平成25(ワ)3537 特許料請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年2月6日 大阪地方裁判所
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判決文本文12,527 文字)

- 1 -平成26年2月6日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第3537号特許料請求事件口頭弁論終結日平成25年12月16日判決 原告株式会社ジー・ティー・オノエ同訴訟代理人弁護士藤原弘朗 被告株式会社粉室製作所同訴訟代理人弁護士吉原省三同小松勉同三輪拓也同上田敏成同補佐人弁理士苫米地 正 敏主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,4800万円及びこれに対する平成25年4月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,被告において,原告との間で締結した販売委託契約(甲3)の対象に含まれる製品を販売しているとして,原告が,被告に対し,同契約に基づき,平成21年4月分から平成25年3月分までのロイヤリティ(売上高の5%)合計4800万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年4月18日- 2 -から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求した事案である。 1 判断の基礎となる事実以下の各事実は当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 当事者原告はネジの販売等を目的と 害金を請求した事案である。 1 判断の基礎となる事実以下の各事実は当事者間に争いがないか,掲記の各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる。 (1) 当事者原告はネジの販売等を目的とする株式会社である。 被告は鋲螺の製造及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 定義一般に,ねじとは,円筒形あるいは円錐形状の軸や穴の外面及び内面に,らせん状の一様な突起(ねじ山)を設けたものであり,ボルトは,ナットと対で用いられる雄ねじ部品のことである。また,タッピングとは,ねじ立てのことであり,タッピングねじとは,ねじ単体でねじ立てができるねじの総称である。(乙1)タッピングボルトは,JIS規格上にない用語であるが,原告は,タッピングねじの下位概念として,タッピングねじのうちボルトと同程度の強度を有するものを意味するとしており,本判決においても,タッピングボルトの語をこの意味で用いる。また,「SWCH 10AM」及び「SWCH 10CR」は,いずれもねじなどの製造に用いられる材料の表示である。 (3) 原告代表者らによる特許出願及び原告と被告との契約関係ア原告代表者及びエヌケーケー条鋼株式会社(後にJFE条鋼株式会社と商号変更。以下「JFE条鋼」という。)は,平成12年5月22日,発明の名称を「高強度ねじ及び高強度ねじ用鋼」とする特許出願(特願2000-150359,特開2001-247937)をした(甲6,以下「甲6出願」という。)。 甲6出願の特許請求の範囲は,請求項1から同11まででなる(以下これら発明をあわせて「甲6発明」という。)が,そのうち請求項1及び同2は以下のと- 3 -おりである。 【請求項1】表面硬化処理を施し,表面硬さHvで550~700,芯部硬さHvで200~320,硬化層深さ0 甲6発明」という。)が,そのうち請求項1及び同2は以下のと- 3 -おりである。 【請求項1】表面硬化処理を施し,表面硬さHvで550~700,芯部硬さHvで200~320,硬化層深さ0.05~0.7mm,引張り強さ800~1200N/mm2を有することを特徴とする高強度ねじ。 【請求項2】C:0.05~0.20wt%,Si:0.20wt%以下,Mn:0.5~1. 