養・休業補償給付等の支給決定がされ,同原告がこれを受給した。 (甲D12の1・4ないし7・13・19・20,原告12-1本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上のことから,被災者12は,被告国の責任 等の支給決定がされ,同原告がこれを受給した。 (甲D12の1・4ないし7・13・19・20,原告12-1本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上のことから,被災者12は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において配管工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(肺がん)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者12に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 13 原告13(原告番号13)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等ア本件においては,原告13(昭和24年11月16日生まれ)は,昭和46年1月から昭和58年1月までの間ⅺに雇用されている労働者として同工業所の事業主が建築工事を請け負った建築現場において,昭和58年2月から平成2年3月頃までの間ⅻ株式会社の労働者として同社が建築工事を請け負った建築現場において,それぞれ内装作業に従事したことが認められる(甲13の1・4ないし6・13・15・16・18,弁論の全 趣旨)。 イ前記アのとおり労働者性を認めた理由は,以下のとおりである。 (ア) 原告13が昭和46年1月から昭和58年1月までの間ⅺの事業主に雇用されている労働者として建築作業に従事していたことは,被告国と原告13の間で争いがない。 (イ)a 昭和58年2月から平成3年1月までの間の労働者性に関し,証拠(甲D13の4ないし6・11・13・18・19,原告13本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (a) 原告13は,昭和58年1月でⅺを辞め,昭和58年2月から平成3年1月までの間,ⅻ株式会社が請け負った建築現場において建築作業に従事した。昭和58年1月当初は,ⅻ株式 の事実が認められる。 (a) 原告13は,昭和58年1月でⅺを辞め,昭和58年2月から平成3年1月までの間,ⅻ株式会社が請け負った建築現場において建築作業に従事した。昭和58年1月当初は,ⅻ株式会社において建築作業に従事する作業員は原告13のみであったが,その後作業員を増加し,平成3年頃には10人程度の労働者(作業員)を雇用していた。 (b) ⅻ株式会社からの報酬は,最低保証金額として日給1万8000円(当初は1万7000円)が決められており,それ以上は出来高払いであったことから,実際の報酬額は日給1万8000円より多く支払われていた。また,昭和61年頃からは,建築現場によって,日当1万8000円で算定するか,1㎡当たり250円で算定するかを,ⅻ株式会社の社長の判断で決めるようになった。支払は,毎月20日締め翌月20日払いであった。報酬については,ⅻ株式会社の社長から請求書及び領収書を書くように言われたことから,請求書を作成して前記社長に請求していた。社長から人を集めてくるよう指示されて職人を集めてくるようになってからは,当該作業員の報酬分を原告13がまとめて社長に請求し,受け取った額を当該作業員らに給与として分配していた。 賞与の支給はなく,源泉徴収もされていなかった。 (c) 原告13は,ⅻ株式会社の請け負った建築現場で建築作業に従事していた期間においては,他の企業等から建築作業を請け負うことはなく,ⅻ株式会社から依頼された仕事についての諾否の自由はなかった。勤務時間については午前8時から午後5時とされていたが,厳密な出勤管理等はされていなかった。 (d) 原告13は,ⅻ株式会社において毎年実施される定期健康診断を受けていた。健康診断に要する費用は全てⅻ株式会社が支払っていた。 (e) ⅻ式会社における 密な出勤管理等はされていなかった。 (d) 原告13は,ⅻ株式会社において毎年実施される定期健康診断を受けていた。健康診断に要する費用は全てⅻ株式会社が支払っていた。 (e) ⅻ式会社における原告13の立場は職長であった。建築現場においてゼネコンの現場監督等から作業内容等について指示を受けた場合などにおいては,原告13は,職長としてⅻ株式会社の労働者等に指示を出す場合もあった。 b 以上のことからすれば,原告13の報酬については厳密な労務対償性が存在するとは認め難い。しかし,①原告13は,昭和58年2月以降平成3年1月頃までの間ⅻ株式会社の請け負った建築現場においてのみ建築作業に従事しており(甲D13の15・18,原告13本人),かつ,ⅻ株式会社の社長自身が原告13には仕事の依頼について諾否の自由はなかったと認めていること(甲D13の13),②労務代替性の有無については,本件においてこれを判断するに足る客観的な証拠が存在しないこと,③ⅻ株式会社は原告13に定期健康診断を受けさせており,その職務の安全等に配慮していたことが窺えること,④ⅻ株式会社が作成していた作業員名簿(平成2年8月10日付け)において,原告13について,「雇入年月日」として「昭和57年9月1日」と記載されていることからすれば(甲D13の11),ⅻ株式会社の認識としては,建築現場ごとに仕事を請け負わせている という認識ではなかったことが窺えること等に鑑みれば,ⅻ株式会社と原告13との間に使用従属関係を認めるのが相当であると考えられる。 ただし,原告13自身が,労災手続においては,平成18年から平成23年まで一貫して,ⅻ株式会社において内装工事に従事していた時期につき,昭和58年2月から昭和64(平成元)年1月までと述べ,また,ⅻ株式会社を辞める 身が,労災手続においては,平成18年から平成23年まで一貫して,ⅻ株式会社において内装工事に従事していた時期につき,昭和58年2月から昭和64(平成元)年1月までと述べ,また,ⅻ株式会社を辞める前の時期には請求書等に原告13内装店という屋号を記載した可能性があることを述べていたこと,及び平成2年4月以降は毎月ⅻ株式会社から原告13に対する支払請求権が発生していること等(甲D13の1・4ないし6・11・13)を踏まえれば,少なくとも平成2年4月以降については,原告13とⅻ株式会社との間に使用従属関係があったとは言い難い。 (ウ) 以上の各事情を総合的に考慮すれば,本件においては,昭和58年2月から平成2年3月頃までの間について,原告13に労働者性を肯定するのが相当であると解する。 なお,前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(肺がん)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,前記のとおり,原告13については,被告国の責任期間内における曝露期間が10年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,平成3年2月以降の期間について原告13の労働者性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告13は,昭和58年2月から平成2年3月頃までの間,内装工(軽量 鉄骨下地工事,天井仕上げ工事等)として,主に鉄骨造建築物の新築及び改修工事に従事し,天井材として使用されたフレキシブル板,大平板,石膏ボード及び岩綿吸音天井板等の石綿含有 装工(軽量 鉄骨下地工事,天井仕上げ工事等)として,主に鉄骨造建築物の新築及び改修工事に従事し,天井材として使用されたフレキシブル板,大平板,石膏ボード及び岩綿吸音天井板等の石綿含有形成板を電動丸鋸等で切断する際や,ビスを用いてこれらを取り付ける際,また,鉄骨に取り付けたインサートに吊りボルトを取り付ける作業において鉄骨に吹き付けられた石綿吹付け材を削り取る際等に,石綿粉じんに曝露した(甲D13の1・3・4・6・13・18,原告13本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等原告13は,平成15年3月頃から咳,痰等の症状を訴えるようになり,同年11月6日にⅠ病院を受診し,検査の結果,同年12月に右側胸水胸膜肥厚と診断され,平成18年1月12日にⅠ病院において両側胸膜肥厚及び良性石綿胸水と診断された。原告13は,平成18年8月24日付けでじん肺進行度等の審査を申請し,同月30日にじん肺管理区分「管理4」相当との決定を受けた。 原告13は,平成18年7月18日に労災保険法に基づく療養補償給付の請求を行い,平成18年1月12日を症状確認日として「びまん性胸膜肥厚」との認定を受けた上,平成19年6月19日付けで療養補償給付の支給決定がなされ,その支給を受けた。その後,原告13は,平成23年9月7日に労災保険法に基づく休業補償給付の請求を行い,これについても支給決定がなされて,同人に支給された。 (甲D13の1・2・4・6ないし10・13ないし15・18,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上のことから,原告13は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において内装工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患 ,原告13は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において内装工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患 (びまん性胸膜肥厚,じん肺管理区分管理4相当)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告13に対し国賠法1条1項に基づく責任を負う。 14 被災者14(原告14(原告番号14))本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であるから,当該期間外の労働者性の有無は被告国が被災者14及びその相続人らに対し責任を負うか否かに関係しないため,以下では,同期間内の労働者性についてのみ判断する。 (1) 被災者14(昭和18年3月14日生まれ)は,昭和50年に「被災者14商店」として独立し,同年以降平成22年12月までの間,被災者14商店の代表者として,戸建て住宅の住宅メーカーや建売業者等から解体工事,基礎工事及び外構工事を請け負い,自らも解体作業等に従事していたことが認められる(甲D14の1・4・10・14)。そして,被災者14の供述(甲D14の14,被災者14本人)によれば,被災者14商店として建築作業を請け負った際,①報酬については,1坪当たりいくらで決まり,被災者14は,当該報酬を職人として請け負わせた子方に日給月給で支払っていたこと,②請け負った建築現場の作業に子方だけを従事させることはなかったこと,③Ⅱ等から基礎工事や外構工事を請け負った場合には,元請等の現場監督が常駐しており,同人らの指示に従って作業をすることもあるが,それ以外の元請から請け負った場合には,請負時に図面を渡されて工事概要の説明を受ける程度であったこと,④解体作業を請け負った場合には,図面すら渡されることなく,現場で現況を確認してから作業を るが,それ以外の元請から請け負った場合には,請負時に図面を渡されて工事概要の説明を受ける程度であったこと,④解体作業を請け負った場合には,図面すら渡されることなく,現場で現況を確認してから作業を始め,元請は解体作業終了後に確認に来る程度であったこと,⑤子方には被災者14自身が作業に関する指示をしていたこと,⑥被災者14商店においては,常時複数の現場を掛け持ちしていたことが認められ,さらに,⑦被災者14商店はダンプカーやユンボ,ショベルカー等の重機 も所有していた旨述べていることから,請け負った作業においてこれらの重機を使用していたと推認される。