平成28(わ)471 不正競争防止法違反

裁判年月日・裁判所
令和2年3月27日 名古屋地方裁判所
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判決文本文25,749 文字)

主文 被告人を懲役2年6月及び罰金120万円に処する。 この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。 その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成23年4月から平成25年3月15日までの間,塗料の製造,販売等を目的とする当時のA株式会社の子会社として塗料の製造等を目的とするB株式会社の汎用技術部部長等として商品開発等の業務に従事するとともに,Aから,同社が保有する営業秘密が記録され,営業秘密の電磁的記録媒体として同社及びその子会社内で共有されたコンピュータ・ネットワークのデータベース内にアクセスするための識別符号及び同データベース内に電磁的記録として保管されたAの営業秘密を閲覧等する権限を付与されるなどして,同社から営業秘密を示されるとともに,同社との営業秘密保持特約に基づき,同社に対し,同社の営業秘密が記録された電磁的記録を個人所有の可搬型記録媒体内に保存することを禁止した同社の内部規則を遵守する任務を負っていたにもかかわらず,不正の利益を得る目的で,その営業秘密の管理に係る任務に背いて,第1 同データベース内に電磁的記録として保管されていたAの営業秘密である塗料「C」の原料及び配合量について作成した同一内容の電磁的記録を,同年1月頃,愛知県豊明市a町bc番地所在のB内において,保存が禁止されていた被告人所有の可搬型記録媒体内に保存し,もって営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密記録媒体等の記録について,その複製を作成する方法により,Aの塗料の製造に関する営業秘密を領得した上,Bとの雇用契約に基づき,同社及びAに対し,B在職中 って営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密記録媒体等の記録について,その複製を作成する方法により,Aの塗料の製造に関する営業秘密を領得した上,Bとの雇用契約に基づき,同社及びAに対し,B在職中はもとより,退職後も5年間は同社での業務上知り得た営業秘密 を漏洩することを禁止した同社の内部規則を遵守すべき任務を負っていたにもかかわらず,不正の利益を得る目的で,その営業秘密の管理に係る任務に背いて,同年4月頃,名古屋市d区ef丁目g番h号i所在の当時のD株式会社内において,Aと競合関係にあるDの従業員E及びFに対し,前記領得に係る営業秘密を用いて作成された前記塗料の製造情報に関する書面をそれぞれ手渡し,もってAの営業秘密を開示した。 第2 同データベース内に電磁的記録として保管されていたAの営業秘密である塗料「G」の原料及び配合量について作成した同一内容の電磁的記録を,同年1月頃,前記のB内において,保存が禁止されていた被告人所有の可搬型記録媒体内に保存し,もって営業秘密の管理に係る任務に背いて営業秘密記録媒体等の記録について,その複製を作成する方法により,Aの塗料の製造に関する営業秘密を領得した上,Bとの雇用契約に基づき,同社及びAに対し,B在職中はもとより,退職後も5年間は同社での業務上知り得た営業秘密を漏洩することを禁止した同社の内部規則を遵守すべき任務を負っていたにもかかわらず,不正の利益を得る目的で,その営業秘密の管理に係る任務に背いて,同年8月2日,兵庫県三田市内又はその周辺において,Aと競業関係にあるDの従業員Fに対し,前記領得に係る営業秘密を用いて作成された前記塗料の製造情報に関する電磁的記録を添付した電子メールを送信し,もってAの営業秘密を開示した。 (事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によ 記領得に係る営業秘密を用いて作成された前記塗料の製造情報に関する電磁的記録を添付した電子メールを送信し,もってAの営業秘密を開示した。 (事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によると,本件公訴事実のうち,被告人が平成23年4月から平成25年3月15日までの間,塗料の製造,販売等を目的とするAの子会社であるBの汎用技術部部長等の地位にあったことに加え,B社内において,Aの塗料であるC及びG(以下「本件各塗料」という。)の原料及び配合量(以下「本件情報」ともいう。)について電磁的記録を作成して,同年4月頃,Cの製造情報に関する書面をAと競業関係にあるDの従業員に手渡し,同年8月2日,Gの製造情報 に関する電磁的記録を添付した電子メールを同社の従業員に送信したことが認められ,これらの事実に争いはない。 本件の争点は,⑴被告人が電磁的記録等を作成し,開示した情報が「営業秘密」に当たるか(被告人に営業秘密であることの認識があったか)(争点⑴),⑵被告人の行為が営業秘密の「領得」に当たるか(争点⑵),⑶被告人が情報を領得し,開示したことが任務違背に当たるか(被告人に任務違背の認識があったか)(争点⑶),⑷被告人に「不正の利益を得る目的」があったか(争点⑷),である。当裁判所は,罪となるべき事実のとおり認定したので,その理由を補足して説明する。 第2 前提となる事実関係証拠(甲37,40,46ないし55,証人Hの証言,被告人の裁判所調書)によると,次のとおり認められる。 1 被告人は,昭和53年,Aに入社し,それ以降,同社やその関連会社で勤務していたが,平成22年3月,Aを退職し,同年4月,同社の子会社であるBに転籍した。 2 被告人は,平成23年4月,Bにおける商品開発等の業務を行う必要性から,Aの 以降,同社やその関連会社で勤務していたが,平成22年3月,Aを退職し,同年4月,同社の子会社であるBに転籍した。 2 被告人は,平成23年4月,Bにおける商品開発等の業務を行う必要性から,Aの情報管理システム「I」にアクセスし,Iに保管されている情報を閲覧等する権限を付与された。Iは,同社の保有する機密情報が記録され,その電磁的記録媒体として同社及び子会社で共有されたコンピュータ・ネットワークのデータベースである。 3 被告人は,平成24年10月ないし12月頃,当時Bの社長であったHから退職を促され,平成25年2月12日に辞表を提出し,同年3月15日に同社を退職した。 4 被告人は,Bに在籍中,同社本社内において,Iにアクセスし,本件情報が記載された商品設計書を取得して,これを基にパワーポイントを用いて本件各塗料の原料及び配合量の情報についての電磁的記録(以下,Cに関するものを「完 成配合表①」,Gに関するものを「完成配合表②」という。)を作成した。 5 被告人は,平成25年2月,Dから同社の取締役への就任の打診を受け,同年4月,Dに入社し,同年6月,同社の取締役に就任した。 6 被告人は,同年4月頃,Dにおいて,完成配合表①を基に作成した「J」と題する書面(以下「推奨配合表①」という。)をDの従業員Eらに手渡した。 7 被告人は,同年8月2日,兵庫県三田市又はその周辺において,完成配合表②を基に作成した「K」と題する電磁的記録(以下「推奨配合表②」という。)を添付した電子メールをDの従業員Fに送信した。 8 Dは,被告人により開示されたCに係る情報を用いて塗料「L」を,Gに係る情報を用いて塗料「M」を,それぞれ開発製造して販売した。 第3 争点⑴について 1 秘密管理性⑴ はじめに検察官は, より開示されたCに係る情報を用いて塗料「L」を,Gに係る情報を用いて塗料「M」を,それぞれ開発製造して販売した。 