8wt%,P:0.015wt%以下,S:0.015wt%以下,Al:0.02~0.08wt%,N:0.0060wt%以下と残部,鉄及び不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延した所定径のねじ素材を,冷間鍛造しねじ形状に成形し,表面硬化処理として浸炭処理後,焼戻しを施してなる請求項1記載の高強度ねじ。 イ原告と被告は,平成12年6月14日,浸炭処理を施した高強度ねじ及びタッピングねじ(予定製品名G.T.Onoe.)の原告から被告への製造委託に関する基本的事項を定める製造委託基本契約を締結した(甲1,以下「甲1契約」という。)。 ウ原告代表者及びJFE条鋼は,平成13年4月23日,発明の名称を「高強度ねじ用鋼および高強度ねじ」とする特許出願(特願2001-124108,特開2002-155344)をした(甲7,以下「甲7出願」という。)。 エ原告と被告は,平成15年4月10日,浸炭処理を施した高強度タッピングボルト(製品名G・T・Oタッピングボルト)の原告から被告への製造委託に関する基本的事項を定める製造基本契約を締結する(甲2,以下「甲2契約」という。)と共に,原告から被告に対して同製品の販売を委託する旨の販売委託契約を締結した(甲3,以下「本件販売委託契約」という。)。本件販売委託契約において,被告は原告に対し,契約金100万円(3条)及び売上高の5%の 告から被告に対して同製品の販売を委託する旨の販売委託契約を締結した(甲3,以下「本件販売委託契約」という。)。本件販売委託契約において,被告は原告に対し,契約金100万円(3条)及び売上高の5%のロイヤリティ(毎月20日までに前月分を送金,4条)を支払うべきものとされ- 4 -たほか,契約期間は1年間で,期間満了の1か月前までに更新拒絶の申入れがされない限り,自動更新するものとされた。 本件販売委託契約に係る契約書(以下「本件販売委託契約書」という。)の前文には,「委託者(判決注:原告)・受託者(判決注:被告)間において次のとおり販売委託契約を締結した。」との記載に続き,「(SWCH 10AM 公開番号:特開2001-247937 号)及び(SWCH 10CR 特願2001-124108 号)において適用されるものとする。」との記載がある。 (4) 甲6出願及び甲7出願の経過ア甲6出願は,平成15年9月26日に拒絶査定を受けた。原告代表者らは,拒絶査定不服審判請求をしたが,平成18年5月15日,請求不成立の審決がされ(乙6),審決取消訴訟が提起されることのないまま同審決は確定した。 イ甲7出願は,特許査定を受けた後,平成21年6月12日に特許権(以下「甲7特許権」という。)の設定登録を得た(特許第4321974号,以下,甲7特許権に係る特許を「甲7特許」という。)。 甲7特許の特許請求の範囲は,請求項1から10項まででなる(以下これら発明をあわせて「甲7発明」という。)が,そのうち請求項1は以下のとおりである。 【請求項1】C:0.05~0.20,Si:0.20以下(0は含まない),Mn:0.5~2.0,P:0.015以下,S:0.015以下,Sol.Al:0.020~0.080,N:0.00 C:0.05~0.20,Si:0.20以下(0は含まない),Mn:0.5~2.0,P:0.015以下,S:0.015以下,Sol.Al:0.020~0.080,N:0.0060以下,Cr:0.80超~2.0(以上,mass%),- 5 -残部:鉄および不可避的不純物からなることを特徴とする高強度ねじ用鋼。 (5) 被告の行為及び被告から原告に対する支払の経過被告は,遅くとも平成15年12月以降現在に至るまで,タッピングねじの製造,販売(本件販売委託契約の対象であるかは争いがある。)をしており,平成16年1月から平成21年4月までの間,原告に対し,各月前月のタッピングねじ売上高の5%に当たる金額を支払った。このうち平成19年8月(同年7月分)までの支払の名目は,被告から原告に提出された売上報告書上,「パテント使用料」であったが,同年9月(同年8月分)以降については「技術指導料」とされた(甲9)。被告は,平成21年4月(同年3月分)の支払を最後に,名目の如何を問わず,原告に対してタッピングねじの売上高に応じた支払をしていない。 (6) 甲8特許原告代表者は,平成19年8月21日,発明の名称を「高張力鋼板用タッピングねじ類の製造方法」とする特許出願(特願2007-214429)をし,拒絶査定を受けたものの,拒絶査定不服審判手続で特許査定を受けた後,平成24年2月17日に特許権(以下「甲8特許権」という。)の設定登録がされた(特許第4925971号。以下,甲8特許権に係る特許を「甲8特許」という。)。 甲8特許の特許請求の範囲は,以下のとおりである(以下「甲8発明」という。)。 【請求項1】C:0.05~0.20wt%,Si:0.20wt%以下,Mn:0.5~1. 8wt%,P:0.015w 8特許の特許請求の範囲は,以下のとおりである(以下「甲8発明」という。)。 【請求項1】C:0.05~0.20wt%,Si:0.20wt%以下,Mn:0.5~1. 8wt%,P:0.015wt%以下,S:0.015wt%以下,Al:0.02~0.08wt%,N:0.0060wt%以下とCr:0.95wt%以下,Mo:0. 30wt%以下,B:0.0005~0.0050wt%のうち少なくとも1種,及び/またはTi:0.005~0.050wt%,Nb:0.005~0.050wt%,V:0.005~0.050wt%,Ni:0.05~0.20wt%,Cu- 6 -:0.05~0.20wt%のうち少なくとも1種を含有し,残部,鉄及び不可避的不純物からなる鋼材料を用い,熱間圧延した所定径のねじ素材を,冷間鍛造,転造加工を経てねじ形状に成形し,浸炭窒化焼入れ・焼戻し処理を施して,表面硬さが600~900Hv,芯部硬さが300~450Hv,硬化層深さ0.05~0.7mm,引張り強さ700~1500N/mm2 を有し,引張り強さが80kg級~150kg級の高張力鋼板用のタッピンねじ類の製造方法であって,前記浸炭窒化焼入れ処理が,炉内雰囲気ガス量に対してNH3 を1.0~3.0%(但し,2.0%以下は除く)添加した連続ガス浸炭炉による処理であり,前記焼戻し処理が,温度100~400℃で焼き戻す処理であり,80kg級高張力鋼板用では表面硬さを600~670Hv,100kg級高張力鋼板用では表面硬さを630~700Hv,130kg級高張力鋼板用では表面硬さを670~730Hv,150kg級高張力鋼板用では表面硬さを740~830Hvに設定したことを特徴とする高張力鋼板用のタッピンねじ類の製造方法。 2 争点(1) 平成21年4月以降の被告によるタッ ~730Hv,150kg級高張力鋼板用では表面硬さを740~830Hvに設定したことを特徴とする高張力鋼板用のタッピンねじ類の製造方法。 2 争点(1) 平成21年4月以降の被告によるタッピングねじの販売に本件販売委託契約は適用されるか等 (争点1)(2) 被告が支払うべき額 (争点2)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(平成21年4月以降の被告によるタッピングねじの販売に本件販売委託契約は適用されるか等)について【原告の主張】(1) 本件販売委託契約書には,「(SWCH 10AM 公開番号:特開2001- 247937 号)及び(SWCH 10CR 特願2001-124108 号)において適用されるものとする。」との記載があるものの,これらは適用対象の例示に過ぎない。原告がタッピングボルトの開発過程において被告に提供したノウハウや技術上の情報を用いるのであれば,いかなるタッピングねじも本件販売委託契約の対象であり,被- 7 -告は,そのようなタッピングねじを販売する限り,本件販売委託契約に基づくロイヤリティ支払義務を負う。だからこそ,被告は,甲6出願の拒絶査定が確定した後も,名目はともかく,タッピングねじの売上高の5%に当たる金額を,原告に対して支払ってきたのである。 また,平成24年2月17日には,甲8特許権の設定登録がされているが,それ以降,本件販売委託契約の対象となるのは,甲8発明の実施品である。 そして,被告は,平成18年6月又は7月ころ以降,甲6発明及び甲7発明に係る浸炭焼入れ,焼戻しで製造したタッピングボルトではなく,浸炭窒化焼入れ,焼戻しで製造したタッピングねじ(以下「被告新製品」という。)を販売しているが,これも原告 ころ以降,甲6発明及び甲7発明に係る浸炭焼入れ,焼戻しで製造したタッピングボルトではなく,浸炭窒化焼入れ,焼戻しで製造したタッピングねじ(以下「被告新製品」という。)