令和4(行ウ)134 相続税更正処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年4月17日 大阪地方裁判所 租税
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判決文本文24,154 文字)

令和7年4月17日判決言渡令和4年(行ウ)第134号相続税更正処分取消等請求事件主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求 1 α税務署長が令和2年12月24日付けで原告に対してした、平成28年▲月▲日相続開始に係る相続税の更正処分のうち納付すべき税額1948万6500円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。 2 α税務署長が令和2年12月24日付けで原告に対してした、被相続人Bに係る平成27年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額853万2576円、還付金の額に相当する税額11万円を超える部分並びに無申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。 3 α税務署長が令和2年12月24日付けで原告に対してした、被相続人Bに 係る平成28年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分のうち、総所得金額105万4825円、還付金の額に相当する税額2万7539円を超える部分並びに無申告加算税賦課決定処分をいずれも取り消す。 (注)上記2及び3については、所得の金額又は納付すべき税額が増加する方向(還付金がある場合に、その額に相当する金額が減少する方向)をプラス、所 得の金額又は納付すべき税額が減少する方向(還付金がある場合に、その額に相当する金額が増加する方向)をマイナスとみて、ある金額よりもプラス方向の部分を「超える部分」と表現している。 第2 事案の概要原告の父であるB(以下「本件被相続人」という。)は、平成18年9月、 委託者を本件被相続人、受託者をC(以下「本件受託者」という。)、受益者 を本件被相続人及び原告とする信託契約(以下「本件信託契約」といい、これにより設 いう。)は、平成18年9月、 委託者を本件被相続人、受託者をC(以下「本件受託者」という。)、受益者 を本件被相続人及び原告とする信託契約(以下「本件信託契約」といい、これにより設定された信託を「本件信託」という。)を締結した。本件被相続人は、平成28年▲月▲日に死亡し、相続が開始した(以下「本件相続」という。)。 α税務署長は、令和2年12月24日付けで、原告に対し、平成19年法律第6号による改正前の相続税法(以下「旧相続税法」という。)4条2項1号 により、本件信託の利益を受ける権利の2分の1につき、本件相続開始時に原告が贈与により取得したとみなされるとして、①本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の更正処分(以下「本件相続税更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件相続税賦課決定処分」といい、本件相続税更正処分と併せて「本件相続税処分」という。)、②本件 被相続人の平成27年分及び平成28年分(以下「本件各年分」という。)の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)の各更正処分(以下「本件各所得税等更正処分」といい、年分を特定する場合には「本件所得税等更正処分(平成27年)」などという。)並びに無申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各所得税等賦課決定処分」といい、年分を特定する場合には 「本件所得税等賦課決定処分(平成27年)」などという。また、「本件各所得税等賦課決定処分」と「本件各所得税等更正処分」を併せて「本件各所得税等処分」といい、本件相続税処分と本件各所得税等処分を併せて「本件各処分」という。)をした。 本件は、原告が、本件信託契約は受益割合のない裁量信託であるから、旧相 続税法4条1項により、本件信託契約締結時に原告が本件信託の利益 各所得税等処分を併せて「本件各処分」という。)をした。 本件は、原告が、本件信託契約は受益割合のない裁量信託であるから、旧相 続税法4条1項により、本件信託契約締結時に原告が本件信託の利益を受ける権利の全てを贈与により取得したとみなされるべきであり、同条2項1号により、本件相続開始時に原告がその2分の1を贈与により取得したとみなすことは誤りであるなどと主張して、被告を相手に、本件各処分(ただし、本件相続税更正処分及び本件各所得税等更正処分については、それぞれ申告額を超える 部分)の取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 相続税法ア信託行為によるみなし贈与旧相続税法4条1項は、信託行為があった場合において、委託者以外の者が信託の利益の全部又は一部についての受益者であるときは、当該信託 行為があった時において、当該受益者が、その信託の利益を受ける権利(受益者が信託の利益の一部を受ける場合には、当該信託の利益を受ける権利のうちその受ける利益に相当する部分)を当該委託者から贈与(当該信託行為が遺言によりなされた場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定する。 イ受益者の変更によるみなし贈与旧相続税法4条2項は、同項各号に掲げる信託について、当該各号に掲げる事由が生じたため委託者以外の者が信託の利益の全部又は一部についての受益者となった場合においては、その事由が生じた時において、当該受益者となった者が、その信託の利益を受ける権利を当該委託者から贈与 (同項1号の受益者の変更が遺言によりなされた場合又は同項4号の条件が委託者の死亡である場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定し、同項1号において、「委託者が受益者である信託について、受益者が変更された 者の変更が遺言によりなされた場合又は同項4号の条件が委託者の死亡である場合には、遺贈)により取得したものとみなす旨規定し、同項1号において、「委託者が受益者である信託について、受益者が変更されたこと。」を、同項4号において、「停止条件付で信託の利益を受ける権利を与えることとしている信託について、その条件が成就した こと。」を、それぞれ掲げる。 ウ評価の原則相続税法22条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による旨規定する。 (2) 所得税法 所得税法(平成19年法律第6号による改正前のもの。以下「旧所得税 法」という。)13条1項本文及び同項1号は、信託財産に帰せられる収入及び支出については、受益者が特定している場合、その受益者がその信託財産を有するものとみなして、この法律の規定を適用する旨規定する。