主文 被告人は無罪。 理由 第1 事案の概要 1 本件公訴事実の要旨は,「被告人は,税理士として,分離前の相被告人Aの所得税の申告に関与したものであるが,同人と共謀の上,同人の所得税を免れようと企て,同人の平成15年分の実際の総所得金額が3億3785万6947円で,これに対する所得税額が1億2168万2400円であったのに,同人に帰属する事業所得の過半をその妻のB名義で申告してAの所得から除外するとともに,架空の開発費の償却額を計上するなどの方法により,その所得の一部を秘匿した上,平成16年3月12日,所轄甲税務署において,同税務署長に対し,同人の平成15年分の総所得金額が4418万2556円で,これに対する所得税額が1338万9000円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,同人の平成15年分の所得税1億829万3400円を免れた。」というものである。 これに対し,被告人は,事実は異なる旨陳述し,弁護人も,被告人がAと脱税を共謀した事実はなく,被告人は無罪であると主張する。 2 そこで検討するに,本件公訴事実のうち,Aが平成16年3月12日所轄甲税務署長に対し同人の平成15年分の総所得金額が4418万2556円で,これに対する所得税額が1338万9000円である旨の所得税確定申告書(以下「本件申告書」という。)を提出し,そのまま法定納期限を徒過させたこと,また,その際,税理士である被告人がAの依頼を受けて申告のための事務を行ったことについては,いずれも争いがなく,関係各証拠上も明らかである。 3 また,関係各証拠によれば,Aの平成15年分の所得に関して,以下の事実が認められる。 (1) Aは, 告のための事務を行ったことについては,いずれも争いがなく,関係各証拠上も明らかである。 3 また,関係各証拠によれば,Aの平成15年分の所得に関して,以下の事実が認められる。 (1) Aは,平成10年6月にタイに渡航した際,食べると豊胸効果があると現地で言われているプエラリア・ミリフィカという学名のイモが同国内に存在することを知り,これを丙町の特産品として売り出そうと考え,以後,何度かタイに出向いたり,現地在住者をエージェントとして使うなどしてプエラリア・ミリフィカに関する調査を進めた上,丙町内での栽培と加工に成功し,平成12年5月,その乾燥粉末を「夢美人」という商品名で売り出すとともに,販売元として妻Bを組合長とする丙町特産物市場組合(以下「組合」という。)を立ち上げたが,その実質的な経営は自らが行っていた。 「夢美人」は,当初売上が伸びなかったものの,平成15年1月,テレビの全国放送番組で取り上げられたのを契機として爆発的に売れ出し,組合の口座に多額の売上金が入金されるようになったため,Aは,これを次々と引き出し,その一部を借入金の返済,自宅の改装,自動車の購入等に費消した。 (2) 「夢美人」の売上が伸びてきたため,Aは,税務署から,組合の法人税の申告が必要であるとの指摘を受け,被告人に事務を依頼して組合の法人税申告をすることにしたが,平成15年10月期の決算に関する申告に先立ち,期中に組合の口座から引き出した総額3億5600万円について,被告人と相談し,その大半を組合のBに対する仕入代金とし,残りを組合のAに対するロイヤリティーやBに対する賞与などとして処理することにした。 (3) 一方で,被告人とAは,このままではBらに多額の所得税が課されることになるため,Aがタイでプエラリア・ミリフィカを入手し,「夢美人」と ティーやBに対する賞与などとして処理することにした。 (3) 一方で,被告人とAは,このままではBらに多額の所得税が課されることになるため,Aがタイでプエラリア・ミリフィカを入手し,「夢美人」として商品化するまでに要した費用を必要経費とすることにより税負担を軽減できないかと考え,甲税務署の担当官に相談したところ,これらの費用を税務当局に必要経費(繰延資産)として認めてもらうには領収書が必要であることを認識した。