を販売しているが,これも原告のノウハウや技術上の情報を用いたタッピングねじであり,甲8発明を実施するものでもあるから,本件販売委託契約が適用され,平成21年4月以降の売上げについても,その5%の金額を支払うべき義務を負う。 (2) 仮に本件販売委託契約について,(1)のような解釈が認められなかったとしても,原告と被告との間には,その旨の口頭合意が本件販売委託契約とは別に成立しており,被告が平成21年4月以降のタッピングねじ売上高の5%に当たる金額を支払うべき義務を負うことに変わりはない。 (3) なお,被告新製品につき,甲7発明が実施されていることを立証する予定はない。 【被告の主張】(1) 本件販売委託契約書では,「(SWCH 10AM 公開番号:特開2001-247937号)及び(SWCH 10CR 特願2001-124108 号)において適用されるものとする。」と記載されており,甲6発明及び甲7発明の実施品のみに適用されることが明らかである。 被告は,本件販売委託契約締結後,甲6発明の実施品と主張される被告製品A(ただし,硬度の点で甲6発明の実施品といえるか疑問がある。)及び甲7発明の実施品である被告製品Bの販売活動を開始し,被告製品Aについては平成16- 8 -年5月以降,被告製品Bについては平成15年12月以降,注文を受けるようになった。ところが,平成18年5月ころ,甲6出願の拒絶査定が確定した上,同年9月上旬ころには,甲6発明との関係で本件販売委託契約が終了したことを原告及び被告間でも確認しており,被告製品Aについてロイヤリティを支払うべき根拠は 5月ころ,甲6出願の拒絶査定が確定した上,同年9月上旬ころには,甲6発明との関係で本件販売委託契約が終了したことを原告及び被告間でも確認しており,被告製品Aについてロイヤリティを支払うべき根拠は失われた。一方,被告製品Bは,需要が伸び悩み,試作品程度の販売しかできなかった。そして,被告が平成18年6月以降販売しているのは,高張力鋼板締結に用いるため,「SWCH 10AM」を基礎にねじの形状や熱処理を改良した被告新製品である(その開発はJFE条鋼を含めた3社と共同で行ったもので,原告は関わっていない。)。 そのため,被告が本件販売委託契約に基づき,平成21年4月以降の被告新製品の売上げに応じたロイヤリティ支払義務を負う理由はない。 (2) 原告は,原告及び被告間には同旨の口頭合意が存在するとも主張するが,被告において,平成18年9月以降も,平成19年6月分まではパテント使用料の名目で,同年7月分から平成21年3月分までは技術指導料の名目で,被告新製品の売上高の5%に当たる金額を原告に支払ってきたことは確かである。 しかし,それは,原告代表者がタッピンボルトのアイディアを提供し,その普及と販売先の開拓に尽力したこと,被告としても原告と引き続き友好関係を保った方が営業上の情報が入るのでよいと考えたことから,原告に対して従来通りの金額を礼金として支払い続けることとしたものであった。ただ,礼金では会計処理に問題があるので,当初はパテント使用料という名目を使い,更に特許発明を実施しているわけでもないため,平成19年6月分からは技術指導料の名目としたものであり,原告被告間に契約関係があったわけではなく,被告が一方的に配慮して支払っていたに過ぎない。 そして,被告は,平成20年秋ころには,景気の動向もあって礼金を支払うことが難しくなった上, ものであり,原告被告間に契約関係があったわけではなく,被告が一方的に配慮して支払っていたに過ぎない。 そして,被告は,平成20年秋ころには,景気の動向もあって礼金を支払うことが難しくなった上,既に約1200万円を支払っており,また,被告製品Bの販売実績がなくなっていたため,礼金の支払を当期で打ち切ることとし,平成2- 9 -1年3月9日又は19日,原告代表者の被告来訪時にその旨話し,了承を得たものである。一連の支払が仮に契約に基づいていたとしても,期限を定めておらず,何時でも解約できる性質のものであるから,上記経過のもと,契約関係は既に終了したといえる。 したがって,いずれにせよ,口頭合意に基づく原告の主張も理由がない。 (3) なお,原告は,被告新製品が甲8発明の技術的範囲に属することについて,何ら具体的な主張をしていない上,その販売開始時期からして先使用による通常実施権が成立するものであるし,そもそも原告は甲8特許権の帰属主体ではない。 