令和5(わ)570 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年5月20日 福岡地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-93112.txt

判決文本文6,914 文字)

令和6年5月20日宣告令和5年(わ)第570号判決 主文 被告人を懲役14年に処する。 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は、第1 令和5年6月3日午前零時46分頃から同日午前零時49分頃までの間に、福岡市a区bc丁目d番e号付近路上において、A(当時43歳。以下「被害者」という。)に対し、同人が死亡する危険性が高い行為であると分かりながら、あえて、持っていた三徳包丁(刃体の長さ約16.3cm。以下「本件包丁」という。)で、左大腿部を2回、右大腿部を1回突き刺すなどし、よって、同日午前2時7分頃、同市f区gh丁目i番j号のG病院において、同人を前記右大腿部刺創に基づく右大腿動・静脈損傷に伴う失血により死亡させて殺害し、第2 業務その他正当な理由による場合でないのに、同日午前零時46分頃から同日午前零時49分頃までの間に、前記路上において、本件包丁を携帯した。 【証拠の標目】省略【争点に対する判断】 1 本件の争点本件の争点は、殺意の有無、すなわち、被告人が、人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為であると分かってあえて行ったか否かである。当裁判所は、判示のとおり、被告人には未必的な殺意が認められると判断したから、以下その理 由を補足して説明する。 2 認定事実関係証拠によれば、次の事実が認められる(以下、日時は特に断らない限り令和5年の出来事を指す。)。 ⑴ 犯行に至る経緯等ア被告人(事件当時、身長約169cm、体重約78kg)と被害者(事件当時、身長約171cm、体重約93.1kg)とは、20数年前にBの紹介で知り合い、仕事上の付き合いもあって交流が続いていた。両者は特段親しい関係ではなか 169cm、体重約78kg)と被害者(事件当時、身長約171cm、体重約93.1kg)とは、20数年前にBの紹介で知り合い、仕事上の付き合いもあって交流が続いていた。両者は特段親しい関係ではなかったが、特にトラブルがあるわけでもなかった。 イ被害者は、5月中旬頃、別件で勾留されていた被告人が釈放されたことから、被告人にお祝いの電話をかけたが、応答がなく、折り返しもなかったため、被告人の電話番号を着信拒否設定した。 ウ被告人は、事件前日の6月2日午後11時40分頃、友人であるCらとの飲み会で被害者の話題になったことから、被害者に電話をかけたが、繋がらなかった。ところが、その場にいた知人からの電話は繋がったため、被告人がその電話を借りて被害者に着信拒否しているだろうと質したところ、被害者と口論になった。互いに罵声を浴びせ合う中で、被告人は、被害者からの呼び出しに応じる形で、Cの制止を振り切り、被害者の下へ向かうことにした。 エ被告人は、一度タクシーで自宅に帰ることにし、その車内において、後輩のD及びE、知人のFに順次電話をかけ、被告人の自宅に車で迎えに来るよう求めたところ、D及びEは飲酒していたことを理由に断ったが、Fはこれを引き受けた。 さらに、被告人は、共通の知人であるBを通じて被害者に謝罪させようと、Bと電話をしたものの、Bからは、被害者の下に行くことを止められた。 オ被告人が帰宅すると、被害者から電話があり、まだ来ないのかなどと挑発 された。被告人は、体格差のある被害者を脅すため、目に留まった本件包丁(刃体の長さは前記のとおり、刃の根本付近の幅は約4.6cm)を持っていくことに決め、被害者に奪われないよう、右手で本件包丁を順手に握り、その上から養生テープを巻いて固定した。以降、その手は周囲から見えないようTシ のとおり、刃の根本付近の幅は約4.6cm)を持っていくことに決め、被害者に奪われないよう、右手で本件包丁を順手に握り、その上から養生テープを巻いて固定した。