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実。なお、証拠番号は特記なき限り枝番号を含 む。)(1) 原告原告は、本件被相続人(平成28年▲月▲日死亡)の子であり、その相続人の一人である。 (2) 本件被相続人名義の口座の開設等 ア本件被相続人は、平成18年7月20日、D銀行(以下「本件銀行」という。)に本件被相続人名義の口座を開設するとともに、同口座に関する代理人を原告と定めた(乙4~6)。 イ本件受託者は、平成18年8月18日、E社を設立した。同社の実質的支配者は、本件被相続人であった。(乙7~9) (3) 本件信託契約の締結本件被相続人は、平成18年9月11日、本件受託者との間で、本件委託者を委託者、本件受託者を受託者、受益者を本件被相続人及び原告とする本件信 た。(乙7~9) (3) 本件信託契約の締結本件被相続人は、平成18年9月11日、本件受託者との間で、本件委託者を委託者、本件受託者を受託者、受益者を本件被相続人及び原告とする本件信託契約を締結した(甲5。以下、本件信託契約に係る証書を「本件信託証書」といい、本件信託証書1.2項が定める本件信託に係る信託財産を 「本件信託財産」という。)。 (4) 信託財産の受入れ及び信託期間中の運用等ア E社は、平成18年9月12日、本件信託に係る信託財産を受け入れるために、本件銀行に対し、E社名義の口座(口座番号〇〇〇〇〇〇。なお、平成27年6月から口座番号は〇〇〇〇〇〇に変更されている。以下「本 件信託口座」という。)の開設を申し込むとともに、原告を同社の代理人 として届け出た。この届出において、原告は、本件信託口座を運用し、指示を与える権限を付与されていたが、本件信託口座から有価証券又は現金を引き出すことは許可されていなかった。(乙1、2、8、10、11)イ本件被相続人は、平成18年8月1日から同月2日にかけて、F銀行に開設されたE社名義の口座から、本件銀行に開設された本件被相続人名義 の口座(口座番号〇〇〇〇〇〇)に対し、下記①ないし③の資産の移動を指示し、遅くとも同月29日までに、これを了した(甲6~8、乙12、13)。 ① 米ドル建て定期預金(50万ドル)全額② 日本円残高の全額 ③ 債券ウ本件被相続人は、平成18年11月3日から平成20年11月19日にかけて、前記イ①ないし③の各資産を前記イの本件被相続人名義の口座から本件信託口座に移動させた(乙13、14)。 エ本件信託口座に組み入れられた信託財産については、本件信託の設定時 か にかけて、前記イ①ないし③の各資産を前記イの本件被相続人名義の口座から本件信託口座に移動させた(乙13、14)。 エ本件信託口座に組み入れられた信託財産については、本件信託の設定時 から本件相続開始日に至るまでの間、本件信託が解約されるなどして払い戻されたり、受益者に対して分配されたりすることはなかった。 (5) 本件相続の開始等ア原告は、平成22年3月15日、α税務署長に対し、本件被相続人から平成21年中に贈与を受けた財産について、相続税法21条の9第1項の 適用を受けることを選択した旨の相続時精算課税選択届出書を提出した(乙15)。 イ本件被相続人は、平成28年▲月▲日に死亡し、本件相続が開始した。 本件相続における法定相続人は、本件被相続人の配偶者である訴外G並びに本件被相続人の子である原告、訴外H、訴外I及び訴外Jの計5名(以 下「相続人ら」という。)である(乙3)。 (6) 本件信託財産の移管ア原告は、平成28年▲月▲日、本件銀行に対し、本件信託口座に保管されている有価証券、現金、借入金の全てをK名義の口座(口座番号〇〇〇〇〇〇)に移管するよう指示するとともに、移管後に本件信託口座を閉鎖するよう指示した(甲9)。 イ本件銀行は、上記アの指示を受けて、平成28年▲月▲日から同月▲日にかけて、原告が指定する口座に対し、本件信託財産の移管を了した。 (甲10)(7) 所得税等及び相続税の申告ア相続人らは、平成28年▲月▲日、α税務署長に対し、別紙2「課税の 経緯(所得税等)」の「確定申告」欄のとおり、本件被相続人の本件各年分の所得税等の確定申告書を提出した(乙16)。 相続人らは、上記確定申告書において、本件信託財産から生じた利益について申告しておらず、原告も 等)」の「確定申告」欄のとおり、本件被相続人の本件各年分の所得税等の確定申告書を提出した(乙16)。 相続人らは、上記確定申告書において、本件信託財産から生じた利益について申告しておらず、原告も、原告の本件各年分の所得税等の確定申告書において、当該利益について申告していなかった(乙17)。 イ原告は、平成28年▲月▲日、α税務署長に対し、別紙3「課税の経緯(相続税)」の「当初申告」欄のとおり、本件相続税の申告書を、訴外G及び訴外Jと共同して提出した(甲1)。 原告、訴外G及び訴外Jは、上記申告書において、相続税の課税価格の計算上、本件信託の利益を受ける権利を課税価格に算入していなかった (甲1)。 (8) 本件各処分等ア α税務署長は、令和2年12月24日付けで、原告に対し、別紙2「課税の経緯(所得税等)」及び別紙3「課税の経緯(相続税)」の各「更正処分等」欄のとおり、本件各処分をした(甲2、3)。 イ原告は、令和3年3月19日、本件各処分を不服として、国税不服審判 所長に対し、別紙2「課税の経緯(所得税等)」及び別紙3「課税の経緯(相続税)」の各「審査請求」欄のとおり、それぞれ審査請求をした(乙23)。 ウ国税不服審判所長は、令和4年3月16日付けで、前記審査請求を棄却する旨の裁決をし、同月22日、裁決書謄本が原告に到達した(甲4)。 (9) 本件訴えの提起原告は、令和4年9月15日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 主たる争点(1) 争点1(旧相続税法4条1項により本件信託契約締結時に原告が贈与により取得したとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の2分の1にと どまるか否か)(2) 争点2(旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始時に原告が本件信 託契約締結時に原告が贈与により取得したとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の2分の1にと どまるか否か)(2) 争点2(旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始時に原告が本件信託の利益を受ける権利の2分の1を贈与により取得したとみなされるか否か) 4 争点に関する当事者の主張の骨子 (1) 争点1(旧相続税法4条1項により本件信託契約締結時に原告が贈与により取得したとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の2分の1にとどまるか否か)(被告の主張)本件信託の設定時において、委託者である本件被相続人及び委託者以外の 者である原告は、本件信託証書の条項及びその準拠法であるジャージー島信託法に照らし、いずれも、本件信託に係る信託受給権及び信託監督的権能を有する「受益者」であったと認められるところ、有限である信託財産の管理又は処分等により生ずる利益を受益者に享受させるという信託の性質上、一の信託において受益者が複数存在する場合には、いずれか一人の受益者が当 該信託の利益の全部を受ける権利を有することは論理的にあり得ないから、 本件信託が裁量信託であるか否かにかかわらず、本件被相続人と原告の受益権は、いずれも、本件信託の利益の一部を受ける権利ということになる。 