第3 争点⑴について 1 秘密管理性⑴ はじめに検察官は,Aが塗料の配合情報等をIで管理していたので,本件情報へのアクセスが制限されていた上,Iにアクセスした際,警告文等によりAの情報管理規定等に基づいて秘密として管理する義務が生じることが示されるなどしており,本件情報にアクセスした者にそれが秘密であると認識できる状態でもあったので,本件情報には秘密管理性が認められる旨主張する。弁護人は,Iへのアクセス権の管理が不十分で秘密管理措置が杜撰であった上,秘密の管理に関する指導も十分に行われていなかったことを指摘するとともに,被告人が領得・開示したとされる情報はIの情報を加工したものであり,かかる情報にAの情報管理規定は適用されないので秘密管理性が認められないなどと反論する。当裁判所は,本件情報には秘密管理性が認められると判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ 関係証拠(証人Nの証言,第2回公判調書中の証人Oの供述部分(以下「O証言」という。),甲22,34,51)によると,以下の事実が認められる。 ア Aの情報管理規定は,機密情報を各自が使用するパソコン又は記録媒体に保管することを禁止し,また,保管の必要がない,又は保管期間が経過した機密情報が記録された紙は原則として直ちにシュレッダーにより廃棄し,機密情報についての電子情報は記録媒体から削除すべき旨を定めていた。また,この情報管理規定は,Aの子会社であるBにも適用されると規定されていた。 イ Aは,開発した塗料の配合情報等をIで管理しており,本件情報もIで管理していた。 Iに保管されている情報にアクセスするには であるBにも適用されると規定されていた。 イ Aは,開発した塗料の配合情報等をIで管理しており,本件情報もIで管理していた。 Iに保管されている情報にアクセスするには,アクセス権の付与を受ける必要があり,従業員は,アクセス権の付与を受けるために,直属の上司や部門長に加え,Aの情報システム部の承認を得る必要がある。Iへのアクセス権の付与は,基本的に,A及びそのグループ会社(Bを含む。)の技術系の従業員に限定されていた上,技術系の従業員であっても,担当する業務と関係のない情報についてはアクセス権が付与されていなかった。アクセス権を付与された従業員は,個人ユーザーID(以下「ID」という。)とパスワードを用いてIにアクセスできるが,ID及びパスワードは,他者と共有することは許されておらず,パスワードは半年に一度の頻度で変更が要求されており,一定期間,変更を怠ると強制的に変更する措置がとられていた。 ウ Iに保管されていた塗料の配合情報等が記載された商品設計書のデータには,その上部に「営業秘密本情報はA株式会社の機密情報ですので,情報管理規定に基づき取り扱ってください。」との記載があり,その中央部に大きく「㊙」とも記載されている。本件情報が記載された商品設計書のデータにも同様の記載があった。 エ Aは,平成19年10月頃から,Iへのアクセスを厳格に運用するようになり,Iへのアクセス権付与の申請手続も,平成22年頃からワークフロー システムという電子決裁システムによることとし,申請の際,Iの保管情報が秘密情報であることが明示されるようになった。すなわち従業員がその使用する端末パソコン(以下「端末PC」という。)で,Iへのアクセス権の付与を申請すると,申請画面に「Iシステムで得られる情報は 報が秘密情報であることが明示されるようになった。すなわち従業員がその使用する端末パソコン(以下「端末PC」という。)で,Iへのアクセス権の付与を申請すると,申請画面に「Iシステムで得られる情報はAの機密情報(営業秘密)です。当該情報にアクセスした人には,当該情報を法令及び情報管理規定にもとづき秘密として管理する義務が生じます。この義務に違反して当該情報を第三者に開示・漏洩したり,または,秘密管理を行わなかった場合は,法令によって罰せられ,または情報管理規定及び就業規則により懲罰を受ける場合もあります。上記を理解し同意の上,I情報へのアクセスを申請します。」との警告等(以下「警告文①」という。)が表示され,画面上の「同意の上申請する」とのボタンをクリックすることにより,付与申請が行われていた。 また,アクセス権を付与された従業員が端末PCでIを閲覧するときは,ID及びパスワードを用いてログイン画面に進み,「貴方がアクセスしようとしている情報はAの機密情報(営業秘密)です。当該情報にアクセスした人には,当該情報を法令及び情報管理規定にもとづき秘密として管理する義務が生じます。この義務に違反して当該情報を第三者に開示・漏洩したり,または,秘密管理を行わなかった場合は,法令によって罰せられ,また情報管理規定及び就業規則により懲罰を受ける場合もあります。上記を理解し同意のうえアクセスする場合は,OKボタンを押してアクセスを開始してください。同意できない場合は,キャンセルボタンを押して,アクセスを中止してください。」との警告(以下「警告文②」という。)が表示されるので,「OK」ボタンをクリックして,Iにログインしていた。 本件情報の秘密管理性のとおり,Aは,本件情報を情報管理システムとしてのIで管理しており,Iにアク ②」という。)が表示されるので,「OK」ボタンをクリックして,Iにログインしていた。 本件情報の秘密管理性のとおり,Aは,本件情報を情報管理システムとしてのIで管理しており,Iにアクセスするためにはアクセス権の付与を申請してその承認を得る 必要がある上,アクセス権の付与は基本的に職務上の必要性のある技術系の従業員に限られている。すなわち,本件情報を含む,Iで管理された情報は,A及びその関連会社の従業員の中でも職務上Iへのアクセスの必要性が認められ,アクセス権を付与された者だけがアクセスできるのであり,従業員が誰でもIにアクセスできるような状態ではなかった。したがって,Iで管理された本件情報はアクセスが制限されていたといえる。また,Iへのアクセス権の付与を申請する際には,Iで管理された情報が営業秘密であり,情報を第三者に漏洩等すれば法令により罰せられ,情報管理規定や就業規則により懲罰を受ける旨の警告が表示されて,申請者はこれらに同意する必要がある上,Iへのログイン時にも上記と同様の警告が表示されるのでIにアクセスする者はこれにも同意する必要がある。しかも,Iに保管されていた塗料の原料及び配合量等が記載された商品設計書のPDFファイルには,その上部に「営業秘密」,その中央部に大きく「㊙」などと記載されている。これらの事情によると,本件情報も含め,Iに保管された情報を閲覧等した者には,Aの情報管理規定等に基づいてこれを秘密として管理する義務が生じることが明確に示されており,これにアクセスする者において,その情報が秘密として管理されていることを認識することが客観的に可能な状態であったと認められる。 被告人の供述被告人は,警告文①②に同意した記憶はなく,BにおいてAの各種規則を自由に閲覧することもできなかった されていることを認識することが客観的に可能な状態であったと認められる。 被告人の供述被告人は,警告文①②に同意した記憶はなく,BにおいてAの各種規則を自由に閲覧することもできなかった旨供述する。しかし,Oの証言によると,端末PC上に警告文①②が表示されるシステムは平成22年頃から実施されていたと認められるので,被告人が平成23年3月29日にIのアクセス権の付与を申請し,その後Iにアクセスした際にも,警告文①②が表示され,被告人もこれらに同意してIへのアクセス権の付与を申請し,Iにアクセスしていたと推認できる。