判例平成14年3月22日高知地方裁判所判決平成13年(わ)第81号,第228号詐欺被告事件要旨:被告人は,共犯者2名と共謀の上,県から指示された,自己資金の調達と協業化前の各社の負債を承継してはならないという前提条件を満たしたものである等として県を欺罔し,県をして約定どおりその償還を受けられるものと誤信させ,中小企業高度化資金融資名下に,県から,4億9100万円を騙取し,9億5250万円の債権を騙取したものである。 主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中100日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)大阪で縫製業を営んでいた被告人は,昭和43年9月ころ,高知県高岡郡a町の町会議員をしていたAから,同和対策事業の一環として同町に縫製業の共同作業工場を作りたいので責任者になってほしいという話を持ちかけられ,同町で縫製業を営むことにし,昭和44年に,有限会社Bを設立してその代表取締役となり,その後,有限会社C,有限会社D,有限会社E,株式会社C等をそれぞれ設立し,その各代表取締役となって,手広く縫製業を営むようになり,昭和54年には,それら5社を組合員として協同組合F(以下「F」という。)を設立するに至ったが,昭和の終わりころから,景気の悪化等により,しだいにその経営状態が厳しくなっていった。そのような状況のもと,平成3年3月ころ,大阪でゴルフ場開発等を行う会社に勤めていたGを誘い,株式会社Cで働かせるようになり,同年の暮れころまでに,同人に対し,公的な融資制度を利用して貸付けを受け,これを資金として最新の設備を購入し,Fの組合員企業で構成される,いわゆるCグループの近代化を図りたいので,そのための事業計画を立ててほしい旨を依頼し,以後,同人をその作業に従事させ,平成4年ころには,同人に指示して,H県(以下「県」とい 合員企業で構成される,いわゆるCグループの近代化を図りたいので,そのための事業計画を立ててほしい旨を依頼し,以後,同人をその作業に従事させ,平成4年ころには,同人に指示して,H県(以下「県」という。)に事業計画を提出させ,その指導を仰ぐようになった。その後,平成4年度,5年度と,Cグループの各企業とも,ますます業況が悪化し,赤字が増大する状態となっていったところ,平成5年5月ころ,I同盟H県連合会のJ書記次長から示唆されて,事業の用に供する土地の取得及び造成並びに建物,構築物及び設備の設置等に必要な資金について,県知事がその事業計画を適当と認めた場合,事業者が必要額の20パーセントを自己資金で調達することを前提として,県が必要額の80パーセントを限度として無利子かつ2年間据置き後長期償還で貸し付ける構造改善等高度化事業(特定)(以下「高度化事業」という。)による中小企業高度化資金(以下「高度化資金」という。)の貸付制度を利用し,前記の構想を実現したいと考え,その事業計画を作成して県に提出し,同年8月ころには,県の方でもこれを前向きに検討するようになった。その後,貸付申請のための手続を進め,その主体として,平成6年8月,Fを協業化し,繊維製品の製造,販売を目的事業とする協業組合K(以下「K」という。)へ組織変更した。しかし,その当時,Fの組合員企業は,金融機関に対する多額の借入金債務を負っており,高度化資金の貸付けを受ける前提として,県から,その負債をKには引き継がずに処理するように指示を受けており,また,20パーセントの自己資金を準備しなければならなかったものの,それらの目処が立たなかったことから,知人であり,株式会社L(以下「L」という。)の代表取締役であったMの協力を求めることにした。 (罪となるべき事実)被告人は,Kが,その組 ならなかったものの,それらの目処が立たなかったことから,知人であり,株式会社L(以下「L」という。)の代表取締役であったMの協力を求めることにした。 (罪となるべき事実)被告人は,Kが,その組合員企業の多額の負債を処理する目処が立たず,高度化事業計画において必要とされる自己資金の調達もできず,高度化資金の返済が困難であることを知りながら,自己資金をKが調達したように見せかけて,県を欺くため,いわゆる見せ金によってKの増資をしようと決意し,平成6年11月ころ,Mにその話を持ちかけ,Kが高度化資金の貸付けを受けられれば,それに基づくKの工場建設工事等を受注して,利益を得ることができるなどと考えた同人が,これを了承したことから,G及びMと共謀の上,高度化資金貸付名下に県から金員を騙取しようと企て,第1 あらかじめ自己資金を増資によって調達する旨の内容虚偽のKの理事会議事録の写しを県に対し提出した上,平成7年1月24日ころ,高知市b丁目c番d号所在の県庁において,県知事N1あてに,Kは,その組合員企業の多額の負債の処理ができず,返済の能力はないのにその情を秘して,負債は少額であって返済の能力があるように装い,かつ,高度化事業計画において必要な20パーセントの自己資金を調達する能力はなく,Lからの借入金による見せ金増資によりこれを仮装する意図であるのにその情を秘し,また,貸付対象となりうる高度化資金貸付仮内定後の造成工事はL請負に係る9980万7000円分以外に存しないのに,有限会社Oが同仮内定後に土地造成工事を請負施工するように装い,同社の請負金額を8470万円(消費税を含まず。)とする内容虚偽の見積書を添付して造成費用を合計1億8704万8000円とし,土地取得,造成等の費用として申請金額合計4億9100万円の中小企業高度化資金貸付申請 を8470万円(消費税を含まず。)