以上のことからすれば,被災者14について,「被災者14商店」の代表者となった昭和50年以降,労働者性を認めることはできない。 (2) なお,原告14は,被災者14がⅢの事業主に雇用されている労働者であった期間につき,昭和49年10月から数か月間(昭和50年後半頃まで)と主張するが,被災者14は,平成23年2月22日付け石綿作業従事歴申立書(甲D14の4)において,昭和50年2月1日から被災者14商店として独立した旨記載していることからすれば,同人が後に開業時期に関する記憶がはっきりしないと述べていることを考慮しても(甲D14の14),独立したのは昭和50年の前半であったと考えられ,被告国の責任期間の始期である昭和50年10月1日時点においては,被災者14は既に被災者14商店として独立していたと推認される。 よって,Ⅲでの就労期間内の被災者14の労働者性については被告国も認めているところではあるが,当該期間は被告国の責任期間外であることから,本件において被告国が被災者14の石綿関連疾患の発生に関して責任を負うか否かの判断に影響を及ぼすものではないと解する。 (3) 以上のことか ではあるが,当該期間は被告国の責任期間外であることから,本件において被告国が被災者14の石綿関連疾患の発生に関して責任を負うか否かの判断に影響を及ぼすものではないと解する。 (3) 以上のことから,被災者14は,被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者14及びその相続人である原告14(甲D14の18ないし23)に対して,損害賠償責任を負わない。 被災者15(原告15-1(原告番号15))本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であり,前記第1,3のとおり同期間内に労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したことが認められない者については,被告国は責任を負うものではないことか ら,以下では,被災者15(大正11年8月23日生まれ)の昭和50年10月1日以降の労働者性について判断する。 (1) 被災者15築炉(昭和48年から昭和51年まで)被災者15が,被災者15築炉の屋号を用いて,一人親方として築炉作業を請け負って作業をしていた昭和48年から昭和51年までについて,原告15-1は,①Ⅳの下請会社から孫請けとして築炉作業及び炉の修復・解体作業を請け負い,同作業に従事することが多かったが,Ⅳの現場以外であっても仕事を請け負っていたこと,②報酬は日当で算定される場合が多くそのときは残業代も出ていたこと,③勤務時間は元請から指定されていたこと,④被災者15築炉として雇用した労働者はいないものの,同じ建築現場において一緒に作業に従事していた職人に対して,原告15-1を通じて日当を渡すことがあった旨述べる(甲D15の7・16,原告15-1本人)。前記各事情を前提としても,報酬の労務対償性及び使用従属関 において一緒に作業に従事していた職人に対して,原告15-1を通じて日当を渡すことがあった旨述べる(甲D15の7・16,原告15-1本人)。前記各事情を前提としても,報酬の労務対償性及び使用従属関係が認められないことから,被災者15に労働者性(特にⅣをはじめとする元請会社等との使用従属関係)を認めることは困難であり,さらに,原告15-1は,労災手続時においては,被災者15の仕事内容について十分把握していたわけではないと述べており(甲D15の7),また,本件訴訟においては,被災者15と一緒に現場に入っていた15-2や被災者15の次男から被災者15の作業内容について話を聞いて同人の作業内容を把握した旨述べているところ(原告15-1本人),被災者15が締結していた具体的な請負契約の内容に関しては,なお同原告の供述から認定することは困難といわざるを得ない。そして,本件においては,この他に,昭和48年から昭和51年の間の被災者15の労働者性を認めるに足りる証拠は見当たらないことからすれば,前記期間について,被災者15に労働者性を認めることはできない。 (2) 被災者15築炉株式会社(昭和51年から昭和63年まで)被災者15が,被災者15築炉株式会社としてⅣから築炉工事及び炉の修 復・解体作業を請け負っていた昭和51年から昭和63年までの期間については,原告15-1は,①法人化したのは,Ⅳから直接仕事を請けるためには法人化しなければならないと言われたからであること,②会社設立後は2人の職人を雇用したが,被災者15自身も現場で作業に従事していたこと,③勤務時間はⅣから指示されていたこと,④築炉作業に必要な保温材や煉瓦といった建材等はⅣが手配していたことを述べる(甲D15の16,原告15-1本人)。 前記のとおり,被災者15築炉株 いたこと,③勤務時間はⅣから指示されていたこと,④築炉作業に必要な保温材や煉瓦といった建材等はⅣが手配していたことを述べる(甲D15の16,原告15-1本人)。 前記のとおり,被災者15築炉株式会社の法人化は飽くまで直接下請としての仕事を請け負うためであったと解されるが,このことによって直ちにⅣとの間に使用従属関係が存在したとは認められない。 そして,すでに述べたとおり,原告15-1は被災者15が締結した請負契約の具体的な内容については十分に把握できていなかったといえるところ,この点を措くとしても,前記①ないし④の事情のみでは被災者15とⅣとの間に使用従属関係があったと認めることは困難であり,その他被災者15の労働者性を認めるに足りる証拠は見当たらない。 よって,被災者15が被災者15築炉株式会社を設立した後の昭和51年から昭和63年までの間について,同人に労働者性を認めることはできない。 (3) 以上のことから,被災者15は,被告国の責任期間内において労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したとは認められない。したがって,前記第1,3のとおり,本件において被告国は,被災者15及びその相続人である原告15-1(甲D15の14)に対して,損害賠償責任を負わない。 16 原告16(原告番号16)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等本件においては,後記アないしウのとおり,原告16(昭和26年3月13日生まれ)は,昭和49年から昭和52年までの間Ⅴに雇用されている労 働者として,Ⅴの事業主が建築工事を請け負った建築現場において電気設備工事に従事したことが認められる。 なお,本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であり,前記第1,3のとおり同期間内に労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したことが認 て電気設備工事に従事したことが認められる。 なお,本件における被告国の責任期間は昭和50年10月1日以降であり,前記第1,3のとおり同期間内に労働者としての作業中に石綿粉じんに曝露したことが認められない者については,被告国は責任を負うものではないことから,以下では,原告16の昭和50年10月1日以降の労働者性について判断する。 ア Ⅴ(昭和49年から昭和54年まで)原告16は,労災手続及び本件訴訟において,Ⅴが請け負った建築現場における電気設備工事に従事していた際の就労状況に関し,①昭和49年頃にⅤに就職したこと,②次の日にどこで勤務するかは前日に同僚から直接聞くことが多く,場合によっては事業主や番頭から自宅に電話がかかってきて指示されており,建築現場まではⅤにより送迎がなされていたこと,③勤務時間は決まっておらず,出勤簿で管理されることもなかったが,番頭が出勤状況は記録していたようであること,④報酬は日当2千円程度で算定され,現金で月末締め末払いで受け取っており,賞与が支給されることはなく,失業給付もなかったこと,⑤事業主は時々建築現場に様子を見に来て状況を確認していたこと,⑥事業主と請負契約を交わしたことはなかったこと,⑦年次有給休暇というものはなかったこと,⑧雇用保険には加入していなかったことを述べた(甲D16の14・17・19,原告16本人)。 また,証拠(甲D16の1・8・11)によれば,①原告16は,労災手続において,申請時(平成21年6月19日)には昭和46年7月から昭和52年2月までⅥ及びⅤに雇用され電気設備工事に従事した旨申し立てたことから,この点に関する調査がされたが,申請された時点においてこれらの事業所は既に現存しておらず,厚生年金保険等の加入記録でも雇 用の事実は見当たらなかったため, 従事した旨申し立てたことから,この点に関する調査がされたが,申請された時点においてこれらの事業所は既に現存しておらず,厚生年金保険等の加入記録でも雇 用の事実は見当たらなかったため,原告16が労働者として就労していたか否かの事実を確認できる資料は得られなかったこと,②しかし,原告16が石綿に曝露したと記憶している建築現場のうち京都府立医科大学附属病院の工事について調査した結果,同工事は株式会社Ⅶが元請として施工し,その下請にⅤが入っていることが確認できたことから,原告16の申立内容と一致する就労状況が確認できたことをもって,労働者として電気設備工事に従事していたものと推測できると判断されたことが認められる。 なお,前記京都府立医科大学附属病院の工期は昭和51年2月10日から同年3月31日までであった(甲D16の11)。 以上のことに加え,後記独立の経緯等を含めた弁論の全趣旨によれば,昭和49年から昭和52年までの間原告16がⅤの正社員として継続的に雇用されていたとまでは認められないものの,Ⅴの日雇い労働者ないしそれに類似する立場で同工業所の請け負った電気設備工事に専従していたことを推認し得る。 よって,昭和49年から昭和52年までの間については,Ⅴと原告16の間には使用従属関係があり,同原告の労働者性を認めるのが相当である。 イ Ⅷ(昭和52年から昭和54年頃まで)(ア) 証拠(甲D16の17,乙アD16の1,原告16本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告16は,昭和52年には電気工事士の免許を取得し,Ⅴから独立し,Ⅷとの屋号を用いて電気設備工事を請け負って,当該作業に従事していたことが認められる。 (イ) 原告16は,①昭和52年から2年間程度はⅤの専属下請として電気設備作業に従事していたこと,②このときの働き方 号を用いて電気設備工事を請け負って,当該作業に従事していたことが認められる。 (イ) 原告16は,①昭和52年から2年間程度はⅤの専属下請として電気設備作業に従事していたこと,②このときの働き方については独立前と変化がなく,Ⅴの社長が決めた日にあらかじめ勤務時間を定められた上で作業に従事しており,仕事の依頼について諾否の自由はなく,報酬は日当で算定されて支払われていたこと,及び③このように雇用された 労働者という立場から専属請負となったのは,独立のための準備であったこと等を供述する(甲D16の17,原告16本人)。 