なお,「Iアクセス権申請」と題する書面(甲22)は,被告人のアクセス権付与申請が承認されたことを示すものにすぎず,同書面 に被告人が警告文①の表示に同意したことが記載されていないからといって,被告人の申請時に警告文①が表示されなかったということはできない。 弁護人の主張弁護人は,被告人の供述に関してOの証言の信用性を争うが,同人の証言は,Aの情報システム部所属の従業員としてその職務上経験した事実を具体的に述べる内容であり,客観的な証拠にも符合していて,不自然な点もないので,弁護人の指摘を踏まえて検討しても基本的に信用できる。 弁護人は,Bにおいては,Iに即した社内規定が整備されておらず,記録媒体の社外持ち出しや個人所有の可搬型記録媒体(以下「USB」という。)の使用についての管理も不十分であったので,本件情報は秘密管理性の要件を満たさない旨主張する。しかし,Bの就業規則においても業務上知り得た機密を他に漏らすことは禁じられており,前記のとおり,Iの情報はAの営業秘密として厳格に管理されていたので,Bにおいて個人所有のUSBの使用が明示的に禁止されておらず,情報の社外持ち出しの管理に不十 密を他に漏らすことは禁じられており,前記のとおり,Iの情報はAの営業秘密として厳格に管理されていたので,Bにおいて個人所有のUSBの使用が明示的に禁止されておらず,情報の社外持ち出しの管理に不十分な部分があったとしても本件情報の秘密管理性が失われるものではない。 弁護人は,証人Pの証言や被告人の供述等に基づいて,Iのシステム管理が不十分なものであり,IDやパスワードの管理実態が杜撰であったので,本件情報が秘密管理性の要件を満たさない旨主張する。しかしながら,前記のとおり,本件情報がIで管理されることを通じて,そのアクセス権限が技術系従業員に制限されていることに加え,Iへのアクセス権の付与申請時やログイン時などにIの情報が秘密として管理されていることが警告されるなどしていたのであるから,弁護人が指摘する諸点を踏まえて検討しても本件情報にアクセスする者において,これが秘密として管理されていることを認識することが可能であったと認められる。 弁護人は,被告人が領得・開示したとされる情報は,I内の商品設計書そのものではなく,被告人が同設計書を基に作成した完成配合表①②やそれを基 に作成した推奨配合表①②であり,これらの配合表は秘密として扱う対象とはされていないので,秘密管理性の要件を満たさないとも主張する。しかしながら,関係証拠(甲49,51等)によると,完成配合表①②や推奨配合表①②の情報は,いずれも本件各塗料の原料及び配合量を主とするものであり,Iで管理されていた本件情報と実質的に同一の内容であると認められ,前記のとおり,Iで管理されていた本件情報には秘密管理性が認められるので,完成配合表①②や推奨配合表①②の情報にも秘密管理性が認められる。弁護人の主張は採用できない。 2 非公知性⑴ はじめに り,Iで管理されていた本件情報には秘密管理性が認められるので,完成配合表①②や推奨配合表①②の情報にも秘密管理性が認められる。弁護人の主張は採用できない。 2 非公知性⑴ はじめに検察官は,本件情報は,塗料製造において重要な漏洩の許されない非公開情報として管理されており,リバースエンジニアリングや特許公報等によっても本件各塗料の具体的な配合情報は特定できないので,本件情報には非公知性が認められる旨主張する。弁護人は,①リバースエンジニアリングにより,本件各塗料と同程度の品質が再現できる程度に配合情報を分析できる上,②本件情報が特許公報等の刊行物に掲載され,公知情報になっていたことなどを指摘して,本件情報には非公知性が認められないと反論する。当裁判所は,本件情報には非公知性が認められると判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ Qの証言についてア Qの証言内容について塗料を各種の方法で分析すると,塗料を構成する樹脂がどのようなもので構成されているか,塗料を構成する顔料にどのような金属が入っているかなどは分析できるものの,塗料を構成する具体的な原料及び配合量まで特定することは困難である。Dが株式会社Rに対して依頼したDの塗料「L」の分析結果をみても,XRD(広角X線回析法)によって明らかになったのは,塗料に含まれる無機成分とその定量値であり,STEM(走査透 過電子顕微鏡法)-EDX(エネルギー分散型X線分光法)によって明らかになったのは,塗料中の無機成分の粒子を構成する金属の種類や粒子の大きさであって,これらの結果から塗料の原料及び配合量を具体的に特定することはできない。また,Rが行ったその他の検査,IR(赤外分光光度計による分析),熱分解GC/MS測定及び固体NMR測定によっ 大きさであって,これらの結果から塗料の原料及び配合量を具体的に特定することはできない。また,Rが行ったその他の検査,IR(赤外分光光度計による分析),熱分解GC/MS測定及び固体NMR測定によって明らかになったのは,塗料に含まれる樹脂成分を構成するモノマー及びその構成比であり,塗料に含まれる樹脂について,その原料及び配合量が具体的に特定された訳ではない。特許公報等の刊行物に記載されている原料と特定の塗料の分析結果を対照させることによっても,当該塗料に使用されている原料を推測することはできるが,当該塗料を再現できる程度に全ての原料や配合量を特定することはできない。 イ Qの証言の信用性についてQは,Aにおいて20年以上にわたって塗料の研究,開発及び改良等の技術的な業務に従事しており,その間に職務上体験した事実やその間に得た知見を具体的に証言している。そして,塗料の分析について説明している部分は内容的に特段不自然な点はなく,塗料の分析によりその原料及びその配合量を特定する可能性に関する部分は,弁護人が請求したDの元従業員であるSの証言内容とも概ね合致している。したがって,Qの証言は基本的に信用できる。 弁護人は,QがBの代表取締役であり,中立的な立場にある者ではなく,その証言内容も不合理であるので,同人の証言は信用できない旨主張するが,弁護人の指摘を踏まえて検討しても,Qの証言の信用性は左右されない。 ⑶ 本件情報の非公知性について 本件情報は,Iで管理され,一般に公開されていない情報であるので,一般的には知られておらず,又は一般に容易に知ることが できない情報であると認められる。Rの分析でも,塗料に含まれる樹脂の構成や顔料の成分とその定量値は明らかになったものの,具体的な原料やその 的には知られておらず,又は一般に容易に知ることが できない情報であると認められる。Rの分析でも,塗料に含まれる樹脂の構成や顔料の成分とその定量値は明らかになったものの,具体的な原料やその配合量までは特定できなかったように,塗料について各種の科学的な分析を行っても,塗料の原料及び配合量を具体的に特定することは容易にはできない。 また,特許公報を併せ分析するなどしても,やはり本件情報と同内容の情報を特定することは容易ではないと認められる。したがって,本件情報については非公知性があると認められる。 弁護人の主張についてア ①リバースエンジニアリングにより非公知性が失われるとの主張について弁護人は,本件各塗料の配合情報は,リバースエンジニアリングによって多額の費用や長時間を要することなく特定が可能であると主張する。しかしながら,塗料の分析は,専門的知見を有する者が,相当高額の専門機器を用いて初めて行えるものであり,実際に,Dでは,100万円の費用を掛けてRに分析を依頼している。Sの証言によると,Dでは,STEM-EDXの測定や固体NMR測定等においてRと同レベルの分析は行えないことが認められる上,QとSの証言によると,Rの分析では,樹脂の構成や顔料の成分とその定量値は明らかになったものの,具体的な原料やその配合量までは特定できなかったと認められる。