2 争点2(被告が支払うべき額)について【原告の主張】平成21年4月から平成25年3月までの被告による被告新製品の売上高は,1か月当たり2000万円を下らないため,そのロイヤリティは各月100万円(=2000万円×5%),上記48か月分の合計は4800万円である。 【被告の主張】争う。 第4 当裁判所の判断 1 前記判断の基礎となる事実,証拠(甲1~35,乙6,8)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 製品開発の経過原告代表者は,平成10年ころから,ねじ加工を専門とする被告を含めた複数の製造業者に対し,タッピングボルトの名称下で,ボルトと同程度の強度を有するタッピングねじの開発を提案し,その製品化をはたらきかけるようになった。 その結果,JFE じ加工を専門とする被告を含めた複数の製造業者に対し,タッピングボルトの名称下で,ボルトと同程度の強度を有するタッピングねじの開発を提案し,その製品化をはたらきかけるようになった。 その結果,JFE条鋼,被告などが,鋼材の製造,線材への加工,ねじへの加工及び熱処理といった工程を分担して,かかるタッピングねじの開発,製造に取り組むこととなり,原告と被告は,平成12年6月14日には,甲1契約(製造委- 10 -託基本契約)を締結した。甲6発明及び甲7発明は,そのような開発経過の中で想到され,特許出願されたものである。 平成15年ころには,このように開発が進められたタッピングねじにつき,一定の需要が見込まれたことから,製品化が具体的に進展し,同年4月10日には,原告と被告との間で,甲2契約及び本件販売委託契約が締結された。本件販売委託契約において,被告は,原告から委託を受けた高強度タッピングボルト(製品名G・T・Oタッピングボルト)の販売につき,売上高の5%のロイヤリティを原告に対して支払う(毎月20日までに前月分を送金)ものとされたが,本件販売委託契約書の前文には,本件販売委託契約が「(SWCH 10AM 公開番号:特開2001-247937 号)及び(SWCH 10CR 特願2001-124108 号)において適用されるものとする。」ことが明記された(特開2001―247937号は甲6発明の公開番号であり,特願2001-124108号は甲7発明の出願番号である。)。 原告は,タッピングねじの製造工程そのものを担うものではなかったが,原告代表者がタッピングねじの開発を提案し,甲2契約において,原告が製品の製造に供する母材,綿材,熱処理を行う業者,メッキ処理を行う業者を指定する立場にあったことから,本件販売委託契約により,タッピングねじの がタッピングねじの開発を提案し,甲2契約において,原告が製品の製造に供する母材,綿材,熱処理を行う業者,メッキ処理を行う業者を指定する立場にあったことから,本件販売委託契約により,タッピングねじの販売利益の一部を受領できる地位を得た。このような枠組みのもと,原告代表者は,タッピングねじの販路開拓に尽力したほか,製品の品質検査にも関わった。 (2) 甲6出願及び甲7出願甲6出願は,平成15年9月26日の拒絶査定の後,原告代表者らによって拒絶査定不服審判請求がされたが,平成18年5月15日,請求不成立の審決がされ,審決取消訴訟が提起されることもなく,審決謄本送達日から30日の経過により同審決は確定した。 一方,甲7出願は,特許査定を受けた後,平成21年6月12日に甲7特許権の設定登録がされた。その特許権者は,原告代表者及びJFE条鋼である。 - 11 -(3) タッピングねじの販売経過被告は,平成15年12月以降,毎月タッピングねじを販売している。当初のタッピングねじは,甲6発明の実施品とされる被告製品A(ただし,被告は,硬度の点で甲6発明の技術的範囲に属することに疑問があるともしている。)と甲7発明の実施品とされる被告製品Bに大別されるが,いずれも表面硬化のために浸炭焼入れ,焼戻し処理を施したものであった。しかし,被告は,平成18年6月以降,表面硬化のために浸炭窒化焼入れ,焼戻し処理を施した被告新製品を販売するようになった(被告新製品の構成は証拠上必ずしも明らかでないが,原告は甲7発明の技術的範囲に属することを積極的に立証することはせず,むしろ,甲8発明の実施品である旨主張している。)