そこで,Aは,平成16年2月26日から同年3月1日までタイに行き,現地でエージェントとして使っていた者から,Bなどを名宛人とする領収金額合計1億バーツ余りの調査費用等の領収書140枚余り(以下一括して「本件領収書」という。)を受け取って日本に持ち帰り,被告人に渡したが,それらの日付は,いずれも1998年(平成10年)1月以前のものであった。 (4) その後,被告人は,本件領収書とAの説明を基に,「夢美人」の商品開発のためにタイ及び日本国内で要した費用の内訳をA分とB分とに区分して整理し,領収書のない諸経費については推計するなどして,その合計をA分については1億2986万円余り,B分については3億279万円余りと算出した「開発費」と題するメモを作成した。 そして,Aと被告人は,本件領収書の金額が名宛人の割合ではAとBとでおおよそ3対7になっていたことから,本件申告書においては,組合の法人税申告においてBに対する仕入代金とした金額に対応する事業収入をこの3対7の割合でAとBとに振り分けた上,AとBの各事業収入に対しそれぞれ上記各人毎の開発費の額の50パーセントに相当する額を開発費償却(実際の記載は「開発費消却」)額として経費計上し,さらに,Aのロイヤリティー名目の雑収入に対し上記Aの開発費の額の20パーセントに相当する額を同様 開発費の額の50パーセントに相当する額を開発費償却(実際の記載は「開発費消却」)額として経費計上し,さらに,Aのロイヤリティー名目の雑収入に対し上記Aの開発費の額の20パーセントに相当する額を同様に経費計上した。 (5) さらに,被告人は,本件申告書の作成にあたって,いずれも領収書等による裏付けはなかったものの,Aの事業収入に対するその他の経費として,旅費交通費180万円,接待交際費280万円及び雑費36万円を,また,雑収入に対するその他の経費として雑費36万円をそれぞれ計上し,Aの了解を得た。 これらの事実によれば,「夢美人」の商品開発及び組合経営を主体的に行っていたのは,BではなくAであり,かつ,同人は,その組合の売上金を自由に引き出して取得していたのであるから,組合が「夢美人」の販売による売上金の中から仕入代金の名目でBに対し支払ったとされるものがあったとしても,それらは実質的には全額Aに対するものであり,その収入は同人に帰属するものと認めるのが相当である。 また,Aがプエラリア・ミリフィカの存在を知り,その商品化のための調査等に着手したのは,平成10年6月以降であるから,同年1月以前の日付である本件領収書は虚偽を記載したものであることが明らかであり,これを前提として算出した開発費はすべて架空のものである。 さらに,Aの収入に対するその他の経費として計上された旅費交通費,接待交際費及び雑費は,いずれも領収書等の裏付けがない以上,支出実体がないものとして本来経費として計上できないものと認めざるを得ない。 そして,Aは,これらの事情を当然認識していたはずであるし,当公判廷においても,本件公訴事実を認めている。 以上の事実並びに財務事務官作成のAの総所得額の認定及びこれに対する所得税額の算定に関する ,Aは,これらの事情を当然認識していたはずであるし,当公判廷においても,本件公訴事実を認めている。 以上の事実並びに財務事務官作成のAの総所得額の認定及びこれに対する所得税額の算定に関する査察官調査書によれば,本件公訴事実にかかるAによる所得税のほ脱の事実を認めることができる。 4 そうすると,本件の争点は,被告人がAと本件公訴事実にかかる所得税のほ脱を共謀したか否かということになる。 第2 争点に関する判断 1 関係各証拠によれば,被告人が本件申告書を作成するに至った経過等について,前記認定事実に加え,以下の事実が認められる。 (1) 被告人は,かつて20年以上前,Aの父が経営していた会社の顧問税理士をしていたことから,Aとも知り合い,A自身の経営する会社についても,税務相談に応じたり,決算や法人税の申告を代行するようになった。 ただ,Aは,平成3年ころから乙木材株式会社という材木の伐採や販売をする会社を経営していたものの,同社は,決算上平成5年3月期及び平成8年3月期を除いて赤字続きであった上,全期を通じて法人税を納めたことがなく,商法改正に伴う最低資本金不足により法定解散となった平成9年ころには,すでに1億5000万円近い負債を抱えたまま休眠状態にあった。 (2) 被告人は,平成15年3月ころ,事務員を通じて,Aより,税務署に提出する組合の収益事業開始届の作成を依頼されたことから,Aが平成12年11月から組合という形で事業を始めていたことを知り,その後,同人と直接会って,その事業内容が,タイ原産のイモを粉末にした食品を「夢美人」という商品名で丙町の特産品として販売するというものであることを聞いた。そして,被告人は,Aから,組合の設立以来の法人税申告の事務を依頼されたため,組合から出させた資料を基に振替伝票及び を「夢美人」という商品名で丙町の特産品として販売するというものであることを聞いた。そして,被告人は,Aから,組合の設立以来の法人税申告の事務を依頼されたため,組合から出させた資料を基に振替伝票及び総勘定元帳を作成し,平成15年5月ころ,甲税務署に組合の平成13年10月期及び平成14年10月期の法人税確定申告書を提出し,その後,平成15年10月期の決算及びそれに基づく法人税の申告の準備に入った。その過程で,被告人は,Aが組合の口座から多額の出金をしていること知ったが,被告人が聞いていたAの言い分としては,「夢美人」は,自分が長年苦労して見つけたイモを丙に取り寄せて栽培に成功し,商品化したものであるから,その販売による儲けの大部分は自分がもらって当然というものであった。 (3) 被告人は,組合の平成15年10月期の決算及び法人税申告を行うにあたって,Aに対し,同人やBに対し多額の所得税が課されることを説明したところ,Aから,タイでイモを入手し,丙町で商品化するために1億円から2億円を使ったという話を聞いたが,領収書はないとのことであった。ところが,被告人がタイにおいて支出したイモの研究開発費の計上について税務署に相談に行った際,領収書が必要であると言われたため,Aに領収書の必要性を説いたところ,その直後,前記のとおり,Aは,タイに渡り,数日のうちに本件領収書を持って帰国し,被告人に手渡した。 しかも,その合計金額は,日本円で約3億7000万円になり,前にAから聞いていた金額とかなり開きがあった。また,それらの日付は,1992年3月から1998年1月までのものであり,名宛人も7割程度がBになっていた上,中には「UNDERTABLE」といういかがわしい金銭授受をうかがわせる記載もあった。さらに,本件領収書は,大きく分けて6種類の異なった用紙からなり, のであり,名宛人も7割程度がBになっていた上,中には「UNDERTABLE」といういかがわしい金銭授受をうかがわせる記載もあった。さらに,本件領収書は,大きく分けて6種類の異なった用紙からなり,作成名義人もその種類毎にまちまちであったが,その日付の違いにもかかわらず,用紙の経年度合い及び手書き部分の筆跡が各種類毎にほぼ同じであり,それぞれ同一機会に作成されたことをうかがわせる体裁でもあった。 また,被告人は,本件領収書及びAの説明から整理又は推計した開発費について,将来,税務調査を受けた際,必要経費として全部は認めてもらえない可能性があるものと考え,申告前にその旨Aに伝えた上,申告の際にも,事業収入に対する経費として計上する償却額は開発費総額の50パーセント相当額に留めることにした。 (4) 被告人は,A又は組合より,平成15年4月11日から平成16年8月7日までの間に,6回にわたり1回につき100万円又は200万円を現金又は口座振込の方法で受け取っており,その合計は700万円となる。 他方,被告人が,本件当時,税理士として受け取る顧問料は,1件あたり高くても年間150万円程度であった。 以上のような被告人が本件申告書を作成するに至った経過等に関する事実を総合すると,被告人が,本件申告書提出時において,組合が「夢美人」の販売による売上金の中から仕入代金の名目でBに対し支払ったとされるものは,実質的には全額Aに帰属するものであること,本件領収書は虚偽を記載したものであり,これを前提として算出した開発費はすべて架空のものであること,Aの収入に対するその他の経費として計上された旅費交通費,接待交際費及び雑費がいずれも支出実体がないものとして本来経費として計上できないものであることを認識していたものと一応疑うことが のであること,Aの収入に対するその他の経費として計上された旅費交通費,接待交際費及び雑費がいずれも支出実体がないものとして本来経費として計上できないものであることを認識していたものと一応疑うことができる。 