また,RはXRDの報告書を作成するのに1か月以上の期間を要している。そうすると,リバースエンジニアリングによって本件各塗料の配合情報について具体的な原料やその配合量まで特定することは,不可能とまでは断定できないにしても,そのためには相当高額の費用と相当な期間をかけることが必要であると認められる。したがって,リバースエンジニアリングによっても容易に本件情報を知ることができると ,不可能とまでは断定できないにしても,そのためには相当高額の費用と相当な期間をかけることが必要であると認められる。したがって,リバースエンジニアリングによっても容易に本件情報を知ることができるとはいえず,本件情報の非公知性は失われない。 弁護人は,塗料の分析に100万円程度の費用を掛けたとしても,Aのよ うな大手の塗料メーカーにとってはそれほど高額ではない旨の主張もする。しかし,本件各塗料の配合情報を特定することが容易かどうかの判断は,DがRに支払った費用の金額だけで決まるものではなく,前記のとおり必要な分析に要する費用や期間,労力などを総合的に考慮して判断されるべきである。この点をQらの証言やRの分析結果等を踏まえて検討すると,前記のとおり,本件情報は容易に知ることができるものとはいえない。したがって,非公知性は失われず,弁護人の主張は採用できない。 イ ②特許公報等の刊行物により非公知性が失われるとの主張について弁護人は,本件各塗料の原料の情報は特許公報等の刊行物から容易に推測が可能であるので,非公知性が失われているとも主張する。しかしながら,本件各塗料の配合情報に含まれる原料は,特許公報等の刊行物に掲載されているものの,一つの刊行物に配合情報としてその全てが掲載されているわけではなく,関連する多数の刊行物を検索した上,複数の刊行物の情報を組み合わせて初めて本件各塗料の配合情報に含まれる原料を推測することができるにすぎない。また,刊行物に掲載されている複数の原料のうちどの原料が本件各塗料の配合情報を構成するかを推測することには相応の困難がある。そうすると,特許公報等の刊行物の情報から本件各塗料に含まれる原料を全て特定することは不可能でないにしても相当な労力と時間を要するといえる。したがって,特許公報等の 測することには相応の困難がある。そうすると,特許公報等の刊行物の情報から本件各塗料に含まれる原料を全て特定することは不可能でないにしても相当な労力と時間を要するといえる。したがって,特許公報等の刊行物に本件各塗料の原料の情報が記載されているからといって,本件配合情報の非公知性は失われない。弁護人の主張は採用できない。なお,リバースエンジニアリングによる分析と特許公報の情報を併用しても,塗料の原料と配合量を具体的に特定するには相当の費用と期間を要すると認められるので,容易にこれらの情報を特定することはできず,本件情報の非公知性が失われるものではない。 ウその他被告人は,塗料の配合情報については,原料メーカーに分析を依頼すれ ば,原料及び配合量が特定できるなどと供述するが,Aと取引のある原料メーカーの協力を得られる保証はなく,原料メーカーの協力を得られたとしても,その作業の性質を考慮すると,全ての原料や配合量の特定に至るにはやはり相当の時間と労力を要すると認められる。 弁護人は,リバースエンジニアリングにより,対象情報が完全に特定されなくとも,当該塗料と同程度の品質が再現できる程度に配合情報を分析することができる場合には,非公知性は失われる旨主張する。しかし,前記のとおり,塗料分析や特許公報の分析には相当の費用,労力と期間を要すると認められ,原料メーカーの協力を得ながら推測を重ねることにより当該塗料と同程度の品質が再現できる程度の情報を得ることがあり得るとしても,これらの作業にはやはり相当の期間と労力を要すると推認できるから,容易に当該情報を知ることができるとはいえない。したがって,やはり本件情報の非公知性が失われるとはいえず,弁護人の主張は採用できない。 ⑸ 小括以上のとおりであるから,本件情報 できるから,容易に当該情報を知ることができるとはいえない。したがって,やはり本件情報の非公知性が失われるとはいえず,弁護人の主張は採用できない。 ⑸ 小括以上のとおりであるから,本件情報には非公知性が認められる。 3 有用性Qの証言によると,本件情報は,Aが相当期間にわたって研究開発を行って得られた製品設計情報であり,同社の商品としての本件各塗料を製造・販売するために必要な情報であって,本件各塗料の品質と性能を発現させたり,他の塗料を開発したりする上で必要な情報であると認められる。そうすると,本件情報は,同社の商品の生産,販売に役立つものといえる。また,本件情報は,同社における今後の製品開発の基盤となる情報でもあり,同社の商品の研究開発に役立つものとも認められる。後記のとおり,被告人は平成25年1月頃に本件情報を領得したことが認められ,本件情報はその時点における本件各塗料の最新の配合情報ではなかったものの,同一品質の本件各塗料を製造することができるものであって,改訂によって配合情報の同一性が失われるものではない。また,改訂 前の情報もその後の改訂において有益な情報であるから,Aの商品である本件各塗料の製造・販売に役立つ情報といえる。このように,本件情報は本件各塗料の生産,販売,研究開発等に役立つなどAの事業活動に有用であると認められる。 弁護人は,本件情報は,これに対応する具体的な商品名やその製造時期の情報と組み合わせなければ,事業活動に使用することはできないので,本件情報には有用性がない旨主張する。しかし,本件情報は,これに対応する具体的な商品名や製造時期などが分からなかったとしても,それ自体として塗料の生産や研究開発等に役立つので,その有用性は失われない。また,弁護人は,本件情報には技術的価値がないの 報は,これに対応する具体的な商品名や製造時期などが分からなかったとしても,それ自体として塗料の生産や研究開発等に役立つので,その有用性は失われない。また,弁護人は,本件情報には技術的価値がないので有用性が認められないとも主張する。しかし,有用性が認められるためには,事業活動に役立てばよく,特許要件のような新規性や進歩性が要求される訳ではない。したがって,弁護人の主張はいずれも採用できない。 4 本件情報の営業秘密該当性について以上の次第で,本件情報は,秘密管理性,非公知性及び有用性の各要件を満たし,営業秘密に該当すると認められる。また,被告人は,上記各要件を基礎付ける事実を認識していたと認められるので,本件情報が営業秘密に当たることの認識も認められる。 5 「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」(平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法21条1項4号)に当たるか⑴ はじめに検察官は,被告人が領得したとされる情報と開示した情報は実質的に同一であるから,被告人が開示した情報は,「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」に該当すると主張する。弁護人は,被告人が開示した情報は,領得した完成配合表①②とは形式的にも実質的にも異なる推奨配合表①②であり,これらは同一性を欠いているので,「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」に当たらない旨反論する。 そこで,完成配合表①②と推奨配合表①②とを対比して検討すると,前記第3の1⑸のとおり,これらはいずれも本件各塗料の原料及び配合量を主とする情報であって実質的に同一であると認められるので,「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」に当たると認められる。