平成23(ネ)10081 不当利得金返還請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成24年10月30日 知的財産高等裁判所 3部 判決 控訴棄却 大阪地方裁判所 平成22(ワ)3846
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判決文本文14,082 文字)

平成24年10月30日判決言渡 平成23年(ネ)第10081号不当利得金返還請求控訴事件(原審大阪地方裁判所平成22年(ワ)第3846号) 平成24年8月28日口頭弁論終結判決 控訴人(パナソニック電工株式会社訴訟承継人) パナソニック株式会社 訴訟代理人弁護士 岩坪哲 同速見禎祥 被控訴人 アライドテレシス株式会社 訴訟代理人弁護士 菅尋史 同上田有美 同深津拓寛 補佐人弁理士 細田益稔 同石井総 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成22年3月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要及び当事者の主張等 1 事案の概要 控訴人を「原告」と,被控訴人を「被告」という。原審において用いられた略語は,当審においてもそのまま用いる。なお,原告は,平成24年1月1日,吸収合併により,第1審原告パナソニック電工株式会社の権利義務を包括的に承継した。 原審の経緯は,以下のとおりである。 原告は,発明の名称を「送受信線切替器」とする本件特許権(特許第2530771号)を有して り,第1審原告パナソニック電工株式会社の権利義務を包括的に承継した。 原審の経緯は,以下のとおりである。 原告は,発明の名称を「送受信線切替器」とする本件特許権(特許第2530771号)を有しているところ,被告及び被告が吸収合併した株式会社コレガの製造・販売したスイッチングハブ,ルータ,アクセスポイント,LANアダプタ(被告製品)が,本件特許権を侵害したとして,不当利得に基づき,被告に対し,実施料相当額の利得金16億2386万円のうち1億円の支払を求めた。これに対し,被告は,被告製品は本件特許発明(本件特許権の特許請求の範囲の請求項1に係る発明)の技術的範囲に属さない,本件特許は進歩性の欠如又はサポート要件違反により特許無効審判で無効とされるべきものである,と主張して,これを争った。 原判決は,被告製品は,本件特許発明の構成要件を文言上充足せず,本件特許発明と均等なものということもできないとして,原告の請求を棄却した。これに対し,原告は,原判決の取消しを求めて,本件控訴を提起した。 2 前提事実原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」,「1 前提事実」(原判決2頁8行目ないし6頁14行目)記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点及び当事者の主張次のとおり,付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」,「3 争点」(原判決7頁3行目ないし20行目)及び「第3 争点に係る 当事者の主張」(原判決7頁21行目ないし30頁22行目)記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決9頁13行目の後に,行を改めて,次のとおり付加する。 「そもそも,本件明細書によれば,本件特許発明における『信号線を切り替える切替制御部』とは,リンクテストパルスが検出された信号線を送信線と判断し,こ 3行目の後に,行を改めて,次のとおり付加する。 「そもそも,本件明細書によれば,本件特許発明における『信号線を切り替える切替制御部』とは,リンクテストパルスが検出された信号線を送信線と判断し,この送信線の受信端子(受信器)への電気的接続を自動的に選択することを意味するものであり,物理的配線の切替えに限定されるものではなく,ランダムに遷移されるストレート結線(MDIモード)とクロス結線(MDI-Xモード)との間の遷移状態を,リンクテストパルスの検出を機に,リンクテストパルスを検出したツイストペア線を送信線と判断することで停止し,ストレート結線又はクロス結線を選択決定して正常な信号伝送を行うことを含む。 また,被告製品に採用されているIEEE802.3規格1000BASE-TのオプションであるMDI/MDI-X自動切替は,本件明細書に接した当業者が採用すべき必然的形態の1つといえる。すなわち,LAN機器は,他機から送信されるリンクテストパルスを検出するほかに,他機に対してリンクテストパルスを送信する必要があるが,自機から送信するリンクテストパルスと他機から受信したリンクテストパルスが,同一のリンクテストパルス検出手段を通過すると,通常の検出器ではどちらのリンクテストパルスであるかを判別することはできない。