平成27年5月29日判決言渡平成26年(行コ)第183号障害基礎年金不支給処分取消請求控訴事件 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 処分行政庁が平成22年10月22日付けで控訴人に対してした国民年金法による障害基礎年金の支給をしない旨の処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 本件は,平成元年12月1日を初診日とする不安恐慌性障害及び回避性人格障害により国民年金法(平成24年法律第63号による改正前のもの。以下「法」という。)30条の2第1項による障害等級に該当する程度の障害の状態にあるとして,平成22年8月19日に事後重症による国民年金障害基礎年金の裁定請求(以下「本件請求」という。)を行った控訴人が,処分行政庁から国民年金法施行令(以下「施行令」という。)別表に定める程度に該当しないことを理由として不支給処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,これを不服として本件処分の取消しを求めた事案である。 2 原判決は,控訴人の請求を棄却したことから,控訴人が控訴を提起し,上記第1のとおりの判決を求めた。 3 法令等の定め,前提事実(当事者間に争いがないか,原判決掲記の証拠等により容易に認められる事実等),争点及び争点に関する当事者の主張は,下記のとおり補正し,後記4の控訴人の当審における補充主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」第2の2ないし5のとおりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 5頁14行目の「認定基準」の次に「について」を,16行目の「認定基準」の次に「の改正」を,それぞれ加える。 8頁18行目 おりであるから,これを引用する。 (原判決の補正) 5頁14行目の「認定基準」の次に「について」を,16行目の「認定基準」の次に「の改正」を,それぞれ加える。 8頁18行目の「該当しない」を「該当していない」と改める。 8頁7行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。 「ウ認定の時期障害の程度の認定の時期は,次のとおりとする。 「事後重症による年金」については,裁定請求書を受理した日(65歳に達する日の前日までに受付けたものに限る。)」 9頁末行の「対人接触」の前に「重要な」を加える。 4 控訴人の当審における補充主張 本件認定基準に照らして障害等級の審査を行うことができないこと(争点 ア原審は,施行令別表における「日常生活」とは,社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中での社会的な活動よりも狭い範囲の活動,具体的には,食事や入浴,家事等,他人関係を伴わず,主に家庭内で行う活動や,買物や通院等,比較的単純な対人関係を伴う活動をいうものと解されるとする。 しかし,国民年金等の請求に添付すべき「診断書(精神の障害用)」の様式(平成23年の改正前のもの)においては,「⑩障害の状態ウ日常生活状況」の欄の「1」には,「家庭及び社会生活についての具体的な状況」との記載があり,「社会生活」が「日常生活」の中に包摂された概念として記載されている(甲1の3)。さらに,上記「診断書(精神の障害用)」の様式(平成23年の改正後のもの)においては,「⑩障害の状態ウ日常生活状況」の欄の「2は「社会性-銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。 また,社会生活に必要な手続きが行えるなど。」との記載があり(乙21),「日 いては,「⑩障害の状態ウ日常生活状況」の欄の「2は「社会性-銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。 また,社会生活に必要な手続きが行えるなど。」との記載があり(乙21),「日常生活」の中に「社会生活に必要な手続」が包摂されているものである。かかる記載からすれば「日常生活」の中に「社会生活」ないし「社会的活動」が包摂されているものである。 とすれば,「日常生活」とは「社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中での社会的な活動よりも狭い範囲の活動,具体的には,食事や入浴,家事等,他人関係を伴わず,主に家庭内で行う活動や,買物や通院等,比較的単純な対人関係を伴う活動をいうもの」と解されるとする原審の判断は,日常生活のほかに社会的活動がある理解であり,診断書様式の内容と齟齬をきたしている。 そもそも,日常生活と社会生活の線引き自体,あいまいであって峻別が困難である。控訴人は,例として,町内会活動や自営業の農家を挙げたが,それ以外にも,社会生活に必要な手続などの場合,住民票を取得するなどの行為は複雑な人間関係を必要としないが,社会生活に包含される概念である。さらに,「主婦」は一般企業内ではないが,地域,学校等の社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中で社会活動をしている者であり,主婦の活動こそ,日常生活と社会的活動の区別が困難である。 