平成19(行ウ)6 所得税更正処分等取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年7月6日 大分地方裁判所
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判決文本文14,228 文字)

平成19年(行ウ)第6号所得税更正処分等取消請求事件主文 処分行政庁が平成17年3月2日付けで原告に対してした原告の平成13年分の所得税に係る更正処分のうち,総所得金額2406万2791円,納付すべき税額464万2800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち,6万6000円を超える部分をいずれも取り消す。 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は,これを8分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求処分行政庁が平成17年3月2日付けで原告に対してした原告の平成13年分の所得税に係る更正処分のうち,総所得金額2227万7041円,納付すべき税額398万2000円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。 第2事案の概要本件は,原告と訴外会社との間で成立した訴訟上の和解に基づき訴外会社から原告に対して支払われた和解金1900万円のうち,必要経費(弁護士費用)を控除した残額1436万4700円について,処分行政庁が,原告の平成13年分の雑所得に当たるとして総所得金額及び納付すべき税額を算定し,平成17年3月2日付けで更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を行ったことに対して,原告が,請求の趣旨記載のとおり,処分の取消しを求めた事案である。 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,弁論の全趣旨及び括弧内に記載した証拠により容易に認定することができる。 (1)原告は,訴外会社との間で商品先物取引の委託契約を締結し,平成9年4月15日から平成10年10月9日までの間,商品先物取引(以下「本件先物取引」という。)を繰り返し,同取引によって6144万5348円の損失を被った。 (2)原告は,訴外会社やその従業員ら(以下「 月15日から平成10年10月9日までの間,商品先物取引(以下「本件先物取引」という。)を繰り返し,同取引によって6144万5348円の損失を被った。 (2)原告は,訴外会社やその従業員ら(以下「訴外会社ら」という。)の不法行為により損害を受けたとして大分地方裁判所(以下「大分地裁」という。)に損害賠償請求訴訟(平成11年(ワ)第688号事件)を提起したところ,平成13年4月17日,大分地裁は,訴外会社らの不法行為責任を認めてその損害額を算定し(本件先物取引の売買差損,取引所税,手数料,消費税に相当する額),原告に7割5分の過失割合を認めて過失相殺した上で,弁護士費用150万円を加えて,訴外会社らに損害賠償金1686万1337円及び平成10年10月15日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる判決を言い渡した。同判決においては,訴外会社の従業員らにおいて,原告が最終的に多額の損失を被るかもしれない危険性を一顧だにせず,ひたすら取引の長期化及び大規模化を目指して訴外会社が徴収できる手数料を増やすことだけを念頭に取引の勧誘を行ったものであり,不法行為に当たる取引勧誘行為は全体として違法性を帯びたものであるとの認定がなされている(甲2の1)。 (3)和解の成立及び和解金の受領訴外会社ら及び原告は,福岡高等裁判所に対し控訴及び附帯控訴をした(平成13年(ネ)第568号,同年(ネ)第792号事件)が,同年11月6日,訴外会社らが原告に対し1900万円(以下「本件和解金」という。)を支払うことなどを内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立し,訴外会社から原告に対して,同月21日に1000万円が,同月29日に900万円がそれぞれ支払われた(甲1,乙9)。 (4)平成13年分の所得税の申告内容 原告は,平成 和解」という。)が成立し,訴外会社から原告に対して,同月21日に1000万円が,同月29日に900万円がそれぞれ支払われた(甲1,乙9)。 (4)平成13年分の所得税の申告内容 原告は,平成14年3月15日付けで,処分行政庁に対して,平成13年分の所得税について,総所得金額を2204万1550円,納付すべき税額を389万5100円として確定申告をした。また,原告は,別紙「平成13年分の所得税の修正申告書B」記載のとおり,平成16年11月29日付けで,総所得金額を2227万7041円,納付すべき税額を398万2000円とする修正申告をし,処分行政庁は,8000円の過少申告加算税を課する賦課決定処分をした(乙1ないし3)。 (5)更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分処分行政庁は,平成17年3月2日付けで,本件和解金1900万円から必要経費(弁護士費用)463万5300円を控除した1436万4700円を雑所得に計上して総所得を3664万1741円とし,納付すべき税額を929万7100円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)をするとともに,58万4000円の過少申告加算税を課する賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした(乙4)。 (6)異議申立て及び審査請求の結果ア原告は,同年4月26日付けで,処分行政庁に対し,本件更正処分等の取消しを求めて異議申立てを行ったが,処分行政庁は,同年7月4日付けで,これを棄却する旨の決定をした(乙5,6)。 イさらに,原告は,同月21日付けで,国税不服審判所長に対し,本件更正処分等の取消しを求めて審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成18年11月15日付け(謄本の作成日付は同月27日である。)で,原告の審査請求を棄却する 付けで,国税不服審判所長に対し,本件更正処分等の取消しを求めて審査請求を行ったが,国税不服審判所長は,平成18年11月15日付け(謄本の作成日付は同月27日である。)で,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした(乙7,8)。 (7)原告は,平成19年5月22日,本件更正処分等の取消しを求める本件訴訟を提起した。 争点及びこれに関する当事者の主張 (1)本件和解金が所得税法7条の「所得」に該当するか。 (被告の主張)所得税法は「所得」の範囲を包括的に構成しており,非永住者以外の居住者の担税力を増加させる経済的利得はすべて「所得」を構成し,別途非課税とする所得を列挙して課税対象から除外しているのであるから,本件和解金は「所得」に当たる。 (原告の主張)本件和解金は,実質的には,訴外会社に預けた委託証拠金が取り崩されてその返還を受けることができなくなったため,その分と同額の損害が発生したとして賠償を求めた結果として支払われたものであり,何ら純資産の増加を伴わないものであるから「所得」に当たらない。 (2)本件和解金が所得税法9条1項16号,同法施行令(以下「法施行令」という。)30条2号が規定する非課税所得に該当するか。 (被告の主張)ア所得税法9条1項16号は,物的損害に係る損害賠償金について「損害賠償金で,突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税所得とする旨規定しているところ,当該規定の立法趣旨については,税制調査会答申において「非課税所得とすべきかという点の判断基準は,それが突発事故,つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが,常識的に妥当と思われる。」とされていること,また,同号の「その他の」の文言は法令上その前にある字 突発事故,つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが,常識的に妥当と思われる。」とされていること,また,同号の「その他の」の文言は法令上その前にある字句が後にある字句の例示として,その一部を成している場合に用いられるものであるから,同号の「その他の政令で定めるもの」とは,「突発的な事故によ」る場合と同様の場合,すなわち被害者の合意に基づかない行為に基因する損害など突発的で予想することができない災害・事故等に基づく損害をいうと解すべきである。 そうすると,同号を受けて規定された法施行令30条は,上位規範である所得税法9条1項16号の趣旨に即して解釈されるべきであるから,法施行令30条2号が「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害」と規定する「不法行為」とは,「突発的な事故」と同様の不法行為すなわち被害者の合意に基づかない行為に基因する損害に対する損害賠償金に限定されると解するのが相当である。 そうしたところ,原告は,損失発生の危険性を認識した上で自らの意思で先物取引を開始し,自己の判断で取引を継続して,結果的に多額の損失を被っているのであるから,損害の発生の原因となった取引行為は被害者である原告の合意に基づいている。 したがって,本件のような先物取引に関する不法行為については,突発的で予想することのできない災害や事故等の不法行為,すなわち「突発的な事故」と同様の不法行為ということはできないから,本件和解金のうち損害賠償金に相当する部分は所得税法9条1項16号,法施行令30条2号に該当しない。 イ本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分については,これを非課税所得とする旨の規定はないし,元本が非課税所得に当たらない以上,遅延損害金に相当する部分も非課税所得に当たらない。 ( 当しない。 