そして,本件特許発明において,信号線切替制御部の内部は,他機との接続の有無に関わらず,ストレート結線又はクロス結線のいずれかで結線されているのは当然であるところ,他機との接続に先立って,上記信号線切替制御部内の結線をストレート結線とクロス結線で遷移させることは,本件明細書に接した当業者が採用すべき必然的形態の1つにすぎず,本件特許発明の信号線切替手段の実施形態に含まれる。 さらに,被告ホームページ(甲3の1),被告製品取扱説明書(甲6) 遷移させることは,本件明細書に接した当業者が採用すべき必然的形態の1つにすぎず,本件特許発明の信号線切替手段の実施形態に含まれる。 さらに,被告ホームページ(甲3の1),被告製品取扱説明書(甲6),ロジステック株式会社製品取扱説明書(甲36),『コレガ』部門の製品紹介ホームページ(甲37),IT用語事典(甲38)によれば,当業者において,MDI/MDI-X自 動切替とは,MDIモードとMDI-Xモードとの間の単なる遷移ではなく,どちらかの結線状態を選択して接続することを意味している。 なお,被告は,被告製品はリンクテストパルスの検出前に信号線の接続が行われていると主張する。しかし,本件特許発明における『正しい接続』とは,リンクテストパルスの検出を機に,リンクテストパルスが検出された側のツイストペア線を送信線と判断して受信器に接続し,リンクテストパルスが検出されない側のツイストペア線を受信線と判断して送信器に接続する,信号伝送可能状態のことであるから,MDIモードとMDI-Xモードとの間のランダム遷移が行われているリンクテストパルス未検出の状態は『正しい接続』とはいえず,被告の上記主張は,失当である。 以上からすれば,被告製品に採用されている自動MDI/MDI-X構成は,本件特許発明の構成要件C①ないし③を充足する。」(2) 原判決11頁16行目の後に,行を改めて,次のとおり付加する。 「原告は,本件特許発明における『信号線を切り替える切替制御部』とは,リンクテストパルスが検出された信号線を送信線と判断し,この送信線の受信端子(受信器)への電気的接続を自動的に選択することを意味するものであると主張するが,『切り替える』と『選択』では,全く意味が異なるし,本件明細書の記載によっても『切り替える』を『選択』と解釈することはできな 器)への電気的接続を自動的に選択することを意味するものであると主張するが,『切り替える』と『選択』では,全く意味が異なるし,本件明細書の記載によっても『切り替える』を『選択』と解釈することはできない。 また,原告は,他機との接続に先立って,信号線切替制御部内の結線をストレート結線とクロス結線で遷移させることは,本件明細書に接した当業者が採用すべき必然的形態の1つであると主張するが,本件特許発明において,自機から送信されたリンクテストパルスは,他機から送信されたリンクテストパルスと同一のリンクテストパルス検出手段で検出されるとはいえず,原告の上記主張は,その前提に誤りがある。 さらに,原告は,被告ホームページ(甲3の1),被告製品取扱説明書(甲6),ロジステック株式会社製品取扱説明書(甲36),『コレガ』部門の製品紹介ホーム ページ(甲37),IT用語事典(甲38)を根拠に,被告製品を特定しているが,これらには,本件特許発明の技術的範囲への属否を判断できる程度に,被告製品が特定されているわけではない。被告製品は,IEEE802.3規格1000BASE-Tのオプションである自動MDI/MDI-X構成に準拠しており,特に同規格(甲8)に示された図40-17により特定されるものである。」(3) 原判決12頁7行目の後に,行を改めて,次のとおり付加する。 「なお,原告は,被告が,ランダムに配線を切り替えながら信号を受信した時点で配線の切替えを止めるという乙1発明の構成についても,本件特許発明にいう『信号線切替部』に当たると主張しており,この点につき自白が成立する旨主張する。 しかし,被告は,乙1発明において,『レシーバ27に接続する線を受信線から送信線に切り換える』ことが,『信号線を切り替える』に該当すると主張しているのであって,レシ につき自白が成立する旨主張する。 しかし,被告は,乙1発明において,『レシーバ27に接続する線を受信線から送信線に切り換える』ことが,『信号線を切り替える』に該当すると主張しているのであって,レシーバ27に接続する線を受信線(又は送信線)のまま維持することが『信号線を切り替える』に該当すると主張するものではなく,原告の上記主張は,その前提に誤りがある。 また,被告製品においては,リンクテストパルスの検出があれば,ストレート結線なのかクロス結線なのかに関係なく,ランダム遷移を停止させるものであり,『送信線か受信線かを判断』するために必要な情報の組合せ(Link_Det=TRUEと,MDI/MDI-X結線の判断の組合せ)を行っておらず,送信線か受信線かの判断をしていない。」