そして、本件信託においては、受益者の受益割合や持分に関する定めはないものの、受益者としての地位ないし権利について何らかの質的又は量的な制約・限定を付する旨の定めは存在せず、また、両者の間に何らかの優劣が あることをうかがわせるような定めも存在しないから、本件信託契約を合理的に解釈すると、本件被相続人及び原告の受益者としての地位ないし権利の内容は相等しいものであったと解するほかない。したがって、本件被相続人と原告の受益割合 な定めも存在しないから、本件信託契約を合理的に解釈すると、本件被相続人及び原告の受益者としての地位ないし権利の内容は相等しいものであったと解するほかない。したがって、本件被相続人と原告の受益割合は、いずれも2分の1であったというべきである。 (原告の主張) ア本件信託はジャージー島信託法における裁量信託であり、本件信託の受益者は、ジャージー島信託法において「信託に基づき保有されている財産を分配する裁量権の行使の利益を受ける者」に該当する。本件信託の受益者(裁量信託の受益者)が有する権利は、法的な給付請求権ではなく、受託者の裁量権の行使により、信託財産全部を上限として利益配分を受ける 権利(期待権)であるから、受益割合や持分など存しないし、少なくとも、2分の1などと確定的な割合が決まることはない。 原告は、本件信託において旧相続税法4条1項の「受益者」に該当するところ、本件信託の設定時において、「委託者以外の者」は原告のみであり、原告は、信託財産全部に対して権利(期待権)を有する受益者 であるから、原告は、同項の「信託の利益の全部…についての受益者」に該当する。したがって、原告が同項により贈与を受けたものとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の全部である。 イ被告は、本件信託契約締結時における原告の受益割合を、当事者の合理的意思解釈によって認定する。しかし、被告は、合理的意思解釈という契 約解釈法理について、ジャージー島信託法上の根拠や内容について何らの 説明をしていないし、合理的意思解釈により本件信託の受益権の受益割合や持分を認定することは、本件信託が裁量信託であることと相容れない。 また、当事者の合理的な意思に基づいて本件信託契約を解釈したとしても、原告の受益割合が2分の1であると り本件信託の受益権の受益割合や持分を認定することは、本件信託が裁量信託であることと相容れない。 また、当事者の合理的な意思に基づいて本件信託契約を解釈したとしても、原告の受益割合が2分の1であるという帰結が導き出される余地もない。 被告は、受益者が複数の場合に、いずれか一人の受益者が信託の利益の 全部についての受益者であることはあり得ないと主張する。しかし、裁量信託において、受益者は、法的請求権としての信託受給権を有するものではなく、信託財産全部(信託の利益の全部)について期待権を有するものであり、かかる受益者が複数併存することも当然にあり得る。 (2) 争点2(旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始時に原告が本件信 託の利益を受ける権利の2分の1を贈与により取得したとみなされるか否か)(被告の主張)本件信託証書第5項は、受益者である本件被相続人又は原告のいずれか一方が信託期間中に死亡した場合には、以後、生存する一方が本件信託の 唯一の受益者となり、本件信託の利益の全部を受けることになり、受益者の相続人は受益者たる地位を相続しない旨の定めであると解するのが、当事者の合理的意思解釈というべきである。このことは、原告が、本件被相続人の死亡後に、本件銀行に対し、本件信託財産の全部を原告が指定する口座に移管するよう指示し、その指示に従って移管が行われたことからも 裏付けられる。 本件被相続人は、本件信託の利益を受ける権利の2分の1を有していたのであるから、本件信託は、その限度において自益信託である。そして、本件被相続人の死亡により、本件信託の受益者は原告のみとなったことにより、原告は、自益信託であった部分(本件信託の利益を受ける権利の2 分の1)についても受益者になったのであるから、本件被相続人の 被相続人の死亡により、本件信託の受益者は原告のみとなったことにより、原告は、自益信託であった部分(本件信託の利益を受ける権利の2 分の1)についても受益者になったのであるから、本件被相続人の死亡に より原告が本件信託の利益を受ける権利の全部について受益者となったことは、旧相続税法4条2項1号の「委託者が受益者である信託について、受益者が変更されたこと」に該当する。 したがって、原告は、旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始時に本件信託の利益を受ける権利の2分の1を贈与により取得したとみなさ れる。 (原告の主張)ア争点1(原告の主張)のとおり、原告は、本件信託の利益の全部についての受益者に該当するのであり、本件被相続人の死亡により、その2分の1が原告に移転することはなく、受益割合が変動することもないから、旧 相続税法4条2項1号の適用の前提を欠く。 また、本件信託は、その設定時から委託者以外の受益者として原告が存在するから、「委託者が受益者である信託」すなわち自益信託には該当しない。本件信託では本件被相続人(委託者)も受益者となっているが、飽くまで信託契約は一つであり、委託者以外の者が信託設定時から存在する 以上、他益信託である。そして、原告は、本件信託の設定時から受益者であり、本件被相続人の死亡後も受益者であることに変わりはないのであるから、本件被相続人の死亡により「受益者が変更された」(旧相続税法4条2項1号)ものではないし、その変更により「委託者以外の者が信託の利益の全部又は一部についての受益者になった場合」(同項柱書き)、す なわち、自益信託が他益信託になった場合にも該当しない。 イ旧相続税法4条において、「贈与」とみなされる場合と「遺贈」とみなされる場合とは法文上 ての受益者になった場合」(同項柱書き)、す なわち、自益信託が他益信託になった場合にも該当しない。 イ旧相続税法4条において、「贈与」とみなされる場合と「遺贈」とみなされる場合とは法文上明確に区別されており、仮に、委託者の死亡に起因する場合も「受益者が変更された」場合に該当するというのであれば、委託者の死亡に起因する場合は「贈与」ではなく「遺贈」とみなされ、かつ、 その旨条文上も明示されることになるはずであって、被告の解釈は、旧相 続税法4条2項柱書き及び同項1号の解釈として、明らかに無理がある。