また,被告人は,完成配合表①②及び推奨配合 料の原料及び配合量を主とする情報であって実質的に同一であると認められるので,「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」に当たると認められる。また,被告人は,完成配合表①②及び推奨配合表①②を自ら作成しており,これらが実質的に同一であることを認識していたと認められるので,被告人には開示した情報が「前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密」に当たるとの認識もあったと認められる。 ⑵ 弁護人の主張弁護人は,本件情報は,①その内容がありふれた技術情報にすぎないので,開示された情報に本件各塗料の配合情報であると特定できる記載がない限り営業秘密には該当しない情報である上,②被告人は「L」及び「M」の開発のための推奨配合表として開示し,本件各塗料の配合情報であることを示して開示しなかったので,これは営業秘密には該当しない旨主張する。しかしながら,保有者の同意を得るなど適切な方法によることなく,営業秘密を第三者に開示すること自体,公正な競争を妨げるものであり,被告人がDに対して本件情報がAの営業秘密であると伝えて開示しなくても営業秘密の侵害に当たると解される(①,②)。したがって,弁護人の上記主張は採用できない。 第4 争点⑵について 1 はじめに検察官は,被告人が,平成25年1月頃,当時勤務していたB社内において,Iで管理されていた本件各塗料の配合情報を基にパワーポイントで完成配合表①②を作成し,当時使用していた自己所有のUSB(以下「本件USB」という。)に保存するという方法で本件情報を領得したと認められると主張する。弁護人は,被告人が平成25年1月頃に完成配合表①②を作成したことはなく,この頃,完成配合表①②をUSB内に保存したこともないから,被告人が本件情報を 「領得」したとはいえない 主張する。弁護人は,被告人が平成25年1月頃に完成配合表①②を作成したことはなく,この頃,完成配合表①②をUSB内に保存したこともないから,被告人が本件情報を 「領得」したとはいえない上,従前から作成されていたデータに改訂を加えることなく保存する行為は「複製」に当たらないなどと主張する。 当裁判所は,被告人は,平成25年1月頃,被告人が完成配合表①②を作成したとは認められないものの,その頃,被告人所有のUSB(本件USB)に完成配合表①②を保存し,複製を作成する方法により,本件情報を領得したと判断したので,以下理由を説明する。 2 完成配合表①②の作成時期について⑴ 関係証拠(甲27,45,62,75ないし77,弁13,33,73,74,証人Hの証言,被告人の裁判所調書)によると,以下の事実が認められる。 ア被告人は,平成22年4月,Aの子会社Bに転籍し,平成23年4月,Iへのアクセス権を付与され,その頃から「C」及び「G」の商品設計書等の情報にアクセスすることが可能であった。被告人は,同年2月ないし4月頃から,Bにおいて,上司に対して,「外こぶ大作戦」と称する事業の展開を提案していた。外こぶ大作戦とは,Aが販売している塗料について,Bが安価な類似塗料を製造して販売するというものであり,被告人は,そのプレゼン用の資料として「外こぶ大作戦」と題する資料を作成した。もっとも,この事業は提案にとどまり,実際に展開されることはなかった。 イ被告人は,平成24年5月16日,友人に対し,自己の処遇に対する不満等についてメールしており,その中には「既にAから心が離れているから,禁足令,会議への出席見合わせ,全てせいせいする話だぜ。暇に任せて,将来構想でも練るよ。」とのメールを送信した。被告人は,同年10月, ついてメールしており,その中には「既にAから心が離れているから,禁足令,会議への出席見合わせ,全てせいせいする話だぜ。暇に任せて,将来構想でも練るよ。」とのメールを送信した。被告人は,同年10月,自ら提案書を持参してDに赴き,被告人とのコンサルタント契約の締結を持ち掛けた。その提案書には,被告人が平成25年3月にBを退職し,塗料ビジネスコンサルタントを始める予定であることに加え,被告人がDのビジネスに貢献できる可能性について,「御社が,溶剤型塗料の製造機能を手に入れた場合,(M&Aなど)Aの溶剤型塗料と同等品質の塗料のほとんど全て を自社製品として直ぐに品揃えできます。水性差別化商品も同様です。現在のA商品は,ほとんどが,私の開発部時代の開発品であるので,短期間で品揃えが可能です。」などと記載されていた。 ウ被告人は,平成24年12月26日,Bの当時の社長であったHから,平成25年3月に同社を辞めるように告げられたので,友人に対して,「今日で59才だ。今日,H社長に呼ばれて,肩を叩かれたよ。Tあたりに言われたんだろう。好きにしてくださいと言ってやったよ。好きにするだろう。しかし,ますますA嫌いになってしまうなあ。」とのメールを送信した。 エ被告人は,同年1月10日午前8時2分,友人に対して,「新年会で話をするが,次のステージでは,Dをベースに,A,Uと戦う企業構築になると思います。幸い,コンサルタント契約を5社と結べましたので,資金的には問題がなくなりました。課題は,戦うビジネスモデルに移っています。その辺りは,まだDの中を見ていませんので,まだ明確にはなっていませんが,成熟し,大手が惰眠を貪る業界に,殴り込みを掛けて荒らしまくると言うテーマは,ビジネスマン人生最後のテーマとして,面白いとは思いませんか。」と の中を見ていませんので,まだ明確にはなっていませんが,成熟し,大手が惰眠を貪る業界に,殴り込みを掛けて荒らしまくると言うテーマは,ビジネスマン人生最後のテーマとして,面白いとは思いませんか。」とのメールを送信した。 オ被告人の自宅から押収されたUSB(以下「押収USB」という。)には,パワーポイントで作成された23個の完成配合表のファイルが保存されており,その中には完成配合表①②も保存されていた。これらのファイルのコンテンツの作成日時はいずれも「2011.2.1/13:28」,アクセス日時はいずれも「2013.9.12」であった。 カ本件で被告人が作成した完成配合表の基となった商品設計書の配合情報が「試作配合表」ではなく「商品設計書」としてIで閲覧できたのは,「C」については,平成21年6月2日から平成23年5月26日まで,「G」については,平成18年5月9日から平成23年7月25日までであった。 ⑵ 以上認定した事実,ことに完成配合表①②のコンテンツの作成日時がいず れも平成23年2月であり,被告人が同年2月ないし4月頃以降「外こぶ大作戦」の構想を練り始め,同年4月以降Iにアクセスできるようになったことに加え,Iにおいて完成配合表①②の基となった情報が商品設計書として閲覧可能であったのは「C」については同年5月26日まで,「G」については同年7月25日までであり,これらの商品設計書がこれらの間にプリントアウトされたと推認できることなどを併せ考えると,完成配合表①②のフォーマットは同年2月頃に作成され,完成配合表①②は同年4月頃以降の数か月の間に作成された可能性が認められる。 ⑶ 検察官は,被告人がIにある本件各塗料の配合情報と同一内容をパワーポイントで作り直す必要はなく,被告人が完成配合表①② 合表①②は同年4月頃以降の数か月の間に作成された可能性が認められる。 ⑶ 検察官は,被告人がIにある本件各塗料の配合情報と同一内容をパワーポイントで作り直す必要はなく,被告人が完成配合表①②を作成したのは外部に開示するためであり,そうすると,その作成から本件USBへの保存までの日時は近接していると考えるのが合理的である上,被告人は,平成24年12月下旬にHから退職を促され,平成25年1月に友人に対してDをベースにA等に対抗する事業を行うことになる旨のメールを送信しているので平成25年1月頃に完成配合表①②を作成したと認められると主張する。 しかしながら,検察官の主張するように,被告人が外部に持ち出すことを目的として平成25年1月に完成配合表①②の作成に着手したのであれば,その当時の最新の配合情報を使用するのが合理的である。また,前記認定のとおり,被告人に外こぶ大作戦のプレゼン資料を作成する必要があったとすれば,完成配合表①②と同内容の配合情報をIで閲覧できるからといって,その情報をパワーポイントで作成する必要性がないとはいえない。そうすると,被告人の供述するように平成23年4月頃から数か月の間に完成配合表①②が概ね作成されていたとしても不自然とはいえない。検察官の主張は採用できない。 3 被告人が平成25年1月頃にB社内で完成配合表①②を本件USBに保存したこと ⑴ 2の関係証拠によると,次の事実が認められる。 ア押収USBに保存されていた完成配合表23個のファイルの作成日時及び更新日時のほとんどが平成25年1月であり,23個中3個のファイルのみ更新日時が平成24年5月又は同年9月であった。完成配合表①の作成日時は「2013年1月11日,8:33:29」,更新日時は「2013年1月11日,9:3 5年1月であり,23個中3個のファイルのみ更新日時が平成24年5月又は同年9月であった。完成配合表①の作成日時は「2013年1月11日,8:33:29」,更新日時は「2013年1月11日,9:34:38」であり,完成配合表②の作成日時は「2013年1月9日,13:35:36」,更新日時は「2013年1月10日,13:40:08」であって,完成配合表①②のアクセス日時はいずれも「2013.9.12」であった。 イファイルのプロパティ情報は,一般に以下のように記録される。 作成したデータを同じ場所で上書き保存すれば,「更新日時」及び「アクセス日時」は更新されるが,「作成日時」は更新されない。 コピーして貼り付けた場合,コピー先のデータは,「更新日時」については維持されるものの,「作成日時」及び「アクセス日時」についてはコピーした際の日時に更新される。この場合,「作成日時」より「更新日時」が前の日時となる逆転現象が起こる。 異なる記録媒体に移動した場合(例えば,ドラッグして移動させた場合や切り取って貼り付けた場合),「作成日時」及び「更新日時」については変更されないものの,「アクセス日時」については移動した際の日時に更新される。 同じ記録媒体の別の場所に移動した場合(例えば,ドラッグして移動させた場合や切り取って貼り付けた場合),「作成日時」,「更新日時」及び「アクセス日時」については維持される。 ウ被告人は,平成25年1月7日から同月15日までの間の平日は,いずれも午前7時38分ないし午前7時52分に出勤し,午後3時53分ないし午後5時7分に退勤していた。同月9日は午前7時41分に出勤して午後 3時53分に退勤し,同月10日は午前7時41分に出勤して午後5時 8分ないし午前7時52分に出勤し,午後3時53分ないし午後5時7分に退勤していた。同月9日は午前7時41分に出勤して午後 3時53分に退勤し,同月10日は午前7時41分に出勤して午後5時3分に退勤し,同月11日は午前7時39分に出勤して午後5時2分に退勤していた。 ⑵ ⑴に認定の事実,ことに押収USBに保存されていたファイルのプロパティ情報によると,押収USB内の完成配合表①②については,その「作成日時」,「更新日時」及び「アクセス日時」がいずれも異なっているので,押収USBの上で作成,保存されたものではなく,押収USBとは異なる記録媒体に保存されていたものを,押収USB内のファイルのアクセス日時である平成25年9月12日に,押収USBにドラッグして移動させるか又は,切り取って貼り付けたと推認できる。また,押収USBの完成配合表①②の作成日時及び更新日時は,被告人がこれらを作成した日時及び最終更新日時を示しており,押収USB内のファイルの作成日時はいずれも平成25年1月であるので,被告人は,この作成日時の頃,押収USBとは異なる記録媒体に完成配合表に名前を付けて保存したか,又は,コピーして貼り付けたと推認できる。 そして,被告人は,完成配合表①②の作成日時として記録されている時間帯にB社内で勤務していたと認められるので,被告人が完成配合表①②を押収USBとは異なる記録媒体に保存する行為は,同社内で勤務中に行われたと認められる。また,前記2認定のとおり,被告人は,平成24年12月にはBの退職を促され,平成25年1月頃には,同年3月に同社を退職することを明確に決意していたと認められる上,被告人自身日常的に私物のUSBを用いながら社内で作業していたことを自認していることを併せ考えると,被告人は,同年1月頃,同社を退職後もその事 同社を退職することを明確に決意していたと認められる上,被告人自身日常的に私物のUSBを用いながら社内で作業していたことを自認していることを併せ考えると,被告人は,同年1月頃,同社を退職後もその事業上利用することを念頭に置きながら,その他の完成配合表と共に完成配合表①②を本件USBに保存したと推認できる。 ⑶ 弁護人は,本件USBが発見されておらず,被告人が業務上使用するデータを自宅のパソコンにメールで送信することもあったことを指摘して,完成配 合表①②をBの社内で本件USBに保存したとは認められない旨主張する。 しかし,前記認定のような被告人が完成配合表①②を含む完成配合表のデータを保存した経緯を考えると,被告人がB社内のパソコンを用いて自宅のパソコンにメールで完成配合表①②のデータを送信することは考え難い。また,被告人は,捜査段階から公判段階での被告人質問に至るまで,完成配合表のデータを自宅のパソコンにメールで送信したなどと具体的に供述したことはない。以上によると,完成配合表①②をメールで自宅のパソコンに送信したなどの可能性は抽象的なものにすぎず,弁護人の主張は採用できない。 弁護人は,ファイルのタイムスタンプには様々な日時が記録され,統一的な説明が困難な事象が生じるものであり,タイムスタンプの表示から領得の有無やその時期を特定することは困難である旨主張する。しかしながら,一度更新されたタイムスタンプの表示をそれより前の日時に遡らせることは何らかの操作をしない限り困難であり,本件ではそのような操作をしたことはうかがわれないので,完成配合表①②のファイルのタイムスタンプは,被告人が平成25年1月頃に同配合表の複製を作成していたことを示すものであることに変わりはない。したがって,弁護人の主張は採用できない。 れないので,完成配合表①②のファイルのタイムスタンプは,被告人が平成25年1月頃に同配合表の複製を作成していたことを示すものであることに変わりはない。したがって,弁護人の主張は採用できない。 4 被告人の行為が「複製」に当たること弁護人は,被告人は,平成25年1月頃,完成配合表①②を確認することはあったが,修正を加えることはなく「保存ボタン」を押していたにすぎず,単に保存する行為は「複製」には当たらない旨主張する。 そこで検討すると,3に認定したとおり,被告人は,平成25年1月頃,本件USBとは異なる記録媒体から本件USBに完成配合表①②に名前を付けて保存,又は,コピーして貼り付けたと認められる。したがって,被告人の行為は,印刷,撮影,複写,録音その他の方法により,営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録又は営業秘密が化体された物件と同一性を保持するものを有形的に作成したと認められ,「複製」したと認められる。 