とする内容虚偽の見積書を添付して造成費用を合計1億8704万8000円とし,土地取得,造成等の費用として申請金額合計4億9100万円の中小企業高度化資金貸付申請書を提出し,同貸付金の審査を担当する商工政策課長N2らを介し,同年3月28日ころ,同貸付決定権限者である知事の代決権限を有する県副知事N3をして,同造成費用は真実本件事業のために施工された工事代金であり,かつ,Kは,返済の能力があり,事業計画どおり自己資金を調達しており,約定どおりの償還を受けられるものと誤信させ,同人をして同貸付金の支出負担行為を決議させ,知事とKとの間において,平成6年度中小企業高度化資金貸付契約を締結させ,平成7年3月31日ころ,県庁において,高度化事業の土地代,造成費等に6億1426万8502円を支払い済みであり,そのうち貸付金交付請求額は4億9100万円である旨の同貸付金交付請求書を同課担当者に提出し,同日ころ,同課課長補佐N4をして前記支出負担行為に基づく支出命令を決裁させ,よって,同年4月10日,知事の命を受けた県の出納係員らをして,株式会社P銀行県庁支店のKの普通預金口座に4億9100万円を振込入金させてこれを騙取した第2 平成8年3月25日ころ,県庁において,知事に対し,前記のとおり,Kが,貸付金返済能力がなく,多額の負債を抱え,必要な自己資金も調達できず,Lからの短期借入金で見せ金増資を行っており,さらに,貸付対象となる工場建設工事をLに5億5519万3000円で請け負わせていたのに,これらの情を秘し,貸付金返済の能力があり,負債は少額であって,自己資金により前記増資を行い,さらに前記工場建設工事代金が7億8032万8000円である旨仮装し,前記見せ金による増資に係るKの商業登記簿謄本,前記代金水増しに係 能力があり,負債は少額であって,自己資金により前記増資を行い,さらに前記工場建設工事代金が7億8032万8000円である旨仮装し,前記見せ金による増資に係るKの商業登記簿謄本,前記代金水増しに係る工場建設工事代金見積書等とともに,建物建設,設計監理,設備等の費用として申請金額合計9億5250万円の中小企業高度化資金貸付申請書を提出し,同貸付けの審査を担当する商工政策課長N5らを介し,同年4月2日ころ,知事の同貸付決定に係る権限を専決する副知事N3をして,Kが自己資金により増資を行い,前記見積書記載の工事代金が真実のものであり,かつ,Kに返済の能力があって,約定どおりの貸付金の償還を受けられるものと誤信させ,同人をして,同貸付金の支出負担行為を決議させるとともに,知事とKの間において,同金額の平成7年度中小企業高度化資金貸付契約を締結させ,よって,Kに県に対する同金額の債権を取得させ,もって,同額の財産上不法の利益を得たものである。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,県による本件融資についての審査が責任をもってされたとはいえず,このような県の対応は背任と評価できるものであるから,被告人に対しては背任の共犯と同等の処分をするのが相当であるなどと主張しているので,その点を含め,判示のとおり認定した理由につき,補足して説明する。 2 本件融資についての県による診断,指導等について関係証拠(省略)によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件融資は,中小企業が組合等を設立して高度化事業を実施する場合に,そのための土地,建物等を取得するのに必要な資金の一部を,県が,Q事業団からの借入金と自らの資金を原資として,長期の償還期間で無利子で貸し付ける制度に基づくものであり,貸付金使用目的が限定され,当該事業につき県及びQ事業団による診断及 要な資金の一部を,県が,Q事業団からの借入金と自らの資金を原資として,長期の償還期間で無利子で貸し付ける制度に基づくものであり,貸付金使用目的が限定され,当該事業につき県及びQ事業団による診断及び指導を受けることが義務づけられているものである。 (2) 県においては,貸付けを商工労働部商工政策課金融班が,診断及び指導を同部経営指導課工業診断班がそれぞれ担当し,Q事業団と連携して融資手続が進められた。平成5年3月に被告人から県に本件融資に係る高度化事業の構想が持ち込まれ,金融班と工業診断班が中心となって指導,助言を行い,高度化事業計画としての要件を整えてゆき,平成6年1月からQ事業団と連携して指導,助言を行い,同年4月から工業診断班による財務分析,予備調査を行い,同年8月1日にKから高度化資金融資の仮申請がされたのを受け,同年9月13日に中小企業高度化事業検討会議を開催し,検討の結果,本件高度化事業を推進することとなった。同月27日から同月30日まで工業診断班とQ事業団による高度化事業計画の診断とこれに基づく勧告をKに対して行い,同年12月15日ころKから先の診断勧告に対する回答書及び一部修正を加えた新たな事業計画書が提出された。それを受けて,県は,土地に関する部分はそのまま手続を進め,施設に関する部分は再度の診断(以下「再診断」という。)を経た上で手続を進めることとし,そのための予備調査を実施した。平成7年1月9日に,1回目の中小企業高度化資金貸付審査会(以下「貸付審査会」という。)が開催され,その結果,土地に関する事業資金について貸付仮内定がされ,同月24日,判示罪となるべき事実第1の高度化資金貸付申請書の提出に至り,施設に関する部分について,同年2月14日から同月17日まで,新たな事業計画に関する診断及びこれに基づく勧告がされ, 定がされ,同月24日,判示罪となるべき事実第1の高度化資金貸付申請書の提出に至り,施設に関する部分について,同年2月14日から同月17日まで,新たな事業計画に関する診断及びこれに基づく勧告がされ,同年3月14日ころ,Kから同診断勧告に対する回答書が提出された。同年7月18日に第2回の貸付審査会が開催され,その結果,施設に関する事業資金について貸付仮内定がされ,平成8年3月25日,判示罪となるべき事実第2の高度化資金貸付申請書の提出に至った。 (3) その過程において,県側が行ったKの償還能力等の調査やそれに基づく指導及びそれに対するK側の態度に関し,本件事業の計画案が県に持ち込まれた後,平成5年8月に行われた最初のヒアリングにおいて,工業診断班長のN6が,被告人及びGに対し,本件事業は高度化資金融資の対象となるが,融資されるのは土地や建物等に関する費用の80パーセントに限られるので,その20パーセント分や運転資金等については自ら調達しなければならない旨を説明したところ,被告人らは,当然自己資金を準備する旨申し出た。 (4) このヒアリングから3か月ほど後の時点,平成6年6月にFからKへの組織変更認可申請がされた時点,同年8月に高度化資金融資の仮申請がされた時点及び同月に工業診断班から診断のための資料の提出を要請された時点等の各時点において,Kから県に提出された各事業計画書には,いずれも,事業資金の約20パーセントの額を増資で調達する旨が記載されていた。 (5) 工業診断班が,Fの負債額が約1億6000万円,その組合員5社の負債額が合計約4億円あることを把握した平成6年4月ころ,被告人に対し,組合員5社の負債については,Kに一切持ち込まず,各組合員においてその清算までに処分するように指示し,被告人は,そのように処理する旨を答えた。 