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(ジャージー島信託法及び本件信託契約の条項等)(1) ジャージー島信託法(乙24)ア用語の解釈(1条) (1) 受益者(beneficiary)とは、信託の利益を享受する資格のある者又は信託に基づき保有されている財産を分配する裁量権の行使の利益を受ける者を意味する。 (2)~(5) 略イ受託者の義務(17条) (1) 受託者は、その義務を遂行し、その権限及び裁量権を行使する場合においては、下記の行為基準および遵守基準(略)に従わなければならない。 (2) 本法に別段の定めのある場合を除いて、受託者はその信託の条項に従ってその信託を運営し、管理しなければならない。 (3)、(4) 略(5) 受託者は自己の受託者たる地位に関して正確な計算及び記録を保持しなければならない。 (6)~(8) 略ウ受託者の公平義務(19条) その信託の条項に定める場合を除いて、2名以上の受益者が存在する場合、又は2つ以上の信託目的が存在する場合には、受託者は公平を保持し、他の受益者又は他の目的を犠牲にして1名の受益者又は1つの目的だけの 信託の条項に定める場合を除いて、2名以上の受益者が存在する場合、又は2つ以上の信託目的が存在する場合には、受託者は公平を保持し、他の受益者又は他の目的を犠牲にして1名の受益者又は1つの目的だけの利益のために信託を履行してはならない。 (2) 本件信託契約の条項(甲5) ア信託財産(1.2項、別表第1) 本件信託に係る信託財産(本件信託財産)は、次の(ア)ないし(ウ)の財産とされている。 (ア) 当初の信託財産である100米ドル(イ) 本件信託契約締結後に、いずれかの者によって追加された財産、累積した収益、元本の増加益その他の事由により本件信託に付加された経 済的価値(ウ) 上記(ア)の資産及び上記(イ)の追加資産に相当する資産イ受益者(1.3項、別表第2)本件信託契約の受益者は、本件信託証書別表第2に規定された者又は受託者が指名するその他の者若しくはクラスを意味するとされ、同別表 第2は、受益者として、本件被相続人と原告の2名を定めている。 なお、本件信託証書に、同人らの受益割合やその算定方法を具体的に定めた規定は見当たらない。また、本件受託者は、本件信託契約締結後、本件被相続人と原告以外の者を本件信託の受益者として指名したことはない(したがって、本件信託の設定時から本件相続開始時に至るまで、 本件信託契約の受益者とされている者は、本件被相続人と原告だけである。)。 ウ信託期間(1.10項)本件信託の信託期間は、本件信託証書の日付から100年の期間の満了時又は同日以前に受託者が書面で表明する日である。 エ準拠法(2項)本件信託の準拠法は、英領ジャージー島又は受託者が今後随時決定する他の国・地域の法律とする。 オ本件信託財産の管理・保有(4項、5項 託者が書面で表明する日である。 エ準拠法(2項)本件信託の準拠法は、英領ジャージー島又は受託者が今後随時決定する他の国・地域の法律とする。 オ本件信託財産の管理・保有(4項、5項)(ア) 「受託者は、信託期間中は、受益者全員又は一部の受益者を除く一 人以上の受益者のために、そのような受益者が複数の場合はそれらの受 益者らの持分に応じて、また管理権限その他の権限若しくは条項(受託者以外の者が行使できる権限若しくは裁量権、又は、裁量権の委任の許可を含む。)に従い、かつ一般的に受託者がその裁量によって適切と判断する方法で、信託基金及びその収益を保有して、信託財産のすべて、あるいは一部を支払い、割当て、又は指名をしなければならないものと する。」(4項前段・訳文ママ)。 (イ) 「前記に従い、受託者は、信託期間が満了した時点で、信託基金及びその収益を、自然人であり、信託期間の満了時に生存している受益者に、完全に均等な割合で信託において保有されるものとし、そのような受益者が存在しない場合は、受託者がその裁量により決定する慈善目的 のために信託において保有されるものとし、そのような決定が行われない場合には、一般的な慈善目的のために信託において保有されるものとする。」(5項・訳文ママ)。 (3) 本件被相続人作成の意向書本件被相続人は、平成24年5月2日、本件受託者に対し、以下の内容が 記載された意向書(以下「本件意向書」という。)を提出した(甲11)。 ア本件信託について本件受託者には、受託者として、随時適切と考えるとおりに、信託の元本及び収益を受益者の利益のために処理する完全な裁量権が与えられています。私は、これらの裁量権及び権限が、受託者の絶対的かつ自由な管理 下に 、受託者として、随時適切と考えるとおりに、信託の元本及び収益を受益者の利益のために処理する完全な裁量権が与えられています。私は、これらの裁量権及び権限が、受託者の絶対的かつ自由な管理 下にあることは承知していますが、私が当該裁量権及び権限がどのように行使されることを希望しているかを本書面でお示しした場合には、本件受託者の参考になるかもしれません。 イ私の生前私は、私の生前には、主に私の利益のためになるように信託を設定しま した。そのため、受託者には、私が随時求めるとおりに、信託から私に 対して分配することを検討して頂きたいと考えています。また、信託財産の100%を上限として、原告が単独で分配請求をした場合には、当該請求も受け付けて頂きたいと考えています。 また私は、私自身の医療費や老後のケアに最大限の注意を払って頂き、私の信託からこれらに関する経済的支援を受けることを希望しています。 特に、私が無能力となった場合には、受託者には、私のケアに必要な医療費、看護費、ヘルパー費用など、私の生活を維持するために必要なすべての経済的支援を行って頂くことを希望しています。 ウ私の死後私は、私が死亡した場合の財産の将来的な処理に関しては、私の死亡 時に信託財産を構成する当該財産(suchshare)が、原告のためだけに保有されることを希望します。 2 争点1(旧相続税法4条1項により本件信託契約締結時に原告が贈与により取得したとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の2分の1にとどまるか否か)について (1) 本件被相続人及び原告がいずれも「受益者」に該当すること(前提)ア旧相続税法4条1項にいう「受益者」とは、受益権すなわち信託受給権及び信託監督的権能を有する者をいうと解され て (1) 本件被相続人及び原告がいずれも「受益者」に該当すること(前提)ア旧相続税法4条1項にいう「受益者」とは、受益権すなわち信託受給権及び信託監督的権能を有する者をいうと解されるところ(当事者双方が依拠する名古屋高裁平成25年4月3日判決・訟務月報60巻3号618頁〔甲14〕参照)、本件信託において、本件被相続人と原告は、共に信託 受給権及び信託監督的権能を有していたといえ(認定事実(1)(2)参照)、いずれも上記「受益者」に該当する(上記「受益者」該当性につき、当事者間に争いがない。)。 また、旧所得税法13条1項1号の「受益者」は、旧相続税法4条1項の「受益者」と同義のものと解され、本件被相続人と原告は、いずれも同 号にいう「受益者」に該当する。 