前記供述によれば,原告16は,「Ⅷ」との屋号を使用して自営業者となったものの,独立前のⅤとの関係(就労形態等)に照らして,「独立」したといえるだけの変化があったことを窺わせる事情は認められず,前記のとおりⅤの下で働いていた期間についても日雇い労働者ないしこれに類似する立場にあったと推認されることからすれば,昭和52年頃までの期間と「独立」後とで,「Ⅷ」を主観的に名乗るようになった以外に,その働き方に何らかの変化があったとは認められない。よって,原告16が前記のとおり供述する昭和52年以降の就労形態等によれば,引き続き原告16とⅤとの間には使用従属関係があり,原告16の労働者性が認められる。 ウ Ⅷ(昭和54年から平成元年8月まで)及びⅧ株式会社(平成元年8月から平成23年5月まで)労災手続及び本件訴訟において,原告16は,①昭和54年以降は,Ⅴの専属ではなく,施主からも直接仕事を請け負うようになり,工事に必要な材料は原告16自身が購入して作業に従事していたこと,②平成元年8月に法人化した以降は,主に粉じんの発生がない機体工事を請け負い,Ⅷ株式会社として雇用した労働者2名や下請会社に作業を任せていたが な材料は原告16自身が購入して作業に従事していたこと,②平成元年8月に法人化した以降は,主に粉じんの発生がない機体工事を請け負い,Ⅷ株式会社として雇用した労働者2名や下請会社に作業を任せていたが,電気工事を請け負うこともたまにあり,その場合には原告16自身が作業に従事することもあったことを述べた(甲D16の14・17,原告16本人)。 これらの供述内容に加え,前記昭和54年頃までの原告16の就労状況等に照らせば,昭和54年以降,原告16とⅤとの専属関係は解消されており,また,同原告と元請会社等との間に使用従属関係があったことを窺わせる事情はなく,その他本件において同原告の労働者性を認めるに足り る証拠も存在しない。よって,昭和54年以降原告16に労働者性は認められない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告16は,昭和49年から昭和54年までの間,学校や工場の新築及び改修工事における電気設備工事(照明やコンセント等の取付作業や天井裏における電気配線作業)に従事し,天井及び壁に使用された石綿含有成形板に電動ドリルで穴を開けてのこぎりで切断する際や,鉄骨(H鋼)にUラックを取り付ける際に吹き付けられた石綿を剥がす際に,石綿粉じんに曝露した(甲D16の17,原告16本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等原告16は,平成17年頃から息苦しさを感じるようになり,平成21年11月にkクリニックにおいて石綿肺であるとの診断を受け,平成22年5月27日付けでじん肺管理区分管理2との決定がされ,その後同年11月に石綿肺(管理区分2)に続発性気管支炎を合併しているとの診断がなされた。 原告16は,平成23年3月22日に労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の支給決定を受け,これを受給した。 月に石綿肺(管理区分2)に続発性気管支炎を合併しているとの診断がなされた。 原告16は,平成23年3月22日に労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の支給決定を受け,これを受給した。 (甲D16の1・5・15・17,原告16本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上のことから,原告16は,被告国の責任期間中約4年間,建築現場において電気工(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(石綿肺,じん肺管理区分管理2)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告16に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 17 被災者17(原告17-1(原告番号17))(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等被災者17(昭和10年12月5日生まれ)は,昭和26年6月から平成 10年までの間Ⅸ株式会社に雇用されている労働者として,同社が請け負った建築現場において,主に塗装工事に従事した(甲D17の4・6ないし8・14,弁論の全趣旨)。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容被災者17は,ビル等の建築現場において,塗装を行う前の下地調整作業としてボードのつなぎ目にパテを塗り,その後やすりなどを使用して塗装面(石綿を含有するモルタルやボード等の表面)を平らにする作業を行う際や,改修工事においては従前壁等に塗られていた塗料を削り落とす等の作業を行う際に,石綿粉じんに曝露した(甲D17の5・7・14・17・18,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等被災者17は,平成13年冬頃労作時に呼吸困難を訴えてⅩ病院を受診し,間質性肺炎と診断され,在宅酸素療法等を行っていたが,平成14年7月に呼吸困難が悪化し,同年8月2日から同年9月14日に 認定等被災者17は,平成13年冬頃労作時に呼吸困難を訴えてⅩ病院を受診し,間質性肺炎と診断され,在宅酸素療法等を行っていたが,平成14年7月に呼吸困難が悪化し,同年8月2日から同年9月14日にかけてⅪ病院に入院し,検査の結果,石綿肺と診断された。平成15年3月初旬に上気道炎症状が出現し,同月10日に呼吸困難によりⅪ病院を受診し,間質性肺炎及び細菌性肺炎と診断され同月11日より入院加療を行ったが,同年6月17日石綿肺(呼吸不全)により死亡した。 被災者17の妻である17-2は,平成20年10月17日に石綿健康被害救済法に基づく特別遺族年金の支給を請求し,平成21年1月7日付けで同支給決定を受け,これを受給した。 なお,前記特別遺族年金の支給決定手続においては,被災者17の罹患した石綿関連疾患の病状及び死因等に関し,地方労災医員により,平成14年8月の入院時において慢性呼吸器不全でじん肺管理区分管理4相当の状態にあったと考えられること,死因は石綿肺すなわち間質性肺炎及び肺線維症の進行に必然的に伴う慢性の高度呼吸不全で,他に相当因果関係を有する病因 が認められないため,労災上は業務に関連したものと認めるのが妥当であるとの意見が述べられた。 (甲D17の1・4・11・16,原告17-1本人)(4) 被告国の責任以上によれば,被災者17は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において塗装工(労働者)として前記(2)の作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(石綿肺,じん肺管理区分管理4相当)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者17に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 18 原告18(原告番号18)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等 分管理4相当)に罹患して死亡したことが認められる。よって,被告国は,被災者17に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 18 原告18(原告番号18)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等原告18(昭和41年8月9日生まれ)は,平成3年4月から平成17年5月5日までの間原告18建設株式会社に雇用されている労働者として,同社が工事を請け負った変電所における変圧器の交換作業及び建築物の解体・改修作業等に従事した(甲D18の1・4ないし6・9,原告18本人,弁論の全趣旨)。 なお,原告18が平成3年4月から平成17年5月5日までの間原告18建設株式会社に雇用された労働者として建築作業に従事していたことについて,被告国及び原告18の間に争いはない。前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(中皮腫)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,被告国の責任期間内における曝露期間が1年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,原告18が原告18建設株式会社の代表取締役に就任した平成17年5月6日以降の期間について同人の労働者 性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告18は,平成3年4月から平成17年5月5日までの間,変電所において,変圧器の交換時に変圧器の入っている建屋の壁の一面をハンドブレーカーやバールを用いて壊し,変圧器の四方及び天井の内装材を撤去し,変圧器交換後に内壁及び外壁を復旧させる作業を行う際,内装材等に いて,変圧器の交換時に変圧器の入っている建屋の壁の一面をハンドブレーカーやバールを用いて壊し,変圧器の四方及び天井の内装材を撤去し,変圧器交換後に内壁及び外壁を復旧させる作業を行う際,内装材等に使用されていた石綿含有建材から発生した石綿粉じんに曝露した。また,同期間内に従事した建築物(マンション,工場,変電所及び発電所等)の解体・改修工事において,当該建築物の内装材等として使用されていた石綿スレートを破砕し撤去する作業等を行う際,石綿粉じんに曝露した。(甲D18の1・2・4ないし7・9・10・15,原告18本人,弁論の全趣旨)(3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等原告18は,平成24年1月頃から左胸痛を訴え,同年9月5日にⅫ病院を受診し,同年11月19日に検査を行った結果,同月26日に胸膜中皮腫と診断され,平成25年1月16日に労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の請求をし,平成25年3月に支給決定を受けた(甲D18の1ないし4・8・12ないし14)。 (4) 被告国の責任以上のことから,原告18は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において労働者として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(胸膜中皮腫)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告18に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 19 原告19(原告番号19)(1) 石綿粉じん曝露作業従事期間等 原告19(昭和18年1月2日生まれ)は,昭和34年4月から昭和39年8月までの間AA住建に,昭和39年9月から昭和43年1月までの間BBハウジングに,昭和43年2月から昭和49年12月までの間CC建設に,昭和50年1月から昭和61年7月までの間DD工務店に 年8月までの間AA住建に,昭和39年9月から昭和43年1月までの間BBハウジングに,昭和43年2月から昭和49年12月までの間CC建設に,昭和50年1月から昭和61年7月までの間DD工務店に,それぞれ雇用されている労働者として,前記各事業主らが元請として請け負った建築現場において,大工又は大工見習いとして,主に木造建築物の新築工事,増改築工事及び解体工事等に従事した(甲D19の3ないし7・15・16・20・21・32,原告19本人,弁論の全趣旨)。 