2 次に,Aの供述状況について見るに,同人の検察官に対する供述調書には,上記各点に関する被告人の認識やAとの本件ほ脱に関する共謀状況に関する積極的な記載がほとんど見られないが,分離前の公判においては,被告人との共謀による所得税ほ脱の公訴事実に対し,そのとおり間違いない旨陳述するとともに,分離後の証人尋問においても,商品開発の時期や主体については,「被告人は,平成4年から平成10年までの間の自分の経済状態をよく知っていた。」「10年前からタイに行っていたとは被告人に言っていない。」「被告人に夢美人の商品化までに10年かかったとは言っていない。」「被告人にBがタイに行ったという話はしていない。」などと証言する。また,本件領収書については,「被告人が領収書を用意しようと言い出し,タイに行って10年分の領収書を取ってこいと言った。」「本件領収書が偽物であることは,タイに取りに行く前から被告人にも分かっていた。」「用意する領収書の金額について3億円と言ったのは被告人である。」「本件領収書の金額がAとBとで3対7の割合になっていたり,発行者が分かれているのは,被告人の指示によるものである。」「被告人との間で,資金は,華僑から借りたことにしようという話になった。」「被告人に本件領収書が税務署に認められないのではないかと聞くと,被告人は,日本の国家権力にタイにおける捜査権はないと言っていた。」などと証言する。加えて,報酬についても,「被告人に平成15年6月に払った200万円及び平成16年1月に払った100万円は,いずれも税金を安くする指導料であり,同年3月に る捜査権はないと言っていた。」などと証言する。加えて,報酬についても,「被告人に平成15年6月に払った200万円及び平成16年1月に払った100万円は,いずれも税金を安くする指導料であり,同年3月に払った100万円は,税金を安くできた成功報酬である。」などと証言する。 3 さらに,被告人の検察官に対する供述調書にも,個人の事業収入の帰属について,「Aが組合の口座から引き出した金は,本来,組合を実質的に切り盛りしていたA1人の収入とすべきものであった。」(乙22)「Aが組合の口座から引き出した金は,夢美人の商品化を成功させた自分の取り分として取得したものと判断していた。」(乙29)などという記載があり,本件領収書についても,「架空のものであるという認識を持ちながら,あえてそのことは目をつぶった。」(乙22)「Aは,平成10年以前は,プエラリア・ミリフィカの開発に多額の資金を投入できるような経済状態にはなかった。」(乙27)などと記載されているものがあり,加えて,財務事務官の被告人に対する質問てん末書(乙26)には,前記Aの収入に対するその他の経費として計上された旅費交通費,接待交際費及び雑費について,「これらは,自分が勝手に計上した,まったく根拠のない経費である。」などと記載されているものがある。 4 しかしながら,以下の理由により,被告人がAと本件公訴事実にかかる所得税のほ脱を共謀したと認めるには,なお合理的な疑いを差し挟む余地があるというべきである。 (1) 事業収入の帰属について本件で問題になっている個人の事業収入は,組合の平成15年10月期の決算及び法人税申告において,組合の口座からの出金がBに対する仕入代金の支払として処理されたことに由来するものであるところ,その帰属について,被告人の捜査段階における供述調書等には, 15年10月期の決算及び法人税申告において,組合の口座からの出金がBに対する仕入代金の支払として処理されたことに由来するものであるところ,その帰属について,被告人の捜査段階における供述調書等には,前記のような記載もある一方で,財務事務官の被告人に対する別の質問てん末書には,組合の平成15年10月期の決算及び法人税申告の際,Bをその仕入代金の支払先としたのは,Aから要請を受けたからであり,被告人としても,Bが組合の組合長で,Aの妻でもあり,仕事にも頑張っているようなので問題はないと判断した旨の記載がある(乙18)。 