以降、その手は周囲から見えないようTシャツの中に隠していた。 カ被告人は、自宅近くの路上でFと合流し、Fの車に乗ろうとしていたところ、そこにD及びEも来たため、両名もFの車に乗り、被告人ら4名は被害者の下へ向かった。その車内でも被告人はBと通話し、Bから被害者と会うことを止められた。 キ被告人らは、6月3日午前零時46分頃、被害者から聞いていた居場所近辺に到着し、付近のスナックにおいて、知人と飲食をしていた被害者を発見して声をかけ、共に付近の駐車場(以下「本件駐車場」という。)に移動した。 ⑵ 犯行状況被告人と被害者は、本件駐車場において、互いに向き合った状態で挑発し合い、間もなく被告人が本件包丁を取り出し、被害者の眼前に示して脅すと、被害者は、本件駐車場前の道路(以下「本件道路」という。)の方に、バックステップのような形で後ずさりし、被告人もこれに追随した。被害者は、本件道路の車道を横切って、反対側の歩道まで後進したが、車道と歩道の段差に躓いて尻餅をつく形で転倒した。 被告人は、転倒した被害者に対し、本件包丁を持ったままの右手で、その顔面を複数回殴り、本件包丁で、その左大腿部を2回突き刺し、最後に右大腿部を1回突き刺した(具体的な刺突行為の態様については後述する。)。その間、被害者は下から被告人を蹴り上げるなどして抵抗した。 被害者は、被告人による一連の暴行により、左頬部、左頸部、頭頂部、後頭部、左手に複数の切創等を負い、左大腿部外側側面から前面に貫通する長さ約12cmの刺切創、左大腿部後面に体内で傷が二股(深さ約5cm、約13c m)に分かれた刺切創、右大腿 左頸部、頭頂部、後頭部、左手に複数の切創等を負い、左大腿部外側側面から前面に貫通する長さ約12cmの刺切創、左大腿部後面に体内で傷が二股(深さ約5cm、約13c m)に分かれた刺切創、右大腿部後面に深さ約12cm、傷口の長さ約4.3cmの刺創を負った。右大腿部後面の刺創は、右大腿動・静脈を切裁しており、被害者の失血死の原因となった。 ⑶ 犯行後の状況上記の状況を目撃したDが被害者を被告人から引き離すと、被告人は、D、E、Fに対し、救急車を呼んだり、被害者の止血をしたりするよう指示をした。 これを受けて、Fは、同日午前零時49分頃、119番通報を行い、Dは、ベルト等を用いて被害者の右大腿の止血を行った。また、被告人も止血位置を調整したり、被害者の右脚を持ち上げたりするなどして救護活動に加わっていたが、警察官や救急車が現場に到着すると、車で来たBらとともに現場から離れた。 3 殺意について⑴ 刺突行為の態様被害者の左右大腿部の傷は、いずれも太腿の側面ないし後面の付け根に近い位置にあり、被害者の頭に近い方が峰、足に近い方が刃の形である。犯行時、被害者は地面に尻を付けている体勢であったこと、被告人が、右手で本件包丁を順手に握っていたことなどを踏まえると、これらの傷は、被害者が体を左右にひねって半身になるなどして、その左右の大腿部の側面ないし後面が、それぞれ上の方に来た状態になった際に、被告人が本件包丁で突き刺してできたものと考えるのが最も合理的である。 これに対し、被告人は、被害者の右大腿部は刺したが、左大腿部の2か所を刺した記憶はない旨述べ、これを受けて弁護人は、被告人と被害者が揉み合う中で意図せず左大腿部に包丁が刺さった可能性がある旨主張する。しかし、左大腿部の傷は、いずれも深さが約12~13cmあり、その位置や被害者 はない旨述べ、これを受けて弁護人は、被告人と被害者が揉み合う中で意図せず左大腿部に包丁が刺さった可能性がある旨主張する。しかし、左大腿部の傷は、いずれも深さが約12~13cmあり、その位置や被害者の体勢も踏まえると、被告人と被害者が揉み合う状況であったとしても、偶然これほど深くまで本件包丁が2度も刺さるとは考えられない。以上によれば、これ らの傷は、いずれも被告人が、意図的に本件包丁を突き刺した結果生じたものと認められる。 また、被告人は、右大腿部の刺創について、浅く刺そうと思ったが、被害者が横向きの体勢から仰向けに戻ろうとする勢いが加わり、思っていたよりも深く刺さってしまったとも述べる。