平成26(ワ)12527等 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成28年1月28日 大阪地方裁判所
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判決文本文30,838 文字)

- 1 -平成28年1月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成26年(ワ)第12527号特許権侵害差止等請求事件同年(ワ)第12531号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成27年11月6日判決 原告日産化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士増井和夫同橋口尚幸同齋藤誠二郎 被告株式会社三和化学研究所 被告キョーリンリメディオ株式会社 上記2名訴訟代理人弁護士新保克芳同洞敬同酒匂禎裕同西村龍一 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告株式会社三和化学研究所は,別紙物件目録1記載のピタバスタチンカル - 2 -シウム原薬を使用してはならない。 2 被告株式会社三和化学研究所は,別紙物件目録1記載のピタバスタチンカルシウム原薬を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持して保存してはならない。 3 被告株式会社三和化学研究所は,別紙物件目録2記載のピタバスタチンカルシウム製剤を製造し,販売し,又は販売の申し出をしてはならない。 4 被告キョーリンリメディオ株式会社は,別紙物件目録3記載のピタバスタチンカルシウム原薬を使用してはならない。 5 被告キョーリンリメディオ株式会社は,別紙物件目録3記載のピタバスタチンカルシウ 被告キョーリンリメディオ株式会社は,別紙物件目録3記載のピタバスタチンカルシウム原薬を使用してはならない。 5 被告キョーリンリメディオ株式会社は,別紙物件目録3記載のピタバスタチンカルシウム原薬を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持して保存してはならない。 6 被告キョーリンリメディオ株式会社は,別紙物件目録4記載のピタバスタチンカルシウム製剤を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。 第2 事案の概要本件は,ピタバスタチンカルシウム塩の結晶及びその保存方法に関する2件の特許権を有する原告が,被告らによる原薬及び製剤の製造販売等が上記各特許権の侵害に当たる旨主張して,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,その差止めを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者ア原告は,基礎化学品,医薬品の製造販売等を業とする株式会社である。 イ被告株式会社三和化学研究所(以下「被告三和化学」という。)は,医薬品,診断薬,医療・介護用食品,ヘルスケア製品の研究開発と製造販売を業とする株式会社である。 ウ被告キョーリンリメディオ株式会社(以下「被告キョーリン」という。) - 3 -は,医療用医薬品の製造販売を業とする会社である。 (2) 原告の有する特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件結晶特許権」といい,その特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書1」という。)を有している。 特許番号特許第5186108号発明の名称ピタバスタチンカルシウム塩の結晶出願日平成16年12月17日(特願2006-520594号)優先日平成15年12月26日(特願2 番号特許第5186108号発明の名称ピタバスタチンカルシウム塩の結晶出願日平成16年12月17日(特願2006-520594号)優先日平成15年12月26日(特願2003-431788号)登録日平成25年1月25日イ原告は,次の特許権(以下「本件方法特許権」といい,本件結晶特許権と併せて「本件各特許権」という。また,本件方法特許権の特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書2」といい,本件明細書1とを併せて「本件各明細書」という。)を有している。 特許番号特許第5267643号発明の名称ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法出願日平成23年11月29日(特願2011-260984号(特願2006-520594号の分割))原出願日平成16年12月17日優先日平成15年12月26日(特願2003-431788号。 以下,前記アの優先日と併せて「本件優先日」という。)登録日平成25年5月17日(3) 本件結晶特許権に係る発明の内容ア本件結晶特許権に係る特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は,次のとおりである(以下,請求項1の発明を「本件結晶発明1」,請求項2の発明を「本件結晶発明2」といい,両者を併せて「本件結晶発明」という。また,その特許を「本件結晶特許」という。)。 - 4 -【請求項1】式(1)【化1】で表される化合物であり,7~13%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27. において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 【請求項2】請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とする医薬組成物。 イ本件結晶発明は,以下の構成要件に分説される(なお,式(1)の構造式【化1】は記載を省略する。以下同じ。)。 【本件結晶発明1】A 式(1)で表される化合物であり, - 5 -B 7~13%の水分を含み,CCuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とするD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 【本件結晶発明2】F 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とするG 医薬組成物。 (4) 本件方法特許権に係る発明の内容ア本件方法特許 。 【本件結晶発明2】F 請求項1に記載のピタバスタチンカルシウム塩の結晶を含有することを特徴とするG 医薬組成物。 (4) 本件方法特許権に係る発明の内容ア本件方法特許権に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,当該発明を「本件方法発明」といい,その特許を「本件方法特許」という。また,これらと本件結晶発明又は本件結晶特許とを併せて「本件各発明」又は「本件各特許」という。)。 【請求項1】CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%~13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の結晶(但し,示差走査熱量測定による融 - 6 -点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 イ本件方法発明は,以下の構成要件に分説される。 C′ CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつB 7重量%~13重量%の水分を含む,A 式(1)で表されるD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除 )にピークを有し,かつB 7重量%~13重量%の水分を含む,A 式(1)で表されるD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,H その含有水分が4重量%より多く,15重量%以下の量に維持することを特徴とするI ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 (5) 訂正請求ア本件結晶特許について原告は,本件結晶特許に係る特許無効審判手続(無効2013-800211)において,平成26年8月22日付けで訂正請求書(甲22)により訂正請求をした(以下,この訂正請求による訂正を「本件訂正1」という。ただし,訂正は未確定である。)。 本件訂正1に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件訂正発明1」という。)は次の構成要件に分説される(訂正箇所に下線を付した。)。 - 7 -A 式(1)で表される化合物であり,B 7~13%の水分を含み,CCuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有し,X 7~13%の水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とするD’ 粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 イ本件方法特許について原告は,本件方法特 とを特徴とするD’ 粉砕されたピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)。 イ本件方法特許について原告は,本件方法特許に係る特許無効審判手続(無効2014-800099)において,平成27年6月1日付け訂正請求書(甲30)により訂正請求をした(以下「本件訂正2」といい,本件訂正1と併せて「本件各訂正」という。ただし,訂正は未確定である。)。 本件訂正2に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件訂正発明2」という。)は次の構成要件に分説される(訂正箇所に下線を付した。)。 C′ CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ - 8 -B 7重量%~13重量%の水分を含み,該水分量において医薬品の原薬として安定性を保持することを特徴とする,A 式(1)で表されるD ピタバスタチンカルシウム塩の結晶E (但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,H その含有水分が7重量%~13重量%に維持することを特徴とするI ピタバスタチンカルシウム塩の保存方法。 (6) 被告らの製品及び被告らの行為ア被告らは,平成25年8月15日,興和株式会社(以下「興和」という。)が製造販売しているリバロ錠の後発医薬品としてのピタバスタチンカルシウム製剤について,それぞれ厚生労働省から医薬品製造販売承認を得た。 なお,原告は,リバロ錠,リバロOD錠に用いられているピタバス )が製造販売しているリバロ錠の後発医薬品としてのピタバスタチンカルシウム製剤について,それぞれ厚生労働省から医薬品製造販売承認を得た。 なお,原告は,リバロ錠,リバロOD錠に用いられているピタバスタチンカルシウム原薬を製造し,興和に対して販売している。 イ被告三和化学は,別紙物件目録2記載の製剤(以下「三和錠」という。)を販売している。 被告キョーリンは,別紙物件目録4(1)及び(2)記載の製剤を製造販売しており,同目録(3)記載の製剤についても販売をしている(以下,同目録記載の製剤をまとめて「杏林錠」といい,「三和錠」と併せて「被告ら製剤」という。)。 ウ被告ら製剤は,構成要件A,B,D及びGを充足する。 (7) 本件各特許の出願日以前の公知文献等ア上記(6)ア記載の興和が製造販売するリバロ錠1mg及び2mgに関する平成15年7月作成にかかる医薬品インタビューフォーム(乙1。以下「乙1文献」という。)イ国際公開日を2003年(平成15)年8月7日とする国際公開200 - 9 -3/064392号(乙3の1)及びそれに対応する国内出願である特表2005-520814号公報(乙3の2。以下,両者併せて「乙3公報」といい,同公報に記載された発明を「乙3発明」という。)ウ出願日を平成16年2月2日,国際公開日を平成16年8月26日とする特許第5192147号特許公報(乙7。以下「乙7公報」といい,当該特許を「チバ特許」といい,同公報に記載された発明を「乙7発明」という。) 2 争点(1) 被告ら製品は本件各発明の技術的範囲に属するかア構成要件C,C′の回折角の充足性イ構成要件Cの相対強度の充足性ウ構成要件Eの充足性エ構成要件Hの充足性オ構成要件Iの充 ら製品は本件各発明の技術的範囲に属するかア構成要件C,C′の回折角の充足性イ構成要件Cの相対強度の充足性ウ構成要件Eの充足性エ構成要件Hの充足性オ構成要件Iの充足性(2) 本件各特許権は特許無効審判により無効にされるべきものか【本件各特許について】アリバロ錠及び乙1文献による進歩性欠如イ乙7発明と同一発明による先願要件違反,拡大先願による公知擬制ウ乙3発明による新規性又は進歩性欠如エ明確性要件違反,サポート要件違反及び実施可能要件違反【本件方法特許について】オ補正要件違反カ分割要件違反(3) 本件各訂正による対抗主張の成否第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)ア(構成要件C,C′の回折角の充足性)について - 10 -【原告の主張】(1) 結晶形態の特定ア結晶多形本件結晶特許は,ピタバスタチンカルシウム塩に複数の結晶形態(本件各特許の明細書において結晶形態A,B,Cと呼称されているもの。以下「結晶形態A,B,C」という。)が存在するところ,水分量を特定の範囲にコントロールすることで得られる結晶形態Aが,医薬品の原薬として最も優れていることを見いだしたものであり,さらに,本件方法特許は,結晶形態Aにおける水分を維持することで,その安定性を利用するというピタバスタチンカルシウム塩の保存方法についての発明である。ピタバスタチンカルシウム塩には,本件各明細書だけでなく,乙7公報にもあるとおり,多くの結晶形が存在する。 イ粉末X線回折法による結晶の特定結晶とは,原子が規則的に三次元的に周期配列した固体物質であり,また,原子から作られた平面が平行に等間隔に配列された構造といえる。この平面群を格子面として表すことができる 線回折法による結晶の特定結晶とは,原子が規則的に三次元的に周期配列した固体物質であり,また,原子から作られた平面が平行に等間隔に配列された構造といえる。この平面群を格子面として表すことができる。格子面に入射した波長λのX線が,格子面の間隔(d)の周期的配列によって回折されるための条件は,nλ=2dsinθ(nは整数)を満たすような角θでX線が格子面に入射し鏡面反射することであり,これをブラッグの条件という。 結晶にX線を照射すると,結晶中の何れかの格子面に対してブラッグの条件を満たす角度で入射したX線から,回折X線のピークが得られ,結晶内の各格子面について,ブラッグの条件を満たすそれぞれの回折角2θに,回折X線ピークが得られることになる。もっとも,現実には,いくつかの原子が構成する他の格子面からの回折X線の影響により回折X線の強度が弱められたり,ピークが消滅したりすることがあり,また,格子面を構成する原子の種類によって回折X線の強度も変わってくるため,ブラッグの - 11 -条件を満たす回折角からの回折X線の強度は各結晶の原子の種類と配置により定まることとなり,各結晶に特有のパターンを形成する。そして,固体物質を粉末化することにより,結晶粒が様々な方向を向いて極めて多数存在することになるため,全ての格子面についてブラッグの条件を満たす方向に配向されることとなる。 したがって,この回折X線のピークが認められる回折角2θは,X線の波長λと結晶中の複数の格子面間隔dに応じて定まる,各結晶形態に固有の複数の値となる。すなわち,X線の波長λに応じた複数の回折角の一群のデータを用いれば,同じ結晶かどうかを判別できる。 ウ結晶形態Aの特定とその判断構成要件Dの「結晶」は,本件明細書1において「結晶性形態A」,「結晶形態A λに応じた複数の回折角の一群のデータを用いれば,同じ結晶かどうかを判別できる。 ウ結晶形態Aの特定とその判断構成要件Dの「結晶」は,本件明細書1において「結晶性形態A」,「結晶形態A」と説明されている特定の結晶形態を有する結晶形態Aである。 結晶形態Aは,粉末X線回折法の測定で得られるX線チャートにおいて,構成要件C,C′に規定される15個の回折角にピークを有することにより特定される。 そして,同構成要件の充足性の検討に際しては,当然,粉末X線回折法における結晶形特定の技術常識が,その前提とされるべきである。第十六改正日本薬局方(甲10)には,医薬品についてX線粉末回折測定法を用いる場合の標準的な測定方法が説明されているところ,それによれば,「同一結晶形の試料と基準となる物質との間の2θ回折角は,0.2°以内で一致する。しかしながら・・・試料と基準となる物質間の相対的強度は選択配向効果のためかなり変動することがある。・・・一般的には,単一相試料の粉末X線回折データベースに収載されている,10本以上の強度の大きな反射を測定すれば十分である。」との記載がある。このような技術常識に照らせば,X線回折法においては,ピークの同一性は,±0.2°以内であれば同一と判断し得,同一の結晶か否かは,10本のピークが確認さ - 12 -れれば十分であるといえる。そして,第十六改正日本薬局方及び「JPTI 日本薬局方技術情報2011」(甲11)にも記載があるとおり,本質的には,X線回折の全体的なパターンの一致が重要と考えられている。 (2) 回折角の測定についてア測定方法等本件各明細書には,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析法により,粉末X線回折測定装置MXLabo(株式会社マック・サイエンス製)が用いら ) 回折角の測定についてア測定方法等本件各明細書には,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析法により,粉末X線回折測定装置MXLabo(株式会社マック・サイエンス製)が用いられている。しかし,製剤からの回収残渣の測定によって製剤に含まれるピタバスタチンカルシウム原薬の結晶形態を測定するためには,通常の粉末X線回折装置のX線では強度が不十分なため,シンクロトロン放射による強力なX線を利用する必要がある。そこで,SPring-8あるいは,AichiSRという大型放射光施設を利用した(甲12及び甲59の各1,2)。 CuKα放射線の波長は1.54Åであるのに対し,前記測定では,波長が0.75Å(甲12の1,2)ないしは1.0Å(甲59の1,2)のX線を用いているが,粉末X線回折法における回折角は,ブラッグの公式に従い,入射X線の波長に対応する回折角を求めることができる。 イ測定結果等(ア) 測定対象被告ら製剤を,そのままで粉末X線回折測定すると,添加剤のピークと重なって測定できないピークが出てくる。そこで,ピタバスタチンカルシウム塩が水に極めて溶けにくく,被告ら製剤の賦形剤である乳糖は水に溶けやすいことから,ピタバスタチンカルシウム塩の飽和水溶液に被告ら製剤を粉末化して溶解することにより,水溶性の賦形剤である乳糖を取り除き,被告ら製剤の原薬及び不溶性の添加剤を含む残渣を集めたものを測定の対象とした。 - 13 -(イ) 平成26年12月17日作成に係る三和錠,杏林錠から回収した原薬(ピタバスタチンカルシウム塩)の結晶形解析(甲12の1,2)の結果被告ら製剤(各2㎎錠を5錠)から前記(ア)の方法(8mlの飽和水溶液中で30秒間攪拌した。)により得られた残渣からは,結晶形態Aのピーク ルシウム塩)の結晶形解析(甲12の1,2)の結果被告ら製剤(各2㎎錠を5錠)から前記(ア)の方法(8mlの飽和水溶液中で30秒間攪拌した。)により得られた残渣からは,結晶形態Aのピークとして構成要件C,C′に規定されている15本のピークが全て確認され,これら15本のピークは,対照試料として測定した結晶形態Aから測定されたピークの回折角と,0.03°以内という高い精度で一致している。また,本件各明細書記載のCuKα放射線でのピークからブラッグ条件で算定される0.75Å波長でのピークの回折角とも,0.05°以内という高い精度で一致している。 (ウ) 平成27年8月10日作成に係る三和錠,杏林錠から回収した各原薬(ピタバスタチンカルシウム塩)の結晶形解析(甲59の1,2。以下「甲59解析」という。)の結果被告ら製剤(各1㎎錠を20錠)から前記(ア)の方法(500mlの飽和水溶液中で2時間攪拌した。)により得られた残渣から,結晶形態Aのピークとして構成要件C,C′に規定されている15本のピークが全て確認され,これら15本のピークは,構成要件C,C′記載の15本のピークの1.0Å波長での計算値と,三和錠で0.06°以内,杏林錠で0.07°以内という高い精度で一致している。 (エ) 錠剤のままの測定被告ら製剤について,非破壊で錠剤のままシンクロトロン放射光でX線回折法の測定を行ったところ,構成要件C,C′の15本のピークのうち,10本が確認されている。これが,被告ら製剤の原薬が結晶形態Aであると同定することの妨げとなるものではない。 (3) 結論 - 14 -したがって,被告ら製剤の原薬が,構成要件C,C′の15本の回折角のピークを有する結晶形態Aであることは確実に立証されており,構成要件C,C′の回折角 はない。 (3) 結論 - 14 -したがって,被告ら製剤の原薬が,構成要件C,C′の15本の回折角のピークを有する結晶形態Aであることは確実に立証されており,構成要件C,C′の回折角の要件を充足している。 【被告らの主張】(1) 結晶形態の特定について本件明細書1においては,15本の回折ピークだけでなく,相対強度,さらには融点等の構成要件を充足するものを結晶形態Aとしているもので,構成要件C,C′の回折角の要件を満たすものが結晶形態Aであるとする原告の主張は失当である。 結晶形態Aは15本の回折ピークの一致について個別のピークごとに±0.2°の誤差が許容され,そのうち10本が一致すれば足りる旨の原告の主張は争う。原告が挙げる各文献の記載は,一部の回折ピークが一致すれば足りるというものではない。 本件結晶特許における結晶形態Aと,乙7公報における結晶形AからFのX線回折図とを比較した場合,10本以上の回折角が一致するものは複数存在することとなり,15本のピークのうち,10本が確認できただけでは,他の結晶形態との区別ができない。 ピタバスタチンカルシウム塩には,このように複数の結晶形態が存在することから,特定の結晶形態について特許を取得するには,結晶としてより明確な特定が必要であり,それ故,本件結晶特許においては,特定の15本の回折ピークを有すること,30.16°のピークの相対強度が20.68°の25%を超えること,示差走査熱量測定による融点95℃を有しないことを要件としているものであり,これらをすべて満たすものが特許された結晶である。 (2) 回折角の測定についてア測定方法等 - 15 -原告は,原薬を直接測定したものではなく,製剤を粉末化して飽和溶液にて処理し,ろ過し乾燥さ 特許された結晶である。 (2) 回折角の測定についてア測定方法等 - 15 -原告は,原薬を直接測定したものではなく,製剤を粉末化して飽和溶液にて処理し,ろ過し乾燥させた残渣を測定したものであるが,当該測定方法は,①添加剤を除去しており,錠剤中の形態をそのまま反映しているか不明である,②水中で結晶形が変化する可能性がある,③水中に飽和した状態でピタバスタチンカルシウムが存在しており,得られた結晶が被告ら製剤のものなのか,もともと水中にあったものなのかの区別が困難である,という問題点があり,被告ら製剤に含まれている原薬についての立証とはいえない。実際に,他の結晶形態に対して同様の実験を行ったところ,いずれも結晶形態が変化した(乙10)。 原告は,本件各明細書に記載しているCuKα放射線を用いた立証をしておらず,被告らが用いるシンクロトロン放射X線が,錠剤中の結晶状態を解析する手法として一般的であるとはいえないし,規定された全てのピークを同定できるともいえない。 イ測定結果原告は,15本のピークが確認できている旨主張するが,そのような事実はない。甲59解析によっても,ピークが判明できないものや(No.10,14),図面上における結晶Aと錠剤残渣のピーク位置がずれているのに,回折角の実測値データがほぼ一致しており,当該データが測定機器で正確に読み取ったものかについても疑わしい。 2 争点(1)イ(構成要件Cの相対強度の充足性)について【原告の主張】原告は,被告らが使用している原薬を入手することができていないため,実際に測定することはできないが,単結晶の結晶形態Aの構造解析により得られた結晶構造から,回折X線のピークの回折角と強度を理論的に算出したところ,20.68 る原薬を入手することができていないため,実際に測定することはできないが,単結晶の結晶形態Aの構造解析により得られた結晶構造から,回折X線のピークの回折角と強度を理論的に算出したところ,20.68°のピークに相当するものと,30.16°のピークに相当するものとの相対強度は,25.3%であった(甲15)。 - 16 -構成要件C,C′における相対強度の要件は,アモルファスとの区別を明確にするための構成要件であるから,アモルファスではない結晶形態Aについては,この相対強度の要件が充足されることが強く推認され,被告ら製剤の原薬が結晶形態Aであることは前記1【原告の主張】(2)より立証され,アモルファスでないことも明らかであるから,30.16°のピークの相対強度が25%を超えることが強く推認される。 また,ピタバスタチンカルシウムは針状形状で粒度はばらばらであり,相対強度は約13%であるのに対し,機械粉砕した場合数μmから10μm程度まで均一となり,相対強度は25%になるところ,被告ら製剤のように製剤化する場合には,製剤中に均一分散可能な程度にまで細かに機械粉砕することが必須であり,結晶形態Aの30.16°の相対強度は25%を超えるものといえる。 【被告らの主張】原告が結晶形態Aの単結晶の構造解析とする「ピタバスタチンカルシウム塩の単結晶X線構造解析と粉末X線回折」(甲15,以下「甲15解析」という。)の表2に示されたピークと本件明細書1に記載されたピークのピーク強度比は大きく異なっており,強度比が逆転しているなど,ピーク全体のパターンが異なっており,甲15解析で測定された結晶は,本件結晶特許における結晶形態Aと同じとはいえないから,原告が主張する推論は妥当しない。 3 争点(1)イ(構成要件Eの充足性)について パターンが異なっており,甲15解析で測定された結晶は,本件結晶特許における結晶形態Aと同じとはいえないから,原告が主張する推論は妥当しない。 3 争点(1)イ(構成要件Eの充足性)について【原告の主張】結晶形態Aは,約190℃以上で熱分解する。