億円あることを把握した平成6年4月ころ,被告人に対し,組合員5社の負債については,Kに一切持ち込まず,各組合員においてその清算までに処分するように指示し,被告人は,そのように処理する旨を答えた。 (6) 同年6月ころから7月ころにかけての最初の診断の予備調査において,工業診断班は,被告人及びGに対し,自己資金の調達方法や調達時期等を早期に明確にするよう指示した。また,高度化資金融資の仮申請書を受け付けた際,金融班のN7は,被告人及びGに対し,自己資金を増資により確保する点について確認した。診断のための資料として提出された事業計画書について,本件事業の収支見込みをより現実的なものとするため,工業診断班は,被告人やGに対し,予定売上額や予定経費額の見直しを繰り返し指示して,計画書を何度か作成し直させた。 (7) 同年9月27日から同月30日までの最初の診断の際に行われたヒアリングにおいて,Q事業団は,Kの組合員5社の代表者である被告人,G,R,S及びTに対し,出資のための資金の調達方法や調達時期等について質問し,また,被告人に対し,Kが組合員5社の負債を承継しないことについて確認した。その診断結果を踏まえての診断勧告において,工業診断班は,Kに対し,自己資金の調達を確実に行うため,増資時期を明確にするとともに組合員毎に調達方法等を具体化させ,過大であると判断された投資規模を縮小することなどを通告した。ところが,同年11月17日ころ,Kが,その診断勧告事項を無視し,逆に投資規模を拡大させ,総事業費を約26億円とする事業計画案を提出してきた。これに対して,工業診断班及び金融班は,直ちにその計画案を却下し,その受入れを迫ってきた被告人らに対して,これを拒絶した。その後,設備投資計画を変更して結局以前と同程度の総事業費を約19億円とする新たな事 して,工業診断班及び金融班は,直ちにその計画案を却下し,その受入れを迫ってきた被告人らに対して,これを拒絶した。その後,設備投資計画を変更して結局以前と同程度の総事業費を約19億円とする新たな事業計画書を提出してきたのに対して,再診断の実施により対処し,その予備調査において,工業診断班は,被告人及びGに対し,新たな設備投資計画の内容の詳細を明らかにすることや,その金額等の根拠となる資料を提出することなどを指示した。それを受けて,Kは,県に対し,自己資金調達のための増資に関して組合員5社それぞれの出資金額及び出資期日を決定した旨及びその内容を明記した理事会議事録を提出した。 (8) 平成7年1月に行われた1回目の貸付審査会において,商工労働部長,商工政策課長他2つの課の課長,金融機関の高知支店長など5名の民間委員を加えた合計9名の審査委員から,Kが上げる収益で融資額を償還することができるか否かを判断するため,主に本件事業計画の内容に関する質問が行われ,特に,Kがその組合員5社の出資による増資で自己資金を調達することに関し,それぞれの出資予定額が質されたことから,金融班及び工業診断班の担当者で構成された県の事務局側が,具体的な金額を挙げて説明するなどした。 (9) 同月24日,高度化資金の貸付申請がされ,N7が,それを審査するに際し,Kの最初の増資予定が2か月ほど先であったため,その時点では自己資金に関する書類が添付されていなかったことから,Gに対し,増資に充てるために処分する資産の内容を明らかにするように指導し,後日,被告人から,株式会社Cの増資予定額約1億8700万円に見合うものとしてゴルフ会員券,株券及び不動産権利証の写しの提出を受けた。 (10) 同年2月,建設事後指導の名目で行われたKの新たな事業計画に対する再診断において 増資予定額約1億8700万円に見合うものとしてゴルフ会員券,株券及び不動産権利証の写しの提出を受けた。 (10) 同年2月,建設事後指導の名目で行われたKの新たな事業計画に対する再診断において,工業診断班とQ事業団により,新たな投資計画における工場の1坪当たりの建築単価をもう少し下げることが可能であり,複数の建築業者に入札させるなどの措置が必要である旨の判断が示され,さらに,Kの組合員5社の代表者らに対するヒアリングにおいて,Q事業団からされた,自己資金の調達方法等に関し,現在の資本金にさらに増資すると資本金が大きくなり過ぎ,賦課金等が高くなって負担が大きくなるのではないか,組合員各社の社長ら個人からKに貸し付ける方法もあるのではないかとの質問に対し,被告人又はGは,借入れを起こしてスタートすると負担が大きくなるので,増資する旨答え,再診断当時合計4億8000万円程度あった組合員各社の負債をKが引き継ぐのかという質問に対し,被告人は,それは,引き継がずに,株式会社Cの資産を売却して処理する旨答え,株式会社Cと有限会社Cの資産を足しても組合員各社の負債は処理しきれないのではないかとの質問に対し,被告人は,有価証券の売却等,個人資産で処理する旨答え,さらに,事業計画書の借入金返済予定中その他の既存分とは何かとの質問に対し,被告人又はGは,Kが継承するFの借入金であり,負債はFの分しか継承しない旨答えるなどした。 (11) 再診断後の診断勧告において,工業診断班は,Kに対し,建築部門で特に指導のあった事項については慎重に検討をするとともに早急に改善,対応する措置をとり,また,自己資金の調達方法等を具体化する等して,その調達を確実に行うようにとの事項を通告した。それを受けてKから提出された回答書には,自己資金調達方法等を早急に具体化し, 改善,対応する措置をとり,また,自己資金の調達方法等を具体化する等して,その調達を確実に行うようにとの事項を通告した。それを受けてKから提出された回答書には,自己資金調達方法等を早急に具体化し,また,建築部門での指導事項について早急に検討の上,設計事務所に変更を指示する旨が記載されていた。 (12) 土地造成工事の中間検査の日である同年3月20日が増資の期限となっていたのに,未だ増資が実行されていなかったため,N7が被告人及びGに対し確認したところ,被告人は,すぐに増資します,やります旨答えた。 (13) 同年7月の2回目の貸付審査会において,審査委員からの自己資金の調達方法,調達時期などに関する質問に対し,県の事務局側は,自己資金の調達方法については,5組合員企業の増資で対応し,その原資は,役員資産の処分と役員の親族関係等からの借入れであり,自己資金調達時期については,既に増資されて,それを登記簿等で確認している旨を回答した。 