(4) 原判決12頁12行目ないし14頁9行目を,次のとおり改める。 「2 争点1-2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について【原告の主張】仮に,被告製品が,文言上,構成要件C①ないし③を充足しないとしても,被告製品においては,構成要件C①及び②の『信号線を切り替える切替制御部』が,リンクテストパルスの検出結果から『送信線か受信線かを判断』し,『信号線が周期的 に切り替わる動作を止め,ストレート接続かクロス接続かのいずれかに接続状態を確立させる制御部』に置換されているにすぎず,以下のとおり,本件特許発明と均等なものである。 (1) 本件特許発明の本質的部分本件特許発明の本質的部分は,信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送されるリンクテストパルスの検出結果を利用して,当該信号線の接続先が送信器であるか受信器であるかを判定し,その判定結果に基づいて自動的に電気的接続を選択する点にある。この点,被告製品は, 信器に伝送されるリンクテストパルスの検出結果を利用して,当該信号線の接続先が送信器であるか受信器であるかを判定し,その判定結果に基づいて自動的に電気的接続を選択する点にある。この点,被告製品は,リンクテストパルス検出手段の検出結果を利用し,信号線の接続先が送信器であるか受信器であるかを判定し,その判定結果に基づいて,自動的にストレート接続かクロス接続かの接続,すなわち正常な信号伝送が可能な正しい接続を選択するものであり,本件特許発明と課題解決原理が共通している。 他方,物理的な配線の切替えをすることや,信号線が周期的に切り替わる動作を止めて接続状態を確立させることは,いずれも周知技術にすぎない。また,本件特許発明においても,配線時に正しく接続された場合には物理的な配線の切替えがされない。したがって,物理的な配線の切替えをするかどうかは,本件特許発明の本質的部分ではなく,切替えをどのように行うかという具体的実施態様は,本件特許発明の非本質的部分である。 (2) 置換可能性被告製品は,本件特許発明と同一の作用効果を奏するから置換可能性がある。 すなわち,本件特許発明は,LAN機器の種類や通信線の種別に熟知しない者が誤接続を行ってしまうという従来技術の課題を解決し,接続される通信機器の種別や信号線の種別に関係なく,常に正常な信号伝送が可能となるように,信号線の接続を行うことができるようにするものであり,これにより,10BASE-Tに準拠するネットワークであれば常に使用可能で,ケーブルを2種類用意する必要がないものである。これに対し,被告製品は,MDI/MDI -X自動切替機能により,ネットワーク機器との接続においてストレート/クロスケーブルを自動判別するため,結線ミスによる配線トラブルを回避することができ,ケーブルを2種類用 は,MDI/MDI -X自動切替機能により,ネットワーク機器との接続においてストレート/クロスケーブルを自動判別するため,結線ミスによる配線トラブルを回避することができ,ケーブルを2種類用意する必要がないものであり,本件特許発明と同一の作用効果を奏する。 (3) 置換容易性上記のとおり,被告製品は,MDI/MDI-X自動切替機能を備えているところ,これは本件特許出願後に標準規格として導入されたものであり,被告の侵害行為時において当業者が慣用していた周知技術である。また,甲29ないし31によれば,本件特許出願後に,リンクテストパルスの検出結果から,MDIモードとMDI-Xモードの間のランダム周期による遷移を停止させることで,正常な信号伝送が可能なように接続を確立(維持)することは周知技術となっていた。したがって,本件特許発明における,リンクテストパルスの検出結果から,送信線か受信線かを判断した後に物理的配線の切替えをする技術に代えて,MDIモードとMDI-Xモードの間のランダム周期による遷移を停止させて接続状態を確立(維持)する構成へ置換することは容易であった。 (4) 意識的除外等の特段の事情被告製品も,ストレート結線の状態において,接点3,6においてリンクテストパルスを検出すれば,この接点に接続された側の信号線が送信側信号線と識別され,他方,クロス結線の状態において,接点1,2においてリンクテストパルスを検出すれば,この接点に接続された側の相手側が送信側信号線と識別されることからすれば,送信側信号線と受信側信号線を識別しないで接続状態を維持する構成とはいえず,意識的除外等の特段の事情に係る被告の主張は,その前提に誤りがある。 【被告の主張】被告製品は,以下のとおり,本件特許発明と均等なものではない。 (1) 本 で接続状態を維持する構成とはいえず,意識的除外等の特段の事情に係る被告の主張は,その前提に誤りがある。 