5 以上によると,被告人は,平成25年1月頃,本件情報の複製を作成する方法により「領得」したと認められる。 第5 争点⑶について 1 本件情報の領得が任務違背に当たること⑴ はじめに検察官は,被告人は,Iへのアクセス権の付与を申請するに当たり,Iで得られる情報はAの機密情報であって,その情報にアクセスした者には法令及び情報管理規定に基づいてその情報を秘密として管理する義務が生じることに同意した上,Iにログインする際にも同様の同意をしていたので,被告人が本件情報を本件USBに保存する行為は,Aに対する任務に違背する旨主張する。弁護人は,被告人はIの情報について営業秘密として管理することに同意するボタンをクリックしたことはなく,クリックしたとしても営業秘密として管理する旨の契約は成立して 対する任務に違背する旨主張する。弁護人は,被告人はIの情報について営業秘密として管理することに同意するボタンをクリックしたことはなく,クリックしたとしても営業秘密として管理する旨の契約は成立しておらず,Aの情報管理規定は個人所有のUSBへのデータの保存を禁止するものではないなどと主張して,被告人の行為がAに対する任務に違背しない旨反論する。当裁判所は,本件情報の領得がAに対する任務違背に当たると判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ 第3に認定したとおり,被告人は,Iへのアクセス権の付与を申請するに当たり,Iで得られる情報はAの機密情報であり,その情報にアクセスした者は,その情報を法令及び情報管理規定に基づいて秘密として管理する義務が生じることに同意して,Iへのアクセス権を付与された上,その後Iにログインする際にも同様の同意をしていたことが認められる。したがって,被告人はAとの間に営業秘密保持特約を締結したと認められる。 弁護人は,被告人がIへのアクセス権の付与申請に当たり,申請画面に表示された同意ボタンをクリックしていないなどと主張するが,前記認定のとおり,被告人がIへのアクセス権の付与を申請した平成23年当時には前記の義務が生じることに同意する旨のボタンをクリックする必要があったことは 明らかであるので,この弁護人の主張も採用できない。 また,弁護人は,被告人が同意ボタンをクリックしたとしても,直ちにIの情報を営業秘密として管理する旨の契約が生じるものではないと主張する。 そこで関係証拠を検討すると,平成19年にAの従業員がIの配合情報を持ち出して中国の原料メーカーに就職することが起き,その後開催された,被告人も出席した執行役員会において,技術情報等の管理についてIに秘密表示をすることやIへのアクセス制限を厳しく がIの配合情報を持ち出して中国の原料メーカーに就職することが起き,その後開催された,被告人も出席した執行役員会において,技術情報等の管理についてIに秘密表示をすることやIへのアクセス制限を厳しくすることが確認されたことに加え,被告人が汎用塗料事業本部長として出席した汎用塗料事業本部会議においても,重要機密の漏えいがあったので情報対策を厳格化していくことが確認されたことが認められる。そうすると,被告人は,その職務上の経験から企業における情報管理の重要性について認識していたと認められ,その上Aの情報管理規定に基づいて管理する義務が生じることに同意したのであるから,同規定の内容を逐一確認していなかったとしても,同規定に定められている義務を負うことに同意したと認められる。したがって,被告人は,Aとの間の営業秘密保持特約に基づき,同社に対し,Iの情報を秘密として管理する義務を負っていたと認められ,これを個人所有のUSBに保存することを禁止した同社の内部規則を遵守する任務を負っていたといえる。 弁護人は,Aの情報管理規定は個人所有のUSBへのデータの保存を禁止するものではない旨主張する。しかし,Aの情報管理規定は「『機密情報』は社外に漏洩してはならない。」,機密情報が記載された電子情報については「各自が使用するパソコン,記録媒体等での保管を禁止する。」と規定しており,これらは機密情報の漏洩を防止することを目的とするものであると解されるので,個人所有のUSBに機密情報に当たるデータを保存することを禁止することも当然予定しているといえる。弁護人は,「保管」と「保存」の文言の違いを根拠として,前記規定が「保存」を禁止していないなどと主張するが,前記の規定の趣旨を踏まえると採用できない。 以上によると,被告人は,営業秘密 ,「保管」と「保存」の文言の違いを根拠として,前記規定が「保存」を禁止していないなどと主張するが,前記の規定の趣旨を踏まえると採用できない。 以上によると,被告人は,営業秘密を個人所有のUSBに保存してはならないというAの内部規則に反して本件情報を本件USBに保存したと認められるので,被告人は,Aに対する任務に違背して本件情報を領得したと認められる。また,前記のとおり,被告人は,Iのアクセス権の付与を申請する際やIにアクセスする際にその情報を秘密として管理する義務を負うことに同意していたので,自らが前記義務を負うことを認識していたといえ,任務違背の認識もあったと認められる。 2 本件情報の開示が任務違背に当たること⑴ はじめに検察官は,被告人がAの情報管理規定に基づきIの情報を秘密として管理する義務を負っていたことに加え,平成25年1月当時,Bの契約社員であった被告人はBの契約社員就業規則における「業務上知り得た機密を他に漏らしてはならない。退職後(期間5年)も在職同様とする。」との規定の適用を受ける立場にあったので,本件情報の開示はA及びBに対する任務に違背する旨主張する。弁護人は,本件情報が営業秘密として扱われる情報であるとすれば,それは期間制限なく開示が禁止されるべきであるので,期間制限のある前記規定は本件情報には適用されず,その開示は任務違背に当たらない旨反論する。当裁判所は,本件情報の開示がA及びBに対する任務違背に当たると判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ Bが前記就業規則を定めた目的は,その文面上従業員が営業秘密を含む業務上知り得た秘密を漏洩することを防止するなどして機密情報を適切に管理することにあると解される。仮に,本件情報が前記就業規則の「業務上知り得た機密」に該当せず は,その文面上従業員が営業秘密を含む業務上知り得た秘密を漏洩することを防止するなどして機密情報を適切に管理することにあると解される。仮に,本件情報が前記就業規則の「業務上知り得た機密」に該当せず,Bの就業規則上何らの制約なく他に漏らすことができるとすれば,親会社であるAがIにより機密として管理している情報をそのネットワークに子会社として入っているBが機密として管理しないということになり不合理である。したがって,Aが保有する秘密であってもBの業務にお いて知り得たものは,前記「業務上知り得た機密」に該当するというべきである。弁護人は,Bの就業規則には5年間の期間制限があることなどを理由に本件情報が「業務上知り得た機密」に該当しないなどと主張するが,前記就業規則の解釈として不合理であるので採用できない。したがって,本件情報は前記就業規則の「業務上知り得た機密」に該当すると認められ,被告人は,前記就業規則により,B在職中はもとより,退職後も5年間は同社での業務上知り得た営業秘密を漏洩することを禁止した同社の内部規則を遵守すべき義務を負っていたと認められる。また,Aは,被告人がIの情報を秘密として管理する義務を負うことに同意すること,すなわち法令やAの情報管理規定に基づいて情報を管理することはもちろん,Bの前記就業規則を遵守することを当然の前提として,被告人にIへのアクセス権を付与していたと認められる。