。 (4) 被告から原告に対する支払経過被告は,原告に対し,平成16年1月以降,前月分のタッピングねじ売上の5%に当たる金額を「パテント せず,むしろ,甲8発明の実施品である旨主張している。)。 (4) 被告から原告に対する支払経過被告は,原告に対し,平成16年1月以降,前月分のタッピングねじ売上の5%に当たる金額を「パテント使用料」の名目で毎月支払っており,平成18年5月ころに甲6出願の拒絶査定が確定し,さらに同年6月にタッピングねじとして被告新製品を販売するようになった後も,平成19年8月(同年7月分)まで,同一名目で同一の算定による金額の支払を継続した(各月の支払額は,当初月数万円前後であったが次第に上昇し,平成19年8月は59万2228円であった。)。被告は,同年9月(同年8月分)以降も,平成21年4月(同年3月分)までの間,原告に対し,名目こそ「技術指導料」に変更したものの,同一の算定による金額を毎月支払い続けた(各月の支払額は当初こそ50万円前後で推移したが,次第に減少し,平成21年4月の支払額は21万3193円であった。)が,被告がこの支払名目に異議を述べたことはない。被告は,平成21年3月中に,原告に対し,技術指導料の支払をやめる旨を通知し,同年4月の上記支払の後,原告に対し,名目の如何を問わず,タッピングねじの売上高に応じた支払をしていない。 (5) 甲8特許権の設定登録とその後の経過- 12 -平成19年8月21日特許出願に係る甲8発明は,平成22年5月にいったん拒絶査定を受けたものの,拒絶査定不服審判手続で特許査定を受け,平成24年2月17日に甲8特許権の設定登録がされた。その特許権者は原告代表者である。 原告代表者は,被告に対して同年8月31日付けの警告書を送付し,被告新製品の販売が甲8特許権などを侵害するとしてその中止等を求めたが,同警告書において,本件販売委託契約への言及はなかった。被告は,原告に同年9月6日付け回答書を送付し 1日付けの警告書を送付し,被告新製品の販売が甲8特許権などを侵害するとしてその中止等を求めたが,同警告書において,本件販売委託契約への言及はなかった。被告は,原告に同年9月6日付け回答書を送付し,被告新製品の含有成分は甲8発明とは異なること,甲8特許の優先日は平成18年11月16日であるが,被告新製品の製造開始時期は同年6月ころであるため,先使用による通常実施権が成立すること,甲8発明につき,原告代表者はタッピングネジの機能をボルトに応用するとのアイディアを提供したに過ぎず,鋼材の製造,線材への加工,ねじへの加工及び熱処理等の作業を行った者との共同発明であるため,甲8特許は特許法38条(共同出願)に違反しており,同法123条1項2号によって無効とされるべきものであること等を主張し,甲8特許権の侵害を否定した。 2 争点1(平成21年4月以降の被告によるタッピングねじの販売に本件販売委託契約は適用されるか等)について前記1で認定した事実を前提に,争点1について検討する。 (1) 本件販売委託契約の趣旨及び適用範囲本件販売委託契約は,その内容に加え,同一日に締結された製造基本契約と題する甲2契約の内容もあわせて考えれば,販売委託契約との体裁をとっているものの,その実質は,原告が被告に対し,原告代表者が権利者である甲6発明及び甲7発明の実施品の販売を許諾する一方,被告が原告に対してその対価として実施許諾料(ロイヤリティ)を支払う旨の通常実施権許諾契約と解される。 原告は,タッピングボルトについて原告が想到したノウハウや技術情報を用いているのであれば,いかなるタッピングねじも本件販売委託契約の対象であるとの解釈のもと,被告による被告新製品の販売についても本件販売委託契約が適用- 13 -され,被告はその売上高の5%に当たる金額をロ のであれば,いかなるタッピングねじも本件販売委託契約の対象であるとの解釈のもと,被告による被告新製品の販売についても本件販売委託契約が適用- 13 -され,被告はその売上高の5%に当たる金額をロイヤリティとして支払う義務を負う旨主張する。 しかし,前記1で認定した本件販売委託契約書の前文記載によれば,本件販売委託契約が,甲6発明又は甲7発明の実施品の販売に適用されるものであることは明らかである。