【被告の主張】被告製品は,以下のとおり,本件特許発明と均等なものではない。 (1) 本件特許発明の本質的部分特許発明の本質的部分とは,課題を解決するための特徴的部分であるところ,本 件特許発明における特徴的部分は,送信線と受信線の接続が間違っている場合に,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して,信号線を切り替えることで,信号線の接続を正しくするようにした部分である。 (2) 置換可能性上記のとおり,本件特許発明は,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替えるのに対し,被告製品は,ストレート結線とクロス結線とを遷移させ,その後,リンクテストパルス検出結果を機に遷移を停止させることで自動的な電気的接続条件を成立させるものである。すなわち,本件特許発明では,リンクパルス検出結果を得る前には,信号線の切替えが不要であり,リンクテストパルス検出結果を得た後,送信線か受信線かの判断を行い,信号線の切替えを行うのに対し,被告製品では,リンクテストパルス検出結果を得る前に,ストレート結線とクロス結線との遷移(信号線の切替え)を行うが,リンクテストパルス検出結果を得た後には,遷移を行わない上,送信線か受信線かの判断も不要であり,本件特許発明と被告製品は,その作用効果が全く異なっている。 また,本件特許発明のように送信線か受信線かを判断するためには,MAU内蔵のリンクテストパルス検出器だけでは足りず,さらにMAUの外部にリンクテストパルス検出器を増設しなければならない。これに対し,被告製品は,ストレート結線とクロス結線との遷移を行うことによって,送信線か受信線かの判断 ルス検出器だけでは足りず,さらにMAUの外部にリンクテストパルス検出器を増設しなければならない。これに対し,被告製品は,ストレート結線とクロス結線との遷移を行うことによって,送信線か受信線かの判断を不要とし,リンクテストパルス検出器の増設を不要とするものである。 したがって,本件特許発明と被告製品とは,課題解決原理を異にするものであり,置換可能性はない。 (3) 置換容易性上記のとおり,本件特許発明と被告製品は,課題解決原理が全く異なっており,置換容易性もない。 (4) 意識的除外等の特段の事情原告は,本件特許の出願手続において提出した意見書(乙12)において,『10 BASE-Tの機能として元々備わっているリンクテストパルスを利用して送信用信号線と受信用信号線を識別し,その識別結果を利用して自動的に送信側の配線と受信側の配線を正しい方向に切り替えるように制御するもの・・・』,『引用文献2~5では,本発明のように,送信側信号線と受信側信号線を区別するというものではありません。』などと主張し,本件特許発明において,送信側信号線と受信側信号線を識別し,その識別結果を利用するものに限定しており,被告製品のように,送信側信号線と受信側信号線を識別しないで接続状態を維持する構成を除外している。」第3 当裁判所の判断当裁判所は,被告製品は,本件特許発明の構成要件を文言上充足せず,被告製品は本件特許発明と均等なものということはできないから,本件控訴には理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり,付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」,「1 争点1-1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)について」(原判決30頁24行目ないし39頁13行目)及び「1 争 は,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」,「1 争点1-1(被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足するか)について」(原判決30頁24行目ないし39頁13行目)及び「1 争点1-2(被告製品は本件特許発明と均等なものとしてその技術的範囲に属するか)について」(原判決39頁14行目ないし41頁13行目)記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決35頁14行目の「被告製品」を,「本件特許発明」と改める。 2 原判決39頁12行目ないし13行目を,次のとおり改める。 「(3) 原告の主張についてア原告は,本件特許発明における『信号線を切り替える切替制御部』とは,リンクテストパルスが検出された信号線を送信線と判断し,この送信線の受信端子(受信器)への電気的接続を自動的に選択することを意味するものであり,物理的配線の切替えに限定されるものではなく,ランダムに遷移されるストレート結線(MDIモード)とクロス結線(MDI-Xモード)との間の遷移状態を,リンクテストパルスの検出を機に,リンクテストパルスを検出したツイストペア線を送信線と判 断することで停止し,ストレート結線又はクロス結線を選択決定して正常な信号伝送を行うことを含む,と主張する。