また,Aの証言からも,Bがプエラリア・ミリフィカの栽培や加工に従事していることが窺われる上,関係各証拠によれば,Bは,組合の売上管理の事務も行い,また,組合の使用する不動産の所有名義人でもあった上,組合の口座から引き出された売上金の多くは,一旦B名義の口座に入金されていたことも認められ,これらの事実に照らすと,Bも「夢美人」の製造販売に関わっていたのであって,単に組合長として名義を貸しているだけというような状況ではなかったことが明らかである。しかも,AとBが当時夫婦であり,経済的に一体であったことからすれば,Aが売上金を取得・費消したとしても,Bもその経済的利益を受けていたといえる。 そして,夫婦ともども関与する事業において,夫婦間における役割分担や貢献度は,有形無形のものもあることを勘案すると,外部からは必ずしも明確ではない。 そうすると,前記のとおり,組合が「夢美人」の販売による売上金の中から仕入代金の名目でBに対し支払ったとされるものは,実質的には全額Aに対するものであり,収入としては同人に帰属するものと認められるにしても,上記のような証拠状況や事実関係からすると,被告人において,本件申告書 の名目でBに対し支払ったとされるものは,実質的には全額Aに対するものであり,収入としては同人に帰属するものと認められるにしても,上記のような証拠状況や事実関係からすると,被告人において,本件申告書を提出する際,その旨認識していたと認めるにはなお疑問が残る。 (2) 開発費についてア前記認定のAによる「夢美人」の開発に要した費用額に関する当初の説明と本件領収書に記載されていた金額合計の食い違い,短期間で本件領収書が用意された状況,本件領収書の記載内容及び体裁などからすると,被告人においても,「夢美人」の開発で億単位の費用を要したとするAの説明や本件領収書の信憑性について疑念を抱くのが自然であるし,本件領収書の日付が1992年(平成4年)から1998年(平成10年)にかけてのものであったことからすれば,その時期,前記のとおりほとんど赤字続きで法人税を全く納めたことのない乙木材株式会社の決算や法人税申告の事務をしていた被告人としては,その経営者であったAが本件領収書にあるような多額の資金を実際に調達できたかについて疑念を抱いてもおかしくない立場にあったといえる。 したがって,Aの説明や本件領収書についていささかの疑念も抱かなかったかのようにいう被告人の公判供述は信用することができない。 イしかしながら,証拠上,Aが被告人に対し本件領収書が虚偽のものであることを明示的に伝えた事実は認められない上,本件領収書は,日本国内で作成されたものではなく,まがりなりにもAが大金を使ったというタイから持ち帰ったものであること,また,その経過だけ見ても,本件領収書は,実際の支払時に作成されたものではなく,開発費の計上のためには領収書が必要であることを認識したAがこれを用意するためにタイに渡航した前後の一時期に作成された ,また,その経過だけ見ても,本件領収書は,実際の支払時に作成されたものではなく,開発費の計上のためには領収書が必要であることを認識したAがこれを用意するためにタイに渡航した前後の一時期に作成されたものであることは被告人にも分かっていたはずであるが,取引形態や当事者の関係によっては,後日,支払者の要請を受けて,帳簿等から支払を確認の上領収書を一括で発行するという事態も全くあり得ないわけではないこと,さらに,本件領収書の記載内容や体裁の点でも,文字は英語又はタイ語で記載され,それぞれ明細らしき記載もあり,発行者名義も6つほどに分かれ,金額も必ずしも切りの良いものではなかったことなどからすると,被告人において,本件領収書の入手経緯や記載の内容・体裁のみから,これらが虚偽のものと容易に判断できたとまではいえない。 