なお,原告19が昭和34年4月から昭和61年7月までの間労働者として建築作業に従事していたことについて,被告国及び原告19の間に争いはない。前記第1,2のとおり,石綿関連疾患(肺がん)については,被告国の責任期間内において労働者として建築現場で建築作業に従事し,石綿粉じん曝露作業によって発生した石綿粉じんに曝露したと認められれば,被告国の規制権限の不行使と被災者の石綿関連疾患罹患との間の因果関係を否定することはできず,また,被告国の責任期間内における曝露期間が10年以上認められることから後記第6,1のとおり慰謝料額の算定上も影響がないため,昭和61年7月に原告19が「被災者19ハウジング」の屋号で独立した以降の期間について同人の労働者性を判断する必要性は認められない。よって,本件においては,この点について検討しない。 (2) 石綿粉じん曝露作業の内容原告19は,昭和34年4月から昭和61年7月までの間,主に木造建築物の新築工事,増改築工事及び解体工事に従事し,これらの工事において,丸鋸及び電気サンダー等の電動工具やバール等を用いて,石綿を含有する内装材等を加工(切断及び研磨作業等)する作業及びこれらの建材を破砕する作業等を行う際,石綿粉じんに曝露した(甲D19の3・4・6・7 鋸及び電気サンダー等の電動工具やバール等を用いて,石綿を含有する内装材等を加工(切断及び研磨作業等)する作業及びこれらの建材を破砕する作業等を行う際,石綿粉じんに曝露した(甲D19の3・4・6・7・15ないし21・28ないし32,原告19本人,弁論の全趣旨)。 (3) 石綿関連疾患の発生及び労災認定等原告19は,平成18年7月18日に咳,痰,労作時の息切れ等を訴えてEE病院を受診し,肺気腫との診断を受けた。その後,平成19年2月23日に同病院におけるエックス線検査により不整な腫瘤影が確認されたこと等から肺がんが疑われたため,同年9月19日にFF医療センターを受診し精査した結果,肺がん(扁平上皮がん)と診断された。 原告19は,平成20年6月20日に労災保険法に基づく休業補償給付の請求を行ったところ,平成21年11月4日付けで不支給決定がされたため,これを不服として審査請求及び再審査請求を行ったが,いずれも棄却された。 そこで,平成24年に前記休業補償給付不支給処分の取消を求めて大阪地方裁判所に訴訟を提起し,平成26年3月26日に同人の請求を認容する判決がなされたことから,同年6月に休業補償給付の支給決定がなされ,これを受給した。 (甲D19の2・3・5・9ないし13・10・22ないし25・32,原告19本人,弁論の全趣旨)(4) 被告国の責任以上によれば,原告19は,被告国の責任期間中10年以上にわたり,建築現場において大工又は大工見習い(労働者)として前記(2)記載の建築作業に従事した際に石綿粉じんに直接又は間接的に曝露し,これによって石綿関連疾患(肺がん)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告19に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 第3 包括一律請求について原告らは,本件における に曝露し,これによって石綿関連疾患(肺がん)に罹患したことが認められる。よって,被告国は,原告19に対して国賠法1条1項に基づく責任を負う。 第3 包括一律請求について原告らは,本件における損害額につき,個別の財産的損害の賠償請求を含まず,基本的には,財産的損害の要素を加味して,損害の総体を慰謝料として評価した結果,その慰謝料額は被災者1人当たり3500万円(弁護士費用を除く)を下回るものではないとして,本件訴訟においては慰謝料の一部 金として被災者1人当たり3500万円を請求し,現時点において個別の財産的損害について別途請求する予定はない旨主張する。 以上のことからすれば,原告らは,個別の財産的損害については,これを具体的に主張立証することによってその賠償を求めるのではなく,慰謝料額を算定する際の考慮要素とすることとし,本件各被災者らが被った全損害について慰謝料として評価して請求するものと解される。 本件に関しては,前記第4章第1節第4,2(5)ア記載のとおり,被告国が安衛法に基づき定めるのは労働災害防止のための最低基準であって,事業者は前記最低基準を遵守した上で職場における労働者の安全と健康を確保するための適切かつ有効な措置を講じるべき義務等を負っていることからすれば,労働者の職場における安全及び健康が確保されず,そのために労働者が被害を被った場合に,被告国の前記規制権限の不行使が当該労働者に与えた損害を具体的に主張立証することには困難な面があることは否定できず,また,被告国が前記規制権限の不行使の違法により責任を負うべき被災者は,建築現場における石綿粉じん曝露作業により発生した石綿粉じんに曝露した結果石綿関連疾患に罹患した者であるから,その原因及び罹患した疾病について共通性があるといえ,被害内容をある程度類 べき被災者は,建築現場における石綿粉じん曝露作業により発生した石綿粉じんに曝露した結果石綿関連疾患に罹患した者であるから,その原因及び罹患した疾病について共通性があるといえ,被害内容をある程度類型化することが可能であるといえる。よって,本件においては,包括一律請求によることも許されるべきであり,その場合には,被害者側に控えめな類型的損害を算定した上で,類型化することが相当でないと考えられる個別の事情については慰謝料額の増減事由として個別に考慮することによって慰謝料額を算定するのが相当であると解する。 そして,前記のような包括一律請求がなされた場合には,個別の財産的損害については主張立証がされないか不十分であるから,財産的損害に対応する慰謝料額を具体的に算定することは不可能ないし困難であり,よって,原告らが各自の財産的損害については被告国に対して別途請求しないことを前 提に,飽くまで財産的損害について慰謝料額の算定における一事情として斟酌することとなるため,労災保険給付等として原告らに支給された額について,個別の財産的損害について主張立証が尽くされている場合と同様に,これに対応する損害の填補がなされたものとして損害額から差し引くことはできないが,財産的損害を慰謝料算定における一事情として考慮する以上,財産的損害に対して填補機能を有する労災保険給付,石綿健康被害救済法に基づく給付,厚生年金保険法等に基づく公的年金給付及び健康保険法等に基づく給付等についても,財産的損害の要素として,慰謝料を算定する上で考慮すべき一事情となるというべきである。 第4 慰謝料額の算定について 1 慰謝料の基準額について前記第2章第2節第4記載のとおり,石綿肺の自覚症状は,労作時息切れにはじまり,咳,痰がみられ,ときには咳に胸痛や血痰を伴 べきである。 第4 慰謝料額の算定について 1 慰謝料の基準額について前記第2章第2節第4記載のとおり,石綿肺の自覚症状は,労作時息切れにはじまり,咳,痰がみられ,ときには咳に胸痛や血痰を伴うことがある。 病状が進行すると,安静時であっても呼吸困難を訴えるようになり,呼吸困難と酸素欠乏の状態が続くことによって心臓に負担がかかり肺性心と呼ばれる心不全が起こる。石綿肺は,石綿曝露中止後も病状が進行し,拘束性呼吸機能障害を来して肺活量が減少し,最終的には死に至る場合があるため,他のじん肺に比べて予後が悪いとされるが,肺がんや中皮腫のように短期間で死に至るような疾患ではない。石綿肺は,病変の進展に伴って,肺結核,結核性胸膜炎,続発性気管支炎,続発性気管支拡張症,続発性気胸,原発性肺がんを合併する危険性が高い。治療法は,一般の間質性肺炎と同様に,病状が進行している場合は免疫抑制剤やステロイド剤で炎症を改善させ,また,低酸素血症に関しては在宅酸素療法が行われる。 石綿粉じん曝露による肺がんの自覚症状は,一般の肺がんと同様,血痰,慢性的な激しい咳,喘鳴,胸痛,体重減少,食欲不振,息切れ等である。治療法は,一般の肺がん同様,早期病変は手術療法で治癒可能であるが,石綿 肺が進展している場合などは呼吸機能障害の問題で手術ができない場合があり,また,進行がんでは化学療法や放射線療法が行われるが,石綿肺を合併している症例には放射線療法が制限される場合があるとされており,一般の肺がんよりも治療手段が制限される。肺がんは,一般に非常に予後の悪い疾患であるとされ,5年生存率は15%とされている。 中皮腫の症状としては,中皮腫が胸膜に発生した場合には,多くの場合(約80%),胸水がたまり肺を圧迫するため,胸の痛みや息切れを感じ,また,咳や痰も出 あるとされ,5年生存率は15%とされている。 中皮腫の症状としては,中皮腫が胸膜に発生した場合には,多くの場合(約80%),胸水がたまり肺を圧迫するため,胸の痛みや息切れを感じ,また,咳や痰も出るようになる。胸痛は特定の部位に限局せず持続的で,中皮腫の進展と共に強くなる。腹膜の中皮腫では,腹部に水がたまるため,腹部膨満と腹痛が多い。現在,中皮腫に対して標準的といえる治療法はなく,2年生存率は30%,平均余命の中央値は15か月という,非常に予後の悪い疾患である。 びまん性胸膜肥厚の臨床症状は,咳,痰及び呼吸困難等である。初期は,無症状か労作時呼吸困難にとどまるが,進行すると著しい肺機能障害を来す。 びまん性胸膜肥厚に対しての加療はなく,気管支拡張剤による対症療法,及び,肺機能障害が著しくなり慢性呼吸不全となった場合における在宅酸素療法が行われる。石綿肺の所見がないびまん性胸膜肥厚所見は,石綿肺有所見者ほどではないが,中皮腫のリスクが高いとされる。 そして,証拠(甲D1の16,2の24,3の12,6の23,11の9,12の23・29,13の18,16の17・19・20,17の14・15・19,18の15,19の32・33,各原告本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,被災者らは,石綿関連疾患の進行により,就労に困難を来し,やがて飲食,入浴,就寝等の日常生活にも支障を来すようになり,趣味等を持つこともできないなど生きがいを失うことも多く,また,階段の上り下りや歩行によっても息切れがする等通常の動作も容易に行えなくなり,病状の進行度合いによっては呼吸困難により常に酸素吸入が必要となるなど して,生活活動全般にわたる被害が生じた。また,就労が困難となった結果,収入が絶たれ,一方では医療費がかさむことによって経済状況は悪化し,前 は呼吸困難により常に酸素吸入が必要となるなど して,生活活動全般にわたる被害が生じた。また,就労が困難となった結果,収入が絶たれ,一方では医療費がかさむことによって経済状況は悪化し,前記のような状況から被災者らを支える家族等にまで負担をかけることを気に病み,さらに,死に対する恐怖感を感じながら日々の生活を送らざるをえなくなる等,その精神的,財産的損害は甚大である。 以上のとおり,本件各被災者らは,石綿関連疾患に罹患したことにより,強い精神的苦痛を被ったものと認められる。 以上の事情を総合的に考慮して,基準となる慰謝料額は以下のとおりとする。なお,以下の基準額は,本件被災者ら及びその遺族である原告らの中に,労災保険給付,石綿健康被害救済法に基づく給付,厚生年金保険法等に基づく公的年金給付,健康保険法等に基づく給付を受けている者が存在することをも前提としたものである。 (1) 石綿肺(じん肺管理区分の管理2)で合併症がある場合 1500万円(2) 肺がん,中皮腫,びまん性胸膜肥厚の場合 2400万円(3) 石綿肺(じん肺管理区分管理4相当),肺がん,中皮腫による死亡の場合2700万円 2 弁護士費用について原告らは,原告ら訴訟代理人らに対し,本件訴訟の提起・追行を委任したことが認められるところ,本件訴訟の難易度,審理の経過,請求額及び認容額等諸般の事情を考慮すると,それぞれ認容額の1割に相当する額が,被告国の不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。 第5 被告国の責任の範囲について被告国は,前記規制権限の不行使と相当因果関係の認められる損害について,その全部を賠償する責任を負う。 しかし,前記第4章第1節第4,2(5)アで述べたとおり,職場における労働者の安全と健康の確保は,基本的には事業者の責任に 使と相当因果関係の認められる損害について,その全部を賠償する責任を負う。 しかし,前記第4章第1節第4,2(5)アで述べたとおり,職場における労働者の安全と健康の確保は,基本的には事業者の責任によって行われるべき ものであり,労働者が建築現場における石綿粉じん曝露作業により生じた石綿粉じんに曝露することによって石綿関連疾患に罹患することがないように配慮すべき責任は,第一次的には事業者が負うものである。被告国は,事業者の前記責任を前提に,安衛法に基づく規制権限等を行使し,労働者が石綿粉じんに曝露することを防止するために,事業者等に対して様々な作為義務を課し,これに違反した場合の罰則を定めることによってその実効性を確保するものであり,事業者等が被告国の定めた労働災害防止のための最低基準を遵守した上で,さらに石綿粉じん曝露防止のための適切かつ有効な措置を講じている場合には,被告国が前記規制権限を行使する必要はなく,その不行使が違法となることはないのであるから,その責任は二次的,補充的なものといえる。 前記のとおり,被告国の規制権限が事業者に対して義務を課すという形で行使されるものであり,事業者が当該義務を履行することによって規制の目的が実現されるべきこと,及び,事業者は,被告国の規制権限の行使の有無(一定の措置を講じることが最低基準として法令により定められているか否か)にかかわらず,労働者の石綿粉じん曝露による石綿関連疾患を防止するために有効かつ適切な措置を講ずべき義務を負うものであることからすれば,本件において,前記被告国の規制権限の不行使の違法がなければ,労働者らの石綿関連疾患による被害の発生ないし拡大を相当程度防止することができたということはできるが,労働者らが被った損害全てが発生しなかったとまでいうことはできず, 権限の不行使の違法がなければ,労働者らの石綿関連疾患による被害の発生ないし拡大を相当程度防止することができたということはできるが,労働者らが被った損害全てが発生しなかったとまでいうことはできず,そのため,前記被告国の規制権限の不行使と労働者に生じた損害全体との間に相当因果関係があるとは直ちに認め難いといわざるを得ない。 以上のことからすれば,本件において被告国が負うべき賠償責任の範囲は,前記のように被告国の責任が二次的,補充的なものであり,加えて,被告国が建築現場における労働者の石綿粉じん曝露を防止するために,不十分であ ったとはいえ,一定程度規制権限を行使してきたこと等を踏まえ,損害の公平な分担の観点から,被告国が賠償責任を負うべき被災者に生じた損害の3分の1を限度とするのが相当である。 第6 損害賠償額の修正要素について 1 被告国の責任期間内の石綿粉じん曝露期間が短期間の被災者の損害額の減額について(1) 石綿関連疾患(石綿肺,肺がん,中皮腫及びびまん性胸膜肥厚)については,前記第1,2のとおり,石綿粉じんに曝露する期間が長くなるほど発生リスクが高まることからすれば,被告国の責任期間外の石綿粉じんへの曝露期間が,石綿肺又は肺がんに罹患した被災者については10年以上,中皮腫に罹患した被災者については1年以上,びまん性胸膜肥厚に罹患した被災者については3年以上等の一定期間があるからといって,被告国の規制権限の不行使と被災者らの石綿関連疾患の発生との間の因果関係を否定することはできないが,被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露期間の長短によって前記石綿関連疾患の発生に及ぼす影響は異なると考えられる。 (2) 石綿健康被害救済法の施行に伴い,石綿関連疾患を救済するための具体的な基準を策定する必要が生じたこと等 じん曝露期間の長短によって前記石綿関連疾患の発生に及ぼす影響は異なると考えられる。 (2) 石綿健康被害救済法の施行に伴い,石綿関連疾患を救済するための具体的な基準を策定する必要が生じたこと等から,石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会は,平成17年11月16日から平成18年2月2日まで,石綿関連疾患の範囲及び当該疾患が石綿を原因とすると医学的に判断するための考え方について検討を行い,その結果が平成18年2月付けの「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書(乙アA156)として報告された。また,同報告後に多くの医学文献が報告されている状況を踏まえて,石綿による疾病の認定基準に関する検討会は,平成22年5月から平成24年2月にかけて肺がん及びびまん性胸膜肥厚に関してさらなる医学的知見を集積・検討し,その結果について, 平成24年2月付けの「石綿による疾病の認定基準に関する検討会報告書」(乙アA1012)として報告した。これらの報告によれば,以下のような評価等がなされていることが認められる。 ア石綿肺石綿肺に関しては,石綿を大量に吸入することによって発生する職業性の疾患であり,一般に,曝露開始後概ね10年以上経過して所見が現れるもので,石綿セメント等の石綿製品製造作業においては5年程度の曝露で,石綿吹付け,石綿紡織では1年程度の曝露でも所見が見られることがある。 なお,石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会の委員であった岸本卓巳によれば,石綿肺の診断に関しては,我が国において石綿肺の詳細な診断基準は法令上も学会においても定められていないが,一般的には石綿曝露開始から10年以上の職業性石綿曝露歴,胸部エックス線所見,類似疾患の除外が必須とされている,とされる(乙アA154)。 細な診断基準は法令上も学会においても定められていないが,一般的には石綿曝露開始から10年以上の職業性石綿曝露歴,胸部エックス線所見,類似疾患の除外が必須とされている,とされる(乙アA154)。 イ肺がん肺がんに関しては,「石綿糸,石綿布等の石綿紡織製品製造作業」,「石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート,石綿高圧管,石綿円筒等のセメント製品の製造工程における作業」及び「石綿の吹付け作業」に従事した者についてはその期間が5年程度あることが確実である場合には発症リスクが2倍以上となる石綿粉じん曝露があったものとみなすことに合理性があり,一方で,それ以外の作業の従事者に関しては作業内容や従事頻度により累積曝露量が大きく異なると考えられ,現在までに日本で得られた知見から石綿粉じん曝露作業従事期間によって累積曝露量を推定することはできないが,「胸膜プラーク+石綿曝露作業従事期間10年以上」の要件は平成24年2月時点では概ね肺がんのリスクを2倍に高める累積石綿曝露量の指標として一定の評価ができる。 ウ中皮腫 中皮腫に関しては,職業曝露とみなすために必要な曝露期間については,概ね1年以上の職業による石綿曝露が中皮腫発症の重要な要因といえるが,ただし,作業環境管理が十分に行われていなかった時代に吹付け作業,原料投入作業等の石綿飛散が著しい作業に従事した場合については,石綿曝露作業従事期間が1年に満たない場合でも,中皮腫発症を否定できない。 エびまん性胸膜肥厚びまん性胸膜肥厚については,業務上の石綿粉じん曝露によるものとみなすために必要な曝露期間の考え方としては,平成24年2月時点における医学的知見によっても,「概ね3年以上の職業による石綿曝露年数が目安となる」とされている。ただし,当該3年という期間は るものとみなすために必要な曝露期間の考え方としては,平成24年2月時点における医学的知見によっても,「概ね3年以上の職業による石綿曝露年数が目安となる」とされている。ただし,当該3年という期間は推定累積曝露量がある一定のレベルに達することを意味するものではなく,飽くまでも把握した過去の症例のうち,曝露期間が最も短かったものを目安として引用したものであり,3年に満たない場合には再度石綿曝露歴を確認する等慎重に対応することが必要である。 (3) 以上のことに加え,被告国の責任期間外において石綿粉じんに曝露していた被災者に関しては,当該期間における石綿粉じん曝露と被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露が不可分一体となり重畳的に作用することによって,当該被災者の石綿関連疾患を発生させたものと考えられるため,損害の公平な分担の観点から,以下のとおり,被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間の長短により,基準となる慰謝料額を減額するのが相当である。 ア石綿肺前記(2)アのとおり,医学的に,石綿肺の診断において職業上の石綿粉じん曝露期間が10年以上あることが重要視されていること,及び本件被災者には石綿吹付け作業に従事した者が含まれていないことから,石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上か否かを基準として,以下のとおり減 額する。 (ア) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上の者については,基準額からの減額は行わない。 (イ) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が10年未満の者については,基準額から10%減額する。 イ肺がん前記(2)イのとおり,石綿粉じん曝露による原発性肺がんの診断については,10年以上の職業上の石 ての石綿粉じん曝露作業従事期間が10年未満の者については,基準額から10%減額する。 イ肺がん前記(2)イのとおり,石綿粉じん曝露による原発性肺がんの診断については,10年以上の職業上の石綿粉じん曝露のみで判断することは妥当ではないとされるが,胸膜プラークの存在及び職業上10年以上石綿粉じんに曝露したことを要件とすることには一定の合理性が認められていることから,医学的に見て石綿粉じん曝露期間10年以上が重要な判断要素の一つであるといえること,及び,本件被災者には石綿吹付け作業に従事した者が含まれていないことを踏まえ,石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上か否かを基準として,以下のとおり減額する。 (ア) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上の者については,基準額からの減額は行わない。 (イ) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が10年未満の者については,基準額から10%減額する。 