平成12(ネ)980 損害賠償本訴・清算損金反訴各請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年3月7日 名古屋高等裁判所
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判決文本文19,930 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,3億0948万3791円及びこれに対する平成3年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人の反訴請求を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 5 仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,商品取引員である被控訴人に商品先物取引を委託した控訴人が,被控訴人の行った一連の勧誘行為及びその後の売買取引には違法性があり,控訴人に対する債務不履行責任又は不法行為責任を免れないと主張して,被控訴人に対して損害賠償を求めた本訴請求と,被控訴人が控訴人に対して,前記委託契約に基づく売買取引により発生した清算損金の支払を求めた反訴請求の事案であり,原判決が本訴請求を棄却し,反訴請求を認容したため,これを不服とする控訴人が控訴したものである(なお,原審において,控訴人は,清算損金の債務不存在確認も求めていたが,原判決中これを棄却した部分は控訴の対象となっていない。)。 2 前提事実及び争点は,原判決14頁10行目の「(若しくは)」を削除するほか原判決の事実及び理由欄の「第二の二,三」に摘示のとおりであるから,これを引用する(但し,債務不存在確認に関する部分を除く。)。 3 当審における控訴人の補足的主張(1) 控訴人の商品先物取引適合性について① 控訴人は,田舎のふとん屋の息子として地元の商業高校を卒業して家業に従事した後,昭和51年からパチンコ店を経営するに至った者であるが,そのパチンコ店といっても,田舎に小さな店舗を一軒有していたにすぎず,単なる個人自営業者の域を出ず,控訴人の知的理解力,言語表現力も人並みとはいえない 年からパチンコ店を経営するに至った者であるが,そのパチンコ店といっても,田舎に小さな店舗を一軒有していたにすぎず,単なる個人自営業者の域を出ず,控訴人の知的理解力,言語表現力も人並みとはいえない。 ② 控訴人には,株式の現物取引の経験を有するのみで信用取引の経験はないし,本件取引を始める11年前にフジチューでの先物取引経験があるが,その資金は数百万円程度であったものであり,本件のような過大な数量の先物取引についての投機性,危険性及び仕組みを十分認識していたものではない。 ③ 控訴人が,本件取引の開始当時保有していた資産のうち,現金・預金は合計数百万円程度にすぎず,株は時価約7000万円程度であり,不動産は自宅・店舗,山林(岡崎市,豊田市及び足助町内所在)であるが,合計しても3億円の資産を保有していたとはいえないばかりか,現金,預金及び株はパチンコ店の運転資金,新装開店のための資金として保有していたものであり,余裕資金といえるものはなかった。 ④ 控訴人が,本件取引の開始にあたり,銀300枚の建玉に必要とされる委託証拠金1260万円を超えて,充価3800万円相当,時価5400万円相当の代用証券を被控訴人に預託しているのは,AやBから「こんなチャンスは滅多にないので,是非大きくやって儲けてください。」「大口のお客さんにはみんな儲けさせてもらっています。」「大口扱いにするには10人分の口座が必要です。」等と,あたかも大口扱いの取引をすれば必ず儲けさせるという勧誘があったためであり,顧客をして最初から不必要に多額な証拠金を預かるというのは被控訴人の常套手段であり,控訴人が自らの意思で先物取引の投機性,危険性及び仕組みを理解して預託したものではない。 (2) 架空名義使用による過当取引について① 架空名義口座開設の目的は控訴人の税金対策で 人の常套手段であり,控訴人が自らの意思で先物取引の投機性,危険性及び仕組みを理解して預託したものではない。 (2) 架空名義使用による過当取引について① 架空名義口座開設の目的は控訴人の税金対策ではない。なぜなら,税金対策目的であれば,控訴人名義の口座を省いて架空名義だけの口座を開設しなければ意味がないからである。 ② A,Bが控訴人に架空名義口座の開設を勧めたのは過当売買をさせるためであり,A,Bにはその合理的な動機付けもあった。すなわち,被控訴人の営業方針は,委託玉とほぼ恒常的に利害対立する自己玉を建て,委託玉の損失を自己玉の益金として取得するというものであり,被控訴人の給与体系は顧客の益金よりも自らの営業収入を増大させるため,営業社員に多くの新規顧客を開拓させて,より多くの新規玉を建てさせれば,それだけ担当の営業社員の給与も上がるという歩合給の給与体制を採っていたのである。そして,控訴人の取引については,新規委託者保護管理規則による原則20枚の制限,取引所の管理要綱による1名義30枚の建玉制限を潜脱するために,被控訴人は控訴人をして9名の架空名義を使用させ,もって過大な数量の取引をさせたのである。 (3) 断定的判断の提供について① 商品取引所法(平成10年4月22日法42号改正前のもの,以下同じ)94条1号で禁止されている断定的判断を提供するとは,その表示の諸般の事情から断定的な判断であると認められる認識の態様を示すことであり,その際に理由を示すとか,その理由が詳細又は具体的なものであるかは問わない。また,その表示に際して,「必ず」「きっと」「確実に」等の副詞を伴うか否か,「請け負う」「保証する」「責任を負う」等の特定の動詞を伴うか否かを問わないのであり,要は,断定的な判断を示していると認められる表示をすれば,この要件 ず」「きっと」「確実に」等の副詞を伴うか否か,「請け負う」「保証する」「責任を負う」等の特定の動詞を伴うか否かを問わないのであり,要は,断定的な判断を示していると認められる表示をすれば,この要件は満たされるのである。 ② A,Bは控訴人に対し,本件取引の勧誘にあたり,「良い利殖」「株券を使えば二重に儲かる」「金,銀は今が底値」「銀の採掘原価割れで今が底」「南アフリカのストで白金の値が上がる」「ペルーのストで銀の値が上がる」「銀鉱山が閉鎖になった」「大口客が買いに回っていてみんな儲けている」「商品ファンドが買いに出ているので上がる」「損を取り戻す確率は100%」「ソ連の鉱山ストにより必ず値上がりする」「アメリカの旱魃により米国産大豆が値上がりする」等と述べているのであり,これらが断定的判断の提供にあたることは明らかである。 ③ また,Bは控訴人に対して,「買いを維持すれば必ず取れる」旨述べて,期先へ期先へと次々と乗り換えて買建玉を維持する取引をさせているのであり,これは断定的判断の提供にあたる。 (4) 実質的一任売買について控訴人は,本件取引のような過大な数量の先物取引についての知識,経験が不十分であり,Bの断定的判断の提供を交えた勧誘により,Bの意のままに銀の買建玉を長期間維持し,受け身の状態で取引を継続させられていたのであり,実質的一任売買であった。 (5) 利害対立玉(向かい玉)について買建玉を含む委託玉に対立する形で被控訴人の自己玉は売りポジションに建てられており,委託玉と自己玉とはほぼ恒常的に利害対立する状況にあったのであり,このような状況下で,被控訴人は控訴人に対して,期先へ期先へと次々と乗り換えて買建玉を維持する取引をさせている。このような取引方法は,被控訴人による断定的判断の提供,9人分の架空名義による取引の ,このような状況下で,被控訴人は控訴人に対して,期先へ期先へと次々と乗り換えて買建玉を維持する取引をさせている。このような取引方法は,被控訴人による断定的判断の提供,9人分の架空名義による取引の勧誘と並んで,被控訴人による「客殺し」の方法であり,被控訴人に違法行為のあったことは明らかである。 4 被控訴人の反論(1) 本件取引の特色① 本件取引は,この種先物取引の訴訟事件に現れてくる一般的な取引の形態と著しく異なり,取引口座数,取引数量,投下資金のそれぞれの大きさにもかかわらず,取引の回数が少なくて,ドタンバタンした取引(つまり,いわゆる「ころがし」)が全くないことであり,至って単純な取引で終わっていることである。 ② このような本件取引の特色は厳然として動かし難い客観的事実であり,控訴人に商品先物取引適合性があったかどうか,A,Bに架空名義使用による過当取引の勧誘があったかどうか,断定的判断の提供があったかどうか,実質的一任売買があったかどうかについては,この点に関する控訴人,被控訴人のいずれの主張が本件取引の特色に結びつきやすいかという観点から判断されるべきである。 (2) 架空名義使用による過当取引の勧誘について本件取引口座が10人の名義になったのは,控訴人が「ちいと余計やりたいて言ったら,あんたが名前を探して来なさいって」と後日述べているように,控訴人が「やるならオレは大きくやるぞ」と豪語し,「大きな取引で目立つから他の名前を使えないか」として,わざわざ自分に不利な架空名義の念書まで作成して,10名もの取引口座を開設したものであり,架空名義使用による取引の開始は控訴人自身にその動機があり,A,Bが勧誘したものではない。 (3) 断定的判断の提供についてA,Bが控訴人に対して,「買いを維持すれば絶対儲かる」旨断定的 であり,架空名義使用による取引の開始は控訴人自身にその動機があり,A,Bが勧誘したものではない。 (3) 断定的判断の提供についてA,Bが控訴人に対して,「買いを維持すれば絶対儲かる」旨断定的判断を提供して,昭和61年8月18日銀の買建玉の取引を,昭和62年8月28日銀の買建玉の取引をさせたというのであれば,これらの取引はいずれも損勘定に終わったのであるから,A,Bはその損勘定に対する何らかの手当をしなければならなかった筈であるが,両建ての措置を取る等何らの手当もしていないし,控訴人も本件取引中に,この損勘定に対して何らの手当をしなかったA,Bを責めた形跡もない。これは,A,Bが控訴人に対して,断定的判断を提供して取引をさせていないからである。 (4) 実質的一任売買についてもし,控訴人がBに操られ,同人に本件取引を一任していたというのであれば,かような一任取引は必然的に「無意味な反復売買(ころがし)」に結びつくのに,本件取引にはこのような無意味な反復売買というものはなく,単純な取引として推移しているのである。 (5) 利害対立玉(向かい玉)について① 控訴人主張の利害対立玉(向かい玉)の違法論は,自己玉に関する商品取引所法の規制を根拠にせず,民法709条を根拠とするもので,特別法で許されている自己玉を民事一般法で許されざるものにしようとする違法論であり,到底採用できない。すなわち,商品取引員は,商品取引所法上はいわゆるブローカーであると同時にディーラーであるから,自己の計算で売買(自己玉を有すること)できるのは当然である。そして,ディーラーであることの当然の権利として,自己玉を市場において売買する限りにおいて委託玉と対当させ(向かわせ)ることも可能である(商法555条,商品取引所法93条)。もっとも,ブローカーとしての取 ディーラーであることの当然の権利として,自己玉を市場において売買する限りにおいて委託玉と対当させ(向かわせ)ることも可能である(商法555条,商品取引所法93条)。もっとも,ブローカーとしての取引員には委託者に対する受託者としての善管注意義務を負っているから,これに反する向かい玉が許されないことも当然である。 ② そこで,商品先物取引においては,商品取引所法94条4号,同法施行規則33条2号,各取引所定款で,次の2点に違反する向かい玉取引を禁止している。 (ア) 取引員が「もっぱら投機的利益の追求を目的」とした向かいであること,(イ) 向かいが「過大な数量」に及んでいることこのうち,(イ)の数量規制については,農産物以外については昭和45年9月11日全商連決議により,農産物については昭和46年6月30日農林経済局長通達で,一般の取引員について,自己玉は種類別(小豆なら小豆につき),当該限月ごとの総建玉の10%又は100枚以内に規制されている上,例えば各取引所の業務規程によれば,取引員は毎計算区域の売買について必ず自己玉・委託玉の別を取引所に届出する義務を負っている関係から,規制される自己玉以上に自己の計算による取引をすることが事実上できない仕組みになっている。 また,(ア)の点では,一般に向かいは,大量の委託玉が場ザラシにより,委託者に不利に相場が変動することを防止するためや,相場の流れが一方に傾き反対売買をする相手方がみつからないような場合に用いられるが,かような向かいは委託者のための向かいであって,禁止されるような向かいではない。 ③ したがって,自己玉が本来の用法に従って行使され,委託玉のハナにあわせてバイカイ・付出しをしていけば,買い(売り)越の委託玉に対して自己玉が売り(買い)一方に片寄るのは当然であり, いではない。 ③ したがって,自己玉が本来の用法に従って行使され,委託玉のハナにあわせてバイカイ・付出しをしていけば,買い(売り)越の委託玉に対して自己玉が売り(買い)一方に片寄るのは当然であり,取組高(残玉)が売りと買いでほぼ同数で推移するのはむしろ当然である。 ④ よって,向かい玉が違法とされるためには,業者が顧客を意のままに操って,その売り・買いのポジションを決定させてしまうとか,業者が顧客と反対のポジションで,自らを利し顧客に損失を与えようとする意図で,そのために市場の相場に影響を与えるに足りる過大な自己玉をもつことが必要である。しかし,本件取引期間において,被控訴人にはこのような違法とされる向かい玉は存在しないのである。 第3 当裁判所の判断 1 前提事実に加えて証拠(甲47,92,乙26の1ないし6,46,65,原審証人A,同B,控訴人本人[原審及び当審],後掲証拠)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。 (1) 控訴人は,昭和42年3月に商業高校を卒業して,9年間,家業の布団店の仕事に従事したのち,昭和51年にパチンコ店を開業し,個人経営をしていたが,平成12年7月31日にこれを閉店するに至った。控訴人は,昭和50年,27歳のときに,被控訴人とは別の先物取引業者を介して商品先物取引をして約400万円の損失を受けた経験がある。控訴人は,昭和56年5月,父親の死亡により,預金,株式及び不動産を相続により取得したが,本件取引開始当時,資産額合計は3億円を超えており,営業上の借金等を考慮しても,相当多額の余裕資金を有していた。 (2) A(昭和30年8月28日生)は,昭和60年10月頃,パチンコ業界名簿から任意に控訴人名を拾い出し,電話で,控訴人に対して金の商品先物取引を勧誘し,その後,1か月に1回程度,控訴人経営の 。 (2) A(昭和30年8月28日生)は,昭和60年10月頃,パチンコ業界名簿から任意に控訴人名を拾い出し,電話で,控訴人に対して金の商品先物取引を勧誘し,その後,1か月に1回程度,控訴人経営のパチンコ店事務所を訪問し,貴金属,原油等の相場の変動を記載したチャート等の資料を示して先物取引の勧誘活動を行った。その際に,控訴人はAに対して,過去に商品先物取引で損失を被った経験を有することを話し,また,控訴人は,「乾繭や生糸の先物取引相場では人為的な相場操縦がされるから信用できない。金の先物取引相場は人為的な相場操縦が困難で,経済情勢で動く。」とも話していた。 (3) また,昭和61年6月頃から同年8月18日に本件取引が開始されるまでの間に,控訴人はAに対して,「やるなら大きくやるぞ」「他の名前でやったら駄目か」「大きく儲けたら目立ってしまうので,取引の名前を分けることはできないか」等と話した上,銀の先物取引を始めたいとの意向を示し,Aからは,1口座あたりの取引枚数は100枚まで,先限り1限月30枚までであること,他人名義で取り引きする場合には被控訴人宛に「迷惑を一切かけない」旨の念書を入れてもらう必要のあることを説明した。 (4) そして,昭和61年8月18日午前9時30分頃,控訴人はAに対して,電話で,控訴人を含む10人の取引口座名義と同各口座に入れる証拠金代用証券としての株券の銘柄,枚数を伝えた上,碧南中央駅まで来るように依頼した。そこで,Aは,被控訴人の経理課において控訴人から伝えられたとおりの株券の銘柄,枚数を記載した預り証を作成してもらい,被控訴人管理課のGと一緒に,待ち合わせの碧南中央駅に出向き(乙13),同日正午頃,控訴人とともに同駅近くの喫茶店Hで取引開始にあたり必要な書類の作成,交付をすることとなった。 (5) 同 もらい,被控訴人管理課のGと一緒に,待ち合わせの碧南中央駅に出向き(乙13),同日正午頃,控訴人とともに同駅近くの喫茶店Hで取引開始にあたり必要な書類の作成,交付をすることとなった。 (5) 同喫茶店において,控訴人はAから,商品取引の仕組みと委託の手順の概要,委託手順の詳細,委託証拠金,売買取引の決済の方法,売買取引に係る禁止事項及び商品取引苦情等の相談,委託者に係る債務の補償制度について説明された「商品取引委託のしおり」及び商品取引の特徴を証券取引,競馬との比較によりイラスト入りで説明された「商品取引に関するパンフレット」(乙7の1,2)を受け取り,前記商品取引委託のしおりの末尾に添付された「『商品取引委託のしおり』の受領について」と題する書面10通の委託者欄に控訴人において予め準備していた印章をもって控訴人他10名の署名押印をして,Aに交付した(乙8の1ないし10)。