イ本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分については,これを非課税所得とする旨の規定はないし,元本が非課税所得に当たらない以上,遅延損害金に相当する部分も非課税所得に当たらない。 (原告の主張)ア所得税法9条1項16号は,損害賠償金が非課税である基本を確認しているものであって,同号にいう「その他の政令で定めるもの」とは,それ以外の非課税となる損害賠償金等という意味に解すべきである。すなわち,同号は,政策的に非課税とする損害賠償金を独自に政令で定めることを想定しての委任規定であるから,「政令で定めるもの」は「突発的な事故」に限定されていない。 したがって,法施行令30条2号が「不法行為その他突発的な事故によ り資産に加えられた損害」と規定する「不法行為」には,取引的不法行為も含まれ,被告のいう突発的な事故によるものだけに限定されていない。 また,そもそも,取引的不法行為の場合も,加害者の不法行為によって予想しない損害が発生するのであるから,「突発的な事故」である。 そうすると,原告の損害は,不法行為により資産に加えられた損害であるから,本件和解金のうち損害賠償金に相当する部分は所得税法9条1項16号,法施行令30条2号により非課税となる。 イまた,本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分も,損害金の一種であるから,損害賠償金と同じく非課税所得となる。 (3)本件和解金が,法施行令30条2号括弧書,94条1項柱書,同項2号が規定する非課税所得の除外規定に該当するか。 (被告の主張)商品先物取引における売買差損益は,個別の取引において転売又は買戻しにより決済した際の差損益であり,売上と原価という概念になじまないものであるところ,売買差金そのものが商品先物取引に係る事業所得又は雑所得の収入金額となるのであり,本件和解金のう いて転売又は買戻しにより決済した際の差損益であり,売上と原価という概念になじまないものであるところ,売買差金そのものが商品先物取引に係る事業所得又は雑所得の収入金額となるのであり,本件和解金のうち売買差損に相当する損害賠償金は,本来収入金額となるべき売買差金(差益及び差損)を補てんするものであるから,法施行令94条1項柱書の「その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に変わる性質を有するもの」に該当するし,本件和解金は原告と訴外会社との取引関係を清算し,一切を終結させるものであるから,同項2号の「当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に該当するから,法施行令30条2号括弧書により,非課税所得から除外される。 (原告の主張)原告の損害が発生したのは訴外会社らの違法行為によるものであって,原 告が行う取引によって発生したとは評価できないから,「業務の遂行により生ずべき所得」に該当しないし,原告の損害は得べかりし利益の喪失ではないから「収入金額に代わる性質を有するもの」や「当該業務の収益の補償金その他これに類するもの」に該当しないし,被告の主張する事由は「業務の休止,転換又は廃止その他の事由」に該当しないから,いずれにしても本件和解金が法施行令94条1項柱書,同項2号に該当することはない。 (4)本件和解金が,法施行令30条柱書括弧書が規定する非課税所得の除外規定に該当するか。 (被告の主張)ア法施行令30条柱書括弧書は,「必要経費に算入される金額を補てんするための金額」は非課税所得から除外すると規定しているところ,本件和解金のうち取引所税,手数料,消費税及び弁護士費用に相当する部分は,本件先物取引の必要経費を補てんするためのもので る金額を補てんするための金額」は非課税所得から除外すると規定しているところ,本件和解金のうち取引所税,手数料,消費税及び弁護士費用に相当する部分は,本件先物取引の必要経費を補てんするためのものであるから,同規定に該当し,非課税所得とならない。 イまた,商品先物取引においては,買付価格,手数料,取引所税,消費税が必要経費に当たるから,本件和解金のうち売買差損に相当する部分は必要経費の一部を構成するものであり,結局,本件和解金のうち遅延損害金相当分以外の部分は全て法施行令30条柱書括弧書に当たり,非課税所得から除外される。 (原告の主張)本件和解金のうち取引所税,手数料,消費税に相当する部分は,訴外会社らの不法行為によって発生したものであるから必要経費に当たらず,弁護士費用に相当する部分も,先物取引による収入確保のためでなく,損害賠償金を確保するために必要な費用であるから必要経費には当たらない。したがって,本件和解金に法施行令30条柱書括弧書は適用されない。 (5)本件和解金の帰属年分 (被告の主張)所得税法36条1項は,権利確定主義を採用しているところ,本件和解金は,本件和解が成立した平成13年11月6日に初めて確定したといえるから,同年分の所得として課税した本件更正処分等は適法である。 (原告の主張)事業所得や法人税の所得はともかく,それ以外の所得については,所得が発生しその法律上の権利行使が可能となった年度の所得として課税すべきところ,損害賠償金としての性質を持つ本件和解金は,平成9年度及び平成10年度に発生して権利行使が可能になったのであるから,これを平成9年分又は平成10年分の所得ではなく,平成13年分の所得として課税した本件更正処分等は違法である。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件和解金が所得税法7条の「 なったのであるから,これを平成9年分又は平成10年分の所得ではなく,平成13年分の所得として課税した本件更正処分等は違法である。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件和解金が所得税法7条の「所得」に該当するか)について(1)所得税法上,「所得」について定義する規定はないが,同法9条ないし11条が多項目にわたって詳細に非課税所得を列挙していることなどからすれば,同法は,統一的,画一的な税務処理等の観点から,各人に発生した経済的利得は広く「所得」に当たるとした上で,非課税とすべきものは別途個別的に規定したものと解される。そして,ある収入が「所得」に該当するか否かについては,単にその支払名目から判断するのではなくその実質に着目して判断すべきである。 これを本件についてみると,本件和解金は,不法行為に基づく損害賠償請求及び遅延損害金請求を認容した大分地裁の判決を前提として,その控訴審で成立した訴訟上の和解により発生したものであるから,その実質は不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金と認められ,原告は,本件和解金を取得したことにより経済的利得を得たといえるのであるから,本件和解金は所得税法7条の「所得」に該当する。 (2)原告は,本件和解金の実質はもっぱら実損害を補てんした損害賠償金であり,何ら純資産の増加を伴わないものであるから「所得」に当たらないと主張する。 しかし,損害賠償金にも,本来課税されない実損害を補てんするものと本来課税されるべき得べかりし利益を補てんするものが存在するのであり,原告が指摘する点は,当該損害賠償金が非課税所得に該当するかの判断において実質的に考慮すべきものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。 争点(2)(本件和解金が所得税法9条1項16号,法施行令30条2号が規定する非課税所得 得に該当するかの判断において実質的に考慮すべきものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。 争点(2)(本件和解金が所得税法9条1項16号,法施行令30条2号が規定する非課税所得に該当するか)及び争点(3)(本件和解金が,法施行令30条2号括弧書,94条1項柱書,同項2号が規定する非課税所得の除外規定に該当するか)について(1)ア上記判示のとおり,不法行為に基づく損害賠償金には,本来各種所得に該当するとして課税されるべき得べかりし利益を補てんする性質を有するものと,預け金の返金の受入れや貸付金の元金の受入れ等と同様に本来課税されるべきでない実損害を補てんする性質を有するものとが含まれているところ,本来,前者については各種所得に該当するものとして課税され,後者については非課税とされるべきものである。 イ所得税法9条1項16号は,物的損害に係る損害賠償金について「損害賠償金で,突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの」を非課税所得とする旨規定し,これを受けた法施行令30条2号は「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金(これらのうち第94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを除く。)」を非課税所得とする旨規定しているが,証拠(乙15)及び弁論の全趣旨によれば,所得税法9条1項16号及び法施行令30条2号は,以下の結 論を記載した昭和36年12月7日付け税制調査会答申の考え方に基づき制定されたことが認められる。 (ア)物的損害に対する補償については,それが不法行為その他突発事故による損失であるか,それ以外の損失,すなわち契約,収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失であるかによって区分するとともに, ア)物的損害に対する補償については,それが不法行為その他突発事故による損失であるか,それ以外の損失,すなわち契約,収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失であるかによって区分するとともに,さらに,その対象となる資産が生活用資産であるか,又はそれ以外の資産であるかどうかによって区別してその取扱いを定めるのが適当である。 (イ)不法行為その他の突発事故によるもの生活用資産に関する損害に対する補償金等については,これによって補てんされる利益は,もし,その損害がなかったならば課税されなかったはずである資産の評価益等であるから,非課税とする。 