そうすると,被告人は,Aに対してもBの就業規則で定められた退職後5年間業務上知り得た営業秘密を漏洩しないという義務を負っていたといえる。したがって,退職後5年間は営業秘密を漏洩することを禁止したBの内部規則に違反する被告人の行為は,Bに対してはもとより,Aに対する任務にも違背するものと認められる。 被告人は,Bに就業規則 たがって,退職後5年間は営業秘密を漏洩することを禁止したBの内部規則に違反する被告人の行為は,Bに対してはもとより,Aに対する任務にも違背するものと認められる。 被告人は,Bに就業規則があることは知らなかったなどと供述するが,株式会社に就業規則が存在するのは公知の事実であり,Bの就業規則に規定されている義務は一般的なものであって,通常人であれば業務上知り得た秘密を保持する義務があることは当然認識しているはずであるから,被告人にそのような認識がなかったとは考え難い。したがって,被告人には任務違背の認識があったと認められる。 3 小括以上によると,被告人が本件情報を領得し,開示したことは任務違背に当たり,被告人にはその認識があったと認められる。 第6 争点⑷について 1 領得時の「不正の利益を得る目的」⑴ はじめに検察官は,被告人は,本件情報を領得した際,本件情報をD等自らが関わる競合他社に提供し,同社及び自らの利益のために利用する目的があったから,「不正の利益を得る目的」を有していたと主張する。弁護人は,仮に被告人が平成25年1月頃に本件情報を領得したとしても,Bの従業員に引き継ぐためであり,「不正の利益を得る目的」を有していなかったと反論する。当裁判所は,被告人が本件情報の領得時に「不正の利益を得る目的」を有していたと判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ 第4の2のとおり,被告人は,平成24年5月,社内における不遇を知らせるメールを送信して,同年10月には自らDに提案書を持参して自らの知識と経験を活かしたコンサルティング契約を持ち掛けるなどする一方,同年12月に翌年3月に同社を退職するように働きかけを受けて,平成25年1月には,DをベースにAに対抗する事業計画を練って て自らの知識と経験を活かしたコンサルティング契約を持ち掛けるなどする一方,同年12月に翌年3月に同社を退職するように働きかけを受けて,平成25年1月には,DをベースにAに対抗する事業計画を練っている旨のメールを送信していた。したがって,被告人は,平成25年1月頃には,同年3月にBを退職した後の事業計画を立案していたと推認できる。そうすると被告人が同年1月頃本件情報を本件USBに保存したのは,退職後の事業計画に利用する目的であったと推認できる。弁護人は,本件情報を本件USBに保存したのは,本件情報をBの従業員に引き継ぐためであったと主張するが,実際にはBの従業員に引き継がれておらず,そのような作業が行われた形跡もない。弁護人の主張は採用できない。よって,被告人には,本件情報の領得時に「不正の利益を得る目的」があったと認められる。 2 開示時の「不正の利益を得る目的」⑴ はじめに検察官は,被告人は,本件情報を開示した際,Dの新製品作成に貢献し,同社内の自らの評価を上げる目的を有していたから,「不正の利益を得る目的」 を有していたと主張する。弁護人は,被告人は本件情報の開示により報酬を得ておらず,Aの特定の配合情報として開示したわけではないことなどを指摘して,被告人は「不正の利益を得る目的」を有していなかったと反論する。当裁判所は,被告人は,本件情報の開示時に「不正の利益を得る目的」を有していたと判断したので,以下理由を説明する。 ⑵ 前記認定のとおり,被告人は,自らDに提案書を持参してコンサルティング契約を持ち掛け,その後同社に入社しており,自己の知識と経験を用いて同社において新製品を開発することを目指していたといえる。これらの事情によると,被告人は,Dの新製品の開発に貢献し,同社内における自己の評 持ち掛け,その後同社に入社しており,自己の知識と経験を用いて同社において新製品を開発することを目指していたといえる。これらの事情によると,被告人は,Dの新製品の開発に貢献し,同社内における自己の評価を上げることを目的として,本件情報を開示したと推認できる。弁護人の指摘を踏まえて検討してもこの判断は左右されない。したがって,被告人には,本件情報の開示時に「不正の利益を得る目的」があったと認められる。 3 小括以上によると,被告人には,本件情報の領得及び開示時に「不正の利益を得る目的」があったと認められる。 第7 結論以上のとおりであるから,罪となるべき事実第1及び第2のとおり,被告人が営業秘密の領得行為及び開示行為に及んだと認定した。 (法令の適用)被告人の第1及び第2の各行為のうち営業秘密の領得の点はいずれも平成27年法律第54号附則4条により同法による改正前の不正競争防止法21条1項3号ロに,前記各行為のうち営業秘密の開示の点はいずれも同項4号にそれぞれ該当するところ,前記各行為の営業秘密の領得と開示との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,刑法54条1項後段,10条により1罪としていずれも犯情の重い営業秘密開示罪の刑で処断することとし,前記の各罪について所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,懲役刑については同法47条 本文,10条により犯情の重い第1の罪の刑に法定の加重をし,罰金刑については同法48条2項により前記の各罪所定の罰金の多額を合計し,その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役2年6月及び罰金120万円に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予し,同法18条によりその罰金を完納することができないときは,金1 被告人を懲役2年6月及び罰金120万円に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予し,同法18条によりその罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし,訴訟費用については,刑訴法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。 (量刑の理由)被告人は,被害会社の執行役員や汎用塗料事業本部長などの重職を務めた経歴を有しながら,その子会社に在籍中,被害会社の事業にとり重要な情報である塗料の配合情報である本件情報を領得し,競合他社に就職後,これを開示している。その犯行は事業等目的で職務上の地位や知見を悪用した反規範的なものであり,被害会社の事業を妨げるものである。したがって,本件情報が犯行時の最新の配合情報ではなく,被告人が同社の塗料の配合情報であることを明示して開示しておらず,同社や子会社の機密情報の管理が万全とはいえないものであったことを併せ考慮しても,その刑事責任は軽視できず,被告人には懲役刑と罰金刑を併科するのが相当である。これらに加え,被告人に前科前歴がないこと等も考慮して,主文のとおり量刑した。 (求刑-懲役4年及び罰金200万円)令和2年3月31日名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判長裁判官吉井隆平 裁判官細野高広 裁判官川内真里

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