そして,東京工業品取引所の定める受託契約準則の規定を遵守して売買取引を行うことを承諾する旨,受託契約準則2条1項の規定に従った事項を通知する旨の「承諾書・通知書」10通及び「新規委託者の皆様へのアンケート」10通にも同様に控訴人他10名の署名押印をして,Aに交付した(乙2の1ないし10,9の1ないし10)。また,予め被控訴人管理課のFが本文を起案してAが持参した被控訴人宛の昭和61年8月18日付け念書(乙1の1)にも控訴人は控訴人を除く9名の架空名義人の氏名及び住所を記載したうえ署名押印して,Aに交付した。同念書の本文には「下記名儀口座は拙者の都合により貴社における取引名として使用致します。尚,本件に関し後日,如何なる問題が生じましても一切の責任は拙者に於いて負担し,貴社にはいささかも御迷惑はお掛けしません。」と記載されている。なお前記9名の架空名義人の住所 引名として使用致します。尚,本件に関し後日,如何なる問題が生じましても一切の責任は拙者に於いて負担し,貴社にはいささかも御迷惑はお掛けしません。」と記載されている。なお前記9名の架空名義人の住所は,控訴人が前記喫茶店に備え付けの電話帳から適当に選んで記載したものであった。 次に,控訴人はAに対して,控訴人を含む10名の取引口座に入れる証拠金代用証券としての株券を交付し,Aから10名の取引口座名義毎に株券の銘柄,枚数が記載された預り証の交付を受けた。このようにして預けられた証拠金代用証券としての株券は後記10口,計300枚の銀の買建玉に必要とされる委託証拠金1260万円を超えて,充価3800万円相当,時価5400万円相当の代用証券であった。 (6) 前記必要書類の授受を終えた後,控訴人はAから,当日午前の銀の値段を聞いた上,Aに対して,前記10口の取引口座を2グループに分けて銀各30枚を当日後場1節及び3節に成行で買い注文するように依頼した。そこで,Aから電話を受けたBは,この買付注文を取り次ぎ,本件取引が開始した(乙14の1ないし10)。 その後,売買報告書その他被控訴人から控訴人宛の書類の送付方法について,控訴人は,妻に先物取引を知られたくないから,被控訴人の会社名の入った封筒での書類送付は避けて欲しい旨要望したため,前記10口の取引全部について,Aの個人名による白封筒で,控訴人の母の住所宛に送付するということになった。 (7) ところで,本件取引は原判決別紙(一)売買取引一覧表のとおりであり,全体を通してみると,建玉と手仕舞いの間隔が長く,口座数,取引数量,投下資本の大きさに比べて,取引回数が少ないという特徴が指摘できる。 ① 同一覧表86年度銀建玉番号1の1から2の3までの昭和61年8月18日の買建玉300枚は,昭和6 隔が長く,口座数,取引数量,投下資本の大きさに比べて,取引回数が少ないという特徴が指摘できる。 ① 同一覧表86年度銀建玉番号1の1から2の3までの昭和61年8月18日の買建玉300枚は,昭和62年3月26日又は同月27日に手仕舞いされているが,7か月余り建玉が維持されていた。 ② 同建玉番号3,4の昭和61年8月26日,同月27日の買建玉各50枚は,昭和62年3月5日の手仕舞いまで6か月余り,同建玉番号5の1ないし3の昭和61年9月9日の100枚の買建玉は,昭和62年2月20日又は同月25日の手仕舞いまで5か月余り,同建玉番号6の昭和61年11月18日の買建玉100枚は,昭和62年3月26日の手仕舞いまで4か月余り建玉が維持されていた。 ③ この昭和62年3月26日の手仕舞いの時点で,控訴人は,合計352万円の帳尻差損を出した。その後1か月ほど間隔を置いて,控訴人は,同建玉番号7の昭和62年4月30日に10枚の売建玉をしてから,同建玉番号19の同年7月29日の売建玉100枚を同年8月28日に手仕舞うまで,数日から1か月半くらいの間隔で建玉と手仕舞いを繰り返し,その都度利益を確定し,売建玉を基調としながら途中4回の買建玉を混ぜて,合計1851万円の帳尻差益を取得した。 ④ その後,控訴人は,同年8月28日の買建玉を手始めに,平成3年2月26日に本件取引が終了するまで,銀24回,白金2回,米国大豆3回,金2回のいずれも買建玉をしているが,金建玉番号2の平成3年6月限月のものが同年2月26日に手仕舞いになっているのを除いて,すべて当該限月の納会日直前に手仕舞いされている。 ⑤ そして,その建玉から手仕舞いまでの期間は,金建玉番号2が6か月であるのを除いて,10か月から12か月近くまでに及んでおり,言ってみれば,ただひたすら買建玉を持ち続 日直前に手仕舞いされている。 ⑤ そして,その建玉から手仕舞いまでの期間は,金建玉番号2が6か月であるのを除いて,10か月から12か月近くまでに及んでおり,言ってみれば,ただひたすら買建玉を持ち続けるという手法である。 ⑥ その結果,前記合計352万円の帳尻差損を含めて合計3億1512万9185円という巨額の帳尻差損が発生した。 (8) そして,本件取引の開始から終了までの間,控訴人は被控訴人から,前記10口の取引口座に関する売買報告書の送付を受ける一方,控訴人は被控訴人宛に「残高照合通知書の通り相違ない」旨の「残高照合回答書」に各取引口座名義で署名押印をして送付し(乙28の1ないし140,乙41の1ないし10),また,控訴人が被控訴人から送付された「残高照合書及び回答書」を紛失したときは,Bが,被控訴人の「残高照合通知書(控)」を示して,これにより取引内容を確認してもらい,異議のない旨控訴人から署名押印をもらっている(乙27の161ないし170[昭和62年12月15日現在の取引に関するもの],乙27の219ないし228[昭和63年6月25日現在の取引に関するもの],乙27の345ないし354[平成元年7月10日現在の取引に関するもの],乙27の355ないし364[平成元年8月10日現在の取引に関するもの])。 (9) さらに,控訴人は,被控訴人がコンピューターで管理していた証拠金(代用充価証券)の明細文書をBをして控訴人方まで持参させて,Bから各取引口座間の株券の移動と残高について説明を受けていた(甲63ないし79)。 (10) また,控訴人はA,Bから,本件取引の開始前から終了までの間に,銀の値動きを示したチャートの交付を受けて,これを元にした銀の相場,値動きに関して説明を受けていた(甲51ないし62)。このチャートによれば,昭 人はA,Bから,本件取引の開始前から終了までの間に,銀の値動きを示したチャートの交付を受けて,これを元にした銀の相場,値動きに関して説明を受けていた(甲51ないし62)。このチャートによれば,昭和61年前半は値上がり,後半は値下がり,昭和62年前半は値下がり,後半も値下がりを続け,昭和63年前半には多少値上がりしたものの,後半は値下がりとなり,平成元年から平成2年始めにかけて一進一退の揉み合いとなり,平成2年前半から平成3年前半にかけて急落を続けていることが読みとれる。 (11) 本件取引において,追証が初めて発生したのは昭和63年9月13日の米国産大豆の取引に関してであり,その後追証という事態は一旦消滅し,再び発生する状態が続いた後,平成2年7月30日以降は追証が掛かり放しとなり,同年10月8日には「足」の状態に陥ったが,被控訴人は控訴人に対して,その都度委託証拠金不足請求書を送付していた(乙48の1ないし7,49,50の各1ないし10,55,60の1ないし160)。 (12) そこで,追証が掛かり放しとなった平成2年7月30日以降についてみるに,控訴人は被控訴人に対し,同年9月21日から同年12月17日にかけて,不足する委託保証金の支払を誓約する内容の5通の念書をBが作成した下書きを参考にして作成して交付する一方(甲31,42ないし44,乙30の1ないし5),その支払資金を捻出するために,同年9月28日に愛知銀行から1500万円を借り入れて(甲27),手持現金と合わせて同年10月3日に1600万円を被控訴人に入金したが,これが最後の入金となった。さらに,控訴人は,所有の不動産を売却したり,あるいは不動産購入名下に金融業者から借入をしたりして支払資金を捻出しようと試み,Bも関係者を控訴人に紹介したりしてこの試みに協力したが,い 金となった。さらに,控訴人は,所有の不動産を売却したり,あるいは不動産購入名下に金融業者から借入をしたりして支払資金を捻出しようと試み,Bも関係者を控訴人に紹介したりしてこの試みに協力したが,いずれも不首尾に終わった(甲45の1ないし8,46の1,2,乙35の1ないし4,42)。 (13) 控訴人が平成2年10月29日付け念書(乙30の3)で,同年11月30日までには不足の証拠金全額を入金できるとしていたのに,その入金がないために,同年12月3日,被控訴人のC管理課次長(以下「C」という。)が建玉の仕切り注文を被控訴人本社市場に発注し,これを控訴人に伝えたところ,控訴人は被控訴人店舗において大声で「おい,お前ら,この会社はひどい会社だ。特に女子社員はすぐやめろ。いいか,やめろ,ばかやろう。」等と暴言を吐いて興奮した状態となったため,これに驚いたCは,すぐ被控訴人本社に前記仕切の取消注文をした(乙33の1ないし3)。 (14) そして,被控訴人は控訴人から,同年12月3日付け念書(乙30の4),同月17日付け念書(乙30の5)を徴求したが,控訴人から証拠金の支払がないまま推移したため,被控訴人は平成3年2月26日,控訴人の残建玉を強制処分した。 2 以上の事実が認められるところ,前記認定の控訴人の年齢,地位,職業,資産額に加えて同人の先物取引経験等からすると,控訴人には本件取引について適合性を欠いていたとは到底いえないというべきである。そして,控訴人は,Aの10か月にわたる営業活動を受けて,昭和61年8月18日,商品先物取引の投機性,危険性を認識したうえで,自己の自由な判断に基づき,9人の架空名義を含む10人の名義を使用して,10口の取引口座を開設し,銀300枚という過大な買建玉から本件取引を開始したものと認めるのが相当である。 認識したうえで,自己の自由な判断に基づき,9人の架空名義を含む10人の名義を使用して,10口の取引口座を開設し,銀300枚という過大な買建玉から本件取引を開始したものと認めるのが相当である。 この点に関して,控訴人は,控訴人には先物取引について適合性はなく,9人の架空名義を含む10口の取引口座による取引開始はA及びBから,滅多にないチャンスなので,大きく儲けてもらうために,10人分の口座が必要であり,架空名義の方法を勧められたためである旨主張し,これに沿う甲47の陳述部分及び原審及び当審の控訴人本人の供述部分もある。 しかしながら,前記認定の本件取引開始に至る経緯によると,控訴人自ら9人分の架空名義の印章を用意して控訴人以外の9人の取引口座に必要な書類を作成し,Aに対して,代用証券について事前に各取引口座に振り分けるための銘柄,株数を伝えて預り証の作成準備を容易にしていること,その代用証券自体も銀300枚の建玉に必要な委託証拠金1260万円を遙かに超える充価3800万円相当,時価5400万円相当にもなるものであること,また10人分の取引口座になったことについて,控訴人自ら「ちいと余計やりたいて言ったら,あんたが名前を探して来なさいって」と後日述べていること(甲83)からして,控訴人の前記主張は採用することができないというべきである。なお,前記念書(乙1の1)について,被控訴人側においてその本文を起案して準備したことをもってしても前記判断を左右するものではない。 3 次に,本件取引当時,全国商品取引員協会連合会は,新規委託者保護管理規則を定め,新規委託者が初めて行う売買取引の日から3か月間の保護期間中,原則として全商品の建玉枚数が20枚を超えないことを定めており,特別担当班の調査,審査を経て,銀については,30枚までの緩和が許 を定め,新規委託者が初めて行う売買取引の日から3か月間の保護期間中,原則として全商品の建玉枚数が20枚を超えないことを定めており,特別担当班の調査,審査を経て,銀については,30枚までの緩和が許されるという自主規制を決めていたことが認められる(乙1の2)。