ウ中皮腫前記(2)ウのとおり,中皮腫に関しては,職業曝露とみなすために必要な曝露期間について,医学的に見て,概ね1年以上の職業による石綿曝露が中皮腫発症の重要な要因とされていることから,石綿粉じん曝露作業従事期間が1年以上か否かを基準として,以下のとおり減額する。 (ア) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が1年以上の者については,基準額からの減額は行わない。 (イ) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従 事期間が1年未満の者については,基準額から10%減額する。 エびまん性胸膜肥厚前記(2)エのとおり,びまん性胸膜肥厚に関しては,診断において業務上の石綿粉じん曝露によるものであるか否かを判断す 期間が1年未満の者については,基準額から10%減額する。 エびまん性胸膜肥厚前記(2)エのとおり,びまん性胸膜肥厚に関しては,診断において業務上の石綿粉じん曝露によるものであるか否かを判断する上で,3年以上の職業による石綿粉じん曝露期間を有することが重要視されていることから,石綿粉じん曝露作業従事期間が3年以上か否かを基準として,以下のとおり減額する。 (ア) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が3年以上の者については,基準額からの減額は行わない。 (イ) 被告国の責任期間内における労働者としての石綿粉じん曝露作業従事期間が3年未満の者については,基準額から10%減額する。 2 被告国の主張について(1) 被告国は、事業者及び被災者らが労働関係法令による各種義務を遵守しなかったことが被災者らの健康被害の発生及び拡大に影響を及ぼしているのであるから,仮に被告国の責任が認められる余地があるとしても,前記事情を考慮して,その責任は相当な範囲に限定されるべきである旨主張する。 しかし,本件においては,事業者が労働者に対し防じんマスクを着用させる義務,及び,労働者の石綿粉じん曝露防止対策の実効性を確保する手段としての建材メーカーの警告義務及び作業現場掲示義務に関する被告国の規制権限の不行使を国賠法1条1項の適用上違法であると判断しているところ,①建築現場における石綿粉じん曝露防止対策としては,防じんマスクの使用が一次的かつ有効な方策であり,被告国の責任期間において被告国が労働関係法令で義務付けていた湿潤化等の措置については建築現場における石綿粉じん曝露防止対策としての実効性に欠けるものであったこと,②昭和50年10月1日以降平成7年3月31日までの間に労働関係法令において義務付 けら 等の措置については建築現場における石綿粉じん曝露防止対策としての実効性に欠けるものであったこと,②昭和50年10月1日以降平成7年3月31日までの間に労働関係法令において義務付 けられていたのは,事業者の防じんマスクの備え付け義務及び労働者の事業者から防じんマスクの着用を命じられた場合にこれを着用すべき義務であったところ,防じんマスクについては,着用に伴う息苦しさ等,労働者が建築作業中にこれを自主的に着用することを困難にする要因が存在するにもかかわらず,事業者に対し,労働者に防じんマスクを着用させることを義務付けていなかったこと,③前記第4章第1節第4,2(5)カ(イ)記載のとおり,平成7年時点において,石綿含有率による例外を設けた上で防じんマスクの着用を義務付けることは,建築現場における石綿粉じん曝露防止対策として有効なものであったとは言い難いこと,等からすれば,被災者らの石綿粉じん曝露による石綿関連疾患罹患については,被告国の防じんマスクに関する規制が不十分であったことが相当程度影響していると認められるところ,前記のとおり,本件においては,被告国の責任が二次的,補充的なものであること等によりその責任の範囲を限定しているのであって,それ以上に被災者らの労働関係法令の不遵守を理由にその責任の範囲に限定を加える余地はないと解する。 (2) 被告国は,喫煙が肺がん発症に大きな影響を与えていることは明らかであるから,喫煙歴のある者については,被告国に損害の全部を負担させるのは公平の見地から相当でなく,民法722条2項を類推適用して損害賠償額を減額すべきであると主張する。 前記第2章第2節第4,2(2)エのとおり,肺がんの発症リスクは,石綿に曝露せずたばこを吸わない人を1とすると,石綿に曝露した人は約5倍,たばこを吸う人は 損害賠償額を減額すべきであると主張する。 前記第2章第2節第4,2(2)エのとおり,肺がんの発症リスクは,石綿に曝露せずたばこを吸わない人を1とすると,石綿に曝露した人は約5倍,たばこを吸う人は約10倍,石綿に曝露しかつたばこを吸う人は約50倍であると報告されており,喫煙は,それのみでも肺がん発症リスクが認められ,石綿と相乗的に作用することによって肺がんの発生リスクを飛躍的に高めるとされている。 しかし,昭和50年改正特化則により,事業者に対し,石綿を製造し,又 は取り扱う作業場で,労働者が喫煙等することを禁止し,かつ,その旨を当該作業場の見やすい箇所に表示する義務を課し,労働者もこれを遵守すべきこととし(同規則38条の2),さらに,昭和51年通達を発出して「できるだけ喫煙を避けるよう指導教育」することとされた(乙アB29)ものの,これらの規制は,施行時における改正の要点として指摘されておらず(乙アB31),雇入れ時教育が実効性を有していたとは認められないところ,本件における被災者らのような建築作業に従事する労働者に対して,指示・指導されたか否かは,本件全証拠によっても明らかではないことから,石綿含有建材を取り扱う建築作業従事者において,喫煙を避けるべき契機となり得たとは認められない。そして,前記喫煙に係る報告は,統計的に喫煙と肺がん発症のリスクとの因果関係を示したものにすぎないところ,本件においては,前記のとおり,被告国の責任期間内において,一定期間石綿粉じんに曝露する作業に従事した被災者については,石綿関連疾患と被告国の規制権限不行使との間に相当因果関係があると認められることからすれば,当該被災者の喫煙歴が具体的に肺がん発症に寄与したか否かについては,被告国において個別的に立証されているわけではないことから,喫煙 制権限不行使との間に相当因果関係があると認められることからすれば,当該被災者の喫煙歴が具体的に肺がん発症に寄与したか否かについては,被告国において個別的に立証されているわけではないことから,喫煙歴を有する場合に損害額を減額するのは相当ではない。 (3) 被告国は,原告らの請求方式が包括一律請求方式である本件においては,原告らが受給した労災保険給付等の公的給付のうち,その性質が財産的損害の補填にあるものについては,その全額について,基準となる慰謝料額から控除されるべきであると主張する。 しかし,原告らは慰謝料として一律に3500万円を請求しているところ,労災保険給付等は財産的損害の補填を目的とするものであるから,民事上の損害賠償のうちの精神的損害(慰謝料)と同質性を有するとはいえず(最高裁昭和58年(オ)第128号同62年7月10日第二小法廷判決・民集41巻5号1202頁等参照),前記のとおり,本件においては,財産的損害に ついて飽くまで慰謝料額の算定上で考慮すべき一事情として捉えているにすぎないことから,労災保険給付等として支給された額を本件において認定した損害額(慰謝料額)と損益相殺的に控除することは許されない。 また,本件においては,前記のとおり,財産的損害を慰謝料算定の一事情としたことから,労災保険給付等についても慰謝料算定において斟酌しており,それ以上に労災保険給付等の受給を理由として減額する余地はないものと考える。 第7 各被災者の慰謝料額について 1 原告1(原告番号1)(1) 基準となる慰謝料額原告1は肺がんに罹患していることから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告1については,被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上あるこ は肺がんに罹患していることから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告1については,被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間が10年以上あることが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(=2400万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,80万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計880万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告1が肺がんとの診断を受けた日(石綿粉じん曝露作業により肺がんを発症した日より後の日)である平成22年12月13日を遅延損害金の起算日とする。 2 被災者2(原告2-1(原告番号2の1),原告2-2(原告番号2の2)) (1) 基準となる慰謝料額被災者2は胸膜中皮腫に罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正被災者2は,被告国の責任期間内において石綿粉じん曝露作業に1年以上従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は900万円(=2700万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者2は,平成23年3月6日に胸膜中皮腫により死亡し,同人の相続人である妻の原告2-1及び長女の原告2-2が,本件訴訟における損害賠償請求権についてそれぞれ2分の1の割合で相続した(甲D2の5・7)。 なお,被災者2と原告2-1の長男2-3は,被災者2が死亡する前の平成19年3月20日に肺炎により死亡した(甲D2の7・17)。 よって,原告2-1及び原告2-2は,被災者2の本件損害賠償請求権につき,450万円をそれぞれ相続した。 (4) 者2が死亡する前の平成19年3月20日に肺炎により死亡した(甲D2の7・17)。 よって,原告2-1及び原告2-2は,被災者2の本件損害賠償請求権につき,450万円をそれぞれ相続した。 (4) 弁護士費用原告2-1及び原告2-2につき,前記(3)の各慰謝料額の1割に相当する額として,それぞれ45万円が相当である。 (5) 認容額の合計原告2-1及び原告2-2につき,それぞれ,前記(3)及び(4)の合計額である495万円となる。 (6) 遅延損害金の起算日原告2-1は,被災者2が胸膜中皮腫との確定診断を受けた日(石綿粉じん曝露作業により胸膜中皮腫を発症した日より後の日)である平成21年11月10日を遅延損害金の起算日とすべき旨主張する。 しかし,原告2-1は被災者2が胸膜中皮腫により死亡したことを損害としてその賠償を請求しているところ,死亡により胸膜中皮腫とは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者2が胸膜中皮腫により死亡した平成23年3月6日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 3 原告3(原告番号3)(1) 基準となる慰謝料額原告3は石綿肺(じん肺管理区分管理2)に罹患し,合併症があることから,基準となる慰謝料額は1500万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告3は,被告国の責任期間内において5年1か月程度石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は450万円(=1500万円×0.9(被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間が10年に満たないことによる減額)×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,45万円が相当である。 