原告が製造しているピタバスタチンカルシウム原薬(本件結晶特許を充足するもの)を用いた興和の製剤であるリバロ錠のインタビューフォーム「Ⅲ.有効成分に関する項目」の「(4)融点(分解点),沸点,凝固点」には,融点を示さず分解した旨説明さ - 17 -れている(甲4)。 被告ら製剤は,リバロ錠の後発医薬品として販売されているものであるが,被告ら製剤のインタビューフォームの同項目の「(4)融点(分解点),沸点,凝固点」には「該当資料なし」と記載されており(甲7の1,2),リバロ錠と同様,融点のないものといえ,構成要件Eを充足する。 【被告らの主張】争う。原告は,結晶形態Aと乙7公報における結晶多形Aとが2θ値では実質的に同じであると主張しているから,測定条件が同じであれば,同じ融点を示すはずである。 4 争点(1)ウ(構成要件Hの充足性)について【原告の主張】ピタバスタチンカルシウム塩の結晶は,水分が4重量%以下となったところで,アモルファスに近い状態にまで結晶性が低下し,保存中の安定性が極めて悪くなり,ピタバスタチンカルシウム原薬を製剤化する製剤メーカーは,日本薬局方の規程に従って,水分量が9.0~13.0%のピタバスタチンカルシウム塩を使用しなければならないとされていることから,被告らは,別紙物件目録1及び3記載の原薬を自らの製剤に使用するまでの間,水分量を4重量%より多く15重量%以下に保持した結晶形態Aとして保存していることは しなければならないとされていることから,被告らは,別紙物件目録1及び3記載の原薬を自らの製剤に使用するまでの間,水分量を4重量%より多く15重量%以下に保持した結晶形態Aとして保存していることは明らかであるから,被告らのピタバスタチンカルシウム原薬の保存方法は,構成要件Hを充足する。 【被告らの主張】争う。原告は,構成要件Hについて何ら主張立証をしていない。 5 争点(1)エ(構成要件Iの充足性)について【原告の主張】被告らは,前記1【原告の主張】(3)のとおり,ピタバスタチンカルシウム塩を結晶形態Aとして保存しているから,構成要件Iを充足する。 - 18 -【被告らの主張】争う。 6 争点(2)(本件各特許権は特許無効審判により無効にされるべきものか)について【被告らの主張】(1) リバロ錠及び乙1文献による進歩性欠如アピタバスタチンカルシウム塩を有効成分とする「リバロ錠」は,本件優先日である平成15年12月26日前に製造販売されていた。本件優先日前である同年7月に発行された乙1文献には,「有効成分の各種条件下における安定性」についての表が記載されているところ,同表における安定性試験の結果によれば,「結晶性低下」との記載(同表「結果」欄4段目)から,リバロ錠の有効成分ピタバスタチンカルシウム塩は結晶(以下「リバロ結晶」という。)であり,また,「水分減少」,「水分増加」との記載から,リバロ結晶は一定の水分を含有しその水分量の維持が課題となっていることがわかる。さらに,「保存形態」を「ポリエチレン製アルミラミネート袋」という医療用医薬品の包装に一般に用いられるものにした場合,36か月(長期保存試験)や6か月(加速試験)でも「変化なし」と記載されていることから ,「保存形態」を「ポリエチレン製アルミラミネート袋」という医療用医薬品の包装に一般に用いられるものにした場合,36か月(長期保存試験)や6か月(加速試験)でも「変化なし」と記載されていることから,リバロ結晶は,十分安定である。そして,同表の安定性試験の条件と結果は,本件各明細書の表1との内容と一致しており,このような安定性は,結晶形態Aのみで明らかになっているものであり,リバロ結晶は結晶形態Aに他ならない。 イ平成13年4月17日付けの「審査報告(1)」(乙2の3)には,「本薬は吸湿性があり(通常の製造で得られる原薬の含水率は□%程度),さらに,粉末X線回折の結果から,本薬の含水率が□%未満に減少すると,結晶の同一性が保持されない可能性が示唆されている。本薬の晶析条件を変化させて結晶多形の有無を調べた限りでは,本薬に結晶多形の存在は認め - 19 -られなかった。」との記載があった。したがって,本件優先日には,リバロ結晶について,結晶の同一性保持のために水分量を調整する必要があること,結晶多形は存在しないと認識されていた。また,チバ特許における結晶形態A以外の結晶は,全て結晶形態Aから製造されることが示されていることからしても,リバロ錠製造開始当時に知られていた唯一の形態は結晶形態Aである。 そして,乙1文献には,「融点を示さず分解した」と記載されていることからすれば,リバロ錠は融点を示さないものである。 ウ以上のとおり,リバロ結晶は,安定な結晶形態Aであり,融点も示されないものであるが,具体的な水分量やX線回折の結果は知られていなかったとしても,それは単に測定されていないというだけであり,結晶の存在が判っていれば,その結晶を確認することは当業者が通常行うことであり,その確認方法としてX線回折によってピークを特定す れていなかったとしても,それは単に測定されていないというだけであり,結晶の存在が判っていれば,その結晶を確認することは当業者が通常行うことであり,その確認方法としてX線回折によってピークを特定することは技術常識である。 エまた,前記アのとおり,リバロ結晶がその同一性保持のために水分量をコントロールする必要があることも具体的に示されており,そればかりか,平成13年における興和の論文(乙18)には,原告から供給されたピタバスタチンカルシウム塩は約10%の水を含有している旨が記載されており,さらに,乙3公報にも「10.6%」のピタバスタチンカルシウム塩の結晶が得られることも開示されているから,本件結晶特許の規定する水分量7~10%も容易に想到できる。 オしたがって,本件各発明は,進歩性に欠け,特許法29条2項により,特許を受けることができないから,本件各特許は,同法123条1項2号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 (2) 乙7発明と同一発明による先願要件違反,拡大先願による公知擬制本件優先日である平成15年12月26日より前の優先日(同年2月12 - 20 -日)を有する乙7公報にあるチバ特許の請求項1及び請求項6に係る発明は,本件結晶特許の各構成要件を満たすものであるから同一であるといえ,本件各発明は,特許法39条1項により特許を受けることができないものである。 さらに,本件結晶特許の出願時,その出願人とチバ特許の出願人は異なり,また,両出願の発明者が異なるものであるから,特許法29条の2により特許を受けることができないものである。 したがって,本件各特許は,いずれにしても,同法123条1項2号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 (3) 乙3発明による より特許を受けることができないものである。 したがって,本件各特許は,いずれにしても,同法123条1項2号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 (3) 乙3発明による新規性又は進歩性欠如本件優先日より前である平成15年8月7日に頒布された国際公開公報及びそれに対応する国内の公表特許公報である乙3公報の段落【0136】の記載によれば,乙3発明は,本件結晶発明1の構成要件Bにおいて一致し,「結晶」であることも明らかである(構成要件D)。 また,同段落に記載された内容に則ってピタバスタチンカルシウムを合成し,得られた化合物の結晶形態を確認した実験結果(乙6)によれば,同実験により得られた結晶は,いずれも,粉末X線回折における2θが±0.2°の範囲で結晶形態Aと一致し,30.16°のピークの相対強度がいずれも25%以上であること,また,95℃付近には融点がないことが認められるから,本件結晶発明は,乙3発明と同一,あるいは,少なくとも乙3発明と技術常識に基づいて当業者が容易に発明できたものである。 したがって,本件各発明は,新規性ないしは進歩性を欠き,特許法29条1項3号又は同条2項により,特許を受けることができないから,同法123条1項2号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 (4) 明確性要件違反,サポート要件違反及び実施可能要件違反本件各明細書には,「融点」の定義がなく,かつ,どのような条件で示唆 - 21 -走査熱量測定をすれば良いのかの記載もないことから,示唆走査熱量測定による融点95℃を有しないことは不明確である。また,本件各明細書には,チバ特許における示唆走査熱量測定条件において95℃に融点を認めなかったことがサポートされていない。 さらに,「示唆走査熱 定による融点95℃を有しないことは不明確である。また,本件各明細書には,チバ特許における示唆走査熱量測定条件において95℃に融点を認めなかったことがサポートされていない。 さらに,「示唆走査熱量測定による融点95℃を有しないこと」は,実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 したがって,本件各特許の特許請求の範囲の記載は,特許法第36条6項1号及び2号,並びに同条4項1号に規定する要件に違反するから,本件各特許は,同法123条1項4号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきである。 (5) 補正要件違反ア本件方法特許の出願当初の特許請求の範囲(乙5の1の3)における請求項1に記載された発明は,次のとおりであった。 「【請求項1】式(1) 【省略】で表されるピタバスタチンカルシウム塩の保存方法であり,7~15%の水分を含み,CuKα 放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有する結晶形態にて保存する方法。」イまた,本件方法特許の出願当初の明細書(乙5の1の2)の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載があった。 - 22 -「本発明者らは,・・・水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬 2 -「本発明者らは,・・・水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,本発明を完成させた。」(【0011】)「即ち,本発明は,下記の要旨を有するものである。 1.式(1)」(【0012】)「(省略)で表される化合物であり,・・・30.16°の回折角(2θ)に,相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」(【0013】)ウその後,本件方法特許は,平成24年9月27日付け手続補正書による補正(乙5の2),同年11月28日付け手続補正書による補正(乙5の4の2),平成25年3月8日付け手続補正書による補正(乙5の6の2)を経て,現在の特許請求の範囲の記載に至っている。 しかし,その結果,出願時に記載のあった相対強度の要件は,いずれの補正でも削除されており,この点で,本件方法特許の請求項1に記載の発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において補正されたものとはいえない。 したがって,本件方法特許は,特許法17条の2第3項に規定する要件に違反した補正をした特許出願に対してされたものであるから,同法123条1項1号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 (6) 分割要件違反前記(5)の本件方法特許に係る補正が適法であったとしても,補正後の請求項1では,相対強度の要件が削除されており(構成要件C′),構成要件Cにおいて規定されていた相対強度の要件を満たさないものを発明の対象に含 - 23 -んでいる。 ところが,分割前の原出願である本件結晶特許の特許請求の範囲及 ており(構成要件C′),構成要件Cにおいて規定されていた相対強度の要件を満たさないものを発明の対象に含 - 23 -んでいる。 ところが,分割前の原出願である本件結晶特許の特許請求の範囲及び明細書の記載は,相対強度を不可欠の要件としている。 したがって,本件方法特許の分割出願は,特許法44条1項の分割要件を満たさないものであって,同条2項の適用がないから,分割出願日(平成23年11月29日)を基準として特許性が判断されるところ,同時点では,原出願の公表特許公報(乙4の2。特表2007-516952号公報,公表日平成19年6月28日)が公開されており,本件方法特許の内容が開示されている。 したがって,本件方法特許は,新規性又は進歩性を欠く発明に対し,特許法29条1項3号又は同条2項に違反してされたものであるから,同法123条1項2号該当を理由として特許無効審判により無効とされるべきものである。 【原告の主張】(1) リバロ錠及び乙1文献による進歩性欠如乙1文献においてピタバスタチンカルシウムの構造式,分子式,分子量,化学名が記載されているが,水和物結晶として記載されているものではない。 被告らが指摘する記載によりピタバスタチンカルシウムの原薬が結晶性を有することは一応推測できるが,どのような点で結晶性なのかを知ることはできない。乙1文献の結晶への言及から,結晶形態Aを想定することは誤りである。しかも,リバロ錠には,粉末X線回折チャート上に結晶形態Aのピークが全く現れず(甲48),また,放射光を用いる粉末X線回折装置(Spring8及びAichiSR)を用いて測定したが,「リバロ」2㎎において結晶形態Aに由来するピークは認められなかった(甲57)。リバロ錠及び乙1文献から,リバロ錠に使用されていたピタバスタチ Spring8及びAichiSR)を用いて測定したが,「リバロ」2㎎において結晶形態Aに由来するピークは認められなかった(甲57)。リバロ錠及び乙1文献から,リバロ錠に使用されていたピタバスタチンカルシウムが結晶形態Aであったことを知ることは全く不可能であったし,どのような液 - 24 -体であるかを知ることはできなかった。 また,被告らの指摘する乙2の3には,「結晶の同一性が保持されない可能性が示唆されている」と記載されるにとどまり,リバロ錠の原薬が具体的にどのような結晶形態であったのか,その水分量がどの程度あれば結晶の同一性が保たれるのかは何も記載されていない。まして本件各特許の対象物である結晶形態Aについて水分量をある範囲に保てば安定の保存が可能であることなど,記載も示唆もされていない。本件方法特許の保存方法は,結晶形態Aを発見し,その保存安定性と含水量という性質を見いだして初めて明らかになるものである。したがって,本件結晶特許の各無効理由が本件方法特許にも同様に該当するという被告らの主張は,その前提を欠いており誤りである。 (2) 乙7発明と同一発明による先願要件違反,拡大先願による公知擬制乙7発明に記載されているチバ特許の請求項1には,粉末X線回折におけるピークと水分量が記載されているだけであって,「結晶多形A」として記載されている物を取得する方法はまったく記載されていない。本件結晶特許における結晶形態Aとチバ特許の結晶多形Aは,構成要件C,C′の15本の回折角にピークが確認される点は同じであるが,チバ特許の請求項1では,30.2°付近のピークが25%より大きいことは記載されていない。乙7公報において結晶多形Aの製造方法を記載しているのは段落【0045】の実施例の記載のみであるところ,同実施例を検討すると, では,30.2°付近のピークが25%より大きいことは記載されていない。乙7公報において結晶多形Aの製造方法を記載しているのは段落【0045】の実施例の記載のみであるところ,同実施例を検討すると,「示差走査熱量測定は,95℃の融点を明らかにした。」と明記されている以上,95℃の融点を有する結晶であると理解せざるを得ない,そうである以上,乙7公報に記載されたチバ特許の結晶多形Aは,「95℃の融点」を有しないことを要件とする本件各発明の結晶形態Aと,同一性が認められない。 (3) 乙3公報による新規性及び進歩性欠如 - 25 -乙3公報には,ピタバスタチンカルシウム塩を「10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末」として得るとの記載があるが,この「白色結晶性粉末」がどのような性状のものかについて具体的な記載は存在せず,また,水がどのような状態で含まれているのかも不明である。 被告らは,乙3公報に記載されているピタバスタチンカルシウムの製造方法の追試実験結果(乙6)においては,乙3公報に記載されている粉末X線回折データ及び水分量は本件結晶発明のものと一致しているが,同実験は,乙3公報に明示されていない反応条件を結晶形態Aが得られるように選定したものであって,乙3公報の実施例を再現する実験ではなく,適切ではない。 (4) 明確性要件違反,サポート要件違反及び実施可能要件違反示唆走査熱量測定による融点の測定方法は周知技術であるから,明細書の記載は不明確ではないし,サポートもされている。 (5) 補正要件違反本件方法特許の出願審査段階において,特許庁は,相対強度要件を削除した点については,補正要件違反であるとの指摘を全く行っていない。 「元来,結晶の特定(差異)は,結晶格子の構造を反映する,X線粉末 件方法特許の出願審査段階において,特許庁は,相対強度要件を削除した点については,補正要件違反であるとの指摘を全く行っていない。 「元来,結晶の特定(差異)は,結晶格子の構造を反映する,X線粉末回折における回折角(2θ)のピーク位置(パターン)で規定すれば十分でありますので,結晶の保存方法を対象とする本願発明においては,X線粉末回折における回折角(2θ)の15本のピークを有し,かつ7~13重量%の水分の記載をもって十分足りるものと思量します。」との原告の意見(乙5の6の1)を特許庁も技術常識と認めたものである。 そして,粉末X線回折法による結晶形特定の技術常識としては,結晶の同一性につき,10本程度のピークの2θ値を規定すれば十分であり,そのピークの同一性(0.2°以内で一致する。)が確認されれば,資料の結晶形の特定には十分である。