しかし、右大腿部の刺創の形状(深さ約12cm、傷口の長さ約4.3cm)や本件包丁の形状(刃体の長さ約16.3cm、刃の根本付近の幅約4.6cm)は上記のとおりであり、被告人の述べる態様であるとすると、被害者の動きにより、被告人の刺突方向とは異なる方向にも力が加わることになるから、傷口に切れ込みが入って刺切創の形状になったり、傷口が広がったりするのが自然である。仮に、動いている右大腿に対し、傷口が広がらないような刺突態様を考えると、被害者の右太腿の動きに合わせて、一定の角度や位置関係を保ったまま、本件包丁を突き刺して引き抜くことになるが、およそ現実的でない。したがって、被告人の供述は客観的な傷の形状と整合せず、信用できない。そのほか、上記のような被害者の体勢で、被告人が本件包丁を突き刺す動きに対して、ちょうど正反対に向かってくるような被害者の動きというのは想定しがたい。以上によれば、右大腿部の刺創については、被告人が加えた力によって、本件包丁が約12cmの深さまで刺さって生じたものと認められる。 ⑵ 被告人の内心まず、凶器である本件包丁は のは想定しがたい。以上によれば、右大腿部の刺創については、被告人が加えた力によって、本件包丁が約12cmの深さまで刺さって生じたものと認められる。 ⑵ 被告人の内心まず、凶器である本件包丁は、刃体の長さ約16.3cmの鋭利な包丁であり、殺傷能力が高い。被告人は、このような本件包丁を用いて、被害者の左右大腿3か所を、いずれも約12~13cmの深さまで突き刺しているところ、大腿部には大腿動・静脈という太い血管が通っており、客観的にみて、これらの血管の損傷に伴う失血により被害者を死亡させる危険性が高い行為であったことは明らかである。 そして、大腿部は、胸部や腹部のように臓器が内包されている部位ではない が、人体の中で末端に位置する部位ではなく、下半身の要となる大きな部位である。被告人が、大腿動・静脈の存在やその位置などの内部の組織構造について十分な知識を有していたとはいえないが、そのような知識がなくとも、本件包丁で大腿部を3回も深く突き刺せば、大量の出血によって被害者を死亡させる危険性が高いことは、素人目に見ても明らかであり、被告人もそのような危険性を認識していたと考えるのが常識に適う。 そして、被告人は被害者と電話で口論になり、CやBの制止も聞かずに、深夜、わざわざFに送迎してもらって被害者の下へ向かっており、その際、自宅から脅す目的とはいえ本件包丁を持ち出している。以上の経緯に加え、被告人は、現場付近に到着してから、Fが119番通報するまでの約3分間という短時間のうちに、被害者を発見し、本件駐車場に連れ出した上、前記一連の攻撃を終えていること、犯行時、被害者は後ずさりし、転倒した状態で抵抗を続けていて、終始防御的な姿勢であったにもかかわらず、被告人が本件包丁も用いて一方的に攻撃を加えていることも踏まえると、被告人が被害者に えていること、犯行時、被害者は後ずさりし、転倒した状態で抵抗を続けていて、終始防御的な姿勢であったにもかかわらず、被告人が本件包丁も用いて一方的に攻撃を加えていることも踏まえると、被告人が被害者に対して憤激し、強い攻撃意思に基づいて本件犯行に及んでいることは明らかである。このような被告人の精神状態も考慮すると、被告人は、3回にわたって本件包丁を被害者の大腿部に突き刺した際、これが被害者を死亡させる危険性が高い行為であることを認識しながら、それを意に介さず、怒りに任せて、あえて実行したと認められ、未必的な殺意は有していたというべきである。 これに対し、被告人は、被害者を死亡させるつもりはなく、大腿部を突き刺しても血が大量に出るとは思わず、被害者が死に至るとも思っていなかった旨述べ、弁護人も、被告人は、事件当時、大腿動・静脈について認識していなかったことなどから、被害者を死亡させる危険性が高いとはわかっていなかった旨主張する。しかし、大腿動・静脈についての認識がなくとも、被告人が被害者を死亡させる危険性が高いと認識していたと考えられることはすでに述べたとおりであり、被告人が、大腿部内部の血管がどのようになっているのかよ く分からなかったというのに、それほど出血することはないだろうと考えた根拠は特段見当たらないから、上記被告人の供述や弁護人の主張は採用できない。 