しかし,原告の上記主張は,失当である。 すなわち,上記のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明は,『リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替える信号線切替制御部とを備えることを特徴とする』ものである。そして,本件明細書(甲2)には,上記信号線切替制御部について,『本発明の送受信線切替器は,上記の課題を解決するために,IEEE802.3規格の10BASE-Tに準拠するツイストペア線を使用したネットワ て,本件明細書(甲2)には,上記信号線切替制御部について,『本発明の送受信線切替器は,上記の課題を解決するために,IEEE802.3規格の10BASE-Tに準拠するツイストペア線を使用したネットワークにおいて,・・・リンクテストパルス検出手段1,2,4,5の検出結果から送信線か受信線かを判断して信号線を切り替える信号線切替制御部3とを備える・・・』(段落【0004】),『・・・このことから,信号線切替制御部3では,ツイストペア線が送信線であるか受信線であるかを判断して,送信器から受信器への信号伝送が正常に行えるように,信号線を切り替えるものである。』(段落【0005】),『本発明の送受信線切替器にあっては,・・・信号線の接続を検査するために送信器から受信器に伝送されるリンクテストパルスを検出するリンクテストパルス検出手段を設けて,その検出結果に基づいて送信線と受信線とを判別し,信号線を切り替える信号線切替制御部を設けたものである・・・』(段落【0011】)との記載がある。 上記本件特許に係る特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載によれば,本件特許発明は,リンクテストパルス検出手段の検出結果から切替器に接続されている信号線のいずれが送信線で,いずれが受信線かを判断した後,物理的な配線である信号線を切り替える信号線切替制御部を備えるものと認められ,原告の上記主張は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載に基づくものとはいえない。 なお,原告は,本件特許発明についての無効不成立審決の取消訴訟(平成23年(行ケ)第10032号)の判決(甲33)の判示部分を引用して,本件特許発明の特徴を,「リンクテストパルスの検出結果を利用して,当該信号線の接続先が送信器であるか受信器であるかを判定し,この判定結果に基づいて自動的に電気接続を 選択する 分を引用して,本件特許発明の特徴を,「リンクテストパルスの検出結果を利用して,当該信号線の接続先が送信器であるか受信器であるかを判定し,この判定結果に基づいて自動的に電気接続を 選択する」ものであるとの発明の要旨の理解に立脚していることは明らかであるとも主張する。 しかし,上記判決の判断は当裁判所を直接拘束するものではないし,その点をさておくとしても,上記判決は,当該事件における甲1(判決注・本件乙1)発明と本件特許発明との構成の相違点の判断に関して,甲4(判決注・本件乙4)などからの置換の動機付けが存在しない理由のひとつとして示されたにすぎないものであって,本件特許発明の構成を認定したものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は,被告製品に採用されているIEEE802.3規格1000BASE-TのオプションであるMDI/MDI-X自動切替は,本件明細書に接した当業者が採用すべき必然的形態の1つにすぎない,と主張する。しかし,原告の上記主張は,失当である。 すなわち,本件特許発明において,リンクテストパルス検出手段が,他機から送信されたリンクテストパルスに加えて,自機から送信されたリンクテストパルスを検出し,これらを区別することができないこと,かかる不都合を避けるため信号線切替制御部内においてストレート結線とクロス結線の状態を遷移させることは,本件明細書に記載も示唆もされていない。そもそも,原告の上記主張は,本件特許発明が,自機の受信側のリンクテストパルス検出手段でリンクテストパルスが検出されているか否かにより,信号線切替制御部における接続が正しい接続か否かを判断する構成であることを前提とするところ,上記のとおり,本件特許発明の『信号線切替制御部』は,リンクテストパルス検出手段の検出結果 いるか否かにより,信号線切替制御部における接続が正しい接続か否かを判断する構成であることを前提とするところ,上記のとおり,本件特許発明の『信号線切替制御部』は,リンクテストパルス検出手段の検出結果から,切替器に接続されている信号線のいずれが送信線で,いずれが受信線かを判断した後に,物理的な配線である信号線を切り替えるものであるから,原告の上記主張は,その前提に誤りがある。 