生活用資産以外の資産に関する損害に対する補償金等については,資産損失に対する補償金は,もしその損失がなかったならば,その評価益には課税されなかったはずであるから,非課税とし,一方たな卸資産に対する補償,休業補償等のような収益補償は,本来課税されるべき所得に代わるべき性質のものであるから,課税所得とする。 ウそうすると,上記アで判示したところと同様な考え方に立つ税制調査会答申の考え方に照らし,また,所得税法9条1項16号並びに法施行令30条2号及び94条の文言に照らせば,不法行為により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金で,収益補償に当たらないものは,本来課税されるべきでない実損害を補てんする性質を有するものであるとの立法趣旨の下に,所得税法9条1項16号は,「突発的な事故」の中に「不法行為」が含まれることを前提として,突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得する損害賠償金など政令で定めるものを非課税とする旨規定して,その定めを政令に委任し,これを受けた法施行令30条2号が,収益補償に当たる法施行令94条の規定に該当するものを除 いた,不法行為その他突発的な事故により で定めるものを非課税とする旨規定して,その定めを政令に委任し,これを受けた法施行令30条2号が,収益補償に当たる法施行令94条の規定に該当するものを除 いた,不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金が非課税となることを定めたものと解するのが相当である。 エ以上によれば,本件和解金の実質は不法行為に基づく損害賠償金及び遅延損害金であるところ,前記前提事実及び証拠(甲2の1)によれば,上記損害賠償金は,本件先物取引の売買差損等により原告の生活用資産である金銭等の資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金であり,収益補償ではないと認められるから,所得税法9条1項16号,法施行令30条2号が規定する非課税所得に該当し,法施行令30条2号括弧書,94条1項柱書,同項2号が規定する非課税所得の除外規定に該当しないといえる。一方,上記遅延損害金は,不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金ではなく,履行遅滞という債務不履行による損害賠償金であるから,所得税法9条1項16号,法施行令30条2号が規定する非課税所得に該当しない。 (2)アこれに対し,被告は,税制調査会答申の記載及び所得税法9条1項16号の文言を根拠に争点(2)に関する被告の主張を展開するが,証拠(乙15)によれば,税制調査会答申は,「不法行為その他突発事故(飛行機の墜落,近隣の火薬庫の爆発等)に基づく資産の損失に対する損害賠償は,一時所得に属し非課税とされている。」との基本的な考え方に立った上で,被告が引用する「非課税所得とすべきかという点の判断基準は,それが突発事故,つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが,常識的に妥当と思われる。」との記載を 告が引用する「非課税所得とすべきかという点の判断基準は,それが突発事故,つまり相手の合意をえない予想されない災害であったかどうかというところに基準を置くほうが,常識的に妥当と思われる。」との記載をするとともに,結論として,前記認定のとおり,「物的損害に対する補償については,それが不法行為その他突発事故による損失であるか,それ以外の損失,すなわち契約,収用等による資産の移転ないし消滅に基づく損失であるかによって区分する」と記載しており,「突発的な事故」の中に 「不法行為」が含まれることを前提として,被告の引用する記載をしていることが認められるから,所得税法9条1項16号の「突発的な事故」の中には「不法行為」が含まれており,法施行令30条2号はそのことを確認的に規定したにすぎず,所得税法9条1項16号の「その他の政令で定めるもの」との定めによって「突発的な事故」以外のものとして定められたものではないから,争点(2)に関する被告の主張を採用することはできない。 なお付言すると,前記前提事実によれば,本件の不法行為は,原告の合意に基づかない行為である訴外会社らの取引勧誘行為であるから,被告主張の解釈に依っても同様の結論となる。 イ次に,被告は,売買差金が商品先物取引に係る雑所得等の収入金額になることを根拠に争点(3)に関する被告の主張を展開するが,本件和解金のうち損害賠償金に相当する部分は,本件先物取引の売買差損等により原告の生活用資産である金銭等の資産に加えられた損害に基因して取得した損害賠償金であり,得べかりし利益である売買差金が得られなかった損害に基因して取得した損害賠償金(すなわち,収益補償)ではないから,そもそも,法施行令94条1項柱書の「その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの」に該 かった損害に基因して取得した損害賠償金(すなわち,収益補償)ではないから,そもそも,法施行令94条1項柱書の「その業務の遂行により生ずべきこれらの所得に係る収入金額に代わる性質を有するもの」に該当せず,また,証拠(甲2の1)によれば,原告の損害は,訴外会社らの不法行為である取引勧誘行為によって原告が本件先物取引を行ったことにより生じたものであり,原告が訴外会社との取引関係を清算・終結させることによって,得べかりし利益である売買差金が得られなかったことにより生じたものではないことが認められるから,同項2号の「当該業務の全部又は一部の休止,転換又は廃止その他の事由により当該業務の収益の補償として取得する補償金その他これに類するもの」に該当しない。 