3 これらの点に関し,弁護人は,証人らの各公判供述において,Kの前身企業の負債や自己資金の問題について責任のある審査がされたという供述は一切なかったとし,そのように,特に調査を行わず,また,各担当者が本件高度化事業に強く疑問を有していたにもかかわらず,誰も異議を唱えずに事業が推進されていったのは,I同盟によるバックアップを背景に,まさに融資ありきで審査が進んでいたことを表すものであるなどと主張する。そこで,それらの供述内容等について検討する。 (1) 関係証拠によれば,平成4年3月6日ころ,I同盟から,県企画部同和対策課に対し,被告人を代表取締役とする株式会社C名義で,縫製業の不振を改善するため,県内の縫製業者が事業を協業化あるいは共同化してマーケティングセンターを作り,一括受注,一括販売をして効率化を図り 策課に対し,被告人を代表取締役とする株式会社C名義で,縫製業の不振を改善するため,県内の縫製業者が事業を協業化あるいは共同化してマーケティングセンターを作り,一括受注,一括販売をして効率化を図り,また,自社ブランドを開発し,そのためのソーイングスクールを設置してデザイナー等を養成する必要があるなどという内容のマーケティングセンター設立構想(以下「C構想」という。)の設立趣意書とその建設計画予算案が持ち込まれ,同和地域の就労対策の推進を目的として,商工労働部地場産業振興課を中心に設置されていた対象地域就労対策推進チームにより,高度化資金貸付けの対象となるか否かが検討されるようになったこと,C構想自体は,県により,高度化事業として認められなかったものの,これを修正した共同施設事業が,本件高度化事業計画となっていること,本件高度化事業計画の立案にあたり,協業化の主体となる企業がいずれも被告人の経営する企業であり,各企業の代表者を各工場長らに変えたものの資本系列に変わりはないという問題,及び同和地域の企業が70パーセントを超えるという要件を充たしているかという問題があったものの,いずれもQ事業団との協議を経て高度化事業として認められるに至ったこと,平成6年11月,Kから提出された投資規模を拡大した前記事業計画につき,被告人とともにI同盟H県連合会のJ書記次長がその受入れを県に要求したこと等が認められ,これらによれば,I同盟は,本件事業計画の実現を強く望んでおり,被告人らの後ろ盾となっていたことが窺われ,他方,県においても,同和地域の就労対策に適うものとして,本件高度化事業に積極的に対応していたものと考えられる。 (2) 証人N8は,商工労働部長として,本件事業を地域改善事業として行うことを平成6年3月22日にQ事業団へ届け出るにあたり,以 のとして,本件高度化事業に積極的に対応していたものと考えられる。 (2) 証人N8は,商工労働部長として,本件事業を地域改善事業として行うことを平成6年3月22日にQ事業団へ届け出るにあたり,以前却下したC構想が,規模をかなり縮小し,ソーイングスクールの設立を除外するなど,事業として現実味を帯びた内容となっており,届出についてQ事業団との事前協議を経ていたことなどから,これを決裁したが,その際,担当者から,収益が上がるかどうか,償還ができるかどうかなどの点について疑問があるので,引き続いての指導が必要である旨の報告を受けるなどして,本件事業の先行きに不安を抱き,診断,勧告を行ってゆく過程で,さらに事業規模の縮小などの修正が必要となってくるのではないかと考えていたことなどを供述している。 (3) 証人N2は,商工政策課長として,本件高度化事業について,他の高度化事業と同様,Q事業団と工業診断班による専門的な診断結果や部下である金融班の事務処理を信頼して,決裁を行っていたものであり,直接,Kの経営内容や償還能力,あるいは,事業の内容等について,具体的に把握していなかったこと,本件貸付手続の中で一番重要な段階は貸付審査会であるという認識であり,診断結果によっては,その段階までいけない場合もあるし,そこで議論になって審査を通らないということもありうると思っていたこと,本件の貸付審査会に臨むにあたっては,既に診断結果が出されており,それに基づいて調書が作成され,その調書において,内部的な検討結果としては融資可能であるという意見になっていたこと,本件融資の支出負担行為を決裁した際,自己資金による増資がされたか否かの確認ができていなかったので,その点を疑問に思ってN7に問い,一部については既に増資の振込みがされており,残りについては,土地の権利 資の支出負担行為を決裁した際,自己資金による増資がされたか否かの確認ができていなかったので,その点を疑問に思ってN7に問い,一部については既に増資の振込みがされており,残りについては,土地の権利証等のK役員の個人資産を証明する書類を見せられて,それらを処分して自己負担分を用意するので大丈夫である旨の説明を受けたこと,負債の持込みについては,貸付審査会の調書に出ていたFからの引継ぎがあることを認識していたのみで,それ以上の持込みが許されないかどうかについて,商工政策課としては把握しておらず,工業診断班の方で指導していたと思われること,本件高度化事業は,様々な問題点について指導を行い,申請者がそれに応じて是正するという手順を踏む中で,そのような問題点を解決しながら進められていったという認識であったが,振り返ってみると,現在県がやり方を順次改善していることなどに照らし,やはり反省する点もあったのではないかと思うことなどを供述している。 (4) 証人N6は,工業診断班長として,Kの診断等に携わるなかで,負債の持込み,自己資金の調達,投資規模,人材の問題などについて疑問を持ち,被告人に対し,それらの点を問い質し,是正を促してきたこと,具体的には,組合員企業の負債持込みについて,被告人に対し注意を促したところ,個人資産や取引先からの支援によって,その負債を返済するに足る資金を用意できる旨の答えがあり,疑問に思いながらも,具体的な裏付けまではとらず,それを信じたこと,自己資金の調達について,被告人に対して何度も確認するとともに,それとは別個に組合員企業の代表者に対し複数回確認して,親戚等から借り入れるなどという話を聴取し,また,調達額や時期について記載されたKの理事会議事録の提出を受け,具体的な裏付けまではとらず,それを信じたこと,投資規模につ 代表者に対し複数回確認して,親戚等から借り入れるなどという話を聴取し,また,調達額や時期について記載されたKの理事会議事録の提出を受け,具体的な裏付けまではとらず,それを信じたこと,投資規模については,計画が持ち込まれた当初から,大きすぎてうまく行くかどうか不安があり,その点の他,負債持込みや自己資金調達についての不安も,自分が退職するまでには解消されなかったこと,貸付審査会にオブザーバーとして参加した際,そのような不安があったので,自分たち工業診断班よりも権限が上である貸付審査会において,問題点について議論され,融資が保留にされることもありうるのではないかと期待していたこと,しかし,同貸付審査会は,外部の審査員からの質問に担当である金融班が受け答えする形式により,わずか1時間ほど行われたのみで,自分に対する質問は,アパレル業界の一般論だけであったと記憶しているが,具体的な内容については,金融班作成の議事録のとおりであると思うこと,本件融資の担当が金融班に移った後,自己資金調達の原資として,ゴルフ会員権や株券が提出されていることを伝え聞き,自己資金を確実に用意できると言っていた被告人の話と異なっており,また,そのような前例もなかったことから,疑問を持ち,金融班に対して大丈夫なのかという確認を入れたこと,本件融資に関して不安に思った点について,正式に上司に報告したことはないが,診断の前の時点で,N2に対し,被告人が本件事業を遂行できる人物かどうか疑問があるという趣旨で,被告人のことを十分御存じですかと問い,N2からは,知っておるという答えがあったこと,その際,さらに,同人から,そんなことは言わない方がよいという趣旨のことを言われたかもしれないが,その内容ははっきりせず,また,別の案件について言われたのかも知れないこと,県の内部で,本件 ったこと,その際,さらに,同人から,そんなことは言わない方がよいという趣旨のことを言われたかもしれないが,その内容ははっきりせず,また,別の案件について言われたのかも知れないこと,県の内部で,本件融資について,様々な形での会合が開かれたが,責任のある話合いができるような感じではなく,今となっては,内部の職員を集めての細かな説明会を開くなどしておれば,もう少しすっきりしたのではないかと考えていることなどを供述している。 (5) 以上の各供述の内容を子細に検討し,前記2の認定事実を総合すれば,たしかに,実際に診断を担当したN6は,本件融資についての不安感や被告人に対する不信感を継続的に抱いており,また,本件融資の可否について最終的に審査する貸付審査会において,十分な議論がされなかったことは認められるものの,他方,その貸付審査会に至るまでのQ事業団や工業診断班による専門的な診断及びそれに基づく勧告,並びに,融資決定を踏まえて行われた,事後指導の形をとった再診断及びそれに基づく勧告は,決して形式的なものではなく,定められた具体的事項について手順どおり適切に行われており,それを前提に各決裁がされ,本件融資が実行されていったものと認められる。融資に至るまでの診断に際し,改善すべき点を勧告したことに対するKからの回答に対して,県において,その回答内容を信用して,これに関する個々具体的な裏付けまではとっていないけれども,各種の勧告で指摘している事項が実現できなければ,事業の健全な運営ができないのであるから,各診断に当たった担当者において,Kではそれらの回答に示された内容について誠実に履行するであろうと考え,多額の融資を受けようとする企業が実現できない不誠実な回答をしているものとまで疑わなかったとしてもやむを得ないものと考えられる。そのような県の指導 示された内容について誠実に履行するであろうと考え,多額の融資を受けようとする企業が実現できない不誠実な回答をしているものとまで疑わなかったとしてもやむを得ないものと考えられる。そのような県の指導に対し,表面的にはこれに従うような態度を示しつつも,なかなか実行に移さない被告人に対し,N6が不信感を抱き,それが本件融資全体についての同人の不安感に繋がっていったものと認められ,弁護人が指摘するような,I同盟の後押しがあったがゆえに,責任のある審査がされず,融資ありきという前提のもとに手続が進んでいったものとはいえない。弁護人の主張は採用することができない。 4 また,弁護人は,平成8年5月24日以降の融資が実行された経緯について,遅くとも同月19日に見せ金増資が発覚し,同月24日に商工政策課が被告人を県庁に呼び出して事情説明を求めた際,職員らが「ストーリーを考えないかん」との発言をしていることからすれば,被告人に繰上償還させるのではなく,他の方法で何とかこの事態を切り抜けたいという意向が窺えること,さらに,その後,融資の実行を止めるべきであり,手続的にもそれが可能であったにもかかわらず,同月30日に予定通り9億5250万円の融資が実行されていることなどを指摘し,以上の経緯は,いかなる事情があろうともKに対し融資がされるべきであるという県の姿勢を物語っているものであると主張している。 まず,被告人の公判供述によれば,「ストーリーを考えないかん」という県職員の発言の真意は明らかではなく,そのような発言から弁護人が主張するような推論が必ずしも成り立つわけではない。 次に,関係証拠によれば,判示第2の貸付けに関する支出命令は,当時の商工政策課長であったN5の専決によって行われたものと認められるところ,同人は,その検察官調書において,Kをその わけではない。 次に,関係証拠によれば,判示第2の貸付けに関する支出命令は,当時の商工政策課長であったN5の専決によって行われたものと認められるところ,同人は,その検察官調書において,Kをそのまま倒産させてしまえば,県が十分な指導をせずにKに対し高度化資金約14億円を貸し付けたこと,特に,9億5250万円については,Kが見せ金増資などにより県を騙そうとしていたことを知りながら貸付けを行ったことについて,県や自分を含めた担当職員に対し,県民や県議会から厳しい責任追及がなされるといった事態をおそれたこと,既に支出負担行為を決議し,Kに対して融資の意思表示をしていたので,後戻りしにくく,また,N3副知事の決裁までもらっているのに,今さらKの不正を報告すれば,同人から怒られるのが明らかであり,Kの事業成功に一縷の望みを抱いていたこともあって,支出命令を決裁するに至ったことなどを供述しており,このような心理から本件融資を実行するということは,ありうることであって,不合理であるとはいえず,同貸付けの実行から,直ちに,弁護人主張の融資ありきという県の姿勢を推認することもできない。 