曝露作業従事期間が10年に満たないことによる減額)×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,45万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計495万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告3は,本件において,石綿肺(じん肺管理区分管理2,続発性気管支炎を合併)として損害賠償を請求しているところ,遅延損害金の起算日について,石綿肺との診断を受けた後に続発性気管支炎を合併し,さらに石綿肺軽度から管理2への進行したことについて一個の損害賠償請求権の範囲の拡大と捉え,最初に石綿肺との診断を受けた平成17年8月18日が遅延損害金の起算日となる旨主張する。 不法行為に基づく損害賠償請求権は,損害の発生と同時に何らの催告を要することなく遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。 確かに,仮に管理1,管理2,管理3,管理4と順次行政上の決定を受けた場合には,事後的に見ると一個の損害賠償請求権の範囲が量的に拡大したにすぎないようにみえるものの,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,石綿肺は,石綿粉じんに曝露しなくなった後もその症状が進行するものであるが,石綿粉じん曝露量と石綿肺の発症との間には量反応関係があり,発症後の病状進行及び進行速度の予測等に関する一般的な医学的知見が確立していることが窺われず,罹患者によって症状の進行及び合併症併発の有無やその程度は様々であること等からすれば,石綿肺であるとの診断を受けたとしても,その病状が今後どの程度進行するのか,そもそも症状の固定が認められるのか等について判断することはできないといわざるを得ず,よって,管理 あること等からすれば,石綿肺であるとの診断を受けたとしても,その病状が今後どの程度進行するのか,そもそも症状の固定が認められるのか等について判断することはできないといわざるを得ず,よって,管理1との行政上の決定を受けた時点で,管理2,管理3又は管理4に相当する病状に基づく損害の賠償を求めることはもとより不可能である。このような石綿肺の病変の特質に鑑みると,管理1,管理2,管理3及び管理4の各行政上の決定に相当する病状に基づく各損害には,質的に異なるものがあるといわざるを得ず,したがって,重い決定に相当する病状に基づく損害は,その決定を受けた時に発生し,その時点から損害賠償請求権を行使することが法律上可能となるものというべきであり,最初の軽い行政上の決定を受けた時点で,その後の重い決定に相当する病状に基づく損害を含む全損害が発生していたとみることは,石綿肺という疾病の実態に反するものであって相当ではない(最高裁平成元年(オ)第1667号同6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号441頁,最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決・裁判集民事214号119頁参照)。 以上のことからすれば,本件においては,原告3につき石綿肺(じん肺管 理区分管理2)及び合併症として続発性気管支炎に罹患したことを損害として評価して慰謝料額を決定しているのであるから,じん肺管理区分2との行政上の決定の根拠となった診断を受けた時に損害が発生したといえるため,平成20年1月8日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 4 被災者6(原告6-1(原告番号6の1),原告6-2(原告番号6の2))(1) 基準となる慰謝料額被災者6は胸膜中皮腫に罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正 号6の1),原告6-2(原告番号6の2))(1) 基準となる慰謝料額被災者6は胸膜中皮腫に罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正被災者6は,被告国の責任期間内において1年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は900万円(=2700万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者6は,平成17年6月12日に胸膜中皮腫により死亡し,同人の相続人である妻の原告6-1及び長男の原告6-2が,本件訴訟における損害賠償請求権についてそれぞれ2分の1の割合で相続した(甲D6の1・11)。 よって,原告6-1及び原告6-2は,被災者6の本件損害賠償請求権につき,それぞれ450万円を相続した。 (4) 弁護士費用原告6-1及び原告6-2につき,前記(3)の慰謝料額の1割に相当する額として,それぞれ45万円が相当である。 (5) 認容額の合計原告6-1及び原告6-2につき,それぞれ,前記(3)及び(4)の合計495万円となる。 (6) 遅延損害金の起算日原告6-1及び原告6-2は,被災者6が胸膜中皮腫との診断を受けた日(石綿粉じん曝露作業により胸膜中皮腫を発症した日より後の日)である平成17年1月26日を遅延損害金の起算日とすべき旨主張する。 しかし,原告6-1及び原告6-2は,被災者6が胸膜中皮腫により死亡したことを損害としてその賠償を請求しているところ,死亡により胸膜中皮腫とは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者6が胸膜中皮腫により死亡した平成17年6月12日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 5 被災者7(原告7-1(原告番号7) 別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者6が胸膜中皮腫により死亡した平成17年6月12日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 5 被災者7(原告7-1(原告番号7))(1) 基準となる慰謝料額被災者7は石綿肺(じん肺管理区分4相当)に罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正被災者7については,被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間は約1年間であると認められる。 よって,修正後の慰謝料額は810万円(=2700万円×0.9(被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間が10年に満たないことによる減額)×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者7は平成21年6月21日から同月25日までの間に死亡し,同人の法定相続人である妻の原告7-1,長女7-2,次女7-3及び長男7-4間でなされた遺産分割協議により,本件訴訟の損害賠償請求権については,原告7-1が全て相続した(甲D7の1・10)。 よって,原告7-1は,被災者7の本件損害賠償請求権810万円を相続した。 (4) 弁護士費用前記(3)の慰謝料額の1割に相当する額として,81万円が相当である。 (5) 認容額の合計前記(3)及び(4)の合計891万円となる。 (6) 遅延損害金の起算日原告7-1は,被災者7が石綿肺との診断を受けた日である平成21年6月19日(石綿粉じん曝露作業により石綿肺を発症した日より後の日。なお,被災者7については,当該診断の根拠となった平成21年6月3日の検査結果に基づき,同時点における石綿肺の管理区分につき,じん肺管理区分管理4相当であった旨診断されている(甲D7の11)。)が遅延損害 被災者7については,当該診断の根拠となった平成21年6月3日の検査結果に基づき,同時点における石綿肺の管理区分につき,じん肺管理区分管理4相当であった旨診断されている(甲D7の11)。)が遅延損害金の起算日である旨主張する。 しかし,原告7-1は,被災者7が石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)により死亡したことを損害としてその賠償を請求しているところ,死亡により石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)とは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者7が石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)による死亡が確認された平成21年6月25日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 6 原告11(原告番号11)(1) 基準となる慰謝料額原告11は胸膜中皮腫に罹患していることから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告11については,被告国の責任期間内において1年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(=2400万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,80万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計880万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告11については,平成20年2月に腹部膨満を訴えてGG病院を受診し軽度肺気腫と診断された後,次第に症状が悪化し,検査のため平成22年4月に同病院からⅸ病院を紹介されて平成22年4月27日に受診していること(甲D11の12),及び,前記紹介を受けて同人の検査をした結果,(胸膜)中皮腫との診断をしたⅸ病院の医師が発病日を平成22年4月27日と判断していること(甲 平成22年4月27日に受診していること(甲D11の12),及び,前記紹介を受けて同人の検査をした結果,(胸膜)中皮腫との診断をしたⅸ病院の医師が発病日を平成22年4月27日と判断していること(甲D11の4)等を踏まえ,同人が胸膜中皮腫を発生した日として平成22年4月27日を遅延損害金の起算日とする。 