主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人安倍は,内閣総理大臣として靖國神社に参拝してはならない。 3 被控訴人靖國神社は,被控訴人安倍の内閣総理大臣としての参拝を受け入れてはならない。 4 被控訴人らは,連帯して,控訴人らそれぞれに対し,1万円及びこれに対する平成25年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,控訴人らが,被控訴人安倍が平成25年12月26日に内閣総理大臣として靖國神社を参拝したこと(以下「本件参拝」という。)及び被控訴人靖國神社が被控訴人安倍による本件参拝を積極的に受け入れたこと(以下「本件参拝受入れ」という。)により,控訴人らの内心の自由形成の権利,信教の自由確保の権利,回顧・祭祀に関する自己決定権及び平和的生存権等が侵害され,精神的苦痛を受けたとして,被控訴人安倍及び被控訴人靖國神社に対しては民法709条,被控訴人国に対しては国家賠償法1条1項に基づき,控訴人らそれぞれに対して1万円及びこれに対する本件参拝の日である平成25年12月26日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに,人格権及び内心の自由,信教の自由並びに平和的生存権等の憲法上の基本的人権等に基づき,被控訴人安倍に対して内閣総理大臣としての靖國神社への参拝の差止め(以下「本件参拝差止請求」という。)を,被控訴人靖國神社に対して被控訴人安倍の内閣総理大臣としての参拝の受入れの 差止め(以下「本件参拝受入差止請求」という。)をそれぞれ求めたところ,原審が,控訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決をしたの に対して被控訴人安倍の内閣総理大臣としての参拝の受入れの 差止め(以下「本件参拝受入差止請求」という。)をそれぞれ求めたところ,原審が,控訴人らの請求をいずれも棄却する旨の判決をしたので,控訴人らがこれを不服として控訴し,「第1 控訴の趣旨」に記載のとおりの判決を求めた事案である。 1 本件の争いのない事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次項に当審における控訴人らの主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第 2 事案の概要」の2項ないし4項(原判決3頁18行目から26頁25行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。 2 当審における控訴人らの主張(要旨)は次のとおりである。 ⑴ 控訴人らは,本件訴訟において,内心の自由形成の権利,信教の自由確保の権利,回顧・祭祀に関する自己決定権(以下,この3つを「内心の自由形成の権利等」という。)が侵害されていると主張した。ところが,原判決は,これらの権利の侵害の有無について判断せず,控訴人らが主張していない「心情ないし宗教上の感情」を侵害しているかどうか,「不快の念」を抱いたかどうかの問題であるとして争点を矮小化し(原判決35頁13行目,14行目),控訴人らに,内心の自由形成の権利等について損害賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったと認めることはできないと判断した。 しかし,控訴人らが本件訴訟において申し立てた事項は,本件参拝及び本件参拝受入れによって控訴人らの内心の自由形成の権利等が違法に侵害され,その結果,損害を被ったかどうかである。したがって,裁判所は,控訴人らが主張する内心の自由形成の権利等が実定法上の権利として認められるかどうかを判断し,そのうえで,それらの権利が侵害されているかどうかを判断すべきである。 ⑵ 内閣総理大臣による 裁判所は,控訴人らが主張する内心の自由形成の権利等が実定法上の権利として認められるかどうかを判断し,そのうえで,それらの権利が侵害されているかどうかを判断すべきである。 ⑵ 内閣総理大臣による靖國神社参拝について,福岡地裁平成16年4月7日判決及び大阪高裁平成17年9月30日判決は,これらを憲法違反であると 判断し,いずれの判決も確定している。被控訴人安倍の本件参拝は,国家機関が違憲と判断された行為を繰り返すことはないだろうと期待する権利を侵害するものである。控訴人らは,「裁判所のある事件に関する判断に対する個人の信頼,期待」(原判決36頁25行目)ではなく,判決の名宛人である内閣総理大臣が裁判所の違憲判断に従うであろうという期待が違法に侵害されたと主張しているのであるから,裁判所は,この点について判断すべきである。 ⑶ 控訴人らは,平和的生存権を,現在戦争に巻き込まれていないということに加え,将来においても戦争に巻き込まれることはなく,子や孫の世代も戦争に巻き込まれることはないという安心感のもとで,平穏な生活を享受する権利と限定的に定義して主張する。このように限定的に定義された平和的生存権は,その権利の内容・憲法上の根拠・享有主体・成立要件・法的効果のいずれの点をとっても権利としての具体性に欠けるところはなく,裁判規範性を有している。 