また、弁護人は、被告人と被害者の間に元々トラブルはなく、被告人と被害者の口論の発端は、被害者による着信拒否という些細な出来事であることや、被告人が犯行後被害者の救護活動を行っていることなどからすると、被告人には殺意が認められない旨主張する。しかし、口論の発端が些細な出来事であるにせよ、前記のとおり、口論の末、被告人が被害者に対して強い怒りを覚え、本件犯行に及んでいることは明 となどからすると、被告人には殺意が認められない旨主張する。しかし、口論の発端が些細な出来事であるにせよ、前記のとおり、口論の末、被告人が被害者に対して強い怒りを覚え、本件犯行に及んでいることは明らかであり、被告人が殺意を有していたことと矛盾するものではない。また、強い憤激から犯行に及んだものの、大量の出血を見たことなどを契機に我に返って救護活動をすることも十分あり得る。そのほかの弁護人の主張を踏まえて検討しても、被告人が殺意を有していたという前記認定は揺らがない。 ⑶ 小括以上によれば、被告人が、犯行時に、被害者を死亡させる危険性が高い行為をそのような行為であると分かってあえて行ったこと、すなわち、被告人が殺意を有していたことは優に認められる。 4 結論よって、被告人には殺人罪が成立する。 【法令の適用】省略【量刑の理由】被告人は、包丁を示されて後ずさりし、尻餅をついた状態で抵抗する被害者に対し、包丁を持った手で顔面等を殴り、包丁で大腿部3か所を深く突き刺している。 被告人が包丁で突き刺した部位は胸部や腹部でなく大腿部にとどまり、殺意も未必的なものにとどまるとはいえ、防御的な行動に終始していた被害者に対し、予め準備した包丁を用いて、一方的に激しい攻撃を加えている点は悪質というべきである。 被害者はその生命を奪われており、被害結果は極めて重大である。被害者遺族が、被告人のことは絶対に許せない旨述べ、厳しい処罰感情を示しているのは当然である。 被告人は、被害者に着信拒否されていたという些細な出来事を発端として、被害者と口論になり、被害者の言動に怒りを募らせて本件犯行に及んだものであり、短絡的な動機に酌むべき点はない。口論の際、被害者も挑発的な言動をしており、口論を加熱させた側面はあるが、被告人自身も被害者を挑 と口論になり、被害者の言動に怒りを募らせて本件犯行に及んだものであり、短絡的な動機に酌むべき点はない。口論の際、被害者も挑発的な言動をしており、口論を加熱させた側面はあるが、被告人自身も被害者を挑発していたのであるから、被害者が一方的に口論の原因を作ったということはできず、ましてや包丁を用いて激しい攻撃を加えることが許される事情とは到底いえない。さらに、被告人は、友人らの度重なる制止も意に介さず、自宅から包丁を持ち出して被害者の下へ赴いており、被害者を屈服させ、謝罪させるという強固な意思を持ち続け、挙げ句、未必的とはいえ被害者の死をも認容するに至ったという意思決定は、厳しい非難に値する。 以上によれば、被告人の刑事責任は重大であり、本件は、けんかを動機とし、刃物類を使用した殺人事案の中では、殺意が未必的なものにとどまることなどを踏まえてもなお、中程度からやや重い部類に属する事案というべきである。 一般情状についてみると、被告人は、一部不合理な弁解をするなど内省が深まっているとまではいいがたいものの、自らの犯行を悔いて反省の弁を述べている。また、被告人の姉や友人が、今後の被告人の監督や生活の支援を誓約し、被害者遺族に交付した見舞金(100万円)の原資にも協力していることは、社会復帰後の被告人の更生に資する事情といえる。そのほか、犯行後、被告人が被害者の救護活動を行ったことや、被告人に量刑上考慮すべき前科はないことなどの事情もあるが、これらの事情を考慮しても、主文の刑は免れないと判断した。 (求刑懲役16年)令和6年5月20日福岡地方裁判所第4刑事部 裁判長裁判官鈴嶋晋一 裁判官田野井蔵人 裁判官中元隆太 裁判所第4刑事部 裁判長裁判官 鈴嶋晋一 裁判官 田野井蔵人 裁判官 中元隆太

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る