また,本件のように後日税務調査を受けることが予想される特異な案件で,元税務署員であり,税理士としての経験も長い被告人が,一見して虚偽であることが明らかな領収書に基づいて所得税の申告をするとは考え難い。 なお,本件領収書の一部にあった「UNDERTABLE」という記載については,税務当局に経費としての当否を問題にされる恐れはあるものの,そのような内容を敢えて記載しているという点では,むしろ真実味を帯びるともいえる。 ウまた,乙木材株式会社は,被告人にとって,本件領収書を示された平成16年3月時点においては,5年ないし10年以上も前に税務を依頼された零細な一顧問先にすぎなかったとも考えられることからすれば,その時期と本件領収書の日付の時期とを重ね合わせて,当時の同社の経営状態,さらにはその経営者であるAの資金調達能力を想起することにより,本件領収書の信憑性に疑念を抱くのが当然とまではいえない。 の時期と本件領収書の日付の時期とを重ね合わせて,当時の同社の経営状態,さらにはその経営者であるAの資金調達能力を想起することにより,本件領収書の信憑性に疑念を抱くのが当然とまではいえない。 エもっとも,被告人は,捜査・公判を通じ,本件領収書の総額からその資金調達方法に疑問を抱き,Aに尋ねたところ,タイの華僑から資金協力を得たと言われた旨供述しており,これによれば,資金調達方法の点については,Aから被告人に対し一応の説明がなされていたことになるところ,この被告人の供述はにわかに排斥できない。 オまた,被告人がA又は組合から受け取った700万円については,確かに,その金額は,被告人が当時顧問先から受け取っていた税理士報酬の中では突出しており,Aにおいて被告人に対し税理士として特別の働きを期待して支払ったものであり,被告人としてもそれを強く意識せざるを得ないものであったことは否定できない。 しかしながら,本件申告書にかかる申告税額が1338万円余りであり,また,同時期に提出されたBの所得税申告書による申告税額が2億196万円余りであるのに加え,その直前に申告された組合の平成15年10月期の法人税額が1336万円余りであったことからすると,上記700万円の税理士報酬も,これらのすべての申告事務に対するものであるとすれば必ずしも法外とまではいえない反面,もしこれがAの証言するように本件脱税の指導料や成功報酬であるとすれば,脱税額の10パーセントにも満たないものであり,やや少額に過ぎるというべきである。 カ他方,前記のとおり,Aは,この点を含めて,あたかも被告人が事前に架空の領収書となることを知って,Aにその金額,名宛人毎の金額割合,発行者を分けることなどを指示し,しかも,Aがその時期にタイでプエラリア・ 前記のとおり,Aは,この点を含めて,あたかも被告人が事前に架空の領収書となることを知って,Aにその金額,名宛人毎の金額割合,発行者を分けることなどを指示し,しかも,Aがその時期にタイでプエラリア・ミリフィカの調査等を開始したとは言っていないにもかかわらず,日付を10年前まで遡らせた本件領収書を用意させた上,Aとの間で税務当局による調査を予想した対応も話し合っていた旨証言する。 しかしながら,上記Aの証言は,検察官の質問には迎合的である反面,弁護人の質問には反発的であったその証言態度もさることながら,内容的にも,脱税が終始被告人主導で行われたかのように述べるもので,当時,すでにAが本件公訴事実について未確定ながら執行猶予付きの有罪判決を受けていたことから,自己の刑事責任の軽減を目論んでいたとは考え難いものの,証拠上同人がこれまで地域貢献活動を積極的に行っていたという事実も認められることからすると,今後の社会活動において道義的非難を回避したいなどの思いから,事実を歪めて証言している可能性も視野に入れなければならない。 そして,Aの上記証言内容のうち,被告人が本件領収書の金額をA分とB分とで3対7の割合になるよう指示したとする点について,Aはそのような話は平成15年6月からしていたと証言するが,その時点では,組合の決算時期は未到来であり,AやBの事業収入の前提となった売上金の引出分については,その決算上の処理方法はもちろん金額さえも確定していなかったのであり,しかも,その後の組合の法人税申告においても,名目上振り分けられたAとBに対する支払額の割合は10対62であったことからすると,Aの証言のうちこの部分は客観的事実に反し不合理というほかない。 