また,回折ピークの強度については,第十六改正日本薬局方(甲11)には,装置のバラツキ,配向の影響を大きく受ける旨記載 - 26 -されており,相対強度はバラツキが大きいため,結晶形の特定に際しては,ピークの位置(2θ値)によるピークの特定が重要であり,相対強度は二次的な要素にすぎない。 したがって,補正により,本件保存方法特許の保存方法が実施例の結晶とは30.16°付近の相対強度が異なる状態の結晶形態Aにも適用されるようにすることは,明細書の記載と技術常識により当業者が容易に理解できることであり,新規事項は導入されていない。 (6) 分割要件違反前記(5)に記載のとおり,結晶形の特定に重要なのはピーク位置であり,例えば,10本以上のピーク位置が特定されれば結晶形の同定は十分に可能であるというのが技術常識である。 他方,同一の結晶形においても,例えば,結晶粒子の大きさなどの外見形 要なのはピーク位置であり,例えば,10本以上のピーク位置が特定されれば結晶形の同定は十分に可能であるというのが技術常識である。 他方,同一の結晶形においても,例えば,結晶粒子の大きさなどの外見形状が相違することにより,ピークの相対強度が変動するもので,そして未粉砕で「30.16°のピーク強度が25%を下回る」結晶粒子の状態において,粉砕品より安定性が劣る理由はないから,このような未粉砕の結晶粒子にも本件保存方法が同様に適用できることは,当業者に容易に理解できる。 したがって,相対強度の要件を満たさない結晶に対する本件保存方法の適用についても,分割前の原出願特許請求の範囲及び明細書の記載に含まれていると当業者は理解できるのであり,分割要件違反などない。 7 争点(3)(本件各訂正による対抗主張の成否)について【原告の主張】(1) 本件訂正1について本件訂正1の訂正請求に関する平成27年3月27日付けでされた審決における訂正要件違反の認定判断は誤りであり,本件訂正1の請求は適法であり,同訂正により,本件結晶特許に無効事由は解消され,被告ら製剤は,本件訂正1の後の特許請求の範囲の請求項1及び同2に記載された発明の技術 - 27 -的範囲に属する。 (2) 本件訂正2について本件訂正2の訂正請求は適法であり,同訂正により,本件方法特許についてされた特許無効審判請求事件(無効2014-800099)における審決予告において予告された無効理由が解消され,被告ら製剤の保存方法は,本件訂正2の後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の技術的範囲に属する。 【被告の主張】(1) 本件訂正1について本件訂正1は,訂正要件に違反する。また,仮に訂正が適法であるとしても,本件訂正発明1は,乙 に記載された発明の技術的範囲に属する。 【被告の主張】(1) 本件訂正1について本件訂正1は,訂正要件に違反する。また,仮に訂正が適法であるとしても,本件訂正発明1は,乙3発明により進歩性を欠く無効理由がある。 (2) 本件訂正2について本件訂正2による訂正後も,本件訂正発明2は,乙3発明により進歩性を欠く無効理由がある。 第4 当裁判所の判断 1 争点(1)ア(構成要件C,C′の回折角の充足性)(1) 本件各明細書の記載ア本件明細書1には,次の記載がある。 【技術分野】【0001】本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な,化学名 Monocalciumbis[(3R,5S,6E)-7-(2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl)-3,5-dihydroxy-6-heptenoate]によって知られている結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩及びこの該化合物と医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組 - 28 -成物に関するものである。 【0002】詳細には,5~15%(W/W)の水分を含有することを特徴とし,安定性などの面から医薬品原薬として有用な結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩及びそれを含む医薬組成物に関する。 【背景技術】【0003】ピタバスタチンカルシウム(特許文献1,2及び3参照。)は抗高脂血症治療薬として上市されており,その製造法としては,光学活性α-メチルベンルアミンを用いて光学分割する製造法(特許文献4及び非特許文献1参照。)が既に報告されている。 【発明が解決しようとする課題】【0008】医薬品の原薬としては,高品質及び保存上から安定な結晶性形態 を用いて光学分割する製造法(特許文献4及び非特許文献1参照。)が既に報告されている。 【発明が解決しようとする課題】【0008】医薬品の原薬としては,高品質及び保存上から安定な結晶性形態を有することが望ましく,さらに大規模な製造にも耐えられることが要求される。 ところが,従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては,水分値や結晶形に関する記載が全くない。本発明のピタバスタチンカルシウム塩の結晶(以下,結晶性形態Aともいう。)に,一般的に行なわれるような乾燥を実施すると,乾燥前は,図1で示すような粉末X線回折図示したものが,水分が4%以下になったところで図2に示すようにアモルファスに近い状態まで結晶性が低下することが判明した。さらに,アモルファス化したピタバスタチンカルシウムは表1に示す如く,保存中の安定性が極めて悪くなることも明らかとなった。 【0009】(別紙本件明細書1図表目録記載1のとおり)本発明が解決しようとする課題は,特別な貯蔵条件でなくとも安定な - 29 -ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬を提供することであり,さらに工業的大量製造を可能にすることである。 【課題を解決するための手段】【0010】本発明者らは,水分と原薬安定性の相関について鋭意検討を行なった結果,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見出した。さらに,水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,本発明を完成させた。 【0014】結晶形態A以外の2種類を結晶形態B及び結晶形態Cと略記するが, 図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,本発明を完成させた。 【0014】結晶形態A以外の2種類を結晶形態B及び結晶形態Cと略記するが,これらはいずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しないことから,結晶多形であることが明らかにされる。これらは,ろ過性が悪く,厳密な乾燥条件が必要であり(乾燥中の結晶形転移),NaClなどの無機物が混入する危険性を有し,更に結晶形制御の再現性が必ずしも得られないことが明らかであった。したがって,工業的製造法の観点からは欠点が多く,医薬品の原薬としては結晶形態Aが最も優れている。 【発明を実施するための最良の形態】【0016】結晶性形態Aのピタバスタチンカルシウムは,その粉末X線回折パターンによって特徴付けることができる。 (別紙本件明細書1図表目録記載2のとおり)以下略【0033】 - 30 -反応混合物を減圧下に蒸留して溶媒を留去し,52.2kgのエタノール/水を除去後,内温を10~20℃に調整した。得られた濃縮液中に,別途調製しておいた塩化カルシウム水溶液(95%CaCl2 775g/水39.3kg,6.63mol)を2時間かけて滴下した。全量の塩化カルシウム水溶液を反応系に送り込むため,4.70kgの水を使用した。滴下終了後,同温度で12時間撹拌を継続し,析出した結晶を濾取した。結晶を72.3kgの水で洗浄後,乾燥器内で減圧下40℃にて,品温に注意しながら,水分値が10%になるまで乾燥することにより,2.80kg(収率95%)のピタバスタチンカルシウムを白色の結晶として得た。 粉末X線回折を測定して,この結晶が結晶形態Aであることを確認した。 イ本件 %になるまで乾燥することにより,2.80kg(収率95%)のピタバスタチンカルシウムを白色の結晶として得た。 粉末X線回折を測定して,この結晶が結晶形態Aであることを確認した。 イ本件明細書2の記載本件明細書2の発明の詳細な説明には,次の記載がある(ただし,その原出願に係る本件明細書1の記載と共通するため,前記アの記載と重複しないものについて記載する。)【技術分野】【0001】本発明は,HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な,化学名 Monocalciumbis[(3R,5S,6E)-7-(2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl)-3,5-dihydroxy-6-heptenoate] によって知られている結晶性形態のピタバスタチンカルシウム塩を特別な貯蔵条件でなくとも長期間にわたって安定して保存する方法に関するものである。 