- 1 -平成30年12月13日判決言渡平成30年(行コ)第86号遺族厚生年金不支給処分取消等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成28年(行ウ)第145号) 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決を取り消す。 (2) 厚生労働大臣が平成26年9月8日付けで控訴人に対してした遺族厚生年金を支給しない旨の決定を取り消す。 (3) 厚生労働大臣が平成26年7月8日付けで控訴人に対してした老齢基礎年金に係る未支給年金及び老齢厚生年金に係る未支給保険給付を支給しない旨の決定を取り消す。 (4) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 控訴の趣旨に対する答弁主文同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者であったAことB(以下「亡B」という。)が死亡したことから,亡Bの配偶者である控訴人が,厚生労働大臣に対し,国民年金法(以下「国年法」という。)及び厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)に基づき,遺族厚生年金(以下「本件遺族厚生年金」という。)の裁定並びに亡Bの老齢基礎年金に係る未支給年金及び老齢厚生年金に係る未支給保険給付(以下,併せて「本件未支給年金等」という。) - 2 -の支給を請求したところ,厚生労働大臣が,本件遺族厚生年金を支給しない旨の決定(以下「本件遺族厚生年金不支給処分」という。)及び本件未支給年金等を支給しない旨の決定(以下「本件未支給年金等不支給処分」といい,本件遺族厚生年金不支給処分と併せて「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求めた事案である。 原審は,控 決定(以下「本件未支給年金等不支給処分」といい,本件遺族厚生年金不支給処分と併せて「本件各処分」という。)をしたため,控訴人が,被控訴人に対し,本件各処分の取消しを求めた事案である。 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却し,控訴人が控訴した。 2 関係法令の定め,「生計維持・生計同一関係等に係る認定基準及びその取扱いについて」(平成23年3月23日年発0323第1号日本年金機構理事長宛厚生労働省年金局長通知)の定め,前提事実(当事者間に争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実),争点及び争点に関する当事者の主張は,後記3のとおり「控訴人の当審における補充主張」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1ないし4のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決6頁2行目の「DV被害者」を「ドメスティックバイオレンス(以下「DV」という。)の被害者」と改める。 3 控訴人の当審における補充主張(1) DVにより,夫婦関係が暴力的,支配的な関係にありながら,婚姻関係が破綻していない夫婦関係は一定数存在するところ,本件は,DVの激しさに加え,韓国の旧家の出身で,男尊女卑等の思想の強い夫と,それに従順に従ってきた妻である控訴人が,比較的円満に23年余り過ごし,晩年の1,2年間に激しい身体的,精神的,性的暴力を受けて,生命の危険を感じて,緊急避難し,引きこもりとなり,6年余りを過ごした事案であり,長期間夫婦として連れ添った高齢の夫婦が年金生活に入った後に,夫が死亡した場合における妻として,控訴人の生活保障が図られるべき事案である。 厚年法,国年法に基づく遺族厚生年金等の制度及び離婚時年金分割制度については,夫婦が死別した場合には遺族厚生年金等により生活が保障され, - 3 -離婚し の生活保障が図られるべき事案である。 厚年法,国年法に基づく遺族厚生年金等の制度及び離婚時年金分割制度については,夫婦が死別した場合には遺族厚生年金等により生活が保障され, - 3 -離婚した場合には老齢厚生年金に関する年金分割により,その生活の安定と福祉の向上を実現するものとして理解されるべきである。このような法制度の趣旨や実質的機能が共通していることに照らし,DV防止法の趣旨及び例外条項の文言を併せ考慮すれば,夫から激しい暴力を受け,生命身体の危険を感じて夫から逃れた妻が,身体的にも精神的にも多大なダメージを受け,多大な恐怖,不安により外部との接触を断ち,緊急避難生活を継続し,身体的にも精神的にも,夫に対して婚姻費用の分担を求めることが不可能である場合等においては,夫からの直接の音信がないとしても,個別具体的な事情を考慮し,かつ,婚姻費用分担義務等の規範的要素をも考慮することによって,例外条項に当たると解すべきである。そのように解さなければ,亡Bの死亡により,妻として貢献し,扶養されてきたことに基づく生活保障を受けるためには,何ら帰責性のない配偶者である控訴人は離婚するしかなく,離婚を強いるに等しい不合理な結果となる。 (2) α市の担当職員,大阪市β区の担当職員が,控訴人に対し,外国人登録の変更を生活保護受給の要件として指導したのは,違法というべきであり,各市の職員と厚生労働大臣は,いずれも行政として行政サービスを受ける者に対する立場において共通しており,生活保護は最低限の生活保障であって,亡Bが控訴人に対して負う生活保持義務に劣後するから,各市の職員と厚生労働大臣は,控訴人が遺族厚生年金の受給資格を喪失しないよう配慮すべき義務を負う。