イこの点に関し、原告は、要旨、受益者とされた者の有する権利が、いまだ確定的な信託受給権とは評価できず、法的な請求権ではない受益期待権にすぎないと評価される場合であっても、当該者は上記「受益者」に該当し、このことは、上記名古屋高裁判決に合致すると主張するが、上記のような受益期待権にすぎなくとも「受益者」に該当する旨の原告の主張は、 上記名古屋高裁判決とは異なる立場であると解される。 すなわち、上記名古屋高裁判決は、旧相続税法4条1項の「受益者」とは、受益権(信託受給権及び信託監督的権能)を有する者であるとし、さらに、この「受益者」に該当するためには、受益権が「確定的に帰属することを要しない」としているが、法的な請求権であることすら不要として いるものではなく、かえって、「被控訴人(注:一審原告)は本件信託行為時に信託の全部の利益を享受できる立場になく、本件信託から利益を受けることを期待できる立場にあったにすぎないから受益者に いるものではなく、かえって、「被控訴人(注:一審原告)は本件信託行為時に信託の全部の利益を享受できる立場になく、本件信託から利益を受けることを期待できる立場にあったにすぎないから受益者には当たらない」旨の主張に対し、「被控訴人は受託者に対し、上記の金員の分配を請求できるものと解すべきであるから、被控訴人は分配を受けることを期待 できる立場にあるにすぎないということはできない」として、上記「受益者」該当性を認めている。このように、上記名古屋高裁判決は、法的な請求権ではない受益期待権をもって、上記「受益者」該当性を認めたものではなく、原告の主張は、上記名古屋高裁判決の解釈を誤り又はあえて曲解し、その誤った解釈を自己に有利に援用するものであるといわざるを得な い(なお、仮に、上記名古屋高裁判決が、法的な請求権ではない受益期待権をもって「受益者」該当性を認めたものであるとすれば、そのような判断は旧相続税法4条1項の解釈として誤りであり、当裁判所はそのような解釈を採用するものではない。)。 (2) 本件信託設定時において原告が有する本件信託の利益を受ける権利は、そ の全部か一部か 上記(1)のとおり、本件信託において、本件被相続人と原告は、いずれも旧相続税法4条1項にいう「受益者」に該当する。このように、一の信託において「受益者」が複数存在する場合において、いずれか一人の受益者が当該信託の利益を受ける権利の全部を有し、その他の受益者が受益割合を全く有しないという事象は、一部の受益者の受益権(信託受給権)を否定するこ とにほかならず、上記(1)の「受益者」の定義と矛盾することになり、論理的にあり得ないというべきである。また、同じく一の信託において「受益者」が複数存在する場合に、全受益者が有する受 定するこ とにほかならず、上記(1)の「受益者」の定義と矛盾することになり、論理的にあり得ないというべきである。また、同じく一の信託において「受益者」が複数存在する場合に、全受益者が有する受益割合の総和が1を超える(100%を超える)という事象も、当該信託の利益を受ける権利を重複して計上するものであり、論理的にあり得ないというべきであり、当然のこと ながら、複数の受益者がそれぞれ当該信託の利益を受ける権利の全部を有するという事象も、同様にあり得ないというべきである。 また、本件信託契約4項は、「受託者は、信託期間中は…そのような受益者が複数の場合はそれらの受益者らの持分(insuchshares)に応じて…信託基金及びその収益を保有して、信託財産のすべて、あるいは一部を支払い、 割当て、又は指名をしなければならない」とし、また、同5項は、「前記に従い、受託者は、信託期間が満了した時点で、信託基金及びその収益を、自然人であり、信託期間の満了時に生存している受益者に、完全に均等な割合で(inequalsharesabsolutely)信託において保有されるもの」としているのであるから、本件信託契約においては、受益者が複数存在する場合にお いて、各受益者に受益割合ないし持分(shares)があることを前提としているものと解される(なお、本件被相続人が作成した本件意向書にも「suchshare」という文言があるが、当該箇所は、本件被相続人の死亡時に信託財産を構成する「suchshare」が原告のためだけに保有されることを希望する(itismywishthatsuchshare, comprisingtheTrustFundatmy death, beheldformy れることを希望する(itismywishthatsuchshare, comprisingtheTrustFundatmy death, beheldformyson L(原告) absolutely)というものであり、 その文脈や「share」の通常の意味からして、上記「share」は、本件信託財産のうち本件被相続人の持分を指していると解するのが自然である。)。 以上に鑑みると、本件被相続人と原告が共に受益者であるにもかかわらず、原告が本件信託の利益を受ける権利の全部を有することは論理的にあり得ないというべきであり、また、各受益者に受益割合ないし持分があることを前 提とする本件信託契約の定め(4項、5項)に照らしても、本件信託の設定時において原告が有する本件信託の利益を受ける権利は、その全部ではなく、一部にとどまるというべきである。 (3) 本件信託設定時における原告の受益割合一の信託において受益者が複数存在する場合における各受益者の受益割合 (持分)は、当該信託が信託契約によって設定された場合には、当該信託契約に基づいて決せられるべきであり、当該信託契約に受益割合やその算出方法の定めがあればそれに従い、また、そのような定めがなく又はそれが不明確なものであるときは、契約内容の確定に係る事実認定の問題として、契約当事者の合理的意思解釈により、各受益者の受益割合を認定すべきものであ る。そして、本件信託契約(本件信託証書)には、本件被相続人と原告の受益割合について、その具体的な割合や算出方法の定めは置かれていないから、関連する定めや経験則を踏まえた契約当事者の合理的意思解釈により、その受益割合を認定すべきこととなる。 そこで検討するに、本件信託証書上、本件被相続 的な割合や算出方法の定めは置かれていないから、関連する定めや経験則を踏まえた契約当事者の合理的意思解釈により、その受益割合を認定すべきこととなる。 そこで検討するに、本件信託証書上、本件被相続人と原告の受益割合につ いて、何らかの差異を設ける趣旨の定めは見当たらず、また、両者の受益者としての権利義務に、何らかの優劣があることをうかがわせるような定めも見当たらない。また、ジャージー島信託法19条が、信託の条項に定める場合を除いて、2名以上の受益者が存在する場合、受託者は公平を保持し、他の受益者を犠牲にして1名の受益者の利益のために信託を履行してはならな い旨規定していること(認定事実(1)ウ)も踏まえると、本件信託の設定時 において、本件被相続人及び原告の受益割合に差異や優劣はなく、相等しいもの(それぞれ2分の1)であったと推認するのが相当である。 また、前述のとおり、本件信託契約5項は、「前記に従い、受託者は、信託期間が満了した時点で、信託基金及びその収益を、自然人であり、信託期間の満了時に生存している受益者に、完全に均等な割合で(inequal sharesabsolutely)信託において保有されるもの」としているのであるから、本件被相続人と原告の受益割合は、本件信託契約の終了時だけではなくその設定時においても、完全に均等な割合、すなわち、それぞれ2分の1であったと認めるのが、本件信託契約の契約当事者の合理的意思に合致するというべきである。 