【発明が解決しようとする課題】【0008】医薬品の原薬としては,高品質及び保存上から安定な結晶性形態を有す - 31 -ることが望ましく,さらに大規模な製造にも耐えられることが要求される。 ところが,従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては,水分値や結晶形に関する記載が全くない。 本発明が解決しようとする課題は,特別な貯蔵条件でなくとも,ピタバスタチンカルシウムの結晶性原薬を安定的に保存する方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】【0009】本発明者らは,水分と原薬安定性の相関について鋭意検討を行なった結果,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見出した。さらに,水分が同等で結晶形が異なる形態 関について鋭意検討を行なった結果,原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることで,ピタバスタチンカルシウムの安定性が格段に向上することを見出した。さらに,水分が同等で結晶形が異なる形態を3種類見出し,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見出し,この結晶性原薬を安定的に保存する方法として,本発明を完成させた。 【0010】即ち,本発明は,下記の要旨を有するものである。 【0011】1. CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°,13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°,27.00°及び30.16°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ7重量%~13重量%の水分を含む,式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩(但し,示差走査熱量測定による融点95℃を有するものを除く)を,その含有水分が4重量%より多く,かつ15重量%以下,15重量%以下の量に維持することを特徴とするピタバスタ - 32 -チンカルシウム塩の保存方法。 【0025】析出した結晶を濾過し,乾燥するが,水分の調整が本発明において極めて重要である。 乾燥温度は特に限定されないが,好ましくは15~40℃の範囲である。 水分値は,最終的に5~15%(W/W)の範囲になるよう調整されるが,好ましくは7~15%(W/W),より好ましくは7~13%(W/W),最も好ましくは9~13%(W/W)の範囲である。 得られたピタバスタチンカルシウムは粉砕された後,医薬品用の原薬として使用される。 【産業上の利用 W/W),より好ましくは7~13%(W/W),最も好ましくは9~13%(W/W)の範囲である。 得られたピタバスタチンカルシウムは粉砕された後,医薬品用の原薬として使用される。 【産業上の利用可能性】【0037】本発明により,ピタバスタチンカルシウム塩を特別な貯蔵条件でなくとも長期間にわたって安定して保存する方法が提供される。 (2) 本件各特許の出願経過後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア本件結晶特許の出願当初の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりであった。 「式(1)で表される化合物であり,5~15%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,30.16°の回折角(2θ)に,相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」(乙4の1の2)イ本件結晶特許に係る出願(特願2006-520594号)に対し,平成23年4月4日付けで,出願に係る発明は,特願2006-501997号(特表2006-518354号,のちに特許第5192147号,チバ特許として特許登録されたもの。乙7)の当初明細書(以下「チバ特 - 33 -許明細書」という。),乙3公報により,特許法29条1項,2項,同法29の2に違反するとの拒絶理由通知がされた(乙4の3)。 ウ原告は,平成23年11月29日付けの補正書で,特許請求の範囲の請求項1に,15本のピークの回折角の数値(構成要件Cの数値)を挿入する補正を行った。原告は,同日付け意見書において,当該補正は限定適減縮にあたり,拒絶理由の,粉末X線回折図における1点のみのピーク強度(30.16°の回折角2θ)による特定であるという認定にはもはや該当しない旨主張した ,同日付け意見書において,当該補正は限定適減縮にあたり,拒絶理由の,粉末X線回折図における1点のみのピーク強度(30.16°の回折角2θ)による特定であるという認定にはもはや該当しない旨主張した。他方,当該意見書において,本願に係る回折角の数値について一定の誤差が許容されることや上記15本のピークの一部のみの対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載はない。(乙4の6の1,2)エ原告は,本件結晶特許の特許請求の範囲の請求項1につき前記ウの補正を行った同日,本件結晶特許に係る出願を原出願とする分割出願(請求項4)を行った。同出願における請求項1が本件方法特許の出願当初のものであり,その記載は,次のとおりであった(他の請求項も請求項1を引用している。)。 「式(1)で表されるピタバスタチンカルシウム塩の保存方法であり,7~15%の水分を含み,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,4.96°,6.72°,9.08°,10.40°,10.88°13.20°,13.60°,13.96°,18.32°,20.68°,21.52°,23.64°,24.12°及び27.00°の回折角(2θ)にピークを有し,かつ,30.16°の回折角(2θ)に,20.68°の回折角(2θ)のピーク強度を100%とした場合の相対強度が25%より大きなピークを有する結晶形態にて保存する方法。」(乙5の1の1ないし5)オ原告は,平成24年9月27日付け補正書を提出したが,同年10月2 - 34 -4日付けで拒絶理由通知がされたため,平成24年11月28日付け手続補正書により補正を行ったが,平成25年1月25日付けで,出願に係る発明は,前記イに記載の文献により特許法29条1項,2項,29条の2に違反する旨の拒絶理由通知 ため,平成24年11月28日付け手続補正書により補正を行ったが,平成25年1月25日付けで,出願に係る発明は,前記イに記載の文献により特許法29条1項,2項,29条の2に違反する旨の拒絶理由通知がされた。(乙5の2,乙5の3,乙5の4の2,乙5の5)カ原告は,平成25年3月8日付けの補正書により,本件方法特許の特許請求の範囲の請求項1に,15本のピークの回折角の数値(構成要件C′の数値)を挿入するなどの補正をした。原告は,同日付けの意見書において,請求項1の補正は,補正前の請求項12に記載されていた要件であるX線粉末解析における15本のピーク位置を挿入するものであり,特許請求の範囲の限定的減縮に相当することから,許容されるものと思量されると主張した。他方で,同意見書には,本願に係る回折角の数値について一定の誤差が許容されることや15本のピークの一部のみの対比によって発明が特定されることをうかがわせる記載はない。(乙5の6の1,2)(3) ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態ピタバスタチンカルシウム塩の結晶形態は,様々なものがあり,本件明細書1には結晶形態AないしC,チバ特許明細書には結晶形態AないしFの記載があるが,これ以外の結晶形態も存在し得る。(甲2,乙7)(4) 判断以上の事実を前提に,構成要件C,C′の回折角の充足性について検討する。 ア本件各発明の構成要件C,C′においては,小数点以下2桁まで規定された回折角により15本のピークが特定されており,本件各発明の特許請求の範囲には,回折角の数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,15本のピークの一部のみによって特定が可能である旨の記載はない。 また,本件明細書1の発明の詳細な説明には,本件結晶発明1は,ピタ - 35 -バ 数値に一定の誤差が許容される旨の記載や,15本のピークの一部のみによって特定が可能である旨の記載はない。 