しかしながら,控訴人が,本件取引開始当時から,既に商品先物取引について適合性を有していたことは前記認定のとおりであるから,新規委託者保護のための自主規制を必要とするものとは解されないし,また,全国の商品取引所は,「商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項」として,14項目の禁止事項を定めており,「仮名又は他人名義等を使用して売買を行うことを委託者に示唆し勧めること」が,その禁止事項の中に含まれているけれども(甲1),控訴人自ら進んで大口取引を希望し,その自主的な判断で架空名義の取引を開始しているのであるから,被控訴人に前記禁止事項の違反はなかったものというべきである。 以上のとおりであって,控訴人が架空名義を使用して銀300枚という過大な買建玉で本件取引を開始したことについて,被控訴人には,違法性はなかったというべきである。なお,A,Bら被控訴人従業員作成の顧客カード(甲18の1ないし10)には内容虚偽の部分があるけれども,架空名義取引の実現という控訴人の意向に沿って作成されたものであり,控訴人に対する関係で違法事由となるものではない。 4 被控訴人に断定的判断の提供による取引勧誘行為があったかどうかについて検討する。 (1) 控訴人は,AやBは控訴人に対して,「良い利殖」「金,銀は今が底値」「損を取り戻す確率は100%」等と断定的判断を提供して,本件取引を開始,継続させた旨主張し,これに沿う甲47の陳述部分及び原審及び当審控訴人本人の供述部分がある。 (2) しかしながら,本 底値」「損を取り戻す確率は100%」等と断定的判断を提供して,本件取引を開始,継続させた旨主張し,これに沿う甲47の陳述部分及び原審及び当審控訴人本人の供述部分がある。 (2) しかしながら,本件取引は,前記認定のとおり,昭和62年3月26日の手仕舞いの時点で352万円の帳尻差損を出しているところ,AやBから断定的判断の提供があって控訴人においてこれを信じて取引を開始したというのであれば,この時点で控訴人からAやBに対して何らかの抗議があってもよいと考えられるが,そのような形跡はないこと,その1か月後には売建玉で取引を再開し,昭和62年8月28日までの手仕舞いにより計1851万円の帳尻差益を取得した以降の取引では,同年11月16日以降ほとんど帳尻差損で推移しているにもかかわらず,前同様,控訴人はAやBに対して何らの抗議をしたような形跡のないことが指摘できる。 また,先物取引では限月までの間に思いがけない展開をすることがあるから,手数料と税金の負担を考慮しながら,利益を確定し,損失の拡大を防ぐという手法を取るのが通常であって,限月まで長期間にわたって建玉を維持するだけでは,取得できたはずの利益を失い,防ぐことのできた損失を拡大させてしまう恐れがあるのであり,他方,A,Bにとっては,手数料稼ぎのために無意味な反復売買をさせたというのならばともかく,これとは全く逆に,断定的判断を示すことまでして長期間建玉を維持するだけの取引を勧める合理的事情は存しない。そして,AやBが控訴人に対して,銀の値動きを示すチャート(甲51ないし62)や各取引口座間の証拠金代用充価証券の移動と残高の明細文書(甲63ないし79)を交付していることは,被控訴人が控訴人に対する相場に関する情報提供と取引の勧誘をしていることに結び付くものであるが,控訴人はこれ 座間の証拠金代用充価証券の移動と残高の明細文書(甲63ないし79)を交付していることは,被控訴人が控訴人に対する相場に関する情報提供と取引の勧誘をしていることに結び付くものであるが,控訴人はこれによって取引の状況を客観的に把握しえていたものということもでき,それ以上に断定的判断の提供を推認させる間接事実であるとは言い難い。 よって,この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。 5 本件取引は実質的一任売買かどうかについて検討する。 (1) 控訴人は,過大な数量の取引についての知識,経験が不十分であり,本件取引はBによる実質的一任売買である旨主張し,これに沿う甲47の陳述部分及び原審及び当審控訴人本人の供述部分もあるけれども,前記認定のとおり,控訴人は,A,Bからチャート等により相場の情報提供を受けながら,もっぱら自己の判断で長期間の建玉の維持という特徴を有する本件取引を行っていたものと認められるのであり,この点に関する控訴人の主張はたやすく採用し難い。 (2) なるほど,控訴人が被控訴人に対し,平成2年9月21日から同年12月17日にかけて,作成,交付した追証入金支払を誓約する旨の5通の念書(乙30の1ないし5)のうち4通については,Bによる下書きを参考にしているけれども,その頃は本件取引に追証が発生し,足の状態にまで立ち至り,この状態を解消しないと被控訴人による建玉の強制処分も不可避であるといったいわば非常事態であって,控訴人のみならず担当者であるBの被控訴人内における責任問題にも発展しかねない状況にあったのである(原審証人B)から,このような念書の下書きという事実をもって,本件取引が実質的一任売買である証左となるわけではない。 6 控訴人が取引をしていた期間の被控訴人の取組高,特に利害対立玉(向かい玉)について検討す から,このような念書の下書きという事実をもって,本件取引が実質的一任売買である証左となるわけではない。 6 控訴人が取引をしていた期間の被控訴人の取組高,特に利害対立玉(向かい玉)について検討する。 (1) 商品取引所法94条4号,同法施行規則33条2号は,商品取引員がもっぱら投機的利益の追求を目的として,受託にかかる取引と対当させて,過大な数量の取引をすることを禁止している。これは,商品取引員は,商品取引所の規則の定めるところに従うかぎり,自己の計算で取り引きすることができるが,商品取引員の過当な自己向かい取引は,顧客に対する過当な取引の勧誘と相まつときは顧客の利益を害することとなるために,これを禁止したものであると解される。そして,これに違反したときは,私法上,当該受託にかかる取引は不法行為を構成するものといわなければならない。よって,被控訴人による自己玉が違法な向かい玉であると認められるためには,①自己玉がもっぱら投機的利益の追求を目的とするものであること,②自己玉の取引が委託玉の取引と対当させて行われること,③自己玉の取引が過大な数量のものであることを必要とするというべきである。 (2) 本件取引期間中の銀,白金,米国大豆及び金について,各対応する取引期間中における被控訴人の売りと買いの全体の枚数及び取組高(未決済残玉)等は,おおよそ,次のとおりであることが認められる(弁論の全趣旨)。 ① 被控訴人の自己玉は,売り,買いのうちの委託玉枚数の少ない側に,その差を補う形で建玉されたもので,実際には売建玉が多かったものである。その結果,被控訴人の売りと買いの総取組高は,売りが買いの8~9割という関係が継続した。 ② 前記期間中,被控訴人の自己玉は,ほぼ恒常的に,被控訴人の委託者に対して,利害が対立する関係にあり,おおむね,自己玉 被控訴人の売りと買いの総取組高は,売りが買いの8~9割という関係が継続した。 ② 前記期間中,被控訴人の自己玉は,ほぼ恒常的に,被控訴人の委託者に対して,利害が対立する関係にあり,おおむね,自己玉の損は委託玉の益,自己玉の益は委託玉の損という関係であった。 ③ 各取引品目の帳入差金の動向は,銀,金及び米国大豆について,おおよそ各商品の取引期間ごとに,当初は委託玉に利益が出ていたが,途中で相半ばするようになり,期間の最終日には,いずれも自己玉に利益が出るような損益の動きになっていること,白金については,終始,委託玉に益が出る反面で,自己玉に損が出るという損益の動きになっていることが指摘できる。 ④ また,控訴人が大きく損失を被った平成元年11月22日以降の銀の取引について,限月別(平成2年10月限,同年12月限,平成3年2月限)に,被控訴人自己玉と控訴人の委託玉との関係をみると,以下のとおりである。 (ア) 平成2年10月限(あ) 取組高の推移被控訴人の自己玉は,控訴人の買玉(50枚)と対立する形で,ほぼ常に売りポジションとなっている。 (い) 総取組高の一致率平均で81.5%の一致を示している。 (う) 帳入差金累計売りの自己玉が約8296万円(売玉全体の益の約75%)の益であるのに対して,控訴人は約2002万円(買玉全体の損の約20%)の損となっている。 (イ) 平成2年12月限(あ) 取組高の推移被控訴人の自己玉は,控訴人の買玉(150枚)と対立する形で,常に売りポジションとなっている。 (い) 総取組高の一致率平均で80.8%の一致を示している。 (う) 帳入差金累計売りの自己玉が約6679万円(売玉全体の益の約58%)の益であるのに対して,控訴人は約4177万円(買玉全体の損の約32%)の損となっている。 0.8%の一致を示している。 (う) 帳入差金累計売りの自己玉が約6679万円(売玉全体の益の約58%)の益であるのに対して,控訴人は約4177万円(買玉全体の損の約32%)の損となっている。 (ウ) 平成3年2月限(あ) 取組高の推移被控訴人の自己玉は,控訴人の買玉(200枚)と対立する形で,常に売りポジションとなっている。 (い) 総取組高の一致率平均で85.9%の一致を示している(う) 帳入差金累計売りの自己玉が約7231万円(売玉全体の益の約72%)の益であるのに対して,控訴人は約7590万円(買玉全体の損の約65%)の損となっている。 (3) ところで,商品取引員が一定の限度内で自己玉を保有することは禁止されていないから,その保有した自己玉が,たまたま委託玉に対して利害の対立する関係に立ったとしても,そのことだけで,特定の委託者に対する関係において,自己玉が違法であるということはできないが,ある商品取引員の自己玉が,特定の委託者に対する関係においてでなく,全委託者に対する関係で,恒常的に利害対立する関係に立っているとすると,仮に自己玉の帳入差金の累計が常に利益となり,委託玉の帳入差金の累計が常に損失となるような状況が継続的に生じた場合には,一定期間取引を行った委託者に利益が生ずるのは例外的な現象となり,原則的には損失を発生させることになるから,その商品取引員に,いわゆる「客殺し」の体質があることを推認させる重要な根拠の一つとなるといえる。 そうすると,本件において,前記(2)のとおり,大量観察の上で,銀,金及び米国大豆の帳入差金の動向に照らして,被控訴人に「客殺し」の体質が存在することが窺われないでもなく,特に銀取引に関していえば,売りと買いの取組高が高い一致率を示す場合,商品取引員と取引所との清算が 米国大豆の帳入差金の動向に照らして,被控訴人に「客殺し」の体質が存在することが窺われないでもなく,特に銀取引に関していえば,売りと買いの取組高が高い一致率を示す場合,商品取引員と取引所との清算がされずに,その商品取引員の自己玉と顧客の委託玉との間で相殺される形で損と益が発生することを考えると,被控訴人に「客殺し」の体質が全くなかったと断言することまではできないところである。 (4) しかしながら,一方で,被控訴人の自己玉が委託玉の少ない方にその差を埋める形でポジションが建てられ,売りと買いの取組高が高い一致率を示すことは,板寄せ売買仕法における競売買の迅速・合理化あるいは損勘定の平準化の必要から,制度上認められたバイカイ及び端(ハナ)合わせの結果,必然的に生じる状態であるともいえること(乙43),また,帳入差金の受払は,取引所における技術的な仮計算による仮差金の受払であって,最終的な売買損益の受渡しではなく,個々の取引の最終損益はその建玉処分時に確定するものであるから,その建玉存続中の仮計算による損益は直ちに確定損益になるものではないことも指摘できる。 (5) そして,本件取引期間中における被控訴人の自己玉と控訴人の委託玉(建玉)との対応関係は,原判決別紙(六)売買対応表①ないし⑤のとおりであり,これによると,銀取引についていえば,控訴人の委託玉(買いの建玉)の建ち及び落ちのいずれにも対応する被控訴人の自己玉の取引のないものがみられること,控訴人の委託玉(買いの建玉)の建ちに対応する被控訴人の自己玉にしてもその落ちは,委託玉と自己玉とでは対応するものはほとんどないこと(これは,被控訴人の自己玉は短期間で手仕舞いされているが,この自己玉の建ちに対応する控訴人の委託玉は長期間維持されているという本件取引の特徴から,生じている現象と は対応するものはほとんどないこと(これは,被控訴人の自己玉は短期間で手仕舞いされているが,この自己玉の建ちに対応する控訴人の委託玉は長期間維持されているという本件取引の特徴から,生じている現象といえる。)が指摘できる。したがって,本件においては,控訴人の委託玉の損失により被控訴人の自己玉の利益が生じるといった対応関係は存在しない。 なお,被控訴人の自己玉の取引が過大な数量のものであると認めるに足りる証拠もない。 (6) 以上に指摘した事情の他,特定の委託者たる控訴人との関係で,商品取引員たる被控訴人の自己玉の取引に違法性があるというためには,違法性判断の根拠となるべき他の事情も加味しなければならないところ,本件においては,架空名義の使用による過当取引,断定的判断の提供による勧誘行為,実質的一任売買という主な争点について,控訴人の主張を認めることはできないことをも総合勘案すると,仮に被控訴人に「客殺し」の体質があったとしても,本件取引において認められる被控訴人による向かい玉(利害対立玉)の存在をもって,控訴人に対する違法性を認めることは困難というほかない。 7 なお,控訴人は,A,Bが断定的判断の提供をして本件取引を勧誘し,本件取引がBによる実質的一任売買であり,また被控訴人が「客殺し」としての向かい玉(利害対立玉)をしていたことの証拠として,控訴人とB,Aらとの会話録音テープの反訳(甲35,80ないし85)を提出する。 なるほど,前記会話録音テープの反訳によると,平成2年12月5日,控訴人自宅での会話で,被控訴人の自己玉の割合は顧客の建玉の1%であるとの控訴人の発言に相づちを打つ形でBが「そう,そう」と発言している部分(甲80),同月14日,控訴人経営のパチンコ店事務所での会話で,Bが「Dさんは,私のゆったことを私の導く方向 建玉の1%であるとの控訴人の発言に相づちを打つ形でBが「そう,そう」と発言している部分(甲80),同月14日,控訴人経営のパチンコ店事務所での会話で,Bが「Dさんは,私のゆったことを私の導く方向へそのまま,きれいに乗っていただいて任せるとゆってくれたと・・・」と発言している部分(甲81),同月17日,被控訴人名古屋支店での会話で,5通目の追証入金念書の作成の際に,Bは「今までのはみんなボツですよ」と発言している部分(甲82),平成3年2月25日,喫茶店での会話で,Bがこれまでの10人の口座による本件取引に加えて「10人でしょ。だったら,12人にすればいいじゃないですか。」と発言している部分(甲83),同年3月8日,控訴人経営のパチンコ店事務所での会話で,Bが商品ファンドを引き合いに出して,「まだ手があるんです。・・・今までのね,無理して買わしたことによってのね」「ある程度任せないと駄目なんです。」「相場でやるんです。」と発言している部分(甲84),同年4月24日,控訴人自宅での会話で,Cに売買をすべて任してくれれば80%以上の確率で儲けさせてくれると言っているがとの控訴人の発言に対して,Aは「はい,そうだと,それはもう間違いないと思いますね。」と返答し,また銀が底値で勧誘したことについて「確かに,シルバーのですね,25円って言うとですね。狂いないなあって言うとこをお勧めしたつもりですけどね。」と発言している部分(甲85),同年5月2日,E弁護士事務所での電話による会話で,控訴人によるCに任せて取引を再開するとなるとどのくらいだとの問い対して,Bは「八,九いけるでしょう。」「今までは100%ですものね」と発言している部分(甲35)等がみられる。 しかしながら前記のような会話は,前記認定のとおり,平成2年10月8日に本件取引に足 て,Bは「八,九いけるでしょう。」「今までは100%ですものね」と発言している部分(甲35)等がみられる。 しかしながら前記のような会話は,前記認定のとおり,平成2年10月8日に本件取引に足が発生し,控訴人は追証の入金支払のために不動産の売却等の金策を試みる一方で,被控訴人に5通の念書を差し入れ,同年12月3日には,Cによる建玉の強制処分を撤回させるなどして,建玉を維持しようとしたが,最終的に平成3年2月26日をもって本件取引が終了したという背景を前提としたものであり,しかも,控訴人は,BやAから断定的判断や実質一任売買の言質を録取しようとする会話録音の目的の下に,会話がされていることに照らすと,BやAの前記発言を捉えて,本件取引において同人らに断定的判断や実質一任売買があったことを認めることはできないというべきである。 8 以上の次第で,控訴人の本訴請求は理由がなく,被控訴人の反訴請求は理由があるところ,これと同旨の原判決は相当であって本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部裁判長裁判官小川克介裁判官黒岩巳敏裁判官永野圧彦

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