そして,控訴人らは,本件参拝によって,次のとおり平和的生存権を侵害されている。すなわち,本件参拝は,憲法9条の改正意欲を持つ被控訴人安倍の政治的信条に基づき行われたものであって,戦争準備行為等に当たり,また,北東アジアにおける緊張を高めるものであって,もし何らかの偶発事象が発生した場合,北東アジアにおける軍事的摩擦に発展しかねないおそれがあり,被控訴人安倍による本件参拝及び被控訴 為等に当たり,また,北東アジアにおける緊張を高めるものであって,もし何らかの偶発事象が発生した場合,北東アジアにおける軍事的摩擦に発展しかねないおそれがあり,被控訴人安倍による本件参拝及び被控訴人靖國神社による本件参拝受入れによって,控訴人らの生命,自由が侵害の危機にさらされている(主位的主張)。仮に,本件参拝及び本件参拝受入れが戦争準備行為等に該当せず,本件参拝及び本件参拝受入れによって控訴人らの生命,自由が侵害の危機にさらされたとはいえないとしても,平和的生存権は政教分離原則と不可分一体のものであることからすれば,政教分離原則が侵害された場合には,平和的生存権の副次的機能が侵害されたと評価さ れる場合があり得るのであり,被控訴人安倍の本件参拝によって,控訴人らの多くが将来において戦争に巻き込まれることに対する不安を感じていること等からすれば,上記副次的機能が侵害されたといえる(予備的主張)。 ⑷ 原判決は,本件参拝によって控訴人らの権利が侵害されたことが認められない以上,その余の点を判断するまでもないとして,本件参拝の職務行為性について判断することなく,これが政教分離原則に違反するかどうかの憲法判断を回避し,控訴人らの請求をすべて棄却した。 しかし,控訴人らが内心の自由等を侵害されたと主張している本件訴訟で,侵害行為とされる本件参拝の具体的態様・内容とその法的適合性,すなわちそれが内閣総理大臣の職務行為と評価できるかどうか,その結果,これが政教分離原則に違反するかどうかを全く検討しなかった原判決には,致命的な判断遺脱がある。 ⑸ 原判決は,控訴人らに被控訴人安倍の参拝を差し止めるべき法的利益の侵害が生じたとは認められず,また将来的にそのような法的利益の侵害が生じると認めるに足りる証拠もないとして,本件参拝差止 る。 ⑸ 原判決は,控訴人らに被控訴人安倍の参拝を差し止めるべき法的利益の侵害が生じたとは認められず,また将来的にそのような法的利益の侵害が生じると認めるに足りる証拠もないとして,本件参拝差止請求を退けた。 しかし,被控訴人安倍が内閣総理大臣として靖國神社に参拝すれば,内心の自由形成の権利等及び平和的生存権を侵害されるという被害が生じるのであって,これを法的利益の侵害と認めなかった原判決には判断の誤りがある。 そして,被控訴人安倍の政治的信条や自由民主党の運動方針からすれば,被控訴人安倍は,政治情勢を見て,国内外の強い否定的反応がないと見込めば,いつでも靖國神社参拝を行うおそれがあり,差止めの必要性がある。 また,被控訴人靖國神社は,被控訴人安倍が内閣総理大臣として靖國神社参拝を行うものであることをわかった上でこれを受け入れているのであるから,被控訴人安倍と共同して控訴人らの法的利益を侵害する結果をもたらすことになる。したがって,被控訴人安倍の参拝を差し止めるとともに,被控 訴人靖國神社の参拝受入れをも差し止めなければ,控訴人らが法的利益を繰り返し侵害されることになるから,被控訴人靖國神社の参拝受入れの差止めの必要性が高い。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」(原判決26頁末行から39頁9行目まで)に記載のとおりであるからこれを引用する。 ⑴ 原判決34頁4行目の「これを」を「自己の権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められず,上記の心情ないし宗教上の感情を」に,同24行目の「確かに」から35頁8行目の「ものの」までを「しかし,前記1⑴で認定したように,靖國神 権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められず,上記の心情ないし宗教上の感情を」に,同24行目の「確かに」から35頁8行目の「ものの」までを「しかし,前記1⑴で認定したように,靖國神社は国事に殉じた人々を奉斎すること等を目的としており,その歴史的経緯からして一般の神社とは異なる性格を有することは認められるものの」にそれぞれ改める。 ⑵ 同35頁9行目の「限度において」を「限り,控訴人らに対し,自己の心情ないし宗教上の感情が害されたとして不快の念を抱かせることがあるとしても」に,同11行目ないし12行目の「そうであれば」から15行目末尾までを「これによれば,本件参拝及び本件参拝受入れは,控訴人らの主張する内心の自由形成の権利等を侵害するものということはできない。」にそれぞれ改める。 ⑶ 同36頁8行目の「そうすると」から10行目末尾までを「これによれば,本件参拝及び本件参拝受入れにより,上記両名が戦死者の遺族としての心情を害されたとしても,これにより権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとはいえない。」