5 さらに,弁護人は,本件融資の実行後,県が,Kに対し,運転資金として合計12億0350万円の貸付けをし,その後も,販路確保等の協力を行うなどしていたことからみて,県において騙されたという認識や被害感情が非常に薄かったもので,いかなる事情があったとしても,本件融資を実現しようとしていたものと考えられるなどと主張する。 しかし,多額の融資をしてKの立ち上げに積極的にかかわった県としては,騙されていたことが分かったとしても,被害者であることを明らかにできない立場に置かれていたものといえる。すなわち,合計14億4000万円余りもの高度化資金を注ぎ込んだ直後から運転資金等と としては,騙されていたことが分かったとしても,被害者であることを明らかにできない立場に置かれていたものといえる。すなわち,合計14億4000万円余りもの高度化資金を注ぎ込んだ直後から運転資金等としてさらに10億円余りを調達できなければKが倒産する事態となっていたというのであり,その経営が軌道に乗らないうちにさほどの期間を経ないでそのような事態となっていることが明るみに出れば,行政上の大失態として,政治的,社会的に大きな問題として取り上げられることが明白であり,県としては,そのようなことはできるだけ隠しておきたいという考慮が働いて,あからさまに被害者であると言いにくい立場に置かれていたものであるとみるのが相当であり,被害者であることとKの倒産防止の努力を行うこととは何ら矛盾せず,県がKに対し運転資金の調達や販路確保等の支援を行ったことから,直ちに,弁護人が指摘するような当初から融資ありきという県の姿勢を推認することはできない。 6 前記3ないし5の検討を踏まえ,前記2で認定した本件融資に至るまでの県による調査,指導等の事実に照らせば,県が本件融資に踏み切るにあたっては,本件事業の計画が持ち込まれて以降,工業診断班及び金融班を中心に,その計画について,何度も検討を加え,被告人らに修正を促すなどした結果,本件高度化事業が事業として成り立ち,融資の返済も可能であるとの判断に至ったことが前提となっており,県が高度化事業に対して積極的であったとはいえ,この前提を欠いていたのに本件融資を実行するに至ったとは考えられない。しかも,本件融資に際しては,Kにおいて,最終的に総事業費の20パーセントに相当する3億6000万円余りを自己資金として調達すること及びその組合員5社の負債総額約4億8000万円を継承しないことを必須の前提としていたものであり,それら ,最終的に総事業費の20パーセントに相当する3億6000万円余りを自己資金として調達すること及びその組合員5社の負債総額約4億8000万円を継承しないことを必須の前提としていたものであり,それらがいずれも巨額であることからして,その前提が充たされない場合には,客観的にみて,約定どおりの返済が不可能となるのは確実であったものといえる。したがって,Kの償還能力に関する県の判断においても,それらが絶対的な前提条件となっていたもので,そのため,県やQ事業団の調査,指導等のなかで,それらの2つの前提に関し,幾度にもわたって,指摘や確認が繰り返され,特に,自己資金の調達については,その具体的な見通しを早期に明らかにするよう勧告が行われ,実際に,Kの理事会議事録の提出によって増資計画が明らかにされてから,本件融資の実行に至ったものである。県においては,前提条件が満たされようが満たされまいが,形式さえ整えば融資をするという姿勢で本件融資を検討していたものでないことは明らかである。そうすると,県は,被告人らの欺罔行為により,前記2つの絶対的な前提条件が満たされたものと誤信し,したがって,約定どおり償還を受けられるものと誤信し,本件融資を行ったものと認められ,被告人らによる県に対する詐欺罪が成立するのは明らかであり,また,その成立時点において,県は,前記前提条件が欠けていることを認識していなかったのであるから,県による本件融資が背任と評価できるものではない。弁護人の主張は理由がない。 なお,被告人の捜査段階の供述中には,本件融資を返済できないことは,貸付けを申し込む段階から分かっていたが,そうでもしなければCグループ全体が倒産しかねない状態にあり,同和縫製を守り,自分たちの資産,生活,従業員の生活等を維持するためには,仕方がないという気持ちであったと 申し込む段階から分かっていたが,そうでもしなければCグループ全体が倒産しかねない状態にあり,同和縫製を守り,自分たちの資産,生活,従業員の生活等を維持するためには,仕方がないという気持ちであったという部分もあるが,他方,その公判段階の供述によれば,従前の縫製業における孫請け的な賃加工を脱し,販路を拡大して,人材育成を図っていく中で,企業として生き残ってゆこうという積極的な意欲を持っていたという部分もあり,それは,単に倒産を先延ばしにし,借入れを踏み倒そうという意図ではなかったとの趣旨に理解できるのであり,Kが生産,販売を行ってゆく事業体であって,本件融資がその事業を活性化させるための設備等に用いられるものであるという点にかんがみれば,被告人のこのような公判供述を直ちに排斥することはできず,公訴事実のうち,返済の「意思」がなかったという点については,合理的な疑いをいれる余地がある。 また,関係証拠によれば,県としても,深刻な不況の中で,Kが確実に業績を伸ばしてゆくとまでは確信しておらず,また,高度化資金によって本件事業が立ち上がった後,Kがどのように運転資金を調達するかの点についてまでは,十分検討していなかったものと窺われ,公訴事実のうち,約定どおりの償還を「確実に」受けられるものと誤信したという点については,必ずしもそのように認定することはできない。 (法令の適用)被告人の判示第1の所為は平成7年法律第91号による改正前の刑法60条,246条1項に,判示第2の所為は刑法60条,246条2項にそれぞれ該当するが,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑 であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 なお,弁護人は,本件が財物である金銭の取得に重点のあった取引であるところ,見せ金増資であったことが発覚した時点では,未だ融資の実行を中止することが可能であったのであるから,それ以前の,副知事が支出負担行為を決議し,被告人と県との間で高度化資金貸付契約を締結しただけの段階では,被告人が確定的に財産的利益を取得していたとは評価できないとし,判示第2の事実については刑法246条2項の適用が否定されるべきであると主張する。