しかしながら,原審は,かかる社会的活動と日常生活の判別が微妙な部分については,何ら考察を加えず,「日常生活」を送ることが困難か否かで判別するという,被控訴人の主張を一方的に取り入れており,誤りである。 よって,「日常生活」の中には「社会生活」ないし「社会的活動」と峻別困難な活動が含まれている以上,「日常生活」の支障の程度という基準は, 人の主張を一方的に取り入れており,誤りである。 よって,「日常生活」の中には「社会生活」ないし「社会的活動」と峻別困難な活動が含まれている以上,「日常生活」の支障の程度という基準は,支給対象者を適切に選別する基準として機能し得ず,基準として不合理なものといわざるを得ない。 法律により具体的な基準の設定が政令に委任されている場合,行政庁は適正手続の要請(憲法31条)に基づき,行政庁の恣意的判断を防止し,申請者が支給を認められるか否か,具体的に判断できる程度の明確な基準を定立する義務を負い,不合理又は不明確な基準は違法であることは明らかである。 イ原審は,人格障害も神経症も,社会生活(労働に従事すること等の,様々な他人との複雑な人間関係の中での活動)を送る能力に一定の制限を受けることがあるにしても,日常生活が著しい制限を受け,あるいは,日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度に当たるものとは認めがたいので,人格障害は原則として認定の対象とはならず,神経症についても原則として認定の対象とはならないが,その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては,統合失調症又はそううつ病に準じて取り扱うものとしている。そして,人格障害や神経症のいずれにおいても境界事例においては精神病との区別・鑑別は必ずしも容易とはいえず,人格障害のうち統合失調症型障害に分類されるものや,神経症であっても,「現実」と「非現実」,「自己」と「非自己」の区別がつかなくなったり,自己が病気であるという認識(病識)がなくなるような精神病の病態を示すものもあり,このような場合には,障害の状態が統合失調症(軽快したものを除く。)と同様に日常生活能力に著しい制限をもたらすことも十分にありうるのであり,したがって,本件認定基準の 精神病の病態を示すものもあり,このような場合には,障害の状態が統合失調症(軽快したものを除く。)と同様に日常生活能力に著しい制限をもたらすことも十分にありうるのであり,したがって,本件認定基準の神経症及び人格障害に関する内容は,施行令別表の解釈に沿ったものということができ,本件認定基準は,基準としての明確性を欠いているという事情があるとはいえず,合理的かつ適正なものであるといえる旨説示する。 原審は,「人格障害は,原則として認定の対象とはならない」及び「神経症にあっては,その症状が長期間持続し,一見重症なものであっても,原則として,認定の対象とならない。ただし,その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては,精神分裂病又はそううつ病に準じて取り扱う」(乙3)旨認定要領に記載されているとするが,かかる判断も,精神病と同様に日常生活能力に著しい制限をもたらすか否かで判断しているものであり,日常生活能力判定が,不明確かつ不合理な基準である以上,原則及び例外の基準としても不明確かつ不合理な基準であるといわざるを得ない。 ウ原審は,障害等級に該当するか否かを個別に判断する際には,本件認定基準に照らして,これを判断するのが相当であり,個別に審査義務を負うものではない旨説示する。 しかし,認定基準は,行政の裁量権の行使を適正ならしめるために設定されるものであり,一度定めた基準を機械的に適用しなければならないとすると行政庁に裁量を認めて個別の事案に応じた柔軟な判断を可能とした法律の本来の趣旨にそぐわない。よって,事案の性質に照らして合理的な理由がある場合には,あらかじめ定められた裁量基準と異なる個別判断も許容されるものである。 控訴人の症状は固定し,かつ長期間継続している状態にあること, って,事案の性質に照らして合理的な理由がある場合には,あらかじめ定められた裁量基準と異なる個別判断も許容されるものである。 控訴人の症状は固定し,かつ長期間継続している状態にあること,控訴人の日常生活には著しく支障があること等が認められる(甲1の4,甲4)。さらに,控訴人は,注意集中の困難,持続力の低下,意欲の減退にあいまって,作業能力は質量ともに低下し,就労不能の状態にあるものである(甲1の3)。かかる控訴人に対しては,生活の安定が損なわれているかどうか個別具体的に審査すべきであったところ,そのような個別審査を尽くすことなく機械的に認定基準を適用していることは違法である。 仮に,本件認定基準が合理的な適法な基準であったとしても,次のとおり,控訴人は障害等級の認定の対象となるものである。 まず,控訴人の主治医であるA医師の診断書によれば,控訴人は「パニック発作は治療により一応コントロールされているが,不安,焦燥,抑うつ,心気症状が持続し,注意集中の困難,持続力の低下,意欲の減退とあいまって作業能力は質量ともに低下し,就労不能の状態にある」ものである(甲1の3)。 