甲6発明又は甲7発明の実施の有無にかかわらず,原告が想到したとする技術と何らかの関連性のあるタッピングねじの販売の全てに本件販売委託契約が適用されるかのような原告の主張は到底採用できない。 (2) 本件販売委託契約に基づくロイヤリティ支払義務の有無本件において,原告が本件販売委託契約に基づき発生したと主張するのは,平成21年4月以降の被告によるタッピングねじの販売に対応するロイヤリティ支払義務である。しかし,この時期には,甲6出願の拒絶査定が既に確定しており,本件販売委託契約に基づくロイヤリティ支払義務が発生するのは,被告が同時期に販売していた被告新製品が甲7発明を実施していた場合に限られるが,原告は被告新製品が甲7発明の技術的範囲に属することを立証することをせず(第3回弁論準備手続期日),むしろ,甲8発明の実施品との認識を前提とした主張をしている。 したがって,本件販売委託契約に基づき,被告が,平成21年4月分以降のロイヤリティ支払義務を負うものとは認められない。原告がタッピングボルトの開発,製品化を提案したことや販路の開拓などに尽力したことが,この判断を左右するものではない。 (3) 同旨の口頭合意の有無原告は,仮に本件販売委託契約に解釈につき,自己の主張が認められないとしても,被告において,タッピングボルトについて原 たことが,この判断を左右するものではない。 (3) 同旨の口頭合意の有無原告は,仮に本件販売委託契約に解釈につき,自己の主張が認められないとしても,被告において,タッピングボルトについて原告が想到したノウハウや技術情報を用いる限り,いかなるタッピングねじを販売する場合でも,その対価として,売上高の5%に当たる金額を原告に対して支払う旨原告及び被告間に口頭の合意が存在する旨主張する。 - 14 -この点,甲6出願の拒絶査定が確定し,さらに平成18年6月にタッピングねじとして被告新製品が販売されるようになった後も,被告が原告に対し,3年近くもの間,タッピングねじの売上高の5%を毎月支払い続けていたことは確かである。しかし,これら支払の名目は,当初こそ「パテント使用料」であったが,平成19年9月(同年8月分)以降,「技術指導料」に変更され,これに対して被告も異論を述べてこなかったこと,原告は,被告に対し技術情報を提供した根拠として,他社作成に係る試験報告書などを提出する(甲10~16)程度で,被告新製品又はその製造に有用な原告の技術情報を具体的に主張せず,結局,タッビングボルトの開発を自身が提案,主導し,品質検査にも関わった旨述べるに止まることに照らせば,上記支払の性質が有用な技術情報などの利用対価であったとか,そのような対価支払の合意が存在したと認めることは困難といわざるを得ない。 また,そもそも口頭合意に関する原告の上記主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,技術指導の対価として,タッピングねじの売上げの5%を支払う旨の契約が,本件販売委託契約とは別に口頭で成立したとするのであれば,同契約は,期限の定めのない準委任契約の一種として,各当事者はいつでもこれを解除し得るところ(民法651条),被告は,平成21年3月,原告に対 本件販売委託契約とは別に口頭で成立したとするのであれば,同契約は,期限の定めのない準委任契約の一種として,各当事者はいつでもこれを解除し得るところ(民法651条),被告は,平成21年3月,原告に対し,技術指導料の支払をやめる旨通知しているのであるから(前記1(4)),やはり被告が,平成21年4月以降も,前記口頭での契約に基づき,金員の支払義務を負うと解すべき理由はないこととなる。 (4) 争点1のまとめしたがって,被告新製品が甲8発明の実施品であるか否かを検討するまでもなく,被告が原告に対し,本件販売委託契約又は何らかの口頭の契約に基づき,平成21年4月以降のタッピングねじの売上高の5%に当たる金額を支払うべき義務を負うと解すべき理由はなく,原告の主張は採用できない。 3 結論- 15 -以上の次第で,原告の請求は,その余の争点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官谷有恒 裁判官松阿彌 隆 裁判官松川充康

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