そして,厚生労働大臣が,控訴人の外国人登録上の住所の変更に係る事情に配慮せず,認 務に劣後するから,各市の職員と厚生労働大臣は,控訴人が遺族厚生年金の受給資格を喪失しないよう配慮すべき義務を負う。そして,厚生労働大臣が,控訴人の外国人登録上の住所の変更に係る事情に配慮せず,認定要件を形式的に適用することは信義則に反する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,原判決と同様に,控訴人の各請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,後記2のとおり「控訴人の当審における補充主張に対する判断」を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の1ないし3のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決2 - 4 -5頁5行目の末尾の次に「また,亡Bの控訴人に対する音信や経済的援助が復活していたとも,復活する可能性が生じてきていたとも評価することはできない。」を加える。 2 控訴人の当審における補充主張に対する判断(1) 控訴人は,前記第2の3(1)のとおり主張する。 しかし,補正の上引用に係る原判決第3の3(3)のとおり,生計同一関係が認められるためには,被保険者等の死亡の当時,配偶者等が被保険者等と消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったことを要すると解するのが相当であり,例外条項は,形式的に本件認定要件を充足しない場合でも,個別具体的な事情に基づき上記のような状況があったと評価しうる場合に,生計同一関係を認める趣旨のものと解される。そして,補正の上引用に係る原判決第3の3(3)イのとおり,同2(1)及び(2)の認定事実によれば,控訴人が亡Bの暴力から逃れるために別居するに至った経緯等を十分に考慮してもなお,亡Bの死亡の当時,控訴人が亡Bと消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったとはいえないから,例外条項により生計同一関係に該当すると認めること るに至った経緯等を十分に考慮してもなお,亡Bの死亡の当時,控訴人が亡Bと消費生活上の家計を一つにしていると認められる状況にあったとはいえないから,例外条項により生計同一関係に該当すると認めることはできない。 控訴人は,例外条項により生計同一関係に該当するか否かを判断するに当たっては,離婚時年金分割制度と整合的に解釈し,DV防止法の趣旨を考慮すべきである旨主張するけれども,補正の上引用に係る原判決第3の3(3)ウのとおり,離婚時年金分割と遺族厚生年金の両制度はその趣旨目的を異にするものというべきであるから,その適用される配偶者の範囲が異なり得ることは,制度上やむを得ないものというべきであるし,また,遺族厚生年金及び未支給年金等の支給は,被保険者の死亡により消費生活上の家計に直接の影響がある者に対して支給されることが予定されており,一時的な別居状態を超えて,消費生活上の家計を異にする状態が長期間継続し固定化しているような場合にまで,生計同一関係を認めることは困難である。 - 5 -したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (2) 次に,控訴人は,前記第2の3(2)のとおり主張する。 しかし,補正の上引用に係る原判決第3の3(1)イのとおり,生活保護の受給の相談を受けたα市の担当職員が,生活保護の受給要件やその手続等を説明することを超えて,外国人登録上の住所変更により遺族厚生年金の受給資格を失うおそれがあることを説明しなければならない法律上又は信義則上の義務を負うものとは解し難いし,居住地を変更した者は,原則として居住地の変更登録申請義務を負っており,α市の担当職員が,控訴人に変更登録申請をするかどうかの選択権があることを前提に上記受給資格の喪失のおそれを説明すべき義務はないのであり,この点は,大阪市β区の担当 地の変更登録申請義務を負っており,α市の担当職員が,控訴人に変更登録申請をするかどうかの選択権があることを前提に上記受給資格の喪失のおそれを説明すべき義務はないのであり,この点は,大阪市β区の担当職員についても同様である。そして,厚生労働大臣が,α市,大阪市β区の各担当職員の対応により,控訴人が遺族厚生年金の受給資格を喪失しないよう配慮しなければならない法律上又は信義則の義務を負うものとも解し難い。加えて,補正の上引用に係る原判決第3の3(1)イのとおり,厚生労働大臣が,控訴人と亡Bの生活実態に反して,控訴人と亡Bが同一世帯に属していると認めなければならない理由もない。 したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。 (3) その他,控訴人の原審及び当審における主張内容に鑑み,証拠の内容を検討しても,前記の認定判断を左右するに足りない。 第4 結論そうすると,控訴人の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却すべきであり,原判決は相当であって本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官池田光宏 - 6 - 裁判官長谷部幸弥 裁判官後藤慶一郎
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