しかし,当該意思表示がそれ自体で独立の財産的価値のある権利を行為者に与えるような場合には,それによって財産上不法の利益を得たものとして,いわゆる2項詐欺罪の成立を認めるのが相当であり,財物の騙取を目的とする場合においても,その過程ですでに財産上の利益を得たものと認められれば,2項詐欺罪は既遂に達したものと解するのが相当である(最高裁昭和43年10月24日第1小法廷決定参照)。そして,本件においては,資力に何ら問題がない県との間で,支出負担行為の決議を前提とする高度化資金貸付契約を締結し,それに基づく金銭債権を取得しているのであるから,金員の交付を受け得る地位を得たものであって,それ自体独立して財産的価値のある権利を得たものということができ,2項詐欺罪の既遂が成立するというべきである。 (量刑の理由) 1 犯行に至る経緯,動機等について被告人は,従前のCグループ5社の負債をKが継承すれば,客観的な面から実質的にみて,すでに倒産状態に陥っているといってもよいのに うべきである。 (量刑の理由) 1 犯行に至る経緯,動機等について被告人は,従前のCグループ5社の負債をKが継承すれば,客観的な面から実質的にみて,すでに倒産状態に陥っているといってもよいのに,その事業資金とするため,県から,無利子,長期償還等の条件で事業資金の80パーセントまで融資を受けられるという特別に有利な高度化資金の貸付けを受けようとして,判示各犯行に及んだものであり,自己中心的であるという面はあるが,他方,主観的には,それが,長年携わってきた同和縫製業の維持,振興や,従業員の雇用確保といった目的のため,多額の私財を提供してまで本件事業に力を注いだという面があり,また,本件事業が結局破綻するに至った点につき,主な原因は被告人の不十分な状況把握,見通しの甘さ及び杜撰な検討や計画等にあるが,構造的な不況の影響も一因となっていることも否定できず,それらの点である程度同情の余地が認められる。 検察官は,①Kの営む縫製業が安価な外国製品に押されて衰退の一途をたどり,業況回復の見込みも全くない状況にあった上,②多額の負債を抱え,深刻な資金難から高度化資金貸付けの前提とされている自己資金すら調達できない事実上の倒産状態に陥っており,③高度化資金の貸付けを受けても,直ちに運転資金に窮して倒産の危機に陥ることが必至であることを確定的に認識していたにもかかわらず,④虚栄的な事業欲にかられ,当面の倒産を防止してその延命を図るために本件を敢行したものであり,⑤被告人が言うような同和縫製の存続意義や従業員の失業防止等の動機については,捜査段階では主張しておらず,そのような大義名分を高度化資金貸付けに利用しただけでなく,自己の刑事責任を軽くする弁解として利用しているに過ぎず,⑥被告人の行為は見込みのない場当たり的な事業拡大に過ぎないのであって,い おらず,そのような大義名分を高度化資金貸付けに利用しただけでなく,自己の刑事責任を軽くする弁解として利用しているに過ぎず,⑥被告人の行為は見込みのない場当たり的な事業拡大に過ぎないのであって,いずれより大きな規模の事業破綻を招来することが明らかな状況にあったのであり,犯行動機に酌量すべき点は認められないと主張している。しかし,①及び⑥の点は,事後的な結果論としてはそのようにみられるけれども,被告人は,主観的には,それまでの賃加工を主体とした営業形態を改善し,高度化資金貸付けを受けて最新設備を導入して生産から販売まで一貫してできるような業態に変えていって大幅な収益の増加を企図していたものと認められる。もっとも,被告人のそのような見込みは,客観的状況を正確に把握した上で今後の見通しを厳しく検討したものではなく,多分に楽観的であり,その計画もかなり杜撰と言わなければならないけれども,被告人の当時の気持ちとしては,計画を軌道に乗せて何とか業況回復を図りたいとの思いがあったものと考えられる。②の点は,そのとおりである。③の点は,これも結果からみれば客観的にはそのような状況にあったものというべきであるが,被告人において,当時,将来の見込みとしてそのような確定的な認識があったものとは認められない。 ④の点は,客観的にはそのようにみることができるけれども,他方,主観的には何とか業績を上げて企業の存続を図りたいとの一途な気持ちであったものと考えられる。 ⑤の点は,捜査段階で述べていなかったという一事で,被告人にそのような動機がなかったと決めつけることはできず,妻の財産までKの経営のために拠出していること等からすれば,被告人にそのような動機があったものと認めるのが相当である。 弁護人は,本件高度化事業は,被告人が積極的な意図を持って推進したのではなく,あ 財産までKの経営のために拠出していること等からすれば,被告人にそのような動機があったものと認めるのが相当である。 弁護人は,本件高度化事業は,被告人が積極的な意図を持って推進したのではなく,あくまでI同盟からの働きかけがあって,決意したものであり,また,本件は,I同盟幹部,特にJのアドバイスに従ったものであって,被告人が主体的かつ具体的に計画を発案したものではないと主張している。しかし,本件融資を受けることについて,I同盟幹部の後押しがあったことはそのとおりであろうが,同幹部らが被告人において県を騙してまで融資を受けなければならないような事態にまで被告人を追い詰めたというようにみることはできず,弁護人の主張は採用の限りでない。 2 犯行の態様,結果等について被告人は,本件融資の前提として必要とされる自己資金の調達に関し,見せ金という手段を用いて増資を仮装するなどして,その償還能力を偽った上,より多くの金員を引き出そうとして土地造成工事代金及び工場建設工事代金を水増しして請求したもので,行政を欺く大胆で大がかりな計画的犯行といえ,まことに悪質である。犯行結果も,判示第1の犯行においては,4億9100万円もの金員を実際に拠出させ,判示第2の犯行においても,9億5250万円の債務を負担させて,同金額が支払われる原因を作出したもので,被害総額は巨額で,県民の税金を財源とする貴重な公金を奪い,県政全体に衝撃を与えたものであって,経済的及び政治的影響は深刻である。 