7 被災者12(原告12-1(原告番号12))(1) 基準となる慰謝料額被災者12は肺がんに罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正被災者12は,被告国の責任期間内において10年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は900万円(=2700万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者12は平成23年10月29日に死亡し,同人の法定相続人は,妻である原告12-1,子である12-2及び12-3並びに前妻との間の子である12-4及び12-5であったが,12-4及び12-5が相続を放棄したため,本件訴訟の損害賠償請求権について,原告12-1が2分の1, 12-2及び12-1がそれぞれ4分の1ずつ相続した(甲D12の2・3・7ないし12)。 よって,原告12-1は,被災者12の本件損害賠償請求権につき,450万円を相続した。 (4) 弁護士費用前記(3)の慰謝料額の1割に相当する額として,45万円が相当である。 (5) 認容額の合計前記(3)及び(4)の合計495万円となる。 (6) 遅延損害金の起算日原告12-1は,被災者12が肺がんとの診断を受けた日である平成23年9月1日(石綿粉じん曝露作業により肺がんを発症した日より後の日)を遅延損害金の起算日とすべきである旨主張する。 金の起算日原告12-1は,被災者12が肺がんとの診断を受けた日である平成23年9月1日(石綿粉じん曝露作業により肺がんを発症した日より後の日)を遅延損害金の起算日とすべきである旨主張する。 しかし,原告12-1は被災者12が肺がんにより死亡したことを損害としてその賠償を請求しているところ,死亡により肺がんとは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者12が肺がんにより死亡した平成23年10月29日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 8 原告13(原告番号13)(1) 基準となる慰謝料額原告13はびまん性胸膜肥厚(じん肺管理区分管理4相当)に罹患していることから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告13については,被告国の責任期間内において3年以上石綿粉じん曝露作業に従事したと認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(2400万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,80万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計880万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告13については,平成18年8月24日付けでじん肺進行度等の審査を請求し,同月30日にじん肺管理区分管理4相当との決定を受け,このことも踏まえて平成19年6月19日に,傷病名をびまん性胸膜肥厚(症状確認日:平成18年1月12日)として労災認定がなされていることを踏まえ,前記じん肺管理区分管理4相当との決定がなされた平成18年8月30日を,石綿粉じん曝露作業によりびまん性胸膜肥厚を発症した日より後の日であると認め,遅延損害金の起算日とする。 9 原 とを踏まえ,前記じん肺管理区分管理4相当との決定がなされた平成18年8月30日を,石綿粉じん曝露作業によりびまん性胸膜肥厚を発症した日より後の日であると認め,遅延損害金の起算日とする。 9 原告16(原告番号16)(1) 基準となる慰謝料額原告16は石綿肺(じん肺管理区分管理2)に罹患し,合併症があることから,基準となる慰謝料額は1500万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告16については,被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間は約4年間であると認められる。 よって,修正後の慰謝料額は450万円(1500万円×0.9(被告国の責任期間内における石綿粉じん曝露作業従事期間が10年に満たないことによる減額)×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,45万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計495万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告16については,石綿肺につきじん肺管理区分管理2との決定を受けた日である平成22年5月27日を遅延損害金の起算日とする。 被災者17(原告17-1(原告番号17))(1) 基準となる慰謝料額被災者17は石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)に罹患し,死亡したことから,基準となる慰謝料額は2700万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正被災者17は,被告国の責任期間内において10年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は900万円(2700万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者17は平成15年6月17日に死亡し,同人の法定相続人は妻である17-2,長男 ,修正後の慰謝料額は900万円(2700万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 相続被災者17は平成15年6月17日に死亡し,同人の法定相続人は妻である17-2,長男である原告17-1及び次男17-3であるところ,同人らの遺産分割協議により,本件訴訟の損害賠償請求権については原告17-1が相続した(甲D17の2・3・9)。 よって,原告17-1は,被災者17の本件損害賠償請求権900万円を相続した。 (4) 弁護士費用前記(3)の慰謝料額の1割に相当する額として,90万円が相当である。 (5) 認容額の合計前記(3)及び(4)の合計990万円となる。 (6) 遅延損害金の起算日原告17-1は,被災者17が石綿肺との診断を受けた日である平成14年8月2日(石綿粉じん曝露作業により肺がんを発症した日より後の日)を 遅延損害金の起算日とすべきである旨主張する。 しかし,原告17-1は,被災者17が石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)により死亡したことを損害としてその賠償を請求しているところ,死亡により石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)とは質的に異なる別個の損害が発生したと解すべきであるから,本件においては,被災者17が石綿肺(じん肺管理区分管理4相当)により死亡した平成15年6月17日を遅延損害金の起算日とするのが相当である。 11 原告18(原告番号18)(1) 基準となる慰謝料額原告18は胸膜中皮腫に罹患したことから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告18については,被告国の責任期間内において1年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(2400万円×3分の1(被告国の責任割合によ の修正原告18については,被告国の責任期間内において1年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(2400万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,80万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計880万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告18については,胸膜中皮腫との診断がなされる根拠となった検査が行われた日である平成24年11月19日を,石綿粉じん曝露作業により胸膜中皮腫を発症した日より後の日であると認め,遅延損害金の起算日とするのが相当である。 12 原告19(原告番号19) (1) 基準となる慰謝料額原告19は肺がんに罹患したことから,基準となる慰謝料額は2400万円が相当である。 (2) 慰謝料額の修正原告19については,被告国の責任期間内において10年以上石綿粉じん曝露作業に従事したことが認められる。 よって,修正後の慰謝料額は800万円(2400万円×3分の1(被告国の責任割合による減額))となる。 (3) 弁護士費用前記(2)の慰謝料額の1割に相当する額として,80万円が相当である。 (4) 認容額の合計前記(2)及び(3)の合計880万円となる。 (5) 遅延損害金の起算日原告19については,平成19年2月23日にEE病院におけるエックス線検査で右肺に腫瘍が見つかったことから,その精査のために同年9月19日にFF医療センターを受診し,同年10月11日に行われた生検により肺がん(扁平上皮がん)であると診断されたものであることからすれば(甲D19の3),右肺に腫瘍が見つかった平成19年2月23日を,石綿粉じん曝露 ンターを受診し,同年10月11日に行われた生検により肺がん(扁平上皮がん)であると診断されたものであることからすれば(甲D19の3),右肺に腫瘍が見つかった平成19年2月23日を,石綿粉じん曝露により肺がんを発症した日より後の日であると認め,遅延損害金の起算日とするのが相当である。 第7章結論以上によれば,別紙2「認容額等一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告の被告国に対する請求は,各原告に係る同一覧表の「認容額」欄記載の各金員及びこれに対する同一覧表の「遅延損害金起算日」欄記載の各日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるからこれらを認容し,同一覧表記載の各原告の被告国 に対するその余の請求及び原告4,原告5-1,原告5-2,原告8-1,原告8-2,原告8-3,原告8-4,原告8-5,原告9,原告10-1,原告10-2,原告10-3,原告10-4,原告10-5,原告14,原告15-1の被告国に対する各請求並びに別紙3「主位的請求及び予備的請求対象被告一覧表」の「原告」欄記載の各原告らの同一覧表の対応する「主位的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業らに対する各主位的請求及び同一覧表の対応する「予備的請求対象被告」欄の「被告」欄記載の被告企業らに対する各予備的請求は,いずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法65条1項本文,同法64条本文,同法61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,仮執行免脱宣言について同条3項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第16民事部 裁判長裁判官森木田邦裕 裁判官北岡裕章 裁判官栗 主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第16民事部 裁判長裁判官 森木田邦裕 裁判官 北岡裕章 裁判官 栗阪美穂

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