また,本件明細書1の発明の詳細な説明には,本件結晶発明1は,ピタ - 35 -バスタチンカルシウム原薬に含まれる水分量を特定の範囲にコントロールすることでその安定性が格段に向上すること,水分が同等で結晶形が異なる形態が3種類あること(結晶形態A,B,C)を見いだし,その中で,CuKα放射線を使用して測定した粉末X線回折図によって特徴づけられる結晶(結晶性形態A)が,最も医薬品の原薬として好ましいことを見いだし,さらに,結晶形態B及び結晶形態Cは,いずれも結晶形態Aに特徴的な回折角10.40°,13.20°及び30.16°のピークが存在しないことにより,結晶形態Aとは異なる結晶多形であることが明らかとされる(本件明細書1【0010】,【0014】,本件明細書2【0009】,【0015】)。 そして,本件各明細書中には,結晶形態Aが構成要件C,C′に小数点以下2桁まで規定される15本の回折角の粉末X線回折パターンによって特徴づけられるとするほかに,結晶形態Aを特定する記載はなく(本件明細書1【0008】,【0010】,【0016】,【0033】参照,本件明細書2においても同様である。甲2の1,2),回折角の数値に一定範囲の誤差が許容される旨の記載や,15本のピークの一部のみによって結晶形態Aを特定可能であることをうかがわせる記載は見当たらない。 イこのような,特許請求の範囲及び明細書の記載によれば,本件各発明の技術的範囲に属するというためには,構成要件C,C′に規定された15本のピーク全てについて回折角の数値が小数点以下2桁まで一致することを要すると解すべきである。 そうすると,被告ら製剤が使用する 囲に属するというためには,構成要件C,C′に規定された15本のピーク全てについて回折角の数値が小数点以下2桁まで一致することを要すると解すべきである。 そうすると,被告ら製剤が使用する原薬に含まれるピタバスタチンカルシウム塩における15本のピークの回折角(2θ)は,別紙物件目録1及び別紙物件目録3記載のとおりである旨の原告主張を前提としても,三和錠においてはそのうち12本のピークの数値が,杏林錠においてはそのうち11本のピークの数値が,いずれも構成要件C,C′の回折角の数値と - 36 -小数点第2位まで一致しているわけではないから(甲12の1,2),構成要件C,C′を充足せず,したがって,この原薬に含まれるピタバスタチンカルシウム塩を含有する被告ら製剤についても構成要件C,C′を充足しないことになる。 ウこの点,原告は,本件各発明における「結晶」は,結晶形態Aであり,本件各発明の構成要件C,C′は結晶形態Aを特定するために規定された要素であるとし,これを前提に,構成要件C,C′は,結晶形態AとのX線回折法によるピークの同一性だけでなく,本質的なX線回折の全体的パターンの一致を重視して,判断すべきである旨,また,「第十六改正日本薬局方」(甲10),「JPTI 日本薬局方技術情報2011」(甲11)の記載から,X線回折法によるピークの同一性については実測値が規定数値の±0.2°以内であればこれを肯定し,結晶形態の同一性については10本のピークが確認されれば十分であることが当業者の技術常識であり,それゆえ,結晶形態Aを特定する構成要件C,C′の充足性を判断するに際してもこのような技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する。 しかし,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記前提事実記載のとおりであり,「結晶 する構成要件C,C′の充足性を判断するに際してもこのような技術常識を踏まえて解釈されるべきである旨主張する。 しかし,本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記前提事実記載のとおりであり,「結晶形態A」との記載はなく,また,前記(1)発明の詳細な説明によっても,結晶形態Aとの同一性は構成要件C,C′の回折角の数値が全て一致するか否かにより判定すべきものと解されるから,「結晶形態A」という特許請求の範囲の記載から離れた上位概念を用いて本件各発明の技術的範囲を定めるべきとする原告の前提とする主張は明らかに失当である。また,15本のピークの完全な一致が必ずしも必要でない趣旨をいわんとする後者の主張についてみても,確かに他の粉末X線回折測定の回折角の数値により結晶形態を特定した医薬化合物の発明の明細書においては,ピークの回折角に±0.15,+0.04,±0.1~0.2の誤差が - 37 -生じうる旨の記載があるものもあるが(甲34の3,5,7),規定数値の±0.2°以内であれば誤差として同一性を肯定し得ることが当業者の常識であったとまでは認められないし,そもそも本件各明細書の特許請求の範囲や明細書には回折角の数値に一定範囲の誤差が許容される旨の記載や,15本のピークの一部のみによって特定が可能である旨の記載が見当たらないことも前記認定のとおりであることからすれば,これらの原告の主張は,特許請求の範囲や明細書の記載を離れて特許発明の技術的範囲を定めるよう求めるものといえ,採用することはできない。 2 結論以上によると,別紙物件目録1及び同3記載の原薬及びこれらを含む被告ら製剤は,本件結晶発明及び本件方法発明の技術的範囲に属するとは認められないから,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 よ 1及び同3記載の原薬及びこれらを含む被告ら製剤は,本件結晶発明及び本件方法発明の技術的範囲に属するとは認められないから,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。 よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 裁判官田原美奈子 - 38 - 裁判官大川潤子 - 39 -(別紙)物件目録1 放射光粉末回折法(0.75Å放射線使用)において,下記回折角(括弧内にCuKα放射線における粉末回折法の場合の対応する回折角を示す)にピークの認められるピタバスタチンカルシウム原薬2.42°(4.98°)3.29°(6.77°)4.41°(9.07°)5.06°(10.41°)5.30°(10.91°)6.44°(13.26°)6.62°(13.63°)6.80°(14.01°)8.93°(18.42°)10.05°(20.75°)10.47°(21.62°)11.42°(23.60°)11.67°(24.13°)13.04°(27.00°)14.55°(30.18°) - 40 -(別紙)物件目録2 下記商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「三和」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「三和」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「三和」 - 41 -(別紙)物件目録3 放射光粉末回折法(0.75Å放射線使用)において,下記回折角(括弧 タチンCa錠2mg「三和」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「三和」 - 41 -(別紙)物件目録3 放射光粉末回折法(0.75Å放射線使用)において,下記回折角(括弧内にCuKα放射線における粉末回折法の場合の対応する回折角を示す)にピークの認められるピタバスタチンカルシウム原薬2.41°(4.96°)3.29°(6.77°)4.40°(9.05°)5.06°(10.41°)5.29°(10.89°)6.43°(13.24°)6.62°(13.63°)6.80°(14.01°)8.92°(18.40°)10.02°(20.68°)10.45°(21.58°)11.45°(23.67°)11.67°(24.13°)13.02°(26.96°)14.52°(30.11°) - 42 -(別紙)物件目録4 下記商品名のピタバスタチンカルシウム製剤(1) ピタバスタチンCa錠1mg「杏林」(2) ピタバスタチンCa錠2mg「杏林」(3) ピタバスタチンCa錠4mg「杏林」 - 43 -(別紙)本件明細書1図表目録 ────────────────────────────────回折角(2θ) d-面間隔相対強度(°) (>25%)────────────────────────────────4.96 17.7999 35.96.72 13.1423 55.19.08 9.7314 33.310.40 8.4991 7999 35.96.72 13.1423 55.19.08 9.7314 33.310.40 8.4991 34.810.88 8.1248 27.313.20 6.7020 27.8 - 44 -13.60 6.5053 48.813.96 6.3387 60.018.32 4.8386 56.720.68 4.2915 100.021.52 4.1259 57.423.64 3.7604 41.324.12 3.6866 45.027.00 3.2996 28.530.16 2.9607 30.6────────────────────────────────

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