3 被告人と他の共犯者との関係について弁護人は,①Gは,土地の購入に関しては売主との交渉にあたり,また,高度化に関する具体的実務的検討については,同人が工業診断班長のN6から教えを請いながら事業を推進していたものであり,被告人が事業主であったとしても,相対的にGとの罪責に軽重 の交渉にあたり,また,高度化に関する具体的実務的検討については,同人が工業診断班長のN6から教えを請いながら事業を推進していたものであり,被告人が事業主であったとしても,相対的にGとの罪責に軽重はなく,②Mは,その経営するLにおいて本件事業の建設を請け負い,それにより多額の報酬を得ており,また,被告人との繋がりよりもI同盟のUらとの繋がりが強く,その関係で本件に巻き込まれたものであって,Mが共犯となったことにつき被告人の責任は重くはないなどと主張する。しかし,①の点については,Gが土地購入の交渉等にあたり,N6から教えを請うていたのは,そのとおりであるが,それは,被告人の指示を受けて,事務的な分野を担当していたにすぎず,それと比べると,事業主として最終的に方向性を決めていた被告人の責任は格段に重い。また,②の点については,Mが本件各犯行により経済的な利益に預かっているのは,そのとおりであるが,仮に同人とI同盟との関係が強く,それが本件事業を請け負うきっかけになったものであるとしても,本件各犯行に具体的に関与するに至ったのは,被告人からの働きかけによるものと認められ,被告人にはMを巻き込んだ直接の責任があるというべきである。 4 被害者側の落ち度について判示第2の犯行によって県が債務を負担した後,それに基づいて実際に金員が支出されるに至ったのは,当時商工政策課長であったN5の独断によるものであったと認められ,法的には,前記のとおり,同犯行が2項詐欺の既遂となることは明らかであるものの,支出命令が決裁されずにそこで止められておれば,本件各犯行による実質的な被害は当初の犯行分のみにとどまったものといえ,その意味で,判示第2の犯行については被害者自身の手によって被害が拡大したという面があり,量刑上,これは重視すべきものである。 この による実質的な被害は当初の犯行分のみにとどまったものといえ,その意味で,判示第2の犯行については被害者自身の手によって被害が拡大したという面があり,量刑上,これは重視すべきものである。 この点に関し,検察官は,被告人が進んで本件を告白した結果発覚したものではなく,そもそも被告人らの欺罔行為が先行していなければ,N5が貸付けを実行することもなかったのであり,結局,貸付けによる利得も予定どおり全て被告人らに帰しているのであるから,その事情を過大に評価して,被告人の刑事責任を軽くする事情として考慮することは失当であると主張している。事実経過としては検察官が主張しているとおりであるけれども,県としては,その時点で2回目の建物設備分の高度化資金貸付けを実行せず,1回目の土地分について直ちに償還を求めるという方法を採ることが現実にできたのであり,被告人もそのような事態になることを一時は覚悟していたものと認められるのであって,この点を過大に評価してならないのは,そのとおりであるが,被害者側の落ち度としてそれ相応に評価することは必要である。 5 犯行後の状況等その他の事情について弁護人は,被告人は,Kを再開して少しでも多くの返済を行う意志をもっており,そのために,中国からの労働者を導入し,当初の目的である計画から販売までを一貫して行う方法を模索しているなどと主張し,被告人も,公判廷において,中国等から安く仕入れた生地を用いて東京の会社で企画した製品を作り,これを直接小売店に販売していくというルートづけを行っており,それを前提とした返済計画書を作成して県に提出している旨を供述している。しかし,そのような計画がどの程度実現可能なのかはおよそ不確定であり,この点はさほど考慮することができない。 もっとも,今後,Kの土地,建物を売却することにより, に提出している旨を供述している。しかし,そのような計画がどの程度実現可能なのかはおよそ不確定であり,この点はさほど考慮することができない。 もっとも,今後,Kの土地,建物を売却することにより,一定程度の被害が回復される可能性があること,被告人個人は,直接的には,本件各犯行による対価を手にしておらず,かえって,多額の連帯保証債務を抱える結果となっており,また,被告人の妻も,Kのために7000万円にものぼる私財を費やし,被告人と妻との共有名義であった堺市の自宅まで売却するに至っていること,県に対しまったく返済ができないとまでは当時思っておらず,経済的加害の意図は主観的にはさほど強いものとは認められないこと,当初は,騙すつもりはなく,詐欺という内容には納得できない旨述べていたが,公判の過程で本件事実を認めるに至り,県民等に多大な迷惑をかけた旨を述べて深く謝罪していること(なお,検察官は,被告人が県の担当者に責任を押しつけ,実現可能性のない返済計画を提出するなどしており,真剣な反省の情は認められないと主張するが,県の責任については,被告人本人というより,弁護人が強く主張しているもので,また,返済計画についても,実現可能性については前記のとおりであるが,責任逃れの不合理な弁解とまでは言えず,その主張は採用できない。),交通関係の罰金前科が2犯あるのみで,これまで真面目に同和縫製事業に取り組み,多くの者から感謝されるに至っていることなどの事情も存する。 6 以上の諸事情を総合して考えるに,犯行に至る経緯や動機に関しある程度酌むべき事情は認められるものの,県担当者からの度重なる勧告をないがしろにして巨額の公金を詐取したという犯行態様の悪質さ及び犯行結果の重大性等にかんがみると,被告人の刑事責任は相当重いというべきであり,県自身による被害拡大の点そ ,県担当者からの度重なる勧告をないがしろにして巨額の公金を詐取したという犯行態様の悪質さ及び犯行結果の重大性等にかんがみると,被告人の刑事責任は相当重いというべきであり,県自身による被害拡大の点その他被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても,主文の刑に処するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役7年)平成14年3月25日高知地方裁判所刑事部裁判長裁判官佐野哲生裁判官鈴木芳胤裁判官國分隆文
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