また,病歴状況申立書によれば,控訴人は「呼吸困難がひどく,何も活力がわかず,食事ものどを通りません」との症状が,平成元年12月1日から平成22年8月6日まで継続しており,日常生活についても親が面倒を見なければ何もできない,着替え,食事,入浴及び洗濯には援助を要し,炊事,掃除は一人でできない状況にある(甲1の4)。他人との意思伝達及び対人関係及び身辺の安全保持及び危機対応については,自発的にはできないが援助があればできる状況であり(甲1の3),控訴人は症状によっては買物に一人で行くことが困難な場合もあり,母親が買物に行くこ び対人関係及び身辺の安全保持及び危機対応については,自発的にはできないが援助があればできる状況であり(甲1の3),控訴人は症状によっては買物に一人で行くことが困難な場合もあり,母親が買物に行くことが多い状況にある(甲4)。騒音や閉鎖空間において閉塞状態に恐怖感を感じてパニック発作を起こしそうになることとの関係で,バスや地下鉄等の公共交通機関やエレベーターを利用することが困難な状態にあり,公共施設等を利用したり,他人と接触を伴う日常行動をしたりすることに大きな支障を生じている(甲4)。控訴人は,食事の買物等を一人で行くことができることがあったとしても,日常生活では,食事の買物は,日々発生するものであり,日々自発的に一人でできなければ,日常生活を送ることができないものである。「現実」と「非現実」,「自己」と「非自己」の区別ができていたと認められ,病識も有していたとしても,かかる基準は,精神病態を示す例示の一つにすぎず,かかる基準を満たさないから精神病の病態でないとはいえないのであり,かかる点からも原審は誤りである。 よって,控訴人は「精神の障害であって,日常生活が著しい制限を受け」ているものとして障害基礎年金2級16号に該当する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の請求は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。 その理由は,後記2のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほか,原判決が「事実及び理由」第3の1及び2に説示するとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決19頁3行目の「日常生活を送る能力や社会に適応する能力」を「日常生活や社会生活を送る能力」と,22頁3行目の「本件処分時」を「裁定請求書を受理した日」と各改める。)。 2 控訴人の当審における主張について 能力や社会に適応する能力」を「日常生活や社会生活を送る能力」と,22頁3行目の「本件処分時」を「裁定請求書を受理した日」と各改める。)。 2 控訴人の当審における主張について しかしながら,原判決(17頁3行目から18頁2行目まで)が正当に説示するとおり,厚生年金保険法施行令別表第1との対比によっても,施行令別表における「日常生活」とは,労働に従事すること等の,社会内における様々な他人との複雑な人間関係の中での社会的な活動よりも狭い範囲の活動,具体的には食事や入浴,家事等,他人関係を伴わず,主に家庭内で行う活動や,買物や通院等,比較的単純な対人関係を伴う活動をいうものと解すべきである。そして,このように解することは,国民年金が厚生年金保険法等の被用者年金各法とは異なり学生や主婦等の職業を持たない者も加入する制度であって,労働能力の喪失の程度を基準として障害の程度を判断することが必ずしも適切でないこととも整合し,また,社会的な活動を行う能力や労働をする能力が著しい制限を受ける場合であっても,日常生活が著しい制限を受けていない場合に障害基礎年金を支給しないこととしても,健全な国民生活が損なわれることを防止するという法の趣旨に反することはない。したがって,控訴人が指摘する「診断書(精神の障害用)」の様式は,このような解釈に沿うものということができる。控訴人のその余の主張は,本件認定基準が不明確かつ不合理であることを前提とするものであるが,前判示のとおり,そのような前提には理由がない。なお,裁定請求書を受理した日における控訴人の障害の程度が日常生活が著しい制限を受けるか,又は著しい制限を加えることを必要とする程度のものではないことは,原判決(21頁3行目から22頁2行目まで)が正当に説示するとおりである。 控訴人の障害の程度が日常生活が著しい制限を受けるか,又は著しい制限を加えることを必要とする程度のものではないことは,原判決(21頁3行目から22頁2行目まで)が正当に説示するとおりである。 しかしながら,裁定請求書を受理した日における控訴人の障害の程度が日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものではないことは前判示のとおりである。控訴人のその余の主張に理由がないことは,原判決(22頁3行目から13行目まで)が正当に説示するとおりである。 3 よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官池田光宏 裁判官菊池徹 裁判官島岡大雄
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