以上に鑑みると、本件信託契約において、原告と本件被相続人の受益割合に差異を設ける趣旨の定めがないことや、本件信託契約5項の定めにも照らすと、本件信託の設定時において、原告は、本件信託の利益を受ける権利の2分の1を有していたと認めるのが相当であ 被相続人の受益割合に差異を設ける趣旨の定めがないことや、本件信託契約5項の定めにも照らすと、本件信託の設定時において、原告は、本件信託の利益を受ける権利の2分の1を有していたと認めるのが相当である。 (4) 小括 以上によれば、旧相続税法4条1項により本件信託契約締結時に原告が贈与により取得したとみなされるのは、本件信託の利益を受ける権利の2分の1にとどまると認められる。 そして、本件信託契約締結時から本件相続開始時までの間に、本件被相続人及び原告の受益割合が変更されたことをうかがわせる事情は見当たらない から、本件被相続人及び原告は、本件信託契約設定時から本件相続開始時まで、それぞれ本件信託の利益を受ける権利の2分の1を有していたと認められる。 (5) 原告の主張についてア原告は、本件信託はジャージー島信託法における裁量信託であり、本件 信託の受益者(裁量信託の受益者)が有する権利は、法的な給付請求権で はなく、受託者の裁量権の行使により、信託財産全部を上限として利益配分を受ける権利(期待権)であるから、受益割合や持分など存しないし、少なくとも、2分の1などと確定的な割合が決まることはないと主張し、これに沿う内容の法律意見書(甲12)を提出する。 しかし、前記(1)イで説示したとおり、法的な請求権ではない単なる期 待権は、旧相続税法4条1項の「受益者」該当性の基礎となる信託受給権には該当しないというべきであり、原告の上記主張は、原告が「受益者」に該当するとしながら(この点は当事者間に争いがない。)、単なる期待権しか有していないとして、実質的に「受益者」該当性を否定する主張をするものであり、主張とその前提が相矛盾するものであって、 採用することができない(なお、本件信託におい ない。)、単なる期待権しか有していないとして、実質的に「受益者」該当性を否定する主張をするものであり、主張とその前提が相矛盾するものであって、 採用することができない(なお、本件信託において原告が有するのが正に期待権にすぎないのであれば、本件信託の設定時において、原告はそもそも「受益者」に該当しないのであって、本件信託の利益を受ける権利の全部につき旧相続税法4条1項の適用はないと解すべきである。)。 また、前記(2)で説示したとおり、本件信託が裁量信託という概念に含 まれるかどうかはともかく、本件信託契約4項及び5項等からすれば、受益者に受益割合や持分があることは本件信託契約の前提とされているといえ、これを観念することができないとする原告の主張(受益割合や持分が存在しない裁量信託である旨の主張)は、採用することができない(なお、本件信託契約4項の訳文は、「受託者は…受益者らの持分に 応じて…信託財産のすべて、あるいは一部を支払い」としており、その訳文の文理上、各受益者の受益割合や持分を超える支払等が許されているものとは解し難い。また、仮に、上記訳文が不正確なものであり、受益割合や持分を超える支払等が許されているとしても、それは、受益割合や持分が全く存在しないということではなく、受益割合や持分は存在 するが、必要に応じてそれを超える支払等が許されているものと解すべ きである。)。 また、原告は、受益割合や持分が存在しない裁量信託であることなど、上記主張を裏付けるものとしてジャージー島の法律事務所が作成した法律意見書(甲12)を証拠として提出するが、この法律意見書は、「名宛人に対してのみ宛てられ、名宛人の利益のために作成されたもの」で あり、「意見の作成において当職らは依頼者の利益のみを考 した法律意見書(甲12)を証拠として提出するが、この法律意見書は、「名宛人に対してのみ宛てられ、名宛人の利益のために作成されたもの」で あり、「意見の作成において当職らは依頼者の利益のみを考慮した」というのであって、そのような作成目的や作成経緯からすれば、その内容に全面的な信頼を置くことはできず、上記解釈や判断に抵触する限度において、採用することができない。 イ原告は、契約当事者の合理的意思解釈により、本件信託の受益権の受益 割合や持分を認定することは、本件信託が裁量信託であることと相容れないとか、当事者の合理的な意思に基づいて本件信託契約を解釈したとしても、原告の受益割合が2分の1であるという帰結が導き出される余地もないなどと主張するが、これまでに説示したとおり、本件信託が裁量信託という概念に含まれるかどうかはともかく、少なくとも、受益割合や持分を 観念し得ないものではなく、また、契約当事者の合理的意思解釈によれば、本件信託の各受益者の受益割合は、それぞれ2分の1であると認められる。 原告の主張は採用することができない。 ウなお、仮に、原告の主張を前提とすると、本件信託契約締結時に、本件被相続人と原告のほかに、もう一人の人物(以下「A」という。)が受益 者として設定されていた場合、原告もAも、旧相続法4条1項により、本件信託の利益を受ける権利の全部の贈与を受けたとみなされ、それぞれがその全額につき贈与税の納税義務を負うこととなるが、実体に反する過大な納税義務を発生させるものであって、明らかに不合理である。原告が本件信託の利益を受ける権利の全部を有していたとの原告の主張は、このよ うな設例における結論の不合理さからも、採用することができない。 このような設例に関し、原告は、原告及びA 本件信託の利益を受ける権利の全部を有していたとの原告の主張は、このよ うな設例における結論の不合理さからも、採用することができない。 このような設例に関し、原告は、原告及びAに帰属する受益権は、飽くまでも本件信託財産全部に対する期待権であり、各受益者は、課税の対象を同じくする信託財産の範囲で利益を享受することになるから、信託受益権を共有物とみることができ、国税通則法9条により、原告とAは連帯納付義務を負うにとどまるから、上記のような不合理な結論にはならないと する。 しかし、これまでに述べたとおり、単なる期待権を有することをもって、旧相続税法4条1項の受益者に該当するとする主張自体が矛盾をはらむものであることは前述のとおりであるが、その点を措くとしても、国税通則法9条の解釈として、信託受益権は権利(債権)であるから、これが同条 の共有「物」といえるのかは疑義があるし、信託財産全部に対する受益期待権があることをもって原告とAが信託受益権を「共有」しているとも解し難く(なお、原告は、原告準備書面(3)8頁において、裁量信託において受益者が複数存在する場合、その受益者らが受益権を準共有するものではないと主張しており、主張が矛盾している。また、受益権の準共有を認 めるのであれば、その持分も観念できるはずであるし、その持分割合についても、民法250条により、各共有者間で相等しいものと推定されるはずである。)