よって,いずれにしても,争点(3)に関する被告の主張を採用すること はできない。 ウ一方,原告は,本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分も損害金の一種であることを根拠に,その非課税を主張するが,遅延損害金は得べかりし利益に対する損害賠償(収益補償)であるから,非課税規定が設けられていないのであり,原告の主張が採用できないことは,貸金の利息には課税されるが,履行遅滞により遅延損害金になったら課税されなくなることの不合理を想定すれば明らかである。 争点(4)(本件和解金が法施行令30条柱書括弧書が規定する非課税所得の除外規定に該当するか)について法施行令30条柱書括弧書は,「これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には,当該金額を控除した金額に相当する部分」と規定し,各種所得の金額の計算上必要経費として控除される金額が補てんされた場合は,当該金額が必要経費として控除されるとともに非課税として控 まれている場合には,当該金額を控除した金額に相当する部分」と規定し,各種所得の金額の計算上必要経費として控除される金額が補てんされた場合は,当該金額が必要経費として控除されるとともに非課税として控除されることにより二重の控除がなされることを防いでいるところ,被告は,本件和解金のうち損害賠償金に相当する部分(売買差損,手数料,取引所税,消費税及び弁護士費用)あるいは手数料,取引所税,消費税,弁護士費用に相当する部分は上記「各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額」に当たると主張する。 しかしながら,本件和解金のうち損害賠償金に相当する部分は本件先物取引の売買差損等(売買差損,手数料,取引所税,消費税)により生じた損害の賠償金であるところ,証拠(甲2の1)によれば,同売買差損等は,平成10年分の商品先物取引に関する収入金額から同金額に相当する売買差損等の金額を差し引いた後に残った売買差損等の金額,すなわち損失金額の一部であることが認められるから,同売買差損等が二重の控除となる形で各種所得の計算上必要経費として控除されることはない。 よって,売買差損,手数料,取引所税,消費税については,被告の主張を採用することはできない。 もっとも,弁護士費用については,後記5認定のとおり,その一部が本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分を得るため直接に要した費用となるから,平成13年分の所得の計算上必要経費として控除されることになる。そうすると,前記認定事実によれば,本件和解金のうち非課税とされる損害賠償金に相当する部分の中には150万円の弁護士費用が含まれていることが認められるから,同弁護士費用の額150万円のうち,上記必要経費として控除される額については,これを非課税とすると二重の控除となるので,同額は,法施行令30条柱書括弧書により 用が含まれていることが認められるから,同弁護士費用の額150万円のうち,上記必要経費として控除される額については,これを非課税とすると二重の控除となるので,同額は,法施行令30条柱書括弧書により非課税額から控除されることになる。 そこで,同額を算定するに,本件和解金額1900万円のうち弁護士費用の額は150万円であるところ,後記5認定のとおり,本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分の金額は213万8663円と認められるから,案分計算により,本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分の金額213万8663円に対応する弁護士費用の額は16万8841円と認められ,同額が非課税額から控除されることになる。 争点(5)(本件和解金の帰属年分)について所得税法36条1項は,各種所得の金額の基礎となる収入金額について「その年において収入すべき金額」と規定しているところ,「収入すべき金額」と定め,「収入した金額」としていないことから考えると,同法は,現実の収入がなくても,その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には,その時点で所得の実現があったものとして,上記権利発生の時期の属する年度の課税所得を計算するという権利確定主義を採用しているものと解される(最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)。 