ウ原告は,被告ホームページ(甲3の1),被告製品取扱説明書(甲6),ロジステック株式会社製品取扱説明書(甲36),『コレガ』部門の製品紹介ホームペー ジ(甲37),IT用語事典(甲38)によれば,当業者において,MDI/MDI-X自動切替とは,MDIモードとMDI-Xモードとの間の単なる遷移ではなく,どちらかの結線状態を選択して接続することを意味している,と主張する。しかし,原告の上記主張は,失当である。 すなわち,被告ホームページ(甲3の1)には,『MDI/MDI-X自動切替機能により,ネットワーク機器との接続においてストレート/クロスケーブルを自動判別するため,・・・』との記載が,被告製品取扱説明書(甲6)には,『本製品の全ポートはMDI/MDI-X自動切替機能を持つので,ストレートまたはクロスのどちらのタイプのUTPケーブルを使用してもリンクが確立します・・・』との記載があるが,かかる記載において,『MDI/MDI-X自動切替機能』とは,ストレートケーブルとクロスケーブルとを自動判別することにより,結線ミスによる配線トラブルを回避する機能の名称として用いられているにすぎない。また,ロジステック株式会社製品取扱説明書(甲36)には,『ケーブルを接続すると本製品が自動的にケーブルの種類を判別し必要に応じてストレート/クロスを切り替える『AutoMD れているにすぎない。また,ロジステック株式会社製品取扱説明書(甲36)には,『ケーブルを接続すると本製品が自動的にケーブルの種類を判別し必要に応じてストレート/クロスを切り替える『AutoMDI/MDI-X』機能をすべてのLANポートに搭載しています』との記載が,『コレガ』部門の製品紹介ホームページ(甲37)には,『全ポートがストレート/クロスを自動的に判別して切り替えるAutoMDI/MDI-Xに対応します』との記載が,IT用語事典(甲38)には,AutoMDI/MDI-Xについて,『ハブやスイッチが備える機能の一つで,通信相手のポートがMDIかMDI-Xかを自動判別して,適切な方法で接続する機能。』との記載があるが,かかる記載から直ちに,『MDI/MDI-X自動切替』が,MDIモードとMDI-Xモードとの間の単なる遷移ではなく,どちらかの結線状態を選択して接続する構成のみを意味すると解することはできない。 エ原告は,本件特許発明における『正しい接続』とは,リンクテストパルスの検出を機に,リンクテストパルスが検出された側のツイストペア線を送信線と判断して受信器に接続し,リンクテストパルスが検出されない側のツイストペア線を受 信線と判断して送信器に接続する,信号伝送可能状態のことであるから,MDIモードとMDI-Xモードとの間のランダム遷移が行われているリンクテストパルス未検出の状態は『正しい接続』ではなく,被告製品は,リンクテストパルスの検出前に信号線の接続が行われているとはいえない,と主張する。 しかし,上記のとおり,本件特許発明では,リンクテストパルス検出手段の検出結果から切替器に接続されている信号線のいずれが送信線で,いずれが受信線かを判断した後に,物理的な配線である信号線を切り替えることにより,リンクテスト 件特許発明では,リンクテストパルス検出手段の検出結果から切替器に接続されている信号線のいずれが送信線で,いずれが受信線かを判断した後に,物理的な配線である信号線を切り替えることにより,リンクテストパルスが検出された側のツイストペア線を送信線と判断して受信器に接続し,リンクテストパルスが検出されない側のツイストペア線を受信線と判断して送信器に接続することにより,信号伝送可能状態が確立されるものと認められる。これに対し,被告製品は,MDIモードとMDI-Xモードとをランダムな時間間隔で繰り返し遷移させた上,リンクテストパルスが検出された時点で,この遷移を停止させるものであり,リンクテストパルスが検出された時点で正しい接続状態になったことが判明し,上記遷移を停止して,接続を確定するものと認められる。そうすると,被告製品は,リンクテストパルスの検出前に信号線の接続が行われるものではないとしても,リンクテストパルスを検出した時点で,必ず,ストレート結線とクロス結線の遷移を停止させるものであって,リンクテストパルス検出後に,物理的な配線である信号線を切り替えることは,その構成上予定されていない。 したがって,本件特許発明と被告製品とは,接続を確定するための具体的方法が異なるから,原告の上記主張は失当である。 オ原告は,被告が,ランダムに配線を切り替えながら信号を受信した時点で配線の切替えを止めるという乙1発明の構成についても,本件特許発明にいう『信号線切替部』に当たると主張しており,この点につき自白が成立すると主張する。 