に,同13行目の「法的利益」を「権利又は法律上保護されるべき利益」にそれぞれ改め,同22行目から37頁1行目までを次のとおり改める。 「 しかし,控訴人らの主張する上記のような期待は,これが社会一般に広く共有されているとは認められず,控訴人らの思いに止まるものであり,これを権利又は法律上保護されるべき利益ということはできない。」⑷ 同38頁1行目末尾に改行の上,次のとおり加える。 「 なお,控訴人らは,当審において,平和的生存権を,現在戦争に巻き込まれていないということに加え,将来においても戦争に巻き込まれることはなく,子や孫の世代も戦争に巻き込まれることはないという安心感のもとで,平穏な生活を 審において,平和的生存権を,現在戦争に巻き込まれていないということに加え,将来においても戦争に巻き込まれることはなく,子や孫の世代も戦争に巻き込まれることはないという安心感のもとで,平穏な生活を享受する権利と限定的に定義した上で,この平和的生存権は裁判規範性を有しているとして,本件参拝が戦争準備行為等に該当し,これにより控訴人らの生命,自由が侵害の危機にさらされ,平和的生存権を侵害された(主位的主張),もしくは,政教分離原則の侵害と相俟って,本件参拝により平和的生存権の副次的機能を侵害された(予備的主張)と主張する。 しかし,控訴人らが限定的に定義した平和的生存権についても,その権利の内容は明確でなく,およそ不法行為による損害賠償請求や差止請求の根拠となるような具体的な権利ということはできない。」⑸ 同38頁3行目の「いうべきであり,」の次に「本件参拝が戦争準備行為等に当たるとする控訴人らの主張について判断するまでもなく,」を加え,同13行目の「,内閣総理大臣」から17行目末尾までを「権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められないから,差止めの必要性について判断するまでもなく,本件参拝差止請求は理由がない。」に改める。 ⑹ 同39頁5行目ないし6行目の「本件参拝受入れ」から9行目末尾までを「本件参拝受入れにより権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められないから,差止めの必要性について判断するまでもなく,本件参拝受入差止請求は理由がない。」に改め,同行末に改行の上,次のとおり 加える。 「5 以上のとおり,控訴人らは本件参拝及び本件参拝受入れによって権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められないから,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由が 以上のとおり,控訴人らは本件参拝及び本件参拝受入れによって権利又は法律上保護されるべき利益を侵害されたとは認められないから,控訴人らの請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。 なお,この点について,控訴人らは,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為に該当するか否かを判断し,これが政教分離原則(憲法20条3項)に違反する否かを判断すべきである旨主張するので,念のため補足する。 民事訴訟事件における判決の理由は,結論である主文を導くのに必要な限度で付すべきものであり,かつそれで十分である。本件においては,本件参拝及び本件参拝受入れによって,控訴人らの権利又は法律上保護されるべき利益が侵害されたとは認められない以上,控訴人らの請求はいずれも理由がないから,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為といえるか否かを判断する必要はない。まして,我が国の裁判所による憲法適合性の判断は,具体的事件を前提とし,その結論を出すに当たって必要な場合に,かつその限度で行われるものである。本件の場合,本件参拝が内閣総理大臣の職務行為といえる場合に初めてこれが政教分離原則に違反するか否かという憲法適合性が問題になる。ところが,本件においては,上記のとおり,結論である主文を導くのに本件参拝が内閣総理大臣の職務行為といえるか否か自体を判断する必要がないから,その憲法適合性を判断する必要があるとはいえないことに帰する。したがって,控訴人らの主張は採用することができない。」⑺ 同39頁10行目の「5」を「6」に改める。 2 控訴人らの当審における主張については,上記1において原判決を補正の上引用して説示したとおりであり,本件の結論を左右するものではなく,いずれも採用することができない。 3 よって,控訴人らの請求をいずれも棄却 ついては,上記1において原判決を補正の上引用して説示したとおりであり,本件の結論を左右するものではなく,いずれも採用することができない。 3 よって,控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第9民事部裁判長裁判官松田亨 裁判官田中義則 裁判官檜皮高弘
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