しかしながら,ある権利についてそれが義務者により争われた場合には,原則として,同権利の存在を認める裁判が確定した時にその権利が確定するもの と解するのが相当である。けだし,義務者が争った場合には,裁判が確定するまでは,権利が存在するか,その金額はいかほどかを正確に判断することは困難であり,したがって,納税者にその権利について確定申告及び納税を強いることは相当でなく,課税庁に独自の立場でその認定をさせることも相当でないか するか,その金額はいかほどかを正確に判断することは困難であり,したがって,納税者にその権利について確定申告及び納税を強いることは相当でなく,課税庁に独自の立場でその認定をさせることも相当でないからである(最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。 そうすると,本件については,不法行為に基づく損害賠償請求権の存否について原告と訴外会社らとの間で訴訟が係属した後,平成13年11月に両者間で和解が成立したことにより収入すべき金額が確定したといえるから,本件和解金を平成13年分の所得として認定した処分行政庁の判断は相当である。 よって,この点に関する原告の主張には理由がない。 総所得額,納付すべき税額及び過少申告加算税額の計算本件和解金のうち遅延損害金に相当する部分は,所得税法23条ないし34条に規定されたいずれの所得にも該当せず,雑所得と認められるところ,証拠(甲1,2の1)によれば,本件和解金額1900万円は,大分地裁が認定した損害賠償金額1686万1337円に支払期限までの遅延損害金額から100万円未満の金額を差し引いた遅延損害金額を加算した金額であることが認められるから,結局本件和解金額1900万円から損害賠償金額1686万1337円を減じた213万8663円が遅延損害金に相当する部分と認められる。 そうすると,上記213万8663円が雑所得の収入金額と認められるところ,前記前提事実によれば,原告は本件和解金額1900万円を取得するのに,必要経費(弁護士費用)として463万5300円を要しているので,雑所得の収入金額213万8663円に対応する必要経費(弁護士費用)は,案分計算により52万1754円となる。 もっとも,上記必要経費(弁護士費用)のうち16万8841円に相当する金額については,前記3で判示し 金額213万8663円に対応する必要経費(弁護士費用)は,案分計算により52万1754円となる。 もっとも,上記必要経費(弁護士費用)のうち16万8841円に相当する金額については,前記3で判示したように,二重控除を回避するため,法施行 令30条柱書括弧書により非課税額から控除されることになる。 そうすると,雑所得の所得金額は,収入金額213万8663円に非課税額からの控除額16万8841円を加算し,必要経費52万1754円を差し引いた178万5750円となるから,平成16年11月29日付け修正申告の総所得金額2227万7041円にこれを加算した2406万2791円が総所得金額となる。また,同総所得金額から,別紙「平成13年分の所得税の修正申告書B」記載の292万1457円の所得控除を行い端数処理した2114万1000円が課税標準となり,これに所定の税率を乗じた533万2170円から同別紙記載の定率減税額,源泉徴収税額を減じて端数処理した464万2800円が納付すべき税額となる。そして,同額から前記修正申告の納付すべき税額398万2000円を減じた66万0800円が加算税の対象となる税額となり,同額について端数処理した加算税の基礎となる税額66万円に過少申告加算税率10パーセントを乗じた6万6000円が賦課決定すべき過少申告加算税となる(なお,国税通則法65条2項が規定する加重の過少申告加算税は生じない。)。 結論 以上によれば,原告の請求のうち,処分行政庁が平成17年3月2日付けで原告に対してした平成13年分の所得税に係る更正処分のうち,総所得金額2406万2791円,納付すべき税額464万2800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち,6万6000円を超える部分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容する ち,総所得金額2406万2791円,納付すべき税額464万2800円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち,6万6000円を超える部分の取消しを求める部分は理由があるからこれを認容することとし,原告のその余の請求については理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条,61条を適用して主文のとおり判決する。 大分地方裁判所民事第2部裁判長裁判官一志泰滋 裁判官児玉禎治裁判官佐藤智彦※別紙「平成13年分の所得税の修正申告書B」省略

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