しかし,被告は,乙1発明において,レシーバ27に接続されている線が,送信線か受信線かを判断し,受信線であると判断されると,レシーバ27に接続する線を切り替える構成が開示されていると主張しているにすぎず,ランダムに配線を切 いて,レシーバ27に接続されている線が,送信線か受信線かを判断し,受信線であると判断されると,レシーバ27に接続する線を切り替える構成が開示されていると主張しているにすぎず,ランダムに配線を切 り替えながら信号を受信した時点で配線の切替えを止めるとの構成が,本件特許発明にいう『信号線切替部』に当たると主張するものではない。したがって,原告の上記主張は,その前提に誤りがあり,失当である。 (4) 小括以上によれば,被告製品は,本件特許発明の構成要件C①ないし③の構成と相違するから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は本件特許発明の構成要件を文言上充足しない。」 3 原判決41頁11行目ないし13行目を,以下のとおり改める。 「(3) 置換可能性本件特許発明は,本件明細書に,『・・・MAUとMAUを接続したり,あるいは,DTEとDTEを接続する場合には,送信線を受信側に,受信線を送信側に付け替えたクロス接続のツイストペア線を使用して配線しなければならない。このため,使用するLAN機器の内容を熟知していないユーザーでは送信線と受信線の誤接続を行う可能性がある。』(段落【0002】),『本発明は上述のような点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,送信線と受信線の接続が間違っている場合には自動的に信号線を切り替えることが可能な送受信線切替器を提供することにある。』(段落【0003】)と記載されているとおり,LAN機器の種類や通信線の種別に熟知しない者が,誤接続を行ってしまうという従来技術の課題を解決し,接続される通信機器の種別や信号線の種別に関係なく常に正常な信号伝送が可能となるように,信号線の接続を行うことができるようにすることを目的としたものである。そして,本件特許発明は,上記のとおり,上記課題の れる通信機器の種別や信号線の種別に関係なく常に正常な信号伝送が可能となるように,信号線の接続を行うことができるようにすることを目的としたものである。そして,本件特許発明は,上記のとおり,上記課題の解決手段として,リンクテストパルス検出手段の検出結果から切替器に接続されている信号線のいずれが送信線で,いずれが受信線かを判断した後に,物理的な配線である信号線を切り替えるものである。 これに対し,被告製品は,MDI/MDI-X自動切替機能により,ネットワーク機器との接続において,ストレート/クロスケーブルを自動判別するため,結線 ミスによる配線トラブルを回避することができるものである。そして,被告製品は,上記のとおり,上記課題の解決手段として,MDIモード(ストレート結線)とMDI-Xモード(クロス結線)とをランダムな時間間隔で繰り返し遷移させた上,リンクテストパルスが検出された時点で,この遷移を停止させる構成としたものである。 以上のとおり,被告製品は,リンクテストパルスを検出した時点で,必ず,ストレート結線とクロス結線の遷移を停止させるものであって,本件特許発明のように,リンクテストパルス検出後,信号線を物理的に切り替えることは,その構成上予定されておらず,本件特許発明とは課題解決原理が異なる。 したがって,本件特許発明における,リンクテストパルス検出手段の検出結果から送信線か受信線かを判断して,信号線を切り替える,信号線切替制御部(本件特許発明の構成要件C①ないし③)との構成を,被告製品の自動MDI/MDI-X構成に置き換えることには,置換可能性はないものというべきである。 (4) 小括よって,被告製品と本件特許発明とは本件特許発明の本質的部分である構成要件C①ないし③の点で相違し,置換可能性も認められないから,その余 には,置換可能性はないものというべきである。 (4) 小括よって,被告製品と本件特許発明とは本件特許発明の本質的部分である構成要件C①ないし③の点で相違し,置換可能性も認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は本件特許発明と均等なものということはできない。」第4 結論以上のとおり,原告の請求を棄却した原判決は,相当である。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,理由がない。よって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官芝田俊文 裁判官西理香 裁判官知野明

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