、原告の上記主張は、上記のような設例における不合理な結論を避けるため、実質的に、国税通則法9条について租税法律主義の見地から許されない類推適用を行い、原告とAの連帯納付義務を認めようとす るものであって、採用することができない。 エ原告は、本件信託契約は、本件被相続人から原告に資産承継させ 税法律主義の見地から許されない類推適用を行い、原告とAの連帯納付義務を認めようとす るものであって、採用することができない。 エ原告は、本件信託契約は、本件被相続人から原告に資産承継させる目的で締結されたものであり、本件被相続人よりも原告が先に死亡してしまった場合に本件信託がチャリティーとなってしまう可能性を回避するために本件被相続人も受益者として名を連ねていたにすぎず、本件被相続人は、 自ら受益者として設定されているものの、その利益を現実に享受する意思 はなかったなどとして、信託財産全部の生前贈与とみるべきであり、受益割合がそれぞれ2分の1というのは本件被相続人の意思に反するなどと主張する。 しかし、上記主張が、本件被相続人が旧相続税法4条1項の「受益者」ではない旨をいうものであれば、本件被相続人は、原告と共に信託受給権 及び信託監督的権能を有していたといえ(認定事実(1)(2)参照)、上記「受益者」に該当すると認められるから、原告の主張は採用することができない。 また、上記主張が、本件信託における受益割合の認定に関する一事情(当事者の合理的意思解釈として本件被相続人の受益割合が限りなくゼロ に近いことを基礎付ける事情)を主張するものであるとしても、本件被相続人は、本件意向書において、「私の生前には、主に私の利益のためになるように信託を設定しました」「私のケアに必要な医療費、看護費、ヘルパー費用など、私の生活を維持するために必要なすべての経済的支援を行って頂くことを希望しています」などと記載しており(認定事実(3)イ)、 本件信託契約締結時に、本件信託財産を全て原告に譲る意向であったとも、その利益を現実に享受する意思がなかったともいえない。原告の上記主張は採用することができない。 おり(認定事実(3)イ)、 本件信託契約締結時に、本件信託財産を全て原告に譲る意向であったとも、その利益を現実に享受する意思がなかったともいえない。原告の上記主張は採用することができない。 オ原告は、以上のほかにも、受益者の数で受益権を按分して課税する被告の主張は、租税法律主義に反し許されないとか、被告の主張によれば租税 回避が容易になるなどと縷々主張するが、原告独自の見解であるか、上記認定判断を左右するに足りず、いずれも採用することができない。なお、契約内容が不明確である場合に、契約当事者の合理的意思解釈により契約内容を確定することは、事実認定の範疇の問題であり、租税法律主義に抵触するというようなものではないし、被告の主張により租税回避が容易に なるかどうかは、本件の結論と関係するものではない。 3 争点2(旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始時に原告が本件信託の利益を受ける権利の2分の1を贈与により取得したとみなされるか否か)について(1) 旧相続税法4条2項1号の「委託者が受益者である信託について、受益者が変更されたこと」に該当するか 本件信託証書第5項は、受益者である本件被相続人又は原告のいずれか一方が信託期間中に死亡した場合には、以後、生存する一方が本件信託の唯一の受益者となり、本件信託の利益の全部を受けることになり、受益者の相続人は受益者たる地位を相続しない旨の定めであると解される。 そして、本件被相続人は、その生存中、本件信託の利益を受ける権利の 2分の1を有しており、当該部分は自益信託(委託者が受益者である信託)に該当するところ、本件被相続人の死亡により、本件被相続人は受益者でなくなり、原告が本件信託を受ける権利の全部を保有するに至ったことから、原告は、本件 当該部分は自益信託(委託者が受益者である信託)に該当するところ、本件被相続人の死亡により、本件被相続人は受益者でなくなり、原告が本件信託を受ける権利の全部を保有するに至ったことから、原告は、本件被相続人が生前に有していた本件信託の利益を受ける権利の2分の1を取得したものといえ、旧相続税法4条2項柱書きの「委託者以外の 者が信託の利益の…一部についての受益者になった場合」に該当するとともに、同項1号の「委託者が受益者である信託について、受益者が変更されたこと」に該当するというべきである。 したがって、原告は、旧相続税法4条2項1号により、本件相続開始日である平成28年▲月▲日に、本件信託の利益を受ける権利の2分の1を、 本件被相続人から贈与により取得したものとみなされるというべきである。 (2) 本件信託の利益を受ける権利の価額平成28年▲月▲日付けのPORTFOLIOSUMMARYSTATEMENT(乙25・54~61丁)によれば、本件信託口座に保有されている財産を同年▲月▲日の円換算レートで換算した金額は4億4613万0398円となるから(付表 9)、本件相続開始時(同月▲日)の本件信託の利益を受ける権利の2分の 1の価額は、2億2306万65199円(=4億4613万0398円×1/2)であると認められる。 (3) 原告の主張についてア原告は、上記(1)につき、①本件信託は委託者も受益者となっているが、あくまで信託契約は1つであり、委託者以外の者(原告)が信託設定時か ら存在する以上、その全部が他益信託である、②本件被相続人の死亡前後を通じて、原告が受益者であることに変わりはないなどとして、本件被相続人の死亡により「受益者が変更された」ものではないし、その変更により「委託者以外の者 部が他益信託である、②本件被相続人の死亡前後を通じて、原告が受益者であることに変わりはないなどとして、本件被相続人の死亡により「受益者が変更された」ものではないし、その変更により「委託者以外の者が信託の利益の全部又は一部についての受益者になった場合」にも該当しないと主張する。 しかし、本件信託においては、本件被相続人と原告が受益者であり、その受益割合はそれぞれ2分の1であるから、本件被相続人が有する2分の1の部分については自益信託(委託者が受益者である信託)というべきであって、信託契約が一つであることにより、その全部を他益信託と評価すべきものではない。また、本件信託のうち自益信託に当たる部分 については、本件被相続人の死亡により原告が受益者となったのであるから、受益者が変更されたというべきである。原告の主張はいずれも採用することができない。 イ原告は、旧相続税法4条において、「贈与」とみなされる場合と「遺贈」とみなされる場合とは法文上明確に区別されており、仮に、委託者の 死亡に起因する場合も「受益者が変更された」場合に該当するというのであれば、委託者の死亡に起因する場合は「贈与」ではなく「遺贈」とみなされ、かつ、その旨条文上も明示されることになるはずであって、被告の解釈は、旧相続税4条2項柱書き及び同項1号の解釈として、明らかに無理があると主張する。 しかし、委託者兼受益者の死亡により当該者の受益権が他の受益者に 引き継がれた場合には、同項1号の「委託者が受益者である信託について、受益者が変更されたこと」に該当するというべきであって、委託者の死亡に起因する場合に贈与とみなすことができないとか、同項1号に該当しないと解することはできない。