また,被告人が本件領収書の日付を10年前まで遡らせたとす Bに対する支払額の割合は10対62であったことからすると,Aの証言のうちこの部分は客観的事実に反し不合理というほかない。 また,被告人が本件領収書の日付を10年前まで遡らせたとする点も,Aのタイにおけるプエラリア・ミリフィカの調査・開発時期について,同人から話がないにもかかわらず,被告人が勝手に決めつけた上,Aもこれに従ったというのはいかにも不自然であるのに対し,Aから「夢美人」の商品開発に10年を要したと言われていたとする被告人の公判供述はにわかに排斥できない。 さらに,その他の部分でも,Aが被告人に対しタイのエージェントに年平均500万円を支払っていたと説明したか否かについて,Aは,捜査段階ではその旨述べているにもかかわらず(乙5の同意部分),公判証言ではこれを否定しており,その供述内容が矛盾している。 加えて,Aは,本件が税務当局に発覚した後,被告人に対し,1億3000万円をタイに持参して支払をしたなどと虚偽の事実を述べている。 以上からすると,Aの公判証言はその信用性に疑問がある。 キさらに,本件領収書は架空のものであるとの認識を抱いていたとする被告人の上記供述調書の記載についても,捜査段階で作成された被告人の供述調書の中でこのような記載があるものはむしろ少なく,本件領収書が架空である疑いを持っていたにとどまる旨の記載の方が多い(乙22,31,33,36)。 ク以上によれば,被告人が,本件申告書提出時において,本件領収書は虚偽を記載したものであり,これを前提として算出した開発費はすべて架空のものであることを認識していたと認めることには躊躇せざるを得ない。 (3) その他の経費についてAの収入に対するその他の経費として計上された を前提として算出した開発費はすべて架空のものであることを認識していたと認めることには躊躇せざるを得ない。 (3) その他の経費についてAの収入に対するその他の経費として計上された旅費交通費,接待交際費及び雑費については,前記のとおり,被告人において,いずれも支出実体のないものとして本来経費として計上できないものであることを認める趣旨の記載のある財務事務官による質問てん末書がある。 しかしながら,被告人に対する別の質問てん末書(乙19)には,上記各経費について,「Aの場合,あっちこっちに出張しているだろうとか,交際費としてこれくらいは支出しているだろうと,私がかってに推測して金額を決めました。」「収支内訳書に先に私が決めた経費の額を記入しておいて,Aにこういう計算になったので,それで良いか確認して,A夫婦からそれぞれ押印をしてもらいました。」との記載があり,これによれば,上記各経費については,領収書等はなかったものの,被告人において,経験則から,Aの収入額に対してはこの程度の支出があるものと推測して計上し,同人の了解を得ていたことになる。 このような証拠状況に加え,本件申告書におけるAの収入額,上記各経費の費目及び計上金額を勘案すると,これらについては,被告人において,裏付けを偽装して所得税のほ脱を図ろうとしたというよりも,とりあえず抽象的にではあるが支払が推測される範囲の必要経費として計上しつつ,最終的には税務当局の判断に委ねる趣旨であった可能性も否定できず,この点について虚偽の認識があったと決め付けることはできない。 第3 結論よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。 (検察官求刑懲役1年)平成18年 できない。 第3 結論よって,本件公訴事実については,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に対し無罪の言渡しをする。 (検察官求刑懲役1年)平成18年6月20日神戸地方裁判所第4刑事部裁判官佐茂剛
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