上記解釈は、その文理に照らして無理な解釈とはいえ されたこと」に該当するというべきであって、委託者の死亡に起因する場合に贈与とみなすことができないとか、同項1号に該当しないと解することはできない。上記解釈は、その文理に照らして無理な解釈とはいえない。原告の主張は採用することができない。 ウ原告は、本件信託の利益を受ける権利の2分の1の評価に関し、本件信託において受益者に帰属する信託受益権は、信託財産全部に対する期待権であって、原告に帰属する信託受益権と本件被相続人に帰属する信託受益権とが、同価額のものとして評価されるということにはならないなどとして(原告準備書面(第5)添付の主張整理表参照)、上記評価に係る被告 の主張を争うようである。 しかし、上記主張は、信託受益権が信託財産全部に対する期待権であるとする前提において、誤りがあるといわざるを得ない。また、被告が主張する金額は、相続税法22条及び財産評価基本通達202(2)に基づいて評価された金額であると認められ、その算定方法は合理的なものというべ きであるから、被告の主張する金額に誤りはないというべきである。原告の主張は採用することができない。 また、原告は、旧相続税法4条2項1号の適用や本件信託の利益を受ける権利の2分の1の評価に関し、以上の他にも縷々主張するが、独自の見解であるか、上記認定判断を左右するに足りないものであって、いずれも 採用することができない。 4 本件各所得税等処分の適法性について前記2(争点1)によれば、本件被相続人は、本件信託の設定時から本件相続開始時に至るまで、本件信託の受益者であり、その受益割合は2分の1であったと認められ、旧所得税法13条1項1号により、本件信託財産の2分の1 に帰せられる収入及び支出は、本件被相続人がその信託財産を有するものとみ 益者であり、その受益割合は2分の1であったと認められ、旧所得税法13条1項1号により、本件信託財産の2分の1 に帰せられる収入及び支出は、本件被相続人がその信託財産を有するものとみ なされ、同法の規定が適用される。これを前提に、以下、本件各所得税等処分の適法性について検討する。 (1) 本件各所得税等更正処分についてア本件被相続人の平成27年分の所得税等に係る総所得金額及び納付すべき税額は、別紙1の1(1)ア及びクのとおり、それぞれ2957万595 0円及び705万6900円となると認められるところ、これらの額は、本件所得税等更正処分(平成27年)に係る総所得金額2794万2375円及び納付すべき税額638万9600円をいずれも上回るから(甲3の1)、本件所得税等更正処分(平成27年)は適法である。 イ本件被相続人の平成28年分の所得税等に係る総所得金額、上場株式等 の配当所得等の金額及び納付すべき税額は、別紙1の1(2)ア、イ及びクのとおり、それぞれ109万6470円、443万5043円及び65万4500円となると認められるところ、これらの額は、いずれも本件所得税等更正処分(平成28年)に係る総所得金額、上場株式等の配当所得等の金額及び納付すべき税額と同額であるから(甲3の2)、本件所得税等 更正処分(平成28年)は適法である。 (2) 本件各所得税等賦課決定処分についてア上記のとおり、本件所得税等更正処分(平成27年)は適法であるところ、本件被相続人の平成27年分の所得税等の準確定申告書は、所得税法124条1項の法定申告期限(平成28年▲月▲日)後である同月▲日に 提出されたことから、原告には無申告加算税が賦課されることとなり、その額は別紙1の2(1)のとおり15万3000円 所得税法124条1項の法定申告期限(平成28年▲月▲日)後である同月▲日に 提出されたことから、原告には無申告加算税が賦課されることとなり、その額は別紙1の2(1)のとおり15万3000円となると認められるところ、この額は、本件所得税等賦課決定処分(平成27年)により原告に賦課された無申告加算税の額13万7000円を上回るから(甲3の1)、本件所得税等賦課決定処分(平成27年)は適法である。 イ上記のとおり、本件所得税等更正処分(平成28年)は適法であるとこ ろ、本件被相続人の平成28年分の所得税等の準確定申告書は、所得税法125条1項の法定申告期限(平成28年▲月▲日)後である平成28年▲月▲日に提出されたことから、原告には無申告加算税が賦課されることとなり、その額は別紙2の(2)のとおり1万2000円となると認められるところ、この額は、本件所得税等賦課決定処分(平成28年)により原 告に賦課された無申告加算税の額と同額であるから(甲3の2)、本件所得税等賦課決定処分(平成28年)は適法である。 5 本件相続税処分の適法性について争点2(前記3(1))で説示したとおり、原告は、本件相続開始日に、本件信託の利益を受ける権利の2分の1を、本件被相続人から贈与により取得した ものとみなされるところ、原告は、α税務署長に対し、本件被相続人から平成21年中に贈与を受けた財産について、相続税法21条の9第1項の適用を受けることを選択した旨の相続時精算課税選択届出書を提出しているから(前提事実(5)ア)、原告が平成21年分以後、特定贈与者である本件被相続人からの贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算することとなり (相続税法21条の9第3項、21条の10、21条の15第1項)、本件 平成21年分以後、特定贈与者である本件被相続人からの贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算することとなり (相続税法21条の9第3項、21条の10、21条の15第1項)、本件信託の利益を受ける権利の2分の1の価額は、相続税の課税価格に加算される。 これを前提に、以下、本件相続税処分の適法性について検討する。 (1) 本件相続税更正処分について原告の本件相続税の課税価格及び納付すべき税額は別紙1の3(4)及び (12)のとおり、それぞれ2億7644万8000円及び7804万8700円となると認められるところ、これらの額は、いずれも本件相続税更正処分における原告の課税価格及び納付すべき税額と同額であるから(甲2)、本件相続税更正処分は適法である。 (2) 本件相続税賦課決定処分について 上記のとおり、本件相続税更正処分は適法であるところ、本件相続税の申 告書は、相続税法27条1項の法定申告期限内に提出されたことから、原告には過少申告加算税が賦課されることとなり、その額は別紙1の4のとおり780万9500円となると認められるところ、この額は、本件相続税賦課決定処分により原告に賦課された過少申告加算税の額と同額であるから(甲2)、本件相続税賦課決定処分は適法である。 第4 結論よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳 地 淳 裁判官三木裕之 裁判官中村雅人(別紙1~3、別表1~10、付表1~9省略) 裁判官三木裕之 裁判官中村雅人(別紙1~3、別表1~10、付表1~9省略)

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